(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548173
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】フルオロポリマー及びフルオロポリマーを含む膜(III)
(51)【国際特許分類】
B01D 71/28 20060101AFI20190711BHJP
C08F 12/14 20060101ALI20190711BHJP
C08J 9/28 20060101ALI20190711BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20190711BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20190711BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
B01D71/28
C08F12/14
C08J9/28
B32B27/00 A
B01D69/10
B01D61/00
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-154355(P2017-154355)
(22)【出願日】2017年8月9日
(65)【公開番号】特開2018-70860(P2018-70860A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2017年8月9日
(31)【優先権主張番号】15/267,652
(32)【優先日】2016年9月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596064112
【氏名又は名称】ポール・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Pall Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】フランク オケジー オニェマウワ
(72)【発明者】
【氏名】ハッサン アイット−ハドゥ
(72)【発明者】
【氏名】イン ラブレシュ
【審査官】
長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−097215(JP,A)
【文献】
特表2002−540928(JP,A)
【文献】
特開2015−071774(JP,A)
【文献】
特開2012−063194(JP,A)
【文献】
特開2009−245979(JP,A)
【文献】
特開2016−137455(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/133538(WO,A1)
【文献】
Progress in Polymer Science,2011年,vol.36,p.1521-1557
【文献】
Polymer International,1999年,vol.48,p.765-772
【文献】
Journal of Materials Chemistry,2002年,vo.12,p.1684-1692
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 12/00− 12/36
C08F 112/00−112/36
C08F 212/00−212/36
C08J 7/04− 7/06
C08J 9/00− 9/42
B01D 61/00− 71/82
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ−[ペルフルオロヘキシルエチレンチオメチル]スチレンをモノマー単位として含み、少なくとも100Kdの重量平均分子量(Mw)及び少なくとも33℃のガラス転移温度を有する、フルオロポリマーを含む、多孔質膜。
【請求項2】
前記フルオロポリマーが少なくとも200KdのMwを有する、請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記フルオロポリマーが400〜1300KdのMwを有する、請求項1又は2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記フルオロポリマーが1100〜1300KdのMwを有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項5】
多孔質支持体を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記多孔質支持体が多孔質ポリマー支持体である、請求項5に記載の多孔質膜。
【請求項7】
