特許第6547503号(P6547503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セントラル硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6547503
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】気体分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/62 20060101AFI20190711BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20190711BHJP
   C08G 73/06 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   B01D71/62
   B01D53/22
   C08G73/06
【請求項の数】13
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-154517(P2015-154517)
(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公開番号】特開2016-59919(P2016-59919A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2018年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-185992(P2014-185992)
(32)【優先日】2014年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152593
【弁理士】
【氏名又は名称】楊井 清志
(72)【発明者】
【氏名】魚山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】情野 真
(72)【発明者】
【氏名】山中 一広
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−128787(JP,A)
【文献】 特開2009−128445(JP,A)
【文献】 特開2014−128788(JP,A)
【文献】 特開2007−119503(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/095678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
C08G 73/00 − 73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式中、Rは単結合又はメチレン鎖であり、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは、以下の式(2)〜(5)で表される、いずれかの2価の有機基である。)
【化2】
で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含み、
且つ、その高分子化合物は、ヘキサフルオロイソプロパノール基の個数が下記の含フッ素複素環構造(A)の総個数に対して、20%以下である、
【化3】
気体分離膜。
【請求項2】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が、その高分子化合物に対する一般式(1)で表される繰り返し単位の含有率が90質量%以上である高分子化合物である、請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が、一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなる高分子化合物である、請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項4】
一般式(1)中、Rはメチレン鎖であり、Rは水素原子であり、2価の有機基Rが、
式(2):
【化4】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項5】
一般式(1)中、R1はメチレン鎖であり、Rは水素原子であり、2価の有機基Rが、
式(3):
【化5】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項6】
一般式(1)中、Rはメチレン鎖であり、Rは水素原子であり、2価の有機基Rが、
式(4):
【化6】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項7】
一般式(1)中、Rはメチレン鎖であり、Rは水素原子であり、2価の有機基Rが、
式(5):
【化7】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項8】
一般式(1)中、Rは単結合であり、Rはメチル基であり、2価の有機基Rが、
式(2):
【化8】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項9】
一般式(1)中、Rは単結合であり、Rはメチル基であり、2価の有機基Rが、
式(3):
【化9】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項10】
一般式(1)中、Rは単結合であり、Rはメチル基であり、2価の有機基Rが、
式(4):
【化10】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項11】
一般式(1)中、Rは単結合であり、Rはメチル基であり、2価の有機基Rが、
式(5):
【化11】
で表される基である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の気体分離膜。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11に記載の気体分離膜を用いて少なくとも二酸化炭素を含む気体から二酸化炭素を分離する、気体の分離方法。
【請求項13】
少なくとも炭化水素と二酸化炭素を含む気体から二酸化炭素を分離する、請求項12に記載の気体の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜に関する。特に、二酸化炭素の分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素を他の気体(以下、「ガス」と呼ぶことがある。)から効率的且つ経済的に分離回収する技術の需要が高まっている。
【0003】
例えば、天然ガスの採掘やバイオマスで得られるメタンガスを燃料として利用するためには、これらのガスから二酸化炭素を分離してメタンガスを濃縮する必要がある。また、地球温暖化対策として、化石燃料の燃焼により排出される二酸化炭素を分離回収し、地中に貯蔵する検討がなされている(非特許文献1)。
【0004】
二酸化炭素を分離回収する技術には、化学吸着法、物理吸着法、吸着剤による分離法などが存在する。中でも、膜分離法は、低環境負荷、低コストが実現可能な技術として注目されている。
【0005】
膜分離法は、膜を隔てる気体間の圧力差を利用して気体が高分子膜を透過していく際に生じる「膜表面への気体分子の溶解性」及び「膜中で凝集している高分子鎖の隙間おける気体分子の拡散性」の違いにより2種類以上の混合気体を分離する技術であり、気体の分離に用いられる高分子膜が気体分離膜である。
【0006】
気体分離膜の材料としては、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリイミドといった高分子材料が知られている。しかし、上記高分子材料を用いた気体分離膜は気体の透過性が低いため、膜分離法は二酸化炭素の分離回収技術として普及するには至っておらず、気体透過性に優れた分離効率のよい高分子材料を創製する研究が盛んに行われている。
【0007】
例えば、気体の透過性を向上させる方法として、高分子材料の化学構造中にフッ素原子を導入すること有効であることが明らかにされている。非特許文献2には、ポリイミドにフッ素原子を導入することで気体の通り道の割合を示す自由体積分率が高くなり、気体の透過性が向上することが記載されている。
【0008】
一方、非特許文献3には、アミン等の塩基性窒素は二酸化炭素との親和性が高く、高分子中に塩基性窒素官能基を導入することで二酸化炭素の透過性と選択性が向上することが記載されている。非特許文献4には、塩基性窒素原子を有するポリピリジンエステルと塩基性窒素をメチル基で保護して塩基性原子の効果をなくしたポリピリジンエステルの気体透過性を比較し、塩基性窒素を有するポリピリジンエステルの方が二酸化炭素の透過性と選択性が優れていることが記載されている。
【0009】
フッ素原子と塩基性窒素原子の両方を含む気体分離膜は極めて稀であるが、特許文献1、特許文献2、特許文献3には、その両方の原子を含む高分子化合物を用いた気体分離膜が記載されている。上記高分子化合物は、ヘキサフルオロイソプロパノール基(−C(CF32OH、以下、HFIP基と省略する)を有するポリイミド骨格と塩基性窒素原子を有する含フッ素複素環骨格からなる共重合体である。
【0010】
