(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にした片側断面図である。
図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という(
図2及び
図3においても同じ)。スパークプラグ10は、絶縁体11、中心電極15及び端子金具16を備えている。
【0016】
絶縁体11は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等により形成された部材であり、軸線Oに沿って軸孔が貫通することにより内周面13が形成されている。内周面13は、後端側を向く後端向き面14が先端側に設けられている。後端向き面14は、先端に向かって内径が次第に小さくなる。
【0017】
中心電極15は、軸線Oに沿って延びる棒状の部材であり、銅または銅を主成分とする芯材がニッケル又はニッケル基合金で覆われている。中心電極15は、内周面13の後端向き面14に係止され、先端が絶縁体11の軸孔から露出する。
【0018】
端子金具16は、高圧ケーブル(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具16は、先端側が絶縁体11の軸孔に挿入された状態で、絶縁体11の後端に固定されている。
【0019】
絶縁体11は外周に主体金具17が固定されている。主体金具17は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具17は、絶縁体11の先端側の外周を取り囲む胴部18と、胴部18の後端側に連接されると共に胴部18の径方向の外側へ鍔状に張り出す座部20と、を備えている。胴部18の外周面におねじ19が形成されている。主体金具17は、内燃機関(シリンダヘッド)のねじ穴(図示せず)におねじ19を締結して固定される。
【0020】
接地電極21は、主体金具17の先端に接合される金属製(例えばニッケル基合金製)の部材である。本実施の形態では、接地電極21は棒状に形成されており、先端側が屈曲し中心電極15と対向する。接地電極21は、中心電極15との間に火花ギャップを形成する。
【0021】
接続部30は、中心電極15と端子金具16とを電気的に接続する部位であり、軸孔に配置されている。接続部30は、磁性体34と導体35と(後述する)を含む複合部33と、中心電極15と複合部33とに接触する第1シール部31と、複合部33と端子金具16とに接触する第2シール部32と、を備えている。
【0022】
第1シール部31及び第2シール部32は、例えばB
2O
3−SiO
2系、BaO−B
2O
3系、SiO
2−B
2O
3−CaO−BaO系などのガラス粒子と金属粒子(Cu,Fe等)とを含む組成物で形成されており、導電性を有している。複合部33は放電時に生じる電波ノイズを抑制するための部位である。
【0023】
図2は接続部30の軸線O(
図1参照)を含む断面図である。
図2では、絶縁体11の外周に配置された主体金具17の図示が省略されている。接続部30は、第1シール部31、複合部33及び第2シール部32が直列に接続されている。複合部33は、Fe含有酸化物からなる棒状の磁性体34と、磁性体34の外周に螺旋状に配置された導体35と、磁性体34、導体35及び絶縁体11の内周面13に接触し磁性体34及び導体35と内周面13との間に配置される中間部材41と、を備えている。導体35の軸線O方向(
図2上下方向)の下端に連接される端末38は第1シール部31に接触し、導体35の上端に連接される端末39は第2シール部32に接触している。
【0024】
磁性体34は、酸化鉄を含有する部材であり、本実施の形態では円柱状に形成されている。磁性体34は酸化鉄を主成分とするスピネル型、ガーネット型等のフェライトが好適に用いられる。磁性体34は、例えば、加圧成形や射出成形、押出成形など公知の方法で成形し、焼成して得られる。磁性体34は、自身のインピーダンスや磁気損失によって、放電時に第1シール部31と第2シール部32との間を流れる電流のうち電波ノイズの原因となる周波数帯を遮断または吸収する。
【0025】
フェライトは、例えばMn
XFe
2−XO
4,Ni
XFe
2−XO
