特許第6548487号(P6548487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548487
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
   E03D 11/08 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   E03D11/08
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-137258(P2015-137258)
(22)【出願日】2015年7月8日
(65)【公開番号】特開2017-20212(P2017-20212A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2017年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 謙一
(72)【発明者】
【氏名】松原 光
【審査官】 油原 博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−012508(JP,A)
【文献】 特開2000−355967(JP,A)
【文献】 特開2012−207503(JP,A)
【文献】 特開2005−213881(JP,A)
【文献】 特開平09−004028(JP,A)
【文献】 特開2011−208362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢部と、前記便鉢部内に洗浄水を吐き出すための吐水部と、を有する便器本体を備え、
前記便鉢部は、汚物を受けるための受け面部と、前記受け面部の上縁部に接続されるリム部と、を有し、
前記吐水部は、前記リム部に形成される三つの吐水口を有し、前記三つの吐水口から前記リム部の内周面に沿って周方向の一方側に洗浄水を吐き出し、
前記便鉢部は、平面視において、前記便器本体の外面部分の左右寸法を二等分する左右中心線と、該便鉢部の内面部分の前後寸法を二等分する前後中心線とで区分けされる四つの分割領域を有し、
前記三つの吐水口は、前記四つの分割領域のうち、三つの分割領域のそれぞれに個別に形成され、
前記吐水部は、前記リム部の裏側に配置され、前記三つの吐水口に洗浄水を供給する中空構造の通水部を有し、
前記リム部は、前記三つの吐水口のそれぞれから前記周方向の一方側に延びるように形成される棚部を有するリム導水路を備え
前記三つの吐水口には、他の二つの吐水口より洗浄水吐出量が多い第1吐水口が含まれ、
前記四つの分割領域のうち、前記第1吐水口が形成される分割領域に対して前記周方向の一方側に隣接する分割領域には、前記他の二つの吐水口が形成されないことを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
便鉢部と、前記便鉢部内に洗浄水を吐き出すための吐水部と、を有する便器本体を備え、
前記便鉢部は、汚物を受けるための受け面部と、前記受け面部の上縁部に接続されるリム部と、を有し、
前記吐水部は、前記リム部に形成される三つの吐水口を有し、前記三つの吐水口から前記リム部の内周面に沿って周方向の一方側に洗浄水を吐き出し、
前記便鉢部は、平面視において、前記便器本体の外面部分の左右寸法を二等分する左右中心線と、該便鉢部の内面部分の前後寸法を二等分する前後中心線とで区分けされる四つの分割領域を有し、
前記三つの吐水口は、前記四つの分割領域のうち、三つの分割領域のそれぞれに個別に形成され、
前記リム部は、前記三つの吐水口のそれぞれから前記周方向の一方側に延びるように形成される三つのリム導水路を有し、
前記吐水部は、前記三つの吐水口のそれぞれの洗浄水吐出量の大小関係が、該三つの吐水口のそれぞれに連なる前記三つのリム導水路の内周長の大小関係と同じになるように構成されることを特徴とする水洗大便器。
【請求項3】
前記三つの吐水口には、他の二つの吐水口より洗浄水吐出量が多い第1吐水口が含まれることを特徴とする請求項2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記第1吐水口は、前記四つの分割領域のうちの後側の分割領域に設けられることを特徴とする請求項1または3に記載の水洗大便器。
【請求項5】
前記四つの分割領域のうち、前記第1吐水口が形成される分割領域に対して前記周方向の一方側に隣接する分割領域には、前記他の二つの吐水口が形成されないことを特徴とする請求項3に記載の水洗大便器。
【請求項6】
前記吐水部は、前記三つの吐水口のそれぞれの洗浄水吐出量の大小関係と、該三つの吐水口のそれぞれの開口面積の大小関係とが同じとなるように構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の水洗大便器。
【請求項7】
前記三つの吐水口は、二つの前側の前記分割領域のうちの前記周方向の一方側にある分割領域と、二つの後側の前記分割領域とのそれぞれに個別に形成されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の水洗大便器。
【請求項8】
前記三つの吐水口のうちの一つの吐水口は、二つの前側の前記分割領域のうちの前記周方向の一方側にある分割領域に形成され、
前記吐水部は、前記一つの吐水口に洗浄水を供給する通水路を有し、
前記通水路は、前記リム部の左右両側の側方部分のうち、前記周方向の一方側の分割領域がある側の側方部分の裏側にて前後方向に沿って延びるように形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の水洗大便器。
【請求項9】
前記通水路の下流端部には、上流側から供給される洗浄水を折り返して前記一つの吐水口に導くように流す折り返し部分が形成され、
前記一つの吐水口は、前記便鉢部の径方向に隣り合う二つの壁部により部分的に形成され、
前記二つの壁部の周方向端部は、前記便鉢部の中心点から延びる仮想線上に並ぶように配置されることを特徴とする請求項8に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大便器の便鉢部内を洗浄するための洗浄方式に関して種々の検討がなされている。特許文献1には、便鉢部の後方に三つの吐水口を設け、三つの吐水口から吐き出される洗浄水の吐き出しモードを切替弁により変更可能に構成した便器洗浄装置が提案されている。本文献では、洗浄水の吐き出しモードとして、三つの吐水口のうちの一つの吐水口のみを用いる吐き出しモードや、二つの吐水口を併用するモードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−9382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、便鉢部は、通常、汚物を受けるための受け面部と、受け面部の上縁部に接続されるリム部とを有する。この便鉢部の洗浄方式としては、リム部に形成された吐水口から、リム部の内周面に沿って周方向の一方側に洗浄水を吐き出すことで、便鉢部内を洗浄する方式が知られる。この洗浄方式では、リム部の吐水口から下向きに洗浄水を吐き出すことで便鉢部内を洗浄する方式よりも、リム部の内周面を含む便鉢部内の広い範囲を洗浄水により洗浄できるため、良好な清潔性を得られるという利点がある。
【0005】
