(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪概要≫
以下、本実施形態の蓄熱システム10(
図1参照)について説明する。まず、本実施形態の蓄熱システム10の全体構成及び動作について説明する。次いで、本実施形態の要部(膨張タンク50)の構成及び動作について説明する。次いで、本実施形態の作用について説明する。なお、以下の説明では、図中における矢印Hの方向(+H方向及び−H方向)を装置高さ方向とし、+H方向を装置高さ方向上側、−H方向を装置高さ方向下側とし、特に断りのない限り、単に上側、下側とする。
【0025】
≪全体構成≫
蓄熱システム10は、
図1に示されるように、循環部20と、蓄熱器30と、蒸発凝縮器40と、膨張タンク50と、制御装置60と、を含んで構成されている。
【0026】
<循環部>
循環部20は、熱媒を循環させる機能を有する。循環部20は、
図1に示されるように、循環経路部22(以下、経路部22という。)と、ポンプ24と、流量計26と、を含んで構成されている。
【0027】
経路部22は、熱媒が流通する経路とされている。経路部22は、一例としてパイプとされている。また、経路部22は、
図1に示されるように、媒体の循環経路を形成している。
【0028】
経路部22の一部は、蓄熱器30内に配置されている。ここで、経路部22における蓄熱器30内に配置されている一部を熱交換部22Aという。なお、熱交換部22Aについては、蓄熱器30において記載する。
【0029】
また、経路部22は、膨張タンク50(の後述する容器70)に気密状態で連結されている。具体的には、経路部22は、
図1に示されるように、一例として、経路部22と分岐したパイプP1により容器70に繋げられている。
【0030】
ポンプ24は、経路部22に取り付けられている。ポンプ24は、駆動源(図示省略)により駆動されて熱媒を循環方向(図中の矢印FLの方向)に沿って流通させるようになっている。流量計26は、経路部22におけるポンプ24が取り付けられている部分と異なる部分に取り付けられている。流量計26は、ポンプ24により循環方向に沿って流通される熱媒の流量(単位時間当たりに流通する熱媒の量)を計量するようになっている。
【0031】
ここで、熱媒とは、後述する蓄熱材34が放熱した熱を経路部22の熱交換部22Aを通じて吸収し、吸収した熱を加熱対象(図示省略)に輸送する機能と、熱源(図示省略)からの熱を熱交換部22Aまで輸送し、輸送した熱を熱交換部22Aを介して蓄熱材34に与える機能とを有する。本実施形態の蓄熱システム10において、加熱対象及び熱源は、一例として、
図1における破線内に経路部22における熱媒の循環経路に切換手段(図示省略)により切替可能な態様で配置されている。なお、本実施形態の熱媒は、一例としてオイルとされている。
【0032】
<蓄熱器>
蓄熱器30は、加熱対象を加熱するために放熱する機能と、熱源から移動した熱を蓄熱する機能とを有する。蓄熱器30は、
図1に示されるように、容器32と、蓄熱材34と、を含んで構成されている。
【0033】
[容器]
容器32は、一例として、円筒状とされており、周壁32Aと、上壁32Bと、下壁32Cと、で構成されている。また、周壁32Aには装置高さ方向に並ぶ2ヶ所の貫通穴が形成されており、下壁32Cの中央には1ヶ所の貫通穴が形成されている。なお、容器32は、断熱材(図示省略)により覆われている。
【0034】
[蓄熱材]
蓄熱材34は、容器32内に配置されている。本実施形態の蓄熱材34は、一例として酸化カルシウム(CaO)の成形体とされており、酸化カルシウムの粉体を粘土鉱物等のバインダと混練し焼成され、容器32内に嵌り込むように円筒状に形成されている。
【0035】
ここで、蓄熱材34は、水和に伴って放熱(発熱)し、脱水に伴って蓄熱(吸熱)するものであり、下記の式1に示す化学反応の結果、放熱、蓄熱を可逆的に繰り返し得る構成とされている。
式1 CaO + H
2O ⇔ Ca(OH)
2
【0036】
式1に発熱量Q又は蓄熱量Qを併せて示すと、式1は、下記の式2又は式3となる。
式2 CaO + H
2O ⇒ Ca(OH)
2 + Q
式3 Ca(OH)
2 + Q ⇒ CaO + H
2O
ここで、式2は、蓄熱材34が水和に伴って発熱量Qに相当する熱を放熱する化学反応式を示している。これに対して、式3は、水酸化カルシウムの脱水に伴って蓄熱量Qに相当する熱を蓄熱する化学反応式を示している。なお、本実施形態の蓄熱材34における単位質量当たりの蓄熱容量は、一例として1.86[MJ/kg]とされている。
【0037】
[蓄熱器内の経路部の熱交換部22Aについて]
前述のとおり、経路部22の熱交換部22Aは、蓄熱器30内に配置されている。具体的には、熱交換部22Aは、
図1に示されるように、それぞれ容器32の外壁32Aに形成された2ヶ所の貫通穴に固定されて、容器32内に配置されている。なお、熱交換部22Aの外壁は、蓄熱材34に接触している。
【0038】
[蓄熱器と他の要素との関係]
次に、蓄熱器30と他の要素との関係について説明する。
【0039】
〔蓄熱器における反応と流路部内の熱媒との関係〕
蓄熱器30は、放熱する場合、後述する蒸発凝縮器40で蒸発された水(図示省略)を蓄熱材34に反応(水和)させて放熱するようになっている。その結果、経路部22の熱交換部22Aを流通する熱媒は、熱(蓄熱材34が放熱した熱)を吸収するようになっている。なお、本実施形態の蓄熱器30は、放熱する場合、熱交換部22A内の熱媒を一例として80℃から400℃に加熱するようになっている。
【0040】
これに対して、蓄熱器30は、蓄熱する場合、熱交換部22Aを流通する熱媒から与えられる熱により水酸化カルシウムを反応(脱水)させて蓄熱するようになっている。ここで、水酸化カルシウムを反応(脱水)させるとは、水蒸気と反応(水和)した蓄熱材34から水蒸気を生成することを意味する。その結果、熱交換部22Aを流通する熱媒は、蓄熱材34に熱を奪われるようになっている。なお、本実施形態の蓄熱器30は、蓄熱する場合、熱媒を一例として400℃から350℃に冷却するようになっている。
【0041】
〔蓄熱器と蒸発凝縮器との関係〕
蓄熱器30(の容器32)は、蒸発凝縮器40(の後述する容器42)に気密状態で連結されている。具体的には、容器32の下壁32Cの貫通穴にパイプP2の一端がシールされた状態で固定されている。これに対して、パイプP2の他端は、後述する蒸発凝縮器40の容器42の上壁42Bの貫通穴にシールされた状態で固定されている。
【0042】
