(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、[A]:エポキシ樹脂、[B]:ジシアンジアミド、[C]:イミダゾール化合物を必須成分として含む。
【0017】
([A]成分)
本発明における[A]成分はエポキシ樹脂である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂、ジグリシジルレゾルシノール、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0018】
なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、フルオレン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール化合物とジシクロペンタジエンの共重合体を原料とするエポキシ樹脂、ジグリシジルレゾルシノール、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、これらを単独で用いても、複数種類を組み合わせても良い。
【0019】
([B]成分)
本発明における[B]成分は、ジシアンジアミドである。ジシアンジアミドは、化学式(H
2N)
2C=N−CNであらわされる化合物である。ジシアンジアミドは、樹脂硬化物に高い力学特性や耐熱性を与える点で優れておりエポキシ樹脂の硬化剤として広く用いられる。かかるジシアンジアミドの市販品としては、DICY7、DICY15(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。
【0020】
ジシアンジアミド[B]を粉体としてエポキシ樹脂組成物に配合することは、室温での保管安定性や、プリプレグ製造時の粘度安定性の観点から好ましい。また、ジシアンジアミド[B]を予め[A]成分のエポキシ樹脂の一部に三本ロールなどを用いて分散させておくことは、エポキシ樹脂組成物を均一にし、硬化物の物性を向上させるため好ましい。
【0021】
ジシアンジアミドを粉体として樹脂に配合する場合、その平均粒径は10μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは7μm以下である。例えば、プリプレグ製造工程において加熱加圧により強化繊維束にエポキシ樹脂組成物を含浸させる際、平均粒径が10μm以下であれば、繊維束内部への樹脂の含浸性が良好となる。
【0022】
また、ジシアンジアミド[B]の総量は、エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂成分のエポキシ基に対し、活性水素基が0.3〜1.0当量、さらに0.3〜0.6当量の範囲となる量とすることが好ましい。活性水素基の量がこの範囲となることにより、耐熱性と機械特性のバランスに優れた樹脂硬化物を得ることができる。
【0023】
([C]成分)
本発明における[C]成分は、イミダゾール化合物である。本発明において[C]成分は、[B]成分の硬化促進剤としてはたらく。イミダゾール化合物としては、例えば、次式(I)に一般式が示されるようなものを用いることができる。
【0025】
(R
1〜R
2は、水素またはハロゲン、水酸基もしくはシアノ基より選ばれる置換基を1個もしくは複数個有するアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表し、R
3〜R
4は、水素またはハロゲン、水酸基、シアノ基より選ばれる置換基を1個もしくは複数個有するアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す。ここでアルキル基とは、炭化水素より誘導される置換基を意味し、直鎖でも、分岐を有しても、環状構造を有してもよい。アリール基とは、芳香族炭化水素により誘導される置換基で、フェニル基やナフチル基のように芳香環のみからなるものでも、トリル基のように芳香族炭化水素構造を部分構造として有するものでもよい。アラルキル基とは、アリール基を置換基として有するアルキル基、例えばベンジル基やフェニルエチル基を意味する。)。
【0026】
イミダゾール化合物としては、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールなどが挙げられる。イミダゾール化合物は単独で用いても、複数種類を組み合わせて用いても良い。
【0027】
(示差走査熱量分析計を用いたエポキシ樹脂組成物の分析)
本発明において、エポキシ樹脂組成物の硬化性の測定には、たとえば示差走査熱量分析計を用いた熱分析が用いられる。
【0028】
示差走査熱量分析計を用いた測定で観測できる発熱は、エポキシ樹脂組成物の反応によって生じるものである。従って、等温測定において、横軸に時間、縦軸に熱流量を取った発熱チャートは、その温度における反応速度の時間依存性を表している。そのため、チャートにおける発熱ピークトップが現れる時は、その温度における反応が最も活発化する時を表しており、反応性の指標として用いることができる。
【0029】
(示差走査熱量分析計を用いたエポキシ樹脂組成物の100℃等温測定)
本発明において、エポキシ樹脂組成物は、示差走査熱量分析計で100℃の等温測定を行った場合、100℃に達してから熱流量が発熱ピークトップに至るまでの時間をT(100)としたとき、T(100)が25分以下であることを特徴とし、好ましくは24分以下である。T(100)が25分以下であるエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いることにより、プリプレグに優れた速硬化性を与えることができる。T(100)が25分より大きくなるエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いたプリプレグでは、速硬化性が不十分なものとなる。
