特許第6547587号(P6547587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許65475874−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを含有する塩化ビニル系樹脂用可塑剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6547587
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを含有する塩化ビニル系樹脂用可塑剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20190711BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20190711BHJP
   C07C 67/03 20060101ALI20190711BHJP
   C07C 69/75 20060101ALI20190711BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190711BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08K5/12
   C07C67/03
   C07C69/75 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-212421(P2015-212421)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-82108(P2017-82108A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上貴博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤有華
(72)【発明者】
【氏名】辻泰樹
(72)【発明者】
【氏名】森川雅弘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎謙一
【審査官】 岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−002695(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/147300(WO,A1)
【文献】 特表平02−500516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00−27/24
C08K 5/00−5/59
C07C 67/00−67/62
C07C 69/00−69/96
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルからなり、該ジエステルを構成するアルキル基が主として炭素数9〜11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8〜28/32〜52/28〜48の範囲であり、かつ該ジカルボン酸ジエステルを構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50〜99%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【化1】

(式中、R及びRは同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記アルキル基の比率が、10〜26/34〜50/30〜46の範囲である請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項3】
アルキル基中の直鎖状アルキル基の比率が、55〜95%である請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項4】
アルキル基中の直鎖状アルキル基の比率が、60〜95%である請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項5】
アルキル基中の直鎖状アルキル基の比率が、70〜95%である請求項4に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤に使用するための4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルの製造方法であって、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸若しくはその無水物と、炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が8〜28/32〜52/28〜48の範囲であり、かつ該飽和脂肪族アルコールの直鎖率(モル比)が50〜99%である飽和脂肪族アルコールの混合物とをエステル化反応することを特徴とする4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項7】
前記飽和脂肪族アルコールの混合物が、(1)1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、一酸化炭素と水素とのヒドロホルミル化反応による炭素数9〜11のアルデヒドを製造する工程及び(2)炭素数9〜11のアルデヒドを水素添加してアルコールに還元する工程を具備する方法により得られたものである請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
塩化ビニル系樹脂と請求項1〜5の何れかに記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の塩化ビニル系樹脂組成物の成形物である、塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な塩化ビニル系樹脂用可塑剤およびそれを含有してなる塩化ビニル系樹脂組成物に関し、詳しくは、耐熱性に優れた新規4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを含む塩化ビニル系樹脂用可塑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、柔軟性をはじめとする種々の性能を付与するとともに、押出やカレンダー加工等の成形加工時の加工温度を低下させ、成形加工を容易にする目的で、可塑剤が添加された塩化ビニル系樹脂組成物として用いられることが多い。
【0003】
このような塩化ビニル系樹脂組成物に用いられる可塑剤に求められる機能としては、該組成物を原料として成形加工品とした場合の、柔軟性、耐寒性、耐熱性、電気特性等種々の性能を付与する又は発揮させるところにある。このような塩化ビニル系樹脂組成物の可塑剤としては、例えばフタル酸ジ2−エチルへキシル(DOP)およびフタル酸ジイソノニル(DINP)に代表されるフタル酸エステル系の塩化ビニル用可塑剤が汎用的に使用されている。
