【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の飼育装置であり、底面がかまぼこ型の850L水槽(長さ1800mm×幅800mm×高さ800mm)を2つ長さ方向で接続したものである。
2つの水槽が接する壁面には30mmφの連通管8を水槽上面から150mmの位置に10本貫通させ、該壁面の対向する壁面近傍には、25mmφのエルボ管からなる給水管をその開口を下方に向け3本、75mmφのソケット管からなる排水管を、壁面を貫通するパイプの中心が水槽上端から100mmとなる位置に4本設け、水槽内の開口部にはストレーナ4(商品名:メッシュスクリーン)を取り付けた。
【0030】
図2は、本発明の水槽壁面清掃、仔魚への給餌工程を示す図で、5日齢のウナギの仔魚27965尾収容した水槽Aの底面に、図に示すような給餌用のピペット様パイプ5を利用して懸濁態飼料を載置した。一日、数回給餌し、この時、各水槽への給水は遮断しておく。
【0031】
飼育開始2日目以降は、後述するよう飼育水の入れ替えを行い、仔魚を水槽間で移動させるので、仔魚が移動し、いなくなった水槽の壁面を1日一回清掃する。清掃は、
図2に示すような柄付スポンジ6を利用し、先端のスポンジで、壁面を軽く2,3回擦る程度で十分である。この時、清掃漏れが生じないよう水槽壁面には突起物を設けずスポンジが届かない箇所が生じないようにすることが望ましい。なお、また、清掃は給水が遮断されている給餌時に行うのが簡便である。
【0032】
図3は、本発明の内壁面清掃によって生じた汚物、餌の残渣の排出工程を示す図で、餌の残渣を放置すると水質の悪化の原因となるので、給餌後、各水槽に給水し、水槽底面に残った残渣を吹き飛ばし、水中に懸濁させて排水管より水槽外に排出させる。この時、仔魚がいない水槽で清掃を行った場合には、清掃により飼育水中に分散した汚物も連通管8を通り排水管から排出される。この時、仔魚がいないB槽の排出管3の開口はキャップ9を嵌めて塞いでおく。
【0033】
図4は、本発明の飼育水の入れ替え工程を示す図で、1日の給餌が終了した後、夜間、実験棟内の照明を消灯した状態で、排水管を切り替える。
排水管の切り替えは従来使用してきたA槽の排出管のストレーナ4を外してキャップ9を嵌め、B槽の排出管に嵌められていたキャップ9に替えてストレーナ4を嵌めることによって行う。
【0034】
かかる操作により、従来仔魚が存在した水槽の飼育水は徐々に連通管8を通して排水管が開口した他の水槽に流入し、この飼育水の流れに乗って、浮遊状態の仔魚も前記連通管を通して他の水槽内に移動する。
【0035】
図5は、排水管の具体例の拡大図で、希望する水槽水面に合わせて水槽壁を貫通する排水管を設置し、水槽内で下方に屈曲した開口には、着脱可能なストレーナ4が嵌合されており、これにより水槽内の仔魚が排水管より水槽外へ流出するのを防いでいる。しかし、餌の残渣や水槽の内壁面の清掃によって懸濁された汚物は、このストレーナ4を通過させる必要があるので、その目開きは、餌の残渣や水槽の内壁面の清掃によって水中に分散した汚物は通過するが、仔魚は通過しないものを選択する必要がある。そして、餌の残渣物や清掃によって発生した汚物を迅速かつ確実にストレーナ4を通過させるためには、ストレーナ4の目開きは大きいほうがよいことは明らかなので、仔魚の生育状況に従ってストレーナ4も目開きが大きいものに交換することが望ましい。
【0036】
図6は、仔魚の成長に応じて、1号水槽で飼育した仔魚の一部を2号水槽に移送する場合の接続を示す図である。
図に示されるように、1号水槽の連通管のB槽側の開口と2号水槽のA槽側の連通管の開口とをホース10で接続し、1号水槽のA槽には給水管2より給水し、2号水槽のB槽の排水管4より排水するようにする。
1号水槽から2号水槽への水流はサイフォン作用を利用するので、2号水槽のB槽の水面は、1号水槽のA槽の水面と同じかそれよりも低くなるように配置する。
【0037】
図7は、1号水槽で飼育した仔魚の一部を2号水槽に移送する場合の各水槽の給水管及び排水管の開閉状態の一例を示す図である。
1号水槽と2号水槽を接続するホース10は、すべての連通管同士を接続してもよいが、図に示すように一部の連通管同士を接続するようにしてもよい。その場合、1号水槽のホースを接続しない連通管は、その開口部にキャップを嵌めてA槽内の仔魚が1号水槽のB槽に流入しないようにする必要がある。