【0030】
(示差走査熱量分析計を用いたエポキシ樹脂組成物の60℃等温測定)
また、60℃で等温測定を行った場合、60℃に達してから熱流量が発熱ピークトップに至るまでの時間をT(60)としたとき、T(60)が15時間以上であることを特徴とし、好ましくは21時間以上である。T(60)が15時間以上であるエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いることにより、プリプレグに長期的な保管安定性を与えることができる。15時間未満となるエポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いたプリプレグは、保管安定性が不十分なものとなる。
【0031】
(エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比)
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物に関し、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比は、25以上90以下であることを特徴とする。25未満の場合、エポキシ樹脂の自己重合の割合が増加して樹脂硬化物が脆くなり、該エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いた炭素繊維複合材料の強度が低下する。90を超える場合、エポキシ樹脂組成物の硬化性が不足して脆くなり、やはり該エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いた炭素繊維複合材料の強度が低下する。
【0032】
上記、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比は、以下の手順でエポキシ樹脂組成物のエポキシ当量とエポキシ樹脂組成物のイミダゾール環当量から算出可能である。
【0033】
(i)エポキシ樹脂組成物の平均エポキシ当量
n種類のエポキシ樹脂を併用し、エポキシ樹脂組成物の総質量部がGであり、エポキシ当量がE
x(g/eq)のエポキシ樹脂XがW
x質量部配合されている場合のエポキシ樹脂組成物中の平均エポキシ当量は、以下の数式(1)によって算出することができる。(ここで、x=1、2、3、・・・、nである)
【0035】
(ii)エポキシ樹脂組成物のイミダゾール当量
エポキシ樹脂組成物の総質量部がGであり、イミダゾール環当量I[g/eq]のイミダゾール化合物をW質量部配合した場合のエポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環当量は、以下の数式(2)によって算出することができる。
【0037】
(iii)エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比
エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比は、以下の数式(3)によって上記(i)、(ii)の値を用いて算出することができる。
【0039】
(エポキシ樹脂組成物のエポキシ当量)
エポキシ樹脂組成物のエポキシ当量は250g/eq以上500g/eq以下である。250g/eq未満、または500g/eqより大きかった場合、硬化物の弾性率と撓みのバランスが悪くなり、該エポキシ樹脂組成物をマトリックス樹脂として用いた炭素繊維複合材料の強度が低下する。
【0040】
([C]成分の詳細)
本発明における[C]成分として用いられるイミダゾール化合物に関して、さらに詳しく説明する。
【0041】
本発明におけるイミダゾール化合物は性状を問わず、固形または液状のものを利用することができるが、特にエポキシ樹脂に溶解するイミダゾール化合物を好ましく用いることができる。エポキシ樹脂に溶解するイミダゾール化合物を用いた場合、エポキシ樹脂組成物のT(100)が低下し、プリプレグの速硬化性が向上する。また、エポキシ樹脂組成物が均一になるため樹脂硬化物の弾性率と撓みのバランスが良くなる。
【0042】
ここで、本発明において、イミダゾール化合物がエポキシ樹脂に溶解するか否かは、次の方法により判定することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物中のジシアンジアミドは非溶解性の潜在性硬化剤であるので、ジシアンジアミドを除外したエポキシ樹脂組成物を作製し、エポキシ樹脂組成物の性状を目視で確認し、得られたエポキシ樹脂組成物が透明であった場合を「溶解」、濁っている、ダマとなって残っている成分があるなど、不透明であった場合を「不溶」として判定する。
【0043】
本発明におけるイミダゾール化合物は、イミダゾール環の1位の水素が置換された化合物を、好ましく用いることができる。
【0044】
イミダゾール環の1位がベンジル基またはシアノエチル基で置換されたイミダゾール化合物を用いることはより好ましい。具体的には、次の一般式(I)として示される化合物において、R
1がベンジル基またはシアノエチル基であり、R
2、R
3およびR
4は各々独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又はフェニル基である化合物を好ましく用いることができる。
【0046】
イミダゾール環の1位がベンジル基またはシアノエチル基で置換されたイミダゾール化合物は液状で、エポキシ樹脂との溶解性に優れるものが多い。かかるイミダゾールの市販品としては、“キュアダクト”(登録商標)1B2MZ、1B2PZ、2MZ−CN、2E4MZ−CN、2PZ−CN(以上、四国化成工業(株))などが挙げられる。