【0004】
しかし、近年、化学物質に対する安全性についてクローズアップされる中でDOPを齧歯類に大量に投与した際に精巣毒性が認められることから、予防原則に則り日欧米の地域にて、乳幼児を主たる保護対象としてDOP等のフタル酸エステル系化合物の使用制限が行われており、可塑剤分野においても非フタル酸エステル系可塑剤が市場で望まれている。
【0005】
今日までに、非フタル酸エステル系可塑剤として、アセチルクエン酸トリブチル(以下、「ATBC」という)、アジピン酸ジ2−エチルへキシル(以下、「DOA」という)、トリメリット酸トリ2−エチルへキシル(以下、「TOTM」という)等の可塑剤が開発されてきているが(特許文献1〜3)、これらの可塑剤のうち、上記ATBC及びDOAはフタル酸エステル系可塑剤と比較して、耐熱性が大きく不足しているという問題があった。また、TOTMは、フタル酸エステルと較べても同等以上の耐熱性を有しており、フタル酸エステル系可塑剤の代替が可能な耐熱性の良い可塑剤として期待されているが、フタル酸エステルに較べると柔軟性が不十分であり、用途的な制約があった。よって、未だ完全にフタル酸エステル系可塑剤を非フタル酸エステル系可塑剤に置き換えるには至っていないのが実状であった。
【0006】
そのような中で、近年、脂環族系ジカルボン酸ジエステル系可塑剤が、フタル酸エステル系可塑剤に近い柔軟性、耐熱性(耐揮発性)、耐寒性を有し、バランスの良い非フタル酸エステル系の可塑剤として、注目されており、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(以下、「DINCH」という)のような脂環族系ジカルボン酸ジエステル系可塑剤が実際に使われ始めている(特許文献4)。
【0007】
また、同じ脂環族系ジカルボン酸ジエステル系可塑剤であるシクロヘキセン系ジカルボン酸ジエステル系可塑剤は、低粘度等の他のエステル系可塑剤にはない特徴を有しており、
様々な用途で、注目されている(特許文献5)。
【0008】
一方、近年用途に限らず、何れの用途において、耐寒性や耐熱性への要求が益々厳しくなっており、上記脂環族系ジカルボン酸ジエステル系可塑剤に関しても、従来からある製品では対応できないケースが増えており、上記要求を満たすような、即ち耐寒性や耐熱性のより改善された脂環族系ジカルボン酸ジエステル系可塑剤の開発が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−226482号公報
【特許文献2】特開2002−194159号公報
【特許文献3】特開2013−147520号公報
【特許文献4】特表2001−526252号公報
【特許文献5】特開2004−002695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点を解決できる、即ち耐寒性及び耐熱性に優れ、かつ柔軟性が良好な4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル系の塩化ビニル系樹脂用可塑剤およびその可塑剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、先の発明(特願2014−148463)において、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸又はその無水物と、炭素数9の飽和脂肪族アルコールを主成分とする飽和脂肪族アルコールの混合物とをエステル化反応して得られる4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを含有する塩化ビニル系樹脂用可塑剤が、本来の可塑剤としての性能、即ち可塑化性能や柔軟性が良好であり、かつ耐熱性や耐寒性に優れることを開示したが、上述の通り、省資源化の流れが益々加速する中で、一部用途では更なる耐熱性の改善の必要性があった。
【0012】
そこで、本発明者らは、かかる現状に鑑み、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、特定の構造を有する4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルが、先の発明に係る4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルの可塑剤としての性能や耐寒性を損なうことなく、更なる耐熱性の改善が可能性であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下の新規な塩化ビニル系樹脂用可塑剤およびそれを含む塩化ビニル系樹脂組成物を提供するものである。
【0014】
[項1] 下記一般式(1)で示される4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルからなり、R及びRが主として炭素数9〜11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8〜28/32〜52/28〜48の範囲であり、かつR及びRを構成するアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50〜99%であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【化1】

(式中、R及びRは同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表す。)
【0015】
[項2] 前記アルキル基の比率が、10〜26/34〜50/30〜46の範囲である[項1]に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【0016】
[項3] 前記アルキル基の比率が、12〜24/36〜48/32〜44の範囲である[項2]に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【0017】
[項4] アルキル基中の直鎖状アルキル基の比率が、55〜95%である[項1]〜[項3]の何れかに記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【0018】
[項5] アルキル基中の直鎖状アルキル基の比率が、60〜95%である[項4]に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【0019】
[項6] アルキル基中の直鎖状アルキル基の比率が、70〜95%である[項5]に記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤。
【0020】