本発明者は、このような洗浄方式に関して検討した結果、以下の課題を認識するに至った。この洗浄方式では、リム部の内周面に沿って洗浄水が流れる途中に、重力により洗浄水が下方に向けて流れ落ちる。よって、良好なリム洗浄能力を得るためには、リム部の内周面全体に洗浄水を届かせるための工夫が必要となる。このような観点のもとで検討すると、特許文献1の便器洗浄装置はリム部の内周面を洗浄するための特別な工夫がなされておらず、リム洗浄能力の面で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、良好なリム洗浄能力を得られる水洗大便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の水洗大便器は、便鉢部と、便鉢部内に洗浄水を吐き出すための吐水部と、を有する便器本体を備え、便鉢部は、汚物を受けるための受け面部と受け面部の上縁部に接続されるリム部と、を有し、吐水部は、リム部に形成される三つの吐水口を有し、三つの吐水口からリム部の内周面に沿って周方向の一方側に洗浄水を吐き出すための吐水部と、を備え、便鉢部は、平面視において、便器本体の外面部分の左右寸法を二等分する左右中心線と、便鉢部の内面部分の前後寸法を前後方向に二等分する前後中心線とで区分けされる四つの分割領域を有し、三つの吐水口は、四つの分割領域のうち、三つの分割領域のそれぞれに個別に形成される。
この態様によれば、四つの分割領域のうち、三つの分割領域のそれぞれに個別の吐水口が形成される。よって、四つの分割領域のうちの二つの分割領域に個別の吐水口を形成するよりも、各吐水口それぞれから周方向の一方側に隣り合う他の吐水口までのリム部の内周長を短くできる。このため、リム部の内周面全体に洗浄水を届かせ易くなり、良好なリム洗浄能力を得られるようになる。
【0008】
前述の態様では、三つの吐水口には、他の二つの吐水口より洗浄水吐出量が多い第1吐水口が含まれてもよい。
この態様によれば、第1吐水口から吐き出される洗浄水により便鉢部内に主流を形成し易くなる。このため、三つの吐水口の位置、洗浄水の吐出方向等を調整することで、便鉢部内での主流の流れ方を様々に設定でき、洗浄水による洗浄態様の自由度を高められる。
【0009】
前述の態様では、第1吐水口は、四つの分割領域のうちの後側の分割領域に設けられてもよい。
第1吐水口に洗浄水を供給する通水路は、他の吐水口より第1吐水口の洗浄水吐出量を多くするため、大きい通路断面積を確保する必要がある。この態様によれば、洗浄水吐出量の多い第1吐水口を後側の分割領域に設けるため、第1吐水口を前側の分割領域に設けるよりも、通路断面積が大きい通水路の前後寸法を抑えられ、吐水部を小型化し易くなる。よって、良好なリム洗浄能力を得つつ、吐水部全体を小型化し易くできる。
【0010】
また、前述の態様では、四つの分割領域のうち、第1吐水口が形成される分割領域に対して周方向の一方側に隣接する分割領域には、他の二つの吐水口が形成されなくともよい。
【0011】
前述の態様では、リム部は、三つの吐水口のそれぞれから周方向の一方側に延びるように形成される三つのリム導水路を有し、吐水部は、三つの吐水口のそれぞれの洗浄水吐出量の大小関係が、三つの吐水口のそれぞれに連なる三つのリム導水路の内周長の大小関係と同じになるように構成されてもよい。
この態様によれば、内周長が長いリム導水路には多くの洗浄水量を流すことができ、そのリム導水路全体に十分量の洗浄水を行き届かせ易くできる。また、内周長が短いリム導水路では少ない洗浄水量を流すことで、そのリム導水路での洗浄水使用量を抑えることができる。このため、リム部の内周面全体に十分量の洗浄水を行き届かせて良好なリム洗浄能力を得つつ、リム部の内周面全体の洗浄に用いられる洗浄水の使用量を抑えやすくできる。
【0012】
前述の態様では、吐水部は、三つの吐水口のそれぞれの洗浄水吐出量の大小関係と、三つの吐水口のそれぞれの開口面積の大小関係とが同じとなるように構成されてもよい。
【0013】
前述の態様では、三つの吐水口は、二つの前側の分割領域のうちの周方向の一方側にある分割領域と、二つの後側の分割領域とのそれぞれに個別に形成されてもよい。
この態様によれば、リム部の前側の左右中心位置を含む内周面領域に小水が当たったとき、この内周面領域に沿って伝わる小水が吐水口から奥側に進入し難くなる。よって、吐水口の奥側に尿成分が残存する可能性を抑えられ、それだけ汚れや臭いの発生を防止できる。
【0014】
前述の態様では、三つの吐水口のうちの一つの吐水口は、二つの前側の分割領域のうちの周方向の一方側にある分割領域に設けられ、吐水部は、一つの吐水口に洗浄水を供給する通水路を有し、通水路は、リム部の左右両側の側方部分のうち、周方向の一方側の分割領域がある側の側方部分の裏側にて前後方向に沿って延びるように形成されてもよい。
この態様によれば、リム部の前側の左右中心位置の裏側を経由しないようなレイアウトで通水路を配置できる。よって、リム部の前側の左右中心位置の裏側を経由するように通水路を配置するより、一つの吐水口に洗浄水を供給するための通水経路を短くすることができ、一つの吐水口から水勢の強い洗浄水を吐き出せるようになる。この結果、更に良好なリム洗浄能力を得られるようになる。
【0015】
また、前述の態様では、通水路の下流端部には、上流側から供給される洗浄水を折り返して一つの吐水口に導くように流す折り返し部分が形成され、一つの吐水口は、便鉢部の径方向に隣り合う二つの壁部により部分的に形成され、二つの壁部の周方向端部は、便鉢部の中心点から延びる仮想線上に並ぶように配置されてもよい。
この態様によれば、一つの吐水口より奥側にて折り返し部分の上流端と下流端とのそれぞれに連なる別々の水路部分が、便鉢部の径方向に並んで形成され難くなる。これにより、吐水口に洗浄水を供給する通水経路の中で最も通路断面積が小さい部位が、一つの吐水口となるような設計をし易くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好なリム洗浄能力を得られる水洗大便器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る水洗大便器の側面断面図である。
図2】実施形態に係る水洗大便器の平面図である。
図3図1のA−A線断面図である。
図4】便器本体の左右中心線と、便鉢部の前後中心線とを説明するための図である。
図5】実施形態に係る便鉢部内での初期段階での洗浄水の流れ方を示す図である。
図6】実施形態に係る便鉢部内での途中段階での洗浄水の流れ方を示す図である。
図7】実施形態に係る便鉢部内での途中段階での洗浄水の流れ方を示す他の図である。
図8】リム部の第1リム導水路〜第3リム導水路の内周長を示す図である。
図9】小水の伝わり方を示す図であり、図9(a)は第1変形例に係る便器本体を示す図であり、図9(b)は実施形態に係る便器本体を示す図である。
図10】洗浄水に付与される遠心力を説明するための図である。
図11図11(a)は実施形態に係る第2吐水口周りの構造を示す図であり、図11(b)は第2変形例に係る第2吐水口周りの構造を示す図である。
図12】第3吐水口周りの構造を示す図である。
図13】作用効果(1)を得られる吐水口の配置パターンの例を示す模式図である。
図14】作用効果(2)を得られる吐水口の配置パターンの例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略する。
【0019】
図1は本実施形態に係る水洗大便器10の側面断面図であり、図2は水洗大便器10の平面図である。
水洗大便器10は、陶器を素材とする便器本体12を備える。便器本体12は、トイレ室の側壁面100に掛けた状態で取り付けられる壁掛け型便器である。便器本体12の上方には、図示しないが、局部洗浄装置等の温水洗浄用装置を収めたボックスや、ボックスに上下に回動可能に支持される便蓋及び便座が配置される。
【0020】
便器本体12は、図1に示すように、便器本体12の前部に形成される便鉢部14と、便鉢部14の底部に形成される入口16(図2も参照)を通して便鉢部14内に連通するトラップ部18とを備える。トラップ部18は、便鉢部14内の汚物を下水側水路(不図示)に排出するための排水通路部20の一部となる。排水通路部20は、トラップ部18の他に、トラップ部18の下流端部に接続される接続管22を備え、これらの内側を通して汚物が下水側水路に排出される。なお、トラップ部18には通水方向の空気の流れを遮断する封水24が貯留され、下水側水路からの臭気の逆流が封水24により防がれる。