【0047】
イミダゾール環の1位が置換された化合物として、下記一般式(II)に示したイミダゾール化合物とエポキシ化合物の反応により得られる付加物を用いることもまた好ましい。
【0049】
(式中、R
5、R
6、R
7およびR
8は各々独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又はフェニル基を示し、Yは単結合、アルキレン基、アルキリデン基、エーテル基又はスルホニル基を示す。)
かかる付加物の市販品としては、“キュアダクト”(登録商標)P−0505(四国化成工業(株))や、“JERキュア”(登録商標)P200H50(三菱化学(株))が挙げられる。
【0050】
また、イミダゾール環の1位が置換された化合物として、下記一般式(III)に示したイミダゾール化合物とイソシアネ−ト化合物の反応により得られる付加物を用いることもまた好ましい。
【0052】
(式中、R
9、R
10、R
11およびR
12は各々独立に、水素原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基又はフェニル基を示し、Zはアルキレン基又は芳香族炭化水素基である。)
かかる付加物の市販品としては、G−8009L(第一工業製薬(株))が挙げられる。
【0053】
かかる[C]成分の配合量は、[A]成分のエポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは0.5〜8質量部であり、より好ましくは1〜6質量部であり、さらに好ましくは1.5〜4質量部である。[C]成分をこの範囲で配合することにより、保管安定性と硬化速度のバランスに優れ、物性が良好な樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0054】
([D]成分)
本発明のエポキシ樹脂組成物には、[D]成分として、酸性化合物を添加することもできる。酸性化合物の添加は、エポキシ樹脂組成物のT(60)を増加させ、プリプレグの保管安定性を向上させるため好ましい。
【0055】
酸性化合物は、ブレンステッド酸、またはルイス酸を利用することができる。
【0056】
ブレンステッド酸としては、カルボン酸類を好ましく用いることができ、カルボン酸類とは、脂肪族ポリカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、および芳香族モノカルボン酸に分類され、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0057】
脂肪族モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデカン酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸およびオレイン酸、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0058】
脂肪族ポリカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ウンデンカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0059】
芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、ケイ皮酸、ナフトエ酸、トルイル酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0060】
芳香族ポリカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸およびピロメリット酸、およびこれらの誘導体などが挙げられる。
【0061】
これらの芳香族モノカルボン酸および芳香族ポリカルボン酸は、水酸基、ハロゲン、アルキル基、アリール基などで置換されていても良い。
【0062】
本発明において、ブレンステッド酸を酸性化合物として用いる際のpKaは4.3以下であることが好ましい。pKaが4.3以下のブレンステッド酸を用いることで、プリプレグにした時の保管安定性がより向上する。
【0063】
ブレンステッド酸のpKaは滴定によって測定可能であるが、芳香族カルボン酸であった場合、ハメット則によって概算することも可能である。
【0064】
pKaが4.3以下の芳香族カルボン酸として、安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、イソフタル酸、5−ヒドロキシ安息香酸、5−ニトロ安息香酸などを好ましく利用できる。
【0065】
ルイス酸としては、ホウ酸および/またはホウ酸エステルなどを用いることができる。
【0066】
ホウ酸および/またはホウ酸エステルとしては、ホウ酸、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリブチルボレート、トリn−オクチルボレート、トリ(トリエチレングリコールメチルエーテル)ホウ酸エステル、トリシクロヘキシルボレート、トリメンチルボレートなどのアルキルホウ酸エステル、トリo−クレジルボレート、トリm−クレジルボレート、トリp−クレジルボレート、トリフェニルボレートなどの芳香族ホウ酸エステル、トリ(1,3−ブタンジオール)ビボレート、トリ(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)ビボレート、トリオクチレングリコールジボレートなどが挙げられる。
【0067】
