特許第6548558号(P6548558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548558
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】運動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   F16C29/06
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-228550(P2015-228550)
(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2017-96382(P2017-96382A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128749
【弁理士】
【氏名又は名称】海田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎史
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐次
(72)【発明者】
【氏名】島村 武志
【審査官】 西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−180723(JP,A)
【文献】 特開2000−346065(JP,A)
【文献】 特開2001−099152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線部および所定の曲率半径で円弧状に形成された曲線部を含むとともに、両側面の長手方向に沿って転動体転走溝が各々形成された軌道部材と、
前記軌道部材の前記転動体転走溝に対向する負荷転動体転走溝と、前記転動体転走溝が伸びる方向と平行に伸びる無負荷戻し通路、および前記負荷転動体転走溝と前記無負荷戻し通路とを接続する方向転換路を有する移動部材と、
前記軌道部材の前記転動体転走溝と前記移動部材の前記負荷転動体転走溝との間の負荷転動体転走路、前記無負荷戻し通路、および前記方向転換路によって構成される無限循環路に配列され、前記負荷転動体転走路内を転走する際に前記軌道部材と前記移動部材との間で荷重を負荷する複数の転動体と、
を備える運動案内装置であって、
前記移動部材は、前記軌道部材に対して傾く方向に力を受けるように押圧力を及ぼす押圧手段を備え
前記軌道部材に対して複数の前記移動部材が設置されており、複数の前記移動部材が、前記押圧手段によって連結されており、
前記押圧手段が、長手方向に伸びる前記軌道部材の中心軸線から偏った位置に配置されるとともに、当該押圧手段が、前記軌道部材の前記曲線部の曲線形状の外周側の方向に偏った位置に配置され、かつ、前記軌道部材の長手方向に沿った方向に押圧力を及ぼすことができるように配置され、さらに、
前記移動部材が前記曲線部に位置するときには、前記軌道部材の左右両側面に形成された複数の前記負荷転動体転走路ごとで、1つずつの前記転動体のみが荷重を受けた状態となり、前記軌道部材に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの前記負荷転動体転走路において、それぞれ1つずつの前記転動体が負荷を受けて2点接触する状態が実現されることを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
請求項に記載の運動案内装置において、
複数の前記移動部材のそれぞれは、
前記軌道部材と協働してリニアガイド装置を構成する移動ブロックと、
前記押圧手段が設置されるプレート部材と、
を備えて構成されており、さらに、
複数の前記プレート部材のそれぞれには、内輪又は外輪のいずれか一方が取り付けられる回転軸受が設置され、
複数の前記回転軸受をつなぐように、当該回転軸受の内輪又は外輪のいずれか他方が取り付けられるスライダ板部材を備えることを特徴とする運動案内装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の運動案内装置において、
