(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列表の配列番号226の131位〜150位に含まれる連続するアミノ酸配列からなるエピトープに結合するモノクローナル抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項1又は2に記載の抗体。
軽鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が、配列表の配列番号317の残基1から残基22、軽鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基36から残基50、軽鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基58から残基89、及び、軽鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号401の残基3から残基12であり、かつ、重鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基1から残基30または配列表の配列番号368の残基1から残基30、重鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基36から残基49または配列表の配列番号368の残基36から残基49、重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基67から残基98または配列表の配列番号368の残基67から残基98、及び、重鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号407の残基5から残基15である、請求項9に記載の抗体。
軽鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が、配列表の配列番号317の残基1から残基22、軽鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基36から残基50、軽鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基58から残基89、及び、軽鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号401の残基3から残基12であり、かつ、重鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基1から残基30、重鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基36から残基49、重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号368の残基67から残基98、及び、重鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号407の残基5から残基15である、請求項9または10に記載の抗体。
IL−33関連疾患が、喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシーショック、副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎を含む)、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節炎、全身性エリトマトーデス、天疱瘡、類天疱瘡、強皮症、強直性脊椎炎、肝線維症(原発性胆汁性肝硬変を含む)、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性腎障害、血管炎及び癌からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の理解を容易にするため、以下に本発明に用いられる用語を説明する。
【0015】
[エピトープ]
本発明において、エピトープとは、抗体が認識する抗原の一部分のことをいう。本発明においてエピトープは、抗体の認識に必要となる連続するアミノ酸からなる配列に関している。
【0016】
[結合する]
本発明において、モノク口一ナル抗体がエピトープに「結合する」とは、モノクローナル抗体が、エピトープであるペプチドに結びついて1つの複合体を形成することを意味する。モノクローナル抗体とエピトープの結合はイオン結合、水素結合、疎水結合、ファンデルワールス力などによるが、これらに限定されない。モノクローナル抗体がエピトープに結合するかは、例えば本明細書に記載されたペプチドアレイスキャンやKinExAを用いて調べることができる。
【0017】
[抗体]
本発明において「抗体」という語は、最も広い意味で使用するものとし、所望の特異的結合性が示される限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体が含まれるものとする。本発明における抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、任意の動物由来の抗体であってもよい。
【0018】
[モノクローナル抗体]
本発明の抗体のうちモノクローナル抗体は、設計上のアミノ酸配列において単一クローン(単一分子種)のみからなる抗体集団の抗体のことをいう。モノクローナル抗体には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、マルチスペシフィック抗体、及び人工抗体、並びにそれらの機能改変抗体、並びにそれらのコンジュゲート抗体、並びにそれらのフラグメントが含まれるものとする。本発明のモノクローナル抗体はハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法、及び遺伝子工学的手法など、任意の公知の手法を用いて生成することができる。
【0019】
[キメラ抗体]
キメラ抗体とは、軽鎖、重鎖、またはその両方が、非ヒト由来の可変領域と、ヒト由来の定常領域から構成される抗体をいう。
【0020】
[ヒト化抗体]
ヒト化抗体は、非ヒト由来抗体の相補性決定領域と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域とからなる可変領域並びにヒト抗体由来の定常領域からなる抗体をいう。
【0021】
[ヒト抗体]
ヒト抗体とは、軽鎖、重鎖ともにヒト由来の抗体をいう。ヒト抗体は、重鎖の定常領域の違いにより、γ鎖の重鎖を有するIgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む)、μ鎖の重鎖を有するIgM、α鎖の重鎖を有するIgA(IgA1、IgA2を含む)、δ鎖の重鎖を有するIgD、またはε鎖の重鎖を有するIgEを含む。また原則として軽鎖は、κ鎖とλ鎖のどちらか一方を含む。
【0022】
[マルチスペシフィック抗体]
マルチスペシフィック抗体とは、2つ以上の異なる抗原特異性を有する2つ以上の独立した抗原認識部位を持ち合わせた非対称の抗体であり、2つの抗原特異性を有するバイスペシフィック抗体、3つの抗原特異性を有するトリスペシフィック抗体などが挙げられる。本発明のマルチスペシフィック抗体が認識する1つ以上の抗原はIL−33分子である。
【0023】
[人工抗体]
人工抗体とは、例えばタンパク質スキャフォールドであり、抗体の構造を有しないものの、抗体と同様の機能を有する人工抗体である。タンパク質スキャフォールドとしてはヒトのセリンプロテアーゼ阻害剤のKunitzドメインやヒトのファイブロネクチンの細胞外ドメイン、アンキリン、リポカリンなどが利用され、スキャフォールド上の標的結合部位の配列を改変すれば本発明のエピトープに結合するタンパク質スキャフォールドを生成することができる(Clifford Mintz et.al BioProcess International, 2013, Vol.11(2), pp40-48)。
【0024】
[機能改変抗体]
本願において機能改変抗体とは、主に抗体のFc領域のアミノ酸や糖鎖を改変することにより、抗体の有する抗原結合機能以外の細胞殺傷機能、補体活性化機能や血中半減期等を調節した抗体をいう。
【0025】
[コンジュゲート抗体]
本願においてコンジュゲート抗体とは、抗体にポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、アルブミン、酵素などの抗体以外の機能分子を化学的または遺伝子工学的に結合した抗体をいう。
【0026】
[フラグメント]
本願において抗体のフラグメントとは、抗体の一部分を含む蛋白質であり、抗原に結合できるものをいう。抗体のフラグメントの例としては、Fabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fab’フラグメント、またはscFvが挙げられる。
さらにこれらの抗体のフラグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、アルブミン、酵素などの抗体以外の機能分子を化学的または遺伝子工学的に結合していてもよい。
【0027】
[IL−33]
IL−33はIL−1ファミリーに属するサイトカインであり、ヒトIL−33は配列表の配列番号226に示すように270アミノ酸からなる。IL−33は、N末端側にクロマチン結合ドメインを有し、C末端側に12個のβストランドを持つ分子量18kDaのIL−1様サイトカインドメインを有しており、さらに95位及び109位にカテプシンG切断部位、99位にエスタラーゼ切断部位及び178位にカスパーゼ切断部位を有している(
図1)。IL−33は、細胞がネクローシスを起こす過程で、リソゾーム等に由来するエスタラーゼ、カテプシンG、またはプロテイナーゼ3などの酵素により切断されて、成熟型IL−33、例えばIL−33(残基95から残基270)(配列表の配列番号226のN末から95位から270位のアミノ酸配列で表されるIL−33を「IL−33(残基95から残基270)」と表記する。以下同様に表記する)、IL−33(残基99から270)、IL−33(残基109から残基270)、IL−33(残基112から残基270位)などを含むさまざまな断片となり、サイトカインとして機能すると考えられている。一方で、細胞死がアポトーシスである場合、アポトーシスの過程で活性化されるカスパーゼにより、IL−33は、178位で切断されて、不活性型IL−33、例えばIL−33(残基179から残基270)になると考えられている。
【0028】
IL−33は、サイトカインとして細胞外に放出されると、IL−33受容体と結合し、当該IL−33受容体を発現する細胞において、細胞内シグナル伝達を開始させるという機能を有する。IL−33により誘導されるシグナル伝達には、非限定的に、NF−κB経路と、MAPKKs経路とがあり、最終的に各種のサイトカインやケモカイン、炎症性メディエータの産生を惹起する。IL−33により誘導されるサイトカインの例として、TNF−α、IL−1β、IFN−γ、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−13などが挙げられ、特にIFN−γ、IL−5、IL−6、及びIL−13が誘導される。IL−33により誘導されるケモカインの例としてCXCL2、CCL2、CCL3、CCL6、CCL17、CCL24などが挙げられる。IL−33により誘導される炎症性メディエータの例としてPGD2、LTB4などが挙げられる。IL−33により誘導されるサイトカインやケモカイン、炎症性メディエータは、免疫系細胞の遊走、サイトカイン産生、脱顆粒に関与し炎症を惹起する。本発明では、IL−33は、後述するIL−33受容体に結合して作用するものであれば、全長IL−33またはその活性型断片のいずれかを指してもよいし、それらの誘導体若しくは変異体であってもよい。また、ヒトIL−33でも他の生物由来のIL−33でもよい。中でも配列表の配列番号226のアミノ酸配列で表されるヒトIL−33が好ましい。
【0029】
IL−33が結合するIL−33受容体は、ST2とIL−1RAcP(IL−l receptor accessory protein)とのヘテロ二量体から構成される。IL−33受容体において、IL−33を特異的に認識して結合する部位は、ST2の細胞外ドメインに存在する。IL−33の受容体は、様々な免疫系細胞(Th2細胞、マスト細胞、好酸球、好塩基球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、NKT細胞、グループ2自然リンパ球(ナチュラルヘルパー細胞)、nuocyte、Ih2(innate helper type 2)細胞など)や上皮細胞などで発現しているが、これらの細胞に限定されない。
【0030】
[IL−33関連疾患]
本願においてIL−33関連疾患とは、IL−33が過剰に細胞外に放出されるために惹起される疾患を意味し、IL−33関連疾患はIL−33の機能を阻害することができる薬剤により予防、治療または軽減することができる。IL−33関連疾患としては、例えば喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシーショック、副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎を含む)、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節炎、全身性エリトマトーデス、天疱瘡、類天疱瘡、強皮症、強直性脊椎炎、肝線維症(原発性胆汁性肝硬変を含む)、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性腎障害、血管炎及び癌が挙げられる。
【0031】
[フレームワーク領域]
フレームワーク領域とは免疫グロブリン分子の可変領域のうち、相補性決定領域以外の部分をいう。フレームワーク領域には軽鎖、重鎖それぞれに4つのフレームワーク領域(フレームワーク領域1、フレームワーク領域2、フレームワーク領域3及びフレームワーク領域4)がある。本願では、免疫グロブリン分子のフレームワーク領域はカバット(Kabat)の番号付けシステム(Kabatら, 1987, Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Department of Health and Human Services, NIH, USA)に従って決定される。
【0032】
[生殖系列]
生殖系列とは精子や卵子などの一群の生殖細胞を意味し、特別に言及がない限り、ヒトの生殖系列のことをいう。抗体を産生するBリンパ球と異なり、生殖細胞の免疫グロブリンの遺伝子は変異が生じていない。したがって、「生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列」と記載した場合は、免疫グロブリンのフレームワーク領域のアミノ酸配列に変異が生じていないアミノ酸配列を意味し、「生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列の組合せのアミノ酸配列」と記載した場合には、4つのフレームワーク領域の1つ以上のフレームワーク領域のアミノ酸配列が、別の生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列であることを意味する。ヒト免疫グロブリンの軽鎖可変領域の遺伝子はκ鎖でVκセグメントとJκセグメント、及びλ鎖でVλセグメントとJλセグメントに分かれており、VκセグメントとVλセグメントにフレームワーク領域1からフレーム領域3が、JκセグメントとJλセグメントにフレームワーク領域4が存在する。ヒト免疫グロブリンの重鎖可変領域の遺伝子はVHセグメント、DHセグメント、JHセグメントに分かれており、VHセグメントにフレームワーク領域1からフレーム領域3が、JHセグメントにフレームワーク領域4が存在する。ヒト免疫グロブリンのVκ、Vλ、VH、Jκ、Jλ、JHの各セグメントの生殖系列のアミノ酸配列を表4に表す。
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【0033】
[ヒトモノクローナル抗体]
ヒトモノクローナル抗体は、ヒトの生殖系列の免疫グロブリンの配列に由来する可変領域及び定常領域を有するモノクローナル抗体をいう。本願においてヒトモノクローナル抗体の可変領域は、他のヒトモノクローナル抗体の可変領域の一部又は全部との組換え体でもよく、該組換え体においては抗体の結合性に影響を与えない観点から、フレームワーク領域と相補性決定領域との境界で組換えが生じてよく、免疫原性を高めない観点から、フレームワーク領域1からフレームワーク領域4のフレームワーク領域の各領域が、他のヒトモノクローナル抗体のフレームワーク領域1からフレームワーク領域4のフレームワーク領域の各領域と組換えが生じてもよい。さらに、本発明においてヒトモノクローナル抗体は、ヒトモノクローナル抗体の変異体であってもよく、抗原への結合性を維持又は改善しつつ、免疫原性を低下させるために、ヒトモノクローナル抗体の相補性決定領域に変異がある相補性決定領域のアミノ酸配列と、フレームワーク領域に変異がない生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列とを含む、ヒトモノクローナル抗体が好ましい。
【0034】
[単離した]
単離した抗体の「単離した」とは、同定され、かつ、分離された、及び/または、自然状態での成分から回収された、という意味である。自然状態での不純物は、その抗体の診断的または治療的使用を妨害し得る物質であり、酵素、ホルモン及びその他の蛋白質性のまたは非蛋白質性の溶質が挙げられる。一般的に、抗体を単離するには、少なくとも1つの精製工程によって精製すればよく、少なくとも1つの精製工程により精製された抗体を「単離した抗体」ということができる。
【0035】
[中和]
本願において「中和」とは目的の標的に結合し、かつ、その標的のいずれかの機能を阻害することができる作用のことをいう。すなわち、「抗IL−33中和モノクローナル抗体」は、そのIL−33に対する結合が、IL−33ポリペプチドによって誘導される生物活性の阻害をもたらすモノクローナル抗体を意味するものとする。IL−33の生物学的活性の阻害は、IL−6などのIL−33誘導性サイトカインの産生の阻害を含むが、これに限定されない。IL−33の生物学的活性の指標は、当分野において知られたいくつかのin vitroまたはin vivo分析の1つまたはそれ以上によって評価することができる。なお、「ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体」と記載した場合は、IL−33に結合しIL−33のいずれかの機能を阻害する、ヒトモノクローナル抗体を意味する。
【0036】
[アンタゴニスト]
本願において「アンタゴニスト」とは目的の標的に対し中和作用を有する物質の総称を意味する。すなわち、「IL−33のアンタゴニスト」は、IL−33に結合して、IL−33のいずれかの機能を阻害することができる物質であり、例えば抗IL−33中和モノクローナル抗体が含まれる。
【0037】
[相補性決定領域]
相補性決定領域とは免疫グロブリン分子の可変領域のうち、抗原結合部位を形成する領域をいい、超可変領域とも呼ばれ、免疫グロブリン分子ごとに特にアミノ酸配列の変化が大きい部分をいう。相補性決定領域には軽鎖、重鎖それぞれに3つの相補性決定領域(相補性決定領域1、相補性決定領域2及び相補性決定領域3)がある。本願では、免疫グロブリン分子の相補性決定領域はカバット(Kabat)の番号付けシステム(Kabatら, 1987, Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Department of Health and Human Services, NIH, USA)に従って決定される。
【0038】
[競合する]
本発明において、モノク口一ナル抗体と「競合する」とは、本明細書に記載された表面プラズモン共鳴(SPR)法によって測定した場合に、該モノクローナル抗体の存在により、有意差をもってIL−33との結合が低下することをいう。
本発明において「競合する抗IL−33中和モノクローナル抗体」は、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、マルチスペシフィック抗体、及び人工抗体、並びにそれらの機能改変抗体、並びにそれらのコンジュゲート抗体、並びにそれらのフラグメントを含むものとする。
【0039】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0040】
