(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態を図面に従って説明するが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1に、本発明の一実施形態に係る二次電池の充電状態推定方法を実行する充電状態推定装置1の概略構成を示す。この充電状態推定装置1は、開放電圧値および電流積算値に基づいて二次電池の充電状態(SOC:State of Charge)を推定する装置であり、充電状態推定時の瞬間的な開放電圧値と充電状態推定値との関係を定める瞬時充電状態マップを、二次電池の使用開始後の充放電特性データに基づいて更新する瞬時充電状態マップ更新ブロック3、更新された瞬時充電状態マップに基づいて、充電状態推定時の瞬間的な充電状態推定値を算出する瞬時充電状態推定ブロック5、二次電池を流れた電流値の積算値(電流積算値)に基づいて、充電状態推定値を算出する電流積算充電状態推定ブロック7、および瞬間的な充電状態推定値および電流積算値に基づく充電状態推定値に基づいて、二次電池の制御に用いる制御用充電状態推定値を算出する制御用充電状態推定ブロック9を備えている。また、充電状態推定装置1は、電流積算値の保存等に用いられる図示しない記憶装置(たとえば、メモリ)、電流積算値の計算等のために用いられる図示しない計時手段(たとえば、時計)を備えている。
【0022】
図2に、本実施形態に係る充電状態推定方法の計算フローを示す。計算フローは、電池電圧値、電池電流値および電池温度を計測する第1段階と、電池電圧値、電池電流値および電池温度値から瞬間的な充電状態推定値(以下、「瞬時SOC推定値」と呼ぶ。)を求める第2段階と、電流積算値に基づく充電状態推定値(以下、「電流積算SOC推定値」と呼ぶ。)を求める第3段階と、瞬時SOC推定値および電流積算SOC推定値に基づいて、二次電池の充放電制御に使用する制御用充電状態推定値(以下、「制御SOC推定値」と呼ぶ。)を求めて出力する第4段階と、を含む。
【0023】
第1段階では、二次電池の電池電圧値、電池電流値および電池温度を実測する(ステップS1)。これらの実測データは、それぞれ、電圧測定器11,電流測定器13および電池温度測定器15によって取得され、図示しない記憶装置に格納される。また、本計算フローを開始した時刻を図示しない計時手段で計時し、この時刻を図示しない記憶装置に格納する。
【0024】
なお、複数の二次電池(セル)を直並列に組み合わせて電池モジュールや電池システムを構成する場合は、電池モジュールや電池システムの構成を考慮して、実測した電池モジュールや電池システムの電圧値、電流値および電池温度を、セル単位の電池電圧値、電池電流値、電池温度に換算して、これらを図示しない記憶装置に格納してもよい。たとえば、所定個数の二次電池を直列に接続してなる電池モジュールの場合、電池モジュールの電圧値を所定個数で除した値を電池電圧値として用いるなど、既存の換算方法を用いることができる。電池電流値、電池温度についても同様であるので、詳細は省略する。
【0025】
第2段階では、あらかじめ用意された開放電圧値と充電状態推定値との関係を定める瞬時充電状態マップと、算出された開放電圧値とから瞬時SOC推定値を求める。開放電圧値は、次式(1)で算出される。以下、実測電流の符号は、放電時を正、充電時を負と定義する。
開放電圧(V)= 実測電圧(V)+(内部抵抗(Ω)×実測電流(A))(1)
【0026】
ここで、第1段階の前、すなわち二次電池のSOCのモニタリングを始める前に、電池温度とSOCと二次電池の内部抵抗値とを対応づける内部抵抗特性マップを以下の手順で作成し、図示しない記憶装置に格納する。
【0027】
第1に、所定の電池温度および所定のSOCにおいて、様々な充放電電流値で、所定時間、二次電池の充放電を行い、その途中の電池電圧値を測定する。たとえば、定格容量141Ahの二次電池において、電池温度を10℃、SOCを10%の状態とした後に、70.5A(0.5C)の放電を15秒間行い、放電開始10秒後の電池電圧値を測定する。次に、70.5A(0.5C)の充電を15秒間行い、充電開始10秒後の電池電圧値を測定する。さらに、141A(1.0C)の放電を15秒間、141A(1.0C)の充電を15秒間、282A(2.0C)の放電を15秒間、282A(2.0C)の充電を15秒間行い、各充放電開始10秒後の電池電圧値を測定する。第2に、測定した充放電電流値と電池電圧値とから、二次電池の内部抵抗値を求める。上述の例において、3回の定電流放電と3回の定電流充電とを電流値を変えて行い、各電流値に対応する電池電圧値を測定したので、
図3(a)に示すように、電池電流値および電池電圧値をプロットする。そして、
図3(a)に示すグラフにプロットした電池電流値および電池電圧値から、電流値の変化に対する電圧値の変化の傾きを直線近似により求め、この傾きを二次電池の内部抵抗値とする。
【0028】
第3に、第1および第2の手順を、電池温度やSOCを変えて繰り返し行い、内部抵抗特性マップを作成する。上述の例において、
図3(b)に示す内部抵抗特性マップのうち、電池温度が10℃,SOCが10%の場合の内部抵抗値r11が得られる。同様にして、電池温度やSOCを適宜変更して第1および第2の手順を繰り返し、