[項7] [項1]〜[項6]の何れかに記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤に使用するための4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルの製造方法であって、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸若しくはその無水物と、炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールを主成分とし、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が10〜25/35〜50/30〜45の範囲であり、かつ該飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(モル比)が50〜99%である飽和脂肪族アルコールの混合物とをエステル化反応することを特徴とする4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【0021】
[項8] 前記飽和脂肪族アルコールの混合物が、(1)1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、一酸化炭素と水素とのヒドロホルミル化反応による炭素数9〜11のアルデヒドを製造する工程及び(2)炭素数9〜11のアルデヒドを水素添加してアルコールに還元する工程を具備する方法により得られたものである[項7]に記載の製造方法。
【0022】
[項9] 塩化ビニル系樹脂と[項1]〜[項6]の何れかに記載の塩化ビニル系樹脂用可塑剤を含有することを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【0023】
[項10] [項9]に記載の塩化ビニル系樹脂組成物の成形物である、塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の効果】
【0024】
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤は、良好な可塑化性能、柔軟性、及び優れた耐寒性を保持しつつ、耐熱性、即ち耐揮発性を大きく改善することができ、近年の益々厳しくなる耐熱性の要求に対応できる可塑剤として、様々な用途で使用することができる。また、その塩化ビニル系樹脂用可塑剤を含むことにより、近年の省資源化等の要求に対応することのできる塩化ビニル系樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<塩化ビニル系樹脂用可塑剤>
本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤は、下記一般式(1)で示される特定の構造を有する4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルからなることを特徴とする。
【化2】

なお、式中、R及びRは同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、主として炭素数9〜11のアルキル基から構成され、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8〜28/32〜52/28〜48、好ましくは10〜26/34〜50/30〜46、より好ましくは12〜24/36〜48/32〜44の範囲であり、かつR及びRで示されるアルキル基の全量に対する直鎖状のアルキル基の比率(モル比)が50〜99%、好ましくは55〜95%、より好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%である。当然ではあるが、それぞれのアルキル基の比率の数値の合計は100である。このような比率を満たすことは、本発明の塩化ビニル系樹脂用可塑剤が、一般式(1)で示される4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルの混合物からなることを意味し、そして比率は、その混合物全体のアルキル基の全量を前提として規定している。なお、R及びRで示されるアルキル基は、炭素数7〜13の範囲から選択されることが本発明の効果の観点から好ましい。
【0026】
本発明に係る4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル(以下、「本エステル」という。)は、可塑剤としての性能を満たすものであれば、特にその製造方法により限定されるものではないが、例えば、所定の酸成分とアルコール成分とを常法に従って、好ましくは窒素等の不活性化ガス雰囲気下において、無触媒又は触媒の存在下でエステル化することにより容易に得られる。
【0027】
[アルコール成分]
上記エステル化反応に用いられるアルコール成分は、主として炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールからなり、炭素数9のアルキル基/炭素数10のアルキル基/炭素数11のアルキル基の比率(モル比)が8〜28/32〜52/28〜48、好ましくは10〜26/34〜50/30〜46、より好ましくは12〜24/36〜48/32〜44の範囲となる、脂肪族飽和アルコールの混合物である。なお、上記「主として」とは、飽和脂肪族アルコール全体に占める炭素数9〜11の脂肪族飽和アルコールの比率(モル比)が90%以上、好ましくは95%以上を意味する。当該飽和脂肪族アルコールは、前記一般式(1)で示される4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを構成するアルキル基となる原料アルコールであり、即ち前記説明は該アルキル基の説明と同義となる。
【0028】
また、上記飽和脂肪族アルコールの混合物は、該飽和脂肪族アルコール中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率(直鎖率、モル比)が、50〜99%、好ましくは55〜95%、より好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%であることを特徴とする。
【0029】
本発明で用いる飽和脂肪族アルコールの混合物の態様の詳細として、該飽和脂肪族アルコールの混合物は、主として炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールの混合物であり、更に、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が、8〜28/32〜52/28〜48、好ましくは10〜26/34〜50/30〜46、より好ましくは12〜24/36〜48/32〜44となる範囲であり、かつ直鎖状の飽和脂肪族アルコールの占める比率(モル比)が50〜99%、好ましくは55〜95%、より好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%である態様等が推奨される。
【0030】