今後、二酸化炭素の分離回収技術として気体分離膜が産業用途に幅広く使われるためには、他の分離技術より効率性、経済性に秀でる二酸化炭素の透過性に優れ、選択性のよい気体分離膜が必要であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−010096号公報
【特許文献2】特開2014−128787号公報
【特許文献3】特開2014−128788号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】東レリサーチセンター調査研究部発行'ガスバリア・ガス分離技術株式会社'pp307、2011年
【非特許文献2】S.A.Stern,Journal of Membrane Science,Vol,94,1−65,1994
【非特許文献3】東レリサーチセンター調査研究部発行'ガスバリア・ガス分離技術株式会社'pp312−314、2011年
【非特許文献4】H.R.Kricheldorf,P.Jahnke,N.Scharnagl,Macrolecules,vol.25,pp1382−1386,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、気体の透過係数が高く、分離操作における単位時間当たりの気体処理量に優れる気体分離膜を提供することを目的とする。特に、二酸化炭素の透過係数の高い気体分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む気体分離膜に想到した。HFIP基などのプロトン性酸性基を実質的に有しない当該気体分離膜は、気体の透過性を向上させ、特に二酸化炭素の透過係数が高く、前記課題を解決するに至った。
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、R1は単結合またはメチレン鎖であり、R2は水素原子またはメチル基であり、R3は2価の有機基である。)
本発明の気体分離膜は、具体的には、以下の一般式(1A)
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、R1は単結合またはメチレン鎖であり、R2は水素原子またはメチル基であり、R3は2価の有機基である)
で表される繰り返し単位を含むポリアミドからなる前駆体(以下、前駆体ポリアミド(1A)と呼ぶことがある)を重合により調製し、
次いで加熱することで前駆体ポリアミド(1A)を環化し、
一般式(1):
【0019】
【化3】
【0020】
で表される繰り返し単位を有する高分子化合物(以下、高分子化合物(1)と呼ぶことがある)を使用するものである。
【0021】
本発明者らは、前駆体ポリアミド(1A)のように、高分子化合物の構造中に塩基性の窒素原子と酸性のHFIP基の構造の両方が存在する場合においては、プロトン性酸性基であるHFIP基中のヒドロキシ部位の酸性水素原子が塩基性窒素原子と相互作用して窒素原子の塩基性が失われることで、窒素原子の二酸化炭素に対する親和性が十分に生かされず、二酸化炭素の高い透過性が得られ難くなっていると推察した。
【0022】
本発明者らは、前駆体ポリアミド(1A)中のHFIP基を環化反応させて、HFIP基のヒドロキシ基をなくした高分子化合物(1)は、複素環構造中の塩基性窒素原子とトリフルオロメチル基が有するそれぞれの効果が発現することによって気体透過性が顕著に向上し、混合気体から二酸化炭素を分離する際に単位時間当たりの気体処理量に優れた気体分離膜として機能することを見出した。
【0023】
本発明は、以下の発明1〜13を含む。
[発明1]
一般式(1):
【0024】
【化4】
【0025】
(式中、R1は単結合又はメチレン鎖であり、R2は水素原子又はメチル基であり、R3は2価の有機基である。)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含み、
且つ、その高分子化合物は、ヘキサフルオロイソプロパノール基の個数が下記の含フッ素複素環構造(A)の総個数に対して20%以下である、
【0026】
【化5】
【0027】
気体分離膜。
[発明2]
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が、その高分子化合物に対する一般式(1)で表される繰り返し単位の含有率が90質量%以上である高分子化合物である、発明1の気体分離膜。
[発明3]
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が、一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなる高分子化合物である、発明1の気体分離膜。
[発明4]
前記一般式(1)中、R1はメチレン鎖であり、R2は水素原子であり、2価の有機基R3が、
式(2):
【0028】
【化6】
【0029】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明5]
前記一般式(1)中、R1はメチレン鎖であり、R2は水素原子であり、2価の有機基R3が、
式(3):
【0030】
【化7】
【0031】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明6]
前記一般式(1)中、R1はメチレン鎖であり、R2は水素原子であり、2価の有機基R3が、
式(4):
【0032】
【化8】
【0033】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明7]
前記一般式(1)中、R1はメチレン鎖であり、R2は水素原子であり、2価の有機基R3が、
式(5):
【0034】
【化9】
【0035】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明8]
前記一般式(1)中、R1は単結合であり、R2はメチル基であり、2価の有機基R3
が、
式(2):
【0036】
【化10】
【0037】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明9]
前記一般式(1)中、R1は単結合であり、R2はメチル基であり、2価の有機基R3が、
式(3):
【0038】
【化11】
【0039】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明10]
前記一般式(1)中、R1は単結合であり、R2はメチル基であり、2価の有機基R3が、
式(4):
【0040】
【化12】
【0041】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明11]
前記一般式(1)中、R1は単結合であり、R2はメチル基であり、2価の有機基R3が、
式(4):
【0042】
【化13】
【0043】
で表される基である、発明1〜3の気体分離膜。
[発明12]
発明1〜11の気体分離膜を用いて少なくとも二酸化炭素を含む気体から二酸化炭素を分離する、気体の分離方法。
[発明13]
少なくとも炭化水素と二酸化炭素を含む気体から二酸化炭素を分離する、発明12の気体の分離方法。
【発明の効果】
【0044】
本発明の気体分離膜は、従来の気体分離膜と同等の二酸化炭素の選択性を有しつつ、従来の気体分離膜よりも顕著に気体の透過性に優れる。特に、二酸化炭素を含む混合ガスからの二酸化炭素の分離操作における単位時間当たりの気体処理量が多いという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の気体分離膜が含む、一般式(1)
【0046】
【化14】
【0047】
(式中、R1は単結合又はメチレン鎖であり、R2は水素原子又はメチル基であり、R3は2価の有機基である)
で表される繰り返し単位中に含まれる、含フッ素複素環構造(A)
【0048】
【化15】
【0049】
が高分子化合物中に存在した場合、気体の通り道となる自由体積の割合を大きくすることで気体の拡散性を向上させる効果があるトリフルオロメチル基と、二酸化炭素との親和性において優れた塩基性窒素原子を共に含むことになる。この場合、前駆体ポリイミド(1A)のようにプロトン性酸性基であるHFIP基が存在するのと異なり、複素環構造中の窒素原子は塩基性を失わないことから、本発明の気体分離膜は、二酸化炭素に対する透過性が優れると推測された。
【0050】
本発明の気体分離膜に用いる一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物は、原料化合物としてHFIP基を有するジアミンとジカルボン酸誘導体を重合してHFIP基を有する前駆体ポリアミドを含む溶液に調製した後に加熱し含フッ素複素環構造を形成させることで製造される。
【0051】
本発明の気体分離膜が含む高分子化合物において、その高分子化合物が含む含フッ素複素環構造(A)の総個数に対してプロトン性酸性基であるHFIP基の個数が20%以下であり、好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下であり、HFIP基を含まないものが最も好ましい。しかしながら、本発明の気体分離膜が含む一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物の合成において、加熱することで前駆体ポリアミド(1A)を環化しHFIP基を有しない一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を得る際の環化反応には、一部未環化の構造が残ることがあってもよい。
