(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548809
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】口腔内貼付剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/22 20060101AFI20190711BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20190711BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20190711BHJP
A61J 3/10 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
A61K9/22
A61K47/32
A61K47/38
A61J3/10 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-501739(P2018-501739)
(86)(22)【出願日】2017年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2017006633
(87)【国際公開番号】WO2017146106
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年5月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-34522(P2016-34522)
(32)【優先日】2016年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 利博
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 靖久
(72)【発明者】
【氏名】義永 隆明
【審査官】
磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/192918(WO,A1)
【文献】
特表2006−527184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/22
A61J 1/03
A61K 47/32
A61K 47/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物放出制御剤としてヒドロキシプロピルセルロースを含有する薬物層と、付着剤として、カルボキシアルキルセルロース塩と、ポリビニルピロリドンとを含有する付着層と、を備える口腔内貼付剤の製造方法であって、
前記薬物層を構成する第一層粉末を打錠機の臼内に充填し、
前記第一層粉末を0.2〜1.2kNの打錠圧で圧縮して前記薬物層を成形し、
前記付着層を構成する第二層粉末を前記臼内の前記薬物層の上に充填し、
前記薬物層および前記第二層粉末を6.0〜26kNの打錠圧で圧縮して前記付着層を成形し、
前記薬物層および前記付着層を7.5〜26kNの打錠圧で圧縮する
口腔内貼付剤の製造方法。
【請求項2】
前記第二層粉末の打錠圧の値が、前記薬物層および前記付着層を圧縮する際の打錠圧の値の1/2以上である
請求項1に記載の口腔内貼付剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の口腔内貼付剤の製造方法であって、
前記薬物層および前記付着層が7.5〜26kNの打錠圧で圧縮された前記口腔内貼付剤の直径は、前記口腔内貼付剤の厚さの4倍以上である
口腔内貼付剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内貼付剤の製造方法に関する。
本願は、2016年2月25日に、日本国に出願された特願2016−034522号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、口腔粘膜に貼付して使用する製剤(口腔内貼付剤)が広く用いられている。例えば、特許文献1には、口腔内貼付剤として、薬物層および付着層の二層からなり、口蓋などの口腔内の粘膜に貼付して使用するための錠剤が開示されている。
【0003】
このような二層錠(積層錠)は、公知の積層打錠機を用いて製造することができる。まず、第一層粉末を臼内に充填し、上杵および下杵により軽く圧縮する。続いて、第二層粉末を臼内において圧縮された第一層粉末の上に重ねて充填し、上杵および下杵により軽く圧縮する。最後に、圧縮された第一層粉末および第二層粉末を上杵および下杵により強く圧縮することで、二層錠が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特許第5775970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の口腔内貼付剤は、第一層である薬物層に、薬物を持続溶出させるための溶出制御成分が10質量%以上の割合で配合され、第二層である付着層に、製剤を口腔粘膜に付着させるための付着成分が25〜75質量%の割合で配合されている。ここで、溶出制御成分は、例えばヒドロキシプロピルセルロースやヒプロメロースなどである。また、付着成分は、例えばカルメロースナトリウムやポビドンなどである。
【0006】
溶出制御成分であるヒドロキシプロピルセルロースやヒプロメロースなどは、成形性が良い粉末であるが、付着成分であるカルメロースナトリウムやポビドンなどは、成形性が悪い粉末である。このため、第一層の打錠末と第二層の打錠末とでは、成形性が大きく異なっている。二層錠の製造において、各層の成形性が異なると、各層単独の圧縮成形が優位に働いて両層の境界面での接着力が弱くなり、層間剥離が生じやすくなる。
【0007】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、薬物層と付着層との間の層間剥離の発生を低減することが可能な口腔内貼付剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、口腔内貼付剤の製造方法は、
