(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第一実施形態〕
以下、本発明の第一実施形態の可変速増速機について、図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の可変速増速機1は、回転駆動力を発生する電動装置50と、電動装置50で発生した回転駆動力を変速させて駆動対象に伝える変速装置10と、を備えている。可変速増速機1は、例えば、圧縮機システム等の流体機械システムに適用することができる。
本実施形態の可変速増速機1の駆動対象は圧縮機Cである。
【0016】
変速装置10は、遊星歯車変速装置である。
電動装置50は、定速で回転する定速ロータ52を有する定速電動機51と、任意の回転数で回転する可変速ロータ72を有する可変速電動機71とを有している。定速ロータ52と可変速ロータ72は、それぞれ変速装置10と接続されている。
【0017】
また、可変速増速機1は、電動装置50の回転を変速装置10に伝達したり遮断したりするクラッチ装置3を備えている。即ち、可変速増速機1は、変速装置10と電動装置50とを切り離ことができる。
【0018】
本実施形態のクラッチ装置3は、定速電動機51の回転を定速入力軸Acである内歯車キャリア軸37に伝達したり遮断したりする定速用クラッチ57である。
【0019】
電動装置50は、電動装置支持部50Sを介して架台90に支持されている。変速装置10は、変速装置支持部10Sを介して架台90に支持されている。これら支持部により、重量物である電動装置50及び変速装置10の確実な固定が可能となる。
【0020】
変速装置10は、
図2に示すように、水平方向に延在する軸線Arを中心として自転する太陽歯車11と、太陽歯車11に固定されている太陽歯車軸12と、太陽歯車11と噛み合い、軸線Arを中心として公転すると共に自身の中心線Apを中心として自転する複数の遊星歯車15と、軸線Arを中心として環状に複数の歯が並び、複数の遊星歯車15と噛み合う内歯車(歯車)17と、複数の遊星歯車15を、軸線Arを中心として公転可能に且つ遊星歯車15自身の中心線Apを中心として自転可能に支持する遊星歯車キャリア21と、内歯車17を軸線Arを中心として自転可能に支持する内歯車キャリア(歯車キャリア)31と、これらを覆う変速ケーシング41と、を有している。
【0021】
以下、軸線Arが延びている方向を軸方向とし、軸方向の一方側を出力側、出力側の反対側を入力側とする。また、軸線Arを中心とする径方向を単に径方向という。本実施形態の可変速増速機1は、軸線方向の入力側に電動装置50が配置され、電動装置50の出力側に変速装置10が配置されている。圧縮機Cは、可変速増速機1の出力側に配置されている。
【0022】
太陽歯車軸12は、軸線Arを中心として円柱状を成し、太陽歯車11から軸方向の出力側に延びている。この太陽歯車軸12の出力側端部には、フランジ13が形成されている。このフランジ13には、例えば、駆動対象としての圧縮機Cのロータが接続される。太陽歯車軸12は、太陽歯車11の出力側に配置されている太陽歯車軸受42により、軸線Arを中心として自転可能に支持されている。太陽歯車軸受42は、変速ケーシング41に取り付けられている。
【0023】
遊星歯車キャリア21は、複数の遊星歯車15毎に設けられている遊星歯車軸22と、複数の遊星歯車軸22相互の位置を固定する遊星歯車キャリア本体23と、軸線Arを中心として軸方向に延びる出力側遊星歯車キャリア軸27oと、を有している。出力側遊星歯車キャリア軸27oは、遊星歯車キャリア本体23の径方向内側に固定されている。
【0024】
遊星歯車軸22は、遊星歯車15の中心線Apを軸方向に貫通し、遊星歯車15をその中心線を中心として自転可能に支持する。遊星歯車キャリア本体23は、複数の遊星歯車軸22から径方向外側に延在している。
【0025】
出力側遊星歯車キャリア軸27oは、遊星歯車キャリア本体23から出力側に延在している。出力側遊星歯車キャリア軸27oは、軸線Arを中心として円筒状を成している。
【0026】
出力側遊星歯車キャリア軸27oは、遊星歯車キャリア軸受43により、軸線Arを中心として自転可能に支持されている。遊星歯車キャリア軸受43は、変速ケーシング41に取り付けられている。出力側遊星歯車キャリア軸27oの内周側には、太陽歯車軸12が挿通されている。
【0027】
