特許第6547549号(P6547549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ トーヨーケム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6547549-塗装金属板および食用缶 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6547549
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】塗装金属板および食用缶
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20190711BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20190711BHJP
   B65D 25/14 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   B32B15/08 G
   B32B15/09 A
   B65D25/14 A
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-187836(P2015-187836)
(22)【出願日】2015年9月25日
(65)【公開番号】特開2017-61088(P2017-61088A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊之
(72)【発明者】
【氏名】張 愛玲
【審査官】 弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−175810(JP,A)
【文献】 特開2010−247068(JP,A)
【文献】 特開平11−221877(JP,A)
【文献】 特開2012−025131(JP,A)
【文献】 特開2014−058134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
B65D 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板上に少なくとも2層の塗膜層を有する食用缶用塗装金属板であって、
前記金属板上に、ガラス転移温度−15℃以上30℃以下であるポリエステル(A)と硬化剤とを含む下塗り塗料から形成される、ガラス転移温度が25℃を超え40℃以下の硬化塗膜(1)が設けられ、
さらに前記塗膜(1)上にガラス転移温度35℃以上60℃未満であるポリエステル(B)と硬化剤とを含む上塗り塗料から形成される、ガラス転移温度が40℃を超え80℃以下である硬化塗膜(2)が設けられていることを特徴とする食用缶用塗装金属板。
【請求項2】
ポリエステル(A)を構成する単量体単位として、脂環式ジオール(b−1)単位を含むことを特徴とする請求項1記載の食用缶用塗装金属板。
【請求項3】
ポリエステル(B)を構成する単量体単位として、脂環式ジオール(b−1)単位を含むことを特徴とする請求項1または2記載の食用缶用塗装金属板。
【請求項4】
請求項1〜いずれか1項に記載の食用缶用塗装金属板を用いて形成されたことを特徴とする食用缶。
【請求項5】
塗膜(1)および塗膜(2)が、食用缶の内面に位置することを特徴とする請求項記載の食用缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗装金属板および食用缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品用金属缶などの分野においては、多種多様の食物による缶材質の腐食を防止することを目的として、缶の内面にビスフェノールA(以下「BPA」とも表記する)とエピクロルヒドリンとを原料として合成されるBPA型エポキシ樹脂を使用した塗料を被覆した金属板が広く使用されてきた。
【0003】
しかし、BPAは、環境省が公表した「内分泌撹乱作用を有すると疑われる化学物質」のリストに挙げられたことから、BPA由来の原料を全く用いない塗装金属板が求められていた。
【0004】
ここで食品用金属缶は、その内容物の種類によって、缶に内容物を充填した後、内容物の殺菌を目的として、高温でのレトルト処理が施される場合がある。そのため缶の内面を被覆する塗料には耐レトルト性、耐内容物性などの他、缶部材成型時の加工を可能とする加工性などが求められていた。中でも、食料を収容する、いわゆる食缶の内面被膜においては、耐内容物性(耐腐食性および硫化水素耐性)が特に重要である。
【0005】
例えば、塗膜を透過した、特に塩分の影響により、缶の金属基材(鉄など)が腐食し、錆などが発生することがある。この現象に対する耐性が、塗膜の「耐腐食性」である。また、魚肉などを収容している場合、アミノ酸の分解により発生する微量の硫化水素が塗膜を透過して、缶の金属基材(特に鉄分)と反応して基材を黒く変色させることがある。この現象に対する耐性が、塗膜の「硫化水素耐性」である。塗膜の耐内容物性が不足すると、上記現象による錆や黒変が発生するという問題があった。
【0006】
特許文献1には、2種類のポリエステルを混合した混合ポリエステルと硬化剤、硬化触媒からなる塗料組成物が開示されている。しかし、特許文献1の塗料を被膜した塗装金属板では、ガラス転移温度が高いポリエステルとガラス転移温度が低いポリエステルを併用することで性能の両立を図っているが、要求される高度な耐内容物性を発現出来ないという問題があった。