【0038】
1号水槽のA槽には、排水管3をすべてキャップ9嵌めて閉じた状態で給水管2より給水し、2号水槽のB槽は排水管を開にした状態で給水管2より給水する。排水管が閉じられている1号水槽のA槽では給水管2よりの給水により次第に水位が上がるが、2号水槽のB槽では排水管が解放されているので水位は変わらず、1号水槽のA槽と2号水槽のB槽との間に水位差が生じる。この水位差により1号水槽のA槽内の飼育水がホース10を通して2号水槽のB槽に流れる。この時、1号水槽内の仔魚は、飼育水と共にホース10を通って2号水槽のB槽に移送される。
【0039】
なお、1号水槽のB槽においても一部の給水管と排水管を開放しているが、これは、仔魚の移送の間に清掃を行うためと、万が一、2号水槽から飼育水が逆流した場合にも、キャップを外すだけで1号水槽の水位の急激な上昇を防ぐことができるようにするためである。
同様に、2号水槽のA槽においても一部の給水管を開放しているが、これは、2号水槽のB槽に移送された仔魚が、A槽に流入しないようにするためである。
また、移送する仔魚の尾数を調整するには、給水時間及び給水量を調整すればよい。
【0040】
また、水槽間の移送のため水槽内の仔魚の一部を他の水槽に移送すると、移送元の水槽に残留する仔魚の全長と移送先の水槽に移送される仔魚の全長に、
図9のグラフに示されるように、有意な差が認められた。これは、本発明のように水流に同伴させて仔魚を移槽する方法では、比較的小型の仔魚の方が、水流に同伴され易いことが要因の一つと考えられる。
【0041】
[飼育実験例]
<飼育用仔魚の調達>
雌親魚は、稚魚期にエストラジオール-17βを投与して雌化養成したもの、または天然雌を、雄親魚は、養殖ウナギを使用し、人工催熟させて産卵、受精させ、得られた受精卵を孵化させ、5日目まで飼育管理した仔魚27,965尾を試験に供した。
<飼育水槽>
図1に示される850L水槽で実験を行った。仕様は以下の通り。
注水管 :25mmφのパイプを各槽3本、水槽への取り付けは、壁面の清掃の都合から水槽水面より上部の箇所とした。
注水量 :10L/hr×6本
排水管 :75mmφのパイプを各槽4本、中心線が水槽の水面となるように水槽壁面を貫通させる。水槽内の開口部には、ストレーナを着脱自在に取り付け、不使用時にはキャップ9をかぶせて閉塞する。
ストレーナ:20日齢までは60メッシュ、20日齢〜100日齢は40メッシュ、110日齢を超えると24メッシュのものを使用(商品名「メッシュスクリーンMS−60,MS−40,MS−24」)
飼育水温:23℃
飼料 :サメ卵主体の懸濁飼料(イカ墨で着色)
給餌回数:1日5回(7時、9時、11時、13時、15時)各15分間
給餌量 :400mL(20日齢迄は水を加えて450mLとした)
水槽交換:1日1回、15時の給餌後
照明器具:遮光した施設内の水槽上部に500lxの蛍光灯を設置した。
遮光手段:遮光した施設内の照明器具を消灯することで遮光した。
【0042】
<給餌工程>
本発明の飼料は、少しの水流でも分散するので、両水槽の給水を遮断した状態で、
図1に示される器具を使用して、水槽底部に一様に分配されるように載置した。
その後、水槽内を照明器具で照明すると、仔魚は下方へ向かって遊泳行動を起こし、水槽底面の傾斜に従い、最深部に載置された餌に到達し、餌を摂取する。
<餌の残渣の除去工程>
給餌時間は15分間とし、給水を開始して水槽底面の餌の残渣を仔魚とともに吹き飛ばし、餌のみを排水管より槽外へ排出させる。本実験では、2槽で給水し、仔魚が存在する水槽の排水管から排水させるようにした。これは弁操作を簡略化し、誤給水を防止するとともに、常に仔魚がいない水槽から仔魚が存在する水槽に向けて連通管内の水流が発生するため、仔魚の逆流を防ぐとともに、水槽交換でたまたま残留してしまった仔魚がこの水流で本来の水槽へ移送されるというメリットがある。
<水槽内壁面の清掃>
本実験では、給餌時、給水が停止している間に清掃を行ったが、清掃を行う水槽中には仔魚は存在していないので、給水時に行っても何ら問題ないと考えられる。
本実験での清掃は、
図2に示されるステッキの先端にスポンジを取り付けた器具を使用し人力で行ったが、上述したように清掃を行う水槽中には仔魚は存在していないので、自動清掃機械の導入も可能である。
