【文献】
梶浦 欣二郎,密度流について――海洋における内部波――,水理講演会講演集,1973年,Vol.17,pp.21-27
【文献】
COLOSI John A.,Internal-wave effects on 1000-km oceanic acoustic pulse propagation: Simulation and comparison with experiment,The Journal of the Acoustical Society of America,1994年,Vol.96 No.1,pp.452-468
【文献】
LAMB K. G.,Tidally generated near-resonant internal wave triads at a shelf break,Geophysical Research Letters,2007年 9月29日,Vol.34 No.18,L18607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
海面に平行で且つ直交する二方向における水平波数の各成分と、浮力周波数およびコリオリパラメータとが外部から入力され、前記水平波数の各成分を用いて複数の合成水平波数を算出し、算出した前記各合成水平波数と、前記浮力周波数および前記コリオリパラメータとを用いて、モード番号に対する複数の固有深度関数および複数の固有周波数を算出する内部波モード演算部と、
前記内部波モード演算部において算出された前記各固有周波数を用いて、前記各固有周波数および前記モード番号に対するスペクトル特性を前記各合成水平波数および前記モード番号に対する内部波スペクトル特性へ変換する際に使用される微分値を前記各固有周波数の差分と前記各合成水平波数の差分を用いて算出する分散特性演算部と、
前記内部波モード演算部において算出された前記各固有周波数と、前記浮力周波数および前記コリオリパラメータとを用いて前記スペクトル特性を算出し、算出した前記スペクトル特性を、前記微分値を用いて前記内部波スペクトル特性に変換するスペクトル特性演算部と、
前記スペクトル特性演算部による変換後の前記内部波スペクトル特性と、前記内部波モード演算部において算出された前記各固有深度関数および前記各固有周波数と、前記水平波数の各成分とを用いて、海中の等密度面の変位である内部波変位を算出する内部波変位算出部と、を有する内部波変位シミュレーション装置。
前記分散特性演算部は、前記各固有周波数の前進差分に対する前記各合成水平波数の前進差分の比率と、前記各固有周波数の後退差分に対する前記各合成水平波数の後退差分の比率との加重平均値を用いて前記微分値を算出する請求項1に記載の内部波変位シミュレーション装置。
前記分散特性演算部は、前記各合成水平波数の前進差分に対する前記各固有周波数の前進差分の比率と、前記各合成水平波数の後退差分に対する前記各固有周波数の後退差分の比率との加重平均値を用いて前記微分値を算出する請求項1に記載の内部波変位シミュレーション装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る内部波変位シミュレーション装置100の構成を示すブロック図である。内部波変位シミュレーション装置100は、下記式1に基づく演算処理により、海洋内部波(以下「内部波」という。)による海中の等密度面のランダムな変位(内部波変位)ζをシミュレーションするものである。
【0012】
ここで、海面に平行で且つ直交する二方向をx方向およびy方向とし、海面に垂直な方向をz方向と定義する。x方向およびy方向は、海面に平行な面上の方向(水平方向)において任意に設定される。すなわち、式1において、xおよびyは水平方向における位置であり、zは深度である。また、tは時間、Reは複素数の実部をとる関数である。
【0013】
そして、αは内部波の水平波数である。α
xおよびα
yは、それぞれ、内部波の水平波数α(以下「水平波数α」という。)のx方向成分およびy方向成分であり、α
2=α
x2+α
y2の関係がある。なお、内部波変位シミュレーション装置100は、後述する通り、海面に平行で且つ直交する二方向における水平波数の各成分から複数の合成水平波数α
klを算出し、水平波数αとして各種演算に用いるように構成されている。
【0014】
さらに、jはモード番号である。モード番号jは、予め設定された最大個数Jを上限とする任意の自然数をとる(j=1、2、…、J)。g(α,j)は、平均が0で、内部波スペクトル特性G(α,j)を分散とするランダム変数である。W
αjは、水平波数αおよびモード番号jに対する固有深度関数であり、ω
αjは、水平波数αおよびモード番号jに対する固有周波数である。
【0015】
より具体的に、内部波変位シミュレーション装置100は、式1の積分を加算で表した後述する式27によって、海中の等密度面の変位である内部波変位ζを算出するものである。内部波変位シミュレーション装置100は、