変速装置10は、可変速電動機71の可変速ロータ72に接続される入力側遊星歯車キャリア軸27iと、入力側遊星歯車キャリア軸27iの回転を遊星歯車キャリア21に伝達する伝達軸25と、を、有している。
【0028】
入力側遊星歯車キャリア軸27iは、軸線Arを中心として円筒状を成している。入力側遊星歯車キャリア軸27iは、変速装置10の入力側に配置されており、遊星歯車キャリア軸受44により、軸線Arを中心として自転可能に支持されている。遊星歯車キャリア軸受44は、変速ケーシング41に取り付けられている。入力側遊星歯車キャリア軸27iの内周側には、変速装置10の内歯車キャリア31を駆動する内歯車キャリア軸(歯車キャリア軸)37が挿通されている。
【0029】
入力側遊星歯車キャリア軸27iの入力側端には、径方向外側に向かって広がる環状のフランジ28が形成されている。入力側遊星歯車キャリア軸27iの出力側端には、径方向外側に向かって延びる入力側アーム部26が形成されている。
【0030】
伝達軸25は、軸線Atを中心として自転可能に支持されている。伝達軸25は、軸受(図示せず)を介して変速ケーシング41に取り付けられている。伝達軸25の両端には、入力側伝達歯車29iと出力側伝達歯車29oが固定されている。
【0031】
入力側伝達歯車29iは、入力側アーム部26の外周に形成されている駆動歯車26gと噛み合っている。出力側伝達歯車29oは、遊星歯車キャリア本体23の外周に形成されている歯車23gと噛み合っている。これにより、入力側遊星歯車キャリア軸27iの回転は、伝達軸25を介して遊星歯車キャリア21に伝達される。
【0032】
内歯車キャリア31は、内歯車17が固定されているキャリア本体33と、キャリア本体33に固定され軸線Arを中心として軸方向に延びる内歯車キャリア軸37と、を有する。
【0033】
キャリア本体33は、軸線Arを中心として円筒状を成し、内周側に内歯車17が固定されている円筒部35と、円筒部35の入力側端から径方向内側に延びる入力側アーム部36と、を有する。
【0034】
軸線Arを中心として円柱状を成す内歯車キャリア軸37は、軸線Arを中心として円柱状を成す太陽歯車軸12の入力側に配置されている。キャリア本体33の入力側アーム部36は、内歯車キャリア軸37に固定されている。内歯車キャリア軸37は、円筒状の入力側遊星歯車キャリア軸27iの内周側に挿通されている。
【0035】
図3に示すように、定速電動機51は、変速装置10の内歯車キャリア軸37を回転駆動させる。可変速電動機71は、変速装置10の入力側遊星歯車キャリア軸27iを回転駆動させる。電動装置50は、定速電動機51を冷却するための冷却ファン91と、冷却ファン91を覆うファンカバー92と、を有する。
【0036】
内歯車キャリア軸37は、定速電動機51の駆動力によって定速で回転する定速入力軸Acである。入力側遊星歯車キャリア軸27iは、可変速電動機71の駆動力によって任意の回転数で回転する可変速入力軸Avである。
可変速増速機1は、可変速電動機71の回転数を変えることによって、駆動対象に接続される変速装置10の出力軸Aoの回転数を変えることができる。
【0037】
本実施形態において、定速電動機51は、例えば、4極の三相誘導電動機である。また、可変速電動機71は、極数が定速電動機51よりも多い8極の三相誘導電動機である。なお、定速電動機51及び可変速電動機71の仕様はこれに限ることはなく、適宜仕様を変更することができる。
【0038】
定速電動機51は、軸線Arを中心として自転し、変速装置10の定速入力軸Acである内歯車キャリア軸37に定速用クラッチ57を介して接続される定速ロータ52と、定速ロータ52の外周側に配置されている定速ステータ66と、定速ステータ66が内周側に固定されている定速電動機ケーシング61と、を有している。
【0039】
定速ロータ52は、軸線Arを中心として円柱状を成す定速ロータ軸53と、定速ロータ軸53の外周に固定されている導体56と、を有する。定速ロータ軸53の入力側端には、冷却ファン91が固定されている。
【0040】
定速ステータ66は、定速ロータ52の導体56の径方向外側に配置されている。この定速ステータ66は、複数のコイルで形成されている。
【0041】
定速電動機ケーシング61は、軸線Arを中心として円筒状を成し、内周側に定速ステータ66が固定されているケーシング本体62と、円筒状のケーシング本体62の軸方向の両端を塞ぐ蓋63i,63oとを有している。各々の蓋63i,63oには、定速ロータ軸53を、軸線Arを中心として自転可能に支持する定速ロータ軸受65i,65oが取り付けられている。各々の蓋63i,63oには、定速ロータ軸受65iよりも径方向外側の位置で、軸方向に貫通する複数の開口64が形成されている。