薬物放出制御剤としてヒドロキシプロピルセルロースを含有する薬物層と、
付着剤として、カルボキシアルキルセルロース塩と、ポリビニルピロリドンとを含有する付着層と、を備える口腔内貼付剤の製造方法であって、前記薬物層を構成する第一層粉末を打錠機の臼内に充填し、前記第一層粉末を0.2〜1.2kNの打錠圧で圧縮して前記薬物層を成形し、前記付着層を構成する第二層粉末を前記臼内の前記薬物層の上に充填し、前記薬物層および前記第二層粉末を6.0〜26kNの打錠圧で圧縮して前記付着層を成形し、前記薬物層および前記付着層を7.5〜26kNの打錠圧で圧縮することを特徴とする。
【0009】
上記の口腔内貼付剤の製造方法において、前記薬物層および前記付着層が7.5〜26kNの打錠圧で圧縮された前記口腔内貼付剤の直径は、前記口腔内貼付剤の厚さの4倍以上であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記の口腔内貼付剤の製造方法によれば、薬物層と付着層との間の層間剥離の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る口腔内貼付剤の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
まず、本実施形態に係る口腔内貼付剤について説明する。口腔内貼付剤は、薬物層と付着層とを備える。
【0014】
薬物層は、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシアルキルセルロースナトリウム、エチルセルロース、硬化ヒマシ油、およびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1つからなる薬物放出制御剤を含有する。薬物放出制御剤の配合量は、薬物層からの薬物の溶出または薬物層の崩壊を遅延させることができる量であれば、特に限定されない。好ましくは、薬物放出制御剤の含有量は、薬物層の成分の総質量基準で10質量%以上である。
【0015】
薬物層に含有させる薬物としては、口内殺菌薬や口臭除去薬(消臭剤)、抗炎症薬、歯周病治療薬などを使用することができる。また、薬物層は、上述した成分の他に、pH調節剤、l−メントールなどの清涼化剤、甘味剤、矯味剤、着色剤、吸着剤、安定化剤、着香剤(香料)などの成分を含有していてもよい。
【0016】
付着層は、通常、口腔粘膜に付着する成分として付着剤を含有する。付着層は、付着剤として、カルボキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース塩、アルギン酸、アルギン酸塩、ポリ(N−ビニルラクタム)、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、プルラン及びアルファー化デンプンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含有する。好ましくは、付着層は、付着剤として、カルボキシアルキルセルロースまたはカルボキシアルキルセルロース塩と、ポリビニルピロリドンとを含有する。付着剤の含有量は、付着層成分の総質量基準で、好ましくは25〜75質量%である。
【0017】
本実施形態に係る口腔内貼付剤は錠剤であり、薬物層と付着層との二層からなる二層錠(積層錠)である。口腔内貼付剤は、略円形の外周を有する薄い円盤状に形成され、その表面および裏面はともに平坦に形成されている。口腔内貼付剤の厚さは、例えば1.0〜2.5mmであり、好ましくは1.5〜2.0mmである。そのうち、第一層である薬物層の厚さは、0.67〜1.67mmであり、第二層である付着層の厚さは、0.33〜0.83mmである。また、口腔内貼付剤の直径は、例えば5〜15mmであり、好ましくは7〜10mmである。
【0018】
本実施形態に係る口腔内貼付剤は、口腔内への貼付のしやすさや、貼付したときの違和感の少なさなどを考慮すると、できるだけ薄く形成されることが好ましい。このような形状を直径と厚さとの比(直径/厚さ)で示すと、概ね4以上となる。
【0019】
なお、錠剤の薬物層および付着層は、乳糖水和物などの賦形剤や、結晶セルロースなどの結合剤、ステアリン酸塩やタルクなどの滑沢剤などの錠剤で慣用される成分をさらに含有していてもよい。
【0020】
次に、本実施形態に係る口腔内貼付剤の製造方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る口腔内貼付剤30の製造方法を示す図である。
図1の(a)〜(e)は、打錠の各工程を示している。
【0021】
まず、薬物層11を構成する第一層粉末10および付着層21を構成する第二層粉末20を準備する。薬物層11について、所定の配合割合に基づいて各成分を秤量し、混合して、第一層用の打錠末である第一層粉末10とする。また、付着層21について、所定の配合割合に基づいて各成分を秤量し、混合して、第二層用の打錠末である第二層粉末20とする。これらの第一層粉末10および第二層粉末20を、打錠機1のホッパーにそれぞれセットする。
【0022】
次に、打錠機1により第一層粉末10および第二層粉末20の打錠を行う。まず、第一層粉末10を打錠機1のホッパーから臼2内に充填する(
図1(a)参照)。打錠機1の上杵3および下杵4により、第一層粉末10を0.2〜1.2kNの打錠圧(第一打錠圧)で圧縮し、薬物層11を成形する(
図1(b)参照)。次に、第二層粉末20を打錠機1のホッパーから臼2内の薬物層11の上に充填する(
図1(c)参照)。上杵3および下杵4により、第二層粉末20を6.0〜26kNの打錠圧(第二打錠圧)で圧縮し、付着層21を成形する(
図1(d)参照)。そして、上杵3および下杵4により、薬物層11および付着層21を7.5〜26kNの打錠圧(第三打錠圧)で圧縮する。これにより、口腔内貼付剤30を製造することができる(
