(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1つの磁石が前記ベース基板に取り付けられたときにおいて、前記少なくとも1つの磁石は前記上面から突出している、請求項6に記載の試料分析用基板。
前記磁石ユニットが前記ベース基板に取り付けられたときにおいて、前記少なくとも1つの磁石は前記チャンバーに近接した位置に配置される、請求項9に記載の試料分析用基板。
前記ベース基板は、前記磁石ユニットが前記ベース基板に取り付けられたときに前記少なくとも1つの磁石が収納される収納室を有する、請求項9に記載の試料分析用基板。
前記検出機構が前記少なくとも1つの磁石が取り付けられていないことを検出した場合において、検出結果を報知するための信号を生成する信号生成回路をさらに備えた、請求項17に記載の試料分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
尿や血液等の検体の成分を分析する方法として、分析対象物であるアナライトと、当該アナライトと特異的に結合するリガンドとの結合反応を用いる方法が知られている。このような分析法としては、例えば、免疫測定法や遺伝子診断法が挙げられる。
【0011】
免疫測定法の一例として、磁性粒子(「磁性ビーズ」、「磁気粒子」又は「磁気ビーズ」等と称することもある。)を用いる方法がある。免疫測定法には、競合法と非競合法が存在する。また、遺伝子診断法の一例として、磁性粒子を用いたハイブリダイゼーションにより、遺伝子検出を行う方法がある。
【0012】
以下、磁性粒子を用いたサンドイッチイムノアッセイ法(非競合法)を、
図17を参照しながら具体的に説明する。
図17は、磁性粒子を用いたサンドイッチイムノアッセイ法を模式的に示す。
図17の左から右に向かって順に説明する。
【0013】
まず、磁性粒子固定化抗体305および抗原306が用意される。磁性粒子固定化抗体305は、磁性粒子302の表面に固定化された抗体304である。抗体304は一次抗体として機能する。磁性粒子固定化抗体305と測定対象物である抗原306とで抗原抗体反応を生じさせると、抗原306が結合した磁性粒子固定化抗体305が得られる。
【0014】
さらに、標識抗体308が用意される。標識抗体308は、標識物質307が結合した抗体であり、二次抗体として機能する。
【0015】
標識抗体308と抗原306とで抗原抗体反応を生じさせると、抗原306に磁性粒子固定化抗体305および標識抗体308が結合した複合体310が得られる。
【0016】
そして、複合体310に結合した標識抗体308の標識物質307を介してシグナルを検出することにより、検出したシグナルの量に応じた抗原306の濃度が測定される。標識物質307の一例として、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ)、化学発光物質、電気化学発光物質、蛍光物質等が挙げられる。利用される標識物質に応じたシグナル(色素、発光、蛍光)が検出され得る。
【0017】
抗原抗体反応には、反応物と未反応物とを分離するB/F分離(Bound/Free Separation)の工程が必要である。ここで言う「反応物」は複合体310であり、「未反応物」は例えば、検体中の未反応物、磁性粒子等に非特異的に吸着した物質、当該複合体の形成に関与しなかった標識抗体308である。
【0018】
B/F分離工程の詳細は、磁石を用いて磁性粒子302を捕捉し、液体(検体溶液、試薬溶液、洗浄液等)の除去及び磁性粒子の洗浄により、反応物と未反応物を分離し、未反応物を除去する工程を含む。B/F分離を達成するには、試料分析装置側若しくは試料分析基板側のいずれかに磁石を設ける必要がある。磁石および磁性粒子を用いたB/F分離は、非競合法よるものだけでなく、競合法による免疫測定法やハイブリダイゼーションによる遺伝子検出法においても必要である。
【0019】
一方、近年、1つの機器で複数の分析法に対応可能な技術が望まれている。たとえば、B/F分離を必要とする分析法および必要としない分析法とに両方対応可能な機器は、有用である。より具体な例として、磁石を用いたB/F分離が不要な酵素比色法や免疫比濁法による分析法と、磁性粒子によるB/F分離を必要とする分析法とに対応可能な単一の機器が有用である。ただし、当該機器には、各分析法に応じた構成が独立して必要となる。
【0020】
他方、試料分析基板側に磁石を設けることで、この問題を解決することができる。しかしながら、近年需要が増加している使い捨て型の試料分析用基板に磁石を設けると、1回の分析で磁石も同時に捨てることになり、無駄が大きくなる。
【0021】
本願発明者らは、これらの問題を解決する技術について鋭意検討した。その結果、以下に説明する新規の試料分析用基板および試料分析装置に想到した。本願の一態様に係る試料分析用基板および試料分析装置を列挙すると、以下の通りである。
[項目1]
液体試料中のアナライトとリガンドとの結合反応を生じさせるために用いられる試料分析用基板であって、
回転軸および所定の厚さを有するベース基板と、
前記ベース基板内に位置し、アナライト、および磁性粒子の表面に固定化されたリガンドを含む液体試料を保持するよう構成されたチャンバーと、
前記磁性粒子を前記チャンバー内で捕捉する位置に配置された少なくとも1つの磁石と
を備えた試料分析用基板。
[項目2]
前記少なくとも1つの磁石は、前記チャンバーの底面に近接した位置に設けられる、項目1に記載の試料分析用基板。
[項目3]
前記少なくとも1つの磁石は、前記ベース基板の前記チャンバーの壁面に近接した位置に設けられており、
前記壁面は、回転による遠心力が作用する方向の法線を有する面である、項目1に記載の試料分析用基板。
[項目4]
前記少なくとも1つの磁石は、前記ベース基板の前記チャンバーの壁面に近接した位置に設けられており、
前記壁面は、回転による遠心力に抗して前記液体試料を支持する側の面である、項目1に記載の試料分析用基板。
[項目5]
前記少なくとも1つの磁石は前記ベース基板に対して着脱可能に設けられている、項目1に記載の試料分析用基板。
[項目6]
前記ベース基板は、上面および下面を有しており、
前記少なくとも1つの磁石は、前記上面から着脱可能に設けられている、項目5に記載の試料分析用基板。
[項目7]
前記ベース基板は、前記上面に前記少なくとも1つの磁石が収納される収納室を有する、項目6に記載の試料分析用基板。
[項目8]
前記少なくとも1つの磁石が前記ベース基板に取り付けられたときにおいて、前記少なくとも1つの磁石は前記上面から突出している、項目6に記載の試料分析用基板。
[項目9]
前記少なくとも1つの磁石は磁石ユニットに設けられており、
前記磁石ユニットが前記ベース基板に着脱されることによって、前記少なくとも1つの磁石が着脱される、項目5に記載の試料分析用基板。
[項目10]
前記磁石ユニットは前記ベース基板の下面から着脱可能に設けられている、項目9に記載の試料分析用基板。
[項目11]
前記磁石ユニットが前記ベース基板に取り付けられたときにおいて、前記少なくとも1つの磁石は前記チャンバーに近接した位置に配置される、項目9に記載の試料分析用基板。
[項目12]
前記ベース基板は、前記磁石ユニットが前記ベース基板に取り付けられたときに前記少なくとも1つの磁石が収納される収納室を有する、項目9に記載の試料分析用基板。
[項目13]
前記少なくとも1つの磁石は複数である、項目1から12のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目14]
前記少なくとも1つの磁石が取り付けられたときに前記基板の重心を前記回転軸に略一致させるためのバランサーをさらに備えた、項目1から13のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目15]
前記バランサーは非磁石である、項目14に記載の試料分析用基板。
[項目16]
前記バランサーは着脱可能に設けられている、項目14または15に記載の試料分析用基板。
[項目17]
前記少なくとも1つの磁石および前記バランサーは、互いに物理的に識別可能である、項目14に記載の試料分析用基板。
[項目18]
項目1から17のいずれかに記載の試料分析用基板を回転させることが可能な試料分析装置であって、
前記試料分析用基板を回転させるためのモータと、
前記モータを駆動する駆動回路と、
前記試料分析用基板の重さ、磁性的な特性、光学的な特性、回転負荷に応じた電流値若しくは電圧値、回転加速度または定常回転数の少なくとも1つを用いて、前記少なくとも1つの磁石が取り付けられているか否かを検出する検出機構と
を備えた、試料分析装置。
[項目19]
前記検出機構が前記少なくとも1つの磁石が取り付けられていないことを検出した場合において、検出結果を報知するための信号を生成する信号生成回路をさらに備えた、項目18に記載の試料分析装置。