図1に示すように、式27を構成する各要素を導出するための処理を実行する内部波モード演算部10、分散特性演算部20、スペクトル特性演算部30、および内部波変位算出部40を有している。また、内部波変位シミュレーション装置100は、内部波モード演算部10、分散特性演算部20、スペクトル特性演算部30、および内部波変位算出部40が各種演算に用いる情報を記憶する記憶部50を有している。
【0016】
なお、内部波モード演算部10、分散特性演算部20、スペクトル特性演算部30、および内部波変位算出部40は、これらの機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアで実現することもできるし、例えばDSP等のマイコン又はCPU等の演算装置上で実行されるソフトウェアとして実現することもできる。また、記憶部50は、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリ等により構成することができる。
【0017】
記憶部50には、水平波数αのx方向成分であるx系列α
x,k(k=1、2、…、K)、水平波数αのy方向成分であるy系列α
y,l(l=1、2、…、L)、浮力周波数(ブラント−バイサラ周波数)N(z)、およびコリオリパラメータ(慣性周波数)fが、外部より入力されて記憶されている。コリオリパラメータfは、Ωを地球の自転角速度とし、φを緯度とした場合に、f=2Ωsin(φ)によって計算されるものである。x系列α
x,kは、予め決めた間隔Δα
xに対してΔα
x=α
x,k+1−α
x,k(k=1、2、…、K−1)を満たす。y系列α
y,lは、予め決めた間隔Δα
yに対して、Δα
y=α
y,l+1−α
y,l(l=1、2、…、L)を満たす。
【0018】
内部波モード演算部10は、記憶部50から、x系列α
x,k、y系列α
y,l、浮力周波数N(z)、およびコリオリパラメータfを取得し、取得したx系列α
x,kおよびy系列α
y,lを用いて、下記式2により、複数の合成水平波数α
klを算出するものである。
【0020】
また、内部波モード演算部10は、式2により算出した合成水平波数α
klと、記憶部50から取得した浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfとを用いて、下記式3により、合成水平波数α
klおよびモード番号jに対するJ個の固有深度関数W
klj(j=1、2、…、J)と、合成水平波数α
klおよびモード番号jに対するJ個の固有周波数ω
klj(j=1、2、…、J)とを算出するものである。すなわち、固有深度関数W
kljおよび固有周波数ω
kljは、合成水平波数α
klに対して、式3に示す微分方程式を満足する解である。ここで、Jは予め設定された最大個数であり、Hは水深である。
【0022】
そして、新たな変数λ
kljを下記式4のように定義すると、式3は下記式5のように書き換えられる。
【0025】
ここで、深度zを予め決めた間隔Δzで離散化して、mΔz(m=1、2、…、M)により定義したサンプル深度z
m(z
m=mΔz)を適用し、固有深度関数W
klj(z
m) の2階微分を下記式6のように差分で近似する。以下では、固有深度関数W
klj(z
m)をW
klj,mとも表記する。そして、式6を境界条件である「W
klj,0=W
klj,M=0」と合わせてmについて連立させると、下記式7の行列表現が得られる。
【0028】
また、行列Wは、下記式8に示すW
kljであり、Tは、行列およびベクトルの転置を表す記号である。すなわち、式7の行列Wは、行列[W
klj,1,W
klj,2,…,W
klj,M−1]の転置行列である。さらに、行列Bは、下記式9により求めることができる。なお、式9に関して、diag(x)は、ベクトルxの要素を対角成分とする対角行列を表す。
【0031】
ここで、式7の両辺にB
−1をかけると、下記式10となるため、新たに下記式11および式12の通りにV
kljおよび行列Cを定義すると、式7は下記式13のように書き換えられる。そして、式13を満足するV
kljおよびλ
kljは、標準的な固有値問題を解くことにより求めることができる。
【0036】
上記の行列表現に基づく数式処理をもとに、内部波モード演算部10は、あるkおよびlに対する固有深度関数W
klj(z
m)および固有周波数ω
kljを、以下のように算出するものである。すなわち、内部波モード演算部10は、行列Cの第m行第n列の要素C
m,nを、式12より下記式14のように計算する。また、内部波モード演算部10は、行列Bを式9により求める。
【0038】
さらに、内部波モード演算部10は、式13を満足するV
kljおよびλ
