(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記端子付き自動車用電線が有する上記アルミニウム合金撚線に用いられる上記アルミニウム合金素線における化学成分組成の限定理由について説明する。
【0013】
Mg:0.3質量%以上0.9質量%以下、Si:0.1質量%以上0.7質量%以下
Mgを0.3質量%以上含有し、Siを0.1質量%以上含有することにより、Mg
2Siが析出し、自動車用電線の導体に用いたときのアルミニウム合金素線の強度を確保することができる。Mg含有量が0.9質量%超、Si含有量が0.7質量%超になると、アルミニウム合金素線の強度が高まるものの、導電率が低下し、伸線加工時に断線が生じやすくなる。よって、Mg含有量は0.9質量%以下、Si含有量は0.7質量%以下とされる。
【0014】
Mg含有量は、アルミニウム合金素線の強度向上の観点から、好ましくは、0.35質量%以上、より好ましくは、0.4質量%以上、さらに好ましくは、0.45質量%以上、さらにより好ましくは、0.5質量%以上とすることができる。Mg含有量は、アルミニウム合金素線の強度と導電率とのバランスの観点から、好ましくは、0.85質量%以下、より好ましくは、0.8質量%以下、さらに好ましくは、0.75質量%以下、さらにより好ましくは0.7質量%以下とすることができる。
【0015】
Si含有量は、アルミニウム合金素線の強度向上の観点から、好ましくは、0.15質量%以上、より好ましくは、0.2質量%以上、さらに好ましくは、0.25質量%以上、さらにより好ましくは、0.3質量%以上、さらにより一層好ましくは、0.35質量%以上とすることができる。Si含有量は、アルミニウム合金素線の強度と導電率とのバランスの観点から、好ましくは、0.68質量%以下、より好ましくは、0.65質量%以下、さらに好ましくは、0.6質量%以下とすることができる。
【0016】
Fe:0.1質量%以上0.4質量%以下
Fe含有量が高くなるほど、アルミニウム合金素線の強度が高まる。その添加効果を得るため、Fe含有量は0.1質量%以上とされる。しかし、Fe含有量が過度に高くなると、アルミニウム合金素線の導電率や靱性が低下し、伸線加工時に断線が生じやすくなる。よって、Fe含有量は0.4質量%以下とされる。
【0017】
Fe含有量は、アルミニウム合金素線の強度向上の観点から、好ましくは、0.12質量%以上、より好ましくは、0.15質量%以上とすることができる。Fe含有量は、アルミニウム合金素線の導電率、靱性を確保する観点から、好ましくは、0.38質量%以下、より好ましくは、0.34質量%以下、さらに好ましくは、0.3質量%以下とすることができる。
【0018】
Cu、Cr、Ni、および、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の元素:合計で0.01質量%以上0.5質量%以下
上記各添加元素は、アルミニウム合金素線の耐熱性、強度向上に有効な元素である。上記各添加元素は、その添加効果を得るために、合計で0.01質量%以上とされる。しかし、各添加元素の合計含有量が過度に高くなると、アルミニウム合金素線の導電率が低下し、伸線加工時に断線が生じやすくなる。よって、各添加元素の合計含有量は0.5質量%以下とされる。
【0019】
各添加元素の合計含有量は、アルミニウム合金素線の耐熱性、強度向上の観点から、好ましくは、0.02質量%以上、より好ましくは、0.03質量%以上、さらに好ましくは、0.04質量%以上、さらにより好ましくは、0.05質量%以上とすることができる。各添加元素の合計含有量は、アルミニウム合金素線の導電率を確保する観点から、好ましくは、0.45質量%以下、より好ましくは、0.4質量%以下、さらに好ましくは、0.35質量%以下とすることができる。
【0020】
上記化学成分組成は、さらに、Ti、および/または、Bを含有することができる。この場合、Ti含有量は、0.003質量%以上0.03質量%以下(質量比で30ppm以上300ppm以下)、B含有量は、0.0003質量%以上0.003質量%以下(質量比で3ppm以上30ppm以下)とすることができる。
【0021】
