特許第6548020号(P6548020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6548020高純度銅電解精錬用添加剤と高純度銅製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548020
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】高純度銅電解精錬用添加剤と高純度銅製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 1/12 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   C25C1/12
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-169882(P2015-169882)
(22)【出願日】2015年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-74974(P2016-74974A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2018年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-205310(P2014-205310)
(32)【優先日】2014年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】樽谷 圭栄
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−307343(JP,A)
【文献】 特表2008−530367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度銅の電解精錬における銅電解液に添加される添加剤であって、芳香族環を含む疎水基とポリオキシアルキレン基を含む親水基とを有する非イオン性界面活性剤からなり、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11であることを特徴とする高純度銅電解精錬用添加剤。
【請求項2】
添加剤のハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが12≦dD≦17であって、極性成分dPが7≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11である請求項1に記載する高純度銅電解精錬用添加剤。
【請求項3】
芳香族環を含む疎水基とポリオキシアルキレン基を含む親水基とを有する非イオン性界面活性剤からなり、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11である添加剤を銅電解液に添加して電解を行う高純度銅の製造方法。
【請求項4】
銅電解液中の添加剤の濃度が2〜500mg/Lである請求項3に記載する高純度銅の製造方法。
【請求項5】
銅電解液が硫酸銅溶液、硝酸銅溶液、または塩化銅溶液である請求項3または請求項4に記載する高純度銅の製造方法。
【請求項6】
銅濃度5〜90g/Lであって、硫酸濃度10〜300g/Lの硫酸銅溶液、または硝酸濃度0.1〜100g/Lの硝酸銅溶液、または塩酸濃度10〜300g/Lの塩化銅溶液を電解液として使用する請求項5に記載する高純度銅の製造方法。
【請求項7】
硫黄および銀濃度が何れも1ppm以下の高純度銅を製造する請求項3〜請求項6の何れかに記載する高純度銅の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄や銀濃度などの不純物を大幅に低減した高純度銅を製造する高純度銅電解精錬用の添加剤と該添加剤を用いた製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度銅の製造方法として、特許文献1に記載されているように、硫酸銅水溶液を電解し、陰極に析出した銅を陽極にしてさらに硝酸銅水溶液中において100A/m以下の低電流密度で再電解する二段階の電解を行う方法が知られている。
【0003】
また、特許文献2に記載されているように、塩素イオン、ニカワ等、および活性硫黄成分を含む硫酸銅電解液にPEG(ポリエチレングリコール)等のポリオキシエチレン系界面活性剤を併用することによって機械的特性とカソード密着性を高めた電解銅箔の製造方法が知られている。さらに、特許文献3に記載されているように、PVA(ポリビニルアルコール)等の平滑化剤とPEGなどのスライム促進剤を併用することによって銅表面が平滑で銀や硫黄の不純物量が少ない高純度電気銅を製造する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平08−990号公報
【特許文献2】特開平2001−123289号公報
【特許文献3】特開2005−307343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法のように、硫酸銅浴の電解と硝酸銅浴の電解を行う二段階の製造方法では電解に手間がかかる問題がある。また、硝酸の使用は環境負荷が高く、排水処理が煩雑になる問題がある。