前記多孔質ポリマー支持体が、PVC/PAN、ポリスルホン、ポリアミド、セルロース、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、PET、PPS、PPSU(ポリフェニルスルホン)、PTFE、PVDF、PVF(ポリフッ化ビニル)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、FEP(フッ化エチレンプロピレン)、ETFE(ポリエチレンテトラフルオロエチレン)、ECTFE(ポリエチレンクロロトリフルオロエチレン)、PFPE(ペルフルオロポリエーテル)、PFSA(ペルフルオロスルホン酸)、ペルフルオロポリオキセタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、及びポリスチレンから選択される、請求項6に記載の多孔質膜。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の多孔質膜を調製する方法であって、
(i) 溶媒又は溶媒の混合物に前記フルオロポリマーを溶解させて、前記フルオロポリマーを含む溶液を得るステップ;
(ii) (i)からの溶液を多孔質支持体上にコーティングするステップ;及び
(iii) 前記溶媒又は溶媒の混合物を前記コーティングから蒸発させて、前記多孔質膜を得るステップ
を含む、方法。
【請求項9】
前記溶媒又は溶媒の混合物が、任意選択でアルコールと組み合わせた、ハロゲン化溶媒を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒又は溶媒の混合物が、任意選択でイソプロパノール及び/又は1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールと組み合わせた、メトキシノナ−フルオロブタン、メトキシノナ−フルオロブタン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン;1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパンから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
15〜23ダイン/cmのCWSTを有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多孔質膜。
【請求項12】
流体をろ過する方法であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多孔質膜に前記流体を通過させるステップを含む、方法。
【請求項13】
流体中に存在するガスが前記流体から除去される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[0001]フルオロポリマーを含む膜は、種々の流体をろ過するために、例えば、流体中に分散しているガスを除去するために検討されている。これらの膜のうちのあるものは、低い表面エネルギー値若しくは臨界ぬれ表面張力(CWST)値、並びに/又は有機溶媒及び反応性の高い化学物質に対する高い耐性によって特徴付けられる。これらの膜の1つ又は複数の利点にもかかわらず、低CWST値並びに/又は有機溶媒及び/若しくは反応性の高い化学物質に対する増大した耐性などの改善された性質を有するフルオロポリマー及びかかるフルオロポリマーを含む膜に対する必要性が存在する。
【0002】
[0002]本発明は、低CWST値を有するフルオロポリマー、及び上記フルオロポリマーから作製された膜を提供する。一実施形態において、本発明は、式A−X−CH
2−B(式中、AはC
6F
13−(CH
2)
2、XはO又はS、Bはビニルフェニルである)の重合したモノマー単位を含み、少なくとも100Kdの重量平均分子量(Mw)及び/又は少なくとも33℃のコポリマーのガラス転移温度を有する、フルオロポリマーを提供する。
【0003】
[0003]上記フルオロポリマーは、超疎水性ポリマーであり、疎油性の性質、すなわち、15ダイン/cm程度に低いCWSTを材料の表面に付与するために使用することができる。本発明はまた、多孔質支持体上に配置された上記コポリマーを含む多孔質膜を調製する方法を提供する。本発明は、流体、特に、溶解している又は分散しているガスを含有する流体を脱気する方法をさらに提供する。例えば、上記多孔質膜は、流体に存在するガス状不純物を濃度1ppb未満、又はほとんどの機器の検出限界未満に除去するのに適している。
【0004】