【0021】
図3図1のA−A線断面図を示す。
便鉢部14は、図1図3に示すように、平面視にて左右寸法より前後寸法が大きくなるような楕円状に形成される。便鉢部14は、汚物を受けるための受け面部26と、受け面部26の上縁部に接続されるとともに便鉢部14の上縁部を形成するリム部28と、受け面部26の下縁部から下方に窪んで形成される凹部30とを備える。
【0022】
受け面部26及び凹部30は環状に連続して設けられる。受け面部26は、環中心側に向けて下り勾配で傾斜するように形成される。凹部30は有底状に形成され、その底部にはトラップ部18の入口16が開口する。凹部30には封水24の一部が溜められる。
【0023】
リム部28には三つの吐水口32A〜32C(後述する)が形成される。リム部28は、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれから便鉢部14の周方向に延びるように形成される三つのリム導水路34A〜34Cを有する。以下、吐水口32A〜32Cを総称するときは「吐水口32」といい、リム導水路34A〜34Cを総称するときは「リム導水路34」という。
【0024】
リム導水路34は吐水口32から吐き出される洗浄水を旋回させるように導くために形成される。リム導水路34は、図1に示すように、受け面部26の上端縁26aから便鉢部14の外側に向かって延びる棚部34aと、棚部34aの外周端部から立ち上がる立壁部34bと、立壁部34bの上端部から便鉢部14の内側に向かって延びるオーバーハング部34cとを備える。棚部34aの径方向寸法は、図3に示すように、吐水口32から旋回流旋回方向Da(後述する)に離れるにつれて短くなるように形成される。オーバーハング部34cも同様である。これにより、吐水口32から吐き出される洗浄水が、吐水口32から離れるにつれて、徐々に受け面部26に流れ落ちるようになる。
【0025】
三つのリム導水路34には三つの第1吐水口32A〜第3吐水口32Cのそれぞれに対応する第1リム導水路34A〜第3リム導水路34Cが含まれる。第1リム導水路34Aは、平面視において、第2吐水口32Bの近傍、かつ、その内側を終端位置34Aaとして、第1吐水口32Aから終端位置34Aaまで旋回流旋回方向Daに延びるように形成される。第2リム導水路34Bは、第3吐水口32Cの近傍、かつ、その内側を終端位置34Baとして、第2吐水口32Bから終端位置34Baまで旋回流旋回方向Daに延びるように形成される。第3リム導水路34Cは、第1吐水口32Aの近傍、かつ、その内側を終端位置34Caとして、第3吐水口32Cから終端位置34Caまで延びるように形成される。各リム導水路34A〜34Cは、便鉢部14の中心点Cp(後述する)周りの角度範囲のうち、少なくとも1/4周分の角度範囲に亘り延びるように形成される。
【0026】
図4は、便器本体12の左右中心線Laと、便鉢部14の前後中心線Lbとを説明するための図である。
便器本体12の左右中心線Laとは、平面視において、便器本体12の外面部分の左右寸法Lxを二等分して前後方向に沿って延びる直線をいう。詳しくは、便器本体12の外面部分の左端位置12Lから右端位置12Rまでの左右寸法Lxを二等分する直線が左右中心線Laとなる。また、便鉢部14の前後中心線Lbとは、便鉢部14の各吐水口32A〜32Cを通る水平断面の平面視において、便鉢部14の内面部分の前後寸法Lyを二等分して左右方向に沿って延びる直線をいう。詳しくは、便鉢部14の内面部分の前端位置14Fから後端位置14Rまでの前後寸法Lyを二等分する直線が前後中心線Lbとなる。なお、前述の便鉢部14の中心線Cpとは、左右中心線Laと前後中心線Lbとの交点をいう。
【0027】
以上の便鉢部14は、平面視において、便鉢部14の左右中心線Laと前後中心線Lbとで区分けされる四つの分割領域Sr1〜Sr4を有する。以下、四つの分割領域のうち、前後中心線Lbに対して後側の分割領域であって、左右中心線Laに対して右側の分割領域を第1分割領域Sr1とする。また、四つの分割領域のうち、第1分割領域Sr1から平面視で反時計回り方向にある分割領域を順に第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3、第4分割領域Sr4とする。第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3は前側の分割領域となり、第1分割領域Sr1、第4分割領域Sr4は後側の分割領域となる。
【0028】
図3に戻り、便器本体12は、さらに、前述の三つの吐水口32A〜32Cを有する吐水部36を備える。吐水部36は、三つの吐水口32A〜32Cの他に、後述する通水部38を有する。吐水部36は、三つの吐水口32A〜32Cからリム部28の内周面に沿って旋回流旋回方向Daに洗浄水を吐き出すためのものである。吐水部36は、各吐水口32A〜32Cから便鉢部14内に洗浄水を吐き出すことにより、便鉢部14内を一方向に旋回する旋回流を形成する。本実施形態では、便鉢部14の周方向の一方側Da(反時計回り方向)に旋回する旋回流を形成する。以下、この周方向の一方側Daを旋回流旋回方向Daとする。
【0029】
三つの吐水口32A〜32Cは、便鉢部14の四つの分割領域Sr1〜Sr4のうち、三つの分割領域のそれぞれに個別に形成される。詳しくは、三つの吐水口32A〜32Cには、第1分割領域Sr1に位置する第1吐水口32Aと、第3分割領域Sr3に位置する第2吐水口32Bと、第4分割領域Sr4に位置する第3吐水口32Cとが含まれる。いずれの吐水口32A〜32Cも旋回流旋回方向Daに開放するように形成される。
【0030】
通水部38は、リム部28の裏側(便鉢部14の径方向外側)に配置される中空構造の部分である。通水部38は、各吐水口32A〜32Cに連通し、各吐水口32A〜32Cに供給される洗浄水の通り道となる。通水部38は、流入路38aと、右側通水路38b(第1通水路)と、左側通水路38c(第2通水路)と、を有する。流入路38aは、リム部28の後方かつ裏側に配置される。右側通水路38bは、リム部28の左右両側の側方部分のうち、一方の右側方部分28Rの裏側に配置される。左側通水路38cは、リム部28の左右両側の側方部分のうち、他方の左側方部分28Lの裏側に配置される。
【0031】
流入路38aには、図1に示すように、洗浄水供給装置の一部となる給水管102から供給される洗浄水が流入する。図1図2では、給水管102から流入路38aに対する洗浄水の供給経路Raを示す。洗浄水は、リム部28の後方に配置されるとともに流入路38aを区画する後壁部38dに形成される導入孔38eを通して流入路38a内に流入する。洗浄水供給装置は、本実施形態において、水道水の給水圧を用いた水道直圧式の給水方式により洗浄水を供給する。流入路38aは、図3に示すように、洗浄水供給装置からの洗浄水の流入位置Paとなる導入孔38eの前方より左右方向に広がるように形成される。流入路38aの左右方向の一端部には右側通水路38bが連通し、左右方向の他端部には左側通水路38cが連通する。
【0032】
右側通水路38bは、リム部28の右側方部分28Rの裏側にて前後方向に沿って延びるように形成される。右側通水路38bの下流端には第1吐水口32Aが形成される。
【0033】
左側通水路38cには、左側通水路38cの下流端部に形成される折り返し部分38caと、折り返し部分38caに連通するとともに前後方向に沿って延びるように形成される前後延在部分38cbと、が含まれる。左側通水路38cの下流端となる折り返し部分38caの下流端には第2吐水口32Bが形成される。左側通水路38cの前後延在部分38cbには、前後方向の途中位置から旋回流旋回方向Daかつ径方向内側に延びるように分岐部分38ccが形成される。左側通水路38cの途中位置となる分岐部分38ccの下流端には第3吐水口32Cが形成される。前後延在部分38cbの途中位置から分岐部分38ccに至る範囲の内底面38cdは第3吐水口32Cに近づくにつれて上昇するように形成される。