また、ホウ酸エステルとして、分子内に環状構造を有する環状ホウ酸エステルを用いることもできる。環状ホウ酸エステルとしては、トリス−o−フェニレンビスボレート、ビス−o−フェニレンピロボレート、ビス−2,3−ジメチルエチレンフェニレンピロボレート、ビス−2,2−ジメチルトリメチレンピロボレートなどが挙げられる。
【0068】
かかるホウ酸エステルを含む製品としては、たとえば、“キュアダクト”(登録商標)L−01B(四国化成工業(株))、“キュアダクト”(登録商標)L−07N(四国化成工業(株))がある。
【0069】
かかる[D]成分の配合量は、[A]成分のエポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは0.5〜8質量部であり、より好ましくは1〜6質量部であり、さらに好ましくは1.5〜4質量部である。[D]成分をこの範囲で配合することにより、保管安定性と硬化速度のバランスに優れ、物性が良好な樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物が得られる。
【0070】
([E]成分)
本発明のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を失わない範囲において、[E]成分として熱可塑性樹脂を配合することができる。熱可塑性樹脂は本発明に必須の成分ではないが、エポキシ樹脂組成物に配合することにより、粘弾性を制御したり、硬化物に靭性を付与したりすることができる。
【0071】
このような熱可塑性樹脂の例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、芳香族ビニル単量体・シアン化ビニル単量体・ゴム質重合体から選ばれる少なくとも2種類を構成成分とする重合体、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリーレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミドなどが挙げられる。芳香族ビニル単量体・シアン化ビニル単量体・ゴム質重合体から選ばれる少なくとも2種類を構成成分とする重合体の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)などが挙げられる。ポリスルホン、ポリイミドは、主鎖にエーテル結合や、アミド結合を有するものであってもよい。
【0072】
ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドンは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などの多くの種類のエポキシ樹脂と良好な相溶性を有し、エポキシ樹脂組成物の流動性制御の効果が大きい点で好ましく、ポリビニルホルマールが特に好ましい。これらの熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、“デンカブチラール”(登録商標)および“デンカホルマール”(登録商標)(電気化学工業(株)製)、“ビニレック”(登録商標)、JNC(株)製などがある。
【0073】
また、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミドの重合体は、樹脂そのものが耐熱性に優れる。そして、耐熱性が要求される用途、例えば、航空機の構造部材などでよく用いられるエポキシ樹脂である、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂と適度な相溶性を有する樹脂骨格をもつ重合体である。そして、これを使用するとエポキシ樹脂組成物の流動性制御の効果が大きいほか、繊維強化樹脂複合材料の耐衝撃性を高める効果があるため好ましい。このような重合体の例としては、ポリスルホンでは“レーデル”(登録商標)(ソルベイアドバンスドポリマーズ社製)A、“スミカエクセル”(登録商標)PES(住友化学(株)製)など、ポリイミドでは“ウルテム”(登録商標)(ジーイープラスチックス社製)、“Matrimid”(登録商標)5218(ハンツマン社製)などが挙げられる。
【0074】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、熱可塑性樹脂は、エポキシ樹脂100質量部に対して、1〜60質量部含まれることが好ましい。
【0075】
(無機粒子の配合)
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、熱硬化性樹脂粒子、または、カーボンブラック、カーボン粒子や金属めっき有機粒子等の導電性粒子、あるいはシリカゲル、クレー等の無機フィラーを配合することができる。これらの添加には、エポキシ樹脂組成物の粘度を高め、樹脂フローを小さくする粘度調整効果、樹脂硬化物の弾性率、耐熱性を向上させる効果、耐摩耗性を向上させる効果がある。
【0076】
(エポキシ樹脂組成物の作製方法)
本発明のエポキシ樹脂組成物の作製には、例えばニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機といった機械を用いて混練しても良いし、均一な混練が可能であれば、ビーカーとスパチュラなどを用い、手で混ぜても良い。
【0077】
(繊維強化複合材料)
次に、繊維強化複合材料について説明する。本発明のエポキシ樹脂組成物を、強化繊維と複合一体化した後、硬化させることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物をマトリックス樹脂として含む繊維強化複合材料を得ることができる。
【0078】