[0004]本発明のフルオロポリマー膜は、次の利点のうちの1つ又は複数を有する:15〜23ダイン/cmの表面張力を有する疎油性の膜が、膜の後処理をせずに一段階のコーティングプロセスから生成される。このプロセスから生成された疎油性の膜は、酸、塩基、酸化剤、及び/又は熱に対して安定である。疎油性の膜は、その多孔性の少なくとも80%を保持する。上記膜は、15mmHgの真空保持に、例えば15時間以上耐えるほど安定である。0.25%程度に低いポリマー濃度で、23ダイン/cmの表面張力を有する疎油性の膜を生成することができる。上記ポリマーのコーティングは、全部とまではいかなくても、多くの多孔質支持体の膜及び薄膜上をコーティングするように構成可能である。この方法は、既存の機械類をほとんど又は全く改変せずに使用するので、膜を流延するための設備に拡張投資する必要がない。本発明は、膜上にコーティングされたときに、膜の後処理をしなくても23ダイン以下の表面張力を有するホモポリマーを提供する。上記膜は、高い水漏出圧及び/又は高い空気流量を有する多孔質である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】(A)は、本発明の一実施形態によるフルオロポリマー膜上の一滴の水の接触角を示す図であり、(B)は、本発明の一実施形態によるフルオロポリマー膜上の一滴のIPAの接触角を示す図である。
【
図2】(A)は、本発明の一実施形態によるフルオロポリマー膜上の一滴の水の接触角を示す図であり、(B)は、本発明の一実施形態によるフルオロポリマー膜上の一滴のIPAの接触角を示す図である。
【0006】
[0007]一実施形態によれば、本発明は、式A−X−CH
2−B(式中、AはC
6F
13−(CH
2)
2、XはO又はS、Bはビニルフェニルである)の重合したモノマー単位を含み、少なくとも約100Kdの重量平均分子量(Mw)及び/又は少なくとも約33℃のコポリマーのガラス転移温度を有する、フルオロポリマーを提供する。
【0007】
[0008]本発明によれば、Bは、メタ−ビニルフェニル、パラ−ビニルフェニル、又はこれらの混合物である。例えば、上記フルオロポリマーは、メタ−[ペルフルオロヘキシルエチレンチオメチル]スチレン、パラ−[ペルフルオロヘキシルエチレンチオメチル]スチレン、又はこれらの混合物をモノマー単位(複数可)として含む。さらなる例では、上記フルオロポリマーは、メタ−[ペルフルオロヘキシルエチレンオキシメチル]スチレン、パラ−[ペルフルオロヘキシルエチレンオキシメチル]スチレン、又はこれらの混合物を含む。
【0008】
[0009]一実施形態において、上記フルオロポリマーは、少なくとも約100Kd、少なくとも約400Kd、少なくとも約600Kd、少なくとも約800Kd、又は少なくとも約1000KdのMwを有する。例えば、上記フルオロポリマーは、約100〜約4000Kd、好ましくは約500〜約1500Kd、より好ましくは約1100〜約1300KdのMwを有する。
【0009】
[0010]一実施形態において、上記フルオロポリマーは、少なくとも約60Kd、少なくとも約200Kd、少なくとも約400Kd、少なくとも約600Kd、又は少なくとも約1000Kdの数平均分子量(Mn)を有する。例えば、上記フルオロポリマーは、約100〜約2000Kd、好ましくは約200〜約1500Kd、より好ましくは約400〜約1400KdのMnを有し、別の実施形態において、約60〜約1200KdのMnを有する。
【0010】
[0011]上の実施形態のいずれかにおいて、上記フルオロポリマーは、約1.5〜約5、約1.5〜約4、又は約1.5〜約3の多分散度指数(Mw/Mn)を有する。
【0011】
[0012]特定の実施形態において、上記フルオロポリマーは、少なくとも約98KdのMwを有する。
【0012】
[0013]上記モノマーは、C
6F
13−(CH
2)
2−Y(式中、YはSH又はOH)をハロアルキルスチレンと反応させることによって調製することができる。
【0013】
[0014]上記フルオロポリマーは、上記モノマーから任意の適切な方法によって調製することができる。例えば、フリーラジカル重合を使用することができ、特に開始剤をラジカル安定剤と組み合わせて使用することによって使用することができる。一実施形態において、上記フルオロポリマーは、約130℃〜約180℃の温度でのモノマーの自己開始熱重合(self−initiated thermal polymerization)によって調製することができる。
【0014】
[0015]一実施形態によれば、(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−イル)オキシル(TEMPO)を重合に使用すると、ポリマー鎖の成長速度を遅くし、短い方の鎖を再結合させることができるので、狭い分子量分布を有するポリマーが得られる。
【0015】
[0016]上記モノマーは、ペルフルオロヘキシルエチルチオール、ペルフルオロヘキシルエチルアルコール、又はそれらの8個の炭素がフッ化された類似体と、クロロメチルスチレンとから、本明細書に開示する特別なプロセスによって合成される。本明細書に開示するプロセスは、モノマー及びポリマーの合成及び精製を単純化して、工業的用途に利用できるようにする。