本発明はIL−33のエピトープに結合するモノクローナル抗体に関する。このエピトープに結合するモノクローナル抗体がヒトIL−33の活性を中和しうることから、該エピトープは配列表の配列番号226に示されるヒトIL−33の101位〜154位又は199位〜270位に含まれるアミノ酸配列であることが好ましく、配列表の配列番号226の111位〜130位(PEP12)、131位〜150位(PEP14)、231位〜250位(PEP24)又は251位〜270位(PEP26)に含まれるアミノ酸配列であることがより好ましい。IL−33は細胞外へ放出される際に切断されることが多い。IL−33の一次配列上で離れているアミノ酸残基が、タンパク質のフォールディング等に基づきエピトープを形成する場合、IL−33の切断により、フォールディングが崩れたり、該エピトープを構成する離れているアミノ酸残基が断片上から消失することにより、該断片との親和性が著しく減少することがある。従って、抗IL−33モノクローナル抗体の結合するエピトープは連続するアミノ酸配列であることが好ましい。
【0041】
エピトープに結合するモノクローナル抗体が中和作用を発揮するためには、例えばIL−33のIL−33受容体への結合を妨げることが必要である。したがって、本発明において、好ましいエピトープは、単にIL−33タンパク質の表面上に位置しているのみならず、IL−33受容体に近接して存在することが好ましい。そこで、本発明者等は、後述の実施例に記すように非特許文献11で示された結晶構造解析のデータに基づき立体構造モデリングを行い、最も近接するIL−33受容体を構成する原子との間の原子間距離が5Å以内のIL−33の原子(界面原子)を含むアミノ酸を特定した。界面原子を含むアミノ酸としては、PEP12のP118(配列表の配列番号226の118位のプロリン残基を「P118」と表記する。以後同様に表記する)、I119、T120、Y122、L123、R124、S125、L126、S127、Y129、N130、PEP14のD131、Q132、S133、T135、A137、L138、E139、S142、Y143、E144、I145、Y146、E148、D149、L150、PEP24のD244、N245、H246、PEP26のK266、L267、S268、E269が挙げられる。IL−33を中和することができるモノクローナル抗体が特異的に結合する機能的なエピトープとしては、界面原子を含むアミノ酸を有するエピトープが好ましい。機能的なエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体の中和作用は、機能的なエピトープ中に存在する界面原子の数や、界面原子の立体構造における位置などに依存すると考えられるが、かかる理論に束縛されることを意図しない。
【0042】
本発明の好ましい態様として、配列表の配列番号226の101位〜154位又は199位〜270位に含まれる連続するアミノ酸配列からなるエピトープが、配列表の配列番号226の111位〜130位(PEP12)、131位〜150位(PEP14)、231位〜250位(PEP24)又は251位〜270位(PEP26)の連続するアミノ酸配列からなるエピトープであるモノクローナル抗体が挙げられる。本発明のより好ましい態様として、該エピトープが配列表の配列番号226の138位〜147位または139位〜147位の連続するアミノ酸配列からなるエピトープであるモノクローナル抗体が挙げられる。
【0043】
本発明者らは、PEP14と結合する2種類のモノクローナル抗体を用いてエピトープを構成する最小限のアミノ酸配列を調べたところ、IL−33のエピトープとして、配列表の配列番号226の138〜147位及び139〜147位の連続するアミノ酸配列を特定した。従って、本発明は、配列表の配列番号226の138〜147位及び139〜147位の連続するアミノ酸配列からなるエピトープに関する。
【0044】
モノクローナル抗体が本発明のエピトープに結合するモノクローナル抗体であるかは、ELISA法、免疫沈降法、表面プラズモン共鳴(SPR)法、KinExA法などの当該技術の分野で一般的に実施される方法により調べることができる。例えば、SPR法を利用した本願実施例に記載のペプチドアレイスキャン法では、本発明のエピトープペプチドを用いて試験した場合、モノクローナル抗体のエピトープへの結合をRU値の有意な増加として測定することができる。また、KinExA法を利用た本願実施例に記載の方法では解離定数(Kd)を測定することができるが、エピトープペプチドに対する解離定数は低い方が好ましく、例えば10μM以下、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、100pM以下、10pM以下であることが好ましい。
【0045】
本発明の別の態様では、本発明の、配列表の配列番号226の101位〜154位又は199位〜270位に含まれる連続するアミノ酸配列からなるエピトープに結合するモノクローナル抗体を含む医薬組成物に存する。また、本発明のモノクローナル抗体を投与することを含むIL−33関連疾患の診断、治療、予防または軽減方法、並びに、IL−33関連疾患の診断、治療、予防または軽減用医薬の製造のための本発明のモノクローナル抗体の使用に関する。
【0046】
IL−33関連疾患の例として、非限定的に、喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹、花粉症、アナフィラキシーショック、副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎を含む)、アレルギー性脳脊髄炎、好酸球増多症候群、リウマチ性多発筋痛、リウマチ性心疾患、多発性硬化症、関節炎(例えば、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、変形性関節症、ライター症候群等)、全身性エリトマトーデス(円板状狼蒼を含む)、天疱瘡、類天疱瘡、乾癬、強直性脊椎炎、肝炎(例えば、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎等)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、グルテン感受性腸疾患等)、シェーグレン症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性炎症性眼疾患、自己免疫性新生児血小板減少症、自己免疫性好中球減少、自己免疫性卵巣炎及び睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性甲状腺炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、重症筋無力症、アドレナリン作動薬耐性、円形脱毛症(alopecia greata)、抗リン脂質症候群、副腎の自己免疫疾患(例えば、自己免疫性アジソン病等)、セリアックスプルー−皮膚炎、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、寒冷凝集素病、本態性混合クリオグロブリン血症、線維筋痛−線維筋炎、糸球体腎炎(例えば、IgA腎症(nephrophathy)等)、グレーブス病、甲状腺機能亢進症(すなわち、橋本甲状腺炎)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、混合結合組織病、1型または免疫介在性糖尿病、悪性貧血、多発性軟骨炎(polychrondritis)、多腺症候群、スティッフマン症候群、白斑、サルコイドーシス、多腺性内分泌障害、他の内分泌腺不全、動脈硬化症、肝線維症(例えば、原発性胆汁性肝硬変等)、肺線維症(例えば、突発性肺線維症等)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、強皮症(CREST症候群、レイノー現象等を含む)、尿細管間質性腎炎、デンスデポジット病、急性腎障害、心筋炎、心筋症、神経炎(例えば、ギラン・バレー症候群等)、結節性多発性動脈炎、心臓切開症候群(cardiotomy syndrome)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、IgA神経障害、扁平苔癬、メニエール病、ポスト心筋梗塞(post−MI)、ブドウ膜炎、ブドウ膜炎眼炎(Uveitis Opthalmia)、血管炎、原発性無ガンマグロブリン血症、癌(例えば、脳腫瘍、喉頭癌、口唇口腔癌、下咽頭癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、肺癌、胃癌、副腎皮質癌、胆管癌、胆嚢癌、肝臓癌、膵臓癌、膀胱癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、睾丸癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、ユーイング腫瘍、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫等)、免疫系による排除に抵抗を示す感染(例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS))、強毒性インフルエンザ感染症に伴う致死的サイトカインストーム、並びに、敗血症が挙げられ、好ましくは、喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシーショック、副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎を含む)、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節炎、全身性エリトマトーデス、天疱瘡、類天疱瘡、強皮症、強直性脊椎炎、肝線維症(原発性胆汁性肝硬変を含む)、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性腎障害、血管炎及び癌などが挙げられる。
【0047】
本発明のさらに別の態様では、配列表の配列番号226の101位〜154位又は199位〜270位に含まれる連続するアミノ酸配列からなるエピトープに結合するモノクローナル抗体を含む、サイトカイン、ケモカインまたは炎症性メディエータの発現抑制剤にも存する。
【0048】
本発明のサイトカイン、ケモカインまたは炎症性メディエータ発現抑制剤により抑制されるサイトカインはIL−33により誘導されるサイトカインであり、例えば、TNF−α、IFN−γ、IL−1β、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−13等が挙げられる。また、当該抑制剤により抑制されるケモカインはIL−33により誘導されるケモカインであり、例えば、CXCL2、CCL2、CCL3、CCL6、CCL17、CCL24等が挙げられる。当該抑制剤により抑制される炎症性メディエータはIL−33により誘導される炎症性メディエータであり、例えば、PGD2、LTB4等が挙げられる。本発明の特に好ましい態様は、抗IL−33モノクローナル抗体を含むIFN−γ、IL−5、IL−6またはIL−13の発現抑制剤であり、より好ましくはIL−6の産生抑制剤である。
【0049】
本発明のさらに別の態様では、抗IL−33モノクローナル抗体が結合するエピトープに関する。本発明においてエピトープは、抗体の認識に必要となる6〜20のアミノ酸からなる配列に関している。別の態様では、特定された配列の周囲のアミノ酸又は立体構造上近傍のアミノ酸を含んで、さらなるエピトープを構成していてもよいが、不連続なアミノ酸配列を含まない、連続するアミノ酸配列であることが好ましい。
【0050】
したがって、本発明のエピトープを構成する連続するアミノ酸配列のアミノ酸残基数は、少なくとも5、好ましくは少なくとも6、より好ましくは少なくとも7、さらに好ましくは少なくとも8、さらにより好ましくは少なくとも9である。さらに、より十分な抗原性を発揮する観点から、少なくとも10、より好ましくは15、さらに好ましくは少なくとも20である。一方で、エピトープに含まれる配列が長くなると、抗体により認識される部分が複数含まれる可能性が生じ、そのような場合、所望の中和作用を有する抗体の生成又はスクリーニングができなくなる可能性が生じる。したがって、本発明のエピトープに結合する抗体が、所望の中和作用を発揮することを担保する観点から、エピトープ配列の長さは、30以下であることが好ましく、より好ましくは20以下、さらにより好ましくは15以下であることが好ましい。エピトープに含まれる連続するアミノ酸配列の残基数としては、例えば5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、及び20個のうちの1つから選択される残基数である。
【0051】
エピトープは、その抗原性を変化させない限りにおいて、1又は数個のアミノ酸変異、すなわちアミノ酸置換、欠失または挿入が導入されていてもよい。導入される変異の数は、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、最も好ましくは1である。さらに、エピトープには、修飾、例えば元のタンパク質が有していた糖鎖などの修飾や末端修飾等が加えられていてもよい。また、別の態様では、その抗原性を変化させない限りにおいて、本発明で特定されたエピトープの連続するアミノ酸からなる配列に対し、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも97%、より一層好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるエピトープであってもよい。エピトープペプチドは例えばベイトとして使用する場合ヒスチジンやビオチンなどのタグが付加されてもよく、ワクチンとして使用される場合はKLHなどのキャリアタンパク質と結合してもよい。
【0052】
ここで同定した参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、特定の参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を測定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、ペアワイズアラインメントにおいて、配列比較コンピュータプログラムBLASTを使用することによって得られる。
アミノ酸配列比較にBLASTが用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの%アミノ酸配列同一性は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムBLASTのA及びBのプログラムアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。特に断らない限りは、ここでの全ての%アミノ酸配列同一性値は、直ぐ上のパラグラフに示したようにBLASTコンピュータプログラムを用いて得られる。
【0053】
本発明により見出されたエピトープは、IL−33の中和抗体が特異的に結合する機能的なエピトープである。したがって、本発明の機能的なエピトープを利用することで、例えば新規のIL−33のアンタゴニスト作用を有する抗体を効率的に取得することができる。すなわち、全長IL−33又は成熟型IL−33に対するモノクローナル抗体群に対し、本発明の機能的なエピトープに結合する抗体をスクリーニングすることで、アンタゴニスト作用を有するモノクローナル抗体を取得することが可能になる。したがって、本発明のさらなる態様では、本発明は、IL−33の機能的なエピトープを用いたアンタゴニスト作用を有する抗体のスクリーニング方法にも関する。より具体的に、ファージディスプレイ技術等でナイーブ抗体ライブラリからIL−33アンタゴニスト作用を有する抗体のクローンを濃縮する場合、まず、全長又は成熟型IL−33タンパク質をベイトとして、ライブラリ選択を行い、IL−33表面上の様々なエピトープに結合する抗体クローンを濃縮し、次に本発明で見出した機能的なエピトープペプチドをベイトとしてライブラリ選択を行うことで、機能的なエピトープに特異的に結合するIL−33のアンタゴニスト作用を有する抗体を効率的にスクリーニングすることが可能となる。
【0054】
本実施例において、本発明者らは、20残基長のエピトープへの結合性が特定されたモノクローナル抗体群について、抗体濃度を変えて使用して、IL−33アンタゴニスト活性を調べた。これにより、アンタゴニスト作用を有する抗体を生成又はスクリーニングするのに適したエピトープを決定した。その結果によると、配列表の配列番号226の111〜130位(PEP12)、131〜150位(PEP14)、231〜250位(PEP24)及び251〜271位(PEP26)からなる群から選ばれるエピトープに結合する抗体が、抗体濃度に応じたアンタゴニスト作用の増加が明確に認められたことから、アンタゴニスト作用を有する抗体を生成又はスクリーニングする上で適した機能的なエピトープであることが分かった。したがって、本発明の1の態様では、配列表の配列番号226の111位〜130位、131位〜150位、231位〜250位及び251〜271位からなる群から選ばれる領域のうちの少なくとも6、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも15の連続するアミノ酸からなる配列を含むエピトープに関する。別の態様では、本発明は、配列表の配列番号226の111位〜130位、131位〜150位、231位〜250位、及び251位〜270位からなる群から選ばれるエピトープに関する。
【0055】
エピトープは、通常行われるペプチド合成技術を用いることにより製造可能である。製造され、精製されたエピトープは動物の免疫や、該エピトープに対する抗体を産生するために用いることができる。さらに、別の方法では、精製されたエピトープをファージディスプレイ法において用いることにより、当該エピトープに結合するモノクローナル抗体を生成又はスクリーニングすることもできる。また、エピトープをアジュバントと共にワクチンとして用いることもできる。
【0056】
本発明は、配列表の配列番号226の101位〜154位又は199位〜270位に含まれる連続するアミノ酸配列からなるエピトープに結合するモノクローナル抗体に関する。モノクローナル抗体には、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、マルチスペシフィック抗体、及び人工抗体、並びにそれらの機能改変抗体、並びにそれらのコンジュゲート抗体、並びにそれらのフラグメントが含まれるものとする。本発明におけるモノクローナル抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、任意の動物由来の抗体であってもよい。本発明のモノクローナル抗体はハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法、及び遺伝子工学的手法など、任意の公知の手法を用いて生成することができる。
【0057】
ハイブリドーマ法では、免疫原を用いて免疫した動物、特にラットまたはマウスの脾臓またはリンパ節から採取したB細胞と、不死化細胞、例えばミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを作成し、所望の結合性を有する抗体を生成するハイブリドーマをスクリーニングし、スクリーニングされたハイブリドーマを用いて生成することができる。また、ヒトの抗体遺伝子を導入したマウスを使用することによりヒト抗体を取得することができる。ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。モノクローナル抗体を作製する技術は、公知の技術を用いればよく、例えばCurrent Protocols in Immunology, Wiley and Sons Inc.のChapter 2の記載に従うことで生成することができる。
【0058】
ファージディスプレイ法では、任意のファージ抗体ライブラリより選別したファージを、目的の免疫原を用いてスクリーニングを行い、免疫原に対する所望の結合性を有するファージを選択する。次に、ファージ内に含まれる抗体対応配列を単離又は配列決定し、単離された配列又は決定された配列情報に基づき、モノクローナル抗体をコードする核酸分子を含む発現ベクターを構築する。そしてかかる発現ベクターをトランスフェクションされた細胞株を培養することにより、モノクローナル抗体を産生させることができる。ファージ抗体ライブラリとして、ヒト抗体ライブラリを用いることにより、所望の結合性を有するヒト抗体を生成することができる。
【0059】
遺伝子工学的手法では、抗体をコードする遺伝子配列において、相補性決定領域(CDR)に対応する配列、又はその他の配列に変異を導入して、かかる配列を発現ベクターに組み込み、これを宿主細胞に形質転換し組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in theUnited Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0060】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させたり、別の機能を付加すること等を目的として、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、マルチスペシフィック抗体、人工抗体も使用することができるし、これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0061】
