(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3アンテナ部は、前記誘電体基板の基板基準縁部側に位置して前記地導体基準縁部と平行な第1側縁部と、該第1側縁部と反対側に位置して前記地導体基準縁部と平行な第2側縁部とにより、前記第2アンテナ部との連結端部より開放端まで幅W3が一定となる帯状導体としたことを特徴とする請求項1に記載の広帯域アンテナ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る広帯域アンテナの第1実施形態における設計例を示し、(a)は広帯域アンテナのアンテナ素子形成面を示す正面図、(b)は広帯域アンテナの右側面図、(c)は広帯域アンテナの地導体形成面を示す裏面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態と比較するために、第1アンテナ部による第1インピーダンス調整手段と第2アンテナ部による第2インピーダンス調整手段を変えた比較例を示すもので、(a)は第1比較例のアンテナにおけるアンテナ素子配設面を示す正面図、(b)は第2比較例のアンテナにおけるアンテナ素子配設面を示す正面図、(c)は第3比較例のアンテナにおけるアンテナ素子配設面を示す正面図、(d)は第4比較例のアンテナにおけるアンテナ素子配設面を示す正面図である。
【
図3】
図1に示す構造の広帯域アンテナと、
図2に示す第1〜第4比較例のアンテナの反射係数|S11|を示す周波数特性図である。
【
図4】
図1に示す構成の広帯域アンテナを400MHzで動作させた場合をHFSSで演算した瞬時的な誘電体基板内の電界分布を示す電界分布図である。
【
図5】
図2(a)に示す第1比較例のアンテナを400MHzで動作させた場合をHFSSで演算した瞬時的な誘電体基板内の電界分布を示す電界分布図である。
【
図6】
図2(b)に示す第2比較例のアンテナを400MHzで動作させた場合をHFSSで演算した瞬時的な誘電体基板内の電界分布を示す電界分布図である。
【
図7】
図1に示す構成の広帯域アンテナを550MHzで動作させた場合をHFSSで演算した瞬時的な誘電体基板内の電界分布を示す電界分布図である。
【
図8】
図1に示す構成の広帯域アンテナを250MHzで動作させた場合をHFSSで演算した瞬時的な誘電体基板内の電界分布を示す電界分布図である。
【
図9】(a)は、第1アンテナ部の左側縁部31lを1l方向に0.5mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。(b)は、第1アンテナ部の右側縁部31rを1r方向に2mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。
【
図10】(a)は、第2アンテナ部の左側縁部32lを2l方向に2mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。(b)は、第2アンテナ部の右側縁部32rを2r方向に2mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。
【
図11】
図1に示す構成の広帯域アンテナを試作した外観図である。
【
図12】
図11の試作アンテナで実測した反射係数|S11|とHFSSで演算したシミュレーション結果とを示す周波数特性図である。
【
図13】
図11の試作アンテナを250MHzで動作させて実測した動作利得とHFSSで演算したシミュレーション結果とを示す動作利得パターンである。
【
図14】
図11の試作アンテナを400MHzで動作させて実測した動作利得とHFSSで演算したシミュレーション結果とを示す動作利得パターンである。
【
図15】
図11の試作アンテナを550MHzで動作させて実測した動作利得とHFSSで演算したシミュレーション結果とを示す動作利得パターンである。
【
図16】本発明に係る広帯域アンテナの第2実施形態を示し、(a)は広帯域アンテナのアンテナ素子形成面を示す正面図、(b)は広帯域アンテナの右側面図である。
【
