【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月8日に名城大学において開催された日本油化学会第54年会において発表するとともに、講演要旨集で刊行物として公開。
【文献】
Angew. Chem. Int. Ed.,2004年,Vol.43,p.3568-3571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】添加剤を加えていない油中水滴型(W/O)エマルションの分散安定性を測定した結果を示すグラフである。
【
図2】塩化ナトリウム等の水溶性添加剤を加えたエマルションの経時変化を示す写真である。
【
図3】水溶性添加剤として塩化ナトリウム(a)、塩化マグネシウム(b)を使用した場合の透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図4】塩化ナトリウムと塩化マグネシウムを使用した場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフである。
【
図5】水溶性添加剤として尿素(a)、ホルムアミド(b)を使用した場合の透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図6】尿素とホルムアミドを使用した場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフである。
【
図7】水溶性添加剤としてエタノール(a)、グリセリン(b)を使用した場合の透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図8】エタノールとグリセリンを使用した場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフである。
【
図9】塩化ナトリウム、塩化マグネシウムを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び粒子径の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図10】尿素、ホルムアミドを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び粒子径の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図11】エタノール、グリセリンを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び粒子径の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図12】塩化ナトリウム、塩化マグネシウムを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び界面張力の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図13】尿素、ホルムアミドを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び界面張力の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図14】エタノール、グリセリンを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び界面張力の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図15】塩化ナトリウム、塩化マグネシウムを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び粘度の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図16】尿素、ホルムアミドを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び粘度の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図17】エタノール、グリセリンを添加剤とした場合の透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフ(a)、及び粘度の測定結果を示すグラフ(b)である。
【
図18】油剤としてオクタン、ドデカン、ヘキサデカン、スクアランを用いたW/Oエマルションの経時変化を示すサンプルの外観写真である。
【
図19】オレイン酸とリノール酸について作製したW/Oエマルションの経時変化を示すサンプルの外観写真である。
【
図20】大豆油、コーン油、オリーブ油について作製したW/Oエマルションの経時変化を示すサンプルの外観写真である。
【
図21】ヘキサデカン、1−ヘキサデセン、オレイン酸について、NaClの添加濃度による分散安定性を調べた結果を示すグラフである。
【
図22】ヘキサデカン、1−ヘキサデセン、オレイン酸について、NaClまたはMgCl
2を添加したときの分散安定性を調べた結果を示すグラフである。
【
図23】ヘキサデカン、1−ヘキサデセン、オレイン酸について、NaCl、NaOH、NaBrを添加したときの分散安定性を調べた結果を示すグラフである、。
【
図24】ヘキサデカンと1-ヘキサデセンに添加剤(電解質)を添加したときの分散安定化機構を示す説明図である。
【