本発明に用いられる強化繊維は特に限定されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などが用いられる。これらの繊維を2種以上混合して用いても構わない。この中で、軽量かつ高剛性な繊維強化複合材料が得られる炭素繊維を用いることが好ましい。
【0079】
(プリプレグ)
繊維強化複合材料を得るにあたり、あらかじめエポキシ樹脂組成物と強化繊維からなるプリプレグとしておくことは、保管が容易となる上、取り扱い性に優れるため好ましいものである。プリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させて得ることができる。含浸させる方法としては、ホットメルト法(ドライ法)などを挙げることができる。
【0080】
ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、または離型紙などの上にエポキシ樹脂組成物をコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側または片側から前記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。
【0081】
プリプレグ積層成形法において、熱および圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法などを適宜使用することができる。
【0082】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物と、強化繊維を含む繊維強化複合材料は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。より具体的には、スポーツ用途では、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット、ホッケーなどのスティック、およびスキーポールなどに好ましく用いられる。さらに一般産業用途では、自動車、自転車、船舶および鉄道車両などの移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、および補修補強材料などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
ここで、実施例1〜8が本発明の実施例であり、実施例9,10は参考実施例である。
【0084】
本実施例で用いる構成要素は以下の通りである。
【0085】
<使用した材料>
・エポキシ樹脂[A]
[A]−1 “jER”(登録商標)828(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:189、三菱化学(株)製)
[A]−2 “jER”(登録商標)1007(固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:1925、三菱化学(株)製)
[A]−3 “HP”(登録商標)7200H(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:279、DIC(株)製)。
【0086】
・ジシアンジアミド[B]
[B]−1 DICY7(ジシアンジアミド、三菱化学(株)製)。
【0087】
・イミダゾール化合物[C]
[C]−1 “キュアゾール”(登録商標)1B2MZ(イミダゾール環当量:172、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、一般式(I)において、R
1がベンジル基、R
2がメチル基、R
3およびR
4が水素原子である化合物、四国化成工業(株)製)
[C]−2 G−8009L(イミダゾール環当量:195、一般式
(III)において、R
9およびR
11がエチル基、R
10およびR
12がメチル基、
Zがヘキサメチレン基である化合物、第一工業製薬(株)製)
[C]−3 “キュアダクト”(登録商標)P−0505(イミダゾール環当量:280、一般式
(II)において、R
5およびR
7がエチル基、R
6およびR
8がメチル基、
Yがイソプロピリデン基である化合物、四国化成工業(株)製)
[C]−4 “キュアゾール”(登録商標)2PZ(イミダゾール環当量:144、2−フェニルイミダゾール、四国化成工業(株)製)
[C]−5 “キュアゾール”(登録商標)2E4MZ(イミダゾール環当量:110、2−エチル−4−メチルイミダゾール、四国化成工業(株)製)。
【0088】
・イミダゾール化合物以外の硬化促進剤[C’]
[C’]−1 DCMU99(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、保土ヶ谷化学工業(株)製)
[C’]−2 “Omicure”(登録商標)24(4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア、ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)。
【0089】
・酸性化合物[D]
[D]−1 p−ニトロ安息香酸(pka:3.4、東京化成工業(株)製)
[D]−2 安息香酸(pka:4.2、東京化成工業(株)製)
[D]−3 p−メトキシ安息香酸(pka:4.5、東京化成工業(株)製)
[D]−4 酢酸(pka:4.8、東京化成工業(株)製)
[D]−5 “キュアダクト”(登録商標)L−07N(酸性化合物としてホウ酸エステル化合物を5質量部含む組成物、四国化成工業(株)製)。
【0090】
・熱可塑性樹脂[E]
[E]−1 ”ビニレック“(登録商標)K(ポリビニルホルマール、JNC(株)製)。
【0091】
<エポキシ樹脂組成物の作製方法>
(1)硬化促進剤マスター、硬化剤マスターの作製方法
