特許第6547232号(P6547232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6547232
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】めっき液ならびにめっき製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/06 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   C25D3/06
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-21006(P2017-21006)
(22)【出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2018-127667(P2018-127667A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年1月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000109495
【氏名又は名称】テクノロール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593050390
【氏名又は名称】フソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】縄舟 秀美
(72)【発明者】
【氏名】西脇 宏
(72)【発明者】
【氏名】村田 敏一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 秀浩
(72)【発明者】
【氏名】亀川 美幸
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−099126(JP,A)
【文献】 特開2016−113662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロムめっきに用いられるめっき液であって、
硫酸クロムと蟻酸と尿素とを含み、Cr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下で、前記蟻酸の濃度が0.05mol/L以上0.2mol/L以下で、前記尿素の濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下である、めっき液。
【請求項2】
めっき厚さが5μm以上の3価クロムめっきに用いられる請求項1記載のめっき液。
【請求項3】
硫酸クロムを含むめっき液を収容しためっき浴で電気めっきを行うめっき工程を実施し、該めっき工程によって3価クロムめっきが施されためっき製品を作製するめっき製品の製造方法であって、
前記めっき工程では、
前記めっき液として、前記硫酸クロムと蟻酸と尿素とを含み、Cr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下で、前記蟻酸の濃度が0.05mol/L以上0.2mol/L以下で、前記尿素の濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下である、めっき液を用い、
前記めっき浴での浴温を20℃以上40℃未満とし、且つ、
前記電気めっきでの電流密度を2A/dm以上20A/dm以下とするめっき製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液ならびにめっき製品の製造方法に関し、より詳しくは、3価クロムめっきに用いられるめっき液と3価クロムめっきが施されてなるめっき製品の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製品やプラスチック製品にクロムめっきを施しためっき製品が広く用いられている。この種のめっき製品を製造するのにあたっては6価クロムを含むめっき液に代えて環境に優しい3価クロムを含むめっき液を利用する場面が増えている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−249340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の環境意識の高まりにより、6価クロムめっきに置き換えて3価クロムめっきを採用することが強く要望されるようになってきている。しかしながら3価クロムめっきは、めっきを施す対象となる製品に対する付きまわり性において6価クロムめっきより劣ることから現状では採用される場面が限られてしまっている。また、3価クロムめっきでは電流密度とめっきの析出厚さとの関係が直線的なものになりにくく均一電着性を発揮させ難い。そのようなことから、めっき厚さが数μmレベルの装飾めっきなどでは3価クロムめっきの採用事例が見られるものの金型のような複雑な形状のめっき製品を作製する場面や厚めっき製品を作製するような場面では3価クロムめっきの採用が殆ど進んではいない。