4,Cu
XFe
2−XO
4,Zn
XFe
2−XO
4,Co
XFe
2−XO
4,Fe
XFe
2−XO
4,Ca
XFe
2−XO
4,Mg
XFe
2−XO
4,Y
3Fe
5O
12,Dy
3Fe
5O
12,Lu
3Fe
5O
12,Yb
3Fe
5O
12,Tm
3Fe
5O
12,Er
3Fe
5O
12,Ho
3Fe
5O
12,Tb
3Fe
5O
12,Gd
3Fe
5O
12,Sm
3Fe
5O
12等の単元フェライト、これらの単元フェライトが任意の割合で互いに固溶した(Mn
1−XZn
X)Fe
2O
4,(Ni
1−XZn
X)Fe
2O
4等の複合フェライトが挙げられる。これらのフェライトのうち1種ないしは複数種を適宜選択して用いることができる。
【0026】
導体35は、螺旋状に形成された基材36と、基材36の外周に配置された導電層37と、を備えている。導電層37は基材36よりも導電性が高く、導電層37の厚さTは0.1μmよりも厚く25μm以下である。導電層37の断線を防ぎつつ導電層37の電流密度が低くならないようにするためである。
【0027】
基材36は、高温下の機械的特性を確保できる部材であって、導電層37よりも導電性の低い絶縁性や半導性の部材を適宜採用できる。基材36の材質としては、例えば、酸化物や炭化物などのセラミックスや結晶化ガラス等の無機固体材料が挙げられる。また、金属製の母材の表面を絶縁性や半導性の皮膜で覆った複合構造の部材を基材36にすることもできる。
【0028】
導電層37は、酸化物導電体、カーボン、炭素化合物、金属など、基材36よりも導電性の高い部材を適宜採用できる。螺旋状の基材36の表面に導電層37が配置され、導電層37が基材36の線長方向に連続することにより、コイルが形成される。これにより、複合部33のインピーダンスを確保し放電電流を制限できる。導電層37は、蒸着、めっき等の公知の手段によって基材36の表面に形成される。
【0029】
導電層37の厚さTは、
図2に示すように、軸線Oを含む断面上に現出する基材36の外周に設けられた導電層37のうち最も厚い部分の断面の寸法である。導電層37の厚さTは0.5〜25μmが好ましい。耐久性を確保しつつノイズ減衰特性を向上させるためである。
【0030】
導体35を構成する基材36の直径(線径)は0.1〜1mm、コイルの外径は1〜3mm、コイルの線間すき間は0.3〜1mm、コイルの軸線O方向の長さは7〜30mmが好適である。基材36の直径を0.1〜1mmとすることにより基材36を破断し難くできると共に、コイルの線間すき間を確保して寄生容量を小さくできる。コイルの外径を1〜3mmとすることにより、コイルを加工し易くできると共に軸孔の内部に配置し易くできる。コイルの線間すき間を0.3〜1mmとすることにより、コイルのインピーダンスを確保できると共に寄生容量を小さくできる。コイルの長さを7〜30mmとすることにより、コイルのインピーダンスを確保できると共に軸孔の内部に配置し易くできる。
【0031】
導電層37を構成する酸化物導電体は、Mn,Co,Ni,Fe,Cr,In,Sn,Ir等の金属の導電性や半導性を有する酸化物、これら酸化物の2種以上が組み合わされたペロブスカイト型やスピネル型などの複合酸化物などが挙げられる。導電層37を構成する炭素化合物は、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B
4C)、炭化アルミニウム(Al
4C
3)、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(Cr
3C
2)、炭化モリブデン(Mo
2C)、炭化タングステン(W
2C,WC)、窒化炭素(C
3N
4)、窒化炭素ホウ素(BCN)などの導電性や半導性を有する無機化合物が挙げられる。
【0032】
特に、導電層37がNi又はNi基合金で形成されると、導電層37の耐熱性を確保しつつ耐食性を高くできる。その結果、導電層37の消耗による寿命の低下を抑制できる。また、導電層37に含まれるNiによって導電層37の透磁率が高められるので、ノイズ減衰効果を向上できる。
【0033】
