(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
<導電性高分子水系分散液>
本発明の一態様の導電性高分子水系分散液は、イソプロパノール等のアルコールが添加されるものであり、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、三級アミン化合物と、水系分散媒を含有する分散液である。
該導電性高分子水系分散液においては、イソプロパノールを含まないことが好ましく、炭素数3以上のアルコール(すなわち、メタノール及びエタノール以外のアルコール)を含有しないことがより好ましく、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、アリルアルコール等)を含有しないことがさらに好ましい。
導電性高分子水系分散液において、アルコールを含有する場合、その含有量は少ないことが好ましい。具体的な導電性高分子水系分散液におけるアルコール含有割合は、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0008】
(導電性複合体)
[π共役系導電性高分子]
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0009】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(3−イソブチルアニリン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子の中でも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
前記π共役系導電性高分子は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0010】
[ポリアニオン]
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。
本明細書における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定し、標準物質をポリスチレンとして求めた値である。
【0011】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値未満であると、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が弱くなる傾向にあり、導電性が不足することがあり、また、導電性高分子水系分散液における導電性複合体の分散性が低くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値を超えると、π共役系導電性高分子の含有量が少なくなり、やはり充分な導電性が得られにくい。
【0012】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子に配位してドープすることによって導電性複合体を形成する。
ただし、本態様におけるポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープすることはなく、ドープに寄与しない余剰のアニオン基を有するようになっている。本態様の導電性高分子水系分散液では、ドープに関与しない余剰のアニオン基に三級アミン化合物が配位又は付加して、導電性複合体が疎水化されている。疎水化された導電性複合体は有機溶剤に対する分散性が高くなっている。
【0013】
(三級アミン化合物)
本態様で使用される三級アミン化合物は、アルキル基を有する炭素数が6以上9以下のものであり、具体的には、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジエチルプロピルアミン、ジプロピルエチルアミン等が挙げられる。これらのなかでも、入手容易な点で、トリエチルアミン、トリプロピルアミンが好ましい。三級アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
三級アミン化合物の含有割合は、導電性複合体を100質量部とした際に、37.5質量部以上であり、37.5質量部以上200質量部以下であることが好ましく、37.5質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。三級アミン化合物の含有割合が前記下限値未満であると、イソプロパノール等のアルコールを添加したアルコール含有導電性高分子分散液から形成した導電層において、導電性の経時的な低下が起こることがある。
一方、三級アミン化合物の含有割合が前記上限値以下であれば、導電層中の導電性複合体の含有量を充分に確保でき、導電層の導電性を高くできる。
【0014】
(水系分散媒)
水系分散媒は、水、又は、水と水溶性有機溶剤との混合液である。
水溶性有機溶剤としては、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテルなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、が挙げられるが、上記に限定されるものではない。ただし、本態様における水溶性有機溶剤はアルコール系溶媒を含まない。
上記水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
(添加剤)
導電性高分子水系分散液には、公知の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前記ポリアニオン、前記三級アミン化合物及び前記水系分散媒以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基、アミノ基、エポキシ基等を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類、ビタミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0016】
(作用効果)
導電性高分子水系分散液にイソプロパノール等のアルコールを添加した際に、導電性高分子水系分散液から形成した導電層の導電性が低下するのは、アルコール製造時にアルコールに混入した金属イオンが、ポリアニオン同士を架橋させて導電性複合体を凝集させるためと考えられる。導電性複合体が凝集すると、導電性高分子分散液中での分散安定性が低下して、導電性高分子分散液は不均一なものとなる。そのような導電性高分子分散液から形成した導電層においては導電性複合体が均一に含まれないため、導電性が低下する傾向にある。