前記軌道部材のうちの曲線部における軌道幅が、直線部における軌道幅よりも小さいことを特徴とする運動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動案内装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、工場内における製造ライン等においては、各加工工程を一直線状に配置できれば問題ないが、工場内における機械の設置スペースや各加工工程における加工内容によっては、加工対象物たる物品の搬送方向を隣接する二つの加工工程の間で変更しなければならない場合がある。この場合、一般的にはパレットチェンジャーを利用する等して、物品の搬送方向の変更が行われているが、パレットチェンジャーの設置スペースや設置コストが必要になるといった不都合があった。そこで、パレットチェンジャーを使用せずに物品の搬送方向を変更する手段として、物品を直線および曲線が混在した軌跡に沿って連続的に案内することが可能な運動案内装置が従来から知られている(例えば、下記特許文献1等参照)。
【0003】
この種の運動案内装置は、一般的に、直線部および所定の曲率半径で円弧状に形成された曲線部を含むとともに、両側面の長手方向に沿って転動体転走溝が各々形成された軌道部材と、軌道部材の転動体転走溝に対向する負荷転動体転走溝、転動体転走溝が伸びる方向と平行に伸びる無負荷戻し通路、および負荷転動体転走溝と無負荷戻し通路とを接続する方向転換路を有する移動部材と、軌道部材の転動体転走溝と移動部材の負荷転動体転走溝との間の負荷転動体転走路、無負荷戻し通路、および方向転換路によって構成される無限循環路に配列され、負荷転動体転走路内を転走する際に軌道部材と移動部材との間で荷重を負荷する複数の転動体と、を備えて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−346065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の運動案内装置においては、軌道部材内に直線部と曲線部とが混在する場合であっても、移動部材が軌道部材に沿って直線部および曲線部を連続的に移動し得るような設計が採用されていた。すなわち、無限循環路内を無限循環するとともに、負荷転動体転走路内を転走する際に軌道部材と移動部材との間で荷重を負荷する複数の転動体のスムーズな転走のために、軌道部材の曲線部の外形寸法にある程度の遊び代を持たせて設計することが行われていた。すなわち、移動部材が軌道部材の直線部を移動する場合には、負荷転動体転走路内を転走する複数の転動体は全てが荷重を負荷しながら転走するので、移動部材は軌道部材の直線部に対して安定して直線案内運動を行うことができる。しかしながら、移動部材が軌道部材の曲線部を移動する場合には、負荷転動体転走路内を転走する複数の転動体は遊び代の設けられた軌道部材の曲線部を転走することになるので、曲線部に対して曲線案内運動を行う移動部材には、軌道部材に対して所定量のガタツキが生じる可能性があることが課題であった。
【0006】
しかし、運動案内装置の用途によっては、移動部材が軌道部材の直線部および曲線部を移動する場合において、その全ての軌道上においてガタツキなく案内運動を行う必要がある。そこで、物品を直線および曲線が混在した軌跡に沿って連続的に案内する際に、ガタツキなく安定して物品の案内を行うことが可能な運動案内装置を提供することが求められていた。
【0007】
本発明は、上述した従来技術が有する課題の存在に鑑みて成されたものであり、その目的は、物品を直線および曲線が混在した軌跡に沿って連続的に案内する際に、ガタツキなく安定して物品の案内を行うことが可能な運動案内装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る運動案内装置は、直線部および所定の曲率半径で円弧状に形成された曲線部を含むとともに、両側面の長手方向に沿って転動体転走溝が各々形成された軌道部材と、前記軌道部材の前記転動体転走溝に対向する負荷転動体転走溝と、前記転動体転走溝が伸びる方向と平行に伸びる無負荷戻し通路、および前記負荷転動体転走溝と前記無負荷戻し通路とを接続する方向転換路を有する移動部材と、前記軌道部材の前記転動体転走溝と前記移動部材の前記負荷転動体転走溝との間の負荷転動体転走路、前記無負荷戻し通路、および前記方向転換路によって構成される無限循環路に配列され、前記負荷転動体転走路内を転走する際に前記軌道部材と前記移動部材との間で荷重を負荷する複数の転動体と、を備える運動案内装置であって、前記移動部材は、前記軌道部材に対して傾く方向に力を受けるように押圧力を及ぼす押圧手段を備え、前記軌道部材に対して複数の前記移動部材が設置されており、複数の前記移動部材が、前記押圧手段によって連結されており、前記押圧手段が、長手方向に伸びる前記軌道部材の中心軸線から偏った位置に配置されるとともに