優れた柔軟性や耐寒性の効果を保持しつつ、本発明の目的である耐熱性を大きく改善する為に貢献する要件として、飽和脂肪族アルコールの混合物中に占める直鎖状の飽和脂肪族アルコールの比率を少なくとも50%以上とする点と、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)を8〜28/32〜52/28〜48の範囲とする点が重要である。
【0031】
本発明で用いる、主として炭素数9〜11の飽和脂肪族アルコールからなり、炭素数9、10、11の各アルコールの占める比率(モル比)が8〜28/32〜52/28〜48の範囲である飽和脂肪族アルコールで、かつ直鎖状の飽和脂肪族アルコールの占める比率(モル比)が50〜99%である飽和脂肪族アルコールの混合物は、(1)1−オクテン、1−ノネン、1−デセンと一酸化炭素と水素とのヒドロホルミル化反応による炭素数9〜11のアルデヒドを製造する工程及び(2)炭素数9〜11のアルデヒドを水素添加してアルコールに還元する工程を具備する製造方法により製造することができ、その製造方法で得られた飽和脂肪族アルコールをそのまま用いるか又は含有させることにより、本発明に係る飽和脂肪族アルコールの混合物とすることができる。
【0032】
前記工程(1)のヒドロホルミル化反応は、例えば、コバルト触媒又はロジウム触媒の存在下、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、一酸化炭素及び水素を反応することにより炭素数9〜11のアルデヒドを製造することができる。
【0033】
前記工程(2)の水素添加は、例えば、ニッケル触媒又はパラジウム触媒等の貴金属触媒の存在下、炭素数9〜11のアルデヒドを水素加圧下で、水素添加することによりアルコールに還元することができる。市販品の具体例としては、シェルケミカルズ社のネオドール911などが挙げられる。
【0034】
[エステル化反応]
本発明に係るエステル化反応とは、上記アルコール成分と酸成分である4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸若しくはその無水物とのエステル化反応を意味し、そのエステル化反応を行うに際し、該アルコール成分は、例えば、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸若しくはその無水物1モルに対して、好ましくは2.00モル〜5.00モル、より好ましくは2.01モル〜3.00モル、特に2.02モル〜2.50モルを使用することが推奨される。
【0035】
エステル化反応に触媒を使用する場合、その触媒としては、鉱酸、有機酸、ルイス酸類等が例示される。より具体的には、鉱酸として、硫酸、塩酸、燐酸等が例示され、有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等が例示され、ルイス酸としては、アルミニウム誘導体、スズ誘導体、チタン誘導体、鉛誘導体、亜鉛誘導体等が例示され、これらの1種又は2種以上を併用することが可能である。
【0036】
それらの中でも、p−トルエンスルホン酸、炭素数3〜8のテトラアルキルチタネート、酸化チタン、水酸化チタン、炭素数3〜12の脂肪酸スズ、酸化スズ、水酸化スズ、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化鉛、水酸化鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが特に好ましい。その使用量は、例えば、エステル合成原料である酸成分およびアルコール成分の総重量に対して、好ましくは0.01重量%〜5.0重量%、より好ましくは0.02重量%〜4.0重量%、特に0.03重量%〜3.0重量%を使用することが推奨される。
【0037】
エステル化温度としては、100℃〜230℃が例示され、通常、3時間〜30時間で反応は完結する。
【0038】
本エステルの原料の酸成分である、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸若しくはその無水物は、特に制限はなく、公知の方法で製造したものや、市販品、試薬等で入手できるものなどが使用できる。例えば、市販品としてリカシット゛TH(商品名、新日本理化(株))などが例示される。4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物は、通常、無水マレイン酸と1,3−ブタジエンとをディールス・アルダー反応して得られる。エステル化反応の観点から、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物を使用することが推奨される。
【0039】
エステル化においては、反応により生成する水の留出を促進するために、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの水同伴剤を使用することが可能である。
【0040】
又、エステル化反応時に原料、生成エステル及び有機溶媒(水同伴剤)の酸化劣化により酸化物、過酸化物、カルボニル化合物などの含酸素有機化合物を生成すると耐熱性、耐候性等に悪影響を与えるため、系内を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下又は不活性ガス気流下で、常圧ないし減圧下にて反応を行うことが望ましい。エステル化反応終了後、過剰の原料を減圧下または常圧下にて留去することが推奨される。
【0041】
上記エステル化方法により得られた本エステルは、引き続き、必要に応じて塩基処理(中和処理)→水洗処理、液液抽出、蒸留(減圧、脱水処理)、吸着処理等により精製してもよい。
【0042】
塩基処理に用いる塩基としては、塩基性の化合物であれば特に制約はなく、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが例示される。
【0043】
吸着処理に用いる吸着剤としては、活性炭、活性白土、活性アルミナ、ハイドロタルサイト、シリカゲル、シリカアルミナ、ゼオライト、マグネシア、カルシア、珪藻土などが例示される。それらを1種で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0044】
上記エステル化後の精製処理は、常温で行なっても良いが、40〜90℃程度に加温して行なうこともできる。
【0045】
<塩化ビニル系樹脂組成物>
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、上述した本エステルを、可塑剤として塩化ビニル系樹脂に配合することにより得られる。
【0046】
[塩化ビニル系樹脂]
本発明で用いられる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの単独重合体及び塩化ビニルあるいは塩化ビニリデンの共重合体であり、その製造方法は、従来公知の重合方法で行われ、汎用塩化ビニル樹脂の場合、油溶性重合触媒の存在下に懸濁重合する方法が挙げられ、また、塩化ビニルペースト樹脂では水性媒体中で水溶性重合触媒の存在下に乳化重合する方法が挙げられる。これらの塩化ビニル系樹脂の重合度は、通常300〜5000であり、好ましくは400〜3500、さらに好ましくは700〜3000である。この重合度が低すぎると耐熱性等が低下し、高すぎると成形加工性が低下する傾向がある。
