【実施例】
【0012】
図1〜
図3は、本発明の実施例を示す。
【0013】
最初に、電極本体について説明する。
【0014】
銅合金製の電極本体1は、円筒状の形状であり、静止部材11に差し込まれる固定部2と、鋼板部品3が載置されるキャップ部4がねじ部5において結合されている。電極本体1には断面円形のガイド孔6が形成され、このガイド孔6は少なくとも大径孔7とキャップ部4の中央部に開口する小径孔8によって構成されている。この小径孔8は、キャップ部4の奥に圧入された合成樹脂製の受け部材32とキャップ部4に開けられている。受け部材32は、耐熱性に優れた絶縁性合成樹脂、例えば、
ポリテトラフルオロエチレン(商品名:テフロン・登録商標)によって構成されている。
【0015】
固定部2の下部にテーパ部9が形成され、このテーパ部9が静止部材11に設けたテーパ孔に嵌入されるようになっている。固定部2の側部に、圧縮空気をガイド孔6に導入する通気口10が設けてある。なお、電極の中心軸線は符号O−Oで示してある。
【0016】
つぎに、摺動部材について説明する。
【0017】
ガイドピン12は、ステンレス鋼のような金属材料またはセラミック材料等の耐熱硬質材料で構成されている。摺動部材13は、耐熱性に優れた絶縁性合成樹脂、例えば、
ポリテトラフルオロエチレン(商品名:テフロン・登録商標)によって構成されている。ガイドピン12は、摺動部材13に挿入された状態で一体化されている。ガイドピン12と摺動部材13は、いずれも断面円形であり、ガイドピン12は鋼板部品3の下孔14を相対的に貫通して鋼板部品3の位置決め機能を果たし、その先端部に嵌め合わされた鉄製のプロジェクションナット15を支持している。そのために、プロジェクションナット15のねじ孔に合致する小径部16が形成されている。
【0018】
ガイドピン12は上記のように、摺動部材13に挿入された状態で一体化されている。このように摺動部材13にガイドピン12の端部が挿入されている部分が挿入部であり、その挿入深さは
図2に示すように、符号D1で示されている。この挿入深さD1はできるだけ浅く設定され、望ましくはガイドピン12の直径に対する挿入深さD1の比が0.4〜0.8とされている。上記比が0.4未満であると、挿入深さD1が浅すぎるため、ガイドピン12と摺動部材13の一体的剛性に不足を来す恐れがある。また、上記比が0.8以上であると、挿入深さD1が深すぎて、後述の切除部を大きく形成する必要があり、こうなるとガイド孔大径部7の内面に対する摺動部材13の摺動面積に不足を来す恐れがある。
つまり、良好な範囲は、0.4以上0.8未満となる。【0019】
以下の説明において、プロジェクションナットを単にナットと表現する場合もある。ナット15は、四角い本体の中央部にねじ孔が形成されたもので、本体の四隅に溶着用突起21が形成されている。電極本体1は、固定電極であり、それと同軸状態で可動電極23が配置してある。
【0020】
なお、
図1(B)のC−C断面が同図の(C)図である。
【0021】
摺動部材13は、大径孔7内に実質的に隙間がなくて摺動できる状態で嵌め込んである。摺動部材13に挿入孔17が開けられ、そこにガイドピン12が圧入されている。ガイドピン12の端部にこれと一体的にボルト31が形成され、摺動部材13の底部材18にボルト31を貫通し、ワッシャ19を組み付けてロックナット20で締め付けてある。なお、摺動部材13は、可動電極23が動作して溶接電流が通電されたときに、電流はナット15の溶着用突起21から鋼板部品3にのみ流れるように、絶縁機能を果たしている。
【0022】
摺動部材13の端部に端面24が形成され、この端面24が大径孔7の内端面25、すなわち受け部材32の下面に密着するようになっている。端面24と内端面25は、ガイドピン12の軸線(電極本体1の中心軸線O−O)に直交する平面の状態で、しかもガイドピン12の軸心を環状に包囲する環状面とされている。端面24と内端面25が密着したり、離れたりして冷却空気の断続を行うもので、この密着箇所が開閉弁の役割を果たしている。