図25】ヘキサデカンと1-ヘキサデセンに添加する添加剤の添加濃度が高い場合の分散安定化機構を示す説明図である。
【
図26】オレイン酸に添加剤を添加したときの分散安定化機構を示す説明図である。
【
図27】添加剤を加えていない水中油滴型(O/W)エマルションの分散安定性を測定した結果を示すグラフである。
【
図28】塩化ナトリウムを添加したときの透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図29】エタノールを添加したときの透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図30】グリセリンを添加したときの透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図31】尿素を添加したときの透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図32】ホルムアミドを添加したときの透過率の経時変化を示すグラフである。
【
図33】添加剤を尿素とホルムアミドとしたときの油滴の粒子径と分散安定性との関係を示すグラフである。
【
図34】添加剤を塩化ナトリウムとしたときの油滴の粒子径と分散安定性との関係を示すグラフである。
【
図35】添加剤と尿素とホルムアミドとしたときの界面張力と分散安定性との関係を示すグラフである。
【
図36】添加剤をエタノールとグリセリンとしたときの界面張力と分散安定性との関係を示すグラフである。
【
図37】添加剤を尿素とホルムアミドとしたときの油滴の粘度と分散安定性との関係を示すグラフである。
【
図38】添加剤を尿素とホルムアミドとしたときの油滴のゼータ電位と分散安定性との関係を示すグラフである。
【
図39】油中水滴型(W/O)エマルションの分散を安定化させる従来方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[油中水滴型エマルション:炭化水素]
図1は、水溶性添加剤をまったく加えていない油中水滴型(W/O)エマルションの分散安定性を調べるため、飽和炭化水素であるヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカンを分散媒とし、水を分散質としてエマルションを調製し、調整後のエマルションの分散安定性の時間経過を測定した結果を示す。エマルションの分散安定性は、分光光度計を用いて700nmの光透過率の経時変化を測定する方法で行った。エマルションの分散性が良い場合には光透過率が低く、分散性が低下すると水と油が分離して光透過率が高くなる。
図1の実験結果から、パラフィン油の炭化水素鎖が長くなると、エマルションの分散安定性が向上することがわかる。
水溶性添加剤を加えることによる分散安定性の変動を調べる実験では、分散安定性に対する作用(増減)をみるため、分散安定性に優れているヘキサデカンを分散媒として実験した。
【0016】
(油中水滴型エマルション:水溶性添加剤)
油中水滴型(W/O)エマルションは、分散媒である油に分散質として水滴が分散したエマルションである。油中水滴型エマルションの分散安定性に対する水溶性添加剤の影響をみるため、水溶性添加剤として塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl
2)、尿素(CH
4N
2O)、ホルムアミド(CH
3NO)、エタノール(C
2H
5OH)、グリセリン(C
3H
8O
3)を使用して実験した。
塩化ナトリウムと塩化マグネシウムは一価と二価の塩(電解質)であり、尿素はアミノ基が一つ、ホルムアミドはアミノ基が二つの水素結合性分子、エタノールは一価、グリセリンは三価のアルコール類である。
【0017】
水溶性添加剤を加えた油中水滴型(W/O)エマルションは、分散媒としてヘキサデカン25mLを収容した容器に、所定濃度の水溶性添加剤を含む水溶液を添加し、容器をバス型超音波装置にセットし、超音波(28kHz、300W)を5分間照射して調製した。
エマルションのサンプルは、水溶性添加剤ごとに、添加剤の濃度を0.05、0.10、0.20、0.40、0.60、0.80、1.00、2.00、3.00、4.00(mol/L)とした水溶液を100μLずつ添加して調製した(10サンプル)。比較例として、水溶性添加剤をまったく加えていない水溶液を100μL、ヘキサデカンに添加してエマルションを調製した。
【0018】
図2は、水溶性添加剤として塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、尿素、ホルムアミド、エタノール、グリセリンを添加して超音波照射した後のエマルションの状態を示す写真である。水とあるのは、水溶性添加剤をまったく添加しない水を加えたものである。それぞれ、エマルションを調製した直後、6時間経過時、12時間経過時の状態を示す。時間経過とともに透明度が増していることから、水と油とが分離し始めていることがわかる。
【0019】
(エマルションの透過率の経時変化:分散安定性)
エマルションの分散安定性については、波長700nmの光を容器に投射し、溶液を透過する光の透過率の経時変化を測定することによって測定した。
図3(a)は水溶性添加剤として塩化ナトリウムを使用した場合、
図3(b)は塩化マグネシウムを使用した場合の透過率の経時変化を示す。
図3(a)、(b)に示すように、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムが分散安定性に十分に寄与する結果が得られ、添加剤の濃度が比較的低い範囲において、分散安定性の向上に効果的に寄与することがわかる。