【0047】
共重合体の場合、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン等の炭素数2〜30のα−オレフィン類、アクリル酸およびそのエステル類、メタクリル酸およびそのエステル類、マレイン酸およびそのエステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アルキルビニルエーテル等のビニル化合物、ジアリルフタレート等の多官能性モノマー及びこれらの混合物と塩化ビニルモノマーとの共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等のエチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩素化ポリエチレン、ブチルゴム、架橋アクリルゴム、ポリウレタン、ブタジエンースチレンーメチルメタクリレート共重合体(MBS)、ブタジエンーアクリロニトリルー(α−メチル)スチレン共重合体(ABS)、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート及びこれらの混合物へ塩化ビニルモノマーをグラフトしたグラフト共重合体等が例示される。
【0048】
[塩化ビニル系樹脂組成物]
塩化ビニル系樹脂組成物における本エステルの含有量としては、その用途に応じて適宜選択されるが、通常、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、1〜100重量部であり、好ましくは5〜50重量部である。1重量部未満では所定の可塑化効果が得られにくく、100重量部を越えて配合した場合には、成形品表面へのブリードが激しく、いずれの場合も好ましくない。但し、上記の塩化ビニル系樹脂組成物に対して充填剤などを添加する場合は、充填剤自身が吸油するために上記の範囲を超えて当該可塑剤を配合することができる。例えば、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、充填剤として炭酸カルシウムを100重量部配合した場合には、当該可塑剤を1〜500重量部程度配合することができる。
【0049】
塩化ビニル系樹脂組成物は、本エステルと共に他の公知の可塑剤を本発明の効果を奏する範囲で併用することができる。又、必要に応じてプラスチック用として通常使用されている公知の難燃剤、安定剤、安定化助剤、着色剤、加工助剤、充填剤、酸化防止剤(老化防止剤)、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン等の光安定剤、滑剤或いは帯電防止剤等の添加剤を本発明の効果を奏する範囲で配合することができる。
【0050】
上記本エステル以外の他の可塑剤や添加剤は、1種でまたは2種以上組み合わせて本エステルと共に配合されていてもよい。
【0051】
本エステルと併用することができる公知の可塑剤としては、例えば、ジエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル類、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)、テレフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOTP)、イソフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOIP)等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)等の脂肪族二塩基酸エステル類、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(TOTM)、トリメリット酸トリイソノニル(TINTM)、トリメリット酸トリイソデシル(TIDTM)等のトリメリット酸エステル類、ピロメリット酸テトラ−2−エチルヘキシル(TOPM)等のピロメリット酸エステル類、リン酸トリ−2−エチルヘキシル(TOP)、リン酸トリクレジル(TCP)等のリン酸エステル類、ペンタエリスリトール等の多価アルコールのアルキルエステル、アジピン酸等の二塩基酸とグリコールとのポリエステル化によって合成された分子量800〜4000のポリエステル類、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油類、4,5−エポキシ−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジ−2−エチルヘキシルエステル等エポキシエステル類、ヘキサヒドロフタル酸ジイソノニルエステル(DINCH)、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ−2−エチルヘキシル等の脂環式二塩基酸エステル類、ジカプリン酸−1,4−ブタンジオール等の脂肪酸グリコールエステル類、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、アセチルクエン酸トリヘキシル(ATHC)、アセチルクエン酸トリエチルヘキシル(ATEHC)、ブチリルクエン酸トリヘキシル(BTHC)等のクエン酸エステル類、イソソルビドジエステル類、パラフィンワックスやn−パラフィンを塩素化した塩素化パラフィン類、塩素化ステアリン酸エステル等の塩素化脂肪酸エステル類、オレイン酸ブチル等の高級脂肪酸エステル類等が例示される。上記併用できる可塑剤を配合する場合、その配合量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対し、1〜100重量部程度が推奨される。
【0052】
難燃剤としては、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等の無機系化合物、クレジルジフェニルホスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート、トリスジクロロプロピルフォスフェート等のリン系化合物、塩素化パラフィン等のハロゲン系化合物等が例示される。又、難燃剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する難燃剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0053】