、当該押圧手段が、前記軌道部材の前記曲線部の曲線形状の外周側の方向に偏った位置に配置され、かつ、前記軌道部材の長手方向に沿った方向に押圧力を及ぼすことができるように配置され、さらに、前記移動部材が前記曲線部に位置するときには、前記軌道部材の左右両側面に形成された複数の前記負荷転動体転走路ごとで、1つずつの前記転動体のみが荷重を受けた状態となり、前記軌道部材に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの前記負荷転動体転走路において、それぞれ1つずつの前記転動体が負荷を受けて2点接触する状態が実現されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物品を直線および曲線が混在した軌跡に沿って連続的に案内する際に、ガタツキなく安定して物品の案内を行うことが可能な運動案内装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る運動案内装置の全体構成を示す外観斜視図である。
図2】本実施形態に係る運動案内装置の上面図である。
図3】本実施形態に係る運動案内装置の側面図である。
図4】本実施形態に係る運動案内装置の縦断面側面図である。
図5】本実施形態に係る運動案内装置の概略構成と動作説明を行うための全体概略図である。
図6】本実施形態に係る移動ブロックと軌道レールとで構成されるリニアガイド装置の一形態を例示する部分破断外観斜視図である。
図7図6で示したリニアガイド装置が備える無限循環路を説明するための断面図である。
図8】本実施形態に係る運動案内装置の動作状態を説明するための図である。
図9】本発明に係る運動案内装置の一変形形態例を示す図である。
図10】本発明に係る軌道レールが取り得る多様な形態例の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る運動案内装置の全体構成を示す外観斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る運動案内装置の上面図であり、図3は、本実施形態に係る運動案内装置の側面図であり、図4は、本実施形態に係る運動案内装置の縦断面側面図である。さらに、図5は、本実施形態に係る運動案内装置の概略構成と動作説明を行うための全体概略図である。なお、本実施形態では、軌道部材としての軌道レール11が水平面に設置されており、この軌道レール11に組み付けられた移動部材としての移動ブロック13が水平面に対して平行方向に案内運動を行うものとして明細書記載中の方向を定義し、説明を行うものとする。
【0013】
図1図5で示す本実施形態に係る運動案内装置10は、軌道部材としての軌道レール11と、この軌道レール11に組み付けられ、軌道レール11の長手方向に沿って移動可能な直列配置された2つの移動ブロック13と、直列配置された2つの移動ブロック13それぞれの上面に固定設置された2つのプレート部材31と、2つのプレート部材31それぞれの上面に取り付けられた2つの回転軸受41と、これら2つの回転軸受41の上面に対して2つの回転軸受41をつなぐように取り付けられたスライダ板部材51と、から構成されている。なお、本実施形態では、移動ブロック13とプレート部材31との組み合わせによって、本発明に係る移動部材が構成されている。
【0014】
軌道レール11は、図5にて模式的に示されるように、直線状に伸びて形成される直線部11Aと、所定の曲率半径で円弧状に形成された曲線部11Bと、これら直線部11Aと曲線部11Bとを接続するつなぎ部11Cとによって構成されている。また、本実施形態に係る軌道レール11は、軌道レール11を構成する曲線部11Bにおける軌道幅(つまり、左右方向の幅寸法)が、直線部11Aにおける軌道幅よりも狭幅で構成されており、これら軌道幅の異なる直線部11Aと曲線部11Bとを接続するつなぎ部11Cは、直線部11Aと曲線部11Bとをスムーズにつなぐために、その軌道幅は、一端部から他端部に向けて直線部11Aが有する軌道幅から曲線部11Bが有する軌道幅へと暫時減少するように構成されている。さらに、直線部11A、つなぎ部11C、および曲線部11Bが連続接続されて形成された軌道レール11は、左右両側面の長手方向に沿って転動体転走溝11aが各々形成された構成を有している。
【0015】
