特許第6548303号(P6548303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548303
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】インクジェット記録用紙
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20190711BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20190711BHJP
   D21H 21/22 20060101ALI20190711BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20190711BHJP
   D21H 17/56 20060101ALI20190711BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   B41M5/52 100
   B41J2/01 501
   D21H21/22
   D21H27/00 Z
   D21H17/56
   D21H19/10 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-245387(P2015-245387)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2017-109382(P2017-109382A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2017年12月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】目黒 章久
(72)【発明者】
【氏名】岡田 喜仁
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−087266(JP,A)
【文献】 特開2005−178015(JP,A)
【文献】 特開平10−278416(JP,A)
【文献】 特開平07−276786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00 − 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてパルプを含有し、さらに、無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙であって、填料、ノニオン性サイズ剤、カチオン性サイズ剤、インク定着剤と嵩高剤とを含有し、
填料として抄紙後の用紙の灰分で10〜30%の軽質炭酸カルシウムを含み、
インク定着剤がカチオン性高分子であり、
嵩高剤をパルプ100質量部に対して0.01〜2.0質量部含有し、
紙の横目方向の水中伸度が3.0%以下であるインクジェット記録用紙の製造方法であって、
カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で350〜485mlCSFであるパルプおよび嵩高剤として脂肪酸ポリアミドアミン、填料、ノニオン性サイズ剤を含有する紙料を抄造し、紙匹を得た後、当該紙匹にインク定着剤としてのカチオン性高分子およびカチオン性サイズ剤を含む水溶液を塗布し、その後乾燥させることを特徴とする前記インクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項2】
前記インクジェット記録用紙が填料として軽質炭酸カルシウムのみを含有する、請求項1に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項3】
前記インクジェット記録用紙がポリビニルアルコールをさらに含有する、請求項1または2に記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項4】
前記インクジェット記録用紙の比容が1.25〜2.00cm/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項5】
インクジェット記録用紙が、印刷速度が50m/分を超える印刷機により印刷される書籍用紙であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用紙に関する。特に書籍用紙として好適に用いることが可能なインクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクの液滴を吐出し、記録紙上に付着させることによってドットを形成し、記録を行う方式である。近年、インクジェットプリンター、インク、記録媒体の技術的進歩によって、印字品質の高い記録が可能になってきている。
【0003】
また、インクジェットプリンターの技術は、家庭で使用するパーソナル用プリンターだけでなく、可変情報をデジタル化して高速に印刷する商業印刷等の分野においても利用されてきている。すなわち、近年、商業印刷の分野においては、いわゆるオンデマンド印刷方式が導入されつつあり、オンデマンド印刷方式を採用しているインクジェット印刷機も多く登場してきている。本オンデマンド印刷方式においては、情報を製版することなく紙などのメディアに直接印刷することが可能なために少部数の印刷にも適している。
【0004】
