(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6547530
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】生タイヤの形成方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/30 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
B29D30/30
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-176834(P2015-176834)
(22)【出願日】2015年9月8日
(65)【公開番号】特開2017-52149(P2017-52149A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】上野 修一
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−070550(JP,A)
【文献】
特開昭62−152835(JP,A)
【文献】
特開2013−086432(JP,A)
【文献】
特開2005−254674(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/005029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3段階で拡縮径可能な第1ドラムを用い、ドラム外径がD1aの状態の第1ドラム上で、インナーライナゴム用部材を一周巻きしてインナーライナを円筒状に形成するステップS1と、
このインナーライナ付きの第1ドラムを、ドラム外径がD1aからD1bまでインナーライナとともに縮径させるステップS2と、
ドラム外径がD2aの状態の第2ドラム上で、カーカスプライ用部材を一周巻きしてカーカスプライを円筒状に形成するステップS3と、
前記第2ドラムから前記カーカスプライを取り出すとともに、取り出したカーカスプライを、前記ステップS2にて縮径したインナーライナ付きの第1ドラムの外側に同心状に外挿させて保持するステップS4と、
前記縮径したインナーライナ付きの第1ドラムを、ドラム外径がD1bからD1aよりも大なD1cの状態まで拡径し、インナーライナの外周面をカーカスプライの内周面に押し付けて一体に接合するステップS5とを含み、
前記インナーライナゴム用部材の厚さをtとしたとき、前記ドラム外径D1a、D1b、D2aは、以下の式を充足することを特徴とする生タイヤの形成方法。
0.96≦D1b/D1a≦0.99 −−−(1)
(D1b+2t)/D2a≦0.99 −−−(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのユニフォーミティを向上させた生タイヤの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生タイヤ(未加硫タイヤ)の形成に際しては、ドラム上でインナーライナゴム用部材を一周巻きして形成される円筒状のインナーライナ上に、カーカスプライ用部材を一周巻きし、インナーライナとカーカスプライとを積層している。
【0003】
このとき、カーカスプライ用部材は、巻き付け前に所定長さで切断されるとともに、一周巻きしたカーカスプライ用部材の周方向両端部は、半径方向内外に互いに重ね合わせてジョイントされる。
【0004】
しかしながら、この従来の方法では、インナーライナゴム用部材の厚さバラツキや巻き付けバラツキなどによって、円筒状のインナーライナの外周長さが変化する。そのため、カーカスプライのジョイント部の幅(重なり幅)にもバラツキが生じてしまう。なおジョイント部では、その幅が2mmを下回ると接合強度が不足し、以後のシェーピング工程などにおいて、ジョイント部が外れて目開きを起こす恐れを招く。そのため、従来においては、バラツキを考慮してジョイント部の幅を
6mm程度と広めに設定している。そのため、このジョイント部の幅が広いことに起因して、タイヤ内圧充填時にサイドウォール表面が帯状に凹む所謂ジョイントデントが大きくなり、タイヤの外観性能を損ねるという問題が発生する。
【0005】