【0016】
[0017]モノマー及びそれに続いてポリマーを合成する好ましい方法は次の通りである。263mmolのフッ化チオールを、238mmol相当のクロロメチルスチレンと、100mLのDMF及び33mLの8M水酸化ナトリウムと共に500mLの丸底フラスコ中で混合する。反応混合物を室温で1時間撹拌し、分液漏斗中で分離させる。得られた生成物を140℃、2mbarで蒸留すると、例えば、85%の収率となる。
【0017】
[0018]上記フルオロポリマーは、クロロホルム;ジクロロメタン;1,2−ジクロロエタン;1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール;1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、及び1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパンのようなハロゲン化溶媒に可溶性である。しかし、これらの溶媒のうちの幾つかは有毒であるか、最良のCWST値をもたらさない可能性がある。
【0018】
[0019]適切な溶媒の例として、メトキシブタン、例えば、(CF
3)
2CF−CF
2OCH
3、CF
3CF
2CF
2CF
2OCH
3、若しくはこれらの混合物単体、又はこれらをイソプロパノール(IPA)と組み合わせたものが挙げられる。かかる溶媒は、環境に優しい。これらの溶媒のうち幾つかは、例えば、Novec 7100(商標)(メトキシ−ナノフルオオブタン(nanofluoobutane))又はNovec(商標)71IPA(IPAと組み合わせたメトキシ−ナノフルオロブタン(nanofluorobutane))など、工業用溶媒(engineered solvent)として市販されおり、これらの溶媒は、環境に優しく、且つ危険性が少なく、好ましい。
【0019】
[0020]フッ化溶媒又は工業用溶媒を使用すると、フルオロポリマーの多孔質支持体への接着性が改善される。
【0020】
[0021]本発明は、上述のフルオロポリマーを含む多孔質膜であって、自立型であるか、又は多孔質支持体、例えば、多孔質ポリマー支持体上に配置される、多孔質膜をさらに提供する。
【0021】
[0022]一実施形態において、上記多孔質ポリマー支持体は、PVC/PAN、ポリスルホン、ポリアミド、セルロース、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリオレフィン、例えば、ポリプロピレン又はポリエチレン、特にHDPE、PET、PPS、PPSU(ポリフェニルスルホン)、PTFE、PVDF、PVF(ポリフッ化ビニル)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、FEP(フッ化エチレンプロピレン)、ETFE(ポリエチレンテトラフルオロエチレン)、ECTFE(ポリエチレンクロロトリフルオロエチレン)、PFPE(ペルフルオロポリエーテル)、PFSA(ペルフルオロスルホン酸)、ペルフルオロポリオキセタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、及びポリスチレンから選択される。
【0022】
[0023]上記多孔質膜は疎油性であり、一実施形態において、約23ダイン/cm以下、例えば、15〜23ダイン/cm、特に、15、16、17、18、19、20、21、22、及び23ダイン/cmのCWSTを有する。
【0023】
[0024]上記多孔質膜は、例えば紫外線又は電子ビームなどの重合放射線によって、多孔質支持体上のモノマーを重合させることによって、インサイチュで調製することができる。上記多孔質膜は、代替的に、多孔質支持体をフルオロポリマーの溶液でコーティングすることによって調製されることが好ましい。
【0024】
[0025]膜のCWSTは、任意の適切な方法によって測定することができる。一実施形態において、その方法は、一定の組成の一組の溶液に依存する。各溶液は、特定の表面張力を有する。溶液の表面張力値は、小さい非等価な増分で15〜92ダイン/cmの範囲である。表面張力を測定するために、膜を白色光テーブルの上部に置き、ある特定の表面張力の溶液一滴をその多孔質膜の表面に適用し、その液滴が多孔質膜に浸透し、光が多孔質膜を透過したことの指標として明るい白色となる時間を記録する。液滴が多孔質膜に浸透するのにかかる時間が≦10秒であるとき、瞬間ぬれと考えられる。瞬間ぬれを与える溶液が、その多孔質膜のCWSTを定める。その時間が>10秒であれば、溶液は多孔質膜を部分的にぬらすと考えられる。
【0025】