しかし、本態様の導電性高分子水系分散液においては、上記特定量の三級アミン化合物が含まれる。本態様で使用される三級アミン化合物は水溶性であるため、ポリアニオンのアニオン基に容易に配位又は付加する。これにより、アニオン基が保護されるため、イソプロパノール等のアルコールを添加しても、金属イオンによるポリアニオン同士の架橋を防ぐことができる。そのため、導電性高分子水系分散液にイソプロパノール等のアルコールを添加して得た分散液においては、導電性複合体の分散性を向上させることができ、該分散液から形成した導電層の導電性複合体の分散性も向上させることができる。したがって、導電層の導電性が低下しにくい。
【0017】
<アルコール含有導電性高分子分散液>
本態様のアルコール含有導電性高分子分散液は、導電性複合体と水系分散媒と三級アミン化合物とアルコールとアルコール以外の水系分散媒とを含有する。該アルコール含有導電性高分子分散液は塗料として使用することができる。
本態様のアルコール含有導電性高分子分散液においても、三級アミン化合物の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して20質量部以上であり、30質量部以上200質量部以下であることが好ましく、37.5質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0018】
本態様のアルコール含有導電性高分子分散液におけるアルコールは、本発明の効果がより発揮される点では、炭素数3以上のアルコールが好ましく、イソプロパノールがより好ましい。
本態様のアルコール含有導電性高分子分散液におけるアルコールの含有割合は5質量部以上60質量部以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。アルコールの含有割合が前記上限値を超えると、導電層の導電性が低下することがある。一方、アルコールの含有割合が下限値未満であると、アルコール含有導電性高分子分散液のフィルム基材に対する密着性が低下するため、アルコールを添加する本来の目的を達成できないことがある。
【0019】
本態様のアルコール含有導電性高分子分散液は、得られる導電層の塗膜強度及び硬度を向上させるために、バインダ化合物を含有してもよい。
バインダ化合物としては、ポリマー、熱硬化性化合物、活性エネルギー線硬化性化合物が挙げられる。
バインダ化合物として使用できる樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、酢酸ビニル樹脂などが用いられる。
熱硬化性化合物及び活性エネルギー線硬化性化合物としては、ビニル基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、オキセタン基を有する化合物等が挙げられる。これらは、モノマーでもよいし、オリゴマーでもよい。
これらバインダ化合物のなかでも、アルコールに分散又は溶解させやすく、硬化が容易であることから、活性エネルギー線硬化性アクリル化合物が好ましい。活性エネルギー線硬化性アクリル化合物は、活性エネルギー線(紫外線、電子線、可視光線)の照射によってラジカル重合して硬化するアクリル化合物である。
活性エネルギー線硬化性アクリル化合物としては、例えば、アクリレート、メタクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、カルボン酸ビニルエステル等が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化性アクリル化合物は、ビニル基を1つのみ有する単官能モノマーでもよいし、ビニル基を2つ以上有する多官能モノマーでもよいし、単官能モノマーと多官能モノマーの併用でもよい。
【0020】
アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールA・エチレンオキサイド変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート等が挙げられる。
メタクリレートとしては、例えば、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、アクリロイルモルホリン、アクリロイルピペリジン等が挙げられる。
ビニルエーテルとしては、例えば、2−クロロエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられる。
カルボン酸ビニルエステルとしては、例えば、酪酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。
また、活性エネルギー線硬化性アクリル化合物は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリアクリルアクリレート等の、アクリルモノマーと他の化合物とを反応させて得た多官能アクリレートであってもよい。
上記活性エネルギー線硬化性アクリル化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
バインダ化合物の含有割合は、前記導電性複合体100質量部に対して1000質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、3000質量部以上50000質量部以下であることがより好ましい。バインダ化合物の含有割合が前記下限値以上であれば、得られる導電層の強度及び硬度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、充分な導電性を確保できる。
【0022】
本態様のアルコール含有導電性高分子分散液では、炭素数6以上9以下の三級アミン化合物を上記特定量含有するため、ポリアニオン同士の架橋が起こり難く、導電性複合体の凝集が抑制されている。そのため、本態様のアルコール含有導電性高分子分散液によれば、イソプロパノール等のアルコールを含むにもかかわらず、導電性の経時的な低下が起こり難い導電層を容易に形成できる。
【0023】
<導電性フィルムの製造方法>
本態様の導電性フィルムの製造方法は、アルコール含有導電性高分子分散液をフィルム基材の少なくとも一方に塗工する工程を有する。
該製造方法で製造される導電性フィルムは、フィルム基材と、該フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。
【0024】
フィルム基材としては、プラスチックフィルムを用いることができる。
プラスチックフィルムを構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中でも、透明性、可撓性、汚染防止性及び強度等の点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、非晶性ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
