【実施例1】
【0015】
図1は本発明の実施例1の磁気共鳴撮影装置の説明図である。
図1において、実施例1の磁気共鳴撮影装置1は、磁場発生装置の一例としての磁石部2を有する。磁石部2には、内部を水平方向に貫通する貫通孔3が形成されている。貫通孔3には、寝た状態の被検者4が支持される寝台6が貫通可能である。
磁石部2は、静磁場印加部材の一例としての静磁場発生磁石11を有する。なお、静磁場発生磁石として、超電導電磁石や永久磁石を使用することが可能である。静磁場発生磁石11の内側には、傾斜磁場印加部材の一例としての傾斜磁場発生コイル12が配置されている。傾斜磁場発生コイル12の内側には、励起磁場印加部材の一例としての高周波磁場発生コイル13が配置されている。高周波磁場発生コイル13の内側には、受信部の一例として、電磁波を受信する受信コイル14が配置されている。
【0016】
また、実施例1では、MRE測定用に、被検者4には、被検査部の一例としての肝臓の位置に対応する体表面の部分に、振動付与部材の一例としての振動板(パッシブドライバー)16が支持されている。振動板16は、被検者4に対して予め設定された周波数で振動を付与する部材であり、例えば、特許文献2等に記載された従来公知の任意の構成のものを採用可能である。
【0017】
前記磁石部2には、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置21がケーブルCbを介して電気的に接続されている。したがって、コンピュータ装置21は、磁石部2との間で、静磁場発生磁石11等の制御信号や受信コイル14での検知信号等が送受信可能に構成されている。コンピュータ装置21は、コンピュータ本体22と、表示部の一例としてのディスプレイ23と、入力部の一例としてのキーボード24およびマウス25と、を有する。なお、実施例1では、コンピュータ装置21と磁石部2とをケーブルCbで接続する構成を例示したが、これに限定されず、携帯電話回線やBluetooth(登録商標)、無線LAN等、任意の無線通信方式で情報の送受信を行うことも可能である。
【0018】
(実施例1のコンピュータ本体22の制御部の説明)
図2は実施例1の磁気共鳴撮影装置におけるコンピュータ本体の機能ブロック図である。
図2において、実施例1のコンピュータ本体22の制御部41は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
制御部41には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、オペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての磁気共鳴装置制御プログラムAP1、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0019】
(実施例1の制御部41に接続された要素)
制御部41には、キーボード24やマウス25、受信コイル14等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1の制御部41は、ディスプレイ23、静磁場発生磁石11、傾斜磁場発生コイル12、高周波磁場発生コイル13等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0020】
(制御部41の機能)
実施例1の制御部41の磁気共鳴装置制御プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)51〜58を有する。
【0021】
磁場制御手段51は、磁石部2を制御して、被検者4の被検査部をMR撮影するための磁場を制御する。実施例1の磁場制御手段51は、繰り返し時間記憶手段51aと、エコー時間記憶手段51bと、静磁場印加手段51cと、傾斜磁場印加手段51dと、交番磁場の印加手段の一例としての高周波磁場印加手段51eと、を有する。
【0022】
図3は実施例1の磁場の印加および振動の付与の説明図であり、横軸に時間を取ったグラフである。