また、蓄熱器30と蒸発凝縮器40とは、容器32と容器42とがパイプP2により繋げられて、閉じた系を形成している。当該閉じた系は、予め定められた量の水(又は水蒸気)を含んだ状態であって、大気圧よりも気圧が低い環境(減圧環境)とされている。
【0043】
<蒸発凝縮器>
蒸発凝縮器40は、水蒸気を凝縮させる機能と、水(図示省略)を蒸発させる機能とを有する。蒸発凝縮器40は、
図1に示されるように、容器42と、流路部44とを含んで構成されている。
【0044】
[容器]
容器42は、一例として、円筒状とされており、周壁42Aと、上壁42Bと、下壁42Cと、で構成されている。また、周壁42Aには装置高さ方向に並ぶ2ヶ所の貫通穴が形成されており、上壁42Bの中央には1ヶ所の貫通穴が形成されている。なお、容器42は、断熱材(図示省略)により覆われている。
【0045】
容器42は、前述のとおり、上壁42Bの貫通穴と蓄熱器30(の容器32)の下壁32Cの貫通穴とにパイプP2がシールされた状態で固定されることで、蓄熱器30(の容器32)に気密状態で連結されている。
【0046】
[流路部]
流路部44は、水(冷却水又は加熱水)が流通する流路とされている。本実施形態の流路部44は、
図1に示されるように、一例としてパイプとされており、その一端部及び他端部が、それぞれ容器42の外壁42Aの2ヶ所の貫通穴にシールされた状態で固定されている。そして、流路部44は、その一端部から送り込まれる水をその他端部から送り出すようになっている。
【0047】
また、本実施形態の流路部44は、冷却水又は加熱水を送り込むパイプ(図示省略)に切替手段(図示省略)により切替可能とされて繋がっている。そして、流路部44は、その一端部から冷却水が送り込まれることにより容器42内の水蒸気を凝縮させるようになっている。これに対して、流路部44は、その一端部から加熱水が送り込まれることにより、容器42内の水を蒸発させるようになっている。なお、容器42内の水蒸気は、蓄熱器30において生成され、パイプP2から容器42内に送られた水蒸気とされる。
【0048】
<膨張タンク>
膨張タンク50は、経路部22内における熱媒の圧力を定められた圧力に調整する機能を有する。膨張タンク50の具体的な構成については、後述する。
【0049】
<制御装置>
制御装置60は、蓄熱システム10における膨張タンク50及び制御装置60以外の各部を制御する機能を有する。すなわち、本実施形態の蓄熱システム10では、膨張タンク50は、制御装置60により制御されるものではない。ただし、制御装置60は、後述する膨張タンク50における制御部100以外を制御する制御部100を備えた構成としてもよい。この場合、制御装置60は、制御部の一例である。制御装置60の具体的な機能については、蓄熱システム10の動作の説明の中で説明する。
【0050】
以上が、本実施形態の蓄熱システム10の全体構成についての説明である。
【0051】
≪動作≫
次に、本実施形態の蓄熱システム10の動作について
図1を参照しつつ説明する。本実施形態の蓄熱システム10の動作は、蓄熱モードと、放熱モードとを含む。また、蓄熱システム10の動作では、制御装置60が膨張タンク50及び制御装置60以外の各要素を制御し、後述する制御部100が膨張タンク50における制御部100以外の各部を制御することで行われる。
【0052】
<蓄熱モード>
蓄熱モードは、熱媒から与えられる熱により水酸化カルシウムを反応(脱水)させて蓄熱するモードである。蓄熱モードでは、
図1における破線内の経路部22に、切換手段(図示省略)により循環経路が切り替えられて熱源(図示省略)が接続されているとする。
【0053】
まず、制御装置60がポンプ24を駆動させると、経路部22内の熱媒が循環方向(
図1中の矢印FLの方向)に流通される。これに伴い、経路部22内の熱媒は、熱源により一例として400℃に加熱される。そして、400℃に加熱された熱媒は、経路部22内を流通して蓄熱器30内に配置されている経路部22の熱交換部22Aに送り込まれる。その結果、蓄熱器30の蓄熱材34は、熱交換部22Aに送り込まれた熱媒から与えられる熱により水酸化カルシウムを脱水させる(水蒸気を生成する)。これに伴い、蓄熱材34は、蓄熱する(前述の式3参照)。そして、容器32内で生成された水蒸気は、パイプP2を通って、蒸発凝縮器40の容器42内に流れ込む。なお、蓄熱材34に熱を与えた熱媒は、一例として350℃に冷却される。また、制御装置60は、蒸発凝縮器40の流路部44に、一例として20℃の水(冷却水)を流す。その結果、容器42内の水蒸気は、容器42内で凝縮する(20℃の水になる)。蓄熱モードでは、経路部22内を熱媒が循環することで、以上の動作が繰り返される。以上が、蓄熱モードについての説明である。
【0054】
<放熱モード>
放熱モードは、蒸発凝縮器40で蒸発された水蒸気を蓄熱材34に反応(水和)させて放熱するモードである。蓄熱モードでは、
図1における破線内の経路部22に、切換手段(図示省略)により循環経路が切り替えられて加熱対象(図示省略)が接続されているとする。
【0055】
まず、制御装置60がポンプ24を駆動させると、経路部22内の熱媒が循環方向(
図1中の矢印FLの方向)に流通される。次いで、制御装置60は、蒸発凝縮器40の流路部44に、一例として70℃の水(加熱水)を流す。その結果、容器42の水は加熱されて蒸発して、水蒸気が生成される。そして、容器42で生成された水蒸気は、パイプP1を通って、蓄熱器30の容器32内に流れ込む。さらに、容器32内に流れ込んだ水蒸気は、蓄熱材34(酸化カルシウム)に水和される。これに伴い、蓄熱材34は放熱する(前述の式2参照)。そして、熱媒は、蓄熱材34が放熱した熱を吸収して一例として400℃に加熱され、経路部22内を流通して、加熱対象に吸収した熱を輸送する。放熱モードでは、経路部22内を熱媒が循環することで、以上の動作が繰り返される。以上が、放熱モードについての説明である。
【0056】
以上が、本実施形態の蓄熱システム10の動作についての説明である。
【0057】
≪要部≫
次に、本実施形態の要部である膨張タンク50について説明する。まず、膨張タンク50の構成について説明し、次いで、膨張タンク50の動作について説明する。
【0058】
<膨張タンクの構成>