【0042】
定速ロータ軸53の入力側端は、定速電動機ケーシング61の入力側の蓋63iから、入力側に突出している。定速ロータ軸53の入力側端に、冷却ファン91が固定されている。
【0043】
定速ロータ52が回転すると、冷却ファン91も定速ロータ52と一体的に回転する。ファンカバー92は、冷却ファン91の外周側に配置されている円筒状のカバー本体93と、カバー本体93の入口側の開口に取り付けられ、複数の空気孔が形成されている空気流通板94と、を有する。ファンカバー92は、定速電動機ケーシング61の入力側の蓋63iに固定されている。
【0044】
定速用クラッチ57は、定速ロータ52(定速ロータ軸53)から定速入力軸Acである内歯車キャリア軸37に伝達される回転を伝達したり遮断したりする装置である。定速用クラッチ57としては、機械式のみならず、電磁力を用いる方式など、二つの動力伝達軸の間で用いるものであれば際限なく採用可能である。
【0045】
可変速電動機71は、軸線Arを中心として自転し、可変速入力軸Avである入力側遊星歯車キャリア軸27iに接続される可変速ロータ72と、可変速ロータ72の外周側に配置されている可変速ステータ86と、可変速ステータ86が内周側に固定されている可変速電動機ケーシング81と、を有している。
【0046】
可変速ロータ72は、可変速ロータ軸73と、可変速ロータ軸73の外周に固定されている導体76と、を有している。可変速ロータ軸73は、軸線Arを中心として円筒状を成し、軸方向に貫通した軸挿通孔74を有している。可変速ロータ軸73の軸挿通孔74には、定速入力軸Acである内歯車キャリア軸37が挿通されている。可変速ロータ軸73の出力側端には、径方向外側に向かって広がる環状のフランジ73oが形成されている。
【0047】
可変速ステータ86は、可変速ロータ72の導体76の径方向外側に配置されている。可変速ステータ86は、複数のコイルで形成されている。
【0048】
可変速電動機ケーシング81は、軸線Arを中心として円筒状を成し、内周側に可変速ステータ86が固定されているケーシング本体82と、円筒状のケーシング本体82の出力側端を塞ぐ出力側蓋83oと、可変速ステータ86よりも入力側に配置され円筒状のケーシング本体82の内周側に固定されている入口側蓋83iと、を有している。各々の蓋83i,83oには、可変速ロータ軸73を、軸線Arを中心として自転可能に支持する可変速ロータ軸受85i,85oが取り付けられている。各々の蓋83i,83oには、可変速ロータ軸受85i,85oよりも径方向外側の位置で、軸方向に貫通する複数の開口84が形成されている。
【0049】
可変速電動機ケーシング81の各々の蓋83i,83oに形成されている複数の開口84、及び、定速電動機ケーシング61の各蓋63i,63oに形成されている複数の開口64により、可変速電動機ケーシング81内の空間と定速電動機ケーシング61内の空間とが連通している。
【0050】
本実施形態の可変速増速機1は、可変速入力軸Avである入力側遊星歯車キャリア軸27iと可変速ロータ72との間に配置され、両者を接続する可変速用フレキシブルカップリング95を備えている。
【0051】
また、本実施形態の可変速増速機1において、定速ロータ52と、可変速ロータ72と、太陽歯車軸12とは同一の軸線上に配置されている。
【0052】
図4に示すように、定速電動機51は、定速電動機51に電力を供給することによって定速ロータ52(内歯車17)を軸線Arの周方向の第二方向R2に回転させるように設定されている。定速ロータ52が第二方向R2に回転することによって、内歯車キャリア軸37及び内歯車キャリア31は、第二方向R2に回転する。
【0053】
変速装置10の出力軸Aoは、定速電動機51の定速ロータ52が第二方向R2に最大回転数で回転することにより、第二方向R2とは逆方向の第一方向R1に回転するように設定されている。即ち、定速電動機51の正回転は第二方向R2であり、変速装置10の出力軸Aoの正回転は、第一方向R1である。圧縮機Cは、出力軸Aoが正回転することにより、正常に作動する。
【0054】
なお、以下の説明においては、第一方向R1の回転方向をプラス(正)の回転方向とし、第二方向R2の回転方向をマイナス(負)の回転方向とする。例えば、定速電動機51の最大回転数は、−1800rpmである。
【0055】