【0007】
かように、従来の缶内面用塗料をそれ単独で被覆してなる塗装金属板では、すなわち、1層のみの塗膜が設けられた金属板では、耐腐食性、硫化水素耐性、加工性等、要求性能の全てを満足させることは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−249376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、BPA由来の原料を使用することなく、耐内容物性(耐腐食性、硫化水素耐性)、耐レトルト性および加工性に優れ、食缶内面用として好適な塗膜が形成された塗装金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の実施態様は、金属板上に少なくとも2層の塗膜層を有する塗装金属板であって、前記金属板上に、ガラス転移温度−15℃以上30℃以下であるポリエステル(A)を含む塗膜(1)が設けられ、さらに前記塗膜(1)上にガラス転移温度35℃以上60℃未満であるポリエステル(B)を含む塗膜(2)が設けられていることを特徴とする塗装金属板である。
【0012】
また、本発明の実施態様は、ポリエステル(A)を構成する単量体単位として、脂環式ジオール(b−1)単位を含む上記塗装金属板である。
【0013】
また、本発明の実施態様は、ポリエステル(B)を構成する単量体単位として、脂環式ジオール(b−1)単位を含む上記塗装金属板である。
【0014】
また、本発明の実施態様は、塗膜(1)のガラス転移温度が25℃を超え40℃以下、塗膜(2)のガラス転移温度が40℃を超え80℃以下である上記塗装金属板である。
【0015】
また、本発明の実施態様は、上記塗装金属板を用いて形成された食用缶である。
【0016】
また、本発明の実施態様は、塗膜(1)および塗膜(2)が、食用缶の内面に位置する上記食用缶である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、BPA由来の原料を使用することなく、耐内容物性(耐腐食性、硫化水素耐性)、耐レトルト性および加工性に優れ、食缶内面用として好適な塗膜が形成された塗装金属板および食用缶を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、加工性試験の試験片を作製方法を説明する模式図である。(a)テストパネルを折り曲げる前の模式図。(b)テストパネルを折り曲げて試験片を作製する説明の模式図。(c)試験片におもりを落下させる方法を説明した模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について説明する前に、用語を定義する。ポリカルボン酸(a)には、ポリカルボン酸中のカルボキシル基が、メタノールやエタノール等のモノアルコールによってエステル化された化合物、およびポリカルボン酸の酸無水物も包含される。
【0020】
また、本発明における「金属板」とは、単に平板状のものを指すのみではなく、例えば、打ち抜かれて製造された缶蓋用部材や缶底部用部材、さらには、打ち抜き後に深絞り加工されて成型された、缶胴部と缶底部が一体となっている、いわゆる2ピース缶の缶部材等も「金属板」に包含されるものとする。
【0021】
本発明の塗装金属板は、金属板の上にまずポリエステル(A)を含む塗膜(1)が形成される。
【0022】
ポリエステル(A)は、ポリカルボン酸(a)とポリオール(b)との反応生成物であり、ポリエステル(A)を構成する単量体単位として、ポリカルボン酸(a)単位とポリオール(b)単位とから構成され、ガラス転移温度が−15℃以上30℃以下である。
【0023】
ポリカルボン酸(a)としては、芳香族二塩基酸、脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸およびα、β−不飽和ジカルボン酸、ならびにこれらの酸無水物、ならびにこれらのアルキルエステルを使用できる。
芳香族二塩基酸は、例えばジメチルテレフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、およびビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族二塩基酸は、例えばアジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸等が挙げられる。
脂環式二塩基酸は、例えば1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、および1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
α、β−不飽和ジカルボン酸は、例えばフマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
これらのうち、ジメチルテレフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが好ましく用いられる。芳香族二塩基酸は、ポリエステル(A)を構成するポリカルボン酸(a)単位の合計100モル%中、65モル%以上85モル%未満の割合で用いられることが好ましい。芳香族二塩基酸の割合がこの範囲にあれば、耐レトルト性、および耐腐食性という点に優れる。
【0024】