膨張タンク50は、経路部22内における熱媒の圧力を定められた圧力に調整する機能を有する。具体的に、経路部22内の熱媒の温度が高くなるほど、熱媒の密度が下がって熱媒の体積が増加することになる。ここで、本実施形態の定められた圧力は、一例として膨張タンク50を構成する後述する第1室74内の蒸気(熱媒の蒸気)の圧力が後述する温度計80が測った温度の蒸気圧となる圧力とされる。この場合、膨張タンク50は、増加した体積分の熱媒を経路部22から受け取って、経路部22内における熱媒の圧力を定められた圧力に調整するようになっている。これに対して、経路部22内の熱媒の温度が低くなるほど、熱媒の密度が上がって熱媒の体積が減少することになる。この場合、膨張タンク50は、減少した体積分の熱媒を経路部22に受け渡して、経路部22内における熱媒の圧力を定められた圧力に調整するようになっている。
【0059】
膨張タンク50は、容器70と、仕切り板78と、補助部材79と、温度計80と、圧力計82と、検出部84と、変更部90と、制御部100と、記憶部110と、を含んで構成されている(
図2、
図3、
図4及び
図5参照)。
【0060】
[容器、仕切り板及び補助部材79]
容器70は、
図2、
図3及び
図4に示されるように、一例として、円筒状とされており、周壁71と、上壁72と、下壁72と、で構成されている。周壁71には装置高さ方向に並ぶ3ヶ所の貫通穴(以下、上側から、貫通穴71A、貫通穴71B、貫通穴71Cという。)が、上壁72の中央には1ヶ所の貫通穴72Aが、下壁73の中央には1ヶ所の貫通穴73Aが形成されている。
【0061】
容器70内には、円板状であって、容器70内を2つの室に分ける仕切り板78が配置されている。仕切り板78は、全周に亘ってシール材78Aが設けられ、容器70の内壁に密着した状態で、貫通穴71Bが形成されている位置よりも下側かつ貫通穴71Cの形成されている位置よりも上側の範囲を上下方向に移動可能とされている。以下、容器70内における仕切り板78により仕切られた室のうち下側の室を第1室74とし、上側の室を第2室76として説明する。ここで、第1室74は、熱媒室の一例である。また、第2室76は、気体室の一例である。
【0062】
容器70の下壁73の貫通穴73Aには、
図1、
図2、
図3及び
図4に示されるように、パイプP1がシールされた状態で嵌め込まれている。そのため、第1室74は、経路部22に気密状態で連結され、熱媒及び蒸気(熱媒の蒸気)を収容するようになっている。これに対して、第2室76は、不活性ガス(一例として窒素ガス)を収容するようになっている。ここで、不活性ガスは、気体の一例である。なお、第2室76は、変更部90に不活性ガスを排出すること又は変更部90から不活性ガスが注入されることで、その気圧が変更されるようになっている。そして、仕切り板78は、第1室74と第2室76との気圧差で(上下方向に)移動するように構成されている。ここで、仕切り板78は、壁の一例である。
【0063】
なお、仕切り板78の上面の中央部分には、
図1、
図2、
図3及び
図4に示されるように、長尺の円柱(以下、補助部材79という。)が固定されている。補助部材79は、仕切り板78に固定されている一端と反対側の端(他端)が容器70の上壁72の貫通穴72Aから外にはみ出した状態で、装置高さ方向に沿っている。なお、貫通穴72Aの内周面全周にはシール材が設けられており、補助部材79は、仕切り板78の上下方向への移動に伴い容器70に対して滑りながら移動可能とされている。そして、補助部材79は、仕切り板78が上下方向に移動するに際し、仕切り板78の上面(又は下面)が装置高さ方向に直交している状態を維持できるように補助している。すなわち、仕切り板78、補助部材79及び容器70により、いわゆるピストンシリンダーが構成されているといえる。
【0064】
[温度計]
温度計80は、第1室74内の熱媒の温度を測る機能を有する。温度計80は、
図1、
図2、
図3及び
図4に示されるように、その測定端子が容器70の周壁71の貫通穴71Cにシールされた状態で嵌め込まれている。そして、温度計80は、逐次(一例として0.1秒ごとに)、第1室74内の熱媒の温度を測るようになっている。なお、温度計80が測った結果(熱媒の温度に関する情報)は、その都度、制御部100に送られるようになっている(
図5参照)。
【0065】
[圧力計]
圧力計82は、第2室76内の気圧を測る機能を有する。圧力計82は、
図1、
図2、
図3及び
図4に示されるように、容器70の周壁71の貫通穴71Cにシールされた状態で取り付けられている。そして、圧力計82は、逐次(一例として0.1秒ごとに)、第2室76内の気圧を測るようになっている。なお、圧力計82が測った結果(気圧に関する情報)は、その都度、制御部100に送られるようになっている(
図5参照)。
【0066】
[検出部]
検出部84は、仕切り板78の位置を検出する機能を有する。本実施形態の検出部84は、一例として、光学センサとされている。検出部84は、
図1、
図2、
図3及び
図4に示されるように、補助部材79の上端面から離間して、補助部材79の上側に配置されている。そして、検出部84は、逐次(一例として0.1秒ごとに)、補助部材79の上端面に光を照射し、上端面から反射した光を検出することで、上端面の位置を検出するようになっている。なお、本実施形態の検出部84は、検出した補助部材79の上端面の位置を検出することに伴い、補助部材79の高さから換算して仕切り板78の位置を算出するようになっている。すなわち、検出部84は、逐次(一例として0.1秒ごとに)、仕切り板78の位置を検出するようになっている。なお、検出部84が検出した結果(仕切り板78の位置に関する情報)は、その都度、制御部100に送られるようになっている(
図5参照)。
【0067】
[変更部]
変更部90は、第2室76内の気圧を変更する機能を有する。変更部90は、バイプ92と、アングルバルブ94と、ガスボンベ96と、排気パイプ98と、を備えている。本実施形態のガスボンベ96には、不活性ガス(一例として窒素ガス)が高圧の状態で収容されている。また、本実施形態のガスボンベ96には、レギュレーター(図示省略)が設けられており、ガスボンベ96内の圧力に寄らず定められた圧力で不活性ガスを送り出すように構成されている。変更部90は、
図1、
図2、
図3及び
図4に示されるように、容器70の周壁71の貫通穴71Aにパイプ92の一端部がシールされた状態で取り付けられている。そして、変更部90は、第2室76内の気圧を上昇させる場合、アングルバルブ94におけるガスボンベ96側の弁を開放してガスボンベ96内の不活性ガスを第2室76内に注入するようになっている。これに対して、変更部90は、第2室76内の気圧を低下させる場合、アングルバルブ94における排気パイプ98側の弁を開放して第2室76内の不活性ガスを排出させるようになっている。以上のとおり、変更部90は、第2室76内の気圧を変更することで、第1室74内と第2室76内の気圧差で仕切り板78を上下方向に移動させるようになっている。ここで、変更部90は、移動部の一例である。なお、本実施形態のアングルバルブ94及びガスボンベ96のレギュレーター(図示省略)は、制御部100により制御されるようになっている(