[0026]本発明の一実施形態によれば、上記多孔質膜は多孔質膜であり、例えば、ナノ多孔質膜、例えば、1nm〜100nmの間の直径の細孔を有する多孔質膜、又は1μm〜10μmの間の直径の細孔を有する微孔質膜である。
【0026】
[0027]本発明の態様は以下を含むが、これらに限定されない:
【0027】
[0028]a)ポリ[p/m−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)チオ]メチル]−スチレン及びポリ[p/m−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)オキシ]メチル]−スチレンであるポリマーの一段階の表面コーティングから誘導され、15〜23ダイン/cmの間の表面張力を有する、多孔質疎油性膜;
【0028】
[0029]b)ペルフルオロヘキシエチレンチオメチルスチレン、及びペルフルオロヘキシルエチレンオキシメチルスチレンであるモノマーでの表面コーティングから誘導され、続いて電子ビームエネルギーを照射すると疎油性表面が得られる、15〜23ダイン/cmの間の表面張力を有する、多孔質疎油性膜;
【0029】
[0030]c)ポリ[p/m−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)チオ]メチル]−スチレン及びポリ[p/m−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)オキシ]メチル]−スチレンであるポリマーでの一段階の表面コーティングから誘導され、15〜23ダイン/cmの間の表面張力を有する、多孔質疎油性膜であって、コーティング後の乾燥温度が20〜150℃の範囲である、多孔質疎油性膜;並びに
【0030】
[0031]d)商業的及び工業的用途で有用な多孔質膜を調製するための、ペルフルオロヘキシエチレンチオメチルスチレンの合成及び後続のポリ[p/m−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)チオ]メチル]−スチレンの合成を単純化する、修正した方法。
【0031】
[0032]上記多孔質膜は、多くの方法のうちの1つでフルオロポリマーを含むことができる。例えば、上記多孔質膜は、上記コポリマーを含むコーティングを含んでもよい。上記多孔質膜は、2%のポリマーを適切な溶媒、例えばアセトンに溶解させ、PTFEなどの多孔質支持体をこのポリマー溶液に2秒間浸すことによって調製することができる。コーティングされた支持体を80℃のオーブンで20分間乾燥させ、生成物をIPA中に2時間浸漬し、80℃のオーブン中で30分間乾燥させて、多孔質膜を得る。PTFE支持体及びこの支持体上にコーティングされた多孔質膜の表面のSEM顕微鏡写真を、それぞれ
図1〜2に表す。
【0032】
[0033]膜は、スピンコーティング、滴下コーティング(drip coat)、スプレーコーティング、浸漬コーティング又は印刷コーティングすることができる。コーティングは、熱を用いて追加的に乾燥させることなく行うこともできる。しかし、追加的に加熱すると、例えば、膜の頑健性を改善することができるため、追加的な加熱が好ましい。膜は、例えば15mmHgまでの陰圧に耐えることが可能である。
【0033】
[0034]本発明の実施形態によれば、多孔質膜は、平面、平板、ひだ状、管状、らせん状、及び中空糸を含めた、種々の立体構造を有することができる。一実施形態において、上記多孔質膜は、中空糸膜である。
【0034】
[0035]本発明の実施形態による多孔質膜は、典型的には、少なくとも1つの注入口及び少なくとも1つの流出口を備え、注入口と流出口の間に少なくとも1つの流体流路を画定する筐体内に配置されており、ここでは、少なくとも1つの本発明の膜又は少なくとも1つの本発明の膜を含むフィルターは、流体流路を横断してフィルター装置又はフィルターモジュールを形成する。一実施形態において、注入口及び第1の流出口を備え、注入口と第1の流出口の間に第1の流体流路を画定する筐体と、少なくとも1つの本発明の膜又は少なくとも1つの本発明の膜を含むフィルターとを備え、本発明の膜又は少なくとも1つの本発明の膜を含むフィルターが、筐体内に第1の流体流路を横断して配置される、フィルター装置が提供される。
【0035】
[0036]クロスフロー用途の場合、少なくとも1つの本発明の膜又は少なくとも1つの本発明の膜を含むフィルターは、少なくとも1つの注入口及び少なくとも2つの流出口を備えており、注入口と第1の流出口の間に少なくとも第1の流体流路及び注入口と第2の流出口の間に第2の流体流路を画定する筐体内に配置され、ここで、本発明の膜又は少なくとも1つの本発明の膜を含むフィルターが、第1の流体流路を横断してフィルター装置又はフィルターモジュールを形成することが好ましい。例示的実施形態において、フィルター装置は、クロスフローフィルターモジュールを備え、筐体は、注入口、濃縮液流出口を備えた第1の流出口、及び透過液流出口を備えた第2の流出口を備え、注入口と第1の流出口の間に第1の流体流路、及び注入口と第2の流出口の間に第2の流体流路を画定し、ここで、少なくとも1つの本発明の膜又は少なくとも1つの本発明の膜を含むフィルターは、第1の流体流路を横断して配置される。