安定剤としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、リシノール酸バリウム、ステアリン酸バリウム、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸化合物、ジメチルスズビス−2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズビスブチルマレエート、ジブチルスズジラウレート等の有機錫系化合物、アンチモンメルカプタイド化合物等が例示される。又、安定剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する安定剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0054】
安定化助剤としては、トリフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、トリデシルフォスファイト等のホスファイト系化合物、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のベータジケトン化合物、グリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール等のポリオール化合物、過塩素酸バリウム塩、過塩素酸ナトリウム塩等の過塩素酸塩化合物、ハイドロタルサイト化合物、ゼオライトなどが例示される。又、安定化助剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する安定化助剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0055】
着色剤としては、カーボンブラック、硫化鉛、ホワイトカーボン、チタン白、リトポン、べにがら、硫化アンチモン、クロム黄、クロム緑、コバルト青、モリブデン橙などが例示される。又、着色剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する着色剤の配合量は1〜100重量部程度が推奨される。
【0056】
加工助剤としては、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、ブチルステアレート、ステアリン酸カルシウムなどが例示される。又、加工助剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する加工助剤の配合量は0.1〜20重量部程度が推奨される。
【0057】
充填剤としては、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、珪藻土、フェライトなどの金属酸化物、ガラス、炭素、金属などの繊維及び粉末、ガラス球、グラファイト、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウムなどが例示される。又、充填剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する充填剤の配合量は1〜100重量部程度が推奨される。
【0058】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート]メタン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどのフェノール系化合物、アルキルジスルフィド、チオジプロピオン酸エステル、ベンゾチアゾールなどの硫黄系化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどのリン酸系化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリールジチオリン酸亜鉛などの有機金属系化合物などが例示される。又、酸化防止剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する酸化防止剤の配合量は0.2〜20重量部程度が推奨される。
【0059】
紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレートなどのサリシレート系化合物、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−ジオクチルアミノメチルベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系化合物の他、シアノアクリレート系化合物などが例示される。又、紫外線吸収剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する紫外線吸収剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0060】
ヒンダードアミン系の光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート(混合物)、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジル)エステル及び1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールと高級脂肪酸のエステル混合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重縮合物、ポリ[{(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル){(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}}、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N' −ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、N,N' ,N'' ,N''' −テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン等が例示される。又、光安定剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する光安定剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0061】
滑剤としては、シリコーン、流動パラフィン、パラフィンワックス、ステアリン酸金属やラウリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド類、脂肪酸ワックス、高級脂肪酸ワックス等が例示される。又、滑剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する滑剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0062】
帯電防止剤としては、アルキルスルホネート型、アルキルエーテルカルボン酸型又はジアルキルスルホサクシネート型のアニオン性帯電防止剤、ポリエチレングリコール誘導体、ソルビタン誘導体、ジエタノールアミン誘導体などのノニオン性帯電防止剤、アルキルアミドアミン型、アルキルジメチルベンジル型などの第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム型の有機酸塩又は塩酸塩などのカチオン性帯電防止剤、アルキルベタイン型、アルキルイミダゾリン型などの両性帯電防止剤などが例示される。又、帯電防止剤を配合する場合、塩化ビニル系樹脂100重量部に対する帯電防止剤の配合量は0.1〜10重量部程度が推奨される。