[項目20]
前記信号生成回路は、音、光または映像を出力するための信号を生成する、項目19に記載の試料分析装置。
[項目21]
回転軸が重力方向に関して0度以上、90度以下の角度を有する、項目18に記載の試料分析装置。
[項目22]
液体試料中のアナライトとリガンドとの結合反応を生じさせるために用いられる試料分析用基板であって、
回転軸および所定の厚さを有するベース基板と、
前記ベース基板内に位置し、アナライト、および磁性粒子の表面に固定化されたリガンドを含む液体試料を保持するための第1空間を有する第1チャンバーと、
前記ベース基板内に位置し、前記回転軸からの距離が前記第1チャンバーよりも遠くに配置され、アナライト、および磁性粒子の表面に固定化されたリガンドを含む液体試料を保持するための第2空間を有する第2チャンバーと、
前記第1チャンバーと前記第2チャンバーをつなぐ第1流路と、
前記第2チャンバー中の前記磁性粒子を前記第2チャンバー内に捕捉する位置に配置された少なくとも1つの磁石と、
を備えた試料分析用基板。
[項目23]
前記第1流路は、毛細管現象により液体を移送させる毛細管を有する流路である、項目22に記載の試料分析用基板。
[項目24]
前記第1流路は、前記毛細管に前記液体試料が満たされたときにおいて、前記回転軸を中心とする回転による遠心力が毛細管力よりも大きくなったときに、前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとの間でサイフォンの原理を利用して前記液体試料を移送させる、項目23に記載の試料分析用基板。
[項目25]
前記第1流路は、前記基板を回転軸が鉛直方向に対して0度より大きく90度以下の範囲で支持した場合において、重力を利用することで前記液体試料を移送することができる流路である、項目22に記載の試料分析用基板。
[項目26]
前記ベース基板内に位置し、前記液体試料を保持するよう構成され、前記回転軸からの距離が前記第2チャンバーよりも遠くに配置された第3チャンバーと、
前記第2チャンバーおよび前記第3チャンバーをつなぐ第2流路と
を備えた、項目22から25のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目27]
前記第2流路は、毛細管現象により液体を移送させる毛細管を有する流路である、項目26に記載の試料分析用基板。
[項目28]
前記第2流路は、前記毛細管に前記液体試料が満たされたときにおいて、前記回転軸を中心とする回転による遠心力が毛細管力よりも大きくなったときに、前記第1チャンバーと前記第2チャンバーとの間でサイフォンの原理を利用して前記液体試料を移送させる、項目27に記載の試料分析用基板。
[項目29]
前記少なくとも1つの磁石は、前記第2チャンバーの底面に近接した位置に設けられる、項目22から28のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目30]
前記少なくとも1つの磁石は、前記第2チャンバーの壁面に近接した位置に設けられており、
前記壁面は、回転による遠心力が作用する方向の法線を有する面である、項目22から28のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目31]
前記少なくとも1つの磁石は、前記第2チャンバーの壁面に近接した位置に設けられており、
前記壁面は、回転による遠心力に抗して前記液体試料を支持する側の面である、項目22から28のいずれかに記載の試料分析用基板。
[項目32]
前記少なくとも1つの磁石は前記ベース基板に対して着脱可能に設けられている、項目22から31のいずれかに記載の試料分析用基板。
【0022】
以下に、添付の図面を参照しながら、本願の実施の形態の一態様に係る試料分析用基板および試料分析装置を説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1Aは、試料分析用基板10の外観を示す。
図1Bは、試料分析用基板10の断面を示す。以下の説明では、
図1Aに示される側の試料分析用基板10の平面を「上面」と呼び、その反対側の平面を「下面」と呼び、上面および下面の間に挟まれた面を「側面」と呼ぶ。
【0024】
実施の形態では、上面および下面は、回転軸Pと平行な方向の法線を有する平面であるとして説明する。つまり、上面および下面は、回転軸Pに垂直で、かつ互いに平行であるとして説明する。しかしながら、上面および下面は必ずしも全面において平行である必要はない。局所的・全体的に平行でない場合があってもよい。また、上面および下面の少なくとも一方に凹部ないし凸部を有する形状であってもよい。便宜的に、試料分析用基板10の一方の側および他方の側を「上面」および「下面」と呼ぶ。なお
図1Bは、回転軸Pを含む平面による試料分析用基板10の断面を示している。
【0025】
試料分析用基板10は、全体として円盤形状を有する。試料分析用基板10は、たとえば、その内部に液体が注入された状態で後述の試料分析装置にセットされる。試料分析装置は試料分析用基板10を回転させることによって、試料分析用基板内の液体を移送し、分配し、混合する。そして試料分析装置は、たとえば試料分析用基板10の回転を停止させて、混合された液体を光学的に分析する。
図1Aに示される試料分析用基板10の回転軸Pは、試料分析装置が試料分析用基板10を回転させる際の回転中心である。なお、試料分析用基板10は、回転軸Pが鉛直方向に対して0度以上90度以下の範囲で支持され、その状態で回転される。
【0026】
試料分析用基板10内の液体の移送、分配、混合は、内部に形成された各種チャンバーおよび流路を利用して行われる。たとえば、試料分析用基板10内に第1チャンバー、第2チャンバーおよび両チャンバー間を連結する流路を設けた場合、第1チャンバーに注入された液体は、流路を介して第2チャンバーへ移送される。または、たとえば、試料分析用基板10内に第1チャンバー、第2チャンバー、第3チャンバー、第1チャンバーと第2チャンバーとの間を連結する第1流路および第1チャンバーと第3チャンバーとの間を連結する第2流路を設けた場合、第1チャンバーに注入された液体は、第1流路および第2流路を介して第2チャンバーおよび第3チャンバーに分配される。または、たとえば、試料分析用基板10内に第1チャンバー、第2チャンバー、第3チャンバー、第1チャンバーと第3チャンバーとの間を連結する第1流路および第2チャンバーと第3チャンバーとの間を連結する第2流路を設けた場合、第1および第2チャンバーに注入されたそれぞれの液体は、第1流路および第2流路を介して第3チャンバーへ移送されることで、第3チャンバー内で混合される。
【0027】
流路を介したチャンバー間の液体の移送は、種々の方法で達成し得る。たとえば、試料分析用基板10を回転軸Pが鉛直方向に対して0度より大きく90度以下の範囲で傾けて支持する。そして、試料分析用基板10の回転角度位置を変更することにより、液体が存在する移送元のチャンバーを、移送先のチャンバーよりも高い位置に配置させる。「高い」とは鉛直方向でより上にあることを言う。これにより、重力を利用して液体を他のチャンバーに移送し得る。この場合、チャンバー間を連結する流路は、毛細管流路ではない。また、試料分析用基板10を回転軸Pが鉛直方向に対して5度以上で傾けて支持することが好ましい。また、試料分析用基板10を回転軸Pが鉛直方向に対して10度以上45度以下であることがより好ましい。さらにまた、試料分析用基板10を回転軸Pが鉛直方向に対して20度以上30度以下の範囲で傾けて支持することがさらに好ましい。試料分析用基板10を5度より小さい角度で傾けて支持すると、試料分析用基板10内の液体にかかる重力が小さすぎて移送に必要な駆動力が得られ難い場合があるからである。「毛細管流路」は、毛細管(capillary tube)現象により毛細管流路の内部に液体を満たすことができる狭い空間を有する流路を指す。毛細管は、毛管路(capillary channel)とも呼ばれる。例えば、毛細管流路が伸びる方向に垂直な断面は、0.1mm〜5mmの幅および50μm〜300μmの深さ、を有していてもよく、50μm以上(好ましくは50μm〜300μm)の幅および0.1mm〜5mmの深さ5mm以下の幅および50μm〜300μmの深さを有していてもよい。
【0028】