ポリエステル(A)は分岐構造を有してもよい。そのため二塩基酸に加えて、三官能以上の酸を使用してもよい。その例としては、例えば、(無水)トリメリット酸〔トリメリット酸と無水トリメリット酸とをあわせて「(無水)トリメリット酸」と表記する。以下同様。〕、(無水)ピロメリット酸、およびエチレングリコールビストリメリテート二無水物等が挙げられる。さらに、必要に応じて、一官能の酸を使用してもよい。
【0025】
ポリオール(b)としては、脂環式ジオール(b−1)を使用することが好ましく、より良好な耐内容物性、加工性が得られる。
脂環式ジオールとしては、例えば、1,2−シクロペンタンジオール、1,3−シクロペンタンジオール、1,2−シクロペンタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン等の5員環ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等の6員環ジオール等が挙げられる。これらの中でも、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが好ましく用いられる。
【0026】
脂環式ジオール(b−1)は、ポリエステル(A)を構成するポリオール(b)単位の合計100モル%中、10〜40モル%の割合で用いられることが好ましい。脂環式ジオール(b−1)の割合がこの範囲にあれば、耐内容物性、および加工性という点に優れる。
【0027】
ポリオール(b)としては、脂環式ジオール(b−1)以外に、以下のジオールを使用できる。
具体的には、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,4−ブタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ジメチル−1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,1,4,4−テトラメチル−1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオールおよび1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
【0028】
ポリエステル(A)は、分岐構造を有しても良い。そのため上記ジオールに加えて、三官能以上のアルコール(水酸基を三個以上有するアルコール)を使用してもよい。具体的には、例えば、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールエタン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、およびα−メチルグルコシド等が挙げられる。さらに、必要に応じて、一官能のアルコール(モノオール)を使用してもよい。
【0029】
ポリエステル(A)を得るにあたっては、ポリカルボン酸(a)とポリオール(b)との配合比は、ポリカルボン酸(a)がエステル化物を含まない場合は、ポリオール(b)中の水酸基の数(Nb)とポリカルボン酸(a)中のカルボキシル基の数(Na)との比がNb/Na=1.10〜1.40であることが好ましく、1.15〜1.35であることがより好ましい。また、ポリカルボン酸(a)がエステル化物を含む場合は、Nb/Na=1.10〜2.40であることが好ましく、1.20〜2.10であることがより好ましい。 NbとNaとの比が上記範囲にあれば、当該ポリエステル(A)を使用して塗膜(1)を形成した際に、得られる積層塗膜、すなわち塗膜(1)と塗膜(2)との積層塗膜は、耐レトルト性および加工性がより優れる。
【0030】
ポリエステル(A)の数平均分子量は、5,000〜30,000であることが好ましく、8,000〜25,000であることがより好ましい。数平均分子量がこの範囲にあれば、樹脂の溶剤への溶解性をより向上することができ、かつ、加工性に優れた塗膜を形成することができる。尚、本発明における数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)による標準ポリスチレン換算の値である。
【0031】
ポリエステル(A)のガラス転移温度は、−15℃以上30℃以下であり、−5℃以上30℃以下が好ましい。ガラス転移温度がこの範囲にあれば、耐腐食性、金属への密着性、および加工性に優れる塗膜を形成できる。
【0032】
ポリエステル(A)は、金属に対する密着性や硬化剤との反応性を向上させるために、重合反応の終了後あるいは途中において、ポリカルボン酸無水物を付加させる方法等により酸価を付与してもよい。酸価の付与に用いられるポリカルボン酸無水物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等が挙げられる。
【0033】
ポリエステル(A)の酸価は、30mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/gがより好ましい。酸価がこの範囲にあれば、耐レトルト性がより向上する。なお酸価の下限値は、0mgKOH/gである。
【0034】
塗膜(1)は、ポリエステル(A)とフェノール樹脂とを含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。フェノール樹脂は、塗膜を焼付硬化する時にポリエステル(A)を架橋させるための硬化剤として作用する。フェノール樹脂は、フェノールモノマーと、ホルムアルデヒド等のアルデヒドとの付加縮合反応により合成した樹脂である。フェノール樹脂は公知の方法で合成できる。