【0036】
[0037]上記フィルター装置又はモジュールは、滅菌可能であってもよい。適切な形状であり、注入口及び1つ又は複数の流出口を備える任意の筐体を用いてもよい。
【0037】
[0038]上記筐体は、処理される流体と適合性のある、任意の不浸透性の熱可塑性材料を含めた、任意の適切な剛性の不浸透性材料から製作することができる。例えば、筐体は、ステンレス鋼などの金属から、又はポリマー、例えば、アクリル、ポリプロピレン、ポリスチレン、又はポリカーボネート樹脂などの透明又は半透明のポリマーから製作することができる。
【0038】
[0039]本発明の実施形態による多孔質膜は、空気及び/若しくはガスをろ過するために使用することができ、並びに/又は通気用途用(例えば、空気及び/又はガスはその膜を通過させるが、液体は通過させない)に使用することができる。
【0039】
[0040]本発明の実施形態による多孔質膜はまた、例えば、診断用途(例えば、試料調製及び/又は診断用ラテラルフロー装置を含む)、インクジェット用途、リソグラフィー、例えば、HD/UHMW PEベースの媒体の代用品として、製薬産業用の流体のろ過、金属除去、超純水の生成、工業用水及び地表水の処理、医療用途用の流体のろ過(家庭用及び/又は患者用の使用を含む、例えば、静脈注射用途、また、例えば、血液などの体液のろ過を含む(例えば、ウイルス除去))、エレクトロニクス産業用の流体のろ過(例えば、マイクロエレクトロニクス産業におけるフォトレジスト流体及び高温SPMのろ過)、飲食産業用の流体のろ過、ビールのろ過、浄化、抗体及び/又はタンパク質を含有する流体のろ過、核酸を含有する流体のろ過、細胞検出(インサイチュを含む)、細胞採取、及び/又は細胞培養流体のろ過を含めた、種々の用途に使用することができる。本発明の実施形態による多孔質膜は、手術用装置を含めた種々の装置及び製品、例えば眼科手術用品などに使用することができる。脱気用途の例は、静脈注射(IV)用流体の脱気である。IV用流体が注射前に適正に脱気されていなければ、その流体は空気塞栓を循環系内に導入するおそれがあり、それは状況によっては致命的であり得る。
【0040】
[0041]本発明の一つの好ましい使用は、生物薬剤及び医療産業における通気用途のための多孔質膜のコーティング用である。代替的に、疎油性コーティングは、氷結防止用又は疎氷性表面用に使用することができ、繊維ガラス、金属及びアルミニウムの表面、電力線、艇体、並びに航空機翼上にコーティングすることができる。
【0041】
[0042]非多孔質薄膜を、ポリ[p/m−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)チオ]メチル]−スチレン及びポリ[p/m−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)オキシ]メチル]−スチレン並びにそれらの高級フッ化炭素類似体であるポリマーを使用してコーティングして、表面エネルギーの高い疎油性表面を実現することができる。コーティングは、スピンコーティング、滴下コーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、又は印刷コーティングによって行うことができる。
【0042】
[0043]以下の実施例は本発明をさらに例示するが、当然のことながら、決して本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【0043】
実施例1
[0044]この実施例は、本発明の一実施形態によるモノマーの調製を例示する。
【0044】
[0045]p−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)チオ]メチル]−スチレン(PFOMS)の調製:2−ペルフルオロヘキシルエチルチオール(1000g、2.63M)を3Lの反応器中でDMF(1L)に溶解させ、8MのNaOH水溶液(330mL)を350rpmで添加し(発熱を伴う)、続いてビニルベンジルクロリド(364g、2.39M)を添加した。反応混合物を80℃で15時間撹拌した。冷却後、得られた混合物を2Lの分液漏斗を使用して分離した(生成物の方が、密度が高い)。H
