【0014】
本発明で使用する嵩高剤としては、例えば、高級アルコールあるいは多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物のポリオキシアルキレン付加物、脂肪酸ポリアミドアミン、飽和脂肪酸ポリアミドポリアミンのエピクロロヒドリン反応物、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、高級アルコールのプロピレンオキサイド付加物、高級アルコールあるいは高級脂肪酸のポリオキシアルキレン付加物、高級脂肪酸エステルのポリオキシアルキレン付加物、等の公知の嵩高剤を使用することが可能である。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。本実施形態において、嵩高剤は、パルプ100質量部に対して0.01〜2.0質量部含有することが好ましい。紙の横目方向の水中伸度を適切な範囲に調整しやすいからである。前記嵩高剤の含有量が0.01質量部未満では、満足に嵩高効果が得られず、インクジェット記録用紙の比容が低くなる。2.0質量部を超える場合は、嵩高効果は得られるものの紙層強度が低下して破れやすくなる。より好ましくは、パルプ100質量部に対し、嵩高剤を0.05〜1.5質量部含有させる。更に好ましくは、パルプ100質量部に対し、嵩高剤を0.2〜0.9質量部含有させる。また、本発明においては、前記嵩高剤を含有させることによって、インクジェット記録用紙の比容を1.25〜2.00cm
3/gに調整することが好ましい。比容が1.25cm
3/g未満の場合は、こしが硬くなりやすく書籍用紙に適用し難いおそれがある。比容が2.00cm
3/gを超える場合は、紙中の空隙が多くなりすぎて、インクジェット印刷時のベタ部のムラが生じやすくなり、また、紙層強度が低下して破れやすくなる。本発明では、インクジェット記録用紙の比容が1.30〜1.95cm
3/gであることがより好ましい。尚、本発明で言う比容(cm
3/g)とは、インクジェット記録用紙の厚み(μm)を坪量(g/m
2)で除した数値である。
【0018】
更に本発明においては、インクジェット記録用紙にカチオン性サイズ剤を含有させることが好ましい。本発明のインクジェット記録用紙は、無機顔料を含有する塗工層を有さず、比容が比較的高く、嵩高剤を含有することもあり、インクジェット記録方式で印刷するとインクが用紙に染み込みやすい構成となっている。しかしながら、カチオン性サイズ剤を含有させることにより、インクの用紙への染みこみを抑制することができる。ここで用いるカチオン性サイズ剤としては、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、スチレン・アクリル共重合体、スチレン・メタクリル共重合体、ロジン系サイズ剤、等の公知のサイズ剤で、かつイオン性がカチオン性のものであることが好ましい。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。インクはアニオン性であるため、カチオン性サイズ剤を含有することでインクの用紙への染みこみを抑制しながら、インク定着性を適度に向上させて、インクの滲みや印刷ムラを抑制することが可能となる。本発明において、カチオン性サイズ剤の紙中への含有量は0.001〜0.1g/m
2であることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.05g/m
2である。カチオン性サイズ剤の含有量が0.001g/m
2未満の場合はインクの用紙への染みこみを十分に抑制できず、またインクが滲むようになるおそれがある。0.1g/m
2を超える場合は用紙へのインクの染みこみが過度に抑制されて、印刷ムラが発生しやすくなる。また、本発明の効果を阻害しない限りにおいては、ノニオン性サイズ剤、アニオン性サイズ剤との併用も可能である。
【実施例】
【0020】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0021】
(実施例1)
広葉樹漂白クラフトパルプ(カナダ標準ろ水度420mlCSF)100部に対して、澱粉(ネオタック30T:日本食品加工社製)0.3部、ノニオン性ロジンサイズ剤(CC167:星光PMC)0.2部、抄紙後の用紙の灰分が18%になるように添加量を調整した軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)、嵩高剤として脂肪酸ポリアミドアミン(マスク―トK300:日華化学社製)0.5部、とを配合して紙料を得た。この紙料を用いて長網抄紙機にて抄造し、紙匹を得た(単層抄き)。その後、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、を混合した水溶液を、前記紙匹の両面に乾燥塗布量が両面当たり2.0g/m
2となるようにサイズプレスで塗布し、シリンダードライヤーで乾燥して坪量60g/m
2、厚み90μm(比容1.50cm
3/g)のインクジェット記録用紙を作製した。
【0022】
(実施例2)
実施例1において、嵩高剤である脂肪酸ポリアミドアミン(マスクートK300:日華化学社製)の添加量を0.05質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは76μm(比容1.27cm
3/g)であった。
【0023】
(実施例3)
実施例1において、嵩高剤である脂肪酸ポリアミドアミン(マスクートK300:日華化学社製)の添加量を2.0質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは120μm(比容2.00cm
3/g)であった。
【0024】
(実施例4)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を485mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは96μm(比容1.60cm
3/g)であった。
【0025】
(実施例5)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を350mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは78μm(比容1.30cm
3/g)であった。
【0026】
(実施例6)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が10%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは84μm(比容1.40cm
3/g)であった。
【0027】
