特許第6548602号(P6548602)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548602
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】水素供給装置及び水素供給方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/22 20060101AFI20190711BHJP
【FI】
   C01B3/22 Z
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-68736(P2016-68736)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-178682(P2017-178682A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000158312
【氏名又は名称】岩谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】清水 久弘
(72)【発明者】
【氏名】牧平 尚久
(72)【発明者】
【氏名】藤川 静一
【審査官】 佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0086473(US,A1)
【文献】 特表2010−506818(JP,A)
【文献】 特開平5−097732(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1330499(KR,B1)
【文献】 中国特許出願公開第102295954(CN,A)
【文献】 特表平09−500106(JP,A)
【文献】 特開2012−046421(JP,A)
【文献】 特開昭53−044482(JP,A)
【文献】 特表2015−502914(JP,A)
【文献】 特開2009−078200(JP,A)
【文献】 IGUCHI, M. et al.,Simple Continuous High-Pressure Hydrogen Production and Separation System from Formic Acid under Mild Temperatures,ChemCatChem,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,2015年12月10日,Vol.8,pp.886-890
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00 − 6/34
B01J 4/00 − 14/00
B01J 21/00 − 38/74
H01M 8/04 − 8/0668
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蟻酸が供給され、触媒を用いた蟻酸の分解反応により水素生成し外部へ水素を供給する3つ以上の水素生成手段と、
前記水素生成手段のそれぞれに配置され、水素生成手段を加熱する加熱手段と、
前記水素生成手段の少なくとも2つを連通し、連通された少なくとも2つの水素生成手段のうち、水素供給を終了した後の水素生成手段から、該水素生成手段内の少なくとも前記触媒を、前記水素供給を終了した後の水素生成手段以外の水素生成手段に移送する移送配管と、
を備えた水素供給装置。
【請求項2】
前記3つ以上の水素生成手段として、少なくとも、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段を備え、かつ、更に、
開閉弁を有し、前記第1の水素生成手段及び前記第2の水素生成手段の間を連通して少なくとも前記触媒を移送する第1の移送配管と、
開閉弁を有し、前記第2の水素生成手段及び前記第3の水素生成手段の間を連通して少なくとも前記触媒を移送する第2の移送配管と、
開閉弁を有し、前記第3の水素生成手段と、前記第2の水素生成手段及び前記第3の水素生成手段とは異なる水素生成手段との間を連通して少なくとも前記触媒を移送する第3の移送配管と、
を少なくとも備えた、請求項1に記載の水素供給装置。
【請求項3】
前記3つ以上の水素生成手段として、少なくとも、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段を備え、
前記第1の水素生成手段で前記水素供給を行う場合、水素供給終了後の、前記第1の水素生成手段及び前記第2の水素生成手段とは異なる水素生成手段内の、少なくとも前記触媒を、前記第2の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第2の水素生成手段で前記水素供給を開始し、
前記第2の水素生成手段で前記水素供給を行う場合、前記第1の水素生成手段内の少なくとも前記触媒を、前記第1の水素生成手段での水素供給終了後に前記第3の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第3の水素生成手段で前記水素供給を開始する、請求項1又は請求項2に記載の水素供給装置。
【請求項4】
前記移送配管の一端は、少なくとも前記触媒が移送される水素生成手段の底部に接続されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水素供給装置。
【請求項5】
前記移送配管は、水素生成手段の側部の内壁面に沿った方向に少なくとも前記触媒を流出することにより、少なくとも前記触媒が移送される水素生成手段に少なくとも前記触媒を供給する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水素供給装置。
【請求項6】
少なくとも前記触媒が移送される水素生成手段の内部の、前記移送後の温度が85℃以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水素供給装置。
【請求項7】