2O/DMF層をヘキサン(600mL)でさらに抽出した。合わせた有機層を7%の炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、炭酸水素ナトリウム層をヘキサン(300mL)で再抽出した。このようにして得られた生成物を飽和塩化ナトリウム(1L)でさらに洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。生成物を、シリカゲル(ヘキサン中750g)を通してろ過し、ヘキサン(3L)で溶出した。濃縮後、得られた最終生成物を計量した(1.115kg、2.25M、収率86%)。
1H NMR(CDCl
3、単位ppm):δ 2.25(m,2H)、2.60(d,2H)、3.70(s,2H)、5.25(d,1H)、5.75(d,1H)、6.69(dd,1H)、7.25(d,2H)、7.40(d,2H)。
【0045】
実施例2
[0046]この実施例は、本発明の一実施形態によるフルオロポリマーである、ポリ[p−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)チオ]メチル]スチレン](PST−S)の調製を例示する。
【0046】
[0047]2Lのフラスコ中のp−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)チオ]メチル]−スチレン(1.115kg、2.25M)を、トルエン(350g)及びアゾビスイソブチロニトリル((AIBN)11g、674mmol、3mol%)と混合し、窒素ガスを用いて0℃で45分間脱気した。反応混合物を60℃で14時間撹拌した。得られた生成物をメタノール(9L)中で2時間にわたってゆっくり沈殿させ、さらに1時間混合した。溶媒をデカントし、生成物をクロロホルム(2L)に再溶解させ、新たなメタノール(15L)中で再沈殿させた。5時間の混合の後、生成物を、ハウスバキューム(house vacuum)を使用してガラス漏斗(frittered funnel)又はろ紙を通してろ過し、メタノール(500mL)で洗い流した。生成物を、ハウスバキューム下で1時間、及び30℃の真空オーブン中で一晩又は完全に乾燥するまで乾燥させた。得られたポリマーの重量は912gであり、モノマーの重量で収率82%であった。
【0047】
実施例3
[0048]この実施例は、本発明の一実施形態による別のフルオロポリマーである、ポリ[p−[[(ペルフルオロヘキシルエチレン)オキシ]メチル]−スチレン] P(PFOMS)の調製を例示する。
【0048】
[0049]モノマーPFOMS(15.2g、31.7mmol)を、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)(207.7mg、1.23mmol)及びテトラヒドロフラン(THF)(7.5g、104mmol)と共に250mLの丸底フラスコに入れた。60℃で12時間撹拌した後、反応混合物をメタノール中に注ぎ、得られた沈殿物を、溶媒Novec(商標)71IPAからメタノール中へと数回沈殿させることによって精製した。収率:85%。
【0049】
[0050]表1に、上記ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)の一覧を示す。
【0051】
実施例4
[0051]この実施例は、本発明の一実施形態によるコーティング手順を例示する。
【0052】
[0052]20nm、0.1μm、0.2μm、0.45μm、又は1μmの、メルトブローンポリエステルで裏打ちされたPTFE膜及び非支持PTFE膜を、5インチ×5インチのシートに切断した。数枚の膜をステンレス鋼のトレーに入れた。クロロホルム、Novec(商標)71IPA、又はNovec(商標)7100中0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5、又は3.0%のポリマー濃度のコーティング溶液をトレー中に注ぎ、確実に膜がコーティング溶液に完全に浸漬するように穏やかに振盪した。膜の試料を浸漬溶液から取り出し、80℃のオーブン中で20分間乾燥させ、続いて膜の性能を検査した。以下の表2に、0.2μmのポリエステルで裏打ちされたPTFE膜からの検査結果を示す。
【0054】
実施例5
[0053]この実施例は、本発明の一実施形態による親油性膜の調製を例示する。
【0055】
[0054]直径0.1μm、0.2μm、0.45μm、1μm、又は5μmの細孔を有する、ポリエステルで裏打ちされたポリエーテルスルホン(PES)膜及び非支持PES膜を5インチ×5インチのシートに切断した。数枚のかかる膜をステンレス鋼のトレーに入れた。Novec(商標)71IPA、又はNovec(商標)7100中0.5、0.75、1.0、1.5、1.75、2.0、2.25、2.5、又は3.0%のポリマー濃度のコーティング溶液をトレー中に注ぎ、確実に膜がコーティング溶液に完全に浸漬するように穏やかに振盪した。膜の試料を浸漬溶液から取り出し、70℃、80℃、90℃、100℃、120℃、又は140℃のオーブン中で20分間乾燥させた。以下の表2〜4は、かかる膜の70℃及び120℃における検査結果を示す。