近年、書籍の製造分野(テキスト、漫画、文芸作品等)においてもオンデマンド印刷方式が採用されている。書籍用紙としては、紙のめくりやすさ等の観点から、こしが柔らかく、軽量である用紙が使用されている。ここでいう紙の「こし」とは、紙が自重を支える性質、すなわち、紙に曲げの力を与えた時の抵抗性のことであり、例えば、「こわさ」、「剛度」とも呼ばれるものである。書籍用紙として使用される紙としては、例えば、本を開いたときに紙が立ち上がりにくい方が好ましく、したがって、書籍用紙としては、こしが低い(柔らかい)用紙が好ましい。そして、書籍の製造分野におけるオンデマンド印刷においても、インクジェット印刷機が導入されつつある。この商業用のインクジェット印刷機に対応できる用紙としては、無機顔料を含有する塗工層を有する塗工紙タイプの用紙や、無機顔料を含有する塗工層を有さない非塗工紙タイプの用紙が存在するが、書籍用紙として使用する際の紙のめくりやすさ、軽さ、光の反射が低く目の負担が小さい等の観点から無機顔料を含有する塗工層を有さない非塗工紙タイプの用紙が使用されることが多い。一方、従来のオフセット印刷で用いられている用紙としては、一般に塗工紙が用いられるが、非塗工紙のように紙がめくりやすく、こしが柔らかく、かつ軽量感のある非塗工紙の特徴を有する用紙は存在しない。また、従来のオフセット印刷で用いられている非塗工紙タイプの書籍用紙にインクジェット印刷機で印刷した場合は、インク定着性が悪いため、インクが滲んだり、印刷ムラが発生して実用的でないという問題があった。更に、例えば、ベタ部などの大量のインクが着弾した部分において、シワが発生しやすいという問題もある。シワの発生が著しい場合には、印刷条件を調整しても改善は困難となる。
【0005】
商業用のインクジェット印刷機に適する用紙として、インク吸収性の向上を図るために、インクジェット記録用紙の塗工層に、特定の範囲の吸油量を有する炭酸カルシウムを使用する印刷用紙(例えば、特許文献1を参照)等が提案されているが、塗工紙タイプの用紙であり、従来の非塗工紙タイプの書籍用紙のように紙がめくりやすく、こしが柔らかく、かつ軽量感のあるという特徴を具備することができず、書籍用紙としては好適に用いることが難しい。また、いわゆる非塗工紙タイプの用紙として、紙力剤である澱粉の種類を限定して、インク吸収性を向上させたインクジェット用紙(例えば、特許文献2を参照)が提案されているが、こしが硬く、重量感があり、書籍用紙として好適に用いることが難しい。よって、商業用のインクジェット印刷機に対応し、かつ従来の書籍用紙のように、こしが柔らかく、かつ軽量感のある、適切なインクジェット用紙は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−238612号公報
【特許文献2】特開平11−334199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、こしが柔らかく、軽量感があり、かつインク定着性が良く、インクが滲んだり、印刷ムラが発生しにくいインクジェット記録用紙を提供することにある。特に、前述したような、インクジェット印刷時のシワの発生が少ないインクジェット記録用紙を提供することにある。すなわち、非塗工紙タイプの用紙でありながら商業用の高速インクジェット印刷機(例えば、印刷速度が50m/分を越えるような印刷機)に対応可能なインクジェット記録適性を有し、書籍用紙として好適に用いることができるインクジェット記録用紙を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェット記録用紙は、無機顔料を含有する塗工層を有さないインクジェット記録用紙であって、インク定着剤と嵩高剤とを含有し、インク定着剤がカチオン性高分子であり、更に紙の横目方向の水中伸度が3.0%以下であることを特徴とする。また、用紙に軽量感を与えるために、本発明に係るインクジェット記録用紙は、比容(比容積)が1.25〜2.00cm/gであってもよい。
【0009】
さらに、本発明は、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で350〜485mlCSFであるパルプおよび嵩高剤として脂肪酸ポリアミドアミンを含有する紙料を抄造し、紙匹を得た後、当該紙匹にインク定着剤としてのカチオン性高分子を含む水溶液を塗布し、その後乾燥させることを特徴とする、前記インクジェット記録用紙の製造方法に関する。当該方法であれば、書籍用紙として使用できるインクジェット記録用紙を提供できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、こしが柔らかく、軽量感があり、インクが滲んだり、印刷ムラが発生しにくいインクジェット記録用紙を提供することができる。特に、インクジェット印刷時にシワの発生が少ないインクジェット記録用紙を提供することができる。更に、本発明によるインクジェット用紙は、非塗工紙タイプの用紙でありながら商業用の高速インクジェット印刷機(例えば、印刷速度が50m/分を越えるような印刷機)に対応可能なインクジェット記録適正を有し、書籍用紙として使用されることに適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0012】
