【実施例】
【0046】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0047】
<実施例1>
先ず、平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(GP:電気化学工業社製)を用意する。この一次粒子をN−メチルピロリドン(NMP)に添加した後、水を添加した。NMP100質量%に対して、上記一次粒子を20質量%、水を10質量%添加し、上記一次粒子を均一に分散させた。次いでNMP100質量%に対して、10質量%の割合で、この分散液にポリイミド樹脂を添加し、3000rpmの回転速度で攪拌し、ポリイミド樹脂をNMPに溶解させた。ポリイミド樹脂が溶解した液を攪拌しながら、この液にポリイミド樹脂の貧溶媒である水を滴下した。これによりポリイミド樹脂が析出して六方晶窒化ホウ素の一次粒子の表面にポリマー粒子が付着し、攪拌により窒化ホウ素凝集粒子が形成された。液を濾過し、固形分を乾燥して体積基準の最大粒子径が23.5μmの窒化ホウ素凝集粒子を得た。
図2に濾紙の上に置いたこの窒化ホウ素凝集粒子のSEM写真図を示す。その後、ポリイミドの分散液に上記窒化ホウ素凝集粒子をポリイミドの分散液100質量%に対して1.4質量%の割合で添加し、攪拌処理を行って窒化ホウ素凝集粒子を均一に分散させて、絶縁電着塗料を調製した。
【0048】
ここで、ポリイミドの分散液は、ポリイミドの分散液100質量%中、NMPが66質量%、水が7質量%、1−メトキシ2−プロパノールが20質量%、0.1質量%の2−アミノエタノール、ポリイミド樹脂からなるポリマー粒子が7質量%分散したものを用いた。こうして調製した絶縁電着塗料を電着塗装法により厚さ0.3mmの銅板の表面に電着させ、絶縁層を形成し、これを大気雰囲気下、250℃で3分間、乾燥と焼付処理を行って絶縁皮膜を作製した。
【0049】
<実施例2>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリアミドイミド樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0050】
<実施例3>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリエステルイミド樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0051】
<実施例4>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリエステル樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0052】
<実施例5>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリウレタン樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0053】
<実施例6>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が4.0μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(AP−10S:MARUKA社製)を用い、最大粒子径が17.5μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0054】
<実施例7>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が1.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(ZSA20:ジクス社製)を用い、最大粒子径が6.6μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0055】
<実施例8>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が2.2μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(SP3−7:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が4.8μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した。ここで凝集粒子作製時の攪拌速度を実施例1の5000rpmから20000rpmに変更し、更に貧溶媒である水を添加する前に10分間攪拌を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0056】
<実施例9>
実施例8と同じ平均粒子径が2.2μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(SP3−7:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が20.3μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した。ここで凝集粒子作製時の攪拌速度を実施例1の5000rpmから1000rpmに変更し、更に貧溶媒である水を添加する前に10分間攪拌を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0057】
<実施例10>
実施例1と同じ平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(GP:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が17.4μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製したここで凝集粒子作製時の攪拌速度を実施例1の5000rpmから1000rpmに変更し、更に貧溶媒である水を添加する前に10分間攪拌を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0058】
<実施例11>
実施例6で作製した窒化ホウ素凝集粒子をポリイミドの分散液100質量%に対して0.7質量%の割合で添加した。それ以外は、実施例6と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0059】
<実施例12>
実施例6で作製した窒化ホウ素凝集粒子をポリイミドの分散液100質量%に対して2.1質量%の割合で添加した。それ以外は、実施例6と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0060】
<比較例1>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が0.2μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(AP−20S:MARUKA社製)を用い、最大粒子径が3.6μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0061】
