(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記蒸発源は、前記第1保持部に保持された前記基板に向って前記蒸着材料を噴射するときに前記基板ホルダーに対して第1方向に移動し、前記第2保持部に保持された前記基板に向って前記蒸着材料を噴射するときに、前記基板ホルダーに対して前記第1方向と上下に関して逆方向に移動する、請求項2または3に記載の成膜装置。
前記蒸発源は、互いに反対方向に向けられて前記蒸着材料をそれぞれ噴射する第1ノズルおよび第2ノズルと、前記第2ノズルから前記蒸着材料が噴射されるべきときに前記第1ノズルからの噴射を停止させる部材と、前記第1ノズルから前記蒸着材料が噴射されるべきときに前記第2ノズルからの噴射を停止させる部材とを備えている、請求項2〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
前記第1基板に向って前記蒸着材料を噴射する際に前記蒸発源を前記第1基板に対して第1方向に移動させ、前記第2基板に向って前記蒸着材料を噴射する際に前記蒸発源を前記第2基板に対して前記第1方向と上下に関して逆方向に移動させる、請求項7または8に記載の蒸着膜の成膜方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、成膜装置において基板などの被蒸着部材の大型化に伴う設置面積の増大を回避するという観点では、基板を水平面に対して立てた状態で蒸着を行うことが有利なため、このような縦型の蒸着方法における膜厚の均一性向上について鋭意検討を重ねた。ここで、有機EL表示装置における有機膜の形成などの多くの蒸着工程では、所定の形状および大きさの開口を有する蒸着マスクが用いられ、蒸着マスクは、蒸着時に被蒸着基板と密着していることが好ましい。そして、蒸着マスクと被蒸着基板などとの密着状態の安定性という観点では、被蒸着面が鉛直面に対して上方に少し傾くように被蒸着基板を保持することが好ましい。そうすることによって、蒸着マスクを被蒸着面に重ねた際に重力が被蒸着面と蒸着マスクとの密着に寄与し得るからである。
【0012】
縦型の蒸着方法では、蒸発源は、蒸着材料を噴射しながら、たとえば被蒸着基板の下端部または上端部からその反対の端部まで鉛直方向において動かされ、その結果、被蒸着基板の全面に蒸着膜が形成される。しかし、本発明者らは、このように蒸着膜を形成する成膜装置および成膜方法では、膜厚に関して厳密な均一性が得られ難いことを見出した。すなわち、被蒸着面が鉛直面に対して傾くように被蒸着基板が保持されるため、鉛直方向における蒸発源の移動に伴って、蒸発源と、被蒸着基板において蒸発源と水平方向において対向する部分との距離が変化し、その変化が膜厚に影響し得ることを見出した。具体的には、被蒸着面において上側と下側とで成膜速度が変化し、その結果、下側において厚く、そして、上側において薄く蒸着膜が形成される傾向にあることを見出したのである。
【0013】
このような膜厚のムラが存在すると、1枚の被蒸着基板に、たとえば一つまたは数個程度の有機EL表示パネルが形成される場合は、有機EL表示パネル単体において、表示画面内に輝度ムラおよび色ムラなどが生じると共に、個体間でも表示性能にばらつきが生じ得る。また、比較的小さな表示画面を有する有機EL表示パネルが1枚の被蒸着基板に数多く形成される場合でも、少なくとも個体間のばらつきが生じ得る。このように、1枚の被蒸着基板における蒸着膜の厚さのムラは、有機EL表示装置を始めとする、蒸着膜を有する各種製品の特性、および品質の安定性に影響し得る。本発明者らは、このような知見の下に検討を重ねた結果、基板の傾きに基づく蒸着膜の膜厚の変動を少なくする調整手段を備える成膜装置、および、そのような膜厚の変動を少なくしながら蒸着材料を堆積させる成膜方法を見出したのである。
【0014】
以下、図面を参照し、本発明における実施形態の成膜装置および蒸着膜の成膜方法、ならびに有機EL表示装置の製造方法を説明する。なお、以下に説明される実施形態における各構成要素の材質、形状、および、それらの相対的な位置関係などは、あくまで例示に過ぎない。本発明の成膜装置および蒸着膜の成膜方法、ならびに有機EL表示装置の製造方法は、これらによって限定的に解釈されるものではない。
【0015】
〔成膜装置〕
図1には、第1実施形態の成膜装置1の正面図が概略的に示され、
図2には成膜装置1の側面図(
図1における右側面図)が概略的に示されている。
図1および
図2に示されるように、実施形態の成膜装置1は、蒸着膜が形成されるべき被蒸着面Saを有する基板(被蒸着基板)Sを水平面に対して立たせた状態で保持する基板ホルダー2と、被蒸着面Saに向って蒸着材料を噴射する蒸発源3と、を備えている。蒸発源3は、基板ホルダー2に保持された基板Sの被蒸着面Saが向くべき領域に設けられている。蒸発源3は、基板ホルダー2に対して少なくとも上下いずれかの方向に相対移動をしながら、被蒸着面Saに向かって蒸着材料を噴射する。
図1には、蒸発源3の上昇時における蒸発源3の噴射部が、符号32aを付されて3箇所に二点鎖線で描かれている。そして、本実施形態の成膜装置1は、基板Sの傾きに基づく蒸着膜の被蒸着面Saにおける膜厚の変動を少なくする調整手段を備えている。この調整手段については、後述される。なお、以下の説明において、「相対」は、その対象について明示されている場合を除いて、蒸発源3と基板ホルダー2(または基板S)との関係を示している。
【0016】
図1に例示される成膜装置1は、さらに、基板Sの被蒸着面Saに重ね合される蒸着マスクMを保持するマスクホルダー4を備えている。また、成膜装置1が備える基板ホルダー2は、被蒸着面Sa同士が対向するように基板Sをそれぞれ保持する第1保持部21および第2保持部22を備えている。そのため、マスクホルダー4も、二つの蒸着マスクMを、それら二つの蒸着マスクMにおける蒸発源3に向けられるべき面同士を対向させて保持し得るように構成されている。そして、蒸発源3は、第1保持部21に保持された基板Sおよび第2保持部22に保持された基板Sの間において基板ホルダー2に対して相対移動をしながら蒸着材料を噴射する。
【0017】
成膜装置1は、チャンバ11を備え、チャンバ11内に、基板ホルダー2、蒸発源3およびマスクホルダー4が設けられている。図示されていないが、チャンバ11には排気装置が設けられており、チャンバ11内は、たとえば真空度10
-3Pa〜10
-4Pa程度の真空状態にされる。
【0018】
図1および
図2の例の蒸発源3は、加熱機構を備えた坩堝(図示せず)などを備えていて蒸着材料を加熱することによって気化または昇華させる蒸発部31と、気化または昇華した蒸着材料を基板Sに向って噴射する噴射部32とを備えている。蒸発部31と噴射部32とは、中空体からなる中継部33を介して連結されており、蒸発部31で気化または昇華した蒸着材料は、中継部33を通って噴射部32に流入する。なお、
図1および
図2の例と異なり、蒸発部31と噴射部32とが、外観上、一体的に形成されていてもよい。