図3で黒菱形が水溶性添加剤を加えていないものの測定結果であり、水溶性添加剤を加えていないものと比較して透過率が低いものは分散性が向上したことを示す。
【0020】
図4は、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの添加量に対する、エマルション調製直後(0h)と6時間経過後の透過率の変化量(ΔT)を示すグラフである。
図4から、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの添加量が0.05〜1.00(mol/L)の濃度範囲において、分散安定性の向上に有効であることがわかる。また、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの添加量が2.00〜4.00(mol/L)の濃度範囲においては、塩化マグネシウムの方が分散安定性に寄与する作用が塩化ナトリウムよりも優っている。
【0021】
図5(a)は水溶性添加剤として尿素を使用した場合、
図5(b)はホルムアミドを使用した場合の透過率の経時変化を示す。
図5(a)、(b)において、水溶性添加剤を加えていないもの(比較例)と比較して、尿素とホルムアミドを加えたサンプルは、いずれも分散安定性を向上させるように作用している。
図6は添加剤の添加量に対する透過率の変化量(0〜6h)を示すグラフである。
図6から、尿素とホルムアミドは、添加量が0.05〜4.00(mol/L)の濃度範囲において分散を安定化させる効果が見られ、尿素は、0.05〜1.00(mol/L)の範囲でとくに効果的な作用が認められる。
【0022】
図7(a)は水溶性添加剤としてエタノールを使用した場合、
図7(b)はグリセリンを使用した場合の透過率の経時変化を示す。
図8はエタノールとグリセリンの添加量に対する、透過率の変化量を示すグラフである。
図8から、エタノールを添加剤とする場合は、添加量が2.00〜4.00(mol/L)の濃度範囲においては、分散安定性の向上にはさほど寄与せず、0.05〜1.00(mol/L)の濃度範囲で一定の分散安定性への寄与が認められる。グリセリンは、0.05〜4.00(mol/L)の濃度範囲で、エタノールよりも効果的な分散安定性への寄与が認められる。
【0023】
上述したエマルションに水溶性添加剤を加えてエマルションの分散安定性を検証する実験結果は、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl
2)、尿素(CH
4N
2O)、ホルムアミド(CH
3NO)、エタノール(C
2H
5OH)、グリセリン(C
3H
8O
3)のいずれについても、少なくとも添加剤の濃度範囲を限定することにより、ヘキサデカンを分散媒とし水を分散質とするエマルションの分散安定性の向上に有効に寄与することを示す。また、これらの水溶性添加剤のうちでは、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムが、エマルションの分散安定性の向上に最も有効であることを示す。
【0024】
(水滴の粒子径と分散安定性との関係)
次に、油中水滴型(W/O)エマルションの分散安定性に寄与する物性値として、水滴の粒子径とエマルションの分散安定性との関係について調べた。
エマルション中の水滴の沈降速度vは、次のStokesの式によって与えられる。
v=2a
2(ρ
0−ρ)g/9η
a:粒子径、ρ
0:分散媒の密度(gm
-3)、ρ:分散質の密度(gm
-3)、g:重力加速度(cms
-2)、η:連続相の粘度(gm
-1s
-1)
エマルション中の水滴は、粒子径が小さくなると沈降速度が遅くなり、エマルションの分散安定性の向上に寄与すると考えられる。以下に、それぞれの水溶性添加剤について、粒子径と分散安定性との相関関係について実験した結果を示す。水滴の粒子径は、粒度分布測定装置を用いて行った。
【0025】
図9(a)は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムを添加剤とした場合の透過率の変化量(ΔT)を示すグラフ(既出)、
図9(b)は、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムの濃度を変えたときの水滴の粒子径を測定した結果を示す。
図9(b)において、塩化ナトリウムについては、濃度が増大するとともに水滴の粒子径が徐々に減少する。したがって、添加剤の濃度が増加すると、粒子径が小さくなって、分散安定性は向上すると想定される。しかしながら、
図9(a)に示すように、濃度が増えると塩化ナトリウムの分散安定性は低下している。したがって、塩化ナトリウムの場合、粒子径とエマルションの分散安定性との間には相関関係がないと考えられる。
【0026】
一方、塩化マグネシウムについてみると、添加剤の濃度が増加するとともに、粒子径はいったん減少して、再度増加する傾向を示している。この粒子径についてのプロフィールと
図9(a)の塩化マグネシウムを添加剤とする場合の分散安定性とを対比してみると、分散安定性も濃度が増加するにしたがって、いったん分散安定性が向上し、ふたたび分散安定性が低下するプロフィールを示している。すなわち、塩化マグネシウムの場合は、水滴の粒子径と分散安定性との間に相関関係があると考えられる。塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの相関関係の相異は、塩化ナトリウムが一価であり、塩化マグネシウムが二価であることに起因する可能性がある。