本発明のインクジェット記録用書籍用紙はパルプを主成分とする。ここで用いるパルプとしては、例えば、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ、GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプ及びケナフ、バガス、竹、コットンなどの非木材パルプである。これらは、単独で使用するか又は任意の割合で混合して使用することが可能である。例えば、LBKPを主体とし、パルプの全質量に対してLBKP80〜100質量%で含むことが好ましい。これらの中でも、インクジェット記録適性の観点から化学パルプを主成分とすることも好ましい。更には、環境負荷の少ないECF(Elemental Chlorine Free)パルプ又はTCF(Totally Chlorine Free)パルプを配合することが望ましい。また、本発明に係る基紙を構成するパルプは、インクジェット印刷用紙として適切な叩解度を有する紙料とすることが好ましい。適切な叩解度としては、例えば、カナダ標準ろ水度(フリーネス)(JIS P 8121:1995「パルプのろ水度試験方法」)で、350〜650mlCSFである。紙の横目の水中伸度を3.0%以下にするためには、350〜485mlCSFが好ましい。更に好ましくは360〜480mlCSFである。前記フリーネスが350mlCSF未満の場合は紙のこしが硬くなり、書籍用紙として好ましくない。また、前記フリーネスが485mlCSFを超える場合は、水中伸度が大きくなりすぎる場合があり、インクジェット印刷時にシワが発生しやすい。紙中には、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、合成シリカ、アルミナ、タルク、焼成カオリンクレー、カオリンクレー、ベントナイト、ゼオライト、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛などの公知の填料や、公知の紙力剤、硫酸バンド、歩留まり向上剤、染料、蛍光染料などの各種抄紙用薬品を適宜用いてもよい。本発明においては、前記填料として、嵩高効果とインクの滲み防止の観点から、軽質炭酸カルシウムが好ましい。紙の横目の水中伸度を3.0%以下にするために好ましい填料の添加量としては、抄紙後の用紙の灰分が10〜30質量%となるように添加することである。更に好ましくは12〜28質量%である。また、更に好ましくは14〜26%である。灰分が10質量%未満の場合は紙のこしが硬くなり、書籍用紙として好ましくない。また、灰分が30質量%を超える場合は、インクジェット印刷時にシワが発生しやすい。各紙料の調成方法、配合方法、各抄紙薬品の添加方法は、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されない。また、紙料を用いて円網抄紙機、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機などの公知の抄紙機を適用して抄造することが可能であり、単層抄きでも多層抄きでもかまわない。さらに、本発明の効果を損なわない限りにおいて、パルプとして古紙パルプを配合することも可能である。更に、公知のサイズプレスやゲートロールコーターなどで澱粉、ポリアクリルアミドなどの公知の水溶性高分子を塗布することができる。
【0013】
本発明においては、紙中にインク定着剤としてのカチオン性高分子および嵩高剤を含有することが必須である。紙中に含有させる方法としては、前記紙料に添加しても良いし、サイズプレスやゲートロールコーターで塗布するサイズプレス液あるいはゲートロールコーター塗布液に添加しても良い。前記嵩高剤は前記紙料に添加するのが好ましい。比容を適切に調整することが容易となる。さらに、前記カチオン性高分子は前記サイズプレス液あるいは前記ゲートロールコーター塗布液に添加することが好ましい。より良好なインク定着性を得られやすい。例えば、2〜7質量%の澱粉を含むサイズプレス液に前記カチオン性高分子を添加することができる。
【0014】
本発明で使用する嵩高剤としては、例えば、高級アルコールあるいは多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物のポリオキシアルキレン付加物、脂肪酸ポリアミドアミン、飽和脂肪酸ポリアミドポリアミンのエピクロロヒドリン反応物、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、高級アルコールのプロピレンオキサイド付加物、高級アルコールあるいは高級脂肪酸のポリオキシアルキレン付加物、高級脂肪酸エステルのポリオキシアルキレン付加物、等の公知の嵩高剤を使用することが可能である。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。本実施形態において、嵩高剤は、パルプ100質量部に対して0.01〜2.0質量部含有することが好ましい。紙の横目方向の水中伸度を適切な範囲に調整しやすいからである。前記嵩高剤の含有量が0.01質量部未満では、満足に嵩高効果が得られず、インクジェット記録用紙の比容が低くなる。2.0質量部を超える場合は、嵩高効果は得られるものの紙層強度が低下して破れやすくなる。より好ましくは、パルプ100質量部に対し、嵩高剤を0.05〜1.5質量部含有させる。更に好ましくは、パルプ100質量部に対し、嵩高剤を0.2〜0.9質量部含有させる。また、本発明においては、前記嵩高剤を含有させることによって、インクジェット記録用紙の比容を1.25〜2.00cm/gに調整することが好ましい。比容が1.25cm/g未満の場合は、こしが硬くなりやすく書籍用紙に適用し難いおそれがある。比容が2.00cm/gを超える場合は、紙中の空隙が多くなりすぎて、インクジェット印刷時のベタ部のムラが生じやすくなり、また、紙層強度が低下して破れやすくなる。本発明では、インクジェット記録用紙の比容が1.30〜1.95cm/gであることがより好ましい。尚、本発明で言う比容(cm/g)とは、インクジェット記録用紙の厚み(μm)を坪量(g/m)で除した数値である。
【0015】
