【実施例】
【0020】
(例1)
(正極鋳造格子及び電池の作製)
Pb−Ca−Sn合金を鋳造して、
図3に示す格子形状A及び、
図4に示す格子形状Bの正極鋳造格子を作製し、この格子を用いた正極板8枚と、負極板9枚とを組み合わせ、2V、定格200Ahの制御弁式鉛蓄電池No.1〜16を作製した。
また、正極鋳造格子として、
図5及び
図6に示すように、横枠骨に肩部から開始するテーパーを設けた格子形状C、及び格子形状Dとした以外は格子形状A及びBと同様にして、電池No.17〜32を作製した。
各電池に用いた正極格子の耳下枠骨の断面積(a)と横内太骨の断面積(b)との比(a)/(b)、テーパー角度、耳幅をXとする耳中心からの足骨の距離は、表1に示すとおりである。
【0021】
(加速過充電試験及び評価方法)
60℃、2.23Vのフロート条件で高温加速フロート寿命試験を行い、以下の方法により評価を行った。
(1)8か月目に電池を解体して8枚の正極板を取り出し、それぞれ上横枠骨(上部枠骨)、耳下縦骨、及び1セル中に粒界破断が発生した枚数を確認した。
(2)1か月ごとに25℃、0.2CAで1.75Vまでの容量確認試験を行い、容量保持率が80%に低下するまでの期間を寿命として判定した。
各電池において、それぞれ上横枠骨(上部枠骨)、耳下縦骨、及び1セル中に粒界破断が発生した極板枚数と、寿命月数の結果を表1に示し、1セル中の粒界破断発生枚数と寿命性能の結果を
図12〜
図19に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
足骨の位置が耳直下である格子形状Aの電池No.1〜8に対して、足骨の位置が耳中心から2X離れている格子形状Bの電池No.9〜16は、耳下縦骨の破断枚数が少なくなり、特に(a)/(b)が1.3〜2.7の範囲で効果のあることがわかる。また、
図12、
図13から、寿命月数が延びるとともに、特に(a)/(b)が2.0以下の場合に上横枠骨の破断も抑制されていることがわかる。
【0024】
テーパーを有する場合、足骨の位置が耳直下である格子形状Cの電池No.17〜24に対して、耳中心から2X離れている格子形状Dの電池No.25〜32も、(a)/(b)が1.3〜2.7の場合に、格子形状Dによる耳下縦骨の破断枚数が抑制されている。また、テーパーにより上横枠骨の破断が抑制されているから、
図14、
図15にみられるように、足骨位置による粒界破断の抑制及び寿命性能効果がより顕著に現れる。
【0025】
なお、足骨位置が耳直下である格子形状Aの電池と格子形状Cの電池とでは、
図16、
図17によると、テーパーを有する格子形状Cの電池で、寿命が若干伸びているものの、耳下縦骨の破断が影響して粒界破断した枚数が変わっていないから、テーパーを設けた効果が活かされていない。
これに対して、足骨位置が耳中心から離れている格子形状Bの電池と格子形状Dの電池とでは、
図18、
図19によると、テーパーを有する格子形状Dの方が、格子形状Bと比べて、(a)/(b)が1.3〜2.7の範囲で、粒界破断が発生した枚数が抑制され、寿命月数が伸びている。
したがって、足骨位置と(a)/(b)の特定は、テーパーを有する格子形状の場合に特に効果的である。
【0026】
(例2)
テーパーの形状の効果を確認するため、正極鋳造格子として、(a)/(b)が1.3、2.0、2.5であり、テーパーが横枠骨の肩部まで達していない
図7に示す格子形状Eを用いた以外は、例1と同様にして、電池No.33〜35を作製した。
格子形状Dの電池と対比した結果を表2及び
図20、
図21に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
上横枠骨のテーパーが肩部にまで達していない格子形状Eの電池No.33〜35は、テーパーが肩部まで達している格子形状Dの電池No.26,29,31に比べて、上横枠骨が破断した枚数が多く、
図20、
図21によると、1セル中の粒界破断枚数が多く、寿命月数が短い。