図5参照)。
【0068】
[制御部及び記憶部]
制御部100は、膨張タンク50における制御部100以外の制御を行う機能を有する。具体的に、制御部100は、温度計80、変更部90及び検出部84を用いて、逐次(一例として0.1秒ごとに)、(温度計80が測る温度(の情報)に基づき、)第1室74内の気圧を温度計80が測った温度の蒸気圧にする位置に仕切り板78を移動させるように第2室76内の気圧を変更させる機能を有する。制御部100は、温度計80から逐次送られてくる第1室74内の熱媒の温度の情報と、検出部84から逐次送られてくる仕切り板78の位置の情報と、記憶部110に予め記憶されている熱媒の温度と蒸気圧との関係のテーブルTBとに基づいて、第1室74内の蒸気圧を算出するようになっている(
図5参照)。制御部100についての詳しい機能については、蓄熱システム10の動作の説明の中で説明する。
【0069】
<膨張タンクの動作>
次に、本実施形態の膨張タンク50の動作について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の膨張タンク50は、例えば、蓄熱システム10の動作における蓄熱モード及び放熱モードによって異なる。以下、まず、蓄熱システム10が放熱モードで動作する場合について説明し、次いで、蓄熱モードで動作する場合について説明する。
【0070】
[放熱モード]
以下、
図2に示される膨張タンク50の状態を初期状態として説明する。ここで、初期状態とは、膨張タンク50における第1室74内の熱媒の温度が蓄熱システム10における最低の温度(一例として80℃)にある状態をいう。
【0071】
まず、蓄熱システム10における制御装置60によりポンプ24が駆動されると、経路部22内の熱媒が循環方向(
図1中の矢印FLの方向)に流通される。そして、一例として350℃であった熱媒は、経路部22内を流通されて、蓄熱器30内を通過することで、蓄熱材34が放熱した熱を吸収して一例として400℃に加熱される。これに伴い、経路部22内の熱媒の温度が高くなる(この場合、熱媒の温度が350℃から400℃になる)。そして、経路部22内の熱媒の密度が下がって熱媒の体積が増加する。その結果、経路部22内における増加した体積分の熱媒は、パイプP1を通って第1室74内に移る。また、膨張タンク50は、
図2の状態から
図3の状態を経て
図4の状態に変化する。ここで、
図3の状態は、経路部22内から第1室74内に熱媒が移っている状態である。また、
図4の状態は、経路部22内で増加した体積分の熱媒が移り終わった状態である。
【0072】
次に、膨張タンク50が、
図2の状態から
図3の状態を経て
図4の状態に変化するまでの動作について詳しく説明する。
【0073】
放熱モードにおいて、制御部100は、温度計80により測った第1室74内の熱媒の温度の情報と、検出部84により測った仕切り板78の位置の情報と、テーブルTBとを用いて、第1室74内の気圧を算出する。次いで、制御部100は、第1室74内の気圧を蒸気圧にするための仕切り板78の位置を算出する。次いで、制御部100は、変更部90を用いて、仕切り板78を、算出した第1室74内の気圧を蒸気圧にする位置に移動させる。具体的には、以下のとおりである。
【0074】
まず、温度計80は、前述のとおり、逐次、第1室74内の熱媒の温度を測り、その結果(熱媒の温度に関する情報)を、その都度制御部100に送る(
図5参照)。また、検出部80は、前述のとおり、逐次、仕切り板78の位置を測り、その結果(仕切り板78の位置の情報)を、その都度制御部100に送る(
図5参照)。そして、制御部100は、熱媒の温度に関する情報が送られてくる都度、記憶部に記憶されているテーブルTBに基づいて、第1室74内の蒸気圧を算出する。なお、蓄熱システム10が放熱モードを開始した直後は、第1室74内の熱媒の温度が上昇している状態である。そのため、制御部100が第1室74内の蒸気圧を算出した時点において、第1室74内の気圧は蒸気圧よりも高い状態にあるといえる。
【0075】
また、圧力計82は、前述のとおり、逐次、第2室76内の気圧を測り、その結果(気圧に関する情報)を、その都度制御部100に送る(
図5参照)。
【0076】
以上のようにして、制御部100には、温度計80、圧力計82及び検出部84から各情報が送られる。次いで、制御部100は、温度計80から送られてくる第1室74内の温度の情報に基づき、第1室74内の気圧が温度計80が測った温度の蒸気圧となるように、変更部90を作動させて、第2室76内の気圧を変更させる。具体的に、制御部100は、変更部90のアングルバルブ94を作動させ、排気パイプ98側の弁を開けて、第2室76内の気圧を低下させる。この場合、制御部100は、仕切り板78の位置が初期状態より上昇して第1室74内の気圧が蒸気圧となり、かつ、第2室76内の気圧並びに仕切り板78及び補助部材79の自重との関係により仕切り板78が静止する位置となるように、当該静止する位置を目指して、変更部90を用いて仕切り板78を移動させる。さらにこの場合、制御部100は、第2室76内の気圧を第1室74内における蒸気圧よりも低い定められた範囲の気圧で変化させる(
図6の一点鎖線のスペクトル)。ここで、定められた範囲の気圧は、一例として、第1室74内の蒸気圧の80%以上95%以下の範囲の気圧とされており、本実施形態の制御部100は、一例として、第2室76内の気圧が第1室74内の蒸気圧の90%の気圧となるように設定されている。なお、制御部100は、第2室76内の気圧を第1室74内の蒸気圧の90%の気圧で変化させるが、最終的にはアングルバルブ94の弁が閉じられることで、仕切り板78は静止する位置となる(
図4参照)。
【0077】
[蓄熱モード]
次に、蓄熱システム10が蓄熱モードで動作する場合における、膨張タンク50の動作について図面を参照しつつ説明する。この場合、膨張タンク50は、例えば、
図4の状態から
図3の状態を経て
図2の状態に変化する。
【0078】
まず、蓄熱システム10における制御装置60によりポンプ24が駆動されると、経路部22内の熱媒が循環方向(