プラスチックフィルムは未延伸のフィルムでもよいし、一軸延伸のフィルムでもよいし、二軸延伸のフィルムでもよい。機械的物性に優れる点では、プラスチックフィルムは二軸延伸のフィルムが好ましい。
【0025】
導電性フィルムを構成するフィルム基材の平均厚みとしては、5μm以上400μm以下であることが好ましく、10μm以上200μm以下であることがより好ましい。導電性フィルムを構成するフィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における平均厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0026】
導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、三級アミン化合物とを含有する。アルコール含有導電性高分子分散液がバインダ化合物を含有する場合には、導電層は、バインダ化合物又はその硬化物をさらに含有する。
導電層の平均厚みとしては、10nm以上5000nm以下であることが好ましく、20nm以上1000nm以下であることがより好ましく、30nm以上500nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚みが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0027】
アルコール含有導電性高分子分散液の塗工方法としては、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方式、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
アルコール含有導電性高分子分散液の塗工後には、必要に応じて、乾燥させてもよい。乾燥法としては、例えば、熱風加熱による乾燥法や、赤外線加熱による乾燥法などの通常の方法を採用できる。
バインダ化合物が活性エネルギー線硬化性アクリル化合物である場合には、アルコール含有導電性高分子分散液を塗工して形成した塗膜に活性エネルギー線を照射して該アクリル化合物を硬化させる。
活性エネルギー線のなかでも、汎用的である点では、紫外光(紫外線)が好ましい。紫外光の照射においては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外光照射における照度は100mW/cm
2以上が好ましい。照度が100mW/cm
2未満であると、前記活性エネルギー線硬化性アクリル化合物が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm
2以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm
2未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本発明における照度、積算光量は、トプコン社製UVR−T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD−T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0028】
本態様の導電性フィルムの製造方法では、上記アルコール含有導電性高分子分散液を塗工するため、導電性の経時的な低下が起こり難い導電層を容易に形成できる。
【実施例】
【0029】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたろ液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形物からなるポリスチレンスルホン酸(PSS)を得た。
得られたポリスチレンスルホン酸についてGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)システムを用いて、昭和電工株式会社製プルランを標準物質として質量平均分子量を測定した結果、分子量は30万であった。
【0030】
(製造例2)
14.2gの3,4−エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、3時間攪拌して反応させた。得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000ml溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去し、これに2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を3回繰り返した。さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この操作を5回繰り返し、1.2質量%の青色のポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)水分散液を得た。
【0031】
(製造例3〜8)
メタノール、イソプロパノール及び界面活性剤(日信化学株式会社製オルフィンEXP4200)を、表1に示すように混合して、PEDOT−PSS水分散液に添加する希釈液を調製した。
【0032】
【表1】
【0033】
(参考例1)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液100gに対してトリエチルアミン0.45gを添加し、15分間攪拌して、導電性高分子水系分散液を得た。
次いで、前記導電性高分子水系分散液9.9gに製造例3で得た希釈液(1)90.1gを添加して、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0034】
(実施例1)
希釈液(1)を、製造例4で得た希釈液(2)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0035】
(実施例2)
希釈液(1)を、製造例5で得た希釈液(3)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0036】
(実施例3)
希釈液(1)を、製造例6で得た希釈液(4)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0037】
(実施例4)
トリエチルアミンの添加量を0.50g(4.94×10
−3mol)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0038】
(実施例5)
トリエチルアミンの添加量を0.70g(6.92×10