したがって、上横枠骨のテーパーは、肩部まで達していると、効果がより高いことが分かる。
【0029】
(例3)
足骨の位置及び数の影響を確認するため、(a)/(b)が1.3、2.0、2.5であり、2本の足骨の1本が耳直下にある格子形状C、2本の足骨の1本が耳中心から1X〜5X離れた格子形状D、1本の足骨で、足骨の位置が耳中心から2X、3Xである
図8に示す格子構造F、及び足骨の位置が耳から遠い側の縦枠骨の下(下端部)にある
図9に示す格子形状F´の正極鋳造格子を用いた以外は、例1と同様にして、電池No.36〜53を作製した。結果を表3及び
図22〜
図25に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
図22、
図23は、足骨位置が耳直下の格子形状Cと、耳中心から2X離れた格子形状D(足骨2本)、格子構造F(足骨1本)の足骨位置と足骨数が、電池の極板の粒界破断、及び寿命性能に及ぼす影響を示すグラフである。(a)/(b)が1.3〜2.5の範囲で、足骨の数に関わらず、足骨位置を耳中心から離すことによる粒界破断発生の抑制、寿命性能効果が見て取れる。
【0032】
また、
図24、
図25は、足骨が2本で、足骨位置を耳直下とした格子形状C、1X〜3Xとした格子形状D、足骨が1本で足骨位置を耳中心から3Xとした格子形状F、足骨位置を下部端とした格子形状F´について、電池の極板の粒界破断、及び寿命性能に及ぼす影響を示すグラフである。(a)/(b)が1.3〜2.5の範囲で、足骨の数に関わらず、足骨位置が耳中心から1.5X以上離れている格子形状である場合に、局所的な粒界腐食や粒界割れの発生による粒界破断が抑制され、寿命性能に優れる効果を奏していることが分かる。
【0033】
(例4)
テーパー角度の影響を確認するため、足骨位置を耳中心から2Xとし、(a)/(b)がそれぞれ1.3、2.0、2.5である格子形状Dにおいて、テーパー角度を1°〜5°とした以外は、例1と同様にして、電池No.54〜68を作製した。
また、異なる格子形状におけるテーパー角度の影響を確認するため、足骨位置が耳中心から2X、(a)/(b)が2.0である点で共通し、テーパーの起点が肩部でない格子形状E、及び、テーパーの起点が肩部であるが、耳が縦枠骨上からずれた位置にある
図11に示す格子形状Hにおいて、それぞれ、テーパー角度を1°〜5°とした以外は例1と同様にして、それぞれ電池No.69〜73、電池No.74〜79を作製した。結果を表4、及び
図26〜
図29に示す。
【0034】
【表4】
【0035】
図26、
図27は、格子形状Dにおけるテーパー角度の影響を示すグラフである。テーパー角度が1.4°〜4.0°の範囲の格子形状であれば、上横枠骨の破断発生が抑制されていることがわかる。したがって、(a)/(b)が1.3〜2.5の範囲であり、足骨位置が耳中心から2Xの距離であるため、耳下縦骨の破断がほとんど発生しないことと相まって、1セル中の粒界破断発生が抑制され、寿命性能が優れた電池が作製されている。
【0036】
図28、
図29は、格子形状E、格子形状Hにおけるテーパー角度の影響を、格子形状Dの場合とともに示すグラフである。テーパーが横枠骨の途中から始まる格子形状Eの電池No.69〜73、34は、テーパー角度1°の場合を除いて、テーパーを設ける効果が小さい。これに対して、テーパーが肩部を起点とし、耳が縦枠骨上でない格子形状Hの場合は、テーパー角度1.4°〜4.0°の範囲である電池No.75〜78において、格子形状Dの場合とほぼ同様の効果を奏している。したがって、耳部が縦枠骨上にない場合でも、上横枠骨のテーパーが肩部から始まっている格子形状であれば、テーパー角度1.4°〜4.0°の範囲で粒界破断の発生が抑制され、寿命性能が優れた電池を作製できることが分かる。
なお、格子形状Hに対する足骨位置の確認のため、
図10に示すように足骨位置が耳直下である以外は、格子形状Hと同じ格子形状Gを用いた電池も作製したが、格子形状A、格子形状Cを用いた電池と同様、主に耳下縦骨の粒界破断が生じていた。