図1中の矢印FLの方向)に流通される。そして、一例として400℃であった熱媒は、経路部22内を流通されて、蓄熱器30内を通過することで、蓄熱材34に熱を与えて一例として350℃に冷却される。これに伴い、経路部22内の熱媒の温度が低くなる(この場合、熱媒の温度が400℃から350℃になる)。そして、経路部22内の熱媒の密度が上がって熱媒の体積が減少する。その結果、第1室74内の熱媒は、パイプP1を通って経路部22内に移る。すなわち、経路部22内の減少した体積分の熱媒は、第1室74内から経路部22内に補充される。
【0079】
次に、膨張タンク50が、
図4の状態から
図3の状態を経て
図2の状態に変化するまでの動作について詳しく説明する。
【0080】
蓄熱モードにおいて、制御部100は、温度計80により測った第1室74内の熱媒の温度の情報と、検出部84により測った仕切り板78の位置の情報と、テーブルTBとを用いて、第1室74内の気圧を算出する。次いで、制御部100は、第1室74内の気圧を蒸気圧にするための仕切り板78の位置を算出する。次いで、制御部100は、変更部90を用いて、仕切り板78を、算出した第1室74内の気圧を蒸気圧にする位置に移動させる。具体的には、以下のとおりである。
【0081】
まず、温度計80は、前述のとおり、逐次、第1室74内の熱媒の温度を測り、その結果(熱媒の温度に関する情報)を、その都度制御部100に送る(
図5参照)。また、検出部80は、前述のとおり、逐次、仕切り板78の位置を測り、その結果(仕切り板78の位置の情報)を、その都度制御部100に送る(
図5参照)。そして、制御部100は、熱媒の温度に関する情報が送られてくる都度、記憶部に記憶されているテーブルTBに基づいて、第1室74内の蒸気圧を算出する。なお、蓄熱システム10が放熱モードを開始した直後は、第1室74内の熱媒の温度が低下している状態である。そのため、制御部100が第1室74内の蒸気圧を算出した時点において、第1室74内の気圧は蒸気圧よりも低い状態にあるといえる。
【0082】
また、圧力計82は、前述のとおり、逐次、第2室76内の気圧を測り、その結果(気圧に関する情報)を、その都度制御部100に送る(
図5参照)。
【0083】
以上のようにして、制御部100には、温度計80、圧力計82及び検出部84から各情報が送られる。次いで、制御部100は、温度計80から送られてくる第1室74内の温度の情報に基づき、第1室74内の気圧が温度計80が測った温度の蒸気圧となるように、変更部90を作動させて、第2室76内の気圧を変更させる。具体的に、制御部100は、変更部90のアングルバルブ94を作動させ、ガスボンベ96側の弁を開けて、第2室76内の気圧を上昇させる。この場合、制御部100は、仕切り板78の位置が
図4の状態より下降して第1室74内の気圧が蒸気圧となり、かつ、第2室76内の気圧並びに仕切り板78及び補助部材79の自重との関係により仕切り板78が静止する位置となるように、当該静止する位置を目指して、変更部90を用いて仕切り板78を移動させる。さらにこの場合、制御部100は、第2室76内の気圧を第1室74内における蒸気圧よりも高い定められた範囲の気圧で変化させる(
図6の破線のスペクトル)。ここで、定められた範囲の気圧は、一例として、第1室74内の蒸気圧の105%以上125%以下の範囲の気圧とされており、本実施形態の制御部100は、一例として、第2室76内の気圧が第1室74内の蒸気圧の110%の気圧となるように設定されている。なお、制御部100は、第2室76内の気圧を第1室74内の蒸気圧の110%の気圧で変化させるが、最終的にはアングルバルブ94の弁が閉じられることで、仕切り板78は静止する位置となる(
図2参照)。なお、前述のとおり、蓄熱モードの際の定められた範囲の気圧は、第1室74内の蒸気圧の105%以上125%以下の気圧とされているが、この範囲は、第1室74内の蒸気圧が第2室76内の気圧に対して80%以上95%以下の気圧に相当する関係とされる。
【0084】
以上が、本実施形態の膨張タンク50の動作についての説明である。
【0085】
≪作用≫
次に、本実施形態の作用(第1、第2及び第3の作用)について、以下に説明する各比較形態と比較しつつ図面を参照して説明する。なお、各比較形態において本実施形態で用いた部品等を用いる場合、図示しなくてもその部品、名称等をそのまま用いて説明する。
【0086】
<第1の作用>
第1の作用は、第1の作用は、膨張タンク50が、経路部22に気密状態で連結されており、容器70と仕切り板78とで形成される第1室76を有し、仕切り板78が制御部100に制御されて移動することの作用である。別の見方をすると、膨張タンク50が、経路部22に気密状態で連結されている第1室74と、経路部22に連結されていない第2室76とに分けられ、かつ、仕切り板78が制御部100に制御されて移動されることの作用である。以下、第1の作用について、本実施形態を以下の第1及び第2比較形態と比較して説明する。
【0087】
第1比較形態は、
図7に示されるように、膨張タンク50Aの容器70内に仕切り板78が配置されていない。また、膨張タンク50Aは、制御部100が、圧力計82が測った圧力が定められた圧力を超えた場合に、パイプ92に取り付けられた大気開放バルブVを開くことで、容器70内の気圧を調整するように構成されている。第1比較形態の膨張タンク50A(蓄熱システム10A)は、上記の点以外、本実施形態の膨張タンク50(蓄熱システム10)と同様の構成とされている。
【0088】
第1比較形態の場合、容器70内の気圧を調整するために大気開放バルブVが開くと、経路部22内及び容器70内の熱媒から気化した蒸気が経路部22内及び容器70内の閉じた系から排出されてしまう。そのため、排出された分の熱媒を補充する必要がある。また、第1比較形態の場合、容器70内の気圧を調整するために大気開放バルブVが開くことで、容器70内の気圧が急激に変化し得る。そして、容器70内の圧力が急激に変化すると、経路部22内の熱媒にキャビテーションが発生し易い。これに伴い、第1比較形態の場合、経路部22での熱媒の輸送効率が低下し易い。
【0089】
次に、第2比較形態について
図8を参照しつつ説明する。第2比較形態の膨張タンク50Bは、本実施形態の仕切り板78に換えて、ゴム製のダイヤフラム78Bにより容器70内を第1室74と第2室76とに仕切っている。また、第2比較形態の場合、容器70の上壁72及び周壁71には貫通穴が形成されていない。そして、第2比較形態の膨張タンク50Bには、温度計80、圧力計82、検出部84、変更部90及び制御部100が備えられていない。第2比較形態の膨張タンク50B(蓄熱システム10B)は、上記の点以外、本実施形態の膨張タンク50(蓄熱システム10)と同様の構成とされている。