【0063】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、本エステル、塩化ビニル系樹脂及び必要に応じて他の公知の可塑剤や各種添加剤を、例えばハンドリング混合や、ポニーミキサー、バタフライミキサー、プラネタリミキサー、ディゾルバ、二軸ミキサ−、三本ロールミル、モルタルミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、リボンブレンダー等の攪拌・混合機により攪拌・混合を行い、塩化ビニル系樹脂組成物の混合粉とすることができる。
【0064】
また、本エステル、塩化ビニル系樹脂及び必要に応じて他の公知の可塑剤や各種添加剤を、例えばコニカル二軸押出機、パラレル二軸押出機、単軸押出機、コニーダー型混練機、ロール混練機等の混練機により溶融混合することによりペレット状の塩化ビニル系樹脂組成物を得ることもできる。
【0065】
更に、本エステル、塩化ビニル系ペースト樹脂及び必要に応じて他の公知の可塑剤や各種添加剤を、例えばポニーミキサー、バタフライミキサー、プラネタリミキサー、リボンブレンダー、ニーダー、ディゾルバ、二軸ミキサー、ヘンシェルミキサー、三本ロールミル等の混合機により均一に混合し、必要に応じて減圧下で脱泡処理し、ペースト状の塩化ビニル系樹脂組成物を得ることもできる。
【0066】
[塩化ビニル系樹脂成形体]
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物(配合粉状やペレット状)を、真空成型、圧縮成形、押出成形、射出成形、カレンダー成形、プレス成形、ブロー成形、粉体成形等の従来公知の方法を用いて溶融成形加工することにより、所望の形状に成形することができる。
【0067】
一方、上記ペースト状の塩化ビニル系樹脂組成物は、スプレッドコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、紙キャスティング、押出コーティング、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、スラッシュ成形、回転成形、注型、ディップ成形等の従来公知の方法を用いて成形加工することにより、所望の形状に成形することができる。
【0068】
成形体の形状としては、特に限定されないが、例えば、ロッド状、シート状、フィルム状、板状、円筒状、円形、楕円形等あるいは玩具、装飾品等特殊な形状のもの、例えば星形、多角形形状が例示される。
【0069】
かくして得られた成形体は、水道管などのパイプ類、パイプ用の継手類、雨樋などの樋類、窓枠サイディング、平板、波板、自動車アンダーボディコート、インストルメントパネル、コンソール、ドアシート、アンダーカーペット、トランクシート、ドアトリム類などの自動車装材、各種レザー類、装飾シート、農業用フィルム、食品包装用フィルム、電線被覆、各種発泡製品、ホース、医療用チューブ、食品用チューブ、冷蔵庫用ガスケット、パッキン類、壁紙、床材、ブーツ、カーテン、靴底、手袋、止水板、玩具、化粧板、血液バック、輸液バック、ターポリン、マット類、遮水シート、土木シート、ルーフィング、防水シート、絶縁シート、工業用テープ、ガラスフィルム、字消し等に有用である。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例や比較例中の化合物の略号、及び各特性の測定は以下の通りである。
【0071】
(1)アルキル基の炭素数と直鎖状アルキル基の比率
本発明の実施例及び比較例で用いる可塑剤中のアルキル基の炭素数と直鎖状アルキル基の比率は、その製造に用いた原料アルコール中の組成をガスクロマトグラフィー(以下GCと略記)によって測定し、その結果を可塑剤中のアルキル基の炭素数と直鎖状アルキル基の比率とした。前記GCによる原料アルコールの測定方法は次のとおりである。
《GCの測定条件》
機種:ガスクロマトグラフ GC−17A(島津製作所製)
検出器:FID
カラム:キャピラリーカラム ZB−1 30m
カラム温度:60℃から290℃まで昇温。昇温速度=13℃/分
キャリアガス:ヘリウム
試料:50%アセトン溶液
注入量:1μl
定量:安息香酸n−プロピルを内部標準物質として用い定量した。
前記内部標準物質の選定に当たっては、原料アルコールに安息香酸n−プロピルがGCで検出限界以下であったことを予め確認した。
なお、上述のエステル化反応において、本発明の範囲内では原料アルコールの構造による反応性に差異はなく、用いた原料アルコール中の組成比と本エステル中のアルキル基の組成比に差異がないことは、予め確認している。
【0072】
(2)エステルの物性評価
下記の製造例で得られたエステルは次の方法で分析を行った。
エステル価:JIS K−0070(1992)に準拠して測定した。
酸価:JIS K−0070(1992)に準拠して測定した。
色数:JIS K−0071(Hazen)(1998)に準拠して測定して、ハーゼン単位色数を求めた。
【0073】
(3)塩化ビニルシートの作製(引張特性、耐寒性、耐熱性試験用シート)
重合度が1050又は2500の塩化ビニル樹脂100重量部に、安定剤としてカルシウムステアレート(ナカライテスク(株)製)及びジンクステアレート(ナカライテスク(株)製)を各々0.3及び0.2重量部を配合し、モルタルミキサーで攪拌混合した後、可塑剤50重量部を加え、均一になるまでハンドリング混合し塩化ビニル樹脂組成物とした。得られた樹脂組成物を5×12インチの二本ロールを用いて、重合度1050の塩化ビニル樹脂を用いた場合は160〜166℃で4分間溶融混練し、重合度2500の塩化ビニル樹脂を用いた場合は180〜186℃で5分間溶融混練し、ロールシートを作製した。続いて、重合度1050の塩化ビニル樹脂を用いた場合は162〜168℃×10分間、重合度2500の塩化ビニル樹脂を用いた場合は167〜173℃×10分間プレス成形を行い、厚さ約1mmのプレスシートを作製した。
【0074】
[樹脂の物性評価]
(4)引張特性:JIS K−6723(1995)に準拠し、プレスシートの100%モジュラス、破断強度、破断伸びを測定した。100%モジュラスの値が小さいほど柔軟性が良好であることを示し、破断強度、破断伸びはその材料の実用的な強度の目安であり、一般的にはその値が大きいほど実用的な強度に優れると言うことができる。
【0075】
(5)耐寒性:クラッシュベルグ試験機を用いて、JIS K−6773(1999)に準拠して測定した。柔軟温度(℃)が低いほど耐寒性に優れる。ここで言う柔軟温度とは、前記測定において所定のねじり剛性率(3.17×103kg/cm2)を示す低温限界の温度を指す。
【0076】
(6)耐熱性:揮発減量及びシート着色の評価による。