図17】本発明に係る広帯域アンテナの第3実施形態を示し、(a)は広帯域アンテナのアンテナ素子形成面を示す正面図、(b)は広帯域アンテナの右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、添付図面に基づいて、本発明に係る広帯域アンテナの実施形態につき説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る広帯域アンテナ1の第1実施形態を示すもので、誘電体基板2の一方の面をアンテナ素子形成面21としてアンテナ素子3を形成し、他方の面を地導体形成面22として地導体4を形成したものである。なお、以下の説明においては、便宜上、広帯域アンテナ1において、X軸方向を左右(+X側を右、−X側を左)、Y軸方向を前後(+Y側を前、−Y側を後)、Z軸方向を上下(+Z方向を上、−Z方向を下)と呼ぶ。また、本実施形態の広帯域アンテナ1は、UHF帯で動作するように設計してある。
【0014】
誘電体基板2は、厚さhが0.8mmのテフロン(登録商標)(εr=2.17,tanδ=0.0008)製の板材で、左右方向の幅が110.04mm、上下方向の高さが521.66mmの大きさで、後述するアンテナ素子3および地導体4の最外縁にちょうど接するサイズである。
【0015】
上記誘電体基板2のアンテナ素子形成面21に形成するアンテナ素子3および地導体形成面22に形成する地導体4を構成する銅箔の厚さtは35μmである。
【0016】
地導体4は、上下の高さLgを304.63mm、左右の幅Wgを87.60mmとした縦長の長方形で、地導体左側縁部4lと地導体下縁部4bが、各々誘電体基板2の基板下縁部2bと基板左側縁部2lにほぼ接する。しかしながら、地導体4における直線状の地導体基準縁部である地導体右側縁部4rは、誘電体基板2の基板基準縁部である基板右側縁部2rから適宜距離を隔てて位置するように設けることで、少なくとも基板右側縁部2rと地導体右側縁部4rとの間に非導電領域を形成する。また、本実施形態では、地導体4における地導体上縁部4tより上方にも非導電領域が形成されるように、誘電体基板2における基板上縁部2tが地導体4の地導体上縁部4tよりも適宜上方となるように誘電体基板2の高さを設定してある。なお、アンテナ素子3への信号入力および取り出しは、給電部5により地導体4の側から行う。
【0017】
アンテナ素子3は、地導体右側縁部4rに平行な3つの線状導体である第1アンテナ部31、第2アンテナ部32および第3アンテナ部33を下から上へ順に連結した構造である。また、本実施形態では、第1アンテナ部31および第2アンテナ部32の大部分は、基板右側縁部2rと地導体右側縁部4rとの間の非導電領域に対向する領域に形成され、第3アンテナ部33は、地導体4の地導体上縁部4tよりも上方、すなわち基板上縁部2tと地導体上縁部4tとの間の非導電領域に対向する領域に形成されるものとした。
【0018】
第1アンテナ部31は、第2アンテナ部32と連結されない非連結側端部がアンテナ素子3の下端部3bとなり、給電部5から斜めに形成したマイクロストリップ線路34を介して下端部3bより給電される。なお、マイクロストリップ線路34の線路幅Wfは、50Ωの特性インピーダンスになるよう2.44mmとし、マイクロストリップ線路の影響をインピーダンス整合の範囲から排除するために、線路長Lfは短く50.0mmとした。
【0019】
また、第1アンテナ部31は、誘電体基板2の基板右側縁部2r側に位置して地導体右側縁部4rと平行な第1側縁部である右側縁部31rと、地導体4の地導体右側縁部4r側に位置して地導体右側縁部4rと平行な第2側縁部である左側縁部31lとにより、下端部から上端部(第2アンテナ部32との連結側端部)までの長さがアンテナ長L1で、一定の幅W1である帯状とする。このアンテナ長L1は172.37mm、幅W1は18.49mmである。
【0020】
さらに、第1アンテナ部31の左側縁部31lと地導体右側縁部4rとの離隔距離d1が負の値(d1は−0.21mm)となるように配置することで、誘電体基板2を挟んで第1アンテナ部31の左側縁部31l側が地導体4と重なる領域を形成する。この重なる領域、すなわちd1を適宜に設定することにより、第1インピーダンス調整手段(後に詳述)が形成されるのである。
