(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車の組立工場等においては、ロボットアームの先端に取付けた溶接ガンによりワークの電気抵抗スポット溶接が行われている。この電気抵抗スポット溶接に使用されるキャップチップは、溶接を繰り返していると摩耗や変形、あるいは表面に溶接屑が付着する等の現象を生じて良好な溶接ができなくなる。このため、一定数以上の打点を超えた場合は旋盤やフライス盤によって表面を切削し、所定の形状に戻してやる必要があった。しかし、旋盤等による切削加工は熟練を要するため、素人には難しいという問題があった。
【0003】
このような問題を解決するために、本件出願人はカッター刃を内蔵し回転自在で、かつ昇降自在なドレッサーヘッドと、このドレッサーヘッドの下方に設置されるドレッサーベースからなるボール盤式のチップドレッサー装置を提案している(例えば、特許文献1や特許文献2を参照)。この場合、キャップチップはドレッサーベースにセットされ、ドレッサーヘッドにより所定形状に切削される。このタイプのチップドレッサー装置によれば、旋盤等による切削加工と異なり、熟練した技術者でなくても誰もが一定の表面形状に切削処理が可能なため、広く実用に供されている。
【0004】
一方、被加工物であるキャップチップを前記ドレッサーベースにセットする方法としては、キャップチップの裏面側に凹設された孔部を、ドレッサーベースに凸設されたテーパ状のチップ保持用筒部に嵌合して保持する方法が一般的である。しかしながら前記方法による場合は、キャップチップをドレッサーベースに着脱するのに特殊な工具を必要とするという問題や、着脱時においてキャップチップに傷がつくおそれがあるという問題があった。更には、キャップチップの嵌合の深さによってカッター刃との接触状態が変わるおそれがあり一定の精度で研磨処理することは難しいという問題もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点を解決して、研削処理する溶接用のキャップチップを簡単な操作で、正確に位置決め保持可能なドレッサーベースを備えていて、熟練者でなく素人や女性であっても研磨処理を効率よく、しかも高い精度を維持しつつ行うことができるチップドレッサー装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明のチップドレッサー装置は、カッター刃を内蔵し回転自在でかつ昇降自在なドレッサーヘッドと、このドレッサーヘッドの下方に設置されるキャップチップ載置用のドレッサーベースと
からなり、
前記ドレッサーベースには、先端部をキャップチップの裏面側凹部に挿し込み可能で先端部の内周面にテーパ面が形成されたコレットと、このコレットの中心部を昇降動可能で先端に前記テーパ面と密着可能なテーパ面が形成されたボルト状部材を備えていて、
前記ボルト状部材の下降によりコレット先端部を拡開させキャップチップを固定するようにしたチップ保持機構を
設けたボール盤式のチップドレッサー装置である。
【0008】
そして、前記チップ保持機構は、キャップチップを載置する筒状ホルダの筒内に設けられており、
この筒状ホルダの軸方向と直交して取り付けられ偏心したクランク部を有する回動自在なクランクピンと、このクランクピンが内接する孔部が形成され、かつボルト状部材の下端が連結されているシリンダを備えていて、
前記クランクピンの回動により偏心したクランク部に押し上げられてシリンダが昇降動する結果、ボルト状部材が昇降動するように構成されている
ことを特徴とする。
【0009】
更に、前記筒状ホルダには、コレットの回転中心をドレッサーヘッドの回転中心と同軸に位置させるための中央孔部と、偏心した軸に位置させるための偏心孔部が設けられている
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のチップドレッサー装置では、ドレッサーベースに、先端部をキャップチップの裏面側凹部に挿し込み可能で先端部の内周面にテーパ面が形成されたコレットと、このコレットの中心部を昇降動可能で先端に前記テーパ面と密着可能なテーパ面が形成されたボルト状部材を備えていて、前記ボルト状部材の下降によりコレット先端部を拡開させキャップチップを固定するようにしたチップ保持機構を設けたので、ハンドル等の操作によって前記ボルト状部材を下降すればキャップチップが所定位置で固定されることとなり、熟練した技術は要求されず何人であってもキャップチップをドレッサーベース上に簡単かつ正確に位置決め保持することができる。
【0011】
また前記チップ保持機構は、キャップチップを載置する筒状ホルダの筒内に設けられており、この筒状ホルダの軸方向と直交して取り付けられた回動自在なクランクピンと、このクランクピンが内接する孔部が形成され、かつボルト状部材の下端が連結されているシリンダを備えていて、前記クランクピンの回動によりクランク部に押し上げられてシリンダが昇降動する結果、ボルト状部材が昇降動するように構成した場合は、キャップチップをドレッサーベース上にセット後、クランクピンを回動するだけの簡単な操作で正確に位置決め保持することができる。
【0012】