a)揮発減量:ギヤーオーブン中、ロールシートを170℃で60分、120分加熱した後のシートの重量変化を測定し、下記の式に従って揮発減量(%)を算出した。
揮発減量の数値が小さいほど、耐熱性が高い。
揮発減量(%)=((試験前の重量―試験後の重量)/試験前の重量)×100
b)シート着色 :ギヤーオーブン中、ロールシートを170℃で30分、60分間加熱した後の着色度の強弱を目視により6段階で評価した。
◎:着色なし、 ○:僅かに着色、 ○△:少し着色、
△:着色、 ×:強い着色、 ××:著しい着色
【0077】
[製造例1]
温度計、デカンター、攪拌羽、還流冷却管を備えた2L四ツ口フラスコに、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物152g(1.0モル)、炭素数9/10/11の比率が19/43/38であり、全体の直鎖率が84%である、炭素数9〜11の混合飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:ネオドール911)384g(2.4モル)、及びエステル化触媒としてp−トルエンスルホン酸5.0gを加え、反応温度を140℃としてエステル化反応を実施した。減圧下アルコールを還流させて生成水を系外へ除去しながら、反応溶液の酸価が0.5mgKOH/gになるまで反応を行った。反応終了後、未反応アルコールを減圧下で系外へ留去した後、常法に従って中和、水洗、脱水して目的とする4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル(以下、「エステル1」という。)400gを得た。
得られたエステル1は、エステル価:247mgKOH/g、酸価:0.02mgKOH/g、色数:5であった。
【0078】
[製造例2]
炭素数9〜11の混合飽和脂肪族アルコール(ネオドール911)384gの代わりに炭素数9の直鎖状の飽和脂肪族アルコール重量87.2%と炭素数9の分岐状の飽和脂肪族アルコール11.7重量%を含む混合飽和脂肪族アルコール(シェルケミカルズ社製:リネボール9)346g(2.4モル)を加えた以外は製造例1と同様に実施して、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル(以下、「エステル2」という。)374gを得た。
得られたエステル2は、エステル価:262mgKOH/g、酸価0.04mgKOH/g、色数:15であった。
【0079】
[製造例3]
炭素数9〜11の混合飽和脂肪族アルコール(ネオドール911)384gの代わりにイソノニルアルコール346g(2.4モル)を加えた以外は製造例1と同様に実施して、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステル(以下、「エステル3」という。)380gを得た。
得られたエステル2は、エステル価:264mgKOH/g、酸価0.02mgKOH/g、色数:5であった。
【0080】
[実施例1]
上記「(3)塩化ビニルシートの作製」に記載した通り、エステル1を可塑剤として用いて、重合度が1050の塩化ビニル樹脂(ストレート、商品名「Zest1000Z」、新第一塩ビ(株)製)をベースとした塩化ビニル樹脂組成物を調製し、得られた塩化ビニル樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製し、引張試験、耐寒性試験及び耐熱性試験を行なった。得られた結果を表1に示した。
【0081】
[実施例2]
重合度が1050の塩化ビニル樹脂の代わりに重合度が2500の塩化ビニル樹脂(ストレート、商品名「Zest2500Z」、新第一塩ビ(株)製)を用いた以外は実施例1と同様に実施して、塩化ビニル樹脂組成物を調製した後、得られた塩化ビニル樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験及び耐熱性試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0082】
[比較例1]
エステル1の代わりにエステル2を用いた以外は実施例1と同様に実施して、塩化ビニル樹脂組成物した後、得られた塩化ビニル樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験及び耐熱性試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0083】
[比較例2]
エステル1の代わりにエステル3を用いた以外は実施例1と同様に実施して、塩化ビニル樹脂組成物を調製した後、得られた塩化ビニル樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験及び耐熱性試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0084】
[比較例3]
エステル1の代わりにエステル3を用いた以外は実施例2と同様に実施して、塩化ビニル樹脂組成物を調製した後、得られた塩化ビニル樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験及び耐熱性試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0085】
[比較例4]
エステル1の代わりにフタル酸ジ2−エチルヘキシル(新日本理化社製:サンソサイザーDOP)を用いた以外は実施例1と同様に実施して、塩化ビニル樹脂組成物を調製した後、得られた塩化ビニル樹脂組成物より塩化ビニルシートを作製して引張試験、耐寒性試験及び耐熱性試験を行なった。得られた結果をまとめて表1に示した。
【0086】
【表1】
【0087】
表1の結果より、明らかに本発明の4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを可塑剤として配合した塩化ビニル系樹脂組成物(実施例1〜2)は、従来公知の可塑剤を配合した樹脂組成物(比較例2〜4)と比べて、柔軟性が良好であり、かつ耐寒性や耐熱性が非常に優れていることがわかる。また、本発明の範囲外の4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルを可塑剤として配合した樹脂組成物(比較例1)と比べると、良好な或いは優れた柔軟性、耐寒性の効果を保持しつつ、更に大きく耐熱性が向上されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエステルは、耐寒性及び耐熱性に優れ、かつ柔軟性が良好な塩化ビニル系樹脂用可塑剤として使用することができ、その可塑剤を含む塩化ビニル系樹脂組成物より得られる成形加工品は、高度な耐寒性、耐熱性、柔軟性の要求される電線被覆用途や自動車用部材用途、一般フィルムシート(ラミネート、包装、車両、雑貨等)用途、農業用フィルム用途、レザー用途、コンパウンド用途、床材用途、壁紙用途、履物用途、シーリング材用途、繊維用途、ホース用途、ガスケット用途、建築資材用途、塗料用途、接着剤用途、ペースト用途、医療用途に非常に有用である。