【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.[講演会にて発表]平成26年12月15日に第15回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2014)の論文集にて発表 2.[講演会にて発表]平成26年12月16日に第15回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2014)の第1スロット(2H1−5)にて発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A−STEP)」「柔軟メカニズムによる小型・軽量・安価な手指運動の日常動作支援およびリハビリテーション装置の上市による新たなロボット市場創出」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
身体的機能に関する医療リハビリテーションは、病気または外傷によって低下した身体機能の回復のために病院等で施される。近年、より有効な機能回復手法の提供、機能回復の定量的評価、またはリハビリテーション従事者の負担軽減等を目的として、ロボット技術をリハビリテーションへ応用する試みがなされている。特に、ロボットを装着することにより低下した身体機能や日常生活動作を支援するロボット等の試みは、活発に行われている。この種のロボット技術に、他動的に動作を繰り返し行う手指のCPM(Continuous Passive Motion)訓練への応用が期待されるハンドエグゾスケルトン装置が知られている。
【0003】
従来のハンドエグゾスケルトン装置としては、例えばリンク機構を応用したもの、ワイヤ機構を応用したもの、流体駆動を応用したものが知られている。ところが、リンク駆動のハンドエグゾスケルトン装置は、比較的大きな出力を得やすい特徴があるが、一方でハンドエグゾスケルトン装置自体が大型になりやすく、リンク駆動部にガタなどが発生しやすい。ワイヤ駆動のハンドエグゾスケルトン装置は、機構全体を小型にすることが可能であるが、動力部機構が複雑になりがちであり、また、ワイヤの伸び、縮みが生ずる。流体駆動のハンドエグゾスケルトン装置は、身体に装着する装置は小型に実装可能である一方、流体の圧縮等のためのアクチュエータが必要となる。
【0004】
そこで、三層の連結スライドばねを用いた機構が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。三層の連結スライドばねを用いた機構は、リンク駆動、ワイヤ駆動、流体駆動と比較して、小型、軽量となる利点を有している。この三層の連結スライドばねを用いたハンドエグゾスケルトン装置は、第t外装部と、第1外装部と、第2外装部と、第3外装部と、これら外装部内に配置された第1内装部と、第2内装部と、第3内装部と、を有する。それぞれの外装部、内装部は直列に柔軟な三層の上部ばね、下部ばね、内装部ばねにより連結される。上部ばねは、それぞれ外装部の上部を連結しており、スライダ機構により機構長手方向について自在にスライドする。下部ばねは、両端がそれぞれ外装部の下部に固定され、それぞれ外装部を連結する。内装部ばねは、上部ばねと下部ばねとの間に設けられ、先端が第t外装部へ固定され、他端が駆動軸へ固定される。
【0005】
この三層の連結スライドばねを用いたハンドエグゾスケルトン装置によれば、駆動軸を機構に対して遠位側へ動作させた場合(即ち、引いた時)、押した時より大きな伸展時出力を得ることができる。つまり、引き動作による伸展時出力は、押し動作による屈曲時出力よりも3倍程度大きく得られる。このため、特に手指が拘縮してしまった患者に対してのリハビリテーションに好適に用いることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や非特許文献1に示す三層の連結スライドばねを用いたハンドエグゾスケルトン装置は、例えば手指が拘縮してしまった患者に対して適用するため、三層の連結スライドばねの伸展時の出力(動力のこと。以下同様。)をより大きく得られるよう設計が施されていた。
【0009】
例えば、手指が特に硬度に拘縮してしまった患者に対するリハビリテーションでは三層の連結スライドばねの屈曲時出力が大きく得られる設計が好まれる場合がある。このため、上記した特許文献1や非特許文献1では、三層の連結スライドばねの伸展時より屈曲時の出力を要する用途には好適でない場合があった。