また前記筒状ホルダには、コレットの回転中心をドレッサーヘッドの回転中心と同軸に位置させるための中央孔部と、偏心した軸に位置させるための偏心孔部が設けられているものとした場合は、コレットの位置を変更すれば左右対称な円弧上状の研削加工だけでなく、円弧面が偏心した位置にあるキャップチップの研削加工も行えることとなり、型替え作業を削減できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態を示す切欠正面図である。
【
図4】(a)はコレットを示す平面図、(b)は切欠正面図である。
【
図6】コレットの先端部が拡開する作動を示す説明図である。
【
図9】偏心加工を行う場合のキャップチップとカッター刃を示す正面図である。
【
図10】(a)は偏心加工を行う場合の筒状ホルダを示す平面図、(b)はA−A断面図、(c)はB−B断面図である。
【
図11】(a)は偏心加工を行う場合のシリンダを示す平面図、(b)はC−C断面図である。
【
図12】(a)は偏心加工を行う場合のドレッサーベースを示す平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は本発明の実施の形態を示す正面図、
図2と
図3はドレッサーベースを示す平面図と側面図である。図において、1はドレッサーヘッド、2はこのドレッサーヘッド1の下方に設置されるドレッサーベースである。
前記ドレッサーヘッド1は、円筒状のヘッド本体1aの上部中央にボール盤への取付用の軸部1bを有しており、この軸部1bをボール盤の回転軸(図示せず)に装着することによってドレッサーヘッド1が回転自在で、かつ昇降自在となっている。また、ヘッド本体1aの内部には研削用のカッター刃1cがセットされており、ヘッド本体1aの下方の開口端1dがドレッサーベース2のガイド板6に当接して位置決めされる構造となっている。
このようにドレッサーヘッド1は、一般の工場にあるボール盤に取付けて使用に供するものであり、通常のボール盤の操作を行うのみで切削加工が可能であり、熟練した技術がない素人や女性であっても正確に切削加工を行うことができるものとなっている。
【0015】
前記ドレッサーベース2は、ベース板3上に円筒状のベースボディ4が固定されており、このベースボディ4の上面にはコイルスプリング5を介して円盤状のガイド板6が取り付けられている。このスプリング5は、前記カッター刃1aのキャップチップ30への衝撃を緩衝するためのものである。また、ベースボディ4の中央部には筒状ホルダ7が装着されている。この筒状ホルダ7の上端面はキャップチップ30の載置面となっているが、図示のものでは、リング8を介してキャップチップ30がセットされる構造となっている。このリング8は筒状ホルダ7に対して着脱自在となっており、研削工程中に損傷等した場合、簡単に交換できてキャップチップ30を常に正しい位置でセットできるものとされている。
【0016】
前記ドレッサーベース2には、キャップチップ30を固定するようにしたチップ保持機構11が設けられている。このチップ保持機構11は、先端部をキャップチップ30の裏面側凹部に挿し込み可能で先端部の内周面にテーパ面9aが形成されたコレット9と、このコレット9の中心部を昇降動可能で先端に前記テーパ面9aと密着可能なテーパ面10aが形成されたボルト状部材10を備えている。
【0017】
図4に示すように、前記コレット9は上方部に中心から放射状に4個の切り込み9bを入れた筒状のものである。コレット9の上方部の外径はキャップチップ30の裏面側凹部の内径よりも僅かに小さい寸法であり、通常状態ではコレット9の上方部をキャップチップ30の裏面側凹部内にスムーズに挿し込み可能となっている。また、コレット9の先端部内周面には下方に向けて徐々に縮径するテーパ面9aが形成されている。なお、前記切り込み9bの個数は把持条件に応じて任意に設定することができる。
【0018】
図5に示すように、前記ボルト状部材10は、上端に上方に向けて徐々に拡開するテーパ面10aが形成されており、下端にはネジ10bが形成されている。
そして、前記ボルト状部材10の下降により、前記テーパ面10aがコレット9の内周面にあるテーパ面9aと当接しながら下方に向けて摺動すると、コレット9の先端部が拡開してキャップチップ30の裏面側凹部の表面を押圧し、その結果、キャップチップ30をしっかりと固定するように構成されている。
【0019】
図6により、コレットの先端部が拡開する作動を説明する。
図6の上図に示すように、前記ボルト状部材10が上昇した状態にある場合は、コレット9の先端部は自然状態にあってテーパ面9aとテーパ面10aとが離れた状態にあり、コレット9の外径がキャップチップ30の裏面側凹部の内径よりも僅かに小さい寸法となっている。この結果、コレット9の先端部に対してキャップチップ30を容易に着脱することができる。
一方、
図6の下図に示すように、前記ボルト状部材10を下降した状態にある場合は、2つのテーパ面が接触してボルト状部材10のテーパ面10aがコレット9のテーパ面9aを押し広げる状態となっている。この結果、コレット9の先端部が拡開されてキャップチップ30の裏面側凹部の表面を押圧し、キャップチップ30をしっかりと固定することになる。
【0020】
次に、前記ボルト状部材10の昇降動について説明する。
前記チップ保持機構11は、キャップチップ30を載置する筒状ホルダ7の筒内に設けられている(