−3mol)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0039】
(実施例6)
トリエチルアミンの添加量を1.00g(9.88×10
−3mol)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0040】
(実施例7)
トリエチルアミンをトリプロピルアミンに変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0041】
(比較例1)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液9.9gに製造例3で得た希釈液(1)90.1gを添加して、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0042】
(比較例2)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液9.9gに製造例4で得た希釈液(2)90.1gを添加して、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0043】
(比較例3)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液9.9gに製造例5で得た希釈液(3)90.1gを添加して、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0044】
(比較例4)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液9.9gに製造例6で得た希釈液(4)90.1gを添加して、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0045】
(比較例5)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液9.9gに製造例7で得た希釈液(5)90.1gを添加して、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0046】
(比較例6)
製造例2で得たPEDOT−PSS水分散液9.9gに製造例8で得た希釈液(6)90.1gを添加して、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0047】
(比較例7)
希釈液(1)を、製造例7で得た希釈液(5)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0048】
(比較例8)
希釈液(1)を、製造例8で得た希釈液(6)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0049】
(比較例9)
トリエチルアミンの添加量を0.40g(3.95×10
−3mol)に変更した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0050】
(比較例10)
トリエチルアミン0.45gの代わりにトリメチルアミン0.292g(4.94×10
−3mol)を添加した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0051】
(比較例11)
トリエチルアミン0.45gの代わりにトリブチルアミン0.916g(4.94×10
−3mol)を添加した以外は参考例1と同様にして、アルコール含有導電性高分子分散液を得た。
【0052】
<評価>
各例のアルコール含有導電性高分子分散液を、No.4のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に塗工した後、120℃、30秒で乾燥して、導電層を備えた導電性フィルムAを得た。
この導電性フィルムAの表面抵抗値(初期の表面抵抗値)を、抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ハイレスタ)を使用し、印加電圧10V、印加時間10秒の条件で測定した。
また、各例のアルコール含有導電性高分子分散液を、25℃の恒温室で2日保存した後、No.4のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に塗工した後、120℃、30秒で乾燥して、導電層を備えた導電性フィルムBを得た。
この導電性フィルムBの表面抵抗値(2日経過後の表面抵抗値)を、抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ハイレスタ)を使用し、印加電圧10V、印加時間10秒の条件で測定した。
初期の表面抵抗値、2日経過後の表面抵抗値、2日経過後の表面抵抗値/初期の表面抵抗値の式より求められる変化率を表2,3に示す。変化率の値が大きい程、表面抵抗が増加したことを意味する。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
トリエチルアミン又はトリプロピルアミンを本願請求項1で規定する量で含有する各実施例のアルコール含有導電性高分子分散液は、イソプロパノールを含むにもかかわらず、2日経過後に形成した表面層の表面抵抗増加が抑制されていた。
イソプロパノールを含み且つ三級アミン化合物を含有しない比較例1〜6のアルコール含有導電性高分子分散液は、2日経過後に形成した表面層の表面抵抗が増加していた。なお、比較例1〜6の結果より、アルコール含有導電性高分子分散液におけるイソプロパノール含有割合が多くなる程、2日経過後の表面抵抗値変化率が大きくなることがわかる。
イソプロパノール含有割合が50質量%を超える比較例7,8のアルコール含有導電性高分子分散液では、表面抵抗値が大きく、特に比較例8では測定不能であった。これは、アルコール含有導電性高分子分散液中のPEDOT−PSSが凝集して分散性が低下したためと思われる。
トリエチルアミンを含有するが、その含有量が37.5質量部未満の比較例9のアルコール含有導電性高分子分散液は、2日経過後に形成した表面層の表面抵抗が増加していた。なお、実施例3〜7及び比較例9の結果より、アルコール含有導電性高分子分散液におけるトリエチルアミン含有割合が多くなる程、2日経過後の表面抵抗値変化率が小さくなることがわかる。
トリエチルアミンの代わりにトリメチルアミンを含有する比較例10のアルコール含有導電性高分子分散液は、初期から表面層の表面抵抗が大きかった。このような結果になったのは、トリメチルアミンは、アルコール含有導電性高分子分散液中での分散性が低かったためと思われる。
トリエチルアミンの代わりにトリブチルアミンを含有する比較例11のアルコール含有導電性高分子分散液は、2日経過後に形成した表面層の表面抵抗が増加していた。