上述した本実施形態に係る1本の軌道レール11に対しては、直列配置された移動ブロック13が2つ設置されている。ここで、本実施形態の移動ブロック13と軌道レール11との具体的な構成を、図6および図7を用いて説明する。なお、図6は、本実施形態に係る移動ブロック13と軌道レール11とで構成されるリニアガイド装置10aの一形態を例示する部分破断外観斜視図であり、図7は、図6で示したリニアガイド装置10aが備える無限循環路を説明するための断面図である。
【0016】
まず、図6および図7に例示するリニアガイド装置10aの構成について説明すると、本実施形態に係るリニアガイド装置10aは、軌道レール11と、軌道レール11に複数の転動体として設置されるボール12…を介してスライド可能に取り付けられた移動ブロック13とで構成されている。軌道レール11は、その長手方向と直交する断面が概略矩形状に形成された長尺の部材であり、その表面(左右両側面)には、ボール12…が転がる際の軌道になる軌道面としての転動体転走溝11a…が軌道レール11の全長に亘って形成されている。
【0017】
本実施形態の軌道レール11については、左右両側面に形成された転動体転走溝11a…の溝本数は左右で2条ずつ合計4条設けられているが、その溝条数は、リニアガイド装置10aの用途や仕様等に応じて任意に変更することができる。
【0018】
一方、移動ブロック13には、転動体転走溝11a…とそれぞれ対向する位置にボール12…が転がる際の軌道になる軌道面としての負荷転動体転走溝13a…が設けられている。軌道レール11の転動体転走溝11a…と移動ブロック13の負荷転動体転走溝13a…とによって負荷転動体転走路22…が形成され、複数のボール12…が配置されている。さらに、移動ブロック13には、各転動体転走溝11a…と平行に伸びる4条の無負荷戻し通路23…と、各無負荷戻し通路23…と各負荷転動体転走路22…とを結ぶ方向転換路25…が設けられている。1つの負荷転動体転走路22および無負荷戻し通路23と、それらを結ぶ一対の方向転換路25との組み合わせによって、1つの無限循環路が構成される(図7参照)。
【0019】
そして、複数のボール12…が、負荷転動体転走路22と無負荷戻し通路23と一対の方向転換路25,25とから構成される無限循環路に無限循環可能に配列設置されることにより、負荷転動体転走路22内を転走する際に軌道レール11と移動ブロック13との間で荷重を負荷しながら転走することとなるので、移動ブロック13が軌道レール11に対して相対的に往復運動を行うことが可能となる。
【0020】
以上のような構成を有するリニアガイド装置10aであるが、本実施形態では、1本の軌道レール11に対して直列配置された2つの移動ブロック13については、押圧手段としてのコイルバネ28によって連結されている。本実施形態に係るコイルバネ28の具体的な設置形態としては、2つの直列配置された移動ブロック13それぞれの上面に固定設置された2つのプレート部材31間にコイルバネ28を設置する。また、このコイルバネ28は、本実施形態に係る運動案内装置10を上面側から見たときに、長手方向に伸びる軌道レール11の中心軸線から左右いずれかの方向に偏った位置、より具体的には、軌道レール11の曲線部11Bの曲線形状の外周側の方向に偏った位置に配置され、かつ、軌道レール11の長手方向に沿った方向にバネ弾性力に基づく押圧力を及ぼすことができるように配置されている(図5参照)。したがって、直列配置された2つの移動ブロック13は、コイルバネ28によって、軌道レール11の長手方向に対して左右水平方向に傾く方向、すなわち、ヨーイング方向(MB方向)に向けて回動する方向に押圧力(バネ弾性力)が及ぼされるように構成されている。つまり、図5において、軌道レール11の曲線部11Bに位置する運動案内装置10が示すように、本実施形態に係る運動案内装置10を上面から見た場合、2つの移動ブロック13が紙面を垂直方向に見た場合の紙面に対して左右位置に配置された状態で、紙面の下側の位置に設置されたコイルバネ28は、紙面右側の移動ブロック13を反時計回り方向であって紙面に対して水平方向に傾けるようにバネ弾性力を作用させるとともに、紙面左側の移動ブロック13を時計回り方向であって紙面に対して水平方向に傾けるようにバネ弾性力を作用させるように構成されている。
【0021】