【0021】
第2アンテナ部32は、第1アンテナ部31の上端部に下端部が連結されると共に上端部が第3アンテナ部33の下端部に連結される。
【0022】
また、第2アンテナ部32は、誘電体基板2の基板右側縁部2r側に位置して地導体右側縁部4rと平行な第1側縁部である右側縁部32rと、地導体4の地導体右側縁部4r側に位置して地導体右側縁部4rと平行な第2側縁部である左側縁部32lとにより、下端部(第1アンテナ部31との連結端部)から上端部(第3アンテナ部33との連結端部)までの長さがアンテナ長L2で、一定の幅W2である帯状とする。このアンテナ長L2は156.94mm、幅W2は14.66mmである。
【0023】
さらに、第2アンテナ部32の左側縁部32lと地導体右側縁部4rとの離隔距離d2が正の値(d2は7.78mm)となるように配置することで、誘電体基板2を挟んで第2アンテナ部32の左側縁部32l側が地導体4の地導体右側縁部4rから隔たる領域を形成する。この離隔領域、すなわちd2を適宜に設定することにより、第2インピーダンス調整手段(後に詳述)が形成されるのである。
【0024】
第3アンテナ部33は、下端部が第2アンテナ部32の上端部と連結されると共に上端部がアンテナ素子3の開放端3tとなる。なお、本実施形態の設計例では、第1アンテナ31のアンテナ長L1と第2アンテナ32のアンテナ長L2の合計は329.31mmであり、地導体4の高さLg=304.63mmよりも長いので、第2アンテナ部32の上端部は地導体4の地導体上縁部4tよりも上方に延出することとなる。このため、本実施形態の広帯域アンテナ1では、第3アンテナ部33が地導体4の地導体上縁部4tよりも適宜上方にて第2アンテナ部32の上端部と連結される構造となるが、この構造は広帯域化実現のための必須条件ではなく、地導体4の地導体上縁部4tよりも下方にて第3アンテナ部33が第2アンテナ部32と連結される設計値となることもあり得る。
【0025】
また、第3アンテナ部33は、誘電体基板2の基板右側縁部2r側に位置して地導体右側縁部4rと平行な第1側縁部である右側縁部33rと、その反対側に位置して地導体右側縁部4rと平行な第2側縁部である左側縁部33lとにより、下端部(第2アンテナ部32との連結部)から上端部(開放端部)までの長さがアンテナ長L3で、一定の幅W3である帯状とする。このアンテナ長L3は192.35mm、幅W3は34.68mmである。また、本実施形態における第3アンテナ部33の右側縁部33rは、第2アンテナ部32の右側縁部32rと一直線に連続させるものとする。
【0026】
上記のように構成した広帯域アンテナ1は、上下方向に帯状の第1〜第3アンテナ部31〜33が連結されて、平板型のモノポールアンテナに類似した構造であるが、第1アンテナ部31の左右側縁部31r,31l、第2アンテナ部32の左側縁部32l、第3アンテナ部33の左側縁部33lは不連続(但し、第2アンテナ部32の右側縁部32rと第3アンテナ部33の右側縁部33rは連続)となり、第1アンテナ部31と第2アンテナ部32との連結部、第2アンテナ部32と第3アンテナ部33との連結部において、大きな電磁界分布の変化を伴う。この変化を第1インピーダンス調整手段および第2インピーダンス調整手段によって電磁界分布の変換整合をコントロールすることで、整合周波数を広帯域化できるのである。
【0027】
また、マイクロストリップラインの接続は、整合を考慮した太さが支配的であり、その太さ方向のずれの影響は大きくないので、第2アンテナ部32と第3アンテナ部33をマイクロストリップラインに見立てて考えると、第3アンテナ部33の幅W3が保持されていれば、第3アンテナ部33の右側縁部33rと第2アンテナ部32の右側縁部32rとが一直線に連続していなくても(接続部に段差ができていても)、整合周波数の広帯域化が阻害されることはない。しかしながら、本実施形態のように、第3アンテナ部33の右側縁部33rと第2アンテナ部32の右側縁部32rとが一直線に連続する形状にしておけば、アンテナ全幅を小さくすることができるし、製作も容易となる。
【0028】