【0010】
本発明は、上記した従来の状況に鑑みて案出され、三層の連結スライドばねの屈曲時の出力を三層の連結スライドばねの伸展時の出力よりも大きく得られるハンドエグゾスケルトン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、駆動部によって駆動され、手指に装着される
手の甲を上側、手の平を下側とする上下方向で示される上部、中央部、下部からなる三層のスライドばね機構を有するハンドエグゾスケルトン装置であって、前記手指の長手方向に沿って先端より直列に配置された第0外装部と第1外装部と第2外装部と第3外装部とを有し、前記第0外装部と前記第1外装部、前記第1外装部と前記第2外装部、前記第2外装部と前記第3外装部
のそれぞれは、上下方向に並列に配置され
たスライドばね及び固定ばね
の組によ
り連結され、各々の外装部
に対する前記手指の長手方向において前記上部を固定する前記スライドばねは、スライダ機構により、所定距離の範囲を自在に
前記手指
の長手方向に対して可動端を移動可能に可変長であり、各々の前記外装部
に対する前記上部と前記手指の長手方向において前記手指の装着側を示す前記下部との間の
前記中央部を固定する前記固定ばねは、両端において隣接する外装部に固定され、各々の前記外装部の
前記下部には、
前記手指
の長手方向についてのみ自在にスライド移動可能な駆動ばねが設けられ、前記駆動ばねの先端は前記第0外装部へ固定され、前記駆動ばねの基端は駆動軸へ固定され、前記外装部を連結する前記スライドばねと前記駆動ばねと前記固定ばねとは、
前記上下方向に前記三層のスライドばね機構を構成する、ハンドエグゾスケルトン装置である。
【0012】
この構成のハンドエグゾスケルトン装置によれば、三層のスライドばね機構により覆われる人体の手指についての屈曲伸展動作を支援することが可能となる。人体の手指に装着する際には、遠位指節間関節より末端部の部位に第0外装部を、遠位指節間関節と近位指節間関節と間の部位に第1外装部を、近位指節間関節と中手指節間関節と間の部位に第2外装部を、手掌部に第3外装部を、それぞれ固定し、人体に装着する。この状態で、駆動軸を人体手指に対してその人体手指の長手方向に駆動することにより、遠位指節間関節と近位指節間関節と中手指節間関節とに対して回転力を供給し、人体の手指についての屈曲伸展動作が支援される。
【0013】
ハンドエグゾスケルトン装置では、駆動ばねの基端に固定された駆動軸が第3外装部を挟んで第2外装部と反対側に移動される(即ち、引かれる)と、駆動ばねの先端に固定された第0外装部が第3外装部へ引き寄せられる方向に移動する。すると、三層のスライドばね機構は、固定ばねとスライドばねの弾性力に抗して駆動ばね側に屈曲する。なお、この際、曲率半径外側方向に位置するスライドばねは、スライダ機構によって伸長され、屈曲の拘束を生じさせない。この屈曲動作において、駆動ばねには、引っ張り荷重が加わる。
【0014】
一方、固定ばねと駆動ばねとの上下配置が逆であった従来の三層のスライドばね機構では(例えば特許文献1や非特許文献1参照)、同方向の屈曲動作において、駆動ばねには、ばね延在方向の圧縮荷重が加わる。駆動ばねは、部品加工工程の制限より、厚みが0.2mmまたは0.3mm程度に決定されることから、断面寸法に比して長さが長い。このような駆動ばねでは、圧縮荷重がある大きさになると、屈曲部における側方(曲率半径外方)への撓み(言い換えると、盛り上がり部分)が大きくなる。従来機構においては、この撓みが生じることによって、駆動軸に加えられる入力にロスが生じる。即ち、三層のスライドばね機構に対して屈曲駆動力の入出力比(即ち、伝達効率)が低下する。
【0015】
これに対し、本発明に係るハンドエグゾスケルトン装置の構成では、固定用ばねと駆動用ばねの上下位置を上記従来の三層のスライドばね機構における固定用ばねと駆動ばねの上下位置と逆にすることで、駆動ばねに引っ張り荷重を加えることによって屈曲動作を実現させている。このため、駆動ばねは、側方へ撓むことによる伝達効率の低下が生じない。その結果、ハンドエグゾスケルトン装置は、従来の三層のスライドばね機構の構造に比べ、伸展力は小さくなるものの屈曲力を増大させることが可能となる。これにより、屈曲力を優先する応用(例えば、リハビリテーション)に有効な機構が得られる。
【0016】