図3(b)に示す内部抵抗特性マップを完成する。
【0029】
なお、二次電池の内部抵抗値の算出方法は、上述の方法に限定されず、たとえば、電流値が正の場合(放電)と負の場合(充電)とに分け、放電時の内部抵抗値・充電時の内部抵抗値を別々に算出してもよい。また、近似方法は直線近似に限定されず、様々な方法を採用することができる。
【0030】
次いで、ステップS1で実測した電池温度および1計算フロー前に求めた制御SOC推定値(後述)に基づいて、内部抵抗値演算ブロック17は、内部抵抗特性マップから内部抵抗値を求める(ステップS2)。内部抵抗特性マップに、内部抵抗値が見つからない場合は、内部抵抗値演算ブロック17は線形補間によって内部抵抗値を求める。たとえば、
図3(b)の内部抵抗特性マップにおいて、電池温度が13℃、制御SOC値が10%の内部抵抗を求める場合、内部抵抗値演算ブロック17は、電池温度が10℃,SOC10%の内部抵抗値および電池温度が15℃,SOC10%の内部抵抗値から、線形補間によって内部抵抗値を算出する。なお、線形補間以外の方法を用いてもよい。
【0031】
この計算フローが初回の場合、1計算フロー前は存在しないため、制御SOC推定値は存在しない。この場合は、制御SOC推定値の代わりに、別の方法で求めたSOC値を用いてもよい。たとえば、特許文献1の電流積算値に基づくSOC値を用いるなど、公知の手法を用いてもよい。
【0032】
なお、一般に、二次電池の内部抵抗値は、充放電を繰り返すことにより劣化(上昇)する。また、二次電池には製造のばらつきがあるため、内部抵抗値にもばらつきがある。したがって、次式(2)に基づいて、内部抵抗特性マップを所定の時間間隔で連続的に更新することにより、二次電池の劣化やばらつきを定期的に反映した内部抵抗値を得られるようにすることが好ましい。
内部抵抗(Ω)= (開放電圧(V)−実測電圧(V))/実測電流(A)(2)
【0033】
本実施形態では、1計算フロー前に実測した電池電圧値、電池電流値および電池温度と、これらの値に基づいてステップS3(後述)で求めた1計算フロー前の開放電圧値とから、内部抵抗基準値演算ブロック19は、式(2)を用いて内部抵抗値を算出する。また、内部抵抗基準値演算ブロック19は、1計算フロー前に実測した電池温度と、1計算フロー前に求めた制御SOC推定値と、算出した内部抵抗値とに基づいて、電池温度とSOC(制御SOC値)と二次電池の内部抵抗値とを対応づける、
図3(b)に示す内部抵抗特性マップを更新する(ステップS2’)。内部抵抗特性マップは、定期的,連続的に更新しなくともよく、任意のタイミングで更新してもよいが、二次電池の充電状態を高い精度で推定するためには、更新頻度は多いほうが好ましく、また定期的、連続的に更新するほうが好ましい。
【0034】
次に、開放電圧算出ブロック21は、ステップS1で実測した電池電圧値および電池電流値と、ステップS2で得られた内部抵抗値とから、式(1)に基づいて、開放電圧値を求め(ステップS3)、図示しない記憶装置に格納する。
【0035】
本実施形態では、瞬時充電状態マップ更新ブロック3は、図示しない記憶装置に格納された、充電状態推定時の瞬間的な開放電圧値と充電状態推定値との関係を定める瞬時充電状態マップを、二次電池の使用開始後の充放電特性データに基づいて更新する(ステップS4)。この瞬時充電状態マップの更新について、以下詳細に説明する。なお、以下の説明において、理解を容易にするために、「グラフを用いる」、「グラフを作成する」等の表現を用いて説明する場合があるが、ここでの「グラフ」とは、対象となる2つのパラメータ間の相関を示すデータを指しており、必ずしも視覚的に表現されたグラフである必要はない。例えば、「グラフ」は、表の形式で2つのパラメータ間の相関を示してもよい。
【0036】
第1段階の前、すなわち二次電池のSOCのモニタリングを始める前に、
図5に示すように、瞬時充電状態マップを更新する際の参照基準となる基準マップを作成し、図示しない記憶装置に格納する。具体的には、充電状態0%から100%までの完全充電、および異なる複数の充電状態から100%までの部分充電試験(
図5(a)では充電状態30%,40%,50%,60%,70%から100%までの5回の部分充電試験)を行い、種々の充電状態に対する開放電圧値の変化を示すグラフ(充電特性データ)からなる基準充電マップを作成する。同様に、充電状態100%から0%までの完全放電、および異なる複数の充電状態から0%までの部分放電試験(
図5(b)では充電状態30%,40%,50%,60%,70%から0%までの5回の部分放電試験)を行い、種々の充電状態に対する開放電圧値の変化を示すグラフ(放電特性データ)からなる基準放電マップを作成する。本実施形態では、0.2Cの充放電電流で試験を行い、基準充電マップ・基準放電マップを作成する。なお、基準充電マップ・基準放電マップは、0.2Cに限られず、0.1Cや0.01Cなど、実施態様等を考慮して、所望の充放電電流値で試験を行うことで作成することができる。
【0037】
同じ開放電圧値を示しても、二次電池が充電中か放電中かによって、充電状態は異なる。たとえば、