【0019】
噴射部32は、蒸着材料を噴射するノズルを備えている。
図1および
図2の例では、噴射部32は、第1保持部21に保持されている基板Sに向って蒸着材料を噴射する第1ノズル321と、第2保持部22に保持されている基板Sに向って蒸着材料を噴射する第2ノズル322とを備えている。第1ノズル321と第2ノズル322は、互いに反対方向に向けられており、互いに反対方向に向かってそれぞれ蒸着材料を噴射する。噴射部32は、蒸発源3の移動方向(
図1および
図2の+Z方向および−Z方向)と直交し、かつ、基板ホルダー2に保持される基板Sの被蒸着面Saと平行な方向(
図2の+Y方向)に長手方向を有しており、所謂リニアソースを構成している。
図1および
図2に例示される噴射部32は、この長手方向に沿ってそれぞれ並べられた複数の第1ノズル321および複数の第2ノズル322を備えている。
【0020】
蒸発部31には、送気管311が連結されている。送気管311の蒸発部31に連結された一端と反対の端部は、外部のキャリアガス供給源(図示せず)に接続されている。図示されないキャリアガス供給源から、たとえば、アルゴンガス、ヘリウムガス、クリプトンガスまたは窒素ガスなどの不活性ガスが、キャリアガスとして送気管311を通って蒸発部31に供給される。そして、キャリアガスと気化または昇華した蒸着材料とが混合し、中継部33を通って、噴射部32から噴射される。従って、キャリアガスの流量を調整することによって、蒸着材料の流量を調整することができる。また、キャリアガスを用いることによって、蒸着材料の高い使用効率を実現することができる。
【0021】
蒸発源3は、基板ホルダー2およびマスクホルダー4に対して、少なくとも上下いずれかの方向(蒸着装置1を水平面に設置した場合の鉛直方向または鉛直方向の反対方向)に相対移動をしながら蒸着材料を噴射する。
図1および
図2の例では、蒸発源3は、蒸発源3自身が上下方向に移動し得るように、噴射部32における長手方向の両端それぞれにおいて支柱12に支持されている。具体的には、支柱12は、その側面にネジ山(図示せず)を有しており、噴射部32の両端部それぞれと各支柱12によってボールネジが構成されている。すなわち、支柱12の回転に応じて噴射部32を含む蒸発源3全体が上下いずれかの方向に動き得る。支柱12の一端(
図1および
図2の例では下端)は、図示されないモーターなどによって主に構成され得る駆動部13に連結されている。通電などによる駆動部13の作動に応じて支柱12が回転することによって噴射部32が上下いずれかの方向に移動する。従って、駆動部13の動作を制御することによって支柱12の回転速度、すなわち、蒸発源3の移動速度を調整することができる。
【0022】
なお、蒸発源3を移動させる機構は、電動機などによって構成される駆動部13とボールネジとの組み合わせに限定されず、たとえば、油圧もしくは空気圧または電磁力などのエネルギーを往復運動に変換する各種のアクチュエータなどが、蒸発源3を動かすために用いられてもよい。その他にも、蒸発源3を動かすために、ステッピングモーター、および/または、サーボモーターなどのモーターを駆動源として用いる、半導体製造装置もしくはフラットパネルディスプレイ製造装置に用いられている一般的な搬送ロボットが用いられてもよい。また、蒸発源3に代えて、または蒸発源3に加えて、基板ホルダー2およびマスクホルダー4が、先に例示した蒸発源3の移動機構と同様の機構を用いて上下いずれかの方向に動かされてもよい。なお、蒸発源3全体が上下いずれかの方向に移動する場合、送気管311は伸縮自在な構造に形成される。また、蒸発源3において、噴射部32だけが上下いずれかの方向に移動し、蒸発部31は固定されていてもよい。その場合、噴射部32と蒸発部31との間は、伸縮可能な構造を有する中継部33によって連結される。
【0023】
成膜装置1では、上述した一例の構成を有する蒸発源3において気化または昇華した蒸着材料が、基板ホルダー2に保持された基板Sの被蒸着面Saに向って噴射される。それと共に、蒸発源3(少なくとも噴射部32)が、基板ホルダー2に対して上方(または下方)に相対的に移動する。噴射部32が基板Sの下端部(または上端部)から、その反対の端部に達するまで、蒸発源3が基板ホルダー2に対して相対的に移動することによって、被蒸着面Saの全面に蒸着膜が成膜される。
【0024】
基板ホルダー2は、被蒸着面Saを所定の向きに向けて基板Sをチャンバ11内の所定の位置に水平面に対して立てた状態で保持し得る任意の構造を有し得る。
図1の例では、基板Sに対する位置決めおよび落下防止のためのストッパ23が基板ホルダー2に設けられている。基板ホルダー2には、さらに、基板Sを基板ホルダー2の所定の位置に固定するための任意の手段が設けられ得る。また、
図1および
図2には示されていないが、基板Sと、金属製のフレームなどを有し得る蒸着マスクMとを密着させる、永久磁石もしくは電磁石、あるいはその両方を備えた磁気プレートが、基板ホルダー2における蒸着マスクMを向く面と反対面に設けられていてもよい。
【0025】
基板ホルダー2は、基板Sの上端が蒸発源3から離れる向きに基板Sを鉛直面Vに対して傾けて保持するように構成されている。そのため被蒸着面Saが僅かながら上方を向き、その結果、被蒸着面Saに重ねられる蒸着マスクMと被蒸着面Saとの密着状態が、重力による助勢を受けて安定して維持し得る。被蒸着面Saは、基板Sが鉛直面に対して傾いた状態で保持されるため、鉛直面との間に所定の角度を有している。被蒸着面Saと鉛直面とがなす角度は、たとえば、3°以上、10°以下であり、好ましくは、4°以上、6°以下である。この角度が10°を超えると、成膜装置1の設置面積に関して基板3を立てた状態で蒸着を行うメリットが十分に得られ難く、この角度が3°未満であると、蒸着マスクMと基板Sとの密着状態に寄与し得る重力作用が得られ難いと考えられる。
【0026】
一方、被蒸着面Saが鉛直面に対して傾いているため、蒸着源3の噴射部32と、被蒸着面Saにおいて噴射部32と水平方向において対向する部分との距離D(以下、単に「水平距離D」とも称される)は、蒸発源3の移動に応じて変化する。具体的には、水平距離Dは、基板Sの下端に近いほど短く、上端に近いほど長い。このように、基板Sにおける上部と下部とで水平距離Dが相違するため、基板Sの上部と下部とで蒸着条件が変動し、その結果、成膜される蒸着膜の膜厚が、基板Sの下端に近いほど厚くなり、上端に近いほど薄くなる可能性がある。しかし、本実施形態の成膜装置1は、このような基板Sの傾きに基づく被蒸着面Saにおける膜厚の変動を少なくする調整手段(以下、単に「膜厚調整手段」とも称される)を備えている。成膜装置1は、このような膜厚調整手段を備えているため、被蒸着面Saの全面にわたって均一性の高い膜厚を有する蒸着膜を形成することができる。
【0027】
膜厚調整手段は、蒸着膜の成膜において、基板Sの傾きに基づいて生じ得る膜厚の変動を少なくするものであれば、その構造および手法などについて限定されない。