また、本発明は、前記第0外装部と前記第1外装部と前記第2外装部と前記第3外装部とをそれぞれ連結する前記スライドばね及び前記固定ばねの長さと前記駆動ばねの長さとは、装着者の手指サイズ、各関節を屈曲させるタイミングを変化させる指標であり、前記スライドばね及び前記固定ばねの長さ及び前記駆動ばねの長さの変更に応じて、前記三層のスライドばね機構の動作を調整する、ハンドエグゾスケルトン装置である。
【0017】
この構成のハンドエグゾスケルトン装置によれば、指標となるスライドばね及び固定ばねの長さと、駆動ばねとの長さを変更することで、装着者の手指サイズへの対応が可能となる。また、スライドばね及び固定ばねの長さと、駆動ばねとの長さは、各関節を屈曲させるタイミングを変化させ、三層のスライドばね機構の動作を調整可能とする指標となる。これにより、ハンドエグゾスケルトン装置は、例えば関節インピーダンスに極端にばらつきのある患者に対し、事前の測定によって、適用する機構の設計が容易に可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、三層の連結スライドばねの屈曲時の出力を三層の連結スライドばねの伸展時の出力よりも大きく得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るハンドエグゾスケルトン装置を具体的に開示した実施形態(以下、本実施形態という)について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る三層のスライドばね機構によるハンドエグゾスケルトン装置システムを示す斜視図である。
【0022】
本実施形態に係るハンドエグゾスケルトン装置11は、人体に容易に装着可能であり、単一の直動アクチュエータを用いて、遠位指節間関節(Distal interphalangeal joint:DIP関節)と、近位指節間関節(Proximal interphalangeal joint:PIP関節)と、中手指節間関節(Metacarpophalangeal joint:MP関節)とに対して駆動力を与える動作変換機構である三層のスライドばね機構により、装着した人体の把持動作を支援することができる。
【0023】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、駆動部13と、駆動部13を制御するコントロール部15と、によってハンドエグゾスケルトンシステム17を構成する(
図1参照)。ハンドエグゾスケルトン装置11は、例えば人体の手指部に装着され、その手指部の動作を支援したり、リハビリテーションで他動的な繰り返し動作をさせたりするために用いられる。ハンドエグゾスケルトン装置11は、駆動部13によって駆動され、手指に装着される三層のスライドばね機構を構成する。
【0024】
次に、
図2から
図4を参照して、三層のスライドばね機構を備えるハンドエグゾスケルトン装置11の構成について詳しく説明する。
【0025】
図2は、本実施形態に係る三層のスライドばね機構モデルの斜視図である。
図3は、本実施形態に係る三層のスライドばね機構モデルの一部透視図である。
図4は、本実施形態に係る三層のスライドばね機構の構成を示す概念図である。
【0026】
ハンドエグゾスケルトン装置11の三層のスライドばね機構は、第0外装部19と、第1外装部21と、第2外装部23と、第3外装部25と、駆動軸27と、から構成される。第0外装部19と第1外装部21、第1外装部21と第2外装部23、第2外装部23と第3外装部25は、上下方向に並列に配置された複数組の板ばねから成るスライドばね及び固定ばねによりそれぞれ直列に連結される。即ち、ハンドエグゾスケルトン装置11は、手指の長手方向に沿って先端より直列に配置された第0外装部19と第1外装部21と第2外装部23と第3外装部25とを有している。
【0027】
スライドばね(つまり、第1スライドばね29、第2スライドばね31、及び第3スライドばね33)は、それぞれ外装部(つまり、第0外装部19と、第1外装部21と、第2外装部23と、第3外装部25)の上部を連結しており、第1スライダ機構35、第2スライダ機構37、及び第3スライダ機構39のそれぞれにより、スライドばね機構の長手方向即ち機構長手方向に自在にスライドする。よって、第1スライドばね29、第2スライドばね31、及び第3スライドばね33は各々、撓むことが可能なばね長さが変化する可変長である。ただし、それぞれのスライダ機構内のストッパ41により、各外装部に対する各ばねのスライド距離の範囲は所定距離内において制限可能である。