毛細管流路の液体の移送について、毛細管空間ではない第1チャンバーおよび第2チャンバーと、第1チャンバーと第2チャンバーを接続する毛細管流路を有する構成を例示して説明する。第1チャンバーに保持された液体は、第1チャンバーと毛細管流路と接続部分である開口に接触すると、液体は毛細管力により毛細管流路内に吸引され、その流路内部が液体で満たされる。ここで、試料分析用基板100の回転により毛細管流路内の液体にかかる遠心力が毛細管流路内の液体にかかる毛細管力以下となる回転数で試料分析用基板100を回転させた状態(試料分析用基板100の回転停止状態も含む。)を考える。この状態においては、毛細管流路内の液体は、第2チャンバーへは移送されず、毛細管空間内に留まっている。このように毛細管現象により毛細管流路内部で液体を満たすには、第2チャンバー側、すなわち、毛細管流路の出口側に空気孔(外部環境とチャンバーとの空気の通り道)を備えなければならない。また、第1チャンバー、第2チャンバーおよび毛細管流路といった閉鎖された空間内で毛細管現象による液体の移送を行うには、各チャンバーおよび流路内の気圧の関係から、第1チャンバー側、すなわち毛細管流路の入口側にも空気孔を設けなければならない。
【0029】
次に、毛細管流路に液体が満たされている状態で、試料分析用基板100の回転により毛細管流路内の液体にかかる遠心力が毛細管流路内の液体にかかる毛細管力よりも大きくなる回転数で、試料分析用基板100を回転させる。第2チャンバーが、回転軸Pに対して第1チャンバーよりも遠い位置に配置されていれば、第1チャンバー中の液体を第2チャンバーに移送することができる。
【0030】
なお、毛細管流路内の壁面に親水性処理を施すことで、毛細管力を向上させることができる。親水性処理は、第1チャンバー4の壁面や各液体試料の点着口に、非イオン系、カチオン系、アニオン系または両イオン系の界面活性剤の塗工、コロナ放電処理、物理的に表面に微細な凹凸を設ける等して行うことができる(例えば、特開2007−3361号公報を参照)。
【0031】
試料分析用基板10の形状は円盤状である必要はない。たとえば試料分析用基板10の形状は扇形状でもよいし、正方形状、長方形状、菱形状、六角形状等、種々の形状を採り得る。
【0032】
試料分析用基板10は、ベース基板12と、磁石16aと、バランサー16bと、磁石収納室18aと、バランサー収納室18bとを備えている。
【0033】
ベース基板12は、所定の厚さを有する部材であり、上述の回転軸Pを有する。ベース基板12は、たとえばアクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン等の材質が用いられ、透過率60%以上で形成されていることが好ましい。
【0034】
磁石16aは、上述したB/F分離のために設けられる。磁石16aは、磁気粒子を用いた競合法による免疫測定法に一般的に用いられる磁石であればよく、たとえばネオジウム磁石や、フェライト磁石である。
図1Bには、反応チャンバー14が示されている。反応チャンバー14は、少なくともB/F分離において、磁石により磁性粒子が捕捉される空間である。
【0035】
本実施の形態においては、磁石16aはベース基板12の磁石収納室18aに挿抜可能である。挿抜は、試料分析用基板10の上面から行われる。
【0036】
磁石16aは、反応チャンバー14の壁面に近接した位置に挿し込まれる。この壁面は、遠心力が作用する方向に垂直な面である。遠心力は、試料分析用基板10の回転に伴って、磁性粒子を含む液体試料が受ける外周方向に作用する力である。磁石16aが設けられる側の反応チャンバー14の壁面は、試料分析用基板10の回転中には、遠心力に抗して液体試料を支持する。
【0037】
バランサー16bは、試料分析用基板10の重心を回転軸P上に略一致させるために設けられている。磁石16aを試料分析用基板10に取り付けたことにより、試料分析用基板10の重心が回転軸Pからずれる。そのため、バランサー16bにより、重心位置を調整する。なお、バランサー16bの形状および材質は特に限定されない。
【0038】
「重心が略一致する」とは、厳密でなくてもよいことを意味する。その理由は、試料が導入されていない試料分析用基板10と、導入されている試料分析用基板10とでは、そもそも重心の位置が異なってしまうからである。さらに試料の移送等によっても重心の位置が変わり得る。よって未使用の試料分析用基板10において、重心が回転軸P上に厳密に一致していなくてもよい。すなわち、後述の試料分析装置1が、試料分析用基板10に各種液体、磁石16aおよびバランサー16bが保持された試料分析用基板10で、少なくとも所定の回転速度で回転させることができる重心の状態が、「略一致する」ということになる。
【0039】
バランサー16bはベース基板12のバランサー収納室18bに挿抜可能である。挿抜は、試料分析用基板10の上面から行われる。
【0040】
磁石16aとバランサー16bとが回転軸Pに関して対称に配置される場合には、磁石16aとバランサー16bとは同じ重さを有していればよい。一方、磁石16aとバランサー16bとが回転軸Pに関して対称に配置されない場合には、相互の位置に応じて磁石16aおよびバランサー16bの各重さを調整する必要が生じる。具体的な重さは試料分析用基板10の設計時に予め特定され得る。なお、磁石16aおよびバランサー16bのそれぞれの数は、1つでなく、複数であってもよい。
【0041】
使用者が、磁石16aおよびバランサー16bを磁石収納室18aおよびバランサー収納室18bにそれぞれ挿し込む際、挿し違えをする可能性がある。そのような差し違えを防止するため、磁石16aおよびバランサー16bの形状を互いに異ならせてもいいし、磁石16aおよびバランサー16bの少なくとも一方に、他方と識別可能にするための色、マーク、文字を付してもよい。
【0042】
磁石収納室18aおよびバランサー収納室18bは、それぞれ、磁石16aおよびバランサー16bを収納する空間である。磁石収納室18aおよびバランサー収納室18bは、たとえば磁石16aおよびバランサー16bの形状に適合するようにベース基板12に設けられた凹部である。
【0043】
図1Cは、磁石16aおよびバランサー16bがそれぞれ磁石収納室18aおよびバランサー収納室18bに収納された状態の試料分析用基板10を示す。
【0044】
磁石16aおよびバランサー16bの一方または両方は、ベース基板12に固定的に設けられてもよい。たとえば磁石16aおよびバランサー16bの両方がベース基板12に固定された試料分析用基板10が製造され、使用され、販売されてもよい。
図1Cは、磁石16aがベース基板12に固定的に設けられたときの試料分析用基板10の断面を示している。
【0045】
さらに、磁石16aがベース基板12に固定的に設けられる場合には、磁石16aの位置は設計によって適宜変更され得る。ベース基板12における磁石16aの位置は、反応チャンバー14内のいずれかの壁面に磁性粒子を捕捉できれば(すなわち、チャンバー内で磁性粒子を補足できれば)、特に限定されない。たとえば磁石16aを反応チャンバー14の底面に設けてもよい。もちろん、挿抜可能な態様において磁石16aを反応チャンバー14の底面に挿し込むよう構成してもよい。たとえば磁石16aを反応チャンバーの上面に設けてもよい。もちろん、挿抜可能な態様において磁石16aを反応チャンバー14の上に挿し込むよう構成してもよい。
【0046】
図2Aおよび
図2Bは、試料分析用基板10の磁石16aおよびバランサー16bに関する変形例を示す。
【0047】
図1A〜
図1Cでは、磁石16aおよびバランサー16bの上部は、試料分析用基板10の上面と同一平面または上面内に収まっていた。
図2Aおよび
図2Bの例では、磁石16aおよびバランサー16bの上部は、試料分析用基板10の上面から長さdだけ突出している(
図2B参照)。これにより、磁石16aおよびバランサー16bの取り外しが容易になる。特に、試料分析用基板10を試料分析装置から取り外す前に、試料分析装置に固定された試料分析用基板10から磁石16aおよびバランサー16bを引き抜くことが容易になる。
【0048】
図3は、本実施の形態による試料分析装置1の構成を示す。
【0049】
試料分析装置1は、装填(セット)された試料分析用基板10を時計回りまたは反時計回りに回転させ、揺動させ、予め定められた位置に停止させる。これにより、試料分析装置1は、試料分析用基板10内の反応チャンバー14内の液体を移送し、混合し、分析することが可能である。
【0050】
試料分析装置1は、モータ20と、駆動回路22と、操作部24と、磁石検出機構26と、制御回路30と、表示装置32とを有する。試料分析用基板10はその下面において試料分析装置1に着脱可能であり、試料分析装置1を構成する要素ではない。以下、試料分析装置1の各構成要素の概要を説明する。
【0051】
モータ20は、たとえば永久磁石の回転ロータと、コイルとを有するブラシレスモータである。たとえば、回転ロータは12極であり、コイルは3相である。ブラシレスモータ20には複数のホール素子が設けられている。試料分析用基板10が試料分析装置1にセットされたとき、モータ20の回転軸と試料分析用基板10の回転軸Pとは一致し、それによりモータ20が試料分析用基板10を回転させることができる。上述のように、試料分析用基板10を試料分析装置1に取り付ける角度を調整することにより、モータ20は鉛直方向に対して回転軸Pの傾きが0度以上90度以下で試料分析用基板10を回転させる。