kljを、標準的な固有値問題を解くことにより、λの小さな方からJ個求める。そして、内部波モード演算部10は、式13により求めたV
kljを用いて、式11を変形した下記式15により、固有深度関数W
klj(z
m)を算出する。
【0040】
また、内部波モード演算部10は、式4を変形した下記式16により固有周波数ω
kljを算出する。
【0042】
内部波モード演算部10は、以上の処理を、全てのk=1、2、…、Kおよびl=1、2、…、Lに対して行うように構成されている。そして、内部波モード演算部10は、各合成水平波数α
klを、分散特性演算部20に出力するものである。また、内部波モード演算部10は、浮力周波数N(z
m)に対するJ個の固有周波数ω
kljを、分散特性演算部20、スペクトル特性演算部30、内部波変位算出部40に出力するものである。さらに、内部波モード演算部10は、浮力周波数N(z
m)に対するJ個の固有深度関数W
klj(z
m)を、内部波変位算出部40に出力するものである。
【0043】
分散特性演算部20は、内部波モード演算部10から出力されるそれぞれの固有周波数ω
kljに対する微分dα/dω
kljの値(微分値)D
kljを算出し、算出した微分値D
kljをスペクトル特性演算部30に出力するものである。なお、微分値D
kljは、後述するように、スペクトル特性演算部30が、各固有周波数ω
kljおよびモード番号jに対するスペクトル特性F(ω
klj,j)を、各合成水平波数α
klおよびモード番号jに対する内部波スペクトル特性G(α
kl,j)へ変換する際に使用される。
【0044】
より具体的に、分散特性演算部20は、以下の演算により、合成水平波数αにおける固有周波数ωでの微分dα/dωを計算するものである。分散特性演算部20は、固有周波数ω
kljと合成水平波数α
klとの組(ω
klj,α
kl)を、モード番号jごとに固有周波数ω
kljを基準として昇順に並べる。以下では、昇順に並べたものを(ω
pj,α
p)とする(p=1、2、…、K×L)。また、分散特性演算部20は、並べ替えの前後におけるインデックスの関係((k,l)とpとの関係)を記憶部50又は内部メモリ等(図示せず)に記録させる。
【0045】
さらに、分散特性演算部20は、それぞれのp(p=1、2、…、K×L)に対する微分dα/dωの固有周波数ω
pjでの微分値D
pjを算出する。すなわち、分散特性演算部20は、p(p=2、3、...、K×L−1)に対する微分値D
pjとして、下記式17に示す前進差分商Δ
+と下記式18に示す後退差分商Δ
−との加重平均値を下記式19により算出する。前進差分商Δ
+は、式17に示すように、固有周波数ω
pjの前進差分に対する合成水平波数α
pの前進差分の比率であり、後退差分商Δ
−は、式18に示すように、固有周波数ω
pjの後退差分に対する合成水平波数α
pの後退差分の比率である。また、分散特性演算部20は、p=1に対する微分値D
pjを下記式20により算出し、P=K×Lに対する微分値D
pjを下記式21により算出する。
【0051】
そして、分散特性演算部20は、記録しておいたインデックスの関係((k,l)とpとの関係)を用いて微分値D
pjを並べ替えることにより微分値D
kljを算出する。分散特性演算部20は、以上の処理を全てのモード番号jに対して行うように構成されている。また、分散特性演算部20は、内部波モード演算部10から出力された固有周波数ω
kljに対する微分値D
kljをスペクトル特性演算部30に出力するものである。
【0052】
スペクトル特性演算部30は、内部波モード演算部10から出力される固有周波数ω
kljを用いて、固有周波数ω
kljおよびモード番号jに対するスペクトル特性F(ω
klj,j)を算出するものである。また、スペクトル特性演算部30は、算出したスペクトル特性F(ω
klj,j)を、合成水平波数α
klおよびモード番号jに対する内部波スペクトル特性G(α
kl,j)に変換し、変換後の内部波スペクトル特性G(α
kl,j)を内部波変位算出部40に出力するものである。
【0053】
ところで、スペクトル特性F(ω,j)は、固有周波数ωおよびモード番号jに対して与えられた下記式22によって求めることができる。
【0055】
j
*は、モード帯域幅を表すパラメータであり、j
*の値を大きくすると、F(ω,j)のモード番号に対するスペクトル特性が緩やかになる。一般に、深海域では、j
*の値が3に設定される。bおよびN
0は、浮力周波数N(z)が下記式23で表されるときの定数であり、bはN(z)の深度に対する低下度合いを決めるパラメータ、N
0は海面での浮力周波数である。Eは、内部波のエネルギーパラメータと呼ばれる定数である。
【0057】
任意のN(z)については、式23の関係から、水深Hが十分大きいと仮定すると、下記式24の関係が得られる。このため、本第1実施形態において、スペクトル特性演算部30は、式22を下記式25のように変形して使用する。