ところで、従来技術に係る運動案内装置では、1つの移動ブロックが有する複数の負荷転動体転走路では、少なくとも3つのボールが負荷を受けながら転走する構成が採用されていた。つまり、従来技術においては、軌道レールに対してボールが3点接触することで軌道レールに対する移動ブロックの案内運動が行われていた。しかし、ボールの3点接触からなる方式を採用した従来技術では、移動ブロックが軌道レールの曲線部を移動する場合に、負荷転動体転走路内を転走する複数のボールは遊び代の設けられた軌道レールの曲線部を転走することになるので、曲線部に対して曲線案内運動を行う移動ブロックには、軌道レールに対して所定量のガタツキが生じてしまうこととなっていた。そこで、本実施形態に係る運動案内装置10では、軌道レール11に対してボールが2点接触することで軌道レール11に対する移動ブロック13の案内運動を行う構成を採用することとした。つまり、本実施形態では、軌道レール11に対してボール12を左右から2点で接触させて挟み込むことで軌道レール11に対する移動ブロック13の設置が成される構成とした。そして、かかるボール12の2点接触を実現したのが、コイルバネ28によるバネ弾性力に基づく押圧力の作用によるものである。このコイルバネ28の作用によって、本実施形態に係る運動案内装置10は、物品を直線および曲線が混在した軌跡に沿って連続的に案内する際に、ガタツキなく安定して物品の案内を行うことが可能な装置となっている。
【0022】
その具体的な理由について、図5を参照して説明を行う。すなわち、図5において、軌道レール11の直線部11Aに位置する運動案内装置10が示すように、2つの移動ブロック13が軌道レール11の直線部11Aに位置するときには、負荷転動体転走路22内を転走する全てのボール12…は、軌道レール11と移動ブロック13との間で負荷を受けた状態となっている。なお、図5では、ボール12…が荷重を受けた状態が網掛けにて示されている。
【0023】
一方、図5において、軌道レール11の曲線部11Bに位置する運動案内装置10が示すように、2つの移動ブロック13が完全に軌道レール11の曲線部11Bに位置するときには、負荷転動体転走路22内を転走するボール12…のうち、1つの負荷転動体転走路22中では1つのボール12のみが、軌道レール11と移動ブロック13との間で負荷を受けた状態となっている。つまり、軌道レール11の左右位置に対してそれぞれ配置された負荷転動体転走路22において、各負荷転動体転走路22中にあるボール12はそれぞれ1個ずつが負荷を受けることとなるので、軌道レール11を左右1つずつ、合計2個のボール12で挟み込み、ボール12の2点接触で軌道レール11に対する移動ブロック13の設置が行われる構成となっている。
【0024】
なお、本実施形態では、移動ブロック13が曲線部11Bに位置するときには、軌道レール11の左右両側面に形成された4つの負荷転動体転走路22…ごとで、1つずつのボール12のみが荷重を受けた状態となり、軌道レール11に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの負荷転動体転走路22において、それぞれ1つずつのボール12が負荷を受けて2点接触する状態が実現できれば良い。その様な様子が、図5では示されているが、本実施形態に係る運動案内装置10は、図6で示すように4つの負荷転動体転走路22…を有するように構成することができ、この場合も各負荷転動体転走路22…において、それぞれ1つずつのボール12が負荷を受けて軌道レール11に対して接触するようにすれば良い。図6で示す本実施形態の場合、軌道レール11に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの負荷転動体転走路22の組が2組存在しているのであり、2つの負荷転動体転走路22が構成する組ごとでボール12の2点接触が実現されることとなる。かかる構成も、本発明の範囲内である。
【0025】
このようにコイルバネ28が作用することで、移動ブロック13は、軌道レール11の長手方向に対して左右水平方向に傾く方向、すなわち、ヨーイング方向(MB方向)に向けて回動することとなり、負荷を受けるボール12…は2点接触(本発明では、2点接触する2つのボールの組が複数組存在することを含む。)によって軌道レール11と移動ブロック13との間に位置することとなるので、移動ブロック13は軌道レール11に対してガタツキなく安定して案内運動を行うことが可能となっている。
【0026】