【0052】
尚、上記のプロトン性酸性基としては、HFIP基の他に、フェノール基、カルボキシル基なども例示することができる。
1.HFIP基を有するジアミン
本発明の気体分離膜に用いる高分子化合物(含フッ素複素環高分子化合物)を合成する際に用いられる単量体化合物であるHFIP基を有するジアミンは、以下の一般式(1B)で表される。
【0053】
【化16】
【0054】
式中、R1は単結合又はメチレン鎖であり、R2は水素原子又はメチル基である。
【0055】
一般式(1B)で表されるジアミンとしては、例えば、以下の式(5)および式(6)で表されるジアミンを例示することができる。以下、式(5)で表されるジアミンをHFIP−MDA、式(6)で表されるジアミンをHFIP−mTBと呼ぶことがある。HFIP−MDAとHFIP−mTBは各々単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0056】
【化17】
【0057】
【化18】
【0058】
2.ジカルボン酸誘導体
本発明の気体分離膜に用いる一般式(1)で表される高分子化合物(含フッ素複素環高分子化合物)を合成するための原料化合物としてのジカルボン酸誘導体を以下の一般式(7)および一般式(8)に示す。
[一般式(7)で表されるジカルボン酸誘導体]
【0059】
【化19】
【0060】
式中、R3は、2価の有機基である。好ましくは、脂肪族炭化水素基、脂環または芳香環を有する2価の有機基であり、構造中に窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでもよく、水素原子の一部がフッ原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルキル基、フルオロアルキル基またはシアノ基で置換されていてもよい。Aは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、または炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。
[一般式(8)で表されるジカルボン酸誘導体]
【0061】
【化20】
【0062】
式中、R4は2価の有機基である。好ましくは、脂肪族炭化水素基、脂環または芳香環を有する2価の有機基であり、構造中に窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含んでもよく、水素原子の一部がフッ原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アルキル基、フルオロアルキル基またはシアノ基で置換されていてもよい。Xは、フッ原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0063】
本発明の気体分離膜に用いる一般式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物(含フッ素複素環高分子化合物)を合成するために一般式(7)または一般式(8)で表されるジカルボン酸誘導体を用いることができる。
【0064】
これらジカルボン酸誘導体を原料のジカルボン酸で具体的に示せば、脂肪族ジカルボン酸としてのシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸またはセバシン酸、芳香族ジカルボン酸としてのフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、3,3'−ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,4−ジカルボキシルジフェニルエーテル、4,4'−ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,3'−ジカルボキシルジフェニルメタン、3,4−ジカルボキシルジフェニルメタン、4,4'−ジカルボキシルジフェニルメタン、3,3'−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,4−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、4,4'−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,3'−ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,4−ジカルボキシルジフェニルスルホン、4,4'−ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,3'−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,4−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、4,4'−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,3'−ジカルボキシルジフェニルケトン、3,4−ジカルボキシルジフェニルケトン、4,4'−ジカルボキシルジフェニルケトン、3,3'−ジカルボキシルジフェニルメタン、3,4−ジカルボキシルジフェニルメタン、4,4'−ジカルボキシルジフェニルメタン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4'−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,4'−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−カルボキシフェノキシ)ベンゼン、3,3'−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、3,4'−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、4,4'−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、2,2−ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、2,2−ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、2,2−ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホンまたは2,2−ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホン、パーフルオロノネニルオキシ基含有ジカルボン酸としての4−(パーフルオロノネニルオキシ)フタル酸、5−(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸、2−(パーフルオロノネニルオキシ)テレフタル酸または4−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸、パーフルオロヘキセニルオキシ基含有ジカルボン酸としての4−(パーフルオロヘキセニルオキシ)フタル酸、5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸、2−(パーフルオロヘキセニルオキシ)テレフタル酸または4−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸を例示することができる。これらのジカルボン酸誘導体は、単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0065】
ジアミンとの反応性から、酸ジクロライドが好ましく、入手の容易性からイソフタル酸ジクロリド、テフタル酸クロリド、4,4'−ビフェニルカルボニルクロリド、および4,4'−ジカルボキシルジフェニルエーテルが特に好ましい。
3.ポリアミド前駆体の合成
本発明の気体分離膜に用いる一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物(含フッ素複素環高分子化合物)は、前記式(1B)で表されるHFIP基を有するジアミンと、一般式(7)、(8)で表されるジカルボン酸誘導体を縮重合させて得られた前駆体ポリアミドを脱水環化することで合成できる。例えば、前記式(5)、(6)で表されるHFIP基を有するジアミンと、一般式(7)、(8)で表されるジカルボン酸誘導体を縮重合させて得られた前駆体ポリアミドを脱水環化することで合成できる。
【0066】
気体分離膜を作製する際の有機溶剤溶解性、成形性、あるいは、気体分離膜として用いる際の強度、耐候性、および耐腐食性等を向上させるために、本発明の高分子化合物は、高分子化合物全量に対して、一般式(1)に属していない繰り返し単位を含んでもよいが、単位時間あたりの気体透過量を上げるという観点では、一般式(1)で表される繰り返し単位の含有率が90質量%以上となる範囲が好ましい。
【0067】