【0060】
すなわち、スペクトル特性演算部30は、記憶部50から浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfを取得し、取得した浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfと、内部波モード演算部10から出力される固有周波数ω
kljとを用いて、式25により、固有周波数ω
kljおよびモード番号jに対するスペクトル特性F(ω
klj,j)を算出するものである。ここで、式25の要素である積bEは、内部波による変位の大きさを調整するパラメータとなり、実際に測定された変位などから決めることができる。
【0061】
また、スペクトル特性演算部30は、下記式26により、スペクトル特性F(ω
klj,j)を、内部波による等密度面の変位をシミュレーションする際に必要となる内部波スペクトル特性G(α,j)に変換するように構成されている。そして、スペクトル特性演算部30は、式26による変換で求めた内部波スペクトル特性G(α
kl,j)を内部波変位算出部40に出力するように構成されている。
【0063】
内部波変位算出部40は、記憶部50からx系列α
x,kおよびy系列α
y,lを取得し、x系列α
x,kおよびy系列α
y,lと、内部波モード演算部10から出力される固有深度関数W
klj(z
m)と、スペクトル特性演算部30から出力される内部波スペクトル特性G(α
kj,j)とを用いて、下記式27により、位置(x,y,z
m)および時間tに対する内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を算出するものである。また、内部波変位算出部40は、算出した内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を外部に出力するものである。
【0065】
ここで、ランダム変数g(α
kl,j)は、平均が0であり、分散が内部波スペクトル特性G(α
kl,j)の正規分布に従うランダムな値をとる。また、Δα
xおよびΔα
yは、それぞれ、合成水平波数α
klのx方向成分およびy方向成分の間隔である。
【0066】
続いて、本第1実施形態における内部波変位シミュレーション装置100の動作を、
図2に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0067】
まず、内部波モード演算部10は、記憶部50から、x系列α
x,k、y系列α
y,l、浮力周波数N(z)、およびコリオリパラメータfを取得する。そして、内部波モード演算部10は、記憶部50から取得したx系列α
x,kおよびy系列α
y,lを用いて、式2により、合成水平波数α
klを算出する(
図2:ステップS101/水平波数算出工程)。次いで、内部波モード演算部10は、算出した合成水平波数α
klと、記憶部50から取得した浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfとを用いて、式3により、浮力周波数N(z)に対するJ個の固有深度関数W
kljおよび固有周波数ω
kljを算出する。すなわち、内部波モード演算部10は、式15により固有深度関数W
klj(z
m)を算出し、式16により固有周波数ω
kljを算出する(
図2:ステップS102/内部波モード演算工程)。
【0068】
内部波モード演算部10は、全てのk=1、2、…、Kおよびl=1、2、…、Lに対して、上記ステップS101およびS102の処理を行う。そして、内部波モード演算部10は、算出した合成水平波数α
klおよびJ個の固有周波数ω
kljを分散特性演算部20に出力する。また、内部波モード演算部10は、算出したJ個の固有周波数ω
kljをスペクトル特性演算部30に出力する。さらに、内部波モード演算部10は、算出したJ個の固有周波数ω
kljおよびJ個の固有深度関数W
klj(z
m)を内部波変位算出部40に出力する(
図2:ステップS103)。
【0069】
分散特性演算部20は、内部波モード演算部10から出力される合成水平波数α
klと固有周波数ω
kljと入力する。そして、分散特性演算部20は、内部波モード演算部10から出力される固有周波数ω
kljと合成水平波数α
klとの組(ω
klj,α
kl)を、モード番号jごとに昇順に並べ替えて(ω
pj,α
p)(p=1、2、…、K×L)とする(
図2:ステップS104)。また、分散特性演算部20は、並べ替えの前後におけるインデックスの関係((k,l)とpとの関係)を記憶部50又は内部メモリ等(図示せず)に記録させる(
図2:ステップS105)。
【0070】
次に、分散特性演算部20は、p(p=2、3、...、K×L−1)に対する微分値D