図5(a)の基準充電マップによれば、開放電圧が1.361Vを示すとき、瞬時SOC50%から部分充電を行っている場合であれば、瞬時SOC50%から100%までの部分充電に係るグラフを参照すると、瞬時SOCは60%であることがわかる。一方、
図5(b)の基準放電マップによれば、瞬時SOC70%から部分放電を行っている場合、瞬時SOC70%から0%までの部分放電に係るグラフを参照すると、瞬時SOCは65%であることがわかる。このように、二次電池が充電中か放電中かを実測電流に基づいて判別し、充電マップまたは放電マップを適切に選択することによって、瞬時SOCを適切に求めることができる。
【0038】
さらに、二次電池の充電や放電の繰り返し、特に充電状態が0%を超え100%未満の状態において充電や放電を繰り返すことにより、基準充電マップおよび基準放電マップに基づいて求めた充電状態と、実際の充電状態とにずれが生じ、充電状態の推定の精度が悪化する。そこで、ステップS4において、瞬時充電状態マップ更新ブロック3は、充電状態0%から100%まで二次電池を充電した場合の充電特性データである完全充電特性データと、充電状態100%から0%まで二次電池を放電した場合の放電特性データである完全放電特性データとを基準として、充電状態0%と100%との間の部分的な充放電データである部分充放電特性データを規格化し、この規格化によって得られた部分充放電電圧規格値を用いて瞬時充電状態マップを更新する。
図4に、瞬時充電状態マップの作成および更新のフローを示す。
【0039】
まず、基準充電マップに基づいて、各部分充電における各SOC値に対応する電圧値を、完全充電における電圧値および完全放電における電圧値によって規格化する。同様に、基準放電マップに基づいて、各部分放電における各SOC値に対応する電圧値を、完全充電における電圧値および完全放電における電圧値によって規格化する。部分充電の電圧値の規格値は次式(3)で算出し、部分放電の電圧値の規格値は次式(4)で算出する。
部分充電電圧規格値= (部分充電電圧値−完全放電電圧値)
/(完全充電電圧値−完全放電電圧値) (3)
部分放電電圧規格値= (部分放電電圧値−完全放電電圧値)
/(完全充電電圧値−完全放電電圧値) (4)
【0040】
SOC50%からの部分充電におけるSOC=60%での電圧値を規格化する例を示す。たとえば、
図5(a)を参照すると、完全充電におけるSOC=60%での電圧値が1.390V,
図5(b)を参照すると、完全放電におけるSOC=60%での電圧値が1.315V,
図5(a)のSOC50%から100%までの部分充電に係るグラフを参照すると、SOC50%からの部分充電におけるSOC=60%での電圧値が1.361Vであるから、部分充電規格値は、上式(3)より、(1.361−1.315)/(1.390−1.315)=0.613となる。
【0041】
次に、二次電池の動作が充電から放電に切り替わった場合に、規格化された電圧値を使用して、次式(5)に基づいて、部分充電マップを作成/更新する。
部分充電電圧値= 部分充電電圧規格値
×(完全充電電圧値−部分放電電圧値)
+部分放電電圧値 (5)
【0042】
上述したとおり、式(3)に基づいてSOC50%からの部分充電におけるSOC=60%での電圧値を規格化する例を示した。同様の手順を繰り返すことにより、
図5(a)の基準充電マップ,
図5(b)の基準放電マップ,および式(3)に基づいて、SOC50%からの部分充電における、SOC=50〜100%の部分充電規格値を求め、次いで、
図5(a)の基準充電マップ,
図5(b)の基準放電マップ,および式(5)に基づいて、SOC50%からの部分充電における、SOC=50〜100%の部分充電電圧値を求めると、
図6に示すグラフのようになる。
【0043】
ただし、部分充電から部分放電に切り替わった時点(部分放電開始点)でのSOC(放電切替SOC)を超えるSOC領域については、基準充電マップの完全充電または部分充電における電圧値を用いてもよい。
【0044】
SOC0%から50%まで部分充電を行い、その後SOC30%まで部分放電を行った例を以下に説明する。この例では、
図5(a)の基準充電マップの完全充電におけるグラフと、
図5(b)の基準放電マップのSOC50%から0%までのグラフとを用いる。
【0045】
まず、これらの2つのグラフと、式(3)とから、SOC30%から50%の範囲において、部分充電電圧規格値を求める。次に、SOC30%から50%の範囲においては、基準充電マップの完全充電におけるグラフ(完全充電電圧値)と、基準放電マップのSOC50%から0%までのグラフ(部分放電電圧値)とから、式(5)と部分充電電圧規格値とに基づいて、規格化されたグラフを部分充電マップに描画し、SOC50%から100%の範囲においては、基準充電マップの完全充電におけるグラフのSOC50%から100%の部分のグラフを使用し、部分充電マップに描画する。
図7に示すグラフは、SOC50%から30%まで部分放電を行った場合に、部分充電電圧規格値を求め、この規格値に基づいて規格化されたグラフを描画する上述の手順により得られる、部分充電マップに描画されるグラフである。
【0046】