繰り返し時間記憶手段51aは、被検者4の被検査部に含まれるプロトンを励起するために印加される交番磁場の一例としての高周波磁場を印加する間隔である繰り返し時間TRを記憶する。
【0023】
エコー時間記憶手段51bは、高周波磁場が印加されてから、励起されたプロトンが元の状態に戻る(緩和する)際に発する電磁波を取得するまでの間隔であるエコー時間TE1〜TE6を記憶する。
図3において、実施例1では、エコー時間記憶手段51bは、高周波磁場が印加されてから1回目の電磁波を取得するまでの期間である第1のエコー時間TE1と、1回目の電磁波が取得されてから2回目の電磁波が取得されるまでの期間である第2のエコー時間TE2と、…、5回目の電磁波が取得されてから6回目の電磁波が取得されるまでの期間である第6のエコー時間TE6と、を記憶する。すなわち、実施例1では、前回の交番磁場と次回の交番磁場との間(繰り返し時間TR)に6回、電磁波を取得するように設定されている。
なお、実施例1では、繰り返し時間TRおよびエコー時間TE1〜TE6は、予め設定されているが、磁気共鳴撮影装置1の利用者が手動で入力して、設定、変更が可能に構成することも可能である。
【0024】
図4は水と脂肪とでプロトンの共鳴周波数がずれることの説明図である。
なお、実施例1では、第2のエコー時間TE2から第6のエコー時間TE6は、水に含まれるプロトンと脂肪に含まれるプロトンとでの共鳴周波数のずれに基づいて設定されている。
図4において、一例として、静磁場が3[T]の場合は、プロトンの共鳴周波数が127.5[MHz]であり、水と脂肪で3.5[ppm]ずれるため、水と脂肪とでの共鳴周波数のずれは、127.5[MHz]×3.5[ppm]=446.3[Hz]となる。よって、時間にすると1/446.3=2.2[ms]となる。よって、0[ms]、2.2[ms],4.4[ms]、…毎に、水に含まれるプロトンのスピンの方向と、脂肪に含まれるプロトンのスピンの方向が同位相(in phase)となり、1.1[ms]、3.3[ms],5.5[ms]、…の場合に、逆位相(opposed phaseまたはout of phase)となる。
【0025】
MREの実施には、振動板16から付与される位相の異なる振動に同期した、複数の撮像が必要である。実施例1では、振動板16から、位相が90°ずつずれた4種類の振動が付与され、その振動位相を4つに分けた場合、各々の撮像は振動位相1(0°)、振動位相2(90°)、振動位相3(180°)、振動位相4(270°)と定義できる。ここで、振動位相1および振動位相3の撮像時の第1のエコー時間TE1を2.2[ms](in phase)に設定し、振動位相2および振動位相4の撮像時の第1のエコー時間TE1を3.3[ms](opposed phase)に設定する。これにより、in phaseの画像とopposed phaseの画像が2枚ずつ得られる。2枚のin phaseおよびopposed phaseの画像を各々加算平均すると、信号雑音比が√2倍に向上したin phase画像とopposed phase画像が得られる。この信号雑音比が向上したin phase画像とopposed phase画像を使うことで、Dixon法で得られる画像の信号雑音比も向上する。振動位相1と振動位相3の第1のエコー時間TE1(2.2[ms])に対して、振動位相2と振動位相4の第1のエコー時間TE1(3.3[ms])が異なるため、振動位相との同期にズレが生じる。そのため、振動位相の補正が必要になる。例を挙げると、50Hz振動の場合、opposed phase画像のTE1はin phase画像のTE1に比べて1.1[ms]遅れている。この遅れを振動位相差に変換すると19.8°に相当する。振動位相分割数が4の場合、振動位相を0°、90°、180°、270°で4回撮像するが、opposed phase画像では、in phaseから19.8°の遅れが生じているので、この位相遅れを補正して、0°(in phase)、70.2°(opposed phase)、180°(in phase)250.2°(opposed phase)で4回撮像する。
【0026】
