特許第6547537号(P6547537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6547537薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子、絶縁皮膜、該凝集粒子の製造方法、絶縁電着塗料の製造方法、エナメル線及びコイル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6547537
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子、絶縁皮膜、該凝集粒子の製造方法、絶縁電着塗料の製造方法、エナメル線及びコイル
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20190711BHJP
   C09D 5/25 20060101ALI20190711BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20190711BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20190711BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20190711BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20190711BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20190711BHJP
   H01B 3/00 20060101ALI20190711BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20190711BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20190711BHJP
   C25D 13/16 20060101ALI20190711BHJP
   C25D 15/00 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   C01B21/064 M
   C09D5/25
   C09D5/44 Z
   C09D7/62
   C09D179/08 Z
   C09D179/08 B
   C09D179/08 D
   C09D167/00
   C09D175/04
   H01B3/00 A
   H01B3/00 F
   H01B7/02 A
   H01B3/30 D
   H01B3/30 E
   H01B3/30 F
   C25D13/16 A
   C25D15/00 D
   H01B3/30 B
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-181395(P2015-181395)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-57098(P2017-57098A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】飯田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/175744(WO,A1)
【文献】 特開2009−026699(JP,A)
【文献】 特開平11−130993(JP,A)
【文献】 特開平10−199337(JP,A)
【文献】 特開2004−055185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C09D 5/25
C09D 5/44
C09D 167/00
C09D 175/04
C09D 179/08
C25D 13/16
C25D 15/00
H01B 3/00
H01B 3/30
H01B 7/02
C09D 7/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μmを超え10μm以下の範囲にある六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士がバインダ樹脂により結着して凝集粒子に形成され、前記凝集粒子の体積基準の最大粒子径が25μm以下の範囲にあり、
前記バインダ樹脂がポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はポリエステルイミド樹脂或いはこれらを混合した樹脂である薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子。
【請求項2】
請求項1記載の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子が皮膜形成用樹脂に分散してなる絶縁皮膜。
【請求項3】
前記皮膜形成用樹脂がポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂である請求項記載の絶縁皮膜。
【請求項4】
前記皮膜形成用樹脂が前記六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士を結着するバインダ樹脂と同一である請求項記載の絶縁皮膜。
【請求項5】
平均粒子径が1μmを超え10μm以下の範囲にある六方晶窒化ホウ素の一次粒子及びバインダ樹脂を第1溶媒に添加混合して前記バインダ樹脂が溶解しかつ前記一次粒子が分散する分散液を調製する工程と、
前記分散液を攪拌する工程と、