変速装置10は、可変速ロータ72が第一方向R1に回転することによって、遊星歯車キャリア21が第一方向R1に回転するように構成されている。
可変速電動機71は、可変速ロータ72(遊星歯車キャリア21)を軸線Arの周方向の第一方向R1及び第二方向R2に回転駆動させることができる。即ち、可変速電動機71は、正回転及び逆回転が可能である。可変速ロータ72の第一方向R1の回転数を上げることによって、変速装置10の出力軸Aoの第一方向R1の回転数が上がる。可変速ロータ72を第一方向R1に最大回転数で回転させることで、出力軸Aoは最大回転数で回転する。
【0056】
可変速電動機71は、可変速ロータ72を外部の力で回転させることによって発電機として機能する。可変速電動機71が発電機として機能する状態を発電機モードと呼ぶ。
可変速電動機71は、電力が供給されることによって電動機として機能する。可変速電動機71が電動機として機能する状態を電動機モードと呼ぶ。
【0057】
本実施形態の可変速増速機1は、可変速電動機71の回転数を制御する回転数制御装置100(インバータ)と、可変速電動機71を電力供給状態と電力断状態とにする可変速電動機スイッチ111と、定速電動機51を電力供給状態と電力断状態とにする定速電動機スイッチ112と、回転数制御装置100、可変速電動機スイッチ111及び定速電動機スイッチ112の動作を制御する制御部120と、を備えている。
【0058】
制御部120は、コンピュータで構成されている。制御部120は、オペレータからの指示を直接受け付ける又は上位制御装置からの指示を受け付ける受付部121と、可変速電動機スイッチ111、回転数制御装置100、及び定速電動機スイッチ112に指示を与えるインタフェース122と、受付部121で受け付けた指示等に応じて、可変速電動機スイッチ111、定速電動機スイッチ112、及び回転数制御装置100に対する指令値ωh’(周波数)を作成する演算部123と、を有している。
【0059】
可変速電動機スイッチ111は、電源線110と回転数制御装置100とに電気的に接続されている。回転数制御装置100は、可変速電動機71と電気的に接続されている。定速電動機スイッチ112は、電源線110と定速電動機51とに電気的に接続されている。
【0060】
可変速電動機スイッチ111は、制御部120からのオン指示でオンになり、制御部120からのオフ指示でオフになる。可変速電動機スイッチ111がオンになると、電源線110からの電力が回転数制御装置100を介して可変速電動機71に供給され、可変速電動機71は電力供給状態になる。可変速電動機スイッチ111がオフになると、電源線110から回転数制御装置100及び可変速電動機71への電力供給が断たれ、可変速電動機71は電力断状態になる。
【0061】
定速電動機スイッチ112は、制御部120からのオン指示でオンになり、制御部120からのオフ指示でオフになる。定速電動機スイッチ112がオンになると、電源線110からの電力が定速電動機51に供給され、定速電動機51は電力供給状態になる。定速電動機スイッチ112がオフになると、電源線110から定速電動機51への電力供給が断たれ、定速電動機51は電力断状態になる。
【0062】
回転数制御装置100は、電源線110から供給される電力の周波数を変える周波数変換部101と、可変速電動機71の回転方向を変更する回転方向変更部102と、を備えている。
【0063】
周波数変換部101は、制御部120から指示された可変速電動機71の回転数の指令値ωh’に対応する周波数の電力を可変速電動機71に供給する。可変速電動機71の可変速ロータ72は、この周波数に応じた回転数で回転する。このように、可変速ロータ72の回転数が変化するため、可変速ロータ72に接続されている変速装置10の遊星歯車キャリア21の回転数も変化する。この結果、変速装置10の出力軸Aoである太陽歯車軸12の回転数も変化する。
【0064】
回転方向変更部102は、可変速電動機71に接続されている複数(本実施形態の場合3本)の電源線を入れ替える回路を用いることによって、可変速電動機71の回転方向を変更する装置である。即ち、回転方向変更部102は、可変速ロータ72を正回転、及び逆回転させることができる。
【0065】
ここで、変速装置10の各歯車の歯数と、変速装置10の各軸の回転数との関係について、
図4を用いて説明する。
【0066】
出力軸Aoとしての太陽歯車軸12の回転数をωS、定速入力軸Acとしての内歯車キャリア軸37(定速電動機51)の回転数をωi、可変速入力軸Avとしての入力側遊星歯車キャリア軸27i(可変速電動機71)の回転数をωhとする。また、太陽歯車11の歯数をZS、内歯車17の歯数をZiとする。