なお、充放電を繰り返した結果、SOC50%まで部分充電を行い、その後SOC30%まで部分放電を行う場合は、
図5(b)の基準放電マップのSOC50%から0%までのグラフではなく、後述する手順で描画/更新される部分放電マップのSOC50%から0%までのグラフを用いることが好ましい。これは、部分放電マップは、二次電池の初期状態を示す基準放電マップと異なり、二次電池の充放電履歴に基づいて描画/更新されるため、現在の二次電池の状態をより反映したものとなっていることによる。本実施形態では、
図5(a)の基準充電マップの完全充電におけるグラフと、
図7の描画/更新された部分放電マップのSOC50%から0%までのグラフとを用い、部分充電マップを更新(再描画)する。以上説明したように、部分充電マップの更新を行うことにより、部分充放電を何度も繰り返した場合でも、充電時において、開放電圧値から、精度の高い瞬時SOC推定値を求めることができる。
【0047】
同様に、放電から充電に切り替わった場合に、規格化された電圧値を使用して、次式(6)に基づいて、部分放電マップを作成/更新する。
部分放電電圧値= 部分放電電圧規格値
×(部分充電電圧値−完全放電電圧値)
+完全放電電圧値 (6)
【0048】
ただし、部分放電から部分充電に切り替わった時点(部分充電開始点)でのSOC(充電切替SOC)より低いSOC領域については、基準放電マップの完全放電または部分放電における電圧値を用いてもよい。
【0049】
SOC0%からSOC100%まで充電を行った後、SOC30%まで部分放電を行い、その後SOC70%まで部分充電を行った例を示す。この例では、
図5(b)の基準放電マップの完全放電におけるグラフと、
図5(a)の基準充電マップのSOC30%から100%までのグラフとを用いる。
【0050】
まず、これらの2つのグラフと、式(4)とから、SOC30%から70%の範囲において、部分放電電圧規格値を求める。次に、SOC30%から70%の範囲においては、基準放電マップの完全放電におけるグラフ(完全放電電圧値)と、基準充電マップのSOC30%から100%までのグラフ(部分充電電圧値)とから、式(6)と部分放電電圧規格値とに基づいて、規格化されたグラフを部分放電マップに描画し、SOC0%から30%の範囲においては、基準放電マップのSOC70%から0%までの部分放電におけるグラフのSOC0%から30%の部分のグラフを部分放電マップに描画する。
図8に示すグラフは、SOC30%から70%まで部分充電を行った場合に、部分放電電圧規格値を求め、この規格値に基づいて規格化されたグラフを描画する上述の手順により得られる、部分放電マップに描画されるグラフである。
【0051】
なお、充放電を繰り返した結果、SOC30%まで部分放電を行い、その後SOC70%まで部分放電を行う場合は、
図5(a)の基準充電マップのSOC30%から100%までのグラフではなく、上述の手順で描画/更新される部分充電マップのSOC30%から100%までのグラフを用いることが好ましい。これは、部分充電マップは、二次電池の初期状態を示す基準充電マップと異なり、二次電池の充放電履歴に基づいて描画/更新されるため、現在の二次電池の状態をより反映したものとなっていることによる。本実施形態では、
図5(b)の基準放電マップの完全放電におけるグラフと、
図8の描画/更新された部分充電マップのSOC30%から100%までのグラフとを用い、部分放電マップを更新(再描画)する。以上説明したように、部分放電マップの更新を行うことにより、部分充放電を何度も繰り返した場合でも、放電時において、開放電圧値から、精度の高い瞬時SOC推定値を求めることができる。
【0052】
充電切替SOCや放電切替SOCに対応するグラフ(充放電特性データ)が、基準充電マップ・基準放電マップ・部分充電マップ・部分放電マップに用意されていない場合は、すでに用意されているグラフから、充電切替SOCや放電切替SOCの上下に最も近い値のものであってグラフがあるものを各1つ選定し、これらの部分充電特性データや部分放電特性データを比例按分して、充電切替SOCや放電切替SOCに対応するグラフを部分充電マップ・部分放電マップに作成する。例えば、
図9に示すように、放電切替SOCがa%であり、これより高い側の最も近いものでグラフのある放電切替SOC値がb%,低い側の最も近いものでグラフのある放電切替SOC値がc%である場合、放電切替時の開放電圧値に対応するSOC値の比率X=(b−a)/(b−c)を用いて、次式(7)によりこの放電切替SOC値a%に対応するグラフを部分充電マップに作成する。
開放電圧= (切替SOC値c%の開放電圧)×X
+(切替SOC値b%の開放電圧)×(1−X) (7)
【0053】
同様に、部分放電から部分充電への切替え時には、充電切替SOCの上下に隣接するSOC値の部分充電特性データを比例按分して、充電切替SOCに対応するグラフを部分放電マップに作成する。このように、部分充電マップや部分放電マップを随時更新することで、開放電圧値から、より精度の高い瞬時SOC推定値を求めることが可能になる。
【0054】
なお、