ここで、第1インピーダンス調整手段および第2インピーダンス調整手段を適切に設定しない場合には、整合周波数を広帯域化できないことを示すため、
図2に示すような第1〜第4比較例と対比させた反射係数|S11|の周波数特性を
図3に示す。これは、米国Ansys社製の有限要素法ソフトウェアHighFrequencyStructureSimulator(HFSS)を用いて計算した結果である。
【0029】
図1に示した本発明の構成によれば、反射係数|S11|が220MHzから605MHzの比帯域約93%で−10dB以下に保たれる。しかも、広帯域アンテナ1の幅(110.04mm)は最低整合周波数220MHzの波長λLに対して0.08λLと非常に細く、広帯域アンテナ1のアンテナ長(521.66mm)は0.38λLであり、半波長ダイポールよりも短い。このように、第1インピーダンス調整手段および第2インピーダンス調整手段を適切に設定すれば、アンテナの広帯域化と小形化を同時に実現できるのである。
【0030】
一方、
図2(a)に示す第1比較例101は、d1=d2=−0.21mmとすることで、第2インピーダンス調整手段を最適設計値と異なる設定にした場合であり、広帯域化を実現できていない。
図2(b)に示す第2比較例102は、d1=d2=7.782mmとすることで第1インピーダンス調整手段を最適設計値と異なる設定にした場合であり、やはり広帯域化を実現できない。
図2(c)に示す第3比較例103は、d1=d2=3.786mmとすることで第1インピーダンス調整手段および第2インピーダンス調整手段のどちらも最適設計値と異なる設定にした場合であり、やはり広帯域化を実現できない。
図2(d)に示す第4比較例104は、第1アンテナ部31の左右側縁部31r,31lから第2アンテナ部32の左右側縁部32r,32lまで連続する構造(第1アンテナ部31の下端でd1=−0.21の幅W1、第2アンテナ部32の上端でd2=7.782の幅W2)とすることで、第1アンテナ部31と第2アンテナ部32との接合部に電磁界分布の変化を無くした場合であるが、やはり広帯域化は実現できない。
【0031】
以上のことから、少なくとも第1アンテナ部31と第2アンテナ部32とを不連続に変化させ、第1インピーダンス調整手段と第2インピーダンス調整手段を別個独立させて最適値に設定することが広帯域整合特性を実現するのに有効であることが理解できよう。
【0032】
図4は、
図1の広帯域アンテナ1を400MHzで動作させた状態をHFSSによりシミュレートした結果で、誘電体中の電界ベクトルの分布を表す。なお、このシミュレーションでは、アンテナ素子3に対して斜め45゜に形成したマイクロストリップ線路34に起因する電界が分布に影響を与えないようにするため、アンテナ素子3の下端部3bよりウェーブポートモデルで給電するものとした。
【0033】
第1アンテナ部31の左側縁部31lと地導体4の右側縁部4rとの離隔距離d1=−0.21mm、第2アンテナ部32の左側縁部32lと地導体4の右側縁部4rとの離隔距離d2=7.78mmとした広帯域アンテナ1から、次のような特徴が読み取れる。第1アンテナ部31において、電界はアンテナ素子3と地導体4との間に集中し、Y軸方向(アンテナの前後方向)に向いている。第2アンテナ部32において、電界は2つの部分に集中している。アンテナ素子3と地導体4との間に集中している電界は、誘電体基板2の表面に沿うようにX軸方向(アンテナの左右方向)に向いており、アンテナ素子3の右側端に集中している電界は、ほぼY軸方向(アンテナの前後方向)に向いている。第3アンテナ部33において、電界はアンテナ素子3の右側縁側に集中しており、ほぼY軸方向(アンテナの前後方向)に向いている。すなわち、広帯域アンテナ1における前後方向の電界は第1アンテナ部31から第3アンテナ部33に渡ってほぼ連続的な位相変化で分布している。
【0034】
第1アンテナ部31の電界は、アンテナ素子3と地導体4との間に集中しているので、モノポールに沿った伝送波に相当すると考えられる。同様に、第2アンテナ部32においても、アンテナ素子3と地導体4との間に集中している電界は伝送波であると考えられる。ここで、第1アンテナ部31においてアンテナ素子3と地導体4との間に集中している電界の向きは、第2アンテナ部32においてアンテナ素子3と地導体4との間に集中している電界の向きとは違う。しかしながら、電波はインピーダンスが整合すれば伝送モードによらず伝送(整合)が可能なので、電波は第1アンテナ部31から第2アンテナ部32へ伝送される。