上述したコイルバネ28が設置された2つのプレート部材31の上方には、それぞれ1つずつ回転軸受41が設置されている。本実施形態に係る回転軸受41は、図4等で示されるように、回転軸受41の外輪がプレート部材31に対してボルト等で固定されており、一方、回転軸受41の内輪がスライダ板部材51に対して固定されている。つまり、2つのプレート部材31に対してそれぞれ1つずつ回転軸受41が設置され、各プレート部材31と各回転軸受41の外輪が固定されている。一方、2つの回転軸受41のそれぞれの内輪は、1枚のスライダ板部材51によって接続されている。そして、本実施形態の回転軸受41は、内外輪が拘束なく自由な状態で相対回転運動できるようになっている。したがって、各プレート部材31が設置された各移動ブロック13同士がコイルバネ28の弾性力を受けて互いの左右水平方向での傾き量、すなわち、ヨーイング方向(MB方向)の回動量を変化させたとしても、1枚のスライダ板部材51による2つのプレート部材31の接続状態は好適に維持されることとなる。つまり、本実施形態に係るスライダ板部材51は、2つの直列配置された移動ブロック13をつないで一体化するように配置されている。そして、2つの直列配置された移動ブロック13は、コイルバネ28の作用によって軌道レール11に対する移動ブロック13同士の位置を微妙に変化させながら案内運動を行うこととなるが、自由に相対回転可能な回転軸受41の存在によって、どの様な状態であっても2つの移動ブロック13に対するスライダ板部材51の好適な接続状態が維持されることとなる。
【0027】
以上、本実施形態に係る運動案内装置10の具体的な構成について、図1図7を用いて説明を行った。次に、図8を参照図面に加えて、本実施形態に係る運動案内装置10の動作状態についての説明を行う。ここで、図8は、本実施形態に係る運動案内装置10の動作状態を説明するための図である。なお、図8では、ボール12…が荷重を受けた状態が網掛けにて示されており、また、2つの移動ブロック13は、図8の紙面を垂直方向に見た場合の紙面左側から紙面右側に向けて移動を行う場合が想定されている。
【0028】
図8中の分図(a)では、2つの移動ブロック13が軌道レール11の直線部11Aに位置する状態が示されている。2つの移動ブロック13が軌道レール11の直線部11Aに位置するときには、負荷転動体転走路22内を転走する全てのボール12…は、軌道レール11と移動ブロック13との間で負荷を受けた状態となっている。
【0029】
2つの移動ブロック13が軌道レール11に対して紙面右側に向けて移動し、右側すなわち移動方向の先頭側にある移動ブロック13が軌道レール11のつなぎ部11Cに到達すると、つなぎ部11Cの有する軌道幅が暫時減少する形状によって、先頭側にある移動ブロック13の有する一部のボール12が負荷転動体転走路22内に有りながらも負荷を受けない状態に移行する(図8中の分図(b)参照)。
【0030】
そしてさらに、2つの移動ブロック13が軌道レール11に対して紙面右側に向けて移動し、図8中の分図(c)の位置、すなわち、移動方向の先頭側にある移動ブロック13が軌道レール11のつなぎ部11C上に完全に到達すると、移動方向の先頭側にある移動ブロック13の一方側(紙面上側)の負荷転動体転走路22内に有るボール12は、1個だけが負荷を受ける状態となり、他のボール12は無負荷の状態となる。ただし、移動方向の先頭側にある移動ブロック13の他方側(紙面下側)の負荷転動体転走路22内に有るボール12…は、全てのボール12…が負荷を受けた状態となっている。
【0031】
さらに2つの移動ブロック13が軌道レール11に対して紙面右側に向けて移動し、図8中の分図(d)の位置、すなわち、移動方向の先頭側にある移動ブロック13が軌道レール11の曲線部11B上に完全に到達すると、押圧手段としてのコイルバネ28が及ぼすバネ弾性力の作用によって、移動方向の先頭側にある移動ブロック13は軌道レール11に対して傾く方向(紙面に対して反時計回りの方向)に力を受ける。そしてこのとき、移動方向の先頭側にある移動ブロック13では、この移動ブロック13の有する負荷転動体転走路22内を転走するボール12…のうち、1つの負荷転動体転走路22中では1つのボール12のみが、軌道レール11と移動ブロック13との間で負荷を受けた状態となる。つまり、軌道レール11の左右位置に対してそれぞれ配置された負荷転動体転走路22において、各負荷転動体転走路22中にあるボール12はそれぞれ1個ずつが負荷を受けることとなる。したがって、軌道レール11を左右1つずつ、合計2個のボール12で挟み込み、ボール12の2点接触で軌道レール11に対する移動ブロック13の設置が行われる。なお、上述したように本実施形態では、移動ブロック13が曲線部11Bに位置するときには、軌道レール11の左右両側面に形成された4つの負荷転動体転走路22…ごとで、1つずつのボール12のみが荷重を受けた状態となり、軌道レール11に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの負荷転動体転走路22において、それぞれ1つずつのボール12が負荷を受けて2点接触する状態が実現される。その様な様子が、図8では示されている。そして、本実施形態に係る運動案内装置10では、軌道レール11に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの負荷転動体転走路22の組が2組存在しているので、2つの負荷転動体転走路22が構成する組ごとでボール12の2点接触が実現される。