静磁場印加手段51cは、静磁場発生磁石11を制御して、静磁場を発生させる。実施例1の静磁場印加手段51cは、一例として、3[T]の静磁場を発生させる。
傾斜磁場印加手段51dは、傾斜磁場発生コイル12を制御して、位置に応じて磁場が変化する傾斜磁場(勾配磁場)を発生させる。実施例1の傾斜磁場印加手段51dは、
図3に示すように、互いに直交するスライス(slice)方向、リードアウト(read out)方向およびフェーズ(phase)方向の3軸方向において、繰り返し時間TR毎に、傾斜磁場61を発生させる。また、
図3に示すように、実施例1では、リードアウト方向において、エコー時間TE1〜TE6に対応させて、極性の正負が周期的に変化する交番磁場62を印加させる。
【0027】
高周波磁場印加手段51eは、高周波磁場発生コイル13を制御して、プロトンを励起する周波数に対応する交番磁場である高周波磁場63を発生させる。実施例1の高周波磁場印加手段51eは、一例として、静磁場の方向に揃っているスピンを90°傾ける磁場を印加する。実施例1の高周波磁場印加手段51eは、繰り返し時間TRに応じた時期に、高周波磁場を発生させる。
【0028】
振動付与制御手段52は、振動板16を制御して、被検査部に振動を付与する。
図3において、実施例1の振動付与制御手段52が付与する振動の周期は、傾斜磁場の交番磁場の周期、すなわち、エコー時間TE1〜TE6に同期している。なお、実施例1では、振動付与制御手段52は、
図3に示す振動に対して、振動の位相を任意に変更できる機能を有し、この機能を利用して、例えば振動位相分割数が4つの場合、0°から位相を90°、180°、270°ずらした振動も付与する。
受信手段の一例としての信号取得手段53は、第1のエコー時間TE1〜第6のエコー時間TE6の時期に、受信コイル14を介して被検者4のプロトンが緩和する際に発生する電磁波信号を取得する。したがって、実施例1では、
図3に示す振動が振動付与制御手段52で付与された状態で、エコー時間TE1〜TE6において受信コイル14で信号を測定し、位相が90°ずれた振動が付与された状態で、エコー時間TE1〜TE6において受信コイル14で信号を測定し、180°、270°ずれた状態でも同様に信号を測定することで、振動の位相を変えて、MR画像を複数回撮像する。
【0029】
図5は実施例1のMR画像を作成する処理の説明図である。
MR画像取得手段54は、信号処理手段54aと、MR強度画像の作成手段54bと、MR位相画像の作成手段54cと、を有し、信号取得手段53が取得した電磁波信号に基づいて、MR画像を作成する。
信号処理手段54aは、受信した電磁波信号において信号処理をする。実施例1の信号処理手段54aは、信号取得手段53が取得した信号を実数部r(real part)とし、信号取得手段53が取得した信号をπ/2位相を遅らせた信号を虚数部i(imaginary part)とする。すなわち、受信した電磁波信号に基づいた複素数、いわゆる、MRIの技術分野におけるk空間(周波数空間)の信号を生成する。そして、実数部rと虚数部iに対して、フーリエ逆変換(実施例では高速フーリエ逆変換)を行って、実空間の信号R,Iに変換する。そして、実空間における実数部Rと虚数部Iとに基づいて、複素平面における強度M=(R
2+I
2)
1/2と、位相φ=tan
-1(I/R)とを演算する。
【0030】
図6は実施例1のMR強度画像における第1の画像と第2の画像との一例の説明図である。
MR強度画像の作成手段54bは、信号処理手段54aで算出された強度Mに基づいて、MR強度画像を作成する。なお、MR強度画像は、一般的にMRI画像として、診断に使用される画像である。
図5において、実施例1のMR強度画像の作成手段54bでは、第1のエコー時間TE1で測定された電磁波信号から算出される強度M、すなわち、水に含まれるプロトンのスピンの方向と、脂肪に含まれるプロトンのスピンの方向が同位相(in phase)になる場合の画像(in phase画像)と、第2のエコー時間TE2で測定された電磁波信号から算出される強度M、すなわち、水に含まれるプロトンのスピンの方向と、脂肪に含まれるプロトンのスピンの方向が逆位相(out of phaseまたはopposed phase)になる場合の画像(opposed phase 画像)とに基づいて、水をベースとする第1の画像と、脂肪をベースとする第2の画像とを取得、算出する。