キメラ抗体は、非ヒト抗体可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(EP 125023、WO 92/19759参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0062】
ヒト化抗体は、非ヒト由来抗体の相補性決定領域(CDR)と、その他の部分のヒト抗体領域をコードするDNAを連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。
【0063】
マルチスペシフィック抗体とは、2つ以上の異なる抗原特異性を有する2つ以上の独立した抗原認識部位を持ち合わせた非対称の抗体である。バイスペシフィック抗体などのマルチスペシフィック抗体は2種類以上のモノクローナル抗体の抗原結合領域を利用して、遺伝子工学的な手法により作製することができる。該遺伝子工学的な手法はこの分野において既に確立されている。例えば、2種類のモノクローナル抗体の抗原結合領域を直列に連結したDVD−Ig(Wuら、Nature Biotechnology 25(11), 1290(2007))の技術や、抗体のFc領域を改変することにより、異なった抗原に結合する2種類の抗体の重鎖が組み合わされるART−Igの技術(Kitazawaら、Nature Medicine 18(10), 1570(2012))を利用すれば所望のバイスペシフィック抗体が取得できる。
【0064】
人工抗体とは、例えばタンパク質スキャフォールドであり、抗体の構造を有しないものの、抗体と同様の機能を有する人工抗体である。タンパク質スキャフォールドとしてはヒトのセリンプロテアーゼ阻害剤のKunitzドメインやヒトのファイブロネクチンの細胞外ドメイン、アンキリン、リポカリンなどが利用され、スキャフォールド上の標的結合部位の配列を改変すれば本発明のエピトープに結合するタンパク質スキャフォールドを生成することができる(特許文献4、Clifford Mintz et.al BioProcess International, 2013, Vol.11(2), pp40-48)。
【0065】
本発明のモノクローナル抗体のFc領域等のアミノ酸配列や糖鎖を改変することにより、抗体の有する抗原結合機能以外の細胞殺傷機能、補体活性化機能や血中半減期等を調節することができる(Strohl, Current Opinion in Biotechnology, 2009, vol.20, p685)。このような機能改変抗体は、例えば以下のような方法で調製される。モノクローナル抗体を、宿主細胞としてα1,6―フコース転移酵素(FUT8)遺伝子を破壊したCHO細胞を用いて製造すると、糖鎖のフコース含量が低下して細胞殺傷機能が高まった抗体が得られ、FUT8遺伝子を導入したCHO細胞を宿主細胞として製造すると、細胞殺傷機能が低い抗体が得られる(国際公開第2005/035586号、国際公開第2002/31140号、国際公開第00/61739号)。また、Fc領域のアミノ酸残基を改変することで補体活性化機能を調節することができる(米国特許第6737056号、米国特許第7297775号、米国特許第7317091号)。さらに、Fc受容体の1つであるFcRnへの結合を高めたFc領域の変異体を使用することにより、血中半減期の延長を図ることができる(橋口周平ら、生化学、2010、Vol.82(8), p710)。これらの機能改変抗体は、遺伝子工学的に製造することができる。
【0066】
本発明に使用するモノクローナル抗体は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、化学的修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明におけるモノクローナル抗体にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される(D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal antibodies., 1998 T.J. International Ltd, Monoclonal Antibody-Based Therapy of Cancer., 1998 Marcel Dekker Inc; Chari et al., Cancer Res., 1992 Vol152:127; Liu et al., Proc Natl Acad Sci USA., 1996 Vol 93:8681, )。
【0067】
本発明では、上記のような全抗体とは別に、エピトープ結合性を有し、アンタゴニスト活性を発揮する限り、モノクローナル抗体のフラグメントやその修飾物であってよい。例えば、抗体のフラグメントとしては、Fabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fab’フラグメント、又はH鎖とL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
さらにこれらの抗体のフラグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、アルブミン、酵素などの抗体以外の機能分子を化学的または遺伝子工学的に結合していてもよい。
【0068】
モノクローナル抗体製造のための産生系は、in vitro又はin vivoの産生系のいずれかを利用することができる。in vitroの産生系としては、真核細胞、例えば動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を使用する産生系や原核細胞、例えば大腸菌、枯草菌などの細菌細胞を使用する産生系が挙げられる。使用される動物細胞としては、哺乳動物細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、HeLa、Veroといった一般に使用される細胞、昆虫細胞、植物細胞などが用いられてもよい。in vivoの産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、例えば哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。哺乳類動物としては、例えばヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993 )。また、昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0069】
上述のようにin vitro又はin vivoの産生系にてモノクローナル抗体を産生する場合、モノクローナル抗体重鎖(H鎖)又は軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際公開第WO94/11523号参照)。
【0070】
得られたモノクローナル抗体は、均一になるまで精製することができる。モノクローナル抗体の分離、精製は通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、モノクローナル抗体を分離、精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Amersham Biosciences)等が挙げられる。
【0071】
本発明の、配列表の配列番号226の101位〜154位又は199位〜270位に含まれる連続するアミノ酸配列からなるエピトープに結合するモノクローナル抗体は、ヒトに投与した場合の抗原性が低いことから、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体が好ましく、ヒト抗体が最も好ましい。さらに、ヒト抗体の中でも、フレームワーク領域のアミノ酸配列が、ヒト生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列またはその組み合わせのアミノ酸配列であることが好ましい。そこで本発明は、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体であって、該抗体のフレームワーク領域のアミノ酸配列が、生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列またはその組み合わせのアミノ酸配列である、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体に関する。
このヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、可変領域のフレームワーク領域が、ヒト生殖系列フレームワーク領域のアミノ酸配列またはその組み合わせのアミノ酸配列を含むことにより、これらの領域に起因する免疫原性が全くないか、または顕著に少ないという特徴を有する一方で、IL−33に結合し、その機能を妨げることができる。したがって、該抗体は医薬として用いられた場合に、ヒト抗ヒト免疫グロブリン抗体(HAHA)を誘導しにくく、それにより生体内で排除されず、その結果、IL−33を中和する効果が長く、またHAHAと結合することに起因する炎症を惹起しなければ安全な抗体である。
【0072】
ヒトの生殖系列における軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、ヒトの生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列であれば、いかなるものでも用いることができる。例えば、NCBIなどのデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/showGermline.cgi)に登録されているヒト抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のフレームワーク領域のDNA配列にコードされるアミノ酸配列や、表4に記載の生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列が用いられる。軽鎖可変領域は、λ鎖の可変領域であってもよいし、κ鎖の可変領域であってもよい。ヒト生殖系列における軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域としては、生体内での出現頻度が高い、多用されるフレームワーク領域が好ましく、このようなヒト重鎖フレームワーク領域として、VH3−23、VH3−30、VH4−39、VH4−34などのフレームワーク領域1、フレームワーク領域2及びフレームワーク領域3が挙げられ、JH4などのフレームワーク領域4が挙げられる。また、生体内での出現頻度の高いヒト軽鎖フレームワーク領域としてVλ1−47、Vλ2−14、Vκ3−20、Vκ1−39などのフレームワーク領域1、フレームワーク領域2及びフレームワーク領域3が挙げられ、Jλ2などのフレームワーク領域4が挙げられる。重鎖フレームワーク領域は、ヒト重鎖フレームワーク領域であれば任意に組み合わせて使用することができ、例えばVH3-23のフレームワーク領域1及びフレームワーク領域2と、VH3−30のフレームワーク領域3を選択して重鎖フレームワーク領域として用いることができる。また、軽鎖のフレームワーク領域も同様に、ヒト軽鎖フレームワーク領域であれば、任意に組み合わせて使用することができる。
【0073】
本願において好ましい生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、VH3−23、VH3−30、JH4、Vλ1−47、Jλ2のフレームワーク領域のアミノ酸配列である。具体的には、軽鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が、配列表の配列番号317の残基1から残基22、軽鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基36から残基50、軽鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基58から残基89、及び軽鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号401の残基3から残基12であり、かつ重鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基1から残基30または配列表の配列番号368の残基1から残基30、重鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基36から残基49または配列表の配列番号368の残基36から残基49、重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基67から残基98または配列表の配列番号368の残基67から残基98、及び重鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号407の残基5から残基15であるフレームワーク領域が好ましく、軽鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が、配列表の配列番号317の残基1から残基22、軽鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基36から残基50、軽鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基58から残基89、及び軽鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号401の残基3から残基12であり、かつ重鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基1から残基30、重鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基36から残基49、重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号368の残基67から残基98、及び重鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号407の残基5から残基15であるフレームワーク領域が最も好ましい。
【0074】
本発明の別の態様としては、軽鎖の相補性決定領域1(LCDR1)、軽鎖の相補性決定領域2(LCDR2)、軽鎖の相補性決定領域3(LCDR3)、重鎖の相補性決定領域1(HCDR1)、重鎖の相補性決定領域2(HCDR2)及び重鎖の相補性決定領域3(HCDR3)のそれぞれのアミノ酸配列が、表1に示される相補性決定領域の組み合わせのアミノ酸配列である、単離したヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体に関する。
【0075】
より好ましい態様では、表1に示すC1からC30の相補性決定領域の組み合わせを有するヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、IL−33の中でも特に、IL−33受容体に結合し、活性を発揮する成熟型IL−33、例えばIL−33(残基95から残基270)、IL−33(残基99から残基270)、IL−33(残基109から残基270)、IL−33(残基112から残基270)などに対して結合性及び中和活性を有する。さらに好ましくは、表1に示すC1からC30の相補性決定領域の組み合わせを有するヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、IL−33(残基131から残基150)に対して結合性を有する。
【0076】
本発明においては、結合性及び/または物性の点で改良された相補性決定領域の組み合わせであることが好ましい態様である。特に好ましくは、ヒトIL−33に対する解離速度定数(koff)の上限値が、約3.5×10
-5/sec以下であり、より好ましくは約2.0×10
-5/sec以下、さらに好ましくは約1.5×10
-5/sec以下、さらにより好ましくは約1.0×10
-5/sec以下であり、下限値は、特に限定されないが、例えば10
-7/sec以上、より好ましくは10
-6/sec以上、さらに好ましくは約5×10
-6/sec以上であるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体が挙げられる。
【0077】
ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の中でも、ヒトIL−33に対する解離定数(Kd)が低いものがさらに好ましく、上限値として例えば10
-9M以下、より好ましくは10
-10M以下、さらにより好ましくは10
-12M以下であり、下限値としては特に限定されないが、例えば10
-14M以上、より好ましくは10
-13以上であるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体が挙げられる。
【0078】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、IL−33刺激時のHUVECからのIL−6の産生を阻害し、中でも、その阻害効果が強いものが好ましい。具体的に本発明の好ましい態様としては、後述する実施例10で記載するように、1μg/mLのヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の添加により、100ng/mLのIL−33で刺激した時のHUVECからのIL−6の産生が阻害される割合(阻害率)が約50%以上、より好ましくは約70%以上、さらにより好ましくは約90%以上のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体が挙げられる。
【0079】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、IL−33刺激時のKU−812細胞からのIL−5、IL−6及び/またはIL−13の産生を阻害する。中でも、その阻害効果が強いものが好ましい。具体的に本発明の好ましい態様としては、後述する実施例11で記載するように、3μg/mLのヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の添加により、100ng/mLのIL−33で刺激した時のKU−812細胞からのIL−5、IL−6及び/またはIL−13の産生が阻害される割合(阻害率)が約30%以上、より好ましくは約50%以上、さらにより好ましくは約70%以上のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体である。
【0080】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、IL−33刺激時のヒト末梢血単核球からのIFN−γの産生を阻害する。中でも、その阻害効果が強いものが好ましい。具体的に本発明の好ましい態様としては、後述する実施例12で記載するように、10μg/mLのヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の添加により、10ng/mLのIL−33で刺激した時のヒト末梢血単核球からのIFN−γの産生が阻害される割合(阻害率)が約80%以上、より好ましくは約90%以上、さらにより好ましくは約95%以上のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体である。
【0081】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、マウスにヒトIL−33を投与した時の炎症を抑制する。中でも、抗炎症効果が強いものが好ましい。具体的に本発明の好ましい態様としては、後述する実施例13で記載するように、10mg/kgでヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を7日間連日腹腔内投与することにより、0.4μg/個体のヒトIL−33の7日間連続投与による脾臓重量、血清中のIgA濃度、IgE濃度、好中球数、好塩基球数、好酸球数及び/または血清中のIL−5濃度の増加が抑制される割合が約30%以上、より好ましくは約50%以上、さらにより好ましくは約80%以上のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体が挙げられる。
【0082】
さらに、本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、抗体の物性がすぐれていることが好ましい。中でも、動的光散乱による評価で粒子径分布の形状が二峰性を示さない、凝集性が著しく低いヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体が好ましく、コロイド安定性の指標である相互作用パラメータ(kD)が高いものが好ましく、例えば-12.4mL/g以上であることが好ましく、より好ましくは−10mL/g以上であり、さらに好ましくは−8.5mL/g以上である。