本発明の気体分離膜が含む高分子化合物に一般式(1)に属していない繰り返し単位を導入するために、一般式(1B)に属していないジアミン化合物(以下、他のジアミン化合物と呼ぶことがある)を併用してもよく、本発明の好ましい態様の一つである。使用量としては、使用するジアミン化合物の全量に対して10質量%未満である。他のジアミン化合物の割合が10質量%以上である場合は、二酸化炭素の透過性または選択性の著しい低下が生じる虞がある。実質的に一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなる高分子化合物は、二酸化炭素の分離を好適に行うことができるため、必要な場合を除いては、他のジアミンを使用しないことも可能である。他のジアミン化合物としては、プロトン性酸性基を含まないものが好ましい。
【0068】
併用できる他のジアミン化合物を具体的に例示すると、5−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、2−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、4−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、2−(トリフルオロメチル)−1,4−フェニレンジアミン、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2'−ジフルオロ−4,4'−ジアミノジフェニル、2,2'−ジクロロ−4,4'−ジアミノジフェニル、2,2'−ジブロモ−4,4'−ジアミノジフェニル、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジメチル−1,3−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,3−フェニレンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,2'−ジメチルビフェニル−4,4'−ジアミン、2,2'−ジメトキシ−4,4'−ジアミノジフェニル、2,2'−ジエトキシ−4,4'−ジアミノジフェニル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、または4,4'−ジアミノベンズアニリドを例示することができる。他のジアミン化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
好ましくは、高い気体透過性が期待できる含フッ素化合物である5−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、2−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、4−(トリフルオロメチル)−1,3−フェニレンジアミン、2−(トリフルオロメチル)−1,4−フェニレンジアミン、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンまたは2,2−ビス(4−(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパンである。
【0070】
前駆体ポリアミドを合成する際の重合反応について説明する。本発明の気体分離膜に使用する前駆体ポリアミドは、HFIP基を有するジアミンとジカルボン酸誘導体を必須とし、−100℃以上、100℃以下の温度で有機溶媒中、もしくは無溶媒で、当該芳香族ジアミンとジカルボン酸誘導体を混合し、縮合反応させることで合成することができる。
【0071】
本重合反応においては、窒素、アルゴン等の不活性ガス中、ジアミンとジカルボン酸誘導体をモル比で表して1対1で反応させることが望ましい。反応温度が−100℃未満であると反応が進行せず、反応温度が100℃より高いとジカルボン酸誘導体がジアミン誘導体のHFIP基のヒドロキシ部位と一部反応する場合がある。好ましくは、−90℃以上、0℃以下であり、芳香族ジアミンとジカルボン酸誘導体を混合した後、徐々に昇温させることが好ましい。
【0072】
前記重合反応に使用できる有機溶媒は、原料化合物であるHFIP基を有するジアミンとジカルボン酸誘導体が溶解すれば特に制限せず用いることができ、アミド系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒またはラクトン系溶媒用いることができる。具体的には、アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドまたはN−メチル−2−ピロリドン、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンまたはトリオキサン、芳香族系溶媒としては、ベンゼン、アニソール、ニトロベンゼンまたはベンゾニトリル、ハロゲン系溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンまたは1,1,2,2−テトラクロロエタン、ラクトン系溶媒としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−バレロラクトン、ε−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、またはα−メチル−γ−ブチロラクトンを例示することができる。
【0073】
好ましくは、原料となる当該芳香族ジアミンとジカルボン酸誘導体の溶解性の高いN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはN−メチル−2−ピロリドンである。
4.ポリアミド前駆体溶液の調製
上記合成法で得られる前駆体ポリアミド溶液は、気体分離膜の製造にそのまま用いることができる。また、前駆体ポリアミド溶液中に含まれる残存モノマー、低分子量体を除去する目的で、水またはアルコール等の貧溶媒中に、前駆体ポリアミド溶液を加え、前駆体ポリアミドを沈殿、単離精製した後、改めて有機溶媒に溶解させて調製してもよい。
【0074】
使用できる有機溶媒は、前駆体ポリアミドが溶解すればよく、アミド系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、ハロゲン系溶媒またはラクトン系溶媒を用いることができる。具体的には、アミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドまたはN−メチル−2−ピロリドン、エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、またはトリオキサン、芳香族性溶媒としては、ベンゼン、アニソール、ニトロベンゼン、またはベンゾニトリル、ハロゲン系溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、または1,1,2,2−テトラクロロエタン、ラクトン系溶媒としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−バレロラクトン、ε−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、またはα−メチル−γ−ブチロラクトンを例示すことができる。これら溶媒から、選択して使用してもよく、2種類以上の混合溶媒であってもよい。
5.気体分離膜の製造方法
本発明の発明1〜13に記載の高分子化合物を含む気体分離膜は、前駆体ポリアミド溶液で成形した後、溶媒を蒸発させ、前駆体ポリアミド中のカルボニル基(−C(=O)−)と、HFIP基中の水酸基(−OH)を環化脱水反応させることで製造できる。気体分離膜は全体的に均一な膜構造、または、緻密層と孔質層とを有する非対称膜のいずれであってもよい。
【0075】
全体的に均質な構造の気体分離膜は、例えば、前述の前駆体ポリアミド溶液を、ガラス基板等の基材にスピンコーターまたはアプリケーター等を用いて湿式塗布した後、空気、窒素またはアルゴン等の乾燥気体中で加熱し、溶剤の蒸発、前記環化脱水反応を行った後、ガラス基材から剥離させることで得られる。気体分離膜として使用するには、膜厚5μm以上、1mm以下が好ましい。5μmより薄いと、製膜が困難な上、破れ易く、1mmより厚いと、気体が透過しにくい虞がある。さらに好ましくは、10μm以上、100μm以下である。
【0076】
前記環化反応を進行させる際の加熱温度は、100℃以上、400℃以下が好ましく、さらに好ましくは、150℃以上、350℃以下である。加熱温度が100℃より低いと溶媒の乾燥除去および前記環化脱水反応が十分に行えず、400℃より高いと膜割れ等の膜欠陥発生の原因となる。
【0077】
緻密層と多孔質層を有する非対称構造な膜としての気体分離膜を製膜する方法としては、前駆体ポリアミド溶液を圧力容器内で入れ吐出口から、前駆体ポリアミド溶液の溶媒と相溶するが前駆体ポリアミドは溶解しない貧溶媒を用いた凝固液を満たした浴内に吐出させて、展開した前駆体ポリアミド膜の表面近傍に存在する溶媒を空気中に蒸発させ、表面側に緻密層を形成した後、浴側は微細な多孔質層を形成させる方法がある。
【0078】
このような非対称な膜を気体分離膜に使用すると、前記緻密層はガス種によって透過速度が異なり、混合ガスを分離する役割を果たす一方で、前記多孔質層は、膜形状を保持する為の支持体としての役割を果たすことが可能となる。
【0079】
本発明の気体分離膜に使用する、含フッ素複素環構造を有する非対称な膜は、平坦な膜状、中空糸状のいずれの形状であってもよく、成形した後、加熱し前記環化反応を進行させることで製造できる。
【0080】
前記非対称な膜中の緻密層の厚さは10nm以上、10μm以下であることが好ましい。10nmより薄いと製膜し難く実用的ではない。10μmより厚いと、ガスが透過しにくい。好ましくは30nm以上、1μm以下である。