【0028】
固定ばね(つまり、第1固定ばね43、第2固定ばね45、及び第3固定ばね47)は、それぞれ外装部の上下方向の中央部を連結している。そして、それらの固定ばねは、その両端部において隣接する(言い換えると、連結される)外装部のそれぞれに固定されている。
【0029】
駆動ばね49は、それぞれの外装部(つまり、第0外装部19と、第1外装部21と、第2外装部23と、第3外装部25)の内部を手指長手方向についてのみ自在にスライド移動可能に挿入される。駆動ばね49は、外装部の上下方向において、固定ばねを挟んでスライドばねの反対側(即ち、外装部の下部側)に配置される。駆動ばね49は、一枚の帯板で形成され、先端が第0外装部19へ固定され、基端が駆動軸27へ固定されている。
【0030】
このとき、スライドばね(つまり、第1スライドばね29、第2スライドばね31、及び第3スライドばね33)、固定ばね(つまり、第1固定ばね43、第2固定ばね45、及び第3固定ばね47)、駆動ばね49は、それぞれ機構上下方向へ三層を構成する。そして、駆動ばね49は、機構上下方向において、中間位置にある固定ばねの下側(即ち、固定ばねを挟んでスライドばねの反対側)に設けられている。
【0031】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、人体の手指部に固定される場合、その手指部の爪側(即ち、手の甲側)に装着される。そして、DIP関節より末端部の部位について第0外装部19を、DIP関節とPIP関節間の部位に第1外装部21を、PIP関節とMP関節間の部位に第2外装部23を、手掌部に第3外装部25が、それぞれ固定される。
【0032】
それぞれの外装部は、装着対象である指の各部位に柔軟なベルトなどを用いて固定可能である。
【0033】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、駆動軸27を機構長手方向へ駆動することにより、DIP関節と、PIP関節と、MP関節に対して回転力を供給し、手指の自然な把持動作を支援する装置として応用することが可能となる。
【0034】
図5は、本実施形態に係る三層のスライドばね機構によるハンドエグゾスケルトン装置の直動アクチュエータ実装例を装着したときの側面図である。直動アクチュエータは、駆動部13の一例である。また、以下の説明において、三層のスライドばね機構を単に「機構」と称することがある。
【0035】
より具体的には、駆動軸27を機構本体から離反する方向(
図5における右方向)へ駆動した場合、駆動ばね49は、同方向(つまり、
図5における右方向)へ機構内部をスライド移動する。
図5に示すハンドエグゾスケルトン装置11は、駆動ばね49がスライドされた後の屈曲された状態を表している。
【0036】
この駆動ばね49のスライド移動は、固定ばね(つまり、第1固定ばね43、第2固定ばね45、第3固定ばね47)が固定長であり且つ固定ばねと駆動ばね49とがばね並び方向(上下方向)に離間しているため、駆動ばね49の曲げ方向動作を生じさせる。
【0037】
その結果として、スライドばね(つまり、第1スライドばね29、第2スライドばね31、第3スライドばね33)のばね長さがスライダ機構(つまり、第1スライダ機構35、第2スライダ機構37、及び第3スライダ機構39)により伸展することに伴い、ハンドエグゾスケルトン装置11は屈曲運動を行う。
【0038】
このとき、スライドばね(つまり、第1スライドばね29、第2スライドばね31、第3スライドばね33)は、駆動ばね49の過度の変形と、座屈を防止する働きをなす。
【0039】
このように、駆動ばね49の機構長手方向への動作は、ハンドエグゾスケルトン装置11が装着された人体の手指の各関節(言い換えると、各外装部)を連結するばね(スライドばね及び固定ばね)により、回転方向への動作変換を行う。即ち、その駆動ばね49の機構長手方向への動作は、各関節(言い換えると、各外装部)の曲げ方向の動作を伴う。
【0040】
各関節(言い換えると、各外装部)における屈曲運動の回転動作中心は、上下に三層をなすスライドばね、固定ばね、駆動ばねが屈曲に伴うそれぞれのばね長の変化により、扇形をなして屈曲することから、機構が装着されるおおよその人体手指関節の動作中心51、動作中心53、動作中心55に、外装部、ばねの寸法を適切に設定することで、一致させることができる。なお、上記おおよその人体手指関節の動作中心51、動作中心53、動作中心55は、