pjを式19により算出する。また、分散特性演算部20は、p=1に対する微分値D
pjを式20により算出し、P=K×Lに対する微分値D
pjを式21により算出する(
図2:ステップS106)。次いで、分散特性演算部20は、記録させておいたインデックスの関係((k,l)とpとの関係)を用いて微分値D
pjを並べ替えることにより微分値D
kljを算出する(
図2:ステップS107/微分値算出工程)。分散特性演算部20は、上記ステップS104〜S107までの処理を、全てのモード番号jに対して行い、算出した微分値D
kljをスペクトル特性演算部30に出力する(
図2:ステップS108)。
【0071】
スペクトル特性演算部30は、内部波モード演算部10から出力される固有周波数ω
kljと、分散特性演算部20から出力される微分値D
kljとを入力し、記憶部50から、浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfを取得する。そして、スペクトル特性演算部30は、固有周波数ω
klj、浮力周波数N(z)、およびコリオリパラメータfを用いて、式25により、固有周波数ω
kljおよびモード番号jに対するスペクトル特性F(ω
klj,j)を算出する(
図2:ステップS109/スペクトル特性算出工程)。
【0072】
次に、スペクトル特性演算部30は、算出したスペクトル特性F(ω
klj,j)を、微分値D
kljを用いて式26により内部波スペクトル特性G(α
kl,j)へ変換し(
図2:ステップS110/スペクトル特性変換工程)、変換後の内部波スペクトル特性G(α
kl,j)を内部波変位算出部40に出力する(
図2:ステップS111)。
【0073】
内部波変位算出部40は、内部波モード演算部10から出力される固有深度関数W
klj(z
m)および固有周波数ω
klj(j=1、2、…、J)と、スペクトル特性演算部30から出力される内部波スペクトル特性G(α
kj,j)とを入力し、記憶部50から、水平波数αのx方向成分であるx系列α
x,kとy方向成分であるy系列α
y,lを取得する。そして、内部波変位算出部40は、内部波モード演算部10から出力される固有深度関数W
klj(z
m)および固有周波数ω
kljと、スペクトル特性演算部30から出力される内部波スペクトル特性G(α
kj,j)と、x系列α
x,kおよびy系列α
y,lとを用いて、式27により、位置(x,y,z
m)および時間tに対する内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を算出する(
図2:ステップS112/内部波変位算出工程)。そして、内部波変位算出部40は、算出した内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を外部に出力する(
図2:ステップS113)。
【0074】
(第1実施形態の効果)
本第1実施形態における内部波変位シミュレーション装置100は、内部波モード演算部10において算出された固有周波数ω
kljを用いて分散特性演算部20が微分値D
kljを算出し、分散特性演算部20において算出された微分値D
kljを用いてスペクトル特性演算部30がスペクトル特性F(ω
klj,j)を内部波スペクトル特性G(α
kl,j)に変換するという構成を採っている。さらに、内部波変位算出部40は、内部波モード演算部10から出力される固有深度関数W
klj(z
m)および固有周波数ω
kljと、スペクトル特性演算部30から出力される内部波スペクトル特性G(α
kj,j)とを用いて内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を算出するように構成されている。よって、内部波変位シミュレーション装置100によれば、従来のような近似的処理を用いずに、内部波スペクトル特性G(α
kl,j)および内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を算出することができるため、海洋内部波による等密度面の変位のシミュレーション結果に生じる誤差を低減することができる。
【0075】
ここで、
図3〜
図6を参照して、内部波変位シミュレーション装置100によって得られる効果を詳細に説明する。
図3は、従来における固有周波数と水平波数との関係を示すグラフである。
図4は、従来における固有周波数と水平波数の微分値との関係を示すグラフである。
図5は、本第1実施形態における固有周波数と合成水平波数との関係を示すグラフである。
図6は、本第1実施形態における固有周波数と水平波数の微分値との関係を示すグラフである。
【0076】