【0034】
右側通水路38b内では流入路38aから供給される洗浄水が第1吐水口32Aに流れるように導かれる(方向Db参照)。左側通水路38cの前後延在部分38cb内では、流入路38aから供給される洗浄水の一部は折り返し部分38ca側に向かって流れ(方向Dc参照)、残部は分岐部分38cc側に向かって導かれるように流れる(方向Dd参照)。折り返し部分38ca内では、上流側の前後延在部分38cbから供給される洗浄水が径方向内側に折り返して第2吐水口32Bに導かれるように流れる(方向De参照)。
【0035】
次に、以上の水洗大便器10を用いた便鉢部14の洗浄方法を説明する。
水洗大便器10は、便鉢部14内の汚物を水の落差を用いてトラップ部18内に押し流す、いわゆる洗い落し式の洗浄方式により便鉢部14内を洗浄する。洗浄水の供給を開始するためのスイッチ、レバー等の操作部材の操作により、水洗大便器10の通水部38内には洗浄水供給装置から所定の流量範囲内の洗浄水が供給される。以下、所定の流量範囲内の洗浄水の供給を開始してから終了するまでの動作を一回の洗浄動作として説明する。
【0036】
洗浄水は通水部38の流入路38a内に流入し、流入した洗浄水は右側通水路38b、左側通水路38cのそれぞれを通して流れつつ各吐水口32A〜32Cから吐き出される。通水部38内が洗浄水で満たされると、洗浄水供給装置により通水部38内の洗浄水に給水圧に応じた水圧が付与され、その水圧が付与された洗浄水が各吐水口32A〜32Cから吐き出される。
【0037】
図5は便鉢部14内での洗浄水の流れ方を示す図である。本図では便鉢部14内に洗浄水が流れ始める初期段階(第1段階)を示す。本図では便鉢部14内での洗浄水の流れに矢印を付して示す。
初期段階において、便鉢部14内には、第1吐水口32A、第3吐水口32Cのそれぞれから洗浄水が吐き出され、第2吐水口32Bからは洗浄水が吐き出されない。第1吐水口32Aから吐き出される洗浄水は、第1リム導水路34Aに沿って旋回する流れDwaを形成する。また、第3吐水口32Cから吐き出される洗浄水は、第3リム導水路34Cに沿って旋回する流れDwbを形成する。各リム導水路34A、34Cに沿って流れる洗浄水は、各リム導水路34A、34Cの棚部34aから受け面部26に徐々に流れ落ち、受け面部26の下方に向かいながら旋回する流れDwcを形成する。
【0038】
このように、各吐水口32A〜32Cの洗浄水の吐き出しを開始するタイミングを調整するため、吐水部36は、通水部38内の洗浄水の流入位置Paから各吐水口32A〜32Cまでの通水経路の長さが予め定めた条件を満たすように設定されている。詳しくは、通水部38内の洗浄水の流入位置Paから第1吐水口32A、第2吐水口32B及び第3吐水口32Cのそれぞれまでの通水経路の長さを長さLa1、La2、La3とする。このとき、第2吐水口32Bの通水経路の長さLa2は、第1吐水口32A、第3吐水口32Cの通水経路の長さLa1、La3より長くなるように設定されている。
【0039】
なお、第1吐水口32A、第3吐水口32Cの洗浄水の吐き出しを開始するタイミングは、本実施形態において、同等のタイミングとなる。ここでの「同等」とは、対比対象となる両者が同一の場合と、ほぼ同一の場合との両方が含まれる。ここでは、洗浄水の吐き出しを開始するタイミングが同じである場合と、ほぼ同じである場合との両方が含まれることを意味する。「同等」の解釈は以下も同様である。
【0040】
図6図7は便鉢部14内での洗浄水の流れ方を示す他の図である。本図では初期段階より時間が経過した後の途中段階(第2段階)を示す。図6図3と同様に水洗大便器10のA−A線断面図を示し、図7は水洗大便器10の側面部分断面図を示す。まずは図6を参照にして説明する。
途中段階において、便鉢部14内には、第1吐水口32A、第3吐水口32Cの他に、第2吐水口32Bからも洗浄水が吐き出される。第1吐水口32A、第3吐水口32Cから吐き出される洗浄水の流れ方は初期段階と同様である。
【0041】
第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水は第2リム導水路34Bに沿って旋回する流れDwdを形成する。第2リム導水路34Bに沿って流れる洗浄水は、第2リム導水路34Bの棚部34aから受け面部26に徐々に流れ落ち、受け面部26の下方に向かいながら旋回する流れDweを形成する。各吐水口32A〜32Cから吐き出される洗浄水により、便鉢部14内を旋回流旋回方向Daに旋回する旋回流として、流れDwa、Dwb、Dwc、Dwd、Dweが形成される。このうち、流れDwc、Dweは、便鉢部14の受け面部26の下方に向かいながら旋回し、受け面部26上から凹部30内に流れ込む。
【0042】
流れDwcには、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水の一部と、第3吐水口32Cから吐き出される洗浄水の一部とが合流して形成される流れDwc(1)が含まれる。流れDwc(1)は、主に、凹部30の後方の受け面部26上で形成される。また、流れDwcには、第3吐水口32Cから吐き出される洗浄水の一部と、第1吐水口32Aから吐き出される洗浄水の一部とが合流して形成される流れDwc(2)が含まれる。流れDwc(2)は、主に、二つの前側の分割領域Sr2、Sr3のうちの上流側の分割領域である第2分割領域Sr2の受け面部26上で形成される。
【0043】
ここで、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水の一部は、第1吐水口32Aから吐き出される洗浄水の一部と合流してトラップ部18の入口16に向かう主流Fwを形成する。主流Fwは、主に、二つの前側の分割領域Sr2、Sr3のうちの下流側の分割領域である第3分割領域Sr3から、第3分割領域Sr3に対して旋回流旋回方向Daに隣接する第4分割領域Sr4にかけての範囲で受け面部26上で形成される。より詳しくは、主流Fwは、便鉢部14の凹部30から見て、二つの前側の分割領域Sr2、Sr3のうちの第3分割領域Srがある側(左側)かつ前側において、第3分割領域Sr3及び第4分割領域Sr4の受け面部26上で形成される(範囲Sa参照)。
【0044】
主流Fwは、第1吐水口32A及び第2吐水口32Bのそれぞれから吐き出される洗浄水が合流することにより、水勢が強く、かつ、大流量の水流となる。この主流Fwは、図6図7に示すように、受け面部26上から凹部30内を経由してトラップ部18の入口16に向かって流れ込む。より詳しくは、主流Fwは、受け面部26上において第3分割領域Sr3から第4分割領域Sr4に向けて、つまり、受け面部26上の前方側から後方側に向けて流れた後、凹部30に対して斜め前側(左側かつ前側)より凹部30内に流れ込む。このとき、便鉢部14の凹部30内の汚物は、前述の旋回流として流れる洗浄水の落差、特に、主流Fwとして流れる洗浄水の落差を用いて、入口16を通してトラップ部18内に押し流される。ここでの「主流Fwとして流れる洗浄水の落差」とは、第1吐水口32A、第2吐水口32Bのそれぞれから吐き出される洗浄水の合流位置からトラップ部18の入口16までの高さの差Hd(図7参照)をいう。
【0045】
凹部30内では、凹部30内に主流Fwが流れ込むことにより、トラップ部18の入口16に向かうような流れの他に、凹部30の右側壁部30a(第1側壁部)に衝突した後に前方に向かうような流れDwfが形成される。この流れDwfは、凹部30の右側壁部30aに沿って流れた後に、左側壁部30bに衝突するように流れる。この流れDwfは、凹部30の右側壁部30aや左側壁部30bに衝突するときの勢いにより、押し上げられるように上昇しつつ流れようとする。この上昇した流れDwfは、受け面部26上の前方側から後方側に向けて凹部30内に流れ込む流れDwc(2)と合流することにより(範囲Sb参照)、トラップ部18の入口16に向かう流れDwgを形成する。この流れDwgも、流れDwc(2)と同様に、便鉢部14内の前方側から後方側に向かうように流れる。