第1の水素生成手段に蟻酸を供給し、触媒を用いて蟻酸を分解反応させて水素生成し外部へ水素を供給する第1の水素供給工程と、
第2の水素生成手段に蟻酸を供給し、触媒を用いて蟻酸を分解反応させて水素生成し外部へ水素を供給する第2の水素供給工程と、
第3の水素生成手段に蟻酸を供給し、触媒を用いて蟻酸を分解反応させて水素生成し外部へ水素を供給する第3の水素供給工程と、
を有し、前記第1の水素供給工程を開始した後、水素供給工程終了後の、前記第1の水素生成手段及び前記第2の水素生成手段とは異なる水素生成手段内の少なくとも前記触媒を前記第2の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第2の水素供給工程を開始し、
前記第2の水素供給工程を開始した後、前記第1の水素生成手段内の少なくとも前記触媒を、前記第1の水素供給工程終了後に前記第3の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第3の水素供給工程を開始する、水素供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素供給装置及び水素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による地球環境の悪化を踏まえ、地球環境対応が種々の分野で検討されている。例えばエネルギー分野では、従来から主要なエネルギーとして使用されてきた石油及び石炭等の化石燃料に代えて、水素ガスを自動車等の移動装置又は電源設備等における燃料として、あるいは燃料電池の負極活物質として用いる技術が進展している。水素は、燃焼あるいは反応させた際に排出される物質が水のみである点でクリーンなエネルギーといえる。
【0003】
水素は、反応性の高い気体であることから、主要なエネルギーとして大量に安定的に供給するためには、安全性が高く安定した輸送及び貯蔵を可能とする技術の確立が求められる。
例えば二酸化炭素を水素化して蟻酸又はメタノール等として輸送又は貯蔵する技術が提案されている。蟻酸は、二酸化炭素の水素化反応で得られ、水素化後の蟻酸の脱水素反応で水素生成しやすい点から、水素貯蔵用材料として注目されている。
【0004】
蟻酸を利用して水素を生成するための技術の例として、蟻酸及び蟻酸の塩の脱水素化反応に触媒として特定の金属錯体を用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、イリジウム金属錯体を触媒として用い、120MPaを超える高圧水素を蟻酸から連続的に分離生成する技術が提案されている(例えば、非特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/053317号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ChemCatChem、Masayuki Iguchi, Yuichiro Himeda, Yuichi Manaka, Koichi Matsuoka、2015年12月10日“Simple Continuous High-Pressure Hydrogen Production and Separation System from Formic Acid under Mild Temperatures”
【非特許文献2】「圧縮機を使わない高圧水素連続供給法を開発」、国立研究開発法人産業技術総合研究所、http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20151211/pr20151211.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1及び非特許文献1〜2に記載されている技術は、高圧水素を発生させる技術として期待されるが、高圧水素を発生させた後も連続運転させて継続的な水素の生成を行うには課題がある。すなわち、水素生成に伴って反応槽内の蟻酸の濃度は低下するため、水素の生成を継続するには、消費される蟻酸を加える必要があるが、上記技術のように、単一槽内でバッチ処理により水素を生成する方法では、高圧水素が充満している系内に蟻酸を加えることは困難である。また、複数の反応槽を用いることで連続的な水素の生成も可能になるが、高圧水素の生成を終了する度毎に、反応槽内の成分を排出して成分の入れ替えを行おうとすると、反応槽内に残留する水素が無駄に廃棄されることになるだけでなく、反応触媒を繰り返し利用することもできない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、水素貯蔵物質である蟻酸を用いて水素を生成する場合に、連続的な水素供給が行え、かつ、反応後の残存水素が有効に活用され、触媒の有効利用を図ることができる水素供給装置及び水素供給方法を提供することを目的とし、この目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、蟻酸の分解反応により水素生成する水素生成手段を少なくとも3つ備え、少なくとも1つの水素生成手段を輪番で運転して水素供給する一方、運転中の水素生成手段以外の他の少なくとも2つの水素生成手段の間において、運転中の水素生成手段の前に既に水素供給を終了した水素生成手段内の少なくとも触媒(好ましくは、触媒と水を含む液体及び場合により水素と二酸化炭素を含む気体)を、運転中の水素生成手段の後に水素供給する予定の水素生成手段に移送し、移送された水素生成手段にて水素の生成及び供給を行うようにすると、運転中の水素生成手段の前に既に水素生成を終了した水素生成手段内に残存する水素及び二酸化炭素等を回収、利用し、かつ、触媒等(好ましくは、触媒と水を含む液体及び場合により水素と二酸化炭素を含む気体)を後に水素供給する予定の水素生成手段で有効利用しながらも、高圧水素の水素供給が連続的に行えるとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
【0010】