本発明においては、インクジェット記録用紙の、紙の横目方向の5分後の水中伸度が3.0%以下であることが必須である。前記水中伸度が3.0%を超える場合は、インクジェット印刷時にシワが発生する。好ましくは2.9%以下である。更に好ましくは2.8%以下である。また、前記紙水中伸度の測定方法はJAPAN TAPPI No.27「紙および板紙の浸水伸度試験方法」に準ずる(測定時間は5分間)。紙の横目方向の水中伸度のコントロール方法については、特に限定するものではなく、従来公知の方法を用いればよい。用紙が嵩高なほど、すなわち比容が大きいほど水中伸度も大きくなる傾向にあるので、本発明のインクジェット記録用紙においては前記に示した嵩高剤の含有量を調整することで水中伸度をコントロールすることができる。また、前述したように、カナダ標準ろ水度(フリーネス)や灰分でもコントロールすることが可能である。また、ポリビニルアルコールを含有させることにより、紙の横目方向の水中伸度を小さくすることができる。ポリビニルアルコールとしては、ケン化度が85〜100mol%のポリビニルアルコールであることが好ましい。紙中に含有させる方法としては、紙料に添加しても良いし、サイズプレスやゲートロールコーターで塗布するサイズプレス液あるいはゲートロールコーター塗布液に添加しても良い。ポリビニルアルコールの紙中への含有量は0.01〜2.0g/mであることが好ましく、より好ましくは0.02〜1.5g/mである。このような範囲とすることで、紙の横目方向の水中伸度を小さくすることができる。尚、ポリビニルアルコールの含有量が0.01g/m未満の場合は水中伸度を小さくする効果に乏しい。逆に、2.0g/mを超える場合は用紙へのインクの染みこみが過度に抑制されて、滲みやムラなどの印字品質に関する問題が発生しやすくなる。
【0016】
さらに、本発明においては、インクジェット記録用紙に更にインク定着剤としてカチオン性高分子を含有させる。カチオン性高分子を含有させることにより、嵩高剤を含有し比容積が高く、さらに塗工層を有さないインクジェット記録用紙であるにも関わらず、インクの滲みや印刷ムラを、さらに、抑制できるからである。本発明で使用するインク定着剤としてのカチオン性高分子としては、例えば、ポリエチレンイミン、エピクロルヒドリン変性ポリアルキルアミン、ポリアミン、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン、ジメチルアミンアンモニアエピクロルヒドリン、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムハライド、ポリジアクリルジメチルアンモニウムハライド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート塩酸塩、ポリビニルピリジウムハライド、カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリスチレン共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド二酸化硫黄共重合物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドアミド共重合物、ジシアンジアミドホルマリン重縮合物、ジシアンジアミドジエチレントリアミン重縮合物、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミドエポキシ樹脂、メラミン樹脂酸コロイド、尿素系樹脂、カチオン変性ポリビニルアルコール、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型化合物、ポリアミジン化合物、その他第4級アンモニウム塩類、カチオン変性ポリウレタン樹脂である。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。本実施形態においては、カチオン性高分子の紙中への含有量は、0.1〜5.0g/mであることが好ましく、より好ましくは0.2〜4.0g/mである。カチオン性高分子の含有量が0.1g/m未満の場合はインクが滲みやすく、5.0g/mを超える場合は印刷ムラが発生しやすい。
【0017】
本発明に係るインクジェット用紙は、比容(比容積)が1.25〜2.00cm/gであることが、用紙の軽量感の観点から好ましい。更に、坪量が50〜100g/mであることが、軽量感とこしの観点から好ましい。更に好ましくは60〜90g/mである。坪量が50g/m未満の場合は、インクジェット印刷後の裏抜けやショースルーが発生し、100g/mを越える場合は軽量感に劣る。
【0018】
更に本発明においては、インクジェット記録用紙にカチオン性サイズ剤を含有させることが好ましい。本発明のインクジェット記録用紙は、無機顔料を含有する塗工層を有さず、比容が比較的高く、嵩高剤を含有することもあり、インクジェット記録方式で印刷するとインクが用紙に染み込みやすい構成となっている。しかしながら、カチオン性サイズ剤を含有させることにより、インクの用紙への染みこみを抑制することができる。ここで用いるカチオン性サイズ剤としては、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、スチレン・アクリル共重合体、スチレン・メタクリル共重合体、ロジン系サイズ剤、等の公知のサイズ剤で、かつイオン性がカチオン性のものであることが好ましい。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用してもよい。インクはアニオン性であるため、カチオン性サイズ剤を含有することでインクの用紙への染みこみを抑制しながら、インク定着性を適度に向上させて、インクの滲みや印刷ムラを抑制することが可能となる。本発明において、カチオン性サイズ剤の紙中への含有量は0.001〜0.1g/mであることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.05g/mである。カチオン性サイズ剤の含有量が0.001g/m未満の場合はインクの用紙への染みこみを十分に抑制できず、またインクが滲むようになるおそれがある。0.1g/mを超える場合は用紙へのインクの染みこみが過度に抑制されて、印刷ムラが発生しやすくなる。また、本発明の効果を阻害しない限りにおいては、ノニオン性サイズ剤、アニオン性サイズ剤との併用も可能である。
