特許第6548263号(P6548263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548263
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】ウナギ仔魚の飼育方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/10 20170101AFI20190711BHJP
【FI】
   A01K61/10
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-516141(P2015-516141)
(86)(22)【出願日】2014年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2014083852
(87)【国際公開番号】WO2015093616
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-263898(P2013-263898)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、農林水産省、シラスウナギの安定生産技術の開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】国立研究開発法人水産研究・教育機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢嗣
(72)【発明者】
【氏名】神保 忠雄
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−253111(JP,A)
【文献】 特開2009−189305(JP,A)
【文献】 特開昭62−259525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 − 63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に傾斜部を有する2つの水槽を一つの側壁で連結し、各水槽の飼育水を前記一つの側壁を貫通する連通管で接続し、水槽内への光を遮断した状態で、一方の水槽に給水し他方の水槽から排水させることにより、前記給水により生じる水槽内の水流を利用して、前記一方の水槽中の仔魚を、前記連通管を通して前記他方の水槽に移送する工程、その後、前記一方の水槽の内壁面を清掃し、前記他方の水槽には光を照射して仔魚に給餌する工程、次いで、水槽内への光を遮断した状態で、前記他方の水槽に給水し、前記一方の水槽から排水させることにより、前記他方の水槽中の仔魚を、前記連通管を通して前記一方の水槽に移送する工程、その後、前記他方の水槽の内壁面を清掃し、前記一方の水槽には光を照射して仔魚に給餌する工程、以上の工程をこの順序で繰り返し行うことを特徴とする光によって水槽底部に集まる性質を持つ仔魚の飼育方法。
【請求項2】
前記連痛管の仔魚が存在しない槽側の開口と別の水槽における連通管の片方の開口をホースで連通し、仔魚が存在する槽の排水管をすべて閉塞し、前記別の水槽におけるホースが接続していない連通管の開口側水槽の配水管をすべて開放した状態で、前記仔魚が存在する水槽に給水を行い、前記仔魚の一部を別の水槽に移動させる工程を更に含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
飼育される仔魚がウナギ仔魚である請求項1又は2に記載の飼育方法。
【請求項4】