前記攪拌中の分散液に前記バインダ樹脂を析出させる第2溶媒を添加して前記窒化ホウ素の一次粒子同士を前記析出したバインダ樹脂により結着することにより窒化ホウ素凝集粒子を形成する工程と
を含む薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の製造方法。
【請求項6】
前記バインダ樹脂がポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂である請求項記載の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項記載の方法により製造された薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子を、分散液に分散した状態で、ポリマー分散液に添加混合して、分散させることにより絶縁電着塗料を製造する方法。
【請求項8】
銅線表面が請求項ないしいずれか1項に記載の絶縁皮膜であるエナメル線。
【請求項9】
請求項8記載のエナメル線からなるコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導に異方性がなく、粒子間の界面熱抵抗が小さく、熱伝導度が高く、粒子径が小さく、薄膜成分に添加して形成した薄膜の耐電圧が下がらず、かつ凝集が壊れにくい、薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子及びその製造方法に関する。更に詳しくは、絶縁電着塗料のフィラーとして好適な薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、六方晶窒化ホウ素(h−BN)粒子は、鱗片状を有し、その面方向(a軸方向)の方が厚み方向(c軸方向)よりも熱伝導度が高い。このようなh−BN粉末を配合した皮膜においては、h−BN粒子のa軸方向が皮膜の厚み方向に対して垂直に配向しやすくなるので、皮膜の面方向の熱伝導度に比べて厚み方向の熱伝導度に劣っていた。
【0003】
この点を解決するために、熱伝導に異方性のない窒化ホウ素粒子の集合体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の窒化ホウ素粒子の集合体は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状の一次粒子が配向せずに集合してなり、松ぼっくり状に集合していることを特徴とする。この松ぼっくり状の窒化ホウ素粒子の集合体は、結合剤を含有することなく一次粒子同士を集合させているため高熱伝導度を発揮し、熱伝導の異方性が小さい特徴がある。しかし、この松ぼっくり状の窒化ホウ素粒子の集合体は、結合剤を含有することなく一次粒子同士を集合させただけであるため、樹脂と混練すると集合が壊れやすい問題点があった。
【0004】
この点を解決するために、熱伝導の等方性と耐崩壊性と樹脂との混練性に優れた窒化ホウ素凝集粒子が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に示される窒化ホウ素凝集粒子は、比表面積が10m/g以上、全細孔容積が2.15cm/g以下、かつ、該窒化ホウ素凝集粒子の表面が、平均粒子径0.05μm以上1μm以下の窒化ホウ素一次粒子から構成される、この窒化ホウ素凝集粒子は、体積基準の最大粒子径が0.1μm以上25μm以下の範囲にある。またこの窒化ホウ素凝集粒子は、原料窒化ホウ素粉末と金属酸化物を含有するスラリーをスプレードライ法により球形に造粒した後、得られた造粒粒子を非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理している。この金属酸化物は、窒化ホウ素凝集粒子である造粒粒子の加熱処理時に耐熱性があるバインダとして用いられ、このバインダは元来粒子同士が接着性がない原料BN粉末を強固に結びつけ、造粒粒子の形状を安定化させる役割を有する。
【0005】
また特許文献2記載の窒化ホウ素凝集粒子の製造方法では、原料窒化ホウ素(BN)粉末を造粒し、加熱処理をすることによって、その形状を保持したままh−BNの結晶を成長させ、比表面積や全細孔容積を特定の範囲としながら、表面に平均粒子径1μm以下の窒化ホウ素一次粒子を配置させており、しかも凝集粒子表面に平均1μm以下のBN一次粒子が、凝集粒子の中心側から表面側へ向けて放射状、即ち、BN結晶の一次粒子をa軸を外に向けるように法線方向に配置させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−202663号公報(請求項3、請求項4、段落[0005]、段落[0024])
【特許文献2】特開2013−241321号公報(請求項1、請求項3、請求項8、請求項9、段落[0022]、段落[0067]〜段落[0082])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2記載の窒化ホウ素凝集粒子は、窒化ホウ素一次粒子の平均粒子径が0.05μm以上1μm以下と小さいため、一次粒子界面において伝熱抵抗が大きくなり、結果的に窒化ホウ素凝集粒子の熱伝導度が悪化する不具合があり、またスラリーから造粒粒子を得た後に1300℃以上で1時間以上の高温の加熱処理を要する不具合もある。更にこの窒化ホウ素凝集粒子を含む組成物を用いて成膜したときに、バインダとしての金属酸化物が含まれていることから、固形分濃度がより高くなり、膜の可撓性が低下する不具合がある。
【0008】