【0035】
フェノールモノマーは、例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−ノニルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールH、ビスフェノールS、カテコール、およびハイドロキノン等が挙げられる。これらの中でも硬化性および反応性が優れるフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等が好ましく、m−クレゾールがより好ましい。フェノールモノマーは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
フェノールモノマーは、フェノール性の水酸基に対して、オルト位とパラ位とが反応部位となる。従って、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−フェニルフェノール、p−ノニルフェノール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール等は、1分子中に反応部位が2箇所あるため、当量数が2のフェノールモノマーであり、官能基が2となる。又、フェノール、m−クレゾール、3,5−キシレノール、レゾルシノール等は1分子中に反応部位が3箇所あるため、当量数が3のフェノールモノマーであり官能基が3となる。又、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールH、ビスフェノールS等のビスフェノールや、カテコール、ハイドロキノン等は1分子中に反応部位が4箇所あるため、当量数が4のフェノールモノマーであり、官能基が4となる。当量数が4未満のフェノールモノマーを用いると、分子量が適切なフェノール樹脂を得やすい。そのため、このようなフェノール樹脂を使用した場合、溶剤に対する溶解性が向上し、塗膜表面にフェノール樹脂由来のブツが生じ難い。
【0037】
本発明においてフェノール樹脂は、m−クレゾールとアルデヒドを反応させた樹脂が好ましい。このフェノール樹脂は、ポリエステルとの反応性が高く、硬化性が優れているため耐レトルト性が優れる塗膜が得られる。また、好ましく使用できる市販品としては、例えば、住友ベークライト社製スミライトレジンPR−55317(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50重量%)、昭和電工社製ショウノールCKS−3898(メタクレゾール系フェノール樹脂、不揮発分濃度50重量%)等が挙げられる。なお、メタクレゾール系とは、フェノール樹脂の原料にm−クレゾールを使用していることを示す。
【0038】
塗膜(1)を形成する樹脂組成物中のポリエステル(A)とフェノール樹脂との重量比は、ポリエステル(A)/フェノール樹脂=95/5〜60/40であることが好ましく、90/10〜70/30であることがより好ましい。重量比がこの範囲内にあれば、加工性、耐レトルト性等がより向上する。
【0039】
本発明の塗膜(1)を形成する樹脂組成物においては、フェノール樹脂とともに、例えば、アミノ樹脂等の、他の硬化剤を併用してもよい。
【0040】
塗膜(1)のガラス転移温度は25℃を超え40℃以下が好ましい。ガラス転移温度がこの範囲にあれば、耐腐食性および加工性に優れる塗膜を形成できる。
【0041】
塗膜(1)を形成する樹脂組成物は、必要に応じて、製缶工程における塗膜の傷付きを防止する目的で、ワックス等の滑剤、硬化触媒およびレベリング剤等の添加剤、ならびに有機溶剤を配合できる。
ワックスとしては、カルナバワックス、ラノリンワックス、パーム油、キャンデリラワックス、ライスワックス等の動植物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;ポリオレフィンワックス、テフロン(登録商標)ワックス等の合成ワックス等が挙げられる。
硬化触媒は、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸およびリン酸化合物ならびにこれらの中和物等が挙げられる。
【0042】
本発明の塗装金属板は、金属板上に上記塗膜(1)が形成された後、さらに前記塗膜(1)上にポリエステル(B)を含む塗膜(2)が形成されたものである。
【0043】
ポリエステル(B)は、ポリカルボン酸(a)とポリオール(b)との反応生成物であり、ポリエステル(A)を構成する単量体単位として、ポリカルボン酸(a)単位とポリオール(b)単位とから構成され、ガラス転移温度が35℃以上60℃未満である。
【0044】
ポリエステル(B)を構成するポリカルボン酸(a)は、上記のポリエステル(A)を構成するポリカルボン酸(a)と同じものが挙げられ、好ましいポリカルボン酸(a)もポリエステル(A)を構成する好ましいポリカルボン酸(a)と同じものが挙げられる。
【0045】
芳香族二塩基酸は、ポリエステル(B)を構成するポリカルボン酸(a)の合計100モル%中、85〜100モル%の割合で用いられることが好ましい。芳香族二塩基酸の割合がこの範囲にあれば、耐レトルト性、および硫化水素耐性という点に優れる。
【0046】
ポリエステル(B)を構成するポリオール(b)は、上記のポリエステル(A)を構成するポリオール(b)と同じものが挙げられ、好ましいポリオール(b)もポリエステル(A)を構成する好ましいポリオール(b)と同じものが挙げられる。