従来から、式1を使って内部波による等密度面の変位をシミュレーションする場合は、下記式28により、スペクトル特性F(ω,j)から内部波スペクトル特性G(α,j)への変換を行っている。そして、従来においては、水平波数αと固有周波数ωとの関係を、以下のように近似的に表すことで微分値dα/dωを計算し、式28による変換を行っている。
【0078】
式3の左辺のW
αj(Z)にかかっている項は、固有深度関数の深度方向の波数β
αj(以下「鉛直波数β
αj」という。)により、下記式29のように表すことができる。
【0080】
また、第jモードに対する鉛直波数β
αjについては、下記式30に示す近似が成り立つため、式29および式30により、下記式31の関係を導出する。さらに、式31をαについて解くことにより、下記式32の関係を得る。
【0084】
ここで、水平波数αは、深度zに依存しない量であるため、f<ω
αj≪N(z)と仮定して、下記式33のように近似すると、微分値dα/dω
αjは、下記式34のように表すことができる。
【0087】
すなわち、従来は、式33および式34を使って、式28による変換を行っている。なお、式33および式34の右辺にあるbN
0は、式24の関係によって置き換えることができる。
【0088】
しかしながら、式33および式34は、水平波数αと固有周波数ωとの近似的な関係を表しているに過ぎない。すなわち、従来は、スペクトル特性F(ω,j)を内部波スペクトル特性G(α,j)へ変換する際に介在する近似的な処理の影響により、最終的には、式1でシミュレーションする海中の等密度面の変位に誤差が生じるという課題がある。
【0089】
ここで、従来構成による内部波変位の算出誤差について具体的に説明する。例えば、簡単のために、浮力周波数N(z)が深度に依存せず、N=N
0で表せる場合を想定する。このとき、式3の微分方程式のj番目の解は、下記式35で表される。∝は比例関係を示す記号である。また、鉛直波数β
αjは下記式36で表されるため、式29の関係から、下記式37および式38を得ることができる。
【0094】
図3は、式33による算出値と式37による算出値とを比較した結果を例示するグラフであり、
図3(A)にj=1での関係を示し、
図3(B)にj=5での関係を示す。
図4は、式34による算出値と式38による算出値とを比較した結果を例示するグラフであり、
図4(A)にj=1での関係を示し、
図4(B)にj=5における関係を示す。
【0095】
また、
図3では、式33による算出値を破線で示し、式37による算出値を実線で示す。
図4では、式34による算出値を破線で示し、式38による算出値を実線で示す。
図3および
図4は、H=5000m、N
0=0.00524rad/s(=3.0cph)、f=7.29×10
−5rad/sの条件の下で計算したものである。
図3および
図4において、横軸は、固有周波数ωを1時間あたりのサイクル数(cph)で表しており、縦軸は、対数スケールをとっている。
【0096】
図3に示すように、縦軸に示す水平波数αについては、横軸の固有周波数ωが大きくなりN
0(3.0cph)に近づくにつれて、式33による算出結果と式37による算出結果との差が大きくなることがわかる。また、
図4に示すように、縦軸に示す微分値dα/dωについても、横軸の固有周波数ωが大きくなりN
0(3.0cph)に近づくにつれて、式34による算出結果と式38による算出結果との差が大きくなることがわかる。すなわち、従来においては、固有周波数ωが大きくなるにつれて、内部波の変位に生じる誤差が大きくなっている。
【0097】
ところで、式37および式38を導出する際の想定(N=N
0)のように、式3の微分方程式を解析的に解ける形でN(z)が与えられた場合には、水平波数αと固有周波数ωとの関係を厳密に表すことができるが、一般にそれは不可能である。したがって、水平波数αと固有周波数ωとの関係を式33および式34を使って近似的に表すと、内部波の変位に誤差が生じる。
【0098】
図5は、内部波モード演算部10が算出する合成水平波数αと固有周波数ωとの関係と、式37における水平波数αと固有周波数ωとの関係とを比較した結果を例示するグラフであり、
図5(A)にはj=1での関係を示し、
図5(B)にはj=5での関係を示す。
図6は、分散特性演算部20が算出する微分値dα/dω(微分値D
klj)と固有周波数ωとの関係と、式38における微分値dα/dωと固有周波数ωとの関係とを比較した結果を例示するグラフであり、
図6(A)にはj=1での関係を示し、
図6(B)にはj=5における関係を示す。
【0099】
また、
図5では、内部波モード演算部10による算出値を丸印でプロットしており、式37による算出値を実線で示している。
図6では、内部波モード演算部10による算出値を丸印でプロットしており、式38による算出値を実線で示している。
図5および
図6は、
図3および
図4の場合と同じ条件下におけるデータを示すものである。
【0100】