本発明の第1の目的は、上記課題を解決するもので、熱伝導に異方性がなく、粒子間の界面熱抵抗が小さく、熱伝導度を高く、粒子径が小さく、かつ薄膜成分に添加して形成した薄膜の耐電圧が下がらない薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子を提供することにある。本発明の第2の目的は、凝集が壊れにくい薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、平均粒子径が1μmを超えかつ10μm以下の範囲にあるる六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士を樹脂により結着して凝集粒子を形成することにより、本発明の第1の目的を達成することを知見し、本発明に到達した。また液相で六方晶窒化ホウ素の一次粒子をバインダとして有機成分である樹脂を用いて凝集させることにより、本発明の第2の目的を達成することを知見し、本発明に到達した。
【0010】
本発明の第1の観点は、平均粒子径が1μmを超え10μm以下の範囲にある六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士がバインダ樹脂により結着して凝集粒子に形成され、前記凝集粒子の体積基準の最大粒子径が25μm以下の範囲にあり、前記バインダ樹脂がポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はポリエステルイミド樹脂或いはこれらを混合した樹脂である薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子である。
【0012】
本発明の第の観点は、第1の観点の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子が皮膜形成用樹脂に分散してなる絶縁皮膜である。
【0013】
本発明の第の観点は、第の観点の皮膜形成用樹脂がポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂である絶縁皮膜である。
【0014】
本発明の第の観点は、第の観点の皮膜形成用樹脂が前記六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士を結着するバインダ樹脂と同一である絶縁皮膜である。
【0015】
本発明の第の観点は、平均粒子径が1μmを超え10μm以下の範囲にある六方晶窒化ホウ素の一次粒子及びバインダ樹脂を第1溶媒に添加混合して前記バインダ樹脂が溶解しかつ前記一次粒子が分散する分散液を調製する工程と、前記分散液を攪拌する工程と、前記攪拌中の分散液に前記バインダ樹脂を析出させる第2溶媒を添加して前記窒化ホウ素の一次粒子同士を前記析出したバインダ樹脂により結着することにより窒化ホウ素凝集粒子を形成する工程とを含む薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の製造方法である。
【0016】
本発明の第の観点は、第の観点のバインダ樹脂がポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂である薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の製造方法である。
【0017】
本発明の第の観点は、第の観点の方法により製造された薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子を、分散液に分散した状態で、ポリマー分散液に添加混合して、分散させることにより絶縁電着塗料を製造する方法である。
【0018】
本発明の第の観点は、銅線表面が第ないし第のいずれかの観点の絶縁皮膜であるエナメル線。
【0019】
本発明の第の観点は、第9の観点のエナメル線からなるコイル。
【発明の効果】
【0020】
本発明の第1の観点の窒化ホウ素凝集粒子は、平均粒子径が1μmを超える六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士が結着して形成されるため、熱伝導に異方性がなく、一次粒子界面において伝熱抵抗が大きくならず、結果的に窒化ホウ素凝集粒子の熱伝導度を高められる。また平均粒子径が10μm以下の六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士が結着して形成されるため、一次粒子同士の凝集が壊れにくく、本発明の第1の観点の窒化ホウ素凝集粒子を含む組成物を用いて薄膜、例えば絶縁皮膜を形成することができる。更にこの凝集粒子の体積基準の最大粒子径が25μm以下であるため、後述する絶縁電着塗料のような組成物のフィラーとして用いた場合、表面粗さが小さいため、耐電圧が低下しない薄膜である絶縁皮膜を形成することができる。
【0021】
また本発明の第の観点の窒化ホウ素凝集粒子を形成するバインダ樹脂として、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はポリエステルイミド樹脂或いはこれらを混合した樹脂を用いることにより、この凝集粒子は接着力が強く、耐熱性が高くなる。
【0022】
本発明の第の観点の絶縁皮膜は、第1の観点の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子が皮膜形成用樹脂に分散しているため、熱伝導度に優れる。また六方晶窒化ホウ素の一次粒子のバインダとして有機成分である樹脂を使用しているため、金属酸化物のバインダを用いたものと比較して、この絶縁皮膜は可撓性がより高くなる。
【0023】
本発明の第の観点の絶縁皮膜は、皮膜形成用樹脂がポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂であるため、接着力が強く、可撓性が高く、また耐電圧が高い利点がある