図1および
図2の例では、蒸発源3から噴射される蒸着材料の噴射量を基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて変化させる噴射量調整部(第1噴射量調整部34および第2噴射量調整部35)が、膜厚調整手段として備えられている。
【0028】
第1噴射量調整部34は、蒸発源3の中継部33に備えられている。第1噴射量調整部34は、たとえば、中継部33における蒸着材料の流量を変化させるバルブによって構成され、中継部33における蒸着材料の流量を変化させる。すなわち、第1噴射量調整部34を構成するバルブの開閉度が調整されることによって、蒸発部31から噴射部32に流れる蒸着材料の流量が変化し、その結果、噴射部32から噴射される蒸着材料の噴射量が調整され得る。
【0029】
第2噴射量調整部35は、送気管311に設けられている。第2噴射量調整部35は、たとえば、送気管311の管内を流れるキャリアガスの流量を変化させるバルブによって構成される。第2噴射量調整部35を構成するバルブの開閉度が調整されることによって、キャリアガスの流量が調整され、その結果、蒸発源3からの蒸着材料の噴射量および噴射時の速度が調整され得る。なお、膜厚調整手段として機能する噴射量調整部は、蒸発源3内での蒸着材料の流量または蒸発源3からの噴射量を調整できるものであれば、
図2に例示される第1および第2の噴射量調整部34、35に限定されない。噴射量調整部は、噴射される前の蒸着材料が通る流路内の任意の位置に設けられ得る。
【0030】
本実施形態の成膜装置1には、膜厚調整手段として、蒸発源3の基板ホルダー2に対する上下方向における相対移動の速度を、基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて変化させる変速手段が備えられていてもよい。
図1および
図2の例では、前述したように、駆動部13の動作を制御することによって蒸発源3の移動速度を調整することができる。駆動部13が前述したようにモーターなどで主に構成される場合、駆動源13は、供給される電力に応じてモーターの回転速度を変更し得る。従って、駆動部13が、前述した膜厚調整手段として機能する変速手段であってもよい。また、駆動部13を構成するモーターの回転シャフトと支柱12との間にギアボックス(図示せず)が設けられてもよく、変速手段はこのギアボックスのような変速機構であってもよい。また、前述したように、アクチュエータなどが蒸発源3を移動させるために用いられる場合、このアクチュエータが変速手段であってもよい。膜厚調整手段となり得る変速手段は、蒸発源3と基板ホルダー2との間の上下方向における相対移動の速度を変更し得るものであれば、これらの例に限定されず、任意の機構および手法が用いられ得る。
【0031】
図2に示されるように成膜装置1は、制御部51をさらに備えている。制御部51によって、前述した第1噴射量調整部34および第2噴射量調整部35それぞれを構成するバルブの開閉度が調整され得る。また、制御部51によって、駆動部13の動作が制御される。すなわち、駆動部13がモーターまたはアクチュエータなどで主に構成される場合、制御部51によって、そのモーターへの供給電力、またはアクチュエータに供給されるエネルギーの量が制御される。制御部51は図示されない電力供給源を介して、駆動部13への供給電力を制御してもよい。また、駆動部13が図示されないギアボックスなどを有している場合、制御部51によってギアボックスの変速比が制御され得る。制御部51は、たとえば制御部51自身もしくは外部の記憶装置(図示せず)に書き込まれた制御プログラムに従って、第1および第2の噴射量調整部34、35におけるバルブの開閉度ならびに駆動部13の動作を調整し得る。制御部51は、成膜装置1の使用者の操作に基づいて、これらの調整を行ってもよい。制御部51は、たとえば、マイコンなどの半導体装置で主に構成され得る。
【0032】
制御部51は、たとえば、蒸発部31に取付けられた位置センサ(図示せず)の出力、および、予め記憶している基板ホルダー2の位置情報から、基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対的な高さを把握する。そして、この高さに基づいて、第1および第2の噴射量調整部34、35におけるバルブの開閉度ならびに駆動部13の動作などを調整する。基板ホルダー2が上下に移動し得るように設けられている場合、図示されない位置センサは、好ましくは、基板ホルダー2にも取り付けられる。また、制御部51は、駆動部13の作動時間および作動方向(たとえばモーターの回転方向)に基づいて、蒸発源3の移動距離、および基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対的な高さを推定してもよい。そして制御部51は、この推定した高さに基づいて、各噴射量調整部および駆動部13の動作を調整してもよい。
【0033】
このように制御部51が第1および第2の噴射量調整部34、35の動作を調整することによって、第1および第2の噴射量調整部34、35は、基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて、蒸発源3から噴射される蒸着材料の噴射量を変化させることができる。同様に、基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて、駆動部13が、基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対移動の速度を変化させることができる。なお、各噴射量調整部および駆動部13が、制御部51について前述された機能を備えていてもよい。
【0034】
第1および第2の噴射量調整部34、35を構成するバルブは、噴射部32が基板Sの下端部付近に位置しているときよりも上端部付近に位置しているときに蒸着材量の噴射量が多くなるように開閉度を調整される。各噴射量調整部は、好ましくは、蒸発源3の上方への相対移動に伴って、蒸発源3の移動量に対してリニアにまたは段階的に蒸着材料の噴射量が増えるように制御される。また、各噴射量調整部は、好ましくは、蒸発源3の下方への相対移動に伴って、蒸発源3の移動量に対してリニアにまたは段階的に蒸着材料の噴射量が減るように制御される。
【0035】
膜厚調整手段として機能する変速手段は、噴射部32が基板Sの下端部付近に位置しているときよりも上端部付近に位置しているときに蒸発源3の相対移動の速度が遅くなるように制御される。この変速手段は、好ましくは、蒸発源3の上方への相対移動に伴って、蒸発源3の移動量に対してリニアにまたは段階的に、蒸発源3の相対移動の速度が遅くなるように制御される。また、変速手段は、好ましくは、蒸発源3の下方への相対移動に伴って、蒸発源3の移動量に対してリニアにまたは段階的に、蒸発源3の相対移動の速度が速くなるように制御される。
【0036】
成膜装置1は、さらに、基板ホルダー2に保持された基板Sと蒸発源3とを水平方向(