【0027】
図10(a)は、尿素とホルムアミドを添加剤とした場合の透過率の変化量(ΔT)を示すグラフである。
図10(b)は、尿素とホルムアミドの濃度を変えたときの水滴の粒子径を測定した結果を示す。
図10(b)で、尿素については、添加剤の濃度が2.00〜4.00(mol/L)の範囲で徐々に粒子径が減少する傾向がみられるが、分散安定性を示す
図10(a)では、濃度が2.00〜4.00(mol/L)の範囲で分散安定性が向上する傾向は見られない。
また、ホルムアミドについては、濃度が変化しても粒子径が変化せず、分散安定性を示す
図10(a)とも相関が認められない。
すなわち、尿素とホルムアミドの場合は、水滴の粒子径とエマルションの分散安定性との間には相関関係がないと考えられる。
【0028】
図11(a)は、エタノールとグリセリンを添加剤とした場合の透過率の変化量(ΔT)を示すグラフ、
図11(b)は、エタノールとグリセリンの場合の水滴の粒子径の測定結果である。
図11(b)に示すように、エタノールについては、濃度を変えた場合でも水滴の粒子径については大きな変化はみられず、
図11(a)の分散安定性との相関関係も見られない。グリセリンについては濃度が増大すると、若干、水滴の粒子径が減少する傾向が見られ、
図11(a)の濃度が増大すると分散安定性が増加する傾向と若干の相関関係が見られる。
上述した水滴の粒子径と分散安定性についての測定結果は、塩化マグネシウムを添加剤とする場合を除いて、明確な相関関係が認められない結果となった。
【0029】
(界面張力と分散安定性との関係)
次に、水と油の界面張力と分散安定性との相関関係について実験した結果について示す。界面における自由エネルギーΔGsは、次式によって与えられる。
ΔGs=γΔA γ:界面張力(mNm
-1)、界面の面積の変化量(m
2)
上式から、水と油の界面張力が低下すると自由エネルギーは低下し、したがってエマルションを安定化させるように作用する。逆に、界面張力が増大するとエマルションは不安定化し、水と油が分離するように作用する。したがって、水溶性添加剤を加えたときの界面張力を調べることにより、水溶性添加剤がどのように作用しているかを推測することができる。水と油の界面張力は、Wihelmy法を利用して測定した。
【0030】
図12は、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムを添加剤とした場合について、界面張力を測定した結果を示す。
図12(a)は、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムを添加剤としたときのエマルションの透過率の変化量を示すグラフ(既出)であり、
図12(b)は、添加剤の濃度を変えたときの界面張力を測定した結果を示すグラフである。
図12(b)に示すように、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムともに、添加剤の濃度を変えても界面張力はほとんど変化していない。一方、
図12(a)に示すように、エマルションの分散安定性は、添加剤の濃度を増大させていくと、分散安定性がいったん向上し、徐々にエマルションの分散安定性が低下するというプロフィールを示す。この実験結果は、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの場合、界面張力と分散安定性との間には相関関係がないことを示すものと考えられる。
【0031】
図13は、尿素とホルムアミドを添加剤としたときの界面張力を測定した結果を示す。
図13(a)は、尿素とホルムアミドのエマルションの透過率の変化量を示すグラフであり、
図13(b)は、界面張力を測定した結果を示すグラフである。
図13(b)に示すように、尿素とホルムアミドの濃度を増大させると界面張力はやや減少する傾向があるのに対し、
図13(a)に示すように分散安定性は向上していない。したがって、尿素とホルムアミドについて界面張力と分散安定性との間には相関関係がないと考えられる。
【0032】
図14は、エタノールとグリセリンを添加剤としたときの界面張力を測定した結果を示す。
図14(a)は、透過率の変化量を示すグラフであり、
図14(b)は、界面張力の測定結果を示すグラフである。
図14(b)で、エタノールについては、濃度を増加させると界面張力が大きく減少する結果が得られたが、
図14(a)の分散安定性を見ると、濃度が増加して界面張力が減少しても分散安定性が向上する傾向は見られない。また、
図14(b)で、グリセリンは濃度を変えても界面張力には大きな差異がなく、分散安定性との相関関係が見られない。すなわち、エタノールとグリセリンの場合も界面張力と分散安定性との間に相関関係は見られないと考えられる。
【0033】
上述した界面張力についての測定結果は、実験で使用したいずれの水溶性添加剤も、界面張力の増減とエマルションの分散安定性との間に相関関係がなく、これらの水溶性添加剤による分散安定性を向上させた作用は界面活性作用によるものでないことを示唆するものと考えられる。言い換えれば、これらの水溶性添加剤は界面不活性物質として作用し、かつ分散安定性を向上させるという特徴的な作用をなしている。
【0034】
(水滴の粘度と分散安定性との関係)