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は熱力学安定性にすぐれた抗体であることが好ましく、例えば免疫グロブリンドメインのフォールディングが崩壊する温度(Tm)が65℃以上、好ましくは68℃以上、より好ましくは70℃以上、さらにより好ましくは73℃以上である熱力学的安定性を示す抗体が好ましい。
【0083】
さらに、本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、抗体の安定性がすぐれていることが好ましい。抗体の安定性は、保存安定性試験や強制酸化試験などの一般的な手法により測定することができる。保存安定性試験として、例えば本発明の好ましい態様としては、後述する実施例21で記載するように、40℃で4週間保存した場合に抗体分子のモノマーの割合が90%以上が好ましく、より好ましくは95%以上であり、またヒトIL−33蛋白質への結合活性が95%以上が好ましく、より好ましくは99%以上である。
また本願実施例22で記載するように1%の過酸化水素水で37℃、24時間の条件で強制酸化した場合に、ヒトIL−33蛋白質への結合活性が80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上保持することが好ましい。
【0084】
上記を勘案すると、本発明においては、表1のC1からC28の相補性決定領域の組み合わせから選択されるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、より好ましい抗体である。また、本発明のさらに好ましい態様としては、特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ(表1のC1、C8、C15、C17またはC18)を有するヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体が挙げられる。
【0085】
上記の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせにより特定されるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸配列は、抗原結合性が担保される限りにおいて任意のフレームワーク領域であってもよい。ヒトに対する免疫原性を低下させる観点では、フレームワーク領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列フレームワーク領域の各アミノ酸配列またはその組み合わせのアミノ酸配列であることが好ましいが、より好ましくは、ヒト生体において多用される生殖系列のフレームワーク領域のアミノ酸配列である。
【0086】
本発明で好ましいフレームワーク領域のアミノ酸配列は、軽鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が、配列表の配列番号317の残基1から残基22、軽鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基36から残基50、軽鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基58から残基89、及び、軽鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号401の残基3から残基12であり、かつ、重鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基1から残基30または配列表の配列番号368の残基1から残基30、重鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基36から残基49または配列表の配列番号368の残基36から残基49、重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基67から残基98または配列表の配列番号368の残基67から残基98、及び、重鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号407の残基5から残基15である。本発明でより好ましいフレームワーク領域のアミノ酸配列は、軽鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が、配列表の配列番号317の残基1から残基22、軽鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基36から残基50、軽鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号317の残基58から残基89、及び、軽鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号401の残基3から残基12であり、かつ、重鎖のフレームワーク領域1のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基1から残基30、重鎖のフレームワーク領域2のアミノ酸配列が配列表の配列番号367の残基36から残基49、重鎖のフレームワーク領域3のアミノ酸配列が配列表の配列番号368の残基67から残基98、及び重鎖のフレームワーク領域4のアミノ酸配列が配列表の配列番号407の残基5から残基15である。
【0087】
したがって、本発明において好ましい重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列の組み合わせは、例えば表2に表される。
【0088】
本発明の好ましい態様は、表2のV1から28の可変領域の組み合わせを有するヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体である。
【0089】
本発明のより好ましい態様は、特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ(表2のV1、V8、V15、V17またはV18)を有するヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体である。
【0090】
ヒト免疫グロブリン分子には、重鎖の定常領域の違いにより、γ鎖、μ鎖、α鎖、δ鎖、またはε鎖の重鎖を有する、それぞれIgG(IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む)、IgM、IgA(IgA1、IgA2を含む)、IgDまたはIgEが存在するが、本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の定常領域としては、その全てを包含する。また、軽鎖は、その染色体上の位置に応じて、κ鎖とλ鎖が存在するが、その両方を含むものとする。抗体医薬を製造する場合、凝集性の観点から、κ鎖が好ましいものの、λ鎖はκ鎖と異なったアミノ酸配列を有し、しかもκ鎖と同様に多様である点でλ鎖の軽鎖を有する抗体も有用である。本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、血中安定性の観点から、軽鎖がλ鎖であり、重鎖がγ鎖のIgGであることが好ましく、軽鎖がλ鎖であり、重鎖がγ1鎖であるIgG1であることがより好ましい。
【0091】
IL−33のアミノ酸配列は動物種によって異なるため、配列表の配列番号226で示されるヒトIL−33と配列表の配列番号227で示されるサルIL−33でもアミノ酸配列に違いがある。一般に、抗体医薬の薬理試験や安全性試験では、サルが実験材料として用いられるため、本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、サルIL−33にも結合することが好ましく、ヒトIL―33と同程度の親和性でサルIL−33に結合することがより好ましい。特に好ましくは、サルIL−33に対するkoffのヒトIL−33に対するkoffの割合が約20倍以内であり、より好ましくは約10倍以内、さらに好ましくは約5倍以内であるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体である。
【0092】
本発明の抗体のフラグメントとしては、例示的にFabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fab’フラグメント及びscFvが挙げられ、さらにこれらの抗体のフラグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、サイトカイン、アルブミン、酵素などの抗体以外の機能分子を結合していてもよい。
【0093】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、それ自体にIL−33以外の別の抗原結合特異性を有する抗体を結合することにより、バイスペシフィック抗体などのマルチスペシフィック抗体を作製することができる。IL−33以外の別の抗原としては、非限定的にTNF―α、IL―6受容体、CD3、CD20、α4インテグリン、BLys、Thymic Stromal Lymphopoietin、IgE、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−13、IL−17、IL−23、IL−25等が挙げられる。
【0094】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体及びその抗体のフラグメントにおいては、そのFc領域等を改変することにより、細胞殺傷機能や補体活性化機能、血中半減期等の機能を調節した機能改変抗体を取得することができる(設楽研也、藥學雜誌、2009、Vol.129(1), p3;石井明子ら、日本薬理學雜誌、2010、Vol.136(5), p280;橋口周平ら、生化学、2010、Vol.82(8), p710 Strohl, Current Opinion in Biotechnology, 2009, vol.20, p685)。
【0095】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体及びその抗体のフラグメントは、他の機能分子を結合して、コンジュゲート抗体とすることができ、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の非ペプチド性ポリマー、放射性物質、毒素、低分子化合物、アルブミン、サイトカイン、酵素などの機能分子を結合して新たな機能を付加することができる。
【0096】
本発明の別の態様として、フレームワーク領域が生殖系列のアミノ酸配列であるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の蛋白質部分をコードする核酸分子、該核酸分子を含むベクター、該ベクターを含む宿主細胞、及び、該宿主細胞を培養することによるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の製造方法が挙げられる。
【0097】
本発明のさらに別の態様では、上記ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を含む、組成物にも存する。IL−33は、炎症等を惹起することから、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、IL−33関連疾患の診断、治療、予防または軽減の用途が期待される。したがって、本発明の一態様では、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を含む、IL−33関連疾患の診断、治療、予防または軽減用の医薬組成物に存する。さらに別の態様では、IL−33が、サイトカイン、ケモカイン、炎症性メディエータなどを誘導することから、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を含む、サイトカイン、ケモカインまたは炎症性メディエータ発現抑制剤にも存する。
【0098】
本発明のサイトカイン、ケモカインまたは炎症性メディエータ発現抑制剤により抑制されるサイトカインはIL−33により誘導されるサイトカインであり、例えば、TNF−α、IFN−γ、IL−1β、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−13等が挙げられる。また、当該抑制剤により抑制されるケモカインはIL−33により誘導されるケモカインであり、例えば、CXCL2、CCL2、CCL3、CCL6、CCL17、CCL24等が挙げられる。当該抑制剤により抑制される炎症性メディエータはIL−33により誘導される炎症性メディエータであり、例えば、PGD2、LTB4等が挙げられる。本発明の特に好ましい態様は、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を含むIFN−γ、IL−5、IL−6またはIL−13の発現抑制剤であり、より好ましくはIL−6の産生抑制剤である。
【0099】
本発明の別の態様では、本発明のモノクローナル抗体を含む医薬組成物に存する。また、本発明のモノクローナル抗体を投与することを含むIL−33関連疾患の診断、治療、予防または軽減方法、並びに、IL−33関連疾患の診断、治療、予防または軽減用医薬の製造のための本発明のモノクローナル抗体の使用に関する。
【0100】
IL−33関連疾患の例として、非限定的に、喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹、花粉症、アナフィラキシーショック、副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎を含む)、アレルギー性脳脊髄炎、好酸球増多症候群、リウマチ性多発筋痛、リウマチ性心疾患、多発性硬化症、関節炎(例えば、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、変形性関節症、ライター症候群等)、全身性エリトマトーデス(円板状狼蒼を含む)、天疱瘡、類天疱瘡、乾癬、強直性脊椎炎、肝炎(例えば、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎等)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、グルテン感受性腸疾患等)、シェーグレン症候群、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性炎症性眼疾患、自己免疫性新生児血小板減少症、自己免疫性好中球減少、自己免疫性卵巣炎及び睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性甲状腺炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、重症筋無力症、アドレナリン作動薬耐性、円形脱毛症(alopecia greata)、抗リン脂質症候群、副腎の自己免疫疾患(例えば、自己免疫性アジソン病等)、セリアックスプルー−皮膚炎、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、寒冷凝集素病、本態性混合クリオグロブリン血症、線維筋痛−線維筋炎、糸球体腎炎(例えば、IgA腎症(nephrophathy)等)、グレーブス病、甲状腺機能亢進症(すなわち、橋本甲状腺炎)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、混合結合組織病、1型または免疫介在性糖尿病、悪性貧血、多発性軟骨炎(polychrondritis)、多腺症候群、スティッフマン症候群、白斑、サルコイドーシス、多腺性内分泌障害、他の内分泌腺不全、動脈硬化症、肝線維症(例えば、原発性胆汁性肝硬変等)、肺線維症(例えば、突発性肺線維症等)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、強皮症(CREST症候群、レイノー現象等を含む)、尿細管間質性腎炎、デンスデポジット病、急性腎障害、心筋炎、心筋症、神経炎(例えば、ギラン・バレー症候群等)、結節性多発性動脈炎、心臓切開症候群(cardiotomy syndrome)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、IgA神経障害、扁平苔癬、メニエール病、ポスト心筋梗塞(post−MI)、ブドウ膜炎、ブドウ膜炎眼炎(Uveitis Opthalmia)、血管炎、原発性無ガンマグロブリン血症、癌(例えば、脳腫瘍、喉頭癌、口唇口腔癌、下咽頭癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、肺癌、胃癌、副腎皮質癌、胆管癌、胆嚢癌、肝臓癌、膵臓癌、膀胱癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、睾丸癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、ユーイング腫瘍、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫等)、免疫系による排除に抵抗を示す感染(例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS))、強毒性インフルエンザ感染症に伴う致死的サイトカインストーム、並びに、敗血症が挙げられ、好ましくは、喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシーショック、副鼻腔炎(好酸球性副鼻腔炎を含む)、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節炎、全身性エリトマトーデス、天疱瘡、類天疱瘡、強皮症、強直性脊椎炎、肝線維症(原発性胆汁性肝硬変を含む)、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性腎障害、血管炎及び癌などが挙げられる。
【0101】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を含む医薬組成物は、活性成分であるヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体、及び、その塩の他に、薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤を含んでいてもよい。さらに本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体以外の他の活性成分、例えば抗炎症性薬剤や免疫抑制剤等を含んでもよい。このような組成物は、非経口投与または経口に適する剤形として提供されるが、抗体医薬として使用される観点から非経口投与が好ましい。非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、皮下、局所、腹腔内、筋肉内、経鼻、点眼、経皮、経粘膜、髄膜内、経直腸、筋肉内、脳内投与等が挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0102】
医薬組成物は、その投与経路に応じて適宜剤形することができ、例えば注射剤、粉末剤、輸液製剤、顆粒剤、錠剤、坐剤等いかなるものでもよいが、非経口投与する観点では、注射剤、輸液製剤、用時溶解性の粉末剤等が好ましい。また、これらの製剤は医薬用に用いられる種々の補助剤、即ち、担体やその他の助剤、例えば、安定剤、防腐剤、無痛化剤、乳化剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0103】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、例えば、1日、1週間、1月間に1回もしくは1年間に1から7回の間隔での持続注入によってか、または投薬によって提供され得る。投薬は、静脈内、皮下、局所、経口、経鼻、経直腸、筋肉内、脳室内に、または、吸入によって提供され得る。好ましい用量プロトコルは、重大な望まれない副作用を避ける最大用量または投薬頻度を含むものである。全体の週用量は、一般的に少なくとも約0.05μg/kg体重、より一般的には少なくとも約0.2μg/kg、最も一般的には少なくとも約0.5μg/kg、代表的には少なくとも約1μg/kg、より代表的には少なくとも約10μg/kg、最も代表的には少なくとも約100μg/kg、好ましくは少なくとも約0.2mg/kg、より好ましくは少なくとも約1.0mg/kg、最も好ましくは少なくとも約2.0mg/kg、最適には少なくとも約10mg/kg、より最適には少なくとも約25mg/kg、そして最も最適には少なくとも約50mg/kgである。