【0031】
具体的には、in phase画像では、水の信号(Iwater)と脂肪の信号(Ifat)とが同位相であるため、各信号が加算された画像(Iwater+Ifat)となっている。一方、opposed phase画像では、水の信号(Iwater)と脂肪(Ifat)の信号とが逆位相であるため、水の信号から脂肪の信号が減算された画像(Iwater−Ifat)となっている。
よって、in phase画像とopposed phase画像とを足し合わせることで、(Iwater+Ifat)+(Iwater−Ifat)=2Iwaterとなり、水をベースとする(水の多い部分ほど明るい)第1の画像が作成される。また、in phase画像からopposed phase画像を減算することで、(Iwater+Ifat)−(Iwater−Ifat)=2Ifatとなり、脂肪をベースとする(脂肪の多い部分ほど明るい)第2の画像が作成される。すなわち、実施例1では、いわゆるDixon法により、第1の画像および第2の画像が作成される。
【0032】
MR位相画像の作成手段54cは、電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像(Wave Image画像)を作成する。ここで、実施例1のMR位相画像の作成手段54cでは、第1のエコー時間TE1から第6のエコー時間TE6で測定された電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像を6種類作成する。また、振動付与制御手段52で付与される振動の位相が、0°、90°、180°、270°のそれぞれの場合におけるMR位相画像を作成する。
波長取得手段55は、振動板16で付与された振動により被検者4の内部を伝播する振動波の波長λを取得する。実施例1の波長取得手段55は、0°、90°、180°、270°のそれぞれの場合におけるMR位相画像に基づいて、画像の画素毎に、振動波に応じて変動する位相φの推移から振動波の波長λを取得する。具体的には、振動位相0°、90°、180°、270°の画像から得られる振動波の伝播の様子から、画像の局所領域ごとに振動波の波長λを推定する。
【0033】
硬さ推定手段56は、振動波の波長λと、振動板16で付与された振動波の周波数fと、被検査部の密度ρと、に基づいて、被検査部の硬さμを推定する。なお、振動波の周波数fは、振動板16で付与される振動波の周波数fから既知であり、被検査部の密度ρは、人体の密度は、ほぼ1[g/cm
3]である。そして、硬さ(弾性率)μは、μ=ρ・(λ・f)
2から計算される。
MRE画像作成手段57は、MR現象を利用して硬さを画像化したMRエラストグラム画像(MRE画像)を作成する。実施例1のMRE画像作成手段57は、局所領域(画素)毎に計算された硬さμに応じて色分けされたMRE画像を作成する。一例として、硬い部分(硬さμの値の大きな画素)を赤く表示し、軟らかくなる(硬さμの値が小さくなる)に連れて、黄、緑、青、紫と変化するように表示することが可能である。
【0034】
画像表示手段58は、MR画像取得手段54やMRE画像作成手段57で作成された画像を、ディスプレイ23に表示する。すなわち、被検査部の断面画像である第1の画像(水画像)および第2の画像(脂肪画像)と、MR位相画像(Wave Image画像)と、エラストグラム画像(MRE画像)とが、ディスプレイ23に表示される。なお、実施例1では、Wave Image画像やエラストグラム画像だけでは、解剖学的構造がわかりにくいので、強度画像(第1の画像または第2の画像)と、Wave Image画像やエラストグラム画像とを重ねて表示する表示モードも備える。なお、画像を重ねて表示したり、全ての画像をディスプレイ23に表示せず、入力に応じて、強度画像(第1の画像と第2の画像)と、Wave Image画像やエラストグラム画像を切替えて表示することも可能である。また、同一の断面において、強度画像(第1の画像と第2の画像)とエラストグラム画像を並べて配置することも可能であるし、異なる断面におけるエラストグラム画像を並べて表示する等、任意の変更が可能である。