なお、水素生成とは、反応の準備ではなく、蟻酸の分解反応によって水素生成手段内で水素を生成することを指し、分解反応は現に蟻酸が分解して水素が生成される反応をいう。また、水素供給とは、前記「水素生成」中の水素を水素生成手段の外部に送出することを指す。
【0011】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、
<1> 蟻酸が供給され、触媒を用いた蟻酸の分解反応により水素生成し外部へ水素を供給する3つ以上の水素生成手段と、前記水素生成手段のそれぞれに配置され、水素生成手段を加熱する加熱手段と、前記水素生成手段の少なくとも2つを連通し、連通された少なくとも2つの水素生成手段のうち、水素供給を終了した後の水素生成手段から、該水素生成手段内の少なくとも前記触媒を、前記水素供給を終了した後の水素生成手段以外の水素生成手段に移送する移送配管と、を備えた水素供給装置である。
【0012】
第1の発明においては、外部より供給された蟻酸を加熱下、触媒を用いて分解反応させることで水素生成し外部へ水素を供給する3つ以上の水素生成手段のうち、少なくとも2つの水素生成手段間を移送配管で繋ぎ、水素供給終了後の水素生成手段内における少なくとも触媒(好ましくは、触媒と水を含む液体及び場合により水素と二酸化炭素を含む気体)を、水素供給終了後の水素生成手段以外の他の水素生成手段に移送するので、水素の供給を連続的に行うことができ、かつ、水素供給の開始を待っている水素生成手段において、水素供給を終了した後の水素生成手段内に残存する液体並びに場合により水素及び二酸化炭素等の気体を無駄に廃棄せず、触媒を継続使用することができる。
【0013】
前記<1>に記載の第1の発明に係る水素供給装置においては、
<2> 前記3つ以上の水素生成手段として、少なくとも、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段を備え、かつ、更に、
開閉弁を有し、前記第1の水素生成手段及び前記第2の水素生成手段の間を連通して少なくとも前記触媒を移送する第1の移送配管と、開閉弁を有し、前記第2の水素生成手段及び前記第3の水素生成手段の間を連通して少なくとも前記触媒を移送する第2の移送配管と、開閉弁を有し、前記第3の水素生成手段と、前記第2の水素生成手段及び前記第3の水素生成手段とは異なる水素生成手段との間を連通して少なくとも前記触媒を移送する第3の移送配管と、を少なくとも備えていることが好ましい。
【0014】
水素生成手段として、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段の少なくとも3つを備えている場合には、例えば第3の水素生成手段で水素生成し水素供給する際、例えば第1の水素生成手段及び第2の水素生成手段の間を連通する第1の移送配管によって、水素供給終了後の例えば第2の水素生成手段内における少なくとも触媒を第1の水素生成手段へ移送し、次に例えば第1の水素生成手段で水素供給する際、第2の水素生成手段及び第3の水素生成手段の間を連通する第2の移送配管によって、水素供給終了後の例えば第3の水素生成手段内における少なくとも触媒を第2の水素生成手段へ移送する。そして次に、例えば第2の水素生成手段で水素供給する際、第3の水素生成手段と、第2の水素生成手段及び第3の水素生成手段とは異なる他の水素生成手段と、の間を連通する第3の移送配管によって、水素供給終了後の、第2の水素生成手段及び第3の水素生成手段とは異なる他の水素生成手段(例えば第1の水素生成手段)内における少なくとも触媒を第3の水素生成手段へ移送する。
これにより、3つ以上の水素生成手段のいずれか1つにおいて輪番で蟻酸を分解反応させて水素を生成、供給し、かつ、他の2つの水素生成手段間では、一方の水素生成手段内に残存する水素等の気体並びに触媒等を他方の水素生成手段へ移送して有効に利用することができる。
水素生成手段としては、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段に加え、さらに1つ以上の水素生成手段を備えてもよい。
【0015】
前記<1>又は前記<2>に記載の第1の発明に係る水素供給装置においては、
<3> 前記3つ以上の水素生成手段として、少なくとも、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段を備え、前記第1の水素生成手段で前記水素供給を行う場合、水素供給終了後の、前記第1の水素生成手段及び前記第2の水素生成手段とは異なる水素生成手段内の少なくとも前記触媒を、前記第2の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第2の水素生成手段で前記水素供給を開始し、
前記第2の水素生成手段で前記水素供給を行う場合、前記第1の水素生成手段内の少なくとも前記触媒を、前記第1の水素生成手段での水素供給終了後に前記第3の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第3の水素生成手段で前記水素供給を開始することが好ましい。
【0016】
水素生成手段として、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段の少なくとも3つを備えている場合、初めに、例えば、第1の水素生成手段で蟻酸の分解反応により水素供給を行う場合には、例えば第1の水素生成手段における水素の生成速度の低下又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件に、水素供給工程終了後の、第1の水素生成手段及び第2の水素生成手段とは異なる水素生成手段(例えば第3の水素生成手段)内の少なくとも触媒を第2の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、第1の水素生成手段に代えて第2の水素生成手段で蟻酸の分解反応により水素供給を開始する。次いで、例えば第2の水素生成手段における水素の生成速度の低下又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件に、第1の水素生成手段内の少なくとも触媒を第3の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、第2の水素生成手段に代えて第3の水素生成手段で蟻酸の分解反応により水素供給を開始し、その後、例えば第3の水素生成手段における水素の生成速度の低下又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件に、第2の水素生成手段内の少なくとも触媒を、水素供給工程終了後の、第2の水素生成手段及び第3の水素生成手段とは異なる他の水素生成手段(例えば第1の水素生成手段)に移送して分解反応を開始し、かつ、第3の水素生成手段に代えて第2の水素生成手段及び第3の水素生成手段とは異なる前記他の水素生成手段(例えば第1の水素生成手段)で蟻酸の分解反応により水素供給を開始する。