そこで、本発明は、3価クロムめっき用のめっき液でありながら6価クロムめっきと同等のめっき製品を作製し得るめっき液を提供し、ひいては、環境に優しいめっき製品の適用範囲の拡大を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような目的を達成すべく本発明者が鋭意検討を行ったところ、硫酸クロムを含むめっき液においてCr3+イオンの濃度を特定の範囲内に調整することで当該めっき液が6価クロムを含むめっき液と同等の付きまわり性を示すことを見出して本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は、3価クロムめっきに用いられるめっき液であって、硫酸クロムと蟻酸とを含み、Cr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下で、前記蟻酸の濃度が0.05mol/L以上0.2mol/L以下であるめっき液を提供する。
【0007】
また、本発明は、硫酸クロムを含むめっき液を収容しためっき浴で電気めっきを行うめっき工程を実施し、該めっき工程によって3価クロムめっきが施されためっき製品を作製するめっき製品の製造方法であって、前記めっき工程では、前記めっき液として、Cr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下であるめっき液を用い、前記めっき浴での浴温を20℃以上40℃未満とし、且つ、前記電気めっきでの電流密度を2A/dm以上20A/dm以下とするめっき製品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば付きまわり性に優れた3価クロムめっき用のめっき液が提供されるため、環境に優しいめっき製品が採用される機会を拡大し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一般文献等において開示がされている6価クロムめっきと3価クロムめっきとにおける電流密度とめっき厚さとの関係図。
図2】本発明のめっき液を用いた3価クロムめっきにおける電流密度とめっき厚さとの関係を示した図。
図3】一実施形態のめっき液を用いたハルセル試験の結果を示した図。
図4】めっき厚さを蛍光X線型膜厚測定器にて測定した結果を示した図。
図5】他の実施形態のめっき液を用いたハルセル試験の結果を示した図。
図6】めっき厚さを蛍光X線型膜厚測定器にて測定した結果を示した図。
図7】他の実施形態のめっき液を用いたハルセル試験の結果を示した図。
図8】他の実施形態のめっき液を用いたハルセル試験の結果を示した図。
図9】他の実施形態のめっき液を用いたハルセル試験の結果を示した図。
図10】他の実施形態のめっき液を用いたハルセル試験の結果を示した図。
図11】他の実施形態のめっき液を用いたハルセル試験の結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
まず、めっき製品の製造方法について説明する。
本実施形態のめっき製品の製造方法においては、めっきを施す対象となる製品(以下、原製品」ともいう)の表面性状を整えるための前処理工程と、前処理された原製品(以下、「前処理品」ともいう)に対して3価クロムめっきを施すめっき工程を実施する。本実施形態のめっき製品の製造方法においては、必要に応じて、前処理工程とめっき工程との間に前処理品に下地めっきを施す下地めっき工程や、下地めっきされた前処理品(以下、「下地めっき品」ともいう)に対してさらに中間めっきを施す中間めっき工程を実施してもよい。この場合、3価クロムめっきは、中間めっきが施された製品(以下「中間めっき品」ともいう)に対する仕上めっきとして実施される。
【0011】
本実施形態のめっき製品の製造方法においては、めっき工程で3価クロムめっきが施された製品に対してさらに化学的な表面処理や熱処理などを施してもよい。また、めっき製品には必要に応じてクリアー塗装などの塗装を施してもよい。
【0012】
前処理工程を実施する前記原製品としては、例えば、樹脂製品、セラミックス製品、金属製品、樹脂部品と金属部品とが組み合わされた複合製品、並びに、金属部品にセラミックスが被覆された複合製品などが挙げられる。原製品を形成する樹脂としては、例えば、一般的な熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。該樹脂は、繊維強化プラスチック(FRP)などであってもよい。原製品を形成する前記セラミックスとしては、例えば、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどを主成分とした一般的なものが挙げられる。前記セラミックスとしては、琺瑯などのガラス質のものであってもよい。原製品を形成する前記金属としては、例えば、鉄や銅などといった一般的な金属が挙げられる。前記金属は、合金などであってもよい。このような原製品に対する前処理としては、例えば、機械研磨、ホーニング加工、ブラスト加工などによる研磨やアルカリ脱脂などの脱脂が挙げられる。前記下地めっき工程や前記中間めっき工程では、仕上めっき製品の美観や耐食性の向上などの目的で前処理品や下地めっき品に対して数μmの厚さでニッケルめっき、銅めっき、鉄めっきなどの各種めっきを施すことができる。
【0013】
3価クロムめっきを施す前記めっき工程では、前処理品、下地めっき品、及び、中間めっき品などをワークとした電気めっきが実施される。該電気めっきでは、硫酸クロムを含むめっき液を収容しためっき浴を使って前記ワークに3価クロムめっきが施される。以下においては、該めっき工程で用いるめっき液について詳細に説明する。