導体35のうち螺旋状のコイルの端末38,39は輪状に巻かれている。端末38,39は、コイルの外径および磁性体34の直径よりも外径が小さく設定されており、磁性体34の軸線O方向の端面にそれぞれ配置されている。
【0034】
基材36が無機固体材料で形成される場合に、基材36は、ケイ素(Si)、ホウ素(B)及びリン(P)のうちの少なくとも1種を含むと好ましい。基材36の軟化点を低下できるので、基材36の緻密性を向上できる。その結果、基材36の耐衝撃性を向上させることができ、振動による基材36の破断、即ち導体35の断線を生じ難くできる。
【0035】
基材36は、導電材料を5〜30vol%含有すると好ましい。導電材料としては、酸化物導電体、カーボン、炭素化合物、金属などのうち1種ないしは複数種を適宜選択できる。導電層37を電流が流れて磁界が変化すると、基材36に含まれる導電材料に渦電流が流れ、ノイズのエネルギーを消費できる。その結果、ノイズ減衰効果をさらに向上できる。
【0036】
導電層37は、導電層37の表面の少なくとも一部が、Fe含有酸化物を含有する磁性層40で覆われている。導電層37を覆う磁性層40の磁気損失によってノイズのエネルギーを消費できるので、ノイズ減衰効果を向上できる。磁性層40の材質は、磁性体34と同様のFe含有酸化物が用いられるので、ここでは説明を省略する。なお、磁性層40が含有するFe含有酸化物は、フェライトが好適である。磁性層40が含有するフェライトは、磁性体34のフェライトと同じ種類のものや異なる種類のものを適宜選択できる。磁性層40は、Fe含有酸化物を分散した原料ペーストの塗布、めっき等により、導電層37の表面に形成される。
【0037】
中間部材41は、導体35と絶縁体11の内周面13との間に介在して導体35の衝撃を抑制すると共に、導体35を磁性体34の外周に固定するための部材である。中間部材41は、高温下の強度を確保できる材質であって、導電層37よりも導電性が低い任意の材質を採用できる。導電層37を流れる電流の短絡を防ぐためである。
【0038】
中間部材41は、例えばSiO
2,Al
2O
3等のセラミックスが用いられる。また、Li
2O−Al
2O
3−SiO
2系などのガラスや結晶化ガラスを中間部材41に用いることも可能である。中間部材41は、導体35が一体化した磁性体34を中心とするインサート成形、導体35が一体化した磁性体34への中間部材41の原料ペーストの塗布など公知の方法で成形し、焼成して得られる。
【0039】
中間部材41は、Si,B及びPのうちの少なくとも1種を含むと好ましい。これにより中間部材41の軟化点を低下させ、中間部材41をガラス化できるので、中間部材41を緻密化できる。その結果、中間部材41は導体35を強固に固定することができ、耐衝撃性を確保し、振動による導体35の断線を生じ難くできる。
【0040】
中間部材41は、Fe含有酸化物を含有するのが好ましい。磁性体34や磁性層40によるノイズ減衰効果に加え、中間部材41が含有するFe含有酸化物によるノイズ減衰効果が得られるからである。中間部材41のFe含有酸化物は、磁性体34と同様のFe含有酸化物が用いられるので、ここでは説明を省略する。中間部材41が含有するFe含有酸化物としては、フェライトが好適に用いられる。中間部材41のフェライトは、磁性体34のフェライトと同じ種類のものや異なる種類のものを適宜選択できる。
【0041】
スパークプラグ10は、例えば、以下のような方法によって製造される。まず、押出成形によって磁性体34の成形体を得た後、押出成形によって得た基材36の成形体を磁性体34の成形体に螺旋状に巻き付ける。これらを焼成して、磁性体34の外周に基材36が螺旋状に配置された部材を得る。次いで、この部材の基材36の表面に、めっきによって導電層37を形成した後、導電層37の表面に、めっきによって磁性層40を形成する。次に、導体35及び磁性体34の表面に、中間部材41の原料ペーストを塗布し乾燥させる。これを焼成して、複合部33を得る。
【0042】
次に、絶縁体11の軸孔に中心電極15を挿入し、中心電極15を後端向き面14で係止する。次いで、第1シール部31の原料粉末を軸孔から入れて、中心電極15の周りに充填する。圧縮用棒材(図示せず)を用いて、軸孔に充填した第1シール部31の原料粉末を予備圧縮する。
【0043】