図1を参照)。この筒状ホルダ7の軸方向中心部には、コレット9およびボルト状部材10を挿入するための孔部が形成されている。また、筒状ホルダ7の下方部には、筒状ホルダ7の軸方向と直交して取り付けられた回動自在なクランクピン12と、このクランクピン12が内接する孔部13aが形成され、かつボルト状部材10の下端が連結されているシリンダ13を備えている。
【0021】
図7に示すように、前記クランクピン12には外径が僅かに大きくて偏心したクランク部12aが設けられている。また
図8に示すように、シリンダ13には前記クランクピン12を挿通させる孔部13aが形成され、この孔部13a内に前記クランク部12aが内接するようにクランクピン12が挿通されている。更に、シリンダ13の上部にはボルト状部材10の下端のネジ部10bが螺合固定されており、シリンダ13の昇降動に追従するように構成されている。
【0022】
図8左図に示すように、偏心した前記クランク部12aが真上に位置しているときは、クランク部12aに内設する孔部13aが、クランク部12aの偏心した距離(s)だけ上方に向けて押し上げられる結果、シリンダ13とともにボルト状部材10が僅かに上方に向けて押し上げられた状態となる。この結果、コレット9のテーパ面9aとボルト状部材10のテーパ面10aとが離れた状態となり、コレット9の外径がキャップチップ30の裏面側凹部の内径よりも僅かに小さい寸法となる(
図6の上図を参照)。従って、コレット9の先端部に対してキャップチップ30を容易に着脱することができる。
【0023】
一方、
図8右図に示すように、前記クランクピン12を90°回動すると、クランク部12aが孔部13aに内設しながら回動する結果、シリンダ13とともにボルト状部材10を僅かに下方に向けて押し下げることとなる。この結果、コレット9のテーパ面9aとボルト状部材10のテーパ面10aが接触し、かつボルト状部材10のテーパ面10aがコレット9のテーパ面9aを押し広げる状態となる(
図6の下図を参照)。これにより、コレット9の先端部が拡開されて、キャップチップ30の裏面側凹部に密接しキャップチップ30をしっかりと保持することとなる。この状態で研削処理するので、高精度に研削することが可能となる。
このように、前記クランクピン12の回動により偏心したクランク部12aに押し上げられてシリンダ13が昇降動することとなり、この結果、ボルト状部材10が昇降動する構造となっている。
なお、前記クランクピン12の回動は、
図2に示すように、装着自在なハンドル14の取り付けによって簡単に行うことができる。
【0024】
次に、キャップチップ30の偏心加工について説明する。
ここで偏心加工とは、通常のキャップチップ30をドレッサーベース上にドレッサーヘッド1の回転中心と同軸に位置させて載置し、左右対称に研削処理するのに対して、ドレッサーヘッド1の回転中心と外れた位置に載置して片面のみを研削処理する加工方法を意味するものである(
図9を参照)。
従来は、偏心加工を行う場合、ドレッサーベース上にキャップチップを偏心した位置で保持するための特別な保持部材を準備する必要があり、この保持部材の生産と長時間の型交換作業が不可欠で偏心加工のコストを高くする原因となっていた。
【0025】
これに対して本発明では、
図10に示すように、筒状ホルダ7にコレット9の回転中心をドレッサーヘッド1の回転中心と同軸に位置させるための中央孔部15aと、偏心した軸に位置させるための偏心孔部15bを設けた構造となっている。また、
図11に示すように、シリンダ13にも中央ボルト孔16aと偏心ボルト孔16bが形成されており、ボルト状部材10のネジ部10bがいずれかを選択して螺合できるように構成されている。
従って、例えば左右対称の研削処理から偏心加工に切り替える場合は、中央孔部15aにセットしてあったコレット9を偏心孔部15bへ差し換えて、ボルト状部材10を偏心ボルト孔16bに螺合するのみで行えることとなり、従来のような特別な保持部材の生産と長時間の型交換作業が不要となって簡単かつ低コストで偏心加工処理を行えることとなる。なお
図10において、17はランクピン12の支持孔である。
【0026】
以上のように、キャップチップ30をドレッサーヘッド1の回転中心と外れた位置に載置して削処理すれば、片面のみが研削処理されることとなる。また、クランクピン12の回動によりボルト状部材10が昇降動する点は、前述の左右対称の研削処理の場合と同じであり、キャップチップ30の固定および保持を確実に行うことができる。
また、偏心加工から左右対称の研削処理への切り替えも同様にして簡単に行うことができる。
【0027】
以上の説明からも明らかなように、本発明ではドレッサーベースに、先端部をキャップチップの裏面側凹部に挿し込み可能で先端部の内周面にテーパ面が形成されたコレットと、このコレットの中心部を昇降動可能で先端に前記テーパ面と密着可能なテーパ面が形成されたボルト状部材を備えていて、前記ボルト状部材の下降によりコレット先端部を拡開させキャップチップを固定するようにしたチップ保持機構を設けたものとしたので、キャップチップを簡単な操作で、正確に位置決め保持できることとなり、熟練者でなくても誰もが高精度に研削処理を行えることとなる。更には、左右対称の研削処理から偏心加工に切り替える場合も、特別な保持部材の生産と長時間の型交換作業が不要となって簡単に行うことができるという利点も有する。