液状樹脂である[A]−1(jER828)10質量部(エポキシ樹脂[A]100質量部のうちの10質量部)に対し、イミダゾール化合物[C]または硬化促進剤[C’]、および、酸性化合物[D]を含む場合は[D]を添加し、ニーダーを用いて室温で混練した。三本ロールを用いて混合物をロール間に2回通し、硬化促進剤マスターを作製した。硬化促進剤マスターにジシアンジアミド[B]を添加し、ニーダーを用いて室温で混練した後、三本ロールを用いてロール間に2回通し、硬化剤マスターを作製した。
【0092】
(2)エポキシ樹脂組成物の作製方法
ニーダー中に、エポキシ樹脂[A]のうち前記(1)で使用した[A]−1(jER828)10質量部を除くエポキシ樹脂[A]90質量部および熱可塑性樹脂[E]を投入し、混練しながら150℃まで昇温し、150℃において1時間混練することで、透明な粘調液を得た。粘調液を60℃まで混練しながら降温させた後、前記(1)で作製した硬化剤マスターを配合し、60℃において30分間混練することにより、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0093】
各実施例および比較例の成分配合比について表1および2に示した。
【0094】
<樹脂組成物特性の評価方法>
(1)T(100)
エポキシ樹脂組成物3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q−2000:TAインスツルメント社製)を用い、30℃から100℃/分で100℃まで昇温した後に3時間の等温測定を行った。昇温開始時刻から42秒後を等温測定開始時刻とし、等温測定開始時刻から熱流量が発熱ピークトップに至るまでの時間を測定し、100℃の等温測定時のピークトップまでの時間として取得した。測定は1つの水準あたり3サンプルずつ行い、その平均値を採用した。以後、本測定で得られた平均値をT(100)と表記する。
【0095】
(2)T(60)
エポキシ樹脂組成物3mgをサンプルパンに量り取り、示差走査熱量分析計(Q−2000:TAインスツルメント社製)を用い、30℃から100℃/分で60℃まで昇温した後に30時間の等温測定を行った。昇温開始時刻から18秒後を等温測定開始時刻とし、等温測定開始時刻から熱流量が発熱ピークトップに至るまでの時間を測定し、60℃の等温測定時のピークトップまでの時間として取得した。測定は1つの水準あたり3サンプルずつ行い、その平均値を採用した。以後、本測定で得られた平均値をT(60)と表記する。なお、30時間たってもピークトップが現れなかった場合は、T(60)の値は30以上とした。
【0096】
(3)イミダゾール環数に対するエポキシ基数の比の算出法
(i)エポキシ樹脂組成物の平均エポキシ当量の算出法
n種類のエポキシ樹脂を併用し、エポキシ樹脂組成物の総質量部がGであり、エポキシ当量がE
x(g/eq)のエポキシ樹脂XがW
x質量部配合されている場合のエポキシ樹脂組成物の平均エポキシ当量は、以下の式(1)によって算出した。(ここで、x=1、2、3、・・・、nである)
【0097】
【数4】
【0098】
(ii)エポキシ樹脂組成物のイミダゾール環当量の算出法
イミダゾール環当量I[g/eq]のイミダゾール化合物をW質量部配合した場合のエポキシ樹脂組成物のイミダゾール環当量は、以下の式(2)によって算出した。
【0099】
【数5】
【0100】
(iii)エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比の算出法
エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比は、以下の式(3)によって上記(i)、(ii)の値を用いて算出した。
【0101】
【数6】
【0102】
(4)エポキシ樹脂に対するイミダゾールの溶解性の評価方法
エポキシ樹脂組成物中のジシアンジアミドは非溶解性の潜在性硬化剤であるので、ジシアンジアミドを除外したエポキシ樹脂組成物を作製し、イミダゾールの溶解性を確認した。具体的には、液状樹脂である[A]−1(jER828)10質量部(エポキシ樹脂[A]100質量部のうちの10質量部)に対し、イミダゾール化合物[C]または硬化促進剤[C’]、および、酸性化合物[D]を含む場合は[D]を添加し、ニーダーを用いて室温で混練した。混合物を三本ロールを用いロール間を2回通し、硬化促進剤マスターを作製した。ニーダー中に、エポキシ樹脂[A]のうち先に使用した[A]−1(jER828)10質量部を除くエポキシ樹脂[A]合計90質量部および熱可塑性樹脂[E]を投入し、混練しながら150℃まで昇温し、150℃において1時間混練することで、透明な粘調液を得た。粘調液を60℃まで混練しながら降温させた後、硬化促進剤マスターを配合し、60℃において30分間混練することにより得られたエポキシ樹脂組成物の性状を目視で確認した。
【0103】
得られたエポキシ樹脂組成物が透明であった場合を「溶解」として判定し、濁っている、ダマとなって残っている成分があるなど、不透明であった場合を「不溶」として判定した。
【0104】
<樹脂硬化物の作製方法と評価方法>
(1)樹脂硬化物の弾性率と撓み
エポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、2mm厚の“テフロン”(登録商標)製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で、130℃の温度で90分間硬化させ、厚さ2mmの板状の樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物から、幅10mm、長さ60mmの試験片を切り出し、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、スパンを32mm、クロスヘッドスピードを100mm/分とし、JIS K7171(1994)に従って3点曲げを実施し、弾性率および撓みを測定した。サンプル数n=5で測定した値の平均値を弾性率と撓みの値とした。