【0006】
従来の添加剤(PVA,PEG等)を用いると電流密度を上げることが難しく、電流密度を上げるために液撹拌を行うとスライムが舞い上がり、これがカソードに付着して電気銅の純度が低下する。しかも、添加剤がアノードの溶解を強く抑制するため、アノード溶解過電圧が上昇してアノード溶解の際にスライムが大量に発生し、カソードの歩留まりが低下すると共にカソードに付着するスライム量が多くなる。また、従来の添加剤はカソードの析出反応を抑制するため、電解液が硫酸根を含んでいると電着銅の硫黄濃度が上昇して純度が低下する問題があった。
【0007】
また、PEGやPVA等の水溶性高分子の添加剤は親水性が極めて高く、さらに紫外線吸収性が乏しく、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量分析が困難であり、また分解速度が速いことから、正確な濃度管理が難しい。さらに、PEGを用いると電気銅表面の樹枝状突起が生じやすいと云う問題があり、その問題を解決するためにPVAを用いると電気銅の表面は平滑になるが不純物の銀が十分に低減されない。また、さらに、特許文献2に記載されているPEG等の界面活性剤を用いる製造方法は電気銅の硫黄含有量等が高く、高純度の電気銅を得ることが難しい。
【0008】
本発明は、高純度銅の製造について、従来の製造方法における上記問題を解消したものであり、特定の疎水基と親水基を有する界面活性剤からなる添加剤を用いることによって、スライムの発生を抑制して硫黄等の不純物濃度を大幅に低減した高純度銅を製造できるようにしたものであって、上記添加剤と該添加剤を用いた製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有する高純度銅電解精錬用添加剤と高純度銅の製造方法に関する。
〔1〕高純度銅の電解精錬における銅電解液に添加される添加剤であって、芳香族環を含む疎水基とポリオキシアルキレン基を含む親水基とを有する非イオン性界面活性剤からなり、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11であることを特徴とする高純度銅電解精錬用添加剤。
〔2〕添加剤のハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが12≦dD≦17であって、極性成分dPが7≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11である上記[1]に記載する高純度銅電解精錬用添加剤。
〔3〕芳香族環を含む疎水基とポリオキシアルキレン基を含む親水基とを有する非イオン性界面活性剤からなり、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11である添加剤を銅電解液に添加して電解を行う高純度銅の製造方法。
〔4〕銅電解液中の添加剤の濃度が2〜500mg/Lである上記[3]に記載する高純度銅の製造方法。
〔5〕銅電解液が硫酸銅溶液、硝酸銅溶液、または塩化銅溶液である上記[3]または上記[4]に記載する高純度銅の製造方法。
〔6〕銅濃度5〜90g/Lであって、硫酸濃度10〜300g/Lの硫酸銅溶液、または硝酸濃度0.1〜100g/Lの硝酸銅溶液、または塩酸濃度10〜300g/Lの塩化銅溶液を電解液として使用する上記[5]に記載する高純度銅の製造方法。
〔7〕硫黄および銀濃度が何れも1ppm以下の高純度銅を製造する上記[3]〜上記[6]の何れかに記載する高純度銅の製造方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の添加剤は、高純度銅の電解精錬における銅電解液に添加される添加剤であって、芳香族環を含む疎水基とポリオキシアルキレン基を含む親水基とを有する非イオン性界面活性剤からなり、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11であることを特徴とする高純度銅電解精錬用添加剤である。
【0011】
本発明の添加剤は、芳香族環を含む疎水基とポリオキシアルキレン基を含む親水基とを有する非イオン性界面活性剤からなる。該添加剤の芳香族環を含む疎水基は、例えば、フェニル基またはナフチル基などであり、モノフェニル、ナフチル、クミル、アルキルフェニル、スチレン化フェニル、ジスチレン化フェニル、トリスチレン化フェニルなどが挙げられる。該添加剤のポリオキシアルキレン基を含む親水基は、例えば、ポリオキシエチレン基またはポリオキシプロピレン基などであり、ポリオキシエチレン基とポリオキシプロピレン基の両方を含むものでも良い。
【0012】