【0046】
以上の水洗大便器10の作用効果を説明する。
(1)以上の水洗大便器10によれば、四つの分割領域Sr1〜Sr4のうち、三つの分割領域のそれぞれに個別の吐水口32A〜32Cが形成される。よって、四つの分割領域Sr1〜Sr4のうちの二つの分割領域に個別の吐水口を形成するよりも、各吐水口32A〜32Cそれぞれから旋回流旋回方向Daに隣り合う他の吐水口までのリム部28の内周長を短くできる。仮に、二つの分割領域に個別に吐水口を形成した場合を考える。リム部28の内周面に沿って流れる洗浄水は重力により下方に向けて流れ落ちる。よって、この場合、吐水口から他の吐水口までのリム部28の内周長が長くなることで、吐水口から離れた位置には十分量の洗浄水が届き難くなる。この点、本実施形態によれば、リム部28全体で吐水口から他の吐水口までのリム部28の内周長を短くできるため、リム部28の内周面全体に洗浄水を届かせ易くなり、良好なリム洗浄能力を得られるようになる。
【0047】
(2)また、トラップ部18の入口16に向かう主流Fwは、第1吐水口32Aから吐き出される洗浄水と、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水とが合流して形成される。この第2吐水口32Bは前側の第3分割領域Sr3にあるため、後側の分割領域に設けられるよりも、第2吐水口32Bからトラップ部18の入口16までの間で洗浄水が流れる経路を短くできる。この結果、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水により形成される主流Fwの水勢が強くなり、強水勢の主流Fwにより便鉢部14内の汚物をトラップ部18の入口16に押し流すことで、良好な汚物排出性能が得られるようになる。
【0048】
また、トラップ部18の入口16に向かう主流Fwは、第1吐水口32Aから吐き出される洗浄水と、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水とが受け面部26上、つまり、便鉢部14の内周面上において合流して形成される。よって、強水勢の主流Fwにより受け面部26を洗浄でき、良好な便鉢洗浄性能を得られるようになる。
【0049】
また、良好なリム洗浄能力、汚物排出性能、便鉢洗浄性能を得るうえでは、一回の便器洗浄に用いられる全洗浄水量を増やしたり、吐水口の開口面積を大きくして洗浄水吐出量を増やす手法も考えられる。この点、本実施形態によれば、一回の便器洗浄に用いられる全洗浄水量を増大させなくともよいため、全洗浄水量の増大を防止しつつ良好なリム洗浄能力、汚物排出性能、便鉢洗浄性能を得られるようになる。また、吐水口の開口面積を大きくしなくともよいため、吐水口の開口面積の増大を防止しつつ良好なリム洗浄能力、汚物排出性能、便鉢洗浄性能を得られるようになる。特に、吐水口の開口面積の増大を防止できるため、吐水口の寸法を小さくすることで、良好な見栄えを得つつ良好なリム洗浄能力、汚物排出性能、便鉢洗浄性能を得られるようになる。
【0050】
また、リム部28の内周面全体に洗浄水を届かせるうえでは、一の吐水口から他の吐水口までのリム部28の内周長が長くなるほど、一の吐水口の洗浄水吐出量を多くしなければならないうえ、一の吐水口に連なるリム導水路34の寸法も大きくする必要がある。この点、本実施形態によれば、リム部28に二つの吐水口を形成する場合よりも、一の吐水口から他の吐水口までのリム部28の内周長を短くできる。よって、リム部28の内周面全体に洗浄水を届かせるうえで、三つの吐水口32A〜32Cの洗浄水吐出量を少なくすることができるうえ、リム導水路34の棚部34aの幅や立壁部34bの高さ等の寸法を小さくできる。
【0051】
また、吐水部36は、第1吐水口32A及び第3吐水口32Cから洗浄水が吐き出された後に第2吐水口32Bから洗浄水が吐き出されるように構成されるため、以下の利点がある。一回の洗浄動作に用いられる全洗浄水量に対する主流Fwの流量である主流流量の割合を増やせると、全洗浄水量を増やさずに主流流量を増大させることができ、主流流量の増大により汚物排出能力、便鉢洗浄能力を高められる。本実施形態によれば、第2吐水口32Bから吐き出されて合流せずに入口16に流れ込む洗浄水量を減らせるため、全洗浄水量に対する主流流量の割合を増やすことができる。よって、全洗浄水量を増やすことなく、主流流量の割合の増大により汚物排出能力、便鉢洗浄能力を高められる。
【0052】
次に、第1吐水口32A〜第3吐水口32Cに関する他の特徴を説明する。
吐水部36は、第1吐水口32Aの洗浄水吐出量が最も多く、第2吐水口32Bの洗浄水吐出量が次に多く、第3吐水口32Cの洗浄水吐出量が最も少なくなるように構成される。つまり、第1吐水口32A、第2吐水口32B及び第3吐水口32Cの順で洗浄水吐出量が少なくなるように構成される。別の観点からいうと、他の二つの第2吐水口32B、第3吐水口32Cより第1吐水口32Aの方が洗浄水吐出量が多くなるように構成される。ここでの洗浄水吐出量とは吐水口を通る単位時間当たりの洗浄水の流量(L/s)をいう。
【0053】
このような各吐水口32A〜32Cの洗浄水吐出量の大小関係を満たすため、吐水部36は、次のように構成される。洗浄水供給装置からの洗浄水の流入位置Pa(図3参照)から各吐水口32A〜32Cまでの通水部38内での通水経路を検討する。通水経路は、第1吐水口32A〜第3吐水口32Cのそれぞれに対応する通水経路があるとする。吐水口の洗浄水吐出量は、吐水口に洗浄水を供給する通水経路の中で最も通路断面積が小さい部位(以下、流量設定部という)の通路断面積に比例した大きさとなる。本実施形態において、第1吐水口32Aの流量設定部は、第1吐水口32Aの通水経路の下流端にある第1吐水口32Aそのものとなる。第2吐水口32Bの流量設定部も第2吐水口32Bそのものとなり、第3吐水口32Cの流量設定部も第3吐水口32Cそのものとなる。
【0054】
吐水部36は、第1吐水口32Aの通路断面積である開口面積が最も大きく、第2吐水口32Bの開口面積が次に大きく、第3吐水口32Cが最も小さくなるように構成される。つまり、第1吐水口32A、第2吐水口32B及び第3吐水口32Cの順で開口面積が小さくなるように構成される。別の観点からいうと、第2吐水口32B、第3吐水口32Cより第1吐水口32Aの方が開口面積が大きくなるように構成される。ここでの開口面積(通路断面積)とは、通水方向に直交する断面での断面積をいう。これにより、各吐水口32A〜32Cのそれぞれの洗浄水吐出量の大小関係は、各吐水口32A〜32Cのそれぞれの開口面積の大小関係と同じとなるように構成される。
【0055】
図8は、リム部28の各リム導水路34A〜34Cの内周長Lb1〜Lb3を示す図である。
ここでの内周長とは、リム部28を通る水平断面において、各リム導水路34A〜34Cの始端位置にある各吐水口32A〜32Cから、各リム導水路34A〜34Cの終端位置34Aa〜34Caまでの範囲の内周面の長さをいう。たとえば、第1リム導水路34Aの内周長Lb1は、第1吐水口32Aから第1リム導水路34Aの終端位置34Aaまでの範囲の内周面の長さとなる。
【0056】
リム部28は、第1リム導水路34Aの内周長Lb1が最も長く、第2リム導水路34Bの内周長Lb2が次に長く、第3リム導水路34Cの内周長Lb3が最も短くなるように形成される。つまり、内周長Lb1、内周長Lb2、内周長Lb3の順で短くなるように形成される。これらの内周長Lb1、Lb2、Lb3の比は、たとえば、Lb1:Lb2:Lb3=5:3:2となる。
【0057】