【0056】
実施例6
[0055]この実施例は、本発明の一実施形態による、PVDF及びナイロン膜からの親油性膜の調製を例示する。
【0057】
[0056]0.2μm、0.45μm、1μm、又は5μmの孔径の、ポリエステルで裏打ちされたPVDF膜及び非支持ナイロン膜又はセルロースデプスシート(depth sheet)を5インチ×5インチのシートに切断した。数枚の膜をステンレス鋼のトレーに入れた。Novec(商標)71IPA、又はNovec(商標)7100中0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5、又は3.0%のポリマー濃度のコーティング溶液をトレー中に注ぎ、確実に膜がコーティング溶液に完全に浸漬するように穏やかに振盪した。膜の試料を浸漬溶液から取り出し、70℃、80℃、90℃、100℃、120℃、又は140℃のオーブン中で20分間乾燥させた。以下の表5は、かかる膜の70℃における検査結果を示す。
【0058】
実施例7
[0057]この実施例は、本発明の一実施形態による、ナイロン、HDPE、及びPTFE膜からの親油性膜の調製を例示する。
【0059】
[0058]孔径5nmのナイロン膜、5nm及び10nmのPTFE膜、並びに5nm及び10nmのHDPE膜を5インチ×5インチのシートに切断した。数枚の膜をステンレス鋼のトレーに入れた。Novec(商標)7100中0.4%のポリマー濃度のコーティング溶液をトレー中に注ぎ、10秒間穏やかに振盪した。膜の試料を浸漬溶液から取り出し、130℃のオーブン中で20分間乾燥させた。
【0065】
[0059]本明細書に引用される公報、特許出願、及び特許を含めた全ての参考文献は、各参考文献が参照によって組み込まれ、その全体が本明細書に記されると個々に具体的に示された場合と同程度に、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0066】
[0060]本発明を説明する文脈における(特に添付の特許請求の範囲の文脈における)、「ある(a)」及び「ある(an)」及び「その(the)」及び「少なくとも1つの」という用語、並びに同様の指示語の使用は、本明細書に特に示さない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を網羅すると解釈されるべきである。1つ又は複数の項目の列挙に続く「少なくとも1つの」という用語の使用(例えば、「A及びBのうちの少なくとも1つの」)は、本明細書に特に示さない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、列挙された項目(A又はB)から選択される1つの項目、又は列挙された項目のうちの2つ以上の任意の組み合わせ(A及びB)を意味すると解釈されるべきである。「備える」、「有する」、「含む」、及び「含有する」という用語は、特に断りのない限り、オープンエンドターム(すなわち、「含むが限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の記述は、本明細書に特に示さない限り、その範囲内の各々の別個の値を個々に言及する略記法としての役割を果たすことを単に意図しており、各々の別個の値は、あたかも本明細書に個々に記述されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に特に示さない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書に示されるいずれか及び全ての例、又は例を示す言葉(例えば、「など」)の使用は、本発明をより良く明らかにすることを意図するに過ぎず、特に主張しない限り、本発明の範囲に制限を課すことを意図するものではない。本明細書におけるいかなる言葉も、特許請求されない任意の要素が本発明の実施に必須として示されると解釈されるべきではない。
【0067】
[0061]本明細書には、本発明者らが知る本発明を行うための最良の形態を含めた本発明の好ましい実施形態が記載されている。当業者であれば、前述の説明を読めば、これらの好ましい実施形態の変形は明白となり得る。本発明者らは、当業者がかかる変形を適宜用いることを予想しており、また本発明が本明細書に具体的に記載された方法以外で実施されることを意図している。したがって、本発明は、準拠法によって許可されるように、添付の特許請求の範囲に記述される主題を改変したもの及び等価なものを全て含む。さらにまた、上述の要素の、可能な全ての変形での任意の組み合わせが、本明細書に特に示さない限り、又は文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明によって包含される。