【0024】
本発明の第の観点の絶縁皮膜は、皮膜形成用樹脂が六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士を結着するバインダ樹脂と同一であるため、結着力、熱伝導度の点で優れ、更に電着条件を一定にできるという利点がある。
【0025】
本発明の第の観点の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の製造方法では、バインダ樹脂が溶解しかつ六方晶窒化ホウ素の一次粒子を分散している分散液に第2溶媒を添加して、前記バインダ樹脂を析出させることにより、液相で前記一次粒子同士を前記バインダ樹脂で結着するため、凝集に高温で長時間の加熱処理を必要とせずに、凝集が壊れにくい窒化ホウ素凝集粒子を形成することができる。
【0026】
本発明の第の観点の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の製造方法では、バインダ樹脂として、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂を用いることにより、接着力が強く、可撓性が高く、また耐電圧が高い利点がある。
【0027】
本発明の第の観点の絶縁電着塗料の製造方法では、第の観点の方法で製造された窒化ホウ素凝集粒子、分散液に分散した状態で、ポリマー分散液に添加混合して、分散させるため、窒化ホウ素凝集粒子を分散液から固液分離して乾燥する必要がなく、そのまま塗料化でき、塗料調製が容易である。
【0028】
本発明の第のエナメル線は、絶縁皮膜の可撓性が高く、エナメル線に加工を加えやすいという利点を有する。被覆された絶縁皮膜は、可撓性があるため、加工後もピンホール等の欠陥がない点で優れ、高い熱伝導度を有し、耐熱性が高い特長がある。
【0029】
本発明の第のエナメル線からなるコイルは、放熱性の点で優れる。

【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態の電着塗装装置を模式的に表した図である。
図2】本発明実施例1で得られた濾紙の上に置いた窒化ホウ素凝集粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0032】
〔薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子〕
本発明の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子は、平均粒子径が1μmを超え10μm以下の範囲にある六方晶窒化ホウ素の一次粒子同士がバインダ樹脂により結着して凝集粒子に形成され、前記凝集粒子の体積基準の最大粒子径が25μm以下の範囲にある。六方晶窒化ホウ素の一次粒子の平均粒子径が1μm以下では、一次粒子界面において伝熱抵抗が大きくなり、結果的に窒化ホウ素凝集粒子の熱伝導度が悪化する。また平均粒子径が10μmを超えると、25μm以下の範囲にある窒化ホウ素凝集粒子を作製するのが困難になり、本発明の窒化ホウ素凝集粒子を用いた組成物から薄膜を形成することができない。また凝集粒子の体積基準の最大粒子径が25μmを超えると、後述する絶縁電着塗料のような組成物のフィラーとして用いた場合、絶縁皮膜の表面粗さが大きくなり、耐電圧が低下する。ここで薄膜とは、10〜60μmの厚さを有する膜を意味する。六方晶窒化ホウ素の一次粒子の好ましい平均粒子径は2〜5μmである。また窒化ホウ素凝集粒子の体積基準の好ましい最大粒子径は5〜20μmである。ここで、薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA960)を用いて測定したメディアン径D50である。またこの凝集粒子の体積基準の最大粒子径もレーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA960)を用いて測定した粒子径である。
【0033】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子を結着させるバインダ樹脂としては、接着力が強く、可撓性が高く、また耐電圧が高く、更に電着用組成物と同様の組成であることが好ましいという理由で、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂が挙げられる。この中でポリアミドイミド樹脂が溶解性と耐熱性のバランスが良いため、特に好ましい。窒化ホウ素凝集粒子100質量%中、六方晶窒化ホウ素の一次粒子は80〜99質量%、バインダ樹脂は1〜20質量%含有することが好ましい。バインダ樹脂の含有量が下限値未満では六方晶窒化ホウ素の一次粒子の結着力に乏しく、凝集が壊れやすくなり、バインダ樹脂の含有量が上限値を超えると、窒化ホウ素凝集粒子の熱伝導度が低下し易くなる。
【0034】
〔薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子の製造方法〕