図1の+X方向および−X方向)において近接または離隔させる、蒸発源3および基板ホルダー2のいずれかまたは両方に対する移動手段を備えていてもよい。
図1の例では、蒸発源3に対する移動手段14a、および、基板ホルダー2に対する移動手段14bが備えられている(なお、
図2では、見易さのために移動手段14a、14bの記載は省略されている)。蒸発源3の移動手段14aは、鉛直面に対して傾けずに基板ホルダー2に保持されている基板Sの被蒸着面Saに直交する方向(
図1の+X方向および−X方向)において、駆動部13および支柱12と共に、蒸発源3を移動させる。移動手段14bは、
図1の+X方向および−X方向において、マスクホルダー4と共に、基板ホルダー2を移動させる。移動手段14a、14bは、
図1には概略的に示されているが、蒸発源3の上下方向の移動に関して前述したように、たとえば、モーターなどとボールネジとの組み合わせ、または、各種のアクチュエータなどで構成され得る。しかし、移動手段14a、14bは、蒸発源3および/または基板ホルダー2を水平方向において移動し得る任意の機構であってよい。
【0037】
移動手段14a、14bは、制御部51(
図2参照)によって、その動作を制御され得る。従って、移動手段14a、14bは、基板ホルダー2に対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて、基板ホルダー2に保持された基板Sと蒸発源3とを水平方向において近接または離間させ得る。成膜装置1は、このような移動手段14a、14bを、膜厚調整手段として備えていてもよい。移動手段14a、14bは、制御部51によって必ずしも制御されずともよく、移動手段14a、14bが制御部51の機能を備えていてもよい。
【0038】
移動手段14a、14bは、たとえば、噴射部32が基板Sの下端部付近に位置しているときよりも上端部付近に位置しているときに、蒸発源3と基板Sとを近接させる。移動手段14a、14bは、好ましくは、蒸発源3の上方への相対移動に伴って、蒸発源3の移動量に対してリニアに、または段階的に、蒸発源3と基板Sとを水平方向において近接させる。また、移動手段14a、14bは、好ましくは、蒸発源3の下方への相対移動に伴って、蒸発源3の移動量に対してリニアに、または段階的に、蒸発源3と基板Sとを水平方向において離隔させる。より好ましくは、移動手段14a、14bは、蒸発源3の基板ホルダー2に対する相対移動において、噴射部32が基板Sの上端部または下端部からその反対の端部に達するまでの間、水平距離Dがほぼ一定となるように、基板ホルダー2と蒸発源3とを水平方向において近接または離間させる。
【0039】
成膜装置1は、
図1および
図2には示されていないが、蒸着マスクMと基板Sとの位置合わせのための機構を有していてもよい。
図3には、そのような位置合わせの機構の一例であるアライメント部6が示されている。アライメント部6によって、マスクホルダー4に保持された蒸着マスクMと基板ホルダー2に保持された基板Sの位置合わせが行われる。
図3に例示されるアライメント部6は、鉛直方向調整部61と、水平方向調整部62と、カメラ63と、アライメント制御部64とを備えている。鉛直方向調整部61は、基板Sと蒸着マスクMとが対向する方向(
図3のX方向)に直交する鉛直方向(
図3の例ではZ方向)において基板ホルダー2を移動させ、水平方向調整部62は、X方向およびZ方向と直交する水平方向(
図3のY方向)においてマスクホルダー4を移動させる。鉛直方向調整部61および水平方向調整部62は、たとえば、前述した蒸発源3に対する移動手段14aなどと同様に、任意のアクチュエータまたはモーターなどで構成され得る。基板ホルダー2およびマスクホルダー4は、これらの各方向調整部61、62を介して、チャンバ11(
図1および
図2参照)に組み付けられていてもよい。
【0040】
カメラ63は、蒸着マスクMおよび基板Sに設けられたマークM1、S1、または、蒸着マスクMに形成された開口M2および基板Sに形成されている各画素の区画(図示せず)などを撮影する。アライメント制御部64は、カメラ63で撮影された画像に基づいて、たとえばマークM1とマークS1とが重なるように鉛直方向調整部61および水平方向調整部62に基板ホルダー2およびマスクホルダー4を移動させ、位置合わせを実行する。その後、蒸着マスクMが被蒸着面Saに重ねられる。そして、
図3の例では、基板ホルダー2における蒸着マスクMを向く面と反対面に設けられる磁気プレート41によって、金属フレームなどを含む蒸着マスクMが吸着され、蒸着マスクMと基板Sとが密着される。アライメント制御部64と、
図2に例示される制御部51は、好ましくは連携して動作し得るように構成される。たとえば、制御部51によって、アライメント部6の動作が制御されてもよい。なお、アライメント部6の構成は、
図3に示される構成に限定されない。たとえば、基板ホルダー2およびマスクホルダー4のいずれかまたは両方に、鉛直方向調整部61および水平方向調整部62の両方が設けられていてもよい。
【0041】
先に参照した
図1および
図2の例では、基板ホルダー2は第1保持部21および第2保持部22を備えている。この場合、アライメント部6は、二つの保持部に保持される基板Sそれぞれについて蒸着マスクMとの間の位置合わせを実行する。好ましくは、二つの保持部に保持される基板Sそれぞれについて、アライメント部6が備えられる。
【0042】
チャンバ11内には、二つのエリアがあり、各エリアで、基板Sと蒸着マスクMとの位置合わせが実行され、蒸発源3を用いて蒸着膜が成膜される。
図1および
図2の例のように、二つのエリアにおいて一つの蒸発源3が共有されてもよい。各エリアにおいて、前述したような手順で基板Sの位置合わせが行われ、その後、成膜が実行される。好ましくは、一方のエリアでの蒸着中に他方のエリアでアライメントが行われる。このように、二つのエリアで交互に連続的に蒸着が行われると、効率的に蒸着膜が成膜される。また、蒸発源3には、両方のエリアそれぞれを向くノズル(第1および第2のノズル321、322)が備えられており、好ましくは、現に蒸着材料を噴射するノズルが適宜切り換えられる。
【0043】
図4Aおよび
図4Bを参照して、
図1などの例のように二つの基板Sが保持される成膜装置1における、各基板Sへの蒸着膜の形成時の動作の一例を説明する。
図4Aには、左側の第1保持部21に保持された基板Sに蒸着材料が噴射される過程が模式的に示され、
図4Bには、右側の第2保持部22に保持された基板Sに蒸着材料が噴射される過程が模式的に示されている。
図4Aおよび
図4Bでは、
図1または
図2に示されている支柱12、駆動部13、移動手段14a、14b、噴射部32以外の蒸発源3の構成要素、および制御部51は省略されている。
【0044】
図4Aに示される過程では、蒸発源3(
図1参照)の噴射部32は、基板ホルダー2に対して上方に相対移動しながら、第1保持部21に保持された基板Sに対して蒸着材料を噴射している。一方、