【0052】
なお、モータ20はブラシモータであってもよいし、ステッピングモータであってもよい。モータ20の運動が試料分析用基板10を回転させる運動として伝達されればよい。
【0053】
駆動回路22は、主としてインバータ回路とそのインバータ回路の動作を制御する回路とを有する(いずれも図示せず)。駆動回路22は、モータ20の回転ロータの回転に合わせてモータ20の3相のコイルへ流す電流の切り替えを行い、モータ20の回転を制御する。
【0054】
操作部24は、たとえばタッチパネル、キーボード等の入力装置であり、使用者が試料分析装置1の操作に必要な入力を行うために利用される。操作部24は、後述する磁石検出処理を開始させるために利用されてもよい。
【0055】
磁石検出機構26は、測定時に試料分析用基板10に磁石16aが設置されているか否かを検出する。検出方法によって、磁石検出機構26の具体的な構成は異なっている。以下では複数の構成を説明する。
【0056】
制御回路30は、たとえば試料分析装置1に設けられたCPUである。制御回路30は、RAM(図示せず)に読み込まれたコンピュータプログラムを実行することにより、当該コンピュータプログラムの手順にしたがって他の回路に命令を送る。その命令を受けた各回路は、本明細書において以下に説明されるように動作して、各回路の機能を実現する。制御回路30からの命令は、たとえば
図3に示されるように、駆動回路22、操作部24、磁石検出機構26、表示装置32等に送られる。コンピュータプログラムの手順は、添付の図面におけるフローチャートによって示されている。
【0057】
なお、コンピュータプログラムが読み込まれたRAM、換言すると、コンピュータプログラムを格納するRAMは、揮発性であってもよいし、不揮発性であってもよい。揮発性RAMは、電力を供給しなければ記憶している情報を保持できないRAMである。たとえば、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(DRAM)は、典型的な揮発性RAMである。不揮発性RAMは、電力を供給しなくても情報を保持できるRAMである。たとえば、磁気抵抗RAM(MRAM)、抵抗変化型メモリ(ReRAM)、強誘電体メモリ (FeRAM)は、不揮発性RAMの例である。本実施の形態においては、不揮発性RAMが採用されることが好ましい。揮発性RAMおよび不揮発性RAMはいずれも、一時的でない(non-transitory)、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の例である。また、ハードディスクのような磁気記録媒体や、光ディスクのような光学的記録媒体も一時的でない、コンピュータ読み取り可能な記録媒体の例である。すなわち本開示にかかるコンピュータプログラムは、コンピュータプログラムを電波信号として伝搬させる、大気などの媒体(一時的な媒体)以外の、一時的でない種々のコンピュータ読み取り可能な媒体に記録され得る。
【0058】
表示装置32は、たとえば液晶表示装置であり、制御回路30から出力された映像信号を受け取り、その映像信号を表示する。操作部24がタッチパネルであるとすると、操作部24は表示装置32の一部として設けられ得る。本明細書では表示装置32は試料分析装置1に設けられているとして説明する。しかしながらこの構成は一例である。表示装置32は、試料分析装置1の外部の装置であってもよい。
【0059】
本実施の形態では、制御回路30は、信号生成回路28を有しており、また表示装置32はスピーカ34を有している。
【0060】
信号生成回路28は、磁石検出機構26による検出結果がエラーを示すとき、すなわち磁石が検出されないことを示すとき、表示装置32、またはスピーカ34に音、光、映像を提示させるための信号(報知信号)を生成する。音や光は、たとえば警告音や、警告灯である。映像は、「磁石が装着されていません」等のメッセージであり、表示装置32に表示される。
【0061】
本明細書では、視覚的、聴覚的に使用者が認識できるものであればその態様は任意である。
【0062】
以下、
図4を参照しながら試料分析装置1の動作を説明する。
【0063】
図4は、試料分析装置1を用いて試料を測定する手順の一例を示す。
【0064】
ステップS1〜S4は試料分析装置1の使用者の動作であり、ステップS5以降が試料分析装置1の動作である。
【0065】
使用者は、ステップS1において試料分析用基板10と磁石16aとを準備する。ステップS2において、使用者は試料分析用基板10に磁石16aを装着する。使用者は、必要に応じてステップS1においてバランサー16bを用意し、ステップS2においてそのバランサー16bを装着してもよい。装着により、
図1Cまたは
図2Aおよび
図2Bに示す試料分析用基板10が得られる。
【0066】
使用者は、ステップS3において、試料分析用基板10へ検体となる試料を導入し、ステップS4において、試料分析用基板10を試料分析装置1にセットする。この操作により、試料分析用基板10が試料分析装置1に回転可能に固定される。
【0067】
ステップS5において、制御回路30は磁石検出機構26に磁石16aの検出処理を実行させる。
【0068】
ステップS6において、磁石検出機構26は磁石16aの有無を判定する。判定処理の詳細は後述する。判定の結果、磁石16aが存在する場合には処理はステップS7に進み、存在しない場合には処理はステップS8に進む。
【0069】
ステップS7では、制御回路30は予め定められた手順に従って、試料分析用基板10の揺動、回転、停止等を行い、試料を測定する。本明細書では測定の具体的内容の説明は省略する。
【0070】
ステップS8では、制御回路30が、磁石検出機構26の検出結果がエラーであることを示す信号を受け取ると、信号生成回路28は報知信号を生成する。表示装置32は報知信号に基づいてエラーを表示する。
【0071】
以下、磁石検出機構26の具体例を説明する。磁石検出機構26による検出方法として、本明細書では、試料分析用基板10の光学的な特性、磁性的な特性、試料分析用基板10の重さ、回転負荷に応じた電流値若しくは電圧値、回転加速度または定常回転数を用いる例を説明する。なお、これらの検出方法は択一的でなくてもよい。磁石検出機構26は、少なくとも1つの方法によって磁石16aを検出する。
【0072】
なお、以下では適宜ブロック図を用いて説明するが、磁石検出に関連する構成要素の説明にとどめ、他の構成要素の説明は省略する。
【0073】
図5は、光学的に磁石16aを検出する試料分析装置1の構成例を示す。磁石検出機構26として、光検出装置26aおよび光源38が設けられる。
【0074】
光検出装置26aは、図示されない受光素子、駆動回路および、電圧変換回路を含む。光検出装置26aにおいては、駆動回路の制御の下、受光素子は光電変換によって電流値の信号を生成し、電圧値の信号に変換する。電圧変換回路は電圧値の信号を制御回路30に出力し、その信号を利用して制御回路30が磁石有無を判定する。なお光検出装置26aに演算回路を設け、光検出装置26aが磁石16aの有無を判定してもよい。受光素子は、光源38から出力された光を受光できる位置に配置されている。また、光源38は、試料分析装置1に試料分析用基板10が装着され、試料分析用基板10を回転させた場合において、試料分析用基板10内の磁石に光を照射できる位置に配置されている。
【0075】
図6は、光学的な特性を利用して磁石16aを検出する方法の手順を示す。
【0076】
ステップS11において、使用者が操作部24を操作して磁石の検出開始を指示する。たとえばハードウェアとして、磁石の検出開始ボタンを設けてある場合には、ステップS11は、そのボタンの押下を受け付ける処理に対応する。
【0077】
ステップS12において、制御回路30は光検出装置26aおよび光源38を起動させる。
【0078】
ステップS13において、モータ20が試料分析用基板10を回転させる。
【0079】
ステップS14において、光検出装置26aが光源38からの光の検出を開始する。
【0080】
ステップS15において、制御回路30は、光検出装置26aによって検出された光に基づいて信号を処理し、磁石16aの存在の有無を判定する。以下、
図7を参照しながら、この処理の詳細を説明する。
【0081】
図7は、光検出装置26aの出力結果を示す。本例では、磁石16aが装着されているとし、試料分析用基板10を一回転させたときの出力結果を示している。横軸が時間を表し、縦軸が光検出装置26aの検出結果(出力)を表す。
【0082】