【0023】
ガイドピン12と小径孔8との間に圧縮空気が通過する隙間22が形成してある。可動電極23の進出によってガイドピン12が押し下げられると、端面24が内端面25から離れ、空気流通の空隙が形成される。上記のように、端面24と内端面25の密着部分が開閉弁の機能を果たしている。通気口10から入った圧縮空気は、後述の空気通路26、端面24と内端面25の間、隙間22などを通ってナット15の溶着部の冷却や、スパッタの進入防止がなされる。
【0024】
摺動部材13の外周面に、冷却空気の空気通路26が電極本体1の中心軸線方向に形成してある。空気通路26としては種々なものが採用できる。ここでは、
図1(A)や(C)に示すように、摺動部材13の外周面に平面部27を2つ対向させて形成して空気通路26が構成してある。これに換えて、図示していないが、摺動部材13の外周面に複数の凹溝を中心軸線O−Oの方向に形成して、空気通路26を構成してもよい。なお、
図1(A)においては、空気通路26が図示されているが、同図(B)においては、同図(C)に示すように、摺動部材13を90度回転させて図示してあるので、空気通路26は現れていない。
【0025】
ワッシャ19とガイド孔6の内底面の間に圧縮コイルスプリング29が嵌め込まれており、その張力が摺動部材13に作用して端面24が内端面25に密着している。通気口10から供給された冷却空気は、空気通路26に達しているが、上記密着によって通気が禁止されている。なお、符号30は、ガイド孔6の内底面に嵌め込んだ絶縁シートである。
【0026】
つぎに、挿入部付近の熱膨張現象について説明する。
【0027】
溶着用突起21と鋼板部品3の溶着部分からの溶接熱がガイドピン12や摺動部材13に伝熱されると、熱膨張は鎖線で示したガイドピン12の膨張部分33と、同じく鎖線で示した摺動部材13自体の膨張部分34の形態となって膨張する。そして、挿入深さD1とされた挿入部付近の膨張は、ガイドピン12自体の膨張量に、摺動部材13自体の膨張量が加算された状態で現れ、これによって過剰膨張部35が形成される。
【0028】
この過剰膨張部35は、中心軸線O−O方向で見てガイドピン12の外周側付近に大きく現れる。このため、摺動部材13の摺動方向全域にわたり均一な熱膨張とはならず、大径孔7の内面に対する摺動部材13の加圧力が全域にわたって均一にならず、円滑な摺動ができないこととなる。また、摺動抵抗が摺動面の一部だけ過大であると、その箇所だけが早期に摩耗し、部品管理の面でも好ましくない。
【0029】
つぎに、切除部について説明する。
【0030】
上述のような過剰膨張部35を形成させないようにするために、切除部36が設けられる。この切除部36は、挿入深さD1とされた挿入部の外周側の摺動部材13に形成され、これにより空間部分37が構成される。摺動部材13の直径増大、すなわち過剰膨張部35は、空間部分37の範囲内に及ぶこととなる。換言すると、空間部分37は過剰膨張部35の膨張を吸収する、吸収空間の役割を果たしている。
【0031】
切除部36の具体的な形状としては、色々なものが採用できるが、代表的なものはテーパ部38である。このような切除部形状では、
図2(B)や(C)に示すように、前述の過剰膨張部35に相当する膨張は、テーパ面の上側に曲線的に膨らんだ部分39となる。
【0032】
挿入部の挿入深さD1に対してテーパ部38をどの程度形成するのが適当かは、中心軸線O−O方向で見た切除部36の長さD2との対比で設定される。
テーパ部38の形成による摺動部材13の環状の折れ線40と摺動部材13の上面との間の距離がD2である。
【0033】
挿入深さD1に対する切除部36の長さD2の比が0.4〜1.5に設定されている。
【0034】
上記比が0.4未満であると、
図2(C)に示すように、空間部分37の容積が少なくなり、前記過剰膨張部35の吸収に不足を来たし、過剰膨張部分が残存する。このため、上述の過剰膨張部35にともなう弊害が解消できない状態となる。