【0032】
また、図8中の分図(d)の位置のとき、移動方向に対して後方側にある移動ブロック13は、軌道レール11の直線部11Aとつなぎ部11Cの境界の箇所に位置しているので、その状態は、図8中の分図(b)で示した場合の先頭側の移動ブロック13と同じ状態を示している。
【0033】
そしてさらに、2つの移動ブロック13が軌道レール11に対して紙面右側に向けて移動し、図8中の分図(e)の位置、すなわち、2つの移動ブロック13の両方が軌道レール11の曲線部11Bの位置に到達すると、押圧手段としてのコイルバネ28が及ぼすバネ弾性力は、2つの移動ブロック13を傾動させる押圧力として作用し、2つの移動ブロック13において、これらの移動ブロック13の有する負荷転動体転走路22内を転走するボール12…のうち、1つの負荷転動体転走路22中では1つのボール12のみが、軌道レール11と移動ブロック13との間で負荷を受けた状態となる。つまり、軌道レール11の左右位置に対してそれぞれ配置された負荷転動体転走路22において、各負荷転動体転走路22中にあるボール12はそれぞれ1個ずつが負荷を受けることとなる。したがって、軌道レール11を左右1つずつ、合計2個のボール12で挟み込み、ボール12の2点接触で軌道レール11に対する移動ブロック13の設置が行われる。なお、上述したように本実施形態では、移動ブロック13が曲線部11Bに位置するときには、軌道レール11の左右両側面に形成された4つの負荷転動体転走路22…ごとで、1つずつのボール12のみが荷重を受けた状態となり、軌道レール11に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの負荷転動体転走路22において、それぞれ1つずつのボール12が負荷を受けて2点接触する状態が実現される。その様な様子が、図8では示されている。そして、本実施形態に係る運動案内装置10では、軌道レール11に対して左右方向で対称的に対向して配置される2つの負荷転動体転走路22の組が2組存在しているので、2つの負荷転動体転走路22が構成する組ごとでボール12の2点接触が実現される。
【0034】
なお、図8では、2つの移動ブロック13が軌道レール11の直線部11Aからつなぎ部11Cを経由して曲線部11Bに向けて移動する様子を例示して説明したが、移動ブロック13の有する負荷転動体転走路22内を転走するボール12…の負荷状態は、移動ブロック13がどちらの方向に移動したとしても同様である。そして、本実施形態に係る運動案内装置10では、上述したようにコイルバネ28がバネ弾性力としての押圧力を及ぼすことで、移動ブロック13は、軌道レール11の長手方向に対して左右水平方向に傾く方向、すなわち、ヨーイング方向(MB方向)に向けて回動することとなり、負荷を受けるボール12…は2点接触(本発明では、2点接触する2つのボールの組が複数組存在することを含む。)によって軌道レール11と移動ブロック13との間に位置することとなるので、移動ブロック13は軌道レール11に対してガタツキなく安定して案内運動を行うことが可能となっている。
【0035】
なお、本実施形態に係る運動案内装置10では、2つの移動ブロック13を駆動レール11に沿って駆動させる駆動力は外部から得ることを想定しているので、2つの移動ブロック13間に及ぼされるコイルバネ28からの押圧力は、従動的に発生することとなる。したがって、つまり、本実施形態に係るコイルバネ28の押圧力は、能動的に制御するわけではなく、従動的に作用されることとなる。したがって、本実施形態に係る運動案内装置10は、複雑な制御が不要であるという優位な効果が得られる。そして、本実施形態に係る運動案内装置10は、複雑な制御が不要な構造ゆえに、制御装置等の部材を追加設置する必要性が無いので、装置全体のコンパクト化が実現可能である。さらに、本実施形態に係る運動案内装置10は、前進・後退、いずれの方向での移動動作であっても、負荷を受けるボール12…は2点接触(本発明では、2点接触する2つのボールの組が複数組存在することを含む。)によって軌道レール11と移動ブロック13との間に位置することとなる。つまり、本実施形態に係る運動案内装置10は、あらゆる姿勢状態で用いることが可能であり、汎用性が高いという有利な点を有している。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、2つの移動ブロック13間に押圧力を及ぼす押圧手段として、コイルバネ28を用いた場合を例示した。しかしながら、本発明に係る押圧手段は、上述したコイルバネ28に限られず、例えばゴム等の他の弾性体や、シリンダなどの押圧機構を採用することも可能である。