【0035】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、1回の繰り返し時間TRの間に、複数回のエコー時間TE1〜TE6が設定されており、第1のエコー時間TE1と第2のエコー時間TE2での測定結果に基づいて、MRI画像(水画像および脂肪画像)が作成され、第6のエコー時間TE6での測定結果に基づいて、MRE画像が作成される。
現在市販されている磁気共鳴撮影装置では、MRI画像とMRE画像とが並行して撮影されておらず、MRI画像の撮影と、MRE画像の撮影とが個別に行われていた。よって、MRI画像とMRE画像とを撮影するのに要する時間が長時間になり、被検者4に負担がかかる問題があった。これに対して、実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、1回の繰り返し時間TRの間に、MRI画像とMRE画像とが並行して撮影されており、個別に撮影する場合に比べて、必要な時間を短くすることができる。
【0036】
図7は従来のMRE撮影の場合のエコー時間や印加される傾斜磁場や振動の説明図である。
図7において、特許文献1,2や非特許文献2に記載されているような従来のMREの撮影を行う場合、スライス方向と、リードアウト方向、フェーズ方向の3つ方向に、振動板からの振動に同期する交番磁場、いわゆるMEG(又はMSG)が印加される。そして、交番磁場の印加後に、エコー時間が設定されている。したがって、従来技術では、MEGを印加する分だけ、エコー時間が長くなる。すなわち、高周波磁場が印加されてプロトンが励起されてから、測定を行うまでの時間が長くなる。これにより、横緩和現象の影響を強く受け、画像の信号強度が低下する。すなわち、プロトンが励起されてから、元の状態に戻る途中ではなく、戻りきった状態に近い状態の画像が取得されやすい。よって、水と脂肪との信号の差が小さくなりやすく、得られるMRI画像のコントラストが不鮮明になりやすい。
【0037】
一例として、従来技術において、振動板の振動が50Hzであれば、MSGを20[ms](=1秒/50Hz)印加する必要があり、エコー時間は、20[ms]以下に設定することが困難である。したがって、非特許文献2に記載されているように、長いエコー時間で測定された電磁波信号に基づいてDixon法でMRI画像を作成しても、コントラストが不鮮明になりやすい問題がある。
これに対して、実施例1では、前述のように、第1のエコー時間TE1は2.2[ms]または3.3[ms]に設定可能であり、従来技術に比べて、エコー時間が短縮され、横緩和現象の影響を受けにくくなる。したがって、従来技術に比べて、コントラストが鮮明なMRI画像が得られる。
【0038】
図8は傾斜磁場が印加される回数と位相シフトとの関係の説明図であり、
図8Aは傾斜磁場がプラスにかかり続ける場合の説明図、
図8Bは傾斜磁場がマイナスにかかり続ける場合の説明図である。
また、特許文献1,2や非特許文献2に記載されているように、MEGとして、正負が1回ずつ(1周期分)の交番磁場が印加される場合に対して、実施例1では、エコー時間TE1〜TE6に対応して、正負が3回ずつ(3周期分)の交番磁場が印加される。
図8A、
図8Bにおいて、傾斜磁場が印加されていない静磁場中の共鳴周波数を基準共鳴周波数とすると、傾斜磁場がプラスにかかり続けている場合、その空間の磁場強度は、静磁場強度+傾斜磁場強度となるので、共鳴周波数は高くなり続ける。反対に、傾斜磁場がマイナスにかかり続けている場合、共鳴周波数は低くなり続ける。したがって、傾斜磁場が印加されている場合の共鳴周波数は基準共鳴周波数に対して、高くまたは低くなる。ここで、傾斜磁場が印加されている方向と、振動によって生じる変位の方が一致する場合(