図4に示すように、本実施形態では、充電から放電への切替え時には、直前の充電における充電の継続時間または充電電流積算量の変化のいずれかが所定値を超えた場合に瞬時充電状態マップ更新ブロック3が部分充電マップを更新する。また、放電から充電への切替え時には、直前の放電の継続時間または放電電流積算量の変化のいずれかが所定値を超えた場合に瞬時充電状態マップ更新ブロック3が部分放電マップを更新する。
【0055】
具体的には、部分充電から部分放電への切替え時には、マップ更新判定ブロック23は、以下の更新条件(a),(b)のいずれかを満たすか否かを判定する。
(a):所定の設定時間以上の間、充電電流が継続して流れる。
(b):充電電流が継続して流れている間に、所定量以上、MAP積算SOC(後述)が増加する。
上述の更新条件を満たす場合、瞬時充電状態マップ更新ブロック3は、1計算フロー前に求めた制御SOC推定値を放電切替SOCとして、上述の方法により部分充電マップを更新する。
【0056】
同様に、部分放電から部分充電への切替え時には、マップ更新判定ブロック23は、以下の更新条件(c),(d)のいずれかを満たすか否かを判定する。
(c):所定の設定時間以上の間、放電電流が継続して流れる。
(d):放電電流が継続して流れている間に、所定量以上、MAP積算SOCが減少する。
上述の更新条件を満たす場合、瞬時充電状態マップ更新ブロック3は、1計算フロー前に求めた制御SOC推定値を充電切替SOCとして、上述の方法により部分充電マップを更新する。
【0057】
ここで、マップ更新判定ブロック23は、たとえば、ステップS1の後に図示しない記憶装置に格納された実測電流値および時刻を確認することにより、充電の継続時間または放電の継続時間を確認することができ、更新条件(a),(c)が満たされているか否かを判別することができる。
【0058】
なお、マップ更新判定ブロック23による更新条件(a),(c)において、電流の一次遅れ演算を用いることもできる。本実施形態において、電流一次遅れ値演算ブロック25は、ステップS1で測定した実測電流値に時定数(一次遅れ時定数:Tf)を用いた一次遅れ処理を施して電流一次遅れ値を算出し、マップ更新判定ブロック23は、この電流一次遅れ値を充電電流値または放電電流値として、更新条件(a),(c)が満たされたか否かを判別する。電流一次遅れ値は、次式(8)により算出する。なお、算出した電流一次遅れ値は、たとえば、1計算フロー後に電流一次遅れ値前回値として用いるため、図示しない記憶装置に格納する。また、電流一次遅れ値の算出の初回においては、電流一次遅れ前回値は0とすることができる。
電流一次遅れ値= 電流一次遅れ値前回値
+(実測電流値−電流一次遅れ値前回値)/Tf (8)
短い周期で充放電が切り替わる場合、更新条件(a),(c)が満たされない。このとき、充放電が頻回切り替わっているが、所定の設定時間の全体を通して見ると、充放電電流が継続して流れたときと同様に二次電池のSOCが変化している場合であっても、更新条件(a),(c)が満たされないため、マップ更新判定ブロック23は部分充電マップや部分放電マップを更新しないことがある。そこで、電流一次漏れ値を充電電流値または放電電流値として用いることで、短い周期で充放電が切り替わる場合であっても、マップ更新判定ブロック23は部分充電マップや部分放電マップを適切なタイミングで更新することができる。
【0059】
また、マップ更新判定ブロック23による更新条件(b),(d)において、充電電流積算量(MAP積算SOC)の変化を考慮することにより、瞬時充電状態マップ更新ブロック3が瞬時充電状態マップを更新するタイミングを、単に充電から放電、放電から充電に状態が切り替わる毎ではなく、より適切なタイミングとすることができる。
【0060】
瞬時充電状態マップ更新のタイミングの調整は、必ずしも上記の方法に限定されないが、充放電の継続時間または充放電電流積算量のいずれかが所定値を超えた場合に瞬時充電状態マップを更新することにより、二次電池の種類や用途、充放電パターン等に応じて適切なタイミングで瞬時充電状態マップを更新することができる。特に、充放電の継続時間の判定に、電流値に一次遅れ処理を施した電流一次遅れ値を用いることにより、回生電力の吸収や力行電力の補完が頻回に起きる二次電池システムを接続した鉄道変電所のような短い周期で充電と放電が切り替わる用途や、風力発電や太陽光発電等の自然エネルギーを用いた出力が経時的に安定しない発電用途において、より適切に瞬時充電状態マップを更新するタイミングを判断することができる。
【0061】
次に、瞬時充電状態推定ブロック5は、ステップS4で更新された瞬時充電状態マップと、ステップS3で求めた開放電圧値とに基づいて、瞬時SOC推定値を算出する(ステップS5)。本実施形態においては、ステップS1で測定した実測電流値から充電状態か放電状態かを判別し、充電の場合は基準充電マップおよび部分充電マップ、放電の場合は基準放電マップおよび部分放電マップに基づいて、開放電圧値から瞬時SOC推定値を算出する。
【0062】
第3段階では、電流積算SOC推定値を求める。本実施形態の第3段階では、充電効率と電流積算値とに基づくMAP積算SOCを求め、これを電流積算SOC推定値とする。
【0063】