Ti、Bは、いずれも、アルミニウム合金素線の強度をより向上させることが可能な元素である。Ti、Bは、鋳造時のアルミニウム合金の結晶組織を微細にする効果がある。結晶組織が微細であると、アルミニウム合金素線の強度向上ばかりでなく、伸線加工性も向上させることができる。結晶組織の微細化による効果を十分に得る観点から、Ti含有量は、0.003質量%以上とされ、B含有量は、0.0003質量%以上とされる。但し、Ti含有量が0.03質量%超、B含有量が0.003質量%超になると、アルミニウム合金素線の導電率が低下し、また、結晶組織の微細化による効果も飽和する。よって、Ti含有量は、0.03質量%以下とされ、B含有量は、0.003質量%以下とされる。
【0022】
Ti含有量は、結晶組織の微細化促進の観点から、好ましくは、0.005質量%以上、より好ましくは、0.007質量%以上、さらに好ましくは、0.01質量%以上とすることができる。Ti含有量は、アルミニウム合金素線の導電率を確保する観点から、好ましくは、0.025質量%以下、より好ましくは、0.02質量%以下とすることができる。B含有量は、結晶組織の微細化促進の観点から、好ましくは、0.0005質量%以上、より好ましくは、0.001質量%以上、さらに好ましくは、0.002質量%以上、さらにより好ましくは、0.003質量%以上とすることができる。B含有量は、アルミニウム合金素線の導電率を確保する観点から、好ましくは、0.0025質量%以下、より好ましくは、0.002質量%以下とすることができる。
【0023】
上記アルミニウム合金素線は、非接触式表面粗さ測定機による表面粗さRaが0.15μm以上2μm以下の範囲内にある。なお、非接触式表面粗さ測定機としては、zygo社製、New Viewシリーズが用いられる。
【0024】
表面粗さRaが0.15μm未満になると、アルミニウム合金撚線に端子が圧着された際に、アルミニウム合金撚線の内層に存在するアルミニウム合金素線同士の間で滑りが生じやすくなり、その結果、内層のアルミニウム合金素線が抜けやすくなる。そのため、端子固着力を向上させることが困難になる。一方、表面粗さRaが2μmを超えても、端子固着力を向上させることが難しい。
【0025】
表面粗さRaは、端子固着力の向上効果を確実なものとする観点から、好ましくは、0.16μm以上、より好ましくは、0.17μm以上、さらに好ましくは、0.18μm以上、さらにより好ましくは、0.19μm以上、さらにより一層好ましくは、0.2μm以上とすることができる。表面粗さRaは、端子固着力の向上効果を確実なものとする観点から、好ましくは、1.8μm以下、より好ましくは、1.7μm以下、さらに好ましくは、1.5μm以下、さらにより好ましくは、1.3μm以下、さらにより一層好ましくは、1μm以下とすることができる。
【0026】
上記アルミニウム合金素線の素線径は、0.1mm以上0.4mm以下とすることができる。この場合には、製造時に混入する異物等によって断線し難く、振動に対する耐屈曲性が良好なアルミニウム合金素線を有するアルミニウム合金撚線が得られる。また、アルミニウム合金素線の伸線加工性、撚線加工性も良好である。
【0027】
上記アルミニウム合金素線の素線径は、好ましくは、0.15mm以上、より好ましくは、0.17mm以上、さらに好ましくは、0.2mm以上とすることができる。また、上記アルミニウム合金素線の素線径は、好ましくは、0.35mm以下、より好ましくは、0.3mm以下とすることができる。
【0028】
上記アルミニウム合金撚線は、上記アルミニウム合金素線が複数本撚り合わされてなる。上記アルミニウム合金撚線において、アルミニウム合金素線の撚り合わせ本数は、例えば、7本、11本、19本、37本などとすることができる。この場合には、自動車のエンジンに用いて好適なアルミニウム合金撚線が得られる。アルミニウム合金素線の撚り合わせ本数は、好ましくは、11本、19本、37本であるとよく、より好ましくは、19本、37本であるとよい。撚り合わせ本数が多くなるほど、内層のアルミニウム合金素線が増加する。そのため、上記作用効果を効果的に発揮させることができるためである。特に、撚り合わせ本数が19本、37本である場合には、上記作用効果を効果的に発揮させやすい。