【0019】
本発明の製造方法においては、パルプを叩解して、カナダ標準ろ水度(フリーネス)を350〜485mlCSFにし、嵩高剤として、例えば、脂肪酸ポリアミドアミンを、パルプ100質量部に対して0.01〜2.0質量部含有する紙料を長網抄紙機にて抄造し、紙匹を得た後、当該紙匹に澱粉とカチオン性高分子を含む水溶液を塗布し、その後乾燥させることが好ましい。本発明においては、マシンカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダーなどのカレンダー処理を行い、平滑化処理を行うことも可能であり、最終製品であるインクジェット記録用紙の、紙の横目方向の水中伸度を3.0%以下にする。
【実施例】
【0020】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0021】
(実施例1)
広葉樹漂白クラフトパルプ(カナダ標準ろ水度420mlCSF)100部に対して、澱粉(ネオタック30T:日本食品加工社製)0.3部、ノニオン性ロジンサイズ剤(CC167:星光PMC)0.2部、抄紙後の用紙の灰分が18%になるように添加量を調整した軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)、嵩高剤として脂肪酸ポリアミドアミン(マスク―トK300:日華化学社製)0.5部、とを配合して紙料を得た。この紙料を用いて長網抄紙機にて抄造し、紙匹を得た(単層抄き)。その後、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、を混合した水溶液を、前記紙匹の両面に乾燥塗布量が両面当たり2.0g/mとなるようにサイズプレスで塗布し、シリンダードライヤーで乾燥して坪量60g/m、厚み90μm(比容1.50cm/g)のインクジェット記録用紙を作製した。
【0022】
(実施例2)
実施例1において、嵩高剤である脂肪酸ポリアミドアミン(マスクートK300:日華化学社製)の添加量を0.05質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは76μm(比容1.27cm/g)であった。
【0023】
(実施例3)
実施例1において、嵩高剤である脂肪酸ポリアミドアミン(マスクートK300:日華化学社製)の添加量を2.0質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは120μm(比容2.00cm/g)であった。
【0024】
(実施例4)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を485mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは96μm(比容1.60cm/g)であった。
【0025】
(実施例5)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を350mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは78μm(比容1.30cm/g)であった。
【0026】
(実施例6)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が10%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは84μm(比容1.40cm/g)であった。
【0027】
(実施例7)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が30%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは96μm(比容1.60cm/g)であった。
【0028】
(実施例8)
実施例1において、用紙の坪量が100g/mになるように調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は100g/m、厚みは150μm(比容1.50cm/g)であった。
【0029】
(実施例9)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が12%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは87μm(比容1.45cm/g)であった。
【0030】
(実施例10)
実施例1において、抄紙後の用紙の灰分が28%になるように軽質炭酸カルシウム(PC−700:白石工業社製)の添加量を調整した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは93μm(比容1.55cm/g)であった。
【0031】