回転が開始されると、ベース基板12が光を透過することにより、光源38からの光が光検出装置26aに検出される。回転が継続されて光が磁石16aに当たる。磁石16aは透過率が0であるため、磁石16aの通過中は、光検出装置26aは光を検出しない。
図7において、期間Dが磁石16aの通過期間に相当する。そして磁石16aの通過後は、光検出装置26aは再び光源38からの光を検出する。
【0083】
図7の検出波形から理解されるように、制御回路30は、閾値Tを設定し、その値を下回る期間Dが存在すれば、磁石16aが装着されていると判定できる。一方、磁石が装着されていなければ、閾値Tを下回る期間が存在しないことになる。その場合には、制御回路30は磁石16aが装着されていないと判定できる。
【0084】
なお、透過率が低い材料を用いてバランサー16bを形成する場合には、磁石16aとバランサー16bとが異なる半径上の位置になることが好ましい。バランサー16bが装着されていて、磁石16aが装着されていない場合の誤検出を防止するためである。
【0085】
なお、磁石16aとバランサー16bとが同じ半径位置に設けられるよう、試料分析用基板10が構成されている場合であっても、磁石16aおよびバランサー16bの形状により、それぞれを判別することは可能である。具体的には、回転方向に沿った長さに関し、磁石16aおよびバランサー16bに差異を設ければよい。磁石16aおよびバランサー16bが装着された状態で試料分析用基板10を一回転させると、その出力結果には、閾値Tを下回る期間が2つ存在することとなる。磁石16aおよびバランサー16bの回転方向に沿った長さが異なっていれば、閾値Tを下回る期間の長さが相違する。よって、磁石16aおよびバランサー16bが、回転方向に沿って異なる長さになるよう、それらの形状を決定すると、磁石16aおよびバランサー16bのそれぞれについて、存在するか否かを判別できる。
【0086】
また、光源38からの光に関し、バランサー16bの透過率と磁石16aの透過率とを相違させることにより、磁石16aおよびバランサー16bをそれぞれ判別することもできる。たとえば、材質等を変更することにより、光源38からの光に対する各透過率を以下のように設定する。
磁石16aの透過率<バランサー16bの透過率<ベース基板12の透過率
この場合、たとえば、2つの閾値(T1、T2;T1<T2)を予め設定しておき、出力結果が閾値T1よりも低い期間が存在すると試料分析用基板10内に磁石16aが存在すると判定し、閾値T2よりも低く、閾値T1よりも高い期間が存在するとバランサー16bが存在すると判定する。このような構成であっても、磁石16aおよびバランサー16bのそれぞれの存否を判別することができる。
【0087】
図8は、磁石16aの磁力の有無を検出する試料分析装置1の構成例を示す。磁石検出機構26として、磁力検出装置26bが設けられる。
【0088】
磁力検出装置26bは、たとえば磁力に応じて電圧を出力する、もしくはスイッチを開閉する素子、駆動回路および電圧変換回路を含む。磁力に応じた電圧を出力する素子として、ホール素子を利用することができる。また磁力に応じてスイッチを開閉する素子としてリードスイッチを利用することができる。以下ではホール素子を用いる例を説明する。
【0089】
磁力検出装置26bは、ホール素子から出力された電圧の信号を制御回路30に出力し、制御回路30が磁石有無を判定する。なお磁力検出装置26bに演算回路を設け、光検出装置26aが磁石16aの有無を判定してもよい。
【0090】
図9は、磁性的な特性を利用して磁石16aを検出する方法の手順を示す。
【0091】
ステップS21において、使用者が操作部24を操作して磁石の検出開始を指示する。たとえばハードウェアとして、磁石の検出開始ボタンを設けてある場合には、ステップS21は、そのボタンの押下を受け付ける処理に対応する。
【0092】
ステップS22において、制御回路30は磁力検出装置26bのホール素子を起動させる。
【0093】
ステップS23において、モータ20が試料分析用基板10を回転させる。
【0094】
ステップS24において、磁力検出装置26bのホール素子が磁気を検出する。ホール素子は、磁力の強さに応じた電圧信号を出力する。
【0095】
ステップS25において、制御回路30は、磁力検出装置26bのホール素子から出力された電圧信号を処理し、磁石16aの存在の有無を判定する。以下、
図10を参照しながら、この処理の詳細を説明する。
【0096】
図10は、磁力検出装置26bのホール素子の出力結果を示す。本例では、磁石16aが装着されているとし、試料分析用基板10を一回転させたときの出力結果を示している。横軸が時間を表し、縦軸が磁力検出装置26bの検出結果(出力)を表す。なお、
図10は、以下の条件下での出力結果を示している。
・磁石16aが試料分析用基板10の下面から上面に向かって順にS極、N極が配置されている。
・磁力検出装置26bが試料分析用基板10の下面から、磁石16aの磁力を検出する。
・磁力検出装置26bのホール素子は、磁石16aのS極が近づくと、出力電圧が正になるように設定されている。
【0097】
回転が開始されると、磁石16aとホール素子とが離れた位置にある状況では、ホール素子は比較的小さい電圧のみを出力する。そして回転が継続されると、磁石16aがホール素子に近づき、最接近した後、磁石16aはホール素子から離れていく。
図10において、期間Dは、磁石16aがホール素子に近づき、最接近した後、離れていく状況に対応する。磁石16aの通過後は、磁石16aとホール素子とが離れるため、ホール素子は比較的小さい電圧のみを出力する。
【0098】
図10の検出波形から理解されるように、制御回路30は、閾値Tを設定し、その値を超える期間Dが存在すれば、磁石16aが装着されていると判定できる。一方、磁石が装着されていなければ、閾値Tを上回る期間が存在しないことになる。その場合には、制御回路30は磁石16aが装着されていないと判定できる。
【0099】
なお、磁力検出装置26bのホール素子の検出感度が十分高い、および/または磁石16aの磁力が十分強い場合には、モータ20が試料分析用基板10を回転させることなく、試料分析用基板10を試料分析装置1にセットするだけで検出することも可能である。その場合には、ステップS23の処理は不要である。制御回路30は、ホール素子の出力が予め定めた閾値を超えている場合には磁石16aが装着されていると判定し、超えていない場合には磁石16aが装着されていないと判定すればよい。
【0100】
図11は、試料分析用基板10の重さに基づいて磁石16aの有無を検出する試料分析装置1の構成例を示す。磁石検出機構26として、重さ計測回路42が設けられる。なお、下記のとおり、動作が比較的簡易であるため、フローチャートによる説明は省略する。ただし制御回路30が動作する以上、その処理は下記の内容に従って実行されるプログラムによって実現され得る。
【0101】
重さ計測回路42は、たとえば物体の歪みを測定するための力学的センサである歪みゲージである。どのような歪みゲージを用いるかによって、設計時に、歪みゲージが感じる荷重と、歪み量とを予め特定しておくことが可能である。
【0102】
たとえば、試料分析用基板10の重さが14.0グラムであるとし、磁石16aが単体で0.7グラムであるとする。制御回路30は、重さ計測回路42からの歪み量により、現在の荷重を検出できる。その荷重が14.7グラムであることを示していれば、制御回路30は、試料分析用基板10に磁石16aが存在すると判定できる。一方、荷重が14.0グラムであることを示していれば、制御回路30は、試料分析用基板10には磁石16aが存在しないと判定できる。
【0103】
図12は、試料分析用基板10のセットに伴うモータ回転負荷により、磁石16aの有無を検出する試料分析装置1の構成例を示す。磁石検出機構26として、駆動回路22内に負荷検出回路26cが設けられる。なお、下記のとおり、動作が比較的簡易であるため、フローチャートによる説明は省略する。ただし制御回路30が動作する以上、その処理は下記の内容に従って実行されるプログラムによって実現され得る。
【0104】
負荷検出回路26cは、モータ20の回転負荷を検出する。回転負荷は、回転させる試料分析用基板10の重さに依存して変化する。本例の動作原理は、磁石16aの重さによって、試料分析用基板10を回転させるモータ20の負荷が増大することを利用する。すなわち負荷検出回路26cが検出したモータ20の負荷に応じて、磁石16aが存在しているか否かを判定できる。
【0105】
具体的には、駆動回路22によって駆動されるモータ20が試料分析用基板10を一定の回転数(たとえば1000rpm)で回転させ、負荷検出回路26cが負荷電流の値を計測する。磁石16aが存在する場合に計測される負荷電流の値X1、および磁石16aが存在しない場合に計測される負荷電流の値X2は、設計時に予め特定されている。磁石16aが存在する場合には磁石16aの重さ分だけ負荷が増える。よって、上述の値X1およびX2は、X1>X2の関係を有する。制御回路30は、負荷検出回路26cによって計測された負荷電流の値により、磁石16aの存在の有無を判定できる。