底面に傾斜部を有し、一つの側壁で連結され、前記側壁を貫通する連通管で接続した2つの水槽、水槽に備えられた開閉可能な給水管及び排水管、水槽内への光の入射を遮断する遮光手段、各水槽内へ光を照射する照明手段、を備えたことを特徴とする光によって水槽底部に集まる性質を持つ仔魚の飼育装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウナギの仔魚、特に孵化仔魚から浮遊生活を送り,光によって水槽底部に集まり、水槽底部において給餌される葉形仔魚(レプトセファルス)などの浮遊生物の飼育に適した飼育方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウナギ養殖用種苗として用いられるシラスウナギの採捕量減少のため、人工種苗技術の確立が強く望まれているが、ウナギの人工孵化が可能となった現在、仔魚をシラスウナギまで成長させる効率的な飼育方法の開発が急務である。
【0003】
ウナギ仔魚の初期飼料としてサメ卵粉末(特許文献1)や、オキアミ分解物(特許文献2)などが提案されている。
しかし、ウナギ仔魚には索餌行動が認められないことから、上記飼料を懸濁態飼料にして底部を小さく絞った水槽の底面に置き、光によって水槽底部に集まる性質を利用してウナギ仔魚に摂餌させる方式を取っている。
【0004】
また、1日から3日に1回程度は清潔な水槽を用意して仔魚を移しかえなければ長期の飼育が不可能であった。そのためサイホンによって連結した2槽を用意し、水槽内の飼育水を仔魚とともに移し替えた後、仔魚がいなくなった水槽の飼育水を流出させ、空になった水槽内を清掃する方法を採用し、長期の飼育が可能となった。
【0005】
しかし、この方法では、飼育水の移し替え作業は低減できるものの、飼育水を流出させるべき水槽の底部に仔魚が残留してしまい、残留した仔魚を目視で探索し1匹ずつ移し替える必要があることから水槽の大型化は困難であった。
【0006】
一方、本発明者らは、水槽をスポンジ等で毎日拭き掃除することによって、水槽を交換しなくても給餌開始時から変態開始時までの飼育が可能であることを突き止めた。これは、水槽壁面の汚染物をスポンジ等で拭くことにより飼育水中に懸濁させれば、水槽の給排水操作によって水槽から排出され、このような条件であれば仔魚の飼育に重大な悪影響を与えないことを示している。
この方法では、飼育水の移動がないので、水槽の大型化が可能であるが、仔魚が遊泳する水槽内の壁面を清掃するため、仔魚を巻き込んで殺傷してしまうという問題があった。
【0007】
さらに本発明者らは、水槽を傾斜させることにより、仔魚を飼育水とともに移送させ、仔魚が存在しない水槽または水槽部分を出現させ、これらの仔魚の存在しない水槽や水槽の一部を清掃する方法及び装置を提案した(特許文献3)。
この方法によれば、仔魚は飼育水とともに移動するので、移送漏れがなく、しかも、清掃時に仔魚がいないので仔魚を殺傷してしまう危険性もない。
しかし、この方法では、装置を傾斜する設備を必要とするので、水槽の大型化に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−253111号公報
【特許文献2】特開2005−013116号公報
【特許文献3】特開2014−176332号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来方法の問題を解決するもので、大型の水槽を使用し、低コストでしかも安全に仔魚を飼育できる飼育方法及び飼育装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、水槽内を暗くすれば、仔魚は自泳せず浮遊した状態となるので、2つの水槽を、側壁を貫通する連通管によって接続して片方の水槽から給水し他方の水槽から排水することにより、水槽内の飼育水を入れ替えれば、水槽内の仔魚は入れ替わる飼育水とともに他の水槽へ安全に移送できることを実験的に確認し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明の実施態様は、以下の通り。
(1)底面に傾斜部を有する2つの水槽を、側壁を貫通する連通管で接続し、水槽内への光を遮断した状態で、一方の水槽に給水し他方の水槽から排水させることにより、前記一方の水槽中の仔魚を、前記連通管を通して前記他方の水槽に移送する工程、その後、前記一方の水槽の内壁面を清掃し、他方の水槽には光を照射して仔魚に給餌する工程、次いで、水槽内への光を遮断した状態で、前記他方の水槽に給水し、前記一方の水槽から排水させることにより、前記他方の水槽中の仔魚を、前記連通管を通して前記一方の水槽に移送する工程、その後、前記他方の水槽の内壁面を清掃し、一方の水槽には光を照射して仔魚に給餌する工程、以上の工程をこの順序で繰り返し行うことを特徴とする光によって水槽底部に集まる性質を持つ仔魚の飼育方法。