【0029】
上記アルミニウム合金撚線において、アルミニウム合金素線の撚りピッチは、例えば、10〜50mmの範囲内とすることができる。この場合には、耐疲労特性向上や撚線生産性の向上などの利点がある。アルミニウム合金素線の撚りピッチは、好ましくは、12mm以上、より好ましくは、15mm以上、さらに好ましくは、17mm以上、さらにより好ましくは、20mm以上とすることができる。また、アルミニウム合金素線の撚りピッチは、好ましくは、48mm以下、より好ましくは、45mm以下、さらに好ましくは、43mm以下、さらにより好ましくは、40mm以下とすることができる。
【0030】
上記アルミニウム合金撚線の引張強さは、200MPa以上350MPa以下の範囲内にあるとよい。この場合には、強度、伸びのバランスに優れたアルミニウム合金撚線が得られる。また、振動に対する耐疲労特性も確保しやすくなり、自動車のエンジン等の振動環境下で使用されるアルミニウム合金撚線として好適である。
【0031】
上記アルミニウム合金撚線の引張強さは、強度の向上等の観点から、好ましくは、210MPa以上、より好ましくは、220MPa以上、さらに好ましくは、230MPa以上とすることができる。また、上記アルミニウム合金撚線の引張強さは、伸びの確保等の観点から、好ましくは、330MPa以下、より好ましくは、300MPa以下、さらに好ましくは、290MPa以下とすることができる。
【0032】
上記アルミニウム合金撚線の伸び
が6%以上
である場合、
上記アルミニウム合金撚線の靱性の向上に有利
である。上記アルミニウム合金撚線の伸びは、好ましくは、7%以上、より好ましくは、8%以上、さらに好ましくは、9%以上、さらにより好ましくは、10%以上とすることができる。また、上記アルミニウム合金撚線の伸びは、強度とのバランス等の観点から、好ましくは、15%以下、より好ましくは、14%以下、さらに好ましくは、13%以下とすることができる。
【0033】
上記
端子付き自動車用電線は、上記アルミニウム合金撚線
と、上記アルミニウム合金撚線に圧着された端子とを有している。上記
端子付き自動車用電線
において、上記アルミニウム合金撚線
は、
具体的には、該アルミニウム合金撚線の外周に被覆された絶縁
体を有する構成とすることができる。
また、端子は、具体的には、電線端末部が皮剥ぎされて露出した上記アルミニウム合金撚線に圧着された構成とすることができる。
【0034】
絶縁体は、電気絶縁性を有する各種の樹脂やゴム(エラストマー含む)等のポリマーを主成分とする樹脂組成物より構成することができる。上記樹脂やゴムは、1種または2種以上併用することができる。上記ポリマーとしては、具体的には、例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリサルホン系樹脂、フッ素系樹脂、フッ素系ゴムなどを例示することができる。絶縁体は、1層から構成されていてもよいし、2層以上から構成されていてもよい。絶縁体の厚みは、例えば、0.1mm以上0.4mm以下とすることができる。なお、絶縁体には、一般的に電線に利用される各種の添加剤が1種または2種以上含有されていてもよい。上記添加剤としては、具体的には、充填剤、難燃剤、酸化防止剤、老化防止剤、滑剤、可塑剤、銅害防止剤、顔料などを例示することができる。
【0035】
上記
端子付き自動車用電線は、具体的には、例えば、エンジンに好適に用いることができる。自動車のエンジンは、高温下で振動するため、高い端子固着力が要求されるからである。
【0036】
上記ワイヤーハーネスは、上記
端子付き自動車用電
線を有している
。上記ワイヤーハーネスは、具体的には、複数本の自動車用電線からなる電線束が保護材により被覆された構成とすることができる。
【0037】