【0090】
第2比較形態の場合、第1室74内の熱媒の量により、ダイヤフラム78Bが変形する。そのため、第2比較形態の場合、経路部22内及び第1室74内の熱媒(及び蒸気)が経路部22内及び容器70内の閉じた系から排出されることがない。すなわち、第2比較形態の場合、第1比較形態の場合のように、熱媒を補充する必要がない。しかしながら、第2比較形態の場合、第1室74内の熱媒の量と第2室76内の不活性ガスの量等の関係により、ダイヤフラム78Bの変形させていることから、ダイヤフラム78Bを受動的にしか変形させることができない。さらに、第2比較形態の場合、第1室74内は熱媒と熱媒の蒸気とが収容された状態、すなわち、第1室74内の一部に蒸気が存在している状態では、ダイヤフラム78Bを安定して変形させることが難しい。
【0091】
これに対して、本実施形態の場合、膨張タンク50は、
図1、
図2、
図3及び
図4に示されるように、経路部22に気密状態で連結されている第1室74と、経路部22に連結されていない第2室76とに分けられている。そのため、本実施形態の場合、第1比較形態の場合と異なり、経路部22内の熱媒が外部に排出されることがない。また、本実施形態の場合、仕切り板78が制御部100に制御されて移動される。そのため、本実施形態の場合、第1比較形態の場合と異なり、第1室74内の気圧が急激に変化することがない。
【0092】
したがって、本実施形態の膨張タンク50によれば、熱媒を補充する必要がなく、かつ、経路部22(循環部20)の熱媒におけるキャビテーションの発生を抑制するように制御することができる。これに伴い、本実施形態の蓄熱システム10によれば、経路部22の熱媒におけるキャビテーションの発生に伴う熱媒の輸送効率の低下が抑制される。
【0093】
<第2の作用>
第2の作用は、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも高い場合、制御部100が第2室76内の気圧を第1室74内の蒸気圧より低い定められた範囲(一例として、当該蒸気圧の80%以上95%以下の気圧)の気圧で変化させる制御を行うことの作用である。以下、第2の作用について、本実施形態を以下の第3及び第4比較形態(図示省略)と比較して説明する。
【0094】
第3比較形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも高い場合、制御部100が第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧(の下限)よりも低い気圧(一例として、蒸気圧の50%の気圧)で変化させる制御を行うようになっている。第3比較形態の膨張タンク(蓄熱システム)は、上記の点以外、本実施形態の膨張タンク50(蓄熱システム10)と同様の構成とされている。なお、第3比較形態は、上記の第1の作用を奏する構成を備えた形態であることから、本発明の技術的範囲に属する。
【0095】
また、第4比較形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも高い場合、制御部100が第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧(の上限)よりも高い気圧(一例として、蒸気圧の98%の気圧)で変化させる制御を行うようになっている。第4比較形態の膨張タンク(蓄熱システム)は、上記の点以外、本実施形態の膨張タンク50(蓄熱システム10)と同様の構成とされている。なお、第4比較形態は、上記の第1の作用を奏する構成を備えた形態であることから、本発明の技術的範囲に属する。
【0096】
第3比較形態の場合、第1室74内の気圧が蒸気圧となるように仕切り板78を移動させる際、仕切り板78の移動により経路部22内の熱媒にキャビテーションが発生する虞がある。
【0097】
これに対して、本実施形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも高い場合、第2室76内の気圧を第3比較形態の場合の気圧より高くして仕切り板78を移動させる。そのため、本実施形態の場合、第3比較形態の場合に比べて、仕切り板78が遅く移動する。
【0098】
したがって、本実施形態によれば、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも高い場合において、制御部100が、第1室74内の熱媒の温度に基づき、第1室74内の気圧を蒸気圧にする位置に仕切り板78を移動させるように第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧より低い気圧で変化させながら変更させる制御を行う場合に比べて、経路部22(循環部20)の熱媒におけるキャビテーションの発生を抑制させることができる。
【0099】
なお、第4比較形態の場合、本実施形態の場合と同様、第3比較形態の場合に比べて、仕切り板78が遅く移動する。そのため、第4比較形態の場合、本実施形態の場合と同様、第3比較形態の場合に比べて、経路部22(循環部20)の熱媒におけるキャビテーションの発生を抑制させることができる。ただし、本実施形態は、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも高い場合において、制御部100が、第1室74内の熱媒の温度に基づき、第1室74内の気圧を蒸気圧にする位置に仕切り板78を移動させるように第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧より高い気圧で変化させながら変更させる制御を行う場合に比べて、短時間で仕切り板78を移動させることができる(短時間で仕切り板78を理想の位置に移動させることができる)。
【0100】
<第3の作用>
第3の作用は、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合、制御部100が第2室76内の気圧を第1室74内の蒸気圧より高い定められた範囲(一例として、当該蒸気圧の105%以上125%以下の気圧)の気圧で変化させる制御を行うことの作用である。以下、第3の作用について、本実施形態を以下の第5及び第6比較形態(図示省略)と比較して説明する。
【0101】