他方、下記の特許文献1には、2つのドラムを用い、第1ドラム上でインナーライナを、また第2ドラム上でカーカスプライを別々に形成する生タイヤの形成方法が開示されている。この形成方法(便宜上「2−ドラム形成方法」という場合がある。)では、第2ドラムから取り出した円筒状のカーカスプライを、インナーライナ付きの第1ドラムの外側に同心状に外挿して保持した後、第1ドラムを拡径することにより、インナーライナの外周面をカーカスプライの内周面に押し付け、インナーライナとカーカスプライとを一体に接合している。
【0006】
この場合、前記ジョイント部の幅のバラツキを減じることができる。そのため、ジョイント部の幅を例えば2〜3mmの範囲に管理することが可能になり、ジョイントデントを抑えて外観性能を向上させうる。
【0007】
しかしながら、2−ドラム形成方法では、円筒状のカーカスプライを、インナーライナに接触させることなく安定して外挿させるためには、インナーライナ形成時の第1ドラムの直径d1aを、第2ドラムの直径d2aに比して十分に小さく設定する必要がある。しかし、前記直径d1aが小さ過ぎると、インナーライナをカーカスプライに接合させるための第1ドラムの拡径量が過大となる。その結果、拡径時にインナーライナが不均一に引き延ばされて厚さに不均一が発生し、タイヤのユニフォーミティが低下させるという新たな問題を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−233954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで発明は、2−ドラム形成方法の利点である外観性能の向上効果を発揮させるとともに、カーカスプライのインナーライナへの外挿を容易として生産性を確保しながら、インナーライナの厚さの不均一を抑えてユニフォーミティを向上させうる生タイヤの形成方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも3段階で拡縮径可能な第1ドラムを用い、ドラム外径がD1aの状態の第1ドラム上で、インナーライナゴム用部材を一周巻きしてインナーライナを円筒状に形成するステップS1と、
このインナーライナ付きの第1ドラムを、ドラム外径がD1aからD1bまでインナーライナとともに縮径させるステップS2と、
ドラム外径がD2aの状態の第2ドラム上で、カーカスプライ用部材を一周巻きしてカーカスプライを円筒状に形成するステップS3と、
前記第2ドラムから前記カーカスプライを取り出すとともに、取り出したカーカスプライを、前記ステップS2にて縮径したインナーライナ付きの第1ドラムの外側に同心状に外挿させて保持するステップS4と、
前記縮径したインナーライナ付きの第1ドラムを、ドラム外径がD1bからD1aよりも大なD1cの状態まで拡径し、インナーライナの外周面をカーカスプライの内周面に押し付けて一体に接合するステップS5とを含
み、
前記インナーライナゴム用部材の厚さをtとしたとき、前記ドラム外径D1a、D1b、D2aは、以下の式を充足することを特徴としている。
0.96≦D1b/D1a≦0.99 −−−(1)
(D1b+2t)/D2a≦0.99 −−−(2)
【発明の効果】
【0012】
本発明は叙上の如く、2つのドラムを用い、第1ドラム上でインナーライナを、また第2ドラム上でカーカスプライを別々に形成している。従って、カーカスプライにおけるジョイント部の幅のバラツキを減じることができ、このジョイント部の幅を例えば2〜3mmの範囲に管理することが可能となる。その結果、ジョイントデントを減じて、タイヤの外観性能を向上させることができる。
【0013】
また本発明では、第1ドラム上でインナーライナを形成した後、このインナーライナ付きの第1ドラムを、いったんドラム外径がD1aからD1bまで縮径させている。従って、この縮径の分だけ、カーカスプライの内周面とインナーライナの外周面との間のクリアランスを増大できる。その結果、縮径状態のインナーライナ付きの第1ドラムに対して、カーカスプライを接触させることなく容易に外挿させることができ、生産性を確保することができる。
【0014】
インナーライナ形成時においては、インナーライナの厚さは略均一に形成されている。また第1ドラムの縮径状態においては、厳密には、インナーライナは、ドラムセグメントの突き合わせ位置付近で圧縮し、その厚さが部分的に増加する。しかしその厚さの増加量は、第1ドラムの縮径量に比して十分に小であり、クリアランスへの影響は低い。また第1ドラムがインナーライナ形成時のドラム外径D1aに戻ったときには、圧縮部分が伸びて厚さは略均一にもどる。従って、第1ドラムの拡径によって、インナーライナをカーカスプライに押し付けて一体に接合する際、インナーライナ形成時の第1ドラムからの拡径量(D1c−D1a)が小であるため、インナーライナの厚さの不均一は低減され、これによって、ユニフォーミティを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の生タイヤの形成方法を実施するための生タイヤ製造ラインを示す側面図である。