【0106】
なお、一定の負荷電流を流してモータ20が試料分析用基板10を回転させ、そのときの回転数を計測することによって、磁石16aの有無を判定することもできる。
【0107】
具体的には、駆動回路22によって駆動されるモータ20は、試料分析用基板10を一定の回転数(たとえば1000rpm)で回転させ、負荷検出回路26cがそのときの回転数を計測する。磁石16aが存在する場合に計測される回転数の値X3、および磁石16aが存在しない場合に計測される回転数の値X4は、設計時に予め特定されている。磁石16aが存在する場合には磁石16aの重さ分だけ負荷が増える。よって、上述の値X3およびX4は、X3<X4の関係を有する。制御回路30は、負荷検出回路26cによって計測された回転数の値により、磁石16aの存在の有無を判定できる。
【0108】
なお、試料分析用基板10に、磁石16aおよびバランサー16bの一方しか設置されていない場合も想定される。このような試料分析用基板10はバランスが取れていないため、実際の回転数が想定されている回転数よりも下がる。よって、最終的に回転が安定した時点での回転数(定常回転数)で磁石16aの有無を検出すればよい。制御回路30は、磁石16aの有無、磁石16aまたはバランサー16bの一方が存在しないことを報知信号によって使用者に伝えてもよい。
【0109】
バランスが取れていない試料分析用基板10をモータ20が回転させて負荷電流の値を計測する場合には、実際の電流値が想定されている電流値と異なる。よってそのときの電流値を利用して、制御回路30は、磁石16aまたはバランサー16bが存在しないことを報知信号によって使用者に伝えてもよい。
【0110】
上述の例では負荷電流の値を計測すると説明したが、駆動電圧を計測してもよい。また、磁石16a(バランサー16bを含む)の有無によって、回転数を挙げていく際の加速度の値も異なる。磁石16aが存在する試料分析用基板10の加速度は、磁石16aが存在しない試料分析用基板10の加速度よりも小さい。そしていずれの加速度の値も、設計上特定することが可能である。そのような加速度を利用して磁石16aの有無を検出してもよい。なお、加速度の検出方法は種々考えられる。たとえば、モータ20にホール素子が設けられている場合には、駆動回路22はホール素子の出力値に基づけば、モータ20の回転ロータの加速度、すなわち試料分析用基板10の回転加速度の値を求めることができる。
【0112】
図13Aは、変形例による試料分析用基板110の外観を示す。これまで説明した試料分析用基板10は、磁石16a、バランサー16b等が部品としてベース基板12から取り外しできるよう構成されていた。
【0113】
試料分析用基板110は、2つの部品が組み合わされて構成されている。
【0114】
図13Bは、試料分析用基板110のベース基板110aを示し、
図13Cは試料分析用基板110の磁石ユニット110bを示す。試料分析用基板110は、ベース基板110aと磁石ユニット110bとが嵌合することによって構成される。
【0115】
図13Bに示されるように、ベース基板110aは、磁石収納室18aおよびバランサー収納室18bを有している。さらにベース基板110aは、複数の固定用穴18cが設けられている。なお穴18cの数は任意である。
【0116】
一方、
図13Cに示されるように、磁石ユニット110bには、磁石16aおよびバランサー16bが設けられ、さらに固定用突起16cが設けられている。本変形例では、磁石16aおよびバランサー16bは磁石ユニット110bに固定されている。
【0117】
図14Aおよび
図14Bは、ベース基板110aの上面図および断面図である。
【0118】
図15Aおよび
図15Bは、磁石ユニット110bの上面図および側面図である。
【0119】
磁石16aおよびバランサー16bが磁石収納室18aおよびバランサー収納室18bに挿し込まれ、さらに固定用突起16cが固定用穴18cに挿し込まれることにより、試料分析用基板110は回転方向に関しては固定される。
【0120】
なお、
図13A〜15Bの例では、磁石ユニット110bはベース基板110aの下面から着脱可能に設けられるとしたが、これは一例である。たとえば磁石ユニット110bがベース基板110aの上面から着脱できてもよい。
【0121】
さらに、磁石ユニット110bがベース基板110aの側面から着脱できてもよい。たとえば磁石ユニット110bおよびベース基板110aを、試料分析用基板10を回転軸に平行な平面で切断した一方と他方のように構成する。その際、磁石16aを有する側を上述の便宜的に磁石ユニット110bと呼び、磁石収納室18aを有する側をベース基板110aと呼ぶ。このような例示的な構成によれば、磁石ユニット110bがベース基板110aの側面から着脱することが可能である。
【0122】
(実施の形態2)
図16は、本実施の形態にかかる試料分析用基板200の上面図(または下面図)の一例である。なお「上面」、「下面」の定義は、実施の形態1において
図1Aに関連して説明した通りである。
【0123】
試料分析用基板200は、回転軸P、磁石16a、第1空間を有する第1チャンバー201、第2空間を有する第2チャンバー202および第3空間を有する第3チャンバー203を有する。なお、
図16においては、バランサー16bの構成は省略している。
【0124】
試料分析用基板200は、第1チャンバー201と第2チャンバー202とをつなぐ第1流路205、および第2チャンバー202と第3チャンバー203とをつなぐ第2流路206を有している。ここでいう「つなぐ」とは、液体試料を移送可能に接続することを言う。
【0125】
第1チャンバー201、第2チャンバー202および第3チャンバー203の形状および試料分析用基板200内における配置を説明する。
【0126】
まず、第1チャンバー201について説明する。本実施の形態においては、第1チャンバー201の形状は任意である。第1チャンバー201と第1流路205の接続部分は、基本的に、第1チャンバー201の回転軸に平行な方向に位置する壁面のうち、回転軸から最も遠い(最外周壁面)壁面か、最外周壁面に隣接する側壁のうち、第1チャンバー201と第1流路205の接続部分とを含む位置であることが望ましい。理由としては、第1チャンバー201中の液体を第2チャンバー202に移送させるにあたり、第1チャンバー201中に液残りが生じる事を防止できるからである。ただし、上述の構成は、第1チャンバー201の形状に依存し得ることに留意されたい。
【0127】
また、後述のように第1流路205は毛細管流路であるため、第1チャンバー201には空気孔を備える必要がある。
図16には、第1チャンバー201に設けられた空気孔H1が例示されている。
図16において同じ形状の「○」は、空気孔を示している。空気孔の位置は、チャンバー中に液体を入れた際に、空気孔が液体で埋まらなければ、任意である。回転軸に近い側面部分か、側壁の側面部分の回転軸に近い側であり得る。次に説明する第2チャンバー202および第3チャンバー203に設けられた「○」についても同様である。
【0128】
次に、第2チャンバー202を説明する。本実施の形態においては、第2チャンバー202の形状も任意である。第2チャンバー202と第1流路205との接続部分は、基本的に、第2チャンバー201の回転軸に平行な方向に位置する壁面のうち、回転軸から最も近い(最内周壁面)壁面か、最内周壁面に隣接する側壁(できれば、そのうちの内周側)であることが望ましい。ただし、上述の構成は、第1チャンバー202の形状に依存し得ることに留意されたい。
【0129】
第1流路205および第2流路206が毛細管流路である場合、空気孔(少なくとも1個)を備える必要がある。
図16には、第2チャンバー202に設けられた空気孔H2が例示されている。
【0130】
第2チャンバー202の位置は、回転軸Pに対して第1チャンバー201よりも遠い位置に配置する必要がある。
【0131】
最後に、第3チャンバー203を説明する。第3チャンバー203の構成は、基本的には第2チャンバー202の構成に準じる。すなわち、第3チャンバー203の形状は任意であり、空気孔を設ける必要がある。また、第3チャンバー203と第2流路206との接続部分は、基本的に、第3チャンバー203の回転軸に平行な方向に位置する壁面のうち、回転軸から最も近い(最内周壁面)壁面か、最内周壁面に隣接する側壁(できれば、そのうちの内周側)であることが望ましい。ただし、第3チャンバー203の位置は、回転軸Pに対して第2チャンバー202よりも遠い位置に配置する必要がある。