【0105】
<プリプレグの作製方法と評価方法>
(1)プリプレグの作製方法
上記<エポキシ樹脂組成物の作製方法>に従い作製したエポキシ樹脂組成物を、フィルムコーターを用いて離型紙上に塗布し、目付が74g/m2の樹脂フィルムを作製した。
【0106】
この樹脂フィルムをプリプレグ化装置にセットし、一方向に引き揃えたシート状にした炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700S(東レ(株)製、目付150g/m2)の両面から加熱加圧含浸し、樹脂含有率33質量%のプリプレグを得た。
【0107】
(2)プリプレグの速硬化性の評価方法
プリプレグの速硬化性は、プリプレグを20cm四方に切り取り、厚さ150μmの“テフロン”(登録商標)シートで挟み込み、150℃でプレスした後に、取り出した時の取り扱い性によって判定した。取り扱い性は以下の基準で判定し、AおよびBを合格とした。
A:3分後に取り出した時にプリプレグが変形しなかった。
B:3分後に取り出した時はプリプレグが変形したが、5分後に取り出した時は変形しなかった。
C:硬化速度が不十分で5分後に取り出した場合にプリプレグが変形した。
【0108】
(3)プリプレグの保管安定性の評価方法
プリプレグの保管安定性は、プリプレグを10cm四方に切り取り、室温で100日放置した場合のガラス転移温度の増加量によって判定した。ガラス転移温度は、保管後のプリプレグ8mgをサンプルパンに測り取り、示差走査熱量分析計(Q−2000:TAインスツルメント社製)を用い、−50℃から50℃まで10℃/分で昇温して測定した。得られた発熱カーブの変曲点の中点をTgとして取得した。
【0109】
<炭素繊維複合材料(CFRP)の評価方法>
(1)CFRPの一方向積層板の作製方法
CFRPの特性評価に用いる一方向積層板は、次の方法によって作製した。上記<プリプレグの作製方法>に従って作製した一方向プリプレグの繊維方向を揃え、13ply積層した。積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、これをオートクレーブ中で130℃、内圧0.3MPaで2時間加熱加圧して硬化し、一方向積層板を作製した。
【0110】
(2)CFRPの0°曲げ強度の評価方法
上記に従い作製した一方向積層板を、厚み2mm、幅15mm、長さ100mmとなるように切り出した。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いJIS K7074(1988)に従って3点曲げを実施した。スパンを80mm、クロスヘッドスピードを5.0mm/分、厚子径10mm、支点径4.0mmで測定を行い、0°曲げ強度を測定した。サンプル数n=6で測定した値の平均値を0°曲げ強度の値とした。
【0111】
(3)CFRPの90°曲げ強度の測定方法
上記に従い作製した一方向積層板を、厚み2mm、幅15mm、長さ60mmとなるように切り出した。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いJIS K7074(1988)に従って3点曲げを実施した。スパンを40mm、クロスヘッドスピードを1.0mm/分、厚子径10mm、支点径4.0mmで測定を行い、90°曲げ強度を測定した。サンプル数n=6で測定した値の平均値を90°曲げ強度の値とした。
【0112】
(実施例1)
[A]エポキシ樹脂として“jER”(登録商標)828を40質量部、“jER”(登録商標)1007を30質量部、HP7200Hを30質量部、硬化剤として[B]ジシアンジアミドに該当するDICY7を4.0質量部、および硬化促進剤として[C]イミダゾール化合物に該当する“キュアゾール”(登録商標)1B2MZを2.2質量部、[D]酸性化合物としてp−ニトロ安息香酸を3.0質量部、[E]熱可塑樹脂として“ビニレック”(登録商標)Kを2.0質量部用い、上記<エポキシ樹脂組成物の作製方法>に従ってエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0113】
このエポキシ樹脂組成物について、T(100)およびT(60)を測定したところ、T(100)は24分、T(60)は30時間以上であった。
【0114】
また、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比は26であった。また、イミダゾールはエポキシ樹脂に溶解していた。
【0115】
また、エポキシ樹脂組成物を<樹脂硬化物の作製方法と評価方法>に記載の方法で硬化して樹脂硬化物を作製し、同記載の3点曲げ試験を行った結果、弾性率は3.5GPa、撓みは7.3mmと、樹脂硬化物の力学特性も良好であった。
【0116】
さらに、エポキシ樹脂組成物から、<プリプレグの作製方法と評価方法>に記載の方法でプリプレグを作製した。得られたプリプレグは十分なタック性・ドレープ性を有していた。得られたプリプレグに関し、<プリプレグの作製方法と評価方法>に記載の方法で速硬化性と保管安定性の評価を行ったところ、150℃において3分以内にプリプレグは変形しなくなる程度まで硬化し、また、25℃において100日間保管後にTgは増加しておらず、プリプレグは十分な速硬化性と保管安定性を有していた。
【0117】
<炭素繊維複合材料(CFRP)の評価方法>に記載の方法でプリプレグを積層・硬化して一方向積層板を作製し、3点曲げ試験を行った結果、0°曲げ強度は1498MPa、90°曲げ強度は111MPaと、CFRPの力学特性も良好であった。 (実施例2〜10)