【0035】
上記比が1.5以上であると、
図2(B)に示すように、空間部分37の容積が過剰になり、前記過剰膨張部35の吸収は十分になされるが、ガイド孔6の内面に対する摺動部材13の摺動面積に不足を来たし、ガイドピン12が中心軸線O−Oに対しての傾きが過大になり、鋼板部品3の位置決めが不十分になる。
つまり、良好な範囲は、0.4以上1.5未満となる。【0036】
上記比を1を境界にして考察すると、上記比が1未満であっても、膨張した摺動部材13はガイド孔6の内面に押し付けられ、その反力で空間部分37の方へ素材移動がなされ、結果的には、部分的な過大膨張が回避できる。一方、上記比が1以上であると、摺動部材13の膨張体積は空間部分37の容積を下回り、空間部分37内に完全に吸収される。
【0037】
各部の寸法は、ガイドピン12の直径は7.2mmであり、挿入深さD1は3.4mmである。また、
図2(B)と(C)におけるD2は、それぞれ4.4mmと2.0mmである。
【0038】
図2(D)は、上記のテーパ部38に換えて段付き形状の環状切欠き47を設けた場合を示す。前述の過剰膨張部35に相当する熱膨張部分が、環状切欠き47の形成でできた空間部分37内に存在している。
【0039】
つぎに、他の事例を説明する。
【0040】
図3に示した他の事例は、ガイドピン12がプロジェクションボルト41に対応したものである。プロジェクションボルト41は、雄ねじが切られた軸部42と、それと一体に形成されている円形のフランジ43と、フランジ43の下面に形成された溶着用突起44によって構成されている。
【0041】
ガイドピン12は、軸部42を挿入するために、受入孔45が形成された中空ピンの形状とされている。摺動部材13は、ガイドピン12をインジェクション成型機の金型にセットし、合成樹脂材料を射出して成形したもので、ガイドピン12に抜け止め用の小径部46が設けてある。それ以外の構成は、図示されていない部分も含めて先の事例と同じであり、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
【0042】
以上に説明した実施例の作用効果は、つぎのとおりである。
【0043】
挿入深さがD1とされた挿入部の外周側の摺動部材13に、熱膨張による摺動部材13の直径増大、すなわち過剰膨張部35を吸収する切除部36が形成されている。摺動部材13にガイドピン12が挿入されている部分におけるガイドピン12自体の熱膨張量に、摺動部材13の合成樹脂自体の膨張量が加算されて摺動部材13の外周側に膨らんでも、この膨らみは切除部36によって形成された空間部分37の範囲内に及ぶだけとなり、空間部分37に吸収された状態になる。したがって、摺動部材13における熱膨張量は、切除部36以外の領域における通常の熱膨張量にとどまることとなり、ガイドピン12自体の熱膨張量が加算された過剰な膨張状態が回避でき、摺動部材13は電極の中心軸線O−O方向全域にわたって均一な熱膨張量となる。つまり、摺動部材13の熱膨張は、その摺動方向全域にわたり均一な熱膨張となる。これにより、電極本体1のガイド孔6の内面に対する摺動部材13の加圧力が全域にわたって均一で過大にならず、円滑な摺動が可能となる。
【0044】
挿入部の挿入深さD1に対する電極の中心軸線O−O方向で見た切除部36の長さの比が0.4〜1.5である。
【0045】
このように、挿入部の挿入深さD1に対する電極の中心軸線O−O方向で見た切除部36の長さの比を0.4〜1.5とすることにより、ガイドピン12自体の熱膨張が切除部36によって形成された空間部分37に吸収される。上記比を1を境界にして考察すると、上記比が1未満であっても、膨張した摺動部材13はガイド孔6の内面に押し付けられ、その反力で空間部分37の方へ素材移動がなされ、結果的には、部分的な過大膨張が回避できる。一方、上記比が1以上であると、摺動部材13の膨張体積は上記空間部分37の容積を下回り、空間部分37内に完全に吸収される。