<比較例2>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が0.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(AP−170S:MARUKA社製)を用い、最大粒子径が5.4μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0062】
<比較例3>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が11.0μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(PT120:Momentive Performance Materiaks)を用い、最大粒子径が34.5μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0063】
<比較例4>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が12.0μmの六方晶窒化ホウ素の凝集粒子(SGPS:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が20.9μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0064】
<比較例5>
比較例5では、実施例1で使用した平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(GP:電気化学工業社製)をそのままポリイミドの分散液100質量%に対して1.4質量%の割合で添加し、絶縁電着塗料を調製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0065】
<比較試験及び評価その1>
実施例1〜12及び比較例1〜5で作製した絶縁皮膜について、その膜厚、皮膜表面に対して垂直方向の熱伝導度と水平方向の熱伝導度、絶縁皮膜中の窒化ホウ素凝集粒子の含有量及び耐電圧をそれぞれ次の方法により測定した。実施例1〜12及び比較例1〜5の内容とこれらの測定結果を表1に示す。表1では、六方晶窒化ホウ素は「h−BN」、窒化ホウ素凝集粒子は「BN凝集粒子」でそれぞれ示している。
【0066】
(1)絶縁皮膜の膜厚
絶縁皮膜の膜厚は、樹脂埋め後に研磨によって断面を出し、顕微鏡を用いて測定した。具体的には皮膜つき銅板をエポキシ樹脂に埋め、断面を研磨によって出した。その後、レーザー顕微鏡を用いて膜厚を測定した。
【0067】
(2)絶縁皮膜の垂直方向の熱伝導度
絶縁皮膜の垂直方向の熱伝導度は、NETZSCH-GeratebauGmbH製のLFA477 Nanoflash を用いたレーザーフラッシュ法で測定した。測定には界面熱抵抗を考慮しない2層モデルを用いた。なお、銅板の厚さは既述したように0.3mm、銅板の熱拡散率は117.2mm
2/秒を用いた。絶縁皮膜の熱伝導度の計算には、窒化ホウ素の密度2.1g/cm
3、窒化ホウ素の比熱0.8J/gK、ポリイミド樹脂の密度1.4g/cm
3、ポリイミド樹脂の比熱1.13J/gKを用いた。
【0068】
(3)絶縁皮膜の水平方向の熱伝導度
絶縁皮膜の水平方向の熱拡散率は、絶縁皮膜を銅板から剥がし、自立フィルムとして採取した後、アドバンス理工株式会社製のTD-1 HTVを用いて測定を行った。絶縁皮膜を剥がす方法としては、絶縁皮膜付きの銅板の絶縁皮膜層にカッター等で切り込みを入れ、フェノールフタレイン溶液中に浸し、SUS板を陽極とし、絶縁皮膜付きの銅板を陰極として120Vの電圧を印加した。5分後、電圧を解除し、溶液から取り出した後、ピンセット等で切り込み口から皮膜を剥がした。なお熱伝導度の計算には、上記の密度、比熱を用いて行った。
【0069】
(4)絶縁皮膜中の窒化ホウ素凝集粒子の含有量
絶縁皮膜中の窒化ホウ素の濃度は、絶縁皮膜を銅板から剥がした後、熱重量測定(TG)によって行った。大気中でのTG測定によって、300℃から500℃までの重量減少分を樹脂成分とし、800℃から1000℃までの重量減少分を窒化ホウ素成分とした。この結果から絶縁皮膜中の窒化ホウ素凝集粒子の含有量を算出した。
【0070】
(5)絶縁皮膜の耐電圧
絶縁皮膜の耐電圧は、株式会社計測技研の多機能安全試験器7440を用いて測定した。銅板と絶縁皮膜にそれぞれ電極を接続し、6000Vまで30秒で昇圧し、両電極間に流れる電流が5000μAになった時点の電圧を絶縁皮膜の厚さで除算し、この値を耐電圧とした。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から明らかなように、実施例1〜12と比較例1、2を比較すると、h−BNの一次粒子径が1μmよりも小さいと、熱伝導度が十分高くならないことが分かった。また実施例1と比較例3を比較すると、1次粒子径が10μmよりも大きいと、耐電圧が低下することが分かった。また実施例1〜5より、バインダ樹脂としてポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル、ポリウレタンの各樹脂を使用できることが分かった。また実施例1〜12と比較例4を比較すると、バインダで一次粒子を凝集させないと、熱伝導度が十分高くならないことが分かった。これは、比較例4の凝集粒子の強度が小さいため、分散処理や電着処理中に凝集がほどけてしまったためと考えらえる。また実施例6と、実施例7,10を比較すると、熱伝導度の点で一次粒子径が2〜5μmがより好ましいことが分かった。また実施例6と実施例8、9を比較すると、最大粒子径が5〜20μmが好ましいことが分かった。また実施例1と比較例5を比較すると、凝集粒子を用いることで、水平方向と垂直方向の熱伝導度の異方性を抑えられることが分かった。
【0073】
<実施例13>
実施例1に準じて作製した最大粒子径が13.5μmの六方晶窒化ホウ素凝集粒子を用意した。
【0074】
<比較例6>
バインダ樹脂で結着していない平均粒子径が12.2μmの六方晶窒化ホウ素凝集粒子(SGPS、電気化学工業社製)を用意した。
【0075】
<比較試験及び評価その2>
実施例13と比較例6の各六方晶窒化ホウ素凝集粒子をレーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA960)の測定容器に投入し、粒度分布(D
50)をそれぞれ測定した。その後、装置内蔵超音波をレベル7において30分間与えた。その後再度粒度分布測定を行い、凝集粒子の壊れにくいか否かを調べた。その結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2から明らかなように、バインダ樹脂で結着していない比較例6の六方晶窒化ホウ素凝集粒子は超音波を付与することによってその凝集がほどけてしまうが、バインダ樹脂で結着した実施例13の六方晶窒化ホウ素凝集粒子は超音波を付与した後も粒子径がほとんど変化しておらず、壊れにくいことが分かった。