本発明の添加剤の具体的な化合物は、例えば、ポリオキシエチレンモノフェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフチルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンモノフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンナフチルエーテル、ポリオキシプロピレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシプロピレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシプロピレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシプロピレンクミルフェニルエーテルなどである。
【0013】
このように本発明の添加剤は、上記疎水基と上記親水基を有しており、この疎水基と親水基を有することによって、電解液中の銀イオンおよび硫酸イオンがカソードに析出するのが抑制され、電気銅の銀濃度および硫黄濃度が大幅に低減される。
【0014】
さらに、本発明の添加剤は、上記疎水基と上記親水基がハンセン溶解度パラメータによって示される適度なバランスを保っている。具体的には、上記添加剤はハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11である。
【0015】
一般に、疎水基と親水基のバランスの指標として液体のハンセン溶解度パラメータ(HSP)が用いられている。該HSPはある物質が他の物質に溶解する程度を示す指標である。その溶解度パラメータδは分散成分dD、極性成分dP、水素結合成分dHを座標軸とした3次元空間の座標点の位置によってその溶解性が示され、δ=(dD+dP+dH0.5の式で表すことができる。
【0016】
HSPは様々な溶媒の組成に対する物質の溶解性を示すことができ、その相溶解性は、次式(1)に示すHSPdistance(Ra)式によって表すことができる。このHSPdistance(Ra)が小さいほど相溶性が高い。2つの物質Aおよび物質BのHSPdistance(Ra)は下記の式(1)で表すことができる。式(1)において、dDA、dPA、dHAはおのおの物質Aの分散成分dD、極性成分dP、水素結合成分dHである。また、dDB、dPB、dHBはおのおの物質Bの分散成分dD、極性成分dP、水素結合成分dHである。
HSPdistance(Ra)={4×(dD−dD)+(dP−dP)+(dH−dH)0.5・・・(1)
【0017】
一般的な溶媒のハンセン溶解度パラメータは既知の文献(Hansen Solubility Parameters: A User’s Handbook, Charles Hansen、2007、第2版等)に記載されており、また、特定の溶媒のハンセン溶解度パラメータは、その試料をハンセン溶解度パラメータが確定している他の溶媒に溶解させて溶解度を測定することによって決定することができる。また、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)ソフトフェアを用いて算出することができる。具体的には、HSPiPにあるY−MBツールによって物質の構造式から分子を自動分割して分散成分dD、極性成分dP、水素結合成分dHを算出することができる。本件ではHSPiPソフトのY−MBツールを用いて各添加剤の分散成分dD、極性成分dP、水素結合成分dHを添加剤の構造式から算出した。
【0018】
なお、本発明で用いている添加剤のハンセン溶解度パラメータ(dD、dP、dH)は、添加剤と鉱酸および銅化合物および水から成り立つ電解液との相溶性を示しているのではない。添加剤が持つ固有の溶解度パラメータは、電析抑制効果と相関があるという新規に見出された知見から、添加剤と電析効果との関係を示すものである。
【0019】
また、界面活性剤の親水性・親油性のバランスを表すパラメータとして、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance:親水親油バランス)が知られている。HLBは水と油に対する作用のみを表しているが、HSPは様々な溶媒の組成に対する物質の溶解性を示しており、HLBとHSPには相関が無く、互いに異なる指標である。
【0020】
本発明の添加剤は、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であり、極性成分dPが6≦dP≦9であり、水素結合成分dHが9≦dH≦11である非イオン性界面活性剤である。好ましくは、添加剤の分散成分dDは12≦dD≦17であって、極性成分dPは7≦dP≦9であって、水素結合成分dHは9≦dH≦11である。
【0021】
本発明の添加剤において、分散成分dDおよび極性成分dPおよび水素結合成分dHの値は親水基と疎水基のバランスとこれらの官能基の分子量を反映しており、分散成分dDおよび極性成分dPおよび水素結合成分dHの値の上記範囲は、アノードスライムの発生を抑制し、電気銅表面が平滑であって硫黄等の不純物量が大幅に少ない高純度銅が電解析出する最適範囲を示している。
【0022】
具体的には、添加剤のハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11であることによって、アノードスライムの発生が大幅に抑制される。例えば、アノードスライムの発生率が20%以下に抑制される。
【0023】