(実施例11)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を460mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは93μm(比容1.55cm/g)であった。
【0032】
(実施例12)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を370mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは81μm(比容1.35cm/g)であった。
【0033】
(実施例13)
実施例1において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚み90μm(比容1.50cm/g)であった。
【0034】
(実施例14)
実施例3において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例3と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚み120μm(比容2.00cm/g)であった。
【0035】
(実施例15)
実施例10において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例10と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚み93μm(比容1.55cm/g)であった。
【0036】
(実施例16)
実施例11において、サイズプレス液として、酸化澱粉(MS#3800:日本食品化工社製)2%、インク定着剤としてのカチオン性高分子であるポリアミン系樹脂(DK6810:星光PMC社製)3%、カチオン性サイズ剤であるカチオン性アルキルケテンダイマー(SE2360:星光PMC社製)0.05%、ケン化度99mol%のポリビニルアルコール(PVA117:クラレ社製)1%、の水溶液を用いた以外は実施例11と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚み93μm(比容1.55cm/g)であった。
【0037】
(比較例1)
実施例1において、サイズプレス液へインク定着剤としてのカチオン性高分子を添加しなかった以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは90μm(比容1.50cm/g)であった。
【0038】
(比較例2)
実施例1において、パルプのカナダ標準ろ水度を600mlCSFに変更した以外は実施例1と同様にしてインクジェット記録用紙を作製した。得られた用紙の坪量は60g/m、厚みは126μm(比容2.10cm/g)であった。
【0039】
得られたインクジェット記録用紙について、次の評価を実施し、結果を表1、2、3に示した。また、本発明で言う比容(cm/g)とは、インクジェット記録用紙の厚み(μm)を坪量(g/m)で除した数値である。
【0040】
(1)水中伸度の測定:
紙の横目方向の水中伸度を、JAPAN TAPPI No.27「紙および板紙の浸水伸度試験方法」に準じて測定した。測定時間は5分間とした。
【0041】
(2)文字の滲み:
商業用インクジェット印刷機(HP T300 Color InkjetPress:ヒューレットパッカード社製)を用いて、得られたインクジェット記録用紙にブラック、シアン、マゼンタ、イエローで、122m/分の印刷速度で文字を印字した。印字した文字の滲み具合を目視によって判定し、次の4段階で評価した。
◎:文字がまったく滲まず、実用できる。
○:文字が僅かに滲むが、実用できる。
△:文字が滲んで、実用不可。
×:文字が著しく滲んで、実用不可。
【0042】
(3)ベタ部のムラ:
商業用インクジェット印刷機(HP T300 Color InkjetPress:ヒューレットパッカード社製)を用いて、得られたインクジェット記録用紙にブラック、シアン、マゼンタ、イエローで、122m/分の印刷速度でベタを印刷した。印刷したベタ部のムラを目視によって判定し、次の4段階で評価した。
◎:ムラが全くなく、実用できる。
○:ムラが僅かにあるが、実用できる。
△:ムラがあり、実用不可。
×:ムラが著しく、実用不可。
【0043】
(4)シワの評価:
商業用インクジェット印刷機(HP T300 Color InkjetPress:ヒューレットパッカード社製)を用いて、得られたインクジェット記録用紙に、ブラックで100cmの正方形のベタを、122m/分の印刷速度で印刷した。印刷したベタ部にシワが発生しているかどうかを目視によって判定し、次の4段階で評価した。
◎:シワが全くなく、実用できる。
○:シワが僅かにあるが、ほとんど肉眼で見えず、実用できる。
△:シワがあり、実用不可。
×:シワが著しく、実用不可。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表1、2、3より明らかなように、実施例1〜16で得られたインクジェット記録用紙は、インクジェット記録適性に優れていた。また、何れのインクジェット記録用紙も、紙がめくりやすく、こしが柔らかく、かつ軽量感があり、書籍用紙として使用されることに適しているものであった。更に、インクジェット印刷時にシワの発生が抑制されており、印刷適性にも優れていた。
【0048】
これに対して、比較例1で得られたインクジェット記録用紙は、カチオン性高分子を含まなかったために、インクが著しく滲み、ベタ部に著しくムラが発生した。比較例2で得られたインクジェット記録用紙は、紙の横目の水中伸度が3.0%を超えた為に、インクジェット印刷時にシワが発生した。