【0035】
一方、第3アンテナ部33の電界は、アンテナ素子3の外側(右側)に分布し、近くに地導体4がないので、放射に寄与すると考えられる。同様に、第2アンテナ部32において、アンテナ素子3の外側(右側)に集中している電界は放射に寄与していると考えられる。ここで、第3アンテナ部33の電界の向きは、第2アンテナ部32の右側(外側)に集中する電界の向きと同じであるので、それらは電気的に結合する。ここで、放射に寄与すると考えられる電界が分布する第2アンテナ部32から第3アンテナ部33までの全長(L2+L3)は349.29mmである。この長さは最低整合周波数0.22GHzの約0.256波長であり、通常のモノポール長(λ/4)に一致する。ゆえに、L2+L3の長さは最低整合周波数の妥当な見積もりを与えると考えられる。
【0036】
このように、第2アンテナ部32は、伝送波である電界と放射に寄与する電界の両方を持つので、伝送波である電界によって第1アンテナ部31の電界と結合し、放射に寄与する電界によって第3アンテナ部33の電界と結合する。すなわち、第2アンテナ部32が、第1アンテナ部31の伝送波を第3アンテナ部33の放射波に橋渡しするように機能することで、広帯域整合を実現できるものと考えられる。そして、第2アンテナ部32が伝送波と放射波の橋渡し的機能を担うための条件を第1インピーダンス調整手段と第2インピーダンス調整手段によって整えるのである。
【0037】
図5は、
図2(a)の第1比較例であるアンテナ101を400MHzで動作させた状態をHFSSによりシミュレートした結果である。d1=d2=−0.21mmの場合、Y軸方向(アンテナの前後方向)の電界は、第1アンテナ部31と第2アンテナ部32において、アンテナ素子3と地導体4との間に集中し、電界強度はモノポールに沿ってZ軸方向へ連続的に分布している。一方、第3アンテナ部33の電界は上端部を除いて弱い。第3アンテナ部33の近傍に地導体4がないため、第2アンテナ部32を伝搬する電波が第3アンテナ部33へ効率的に伝送されないものと考えられる。
【0038】
図6は、
図2(b)の第2比較例であるアンテナ102を400MHzで動作させた状態をHFSSによりシミュレートした結果である。d1=d2=7.78mmの場合、第1アンテナ部31と第2アンテナ部32では、電界は2つの部分に集中しており、アンテナ素子3と地導体4との間に集中している電界は誘電体基板2の表面に沿うようにX軸方向(左右方向)に向いており、アンテナ素子3の右側縁(外側)に集中する電界はY軸方向(アンテナの前後方向)に向いている。これらの電界の位相は共にアンテナ素子3に沿ってZ軸方向(上下方向)へほぼ連続的に分布している。第3アンテナ部33では、電界はアンテナ素子3に沿ってZ軸方向(上下方向)に分布し、Y軸方向(アンテナの前後方向)に向いている。この電界の振幅は上端部(開放端部)で不連続的であるが、第2アンテナ部32のY軸方向の電界と位相が連続的に分布している。しかしながら、第1アンテナ部31の特性インピーダンスが給電点において50オームに整合していないため、広帯域整合が得られないものと考えられる。
【0039】
これら比較例の結果として、第1〜第3アンテナ部31〜33には、以下のような関係があると考えられる。離隔距離d1=d2=−0.21mmのとき、アンテナ素子3と地導体4との間にY軸方向(アンテナの前後方向)の強い電界が分布する。アンテナ素子3の右側縁(外側)にも第1アンテナ部31から第2アンテナ部32に沿って弱い電界が分布し、この電界は誘電体基板2の表面に沿うようにX軸方向に向く。一方、離隔距離d1=d2=7.78mmのとき、アンテナ素子3と地導体4との間の電界は誘電体基板2の表面に沿うようにX軸方向に向く。アンテナ素子3の右側縁(外側)に分布する電界はY軸方向(アンテナの前後方向)に向く。第2アンテナ部32の右側縁(外側)に沿って、Y軸方向(アンテナの前後方向)に電界が分布するとき、第3アンテナ部33にも強い電界が現れる。第3アンテナ部33では、電界はY軸方向(アンテナの前後方向)に向き、右側縁(外側)に沿って電界が分布し、特に上端部に強い電界が生じている。