【0132】
次に、第1流路205および第2流路206を説明する。
【0133】
第1流路205は、第1チャンバー201から第2チャンバー202に向かう方向に沿って、第1屈曲部205aおよび第2屈曲部205bを有している。第1屈曲部205aは、回転軸Pと反対側に凸形状を有し、第2屈曲部205bは回転軸P側に凸形状を有する。第1屈曲部205aは、第1流路205が接続する2つのチャンバー(201、202)のうち、回転軸Pに近い側に位置する第1チャンバー201と、第2屈曲部205bとの間に位置している。第1流路205が接続する2つのチャンバー(201、202)のうち、回転軸Pと、回転軸Pから遠くに位置するチャンバー202の最も回転軸に近い側面との距離をR1とし、回転軸Pから、第1屈曲部205aの最も回転軸Pから遠い側に位置する点までの距離をR2とした場合、R1>R2を満たすことが好ましい。また、回転軸Pと、回転軸Pのより近くに位置するチャンバー201に保持された液体が、遠心力によって、チャンバー201の側面に偏って保持されている場合において、回転軸Pから液体の液面までの距離をR4とし、回転軸Pから、第2屈曲部205bの最も回転軸Pに近い側に位置する点までの距離をR3とした場合、R4>R3を満たすことが好ましい。
【0134】
モータ20が試料分析用基板200をある回転数で回転させているときにおいて、液体試料は、第1チャンバー201から第1流路205を介して第2チャンバー202に移送される。さらに、その回転状態が維持された状態においては、第2チャンバー202中の液体試料は第3チャンバー203へ移送されない。ここでいう「回転数」は、第1流路205及び第2流路206の液体に対する毛細管力が同一であると仮定した場合、第2流路206中の液体にかかる毛細管力よりも試料分析用基板100の回転により液体にかかる遠心力のほうが大きい回転数である。モータ20がこの回転数で試料分析用基板100を回転させることによって、第1チャンバー201から第1流路205を介して第2チャンバー202に液体試料が移送された場合、第2チャンバー中の液体試料の一部が、第2流路206の一部を満たす。すなわち、第2チャンバー202に移送された液体試料は、第2流路206の毛細管力により第2流路206中に液体試料が引き込まれるが、この毛細管力よりも試料分析用基板100の回転による遠心力が大きい。そのため、第2流路206中の液体試料は、第2チャンバー202中の液体試料の液面の高さ(回転軸Pからの距離)と同じ高さまでしか満たされない。
【0135】
そして、モータ20が試料分析用基板200を回転させてその回転数を調整することにより、第2流路206の液体試料にかかる遠心力を、第2流路206の液体試料にかかる毛細管力よりも小さくする(回転停止状態も含む)。
【0136】
第2流路206は、毛細管現象により、第2チャンバー202中の液体の一部によって満たされる。さらに、第2流路206が液体で満たされた状態からモータ20が試料分析用基板200を回転させると、ある時点で、遠心力が毛細管力を上回る。すると第2流路206は、第2チャンバー202中の液体を第3チャンバー203へ排出する。この結果、サイフォンの原理により、第2チャンバー202の液体試料が第2流路206を介して第3チャンバー203に移送される。なお、上述のように、第3チャンバー203は回転軸Pに対して第2チャンバー202よりも遠い位置に配置されている。つまり、遠心力が作用する方向に関して、第3チャンバー203は第2チャンバー202よりも低い(離れた)位置にあると言える。上述の原理で流路を液体が移動することを、毛細管現象およびサイフォンの原理と呼ぶ。すなわち、ここでいう「サイフォンの原理」とは、試料分析用基板100の回転のより液体にかかる遠心力と流路の毛細管力とのバランスで送液制御が行われることをいう。毛管路およびサイフォンの構造を備えることにより、流路は液体をチャンバーへ移送できる。
【0137】
いま、試料分析用基板200を用いて、
図17に示す手順で磁性粒子を用いた免疫測定を行う例を考える。
【0138】
第1チャンバー201は、磁性粒子固定化抗体305、抗原306および標識抗体308を反応させて最終的に複合体310を形成させる反応場である。したがって、第1チャンバー201にそれぞれ、磁性粒子固定化抗体305を含む液体、抗原306を含む検体溶液および標識抗体308を含む液体をそれぞれ分注して、複合体310を形成させてもよい。
【0139】
または、さらに他のチャンバーおよび流路を用いて
図17に示す手順で免疫測定を行うこともできる。たとえば、試料分析用基板200に別途3つのチャンバーおよび流路が形成され、そのうちの3つのチャンバーそれぞれに、磁性粒子固定化抗体305を含む溶液、抗原306を含む検体溶液および標識抗体308を含む溶液を、それぞれ保持させる。これら3つのチャンバーの各々は、第1チャンバー201とそれぞれ流路でつながれている。そして、別途3つのチャンバーそれぞれから各液体を、各流路を介して第1チャンバー201に移送し、複合体310を形成させてもよい。
【0140】
または、磁性粒子固定化抗体305や標識抗体308を乾燥させ(以下、「ドライ化試薬」と称する。)、このドライ化試薬を第1チャンバー201に保持させ、抗原306を含む液体で溶解させることで、複合体310を形成させてもよい。この場合、抗原306を含む液体を、第1チャンバー201に分注してもよいし、他に形成されたチャンバーから流路を介して第1チャンバー201に移送してもよい。
【0141】
または、測定時に他に形成されたチャンバーに保持されたドライ化試薬を所定の溶液で溶解させ、抗原306を含む液体をそれぞれの流路を介して第1チャンバー201に移送し、第1チャンバー201中で混合させることで複合体310を形成させてもよい。
【0143】
第2チャンバー202では、B/F分離が行われる。第1チャンバー201中の複合体310を含む液体が第1流路205を介して第2チャンバー202に移送される。複合体310を含む磁性粒子302は、磁石16aの磁力により、第2チャンバー202の壁面に捕捉される。
【0144】
第3チャンバー203は、第2チャンバー202において不要になった液体を保持する。不要な液体は、第2流路206を介して第2チャンバー202から第3チャンバー203に排出される。
【0145】
図16の例では、磁石16aは、第2チャンバー202の壁面に近接した位置に配置される。この壁面は、遠心力が作用する方向に垂直な面である。遠心力は、試料分析用基板200の回転に伴って、磁性粒子302を含む液体試料が受ける外周方向に作用する力である。試料分析用基板200の回転中には、磁石16aが設けられる側の反応チャンバー14の壁面は、遠心力に抗して液体試料を支持する。なお、第2チャンバー202の壁面で磁性粒子を捕捉できる限り、磁石16aが設けられる位置は任意である。
【0146】
なお、第1チャンバー201から第3チャンバー203までの経路において、第2チャンバー202中で厳密な送液制御を行いたい場合には、上述の第2流路206についてはサイフォンの構造を有することが必要であるが、第1流路205については必ずしもサイフォンの構造を有する流路でなくてもよい。毛管路およびサイフォンの構造を利用すると、液体の移送の制御が容易になる。
図16は、サイフォンの原理を利用する構成例である。毛細管現象およびサイフォンの原理について、
図16の第2チャンバー202から第3チャンバー203の液体の移送の例を用いて説明する。まず、モータ20が試料分析用基板200を高速回転させると、液体試料が第1チャンバー201から第2チャンバー202に移送される。ここでいう「高速回転」とは、試料分析用基板200内の液体に、予め定められた大きさ以上の大きさの遠心力がかかる回転速度をいう。「予め定められた大きさ以上の大きさの遠心力がかかる回転速度」とは、試料分析用基板200の回転によって遠心力が生じることにより、反応液等の液体が重力によって移動しない回転速度であって、各毛管路の毛細管力よりも大きい遠心力をかけることができる回転速度である。以下、本明細書において同じである。
【0147】
上述の通り、高速回転状態が維持された状態においては、第2チャンバー202中の液体試料は、第2流路206を介して第3チャンバー203へ移送されない。一方、試料分析用基板200を毛管路の毛細管力よりも小さい遠心力がかかる回転数で回転(停止状態も含む)させた状態では、第2チャンバー202中の液体の一部は毛細管現象により第2流路206を満たす。第2流路206が液体で満たされた状態からモータ20が試料分析用基板200を回転させると、遠心力が毛細管力を上回った時点で、第2チャンバー202中の液体が、第3チャンバー203へ移送され始める。この結果、モータ20がその回転数以上の回転数を維持している限り、サイフォンの原理により、第2チャンバー202の液体試料が継続的に第3チャンバー203に移送される。