油中水滴型(W/O)エマルションの分散安定性に寄与する物性値として水滴の粘度(硬度)が考えられる。水滴の粘度が高い(硬度が高い)ということは、水滴同士が近づいたときに合一しにくい(水滴間の相互作用が小さい)ということであり、水滴の粘度が増加するとエマルションの分散安定性が向上すると推定される。そこで、エマルション中の水滴の粘度と分散安定性について測定した。水滴の粘度の測定は振動型粘度計を用いて行った。
【0035】
図15は、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムについて濃度を変えて粘度測定した結果を示す。
図15(a)、は塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの透過率の変化量(ΔT)を示すグラフ(既出)であり、
図15(b)は、水滴の粘度を測定した結果を示すグラフである。
図15(b)に示すように、塩化ナトリウムでは濃度が増加するとともに若干粘度が上昇する傾向を示すのに対して、塩化ナトリウムの分散安定性は濃度が増加するともに減少している。
また、塩化マグネシウムは濃度が増加するとともに粘度が大きく増大している。したがって、濃度が増加するとともに分散安定性が向上すると考えられるが、
図15(a)に示すように塩化マグネシウムでは濃度が増加すると分散安定性が徐々に減少している。すなわち、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムでは、水滴の粘度(硬度)と分散安定性との間には相関関係がないと考えられる。
【0036】
図16は、尿素とホルムアミドについて粘度測定した結果を示す。
図16(b)に示すように、尿素とホルムアミドでは、濃度を変えても水滴の粘度は大きく変化しない。また、尿素とホルムアミドの透過率の変化量のグラフ(
図16(a))から、尿素とホルムアミドは、少量添加するだけで分散安定性が向上している。したがって、尿素とホルムアミドの場合、水滴の粘度と分散安定性との間には相関関係がないと考えられる。
【0037】
図17は、エタノールとグリセリンについて粘度測定した結果を示す。
図17(b)に示すように、エタノールとグリセリンでは、濃度が増加するとともに粘度が増大する傾向が見られる。しかしながら、エタノールとグリセリンの透過率の変化量を示すグラフ17(a)からは、粘度が増大するとともに分散安定性が向上するという傾向は見られない。すなわち、エタノールとグリセリンの場合についても、水滴の粘度と分散安定性との間には相関関係がないと考えられる。
【0038】
上述した油中水滴型(W/O)エマルションについての実験結果を表1にまとめた。
【表1】
表1に示すように、水溶性添加剤として塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、尿素、ホルムアミド、エタノール、グリセリンを使用することにより、一定の分散安定性を向上させる作用が認められた。
一方、エマルションの分散安定性と相関関係があると考えられる物性値である粒子径、界面張力、粘度については、分散安定性との間には、塩化マグネシウムについての粒子径、粘度との関係を除いて、明確な相関関係を見出すことができなかった。
【0039】
[油中水滴型エマルション:脂肪酸]
前述した油中水滴型(W/O)エマルションについて分散安定性を調べる実験においてはヘキサデカンを分散媒としてW/Oエマルションの分散安定性を調べた。
以下では、脂肪酸もしくは脂肪酸の混合油を分散媒とし、水溶性添加剤として塩化ナトリウム(NaCl)を添加してW/Oエマルションの分散安定性を調べた結果について説明する。
【0040】
図18は、脂肪酸のW/Oエマルションと比較するため、飽和炭化水素であるオクタン、ドデカン、ヘキサデカン、スクアランを分散媒、水を分散質としてエマルションを調製してエマルションの分散安定性を調べた結果を示す。それぞれ、NaClを添加しない場合、NaClの添加濃度を0.10(mol/L)、1.00(mol/L)とした場合について、エマルション調製直後、3時間経過後、6時間経過後、12時間経過後のサンプルの外観写真を示す。
エマルションの調製は、分散媒(油)25mLと分散質(水)100μLを容器に収容し、バス型超音波装置を用いて超音波(28kHz、300W)を5分間照射する方法で行った。水溶性添加剤を加える場合は純水に添加した。
【0041】
図18は、エマルションを調製した直後は油と水が分散した状態にあるが、時間経過とともに油と水が分離していく様子を示す。4種のサンプルのうち、炭化水素鎖が最も長いスクアランが最も分散安定性に優れている。また、水溶性添加剤NaClを添加することによって分散安定性が向上し、添加量が0.10(mol/L)のものの方が添加量1.00(mol/L)のものよりも分散安定性が若干向上する傾向が見られる。
【0042】
図19と
図20は脂肪酸の油中水滴型(W/O)エマルションについて分散安定性を調べた結果を示す。
図19は単一の脂肪酸からなるオレイン酸とリノール酸について、
図20は脂肪酸の混合油である大豆油、コーン油、オリーブ油についてエマルションの分散安定性を調べた結果である。
図19、20で使用したサンプルは、分散媒(高級脂肪酸)25mLと分散質(水)100μLを容器に収容し、バス型超音波装置を用いて超音波(28kHz、300W)を5分間照射して調製した。水溶性添加剤のNaClは、添加濃度を0.10(mol/L)、1.00(mol/L)として純水に添加した。
【0043】
図19の不飽和脂肪酸であるオレイン酸とリノール酸についてみると、