また、脂環式ジオール(b−1)は、ポリエステル(B)を構成するポリオール(b)単位中の脂環式ジオール(b−1)の割合は、ポリエステル(A)を構成するポリオール(b)単位中の脂環式ジオール(b−1)の割合と同じである。
【0047】
ポリエステル(B)は、ポリエステル(A)と同様、分岐構造を有しても良い。そのため上記ジオールに加えて、三官能以上のアルコールを使用してもよい。さらに、必要に応じて、一官能のアルコールを使用してもよい。
【0048】
ポリエステル(B)を得るにあたっては、ポリカルボン酸(a)とポリオール(b)の配合比の好ましい範囲は、ポリエステル(A)を得る際の配合比と同じである。
また、ポリエステル(B)の好ましい数平均分子量の範囲は、ポリエステル(A)の好ましい数平均分子量の範囲と同じである。
【0049】
ポリエステル(B)のガラス転移温度は、35℃以上60℃未満であることが重要である。ガラス転移温度がこの範囲にあれば、硫化水素耐性および耐レトルト性に優れる塗膜を形成できる。
【0050】
ポリエステル(B)は、金属に対する密着性や硬化剤との反応性を向上させるために、ポリエステル(A)と同様な方法により、酸価を付与してもよい。
【0051】
ポリエステル(B)の酸価の好ましい範囲は、ポリエステル(A)の酸価の好ましい範囲と同じである。
【0052】
塗膜(2)は、ポリエステル(B)とフェノール樹脂とを含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。フェノール樹脂は、上記のフェノール樹脂と同じものが挙げられ、好ましく使用できるフェノール樹脂も同じである。
【0053】
塗膜(2)を形成する樹脂組成物におけるポリエステル(B)とフェノール樹脂との重量比は、塗膜(1)を形成する樹脂組成物におけるポリエステル(B)とフェノール樹脂との重量比と同じである。
【0054】
塗膜(2)を形成する樹脂組成物においては、フェノール樹脂とともに、例えば、アミノ樹脂等の、他の硬化剤を併用してもよい。
【0055】
塗膜(2)のガラス転移温度は40℃を超え80℃以下であることが好ましく、40℃を超え70℃以下であることがより好ましい。ガラス転移温度がこの範囲にあれば、硫化水素耐性および耐レトルト性に優れる塗膜を形成できる。
【0056】
塗膜(2)を形成する樹脂組成物は、上記と同じ滑剤、硬化触媒およびレベリング剤等の添加剤、ならびに有機溶剤を配合できる。
【0057】
塗膜(1)および塗膜(2)は、特にそれらを構成するポリエステルのガラス転移温度に特徴を有するものである。塗膜(1)を構成するポリエステル(A)のガラス転移温度は−15℃以上30℃以下であることが重要であり、これにより金属基材に対する濡れ性が向上し、金属基材と硬化塗膜の密着性がより向上することとなる。これにより塗膜を透過した腐食誘因物質と金属基材の接触が阻害され、耐腐食性が向上することとなる。一方、塗膜(2)を構成するポリエステル(B)のガラス転移温度は35℃以上60℃未満であることが重要であり、これにより強靭な塗膜が形成され、塗膜のバリア性が向上することとなり、腐食誘因物質の塗膜透過が抑制され、硫化水素耐性が向上することとなる。
【0058】
塗膜(1)および塗膜(2)は、上記特定範囲のガラス転移温度のポリエステルの使用により、塗膜(1)には優れた耐腐食性、塗膜(2)には優れた硫化水素耐性が付与される。これらの、主たる機能が分離された塗膜が積層されることにより、食缶内面用として要求される種々の物性を高度に満たすことができる複合塗膜を形成することができる。
【0059】
さらに、塗膜(1)または塗膜(2)は、それらを構成するポリエステルの一方、すなわちポリエステル(A)またはポリエステル(B)のいずれかが、その構成成分として脂環式ジオールが用いられることが好ましく、ポリエステル(A)およびポリエステル(B)の両方に用いられることがより好ましい。これにより、耐内容物性および加工性により優れる塗膜を形成することができる。その機構は明確ではないが、脂環式ジオールを用いて得られるポリエステルは、主鎖中に脂環構造が導入される。脂環構造は嵩高であることに加え、柔軟であるために熱運動により複数の配座をとることができ、立体障害の大きな分子鎖となる。これにより、形成される硬化塗膜の透過性が極めて低下することとなり、腐食誘因物質の透過が抑制され、耐内容物性がより向上することとなる。
【0060】
塗膜(1)または塗膜(2)は、上記脂環式ジオールの使用により、得られる複合塗膜、すなわち塗膜(1)と塗膜(2)との積層塗膜の物性は、より優れたものとなる。
【0061】
塗膜(1)または塗膜(2)が、それぞれ単独で設けられた塗装金属板では、食品用金属缶用途として要求される性能をすべて高度な水準で満たすことは不可能である。
そこで本発明者らは、鋭意検討の結果、複数の塗膜を積層させ、主たる機能を各層に分けることによって、食品用金属缶用途に好ましく用いることができる塗装金属板が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0062】
本発明の塗装金属板は、好ましくは、金属板上に、主に耐腐食性に優れる下塗り塗料〔ポリエステル(A)を含有する樹脂組成物〕を塗装し、塗膜(1)を設けた後、前記塗膜(1)の上に、主に硫化水素耐性に優れる上塗り塗料〔ポリエステル(B)を含有する樹脂組成物〕を塗装し、塗膜(2)を設けることにより得られる。
これにより、食品用金属缶、すわなち食缶用途として、主に要求される耐腐食性および硫化水素耐性に極めて優れる塗装金属板が得られる。
【0063】