【0081】
前記非対称な膜中の多孔質層の厚さは、平坦な膜では、5μm以上、2mm以下が好ましい。5μmより薄いと製膜し難く実用的ではない。2mmより厚いと、ガスが透過し難い。好ましくは10μm以上、500μm以下である。中空糸状にする場合は、外側を緻密層、内側を多孔質層とすることが好ましい。中空糸状では、内径が10μm以上、4mm以下、好ましくは20μm以上、1mm以下であり、外径は30μm以上、8mm以下、好ましくは50μm以上、1.5mm以下である。内径が10μm、外径が30μmより小さい中空糸状に製造し難い。内径が1mm、外径が8mmより大きい中空糸は気体分離膜として実用的でない。
【0082】
非対称な膜を製造する際の前記凝固液としては、水、または水と有機溶剤の混合溶液である水系凝固液が好適に使用される。混合溶液は、その全質量に対して、30質量%以上、90質量%以下、好ましくは、40質量%以上、80質量%以下の水を含有することが好ましい。使用する有機溶剤は、アルコール系溶剤としてのメタノール、エタノールまたはイソプロパノール、ケトン系溶剤としてのアセトン、メチルエチルケトン、またはジエチルケトンを例示することができる。
【0083】
本発明の気体分離膜に用いる含フッ素複素環を有する高分子化合物の前駆体ポリアミド溶液は、極性基であるHFIP基を構造中に有することで、アミド系溶媒としてのN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドまたはN−メチル−2−ピロリドン、ラクトン系溶媒としてのγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンに特に溶解し易く、所望の均一な膜厚を有する膜を作製することが容易である。また、前記水系凝固液を使用した非対称膜を作製することが容易である。
【0084】
非対称構造の膜の作製にあたっては、吐出口から凝固浴までの距離を変更することで、また、中空糸状に吐出しする場合は、吐出口の内側に乾燥空気、水系凝固液等を共に吐出させることで、所望の緻密層、多孔質層を有する非対称な膜を形成でき、凝固浴の有機溶剤の種類を変更することで、所望の孔径、孔径分布、厚さを有する多孔質層を形成することができる。
【0085】
凝固液に浸漬した膜は、加熱し乾燥および前期環化反応を進行させた後、気体分離膜に用いることができる。その際の加熱温度は、100℃以上、400℃以下が好ましく。さらに好ましくは、150℃以上、350℃以下である。加熱温度が100℃より低いと溶媒の乾燥および環化反応が十分に行えず、400℃より高いとガラス転移温度を超え、高分子膜の非対称構造が損なわれる虞がある。
6.気体分離膜の材料の組成
前記[発明1]の気体分離膜は、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む気体分離膜である。
【0086】
[発明2]の気体分離膜が含む高分子化合物は、高分子化合物全量に対する一般式(1)で表される繰り返し単位の含有率が90質量%以上である高分子化合物である。
【0087】
[発明3]の気体分離膜が含む高分子化合物は、一般式(1)で表される繰り返し単位のみからなる高分子化合物である。
【0088】
高分子化合物全量に対する一般式(1)で表される繰り返し単位の含有が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、好ましくは98質量%以上であり、なくてもよい。残部は、一般式(1B)に属していないジアミン化合物であり、好ましくはプロトン性酸性基を含まない「他のジアミン化合物」である。
【0089】
[発明4]の気体分離膜は、具体的には、以下の式(2A)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0090】
【化21】
【0091】
前記[発明5]の気体分離膜は、具体的には、以下の式(3A)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0092】
【化22】
【0093】
前記[発明6]の気体分離膜は、具体的には、以下の式(4A)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0094】
【化23】
【0095】
前記[発明7]の気体分離膜は、具体的には、以下の式(5A)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0096】
【化24】
【0097】
前記[発明8]の気体分離膜は、具体的には以下の式で表される繰り返し単位(6A)を有する高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0098】
【化25】
【0099】
前記[発明9]の気体分離膜は、具体的には以下の式(7A)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0100】
【化26】
【0101】
前記[発明10]の気体分離膜は、具体的には以下の式(8A)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0102】
【化27】
【0103】
前記[発明11]の気体分離膜は、具体的には以下の式(9A)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物を含む、発明1〜3の気体分離膜である。
【0104】
【化28】
【0105】
本発明の気体分離膜が含む高分子化合物の重合度は、前駆体ポリアミドの重量平均分子量で表すと、30000以上、500000以下が好ましい。重合度が30000より低いと強靭な膜ができず、500000より高いと得られる膜が溶液に溶け難く、ポリアミド前駆体溶液が殆どできないか、またはポリアミド前駆体溶液ができたとしても粘調な膜となり、製膜し難い等の不具合が生じる。
7.気体分離方法
本発明の気体分離膜は、混合ガスからのガス分離回収用、ガス分離精製用として用いることができる。混合ガスは、例えば、水素、ヘリウム、一酸化炭素、二酸化炭素、硫化水素、酸素、窒素、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物、炭化水素としてのメタン、エタンもしくはプロパン、不飽和炭化水素としてのプロピレン、またはパーフルオロ化合物であるテトラフルオロエタン等を含有する混合気体を例示することができる。本発明の気体分離膜は、これらの混合ガスから特定の気体を効率よく分離し得る気体分離膜として使用とすることができ、特に二酸化炭素と炭化水素、例えば二酸化炭素とメタンを含む混合ガスから二酸化炭素を選択分離するために用いることができる。
【0106】
気体分離膜に二酸化炭素を透過させる際の圧力は、0.12MPa以上、10MPa以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.15MPa以上、7MPa以下である。また、気体分離膜に二酸化炭素を透過させる際の温度は、−30℃以上、90℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは15℃以上、70℃以下である。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
[前駆体ポリアミド(1)溶液の調製および高分子化合物(1)の膜の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−MDA、7.5g(14.1mmol)、溶媒としてのジメチルアセトアミド(以下、DMAcと呼ぶことがある)42gを加え、窒素雰囲気下、温度−78℃で20分間攪拌した。イソフタル酸クロリド、2.86g(14.1mmol)をDMAc、8gに溶解させて加え、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴につけて3時間攪拌し、次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となるポリアミド(1)を含む溶液を調製した。ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと呼ぶことがある)装置(東ソー株式会社製、機種名HLC−8320GPC、カラム名:TSKgel SuperHZM−H、溶媒:テトラヒドロフラン(以下、THFと呼ぶことがある))で前駆体ポリアミド(1)の分子量を測定したところ、前駆体ポリアミド(1)の分子量は、重量平均分子量(Mw)=156000、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)=1.87であった。
【0108】
得られた前駆体ポリアミド(1)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度300rpmに達した後、回転数300rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で1時間加熱し環化反応させた後に冷却し、ガラス基板から膜を剥がし、高分子化合物(1)の膜を得た。株式会社ニコン製デジタル測長機、機種名:DIGIMICRO MH−15で高分子化合物(1)の膜の膜厚を測定したところ29μmであった。
【0109】
本発明の気体分離膜が含む高分子化合物(1)の反応経路を以下の反応式に示す。