<水槽交換>
1日1回、15時の給餌後に排水ストレーナの位置を交換し、夜間、施設内の照明を消灯した状態で給水することにより実施した。本件で使用した水槽では、約6時間でほぼ全量の仔魚を移送することができた。
場合によっては、数尾残留してしまうことがあったが、尾数が少ないので従来法のように清掃時に仔魚を巻き込む可能性はほとんどなく、また、本実験例では、給餌後の給水は、仔魚が移送元水槽でも行うので、給水の結果生じる水流により連通管を通して本来仔魚が存在する水槽へ移送される可能性も高く、残留仔魚を目視で探索し、1尾ずつ人力で移送させる必要性はなかった。
<飼育実績>
上記水槽による飼育実験の結果を
図8に示す。
図8bの体高、
図8c全長の測定値は、仔魚20尾の平均値である。
本実験結果によれば、生残率は40日齢以降安定し、100日齢時点で6.3%(生残尾数1,763尾)、180日齢時点で3.4%(生残尾数940尾)であり、体長や体高も順調に生育していることを示しており、184日齢には1尾目のシラスウナギが得られた。
図8dは、その後のシラスウナギ変態尾数であり、最終的には400尾を超えるシラスウナギが得られた。これにより,従来不可能とされていた大型の水槽での安全な飼育が可能であることが実証された。
上記生残率は、餌の種類や給餌方法の改良、水槽の形状や操作方法の改良によりさらに高まることが期待できる。
【0043】
<水槽間移槽を利用する仔魚の選別>
上記の飼育実験では、シラスウナギへの変態が始まった180日齢(全長約50mm)の時点で1000尾を切っていたので、
図6,7に示される水槽間移動を利用した分散工程は必要なかった。
今後、餌の改良や飼育技術の改善により、生残率が向上した場合を考え、別途飼育した140日齢と431日齢のウナギ仔魚を利用して、槽間移送の実験を行った。
【0044】
140日齢の移送実験は、1号水槽のA槽に771尾の仔魚を収容し、1号水槽のA槽と2号水槽のB槽とを5本のホース10で接続し、1号水槽のA槽のホース10が接続さなかった連通管にはすべてキャップを嵌めて閉塞しておく。また、1号水槽のA槽の排水管はすべてキャップを取付けて閉塞しておき、2号水槽のB槽の排水管はすべてストレーナを取り付けて解放しておく。
この状態で、1号水槽への光を遮断し、3本の給水管より、30L/分で給水を行う。給水を1時間行ったところ、1号水槽のA槽に残留した仔魚は104尾、2号水槽のB槽に移動した仔魚は667匹であった。
残留した仔魚と移動した仔魚のそれぞれ20尾の全長を測定した結果を、表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
431日齢の移送実験は、132尾の仔魚により、140日齢の仔魚の実験と給水時間を1時間から2時間に延長した他は同様にして行った。その結果、37尾が1号水槽のA槽に残留し、95尾が2号水槽のB槽に移動した。
なお、132尾の仔魚の内、5尾は既に変態しシラスウナギとなっていたが、5尾共1号水槽のA槽に残留した。これは、変態後のシラスウナギが変態前の仔魚と比べ、比重が重くなり、漆黒下でも行動するようになり、遊泳力が著しく強くなることによるものと考えられる。
また、51尾は体形が多少湾曲していたが、この湾曲した仔魚は、90%以上が2号水槽に移動していた。なお、多少湾曲している仔魚も、変態すると普通のシラスウナギとなっており、単なる形態異常と考えられる。
残留した仔魚と移動した仔魚の全長を測定した結果を、表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表1,2から明らかなように、140日齢と431日齢のウナギ仔魚で、いずれも移動した仔魚と残留した仔魚の平均全長には有意な差が認められた。
以上の実験は、2つの水槽をホースで接続して行ったが、同様な選別は同一水槽内でのA槽、B槽間の移送でも生じているものと認められるので、例えば、A槽、B槽間で選別を行い、更に選別された仔魚を、ホースを介して他の水槽に移送したり、選別することも可能と考えられる。
このように、本発明の水槽を利用すれば、安全且つ容易に小魚の選別も可能となり、水槽内で全長がある程度そろった仔魚を飼育することができるので、仔魚の成長に合わせて飼料を調製したり、排水管に取り付けるストレーナの目開きを最適なものに変えることができ、効率的な飼育が可能となる。