図5に示すように三層のスライドばね機構の外部(曲率半径内方)に存在する。
【0041】
スライダ機構は、ばねの一部を自由端とし、外装部内の溝を自由にスライドしてばね長を可変とすることが簡便に実現できる。また、ばねの一端をT字型に構成し、外装部へ切り欠きを設けることで、ストッパ41が構成される。
【0042】
スライダ機構内のストッパ41は、一定以上のスライド運動は抑制され、よって回転運動は抑制される。このとき、駆動力はより末端側の関節へ伝達するため、結果として末端側のDIP関節、PIP関節の駆動が促進される。
【0043】
固定ばね(つまり、第1固定ばね43、第2固定ばね45、第3固定ばね47)は、一本の連続したばねで構成し、それぞれの外装部と接着されてスライドばね機構を構成可能である。
【0044】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、人体手指の屈曲進展を行うため、各関節の上部に配置される三層のばねの装置長手方向(機構長手方向)についての長さは、人体の手指関節中心に合わせて配置されるように決定する。
【0045】
ハンドエグゾスケルトン装置11では、それぞれの外装部の長さと、第0外装部19と第1外装部21と第2外装部23と第3外装部25とをそれぞれ連結するスライドばね及び固定ばねの長さと、駆動ばね49の長さと、それぞれのばねの特性(例えば長さ)は、装着者の手指サイズ、各関節を屈曲させるタイミングを変化させる指標となる。ハンドエグゾスケルトン装置11は、これら指標を変更することで動作を調整可能である。
【0046】
例えば、各ばねの幅と厚みは、ばねを構成する材質を鑑み、それぞれの関節間でのバランスを考慮して決定されることが好ましい。ある関節のばねの幅と厚みとを小さくした場合は、関節が柔らかくなり、最初に屈曲しやすくなる。なお、各関節のばねの幅と厚みとを全体として大きく設定した場合には、ハンドエグゾスケルトン装置11全体の剛性が高くなり、各関節(言い換えると、各外装部)により高いトルクを発生することが可能となる。しかしながら、この場合は駆動に必要な力が増加する。よって、各ばねの特性(例えば長さ)は、装着する人体手指の寸法、関節の硬さ、支援動作などを鑑みて設計する必要がある。
【0047】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、最大に屈曲した場合において、ばね材質の降伏応力に満たない範囲で使用することがばねの破断を回避する点から好ましい。
【0048】
本実施形態の駆動部13には、駆動軸27に接続され直線運動を出力する出力軸を具備する駆動装置、例えばモータとボールネジを組み合わせた直動アクチュエータを用いることができる。
【0049】
なお、ハンドエグゾスケルトン装置11は、スライドばねと、固定ばねの機構上下方向についての距離を短く設定可能である。よって、固定ばねと駆動ばね間の距離を長く設定し、各関節での回転運動(曲げ運動)への動作変換において、効率的に回転トルクを生じることができる。
【0050】
ヒトの自然な把持動作に着目した際、ヒトの各関節は同時に屈曲・伸展動作を行っていることが、過去の動作解析の結果より明らかとなっている。そこでハンドエグゾスケルトン装置11は、ばね部寸法の決定において、各関節部のばねに作用する曲げモーメントを均一化することで、3関節を同時に屈曲・伸展動作が可能となる。機構モデルは簡素化のため、各関節に配した3層のばねをそれぞれ1層ごとに分割し、それぞれの曲げモーメントの合計値を各関節の曲げモーメントの値として決定することができる。
【0051】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、上記のように、3関節が同時に駆動するようばね部寸法を決定したことで、ヒトの自然な手指運動を生成することが可能となる。しかし、ハンドエグゾスケルトン装置11は、機構関節部に板ばねを配しているため、ハンドエグゾスケルトン装置11が対象物と接触した際の出力が乏しくなることが懸念される。そこで、屈曲時と伸展時における出力特性を出力特性評価実験によって評価することで、装置の有用性について検討のなされることが望ましい。
【0052】
図6は、屈曲力、伸展力、駆動力の測定装置と測定装置にセットされたハンドエグゾスケルトン装置とを共に表した斜視図である。
図7は、
図6に示す測定装置における屈曲力測定時の要部拡大図である。
図8は、