一方、添加剤の親水基が大きすぎると親水基によるカソード析出に対する抑制効果が強くなりすぎて、析出面が粗雑になる。また、疎水基が大きすぎると油性が強くなって吸着性が増し、疎水基による上記抑制効果が強くなりすぎて同様に析出状態が劣化し、さらに界面活性剤そのものが電解液に溶解し難くなる。
【0024】
具体的には、上記添加剤の分散成分dDが20を上回り、極性成分dPが6未満であり、水素結合成分dHが9未満であると、銅電解液に対する本添加剤の溶解性が著しく低下する。また、上記添加剤の分散成分dDが10未満であり、極性成分dPが9を上回り、水素結合成分dHが11を上回ると、添加剤のアノード溶解抑制効果が高まりすぎて、析出面が粗雑になると共にアノードスライムが増加する。
【0025】
本発明の添加剤は高純度銅の電解精錬における銅電解液に添加して使用される。添加剤の濃度は2〜500mg/Lの範囲が好ましく、10〜300mg/Lの範囲がより好ましい。添加剤の濃度が2mg/Lを下回ると、添加効果が乏しいため電気銅表面の平滑性が低下し、電気銅表面に電解液中の硫黄が付着して取り込まれ易くなるので、電気銅中の硫黄濃度が上昇する。一方、添加剤の濃度が500mg/Lを上回ると、アノード表面の付着が強すぎてスライムの発生量が増え、これが余剰な量の添加剤と共にカソードの電気銅に取り込まれるので、電気銅中の硫黄濃度および銀濃度が高くなる。
【0026】
本発明の添加剤が使用される銅電解液は、硫酸銅溶液、硝酸銅溶液、または塩化銅溶液などの鉱酸の銅化合物溶液である。
銅電解液として硫酸銅溶液を使用する場合、硫酸濃度は10〜300g/Lが好ましい。硫酸濃度が10g/L未満では電気銅中に水酸化銅が発生して析出状態が劣化する。一方、硫酸濃度が300g/Lを上回ると、電気銅中の硫酸取り込み量が増え、硫黄濃度が上昇する。銅電解液が硝酸銅溶液である場合には、硝酸濃度は0.1〜100g/Lが好ましい。銅電解液が塩化銅溶液である場合には塩酸濃度は10〜300g/Lが好ましい。
【0027】
銅電解液が硫酸銅溶液、硝酸銅溶液、または塩化銅溶液の何れにおいて、電解液の銅濃度は5〜90g/Lが好ましい(硫酸銅5水和物濃度では20〜350g/L、硝酸銅3水和物濃度では19〜342g/L、塩化銅2水和物濃度13〜241g/L)。銅濃度が5g/L未満では電気銅が粉状に析出するようになるため純度が低下する。一方、銅濃度が90g/Lを上回ると電気銅中に電解液が取り込まれやすくなるので純度が低下する。
【0028】
電解液が硫酸銅、または硝酸銅の場合の電解液は塩化物イオン濃度が200mg/L以下が好ましい。塩化物イオン濃度が200mg/Lを上回ると、電気銅に塩化物が取り込まれやすくなり、電気銅の純度が低下する。
【0029】
本発明の添加剤は、ポリオキシエチレン基などの親水基とフェニル基またはナフチル基などの疎水基を有している非イオン性界面活性剤からなり、強い紫外線吸収性と疎水性を持つため、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による定量分析が可能である。そこで、HPLCによって該添加剤の濃度を測定し、該添加剤の濃度が2〜500mg/Lの範囲、より好ましくは10〜300mg/Lの範囲を維持するように該添加剤の減少分を補給して銅電解精錬を行うと良い。
【発明の効果】
【0030】
本発明の添加剤は、芳香族環の疎水基とポリオキシアルキレン基の親水基とを有するので電解液中の銀イオンおよび硫黄イオンがカソードに析出するのを抑制し、電気銅の銀濃度および硫黄濃度を大幅に低減する。
さらに、本発明の添加剤は、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが10≦dD≦20であって、極性成分dPが6≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦dH≦11であることによって、アノードスライムが格段に抑制される。具体的には、例えば、アノードスライムの発生率が20%以下に抑制される。
【0031】
因みに、従来の界面活性剤、例えば、ハンセン溶解度パラメータの分散成分dDが3.6、極性成分dPが14.3であって水素結合成分dHが16.9であるPEGを硫酸銅電解液に添加して銅電解したときのスライム発生率は概ね30%以上であって格段に高い。スライムが多いとこれが電気銅表面に取り込まれて硫黄含有量を増加する原因になる。
【0032】
本発明の添加剤は、芳香族環を含む疎水基とポリオキシアルキレン基の親水基とを有することによって、電解液中の銀イオンおよび硫酸イオンがカソードに析出するのを抑制して電気銅の銀濃度および硫黄濃度を大幅に低減する効果と共に、上記疎水基と上記親水基とが適度なバランスを保っているのでアノードスライムの発生を抑制する効果を有しており、このため該スライムが電気銅に取り込まれ難くなり、これらの相乗的な効果によって電気銅に含まれる硫黄量および銀含有量を大幅に低減することができる。さらに、電気銅の炭素濃度も低い。また、本発明の添加剤は分子骨格に硫黄を含有しないためカソードの硫黄含有量が極めて低い。
【0033】
具体的には、本発明の添加剤によれば、硫黄濃度および銀濃度が何れも1ppm以下の高純度電気銅を得ることができる。