【0110】
【化29】
【0111】
実施例2
[前駆体ポリアミド(2)溶液の調製および高分子化合物(2)の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−MDA、7.5g(14.1mmol)、溶媒としてのDMAc、42gを加え、窒素雰囲気下、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で20分間攪拌した。テレフタル酸クロリド、2.86g(14.1mmol)をDMAc、8gに溶解させて加え、温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴に漬けて3時間撹拌し、次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となるポリアミド(2)を含む溶液を調製した。前述のGPC装置で前駆体ポリアミド(2)の分子量を測定したところ、前駆体ポリアミド(2)の分子量はMw=85700、Mw/Mn=1.68であった。
【0112】
得られた前駆体ポリアミド(2)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転数300rpmに達した後、回転数300rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で1時間加熱し環化反応させた後に冷却し、ガラス基板から膜を剥がし、高分子化合物(2)の膜を得た。前述の測長機で高分子化合物(2)の膜の膜厚を測定したところ20μmであった。
【0113】
以上の操作における、高分子化合物(2)の合成経路を以下の反応式に示す。
【0114】
【化30】
【0115】
実施例3
[前駆体ポリアミド(3)溶液の調製および高分子化合物(3)の膜の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−MDA、7.5g(14.1mmol)、溶媒としてのDMAc、42gを加え、窒素雰囲気下、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で20分間攪拌した。4,4'−ビフェニルカルボニルクロリド、3.94g(14.1mmol)をDMAc、8gに溶解させて加え、温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴に漬けて3時間撹拌し,次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となるポリアミド(3)を含む溶液を調製した。前述のGPC装置で前駆体ポリアミド(3)の分子量の測定したところ、前駆体ポリアミド(3)の分子量はMw=62400、Mw/Mn=1.67であった。
【0116】
得られた前駆体ポリアミド(3)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転数300rpmに達した後、回転数300rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で1時間、加熱し環化反応させた後に冷却し、ガラス基板から膜を剥がし、高分子化合物(3)の膜を得た。前述の側長機で高分子化合物(3)の膜の膜厚を測定したところ18μmであった。
【0117】
以上の操作における、高分子化合物(3)の合成経路を以下の反応式に示す。
【0118】
【化31】
【0119】
実施例4
[前駆体ポリアミド(4)溶液の調製および高分子化合物(4)の膜の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−mTB、21.8g(40.0mmol)、溶媒としてのジメチルアセトアミド(以下、DMAcと呼ぶことがある)60gを加え、窒素雰囲気下、温度−78℃で20分間攪拌した。4,4'−オキシビス(ベンゾイルクロリド)(以下、OBBCと表す場合がある)、11.8g(40.0mmol)をDMAc、70gに溶解させて加え、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴につけて3時間攪拌し、次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となるポリアミド(4)を含む溶液を調製した。ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと呼ぶことがある)装置(東ソー株式会社製、機種名HLC−8320GPC、カラム名:TSKgel SuperHZM−H、溶媒:テトラヒドロフラン(以下、THFと呼ぶことがある))で前駆体ポリアミド(4)の分子量を測定したところ、前駆体ポリアミド(4)の分子量は、重量平均分子量(Mw)=227700、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)=1.83であった。
【0120】
得られた前駆体ポリアミド(4)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度500rpmに達した後、回転数500rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度250℃で1時間加熱し環化反応させた後に冷却し、ガラス基板から膜を剥がし、高分子化合物(4)の膜を得た。前述の測長機で高分子化合物(4)の膜の膜厚を測定したところ45μmであった。
【0121】
本発明の気体分離膜が含む高分子化合物(4)の反応経路を以下の反応式に示す。
【0122】
【化32】
【0123】
実施例5
[前駆体ポリアミド(5)溶液の調製および高分子化合物(5)の膜の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mL三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−mTB、7.5g(13.8mmol)、溶媒としてのDMAc、42gを加え、窒素雰囲気下、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で20分間攪拌した。イソフタル酸クロリド、2.80g(13.8mmol)をDMAc、8gに溶解させて加え、温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴に漬けて3時間撹拌し、次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となるポリアミド(5)を含む溶液を調製した。前述のGPC装置で前駆体ポリアミド(4)の分子量を測定したところ、前駆体ポリアミド(5)の分子量はMw=43100、Mw/Mn=1.69であった。
【0124】
得られた前駆体ポリアミド(5)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転数300rpmに達した後、回転数300rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さの膜となるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で1時間加熱して環化反応させた後に冷却し、ガラス基板から膜を剥がすことで、高分子化合物(5)の膜を得た。前述の測長機で高分子化合物(5)の膜の膜厚を測定したところ13μmであった。
【0125】
以上の操作における、高分子化合物(5)の合成経路の以下の反応式に示す。
【0126】
【化33】
【0127】
実施例6
[前駆体ポリアミド(6)溶液の調製および高分子化合物(6)の膜の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−mTB、7.5g(13.8mmol)、溶媒としてのDMAc、42gを加え、窒素雰囲気下、温度−78℃で20分間攪拌した。イソフタル酸クロリド、1.40g(6.9mmol)およびテレフタル酸クロリド、1.40g(6.9mmol)を、DMAc、8gに溶解させて加え、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴に漬けて3時間撹拌し、次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となる前駆体ポリアミド(6)を含む溶液を調製した。前述のGPC装置で前駆体ポリアミド(6)の分子量を測定したところ、ポリアミド(6)の分子量はMw=79800,Mw/Mn=1.76であった。
【0128】
得られた前駆体ポリアミド(6)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転数300rpmに達した後、回転数300rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で1時間加熱し環化反応させた後で冷却し、ガラス基板から膜を剥がし、高分子化合物(6)の膜を得た。前述の側長機で高分子化合物(6)の膜の膜厚を測定したところ28μmであった。
【0129】
以上の操作における、高分子化合物(6)の合成経路を以下の反応式に示す。
【0130】
【化34】
【0131】
実施例7