図4Bに示される過程では、蒸発源3の噴射部32は、基板ホルダー2に対して下方に相対移動しながら、第2保持部22に保持された基板Sに対して蒸着材料を噴射している。すなわち、蒸発源3は、第1保持部21に保持された基板Sに向って蒸着材料を噴射するときに基板ホルダー2に対して上方(第1方向)に移動し、第2保持部22に保持された基板Sに向って蒸着材料を噴射するときには、基板ホルダー2に対して第1方向と上下に関して逆方向(下方)に移動している。
【0045】
このように、上方および下方のいずれへの相対移動においても二つの基板Sのいずれかに蒸着材料を噴射することによって、効率よく蒸着膜を形成することができる。蒸発源3は、上方または下方への相対移動において、両方の基板Sに蒸着材料を同時に噴射してもよい。しかし、一つの方向への移動および蒸着材料の噴射後、その逆方向への移動の前に、基板Sの交換のための待ち時間が発生し得るため、そのような噴射形態は、必ずしも効率的でないことがある。また蒸着材料の空費防止の点では、待ち時間の間、蒸着材料の噴射を停止することが好ましいが、その場合、噴射の再開当初に、噴射量が不安定となって膜厚にムラが生じる恐れがある。また、同時に二つの基板Sに向って蒸着材料を噴射するには、蒸発部31(
図1参照)において単位時間に気化または昇華させるべき蒸着材料の量が多くなり、より多くのエネルギーが必要となり得る。そのため、
図4Aおよび
図4Bの例のように蒸着材料を噴射することによって、空費を少なくしながら蒸着材料を連続的に噴射し続けることが好ましい。
【0046】
なお、
図4Aおよび
図4Bに示される蒸着過程それぞれにおいて、前述した膜厚調整手段によって、形成される蒸着膜の膜厚の変動が少なくされる。たとえば、
図4Aに示される過程では、第1噴射量調整部34および第2噴射量調整部35によって、噴射部32からの噴射量が徐々に多くされる。また、駆動部13(
図2参照)によって、噴射部32の相対移動の速度が徐々に遅くされてもよい。また、移動手段14a、14b(
図1参照)によって、噴射部32と基板Sとが水平方向において近接されてもよい(
図4Aにおける矢印A参照)。一方、
図4Bに示される蒸着過程では、
図4Aに示される蒸着過程における膜厚調整手段による調整と逆方向の調整が行われることによって、蒸着膜の膜厚の変動が少なくされる。
【0047】
図4Aおよび
図4Bに示される例では、第1保持部21および第2保持部22のいずれかに保持された基板Sに向って蒸着材料が噴射されている間に、蒸着材料が噴射されていない基板Sにおいて、アライメント部6(
図3参照)による、位置合わせが行われている。すなわち、一方の保持部に保持された基板Sへの蒸着材料の噴射中に、他方の保持部に保持されて既に蒸着膜が形成された基板Sが、蒸着マスクMと共に噴射部32(蒸発源3)から遠ざけられ、磁気プレート41と共に蒸着マスクMから引き離される。そして、その基板Sに代えてチャンバ11内に導入された新たな基板Sについて、蒸着マスクMとの位置合わせが実行され、磁気プレート41を用いてその新たな基板Sと蒸着マスクMとが密着される。このように、二つの基板Sの一方に対する蒸着材料の噴射と、他方の基板Sに対する蒸着の準備とを並行して行うことによって、蒸発源3の待機時間を少なくすることができ、いっそう効率よく蒸着膜を形成することができる。成膜装置1では、前述したように、駆動部13などを制御する制御部51(
図1参照)とアライメント制御部64は、連携するように構成されてもよい。従って、
図4Aおよび
図4Bに示されるような、蒸着材料の噴射と連動した、蒸着マスクMと基板Sとの位置合わせの実行も可能となり得る。
【0048】
なお、
図4Aおよび
図4Bの例では、噴射部32(蒸発源3)と、位置合わせが行われている基板Sおよび蒸着マスクMとの間には、遮蔽体15が設けられている。すなわち、蒸着材料の噴射が行われる蒸着領域と、基板Sと蒸着マスクとの位置合わせが行われる領域との間に、遮蔽体15による仕切りが設けられ、チャンバ11内が二つのエリアに仕切られている。従って、位置合わせ中の基板Sへの蒸着材料の意図せぬ付着が防がれ得る。遮蔽体15は、たとえば、巻き取り可能なシャッターまたはロールスクリーンなどの可動性を有する任意の部材によって構成され得る。
【0049】
図4Aおよび
図4Bに示されるように蒸発源3の両側に保持された二つの基板Sに対して一つずつ蒸着材料が噴射される場合、蒸発源3は、二つの基板Sそれぞれに向けられているノズルからの噴射を適宜切り換えられる構造を備えていることが好ましい。すなわち、蒸発源3は、蒸着材料の噴射およびその停止について、二つの基板Sそれぞれに向けられているノズル毎に制御可能であることが好ましい。そうすることによって、蒸着材料の空費を抑制することができる。
図5A〜
図5Cには、そのような蒸発源の一例である蒸発源3aが模式的に示されている。
図5Aは、
図2と同様に、成膜装置1の側面図における蒸発源3aを示し、
図5Bは、
図1と同様に、成膜装置1の正面図における蒸発源3aを示している。
図3Cは、蒸発部(坩堝)31a、および、バルブ部36の内部構造を模式的に示している。なお、
図5A〜
図5Cの例は、キャリアガスを用いない蒸発源3aの例であり、
図1および
図2に示される送気管311は設けられていない。そのため、蒸発源3aはシンプルな構造で実現され得る。
【0050】
図5Aおよび
図5Bに示されるように、蒸発源3aは、三つの蒸発部(坩堝)31a〜31c、および六つの噴射部(ノズル部)3aa〜3afを備えている。噴射部3aa〜3acは、たとえば基板ホルダー2の第1保持部21(
図1参照)に向けられており、噴射部3ad〜3afは、たとえば第2保持部22(
図1参照)に向けられている。噴射部3aa〜3acでは、噴射部3aaを最下層として、その上に噴射部3abが積層され、さらに噴射部3acが積層されている。同様に、噴射部3adを最下層として、その上に噴射部3aeが積層され、さらに噴射部3afが積層されている。噴射部3aa〜3acは、それぞれ、第1保持部21に保持されている基板S(
図1参照)に向かって開口する複数の第1ノズル321を有している。また、
図5Aには示されていないが、噴射部3ad〜3afは、それぞれ、第2保持部22に保持される基板Sに向かって開口する複数の第2ノズル322(
図2参照)を有している。第1ノズル321および第2ノズル322は、それぞれ、基板S上に成膜される蒸着膜における膜厚の均一性などを考慮して設計されたノズル径を有する。
図5Aの例では、中層に位置する噴射部3abにおける第1ノズル321は、下層に位置する噴射部3aaおよび上層に位置する噴射部3acそれぞれにおける第1ノズル321よりも小さいノズル径を有している。図示されていないが、噴射部3aeにおける第2ノズル322は、噴射部3adおよび噴射部3afそれぞれにおける第2ノズル322よりも小さいノズル径を有している。このようなノズル径の設定によって、膜厚の均一な蒸着膜の形成が容易になる。
【0051】