これにより、蟻酸の分解反応で水素を生成した水素生成手段における残存の水素等の気体及び触媒等を他の水素生成手段において有効に利用することができる。
【0017】
前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の第1の発明に係る水素供給装置では、
<4> 前記移送配管の一端は、少なくとも前記触媒が移送される水素生成手段の底部に接続されていることが好ましい。
触媒等(好ましくは、触媒と水を含む液体及び場合により水素と二酸化炭素を含む気体)を移送する移送配管が、触媒等が移送される水素生成手段の底部において接続された構造であると、水素生成手段内に移送される触媒等(好ましくは、触媒と水を含む液体及び場合により水素と二酸化炭素を含む気体)に攪拌効果を与えることができる。
【0018】
前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の第1の発明に係る水素供給装置では、
<5> 前記移送配管は、水素生成手段の側部の内壁面に沿った方向に少なくとも前記触媒を流出することにより、少なくとも前記触媒が移送される水素生成手段に少なくとも前記触媒を供給することが好ましい。
移送配管によって、移送される触媒等(好ましくは、触媒と水を含む液体及び場合により水素と二酸化炭素を含む気体)が水素生成手段の側部の内壁面に沿った方向に向けて供給されるので、旋回流が生じ、水素生成手段内に移送される液体及び気体に対して攪拌効果を与えることができる。また、各成分が互いに接触する時間も長くとることができる。
【0019】
移送時には、液体だけでなく、水素及び二酸化炭素等の気体の有効利用等を目的として水素生成手段に供給することができる。例えば、気体の移送による槽の圧力上昇と、それに伴う温度上昇を、反応開始前の昇圧と予熱に活用することができる。また、移送方法の工夫により、効率的かつ安全な予熱を実施することも可能である。例えば水素は、一般のガスと異なる固有の性質として、ある槽から他の槽へ移送しようとした場合にジュールトムソン効果により著しく発熱する性質がある。本発明においては、上記のように、移送配管の一端を水素生成手段の底部に接続したり、水素生成手段の側部の内壁面に沿った方向に向けて供給する等により、水素を液体中にバブリングしながら水素生成手段へ移送することができ、しかも液体との熱交換時間も確保しやすい。これにより、単に水素生成手段間を連通して移送した場合に比べ、移送先の水素生成手段内における液相部の予熱が行え、かつ、気相部の著しい温度上昇(例えば200℃に達する昇温)が抑えられ、水素の連続的な生成、供給が安定的に行える。
【0020】
具体的には、前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の第1の発明に係る水素供給装置では、
<6> 少なくとも前記触媒が移送される水素生成手段の内部の、移送後の温度を85℃以下の範囲にすることができる。
【0021】
次に、第2の発明は、
<7> 第1の水素生成手段に蟻酸を供給し、触媒を用いて蟻酸を分解反応させて水素生成し外部へ水素を供給する第1の水素供給工程と、
第2の水素生成手段に蟻酸を供給し、触媒を用いて蟻酸を分解反応させて水素生成し外部へ水素を供給する第2の水素供給工程と、
第3の水素生成手段に蟻酸を供給し、触媒を用いて蟻酸を分解反応させて水素生成し外部へ水素を供給する第3の水素供給工程と、
を有し、前記第1の水素供給工程を開始した後、水素供給工程終了後の、前記第1の水素生成手段及び前記第2の水素生成手段とは異なる水素生成手段内の少なくとも前記触媒を前記第2の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第2の水素供給工程を開始し、
前記第2の水素供給工程を開始した後、前記第1の水素生成手段内の少なくとも前記触媒を、前記第1の水素供給工程終了後に前記第3の水素生成手段に移送して分解反応を開始し、かつ、前記第3の水素供給工程を開始する、水素供給方法である。
【0022】
水素生成手段として、例えば、第1の水素生成手段、第2の水素生成手段、及び第3の水素生成手段の少なくとも3つを備えている場合、まず初めに、例えば、第1の水素生成手段で蟻酸の分解反応及び水素供給を開始した場合には、例えば第1の水素生成手段における水素の生成速度の低下又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件に、水素供給工程終了後の、第1の水素生成手段及び第2の水素生成手段とは異なる水素生成手段内の少なくとも触媒を第2の水素生成手段に移送して蟻酸の分解反応を開始し、かつ、第1の水素生成手段に代えて第2の水素生成手段で水素供給を開始する。次いで、例えば第2の水素生成手段における水素の生成速度の低下又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件に、第1の水素生成手段内の少なくとも触媒を第3の水素生成手段に移送して蟻酸の分解反応を開始し、かつ、第2の水素生成手段に代えて第3の水素生成手段で水素供給を開始し、その後さらに、例えば第3の水素生成手段における水素の生成速度の低下又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件に、第2の水素生成手段内の少なくとも触媒を、水素供給工程終了後の、第2の水素生成手段及び第3の水素生成手段とは異なる他の水素生成手段(例えば第1の水素生成手段)に移送して蟻酸の分解反応を開始し、かつ、第3の水素生成手段に代えて第2の水素生成手段及び第3の水素生成手段とは異なる他の水素生成手段(例えば第1の水素生成手段)で水素供給を開始する。