第1段階の前、すなわち二次電池のSOCのモニタリングを始める前に、充電効率を求める。充電効率とは、充電電流量に対する放電電流量の百分率をいう。充電効率の測定は、一定の電流値で所定時間充電を行い、その後放電を行い、充電電流量と放電電流量とを求め、これから充電効率を算出することで行う。充電効率は、電池温度およびSOCにより異なるため、電池温度や充放電するSOC範囲を変えて、繰り返し充電効率の測定を行い、充電効率マップを作成し、図示しない記憶装置に格納する。充電効率マップは、たとえば、
図10に示すように、電池温度およびSOCに対応付けられた充電効率(%)の態様とすることができる。なお、線形補間等の方法を用いて充電効率マップの作成を作成してよいことは、内部抵抗特性マップに内部抵抗値が見つからない場合と同様である。
【0064】
充電効率演算ブロック27は、ステップS1で実測した電池温度と、1計算フロー前に求めた制御SOC推定値と、充電効率マップとに基づいて、充電効率を算出する(ステップS6)。次に、電流積算充電状態推定ブロック7は、充電効率演算ブロック27で算出した充電効率を用いて、MAP積算SOCを次式(9)により算出する(ステップS7)。なお、算出したMAP積算SOCは、たとえば、1計算フロー後にMAP積算SOC前回値として用いられるため、図示しない記憶装置に格納する。
MAP積算SOC(%)= MAP積算SOC前回値(%)
+(充電効率×電流積算SOC(%)の変化量)(9)
【0065】
ここで、「電流積算SOC(%)」とは、充電効率を1として電池を流れた電流値を積算して算出したSOC推定値を意味する。電流積算SOCは、電流積算値のみに基づいて算出した充電状態であり、従来提案された様々な手法で求めることが可能である。また、電流積算SOC(%)の変化量とは、現在の電流積算SOC(%)と1計算フロー前の電流積算SOC(%)との差分である。現在の電流積算SOC(%)は、たとえば、1計算フロー後に電流積算SOC(%)の変化量を求めるために使われるため、図示しない記憶装置に格納する。
【0066】
この計算フローが初回の場合、1計算フロー前は存在しないため、MAP積算SOC(%)や電流積算SOC(%)は存在しない。この場合は、ステップS2において制御SOC推定値が存在しないときと同様の対処を行ってもよいので、詳細は省略する。
【0067】
電流積算SOC推定値は、電池を流れた電流値を積算した電流積算値に基づいて求めてもよい。しかし、上記のように二次電池の充電効率を考慮した値であるMAP積算SOCを用いることにより、電流積算SOC推定値の推定精度を高めることができる。
【0068】
最後に、第4段階では、制御SOC推定値を求めて出力する。第4段階では、まず、制御用充電状態推定ブロック9は、充電状態の領域に応じて設定される時定数(制御SOC算出時定数:Tc)を用いて、瞬間的な充電状態推定値および電流積算値に基づいて、最終的な充電状態推定値である制御SOC推定値を算出する(ステップS8)。
【0069】
具体的には、ステップS5で算出した瞬時SOC推定値と、図示しない記憶装置に格納された制御SOC推定値前回値と、ステップS6で算出したMAP積算SOCと、図示しない記憶装置に格納されたMAP積算SOC前回値とから、次式(10)により制御SOC推定値を求める。
制御SOC推定値(%)
=制御SOC推定値前回値(%)+(MAP積算SOC(%)−MAP積算SOC前回値(%))
+{瞬時SOC推定値(%)−(制御SOC推定値前回値(%)+(MAP積算SOC(%)−MAP積算SOC前回値(%))}/Tc
(10)
【0070】
ただし、式(10)によって算出された制御SOC推定値が所定の設定値(たとえば100)を超える場合には、次式(11)で得られる値を制御SOC推定値とすることが好ましい。
制御SOC推定値(%)=
=制御SOC推定値前回値(%)+(MAP積算SOC(%)−MAP積算SOC前回値(%))
+{瞬時SOC推定値(%)−(制御SOC推定値前回値(%)+(MAP積算SOC(%)−MAP積算SOC前回値(%))}/Tc
+電流積算SOC(%)の変化量
(11)
【0071】
瞬時SOC推定値の算出可能範囲を超えた充電が一度行われると、ステップS5で求めた瞬時SOC推定値の算出値がそのまま高止まりする傾向がある。この結果、二次電池に充電を続けて電流積算値が増加しても、式(10)で算出する制御SOC推定値が変化せず、二次電池の過充電状態を招くおそれがある。そこで、式(10)を電流積算SOC(%)の変化量も考慮するように改めた式(11)により、二次電池が過充電状態となるおそれを効果的に抑止することができる。
【0072】
式(10),(11)で用いた制御SOC算出時定数Tcは、
図11に一例を示すように、制御SOC算出時定数設定器29によって、充電状態の領域に応じて変更することが可能である。例えば、充電状態の変化に対する電圧変化量が大きい領域では、制御SOC算出時定数Tcを小さい値に設定して、開放電圧に基づく瞬時SOC推定値の寄与率を大きくすることが好ましい。一方、充電状態の変化に対する電圧変化量が小さい領域では、開放電圧の微小な変化により瞬時SOC推定値が大きく変化するため、制御SOC算出時定数Tcを大きい値に設定して、開放電圧に基づく瞬時SOC推定値の寄与率を小さくし、電流積算に基づく電流積算SOC推定値の寄与率を大きくすることが好ましい。