複数の蒸発部31a〜31cのそれぞれは、複数の中継管33a〜33fのうちの二つを介して複数の噴射部3aa〜3afのうちの二つに接続されている。具体的には、蒸発部31aは、中継管33aを介して下層の噴射部3aaに、中継管33dを介して同様に下層の噴射部3adに接続されている。また、蒸発部31bは、中継管33bを介して中層の噴射部3abに、中継管33eを介して同様に中層の噴射部3aeに接続されている。また、蒸発部31cは、中継管33cを介して上層の噴射部3acに、中継管33fを介して同様に上層の噴射部3afに接続されている。各中継管には、バルブ部36が設けられている。また、各噴射部の側方には、各噴射部からの蒸着材料の噴射量をモニタする検出器37が設けられている。検出器37は、たとえば、CCDなどを含む撮像装置、ならびに画像処理装置などによって構成されるが、検出器37は任意の構成を有し得る。蒸発部31a〜31c、噴射部3aa〜3af、中継管33a〜33f、バルブ部36および検出器37は、たとえば一体的に基板ホルダー2(
図1参照)に対して上下方向に相対移動し、基板Sの全面に蒸着膜が成膜される。
【0052】
バルブ部36は、
図1および
図2の例の第1噴射量調整部34と同様に膜厚調整手段として機能し得る。すなわち、噴射部3aa〜3afそれぞれから噴射される蒸着材料の噴射量がバルブ部36によって調整される。好ましくは、検出器47の検知結果が噴射量の調整に用いられる。
図5Cに示されるように、バルブ部36は、中継管(
図5Cには、中継管33aが例示されている)の管内に設けられた通気孔を閉塞するバルブ36aを備えている。蒸発部(坩堝)31aには蒸着材料Gが収納されており、坩堝内で加熱されることによって気化または昇華し、噴射部3aaなどに向かう蒸着材料Gの流量が、バルブ36aの開閉度の制御によって調整される。図示されていないが、たとえばバルブ36aは制御部51(
図2参照)に接続されており、制御部51によってバルブ36aの開閉度が制御される。また、坩堝の周囲、ならびに、バルブ部36および各中継管の周囲には、たとえばジュール熱を発生させるヒータ(図示せず)が設けられている。バルブ部36および各中継管を加熱、好ましくは坩堝よりも高温に加熱することによって、バルブ36aおよび各中継管の内壁などへの蒸着材料Gの付着を防止することができる。
【0053】
また、たとえば基板ホルダー2の第1保持部21(
図1参照)に保持された基板Sに向って噴射部3aa〜3acから蒸着材料が噴射されるときは、バルブ36aによって、中継管33d〜33fが閉塞される。その結果、第2ノズル322(
図1参照)からの蒸着材料の噴射が停止される。そして、たとえば基板ホルダー2の第2保持部22(
図1参照)に保持された基板Sに向って噴射部3ad〜3afから蒸着材料が噴射されるときは、バルブ36aによって、中継管33a〜33cが閉塞され、第1ノズル321からの蒸着材料の噴射が停止される。このように、蒸発源3aは、第2ノズル322から蒸着材料が噴射されるべきときに第1ノズル321からの噴射を停止させる部材(バルブ36a)と、第1ノズル321から蒸着材料が噴射されるべきときに第2ノズル322からの噴射を停止させる部材(バルブ36a)とを備えている。なお、蒸発源3aのように、第1ノズル321と第2ノズル322からの噴射を適宜切り換えられる構造を有する蒸発源、ならびに、キャリアガスを用いない蒸発源は、
図5Aなどの例のように、3層構造の噴射部および/または三つの蒸発部(坩堝)を備えていなくてもよい。すなわち、このような蒸発源においても、任意の数の坩堝および噴射部が備えられ得る。
【0054】
なお、成膜装置1は、
図1などの例と異なり、基板Sを一つだけ保持する基板ホルダー2を備えていてもよい。その場合、マスクホルダー4は、蒸着マスクMを一つ保持し得るように構成されていればよく、蒸発源3は、その一つの基板Sに向けて蒸着材料を噴射するノズルを備えていればよい。
【0055】
〔蒸着膜の成膜方法〕
つぎに、第2実施形態の蒸着膜の成膜方法を、第1実施形態の成膜装置1を用いて成膜する場合を例に、先に参照した各図面を再度参照しながら説明する。本実施形態の蒸着膜の成膜方法は、
図1および
図2に示されるように、蒸着膜が成膜されるべき被蒸着面Saを有する基板Sを水平面に対して立たせた状態で蒸着装置(成膜装置1)の中に配置し、基板Sの被蒸着面Saが向く領域に設けた蒸発源3に基板Sに対して少なくとも上下いずれかの方向に相対移動をさせながら、蒸発源3から蒸着材料を噴射することによって被蒸着面Saに蒸着材料を堆積させることを含んでいる。本実施形態の蒸着膜の成膜方法では、蒸着材料を噴射する際に、基板Sの上端が蒸発源3から離れる向きに、基板Sを鉛直面に対して傾けた状態で保持する。そして、基板Sの傾きに基づく被蒸着面Saにおける蒸着効率の差異を補うことによって蒸着膜の膜厚の変動を少なくしながら蒸着材料を堆積させる。各工程の具体例などが以下に示される。
【0056】
まず、基板Sが、高真空状態(10
-3Pa〜10
-4Pa程度)に排気されたチャンバ11内に図示されない搬送ロボットなどを用いて搬入され、基板ホルダー2に保持されたうえで、水平面に対して立たせた状態でチャンバ11内に配置される。本実施形態の蒸着膜の成膜方法では、二つの基板S(第1基板および第2基板)を被蒸着面Sa同士が対向するように蒸着装置のチャンバ11の中に配置し、二つの基板Sに対する相対移動をこれら二つの基板Sの間において蒸発源3にさせながら、蒸着材料を噴射させてもよい。そうすることによって、二つの基板Sに効率よく成膜できることがある。また、有機EL表示装置において発光層を構成する有機膜の成膜などでは、所定の開口を有する蒸着マスクMが用いられるため、その場合、本実施形態の蒸着膜の成膜方法は、蒸着マスクMと基板Sとを位置合わせしたうえで重ね合せることをさらに含んでいてもよい。以下の説明では、
図1および
図2の例のように、二つの基板Sが蒸着装置内に配置され、かつ、蒸着マスクMが用いられる場合を例に本実施形態の蒸着膜の成膜方法が説明される。しかし、本実施形態の蒸着膜の成膜方法では、基板Sが一つだけ蒸着装置内に配置されてもよい。また、本実施形態の蒸着膜の成膜方法は、蒸着マスクを用いない、たとえば被蒸着面Saの全面に(非選択的に)蒸着膜を形成する場合においても有効である。
【0057】
蒸着マスクMと基板Sとは、たとえば、前述したアライメント部6(
図3参照)を用いて位置合わせされる。その後、蒸着マスクMが被蒸着面Sa上に重ねられ、磁気プレート41などを用いて蒸着マスクMと基板Sとが密着される。基板Sは、チャンバ11内に導入された後、蒸着材料の噴射開始までの任意の時機に、基板Sの上端が蒸発源3から離れる向きに鉛直面に対して傾けられる。基板Sは、被蒸着面Saと鉛直面とが、たとえば3°以上、10°以下、好ましくは4°以上、6°以下の角度をなすように、鉛直面に対して傾けられる。
【0058】
図4Aおよび
図4Bに示されるように、蒸発源の噴射部32から蒸着材料が基板Sに向って噴射される。蒸発源3(