上述した
図3および
図4では、近似式である式33および式34により求めた結果と、式37および式38により求めた結果との間には差が生じており、その差は、固有周波数ωが大きくなるにつれて大きくなっている。これに対し、本第1実施形態では、
図5および
図6に示すように、内部波変位シミュレーション装置100が求めた結果と、式37および式38により求めた結果との間に生じる差が小さくなっている。すなわち、従来の構成と比較して、合成水平波数α
klと固有周波数ω
kljとの関係について生じる誤差と、微分値D
kljと固有周波数ω
kljとの関係について生じる誤差が小さくなっていることがわかる。
【0101】
以上のように、内部波変位シミュレーション装置100は、内部波モード演算部10が合成水平波数α
klと固有周波数ω
kljとの関係を演算し、内部波モード演算部10による演算結果をもとに分散特性演算部20が微分値D
kljを算出し、分散特性演算部20において算出された微分値D
kljを用いてスペクトル特性演算部30が内部波スペクトル特性G(α,j)を求めるように構成されている。したがって、合成水平波数α
klと固有周波数ω
kljとの関係および微分値D
kljを、近似によらず、内部波モードが満足する微分方程式を解くことで得られる固有深度関数W
klj(z
m)および固有周波数ω
kljとの関係を用いて算出ことができるため、内部波スペクトル特性G(α,j)および内部波変位ζ(x,y,z
m,t)の算出誤差を小さくすることができる。すなわち、内部波変位シミュレーション装置100によれば、近似式を用いた場合に生じる内部波スペクトル特性G(α,j)および内部波変位ζの算出誤差を小さくすることができるため、海洋内部波による等密度面の変位のシミュレーション結果に生じる誤差を低減することができる。
【0102】
<変形例>
前述の第1実施形態は、式28に相当する式26を使って、スペクトル特性F(ω,j)から内部波スペクトル特性G(α,j)への変換を行うことが前提となっており、かかる前提のもと、固有周波数ωと合成水平波数αとの関係を用いた処理を説明するものである。
【0103】
ところで、固有周波数ωと合成水平波数αとの関係は、内部波スペクトル特性G(α,j)をスペクトル特性F(ω,j)に変換する場合にも使用することができる。すなわち、内部波スペクトル特性G(α,j)は、下記式39を使って、スペクトル特性F(ω,j)に変換することができる。
【0105】
例えば、内部波の変位の空間的な変動が観測されたとき、その変動をスペクトル分析して得られるものは、合成水平波数αに対する内部波スペクトル特性G(α,j)である。したがって、観測された変動を既存の周波数に対するスペクトル特性と比較したいときは、得られた内部波スペクトル特性G(α,j)をスペクトル特性F(ω,j)に変換するとよい。すなわち、内部波の変位の空間的な変動が観測されたときには、式39による変換処理により、観測された変動を既存の周波数に対するスペクトル特性と比較することができる。
【0106】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る内部波変位シミュレーション装置200について説明する。前述の第1実施形態では、式28に相当する式26を使ってスペクトル特性F(ω,j)を内部波スペクトル特性G(α,j)に変換する例を示したが、本第2実施形態では、内部波変位シミュレーション装置200が、式28と同値な下記式40を使ってスペクトル特性F(ω,j)を内部波スペクトル特性G(α,j)に変換するという点に特徴がある。第1実施形態と同等の構成部材については、同一の符号を用いて説明は省略する。
【0108】
分散特性演算部120は、上記式17〜式21の固有周波数ωと水平波数αとを入れ換えた式により微分値D
pjを算出するものである。すなわち、分散特性演算部120は、固有周波数ω
kljと合成水平波数α
klとの組(ω
klj,α
kl)を、モード番号jごとに昇順に並べて (ω
pj,α
p)とする(p=1、2、…、K×L)。また、分散特性演算部120は、並べ替えの前後におけるインデックスの関係((k,l)とpとの関係)を記憶部50又は内部メモリ等(図示せず)に記録させる。
【0109】
さらに、分散特性演算部120は、p(p=2、3、...、K×L−1)に対する微分値D
pjとして、下記式41に示す前進差分商Δ
+と下記式42に示す後退差分商Δ
−との加重平均値を下記式43により算出する。前進差分商Δ
+は、式41に示すように、合成水平波数α
pの前進差分に対する固有周波数ω
pjの前進差分の比率であり、後退差分商Δ
−は、式42に示すように、合成水平波数α
pの後退差分に対する固有周波数ω
pjの後退差分の比率である。また、分散特性演算部120は、p=1に対する微分値D