【0067】
また、出力軸Aoの回転数ωSと定速電動機51の回転数ωiの比ωS/ωiをUとする。出力軸Aoの回転数ωSと定速電動機51の回転数ωiの比Uは、内歯車17の歯数Ziと太陽歯車11の歯数ZSの比Zi/ZSと同じである。
【0068】
また、遊星歯車キャリア21の回転数ωcと可変速電動機71の回転数ωhの比ωc/ωhをPとする。
【0069】
各歯車の歯数と、変速装置10の各軸の回転数との関係は、以下の式(1)で表すことができる。
ωS/ωi=P×ωh/ωi−(1−P×ωh/ωi )×U ・・・(1)
【0070】
仮に、定速電動機51が4極の誘導電動機で、電源周波数が60Hzの場合、定速ロータ52(定速入力軸Ac)の回転数ωi(定格回転数)は1800rpmとなる。また、可変速電動機71が8極の誘導電動機で、電源周波数が60Hzの場合、可変速ロータ72(可変速入力軸Av)の最高回転数ωh(定格回転数)は900rpmとなる。
【0071】
また、仮に、出力軸Aoの回転数ωSと定速電動機51の回転数ωiの比U(太陽歯車11の歯数ZSと内歯車17の歯数Ziと比Zi/ZS)を4とする。
また、遊星歯車キャリア21の回転数ωcと可変速電動機71の回転数ωhの比Pを0.3とする。
【0072】
この場合、定速ロータ52(内歯車17)の回転の向きを第二方向R2の回転(−1800rpm)とし、可変速ロータ72(遊星歯車キャリア21)の回転の向きが定速ロータ52の回転と逆向き(第一方向R1の回転)の最高回転数(900rpm)であると、出力軸Aoである太陽歯車軸12の回転数ωSは、8550rpmとなる。この回転数(8550rpm)は、太陽歯車軸12の最高回転数である。
【0073】
即ち、本実施形態の変速装置10においては、定速入力軸Acに対応する内歯車17を−1800rpmで回転させ、可変速入力軸Avに対応する遊星歯車キャリア21を900rpmで回転させることによって、出力軸Aoの回転数ωSが最高回転数となる。
【0074】
可変速入力軸Avの可変速範囲が−900rpmから+900rpmであるとすると、可変速入力軸Avの回転数が−900rpmに近づくに従って、出力軸Aoの回転数ωSは低くなる。
【0075】
本実施形態の可変速増速機1の制御部120は、定速電動機51と可変速電動機71の少なくとも一方がトリップした場合に、可変速電動機71の過回転を防止する機能を有している。
【0076】
本実施形態の可変速増速機1の制御部120は、電動装置50がトリップした場合に、
図5に示すような可変速増速機停止方法を実行する。
【0077】
(1)定速電動機がトリップした場合
制御部120は、常時、電動装置50の状態を監視している。
図5に示すように、本実施形態の可変速増速機1の制御部120は、故障、停電などにより定速電動機51がトリップした場合、クラッチ装置3を作動させず、定速電動機停止工程S2と、可変速電動機状態判定工程S3と、可変速電動機減速工程S4と、可変速電動機回転数判定工程S5と、を実行する。
【0078】
定速電動機停止工程S2では、制御部120は、定速電動機スイッチ112をオフにして、定速電動機51を電力断状態とする。
可変速電動機状態判定工程S3では、制御部120は、可変速電動機71がトリップしているか(可変速電動機71が故障又は停電しているか)否かを判定する。可変速電動機71がトリップしていない場合、即ち、可変速電動機71が制御可能な場合は、可変速電動機減速工程S4を実行する。
【0079】
可変速電動機減速工程S4では、制御部120は、回転数制御装置100(インバータ)を制御することにより、可変速電動機71の回転数を下げる。即ち、可変速ロータ72を減速させる。ここで、減速スピードが遅いと、定速ロータ52又は出力軸Aoが逆回転する可能性があるため、可変速電動機71の回転数は、定速電動機51及び出力軸Aoの回転数が0rpmへ到達するよりも早く、0rpmまで減速する必要がある。
【0080】
可変速電動機回転数判定工程S5では、制御部120は、可変速電動機71の回転数が0rpmまで下がったか否かを判定する。可変速電動機71の回転数が0rpmまで下がっていない場合は、減速を続行する。
可変速電動機71の回転数が0rpmまで下がった時点で、可変速増速機1の停止が完了する。
【0081】
