【実施例】
【0028】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
(本発明の概要:従来の3価クロムめっきとの違い)
一般文献等において開示がされている6価クロムめっきと3価クロムめっきとにおける電流密度とめっき厚さとの関係を
図1に示す。
この図からは、従来の3価クロムめっきでは電流密度とめっき厚さとの関係を示す直線の傾きが電流密度が5A/dm
2付近で急激に大きくなり均一電着性が発揮され難いことがわかる。
また、この図からは、従来の3価クロムめっきにおいては5A/dm
2以下の電流密度でめっきを行うことが難しく付きまわり性に優れためっきを行うことが困難であることがわかる。
【0030】
これに対し本発明のめっき液を用いた場合、電流密度とめっき厚さとの関係は、
図2に示したようになり、6価クロムめっきと同様の5A/dm
2以下の低い電流密度で3価クロムめっきが可能となる。
また、本発明のめっき液を用いた場合、5A/dm
2以下の低い電流密度の領域から30A/dm
2付近の高い電流密度の領域に至るまで電流密度とめっき厚さとの関係が直線的なものになり均一電着性に優れためっきが実施可能となる。
従って、この図からも本発明によれば付きまわり性と均一電着性とに優れた3価クロムめっき用のめっき液が提供されることがわかる。
この点について、以下に検討結果を詳述する。
【0031】
(評価1:浴温1)
表1に示した配合内容となるようにめっき液を調製した。
即ち、硫酸クロムを含み、Cr
3+イオンの濃度が1mol/Lのめっき液を調製した。
該めっき液には、それぞれ0.5mol/Lの濃度となるように蟻酸と尿素とを添加した。
また、めっき液はpHが1.5となるように調製した。
【0032】
【表1】
【0033】
上記のめっき液を用いて5Aの電流値でハルセル試験を実施した。
なお、試験は浴温を30℃、35℃、40℃の3通りで実施し、試験時間は10分間とした。
結果を
図3、表1に併せて示す。
【0034】
また、試験後の試料のめっき厚さを蛍光X線型膜厚測定器にて測定した。
その結果を
図4に示す。
この表1や
図4に示した結果からは、Cr
3+イオンの濃度が1mol/L以下であることで電流密度が低い状態でも一定以上のめっき厚さを確保できることがわかった。
また、表1、
図4に示した結果からは、浴温を40℃未満とすることが付きまわり性に優れた3価クロムめっきを行う上で有利であることが判明した。
【0035】
(評価2:浴温2)
「評価1」の結果を受けて浴温をさらに細分化して24℃、26℃、28℃、30℃、32℃の5通りの浴温でハルセル試験を実施し、「評価1」と同様に試験結果を評価した。
結果を表2、
図5、6に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
この表や図からも、浴温が24℃から28℃の範囲では、各電流密度でのめっき被膜の析出をほぼ一定の速度にできることがわかる。
そして、浴温が24℃で最も付きまわり性の向上が認められ、低い浴温でめっきを行う方が好ましい結果が得られることがわかった。
そこで、さらに浴の温度を下げることも検討したが浴温を下げ過ぎると浴組成の一部が結晶化してめっき表面にざらつきが発生したり、浴粘度が高くなってカソードにおいて水素が除去しにくくなると認められたことから浴温は24℃〜28℃の範囲内が最適であると判断した。
なお、24℃〜28℃の浴温を採用することで電流密度が低い場合でも良好なめっきが可能となる傾向は、別途実施したベントカソード試験においても確認できた。
【0038】
(評価3:浴濃度)
浴粘度の低下や浴液結晶化を抑制して付きまわり性の向上を図るべく、浴組成自体の濃度を下げてハルセル試験を実施した。
具体的には、浴組成を4/5(Cr
3+イオンの濃度0.8mol/L、蟻酸及び尿素各々0.4mol/L)、3/5(Cr
3+イオンの濃度0.6mol/L、蟻酸及び尿素各々0.3mol/L)、1/2(Cr
3+イオンの濃度0.5mol/L、蟻酸及び尿素各々0.25mol/L)とし浴温度25℃でハルセル試験を実施した。
結果を表3、及び、
図7に示す。
この表3や
図7からも明らかなように、この「評価3」では浴濃度が低い方が良好なめっき被膜が得られることがわかった。
なお、成分を0.5倍としためっき液で最も良い結果が得られることは、別途実施したベントカソード試験においても確認できた。
【0039】
【表3】
【0040】
(評価4:蟻酸及び尿素の添加量1)
「評価3」の結果を受け、浴濃度の更なる低下を試みた。
具体的には、浴組成を1/4、並びに、1/10としてハルセル試験を実施した。
その結果、付きまわり性はさらに改善されたがめっきの異常析出が見られる結果となった。
そのため、クロムイオン濃度は1/4(0.25mol/L)、1/10(0.1mol/L)としながら、蟻酸や尿素は当初の濃度(0.5mol/L)に戻した。
その結果、表4や
図8に示すように異常析出は無くなったが、付きまわり性が低下する結果となった。
【0041】
【表4】
【0042】
(評価5:蟻酸及び尿素の添加量2)
「評価4」の結果を受け、蟻酸、尿素の変量により異常析出の改善を試みた。
ハルセル試験の結果(表5、
図9参照)、蟻酸の濃度を0.1mol/Lと低く、尿素を当初の濃度(0.5mol/L)とすることで付きまわり性が良好で異常析出が抑制されることがわかった。
【0043】
【表5】
【0044】
次いで、尿素の濃度を0.5mol/Lに固定とし、蟻酸の濃度を0.1mol/Lから0.22mol/Lへと変化させて付きまわり性が改善するか確認した。
結果を表6、
図10に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
この表や図からは、蟻酸の濃度が0.2mol/L以下で良好な結果が得られることがわかった。
【0047】
また、さらに蟻酸を低濃度にして付きまわり性について評価を行った。
その結果を表7、
図11に示す。
【0048】
【表7】
【0049】
この表や図からは、蟻酸の濃度が0.05mol/L以上で良好な結果が得られることがわかった。
短冊状の金属板を折り曲げて側面視“コの字状”となる凹入部を備えたカソードを用い、表6、7に示した条件と同じ条件でベントカソード試験を実施したところ、蟻酸の濃度が0.05mol/L以上0.1mol/L以下の範囲では凹入部においても6割以上の範囲にめっきが施されていることが確認できた。
【0050】
以上のように硫酸クロムを含む3価クロムめっき用のめっき液では、Cr
3+イオンの濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下の範囲とし、蟻酸の濃度を0.05mol/L以上0.2mol/L以下とすることで良好な付きまわり性を示すことが確認できた。
また、同めっき液は、Cr
3+イオンの濃度が0.1mol/L〜0.3mol/Lの範囲で特に良好な付きまわり性を示すことが確認できた。
さらに、上記の評価からは、めっき浴での浴温を20℃以上40℃未満とすることが有効であることが確認できた。
このようなことからも本発明によれば付きまわり性に優れた3価クロムめっき用のめっき液が提供され、環境に優しいめっき製品の適用範囲が拡大され得ることがわかる。