【0104】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は、例えば、IL−33関連疾患患者の特定の細胞、組織または血清中におけるIL−33の発現を検出するための、診断アッセイに有用である。診断用途では典型的には、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体が検出可能な部分で標識されたコンジュゲート抗体であることが好ましい。
【0105】
本発明の別の態様としては、特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ(表1のC1、C8、C15、C17もしくはC18)または特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせ(表2のV1、V8、V15、V17もしくはV18)のアミノ酸配列を含む抗IL−33中和モノクローナル抗体に対し、IL−33との結合が競合する、抗IL−33中和モノクローナル抗体に関する。
【0106】
上記のような、特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせまたは特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせアミノ酸配列を含むヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体に対し、IL−33との結合が競合する、抗IL−33中和モノクローナル抗体は、ファージディスプレイなどの遺伝子工学的な手法やハイブリドーマ法等により取得した抗IL−33抗体を、例えば以下の表面プラズモン共鳴(SPR)法によりスクリーニングすることにより取得できる。
【0107】
アビジンが固定されたセンサーチップにビオチン化したヒトIL−33蛋白質(4μg/mL)をリガンドとしてロードすることで、1300から1600RU相当のヒトIL−33蛋白質を固定する。次に任意の抗IL−33抗体(15μg/mL)をアナライトとしてロードし、センサーチップ上に固定されたヒトIL−33蛋白質に結合させる。これを複数回繰り返すことで、センサーチップ上のヒトIL−33蛋白質の全ての分子に任意の抗IL−33抗体が結合している状態(飽和状態)を作り、飽和状態での結合量(飽和結合量1)を求める。
同様の実験を本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせまたは特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含むヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体でも実施し、飽和状態での結合量(飽和結合量2)を求める。
続いて、センサーチップ上のヒトIL−33蛋白質を本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせまたは特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含むヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体で飽和させた後、任意の抗IL−33抗体(15μg/mL)をアナライトとしてロードし、本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせまたは特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含むヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体で飽和されたヒトIL−33蛋白質に追加される形で結合するかどうかを調べる。
任意の抗IL−33抗体が、本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ、または、特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含む、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体で飽和されたヒトIL−33蛋白質に追加される形で、上記で算出した任意の抗IL−33抗体の飽和結合量1を示しながら結合できる場合は、その抗体は「競合しない」と判断される。一方、任意の抗IL−33抗体が、本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ、または、特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含む、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体で飽和されたヒトIL−33蛋白質に追加される形で結合できない場合は、その抗体は「競合する」と判断される。また任意の抗IL−33抗体が、本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ、または、特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含む、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体で飽和されたヒトIL−33蛋白質に追加される形で結合できる場合でも、追加される結合量が有意差をもって飽和結合量1に達しない場合は、その抗体は「競合する」と判断される。有意差は一般的な検定方法(例えば、スチューデントのt検定)で調べることができ、有意水準は5%または1%以下とする。
【0108】
上記の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ、または、特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含む、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体に対し、IL−33との結合が競合する、抗IL−33中和モノクローナル抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、任意の動物由来の抗体であってもよいし、これらの抗体の組み合わせであるキメラ抗体やヒト化抗体であってもよい。
上記の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ、または、特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含む、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体に対し、IL−33との結合が競合する、抗IL−33中和モノクローナル抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であることが好ましく、ヒト抗体が最も好ましい。
【0109】
上記の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ、または、特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせのアミノ酸配列を含む、ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体に対しIL−33との結合が競合する、抗IL−33中和モノクローナル抗体としては、抗体のフラグメントがある。抗体のフラグメントの例としては、Fabフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fab’フラグメント、またはscFvが挙げられるが、PEGなどが結合した抗体のフラグメントが好ましい。
【0110】
以下に、本発明の抗IL−33中和モノクローナル抗体等の製造方法について説明する。遺伝子工学的手法を用いれば、所望の相補性決定領域の組み合わせ及びフレームワーク領域の組み合わせを含み、かつ、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域をコードするDNA配列を含むDNA配列を発現ベクターに組み込み、これを宿主細胞に形質転換して、該宿主細胞を培養することにより本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を製造することができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in theUnited Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。また、軽鎖及び重鎖の定常領域をコードするDNA配列を、それぞれ重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードするDNA配列に連結することにより、重鎖の全長及び軽鎖の全長をコードするDNA配列を作製することができる。本発明において好ましいヒト抗IL−33中和モノクローナ抗体の重鎖全長及び軽鎖全長をコードするDNA配列は、例えば軽鎖としてλ鎖を有するIgG1であり、以下の表5に表される。但し、遺伝子工学的手法により動物細胞を用いて該抗体を製造する場合、重鎖のC末端のリジン残基が除かれる場合があり、表5に示される重鎖の核酸配列(配列表の配列番号254〜277)の3‘末端を構成する3ヌクレオチド「aag」は各重鎖核酸配列から除かれていてもよい。:
【0112】
抗体製造のための産生系は、in vitroの産生系を利用することができる。in vitroの産生系としては、真核細胞、例えば動物細胞、植物細胞または真菌細胞を使用する産生系や原核細胞、例えば大腸菌、枯草菌などの細菌細胞を使用する産生系等が挙げられる。使用される動物細胞としては、哺乳動物細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、HeLa、Vero、293、NS0、Namalwa、YB2/0といった一般に使用される細胞、昆虫細胞、植物細胞などが用いられてもよいが、293細胞やCHO細胞が好ましい。
【0113】
上述のようにin vitroの産生系にて抗体を産生する場合、抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいは重鎖及び軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際公開94/11523号参照)。動物細胞で使用されうるベクターとしては、例えばpConPlus、pcDM8、pcDNA I/Amp、pcDNA3.1、pREP4などが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0114】
得られた抗体は、均一になるまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラム等が挙げられる。例えばプロテインAカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F.(Amersham Biosciences)等が挙げられる。
【0115】
本願に係るヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体に、IL−33以外の別の抗原結合特異性を有する抗体を結合することにより、バイスペシフィック抗体などのマルチスペシフィック抗体を作製することができる。バイスペシフィック抗体の製造法は、既に公知である化学的方法(Nisonoff,A. et al., Archives of biochemistry and biophysics., 1961, Vol.90, p.460-462, Brennan, M.et al., Science, 1985, Vol. 299, p.81-83)が良く知られている。これらの方法は、まず2種類の抗体を酵素によりそれぞれ加水分解した後、抗体の重鎖のジスルフィド結合を還元剤で切断し、続いて異種の抗体を混合し再酸化することで二価反応性抗体を得るものである。最近では、グルタルアルデヒドやカルボジイミドなどの架橋剤を用いた調製方法も開示されている(特開平2−1556号公報)。遺伝子工学的にバイスペシフィック抗体などのマルチスペシフィック抗体を作製する方法もこの分野において既に確立されて方法である。例えば、2種類のモノクローナル抗体の抗原結合領域を直列に連結したDVD−Ig(Wuら、Nature Biotechnology 25(11), 1290(2007))の技術や、抗体のFc領域を改変することにより、異なった抗原に結合する2種類の抗体の重鎖が組み合わされるART−Igの技術(Kitazawaら、Nature Medicine 18(10), 1570(2012))を利用すれば所望のバイスペシフィック抗体が取得できる。
【0116】
ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の機能改変抗体やコンジュゲート抗体は、以下のような方法で調製される。例えば、本願ヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体を、宿主細胞としてα1,6―フコース転移酵素(FUT8)遺伝子を破壊したCHO細胞を用いて製造すると、糖鎖のフコース含量が低下して細胞殺傷機能が高まった抗体が得られ、FUT8遺伝子を導入したCHO細胞を宿主細胞として製造すると、細胞殺傷機能が低い抗体が得られる(国際公開第2005/035586号、国際公開第2002/31140号、国際公開第00/61739号)。また、Fc領域のアミノ酸残基を改変することで補体活性化機能を調節することができる(米国特許第6737056号、米国特許第7297775号、米国特許第7317091号)。さらに、Fc受容体の1つであるFcRnへの結合を高めたFc領域の変異体を使用することにより、血中半減期の延長を図ることができる(橋口周平ら、生化学、2010、Vol.82(8), p710;Strohl, Current Opinion in Biotechnology, 2009, vol.20, p685)。これらの機能改変抗体は、遺伝子工学的に製造することができる。
【0117】
本発明のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体は他の機能分子を結合してコンジュゲート抗体を作製することができる。例えば、抗体に機能分子としてPEGを結合する場合、PEGは非限定的に分子量2000から100000Da、より好ましくは10000から50000Daのものが使用でき、直鎖型でもよく、ブランチ型のものでもよい。PEGは、例えばNHS活性基を用いることにより、抗体のアミノ酸のN末端アミノ基等に結合することができる。機能分子として放射性物質を用いる場合、
131I、
125I、
90Y、
64Cu、
99Tc、
77Luまたは
211Atなどが用いられる。放射性物質は、ク口ラミンT法などによって抗体に直接結合させることができる。機能分子として毒素を用いる場合、細菌毒素(例えば、ジフテリア毒素)、植物毒素(例えば、リシン)、低分子毒素(例えば、ゲルダナマイシン)、メイタンシノイド、及びカリケアマイシン等が用いられる。機能分子として低分子化合物を用いる場合、ダウノマイシン、ドキソルビシン、メトロレキサート、マイトマイシン、ネオカルチノスタチン、ビンデシン及びFITC等の蛍光色素等が挙げられる。機能分子として、酵素を用いる場合、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4737456号)、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ウレアーゼ、ペルオキシダーゼ(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRPO))、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ(例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、複素環式オキシダーゼ(例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ等)、ラクトペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ等が用いられる。毒素、低分子化合物または酵素を化学的に結合する時に使用するリンカーとしては、二価ラジカル(例えば、アルキレン、アリーレン、ヘテロアリーレン)、−(CR
2)
nO(CR
2)
n−(Rは任意の置換基)で表されるリンカーやアルコキシの反復単位(例えば、ポリエチレンオキシ、PEG、ポリメチレンオキシ等)及びアルキルアミノ(例えば、ポリエチレンアミノ、JeffamineTM)、並びに、二酸エステル及びアミド(スクシネート、スクシンアミド、ジグリコレート、マロネート及びカプロアミド等が挙げられる)が挙げられる。機能分子を結合させる化学的修飾方法はこの分野において既に確立されている (D.J.King., Applications and Engineering of Monoclonal antibodies., 1998 T.J. International Ltd, Monoclonal Antibody-Based Therapy of Cancer., 1998 Marcel Dekker Inc; Chari et al., Cancer Res., 1992 Vol152:127; Liu et al., Proc Natl Acad Sci USA., 1996 Vol 93:8681)。
【0118】
本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ(表1のC1、C8、C15、C17もしくはC18)または特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせ(表2のV1、V8、V15、V17もしくはV18)のアミノ酸配列を含むヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体と、IL−33との結合に競合する、抗IL−33中和モノクローナル抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、任意の動物由来の抗体であってもよいし、これらの抗体の組み合わせであるキメラ抗体やヒト化抗体であってもよい。これらの抗IL−33中和モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、ファージディスプレイ法などの遺伝子工学的手法など、任意の公知の手法を用いて取得することができるが、特に好ましくは遺伝子工学的手法により取得することができる。
【0119】
キメラ抗体は非ヒト由来の抗体可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主細胞に形質転換し産生させることにより得られる(欧州公開第125023号、国際公開92/19759号参照)。
【0120】
ヒト化抗体は非ヒト由来抗体の相補性決定領域と、その他の部分のヒト抗体領域をコードするDNAを連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる。
【0121】
ヒト抗体は、例えば、以下に提供される実施例に記載の手順を使用して調製される。またヒト抗体は、トリオーマ技術、ヒトB-細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら, 1983 Immunol Today 4: p72)及びヒトモノクローナル抗体を生成するためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら, 1985, MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, Alan R. Liss, Inc., p. 77)等を使用し、調製することもできる。さらに、ヒト抗体遺伝子を導入したトランスジェニックマウスに抗原蛋白質を免疫し、ハイブリドーマを作製することにより、ヒト抗体を生成することもできる。トランスジェニックマウスとしては、HuMab(登録商標)マウス(Medarex)、KMTMマウス (Kirin Pharma)、KM(FCγRIIb-KO)マウス、VelocImmuneマウス(Regeneron)等が挙げられる。
【0122】
本発明の別の態様として、本発明の特定の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせ(表1のC1、C8、C15、C17もしくはC18)または特定の可変領域アミノ酸配列の組み合わせ(表2のV1、V8、V15、V17もしくはV18)のアミノ酸配列を含むヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体と、IL−33との結合が競合する人工抗体が挙げられる。人工抗体としては、例えばヒトファイブロネクチンタイプIIIドメインの10番目のユニット(FNfn10)が利用でき、該ユニットのBC、DE、及び/またはFGループに変異をいれることにより所望の標的に結合する人工抗体が取得できる。人工抗体としては、ファイブロネクチンの細胞外ドメイン以外に、セリンプロテアーゼ阻害剤のKunitzドメインやアンキリン、リポカリンなどのペプチドが利用できる。これらの人工抗体は該ペプチドをコードする核酸分子を含むベクターを大腸菌や酵母または動物細胞等に導入し、該宿主細胞を培養した培養上清から精製することにより、遺伝子工学的に製造することができる。