図18に示したヘキサデカンやスクアラン等の飽和炭化水素と比較してNaClを添加しない場合であっても分散安定性に優れ、NaClを添加することでさらに分散安定性が向上している。NaClの添加量としては添加濃度が0.10(mol/L)のものの方が添加濃度1.00(mol/L)のものよりも分散安定性が優れている。
図20の植物油についてみると、オレイン酸とリノール酸と比較して、NaClを添加しない場合でも、さらに分散安定性に優れ、NaClを加えることによってより一層、分散安定性が向上している。NaClの添加量としては添加濃度が0.10(mol/L)のものの方が添加濃度1.00(mol/L)のものよりも分散安定性が優れる。
【0044】
図18、19、20に示す炭化水素と脂肪酸についてのW/Oエマルションの実験結果は、ヘキサデカン、スクアラン等の炭化水素と同様に、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸についても水溶性添加剤(電解質)を添加することにより、W/Oエマルションの分散安定性が向上すること、炭化水素と比較して脂肪酸のW/Oエマルションの分散安定性が優れることを示す。
【0045】
(油種によるエマルションの分散安定性)
図18、19、20で見たように、W/Oエマルションの分散安定性は油の種類によって異なる。以下では、ヘキサデカン(C
16H
34:飽和炭化水素)、1-ヘキサデセン(C
16H
32:不飽和炭化水素)、オレイン酸(C
18H
34O
2:不飽和脂肪酸)を油剤として、W/Oエマルションの分散安定性を調べた結果について説明する。
なお、エマルションの調製は、上述した各実施例と同様に、分散媒として油剤25mL、分散質として水溶性添加剤を添加した純水100μLを容器に収容し、バス型超音波装置を用いて超音波(28kHz、300W)を5分間照射する方法によって行った。
【0046】
まず、油剤に添加する水溶性添加剤の差異による分散安定性の影響について実験した結果について説明する。
図21は、水溶性添加剤としてNaClを添加したときに、NaClの添加濃度による分散安定性を調べた結果である。
図21から、NaClを添加しない場合と比較してNaClを添加することでエマルションの分散安定性がはっきりと向上し、NaClを添加したときの分散安定性はオレイン酸が最も優れ、1-ヘキサデセンとヘキサデカンの分散安定性は同程度である。
【0047】
図22は、カチオンの価数が異なる水溶性添加剤としてNaClとMgCl
2を使用し、添加濃度によるエマルションの分散安定性を調べた結果を示す。この実験結果は、水溶性添加剤としてNaClを使用した場合も、MgCl
2を使用した場合も、分散安定性は大きく相違しないことを示す。すなわち、水溶性添加剤の価数(カチオンの価数)はエマルションの分散安定性に影響しないと考えられる。
【0048】
図23は、水溶性添加剤のアニオンによる影響を調べるため、NaCl、NaOH、NaBrを水溶性添加剤としてエマルションを調製し、水溶性添加剤の添加濃度によるエマルションの分散安定性を調べた結果を示す。
図23に示すように、ヘキサデカンと1-ヘキサデセンの場合は、NaCl、NaOH、NaBrのいずれについても大きな相違は見られない。すなわち、ヘキサデカンと1-ヘキサデセンについては、分散安定性について水溶性添加剤のアニオンの影響を受けないと考えられる。一方、オレイン酸については、NaClの場合が最も分散安定性が高く、NaCl>NaOH>NaBrの順にエマルションの分散安定性が低くなっている。すなわち、オレイン酸の場合は水溶性添加剤のアニオンによる影響があると考えられる。
【0049】
上述したヘキサデカン、1-ヘキサデセン、オレイン酸についてW/Oエマルションの分散安定性を調べた実験結果をまとめると、ヘキサデカンと1-ヘキサデセンについては、水溶性添加剤(電解質)を添加することによりエマルションの分散安定性が向上し、分散安定性については添加剤のカチオンの価数及び添加剤のアニオンの種類は大きく影響しないといえる。
また、オレイン酸については、水溶性添加剤を添加することによりヘキサデカンと1-ヘキサデセンと比較してさらにエマルションの分散安定性が向上し、分散安定性について、添加剤のカチオンの価数は大きく影響しない一方、添加剤のアニオンの種類によって分散安定性に対する影響が異なるということができる。
【0050】
(エマルションの分散安定化機構)
次に、W/Oエマルションの分散を安定化する機構について考察する。炭化水素と脂肪酸について、水溶性添加物(電解質)を添加したときの分散安定性に対する作用効果は、上述したように、炭化水素と脂肪酸とで異なる。したがって、以下では、ヘキサデカン及び1-ヘキサデセン(炭化水素)と、オレイン酸(脂肪酸)とに分けて分散安定化機構を考察する。
【0051】
(炭化水素の安定化機構)
図24は油剤としてヘキサデカンと1-ヘキサデセンを使用した場合の分散安定化機構を示す。ヘキサデカンと1-ヘキサデセンに電解質を添加することにより分散安定性が向上する作用は次のように説明することができる。
図24はエマルション中の水滴と油剤との界面近傍を拡大して示す。水滴中にはH
+イオンとOH
-イオンが存在する。
添加剤としてNaClを添加すると、カチオンはアニオンよりも水和力が強いことから、カチオン(Na
+イオン)は水滴の内部側に、アニオン(Cl
-イオン)は水滴と油剤との界面側に配向する。水滴の界面にCl
-イオンとOH