上記下塗り塗料および上塗り塗料の塗装方法は、エアースプレー、エアレススプレー、および静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、ならびに電着塗装等の公知の方法を使用できる。金属に塗装する場合、100〜300℃の温度で、10秒〜20分間焼き付けることが好ましく、10秒〜15分間がより好ましい。
【0064】
本発明の塗装金属板は、缶の内面および外面を問わず使用できるところ、その特徴を活かして、食品類の保護用途として使用することが好ましい。すなわち、塗膜(1)および塗膜(2)は、食用缶の内面に位置するように設けられることが好ましい。
適用される部位としては、缶胴部、缶蓋部および缶底部が挙げられる。
【0065】
本発明の食用缶の態様としては、缶胴部、缶蓋部および缶底部からなる、いわゆる3ピース缶でもよく、缶胴部と缶底部との一体成型物に缶蓋が取り付けられた、いわゆる2ピース缶であってもよい。
【0066】
本発明の食用缶は、肉、畜肉、野菜、果実、油、およびソース等の食料品ないしは調味料等の収納に好適である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。また「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
また、「Mn」は、数平均分子量を、「Mw」は、重量平均分子量をそれぞれ表す。
【0068】
(数平均分子量および重量平均分子量の測定条件)
東ソー社製 高速GPC装置8020シリーズ(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、カラム温度40℃、ポリスチレン標準)を用いて測定した。カラムとして、東ソー製G1000HXL、G2000HXL、G3000HXL、G4000HXLの4本を直列に連結し、流量1.0ml/min、40℃にて測定して得られた測定値である。
【0069】
(ガラス転移温度の測定条件)
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)(「DSC6220」 SII社製)を用いて10℃/分の昇温速度で測定した。
【0070】
(酸価の測定条件)
ポリエステル0.2gを20mlのTHFに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定し、ポリエステルの酸価(mgKOH/g)を求めた。
【0071】
ポリエステルの製造
[製造例A(エステル交換法)]
ジメチルテレフタル酸209.5部、エチレングリコール23部、1,6−ヘキサンジオール72.8部、1,4−シクロヘキサンジメタノール133.3部、2,2−ジメチル−1,4−ブタンジオール218.4部、酢酸亜鉛0.1部、チタンブトキサイド0.1部を仕込み、220℃まで徐々に昇温しエステル交換反応を行った。理論量のメタノールを留出させた後、イソフタル酸230.5部、セバシン酸43.6部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸69部を添加し3時間かけて250℃まで徐々に昇温しエステル化反応を行った。次に、30分かけて圧力を5mmHg以下まで下げ、その状態で3時間重合反応を行い、ポリエステルを得た。得られた樹脂は、Flexisolv DBE esters(インビスタ社製)/キシレン=1/1(重量比)の混合溶剤で不揮発分濃度40%の樹脂ワニスとした。尚、表1に、製造に使用した上記各単量体(原料)の割合をモル比として表記する。
【0072】
[製造例B(直接重合法)]
テレフタル酸167部、イソフタル酸222.7部、アジピン酸146.9部、1,4−ブタンジオール45.3部、ネオペンチルグリコール212.7部、1,3−シクロヘキサンジメタノール169部、1,3−プロパンジオール25.5部、トリメチロールプロパン4.5部、チタンブトキサイド0.01部を重合反応器に仕込み、窒素雰囲気下で250℃まで徐々に昇温し、4時間かけてエステル化反応を行った。次に、30分かけて圧力を5mmHg以下まで下げ、その状態で3時間重合反応を行った。この後、樹脂を窒素気流下で200℃まで冷却し、これに無水トリメリット酸6.4部を添加し、2時間反応した。以上より、本発明のポリエステルを得た。得られた樹脂は、Flexisolv DBE esters/キシレン=1/1(重量比)の混合溶剤で不揮発分濃度40%の樹脂ワニスとした。
【0073】
[製造例C(直接重合法)]
テレフタル酸221.6部、イソフタル酸193.9部、セバシン酸101.1部、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸57.4部、1,6−ヘキサンジオール137.8部、2,2−ジメチル−1,4−ブタンジオール196.9部、1,3−プロパンジオール91.3部、チタンブトキサイド0.01部を重合反応器に仕込み、窒素雰囲気下で250℃まで徐々に昇温し、4時間かけてエステル化反応を行った。次に、30分かけて圧力を5mmHg以下まで下げ、その状態で3時間重合反応を行い、本発明のポリエステルを得た。得られた樹脂は、Flexisolv DBE esters/キシレン=1/1(重量比)の混合溶剤で不揮発分濃度40%の樹脂ワニスとした。
【0074】
[製造例D、F]
表1に示す原料に変更した以外は、製造例Cと同様な方法で、それぞれ製造例D、Fのポリエステルを合成し、それぞれ不揮発分濃度40%の樹脂ワニスを得た。