【0040】
一方、広帯域アンテナ1を550MHzで動作させた状態をHFSSによりシミュレートした結果を
図7に、広帯域アンテナ1を250MHzで動作させた状態をHFSSによりシミュレートした結果を
図8にそれぞれ示す。これら
図7および
図8の電界分布は、
図4に示した電界分布と同様の傾向にあることがわかる。すなわち、広帯域アンテナ1は、異なる周波数での動作においても、第2アンテナ部32が、第1アンテナ部31の伝送波を第3アンテナ部33の放射波に橋渡しするように機能することで、広帯域整合を実現できるものと考えられる。
【0041】
次に、第1アンテナ部31と第2アンテナ部32の幅を変化させて、第1インピーダンス調整手段および第2インピーダンス調整手段としての機能変化を考える。
【0042】
図9は、第1アンテナ部31の幅W1を変えた場合の反射係数|S11|の周波数特性をHFSSによりシミュレートした結果である。
図9(a)は、第1アンテナ部31の左側縁部31lを1l方向(地導体4との重なり幅を広くする方向)へ0.5mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。この結果より、第1アンテナ部31の左側縁部31l側が地導体4と重なる領域を最適設計値からずらすと、敏感に特性変化が生じ、広帯域特性が失われてしまうことが分かる。一方、
図9(b)は、第1アンテナ部31の右側縁部31rを1r方向(幅W1を右側へ広げる方向)へ2mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。この結果より、第1アンテナ部31の右側縁部31rを変えて幅W1を広げたり狭めたりしても、顕著な特性変化は生じないことが分かる。
【0043】
図10は、第2アンテナ部32の幅W2を変えた場合の反射係数|S11|の周波数特性をHFSSによりシミュレートした結果である。
図10(a)は、第2アンテナ部32の左側縁部32lを2l方向(地導体4との離隔距離d2を狭くする方向)へ2mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。この結果より、第2アンテナ部32の左側縁部32lと地導体4の地導体右側縁部4rとの離隔距離d2を最適設計値からずらすと、敏感に特性変化が生じ、広帯域特性に大きな影響を及ぼすことが分かる。一方、
図10(b)は、第2アンテナ部32の右側縁部32rを2r方向(幅W2を右側へ広げる方向)へ2mm増減させた場合の特性変化を示す周波数特性図である。この結果より、第2アンテナ部32の右側縁部32rを変えて幅W2を広げたり狭めたりしても、顕著な特性変化は生じないことが分かる。
【0044】
図11に示すのは、前述した第1実施形態の広帯域アンテナ1を設計値通りに試作した外観図である。この試作アンテナで反射係数|S11|の周波数特性を実測した結果を
図12に示す。
図12から、試作アンテナによって220MHz〜600MHzの比帯域約93%(シミュレーション結果とほぼ同じ)でインピーダンス整合を実現できていることが確認できる。
【0045】
図13〜
図15は、それぞれ250MHz、400MHz、550MHzで駆動させた試作アンテナの実測結果とHFSSで演算したシミュレーション結果とを対比して示した動作利得パターンである。測定結果とシミュレーション結果は正確に一致していないが、似た傾向を示している。この相違の原因は、測定設定誤差、給電線路の影響、電波吸収体の特性がこの低周波数帯域で十分でないことなどが考えられる。また、地導体4の地導体上縁部4tに平行な水平偏波の放射を伴うが、ほぼ無指向性の垂直偏波が広帯域に実現できていることが分かる。
【0046】