(2)前記連通管の仔魚が存在しない槽側の開口と別の水槽における連通管の片方の開口をホースで連通し、仔魚が存在する槽の排水管をすべて閉塞し、前記別の水槽における連通管にホースが接続していない連通管の側の水槽の排水管をすべて解放した状態で、前記仔魚が存在する水槽に給水を行い、前記仔魚の一部を別の水槽に移動させる工程を更に含む(1)の飼育方法。
(3)飼育される仔魚がウナギ仔魚である(1)の飼育方法。
(4)底面に傾斜部を有し、側壁を貫通する連通管で接続した2つの水槽、各水槽に備えられた開閉可能な給水管及び排水管、各水槽内への光の入射を遮断する遮光手段、各水槽内へ光を照射する照明手段、を備えたことを特徴とする光によって水槽底部に集まる性質を持つ仔魚の飼育装置。
【0012】
本発明で使用する水槽は、その形状は問わないが、光によって水槽底部に集まる性質を持つ仔魚に効率よく給餌するため、少なくとも底部がかまぼこ型、台形、円錐形など傾斜部を有することが必要である。
【0013】
本発明で使用する2つの水槽は、交互に使用することから、各水槽内における飼育条件が同じとなるよう相似形であることが好ましい。また、その材質も、従来から使用されている、合成樹脂板、金属板やFRPなど公知の材質のものが使用でき、透明か不透明かも問わない。また、水槽内面は、仔魚にダメージを与えず、かつ清掃が容易となるようできるだけ平滑であることが望ましい。水槽の容量と飼育可能な仔魚の尾数は、経験上、1000L当たり、全長7mmの5日齢の仔魚で25,000尾、変態直前の全長50mm程度の仔魚で1000尾程度と見込まれる。
【0014】
本発明の飼育方法においては、仔魚の成長状況に応じて、より大型の水槽に移送するか、一部を他の水槽に移送する必要が生じる。
そのような場合も、本発明の飼育装置であれば、移送側の水槽の連通管の一方の開口にホースを接続し、該ホースの他端を、受入側水槽の連通管の一方の開口に接続し、移送側水槽の連通管が開口する水槽側に給水し、受入側水槽の連通管が開口する水槽側から排水することにより、飼育途中の仔魚を安全に他の水槽に移送することが可能である。
【0015】
本発明で使用する連通管は、その断面形状は問わないが、その内径は仔魚が安全に通過できる間隔が必要である。ウナギの仔魚はふ化直後の5日齢では全長7mm程度であるが、シラスウナギへの変態直後では全長50mm、体高13mm程度になるので、最小間隔は13mm以上である必要がある。
【0016】
連通管は、2つの水槽の壁面が接している面に設けることにより最短の長さとすることができるが、その開口を各水槽の壁面より数10mm突出させることにより、一旦、連通管を通って移送した仔魚が容易に逆流することを防ぐことができる。
【0017】
本発明で使用する給水管は、前記連通管に仔魚を導入し移送させるのに必要な水流を生じさせるとともに、仔魚への給餌後の残渣を排水管から水槽外に排出するため該残渣を給水管からの水流で吹き飛ばし水中に懸濁させる機能、あるいは壁面の清掃により水槽内に分散した汚物を排水管へ向かわせる機能が要求される。
【0018】
また、餌の残渣を効果的に吹き飛ばすよう、飼育水の入れ替え用の給水管とは別に、餌残渣近傍にその開口を向けた残渣吹き飛ばし用の給水管を設けてもよい。
【0019】
本発明で使用する排水管は、水槽内の飼育水に懸濁した餌の残渣や水槽壁面の清掃により生じた汚物を効率よく水槽外に排出でき、しかも水槽内の仔魚を吸い込まないよう、前記連通管や給水管と比べ大径の管を使用し、排水管周辺に急な流れが生じないようにするとともに、その開口部にはストレーナを設ける。使用するストレーナの目開きは、仔魚の生育に従って変えることが望ましい。
【0020】