【0075】
[製造例E、G]
表1に示す原料に変更した以外は、製造例Bと同様な方法で、それぞれ製造例E、Gのポリエステルを合成し、それぞれ不揮発分濃度40%の樹脂ワニスを得た。
【0076】
[比較製造例H、K]
表1に示す原料に変更した以外は、製造例Bと同様な方法で、比較製造例H、Kのポリエステルを合成し、それぞれ不揮発分濃度40%の樹脂ワニスを得た。
【0077】
[比較製造例I、J]
表1に示す原料に変更した以外は、製造例Cと同様な方法で、それぞれ比較製造例I、Jのポリエステルを合成し、それぞれ不揮発分濃度40%の樹脂ワニスを得た。
【0078】
上記ポリエステルの製造に使用した各単量体(原料)の割合を、表1にモル比として表記する。また、表1で使用した略号は、下記の通りである。
CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
TMP: トリメチロールプロパン
【0079】
下塗り塗料の作製
[製造例L]
製造例Aで得られた樹脂ワニス600部、住友ベークライト社製メタクレゾール系フェノール樹脂スミライトレジンPR−55317(不揮発分濃度50%のn−ブタノール溶液)120部、溶剤として、Flexisolv DBE esters150部、キシレン79.8部、n−ブタノール50部を混合し、硬化触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸0.2部添加し、不揮発分濃度30.0%の塗料を得た。
【0080】
[製造例M]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Bで得られた樹脂ワニス562.5部、スミライトレジンPR−55317を120部から150部、キシレン79.8部を87.3部にそれぞれ変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
【0081】
[製造例N]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Cで得られた樹脂ワニス600部に変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
【0082】
[製造例O]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Dで得られた樹脂ワニス600部に変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
[比較製造例P]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Hで得られた樹脂ワニス600部に変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
[比較製造例Q]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Iで得られた樹脂ワニス562.5部に変更した以外は、製造例Mと同様に行い塗料を得た。
【0083】
上塗り塗料の作製
[製造例R]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Eで得られた樹脂ワニス600部に変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
[製造例S]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Fで得られた樹脂ワニス600部に変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
[製造例T]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Gで得られた樹脂ワニス600部に変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
[比較製造例U]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Jで得られた樹脂ワニス637.5部、スミライトレジンPR−55317を120部から90部、キシレン79.8部を72.3部にそれぞれ変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
[比較製造例V]
製造例Aで得られた樹脂ワニスを製造例Kで得られた樹脂ワニス600部に変更した以外は、製造例Lと同様に行い塗料を得た。
【0084】
[実施例1]
製造例Lで得られた塗料を、ブリキ板(0.23mm厚、♯2.8/2.8)上に、乾燥塗膜量が50mg/100cm2となるように塗装した。この後、200℃で10分間焼き付け、塗膜(1)を設けた。さらに、製造例Rで得られた塗料を、前記塗膜(1)上に、乾燥塗膜量が50mg/100cm2となるように塗装した。この後、200℃で10分間焼き付け、塗膜(2)を設け、評価用塗装板を作製した。
【0085】