上記アルミニウム合金撚線は、Mg:0.3質量%以上0.9質量%以下、Si:0.1質量%以上0.7質量%以下、Fe:0.1質量%以上0.4質量%以下、Cu、Cr、Ni、および、Zrからなる群より選択される少なくとも1種の元素:合計で0.01質量%以上0.5質量%以下、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる化学成分組成を有する鋳造材を形成する鋳造工程と、上記鋳造材に塑性加工を施して展伸材を形成する展伸工程と、上記展伸材に伸線加工を施して伸線材を形成する伸線工程と、上記伸線材を複数本撚り合わせて撚線材を形成し、該撚線材に熱処理を施す、または、上記伸線材に熱処理を施し、該熱処理が施された伸線材を複数本撚り合わせて撚線材を形成する撚線工程とを有しており、上記伸線加工により、上記伸線材の非接触式表面粗さ測定機による表面粗さRaを0.15μm以上2μm以下とする、あるいは、上記伸線加工後、上記撚線材の形成前に、上記伸線材に対して上記非接触式表面粗さ測定機による表面粗さRaを0.15μm以上2μm以下とする粗面化処理を施すことにより製造することができる。以下、上述した鋳造工程、展伸工程、伸線工程、撚線工程について説明する。
【0038】
鋳造工程において、鋳造は、可動鋳型または枠状の固定鋳型を用いる連続鋳造、箱状の固定鋳型を用いる金型鋳造(以下、ビレット鋳造と称することがある。)等のいずれの鋳造方法も利用することができる。特に連続鋳造は、溶湯を急冷凝固することができるため、微細な結晶組織を有する鋳造材が得られる利点がある。また、急冷凝固により、晶析出物を微細にしやすい上、微細な晶析出物が均一に分散された結晶組織を有する鋳造材が得られる。このような鋳造材を素材として用いることにより、微細な結晶組織を有するアルミニウム合金素線を有するアルミニウム合金撚線を製造しやすくなる。そのため、この場合には、結晶の微細化によるアルミニウム合金撚線の強度の向上やアルミニウム合金撚線の製造時における伸線加工性を向上させることができる。
【0039】
展伸工程において、塑性加工としては、例えば、熱間または冷間の圧延または押出などを採用することができる。展伸工程は、好ましくは、鋳造材に熱間圧延を施して圧延材を形成する工程であるとよい。なお、鋳造材として、ビレット鋳造材を用いた場合には、鋳造後、熱処理(均質化処理)を行うことが好ましい。鋳造工程と展伸工程とは、好ましくは、連続的に実施されるとよい。この場合には、鋳造材に蓄積される熱を利用して熱間圧延等の塑性加工を容易に実施することができる。そのため、この場合には、エネルギー効率が良い上、バッチ式で両工程を行う場合と比較して、生産性に優れる。
【0040】
伸線工程において、伸線加工は、具体的には、冷間伸線加工とすることができる。伸線加工度は、所望の線径に応じて、適宜、中間軟化処理を実施することによって変更することができる。また、上記アルミニウム合金撚線の製造方法は、伸線加工により、伸線材の非接触式表面粗さ測定機による表面粗さRaを0.15μm以上2μm以下とすることができる。この場合、具体的には、伸線加工時に用いられるダイス表面の粗度を調節することにより、伸線材の表面粗さRaを調節することができる。
【0041】
また、上記アルミニウム合金撚線の製造方法は、伸線加工後の伸線材の表面粗さRaが0.15μm未満であってもよい。この場合には、伸線加工後、撚線材の形成前に、伸線材に対して表面粗さRaを0.15μm以上2μm以下とする粗面化処理を施すことになる。粗面化処理としては、具体的には、例えば、機械的手法、化学的手法、電気的手法等を適用することができる。これらは1または2以上組み合わせることができる。機械的な粗面化処理としては、例えば、ブラスト処理、研磨処理、表面が荒らされたロール等による転写などを例示することができる。また、化学的な粗面化処理としては、例えば、NaOHを含む溶液等のアルカリ性溶液によるエッチング、硫酸、クロム酸、フッ酸等を含む酸性溶液によるエッチング、電気的な粗面化処理としては、例えば、食塩水等の電解液を用いた電解エッチングなどを例示することができる。
【0042】
撚線工程では、所望本数のアルミニウム合金素線を有するアルミニウム合金撚線が得られるように、所定本数の伸線材を撚り合わせればよい。撚線工程における熱処理は、具体的には、軟化処理および/または時効処理とすることができる。熱処理は、例えば、大気雰囲気、非酸化性雰囲気にて実施することができる。非酸化性雰囲気としては、真空、不活性ガス(窒素、アルゴン等)、還元性ガス(水素含有ガス、炭酸ガス含有ガス)等による雰囲気を例示することができる。熱処理は、撚線材が備える伸線材の表面に酸化膜が生成されるのを抑制するため、酸素含有量が少ない非酸化性雰囲気下にて実施することが好ましい。なお、撚線工程では、撚線材の引張強さが好ましくは200MPa以上350MPa以下、撚線材の伸びが好ましくは6%〜15%以下となるように熱処理を施す。引張強さが200MPa以上350MPa以下、撚線伸びが6%〜15%以下のアルミニウム合金撚線を得るためである。