次に、軸孔に複合部33を挿入して、成形された第1シール部31の原料粉末の成形体の上に複合部33を載せる。次いで、複合部33の上に、第2シール部32の原料粉末を充填する。圧縮用棒材(図示せず)を用いて、軸孔に充填した第2シール部32の原料粉末を予備圧縮する。
【0044】
次いで、第1シール部31の原料粉末、複合部33及び第2シール部32の原料粉末を順に配置した絶縁体11を炉内に移送し、例えば第1シール部31及び第2シール部32の各原料粉末に含まれるガラス成分の軟化点より高い温度まで加熱する。加熱後、絶縁体11の軸孔に端子金具16を挿入し、端子金具16の先端によって第2シール部32の原料粉末を軸方向へ圧縮する。この結果、絶縁体11の内部に第1シール部31、複合部33及び第2シール部32が形成される。
【0045】
次に絶縁体11を炉外へ移送し、予め接地電極21が接合された主体金具17を、絶縁体11の外周に組み付ける。次いで、接地電極21の先端が中心電極15と対向するように接地電極21を屈曲して、スパークプラグ10を得る。
【0046】
スパークプラグ10によれば、磁性体34の外周に螺旋状に配置された導体35は端子金具16及び中心電極15に電気的に接続されているので、磁性体34及び導体35は、放電電流のうち電波ノイズの原因となる周波数帯を遮断または吸収する。導体35は、基材36の表面上に厚さ25μm以下の導電層37が配置されている。導電層37は基材36よりも導電性が高いので、基材36によって導体35の機械的強度を確保しつつ、導電層37によって導体35の電流密度を高くできる。その結果、磁性体34及び導体35によるノイズ減衰性能を向上できる。
【0047】
導体35の端末38,39は輪状に形成されており、磁性体34や中間部材41から露出しているので、第1シール部31や第2シール部32と端末38,39との接触面積を確保できる。また、導体35の端末38,39は磁性体34の軸線O方向の端面に接触しているので、スパークプラグ10の製造工程において、軸孔に挿入された端子金具16が第2シール部32の原料粉末を軸方向へ圧縮するときに、導体35の端末38,39を破断し難くすることができる。
【0048】
次に
図3を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、磁性体34と中間部材41とが別々に成形される場合について説明した。これに対して第2実施の形態では、磁性体44と中間部材50とが一体に成形される場合について説明する。なお、第1実施の形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図3は第2実施の形態におけるスパークプラグの複合部43の断面図である。複合部43は、第1実施の形態で説明した複合部33に代えて、絶縁体11の内部に配置される。
【0049】
複合部43は、Fe含有酸化物からなる磁性体44と、磁性体44の外周に螺旋状に配置された導体45と、磁性体44、導体45及び絶縁体11の内周面13に接触し磁性体44及び導体45と内周面13との間に配置される中間部材50と、を備えている。導体45の軸線O方向(
図3上下方向)の下端に連接される端末48は第1シール部31に接触し、導体45の上端に連接される端末49は第2シール部32に接触している。
【0050】
導体45は、螺旋状に形成された基材46と、基材46の表面上に配置された導電層47と、を備えている。磁性体44、基材46及び導電層47の材質は、第1実施の形態で説明した磁性体34、基材36及び導電層37の材質と同じなので、ここでは説明を省略する。
【0051】
中間部材50はFe含有酸化物からなり、磁性体44と一体に成形されている。中間部材50のFe含有酸化物は、第1実施の形態で説明した磁性体34と同様のFe含有酸化物が用いられるので、ここでは説明を省略する。磁性体44と中間部材50とが一体に成形されることにより、導体45は、磁性体44及び中間部材50の内部に埋め込まれている。
【0052】
複合部43は、例えば以下のような方法によって製造される。まず、押出成形によって基材46の螺旋状の成形体を得た後、これを焼成して螺旋状の基材46を得る。次いで、この基材46の表面に、めっきによって導電層47を形成する。導電層47が形成された導体45を金型に装着した後、インサート成形によって、磁性体44及び中間部材50に導体45が埋め込まれた成形体を得る。この成形体を焼成して、磁性体44及び中間部材50に導体45が内蔵された複合部43を得る。