先ず、平均粒子径が1μmを超え10μm以下の範囲にある六方晶窒化ホウ素の一次粒子を用意する。次いでこの一次粒子及びバインダ樹脂を室温の第1溶媒に添加混合して前記バインダ樹脂が溶解しかつ前記一次粒子が分散する分散液を調製する。このとき、第1溶媒に最初に六方晶窒化ホウ素の一次粒子を添加して混合し、この一次粒子を第1溶媒に分散させ、次いでバインダ樹脂を添加して、このバインダ樹脂を第1溶媒に溶解させることが一次粒子を十分分散させられるため好ましい。バインダ樹脂としては、前述したポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂或いはこれらを混合した樹脂が挙げられる。また第1溶媒としては、上記バインダ樹脂が溶解可能なN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン(γBL)、アニソール、テトラメチル尿素、及びスルホランから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。分散液100質量%中、六方晶窒化ホウ素の一次粒子が80〜99質量%になるように、またバインダ樹脂が1〜20質量%になるように、一次粒子とバインダ樹脂をそれぞれ添加することが好ましい。上記一次粒子の添加量が下限値未満では樹脂だけで析出する部分が多くなってしまう不具合があり、その上限値を超えると樹脂でコーティングされない六方晶窒化ホウ素粉末の量が多くなってしまう不具合がある。バインダ樹脂の添加量が下限値未満では六方晶窒化ホウ素の一次粒子の結着力に乏しく、凝集が壊れやすくなり、その上限値を超えると、窒化ホウ素凝集粒子の熱伝導度が低下し易くなる。
【0035】
次に上記分散液を攪拌する。攪拌に際しては、攪拌機を用い、500〜50000rpmの回転速度で室温の分散液を攪拌して、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を均一に分散させる。もしくは超音波をかけることで分散を行っても良い。続いて、この攪拌中の分散液に、この分散液に溶解している上記バインダ樹脂を析出させるための第2溶媒を添加する。この第2溶媒としては、上記バインダ樹脂の貧溶媒である水、メタノール及びエタノールが挙げられる。第2溶媒の添加は、バインダ樹脂の析出を均一に生じさせ、一次粒子を均一に凝集させるために、10〜100mL/分の速度で0.1〜1分間滴下することが好ましい。この第2溶媒の貧溶媒の添加により、分散液中でバインダ樹脂が析出し、この析出したバインダ樹脂が分散液中で分散している窒化ホウ素の一次粒子同士を結着する。その結果、分散液中で窒化ホウ素凝集粒子が形成される。
【0036】
窒化ホウ素凝集粒子を分散液から取り出す場合には、分散液を濾過機、遠心分離機等を用いて固液分離し、固形分を50〜120℃の温度で乾燥することにより、窒化ホウ素凝集粒子を得る。また、後述するように分散液を絶縁電着塗料の原料とする場合には、窒化ホウ素凝集粒子を分散液から取り出す必要がない。
【0037】
〔絶縁電着塗料の製造方法〕
本発明の絶縁電着塗料は、先ずポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液に、このポリマーの貧溶媒である水を添加混合してこのポリマーを析出させてポリマー分散液を作製し、次いで上述した窒化ホウ素凝集粒子をこのポリマー分散液に添加混合することにより調製される。なお、窒化ホウ素凝集粒子を上述した分散液に分散した状態で使用する場合には、ポリマー分散液に窒化ホウ素凝集粒子の分散液を添加混合することにより、絶縁電着塗料が調製される。
【0038】
上記ポリマーとしては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリル樹脂又はアクリルスチレン樹脂或いはこれらを混合した樹脂であることが好ましい。これらの中で、窒化ホウ素凝集粒子を製造する際に用いたバインダ樹脂と同一の樹脂をポリマーとして用いることにより、絶縁電着塗料の密着性を高め、余分な粒子界面を作らないで膜の熱伝導度を高く保つことができ、かつ電着条件を一定にできるという点で、特に好ましい。
【0039】
また、上記有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、γ−ブチロラクトン(γBL)、アニソール、テトラメチル尿素、及びスルホランから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0040】
この実施の形態では、ポリマーとして溶剤可溶性のポリイミド樹脂を用い、有機溶媒としてNMPを用いて、ポリイミドの分散液を調製する。具体的には、先ず、ポリイミド樹脂をNMPに溶解させたポリイミド溶液を調製する。次いでこのポリイミド溶液に中和剤を添加し撹拌してポリイミドを中和した後、ポリイミドの貧溶媒である水を添加し混合・撹拌しポリイミドを析出させて調製する。ここで、中和剤としては、アミノエタノール、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジンなどの塩基性化合物を用いることができる。このように調製されたポリイミドの分散液は、ポリイミド樹脂からなるポリマー粒子が分散した懸濁液となっている。ポリイミドの分散液100質量%中、ポリイミド樹脂からなるポリマー粒子が1〜15質量%分散していることが好ましい。
【0041】
この実施の形態のポリマー粒子の平均粒子径は0.01〜10μmであるのが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。ここで、ポリマー粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−950)を用いて測定した粒子径であり、体積基準平均粒子径である。
【0042】
本発明の絶縁電着塗料は、ポリイミドの分散液に上述した窒化ホウ素凝集粒子を添加混合し均一に分散させることにより調製される。絶縁電着塗料中の固形分100質量%中、窒化ホウ素凝集粒子を5〜50質量%添加することが好ましい。窒化ホウ素凝集粒子の添加量が下限値未満では、この絶縁電着塗料から作られる絶縁皮膜の熱伝導度が向上しにくい。またその添加量が上限値を超えると、凝集粉の膜中濃度が高くなり過ぎて、耐電圧の低下や可撓性が著しく低下する。