【0043】
上記熱処理は、バッチ式、連続式のいずれであってもよい。また、これら方式を組み合わせることも可能である。連続式の熱処理は、連続的に線材を加熱する処理方法であり、連続的に加熱できるために作業性に優れる、線材の長手方向に均一に加熱できるために線材の長手方向における特性のバラツキを抑制しやすい等といった利点がある。
【0044】
連続式の熱処理法としては、例えば、加熱対象を抵抗加熱により加熱する直接通電方式(通電連続軟化処理)、加熱対象を高周波数の電磁誘導により加熱する間接通電方式(高周波誘導加熱連続軟化処理)、加熱雰囲気とされた加熱用容器(パイプ軟化炉等)に加熱対象を導入して熱伝導により加熱する炉式などを例示することができる。連続式の熱処理方法では、撚線材の伸びが上述した範囲になるように、線速や熱量等を適宜調節することができる。
【0045】
上記バッチ式の熱処理における熱処理条件は、例えば、加熱温度:140℃以上250℃以下、保持時間:4時間以上16時間以下などとすることができる。
【0046】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
上記
端子付き自動車用電線およびワイヤーハーネスの実施例につき、比較例とともに説明する。
【0048】
<アルミニウム合金撚線>
ベースとなる純アルミニウムインゴットを溶解炉にて溶解させた。純アルミニウムインゴットは、99.7%以上の純度を有している。表1に示される添加元素を、表1に示される含有量(質量%)となるように溶解炉に投入し、アルミニウム合金溶湯を準備した。但し、Ti、または、TiおよびBの成分調整は、表1に示される含有量となるように、後述の鋳造直前のアルミニウム合金溶湯にTi粒、または、TiB
2ワイヤを供給することにより行った。また、成分調整を行ったアルミニウム合金溶湯に対し、適宜、水素ガス除去処理、異物除去処理を実施した。
【0049】
ベルト−ホイール式の連続鋳造圧延機を用い、アルミニウム合金溶湯を連続的に鋳造、熱間圧延することにより、φ9.5mmの表1に示す化学成分組成を有するワイヤーロッドを作製した。
【0050】
次いで、得られたワイヤーロッドに、所定のダイスを用いて冷間伸線加工を施すとともに、表1に示されるように、中間軟化処理を施す、または、中間軟化処理を施すことなく、表1に示される素線径を有する伸線材を形成した。
【0051】
得られた伸線材について、非接触式表面粗さ測定機(zygo社製、「New View1100」)を用い、表面粗さRaを測定した。測定は、具体的には、非接触式表面粗さ測定機のレーザー顕微鏡で、伸線材から得られた円相当の平面粗度を平面相当に変換した後、円相当の頂点(中心線)からの算術平均偏差を算出した。測定試料数はn=3、測定エリアは85×64μmである。
【0052】
その結果、試料1〜試料5、試料6−5の伸線材は、伸線加工後の表面粗さRaが0.15μm以上2μm以下であった。
【0053】
一方、伸線加工後の表面粗さRaが0.15μm未満であった試料の伸線材については、別途、粗面化処理を施した。具体的には、試料6−1は、40質量%のNaOH水溶液に30秒浸漬するという粗面化処理を施した。試料6−2は、10質量%のNaOH水溶液に30秒浸漬するという粗面化処理を施した。試料6−3は、1質量%のNaOH水溶液に30秒浸漬するという粗面化処理を施した。試料6−4は、5質量%の食塩水を用いて30秒間電解エッチング(0.2A)するという粗面化処理を施した。試料6−101は、60質量%のNaOH水溶液に60秒浸漬するという粗面化処理を施した。但し、試料6−102、試料1−101、試料1−102の伸線材については、伸線加工後の表面粗さRaが0.15μm未満であったものの、比較のため、粗面化処理を施さなかった。