【0053】
第1実施の形態で説明した複合部33に代えて、複合部43を絶縁体11の内側に配置してスパークプラグを得る。複合部43は、Fe含有酸化物からなる磁性体44及び中間部材50に導体45が埋め込まれているので、耐衝撃性を確保しつつノイズ減衰効果を向上できる。
【実施例】
【0054】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0055】
スパークプラグのサンプルを作成し、放電試験前後の放電電流のレベル、耐衝撃性試験後の異状の有無を調べた。作成したサンプル1〜30の基材の材質、基材に含まれる導電材料の材質および含有率、基材の寸法および比抵抗、導電層の材質および厚さ、磁性体および中間部材の材質、中間部材の比抵抗を表1に示し、試験結果を表2に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
表1に示す基材の材質(主材、添加材および導電材料)は、基材の原料粉末から特定した。ICP、微小部X線回折、EPMAを用いたWDS分析などにより基材の断面を分析して基材の材質を特定しても良い。主材は、基材を構成する化合物または元素のうち含有率が最も高いものである。添加材はSi,B,Pに該当する元素を示した。添加材の基材における含有率(ICPによる分析結果)は0.1〜9wt%の範囲であった。この含有率は、Si,B,Pの量を酸化物に換算して得られる含有率である。基材には、製造工程で混入する微量(例えば1ppm程度)の種々の不純物が含まれ得る。
【0058】
基材の比抵抗は、試験を行うサンプルの基材よりも寸法を大きくした抵抗測定用サンプルを別に準備し、これを用いて直流4端子法により測定した。抵抗測定用サンプルの組成は、試験を行うサンプルの基材と同じ組成である。
【0059】
基材の寸法として、表1には、基材の螺旋の外径、基材の螺旋の中心線を含む断面における互いに隣り合う基材の中心線に平行な材料断面間の隙間(いわゆる線間すき間)、線径、基材の端末から端末までの長さを記した。
【0060】
基材を覆う導電層の材質および厚さは、微小部X線回折、EPMAを用いたWDS分析により特定した。導電層には、製造工程で混入する微量(例えば1ppm程度)の種々の不純物が含まれ得る。導電層を覆う磁性層の材質は、微小部X線回折により特定した。
【0061】
磁性体の材質は、磁性体の原料粉末から特定した。微小部X線回折により磁性体の断面を分析して材質を特定しても良い。磁性体には、製造工程で混入する微量(例えば1ppm程度)の種々の不純物が含まれ得る。
【0062】
中間部材の材質(主材A、主材B及び添加材)は、中間部材の原料粉末から特定した。ICP、微小部X線回折、EPMAを用いたWDS分析などにより中間部材の断面を分析して材質を特定しても良い。中間部材に主材A及び主材Bが含まれる場合、主材A及び主材Bの合計量に対する主材Bの含有率は20〜80wt%の範囲であった。添加材はSi,B,Pに該当する元素を示した。添加材の中間部材における含有率(ICPによる分析結果)は0.1〜9wt%の範囲であった。この含有率は、Si,B,Pの量を酸化物に換算して得られる含有率である。中間部材には、製造工程で混入する微量(例えば1ppm程度)の種々の不純物が含まれ得る。
【0063】
中間部材の比抵抗は、試験を行うサンプルの中間部材よりも寸法を大きくした抵抗測定用サンプルを別に準備し、これを用いて直流4端子法により測定した。抵抗測定用サンプルの組成は、試験を行うサンプルの中間部材と同じ組成である。
【0064】
放電電流のレベルは、JASO D002−2:2004年「自動車−電波雑音特性−第2部:防止器の測定方法 電流法」に従って測定した。具体的には、各サンプルの中心電極と接地電極との火花ギャップの距離を0.9mm±0.01mmに調整し、13kVから16kVの範囲内の電圧を端子金具と主体金具との間に印加して放電させた。電流プローブを用いて放電時に端子金具を流れる電流を測定し、試験前の10MHz,100MHz,500MHzにおける放電電流のレベル(所定の基準に対する換算値(単位:dB))を算出した。