【0014】
前記めっき工程では、ワークに対して付きまわり性の良好なめっきを行う上において前記めっき液としてCr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下であるめっき液を用いることが重要である。該めっき液には、主成分となる硫酸クロムに加え、錯化剤、pH緩衝剤、導電剤、及び、界面活性剤などを含有させることができる。なお、該めっき液の溶媒となる水としては、例えば、工業用水、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水等が挙げられる。
【0015】
前記硫酸クロムは、上記のようにめっき浴におけるCr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下となるようにめっき液に含有される。該硫酸クロムは、めっき浴におけるCr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上0.3mol/L以下となるようにめっき液に含有されることが好ましい。このような好ましいめっき液を用いることでめっき工程でのワークに対する3価クロムめっきの付きまわり性をより良好なものにすることができる。
【0016】
本実施形態のめっき液では、Cr3+イオンの供給源として含有させる硫酸クロムの一部を塩酸クロム、塩基性硫酸クロム、クロム明礬、及び、硝酸クロムからなる群から選ばれる1種以上に置き換えることも可能であるが、塩酸クロムを多く含有させるとめっき時にアノードにおいて塩素ガスを発生させるおそれがあり、硝酸クロムを多く含有させるとめっき時に電流密度の低下を招くおそれがある。従って、めっき液におけるCr3+イオンの供給源に占める硫酸クロムの割合は、90mol%以上であることが好ましい。硫酸クロムの割合は、95mol%以上であることがより好ましく、99mol%以上であることがさらに好ましい。めっき液におけるCr3+イオンの供給源は、実質的に硫酸クロムのみであることがとりわけ好ましい。
【0017】
本実施形態のめっき液に含有させる前記錯化剤としては、有機酸やその塩を用いることができる。該有機酸としては、例えば、シュウ酸、クエン酸、蟻酸、マレイン酸、マロン酸、酒石酸、リンゴ酸、酢酸、フタル酸、プロピオン酸、エチレンジアミン4酢酸などが挙げられる。これらの塩としては、例えば、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩といったアルカリ土類金属塩が挙げられる。なかでも前記蟻酸は錯化剤として特に有効な成分であり、濃度が0.05mol/L以上0.2mol/L以下となるようにめっき液に含有されることが重要である。めっき液における前記蟻酸の濃度は、0.08mol/L以上0.12mol/L以下であることがより好ましい。
【0018】
上記の有機酸やその塩については、前記pH緩衝剤としても一定以上の効果を発揮する。また、前記錯化剤としては、尿素やカルバミン酸などのアミノカルボニル化合物を採用しても良い。なかでも尿素はpH緩衝剤としての機能を有するとともにめっき被膜に対する窒素の供給源として機能し、被膜の硬質化に有効である。さらに尿素にはめっき液中に水酸化クロムなどの沈殿物が発生することを抑制する効果が期待できる。このような点において、前記尿素は、濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下となるようにめっき液に含有されることが好ましい。めっき液における前記尿素の濃度は、0.2mol/L以上0.8mol/L以下であることがより好ましく、0.4mol/L以上0.6mol/L以下であることが特に好ましい。
【0019】
上記のようなもの以外に前記pH緩衝剤として利用可能なものを挙げると、例えば、ホウ酸やホウ酸塩などが挙げられる。該ホウ酸をめっき液に含有させる場合、前記pH緩衝剤として含有される有機酸や尿素などの量などにもよるが、通常、0.5mol/L以上1mol/L以下の濃度となるようにめっき液に含有される。前記めっき液は、pH緩衝剤などによってpHが1以上2以下に調整されることが好ましく、1.3以上1.7以下のpHとなるように調整されることがより好ましい。
【0020】
前記導電剤としては、例えば、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどが挙げられる。また、前記界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、スルホコハク酸ジイソヘキシル、硫酸2−エチルヘキシル、スルホコハク酸ジイソブチル、スルホコハク酸ジイソアミル、スルホコハク酸イソデシルなどが挙げられる。
【0021】
前記めっき液には、その他の添加剤として、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゼラチンなどの被膜形成剤、消泡剤など各種のものを含有させることができる。
【0022】