以上の可変速増速機停止方法によれば、定速電動機51がフリーラン(惰性で回転する)するとともに、可変速電動機71の回転数が制御により下がることによって、可変速増速機1を停止することができる。
即ち、定速電動機51のみがトリップした場合は、クラッチ装置3の制御を行うことなく、可変速電動機71の制御のみで可変速増速機1を停止することができる。
【0082】
(2)可変速電動機がトリップした場合
制御部120は、常時、電動装置50の状態を監視している。
図5に示すように、本実施形態の可変速増速機1の制御部120は、故障、停電などにより可変速電動機71がトリップした場合、インバータトリップ工程S1と、定速電動機停止工程S2と、可変速電動機状態判定工程S3と、クラッチ装置作動工程S6と、を実行する。
【0083】
インバータトリップ工程S1では、制御部120は、回転数制御装置100(インバータ)及び可変速電動機71の異常又は故障を検知し、可変速電動機71の回転数制御装置100をトリップ(停止)させる。
【0084】
定速電動機停止工程S2では、制御部120は、定速電動機スイッチ112をオフにして、定速電動機51を電力断状態とする。定速電動機51を電力断状態とすることによって、定速電動機51(定速ロータ52)はフリーラン(惰性で回転する)となる。
【0085】
可変速電動機状態判定工程S3では、制御部120は、可変速電動機71がトリップしているか否かを判定する。可変速電動機71はトリップしるため、クラッチ装置作動工程S6を実行する。
【0086】
クラッチ装置作動工程S6では、制御部120は、クラッチ装置3である定速用クラッチ57を用いて定速ロータ52から内歯車キャリア軸37に伝達される回転を遮断する。これにより、慣性モーメントの大きな定速ロータ52の回転が内歯車キャリア軸37及び変速装置10を介して可変速電動機71に伝達しなくなる。
これにより、工程S7に示すように、定速電動機51、可変速電動機71、及び出力軸Aoがフリーランとなる。
【0087】
以上の可変速増速機停止方法によれば、定速ロータ52、可変速ロータ72、及び出力軸Aoが惰性で回転して、徐々に回転数が低下することによって、可変速増速機1を停止することができる。
即ち、可変速電動機71がトリップした場合は、クラッチ装置3の制御を行うことによって可変速増速機1を停止することができる。
【0088】
上記実施形態によれば、電動装置50を構成する定速電動機51と可変速電動機71の少なくとも一方がトリップした場合に、可変速電動機71が過回転するのを防止することができる。
【0089】
即ち、可変速電動機71がトリップした場合に、クラッチ装置3を用いて定速ロータ52から内歯車キャリア軸37に伝達される回転を遮断する。これにより、慣性モーメントの大きな定速ロータ52の回転が変速装置10を介して可変速電動機71に伝達しなくなり、可変速電動機71が過回転するのを防止することができる。
【0090】
また、定速電動機51のみがトリップした場合は、クラッチ装置3の制御を行うことなく、可変速電動機71の制御のみで可変速増速機1を停止することができる。
【0091】
また、本実施形態では、軸挿通孔74が形成された円筒状の軸である可変速ロータ軸73に棒状の軸である内歯車キャリア軸37が挿通されている。即ち、出力の大きな定速入力軸Acが定速電動機51よりも出力の小さい可変速電動機71の可変速ロータ軸73に挿通されている。これにより、定速電動機51としてより大きな出力(馬力)のあるものを採用することができる。
また、本実施形態では、定速電動機51、可変速電動機71、変速装置、圧縮機Cの順に直線状に配置していることにより、装置全体をよりコンパクトにすることができる。
【0092】
なお、上記実施形態では、クラッチ装置3を用いて定速ロータ52の回転を遮断する前に、定速電動機51を電力断状態にしたが、これに限ることはなく、定速電動機51をトリップすることなく、クラッチ装置3を用いて定速ロータ52の回転を遮断してもよい。
【0093】
〔第二実施形態〕
以下、本発明の第二実施形態の可変速増速機について図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
本実施形態のクラッチ装置3は、可変速電動機71の回転を伝達したり遮断したりする可変速用クラッチ38である。
【0094】
図6に示すように、本実施形態の可変速増速機1の変速装置10は、伝達軸25上に設けられている可変速用クラッチ38を有している。