-イオンが偏在する結果、水滴は実効的にマイナスにチャージし、このマイナスチャージの静電的な作用により水滴が相互に反発し、水滴の分散性が向上すると考えられる。油剤であるヘキサデカンと1-ヘキサデセンは電気的に中性であり、水滴に対して電気的な作用は及ぼさない。
【0052】
ヘキサデカンと1−ヘキサデセンの分散安定性の実験から、添加剤の添加濃度が大きくなると分散安定性が低下する結果が観察された。
図25でこの作用を説明する。
図25に示すように、NaClの添加濃度が低い場合には、水滴と油剤との界面にCl-イオンとOH-イオンが偏在し、水滴がマイナスにチャージする。しかしながら、NaClの添加濃度が高くなると、水滴中におけるNa+とCl-の密度が高まり、電荷が遮蔽されることにより、静電的な反発力による水滴の分散作用が弱められ、その結果、エマルションの分散安定性が低下すると考えられる。
【0053】
(脂肪酸の分散安定化機構)
図26はオレイン酸についての分散安定化機構を示す。油剤がオレイン酸の場合に、ヘキサデカンや1-ヘキサデセンとは異なり、W/Oエマルションの分散安定性がきわめて優れることと、電解質のアニオンによる作用が異なる理由として、オレイン酸イオンと水滴中のカチオンとの結合作用を考慮する。
オレイン酸イオンと水滴中のカチオンとの結合作用を考慮する際には、水滴の界面におけるアニオンの吸着性を考慮する必要がある。
表2にCl
-イオン、OH
-イオン、Br
-イオンについて、それぞれのイオン半径や水和力等を示す。
【表2】
【0054】
表2に示すように、Cl
-イオン、OH
-イオン、Br
-イオンの水和力は、それぞれのイオン半径から、Br
-イオンが最も低く、次いでCl
-イオン、OH
-イオンの順に高くなると考えられる。したがって、添加剤としてNaCl、NaOH、NaBrを添加すると、水滴の界面に吸着される量が多いものがBr
-イオンであり、次いでCl
-イオン、OH
-イオンとなる。したがって、水滴の界面の強度は、Br
-イオンが最も強く、次いで、Cl
-イオン、OH
-イオンの順に界面強度が弱くなる。水滴の界面強度が弱い場合は、オレイン酸イオンと結合しやすいと考えると、オレイン酸イオンとの結合性は、OH
-イオンが大、Cl
-イオンは中、Br
-イオンは小となる。
【0055】
図26は、Cl
-イオン、OH
-イオン、Br
-イオンの水和力を考慮して、水滴表面におけるアニオンの配向と、水滴表面でオレイン酸イオンとカチオンとが結合する様子をモデル的に示したものである。
Br
-イオンは水滴表面での配向性が高いことから、水滴の界面強度が強く、オレイン酸イオンと水滴内のカチオンとは結合しにくくなる。一方、Cl
-イオンとOH
-イオンの場合は、水滴の界面強度はBr
-イオンよりも弱いため、オレイン酸イオンと水滴内のカチオンとが結合することができると考えられる。水滴内のカチオンとオレイン酸イオンとが結合すると、水滴の表面と脂肪酸との親和性が向上しW/Oエマルションの分散安定性が向上する。
オレイン酸では水溶性添加剤(電解質)のアニオンがBr
-イオンのときは、分散安定性が阻害されるという実験結果が得られた。この作用効果も上述した水滴内のカチオンとオレイン酸イオンとの結合性を考慮することによって説明することができる。
【0056】
[水中油滴型エマルション]
水中油滴型(O/W)エマルションは、分散媒の水の中に分散質として油滴が分散したエマルションである。水中油滴型エマルションの分散安定性を調べるため、水溶性添加剤として塩化ナトリウム、尿素、ホルムアミド、エタノール、グリセリンを加えたエマルションを調製し、エマルションの透過率の経時変化を測定する実験を行った。
【0057】
図27は、比較例として、水溶性添加剤を加えていない水中油滴型(O/W)エマルションの分散安定性を測定した結果を示す。分散質にヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカンを使用し、透過率の経時変化(7日間)を測定した。
図27は、炭化水素鎖が長くなるにしたがってエマルションの分散安定性が向上することを示す。以下の実験では、分散安定性が中程度であるドデカンを分散質として使用した。
【0058】
(エマルションの透過率の経時変化:分散安定性)
エマルションのサンプルの調製は、水溶性添加剤として、塩化ナトリウム、尿素、ホルムアミド、エタノール、グリセリンを溶解した水溶液(25mL)にドデカン(C
12H
26)を100μL加え、バス型超音波装置を用いて超音波(28kHz、300W)を5分間照射する方法で行った。
【0059】
図28は、塩化ナトリウムを添加したときの透過率の経時変化を測定したグラフで、塩化ナトリウムの濃度を0.05、0.10、0.20、0.40、0.60、0.80、1.00、2.00、3.00、4.00(mol/L)としたサンプルについての測定結果を示す。なお、
図28で黒丸は添加剤を入れていないエマルションについての測定結果である。
図28は、添加剤を入れていない場合は、7日間経過した時点で漸く透過率が略100%に近づくのに対し、塩化ナトリウムを添加した場合は、0.05(mol/L)程度の低濃度でもエマルションを調製した後、1日経過する前に透過率が80〜90%近くまで上昇することを示す。すなわち、塩化ナトリウムは、分散安定性を著しく低下させるように作用している。
【0060】
図29は、添加剤をエタノールとしたときの透過率の経時変化を測定したグラフであり、エタノールの濃度を0.05、0.10、0.20、0.40、0.60、0.80、1.00、2.00、3.00、4.00(mol/L)としたサンプルについての測定結果を示す。この測定結果から、エタノールを添加すると分散安定性が向上するという効果があることがわかる。とくに、エタノール濃度を1.00〜2.00(mol/L)とすることで、分散安定性が向上する。