【0038】
また、例えば、上述した本実施形態に係る押圧手段としてのコイルバネ28は、軌道レール11の長手方向に沿った方向に押圧力を及ぼすことができるものであった。しかしながら、本発明に係る押圧手段については、軌道部材としての軌道レール11の長手方向に直交する方向に押圧力を及ぼすことができるものを採用することも可能である。そのような押圧手段を採用した場合の形態例について、図9を示して説明を行う。なお、図9は、本発明に係る運動案内装置の一変形形態例を示す図である。なお、図9では、上述した本実施形態と同一又は類似する部材については、同一符号を付すことで説明を省略してある。
【0039】
図9で例示する変形形態に係る運動案内装置90は、1つの移動ブロック13と、この移動ブロック13に設置されたボールプランジャ91によって構成されている。ボールプランジャ91は、軌道レール11に対して水平方向、かつ、軌道レール11の長手方向に直交する方向に押圧力を及ぼすことができる部材であり、ボールプランジャ91から作用される押圧力によって、軌道レール11に対して移動ブロック13が左右水平方向に傾く方向、すなわち、ヨーイング方向(MB方向)に向けて回動する方向に力を受けることとなる。つまり、ボールプランジャ91からの押圧力によって、移動ブロック13は軌道レール11に対してガタツキなく安定して案内運動を行うことが可能となる。
【0040】
さらに、上述した実施形態では、1つの直線部11Aと、1つの曲線部11Bと、これらをつなぐつなぎ部11Cとからなる軌道レール11を例示して説明を行ったが、軌道レール11の形状については、あらゆるものを採用することができる。例えば、図10は、本発明に係る軌道レールが取り得る多様な形態例の一部を示す図であるが、図10で示されるような、O字形状やU字形状、L字形状、S字形状など、本発明では、あらゆる形状の軌道レールを採用することが可能である。
【0041】
またさらに、上述した本実施形態に係る回転軸受41は、回転軸受41の外輪がプレート部材31に対してボルト等で固定されており、一方、回転軸受41の内輪がスライダ板部材51に対して固定されていた。しかしながら、回転軸受41の内外輪の取付関係については、逆の取付状態を採用することが可能である。すなわち、回転軸受41の内輪をプレート部材31に対して固定するとともに、回転軸受41の外輪をスライダ板部材51に対して固定するようにしても良い。
【0042】
さらにまた、上述した実施形態では、転動体としてボール12を用いた場合を例示したが、本発明に適用可能な転動体は、ボール12に限られない。例えば、ローラやコロなどといった、あらゆる形態の転動体を採用することが可能である。
【0043】
さらに、上述した本実施形態では、移動ブロック13とプレート部材31との組み合わせによって、本発明に係る移動部材が構成されていた。しかしながら、本発明では、プレート部材31を省略し、移動ブロック13単独で本発明に係る移動部材を構成することも可能である。この場合には、本発明に係る押圧手段としてのコイルバネ28を移動ブロック13に対して設置するようにすれば良い。またさらに、本発明のプレート部材の形状については、上述した実施形態で示したものには限られず、あらゆる形態のプレート部材を採用することができる。
【0044】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0045】
10,90 運動案内装置、10a リニアガイド装置、11 軌道レール、11a 転動体転走溝、11A 直線部、11B 曲線部、11C つなぎ部、12 ボール、13 移動ブロック、13a 負荷転動体転走溝、22 負荷転動体転走路、23 無負荷戻し通路、25 方向転換路、28 コイルバネ、31 プレート部材、41 回転軸受、51 スライダ板部材、91 ボールプランジャ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10