【0043】
〔絶縁皮膜付きエナメル線の製造方法〕
次に、図面に基づいて上記絶縁電着塗料を用いた絶縁皮膜付きエナメル線の製造方法を説明する。図1に示すように、電着塗装装置10を用いて上記絶縁電着塗料11を電着塗装法により銅線12の表面に電着させて絶縁層(図示せず)を形成する。具体的には、予め、円筒状に巻き込んである横断面円形の円柱状の銅線13を、直流電源14の正極に陽極16を介して電気的に接続しておく。そして、この円柱状の銅線13を図1の実線矢印の方向に引上げて次の各工程を経る。
【0044】
先ず、第1の工程として、円柱状の銅線13を一対の圧延ローラ17,17により扁平に圧延して、横断面長方形の平角状の銅線12を形成する。次いで、第2の工程として、絶縁電着塗料11を電着槽18に貯えて5〜60℃に維持し、この電着槽18内の絶縁電着塗料11中を平角状の銅線12を通過させる。ここで、電着槽18内の絶縁電着塗料11中には、通過する平角状の銅線12と間隔を設けて直流電源14の負極に電気的に接続された陰極19が挿入される。電着槽18内の絶縁電着塗料11中を平角状の銅線12が通過する際に、直流電源14により1〜300Vの範囲の直流電圧が平角状の銅線12と絶縁電着塗料11との間に0.01〜30秒間印加される。これにより、絶縁電着塗料11である水分散したポリマー粒子(図示せず)と窒化ホウ素凝集粒子が平角状の銅線12の表面に電着されて絶縁層が形成される。
【0045】
次に、表面に絶縁層が電着された平角状の銅線12に対し、焼付処理することにより、銅線12の表面に絶縁皮膜(図示せず)を形成する。この実施の形態では、表面に上記絶縁層が形成された銅線12を、焼付炉22内を通過させる。上記焼付処理は、熱風加熱炉により行われることが好ましい。また焼付処理の温度は100〜500℃の範囲内であることが好ましく、焼付処理の時間は1〜10分の範囲内であることが好ましい。ここで、焼付処理の温度を100〜500℃の範囲内に限定したのは、100℃未満では絶縁層を十分に乾燥硬化できず、500℃を超えるとポリマーが熱分解してしまうからである。また、焼付処理の時間を1〜10分間の範囲内に限定したのは、1分未満では絶縁層を十分に硬化できず、10分を超えると樹脂が熱分解してしまうからである。なお、焼付処理の温度は焼付炉内の中央部の温度である。焼付炉22を通過することにより、銅線12の表面を窒化ホウ素凝集粒子を含む絶縁皮膜で被覆したエナメル線23が製造される。このエナメル線23を巻回することによりコイル(図示せず)が形成される。なお、図示しないが、絶縁層の乾燥と焼付処理を200〜250℃の温度で同一の炉で行ってもよい。
【実施例】
【0046】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0047】
<実施例1>
先ず、平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(GP:電気化学工業社製)を用意する。この一次粒子をN−メチルピロリドン(NMP)に添加した後、水を添加した。NMP100質量%に対して、上記一次粒子を20質量%、水を10質量%添加し、上記一次粒子を均一に分散させた。次いでNMP100質量%に対して、10質量%の割合で、この分散液にポリイミド樹脂を添加し、3000rpmの回転速度で攪拌し、ポリイミド樹脂をNMPに溶解させた。ポリイミド樹脂が溶解した液を攪拌しながら、この液にポリイミド樹脂の貧溶媒である水を滴下した。これによりポリイミド樹脂が析出して六方晶窒化ホウ素の一次粒子の表面にポリマー粒子が付着し、攪拌により窒化ホウ素凝集粒子が形成された。液を濾過し、固形分を乾燥して体積基準の最大粒子径が23.5μmの窒化ホウ素凝集粒子を得た。図2に濾紙の上に置いたこの窒化ホウ素凝集粒子のSEM写真図を示す。その後、ポリイミドの分散液に上記窒化ホウ素凝集粒子をポリイミドの分散液100質量%に対して1.4質量%の割合で添加し、攪拌処理を行って窒化ホウ素凝集粒子を均一に分散させて、絶縁電着塗料を調製した。
【0048】
ここで、ポリイミドの分散液は、ポリイミドの分散液100質量%中、NMPが66質量%、水が7質量%、1−メトキシ2−プロパノールが20質量%、0.1質量%の2−アミノエタノール、ポリイミド樹脂からなるポリマー粒子が7質量%分散したものを用いた。こうして調製した絶縁電着塗料を電着塗装法により厚さ0.3mmの銅板の表面に電着させ、絶縁層を形成し、これを大気雰囲気下、250℃で3分間、乾燥と焼付処理を行って絶縁皮膜を作製した。
【0049】
<実施例2>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリアミドイミド樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0050】
<実施例3>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリエステルイミド樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0051】
<実施例4>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリエステル樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0052】
<実施例5>
実施例1の窒化ホウ素凝集粒子を形成するときのポリイミド樹脂の代わりに、ポリウレタン樹脂を用いた以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0053】