なお、水槽が大型化し水槽の接続部の幅が前記連通管径の6倍以上となる場合は、水槽内の飼育水が均一に入れ替わるよう、上記連通管、給水管及び排水管は複数個所設ける。
【0021】
本発明で使用される遮光手段とは、水槽内への光の入射を遮断、水槽内を1ルックス以下にするもので、水槽自体を覆う遮光シート、外からの自然光の入射を遮る遮光カーテン、室内の照明を切断する消灯スイッチがこれに当たる。
【0022】
本発明で使用される照明手段とは、水槽内に光を入射させ仔魚に槽底面方向に遊泳行動を生じさせるのに必要な100ルックス以上の照度とする手段で、蛍光灯のような照明器具、屋外から十分な光量が得られる場合は採光窓がこれに当たる。
【0023】
また、本発明の方法で飼育される生物は、ウナギの孵化仔魚から浮遊生活を送りつつ、照明点灯時に水槽底部に集まる葉形仔魚(レプトセファルス)までのウナギ仔魚であるが、ウナギ仔魚と同様に一定の条件のもとで水槽底面に集まる浮遊生物に対しても、本発明の方法は有効である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、移槽作業や内壁面の清掃作業など水槽を清潔に維持する過程において健康な仔魚を殺傷してしまう可能性が大幅に減少する。また水槽を可動することなく移槽作業が行えるので、水槽の大型化が可能であり、従来の方法より多数の仔魚の飼育が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の飼育水槽の全体図
図2】本発明の水槽壁面清掃、仔魚への給餌工程を示す図
図3】本発明の内壁面清掃によって生じた汚物、餌の残渣の排出工程を示す図
図4】本発明の飼育水の入れ替え工程を示す図
図5】本発明の排水管の断面を示す図
図6】本発明の水槽間で仔魚を移送する工程を示す図
図7】本発明の水槽間で仔魚を移送する工程における各槽の給水・排水操作を示す図
図8】本発明の実験例の飼育結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0026】
1 水槽
2 給水管
3 排水管
4 ストレーナ
5 給餌用のピペット様パイプ
6 清掃用柄付スポンジ
7 照明器具
8 連通管
9 キャップ
10 ホース
【発明を実施するための形態】
【0027】
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の飼育装置であり、底面がかまぼこ型の850L水槽(長さ1800mm×幅800mm×高さ800mm)を2つ長さ方向で接続したものである。
2つの水槽が接する壁面には30mmφの連通管8を水槽上面から150mmの位置に10本貫通させ、該壁面の対向する壁面近傍には、25mmφのエルボ管からなる給水管をその開口を下方に向け3本、75mmφのソケット管からなる排水管を、壁面を貫通するパイプの中心が水槽上端から100mmとなる位置に4本設け、水槽内の開口部にはストレーナ4(商品名:メッシュスクリーン)を取り付けた。
【0030】
図2は、本発明の水槽壁面清掃、仔魚への給餌工程を示す図で、5日齢のウナギの仔魚27965尾収容した水槽Aの底面に、図に示すような給餌用のピペット様パイプ5を利用して懸濁態飼料を載置した。一日、数回給餌し、この時、各水槽への給水は遮断しておく。
【0031】
飼育開始2日目以降は、後述するよう飼育水の入れ替えを行い、仔魚を水槽間で移動させるので、仔魚が移動し、いなくなった水槽の壁面を1日一回清掃する。清掃は、図2に示すような柄付スポンジ6を利用し、先端のスポンジで、壁面を軽く2,3回擦る程度で十分である。この時、清掃漏れが生じないよう水槽壁面には突起物を設けずスポンジが届かない箇所が生じないようにすることが望ましい。なお、また、清掃は給水が遮断されている給餌時に行うのが簡便である。
【0032】