【0123】
人工抗体としては、上記のような特定の蛋白質、またはその一部のアミノ酸配列を利用するのではなく、アミノ酸をランダムに組み合わせたランダム配列ライブラリから、抗体のように本発明のエピトープに特異的に結合する低分子ペプチド分子として探索することもできる(例えば、Hipolito et al., Current Opinion in Chemical Biology, 2012 Vol 16: 196, Yamagishi et al., Chemistry & Biology, 2011 Vol 18: 1562)。このようなペプチドは、遺伝子工学的な方法以外に、フルオレニルメチルオキシ力ルボニル法、tーブチルオキシ力ルボニル法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0124】
[抗体の配列の組み合わせ]
本願に記載のヒト抗IL−33中和モノクローナル抗体の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせである表1のC1からC30、可変領域のアミノ酸配列の組み合わせである表2のV1からV30、相補性決定領域の核酸配列の組み合わせである表5のCN1からCN30、及び、抗体の核酸配列の組み合わせである表5のIGN1からIGN30はそれぞれ同一のクローンの配列に相当し、対応関係を下記表6に表す。例えば、クローンA10−1C04の相補性決定領域のアミノ酸配列はC1の6個の相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせであり、この相補性決定領域のアミノ酸配列の組み合わせはCN1の6個の核酸配列によりコードされうる。また、該クローンの重鎖と軽鎖の可変領域のアミノ酸配列はV1の2個のアミノ酸配列であり、V1の可変領域を含むλ鎖の軽鎖及びγ鎖の重鎖のアミノ酸配列はIGN1の2個の核酸配列によりコードされる。
【実施例1】
【0126】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、特に言及しない限り、本発明は以下に限定されるものではない。
【0127】
実施例1:抗IL−33抗体の取得とエピトープペプチドの同定
[抗体の取得]
ヒトIL−33蛋白質を動物に免疫し、免疫動物の脾細胞からハイブリドーマを作製することでモノクローナル抗体を取得した。また免疫動物の脾細胞から回収したRNAを用いて作製した動物の抗体ライブラリや、ヒトナイーブ抗体ライブラリからヒトIL−33蛋白質に結合する抗体をファージディスプレイ技術によりクローニングした。このようにして8種類(抗体A〜H)の抗IL−33モノクローナル抗体を取得した。
【0128】
[ペプチドアレイスキャン]
取得したIL−33抗体のエピトープを同定するために、ヒトIL−33の部分ペプチド(20残基長)と、各抗体との結合性を調べるペプチドアレイスキャンを実施した。主な成熟型ヒトIL−33分子をカバーするように、N末から101位のバリン(V101)から270位のスレオニン(T270)までの範囲で10アミノ酸ごとに開始位置をずらしながら計16種類の20アミノ酸長ペプチド(PEP11からPEP26)を合成した。これらのペプチドの配列と位置関係を表7に示した。
【表7】
【0129】
N末端をビオチン化した各ペプチドをSurface Plasmon Resonance(SPR)装置(Bio-Rad, ProteOn XPR36)のニュートロアビジンセンサーチップ上にリガンドとして固定化した。また陽性対照として成熟型ヒトIL−33(残基112から残基270)のN末にアビタグ配列を付加し、ビオチンリガーゼ反応によりアビタグ配列特異的にビオチン化した蛋白質(hIL−33)をSPRセンサーチップ上にリガンドとして固定化した。リガンドを固定化したセンサーチップに、アナライトとして、被験抗体、ヒトIL−33受容体白質(組換えヒトST2 Fcキメラ)(Enzo Life Science, ALX-201-367-C050)またはバッファー(0.05%Tween20/PBS)のみを流して(抗体濃度:10μg/ml;流速:100μl/min)結合させ、洗浄後にセンサーチップ上のリガンドに結合しているアナライト量(抗体量)をRU値として示した。結果を
図2に示した。
【0130】
ヒトIL−33蛋白質のN末端側にエピトープをもつ抗体から順に、抗体Aと抗体BがPEP12に結合した。抗体Cと抗体DがPEP14に結合した。抗体EがPEP16とPEP17の両方に結合した。 抗体FはPEP24に結合した。抗体Gと抗体HはPEP26に結合した。市販の抗ヒトIL−33ポリクローナル抗体(R&D Systems、AF3625)は検討に使用した16種類のヒトIL−33ペプチドの大部分に結合した。一方、ヒトIL−33受容体(ST2)はヒトIL−33蛋白質には結合したが、ヒトIL−33ペプチド(PEP11〜PEP26)にはほとんど結合せず、IL−33のどの部分がST2との結合に重要かは本試験では分からなかった。また、バッファーのみやマウスIgG(R&D Systems, MAB002)ではリガンドへの結合は認められなかった。hIL−33(残基112から残基270)への結合性を、使用した抗体間で比較したところ、hIL−33(残基112から残基270)への結合が強いものから、抗体G、抗体H、抗体D、抗体E、抗体B、抗体A、抗体C、抗体Fの順となった。
【0131】
実施例2:抗IL−33モノクローナル抗体のIL−33中和活性の評価−1
固相化ヒトST2とヒトIL−33の結合に対する阻害作用を指標として抗体A、抗体B、抗体E、抗体FのIL−33中和活性の測定を実施した。96ウェルマイクロプレート(NuncTM、#442404)に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した組換えヒトST2 Fcキメラ(Enzo Life Science, ALX-201-367-C050)(1μg/mL、50μL/ウェル)を分注して4℃で一晩静置した。翌日、上記プレートを1%BSA含有PBS(PBS−B)で1回洗浄後、同溶液(250μL/ウェル)を添加して室温で2時間ブロッキングした。その後、PBS−Bで希釈した被験抗体(終濃度10μg/mL)および組換えヒトIL−33蛋白質(ATGen、ILC0701)(終濃度1μg/mL)の混合溶液(50μL/ウェル)を添加して室温で2時間インキュベートした。マイクロプレートを0.1%Tween 20含有PBS(PBS−T)で5回洗浄した後、PBS−Bで希釈したヤギ抗ヒトIL−33抗体(R&D Systems:AF3625、終濃度1μg/mL、50μL/ウェル)を添加して室温で1時間インキュベートした。マイクロプレートをPBS−Tで5回洗浄後、PBS−Bで2000倍希釈したHRP標識ウサギ抗ヤギIgG抗体(Invitrogen:61-1620、50μL/ウェル)を添加して室温で1時間インキュベートした。マイクロプレートをPBS−Tで5回洗浄後、SureBlueTM TMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL:52-00-01、50μL/ウェル)を添加して室温で20分間反応させた。TMB Stop Solution(KPL:50-85-05、50μL/ウェル)で反応を停止させ、プレートリーダー(SPECTRA MAX 190、Molecular Devices)を用いて、波長450nmおよび620nmの吸光度の差を測定した。ST2とIL−33の結合に対する抗体による阻害作用(IL−33/ST2結合系競合阻害率)はヒトIL−33の代わりにヒトIL−1β(PeproTech,200-01B)(終濃度1μg/mL)を添加したサンプルをバックグラウンドとし、ヒトIL−33(終濃度1μg/mL)を単独で添加したサンプルに対する阻害率(%)を求めた。その結果、抗体A(エピトープはPEP12)が66%阻害、抗体B(エピトープはPEP12)が55%阻害、抗体E(エピトープはPEP16−17)が0%阻害、抗体F(エピトープはPEP24)が39%阻害となり、検討した4種類の抗体のうち、抗体Eを除く全ての抗体(抗体A、抗体B、抗体F)が終濃度10μg/mLで30%以上の阻害率を示した。
【表8】
【0132】
実施例3:抗IL−33モノクローナル抗体のIL−33中和活性の評価−2
正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(LONZA, CLC2517A)を用いたヒトIL−33誘発IL−6産生に対する阻害作用を指標として被験抗体(抗体A〜H)のIL−33中和活性の測定を実施した。HUVECを96ウェルマイクロプレート(IWAKI、MT4940-010)に播種し(6×10
3/0.1mL/ウェル)、細胞がコンフルエントになっていることを確認した。培地(EGM−2培地(LONZA, CLCC-3156, CLCC-4176))に抗IL−33抗体(終濃度10μg/mL)および組換えヒトIL−33(ATGen、ILC0701、終濃度100ng/mL)を添加し(0.2mL/ウェル)、37℃で24時間インキュベートした。24時間後に培地中のIL−6濃度を市販のELISAキット(Thermo Scientific、EH2IL6))を用いて測定した。また細胞カウントキット(Dojindo、345-06463)を用いて培地採取時の細胞の生存率を測定し、IL−6産生抑制作用が生存細胞数の低下に起因しないことを確認した。被験抗体のIL−33中和活性(HUVEC系IL−6産生阻害率)として、組換えヒトIL−33単独処理によるIL−6産生に対する阻害率(%)を算出した。その結果、抗体A(エピトープはPEP12)が51%阻害、抗体B(エピトープはPEP12)が48%阻害、抗体C(エピトープはPEP14)が33%阻害、抗体D(エピトープはPEP14)が38%阻害、抗体E(エピトープはPEP16−17)が0%阻害、抗体F(エピトープはPEP24)が38%阻害、抗体G(エピトープはPEP26)が48%阻害、抗体H(エピトープはPEP26)が56%阻害となり、8種類の抗体のうち、抗体Eを除く全ての抗体が30%以上の阻害率を示した(表9)。これらの抗体のうち配列番号1の111位〜130位、131位〜150位、231位〜250位及び251〜270位からなる群から選ばれるエピトープに結合する抗体は、抗体濃度を3、10及び30μg/mLとした場合の中和活性の増加が大きく(例えば、抗体Dではそれぞれ23、42、61%阻害)、アンタゴニスト作用を有する抗体を生成する上で適したエピトープであることが分かった。
【表9】
【0133】
抗体Eは、hIL−33に結合するにもかかわらず(
図2)、機能的中和能を示さなかった(表8、表9)。特許文献2(WO2008/132709)には、エピトープ1(155〜198位)、エピトープ2(165〜188位)、エピトープ3(175〜178位)の3種類のエピトープが記載されているが、これらのエピトープは今回IL−33の中和活性が無いことが確認された抗体Eのエピトープペプチド(151〜180位)と重複することが明らかとなった。これらの結果から特許文献2のエピトープに対する抗体は、IL−33と受容体であるST2との結合を十分に阻害できず、IL−33の中和活性が無いか、仮にあったとしても非常に低いと考えられた。
【0134】
抗体EがIL−33の中和活性を示さなかった理由として、理論的にはエピトープの優劣以外に、親和性不足の可能性が存在する。しかし、抗体D、抗体G、抗体Hといった、抗体EよりもhIL−33への結合が抗体Eよりも弱い傾向にあるにも関わらず、明確なIL−33の中和活性を示したクローンの存在により、この可能性は低いと考えられる。これらのことからサイトカインであるIL−33を中和することを目的とした場合、特許文献2に記載のエピトープはIL−33への結合とIL−33の中和活性が関連しないエピトープであるのに対し、今回我々が見出した4つのエピトープ(PEP12、PEP14、PEP24、PEP26)は、IL−33への結合とIL−33の中和活性が関連する機能的なエピトープであると考えられる。機能的なエピトープに結合する抗体は、IL−33に対するアンタゴニスト作用が高い一方で、非機能的なエピトープに結合する抗体は、IL−33に対するアンタゴニスト作用が低いか、又は全くないと考えられる。
【0135】
実施例4:エピトープペプチドのヒトIL−33立体構造へのマッピング
上記の4つのエピトープペプチドについてさらに、アンタゴニスト作用を有する抗体の生成に好ましいエピトープである界面原子(ST2を構成する原子から最短5Å圏内のIL−33の原子)を特定するために、ヒトIL−33・ヒトST2複合体の立体構造の上にエピトープペプチドをマッピングした。ヒトIL−33・ヒトST2複合体のX線結晶構造(Research Collaboratory for Structual Bioinformatics: PDB ID 4KC3)ではIL−33蛋白質の一部の構造が欠如していたため、今回同定した全てのエピトープペプチドの位置を示すことができなかった。そこで、上記X線結晶構造(4KC3)を鋳型としてホモロジーモデルを作製し(
図3、Accelrys社Discovery Studio 3.5を使用)、今回中和活性が認められた抗体のエピトープペプチド(PEP12、PEP14、PEP24、PEP26)をマッピングした(
図4〜7)。
図4〜7ではヒトIL−33やエピトープペプチドは濃い灰色、それらと結合するST2は薄い灰色で示した。IL−33蛋白質表面上の受容体との接触面の位置を明示するために、界面原子を大き目の球で強調して表示した。その結果、これらのエピトープペプチド(PEP12、PEP14、PEP24、PEP26)はそれぞれ界面原子を含むアミノ酸を有することがわかった。界面原子を含むアミノ酸としては、PEP12のP118、I119、T120、Y122、L123、R124、S125、L126、S127、Y129、N130、PEP14のD131、Q132、S133、T135、A137、L138、E139、S142、Y143、E144、I145、Y146、E148、D149、L150、PEP24のD244、N245、H246、PEP26のK266、L267、S268、E269が挙げられる。アンタゴニスト作用を有する抗体が特異的に結合するエピトープとしては界面原子を含むアミノ酸を有するエピトープが好ましいと考えられる。
【0136】
実施例5:ヒト抗IL−33抗体(親クローン)の取得
ヒトscFvのファージディスプレイライブラリ(BioInvent, n-CoDeR)(Soderlind et al., Nature biotechnology, 2000 Vol.18(8), p852)を用いて、成熟型IL−33(残基112から残基270)に結合し、IL−33とST2の結合を阻害し、かつ後述する正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のIL−33依存的IL−6産生を指標としてIL−33の活性を阻害する、2種類の親クローン(scFv)(分子形がscFvであることを意味する、以下同様に表記する)を取得した(クローン名:A00−0070、A00−0036)。これらの抗体の塩基配列を決定し、軽鎖及び重鎖の可変領域のアミノ酸配列を決定した。A00−0070及びA00−0036の軽鎖及び重鎖可変領域のアミノ酸配列の組み合わせは、それぞれ表2のV29及びV30であった。
【0137】
実施例6:相補性決定領域を改良するためのアミノ酸置換の決定
2種類の親クローンのIL−33への親和性向上と物性改善(表面疎水性の低減による凝集性の低減及び溶解度の向上)を目的として、Fabリボゾームディスプレイ及びFabファージディスプレイによる相補性決定領域の改良を行なった。相補性決定領域の改良は2段階にて実施し、第一段階でIL−33への親和性向上と物性改善を狙える1アミノ酸置換を決定し、第二段階でこれらの1アミノ酸置換の複数の組合せを決定した(Fujino et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2012 Vol. 428(3), p395)。
【0138】
2種類の親クローンの軽鎖及び重鎖可変領域を用いてFabリボゾームディスプレイベクターを構築した。これを鋳型としたsite−directed mutagenesis PCR及びoverlap extension PCRによる多段階のPCR反応により、抗体の6つの相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2、HCDR3)を構成する全てのアミノ酸残基を1つずつ全20種類の天然アミノ酸にした、包括的1アミノ酸置換変異体ライブラリを構築した。再構築型無細胞翻訳系PURE system(Genefrontier, PUREfrex)(Shimizu et al., Nature Biotechnology, , 2001Vol. 19(8), p751)を用いたFabリボゾームディスプレイ法(Fujino et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2012 Vol. 428(3), p395)により、組換ヒトIL−33蛋白質(ATGen、ILC0701)をベイトとして包括的1アミノ酸置換変異体ライブラリの濃縮を数ラウンド繰り返した。濃縮前(構築直後)のライブラリ及び濃縮後のライブラリに含まれる各クローン(Fab)(分子形がFabであることを意味する、以下同様に表記する)の軽鎖及び重鎖可変領域の塩基配列を次世代シーケンサ(Roche, 454)を用いて決定した。濃縮前後の各ライブラリから数千リードの配列データを取得して、相補性決定領域における全ての1アミノ酸置換変異体の存在頻度を算出した。次に濃縮前のライブラリと濃縮後のライブラリにおける全ての1アミノ酸置換変異体の存在頻度の変化倍率(濃縮比)を算出し、ライブラリ濃縮による濃縮比の大きさを指標として、ヒトIL−33蛋白質に対する親和性を向上させるために有用と考えられる1アミノ酸置換を決定した。さらにこれらの1アミノ酸置換の総数とアミノ酸配列上での分布状態を考慮し、第二段階で構築するカスタムライブラリでアミノ酸置換を導入する位置を決定した。
【0139】
親クローンA00−0070では、LCDR1(配列表の配列番号2)の12番目のアスパラギン、LCDR2(配列表の配列番号11)の4番目のグルタミン、LCDR3(配列表の配列番号23)の2番目のセリン、3番目のチロシン、6番目のセリン、HCDR1(配列表の配列番号43)の1番目のアスパラギン酸、5番目のアスパラギン、HCDR2(配列表の配列番号64)の4番目のセリン、5番目のセリン、7番目のセリン、9番目のイソロイシンにアミノ酸置換を導入することを決定した。親クローンA00−0036では、LCDR1(配列表の配列番号6)の9番目のアスパラギン、13番目のアスパラギン、LCDR2(配列表の配列番号20)の6番目のアルギニン、7番目のロイシン、LCDR3(配列表の配列番号40)の1番目のアラニン、9番目のアラニン、10番目のバリン、HCDR1(配列表の配列番号47)の1番目のアスパラギン、HCDR2(配列表の配列番号64)の4番目のセリン、5番目のセリン、6番目のセリン、7番目のセリン、8番目のチロシン、9番目のイソロイシン、10番目のチロシン、11番目のチロシン、13番目のアスパラギン酸、16番目のリジン、HCDR3(配列表の配列番号78)の2番目のグリシン、5番目のヒスチジン、6番目のアスパラギン酸にアミノ酸置換を導入することを決定した。
【0140】
物性改善のために蛋白質構造解析プログラム(Accelrys, Discovery Studio)を使用して2種類の親クローンのホモロジーモデルを作成し、相補性決定領域において表面疎水性が高い領域を予測した。次にこのような領域の表面疎水性を低下させるために、親クローンA00−0070では、LCDR3(配列表の配列番号23)の3番目のチロシン、HCDR2(配列表の配列番号64)の7番目のセリン、9番目のイソロイシンに、また親クローンA00−0036では、LCDR2(配列表の配列番号20)の6番目のアルギニン、7番目のロイシン、HCDR2(配列表の配列番号64)の7番目のセリン、8番目のチロシン、9番目のイソロイシンにアミノ酸置換を導入することを決定した。これらの部位においてヒトIL−33蛋白質との結合能を維持しつつ表面疎水性の低減を図るために有用と考えられるアミノ酸置換を、包括的1アミノ酸置換変異体ライブラリを用いた変異分析における濃縮比のデータを考慮して決定した。
【0141】
実施例7:相補性決定領域を改良したヒト抗IL−33抗体の創製