図30は、添加剤をグリセリンとしたときの透過率の経時変化を測定した結果を示す。グリセリンを添加した場合は、分散安定性が若干向上する結果が得られた。
【0061】
図31は、添加剤を尿素としたときの透過率の経時変化を測定したグラフである。尿素を添加した場合も、若干分散安定性が向上する傾向が見られる。
図32は、添加剤をホルムアミドとしたときの透過率の経時変化を測定した結果を示す。ホルムアミドを添加した場合は、濃度を増加させていくと、分散安定性が添加剤を入れていない場合よりも低下する結果となった。
【0062】
上述した分散安定性についての実験結果は、水中油滴型(O/W)エマルションでは分散安定性を向上させる添加剤として、エタノール、グリセリン、尿素が分散安定性を向上させる作用があり、エタノールとグリセリンが尿素に比べて有効であり、とくにエタノールが分散安定性の向上に優れることを示している。
【0063】
(油滴の粒子径と分散安定性との関係)
図33は、添加剤を尿素とホルムアミドとし、添加剤の濃度を変えたときの油滴の粒子径と分散安定性との関係を示す。
図33(a)は、エマルションを調製した直後の透過率と、3日経過時の透過率の変化量(ΔT)を示す。
図33(b)は、粒度分布測定装置を用いて測定した油滴の粒子径を示す。
図33(b)からは添加剤の濃度が増加しても粒子径については大きな変化は見られない。
図33(a)では、ホルムアミドの場合、濃度が増大すると分散安定性が顕著に低下するが、粒子径との相関関係は見られない。
【0064】
図34は、塩化ナトリウムを添加剤としたときの油滴の粒子径と分散安定性との関係を示す。
図34(b)に示すように、塩化ナトリウムを添加すると、初期濃度において油滴径が大きく増大する。このことは、塩化ナトリウムの場合に添加剤をわずかに加えただけで分散安定性が大きく低下する理由を示すものと考えられる。
【0065】
(界面張力と分散安定性との関係)
図35は、添加剤を尿素とホルムアミドとしたときの界面張力と分散安定性との関係を示す。
図35(b)は、添加剤の濃度を変えて界面張力を測定した結果を示す。この界面張力についての測定結果は、濃度を変えても界面張力は大きく変わらないことを示している。分散安定性を示すグラフ(
図35(a))との相関関係も見られないことから、界面張力と分散安定性との間に相関関係があるとは言えないと考えられる。
【0066】
図36は、添加剤をエタノールとグリセリンとしたときの界面張力と分散安定性との関係を示す。
図36(b)で、エタノールについては濃度が増大するとともに界面張力が明らかに低下する傾向が見られ、グリセリンについては僅かに低下する傾向が見られる。これらの界面張力のプロフィールと
図36(a)に示す分散安定性とを比較すると、エタノールについては、界面張力が低下するとともに分散安定性が向上し、界面張力の低下と分散安定性との間に相関関係があると認められる。エタノールを添加剤とした場合に、エマルションの分散安定性が顕著に向上した理由として界面張力が減少したことが考えられる。グリセリンについては、界面張力の低下と分散安定性との相関関係は明確ではない。
【0067】
(油滴の粘度と分散安定性との関係)
図37は、添加剤を尿素とホルムアミドとしたときの、油滴の粘度と分散安定性との関係を示す。
図37(b)に示すように、油滴の粘度は尿素の濃度を増加させると粘度が増大する傾向が見られるのに対して、ホルムアミドの場合はほとんど粘度は変動しない。
尿素の場合は濃度を増加させると粘度が増大するから、分散安定性が向上すると考えられるが、
図37(a)に示すように、尿素の濃度を増大させても分散安定性はほとんど変化しない。また、ホルムアミドは、濃度を変えたときに粘度はほとんど変動しないにもかかわらず、分散安定性は濃度を増大させると向上する傾向が見られる。
この測定結果から、尿素とホルムアミドについては、油滴の粘度(硬度)と分散安定性との間には相関関係はないと考えられる。
【0068】
(ゼータ電位と分散安定性との関係)
図38は、添加剤を尿素とホルムアミドとしたときの、油滴のゼータ電位と分散安定性との関係を示す。
図38(b)は、添加剤の濃度を変えたときの油滴のゼータ電位を測定した結果を示すグラフであり、尿素については濃度を増大させることによりゼータ電位が大きく増大し(マイナス電位)、ホルムアミドについてはゼータ電位が大きく変化しないことを示す。
このゼータ電位についての測定結果は、尿素とホルムアミドとを比較したときに、尿素では、油滴間の静電反発力が増大してエマルションの分散安定性が向上し、ホルムアミドでは分散安定性の向上に寄与しない理由を示すものと考えられる。
【0069】
上述した水中油滴型(O/W)エマルションについての実験結果は以下のように整理することができる。
添加剤としてエタノール、グリセリン、尿素を使用することによりエマルションの分散安定化を向上させることができる。
エマルションの分散安定性に寄与する物性値として、油滴の粒子径、界面張力、粘度、ゼータ電位のうち、エタノールについては界面張力の低下が分散安定性に寄与し、尿素については、粘度の増大とゼータ電位の増大が分散安定化の向上に寄与し、塩化ナトリウムについては粒子径の増大が分散安定性を低下させることと相関関係があることと考えられる。
これら以外の相関関係についても測定を行ったが、前記物性値と分散安定性との間に明確な相関関係を見出すことができなかった。