【
図4】縮径によるインナーライナの圧縮を誇張して示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の生タイヤの形成方法を実施するための生タイヤ製造ラインLの一実施例を示す側面図である。図において、生タイヤ製造ラインLは、インナーライナ形成用の第1ドラム1と、カーカスプライ形成用の第2ドラム2と、カーカスプライ搬送用のトランスファ3とを含む。第1ドラム1と第2ドラム2とは、それぞれ軸心j回りで回転可能に支持されるとともに、各軸心jは同一線上に配される。またトランスファ3は、前記軸心jに沿って第1ドラム1と第2ドラム2との間を往復移動しうる。
【0017】
前記第1ドラム1は、本例では、中央ドラム部1Aと、その両側のサイドドラム部1Bとを具える。各サイドドラム部1Bは、従来と同様、ターンアップブラダー(図示しない)を具え、インナーライナ10と接合した後のカーカスプライ11の両端部を、ビードコア(図示しない)の回りで折り返す。なお中央ドラム部1Aのみで第1ドラム1を構成することもできる。
【0018】
前記中央ドラム部1Aは、
図3に誇張して示すように、ドラム外径がD1aの基準状態Yaと、ドラム外径がD1bの縮径状態Ybと、ドラム外径がD1cの拡径状態Ycとを含む少なくとも3段階で拡縮径可能に形成される。なおD1c>D1a>D1bである。具体的には、中央ドラム部1Aは、周方向に分割される複数のドラムセグメント4を有し、各ドラムセグメント4は、例えばシリンダである拡縮径手段(図示しない)によって、半径方向内外に移動可能に支持される。拡径手段としては、シリンダ以外にも、例えばリンク機構、ボールネジ機構など種々のものが採用できる。
【0019】
本例の中央ドラム部1Aは、前記縮径状態Ybにおいて最小径となり、各ドラムセグメント4の周方向端面4Sが互いに当接する。また拡径状態Ycにおいて最大径となり、各ドラムセグメント4の周方向端面4S間が最も周方向に離間する。また基準状態Yaにおいて中間径となる。
【0020】
前記第2ドラム2は、中央ドラム部1Aと略同構造をなし、本例では
図1に示すように、ドラム外径がD2aの基準状態Zaと、ドラム外径がD2aより小な縮径状態Zbとの2段階で拡縮径可能に形成される。
【0021】
次に、生タイヤの形成方法は、
図2に示すように、ステップS1〜S5を含む。
【0022】
ステップS1では、前記基準状態Ya(ドラム外径D1a)の第1ドラム1上で、インナーライナゴム用部材を一周巻きし、これによりインナーライナ10を円筒状に形成する。このとき、インナーライナ10は、
図4に示すように、略均一な厚さで形成される。なおインナーライナゴム用部材としては、従来のものが好適に採用しうる。
【0023】
ステップS2では、このインナーライナ付きの第1ドラム1を、ドラム外径がD1aからD1bまでインナーライナ10とともに縮径させる。このとき、厳密には、
図4に示すように、インナーライナ10は、ドラムセグメント4の突き合わせ位置P付近で圧縮され、その厚さが部分的に増加する。しかし、その厚さの増加量Δtは、第1ドラム1の縮径量Δrに比して十分に小である。また第1ドラム1がインナーライナ形成時のドラム外径D1aに戻ったときには、圧縮部分Qが伸びて厚さは略均一にもどる。
【0024】
ステップS3では、基準状態Za(ドラム外径D2a)の第2ドラム2上で、カーカスプライ用部材を一周巻きし、これによりカーカスプライ11を円筒状に形成する。なおカーカスプライ用部材は、巻き付け前に所定長さで切断されるとともに、一周巻きしたカーカスプライ用部材の周方向両端部は、半径方向内外に重ね合わせてジョイントされる。このとき、カーカスプライ用部材が、第2ドラム2上に直接巻き付けられるため、ジョイント部の幅のバラツキを減じることができる。その結果、ジョイント部の幅を例えば2〜3mmの範囲に管理することが可能となり、ジョイントデントを抑制することができる。なおカーカスプライ用部材としては、従来のものが好適に採用しうる。
【0025】