図3は、本発明の内壁面清掃によって生じた汚物、餌の残渣の排出工程を示す図で、餌の残渣を放置すると水質の悪化の原因となるので、給餌後、各水槽に給水し、水槽底面に残った残渣を吹き飛ばし、水中に懸濁させて排水管より水槽外に排出させる。この時、仔魚がいない水槽で清掃を行った場合には、清掃により飼育水中に分散した汚物も連通管8を通り排水管から排出される。この時、仔魚がいないB槽の排出管3の開口はキャップ9を嵌めて塞いでおく。
【0033】
図4は、本発明の飼育水の入れ替え工程を示す図で、1日の給餌が終了した後、夜間、実験棟内の照明を消灯した状態で、排水管を切り替える。
排水管の切り替えは従来使用してきたA槽の排出管のストレーナ4を外してキャップ9を嵌め、B槽の排出管に嵌められていたキャップ9に替えてストレーナ4を嵌めることによって行う。
【0034】
かかる操作により、従来仔魚が存在した水槽の飼育水は徐々に連通管8を通して排水管が開口した他の水槽に流入し、この飼育水の流れに乗って、浮遊状態の仔魚も前記連通管を通して他の水槽内に移動する。
【0035】
図5は、排水管の具体例の拡大図で、希望する水槽水面に合わせて水槽壁を貫通する排水管を設置し、水槽内で下方に屈曲した開口には、着脱可能なストレーナ4が嵌合されており、これにより水槽内の仔魚が排水管より水槽外へ流出するのを防いでいる。しかし、餌の残渣や水槽の内壁面の清掃によって懸濁された汚物は、このストレーナ4を通過させる必要があるので、その目開きは、餌の残渣や水槽の内壁面の清掃によって水中に分散した汚物は通過するが、仔魚は通過しないものを選択する必要がある。そして、餌の残渣物や清掃によって発生した汚物を迅速かつ確実にストレーナ4を通過させるためには、ストレーナ4の目開きは大きいほうがよいことは明らかなので、仔魚の生育状況に従ってストレーナ4も目開きが大きいものに交換することが望ましい。
【0036】
図6は、仔魚の成長に応じて、1号水槽で飼育した仔魚の一部を2号水槽に移送する場合の接続を示す図である。
図に示されるように、1号水槽の連通管のB槽側の開口と2号水槽のA槽側の連通管の開口とをホース10で接続し、1号水槽のA槽には給水管2より給水し、2号水槽のB槽の排水管4より排水するようにする。
1号水槽から2号水槽への水流はサイフォン作用を利用するので、2号水槽のB槽の水面は、1号水槽のA槽の水面と同じかそれよりも低くなるように配置する。
【0037】
図7は、1号水槽で飼育した仔魚の一部を2号水槽に移送する場合の各水槽の給水管及び排水管の開閉状態の一例を示す図である。
1号水槽と2号水槽を接続するホース10は、すべての連通管同士を接続してもよいが、図に示すように一部の連通管同士を接続するようにしてもよい。その場合、1号水槽のホースを接続しない連通管は、その開口部にキャップを嵌めてA槽内の仔魚が1号水槽のB槽に流入しないようにする必要がある。
【0038】
1号水槽のA槽には、排水管3をすべてキャップ9嵌めて閉じた状態で給水管2より給水し、2号水槽のB槽は排水管を開にした状態で給水管2より給水する。排水管が閉じられている1号水槽のA槽では給水管2よりの給水により次第に水位が上がるが、2号水槽のB槽では排水管が解放されているので水位は変わらず、1号水槽のA槽と2号水槽のB槽との間に水位差が生じる。この水位差により1号水槽のA槽内の飼育水がホース10を通して2号水槽のB槽に流れる。この時、1号水槽内の仔魚は、飼育水と共にホース10を通って2号水槽のB槽に移送される。
【0039】
なお、1号水槽のB槽においても一部の給水管と排水管を開放しているが、これは、仔魚の移送の間に清掃を行うためと、万が一、2号水槽から飼育水が逆流した場合にも、キャップを外すだけで1号水槽の水位の急激な上昇を防ぐことができるようにするためである。
同様に、2号水槽のA槽においても一部の給水管を開放しているが、これは、2号水槽のB槽に移送された仔魚が、A槽に流入しないようにするためである。
また、移送する仔魚の尾数を調整するには、給水時間及び給水量を調整すればよい。
【0040】
また、水槽間の移送のため水槽内の仔魚の一部を他の水槽に移送すると、移送元の水槽に残留する仔魚の全長と移送先の水槽に移送される仔魚の全長に、図9のグラフに示されるように、有意な差が認められた。これは、本発明のように水流に同伴させて仔魚を移槽する方法では、比較的小型の仔魚の方が、水流に同伴され易いことが要因の一つと考えられる。