樹脂組成をそれぞれ表1に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、樹脂硬化物、およびプリプレグを作製した。得られたプリプレグは、実施例1と同様、いずれも十分なタック性・ドレープ性を示した。
【0118】
各実施例のエポキシ樹脂組成物に関して、T(100)、T(60)、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比は表1に記載の通りであった。
【0119】
プリプレグの速硬化性と保管安定性について、実施例1と同様の評価を行った結果、全ての水準において十分な速硬化性と保管安定性を示した。
【0120】
また、樹脂硬化物の弾性率と撓みの値は、いずれも良好であり、CFRPの力学特性も良好であった。。
【0121】
(比較例1)
硬化促進剤をDCMU99(3.0質量部)に変更し、酸性化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。プリプレグの保管安定性および硬化物特性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物のT(100)の値が40分と25分より長く、得られたプリプレグの速硬化性が不十分であった。
【0122】
(比較例2)
硬化促進剤を“Omicure”(登録商標)24(3.0質量部)に変更し、酸性化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。プリプレグの速硬化性および樹脂硬化物特性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物のT(60)の値が10時間と15時間未満であり、プリプレグの保管安定性は不十分であった。
【0123】
(比較例3)
p−ニトロ安息香酸の部数を0.5質量部に変えた以外は実施例2と同じ組成で、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。プリプレグの速硬化性および硬化物特性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物のT(60)の値が13時間と15時間未満であり、プリプレグの保管安定性は不十分であった。
【0124】
(比較例4)
G−8009Lの部数を0.7質量部に、p−ニトロ安息香酸の部数を1.0質量部に変えた以外は実施例4と同じ組成で、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。プリプレグの保管安定性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物のT(100)の値が38分と25分より長く、得られたプリプレグの速硬化性が不十分であった。また、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比が93と90より大きく、樹脂硬化物の弾性率と撓みのバランスが悪化した。また、CFRPの90°曲げ強度は84MPaと低いものであった。
【0125】
(比較例5)
“キュアダクト”(登録商標)P−0505の部数を4.5質量部に、“キュアダクト”(登録商標)L−07Nの部数を3.0質量部に変えた以外は実施例8と同じ組成で、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。プリプレグの保管安定性および速硬化性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物中のイミダゾール環数に対するエポキシ基数の比が21と25未満であり、得られた樹脂硬化物の弾性率と撓みのバランスが悪化した。また、CFRPの90°曲げ強度は83MPaと低いものであった。
【0126】
(比較例6)
硬化促進剤を“キュアゾール”(登録商標)2E4MZ(1.2質量部)に変更し、酸性化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。樹脂組成および評価結果は表2に示した。プリプレグの速硬化性および樹脂硬化物特性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物のT(60)の値が4時間と15時間未満であり、プリプレグの保管安定性は不十分であった。
【0127】
(比較例7)
樹脂組成をそれぞれ表2に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。評価結果は表2に示した。プリプレグの保管安定性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物のT(100)の値が40分と25分より長く、得られたプリプレグの速硬化性が不十分であった。また、得られた樹脂硬化物の弾性率と撓みのバランスが悪化した。また、CFRPの0°曲げ強度は1385MPaと低いものであった。
【0128】
(比較例8)
樹脂組成をそれぞれ表2に示したように変更した以外は、実施例1と同じ方法でエポキシ樹脂組成物、プリプレグ、および樹脂硬化物を作製した。評価結果は表2に示した。プリプレグの保管安定性および速硬化性は良好であったが、エポキシ樹脂組成物の平均エポキシ当量が232g/eqと250g/eq未満であり、得られた樹脂硬化物の弾性率と撓みのバランスが悪化した。また、CFRPの0°曲げ強度は1468MPa、CFRPの90°曲げ強度は99MPaと低いものであった。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】