[前駆体ポリアミド(7)溶液の調製および高分子化合物(7)の膜の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−mTB、7.5g(13.8mmol)、溶媒としてのDMAc、42gを加え、窒素雰囲気下、温度−78℃で20分間攪拌した。イソフタル酸クロリド、1.40g(6.9mmol)および4,4'−ビフェニルカルボニルクロリド、1.93g(6.9mmol)を、DMAc、8gに溶解させて加え、温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴に漬けて3時間撹拌し、次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となる前駆体ポリアミド(7)を含む溶液を調製した。前述のGPC装置で前駆体ポリアミド(7)の分子量を測定したところ、Mw=57300、Mw/Mn=1.87であった。
【0132】
得られた前駆体ポリアミド(7)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度300rpmに達した後、回転数300rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さの膜となるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で1時間加熱し環化反応させた後で冷却し、ガラス基板から膜を剥がし、高分子化合物(7)の膜を得た。前述の測長機で高分子化合物膜(7)の膜厚を測定したところ、膜厚は21μmであった。
【0133】
以上の操作における、高分子化合物(7)の合成経路を以下の反応式に示す。
【0134】
【化35】
【0135】
実施例8
[前駆体ポリアミド(8)溶液の調製および高分子化合物(8)の膜の製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP基を含むジアミンとしてのHFIP−mTB、21.8g(40.0mmol)、溶媒としてのジメチルアセトアミド(以下、DMAcと呼ぶことがある)60gを加え、窒素雰囲気下、温度−78℃で20分間攪拌した。OBBC、11.8g(40.0mmol)をDMAc、70gに溶解させて加え、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴につけて3時間攪拌し、次いで室温で2時間攪拌し、前駆体となるポリアミド(8)を含む溶液を調製した。ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと呼ぶことがある)装置(東ソー株式会社製、機種名HLC−8320GPC、カラム名:TSKgel SuperHZM−H、溶媒:テトラヒドロフラン(以下、THFと呼ぶことがある))で前駆体ポリアミド(8)の分子量を測定したところ、前駆体ポリアミド(1)の分子量は、重量平均分子量(Mw)=134200、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)=1.81であった。
【0136】
得られた前駆体ポリアミド(8)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度800rpmに達した後、回転数800rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度250℃で1時間加熱し環化反応させた後に冷却し、ガラス基板から膜を剥がし、高分子化合物(8)の膜を得た。前述の測長機で高分子化合物(8)の膜の膜厚を測定したところ68μmであった。
【0137】
本発明の気体分離膜が含む高分子化合物(8)の反応経路を以下の反応式に示す。
【0138】
【化36】
【0139】
比較例1
[高分子化合物(9)の調製および製膜]
窒素導入管を備えた内容積500mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP−MDA、58.3g(110mmol)と、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと呼ぶことがある)、32.4g(110mmol)と、DMAc、220gを加え、窒素雰囲気下、温度20℃で20分間攪拌した。次いで、反応系にピリジン34.8g(440mmol)、無水酢酸44.9g(440mmol)の順に加え,さらに24時間攪拌し、イミド化反応を行い、高分子化合物(9)を含む溶液を調製した。前述のGPC装置で分子量を測定したところ、Mw=91000,Mw/Mn=1.84であった。
【0140】
得られた高分子化合物(9)の溶液を加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転数800rpmに達した後、回転数800rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で2時間加熱した後で冷却し、ガラス基板から膜を剥がすことで、以下の反応式に示す繰り返し単位のみからなる高分子化合物(9)の膜を得た。前述の側長機で高分子化合物(7)の膜の膜厚を測定したところ43μmであった。
【0141】
以上の操作における、高分子化合物(9)の合成経路を以下の反応式に示す。高分子化合物(9)は複素環構造を有していない。
【0142】
【化37】
【0143】
比較例2
[高分子化合物(10)の調製および製膜]
窒素導入管を備えた内容積500mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP−mTB、60.0g(110mmol)、BPDA、32.4g(110mmol)、DMAc、220gを加え、窒素雰囲気下、温度20℃で20分間攪拌した。次いで、反応系にピリジン34.8g(440mmol)、無水酢酸44.9g(440mmol)の順に加え,さらに24時間攪拌し、イミド化反応を行い高分子化合物(10)を含む溶液を調製した。前述のGPC装置で分子量を測定したところ、Mw=134000、Mw/Mn=1.97であった。
【0144】
得られた高分子化合物(10)を含む溶液にDMAc、150gを加え希釈し加圧濾過した後、ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転数1200rpmに達した後、回転数1200rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で2時間加熱した後で冷却し、ガラス基板から膜を剥がすことで高分子化合物(10)の膜を得た。前述の側長機で高分子化合物(10)の膜の膜厚を測定したところ51μmであった。
【0145】
以上の操作における、高分子化合物(10)の合成経路を以下の反応式に示す。高分子化合物(10)は複素環構造を有していない。
【0146】
【化38】
【0147】
比較例3
[高分子化合物(11)の調製および製膜]
窒素導入管を備えた内容積300mLの三口フラスコに、以下の反応式に示すHFIP−mTB、7.5g(13.8mmol)と、DMAc、15gを加え、窒素雰囲気下、低温恒温反応槽を用いて温度−78℃で20分間攪拌した。次いで、イソフタル酸クロリド、1.40g(6.89mmol)を加え、温度−78℃で10分間攪拌した後、フラスコ底部を氷浴につけて3時間攪拌した。その後、BPDA、2.03g(6.89mmol)、DMAc、2gの順番に加え、室温で2時間攪拌した。反応系にピリジン2.18g(27.6mmol)、無水酢酸、2.82g(27.6mmol)の順に加え、さらに24時間攪拌し、ポリアミドイミド(11)を含む溶液を作製した。前述のGPC装置で分子量を測定したところ、Mw=52400、Mw/Mn=1.66であった。
【0148】
得られたポリアミドイミド(11)を含む溶液を加圧濾過した後、ガラス基板に塗布した。ガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転数500rpmに達した後、回転数500rpmで10秒間保持し、ガラス基板上に均一な厚さとなるように塗布した。窒素雰囲気下、温度300℃で1時間加熱した後で冷却し、ガラス基板から膜を剥がすことで高分子化合物(11)の膜を得た。前述の側長機で高分子化合物(11)の膜の膜厚を測定したところ47μmであった。
【0149】
以上の操作における、高分子化合物(11)の合成経路を以下の反応式に示す。高分子化合物(11)はHFIP基と複素環構造の両方を有している。
【0150】
【化39】
【0151】
実施例1〜8における本発明の範疇の複素環構造を含む高分子化合物(1)〜(4)、(6)〜(8)を以下の表1に、比較例1〜3の本発明の範疇にない高分子化合物(9)〜(11)を以下の表2に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
本発明の範疇の実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)と本発明の範疇にない比較例1の高分子化合物(9)は、原料化合物に前記HFIP−MDAを用いた高分子化合物である。本発明の範疇の実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)と本発明の範疇にないと比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)は、原料化合物に前記HFIP−mTBを用いた高分子化合物である。
【0155】