【0065】
放電試験は、各サンプルの中心電極と接地電極との火花ギャップの距離を0.9mm±0.01mmに調整し、400℃のチャンバー内に各サンプルを保管した状態で、25kVの電圧を端子金具と主体金具との間に印加して放電させる試験であった。毎秒60回の割合で放電させる試験を100時間行った後、試験前と同様に、JASO D002−2:2004年に従って、10MHz,100MHz,500MHzにおける放電電流のレベル(所定の基準に対する換算値(単位:dB))を算出した。表2には、試験前のレベル、試験後のレベル、及び、試験後のレベルから試験前のレベルを減じた周波数毎の差の平均値を記した。
【0066】
耐衝撃性は、JIS B8031:2006年 7.4項 耐衝撃性試験に準じて評価した。各サンプルを試験装置に取り付け、毎分400回の割合(振動振幅22mm)で10分間衝撃を加えた後、端子金具と中心電極との間の導通を調べた。サンプル数は20であり、表2に示す異状率(%)は、20個のサンプルのうち導通を確認できなかった(断線した)割合である。
【0067】
表2に示すように、フェライトからなる磁性体を備えるサンプル1〜26(実施例)は、導体の内側にフェライトを有しないサンプル28、導体の比抵抗に比べて中間部材の比抵抗が低い(導電性が高い)サンプル29、及び、導電層の厚さが30μmのサンプル30(サンプル28〜30は比較例)に比べ、放電時の10MHz,100MHz,500MHz(試験前)における電流のレベルを小さくすることができた。また、サンプル1〜26は、導電層の厚さが0.1μmのサンプル27(比較例)に比べ、放電時の10MHz,100MHz,500MHz(試験後)における電流のレベルを小さくすることができた。サンプル1〜26は、電波ノイズの原因となる高周波数帯の電流のレベルを小さくできるので、電波ノイズを抑制できることが明らかである。
【0068】
導電層の厚さが0.5〜25μmのサンプル1〜26は、導電層の厚さが0.1μmのサンプル27に比べ、試験前後の放電電流のレベルの差(平均値)も小さくすることができた。サンプル1〜26は、導電層の厚さが0.5〜25μmなので、電流密度が過大になるのを防ぐと共に、導電層のうち厚さの薄い部分が発熱して焼失してしまうのを防ぎ、400℃の環境下での放電試験後もノイズ減衰性能を確保できたと推察される。
【0069】
基材に添加材が含まれるサンプル5〜7は、基材に添加材が含まれないサンプル1〜4に比べ、異状率を低くすることができた。サンプル5〜7は、基材に含まれる添加材により、サンプル1〜4に比べて基材を緻密化できたので、導体を断線し難くできたと推察される。
【0070】
中間部材に添加材が含まれるサンプル8〜10は、中間部材に添加材が含まれないサンプル5〜7に比べ、異状率を低くすることができた。サンプル8〜10は、中間部材に含まれる添加材により、サンプル5〜7に比べて中間部材を緻密化できたので、導体を断線し難くできたと推察される。
【0071】
中間部材にフェライトが含まれるサンプル11〜14は、中間部材にフェライトが含まれないサンプル8〜10に比べ、試験前および試験後の放電電流のレベルをそれぞれ低くすることができた。サンプル11〜14は、磁性体に加え中間部材にもフェライトが含まれるので、ノイズ減衰性能を向上できたと推察される。
【0072】
導電層が磁性層で覆われたサンプル15〜17は、磁性層が形成されていないサンプル11〜14に比べ、試験前および試験後の放電電流のレベルをそれぞれ低くすることができた。サンプル15〜17は、磁性層に含まれるフェライトによって、ノイズ減衰効果をさらに向上できたと推察される。
【0073】
基材にフェライトが含まれるサンプル18〜20は、基材にフェライトが含まれないサンプル15〜17に比べ、試験前および試験後の放電電流のレベルをそれぞれ低くすることができた。サンプル18〜20は、基材に含まれるフェライトによって、ノイズ減衰効果をさらに向上できたと推察される。
【0074】
基材に導電材料が含まれるサンプル21〜26は、基材に導電材料が含まれないサンプル18〜20に比べ、試験前および試験後の放電電流のレベルをそれぞれ低くすることができた。サンプル21〜26は、基材に含まれる導電材料によって、ノイズ減衰効果をさらに向上できたと推察される。