図6に示す測定装置における伸展力測定時の要部拡大図である。
【0053】
出力特性評価実験は、ハンドエグゾスケルトン装置11(或いはその示指モデル57)に対して行うことができる。測定は、屈曲力・伸展力・駆動力の測定装置59を用いて行う。測定装置59は、示指モデル57が対立動作姿勢を取るときの出力を取得し、力覚センサ(例えばテック技販)によって機構剛体部3箇所それぞれから生じる出力を計測する。
【0054】
測定装置59は、基台61に、駆動部63と、保持部65と、測定部67と、を有する。駆動部63は、リニアモータ69と、ロードセル71とを有する。保持部65は、示指モデル57の第3外装部25を保持する。測定部67は、基台61に固定された測定用治具73を有する。測定用治具73は、示指と拇指とが屈曲時対立した時の姿勢を参考に製作される。測定用治具73には、第0外装部19に対向する第0測定板部75、第1外装部21に対向する第1測定板部77、第2外装部23に対向する第2測定板部79が形成される。これら第0測定板部75、第1測定板部77、及び第2測定板部79には、それぞれの外装部(第0外装部19、第1外装部21、第2外装部23)に押圧される力覚センサ81、力覚センサ83、力覚センサ85が取り付けられている。測定用治具73は、示指モデル57の剛体部(各外装部)と各力覚センサが接触するよう例えばABS樹脂により作製される。
【0055】
測定装置59を用いた示指モデル57の測定では、示指モデル57の第3外装部25が保持部65に固定される。示指モデル57の駆動軸27には、ロードセル71が接続される。屈曲時、示指モデル57は、リニアモータ69が駆動されると、ロードセル71を介して引っ張り力が駆動軸27に入力される。駆動軸27に引っ張り力の入力された示指モデル57は、
図7に示すように、屈曲動作する。示指モデル57は、屈曲動作によって、剛体部(第0外装部19、第1外装部21、第2外装部23)が力覚センサ81、力覚センサ83、力覚センサ85を押圧する。これによって、屈曲時における示指モデル57の出力が測定される。
【0056】
測定装置59は、力覚センサ81、力覚センサ83、力覚センサ85に、外装部が挿通可能となった輪状剛体87が脱着可能に固定される。伸展時、示指モデル57は、リニアモータ69が駆動されると、ロードセル71を介して押圧力が駆動軸27に入力される。駆動軸27に押圧力の入力された示指モデル57は、
図6に示すように、伸展動作する。
図8に示した状態の示指モデル57は、伸展動作によって、剛体部(第0外装部19、第1外装部21、第2外装部23)が、輪状剛体87を介して力覚センサ81、力覚センサ83、力覚センサ85を引っ張る。これによって、伸展時における示指モデル57の出力が測定される。
【0057】
次に、上記したハンドエグゾスケルトン装置11の作用を説明する。
【0058】
本実施形態に係るハンドエグゾスケルトン装置11では、人体の手指についての屈曲伸展動作を支援することが可能となる。人体の手指に装着する際には、遠位指節間関節より末端部の部位に第0外装部19を、遠位指節間関節と近位指節間関節と間の部位に第1外装部21を、近位指節間関節と中手指節間関節と間の部位に第2外装部23を、手掌部に第3外装部25を、それぞれ固定し、人体に装着する。この状態で、駆動軸27を人体手指に対してその人体手指の長手方向に駆動することにより、遠位指節間関節と近位指節間関節と中手指節間関節とに対して回転力を供給し、人体の手指についての屈曲伸展動作が支援される。
【0059】
ハンドエグゾスケルトン装置11では、それぞれの外装部の上下方向の中央部が、固定ばねの両端で固定されて連結される。それぞれの外装部の上部は、一定の距離がスライダ機構で可変長となったスライドばねによって連結される。固定ばねを挟んでスライドばねの反対側(即ち、外装部の下部)には、手指長手方向についてのみ自在にスライド移動可能な駆動ばね49が設けられる。この駆動ばね49は、先端が第0外装部19へ固定され、基端が駆動軸27へ固定される。ハンドエグゾスケルトン装置11は、駆動軸27の非駆動時、第0外装部19、第1外装部21、第2外装部23及び第3外装部25が、直線状の各ばねによって直列に連結され、直線状となる。
【0060】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、各関節部のばねにはたらく曲げモーメントを均一化することで、3関節を同時に屈曲・伸展動作が可能となるよう設計が施されている。