これにより、蟻酸の分解反応で水素を生成した水素生成手段における残存の水素等及び触媒を他の水素生成工程において有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水素貯蔵物質である蟻酸を用いて水素を生成する場合に、連続的な水素の供給が行え、かつ、反応後の残存水素が有効に活用され、触媒の有効利用を図ることができる水素供給装置及び水素供給方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態である水素製造装置の概略の構成を示す概略構成図である。
図2】3つの反応槽を輪番で用いて継続的に水素を供給する一例を説明するための概念図である。
図3】第1の水素生成手段で蟻酸の分解反応及び水素生成並びに水素供給を行っているところを示す図である。
図4】第2の水素生成手段での水素生成にそなえ、第3の水素生成手段から第2の水素生成手段へ触媒等を移送しているところを示す図である。
図5】第2の水素生成手段で蟻酸の分解反応及び水素生成並びに水素供給を行っているところを示す図である。
図6】第3の水素生成手段での水素生成にそなえ、第1の水素生成手段から第3の水素生成手段へ触媒等を移送しているところを示す図である。
図7】触媒等の移送に伴う各反応槽の状態変化を説明するための説明図である。
図8】水素含有ガス及び触媒含有液を旋回流ができるように水素生成手段の側部曲面の内壁面に流出している例を示す図である。
図9】3つの反応槽を輪番で用いて継続的に水素を供給する他の一例を説明するための概念図である。
図10】本発明の実施形態である水素製造装置の変形例の概略構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、蟻酸から高圧水素を生成する水素供給装置の実施形態について詳細に説明し、この説明において3つの反応槽を用いて高圧水素を供給する水素供給方法の実施形態についても詳述することにする。但し、本発明は、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
なお、本発明における高圧水素とは、常温(35℃)下、圧力が10MPa以上である圧縮水素ガスのことをいう。
【0026】
本発明の水素供給装置の実施形態を図1図9を参照して説明する。本実施形態の水素供給装置は、蟻酸から水素を生成する水素生成手段として3つの反応槽を備え、3つの反応槽の1つにおいて輪番で水素を供給するものである。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の水素供給装置100は、水素生成手段である3つの反応槽22、24、26と、3つの反応槽の2つを互いに連通して一方の反応槽から他方の反応槽へ触媒等の成分を移送する移送配管33、35、38と、を備えている。
【0028】
反応槽22、24、26は、ステンレス合金製の円筒形容器であり、いずれも同一の構造に構成されている。反応槽22(第1の水素生成手段)、反応槽24(第2の水素生成手段)、及び反応槽26(第3の水素生成手段)は、図示しない供給管を通じて蟻酸が供給され、加熱下及び触媒の存在下で蟻酸の分解反応が行えるようになっている。蟻酸の分解反応は、以下の反応式(脱炭酸反応)にて進行し、蟻酸から水素と二酸化炭素が生成される。
HCOOH → CO + H
また、蟻酸の分解反応には、下記の脱水反応が競争反応として生じる場合があるが、上記の脱炭酸反応が優先的に進行するように触媒(例えば、非特許文献1に例示されている触媒)を選定し、加熱下及び触媒の存在下にて反応させるようになっている。
HCOOH → CO + H
本実施形態では、反応槽22、24、26のそれぞれに加熱手段であるヒータユニット12、14、16が取り付けられており、各反応槽の円筒形の側部曲面から加熱可能に構成されている。
【0029】
反応槽の加熱温度としては、脱水反応に優先して脱炭酸反応を進行させて水素の生成効率を高める観点から、槽内の液相の温度が、20℃〜120℃の範囲であることが好ましく、60℃〜100℃の範囲であることがより好ましく、60〜85℃の範囲であることが更に好ましい。
反応槽の加熱温度は、熱電対を反応槽内に挿入し、測定対象である液相に接触させて測定することができる。
【0030】
ヒータユニット12、14、16は、円筒形の反応槽の側部曲面の周囲を取り囲むように取り付けられており、反応槽の周囲全体が加熱されるようになっている。
本実施形態のヒータユニットとしては、ブロックヒーターが用いられており、円筒形の反応槽の周囲全体を加熱して反応温度を安定的に保持することができる。ヒータユニットとしては、上記のほか、リボンヒーター、燃料電池の排熱、ガスバーナー等を使用してもよい。
【0031】
円筒形の反応槽22(第1の水素生成手段)の底部には、第1の移送配管33の一端が接続され、他端は反応槽24の底部に接続されている。第1の移送配管33により、反応槽22と反応槽24とは互いに連通されている。
【0032】
第1の移送配管33は、開閉弁であるバルブV3を有し、本実施形態では、バルブV3を開状態にして、水素供給後の反応槽24(第2の水素生成手段)中の触媒を含む液体及び水素含有ガスを、反応槽24から反応槽22へ移送する。具体的には、反応槽26(第3の水素生成手段)で水素供給する際、水素供給終了後の反応槽24内における触媒等を第1の移送配管33を通じて反応槽22へ移送する。
【0033】
円筒形の反応槽24(第2の水素生成手段)の底部には、第2の移送配管35の一端が接続され、他端は反応槽26の底部に接続されている。第2の移送配管35により、反応槽24と反応槽26とは互いに連通されている。