【0073】
例えば、ニッケル水素二次電池のように、充電状態の浅い領域と深い領域において充電状態の変化に対する電圧変化が大きく、充電状態の中間領域において充電状態の変化に対する電圧変化が小さい特性を有する二次電池に適用する場合、充電状態の浅い領域(0〜15%)と深い領域(85〜100%)においては、制御SOC算出時定数Tcを小さい値、たとえば900に設定し、充電状態の中間領域(30〜70%)では、制御SOC算出時定数Tcを大きい値、たとえば3600に設定する。充電状態が15〜30%および70〜85%の範囲では、線形補間した時定数を設定する。
【0074】
また、制御SOC算出時定数設定器29は、制御SOC算出時定数Tcを、たとえば、瞬時充電状態マップにおいて、0%から100%までの間の所定の複数の充電状態領域について、充電状態変化に対する電圧変化率を算出し、この電圧変化率と前記充電状態変化に対する電圧変化率の所定の減少関数とから、前記各充電状態領域における時定数を算出して設定することにより自動的に設定することも可能である。より具体的には、以下のように制御SOC算出時定数Tcを設定する。
【0075】
第1に、制御SOC算出時定数設定器29は、時定数算出用SOCグラフを作成し、図示しない記憶装置に格納する。時定数算出用SOCグラフは、様々なものを利用できるが、たとえば、図示しない記憶装置に格納されている、
図5(a)の基準充電マップの完全充電におけるグラフと、
図5(b)の基準放電マップの完全放電におけるグラフとを均等に按分してなる、
図12に示す時定数算出用SOCグラフを作成し、図示しない記憶装置に格納してもよい。第2に、制御SOC算出時定数Tcを算出する所定の減少関数と、時定数算出用SOCグラフとから、制御SOC算出時定数設定器29は、充電状態と制御SOC算出時定数Tcとを対応付けるグラフを作成し、図示しない記憶装置に格納する。たとえば、
図12に示す時定数算出用SOCグラフの場合、充電状態の中間領域(30〜70%)では、充電状態に微小な変化(ΔSOC)が生じても、電圧変化量(ΔV)は小さい。一方、充電状態の浅い領域(0〜15%)や充電状態の深い領域(85〜100%)では、充電状態に微小な変化(ΔSOC)が生じたときの電圧変化量(ΔV)は大きい。
【0076】
上記減少関数は、制御SOC算出時定数Tcを、充電状態変化に対する電圧変化率(ΔV/ΔSOC)に対して負の相関を持つように算出する減少関数である。この減少関数により、充電状態の中間領域では充電状態変化に対する電圧変化率(ΔV/ΔSOC)が小さいので、制御SOC算出時定数Tcは大きい値、たとえば3600が算出される。同様に、この減少関数により、充電状態の浅い領域(0〜15%)や充電状態の深い領域(85〜100%)では、充電状態変化に対する電圧変化率(ΔV/ΔSOC)が大きいので、制御SOC算出時定数Tcは小さい値(たとえば、900)が算出される。なお、充電状態が15〜30%および70〜85%の範囲では、適切な減少関数を用いることで、時定数の設定は線形補間に限られず、様々な手法を取ることができる。第3に、制御SOC算出時定数設定器29は、充電状態が0〜100%の範囲で、任意の充電状態領域に対応する制御SOC算出時定数Tcを算出した後、
図11に示すSOCと制御SOC算出時定数Tcとを対応付けるグラフを作成し、図示しない記憶装置に格納する。
【0077】
その後、制御用充電状態推定ブロック9は、式(10)または式(11)により制御SOC推定値を求めるが、式(10)または式(11)の制御SOC算出時定数Tcは、図示しない記憶装置に格納された制御SOC推定値前回値に基づいて、上述の制御SOC算出時定数設定器29が作成した、
図11に示すSOCと時定数Tcとを対応付けるグラフから求める。
【0078】
制御SOC推定値を算出するにあたり、制御SOC算出時定数Tcを用いなくともよい。しかし、この時定数Tcを用いることにより、充電状態の変化に対する開放電圧値の変化量が充電状態の領域によって大きく異なる二次電池に対して、充電状態の領域に応じて、開放電圧に基づく推定値の寄与率と電流積算値に基づく推定値の寄与率とが適切に調整された制御SOC推定値を算出することができる。
【0079】
さらに、制御SOC算出時定数Tcは、充放電間の休止時間の長さに応じて補正することが好ましい。これは、二次電池の開放電圧は、充放電停止後の休止時間によっても変化するため、開放電圧に基づき算出する推定値の寄与率を下げる必要があることによる。特に、二次電池の充放電停止後の休止時間が長くなると、充放電を再開しても、充放電停止前の開放電圧と同じ開放電圧が得られるようになるまでの時間、すなわち二次電池の状態が回復するまでの時間は長くなるため、開放電圧に基づき算出する推定値に影響を及ぼす。したがって、二次電池の充放電停止後の休止時間と、時定数Tcとには正の相関を持たせることが好ましい。
【0080】