【0041】
[飼育実験例]
<飼育用仔魚の調達>
雌親魚は、稚魚期にエストラジオール-17βを投与して雌化養成したもの、または天然雌を、雄親魚は、養殖ウナギを使用し、人工催熟させて産卵、受精させ、得られた受精卵を孵化させ、5日目まで飼育管理した仔魚27,965尾を試験に供した。
<飼育水槽>
図1に示される850L水槽で実験を行った。仕様は以下の通り。
注水管 :25mmφのパイプを各槽3本、水槽への取り付けは、壁面の清掃の都合から水槽水面より上部の箇所とした。
注水量 :10L/hr×6本
排水管 :75mmφのパイプを各槽4本、中心線が水槽の水面となるように水槽壁面を貫通させる。水槽内の開口部には、ストレーナを着脱自在に取り付け、不使用時にはキャップ9をかぶせて閉塞する。
ストレーナ:20日齢までは60メッシュ、20日齢〜100日齢は40メッシュ、110日齢を超えると24メッシュのものを使用(商品名「メッシュスクリーンMS−60,MS−40,MS−24」)
飼育水温:23℃
飼料 :サメ卵主体の懸濁飼料(イカ墨で着色)
給餌回数:1日5回(7時、9時、11時、13時、15時)各15分間
給餌量 :400mL(20日齢迄は水を加えて450mLとした)
水槽交換:1日1回、15時の給餌後
照明器具:遮光した施設内の水槽上部に500lxの蛍光灯を設置した。
遮光手段:遮光した施設内の照明器具を消灯することで遮光した。
【0042】
<給餌工程>
本発明の飼料は、少しの水流でも分散するので、両水槽の給水を遮断した状態で、図1に示される器具を使用して、水槽底部に一様に分配されるように載置した。
その後、水槽内を照明器具で照明すると、仔魚は下方へ向かって遊泳行動を起こし、水槽底面の傾斜に従い、最深部に載置された餌に到達し、餌を摂取する。
<餌の残渣の除去工程>
給餌時間は15分間とし、給水を開始して水槽底面の餌の残渣を仔魚とともに吹き飛ばし、餌のみを排水管より槽外へ排出させる。本実験では、2槽で給水し、仔魚が存在する水槽の排水管から排水させるようにした。これは弁操作を簡略化し、誤給水を防止するとともに、常に仔魚がいない水槽から仔魚が存在する水槽に向けて連通管内の水流が発生するため、仔魚の逆流を防ぐとともに、水槽交換でたまたま残留してしまった仔魚がこの水流で本来の水槽へ移送されるというメリットがある。
<水槽内壁面の清掃>
本実験では、給餌時、給水が停止している間に清掃を行ったが、清掃を行う水槽中には仔魚は存在していないので、給水時に行っても何ら問題ないと考えられる。
本実験での清掃は、図2に示されるステッキの先端にスポンジを取り付けた器具を使用し人力で行ったが、上述したように清掃を行う水槽中には仔魚は存在していないので、自動清掃機械の導入も可能である。
<水槽交換>
1日1回、15時の給餌後に排水ストレーナの位置を交換し、夜間、施設内の照明を消灯した状態で給水することにより実施した。本件で使用した水槽では、約6時間でほぼ全量の仔魚を移送することができた。
場合によっては、数尾残留してしまうことがあったが、尾数が少ないので従来法のように清掃時に仔魚を巻き込む可能性はほとんどなく、また、本実験例では、給餌後の給水は、仔魚が移送元水槽でも行うので、給水の結果生じる水流により連通管を通して本来仔魚が存在する水槽へ移送される可能性も高く、残留仔魚を目視で探索し、1尾ずつ人力で移送させる必要性はなかった。
<飼育実績>
上記水槽による飼育実験の結果を図8に示す。図8bの体高、図8c全長の測定値は、仔魚20尾の平均値である。
本実験結果によれば、生残率は40日齢以降安定し、100日齢時点で6.3%(生残尾数1,763尾)、180日齢時点で3.4%(生残尾数940尾)であり、体長や体高も順調に生育していることを示しており、184日齢には1尾目のシラスウナギが得られた。図8dは、その後のシラスウナギ変態尾数であり、最終的には400尾を超えるシラスウナギが得られた。これにより,従来不可能とされていた大型の水槽での安全な飼育が可能であることが実証された。