【0034】
第2の移送配管35は、開閉弁であるバルブV5を有し、本実施形態では、バルブV5を開状態にして、水素供給後の反応槽26(第3の水素生成手段)中の触媒を含む液体及び水素含有ガスを、反応槽26から反応槽24へ移送する。具体的には、反応槽22(第1の水素生成手段)で水素供給する際、水素供給終了後の反応槽26内における触媒等を第2の移送配管35を通じて反応槽24へ移送する。
【0035】
円筒形の反応槽26(第3の水素生成手段)の底部には、第3の移送配管38の一端が接続され、他端は反応槽22の底部に接続されている。第3の移送配管38により、反応槽26と反応槽22とは互いに連通されている。
【0036】
第3の移送配管38は、開閉弁であるバルブV7を有し、本実施形態では、バルブV7を開状態にして、水素供給後の反応槽22中の触媒を含む液体及び水素含有ガスを、反応槽22から反応槽26へ移送する。具体的には、反応槽24(第2の水素生成手段)で水素供給する際、水素供給終了後の反応槽22内における触媒等を第3の移送配管38を通じて反応槽26へ移送する。
【0037】
円筒形の反応槽22の天部には、開閉弁であるバルブV2を備えた水素供給配管32の一端が接続されており、反応槽22で蟻酸を分解反応させて水素生成及び水素供給する際にバルブV2を開状態とする。バルブV2を開状態にすることで、水素供給配管32を通じて反応槽22で生成した水素を外部へ供給することができる。
【0038】
円筒形の反応槽24の天部には、開閉弁であるバルブV4を備えた水素供給配管34の一端が接続されており、反応槽24で蟻酸を分解反応させて水素生成及び水素供給する際にバルブV4を開状態にする。バルブV4を開状態にすることで、水素供給配管34を通じて反応槽24で生成した水素を外部へ供給することができる。
【0039】
また、円筒形の反応槽26の天部には、開閉弁であるバルブV6を備えた水素供給配管36の一端が接続されており、反応槽26で蟻酸を分解反応させて水素生成及び水素供給する際にバルブV6を開状態とする。バルブV6を開状態にすることで、水素供給配管36を通じて反応槽26で生成した水素を外部へ供給することができる。
【0040】
そして、水素供給配管32の他端、水素供給配管34の他端、及び水素供給配管36の他端は、それぞれ共通配管30と接続されており、各反応槽で生成した高圧水素は共通配管30に送られる。共通配管30は、バルブV1を備えた水素排出管40と接続されている。バルブV1は、バルブV1より上流の圧力を検知し、閾値(例えば80MPa)を超える圧力になった際に開状態となるよう制御された自動開閉弁である。なお、バルブV1は、例えばダイヤフラム式の背圧弁としてもよい。共通配管30を通じて水素排出管40内を流通する高圧水素のガス圧力が予め定められた閾値を超えると、バルブV1が開状態となり、水素排出管40の一端と接続された水素貯留タンク(バッファタンク)42に高圧水素が導入される。
閾値は、水素を高圧水素として外部に供給し得る圧力であればよく、20MPa以上とすることができ、80MPa以上が好適である。
上記とは逆に、水素排出管40内のガス圧力が閾値を下回った場合は、水素貯留タンク42へ送られる水素量、すなわち反応槽で生成される水素量が低減しているため、バルブV1は閉状態となる。そして、例えば反応槽を切り替えて継続的に水素が生成され、水素排出管40内のガス圧力が再び閾値を超えた場合は、バルブV1が再び開状態となり、高圧水素が水素貯留タンク42に送られ、水素貯留タンク42に高圧水素が貯留されることになる。
【0041】
水素貯留タンク42は、水素排出管40を通じて流入した高圧水素を一旦貯留し、外部からの要求量に応じて必要な水素を外部へ供給することができる。水素排出管40からの高圧水素は、二酸化炭素が混入した混合ガスとして供給されるため、必要に応じて、二酸化炭素を分離する分離手段を通じて純度の高い水素ガスとして外部に供給してもよい。
二酸化炭素の分離手段としては、例えば、水素を選択的に分離する水素分離膜、吸着剤、冷却等を用いてもよい。
【0042】
このように、バルブV1は、共通配管30で集められた高圧水素が流通する水素排出管40内におけるガス圧力が所定の閾値以上(例えば80MPa以上)に達している場合に開状態となり、所定の閾値を下回った場合に閉状態となるようになっている。具体的には、例えば反応槽22で生成された水素が共通配管30及び水素排出管40を流通し、水素排出管内におけるガス圧力が予め定められたガス圧力(閾値)を超えたときには、バルブV1を開状態として反応槽22での反応を継続する。逆に、水素の生成量が減ってガス圧力が閾値を下回ったときには、反応槽22中の蟻酸の濃度が低下している状態であるので、バルブV1を閉状態として、かつ、バルブV2を閉状態として反応槽22での蟻酸の分離反応を停止する。次いで、例えばバルブV4を開状態として反応槽24からの水素供給を開始し、その後は3つの反応槽において輪番で水素供給を継続する。
【0043】
本実施形態の水素供給装置において、3つの反応槽22、24、26を輪番で運転して継続的に高圧水素を供給し、貯留する動作は、例えば図2に示すように制御されてもよい。以下、図1図6を参照して説明する。
【0044】
図2において、フェーズ1の前に反応槽26で高圧水素を生成するフェーズが終了した状態を想定し、次フェーズとして、フェーズ1〜3を順次行う動作を説明する。
フェーズ1では、反応槽22で蟻酸の分解反応を行って水素生成及び水素供給を行う。この場合、反応槽22には、図示しない供給配管から既に蟻酸が供給されており、かつ、既に高圧水素を供給するフェーズが終了した反応槽24から触媒及び水等が移送された状態にある。この際、反応槽22内の圧力は、反応槽24からの触媒及び水等の移送により、40MPa程度まで昇圧された状態となっている。
【0045】