【0148】
上述のように、第1流路205および第2流路206は、毛細管現象により液体を引き込み、移送する毛細管流路であることが望ましい。
【0149】
ただし、第1流路205および第2流路206は、毛細管現象を利用した流路であることは必須ではない。この場合において、第1チャンバー201から第2チャンバー202を介して第3チャンバー203へ液体を移送するにあたって、第2チャンバー202と第3チャンバー203との間の液体の移送を制御する場合で説明する。
【0150】
たとえば、第1流路205が、試料分析用基板200の回転角度位置を調整して移送元である第1チャンバー201と移送先である第2チャンバー202とに高低差を生じさせ、重力を利用して液体試料を移送する場合、試料分析用基板200を回転軸Pが鉛直方向に対して0度より大きく90度以下の範囲で支持する。第1チャンバー201は、ある回転角度位置では第1チャンバー201中に液体を保持することができる形状を有する。さらに、第1チャンバー201は、試料分析用基板200の回転角度が変更された場合には、第1チャンバー201に保持された液体が第1流路205を介して第2チャンバー202に流れ出ることができる形状を有する。具体例としては、第1チャンバー201の最外周壁面(回転軸Pから最も遠い壁面)の形状を、試料分析用基板200を所定の角度で保持した場合に、この最外周壁面で液体試料が保持できるようにかかる壁面を凹形状に形成することが好ましい。また、この場合、第2流路206は、毛細管流路(サイフォン構造を含む)でも、重力を利用して液体試料の移送が可能な流路であってもよい。ただし、第2流路206が、重力を利用して液体試料の移送が可能な流路である場合には、第2チャンバー202の最外周壁面は、前述の第1チャンバー202の通り、凹形状を形成することが好ましい。
【0151】
一方、第2チャンバー202中で複合体310の形成反応とB/F分離とを行う構成も考えられる。しかしながら、本実施の形態に示す試料分析用基板200は、複合体310の形成反応を第2チャンバー202ではなく、第1チャンバー201で行うと仮定している。その理由は、第2チャンバー202で複合体310の形成反応を行うと、磁性粒子が磁石16aにより第2チャンバー202の壁面で捕捉された状態で複合体310の形成反応が行われてしまうからである。すなわち、第2チャンバー202で複合体310の形成反応を行うと、磁性粒子の位置がほぼ固定された状態で複合体310の形成反応が行われることになり、反応効率が悪くなるとともに、複合体形成反応に時間を要してしまう。
【0152】
また、免疫測定を行うにあたって、複合体310の形成反応が完了した後、図示しないチャンバーに保持された発光基質ないし発色基質を第2チャンバー202に移送し、発光ないし発色反応をさせることも考えられる。また、非特異的な磁性粒子302への吸着を効果的に抑制するために、複合体310の形成反応の完了後、図示しないチャンバーに保持された洗浄液を第2チャンバー202へ移送し、磁性粒子302を洗浄(および排出)する場合もある。このようなステップを試料分析用基板200内で完結させてしまおうとすると、別途備えたそれぞれのチャンバーおよび流路を介して、所定のタイミングで各液体を磁性粒子302が含まれる第2チャンバー202へ移送しなければならない。これには、試料分析用基板200の複雑な回転制御が必要である。たとえば、発光基質ないし発色基質の一部や、洗浄液の一部が、試料分析用基板200の回転制御により、複合体310の形成反応中といった、意図しないタイミングで磁性粒子302が含まれるチャンバー(たとえば、第2チャンバー202)中に移送されてしまう場合もある。
【0153】
このような理由から、本実施の形態による試料分析用基板200では、複合体310を形成させるチャンバーとB/F分離を行うチャンバーを別々に設けている。
【0154】
以上の説明を踏まえ、
図18A〜
図18Cを参照しながら、本実施の形態による試料分析用基板200内で行われる液体試料の移送手順の一例を説明する。なお、以下では、複合体310の形成および不要な液体を除去する動作のみを説明し、たとえば、発光ないし発色により検出する構成については、説明を省略する。また、ここで説明する第1流路205および第2流路206は、毛細管流路であって、いずれも上述したサイフォンの原理により液体を移送するとする。
【0155】
図18Aは、第1チャンバー201に液体試料が導入された試料分析用基板200を示す。
図18Aにおいて、液体試料は、第1チャンバー201内のハッチングによって示されている。
【0156】
まず、試料分析用基板200を試料分析装置1にセットし、第1チャンバー201に磁性粒子固定化抗体305、抗原および標識抗体を導入する。導入方法は種々考えられる。たとえば、操作者が各液体を直接、第1チャンバー201に分注してもよいし、各チャンバー201〜203にそれぞれの液体を分注し、試料分析装置1による回転制御により各液体を第1チャンバー201に移送してもよい。いずれの注入方法を採用したとしても、最終的には第1チャンバー201中で、複合体310の形成が行われる。なお、試料分析装置1は、試料分析用基板200を停止させた状態で、複合体310を形成させてもよい。しかしながら、反応効率を高めて反応時間を短縮するために、試料分析用基板200を所定の角度範囲内で揺動させてもよい。
【0157】
試料分析用基板200が停止された状態では、第1チャンバー201中の液体試料(磁性粒子302も含む。)は、毛細管現象により第1流路205内に引き込まれ、第1流路205を満たす。
【0158】
次に、試料分析装置1は、試料分析用基板200を高速回転させる。その結果、第1チャンバー201内の液体試料は遠心力を受け、第1流路205を介して第2チャンバー202に移送される。
図18Bは、液体試料が第1チャンバー201から第2チャンバー202に移送された後の試料分析用基板200を示す。
【0159】
試料分析用基板200の高速回転中は、第2チャンバー202に移送された液体試料は、第2流路206を介して第3チャンバー203へ移送されない。また、液体試料中の磁性粒子302は、概ね磁石16aの磁力により、第2チャンバー202の壁面に捕捉される。一方、試料分析用基板200の回転を停止させると、第2チャンバー202中の液体(磁性粒子302は実質的に含まれない。)は、毛細管現象により第2流路206内に引き込まれ、第2流路206を満たす。
【0160】
その後、試料分析装置1が試料分析用基板200を高速で回転させる。これにより、試料分析用基板200の第2チャンバー202内の液体試料は遠心力を受け、第2流路206を介して第3チャンバー203に移送される。一方、磁性粒子302は、第2チャンバー202に保持された状態が保たれる。
図18Cは、第3チャンバー203に液体試料等が移送された試料分析用基板200を示す。
【0161】
なお、本実施の形態では、試料分析用基板200に磁石16aが配置されている例を説明した。しかしながら、他の例も考えられる。たとえば、磁石を試料分析用基板に設けるのではなく、試料分析装置に設けてもよい。
【0162】
図19は、変形例にかかる試料分析装置100の構成を示す。
図3に示す試料分析装置1、
図5または
図8に示す試料分析装置と同じ構成要素には同じ参照符号を付し、説明は省略する。
【0163】
試料分析装置100は、回転軸Pを有する軸受け40に機械的に結合されたアーム41を有し、アーム41の先に磁石16dが設けられている。この構成に対応して用いられる試料分析用基板210は、たとえば磁石が挿し込まれる磁石収納室18aを有していればよい。磁石収納室18aの開口部は、試料分析用基板210の上面に設けられてもよいし、下面に設けられてもよい。または、開口部は、試料分析用基板210の上面および下面を貫通する孔であってもよい。磁石16dは、磁石収納室18a(
図1B)に挿入可能な位置および大きさに調整されている。磁石収納室18aは、試料分析装置100に設けられた磁石16dを収納すると共に、モータ20が試料分析用基板210を回転させる際のロック機構および/または回転力の伝達機構としても機能する。
【0164】
試料分析用基板210の内部の構成は、これまで説明した試料分析用基板10および試料分析用基板200と同じであってよい。すなわち、試料分析用基板210もまた、たとえば第1チャンバー201、第2チャンバー202および、第1流路205を備えていればよい。
【0165】
なお、上述の試料分析装置100は、磁石検出機構26(
図3)を有していない。試料分析用基板210がセットされると必ず磁石16dが挿し込まれるため、磁石の有無を検出する必要がないからである。なお、バランサーに関しても、試料分析用基板210上に設けなくてもよいし、試料分析装置100側に設けなくてもよい。