pjを下記式44により算出し、P=K×Lに対する微分値D
pjを下記式45により算出する。
【0115】
そして、分散特性演算部120は、記録しておいたインデックスの関係((k,l)とpとの関係)を用いて微分値D
pjを並べ替えることにより微分値D
kljを算出する。分散特性演算部120は、以上の処理を全てのモード番号jに対して行い、算出した微分値D
kljをスペクトル特性演算部130に出力するように構成されている。
【0116】
また、スペクトル特性演算部130は、式26の代わりに、式40に相当する下記式46を用いてスペクトル特性F(ω,j)を内部波スペクトル特性G(α,j)に変換するものである。なお、他の構成及び動作内容については、前述した第1実施形態と同様である。
【0118】
(第2実施形態の効果)
本第2実施形態における内部波変位シミュレーション装置200は、内部波モード演算部10において算出された固有周波数ω
kljを用いて分散特性演算部120が微分値D
kljを算出することから、スペクトル特性演算部130は、近似によらず、分散特性演算部120において算出された微分値D
kljを用いてスペクトル特性F(ω
klj,j)を内部波スペクトル特性G(α
kl,j)に変換することができる。また、内部波変位算出部40は、近似によらず、内部波モード演算部10から出力される固有深度関数W
klj(z
m)および固有周波数ω
kljと、スペクトル特性演算部130から出力される内部波スペクトル特性G(α
kj,j)とを用いて内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を算出するように構成されている。すなわち、内部波変位シミュレーション装置200によれば、従来のような近似的処理を用いずに、内部波スペクトル特性G(α
kl,j)および内部波変位ζ(x,y,z
m,t)を算出することができるため、海洋内部波による等密度面の変位のシミュレーション結果に生じる誤差を低減することができる。
【0119】
なお、上述した各実施形態は、内部波変位シミュレーション装置および内部波変位シミュレーション方法における好適な具体例であり、本発明の技術的範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。例えば、第1又は第2実施形態では、式17〜式21又は式41〜式45に示す差分により微分値を求める方法を説明したが、これに限定されず、点(ω
pj,α
p)をスプライン補間したときの点ω
pjにおける微分値を用いる方法等を採用するようにしてもよい。また、記憶部50として、内部波モード演算部10の内部メモリ等を機能させるようにしてもよい。さらに、各実施形態では、内部波モード演算部10が、x系列α
x,kおよびy系列α
y,lを用いて、式2により合成水平波数α
klを算出するという構成を採ったが、内部波モード演算部10の外部に、合成水平波数α
klを算出する機能をもつ構成部材を設け、該構成部材にて算出された合成水平波数α
klを内部波モード演算部10が取得するようにしてもよい。
【0120】
加えて、各実施形態では、内部波変位算出部40が、記憶部50から水平波数αのx方向成分α
x,kおよびy方向成分α
y,lを取得するという構成を例示しているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、内部波モード演算部10が、記憶部50から取得したx系列α
x,kおよびy系列α
y,lを内部波変位算出部40に送信するようにしてもよい。また、第1又は第2実施形態では、スペクトル特性演算部30又は130が、記憶部50から浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfを取得するという構成を例示しているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、内部波モード演算部10が、記憶部50から取得した浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfをスペクトル特性演算部30又は130へ出力するようにしてもよい。さらに、各実施形態では、内部波モード演算部10が、記憶部50から、x系列α
x,k、y系列α
y,l、浮力周波数N(z)、およびコリオリパラメータfを取得するという構成を例示しているが、これに限定されるものではない。すなわち、x系列α
x,k、y系列α
y,l、浮力周波数N(z)、およびコリオリパラメータfが、外部から内部波モード演算部10へ入力されるようにしてもよい。同様に、浮力周波数N(z)およびコリオリパラメータfが、外部からスペクトル特性演算部30および130へ入力されるようにしてもよく、x系列α
x,kおよびy系列α
y,lが、外部から内部波変位算出部40へ入力されるようにしてもよい。