【0034】
本発明の添加剤は、アノードの溶解が適度であり、アノードスライムが発生し難いのでカソード歩留まりが80%以上である。
【実施例】
【0035】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。電気銅の硫黄濃度および銀濃度はGD−MS(グロー放電質量分析法)によって電気銅の中央部を測定した。
スライム発生率は次式によって求めた。
スライム発生率(%)=100−(析出した電気銅の重量)/(アノードの溶解量)×100
添加剤(A〜D)のハンセン溶解度パラメータのdD、dPおよびdHは、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)ソフトフェアの式を用い、上記添加剤の構造式をSMILES形式で入力して算出した。
平滑性はデンドライド(樹枝状突起)の発生や粉状析出の無いものを○印、僅かであるものを△印、多いものを×印で示した。
【0036】
〔実施例1〕
硫酸濃度100g/L、硫酸銅5水和物濃度200g/L、塩化物イオン濃度100mg/Lの硫酸銅溶液を電解液として用い、添加剤A,B,Cを用い、該電解液に添加剤A,B,Cを30mg/Lを加え、アノードには硫黄濃度5ppmおよび銀濃度8ppmの電気銅を用い、電流密度を200A/m、浴温30℃にて電解を行ない、12時間ごとにODSカラムを用いたHPLCによって添加剤濃度を測定し、添加剤濃度が30mg/Lを維持するように減少分を補給して電気銅を電解精錬した。この結果を表1に示した。
使用した添加剤A,B,Cは次のとおりである。
添加剤A:ポリオキシエチレンモノフェニルエーテル
添加剤B:ポリオキシエチレンナフチルエーテル
添加剤C:ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル
【0037】
表1に示すように、スライム発生率は20%以下、硫黄濃度約0.5ppm以下、銀濃度1.0ppm以下の表面が平滑な電気銅が得られた(No.1〜No.7)。従って、添加剤は、分散成分dDが12≦dD≦17であって、極性成分dPが7≦dP≦9であって、水素結合成分dHが9≦d≦11であるものが好ましい。
【0038】
【表1】
【0039】
〔実施例2〕
実施例1と同様の条件で、表2に示すハンセン溶解度パラメータdD、dP、dHの添加剤A、B、Cを用いて電気銅を電解精錬した。この結果を表2に示した。表2に示すように、添加剤A、B、CのdD値、dP値およびdH値は実施例1の試料No1〜No6に比べて、No10はdD値が高く、No11はdD値が高くdP値が低く、No12はdD値が低いが、銀および硫黄濃度は約1ppm以下であり、ハンセン溶解度パラメータが本発明の範囲内であれば硫黄濃度の低い高純度電気銅が得られることが確認された。
【0040】
【表2】
【0041】
〔実施例3〕
硝酸濃度5g/L、硝酸銅3水和物200g/L、塩化物イオン濃度100mg/Lの硝酸銅溶液を電解液として用いた以外は実施例1と同様の条件で、表3に示す添加剤A、B、Cを用い、電気銅を電解精錬した。結果を表3に示す。
表3に示すように、硝酸銅溶液を電解液に用いた場合でも、ハンセン溶解度パラメータの分極成分dDおよび極性成分dPおよび水素結合成分dHの値が本発明の範囲内であるものはスライム発生率が低く、電気銅の硫黄および銀の含有量は何れも1ppm以下と低く、電気銅表面の平滑性に優れている。
【0042】
【表3】
【0043】
〔実施例4〕
添加剤Aを表4に示す濃度になる量を用いた以外は実施例1と同様にして電気銅を電解精錬した。この結果を表4に示した。また、添加剤Bを表4に示す濃度になる量を用いた以外は実施例3と同様にして電気銅を電解精錬した。この結果を表4に示した。
表4に示すように、添加剤の濃度2〜500mg/Lの試料は、添加剤の濃度0.1mg/L、800mg/Lの試料よりも不純物が少なく、電気銅表面の平滑性が良好である。従って、添加剤A、Bの濃度は2〜300mg/Lが好ましい。
【0044】
【表4】
【0045】
〔実施例5〕
硫酸銅溶液を電解液として用い、硫酸濃度および銅濃度を表5に示すように調整し、この電解液に、添加剤Aを濃度30mg/Lになるように添加した以外は実施例1と同様にして電気銅を電解精錬した。この結果を表5に示した。
硝酸銅溶液を電解液として用い、硝酸濃度および銅濃度を表5に示すように調整し、この電解液に、添加剤Bを濃度30mg/Lになるように添加した以外は実施例1と同様にして電気銅を電解精錬した。この結果を表5に示した。
表5に示すように、硫酸濃度10〜300g/Lおよび銅濃度5〜90g/Lの試料は電気銅の不純物が少なく、電気銅表面の平滑性が良好である。また、硝酸濃度0.1〜100g/Lおよび銅濃度5〜90g/Lの試料は電気銅の不純物が少なく、電気銅表面の平滑性が良好である。一方、硫酸銅濃度や硝酸銅濃度および銅濃度が上記範囲を外れる試料は電析銅の表面が粗雑であり、スライム発生量が多い。従って、電解液として用いる硫酸溶液は硫酸濃度10〜300g/Lおよび銅濃度5〜90g/Lの範囲が好ましく、硝酸銅溶液は硝酸濃度0.1〜100g/Lおよび銅濃度5〜90g/Lの範囲が好ましい。
【0046】
【表5】