【0054】
次いで、得られた各伸線材(各アルミニウム合金素線)を、表1に示される撚り本数、撚ピッチ24mmにて撚り合わせることにより、各撚線材を形成した。その後、各撚線材に、表1に示される温度にて熱処理を実施した。以上により、各アルミニウム合金撚線を得た。
【0055】
<自動車用電線>
得られたアルミニウム合金撚線からなる導体の外周に、絶縁体としてのポリ塩化ビニル(PVC)を、表1に示される厚みで押し出し被覆した。これにより、各自動車用電線を得た。
【0056】
<
端子付き自動車用電線、ワイヤーハーネス>
図1に示されるように、自動車用電線2の電線端末部における絶縁体20を剥ぎ取り、露出した導体(アルミニウム合金撚線1)に端子30を圧着し
、端子付き自動車用電線とした。端子30は
、導体であるアルミニウム合金撚線1を固定するワイヤーバレル301と、絶縁体20を固定するインシュレーションバレル302とを有している。なお、
図1中、符号10は、アルミニウム合金素線である。端子30の圧着は、図示しない所定形状の金型を用いて、各バレル301、302を塑性変形させることにより行われる。本例では、
図2に示されるように、端子30は、すべて、クリンプハイト(C/H)(圧縮率)が60%となる条件で圧着されている。なお、
図2では、アルミニウム合金素線は、省略されている。これにより、各ワイヤーハーネス3を得た。
【0057】
(アルミニウム合金撚線の引張強さ、伸び)
本例において得られた導体としてのアルミニウム合金撚線について、標点間距離GL=250mm、引張速度50mm/minの条件にて引張試験を実施することにより、アルミニウム合金撚線の引張強さ(MPa)および伸び(%)を測定した。
【0058】
(端子固着力の測定)
ワイヤーハーネスの
端子付き自動車用電線を用いて、端子固着力を測定した。具体的には、端子が圧着された
端子付き自動車用電線を用い、端子を固定した状態で、
端子付き自動車用電線を100mm/minの引張速度で引っ張り、端子が抜けない最大荷重(N)を測定し、これを端子固着力とした。なお、各試料は、撚線径が異なる。そのため、上述の引張試験で測定された導体破断荷重(N)に対する上記端子固着力の比を算出した。
【0059】
表1に、各アルミニウム合金素線、各アルミニウム合金撚線、各自動車用電線、各ワイヤーハーネスの詳細構成を示す。また、表2に、各アルミニウム合金素線の表面粗さRa、各アルミニウム合金撚線の引張強さおよび伸び、端子固着力/導体破断荷重の比を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1および表2に示されるように、試料1〜試料6−5は、アルミニウム合金素線が特定の化学成分組成を有しており、アルミニウム合金素線の表面粗さRaが特定の範囲内にある。そのため、試料1〜試料6−5は、端子固着力を向上させることができた。これは、特定の化学成分組成を有するアルミニウム合金素線の表面が特定の範囲の表面粗さRaを有していることにより、アルミニウム合金撚線に端子が圧着された際に、アルミニウム合金撚線の内層に存在するアルミニウム合金素線間の摩擦力が大きくなり、アルミニウム合金素線同士の滑りが抑制され、その結果、内層のアルミニウム合金素線が抜け難くなったためである。
【0063】
これらに対し、試料1−101、試料1−102は、アルミニウム合金素線が特定の化学成分組成を有しておらず、アルミニウム合金素線の表面粗さRaも特定の範囲内にない。そのため、試料1−101、試料1−102は、端子固着力を向上させることができなかった。
【0064】
また、試料6−101は、アルミニウム合金素線が特定の化学成分組成を有しているものの、アルミニウム合金素線の表面粗さRaが2μm超である。そのため、試料6−101は、端子固着力を向上させることができなかった。
【0065】
また、試料6−102は、アルミニウム合金素線が特定の化学成分組成を有しているものの、アルミニウム合金素線の表面粗さRaが0.15μm未満である。そのため、試料6−102は、端子固着力を向上させることができなかった。
【0066】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。