【0075】
特に、Ni製の導電層が形成されたサンプル25,26は、Cu,Ag,C又はLaMnO
3製の導電層が形成されたサンプル21〜24に比べ、試験前および試験後の放電電流のレベルをそれぞれ低くすることができた。サンプル25,26は、導電層に含まれるNiの磁性によって、ノイズ減衰効果を向上できたと推察される。
【0076】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0077】
第1実施の形態では、導体35に磁性層40が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。実施例のサンプル1〜14及び第2実施の形態で説明したように、磁性層40を省略することは当然可能である。また、第2実施の形態で説明した導体45に磁性層を設けることは当然可能である。
【0078】
第1実施の形態では、基材36に配置された導電層37の表面に磁性層40が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。導電層37・磁性層40の積層順序を変えて、基材36に磁性層40を配置し、その磁性層40の表面に導電層37を設けることは当然可能である。この場合も第1実施の形態と同様に、導電層37に磁性層40が接触しているので、磁性層40によるノイズ減衰効果が得られる。
【0079】
実施の形態では、基材36,46や中間部材41,50がSi,B及びPのうちの少なくとも1種を含むと好ましいことを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。基材36,46や中間部材41,50を緻密化させる場合には、基材36,46や中間部材41,50の原料粉末にSi,B及びPのうちの少なくとも1種が含まれなくても、原料粉末の粒径や焼結前の成形体の充填密度を調整することにより、焼結性を向上させることができるからである。
【0080】
実施の形態では、導体35の端末38,39及び導体45の端末48,49が磁性体34,44や中間部材50の端面に配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。導体35の端末38,39や導体45の端末48,49の輪状の部分を無くして、磁性体34,44や中間部材41,50の端面から導体35,45の一部を露出させることは当然可能である。端末38,39,48,49を省略しても、磁性体34,44や中間部材41,50から露出した導体35,45の一部と第1シール部31や第2シール部32とを接続させることができるからである。
【0081】
実施の形態では、第2シール部32が接続部30に設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2シール部32に代えて、導体35,45と端子金具16との間に導電性のあるばね等の弾性体(接続部)を介在させて、導体35,45と端子金具16とを電気的に接続することは当然可能である。
【0082】
実施の形態では、スパークプラグ10の製造方法として、予め形成した複合部33,43を絶縁体11の軸孔に挿入する場合を例示したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、第1実施の形態において、導体35と磁性体34とを一体化した部材を形成し、この部材を絶縁体11の軸孔に挿入して第1シール部31の原料粉末の上に配置した後、この部材の周囲に中間部材41の原料粉末を充填することが可能である。その場合には、絶縁体11を炉内で加熱することにより、導体35及び磁性体34と絶縁体11の内周面13との間に中間部材41を配置できる。
【0083】
実施の形態では、中心電極15の先端に接地電極21が対向するスパークプラグ10について説明したが、スパークプラグの構造は必ずしもこれに限られるものではない。スパークプラグの他の構造としては、例えば、中心電極15の側面に接地電極21が対向するスパークプラグ、主体金具17に複数の接地電極21を接合した多極のスパークプラグが挙げられる。