吐水部36は、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれの洗浄水吐出量の大小関係が、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれに連なる第1リム導水路34A〜第3リム導水路34Cの内周長Lb1〜L3の大小関係と同じになるように構成される。たとえば、最も内周長Lb1が長い第1リム導水路34Aに連なる第1吐水口32Aは、最も洗浄水吐出量が多くなる。また、最も内周長Lb3が短い第3リム導水路34Cに連なる第3吐水口32Cは、最も洗浄水吐出量が少なくなる。
【0058】
より詳しくは、吐水部36は、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれの洗浄水吐出量の比が、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれに連なる第1リム導水路34A〜第3リム導水路34Cの内周長Lb1〜Lb3の比と、同等になる関係を満たすように構成される。たとえば、内周長Lb1〜Lb3の比が5:3:2である場合、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれの洗浄水吐出量の比は、5:3:2と同等の関係を満たすように構成される。なお、吐水部36は、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれの洗浄水吐出量の比が、三つの吐水口32A〜32Cのそれぞれの開口面積の比と、同等になる関係を満たすように構成される。
【0059】
前述の特徴によれば、第1吐水口32Aは他の第2吐水口32B、第3吐水口32Cより洗浄水吐出量が多いため、第1吐水口32Aから吐き出される洗浄水により便鉢部14内に主流Fwを形成し易くなる。このため、各吐水口32A〜32Cの位置、洗浄水の吐出方向等を調整することで、便鉢部14内での主流Fwの流れ方を様々に設定でき、洗浄水による洗浄態様の自由度を高められる。
【0060】
また、三つの吐水口32A〜32Cの洗浄水吐出量の大小関係が、三つの吐水口32A〜32Cに連なる第1リム導水路34A〜第3リム導水路34Cの内周長の大小関係と同じになるように構成される。よって、内周長が長い第1リム導水路34Aには多くの洗浄水量を流すことができ、第1リム導水路34A全体に十分量の洗浄水を行き届かせ易くできる。また、内周長が短い第3リム導水路34Cでは少ない洗浄水量を流すことで、第3リム導水路34Cでの洗浄水使用量を抑えることができる。このため、リム部28の内周面全体に十分量の洗浄水を行き届かせて良好なリム洗浄能力を得つつ、リム部28の内周面全体の洗浄に用いられる洗浄水の使用量を抑えやすくできる。
【0061】
また、他の二つの吐水口32B、32Cより洗浄水吐出量が多い第1吐水口32Aは後側の第1分割領域に設けられるため、以下の利点がある。第1吐水口32Aに洗浄水を供給する右側通水路38bは、他の吐水口32B、32Cより第1吐水口32Aの洗浄水吐出量を多くするため、左側通水路38cよりも大きい通路断面積を確保する必要がある。本実施形態によれば、洗浄水吐出量の多い第1吐水口32Aを後側の分割領域に設けるため、第1吐水口32Aを前側の分割領域に設けるよりも、通路断面積が大きい右側通水路38bの前後寸法を抑えられ、吐水部36を小型化し易くなる。よって、良好なリム洗浄能力、汚物排出能力、便鉢洗浄能力を得つつ、吐水部36全体を小型化し易くできる。
【0062】
なお、吐水部36は、第1吐水口32A及び第2吐水口32Bの洗浄水吐出量の合計量(以下、合計吐出量ともいう)が、第3吐水口32Cの洗浄水吐出量より多くなるように構成される。これにより、一回の洗浄動作で用いられる全洗浄水量に対して半分以上の洗浄水量を主流Fwの形成に用いることを期待できる。よって、強水勢の主流Fwの流量を多くでき、強水勢、大流量の主流Fwにより便鉢部14の受け面部26を洗浄することで、さらに良好な便鉢洗浄能力を得られるようになる。また、強水勢、大流量の主流Fwにより、便鉢部14内の汚物をトラップ部18の入口16に押し流すことで、特に良好な汚物排出性能を得られるようになる。このような作用効果を得る観点から、吐水部36は、一回の洗浄動作で用いられる全洗浄水量に対する第1吐水口32A及び第2吐水口32Bの合計吐出量の割合が60%〜80%となるように構成されると好ましい。ここでの全洗浄水量とは、第1吐水口32A〜第3吐水口32Cのそれぞれの洗浄水吐出量の合計量と同義である。
【0063】
また、吐水部36は、一回の洗浄動作で用いられる全洗浄水量に対する、第1吐水口32Aの洗浄水吐出量の割合が40%〜60%となるように構成されると好ましい。
【0064】
第1吐水口32A〜第3吐水口32Cに関する更に他の特徴を説明する。
第1吐水口32A〜第3吐水口32Cは、図3に示すように、二つの前側の第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3のうちの旋回流旋回方向Daの下流側にある第3分割領域Sr3と、二つの後側の第1分割領域Sr1、第4分割領域とのそれぞれに個別に形成される。言い換えると、第1吐水口32A〜第3吐水口32Cは、二つの前側の第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3のうちの旋回流旋回方向Daの上流側にある第2分割領域Sr2には形成されない。
【0065】
この利点を説明する。図9(a)は第1変形例に係る便器本体12を示す図である。本例では、第2分割領域Sr2に第2吐水口32Bが形成される。
水洗大便器10の便座に着座した状態で使用者が小用をする場合、便鉢部14の受け面部26で受けた小水が周囲に飛び散ることがある(方向Df参照)。このとき、リム部28の前側の左右中心位置28aを含む内周面領域に飛び散った小水が当たると、この内周面領域に周方向に沿って小水が伝わることで、第2吐水口32Bから右側通水路38b内にまで進入する可能性がある。
【0066】
この点、本実施形態によれば、図9(b)に示すように、リム部28の前側の左右中心位置28aを含む内周面領域に小水が当たったとき、この内周面領域に周方向に沿って伝わる小水が第2吐水口32Bから左側通水路38c内の奥側に進入し難くなる。よって、第2吐水口32Bの奥側(吐水部36の通水部38内)に尿成分が残存する可能性を抑えられ、それだけ汚れや臭いの発生を防止できる。従って、良好なリム洗浄能力を得つつ良好な清潔性を得られるようになる。
【0067】
前述の構成によれば、以下の利点もある。図10図9(a)の第1変形例に係る便器本体12を示す図である。
便鉢部14の内周面に沿って流れる洗浄水には径方向外側に向かう遠心力Fcが付与される。この遠心力Fcは洗浄水が流れる箇所の曲率半径が小さくなるほど大きくなり、この遠心力が大きくなるほど、トラップ部18の入口16に向かって流れる水流の水勢が弱まりやすくなる。
【0068】
仮に、第2分割領域Sr2に第2吐水口32Bが設けられる場合を考える。この場合、吐水口32から吐き出される洗浄水はリム部28の前側の左右中心位置Paにある内周面領域を経由して流れるようになる。この左右中心位置Paにある内周面領域は、便鉢部14が左右寸法より前後寸法の方が大きい楕円状に形成されることから、通常、他の位置より曲率半径が小さくなり易い。従って、第2分割領域Sr2に第2吐水口が設けられると、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水の水勢が遠心力Fcにより弱まりやすくなる。
【0069】
この点、本実施形態によれば、第2吐水口32Bは第3分割領域Sr3に配置されるため、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水を、曲率半径が小さいリム部28の左右中心位置Paにある内周面領域を経由せずに、トラップ部18の入口16に向けて流せるようになる。従って、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水により形成される主流Fwは遠心力Fcにより水勢が弱まりにくくなり、第2吐水口32Bを第2分割領域Sr2に配置するよりも、良好な便鉢洗浄能力、汚物排出能力を得られるようになる。