上記生残率は、餌の種類や給餌方法の改良、水槽の形状や操作方法の改良によりさらに高まることが期待できる。
【0043】
<水槽間移槽を利用する仔魚の選別>
上記の飼育実験では、シラスウナギへの変態が始まった180日齢(全長約50mm)の時点で1000尾を切っていたので、図6,7に示される水槽間移動を利用した分散工程は必要なかった。
今後、餌の改良や飼育技術の改善により、生残率が向上した場合を考え、別途飼育した140日齢と431日齢のウナギ仔魚を利用して、槽間移送の実験を行った。
【0044】
140日齢の移送実験は、1号水槽のA槽に771尾の仔魚を収容し、1号水槽のA槽と2号水槽のB槽とを5本のホース10で接続し、1号水槽のA槽のホース10が接続さなかった連通管にはすべてキャップを嵌めて閉塞しておく。また、1号水槽のA槽の排水管はすべてキャップを取付けて閉塞しておき、2号水槽のB槽の排水管はすべてストレーナを取り付けて解放しておく。
この状態で、1号水槽への光を遮断し、3本の給水管より、30L/分で給水を行う。給水を1時間行ったところ、1号水槽のA槽に残留した仔魚は104尾、2号水槽のB槽に移動した仔魚は667匹であった。
残留した仔魚と移動した仔魚のそれぞれ20尾の全長を測定した結果を、表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
431日齢の移送実験は、132尾の仔魚により、140日齢の仔魚の実験と給水時間を1時間から2時間に延長した他は同様にして行った。その結果、37尾が1号水槽のA槽に残留し、95尾が2号水槽のB槽に移動した。
なお、132尾の仔魚の内、5尾は既に変態しシラスウナギとなっていたが、5尾共1号水槽のA槽に残留した。これは、変態後のシラスウナギが変態前の仔魚と比べ、比重が重くなり、漆黒下でも行動するようになり、遊泳力が著しく強くなることによるものと考えられる。
また、51尾は体形が多少湾曲していたが、この湾曲した仔魚は、90%以上が2号水槽に移動していた。なお、多少湾曲している仔魚も、変態すると普通のシラスウナギとなっており、単なる形態異常と考えられる。
残留した仔魚と移動した仔魚の全長を測定した結果を、表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表1,2から明らかなように、140日齢と431日齢のウナギ仔魚で、いずれも移動した仔魚と残留した仔魚の平均全長には有意な差が認められた。
以上の実験は、2つの水槽をホースで接続して行ったが、同様な選別は同一水槽内でのA槽、B槽間の移送でも生じているものと認められるので、例えば、A槽、B槽間で選別を行い、更に選別された仔魚を、ホースを介して他の水槽に移送したり、選別することも可能と考えられる。
このように、本発明の水槽を利用すれば、安全且つ容易に小魚の選別も可能となり、水槽内で全長がある程度そろった仔魚を飼育することができるので、仔魚の成長に合わせて飼料を調製したり、排水管に取り付けるストレーナの目開きを最適なものに変えることができ、効率的な飼育が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
先行技術では水槽内の内壁を1日〜3日間隔で、水槽内壁面を清掃していたが、多数の仔魚が存在する水槽内での清掃となるため、清掃具での仔魚の殺傷は避けられなかった。また、水槽傾斜法では、仔魚を水槽内の飼育水とともに移動させるので、従来法のように仔魚を目視で探索する必要はなくなったが、水槽を傾斜させる設備を必要とし、水槽の大型化は困難で、多数の仔魚を飼育するためには多数の装置を用意する必要があった。しかし本発明によれば、水槽の稼働設備が不要なため水槽の大型化が可能であり、しかも、これまでより少ない労力で仔魚の移槽ができるので、安全に水槽の清掃が可能となり、ウナギ仔魚の大量飼育に利用可能であると考えられる。
図1
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図8