図1(e)参照)。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
〔実施例1〕
本実施例では、第一打錠圧および第二打錠圧の大きさを変え、層間剥離が低減できる第一打錠圧および第二打錠圧の範囲を検討した。
【0025】
(試料の形成手順)
第一打錠圧および第二打錠圧の大きさを変えて、試料番号A1〜A60の口腔内貼付剤の錠剤を製造した。まず、薬物層について、表1に示す各成分をそれぞれの配合割合に基づいて秤量し、混合して、第一層粉末とした。同様に、付着層について、表1に示す各成分をそれぞれの配合割合に基づいて秤量し、混合して、第二層粉末とした。第一層粉末および第二層粉末を打錠機にセットし、
図1に示す工程により打錠を行った。
【0026】
まず、第一層粉末80mgを臼内に充填し、表2に示す各試料番号の第一打錠圧で圧縮し、薬物層を成形した。次に、第二層粉末40mgを臼内に充填し、表2に示す各試料番号の第二打錠圧で圧縮し、付着層を成形した。そして、薬物層および付着層を18.5kNの第三打錠圧で圧縮した。なお、第三打錠圧は、試料番号に関わらず一定である。これにより、直径8mm、薬物層の厚さ1.3mm、および付着層の厚さ0.6mmである二層からなる口腔内貼付剤の錠剤(試料番号A1〜A60)を製造した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
(評価方法)
第十六改正日本薬局方の参考情報に記載された「錠剤の摩損度試験法」を参考として、上記により製造された錠剤を6.5gにできるだけ近い量に相当する錠数をドラムに入れ、回転数25rpmにて300回転させた。回転終了後、初期質量に対して層間剥離しなかった錠剤の質量百分率を算出した。この質量百分率を、次の評価基準に基づいて評価した。
○:層間剥離しなかった錠剤の割合が95%以上
×:層間剥離しなかった錠剤の割合が95%未満
【0030】
(評価結果)
各試料番号に対する評価結果を表2に示す。表2に示すように、第一打錠圧が1.4kN以上の場合には、第二打錠圧の大きさに関わらず評価基準を満足しなかった。第一打錠圧が1.0〜1.2kNの場合には、第二打錠圧の大きさに応じて層間剥離の程度が変化した。第一打錠圧が0.8kN以下の場合には、第二打錠圧の大きさに関わらず評価基準を満足した。
【0031】
なお、第一打錠圧が0kNの場合は、第一層粉末を圧縮成形しないまま第二層粉末を重ねるため、二層錠において第一層と第二層との間の層境界面が乱れてしまう。これは外観上好ましくないため、この条件は製造条件として不適である。また、第二打錠圧は、打錠機の杵の耐圧許容限界により26kNが上限である。
【0032】
以上の結果より、適切な打錠圧の範囲として、第一打錠圧は0.2〜1.2kN、第二打錠圧は5〜26kN、第三打錠圧は18.5kNである。
【0033】
〔実施例2〕
本実施例では、第二打錠圧および第三打錠圧の大きさを変え、摩損度を指標として、層間剥離が低減できる第二打錠圧および第三打錠圧の範囲を検討した。
【0034】
(試料の形成手順)
第二打錠圧および第三打錠圧の大きさを変えて、試料番号B1〜B7の口腔内貼付剤の錠剤を製造した。まず、薬物層について、表3に示す各成分をそれぞれの配合割合に基づいて秤量し、混合して、第一層粉末とした。同様に、付着層について、表3に示す各成分をそれぞれの配合割合に基づいて秤量し、混合して、第二層粉末とした。第一層粉末および第二層粉末を打錠機にセットし、
図1に示す工程により打錠を行った。
【0035】
まず、第一層粉末80mgを臼内に充填し、1.0kNの第一打錠圧で圧縮し、薬物層を成形した。なお、第一打錠圧は、試料番号に関わらず一定である。次に、第二層粉末40mgを臼内に充填し、表4に示す各試料番号の第二打錠圧で圧縮し、付着層を成形した。そして、薬物層および付着層を表4に示す各試料番号の第三打錠圧で圧縮した。これにより、直径8mm、薬物層の厚さ1.3mm、および付着層の厚さ0.6mmである二層からなる口腔内貼付剤の錠剤(試料番号B1〜B7)を製造した。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
(評価方法)
第十六改正日本薬局方の参考情報に記載された「錠剤の摩損度試験法」に準じて摩損度(初期質量に対する減少質量の質量百分率)を測定した。摩損度を指標として、層間剥離を、次の評価基準に基づいて評価した。
○:摩損度が3.0%以下
×:摩損度が3.0%を超える
【0039】
(評価結果)
各試料番号に対する評価結果を表4に示す。表4に示すように、第二打錠圧および第三打錠圧が大きいほど層間剥離が低減した。なお、第二打錠圧および第三打錠圧は、打錠機の杵の耐圧許容限界により26kNが上限である。
【0040】
以上の結果より、適切な打錠圧の範囲として、第一打錠圧は1.0kN、第二打錠圧は6.0〜26kN、第三打錠圧は7.5〜26kNである。
【0041】
上述した実施例1および実施例2の結果より、適切な打錠圧の範囲として、第一打錠圧は0.2〜1.2kN、第二打錠圧は6.0〜26kN、第三打錠圧は7.5〜26kNである。
【0042】
また、上述した実施例1および実施例2において製造した錠剤は、直径が8mmで厚さが1.9mm(薬物層の厚さ1.3mmおよび付着層の厚さ0.6mmの和)である。このように厚さに対して直径が4倍以上ある薄い円盤状の二層錠であっても、上述した実施形態に係る口腔内貼付剤の製造方法を適用して、層間剥離が生じにくい錠剤を好適に製造することができる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上記実施形態に係る口腔内貼付剤の製造方法によれば、薬物層と付着層との間の層間剥離の発生を低減することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 打錠機
2 臼
3 上杵
4 下杵
10 第一層粉末
11 薬物層
20 第二層粉末
21 付着層
30 口腔内貼付剤