[実施例2]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例MおよびSで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[実施例3]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例NおよびSで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[実施例4]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例MおよびTで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[実施例5]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例OおよびRで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[実施例6]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例NおよびTで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[比較例7]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例PおよびRで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[比較例8]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例QおよびSで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[比較例9]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例LおよびUで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[比較例10]
製造例LおよびRで得られた塗料を、製造例MおよびVで得られた塗料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に行い評価用塗装板を作製した。
[比較例11]
製造例Nで得られた塗料を、ブリキ板(0.23mm厚、♯2.8/2.8)上に、乾燥塗膜量が50mg/100cm2となるように塗装した。この後、200℃で10分間焼き付け、評価用塗装板を作製した。
[比較例12]
製造例Nで得られた塗料を、製造例Tで得られた塗料に変更した以外は、比較例11と同様に行い評価用塗装板を作製した。
【0086】
評価用塗装板について、以下に示す方法により性能を評価した。
<加工性>
塗装板を幅30mm×縦50mmに切断した。次いで図1の(a)に示すようにテストパネル1の塗膜を外側にして、縦長さ30mmの位置に直径3mmの丸棒2を添える。そして、図1の(b)に示すように丸棒2に沿って塗装板を2つ折りにして幅30mm×縦約30mmの試験片3を作製した。この2つ折りにした試験片3の間に厚さ0.23mmのブリキ板を2枚はさみ、図1の(c)に示すように幅150mm×高さ50mm×奥行き50mmの直方体状の1kgのおもり4を高さ400mmから試験片3の折り曲げ部に落下させて完全に折り曲げた。
次いで、試験片3の折り曲げ部を濃度1%の食塩水中に浸漬させ、試験片3の食塩水中に浸漬されていない平面部の金属部分と、食塩水との間を6.0V×6秒通電した時の電流値を測定した。塗膜の加工性が乏しい場合、折り曲げ加工部の塗膜がひび割れて、下地の金属板が露出して導電性が高まるため、電流値が高くなる。評価基準を以下に示す。
◎:20mA未満(良好)
○:20mA以上30mA未満(使用可)
△:30mA以上40mA未満(使用不可)
×:40mA以上(不良)
【0087】
<耐レトルト性>
塗装板を水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃−90分間レトルト処理を行い、塗膜の外観について目視で下記評価基準にて評価した。
◎:レトルト処理前の塗膜と変化なし(良好)
○:ごく薄く白化(使用可)
△:やや白化(使用不可)
×:著しく白化(不良)
【0088】
<耐腐食性>
ブリキ板の両面を前記の塗装条件で塗装、焼付けして、作製した塗装板に、JIS K 5600−5−3に準拠したデュポン衝撃(1/2インチ、300g、20cm)を加えて加工した。この後、食塩を1.5重量%含む水溶液に浸漬して、125℃−90分レトルト処理を行った。さらに50℃で1ヶ月間保存後の下地金属の錆の程度を目視で確認した。評価基準を以下に示す。
◎:錆が認められない(良好)
○:加工部にわずかな錆が認められる(使用可)
△:加工部にはっきりした錆が認められる(使用不可)
×:塗膜全面に錆が認められる(不良)
【0089】
<硫化水素耐性>
ブリキ板の両面を前記の塗装条件で塗装、焼付けして、作製した塗装板に、JIS K 5600−5−3に準拠したデュポン衝撃(1/2インチ、300g、20cm)を加えて加工した。この後、市販の鯖水煮を細かく粉砕した中に浸漬して、125℃−90分レトルト処理をし、50℃で1ヶ月間保存後の下地金属の黒く変色する程度を目視で確認した。評価基準を以下に示す。
◎:黒変が認められない(良好)
○:加工部にわずかな黒変が認められる(使用可)
△:加工部にはっきりした黒変が認められる(使用不可)
×:塗膜全面に黒変が認められる(不良)
【0090】
表2および3で使用した略号は、下記の通りである。
DDBSA:ドデシルベンゼンスルホン酸
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【符号の説明】
【0094】
1 テストパネル
2 丸棒
3 試験片
4 おもり
図1