このような成分を含むめっき液を用いためっき工程では、前記めっき浴での浴温を20℃以上40℃未満とすることが重要である。前記めっき工程でのめっき浴の浴温は、低温である方がワークに対する3価クロムめっきの付きまわり性をより良好なものにすることができる。その一方でめっき浴の浴温は、一定以上の温度を有する方がめっき液に含まれる成分の析出を抑制することができ、めっき表面にざらつきが生じることを抑制することができる。そのような点において前記めっき工程でのめっき浴の浴温は、23℃以上29℃以下であることがより好ましく、24℃以上28℃以下であることが特に好ましい。このような好ましい温度条件でめっき工程を実施することで仕上めっき製品に対して厚さが均一で表面光沢に優れためっき被膜を備えさせることができる。
【0023】
前記めっき工程での電気めっきにおいては、電流密度を2A/dm以上20A/dm以下とすることが重要である。前記電流密度は、2A/dm以上15A/dm以下であることがより好ましく、2A/dm以上13A/dm以下とすることが特に好ましい。このような好ましい電流密度でめっきを実施することでワークに対する3価クロムめっきの付きまわり性をより良好なものにすることができる。
【0024】
前記めっき工程においては、めっき液中に水素ガスによる気泡が発生するためワークへの気泡の付着を抑制すべくめっき中のワークに振動を与えたり、ワークの下方から不活性ガスなどによる気泡を発生させるバブリング処理を施すなどしてもよい。
【0025】
上記のようなめっき液の成分濃度、めっき液の浴温、ワークに与える電流密度などといっためっき工程における各種条件については、必ずしも、めっき工程の開始直後からめっき工程を完了するまでの間、常に上記のような範囲内に保たれていなければその効果が発揮されないわけではないが、全期間においてめっき開始時とほぼ同一の条件下にあることが好ましい。
【0026】
本実施形態の前記めっき工程においては、ワークのコーナー部や微細な凹凸部といった従来であればめっき厚さが平坦部とは異なり易い部分においても平坦部と同等の厚さでクロムめっきが施され、3価クロムめっきでありながら6価クロムめっきと同様の付きまわり性と均一電着性とが発揮される。本実施形態において作製されるめっき製品におけるめっき厚さは、当該めっき製品の用途などに応じて適宜設定されうるが、本発明の効果をより顕著に発揮させる上において下地めっきなどを除いた3価クロムめっき部分だけのめっき厚さを5μm以上600μm以下とすることが好ましい。前記めっき厚さは、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。該めっき厚さの測定が必要な場合、例えば、蛍光X線式膜厚計などによって測定すればよい。但し、めっき厚さが50μm以上となると蛍光X線式膜厚計での測定は、困難になるので、そのような場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)でめっき製品の断面観察を実施すればよい。そして、前記めっき厚さは、無作為に選択した数箇所においてめっき製品のめっき厚さを測定し、異常値を除いた測定結果を算術平均することで求めることができる。
【0027】
なお、ここではこれ以上の詳細な説明を繰り返さないが、本実施形態におけるめっき製品の製造方法やめっきに用いるめっき液には、これらについて上記に具体的な例示が無い事項であっても従来公知の技術事項を本発明の効果が著しく損なわれない範囲において適宜採用が可能である。
即ち、本発明は上記例示の範囲内のものに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(本発明の概要:従来の3価クロムめっきとの違い)
一般文献等において開示がされている6価クロムめっきと3価クロムめっきとにおける電流密度とめっき厚さとの関係を図1に示す。
この図からは、従来の3価クロムめっきでは電流密度とめっき厚さとの関係を示す直線の傾きが電流密度が5A/dm付近で急激に大きくなり均一電着性が発揮され難いことがわかる。
また、この図からは、従来の3価クロムめっきにおいては5A/dm以下の電流密度でめっきを行うことが難しく付きまわり性に優れためっきを行うことが困難であることがわかる。
【0030】
これに対し本発明のめっき液を用いた場合、電流密度とめっき厚さとの関係は、図2に示したようになり、6価クロムめっきと同様の5A/dm以下の低い電流密度で3価クロムめっきが可能となる。
また、本発明のめっき液を用いた場合、5A/dm以下の低い電流密度の領域から30A/dm付近の高い電流密度の領域に至るまで電流密度とめっき厚さとの関係が直線的なものになり均一電着性に優れためっきが実施可能となる。
従って、この図からも本発明によれば付きまわり性と均一電着性とに優れた3価クロムめっき用のめっき液が提供されることがわかる。
この点について、以下に検討結果を詳述する。
【0031】
(評価1:浴温1)
表1に示した配合内容となるようにめっき液を調製した。
即ち、硫酸クロムを含み、Cr3+イオンの濃度が1mol/Lのめっき液を調製した。
該めっき液には、それぞれ0.5mol/Lの濃度となるように蟻酸と尿素とを添加した。
また、めっき液はpHが1.5となるように調製した。
【0032】
【表1】
【0033】
上記のめっき液を用いて5Aの電流値でハルセル試験を実施した。
なお、試験は浴温を30℃、35℃、40℃の3通りで実施し、試験時間は10分間とした。
結果を図3、表1に併せて示す。