図7に示すように、可変速用クラッチ38は、可変速ロータ72の回転を可変速入力軸Avである遊星歯車キャリア軸27に伝達したり遮断したりする装置である。本実施形態の可変速用クラッチ38は、入力側遊星歯車キャリア軸27iから遊星歯車キャリア21に伝達される回転を伝達したり遮断したりする。
可変速用クラッチ38としては、定速用クラッチ57と同様のクラッチである。
【0095】
なお、変速装置10内に設けられている可変速用クラッチ38の設置位置は、伝達軸25上に限ることはない。可変速用クラッチ38は、可変速ロータ72(可変速ロータ軸73)の回転を可変速入力軸Avである遊星歯車キャリア軸27に伝達したり遮断したりできればよく、例えば、可変速用フレキシブルカップリングをクラッチとしてもよい。
【0096】
本実施形態の可変速増速機1の制御部120は、第一実施形態の可変速増速機1の制御部120と同様に、定速電動機51と可変速電動機71の少なくとも一方がトリップした場合に、可変速電動機71の過回転を防止する機能を有している。
本実施形態の可変速増速機1の制御部120が実行する可変速増速機停止方法は、クラッチ装置3として可変速用クラッチ38を制御する点を除いて、第一実施形態の可変速増速機停止方法と同様である。
【0097】
本実施形態の可変速増速機1によれば、第一実施形態の可変速増速機1と同様に、電動装置50を構成する定速電動機51と可変速電動機71の少なくとも一方がトリップした場合に、可変速電動機71の過回転を防止することができる。
【0098】
なお、第一実施形態にはクラッチ装置3として定速用クラッチ57が記載され、第二実施形態にはクラッチ装置3として可変速用クラッチ38が記載されているが、可変速増速機1に定速用クラッチ57と可変速用クラッチ38の両方を設けてもよい。
【0099】
〔第三実施形態〕
次に、
図8を参照して第三実施形態の変速装置10Aについて説明する。
第三実施形態においては第一実施形態及び第二実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。この第三実施形態の変速装置10Aの内部構造が第一実施形態と相違する。
【0100】
第三実施形態の変速装置10Aでは、第一実施形態で内歯車であった歯車が、外歯車となっている。したがって、第一実施形態で内歯キャリア軸であった歯車キャリア軸が、外歯車キャリア軸となっている。
【0101】
具体的には、第三実施形態の変速装置10Aは、
図8に示すように、太陽歯車11と、太陽歯車軸12と、遊星歯車15Aと、外歯車(歯車)17Aと、遊星歯車キャリア21Aと、外歯車キャリア(歯車キャリア)31Aと、これらを覆う変速ケーシング41と、を有している。
【0102】
第三実施形態の遊星歯車15Aは、複数の第一遊星歯車(一次歯車)151Aと、複数の第二遊星歯車(二次歯車)152Aとを有している。
【0103】
第一遊星歯車151Aは、外歯車17Aと噛み合っている。第一遊星歯車151Aは、軸線Arを中心として公転すると共に自身の中心線Apを中心として自転する。
【0104】
第二遊星歯車152Aは、太陽歯車11と噛み合っている。第二遊星歯車152Aは、軸線Arを中心として公転すると共に、第一遊星歯車151Aと同じ自身の中心線Apを中心として自転する。第二遊星歯車152Aは、第一遊星歯車151Aよりも軸方向の出力側に配置されている。第二遊星歯車152Aは、その一つが第一遊星歯車151Aの一つと一体に回転可能とされている。即ち、一つの第二遊星歯車152Aに対して一つの第一遊星歯車151Aが対になるように配置されている。
【0105】
第三実施形態の遊星歯車キャリア21Aは、遊星歯車軸22Aと、遊星歯車キャリア本体23Aと、遊星歯車キャリア軸27Aと、を有する。
【0106】
遊星歯車軸22Aは、遊星歯車15A毎に設けられている。遊星歯車軸22Aは、中心線Apを中心として互いに接続された第一遊星歯車151A及び第二遊星歯車152Aを自転可能としている。遊星歯車軸22Aは、一つの第一遊星歯車151Aに対して一つの第二遊星歯車152Aを接続している。具体的には、遊星歯車軸22Aの軸方向の入力側に第一遊星歯車151Aが接続され、遊星歯車軸22Aの軸方向の出力側に第二遊星歯車152Aが接続されている。遊星歯車軸22Aは、第一遊星歯車151A及び第二遊星歯車152Aを軸方向に貫通している。したがって、遊星歯車軸22Aの軸方向の入力側の端部は、第一遊星歯車151Aよりも軸方向の入力側に位置している。また、遊星歯車軸22Aの軸方向の出力側の端部は、第二遊星歯車152Aよりも軸方向の出力側に位置している。
【0107】