【0070】
水洗大便器10の他の特徴を説明する。
図3を参照する。第2吐水口32Bに洗浄水を供給する左側通水路38cは、左側方部分28Lの裏側にて前後方向に沿って延びるように形成される。この左側通水路38cは、リム部28の左側方部分28L、右側方部分28Rのうち、第2吐水口32Bが形成される第3分割領域Sr3がある側の左側方部分28Lの裏側にて形成される。この左側通水路38cは、平面視において、左側方部分28Lの裏側にて前後中心線Lbを跨ぐように形成される。別の観点からは、左側通水路38cは、リム部28の右側方部分28Rの裏側にて前後中心線Lbを跨ぐようには形成されていない。この利点を説明する。
【0071】
前述の構成によれば、リム部28の前側の左右中心位置Pb裏側を経由しないようなレイアウトで左側通水路38cを配置できる。よって、リム部28の左右中心位置Pbの裏側を経由するように通水路を配置するよりも、洗浄水の流入位置Paからの通水経路を短くすることができ、第2吐水口32Bから水勢の強い洗浄水を吐き出せるようになる。この結果、更に良好なリム洗浄能力、便鉢洗浄能力、汚物排出能力を得られるようになる。この効果は、第2吐水口32Bの位置が便鉢部14の第3分割領域Sr3の後側に近づくほど効果的に得られる。
【0072】
また、仮に、リム部28の前側の左右中心位置Pb裏側を経由するように通水路を配置する場合、第1吐水口32A用の通水路と第2吐水口32B用の通水路とをリム部28の右側方部分28Rの裏側にて左右方向に並べて配置する必要がある。この点、前述の構成によれば、第1吐水口32A用の右側通水路38bと第2吐水口32B用の左側通水路38cとをリム部28の右側方部分28Rの裏側に左右方向に並べて配置せずともよくなる。よって、リム部28の右側方部分28Rの裏側部分の幅寸法を小さくできる。これにより、図1図2に示すように、便器本体12の上面部12aのうちの、便鉢部14の上端縁から側方に延びる側方部分12bの幅寸法を小さくできる。
【0073】
第2リム導水路34Bの内周面には、第2吐水口32Bから旋回流旋回方向Daに離れた位置に直線状に延びる直線区間34Bbが形成される。第2リム導水路34Bの内周面には、第2吐水口32Bから直線区間34Bbまでの連続する範囲において、第2吐水口32Bから離れるにつれて曲率が小さくなるように形成される曲率減少区間34Bcが形成される。また、第3リム導水路34Cの内周面にも、第3吐水口32Cから旋回流旋回方向Daに離れた位置に直線状に延びる直線区間34Cbが形成される。第3リム導水路34Cの内周面にも、第3吐水口32Cから直線区間34Cbまでの連続する範囲において、第3吐水口32Cから離れるにつれて曲率が小さくなるように形成される曲率減少区間34Ccが形成される。
【0074】
このように、各リム導水路34B、34Cの内周面には、各吐水口32B、32Cから連続する曲率減少区間34Bc、34Cbが形成される。よって、各吐水口32B、32Cから吐き出されてから直線区間34Bb、34Caを通るまでの範囲で、各吐水口32B、32Cから吐き出された直後の水勢の強い洗浄水は曲率半径が大きい区間を流れるため、その範囲を流れる洗浄水には大きい遠心力が付与され難くなる。このため、各吐水口32B、32Cから吐き出された後にトラップ部18の入口16に向かう水流が、各吐水口32B、32Cから吐き出された直後の水勢の強い状態から弱まり難くなる。この結果、それだけ強い水勢の水流により汚物を押し込めるようになり、更に良好な汚物排出性能を得られるようになる。
【0075】
図11(a)は実施形態に係る第2吐水口32B周りの構造を示す図である。
第2吐水口32Bは便鉢部14の径方向に隣り合う内側の立壁部34b(以下、内側立壁部34b(1)ともいう)と外側の立壁部34b(以下、外側立壁部34b(2)ともいう)とにより部分的に形成される。二つの立壁部34bのうち、外側立壁部34b(2)の周方向端部34baと、内側立壁部34b(1)の周方向端部34bbとは、便鉢部14の中心点Cpから延びる仮想線Lc上に並ぶように配置される。ここでの「並ぶ」には、便鉢部14の中心点Cpから見て、二つの立壁部34bが周方向に重なる角度範囲が3°以下となるように並ぶ場合が含まれる。二つの立壁部34bは、便鉢部14の中心点Cpから見て、周方向に重なる角度範囲が3°以下となるように配置されるともいえる。この利点を説明する。
【0076】
図11(b)は第2変形例に係る第2吐水口32B周りの構造を示す図である。仮に、図11(b)に示すように、二つの立壁部34bの周方向端部34ba、34bbが仮想線Lc上に並ばずに、二つの立壁部34bの周方向に重なる角度範囲が大きくなる場合を考える。この場合、折り返し部分38caの上流端と下流端とのそれぞれに連なる別々の水路部分40が径方向に並んで形成される。ここで、折り返し部分38caにて径方向に対向する二つの内壁面38fは、折り返し部分38caに対して径方向内側にリム導水路34Aを形成等する関係上、折り返し部分38caの突き当たり位置38gに向かうにつれて幅狭となるように形成され易くなる。よって、各水路部分40の幅寸法も、折り返し部分38caに近づくほど狭くなるように形成され易くなる。このため、左側通水路38cの前後延在部分38cbから折り返し部分38caを経由して第2吐水口32Bに至る経路Rbの中で、第2吐水口32Bより通路断面積が小さい箇所が内側立壁部34bの径方向両側に形成され易くなる(範囲Sc参照)。この結果、第2吐水口38Bに連なる通水経路の中で最も通路断面積が小さい部位、つまり、前述の流量設定部が、第2吐水口32Bとなるような設計をし難くなる。
【0077】
一方、前述のように、二つの立壁部34bの周方向端部34ba、34bbが仮想線Lc上に並ぶように形成されていれば、折り返し部分38caの上流端と下流端とのそれぞれに連なる別々の水路部分40が径方向に並んで形成され難くなる。これにより、前述の経路Rbの中で、第2吐水口32Bより通路断面積が小さい箇所が形成され難くなり、第2吐水口32Bが流量設定部となるような設計をし易くなる。
【0078】
なお、第2吐水口32Bは、便鉢部14の前側の分割領域Sr3に形成されるため、通常使用時、使用者により視認され難い位置にある。よって、第2吐水口32Bを形成する二つの立壁部34bの周方向端部34ba、34bbが並ぶように配置されており、場合によっては第2吐水口32Bから奥側を覗き込めるような構造であっても、第2吐水口32Bそのものを視認し難くすることで意匠性の低下を防止できる。なお、ここでの「通常使用時」とは、水洗大便器10に前方より近づいてから便座に座って用便するような状況をいう。
【0079】
図12は第3吐水口32C周りの構造を示す図である。
平面視において、左側通水路38cと前後中心線Lbとが重なる位置での左側通水路38cの幅寸法をW1とする。左側通水路38cには、前後中心線Lbより後方に向かうにつれて幅寸法が徐々に大きく幅変化領域38hが形成される。この幅変化領域38hにおいて、幅寸法W1の二倍の幅寸法W2となる位置38iを基準位置38iとしたとき、第3吐水口32Cは、この基準位置38iより後方に形成される。仮に、基準位置38iより前方位置(たとえば、範囲Sd)に第3吐水口32Cが形成される場合、その周囲に第3吐水口32Cに洗浄水を導くための壁部分を確保する必要があるため、その周囲から第2吐水口32Bに向かう通水路が狭くなり易くなる。一方、基準位置38iより後方に第3吐水口32Cが形成されていれば、第3吐水口32Cに洗浄水を導くための壁部分により、第2吐水口32Bに向かう通水路が狭くなり難くなり、第2吐水口32Bに十分量の洗浄水を供給し易くなる。
【0080】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示すにすぎない。また、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。