【0061】
ハンドエグゾスケルトン装置11では、駆動ばね49の基端に固定された駆動軸27が第3外装部25を挟んで第2外装部23と反対側に移動される(つまり、引かれる)と、駆動ばね49の先端に固定された第0外装部19が第3外装部25へ引き寄せられる方向に移動する。すると、三層のスライドばね機構は、固定ばねとスライドばねの弾性力に抗して駆動ばね側に屈曲する。なお、この際、曲率半径外側方向に位置するスライドばねは、スライダ機構によって伸長され、屈曲の拘束を生じさせない。この屈曲動作において、駆動ばね49には、引っ張り荷重が加わる。
【0062】
一方、固定ばねと駆動ばね49との上下配置が逆であった従来の三層のスライドばね機構では(例えば特許文献1や非特許文献1参照)、同方向の屈曲動作において、駆動ばねには、ばね延在方向の圧縮荷重が加わる。駆動ばね49は、部品加工工程の制限より、厚みが0.2mmまたは0.3mm程度に決定されることから、断面寸法に比して長さが長い。このような駆動ばね49では、圧縮荷重がある大きさになると、屈曲部における側方(曲率半径外方)への撓み(盛り上がり)が大きくなる。従来機構においては、この撓みが生じることによって、駆動軸27に加えられる入力にロスが生じる。即ち、屈曲駆動力の入出力比(伝達効率)が低下する。
【0063】
これに対し、本発明に係るハンドエグゾスケルトン装置11の構成では、固定用ばねと駆動用ばねの上下位置を従来と逆にし、駆動ばね49に引っ張り荷重を加えることによって屈曲動作を実現させている。即ち、力の伝達に曲げ剛性の関与することを排除できる。このため、駆動ばね49は、側方へ撓むことによる伝達効率の低下が生じない。その結果、ハンドエグゾスケルトン装置11は、従来構造に比べ、伸展力は小さくなるものの屈曲力を増大させることが可能となる。これにより、屈曲力を優先する応用に有効な機構が得られる。
【0064】
また、このハンドエグゾスケルトン装置11では、指標となるスライドばね及び固定ばねと、駆動ばね49との長さを変更することで、装着者の手指サイズへの対応が可能となる。また、スライドばね及び固定ばねと、駆動ばね49との長さは、各関節を屈曲させるタイミングを変化させ、動作を調整可能とする指標となる。これにより、ハンドエグゾスケルトン装置11は、例えば関節インピーダンスに極端にばらつきのある患者に対し、事前の測定によって、適用する機構の設計が容易に可能となる。
【0065】
以上に述べた構成によれば、
図1で述べた同様の構成により、三層のスライドばね機構を人体の手指へ装着することにより、手指の把持動作を支援するための動力伝達が可能である。
【0066】
また、ハンドエグゾスケルトン装置11によれば、駆動ばね49が外装部内を自在に長手方向へスライドする構成を有しているため、例えば、非特許文献1の機構と比較して、機構部品点数を減らすことができ、小型、軽量化、また、簡素化が可能である。
【0067】
ハンドエグゾスケルトン装置11は、人体の拇指を除く手指へ装着可能であるが、実装を簡易的に2関節として構成することで、拇指の屈曲伸展運動への適用も可能である。
【0068】
なお、本装置装着者の人体へ筋電センサを別途装着し、コントロール部15へ入力することで、筋電計信号に応じて支援動作を行うことが可能である。
【0069】
また、上述したように本実施形態に係るハンドエグゾスケルトン装置11では、小型で持ち運びが容易であり且つ指の屈曲伸展運動を支援するハンドエグゾスケルトン装置11を、三層のスライドばね機構により構成する。本装置によって、まず他動的に動作を繰り返し行う手指のCPM(Continuous Passive Motion)訓練への応用が期待される。更に、本装置は小型、軽量であることから、人体の手指に装着可能な装置構成とし、例えば末梢神経障害患者の上述した筋電計信号を用いてロボット(本装置)を動作させることで、日常生活動作を支援することが可能である。
【0070】
そして、本実施形態に係るハンドエグゾスケルトン装置11によれば、小型、軽量に人体の手指の把持動作を支援する装置を実現できる。また、ハンドエグゾスケルトン装置11は、単一の駆動部13により手指の三関節について屈曲、伸展を駆動できる点と、大きな駆動力を伝達できることとに特徴がある。更に、装置本体に柔軟性を有するため、安全に駆動できる。
【0071】
従って、本実施形態に係るハンドエグゾスケルトン装置11によれば、屈曲時の出力を伸展時の出力よりも大きくすることができる。