親和性向上と物性改善を目的とした上記の有用アミノ酸置換を複数組合せることにより本格的な相補性決定領域改良用カスタムライブラリを設計した。Fabリボゾームディスプレイ及びFabファージディスプレイのベクターを構築し、Fabリボゾームディスプレイベクターを鋳型としたsite−directed mutagenesis PCR及びoverlap extension PCRによる多段階のPCR反応、及びFabファージディスプレイベクターを鋳型としたクンケル法による部位特異的変異導入法(Fellouse et al., J. Mol. Biol. 2007 Vol. 373, p924)を実施することで、相補性決定領域を上記の設計に基づきランダム化した相補性決定領域改良用カスタムライブラリを構築した。ヒトIL−33蛋白質及びカニクイザルIL−33蛋白質(GenBank: EHH57404、配列表の配列番号227の残基112のSerから残基269のGlu)をベイトとして、Fabリボゾームディスプレイ及びFabファージディスプレイによるライブラリ濃縮を数ラウンド繰り返した。後半のラウンドではIL−33蛋白質への結合の前にOctyl Sepharose(GE Healthcare)あるいはPhenyl Sepharose(GE Healthcare)といった疎水カラム担体を用いたネガティブ選択を実施することで、IL−33蛋白質へ親和性が高く、かつ表面疎水性が低いFabを濃縮した。
ベイトとして使用した組換え蛋白質は以下のように調製した。成熟型ヒトIL−33(残基112から残基270)および成熟型カニクイザルIL−33(配列表の配列番号227の残基112から残基269)はN末端側に6Hisタグ−Aviタグを付加したものをpET30a(−)に挿入することで発現ベクターを構築し、組換え蛋白質を調製した。発現ベクターを保有する大腸菌BL21(DE3)株をLB培地5mLで前培養後、前培養液1mLを50mL発現培地(Merck, Overnight Express;カナマイシン添加)に植菌し、30℃/200rpmで約18時間発現培養した。回収した菌体を洗浄後BagBuster(Novagen)で溶菌し上清を回収した。上清中に含まれる6Hisタグ−Aviタグ−カニクイザル IL33(残基112から残基269)はNi−NTA Agarose(QIAGEN)を用いて精製し、市販されているビオチンリガーゼ(Avidity、BirA)を用いてAviタグ部分特異的にビオチン修飾を導入した。
【0142】
濃縮後のライブラリを用いてFabを分泌発現する大腸菌ライブラリを構築し、数百クローンの大腸菌の培養上清を用いて表面プラズモン共鳴(SPR)による解離速度定数(koff)の測定を実施した(Bio-Rad, ProteOn XPR36)。センサーチップ(Bio-Rad, NLC sensor chip)にビオチン化した前記ヒトIL−33蛋白質(4μg/mL)及び前記カニクイザルIL−33蛋白質(4μg/mL)をリガンドとしてロードし、1300から1600RU相当のヒトIL−33蛋白質及び1100から1500RU相当のカニクイザルIL−33蛋白質を固定した。次に大腸菌の培養上清をアナライトとしてロードし、結合相1分、解離相10から30分のセンサーグラムを取得した。SPRデータ解析プログラム(Bio-Rad, ProteOn Manager v3.1.0)を用いてセンサーグラムのインタースポット補正及びブランク補正を実施し、Langmuirのoff−rate analysisによりkoffを求めた。
【0143】
相補性決定領域を改良したクローン(Fab)の中からヒトIL−33蛋白質に対する親和性が向上し、かつカニクイザルIL−33蛋白質に対する結合性を有するクローンを、実施例8以後の高次評価に進める28クローンとして決定した(表2のV1からV28)。表10に示すように、これらのクローン(Fab)は親クローン(Fab)と比べてヒト及びカニクイザルIL−33蛋白質に対する高い親和性(低いKoff値)を示した。これらのクローンの可変領域中のフレームワーク領域におけるアミノ酸置換はなかった。相補性決定領域中の同一の1アミノ酸置換であってもその親和性向上効果は1アミノ酸置換変異体の場合と複数アミノ酸置換変異体の場合で変化するため、第一段階での包括的1アミノ酸置換変異体ライブラリからの濃縮比が小さいにもかかわらず高次評価用28クローンの配列中の頻度が高いアミノ酸置換や、逆に第一段階での濃縮比が大きいにもかかわらず高次評価用28クローンの配列中の頻度が低いアミノ酸置換が存在した。
【表10】
【0144】
実施例8:IgG抗体の調製
取得したヒト抗IL−33抗体の7クローン(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02、A00−0070、A00−0036)ついて、軽鎖及び重鎖のアミノ酸配列をコードするDNAをCMVプロモータの下流に挿入することにより、IgGを発現する哺乳細胞用発現ベクターを構築した。各クローンの軽鎖のDNA配列はそれぞれ、配列表の配列番号228、232、239、241、242、230及び253を用い、重鎖のDNA配列はそれぞれ、配列表の配列番号254、261、262、264、265、276及び277を用いた。遺伝子導入試薬 NeoFection−293−1 (Astec)を使用して、上記発現ベクターをFreeStyle 293-F 細胞(Life Technologies)に導入した。遺伝子導入後5日間培養した後に培養上清を取得した。CHO細胞による安定発現株はpConPlusベクターとCHO K1SV細胞を用いたGSシステム(Lonza)にて樹立した。 CHO細胞安定発現株はWAVE Bioreactor SYSTEM 20/50 EHT(GE Healthcare社)を用いて0.3×10
6 cells/mLから培養を開始し、分泌されたIgGを含む培養液を回収した。AKTA explorer 100(GE Healthcare)を使用し、Protein A樹脂(GE Healthcare 、HiTrap MabSelect SuRe)を用いたアフィニティークロマトグラフィにより培養上清からIgGを精製した。Protein A樹脂に結合したIgGをpH3.2の溶出bufferで溶出し、すみやかに中和することでpHを中性付近にした後、PBS(pH7.2)で透析した。精製純度を高める目的でProtein Aカラム精製後のIgGをCHT(ceramic hydroxyapatiteTypeI樹脂)(BIORAD)にて精製した。CHTに結合したIgGをNaCl濃度のグラジエントで溶出し、目的のフラクションを回収後、PBS(pH7.2)で透析した。本精製法にて得た抗体を「中性精製抗体」とした。
上記精製法のProtein A樹脂からの溶出工程の前に6 Column Volumeの100mM炭酸ナトリウムbuffer(pH11.0)による6分間の洗浄操作を加えた精製法も実施した。本精製法にて得た抗体を「アルカリ精製抗体」とした。アルカリ精製抗体の各工程における回収率を表11に示した。精製後のアルカリ精製抗体はVIVASPIN Turbo15 30000MWCO(Sartoeius)にて遠心濃縮した。
【表11】
【0145】
実施例9:IL−33蛋白質に対する親和性
被験抗体(IgG)(分子形がIgGであることを意味する、以下同様に表記する)のヒトIL−33蛋白質に対する親和性はkinetic exclusion assay(KinExA)によりPBS中での解離定数(Kd)を測定することで決定した(Sapidyne, KinExA3200)。一定濃度(終濃度で数十pMから数百pM)の被験抗体に対しヒトIL−33蛋白質(ATGen, ILC0701)の濃度を広範囲(終濃度の上限を数nMから数十nMとし12段階の2倍希釈系列で2048倍の濃度範囲)にタイトレートした混合サンプルを調製し、抗原抗体反応が平衡に達するまで室温でインキュベートした。平衡到達後にKinExA3200を用いてフリーの抗IL−33抗体の存在率を測定した。KinExAデータ解析プログラム(Sapidyne, KinExA Pro Software v3.5.3)を用いて、ヒトIL−33蛋白質に結合していない抗IL−33抗体の存在率(縦軸)と抗原濃度(横軸)のプロットを理論式にフィッティングすることでKdを算出した。抗IL−33抗体キャプチャー用ビーズは50mgのAzlactone beads (Sapidyne)を1mLのコート溶液(10μg/mL ヒトIL−33蛋白質(ATGen, ILC0701)、50mM炭酸ナトリウムpH9.6)で懸濁し、室温で1時間インキュベートすることで調製した。検出用抗体はanti−human F(ab)’2−DyLight649(Jackson, 309-495-006)を使用した。表12に示すように、中性精製抗体を用いた場合、相補性決定領域を改良した抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)のヒトIL−33蛋白質に対しする親和性は最も弱いA23−1A05でKd=231pM、最も強いA25−2C02でKd=720fMであった。
【0146】
同様にしてアルカリ精製抗体のヒトIL−33蛋白質(残基112−残基270)(ATGen, ILC0701)または全長ヒトIL−33蛋白質に対する親和性をKinExAで測定した(表12)。ヒトIL−33蛋白質(残基112−残基270)に対する親和性は、A10−1C04でKd=100.3pM、A23−1A05でKd=195.3pM、A25−2C02でKd=700fM、A25−3H04でKd=7.7pM、A26−1F02でKd=5.3pMであった。全長ヒトIL−33蛋白質に対する親和性は、A10−1C04でKd=179.8pM、A26−1F02でKd=10.4pMであった。
【0147】
リガンドとして使用した組換え蛋白質は以下のように調製した。全長ヒトIL−33蛋白質は、N末端側にNusAタグ−6Hisタグ−TEV Protease切断配列を付加したものをpET30a(+)に挿入することで発現ベクターを構築し、組換え蛋白質を調製した。発現ベクターを保有するBL21(DE3)株を前培養後、50mLのLB培地にOD=0.5の密度で植菌し、37℃で4時間振とう培養した。4時間後に培養温度を13℃に変更して30分振とう培養した後、IPTGを終濃度0.1mMとなるように添加して引き続き13℃で72時間振とう培養することで、全長IL−33発現大腸菌を得た。全長IL−33発現大腸菌をBugBuster Master Mix(Novagen)にて溶菌後、遠心分離を行い上清画分を得た。回収後の上清をHisTrap FF Crudeカラム(GE Healthcare)によるIMAC精製及びCaptoQ Impressカラム(GE Healthcare)による陰イオン交換精製に供し、蛋白純度を高めた。陰イオン交換後のサンプルをVIVASPIN6(5,000MWCO)による限外ろ過により遠心濃縮した。濃縮液1750μLに対して、Turbo TEV protease(ナカライテスク)を100μL、及び1M DTTを4.5μL添加し4℃にてインキュベートすることによりNusTag及びHisTagを切断した。タグ切断後サンプル中に含まれるNusTag及びTurbo TEV protease(HisTag融合)を除去する為にNi Sepharose Excelカラム(GE Healthcare)に供し、その素通り画分を回収した。素通り画分に終濃度3.3mMとなるようにDTTを添加し、全長ヒトIL−33蛋白質としてKinExAでの測定に使用した。
【表12】
【0148】
実施例10:HUVECを用いたin vitroでのヒトIL−33の中和活性の評価
被験抗体(IgG)のin vitroでのヒトIL−33の中和活性をHUVECのIL−33依存的IL−6産生を指標として評価した。陽性対照として市販ポリクローナル抗IL−33抗体(R&D Systems, AF3625)を使用した。HUVEC(LONZA, CLC2517A)をEGM−2培地(LONZA, CLCC-3156, CLCC-4176)に懸濁し、96ウェルマイクロプレート(IWAKI)に播種し(6x10
3/ウェル)、細胞がコンフルエントになっていることを確認した。培地に抗IL−33抗体(終濃度1μg/mL(約6.7nM))及び組換えヒトIL−33(ATGen, ILC0701)(終濃度100ng/mL(約5nM))の混合溶液を添加し、37℃で24時間インキュベートした。培地を採取して、培養上清中のIL−6濃度を市販のELISAキット(Thermo Scientific, EH2IL6)を用いて測定した。また、細胞カウントキット(Dojindo, 345-06463)を用いて培地採取時の細胞の生存率を測定し、IL−6産生の抑制作用が生存細胞数の低下に起因しないことを確認した。被験抗体のIL−33中和活性はIL−33単独処理によるIL−6産生に対する阻害率(%)として算出した。中性精製抗体を用いた場合、A10−1C04が67%阻害、A23−1A05が74%阻害、A25−2C02が96%阻害、A25−3H04が97%阻害、A26−1F02が96%阻害と強い中和活性を示したのに対し、親クローンであるA00−0070が4%阻害、A00−0036が−2%と非常に弱い中和活性にとどまった。10μg/mLに濃度を上げることで、A00−0070が42%阻害、A00−0036が38%阻害と中程度の中和活性を示した。一方、市販ポリクローナル抗体(R&D Systems, AF3625)は終濃度1μg/mLで添加した場合で30%阻害と中程度の中和活性を示した。
同様にHUVECにアルカリ精製被験抗体(終濃度0.1〜10μg/mL(約0.67〜67nM))及び組換えヒトIL−33(ATGen, ILC0701)(終濃度100ng/mL(約5nM))の混合溶液を添加し、抗体の中和活性をIL−33単独処理によるIL−6産生に対する阻害効果(IC
50値)で算出した。A10−1C04がIC
50=0.35μg/mL、A23−1A05がIC
50=0.27μg/mL、A25−2C02がIC
50=0.19μg/mL、A25−3H04がIC
50=0.21μg/mL、A26−1F02がIC
50=0.23μg/mLであった。
また、HUVECにアルカリ精製被験抗体(終濃度0.1〜3μg/mL)及び組換えカニクイザルIL−33(実施例7記載の方法で調製したものをビオチン化せずに使用)(終濃度100ng/mL)の混合溶液を添加し、抗体の中和活性をIL−33単独処理によるIL−6産生に対する阻害効果(IC
50値)で算出した。A10−1C04のIC
50は0.43μg/mLであり、A10−1C04はヒトIL−33とカニクイザルIL−33を同様の強さで中和すること確認した。
【0149】
実施例11:KU−812細胞を用いたin vitroでのヒトIL−33の中和活性の評価
被験抗体(IgG)のin vitroでのヒトIL−33の中和活性をKU−812細胞のIL−33依存的なIL−5、IL−6、IL−13の産生を指標として評価した。陽性対照として市販ポリクローナル抗IL−33抗体(R&D Systems, AF3625)を使用した。ヒト好塩基球細胞株、KU−812細胞(ECACC, EC90071807)を96ウェルマイクロプレート(Falcon)に播種した(1x10
4/ウェル)。続いて、被験抗体(終濃度3μg/mL(約20nM))と組換えヒトIL−33(ATGen、ILC0701)(終濃度100ng/mL(約5nM))の混合溶液を添加し、37℃、24時間インキュベートした。10%FBSを含むRPMI−1640培地中のIL−5、IL−6、IL−13の濃度をBDTM Cytometric Bead Array (BD Biosciences)のHuman IL−5 Flex set、 Human IL−6 Flex set及びHuman IL−13 Flex setを用いて測定した。また、細胞カウントキット(Dojindo, 345-06463)を用いて培地採取時の細胞の生存率を測定し、IL−5、IL−6、IL−13の産生の抑制作用が生存細胞数の低下に起因しないことを確認した。中性精製抗体を用いた場合、この評価系においてA26−1F02はIL−5、IL−6、IL−13の産生をそれぞれ70%、82%、72%阻害し、いずれのサイトカイン産生に対しても市販ポリクローナル抗体(それぞれ、47%、51%、41%阻害)よりも強い中和活性を示した。
【0150】
同様にKU−812細胞にアルカリ精製被験抗体(終濃度100〜0.01μg/mL(約667〜0.067nM))と組換えヒトIL−33(ATGen, ILC0701)(終濃度3ng/mL(約0.15nM))、ヒトIL−3(PeproTech, 200-03, 終濃度10ng/mL(約0.67nM)、ヒト補体C5a(Sigma-Aldrich, C5788)(終濃度1nM)の混合溶液を添加し、37℃、24時間インキュベートした。10%FBSを含むRPMI−1640培地中のIL−5、IL−13の濃度を測定した。また、細胞カウントキットを用いて培地採取時の細胞の生存率を測定し、IL−5、IL−13の産生の抑制作用が生存細胞数の低下に起因しないことを確認した。この評価系においてアルカリ精製被験抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)は、IL−5及びIL−13産生に対し終濃度1μg/mLで50%以上の阻害効果を示した。
【0151】
実施例12:ヒト末梢血単核球を用いたin vitroでのヒトIL−33の中和活性の評価
被験抗体(IgG)のin vitroでのヒトIL−33の中和活性をヒト末梢血単核球(PBMC)のIL−33依存的なIFN−γ産生を指標として評価した。陽性対照として市販ポリクローナル抗IL−33抗体(R&D Systems, AF3625)を使用した。PBMCを調製し、96ウェルマイクロプレートに播種し(2x10
5/ウェル)、組換えヒトIL−12(和光純薬工業)(終濃度 10ng/mL) を加えた。被験抗体と組換えヒトIL−33蛋白質(10ng/mL)の混合物を添加し、37℃、48時間インキュベートした。その後、培養上清を採取して、培地中のIFN−γ産生量をAlfaLISA TM human IFN−γimmunoassay kit(PerkinElmer)を用いて測定し、IL−33の中和活性を評価した。この評価系において、アルカリ精製抗体を終濃度10μg/mLで作用させた場合の阻害率は、A10−1C04で96.9%阻害、A23−1A05で97.5%阻害、A25−2C02で98.75%阻害、A25−3H04で97.9%阻害、A26−1F02で98.25%阻害であった。
【0152】
実施例13:ヒトIL−33の腹腔内投与によって誘導される炎症に対する作用の評価
ヒトIL−33をマウスに腹腔内投与することによって、様々な炎症性変化が誘導された。すなわち、血中のIgE、IgA、IL−5の増加、好中球、好酸球、好塩基球の増加、脾細胞の増加(脾臓重量の増加)、及び各種粘膜臓器の病理変化が生じた。これらの変化を指標にして、被験抗体(IgG)のin vivoでの抗炎症作用を評価した。
【0153】
雄性C57BL6(6〜8週齢)(日本チャールス・リバー)に対して、ヒトIL−33蛋白質(R&D Systems, 3625-IL-010)を0.4μg/個体、7日間(Day0−Day6)腹腔内投与を行った。さらに、被験抗体(IgG)を7日間(Day0−Day6)腹腔内投与した。投与開始から7日後(Day7)、ヒトIL−33蛋白質の代わりにPBS(図中では「vehicle」と表記している)を投与した群の脾臓重量が平均76±4mgであったのに対し、IL−33蛋白質投与群の脾臓重量が平均90±7mgであった。また、IL−33蛋白質投与に加えてヒトcontrol IgG(MP Biomedicals, 55908)を10mg/kg(図中では「mpk」と表記している)で腹腔内投与した群の脾臓重量が平均93±4mgであったのに対し、IL−33蛋白質投与に加えて中性精製抗体であるA26−1F02を10mg/kgで腹腔内投与した群の脾臓重量が平均66±3mgであった。
【0154】
次にアルカリ精製抗体を、ヒトIL−33蛋白質投与前日(Day−1)に1回だけ皮下投与(sc, one shot)して評価した。投与開始から7日後(Day7)、ヒトIL−33蛋白質の代わりにPBSを投与した群の脾臓重量が平均70mgであったのに対し、IL−33蛋白質投与に加えて前記ヒトcontrol IgGを皮下投与(10mg/kg)した群の脾臓重量が平均152mgであった。これに対し、
図8に示すように、IL−33蛋白質投与に加えてA25−3H04を皮下投与(1、3、5、10mg/kg)した群の脾臓重量がそれぞれ143、106、109、78mgであり、A25−3H04は炎症による脾臓重量の増加を濃度依存的に抑制した。これら脾臓重量に対する抗炎症作用と同様に、ヒトIL−33投与により増加する血清中IgA濃度、血清中IgE濃度、血中の好中球数、好塩基球数、好酸球数、血清中IL−5濃度もA25−3H04により抑制されることが確認された(
図8)。以上の結果から、IL−33で誘導されるin vivoの炎症反応に対してA25−3H04が抑制作用を示すことが確認された。また、投与開始から7日後(Day7)におけるA25−3H04のマウス血中濃度を測定したところ、1、3、5、10mg/kg投与それぞれに対して0.6、3.7、6.5、20.3μg/mlであった。
【0155】