【0081】
水洗大便器10は、洗浄方式として洗い落し式を用いる例を説明したが、サイホン式、サイホンゼット式等の他方式と組み合わせた洗浄方式により便鉢部14内を洗浄してもよい。水洗大便器10は、給水方式として水道直圧式を用いる例を説明したが、この他にも重力を用いた重力給水式、フラッシュバルブ式等の給水方式が用いられてもよい。便器本体12は壁掛け式便器を例に説明したが、トイレ室の床面上に設置される床置き式便器でもよい。また、便器本体12は陶器の他に樹脂等を素材としてもよい。
【0082】
また、リム導水路34の棚部34aは、受け面部26の上端縁26aに連なる上面部分の勾配が、受け面部26の上端縁26aに連なる受け面部26の内面部分の勾配より緩やかになるように形成されていればよい。このような条件を満たしていれば、棚部34aの上面部分は、図1等に示すように平面状に形成されていてもよいし、円弧状に形成されていてもよい。また、リム導水路34は、旋回流旋回方向Dに直交する鉛直断面の形状が、リム導水路34の棚部34aの上面部分と、オーバーハング部34cの下面部分とにより連続する曲面状に形成されてもよい。また、リム導水路34はオーバーハング部34cがなくともよい。また、三つのリム導水路34A〜34Cは、終端位置34Aa、34Ba、34Caにおいて、他のリム導水路と連続せずに分断されるように形成される例を説明したが、他のリム導水路と連続するように形成されてもよい。
【0083】
また、前述の作用効果(1)を得る観点からは、三つの吐水口32A〜32Cは、四つの分割領域Sr1〜Sr4のうち、三つの分割領域のそれぞれに個別に形成されていればよい。この観点からは、三つの吐水口32A〜32Cの位置は実施形態の内容に限られない。
【0084】
図13は、作用効果(1)を得られる吐水口32A〜32Cの配置パターンの例を示す模式図である。
作用効果(1)を得る観点からは、たとえば、図13(a)に示すように、第1分割領域Sr1に第1吐水口32A、第2分割領域Sr2に第2吐水口32B、第4分割領域Sr4に第3吐水口32Cを形成してもよい。また、図13(b)に示すように、第1分割領域Sr1に第1吐水口32A、第2分割領域Sr2に第2吐水口32B、第3分割領域Sr3に第3吐水口32Cを形成してもよい。また、図13(c)に示すように、第2分割領域Sr2に第1吐水口32A、第3分割領域Sr3に第2吐水口32B、第4分割領域Sr4に第3吐水口32Cを形成してもよい。このように、最も洗浄水吐出量が多い第1吐水口32Aは後側の分割領域ではなく前側の分割領域に形成してもよい。いずれの場合においても、四つの分割領域Sr1〜Sr4のうち、一つの分割領域には吐水口を形成せず、他の三つの分割領域には個別に吐水口を形成するともいえる。
【0085】
また、三つの吐水口32A〜32Cは、四つの分割領域Sr1〜Sr4のうち、三つの分割領域のそれぞれに少なくとも一つが含まれるように形成されていればよく、隣接する分割領域に跨がるように形成されてもよい。たとえば、第2吐水口32Bを第3分割領域Sr3、第3吐水口32Cを第4分割領域Sr4に形成しつつ、第1吐水口32Aを第1分割領域Sr1、第2分割領域Sr2に跨がるように形成してもよい。また、この他にも、第2吐水口32Bを隣接する分割領域に跨がるように形成してもよいし、第3吐水口32Cを隣接する分割領域に跨がるように形成してもよい。また、前述の作用効果(1)を得る観点から、三つの吐水口32A〜32Cは、便鉢部14の中心点Cpから見て、1/4周分以上の角度範囲が離れるように配置されていてもよい。また、三つの吐水口32A〜32Cの洗浄水吐出量、開口面積は実施形態の内容に限られない。たとえば、三つの吐水口32A〜32Cの洗浄水吐出量を同じにしてもよいし、三つの吐水口32A〜32Cのうちの二つの吐水口の洗浄水吐出量のみを同じにしてもよい。
【0086】
また、前述の作用効果(2)を得る観点からは、三つの吐水口32A〜32Cを形成することは必須にならず、少なくとも二つの吐水口が形成されていればよい。ここで、便鉢部14が前後中心線Lbで区分けされる二つの分割領域を有するとする。ここでの二つの分割領域とは、図3の例でいえば、一つは第1分割領域Sr1、第4分割領域Sr4から構成され、もう一つは第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3から構成される。この場合に、二つの吐水口には、二つの分割領域Sr1〜Sr4のうち、いずれかの分割領域に形成される第1吐水口32Aと、前側の分割領域に形成される第2吐水口32Bとが含まれていればよい。この場合に、第2吐水口32Bは第1吐水口32Aが形成される分割領域と同じ分割領域に形成されてもよいし、他の分割領域に形成されてもよい。これら二つの吐水口32A、32Bの位置は実施形態の内容に限られない。
【0087】
図14は作用効果(2)を得ることができる吐水口32A、32Bの配置パターンの例を示す模式図である。
作用効果(2)を得る観点からは、たとえば、図14(a)に示すように、第1分割領域Sr1に第1吐水口32A、第3分割領域Sr3に第2吐水口32Bを形成してもよい。また、図14(b)に示すように、第2分割領域Sr2に第1吐水口32A、第3分割領域Sr3に第2吐水口32Bを形成してもよい。また、この他にも、図14(c)に示すように、第4分割領域Sr4に第3吐水口32Cを更に形成してもよい。
【0088】
また、便鉢部14のリム部28の各吐水口32A〜32Cは上下方向に位置が重なるように配置される例を説明した。この他にも、リム部28の各吐水口32A〜32Cは、各吐水口32A〜32Cのうちのいずれか一つ、又は、すべての吐水口32A〜32Cが上下方向に位置が重ならず、上下方向にずれた位置に配置されてもよい。この場合、便鉢部14の前後中心線Lbは、最も下側の吐水口を通る水平断面の平面視において、便鉢部14の内面部分の前後寸法を二等分して左右方向に沿って延びる直線により定められる。
【0089】
また、前述のように、吐水部36は、第1吐水口32Aから吐き出される洗浄水と、第2吐水口32Bから吐き出される洗浄水とを合流させて排水通路部の入口16に向かう主流Fwを形成するように構成される。吐水部36は、各吐水口32A、32Bの位置、洗浄水吐出量及び洗浄水吐出方向の少なくともいずれかを調整することで、このような主流Fwを形成するように構成できる。
【0090】
また、第1吐水口32A、第3吐水口32Cの洗浄水の吐き出しを開始するタイミング(以下、吐き出し開始タイミングという)は同等である例を説明した。この吐き出し開始タイミングは、第2吐水口32Bの洗浄水の吐き出し開始タイミングより早ければよく、第1吐水口32Aと第3吐水口32Cとの間で吐き出し開始タイミングがずれていてもよい。
【0091】
また、吐水部36は、各吐水口32A〜32Cの洗浄水吐出量を調整するため、吐水口32A〜32Cに対応する通水経路の通路断面積を調整する例を説明した。この他にも、各吐水口32A〜32Cに対する通水経路の途中に設けた絞り弁等により洗浄水吐出量を調整してもよい。また、各吐水口32A〜32Cの洗浄水の吐き出しを開始するタイミングを調整するために電気駆動弁等の弁機構を用いてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10…水洗大便器、12…便器本体、14…便鉢部、16…入口、20…排水通路部、26…受け面部、28…リム部、28L…左側方部分、28R…右側方部分、32A…第1吐水口、32B…第2吐水口、32C…第3吐水口、36…吐水部、38b…右側通水路(第1通水路)38c…左側通水路(第2通水路)、Sr1〜Sr4…分割領域、La…左右中心線、Lb…前後中心線。
図1
図2
図3
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図11
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