ステップS4では、前記第2ドラム2から前記カーカスプライ11を取り出すとともに、取り出したカーカスプライ11を、縮径状態Ybのインナーライナ付きの第1ドラム1の外側に同心状に外挿させて保持する。前記ステップS4は、前記トランスファ3により行われる。
【0026】
トランスファ3は、
図1に示すように、軸心j方向に往復移動可能な走行台12と、この走行台12に支持されかつ軸心jと同心な筒状基体13とを具える。また前記筒状基体13には、半径方向内端に吸着部14Aを設けた複数の吸着具14が、放射状に取り付けられる。吸着部14Aとして、バキュームパッドが好適に採用しうる。
【0027】
そして、第2ドラム2上のカーカスプライ11の外周面を、各吸着具14の吸着により保持した状態にて第2ドラム2を縮径させる。これにより、カーカスプライ11を円筒状態のまま第2ドラム2から取り外すことができ、またトランスファ3の移動により、円筒状のカーカスプライ11を、縮径状態Ybのインナーライナ付きの第1ドラム1の外側に同心状に外挿させて保持できる。
【0028】
このとき、カーカスプライ11の内周面と、縮径状態Ybのインナーライナ10の外周面との間のクリアランスgを、前記ステップS2による縮径量だけ、従来よりも大きくできる。そのため、外挿時のカーカスプライ11とインナーライナ10との接触を抑制でき、生産性を向上できる。
【0029】
またステップS5では、縮径状態Ybのインナーライナ付きの第1ドラム1を、拡径状態Yc(ドラム外径D1c)まで拡径し、インナーライナ10の外周面をカーカスプライ11の内周面に押し付けて一体に接合する。
【0030】
このとき、縮径状態Ybから拡径状態Ycまでの第1ドラム1の拡径量(D1c−D1b)は大ではあるが、基準状態Yaから拡径状態Ycまでの第1ドラム1の拡径量(D1c−D1a)は低く維持できる。即ち、十分なクリアランスgを確保しながら、拡径に起因するインナーライナ10の厚さの不均一を低減することができ、タイヤのユニフォーミティを向上させることができる。
【0031】
なおドラム外径D1a、D1b、D2aは、以下の式を充足することが好ましい。
0.96≦D1b/D1a≦0.99 −−−(1)
(D1b+2t)/D2a≦0.99 −−−(2)
【0032】
比D1b/D1aが0.99を上回る場合、及び比(D1b+2t)/D2aが0.99を上回る場合、ステップS2による縮径量が過小となって、前記クリアランスgが不足し、ステップS4時、カーカスプライ11とインナーライナ10との接触を十分に抑えることができずに生産性の向上効果が十分発揮できなくなる。逆に、比D1b/D1aが0.96を下回ると、ステップS2による縮径量が過大となり、縮径時にインナーライナ10に皺などの発生を招いて、ユニフォーミティに不利を招く。
【0033】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0034】
本発明の効果を確認するため、
図1の生タイヤ製造ラインLを用い、本発明の生タイヤの形成方法に基づいて生タイヤ(タイヤサイズ185/65R15)を、表1の仕様にて形成した。そのときの生タイヤの生産性、及び前記生タイヤを加硫成形して得た完成タイヤのユニフォーミティを評価した。
【0035】
比較例及び実施例では、それぞれ第1ドラム、第2ドラムを用いてインナーライナ、カーカスプライを別々に形成している。従って、何れの場合も、カーカスプライのジョイント部の幅を、2〜3mmの範囲に管理することができ、ジョイントデントによる外観性能の低下は抑制されている。
【0036】
<生産性>
生タイヤの製造工程において、円筒状のカーカスプライを、インナーライナ付きの第1ドラムに外挿する際の不良率を、比較例2を100とした指数で示している。数値が小なほど不良率が低く生産性に優れている。
【0037】
<ユニフォーミティ>
ドラム試験機を用い、JASO C607:2000のユニフォミティ試験条件に準拠して、走行速度10km/hにおけるラジアルフォースバリエーション(RFV)を計測するとともに、その結果を、比較例2を100とする指数で示している。数値が小なほどユニフォーミティに優れている。
【0038】
【表1】
【0039】
表に示すように実施例は、生産性を高く確保しながら、ユニフォーミティを向上させうるのが確認できる。なお比較例1は、生産が困難であった。
【符号の説明】
【0040】
1 第1ドラム
2 第2ドラム
10 インナーライナ
11 カーカスプライ