このように、広帯域アンテナ1によれば、反射係数|S11|が−10dB以下となる比帯域が約93%の広帯域整合を得ることができる。すなわち、アンテナ素子3の給電点に近い部分(第1アンテナ部31)は、地導体4と重なる領域である第1インピーダンス調整手段を適切に設定することで伝送波が主に分布することとなり、アンテナ素子3の給電点からやや遠い部分(第2アンテナ部32)は、地導体4との離隔距離である第2インピーダンス調整手段を適切に設定することで伝送波と放射波の両方が分布することとなり、伝送波は電気的に結合するので、第2アンテナ部32で放射波に変換され、第2アンテナ部32と第3アンテナ部33を合わせた全体から、電波が効率的に放射されると考えられる。しかも、伝送波は広帯域にインピーダンスがほぼ一定であることから、放射波への変換が広帯域に作用するので、広帯域特性が得られると考えられる。
【0047】
また、本実施形態の広帯域アンテナ1は、誘電体基板2の厚さh=0.8mm、比誘電率εr=2.17、整合周波数帯域を220MHz〜605MHzとした場合の設計例であり、誘電体基板2の厚さhを小さくする、或いは誘電率を低くする、或いは整合周波数帯域をより低周波帯にすると、アンテナ素子3と地導体4の間隔は電気的に狭くなるので、広帯域整合を実現するための適切な離隔距離d1の絶対値は小さく(第1アンテナ部31と地導体4との重なり幅は狭く)なり、適切な離隔距離d2は大きく(第2アンテナ部32と地導体4との離隔幅は広く)なる傾向にあると考えられる。
【0048】
上述した第1実施形態の広帯域アンテナ1は、アンテナ素子3の全てを誘電体基板2のアンテナ素子形成面21に形成する構造としたが、これに限定されるものではない。例えば、
図16に示す第2実施形態の広帯域アンテナ1′においては、アンテナ素子3′の第1アンテナ部31および第2アンテナ部32を誘電体基板2′のアンテナ素子形成面21に設けて、第3アンテナ部として伸縮可能なロッドアンテナ33′を誘電体基板2の基板上縁部2tから突出するように設け、ロッドアンテナ33′の基端部と第2アンテナ部32の上端部とを電気的に接続した構成である。
【0049】
第1インピーダンス調整手段を実現する第1アンテナ部31および第2インピーダンス調整手段を実現する第2アンテナ部32は、地導体4との位置関係でシビアな特性変化を及ぼすのに対して、第3アンテナ部にはそのような厳しい配設要件が課されていないので、第2アンテナ部2の上端部に接続したロッドアンテナ33′を第3アンテナ部とした場合でも、放射波は第2アンテナ部32から第3アンテナ部33へ連続的に伝搬するので、広帯域特性を保持できる。しかも、不使用時にはロッドアンテナ33′を縮めておくことで、更なる小形化を実現できる。なお、ロッドアンテナ33′の基部が傾動自在な構造としておけば、不使用時にロッドアンテナ33′を誘電体基板2の基板上縁部2tに沿うよう横に倒して収納できるので、可搬性が一層高まる。
【0050】
また、上述した第1実施形態及び第2実施形態の広帯域アンテナ1,1′のように、誘電体基板2の基板下縁部2tと第1アンテナ素子31の下端部を一致させて、アンテナ素子3の延設方向と約45゜の角度を成すマイクロストリップ線路34によりアンテナ素子3の下端部3bから給電する構造とすれば、誘電体基板2の基板高さを抑制できるが、この給電手法に限定されるものではない。
【0051】
例えば、
図17に示す第3実施形態の広帯域アンテナ3″では、一般的なマイクロストリップライン給電と同様に、アンテナ素子3″に対して直交するように50Ωの特性インピーダンスが得られるマイクロストリップ線路34″を設けた。この第3実施形態に係る広帯域アンテナ3″では、誘電体基板2の基板下縁部2bおよび地導体4の地導体下縁部4bがアンテナ素子3の下端部3bよりも下方に位置するように形成しなければならないため、アンテナサイズが大きくなってしまうものの、マイクロストリップ線路34″と第1アンテナ部31との不要な相互結合を低減できるという利点がある。従って、広帯域アンテナ3″は、目的とする周波数帯が高く、アンテナの小形化があまり重要でない場合に用いれば、動作安定性を高めることができ、信頼性向上に有効である。
【0052】
以上、本発明に係る広帯域アンテナを実施形態に基づき説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全ての広帯域アンテナを権利範囲として包摂するものである。