<実施例6>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が4.0μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(AP−10S:MARUKA社製)を用い、最大粒子径が17.5μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0054】
<実施例7>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が1.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(ZSA20:ジクス社製)を用い、最大粒子径が6.6μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0055】
<実施例8>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が2.2μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(SP3−7:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が4.8μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した。ここで凝集粒子作製時の攪拌速度を実施例1の5000rpmから20000rpmに変更し、更に貧溶媒である水を添加する前に10分間攪拌を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0056】
<実施例9>
実施例8と同じ平均粒子径が2.2μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(SP3−7:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が20.3μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した。ここで凝集粒子作製時の攪拌速度を実施例1の5000rpmから1000rpmに変更し、更に貧溶媒である水を添加する前に10分間攪拌を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0057】
<実施例10>
実施例1と同じ平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(GP:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が17.4μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製したここで凝集粒子作製時の攪拌速度を実施例1の5000rpmから1000rpmに変更し、更に貧溶媒である水を添加する前に10分間攪拌を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0058】
<実施例11>
実施例6で作製した窒化ホウ素凝集粒子をポリイミドの分散液100質量%に対して0.7質量%の割合で添加した。それ以外は、実施例6と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0059】
<実施例12>
実施例6で作製した窒化ホウ素凝集粒子をポリイミドの分散液100質量%に対して2.1質量%の割合で添加した。それ以外は、実施例6と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0060】
<比較例1>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が0.2μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(AP−20S:MARUKA社製)を用い、最大粒子径が3.6μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0061】
<比較例2>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が0.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(AP−170S:MARUKA社製)を用い、最大粒子径が5.4μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0062】
<比較例3>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が11.0μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(PT120:Momentive Performance Materiaks)を用い、最大粒子径が34.5μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0063】
<比較例4>
実施例1の平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子の代わりに、平均粒子径が12.0μmの六方晶窒化ホウ素の凝集粒子(SGPS:電気化学工業社製)を用い、最大粒子径が20.9μmの窒化ホウ素凝集粒子を作製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0064】
<比較例5>