遊星歯車キャリア本体23Aは、複数の遊星歯車軸22Aの相互の位置を固定している。遊星歯車キャリア本体23Aは、遊星歯車出力側アーム部24Aと、遊星歯車入力側アーム部26Aと、を有する。
【0108】
遊星歯車出力側アーム部24Aは、複数の遊星歯車軸22Aの軸方向の出力側の端部を回転可能に支持している。遊星歯車入力側アーム部26Aは、複数の遊星歯車軸22Aの軸方向の入力側の端部を回転可能に支持している。このように、遊星歯車キャリア本体23Aを介して遊星歯車軸22Aを支持することで、遊星歯車キャリア21Aは、第一遊星歯車151Aと第二遊星歯車152Aとを同軸に支持している。
【0109】
遊星歯車キャリア軸27Aは、遊星歯車キャリア本体23Aを固定している。遊星歯車キャリア軸27Aは、軸線Arを中心として軸方向に延びている。遊星歯車キャリア軸27Aは、遊星歯車出力側アーム部24Aから出力側に延びる出力側遊星歯車キャリア軸27Aoと、遊星歯車入力側アーム部26Aから入力側に延びる入力側遊星歯車キャリア軸27Aiと、を有する。出力側遊星歯車キャリア軸27Aoと入力側遊星歯車キャリア軸27Aiとは、いずれも、軸線Arを中心として円筒に形成されている。
【0110】
出力側遊星歯車キャリア軸27Aoは、遊星歯車キャリア軸受43により、変速ケーシング41に対して軸線Arを中心として自転可能に支持されている。遊星歯車キャリア軸受43は、遊星歯車出力側アーム部24Aよりも出力側に配置されている出力側遊星歯車キャリア軸27Aoの内周側には、太陽歯車軸12が挿通されている。
【0111】
入力側遊星歯車キャリア軸27Aiは、遊星歯車キャリア軸受44により、変速ケーシング41に対して軸線Arを中心として自転可能に支持されている。遊星歯車キャリア軸受44は、遊星歯車入力側アーム部26Aよりも入力側に配置されている。入力側遊星歯車キャリア軸27Aiの内周側には、後述する外歯車キャリア軸37Aが挿通されている。
【0112】
外歯車キャリア31Aは、外歯車17Aを、軸線Arを中心として自転可能に支持している。外歯車キャリア31Aは、外歯車17Aに接続された外歯車キャリア軸37Aを有する。
【0113】
外歯車キャリア軸37Aは、軸線Arを中心として外歯車17Aに固定されて軸方向に延びている。外歯車キャリア軸37Aは、軸線Arを中心とする円柱状に形成されている。外歯車キャリア軸37Aは、外歯車17Aから軸方向の入力側に延びている。外歯車キャリア軸37Aの入力側の部分は、円筒状の入力側遊星歯車キャリア軸27Aiの内周側に挿通されている。
【0114】
上記のような変速装置10Aを備える可変速増速機1であっても、第一実施形態と同様に、電動装置50を構成する定速電動機51と可変速電動機71の少なくとも一方がトリップした場合に、可変速電動機71が過回転するのを防止することができる。
【0115】
なお、遊星歯車15、15Aと噛み合う歯車は、第一実施形態のような内歯車17や第三実施形態のような外歯車17Aのいずれであっても良いだけでなく、その個数も本実施形態のような構成に限定されるものではない。したがって、例えば、遊星歯車15と噛み合う歯車は、第一実施形態のような内歯車17が二つ以上設けられた構成であってもよい。また、遊星歯車15Aと噛み合う歯車は、第三実施形態のような外歯車17Aが一つのみ又は三つ以上設けられた構成であってもよい。
【0116】
以上、本発明の実施形態について詳細を説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、圧縮機Cを高速回転させるために好適な定速電動機51として、4極の三相誘導電動機を例示し、圧縮機Cの回転数を一定の範囲内で可変速させるために好適な可変速電動機71として、8極の三相誘導電動機を例示している。しかしながら、駆動対象を高速回転させる必要がない場合には、定速電動機51や可変速電動機71として他のタイプの電動機を用いてもよい。
【0117】
また、変速装置10の可変速入力軸Avと電動装置50の可変速ロータ72とは、本実施形態のように同軸で接続されていることに限定されるものではない。例えば、可変速入力軸Avに対して可変速ロータ72が別の歯車等の接続構造を介して接続されていてもよい。したがって、本実施形態の可変速増速機1は、一つの変速装置10に対して一つの可変速電動機71が接続されている構造に限定されるものではない。例えば、一つの変速装置10に対して複数の可変速電動機71が接続されるように、一つの可変速入力軸Avに対して複数の可変速ロータ72が接続されていてもよい。