第5比較形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合、制御部100が第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧(の下限)よりも低い気圧(一例として、蒸気圧の102%の気圧)で変化させる制御を行うようになっている。第5比較形態の膨張タンク(蓄熱システム)は、上記の点以外、本実施形態の膨張タンク50(蓄熱システム10)と同様の構成とされている。なお、第5比較形態は、上記の第1の作用を奏する構成を備えた形態であることから、本発明の技術的範囲に属する。
【0102】
また、第6比較形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合、制御部100が第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧(の上限)よりも高い気圧(一例として、蒸気圧の150%の気圧)で変化させる制御を行うようになっている。第6比較形態の膨張タンク(蓄熱システム)は、上記の点以外、本実施形態の膨張タンク50(蓄熱システム10)と同様の構成とされている。なお、第6比較形態は、上記の第1の作用を奏する構成を備えた形態であることから、本発明の技術的範囲に属する。
【0103】
第5比較形態の場合、第1室74内の気圧が蒸気圧となるように仕切り板78を移動させる際、仕切り板78の移動により経路部22内の熱媒にキャビテーションが発生する虞がある。
【0104】
これに対して、本実施形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合、第2室76内の気圧を第5比較形態の場合の気圧より高くして仕切り板78を移動させる。そのため、本実施形態の場合、第5比較形態の場合に比べて、仕切り板78が速く移動する。
【0105】
したがって、本実施形態によれば、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合において、制御部100が、第1室74内の熱媒の温度に基づき、第1室74内の気圧を蒸気圧にする位置に仕切り板78を移動させるように第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧より低い気圧で変化させながら変更させる制御を行う場合に比べて、経路部22(循環部20)の熱媒におけるキャビテーションの発生を抑制させることができる。
【0106】
なお、第6比較形態の場合、本実施形態の場合と同様、第5比較形態の場合に比べて、仕切り板78が速く移動する。そのため、第6比較形態の場合、本実施形態の場合と同様、第5比較形態の場合に比べて、経路部22の熱媒におけるキャビテーションの発生を抑制させることができる。しかしながら、第6比較形態の場合、第5比較形態の場合に比べて、第1室74内からパイプP1を通って経路部22(循環部20)に移る熱媒の移動速度(熱媒における単位時間当たりの移動量)が速い。そのため、第6比較形態の場合、第5比較形態に比べて、例えば、経路部22内を循環する熱媒と温度差の大きい(経路部22内を循環する熱媒よりも温度の低い)第1室74内の熱媒が急激に経路部22内に流れ込む場合がある。その結果、第6比較形態の場合、第5比較形態の場合に比べて、経路部22内を循環する熱媒に温度分布が大きくなり(局所的に温度差がある部分ができ易くなり)、熱媒による熱の輸送効率が低下し易い。これに伴い、第6比較形態の場合、蓄熱器30における反応効率が低下し易い。
【0107】
これに対して、本実施形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合、第2室76内の気圧を第6比較形態の場合の気圧より低くして仕切り板78を移動させる。そのため、本実施形態の場合、第6比較形態の場合に比べて、仕切り板78が遅く移動する。
【0108】
したがって、本実施形態は、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合において、制御部100が、第1室74内の熱媒の温度に基づき、第1室74内の気圧を蒸気圧にする位置に仕切り板78を移動させるように第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧より高い気圧で変化させながら変更させる制御を行う場合に比べて、ゆっくりと仕切り板78を移動させることができる。これに伴い、本実施形態によれば、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合において、制御部100が、第1室74内の熱媒の温度に基づき、第1室74内の気圧を蒸気圧にする位置に仕切り板78を移動させるように第2室76内の気圧を定められた範囲の気圧より高い気圧で変化させながら変更させる制御を行う場合に比べて、経路部22(循環部20)における熱媒による熱の輸送効率が低下し難い。
【0109】
以上が、本実施形態の蓄熱システム10の作用についての説明である。
【0110】
以上のとおり、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的範囲には前述した実施形態以外の形態も含む。例えば、本発明の技術的範囲には、下記のような形態も含まれる。
【0111】
本実施形態では、温度計80からの温度の情報、検出部84による仕切り板78の位置の情報、及びテーブルTBに基づき、第1室74内の気圧が蒸気圧となるように、変更部90により第1室74内と第2室76内との気圧差を利用して仕切り板78を移動させるとして説明した。しかしながら、温度計80からの温度の情報、検出部84による仕切り板78の位置の情報及びテーブルTBに基づき、第1室74内の気圧が蒸気圧となるように、第1室74内の容積を変更することができれば、異なる形態であってもよい。例えば、上壁72に開口している、すなわち、密閉領域を形成する第2室76を有さない容器70と仕切り板78とで経路部22に気密状態で連結されている第1室74(室)を形成し、当該室内の熱媒の温度を温度計80により測定し、検出部84により仕切り板78の位置を掲出し、移動手段(図示省略、移動部の一例)を用いて、仕切り板78を当該室内の気圧が蒸気圧となる位置に移動させるようにしてもよい。この場合、移動部の一例は、補助部材79に取り付けられているモーター(図示省略)等であってもよい。
【0112】
本実施形態では、膨張タンク50の容器70は円筒状であるとして説明した。しかしながら、容器70の形状は矩形状その他の形状であってもよい。蓄熱器30の容器32、蒸発凝縮器40の容器42の場合も同様である。
【0113】