比較例5では、実施例1で使用した平均粒子径が8.1μmの六方晶窒化ホウ素の一次粒子(GP:電気化学工業社製)をそのままポリイミドの分散液100質量%に対して1.4質量%の割合で添加し、絶縁電着塗料を調製した以外、実施例1と同様にして、絶縁皮膜を作製した。
【0065】
<比較試験及び評価その1>
実施例1〜12及び比較例1〜5で作製した絶縁皮膜について、その膜厚、皮膜表面に対して垂直方向の熱伝導度と水平方向の熱伝導度、絶縁皮膜中の窒化ホウ素凝集粒子の含有量及び耐電圧をそれぞれ次の方法により測定した。実施例1〜12及び比較例1〜5の内容とこれらの測定結果を表1に示す。表1では、六方晶窒化ホウ素は「h−BN」、窒化ホウ素凝集粒子は「BN凝集粒子」でそれぞれ示している。
【0066】
(1)絶縁皮膜の膜厚
絶縁皮膜の膜厚は、樹脂埋め後に研磨によって断面を出し、顕微鏡を用いて測定した。具体的には皮膜つき銅板をエポキシ樹脂に埋め、断面を研磨によって出した。その後、レーザー顕微鏡を用いて膜厚を測定した。
【0067】
(2)絶縁皮膜の垂直方向の熱伝導度
絶縁皮膜の垂直方向の熱伝導度は、NETZSCH-GeratebauGmbH製のLFA477 Nanoflash を用いたレーザーフラッシュ法で測定した。測定には界面熱抵抗を考慮しない2層モデルを用いた。なお、銅板の厚さは既述したように0.3mm、銅板の熱拡散率は117.2mm/秒を用いた。絶縁皮膜の熱伝導度の計算には、窒化ホウ素の密度2.1g/cm、窒化ホウ素の比熱0.8J/gK、ポリイミド樹脂の密度1.4g/cm、ポリイミド樹脂の比熱1.13J/gKを用いた。
【0068】
(3)絶縁皮膜の水平方向の熱伝導度
絶縁皮膜の水平方向の熱拡散率は、絶縁皮膜を銅板から剥がし、自立フィルムとして採取した後、アドバンス理工株式会社製のTD-1 HTVを用いて測定を行った。絶縁皮膜を剥がす方法としては、絶縁皮膜付きの銅板の絶縁皮膜層にカッター等で切り込みを入れ、フェノールフタレイン溶液中に浸し、SUS板を陽極とし、絶縁皮膜付きの銅板を陰極として120Vの電圧を印加した。5分後、電圧を解除し、溶液から取り出した後、ピンセット等で切り込み口から皮膜を剥がした。なお熱伝導度の計算には、上記の密度、比熱を用いて行った。
【0069】
(4)絶縁皮膜中の窒化ホウ素凝集粒子の含有量
絶縁皮膜中の窒化ホウ素の濃度は、絶縁皮膜を銅板から剥がした後、熱重量測定(TG)によって行った。大気中でのTG測定によって、300℃から500℃までの重量減少分を樹脂成分とし、800℃から1000℃までの重量減少分を窒化ホウ素成分とした。この結果から絶縁皮膜中の窒化ホウ素凝集粒子の含有量を算出した。
【0070】
(5)絶縁皮膜の耐電圧
絶縁皮膜の耐電圧は、株式会社計測技研の多機能安全試験器7440を用いて測定した。銅板と絶縁皮膜にそれぞれ電極を接続し、6000Vまで30秒で昇圧し、両電極間に流れる電流が5000μAになった時点の電圧を絶縁皮膜の厚さで除算し、この値を耐電圧とした。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から明らかなように、実施例1〜12と比較例1、2を比較すると、h−BNの一次粒子径が1μmよりも小さいと、熱伝導度が十分高くならないことが分かった。また実施例1と比較例3を比較すると、1次粒子径が10μmよりも大きいと、耐電圧が低下することが分かった。また実施例1〜5より、バインダ樹脂としてポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル、ポリウレタンの各樹脂を使用できることが分かった。また実施例1〜12と比較例4を比較すると、バインダで一次粒子を凝集させないと、熱伝導度が十分高くならないことが分かった。これは、比較例4の凝集粒子の強度が小さいため、分散処理や電着処理中に凝集がほどけてしまったためと考えらえる。また実施例6と、実施例7,10を比較すると、熱伝導度の点で一次粒子径が2〜5μmがより好ましいことが分かった。また実施例6と実施例8、9を比較すると、最大粒子径が5〜20μmが好ましいことが分かった。また実施例1と比較例5を比較すると、凝集粒子を用いることで、水平方向と垂直方向の熱伝導度の異方性を抑えられることが分かった。
【0073】
<実施例13>
実施例1に準じて作製した最大粒子径が13.5μmの六方晶窒化ホウ素凝集粒子を用意した。
【0074】
<比較例6>
バインダ樹脂で結着していない平均粒子径が12.2μmの六方晶窒化ホウ素凝集粒子(SGPS、電気化学工業社製)を用意した。
【0075】
<比較試験及び評価その2>
実施例13と比較例6の各六方晶窒化ホウ素凝集粒子をレーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA960)の測定容器に投入し、粒度分布(D50)をそれぞれ測定した。その後、装置内蔵超音波をレベル7において30分間与えた。その後再度粒度分布測定を行い、凝集粒子の壊れにくいか否かを調べた。その結果を表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2から明らかなように、バインダ樹脂で結着していない比較例6の六方晶窒化ホウ素凝集粒子は超音波を付与することによってその凝集がほどけてしまうが、バインダ樹脂で結着した実施例13の六方晶窒化ホウ素凝集粒子は超音波を付与した後も粒子径がほとんど変化しておらず、壊れにくいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の薄膜形成用窒化ホウ素凝集粒子は、絶縁電着塗料のフィラーとして用いられ、この絶縁電着塗料から作られる絶縁皮膜に利用され、更にこの絶縁皮膜で被覆されるエナメル線やエナメル線を巻回したコイルに利用される。
図1
図2