図3に示すように、反応槽22の周囲を取り囲むヒータユニット12で反応槽22を加熱し、触媒作用を利用して蟻酸の分解反応を行わせる。この際、バルブV2は開状態にされ、他のバルブV1、V4、V6は閉状態とされている。反応槽22で水素が生成されると、生成水素は、水素供給配管32を通じて共通配管30に送られ、さらに水素排出管40内を流通する。水素は、同時に生成される二酸化炭素を含む混合ガスとして流通する。バルブV1は閉状態にあるので、反応槽22及びバルブV1間における水素圧は上昇し、水素排出管40内における水素圧が予め定められた閾値(例えば80MPa)を超えた場合、高圧水素が充満した状態といえるので、図1に示すように、バルブV1を開状態とし、高圧水素を水素貯留タンク42に導入する。
ここで、反応槽22における、水素の生成速度の低下、又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件として、高圧水素を供給する反応槽の切り替えにそなえ、図4に示すように、バルブV5を開状態にし、既に高圧水素の供給を終了して停止している反応槽26から待機槽である反応槽24へ触媒及び水等を移送する。移送終了後は、バルブV5を閉状態とする。
【0046】
反応槽26内の触媒等を反応槽26から反応槽24へ移送する場合、反応槽24の底部と反応槽26の底部とが第2の移送配管35によって連通され、かつ、反応槽24へ移送する際、図8に示すように触媒等は反応槽24の側部曲面の内壁面(内周面)に沿った方向に流出される。この場合、触媒と水を含む液体及び水素と二酸化炭素を含む気体が流出されると、バブリングしながら旋回流をつくって撹拌しながら収容されることになるので、各成分が互いに接触する時間を長く確保することができる。したがって、気液間の熱交換が好適に行われるため、水素が反応槽24へ移送される際にジュールトムソン効果で生じやすい気相の温度上昇を抑える効果がある。
なお、移送される側の反応槽24における底部とは、上記目的を達成するのに十分な深度より深い場所、具体的には、気相部の移送が始まった際に移送配管の移送先側の一端が少なくとも液相の液面よりも下の位置、すなわち液相に浸漬する位置が好ましい。
【0047】
ここで、システム仕様を下記のように仮定した場合、反応槽26内の触媒等を反応槽24に移送する際の移送成分の体積と圧力の変化を図7に示す。なお、水と蟻酸とを混合した際の体積減容量を5/6倍と仮定する。
<システム仕様>
・水素供給圧力:80MPa
・蟻酸濃度:15mol/L
・触媒濃度:2.0mmol/L(反応初期における値)
・ヒータユニット:電気式、80℃ (ガス式ないしは燃料電池の排熱も可)
・容器容量:1000ml(高さ100mm)
・周囲温度:室温(30℃)
・反応槽形状:円筒
【0048】
図7に示すように、圧力変化は、反応槽24が反応槽26と同一圧力になるまで連通した場合、40MPaにまで達する。なお、同一圧力、すなわち反応槽24と反応槽26の差圧が0MPaになるまで連通してもよいが、連通の時間を短縮するため、差圧が0MPaになる以前、好ましくは初期差圧の10%以内に達した時点で連通を終了してもよい。また、温度変化は、槽内における気液間の熱交換効率及び槽の断熱性にも依存するが、完全に断熱された環境下で均一に熱交換が行われた場合は、断熱圧縮とジュールトムソン効果を考慮すると、67℃まで上昇すると考えられる。
このように、触媒等が移送された反応槽における温度が85℃以下に抑えられていることが好ましい。移送後の反応槽の内部の温度が85℃以下であると、安全性が高く、高圧水素の継続的な供給に好適である。移送後の反応槽の内部の温度は、蟻酸の脱炭酸反応に影響を来たさない範囲であれば低いほど良く、更には80℃以下がより好ましい。
【0049】
熱交換を図るため、移送管の一端の接続部の位置は、移送される反応槽における液面の高さ(例えば最底部から73.2mm)より低い位置までに設定するのが好ましく、移送前の反応槽における液面の高さ(例えば最底部から50.5mm)より低い位置までに設定するのがより好ましい。本実施形態では、最底部から10.0mmの位置に接続されている。
【0050】
反応槽22での蟻酸の分解反応が進んで槽内の蟻酸の濃度が低下し、水素生成速度が低下した場合には、水素排出管40内における水素圧は閾値を下回るので、バルブV1は閉状態となり、反応槽22での水素供給を停止する。
【0051】
蟻酸の分解反応に用いられる触媒としては、蟻酸の分解反応を促進する触媒であり、液相に均一に拡散する触媒であれば、特に制限はない。触媒としては、例えば、環状有機物の遷移金属錯体など(例えば非特許文献1に記載の触媒)を用いることができる。遷移金属錯体における金属種としては、例えば、ルテニウム、ロジウム、イリジウム等の白金族金属、マンガン、クロム、コバルト、塩化亜鉛などを挙げることができる。
【0052】
続いて、図2に示すようにフェーズ2に移行し、フェーズ2では、反応槽24で蟻酸の分解反応を行って水素生成及び水素供給を行う。この場合、図5に示すように、反応槽24の周囲を取り囲むヒータユニット14により反応槽24を加熱し、触媒作用を利用して蟻酸の分解反応を行わせる。この際、バルブV4は開状態にされ、他のバルブV1、V2、V6は閉状態とされている。
フェーズ1からフェーズ2に移行する際は、例えば図9に示すように、反応槽22での水素供給を停止する前に反応槽24でも水素供給を開始しておき(フェーズ1A)、反応槽24で水素供給を開始した後に反応槽22での水素供給を停止してもよい。このようにすることで、水素の連続供給をより安定的に行うことができる。これは、後述するフェーズ2からフェーズ3への移行(フェーズ2A)、フェーズ3以降のフェーズ(例えばフェーズ3A)への移行の際も同様である。
【0053】
反応槽24で水素が生成されると、生成水素は、水素供給配管34を通じて共通配管30に送られ、さらに水素排出管40内を流通する。バルブV1は閉状態にあるので、反応槽24及びバルブV1間における水素圧は上昇し、水素排出管40内における水素圧が予め定められた閾値(例えば80MPa)を超えた場合、高圧水素が充満した状態といえるので、図1に示すように、バルブV1を開状態とし、高圧水素を水素貯留タンク42に導入する。