図1参照)内の図示されない坩堝などに供給された固体の蒸着材料が加熱されることによって気化または昇華し、噴射部32から噴射される。蒸発源3は、蒸着材料の噴射と共に、基板Sに対して少なくとも上下いずれかの方向に相対移動をさせられる。
図1および
図2に例示される成膜装置1において蒸着膜が形成される場合、駆動部13を作動させることによって、蒸発源3を基板Sに対して上下いずれかの方向に相対移動させることができる。このような蒸着材料の噴射および蒸発源3の移動によって被蒸着面Saに蒸着材料が堆積し、その結果、被蒸着面Saに蒸着膜が形成される。なお、
図1および
図2の例と異なり、基板ホルダー2を上下いずれかの方向に移動させることによって、または、基板ホルダー2および蒸発源3の両方を移動させることによって、蒸発源3を基板ホルダー2に対して相対移動させてもよい。
【0059】
本実施形態の蒸着膜の成膜方法では、基板Sが鉛直面に対して傾けて保持されていることに伴う被蒸着面Saにおける蒸着効率の差異を補うことによって、蒸着膜の膜厚の変動を少なくしながら蒸着材料を堆積させる。すなわち、被蒸着面Saが鉛直面に対して傾いているために、前述した水平距離D(
図1参照)が基板Sにおける上部と下部とで相違し、その影響で基板Sの上部と下部とで蒸着効率に差異が生じる。その結果、成膜される蒸着膜の膜厚が、基板Sの下部と上部との間で変動する。通常、蒸着膜の膜厚は、基板Sにおいて水平距離Dが短い下側で厚くなり、水平距離Dが長い上側で薄くなる。本実施形態の成膜方法は、この蒸着効率の差異を補うことを含んでいる。
【0060】
この蒸着効率の差異を補う方法は、結果的に蒸着膜の膜厚の変動が少なくなるものであれば特に限定されないが、前述した第1実施形態の成膜装置1の説明において膜厚調整手段に関して説明された膜厚の調整方法が用いられ得る。すなわち、基板Sに対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて、蒸発源3からの蒸着材料の噴射量を変化させることによって蒸着効率の差異が補われてもよい。第1実施形態の成膜装置1が用いられる場合、第1噴射量調整部34および第2噴射量調整部35のいずれかまたは両方を調整することによって、蒸発源3からの蒸着材料の噴射量を調整することができる。しかし、蒸発源3からの蒸着材料の噴射量を調整する方法は、第1および第2の噴射量調整部34、35の調整に限定されない。たとえば、蒸発源3内の坩堝の温度を変化させることによって、単位時間に気化または昇華する蒸着材料の量を変化させてもよい。
【0061】
また、蒸発源3における基板Sに対する相対的な高さに基づいて蒸発源3の基板Sに対する相対移動の速度を変化させることによって蒸着効率の差異が補われてもよい。たとえば、
図2に例示される成膜装置1における駆動部13を蒸発源3の基板Sに対する相対的な高さに基づいて制御することによって、蒸発源3の相対移動の速度が変えられてもよい。蒸発源3の相対移動の速度は、各種のアクチュエータなどのように蒸発源3を移動させる任意の駆動源を制御することによって変えられてもよい。また、基板Sが上下方向に移動可能に保持されている場合は、基板Sに対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて基板Sの移動速度を変化させることによって蒸発源3の相対移動の速度が変えられてもよい。
【0062】
また、蒸発源3における基板Sに対する相対的な高さに基づいて基板Sと蒸発源3とを水平方向において近接または離隔させることによって蒸着効率の差異が補われてもよい。たとえば、
図1に示される成膜装置1における移動手段14a、14bのように基板Sおよび蒸発源3のいずれかまたは両方を水平方向において移動させることが可能な任意の手段を用いて、基板Sと蒸発源3とを水平方向において近接または離隔させることができる。蒸発源3が基板Sの下端部付近に位置しているときに、上端部付近に位置しているときよりも基板Sと蒸発源3とが水平方向において遠ざけられる。そして、蒸発源3が基板Sの上端部付近に位置しているときに、下端部付近に位置しているときよりも基板Sと蒸発源3とが水平方向において近付けられる。蒸発源3が基板Sの下端部または上端部から、その反対の端部に移動するまでの間、水平距離D(
図1参照)がほぼ一定となるように、蒸発源3の基板Sに対する相対的な高さに応じて、基板Sと蒸発源3とが近接または離隔されることが好ましい。
【0063】
図6Aには、蒸着材料の噴射量を変化させることによって膜厚の変動が抑制される場合の噴射量の調整方法の例が示されている。
図6Aの横軸は基板Sに対する蒸発源3の相対的な高さを示しており、縦軸は蒸着材料の噴射量を示している。
図6Aに示される符号T1〜T3をそれぞれ付された3つの線は、蒸発源3の高さに応じて調整される噴射量の変化を示している。蒸発源3の位置が高くなると、蒸発源3と蒸着面Saとの水平距離D(
図1参照)が長くなり、蒸着効率が低下するため、噴射量変化T1〜T3のいずれにおいても、蒸発源3の高さが高くなるほど、噴射量が増加している。
【0064】
噴射量変化T1では、蒸発源3の上昇に伴ってリニアに噴射量が増やされている。噴射量変化T2では、噴射量は段階的に増やされている。このような段階的な調整の場合、リニアに噴射量が調整される場合よりも制御が容易なことがある。また噴射量変化T3では、蒸発源3の高さが高くなるほど、噴射量の増加率が高められており、噴射量の変化が
図6Aにおいて曲線を描いている。蒸発源3の上昇に伴って薄くなる膜厚の変化率が高まる場合には、噴射量の増加率も蒸発源3の上昇に伴って高められることが好ましい。さらに、本実施形態のような膜厚変動の抑制が行われない場合における蒸発源3の高さに応じた膜厚の変化が相殺されるように、噴射量と膜厚との関係、および蒸発源3の高さに基づいて蒸着材料の噴射量を変更することが、より好ましい。しかし、本実施形態において蒸発源3の相対的な高さに基づく噴射量の変化態様は任意である。
【0065】
図6Bには、基板Sに対する蒸発源3の相対的な移動速度を変化させることによって膜厚の変動が抑制される場合の移動速度の調整方法の例が示されている。
図6Bの横軸は基板Sに対する蒸発源3の相対的な高さを示しており、縦軸は蒸発源3の相対的な移動速度を示している。
図6Bに示される符号T4〜T6をそれぞれ付された3つの線は、蒸発源3の高さに応じて調整される蒸発源3の移動速度の変化を示している。蒸発源3の位置が高くなると蒸着効率が低下するため、移動速度変化T4〜T6のいずれにおいても、蒸発源3の高さが高くなるほど、移動速度が低下している。蒸発源3がゆっくり移動することによって多くの蒸着材料を堆積させることができる。
【0066】