本実施形態では、膨張タンク50における仕切り板78の位置(補助部材79の上端面の位置)は、光を用いて検出されるとして説明した。しかしながら、仕切り板78の位置を検出することができれば、別の手段により検出する構成としてもよい。例えば、接触式検出手段その他の手段としてもよい。
【0114】
本実施形態では、膨張タンク50の容器70が、第1室74と第2室76とが装置高さ方向に重なるように配置されているとして説明した。しかしながら、容器70内が仕切り板78により2つの室(第1室74及び第2室76)に仕切られており、第1室74内と第2室76内の気圧差により仕切り板78が移動する構成であれば、容器70は、第1室74と第2室76とが装置高さ方向に重なるように配置されていなくてもよい。例えば、容器70は、第1室74と第2室76とが横方向(装置高さ方向と直交する方向)に並ぶように配置されていてもよい。
【0115】
本実施形態では、変更部90において、排気パイプ98はパイプ(筒)であるとして説明した。しかしながら、排気パイプ98の一端部(アングルバルブ94の固定されている側と反対側の端部)に排気ポンプ(図示省略)を設けて排気ポンプを作動させることで、排気パイプ98を通じて第2室76内の不活性ガスを排気してもよい。
【0116】
本実施形態では、膨張タンク50と経路部22とは、パイプP1により連結され、常時気密状態で繋がっているとして説明した。しかしながら、パイプP1にバルブ(図示省略)を設け、バルブによりパイプP1を開閉させるようにしてもよい。このような構成にすれば、例えば、蓄熱システム10において、膨張タンク50又は膨張タンク50以外のメンテナンス等を行う場合に有効である。
【0117】
本実施形態では、蓄熱器30と蒸発凝縮器40とは、パイプP2により連結され、常時気密状態で繋がっているとして説明した。しかしながら、パイプP2にバルブ(図示省略)を設け、バルブによりパイプP2を開閉させるようにしてもよい。このような構成にすれば、例えば、蓄熱器30と蒸発凝縮器40とを分けて作動させることができる点で有効である。
【0118】
本実施形態では、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも高い場合、第2室76内の定められた範囲の気圧は、一例として、第1室74内の蒸気圧の80%以上95%以下の範囲の気圧であるとして説明した。また、第1室74内の気圧が蒸気圧よりも低い場合、第2室76内の定められた範囲の気圧は、一例として、第1室74内の蒸気圧の105%以上125%以下の範囲の気圧であるとして説明した。しかしながら、これらの各定められた範囲の気圧は一例に過ぎず、例えば、仕切り板78の自重、仕切り板78と容器70の内壁との摩擦、循環部20内を循環する熱媒の使用温度等により、適宜変更してもよい。
【0119】
本実施形態では、蓄熱材34が一例として酸化カルシウム(CaO)の成形体であるとして説明した。しかしながら、蓄熱器30において蓄熱材としての機能(放熱及び蓄熱する機能)を有すれば、酸化カルシウム以外の化学蓄熱材であってもよい。例えば、蓄熱材34は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物若しくは水酸化物又はこれらの複合物その他の化学蓄熱材であってもよい。
【0120】
また、本実施形態の蓄熱材34は、一例として酸化カルシウム(CaO)の成形体、すなわち、水が化学反応する化学蓄熱材であるとして説明した。しかしながら、蓄熱器30において蓄熱材としての機能(放熱及び蓄熱する機能)を有すれば、水が物理吸着する蓄熱材(物理吸着材)であってもよい。例えば、蓄熱材34は、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、粘土鉱物その他の物理吸着材であってもよい。
【0121】
また、本実施形態では、蓄熱材34に反応する媒体が水であるとして説明した。しかしながら、蓄熱材(化学蓄熱材及び物理吸着材)に反応して蓄熱材としての機能を有する媒体であれば、媒体は水でなくてもよい。例えば、媒体は、アンモニア、二酸化炭素その他の媒体であってもよい。
【0122】
また、本実施形態では、蓄熱器30内の経路部22(熱交換部22A)を流通する熱媒は、一例としてオイル(液体)であるとして説明した。しかしながら、経路部22を流通する熱媒が、熱媒としての機能(熱を加熱対象に輸送する機能及び熱源から得た熱を蓄熱材に与える機能)を有すれば、熱媒はオイル以外の液体、例えば、水、アルコールその他の液体であってもよい。また、熱媒が上記の熱媒としての機能を有すれば、熱媒は、酸素、窒素、空気その他の気体であってもよい。また、熱媒が上記の熱媒としての機能を有すれば、熱媒は、ゾル、ゲル、エマルジョン、スラリーその他の連続体(粘弾性体)であってもよい。
【0123】
また、本実施形態では、一例として350℃であった熱媒が、経路部22内を流通されて、蓄熱器30内を通過することで、蓄熱材34が放熱した熱を吸収して一例として400℃に加熱されるとして説明した。しかしながら、400℃という値は一例に過ぎず、本実施形態の構成、熱媒の種類、加熱対象の構成、熱源の構成その他の構成により、400℃とは異なる温度となってもよい。
【0124】
また、本実施形態では、温度計80は逐次第1室74内の熱媒の温度を測り、圧力計82は逐次第2室76内の気圧を測り、検出部84は逐次仕切り板78の位置を検出し、これらの結果はその都度制御部100に送られるとして説明した。また、逐次とは、一例として0.1秒ごとであるとして説明した。しかしながら、0.1秒は逐次の一例であり、別言すれば、温度計80が温度を測った都度(又は測った都度のうち適当なタイミングで)に、圧力計82が気圧を測った都度(又は測った都度のうち適当なタイミングで)、検出部84が位置を検出した都度(又は検出した都度のうち適当なタイミングで)に、という意味である。そのため、逐次は、例えば、0.1秒よりも短い0.05秒であっても、0.1秒よりも長い0.2秒、1.0秒であってもよい。
【0125】
また、本実施形態の蓄熱システム10は、熱媒を介して熱を加熱対象に輸送し、熱源から移動させた熱を蓄熱材で蓄熱するとして説明した。しかしながら、本実施形態の蓄熱システム10の構成(前述した実施形態以外の形態の構成も含む。)をいわゆるヒートポンプに適用することもできる。そして、蓄熱システム10の構成を備えたヒートポンプは、前述の第1比較形態の蓄熱システム10Aの構成を備えたヒートポンプに比べて、経路部22の熱媒におけるキャビテーションの発生に伴う熱媒の輸送効率の低下が抑制される。