図8A)、共鳴周波数はさらに高くなり続ける。一方、傾斜磁場が印加されている方向と、振動によって生じる変位の方向が反対となる場合(
図8B)、共鳴周波数は低くなり続ける。これにより、基準共鳴周波数との周波数差から位相φのズレ量(位相シフト量)として測定される。
ここで、加振されていない場合では、被検査部にプラス(正)の傾斜磁場とマイナス(負)の傾斜磁場が1周期分印加される場合、プラスの傾斜磁場で位相が下がり続け、マイナスの傾斜磁場で位相が上がり続ける。プラスとマイナスの傾斜磁場の面積が同一なので、正負一対の傾斜磁場を印加した後は位相が元の位置に戻る。
【0039】
そして、振動板16による振動が加わると、被検査部は変位しながら傾斜磁場を受けることとなり、位相シフト量が、振動していない場合よりも多くなる。また、傾斜磁場が反転(正から負、または、負から正)しても、さらに変位しながら傾斜磁場を受けているので、位相が元の状態に戻らない。MREでは、傾斜磁場と同期した振動が付与されているので、位相シフト量が蓄積され続ける。よって、振動に同期した傾斜磁場が1周期分しか印加されない従来技術に比べて、3周期分印加される実施例1では、MR位相画像において、位相シフト量が小さい部分(蓄積量が小さい部分)と、大きい部分(蓄積量が大きい)とで、差が大きくなりやすく、画像(コントラスト)が鮮明になりやすい。
よって、3周期分の傾斜磁場が印加された第6のエコー時間TE6で測定された位相φに基づいて、MRE画像を作成する実施例1では、従来技術に比べて、鮮明なMRE画像を得ることができる。すなわち、複数回のエコー時間が設定され、エコー時間に対応して傾斜磁場が印加される実施例1では、従来技術に比べて、鮮明なMRE画像を得ることができる。
【0040】
また、実施例1ではエコー時間TE1〜TE6の任意のMRE画像を撮像後に選ぶことができる。これによる利点を挙げる。第6のエコー時間TE6のMRE画像は振動に対する感度が高いものの、エコー時間が延長しているので、横緩和現象に伴う信号雑音比低下の可能性があり、第1のエコー時間TE1のMRE画像は振動の感度が弱いものの、得られる信号雑音比が高くなる。このように振動感度と信号雑音比にはトレードオフの関係があり、実施例1では1度の撮像で、適切な感度のMRE画像を撮像後に選択することができる。
【0041】
特に、従来の磁気共鳴撮影装置では、骨軟部(筋肉や腱)で使用されることが多かったが、MRI画像のみでは、腱等が繋がっているか、切れているか、炎症をおこしているかの診断しかできなかった。すなわち、腱等が、繋がってはいるが、固くなってきているとか、切れそうといった、判断はできなかった。これに対して、実施例1では、被検査部の水画像だけでなく、脂肪画像も、硬さの画像も取得可能である。特に、筋肉等は、損傷による変性などが始まると脂肪がたまることがわかってきており、Dixon法による脂肪画像やMREによる硬さの情報も合わせることで、筋肉等の損傷前の段階で、切れそうかどうかの診断に寄与することが期待される。例えば、野球の投手の肩の筋肉や、陸上選手の脚の腱の診断等に寄与することが期待される。
【0042】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H04)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、エコー時間の数は、6回を例示したが、これに限定されない。4回や8回以上に設定することも可能である。
(H02)前記実施例において、例示した具体的な数値は、設計や使用等に応じて、任意に変更可能である。例えば、共鳴周波数は静磁場の強さによって変わるため、静磁場の強さを変化させた場合には、エコー時間や振動板16の周波数等も連動して変更されることとなる。
【0043】
(H03)前記実施例において、磁石部2がリング状、いわゆる、トンネル型の磁気共鳴撮影装置を例示したが、これに限定されない。例えば、磁石部2がコの字型、いわゆる、オープン型の磁気共鳴撮影装置にも適用可能である。
(H04)前記実施例において、振動周波数は、50Hzを例示したが、これに限定されない。75Hzや100Hzでの加振も可能である。