【0034】
また、試験後の試料のめっき厚さを蛍光X線型膜厚測定器にて測定した。
その結果を図4に示す。
この表1や図4に示した結果からは、Cr3+イオンの濃度が1mol/L以下であることで電流密度が低い状態でも一定以上のめっき厚さを確保できることがわかった。
また、表1、図4に示した結果からは、浴温を40℃未満とすることが付きまわり性に優れた3価クロムめっきを行う上で有利であることが判明した。
【0035】
(評価2:浴温2)
「評価1」の結果を受けて浴温をさらに細分化して24℃、26℃、28℃、30℃、32℃の5通りの浴温でハルセル試験を実施し、「評価1」と同様に試験結果を評価した。
結果を表2、図5、6に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
この表や図からも、浴温が24℃から28℃の範囲では、各電流密度でのめっき被膜の析出をほぼ一定の速度にできることがわかる。
そして、浴温が24℃で最も付きまわり性の向上が認められ、低い浴温でめっきを行う方が好ましい結果が得られることがわかった。
そこで、さらに浴の温度を下げることも検討したが浴温を下げ過ぎると浴組成の一部が結晶化してめっき表面にざらつきが発生したり、浴粘度が高くなってカソードにおいて水素が除去しにくくなると認められたことから浴温は24℃〜28℃の範囲内が最適であると判断した。
なお、24℃〜28℃の浴温を採用することで電流密度が低い場合でも良好なめっきが可能となる傾向は、別途実施したベントカソード試験においても確認できた。
【0038】
(評価3:浴濃度)
浴粘度の低下や浴液結晶化を抑制して付きまわり性の向上を図るべく、浴組成自体の濃度を下げてハルセル試験を実施した。
具体的には、浴組成を4/5(Cr3+イオンの濃度0.8mol/L、蟻酸及び尿素各々0.4mol/L)、3/5(Cr3+イオンの濃度0.6mol/L、蟻酸及び尿素各々0.3mol/L)、1/2(Cr3+イオンの濃度0.5mol/L、蟻酸及び尿素各々0.25mol/L)とし浴温度25℃でハルセル試験を実施した。
結果を表3、及び、図7に示す。
この表3や図7からも明らかなように、この「評価3」では浴濃度が低い方が良好なめっき被膜が得られることがわかった。
なお、成分を0.5倍としためっき液で最も良い結果が得られることは、別途実施したベントカソード試験においても確認できた。
【0039】
【表3】
【0040】
(評価4:蟻酸及び尿素の添加量1)
「評価3」の結果を受け、浴濃度の更なる低下を試みた。
具体的には、浴組成を1/4、並びに、1/10としてハルセル試験を実施した。
その結果、付きまわり性はさらに改善されたがめっきの異常析出が見られる結果となった。
そのため、クロムイオン濃度は1/4(0.25mol/L)、1/10(0.1mol/L)としながら、蟻酸や尿素は当初の濃度(0.5mol/L)に戻した。
その結果、表4や図8に示すように異常析出は無くなったが、付きまわり性が低下する結果となった。
【0041】
【表4】
【0042】
(評価5:蟻酸及び尿素の添加量2)
「評価4」の結果を受け、蟻酸、尿素の変量により異常析出の改善を試みた。
ハルセル試験の結果(表5、図9参照)、蟻酸の濃度を0.1mol/Lと低く、尿素を当初の濃度(0.5mol/L)とすることで付きまわり性が良好で異常析出が抑制されることがわかった。
【0043】
【表5】
【0044】
次いで、尿素の濃度を0.5mol/Lに固定とし、蟻酸の濃度を0.1mol/Lから0.22mol/Lへと変化させて付きまわり性が改善するか確認した。
結果を表6、図10に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
この表や図からは、蟻酸の濃度が0.2mol/L以下で良好な結果が得られることがわかった。
【0047】
また、さらに蟻酸を低濃度にして付きまわり性について評価を行った。
その結果を表7、図11に示す。
【0048】
【表7】
【0049】
この表や図からは、蟻酸の濃度が0.05mol/L以上で良好な結果が得られることがわかった。
短冊状の金属板を折り曲げて側面視“コの字状”となる凹入部を備えたカソードを用い、表6、7に示した条件と同じ条件でベントカソード試験を実施したところ、蟻酸の濃度が0.05mol/L以上0.1mol/L以下の範囲では凹入部においても6割以上の範囲にめっきが施されていることが確認できた。
【0050】
以上のように硫酸クロムを含む3価クロムめっき用のめっき液では、Cr3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下の範囲とし、蟻酸の濃度を0.05mol/L以上0.2mol/L以下とすることで良好な付きまわり性を示すことが確認できた。
また、同めっき液は、Cr3+イオンの濃度が0.1mol/L〜0.3mol/Lの範囲で特に良好な付きまわり性を示すことが確認できた。
さらに、上記の評価からは、めっき浴での浴温を20℃以上40℃未満とすることが有効であることが確認できた。
このようなことからも本発明によれば付きまわり性に優れた3価クロムめっき用のめっき液が提供され、環境に優しいめっき製品の適用範囲が拡大され得ることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11