ここで、反応槽24における、水素の生成速度の低下、又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件として、高圧水素を供給する反応槽の切り替えにそなえ、図6に示すように、バルブV7を開状態にし、既に高圧水素の供給を終了して停止している反応槽22から待機槽である反応槽26へ触媒等を移送する。移送終了後は、バルブV7を閉状態とする。
【0054】
反応槽22内の触媒等を反応槽22から反応槽26へ移送する場合にも、反応槽22の底部と反応槽26の底部とが第1の移送配管38によって連通され、かつ、反応槽26へ移送する際、図8と同様に、触媒等は反応槽26の側部曲面の内壁面(内周面)に沿った方向に流出される。これにより、上記と同様に、触媒と水を含む液体及び水素と二酸化炭素を含む気体が反応槽26に流出されると、バブリングしながら旋回流をつくって撹拌しながら収容されることになる。したがって、水素が反応槽24へ移送される際に生じやすい気相の温度上昇が抑えられる。
【0055】
反応槽24での蟻酸の分解反応が進んで槽内の蟻酸の濃度が低下した場合には、水素排出管40内における水素圧は閾値を下回るので、バルブV1を閉状態とし、反応槽24での水素供給を停止する。
【0056】
次に、図2に示すようにフェーズ3に移行し、フェーズ3では、反応槽26で蟻酸の分解反応を行って水素生成及び水素供給を行う。この場合、上記と同様に、反応槽26の周囲を取り囲むヒータユニット16で反応槽26を加熱し、触媒作用を利用して蟻酸の分解反応を行わせる。この際、バルブV6は開状態にされ、他のバルブV1、V2、V4は閉状態とされている。反応槽26で水素が生成されると、生成水素は、水素供給配管36を通じて共通配管30に送られ、さらに水素排出管40内を流通する。バルブV1は閉状態にあるので、反応槽26及びバルブV1間における水素圧は上昇し、水素排出管40内における水素圧が予め定められた閾値(例えば80MPa)を超えた場合、高圧水素が充満した状態といえるので、図1に示すように、バルブV1を開状態とし、高圧水素を水素貯留タンク42に導入する。
ここで、反応槽26における、水素の生成速度の低下、又は水素の生成開始から一定時間経過したことを条件として、高圧水素を供給する反応槽の切り替えにそなえ、バルブV3を開状態にし、図示しないが、既に高圧水素の供給を終了して停止している反応槽24から待機槽である反応槽22へ触媒等を移送する。移送終了後は、バルブV3を閉状態とする。
【0057】
反応槽24内の触媒等を反応槽24から反応槽22へ移送する場合にも、反応槽24の底部と反応槽22の底部とが第1の移送配管33によって連通され、かつ、反応槽22へ移送する際、図8と同様に、触媒等は反応槽22の側部曲面の内壁面(内周面)に沿った方向に流出される。これにより、上記と同様に、触媒と水を含む液体及び水素と二酸化炭素を含む気体が反応槽22に流出されると、バブリングしながら旋回流をつくって撹拌しながら収容されることになる。したがって、水素が反応槽22へ移送される際に生じやすい気相の温度上昇が抑えられる。
【0058】
反応槽26での蟻酸の分解反応が進んで槽内の蟻酸の濃度が低下した場合には、水素排出管40内における水素圧は閾値を下回るので、バルブV1を閉状態とし、反応槽26での水素供給を停止する。
【0059】
その後は、再びフェーズ1に戻り、フェーズ1で反応槽22にて蟻酸の分解反応を行って水素生成及び水素供給を行う、上記と同様の動作を繰り返す。これにより、高圧水素を継続的に生成し、供給することができる。
【0060】
上記の実施形態では、3つの反応槽の底部に第1の移送配管33、第2の移送配管35、及び第3の移送配管38を接続した形態を説明したが、この形態に限られず、変形例として、図10に示す水素供給装置200のように、第1の水素生成手段である反応槽22及び第2の水素生成手段である反応槽26を連通する移送配管38と、第2の水素生成手段である反応槽24及び移送配管38を連通する移送配管37と、を接続した形態としてもよい。
この形態では、移送配管38がバルブV7A、V7Bを備え、かつ、移送配管37がバルブV8を備えており、例えば、反応槽22で水素供給する場合は、バルブV7Aを閉じ、かつ、バルブV7B及びバルブV8を開状態とすることにより、上記実施形態と同様に反応槽26内の触媒等が反応槽26から反応槽24へ移送されて分解反応が開始し、続いて反応槽24で水素供給する場合は、バルブV8を閉じ、かつ、バルブV7A及びバルブV7Bを開状態とすることにより、上記実施形態と同様に反応槽22内の触媒等が反応槽22から反応槽26へ移送されて分解反応が開始する。引き続いて、反応槽26で水素供給する場合は、バルブV7Bを閉じ、かつ、バルブV7A及びバルブV8を開状態とすることにより、上記実施形態と同様に反応槽24内の触媒等が反応槽24から反応槽22へ移送されて分解反応が開始する。
このような形態では、上記した実施形態に比べ、配管数を減らし、より簡易な装置構成とすることができる。
【0061】
上記した実施形態では、水素生成手段として3つの反応槽を用い、3つの反応槽を輪番で運転して継続的に高圧水素を供給する場合を中心に説明したが、4つ以上の反応槽を用いて輪番で運転してもよい。
【0062】
また、上記した実施形態では、3つの反応槽のうち、1つの反応槽が蟻酸の分解反応による水素生成及び水素供給を担う場合を中心に説明したが、例えば4つ以上の反応槽を用い、2つの反応槽が蟻酸の分解反応による水素生成及び水素供給を担い、他の2つの反応槽の一方が後の水素供給のための反応準備を担い、かつ、他方が、後の水素供給のための反応準備をする前記一方における触媒等の移送を担う態様であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
12、14、16・・・ヒータユニット(加熱手段)
22、24、26・・・反応槽(水素生成手段)
33、35、37、38・・・移送配管
42・・・水素貯留タンク
100、200・・・水素供給装置
V1・・・流量調整弁
V2〜V7、V7A、V7B、V8・・・開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10