ここで、充放電停止を電流測定器13で検知して、この時刻を図示しない計時手段で測定して図示しない記憶装置に記憶させることで、休止時間を求めることができる。さらに、休止時間に対する所定の増加関数を用意し、上述のように求めた休止時間と、この休止時間に対する増加関数と、現時点の制御SOC算出時定数Tcとから、休止時間を考慮した制御SOC算出時定数Tc’を導出し、これを新たな制御SOC算出時定数としてもよい。なお、増加関数は、休止時間に対する制御SOC算出時定数Tcの加算値を求めるものでもよい。休止時間が0の場合は時定数Tcに対する加算値が0(Tcの変化なし)、10分の場合は加算値を100、20分の場合は加算値を300とする増加関数であってもよい。また、増加関数は、休止時間に対する制御SOC算出時定数Tcの乗率を求めるものであってもよい。たとえば、休止時間が0の場合は時定数Tcに対する乗率が1(Tcの変化なし)、10分の場合は乗率1.1、20分の場合は乗率1.3とする増加関数であってもよい。増加関数は、これらに限らず、様々な形態を取ることができる。このようにすることで、休止時間が長くなるにつれて、制御SOC算出時定数Tcが大きな値となるように補正することができ、充放電間の休止時間の影響を加味したより精度の高い推定が可能となる。
【0081】
さらに、制御SOC算出時定数Tcは、二次電池の充放電電流値に応じて補正することが好ましい。詳細には、充放電電流値が大きい場合は、制御SOC算出時定数Tcの値を大きく設定することで、開放電圧に基づき算出する推定値の寄与率を下げ、電流積算に基づくSOC推定値の寄与率を大きくすることが好ましい。
【0082】
図13に示す充電電流値を変えた場合の開放電圧と充電状態推定値の関係のように、大電流充電時(たとえば、1.0C)において、所定のSOCにおける開放電圧値は、基準充電マップ(0.2C充電時のグラフ)に基づいて求めた電圧値よりも高くなる傾向がある。また、
図14に示す放電電流値を変えた場合の開放電圧と充電状態推定値の関係のように、大電流放電時(たとえば、1.0C)において、所定のSOCにおける開放電圧値は、基準放電マップ(0.2C放電時のグラフ)に基づいて求めた電圧値よりも低くなる傾向がある。この場合、基準充電マップや基準放電マップを用いてSOC推定値を算出すると、実際のSOCよりもずれた値が算出されるため、大電流充放電時に開放電圧に基づき算出するSOC推定値の精度が悪化する。したがって、二次電池の充放電電流値と、制御SOC算出時定数Tcとには正の相関を持たせることが好ましい。さらに、二次電池の充放電電流値に対する所定の増加関数を用意し、当該増加関数と、現時点の制御SOC算出時定数Tcとから、充放電電流値を考慮した制御SOC算出時定数Tc’’を導出し、これを新たな制御SOC算出時定数としてもよい。なお、増加関数は、たとえば、充放電電流値に対する制御SOC算出時定数Tcの加算値を求めるものでもよく、充放電電流値に対する制御SOC算出時定数Tcの乗率を求めるものであってもよい。増加関数は、これらに限らず、様々な形態を取ることができる。このように、制御SOC算出時定数Tcを、充放電電流の大きさに応じて補正することで、開放電圧に基づいて算出するSOC推定値の誤差が大きくなることを抑制することができる。
【0083】
次に、ステップS8で算出した制御SOC推定値を出力する(ステップS9)。制御SOC推定値は、1計算フロー後に用いられるため、図示しない記憶装置に格納される。
【0084】
以上説明した計算フローは、さらに高い精度で充電状態を推定するために、様々な変形が可能である。
【0085】
たとえば、
図3(b)に示す内部抵抗特性マップは、基準状態(たとえば25℃、SOC50%)における内部抵抗値である基準値と、他の状態を当該基準値に対する相対値(たとえば、差分や乗率)で表現したマップとを組み合わせて構成してもよい。この構成により、ある状態(たとえば、10℃、SOC10%)において内部抵抗が変化したときに、内部抵抗特性マップ全体をこの変化に基づいて書き換えることができる。
【0086】
また、上述の実施形態において、内部抵抗特性マップは、充放電開始10秒後の内部抵抗値を用いて作成したが、たとえば、充放電開始後20秒後の内部抵抗値を用いた内部抵抗特性マップや、充放電開始後30秒後の内部抵抗値を用いた内部抵抗特性マップを別途作成し、図示しない記憶装置に記憶させてもよい。これにより、充電状態から放電状態に、または放電状態から充電状態に切り替わる時間を計時することにより、充放電状態が継続した時間を求めることができ、この継続時間に対応する内部抵抗特性マップを用いることができる。その結果、より適切な内部抵抗値を得ることができ、より適切な開放電圧値を求めることができるので、充電状態の推定精度をさらに高めることができる。
【0087】
以上説明したように、本実施形態に係る充電状態の推定方法および推定装置によれば、二次電池の充電状態を、開放電圧値および電流積算値の両方に基づいて二次電池の充電状態を算出するので、長期的には精度が悪化する電流積算値を用いる場合を、開放電圧値を用いて算出する場合が補完することにより、二次電池の充電状態の推定精度が向上する。しかも、開放電圧値と充電状態推定値との関係は、充放電を繰り返すに連れて変化するところ、開放電圧値と充電状態推定値との関係を定める瞬時充電状態マップを充放電履歴に基づいて更新するので、より高い精度で充電状態を推定することが可能となる。
【0088】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。