その他の被験抗体(IgG)のin vivoでの抗炎症作用も皮下投与(10mg/kg)で同様のプロトコルにて評価した。その結果、
図9に示すように、ヒトcontrol IgGを皮下投与した群の脾臓重量が平均181mgであったのに対し、IL−33蛋白質投与に加えて各アルカリ精製抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A26−1F02)を皮下投与した群の脾臓重量がそれぞれ82mg、92mg、100mg、77mgであり、炎症による脾臓重量の増加を抑制していた。これら脾臓重量に対する抗炎症作用と同様に、ヒトIL−33蛋白質投与により増加する血清中IgA濃度、血清中IgE濃度、血中の好中球数、好塩基球数、好酸球数もアルカリ精製抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A26−1F02)が抑制することを確認した(
図9)。以上の結果から、IL−33で誘導されるin vivoの炎症反応に対してA25−3H04と同様に、その他の被験抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A26−1F02)も抗炎症作用を示すことが確認された。
【0156】
実施例14:ヒトIL−33気管内投与によって誘導される肺障害に対する作用の評価
マウスに対して、ヒトIL−33蛋白質を気管内投与し、その後に気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取すると、BALF中総細胞数や好酸球数、好中球数が増加し、気管上皮粘液増生も見られる。また、BALF中のIL−4、5、6、13といったサイトカインも産生する。この系に、被験抗体(IgG)を腹腔内、皮下もしくは静脈内投与することによってその肺障害に対する被験抗体の作用を評価することができる。
【0157】
実施例15:ヒトIL−33鼻内投与によって誘導される気道過敏に対する作用の評価
IL−33蛋白質をマウスに鼻内投与すると、その後に吸入メタコリンに対する気道過敏が生じる。この評価系に、被験抗体(IgG)を腹腔内、皮下もしくは静脈内投与することによって気道過敏に対する被験抗体の作用を評価することができる。
【0158】
実施例16:ヒトIL−33ノックインマウスを用いたIL−33に対する作用の評価
ヒトIL−33ノックインマウスに、ダニ抗原またはpapainを点鼻または気管内投与すると、気道炎症が誘発され、このマウスからBALFを回収するとBALF中の総細胞数が増加する。ダニ抗原またはpapainによる気道炎症は、ダニ抗原またはpapainのプロテアーゼ活性により気道上皮細胞からIL−33が放出されることが引き起こされることが知られている(Oboki et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2010, vol. 107, p18581)。この評価系に、被験抗体(IgG)を腹腔内、皮下もしくは静脈内投与することによって、プロテアーゼによる気道炎症に対する被験抗体の作用、及びin vivoで誘導されたIL−33に対する被験抗体の作用を評価することができる。
【0159】
実施例17:LPS腹腔内投与敗血症モデルにおける炎症に対する作用の評価
ヒトIL−33ノックインマウスにLPSを腹腔内投与することにより敗血症が誘発されるが(Oboki et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2010, vol. 107, p18581)、LPS投与前に被験抗体(IgG)を腹腔内、皮下もしくは静脈内投与しておき、その後の死亡率に対する被験抗体の作用を評価することができる。また、LPS投与数時間以内にIL−6やTNF−αといった炎症性サイトカインが血中に高濃度で検出されるが、これらの濃度を測定することにより、被験抗体の抗炎症作用を評価することができる。
【0160】
実施例18:担癌マウスを用いたin vivoにおける癌に対する作用の評価
マウスに対して、マウス癌細胞株やヒト癌細胞株を各癌細胞株に応じて適切な細胞数で同所、皮下または静脈内に移入してヒトIL−33を投与する。このマウスに被験抗体(IgG)を腹腔内、皮下もしくは静脈内投与し、癌細胞株を移入後に、原発巣の癌部位や転移巣である臓器における癌細胞数を体積や細胞数にて評価すると、被験抗体の癌に対する作用を評価することができる。
【0161】
実施例19:抗体のコロイド安定性の評価
被験抗体(IgG)のコロイド安定性を動的光散乱による凝集物の有無で評価した。各アルカリ精製抗体をVIVASPINまたはVIVASPIN TURBO(sartorius、10000から50000 MWCO)にて50mg/mL付近まで濃縮した。遠心は4℃にて行い、回転数、時間に関してはそれぞれ適宜変更した。被験抗体溶液を順次希釈しながら200から250μLのサンプルを用いて動的光散乱(日機装, Nanotrac UPA UT-151)を測定し、濃度範囲にして1mg/mL付近から50mg/mL付近におけるデータを取得した。抗体蛋白質の粒子径の分布を200秒間の積算データから算出し、凝集物の有無を評価した。被験抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)は粒子径分布における10nm付近のピークが抗体濃度の増加に伴って高粒子径側へのシフトする度合が非常に軽微であり、また抗体濃度に依存しない不可逆的な凝集物に由来すると考えられる粒子径数十nm以上のピークは存在しなかった。以上の結果により被験抗体の良好なコロイド安定性を確認した。
【0162】
コロイド安定性を定量的に評価するため、相互作用パラメータ(k
D)の算出を行った。拡散係数(粒子径と反比例)の濃度依存性を表す相互作用パラメータは、抗体などの蛋白質高濃度製剤の処方設計にも利用される重要な指標である。相互作用パラメータの値は−12.4 mL/gより高い値であれば斥力的な相互作用でコロイド安定性に優れ、自己会合性が低いものであると報告されている(Saito et al., Pharm.Res., 2013.Vol.30 p1263)。PBS (pH 7.2)に溶解した被検抗体溶液を限外ろ過膜で数10mg/mLになるように濃縮し、同溶媒で順次2倍希釈したサンプルの粒子径測定を動的光散乱測定装置(Nanotrac UPA UT151 日機装)を用いて行った。得られた粒子径から拡散係数を以下のStokes-Einsteinの式で算出した。
【数1】
上式中、Dは拡散係数(cm
2/sec)、K
Bはボルツマン定数(J/K)、Tは熱力学温度(K)、πは円周率、ηは希釈液粘度P(poise)、dは粒子径(nm)である。拡散係数の濃度依存性をプロットし、以下の計算式でフィッティングすることで相互作用パラメータを求めた。
【数2】
DはStokes-Einsteinの式で得られた拡散係数で、D
0は無限希釈時の拡散係数、cは測定時の被験抗体の濃度(g/mL)である。この式からフィッティング直線の傾きである相互作用パラメータ(k
D)を算出した。その結果A10−1C04がk
D=−8.1mL/g(解析範囲は0.41−63.7mg/mL)、A23−1A05がk
D =−5.6mL/g(解析範囲は0.40−61.8mg/mL)、A25−2C02がk
D =−6.2mL/g(解析範囲は0.43−66.3mg/mL)、A25−3H04がk
D =−7.5mL/g(解析範囲は0.34−56.5mg/mL)、A26−1F02がk
D =−6.7mL/g(解析範囲は0.35−62.7mg/mL)であり、いずれの抗体の相互作用パラメータも−12.4mL/gよりも高く、コロイド安定性に優れていた。
【0163】
実施例20:抗体の熱力学的安定性の評価
被験抗体(IgG)の熱力学的安定性を免疫グロブリンドメインのフォールディングが崩壊する温度(Tm)で評価した。数10μg/mLの被験抗体溶液にProtein Thermal Shift Dye(Life Technologies)を添付文書に従って添加し、リアルタイムPCR 7500 Fast(Life Technologies)で約1℃/minで温度を上昇させながら蛍光強度を測定した。得られたデータをProtein Thermal Shift (Life Technologies)で解析することでTmを決定した。なお、複数のTmが認められた場合、温度が低い方からTm1、Tm2とした。その結果、中性精製抗体を用いた場合、A10−1C04がTm=73.9℃、A23−1A05がTm1=69.3℃、Tm2=77.6℃、A25−2C02がTm1=69.3℃、Tm2=80.3℃、A25−3H04がTm1=70.0℃、Tm2=76.4℃、A26−1F02がTm=74.5℃であった。またアルカリ精製抗体を用いた場合、A10−1C04がTm=73.7℃、A23−1A05がTm1=69.5℃、Tm2=77.5℃、A25−2C02がTm1=69.5℃、Tm2=80.4℃、A25−3H04がTm1=70.1℃、Tm2=76.4℃、A26−1F02がTm=74.4℃であった。いずれの抗体のTmも65℃以上であり、良好な熱力学的安定性を示した。
実施例21:抗体の保存安定性の評価
被験抗体(IgG)の保存安定性を評価するため、各アルカリ精製抗体を約10 mg/mLの濃度でクエン酸バッファー(50 mM クエン酸、 150 mM NaCl(pH 6.3))に溶解して、40℃で4週間保存した。保存後の抗体モノマー純度評価のため、ゲル濾過分析(SEC)及びマイクロチップキャピラリーSDS電気泳動(mCE−SDS)によるモノマー純度の測定、並びに表面プラズモン共鳴を用いた抗原結合活性測定を実施した。
【0164】
TSKgel G3000SWXL(東ソー)を2連結したカラムをHPLC装置(Beckman System Gold, 126 solvent manager, 166 detector, 508 auto sampler)に装着し、ゲルろ過分析を行った。移動相溶媒として0.1 M硫酸ナトリウムを含む0.1 Mリン酸緩衝液(pH 6.7)を用いて、0.5 mL/minの流量で分離し、検出はUV 215 nmで行った。約10 mg/mLの抗体保存溶液を100倍に希釈して分析用サンプルとし、その50μLをインジェクトした。ゲル濾過分析で得られたモノマー純度を表13に示した。いずれの被検抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)も40℃4週間保存後において、90%以上のモノマー純度を保持しており、良好な保存安定性を示した。
【0165】
Lab Chip GX II (PerkinElmer)を用いてキャピラリーSDS電気泳動を行った。同装置専用の試薬キットHT Protein Express Reagent (PerkinElmer)を用いて、メーカーの標準プロトコルに沿って変性条件下で還元を実施した。分析用サンプルとして約10mg/mLの抗体保存溶液を2μL添加した。泳動に使用する試薬を上述のキットより専用のチップHT Protein Express Lab Chip, version 2 (PerkinElmer)に添加し、抗体分析用の内臓プロトコルHT Antibody 200で測定を行った。表13に示すように、変性・還元条件においても、いずれの被検抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)も40℃4週間保存後において、90%以上のモノマー純度を保持しており、良好な保存安定性を示した。
【0166】
保存後の抗体濃度に依存しない不可逆的な凝集体形成の有無を調べるため、粒子径測定を実施した。抗体保存溶液をクエン酸バッファー(50 mM クエン酸、 150 mM NaCl(pH 6.3))で10倍希釈(終濃度:約1 mg/mL)した分析用サンプルについて、動的光散乱法(日機装, Nanotrac UPA UT-151)により粒子径測定を行った。積算時間は200秒で測定した。いずれの被検抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02、A00−0070、A00−0036)も40℃4週間保存後において凝集体は検出されず、保存安定性に優れた抗体を取得することが出来た。
【0167】
保存後の抗原結合能の有無を調べるため、表面プラズモン共鳴装置Biacore T200(GE Healthcare)を用いた抗原結合活性測定を行った。アミンカップリングキット(GE Healthcare)を用いてヒトIL−33蛋白質(ATGen, ILC0701)をSensor Chip CM5(GE Healthcare)に固定化した(固定化量約3000から6000RU)。次に、抗体保存溶液をクエン酸バッファー(50mM クエン酸、150mM NaCl(pH 6.3))で10倍希釈し、微量分光光度計Astragene II(Astranet)を用いて溶液中の総蛋白質濃度を測定した(蛋白質濃度:約1mg/mL)。総蛋白質濃度を測定した抗体溶液をHBS−EPバッファー(10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%(v/v)Surfactant P20(pH7.4))を用いて1000倍希釈し、アナライト溶液とした。測定は25℃にて行った。各種アナライト溶液を36秒間添加し、結合相のセンサーグラムを得た。流速は5μL/min、100 μL/minにて行い、2種類の流速で得られたセンサーグラムについてデータ解析プログラム(GE Healthcare, Biacore T200 Evaluation Software v1.0)を用いたCalibration Free Concentration Analysisにより、抗原結合活性を有する抗体の濃度を求めた。対照として、4℃で4週間保存した各種被験抗体の抗原結合活性を同様に測定し、40℃4週間保存した被検抗体の抗原結合活性の割合を算出した。表13に示すように、いずれの被検抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)も40℃4週間保存後において、90%以上の抗原結合活性を保持しており、良好な保存安定性を示した。
【表13】
実施例22:抗体の強制酸化による安定性の評価
被検抗体(IgG)の酸化による抗原結合活性の影響を調べた。終濃度約1mg/mLの各種アルカリ精製抗体に過酸化水素水(終濃度1%)を添加し、37℃にて24時間酸化させた。その後、80 mM メチオニン溶液を添加し酸化を終了させた。次に、被験抗体溶液を脱塩カラムZebaspin(Thermo Scientific)を用いてPBSに置換した。酸化処理を施した被検抗体の抗原結合活性を前記実施例21と同様に表面プラズモン共鳴装置Biacore T200(GE Healthcare)を用いて調べた。酸化未処理の各種被験抗体の抗原結合活性に対する酸化処理後の抗原結合活性の割合を算出したところ、A10−1C04が83%、A23−1A05が95%、A25−2C02が100.5%、A25−3H04が98.7%、A26−1F02が89.5%の結合活性を保持していた.これらの結果より、いずれの被検抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)も1%過酸化水素水処理による強制酸化において80%以上の抗原結合活性を保持する安定性を示した。
【0168】
実施例23:物理的ストレス(撹拌)による凝集体形成の評価
被験抗体(IgG)をPBSで0.2mg/mLに希釈し、Aggregates Sizer(島津製作所)に装着した回分セル(Batch cell)中で撹拌することで物理的ストレスを加えた。室温で撹拌子を30分間上下運動(190回/分)させた後、Aggregates Sizer で40nmから20μmの凝集体濃度を測定した。アルカリ精製抗体を用いた場合、撹拌により生じた凝集体濃度は、A10−1C04が17.2μg/mL、A23−1A05が16.4μg/mL、A25−2C02が13.3μg/mL、A25−3H04が23.4μg/mL、A26−1F02が17.0μg/mLであり、いずれの抗体も物理的ストレスで誘導される凝集体形成が15%以下であり、いずれの被検抗体も物理的ストレスに対して安定であった。
【0169】
実施例24:抗体のマウス血中濃度推移の評価
雄性C57BL6マウス(8〜10週齢)(日本チャールス・リバー)に蛍光標識した被験抗体(IgG)をマウスに静脈内投与(3mg/kg)した後、血漿中の蛍光を検出することにより、被験抗体の濃度を測定した。
図10に示すように、アルカリ精製抗体を用いた場合、いずれの被検抗体(A10−1C04、A23−1A05、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)も消失半減期が100時間以上であり、良好な血中安定性を示した。
【0170】
実施例25:サル血中濃度推移の評価
雄性カニクイザル(2〜3歳)(ハムリー)に被験抗体(IgG)を静脈内投与(1mg/kg)した後、Human Therapeutic IgG1 EIA Kit(Cayman Chemical、500910)を用いて、血清中の被検抗体の濃度を測定した。アルカリ精製抗体A10−1C04を2匹のカニクイザル(No.201、202)に投与し、アルカリ精製抗A23−1A05を1匹のカニクイザル(No.301)に投与した。
図11に示すように、A10−1C04の消失半減期は16.56日(No.201)及び11.40日(No.202)であり、クリアランス値は3.598mL/day/kg(No.201)及び5.451mL/day/kg(No.202)であった。またA23−1A05の消失半減期は10.87日であり、クリアランス値は10.07mL/day/kgであった。いずれの被検抗体もカニクイザルにおいて良好な血中安定性を示した。
【0171】
実施例26:抗体の免疫原性評価
被験抗体(IgG)の免疫原性を評価するためにin vitro T細胞アッセイを行った(Lonza)。標的となる人口集団の代表を示すため、提供者数は50名とし、提供者から採取したヒト末梢血由来の樹状細胞に50μg/mLの各種アルカリ精製抗体を添加し、樹状細胞に取り込ませた。一方、同一の提供者から採取したヒト末梢血由来のCD4陽性T細胞を単離した。その後に両者、すなわち被験抗体を取り込ませた樹状細胞をCD4陽性T細胞とともに共培養し、CD4陽性T細胞の反応(増殖)を測定した。陰性対照として、被験抗体を含まないバッファー(PBS)で同様に実施して得られるCD4陽性T細胞の反応と比較することにより、抗体をヒトに投与した際の免疫原性リスクを評価した。その結果、いずれの被験抗体(A10−1C04、A25−2C02、A25−3H04、A26−1F02)も陰性対照との間にT細胞の反応について差は認められなかった。
【0172】
実施例27:ヒト組織交差反応性の評価
被験抗体(IgG)の、ヒト組織(1ドナー、FDAおよびEMAのガイドラインを満たす35組織の凍結切片)への交差反応性を免疫組織化学染色法により評価した(Covance Laboratories Ltd.)。35組織には副腎、膀胱、血液細胞、骨髄、乳腺、小脳、大脳皮質、結腸、内皮細胞(血管)、眼球、卵管、胃腸管(平滑筋含む)、心臓、腎臓(糸球体、尿細管)、肝臓、肺、リンパ節、卵巣、膵臓、上皮小体、耳下腺、末梢神経、下垂体、胎盤、前立腺、皮膚、脊髄、脾臓、横紋筋、精巣、胸腺、甲状腺、扁桃、尿管、子宮(頚部、内膜)が含まれる。その結果、アルカリ精製抗体を用いた場合、いずれの被検抗体(A10−1C04、A23−1A05、A26−1F02、A25−2C02)とも、IL−33の発現が広く知られている血管内皮細胞(陽性対照)において強い染色性が確認された。また、上皮・間質細胞・神経組織・筋組織・血球等の様々な組織において、細胞質あるいは核への交差性が確認されたが、いずれの組織においても細胞膜への交差反応性はみられなかった。ICH S6(R1)ガイドラインおよびその他の論文(Toxicologic Pathology 2010, 38(7):1138-1166)によれば、in vivoで抗体が到達する可能性の低い細胞質や核への交差反応性は毒性学的意義が低いと考えられている。従って、いずれの被験抗体(A10−1C04、A23−1A05、A26−1F02、A25−2C02)も毒性懸念は見出されなかった。
【0173】
実施例28:A10−1C04およびA25−3H04のエピトープ領域の絞り込み
抗IL−33モノクローナル抗体A10−1C04およびA25−3H04は前記実施例1に記載したPEP14エピトープに結合した。20アミノ酸残基からなるPEP14に含まれる、より短い連続するアミノ酸配列について、このようなアミノ酸配列を提示するファージディスプレイライブラリを用いた実験により、2種類のエピトープ(LEDESYEIYV(配列表の配列番号426)及びEDESYEIYV(配列表の配列番号427))を見出した。ペプチドLEDESYEIYVは配列表の配列番号226に示すヒトIL−33の残基138から残基147に相当し、ペプチドEDESYEIYVは配列表の配列番号226に示すヒトIL−33の残基139から残基147に相当する。これらのペプチドを合成し、実施例9と同様のKinExA実験によりアルカリ精製抗体との親和性をK
dとして算出した(表14)。
【表14】