実施例6の高分子化合物(6)、実施例7の高分子化合物(7)、比較例3の高分子化合物(11)は、原料化合物としてHFIP基を有するジアミン1モル量に対して、イソフタル酸クロリド、0.5モル等量、およびそれぞれ別個のジカルボン酸誘導体0.5モル等量、又はテトラカルボン酸二無水物0.5モル等量を用いており、原料化合物の当量比に対応する割合でそれぞれの原料に由来する構造を有している。比較例1〜3の高分子化合物(9)〜(11)は、テトラカルボン酸二無水物であるBPDAに由来したHFIP基を有するポリイミド構造を有している。
[透過性の評価方法]
透過性の評価には、ガス透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR−2ADF)を用い、差圧式圧力計法により測定した。
【0156】
具体的には、ステンレス製のセルに膜面積3.14cm2の気体分離膜を配置し、温度35℃の条件で、水素ガス(H2)、ヘリウムガス(He)、メタンガス(CH4)、炭酸ガス(CO2)、窒素ガス(N2)および酸素ガス(O2)を用い、供給ガス圧を150kPaで各ガスの透過係数を測定した。ガスの選択性は、2種類のガスの透過係数より算出した。
[実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜および比較例1の高分子化合物(9)からなる膜の透過係数の測定、およびそれから算出した膜の選択性]
実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)、比較例1の高分子化合物(9)からなる膜の透過性の測定結果を表3に示す。
【0157】
【表3】
【0158】
表3の透過係数から算出した気体の選択性を表4に示す。
【0159】
【表4】
【0160】
以下、表3および表4について説明する。
<透過係数>
測定した全ての気体において、実施例1〜4のHFIP−MDAを用いた高分子化合物(1)〜(4)からなる膜の透過係数は、比較例1の含フッ素ポリイミド化合物である高分子化合物(9)からなる膜の透過係数より高かった。
<二酸化炭素の透過性>
実施例1〜3の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜のCO2の透過係数は、比較例1の高分子化合物(9)からなるCO2の透過係数より高かった。
<メタンの透過性>
実施例1〜3の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜のCH4の透過係数は、比較例1の高分子化合物(9)からなるCH4の透過係数より高かった。
<二酸化炭素とメタンの選択性>
実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜の選択性CO2/CH4は、比較例1の高分子化合物(9)からなる膜の選択性と同程度であり、気体分離膜としての十分な選択性を示した。比較例1の高分子化合物(9)からなる膜に比べ、透過性に優れる実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜の方が、小さな膜面積でも短時間でより多くの量のCO2とCH4を含むガスを分離処理できる。
<窒素の透過性>
実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜のN2の透過係数は、比較例1の高分子化合物(7)からなるCO2の透過係数より高かった。
<二酸化炭素と窒素の選択性>
実施例1、実施例2、実施例4の高分子化合物(1)、高分子化合物(2)、高分子化合物(4)からなる膜の選択性CO2/N2は、比較例1の高分子化合物(9)からなる膜の選択性より優れていた。実施例3の高分子化合物(3)からなる膜の選択性CO2/N2は、比較例1の高分子化合物(9)からなる膜の選択性と同等程度であり、気体分離膜としての十分な選択性を示した。
【0161】
比較例1の高分子化合物(9)からなる膜に比べ、透過性に優れる実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜の方が、小さな膜面積でも短時間でより多くの量のCO2とN2を含むガスを分離処理できる。
<ヘリウムの透過性>
実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜のHeの透過係数は、比較例1の高分子化合物(9)からなるHeの透過係数より高かった。
<ヘリウムとメタンの選択性>
実施例1、実施例4の高分子化合物(1)、高分子化合物(4)からなる膜の選択性He/CH4は、比較例1の高分子化合物(9)からなる膜の選択性より優れていた。実施例2、実施例3の高分子化合物(2)、高分子化合物(3)からなる膜の選択性He/CH4は、比較例1の高分子化合物(9)からなる膜の選択性と同等程度であり、気体分離膜としての十分な選択性を示した。
【0162】
比較例1の高分子化合物(9)からなる膜に比べ、透過性に優れる実施例1〜4の高分子化合物(1)〜(4)からなる膜の方が、小さな膜面積でも短時間でより多くの量のHeとCH4を含むガスを分離処理できる。
[実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜および比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜の透過係数の測定、およびそれから算出した膜の選択性]実施例4〜5の高分子化合物(6)〜(8)、比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜の気体透過性の測定結果を表5に示す。
【0163】
【表5】
【0164】
表5の透過係数から算出した気体の選択性を表6に示す。
【0165】
【表6】
【0166】
以下、表5および表6について説明する。
<透過係数>
実施例6〜8のHFIP−mTBを用いた高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の透過係数は、比較例2〜3の含フッ素ポリイミド化合物である高分子化合物(10)〜(11)からなる膜の透過係数より高かった。
<二酸化炭素の透過性>
実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)の透過係数は、比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなるCO2の透過係数より高かった。
<メタンの透過性>
実施例6〜8の高分子化合物(10)〜(11)の透過係数は、比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなるCH4の透過係数より高かった。
<二酸化炭素とメタンの選択性>
二酸化炭素とメタンの選択性に関しては、実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の選択性CO2/CH4とより比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜の選択性より低いが、気体分離膜としての十分な選択性を示した。
比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜に比べ、透過性に優れる実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の方が、小さな膜面積でも短時間でより多くの量のCO2とCH4を含むガスを分離処理できる。
<窒素の透過性>
実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜のN2の透過係数は比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜のN2の透過係数より高かった。
<二酸化炭素と窒素の選択性>
実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の選択性CO2/N2は、比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜の選択性より低いが、気体分離膜としての十分な選択性を示した。
比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜に比べ、透過性に優れる実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の方が、小さな膜面積でも短時間でより多くの量のCO2とN2を含むガスを分離処理できる。
<ヘリウムの透過性>
実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の透過係数比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなるHeの透過係数より高かった。
<ヘリウムとメタンの選択性>
実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の選択性He/CH4は、比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜の選択性はより低いが、気体分離膜としての十分な選択性を示した。比較例2〜3の高分子化合物(10)〜(11)からなる膜に比べ、透過性に優れる実施例6〜8の高分子化合物(6)〜(8)からなる膜の方が、小さな膜面積でも短時間でより多くの量のHeとCH4を含むガスを分離処理することができる。