(実施例7)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が30%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは96μm(比容1.60cm
3/g)であった。
【0028】
(実施例8)
実施例1において、用紙の坪量が100g/m
2になるように調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は100g/m
2、厚みは150μm(比容1.50cm
3/g)であった。
【0029】
(実施例9)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が12%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは87μm(比容1.45cm
3/g)であった。
【0030】
(実施例10)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が28%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは93μm(比容1.55cm
3/g)であった。
【0031】
(実施例11)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を460mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは93μm(比容1.55cm
3/g)であった。
【0032】
(実施例12)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を370mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは81μm(比容1.35cm
3/g)であった。
【0033】
(実施例13)
実施例1において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚み90μm(比容1.50cm
3/g)であった。
【0034】
(実施例14)
実施例3において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例3と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚み120μm(比容2.00cm
3/g)であった。
【0035】
(実施例15)
実施例10において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例10と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚み93μm(比容1.55cm
3/g)であった。
【0036】
(実施例16)
実施例11において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例11と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚み93μm(比容1.55cm
3/g)であった。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、サイズプレス液へインク定着剤としてのカチオン性高分子を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは90μm(比容1.50cm
3/g)であった。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を600mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m
2、厚みは126μm(比容2.10cm
3/g)であった。
【0039】
得られたインクジェット記録用紙について、次の評価を実施し、結果を表1、2、3に示した。また、本発明で言う比容(cm
3/g)とは、インクジェット記録用紙の厚み(μm)を坪量(g/m
2)で除した数値である。
【0040】
(1)水中伸度の測定:
紙の横目方向の水中伸度を、JAPAN TAPPI No.27「紙および板紙の浸水伸度試験方法」に準じて測定した。測定時間は5分間とした。
【0041】
(2)文字の滲み:
商業用インクジェット印刷機(HP T300 Color InkjetPress:ヒューレットパッカード社製)を用いて、得られたインクジェット記録用紙にブラック、シアン、マゼンタ、イエローで、122m/分の印刷速度で文字を印字した。印字した文字の滲み具合を目視によって判定し、次の4段階で評価した。
◎:文字がまったく滲まず、実用できる。
○:文字が僅かに滲むが、実用できる。
△:文字が滲んで、実用不可。
×:文字が著しく滲んで、実用不可。
【0042】
(3)ベタ部のムラ:
商業用インクジェット印刷機(HP T300 Color InkjetPress:ヒューレットパッカード社製)を用いて、得られたインクジェット記録用紙にブラック、シアン、マゼンタ、イエローで、122m/分の印刷速度でベタを印刷した。印刷したベタ部のムラを目視によって判定し、次の4段階で評価した。
◎:ムラが全くなく、実用できる。
○:ムラが僅かにあるが、実用できる。
△:ムラがあり、実用不可。
×:ムラが著しく、実用不可。
【0043】
(4)シワの評価:
商業用インクジェット印刷機(HP T300 Color InkjetPress:ヒューレットパッカード社製)を用いて、得られたインクジェット記録用紙に、ブラックで100cm
2の正方形のベタを、122m/分の印刷速度で印刷した。印刷したベタ部にシワが発生しているかどうかを目視によって判定し、次の4段階で評価した。
◎:シワが全くなく、実用できる。
○:シワが僅かにあるが、ほとんど肉眼で見えず、実用できる。
△:シワがあり、実用不可。
×:シワが著しく、実用不可。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表1、2、3より明らかなように、実施例1〜16で得られたインクジェット記録用紙は、インクジェット記録適性に優れていた。また、何れのインクジェット記録用紙も、紙がめくりやすく、こしが柔らかく、かつ軽量感があり、書籍用紙として使用されることに適しているものであった。更に、インクジェット印刷時にシワの発生が抑制されており、印刷適性にも優れていた。
【0048】
これに対して、比較例1で得られたインクジェット記録用紙は、カチオン性高分子を含まなかったために、インクが著しく滲み、ベタ部に著しくムラが発生した。比較例2で得られたインクジェット記録用紙は、紙の横目の水中伸度が3.0%を超えた為に、インクジェット印刷時にシワが発生した。