図6Bの移動速度変化T4〜T6に示されるように、蒸発源3の移動速度も、蒸発源3の高さに応じて任意の変化態様で変化させることができる。たとえば、蒸発源3の上昇に伴って薄くなる膜厚の変化率が増加する場合には、移動速度変化T6のように、移動速度の低減率を蒸発源3の上昇に伴って高めることが好ましい。さらに、本実施形態のような膜厚変動の抑制が行われない場合における蒸発源3の高さに応じた膜厚の変化が相殺されるように、移動速度と膜厚との関係、および蒸発源3の高さに基づいて、基板Sに対する蒸発源3の相対移動の速度を変更することが、より好ましい。しかし、本実施形態において蒸発源3の相対的な高さに基づく蒸発源3の移動速度の変化態様は任意である。
【0067】
本実施形態の成膜方法において、
図1などの例のように二つの基板Sがチャンバ11内に配置される場合、蒸発源3から二つの基板Sに同時に蒸着材料が噴射されてもよいが、二つの基板に順順に蒸着材料が噴射されてもよい。たとえば、蒸発源3が上方に移動する際に、二つの基板Sの一方に蒸着材料が噴射され、蒸発源3が下方に移動する際に、二つの基板Sの他方に蒸着材料が噴射されてもよい。すなわち、
図4Aに示されるように、基板ホルダー2の第1保持部21に保持された一方の基板S(第1基板)に向って蒸着材料を噴射する際に蒸発源3を第1基板Sに対して上方(第1方向)に移動させる。そして、
図4Bに示されるように、基板ホルダー2の第2保持部22に保持された基板S(第2基板)に向って蒸着材料を噴射する際に蒸発源3を第2基板Sに対して第1方向と上下に関して逆方向(下方)に移動させる。そうすることによって、第1実施形態の成膜装置1の説明において述べたように、蒸着材料の空費を少なくしながら効率良く二つの基板Sに蒸着膜を形成することができる。
【0068】
また、二つの基板Sがチャンバ11内に配置される場合、
図4Aおよび
図4Bに示されるように、一方の基板S(第1基板)に向って蒸着材料を噴射している間に、他方の基板S(第2基板)と蒸着マスクMとを位置合わせすることが好ましい。同様に、他方の基板S(第2基板)に向って蒸着材料を噴射している間に、一方の基板S(第1基板)と蒸着マスクMとを位置合わせすることが好ましい。このように、蒸着マスクMと基板Sとの位置合わせと、蒸着材料の噴射とを並行して行うことによって、蒸発源3の待機時間を少なくすることができると共に、複数の基板Sに効率よく蒸着膜を形成することができる。
【0069】
〔有機EL表示装置の製造方法〕
つぎに、第3実施形態の有機EL表示装置の製造方法が、
図7および
図8を参照しながら説明される。本実施形態の有機EL表示装置の製造方法では、先に説明した第2実施形態の蒸着膜の成膜方法を用いて有機層の積層膜が形成される。蒸着膜の成膜以外の工程には周知の方法が用いられ得るため、これらの工程の説明は適宜省略または簡略化され、有機層を形成する方法が主に説明される。
【0070】
第3実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板101の上にTFT105、平坦化膜106および第1電極(たとえば陽極)102を形成し、さらに支持基板101上に、前述の第2実施形態の蒸着膜の成膜方法を用いて有機材料を蒸着することによって有機層の積層膜103を形成することを含んでいる。本実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、さらに、積層膜103上に第2電極104(たとえば陰極)を形成することを含んでいる。
【0071】
例えばガラス板などの支持基板101に、各画素のRGBサブ画素ごとにTFT105などの駆動素子が形成され、その駆動素子に接続された第1電極102が、平坦化膜106上に、AgあるいはAPCなどの金属膜と、ITO膜との組み合せにより形成される。サブ画素間には、
図7および
図8に示されるように、サブ画素間を区分するSiO
2またはアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などからなる絶縁バンク107が形成される。このような支持基板101に、たとえば、前述した第1実施形態の成膜装置1を用いて、有機層の積層膜103が形成される。
【0072】
支持基板101は、蒸着膜の成膜装置内で、絶縁バンク107が形成されている被蒸着面101aを蒸発源3が設けられた領域に向けて、水平面に対して立たせた状態で保持される。さらに、支持基板101は、支持基板101の上端が蒸発源3から離れる向きに、鉛直面に対して傾けられる。支持基板101は、成膜装置内に導入された後、蒸着開始までの任意の時点で鉛直面に対して傾けられる。支持基板101をこのように保持する方法を採用することで、支持基板101の大型化に伴う成膜装置における設置面積の増大を少なくすることができ、かつ、安定して支持基板101と蒸着マスクMとを密着させることができる。蒸着マスクMは、支持基板101の絶縁バンク107上に、位置合せをされたうえで重ねられる。たとえば、磁気プレート41(
図3参照)を用いて、金属製フレームなどを有し得る蒸着マスクMと支持基板101とが吸着される。
【0073】
この状態で、
図7に示されるように、蒸発源3から、有機物で主に構成される蒸着材料が噴射される。支持基板101において蒸着マスクMの開口M2に露出する部分のみに蒸着材料が蒸着され、所望のサブ画素の第1電極102上に有機層の積層膜103が形成される。蒸発源3は、蒸着材料の噴射中、支持基板101に対して相対的に上下いずれかの方向に鉛直方向に沿って動かされる。支持基板101は、鉛直面に対して傾けられているため、前述したように、形成される積層膜103の厚さが、支持基板101の下端部から上端部にかけて変動する。本実施形態では、第2実施形態の蒸着膜の成膜方法と同様に、支持基板101の傾きに基づく被蒸着面101aにおける蒸着効率の差異を補うことによって積層膜103の膜厚の変動を少なくしながら、蒸着材料を支持基板101上に蒸着させる。前述したように、支持基板101に対する蒸発源3の相対的な高さに基づいて、たとえば、蒸着材料の噴射量を変えたり、支持基板101に対する蒸発源3の相対移動の速度を変えたり、支持基板101と蒸発源3とを水平方向において近接または離隔させたりすることによって、蒸着効率の差異が補われる。本実施形態の有機EL表示装置の製造方法では、このように蒸着効率の差異が補われるので、被蒸着面101aの全面にわたって均一性の高い膜厚を有する有機層の積層膜103が形成される。従って、本実施形態の有機EL表示装置の製造方法によれば、表示品位のばらつきの少ない有機EL表示装置を製造することができる。
【0074】
図7および
図8では、有機層の積層膜103が単純に1層で示されているが、有機層の積層膜103は、異なる材料からなる複数層の積層膜103で形成されてもよい。たとえば陽極102に接する層として、イオン化エネルギーの整合性の良い材料からなる正孔注入層が設けられる場合がある。この正孔注入層上に、たとえばアミン系材料を用いて正孔輸送層が形成される。さらに、その上に発光波長に応じて選択される発光層が、例えば赤色、緑色に対してはAlq
3に赤色又は緑色の有機物蛍光材料がドーピングされて形成される。また、青色系の材料としては、DSA系の有機材料が用いられる。発光層の上には、さらに電子輸送層がAlq
3などにより形成される。これらの各層がそれぞれ数十nm程度ずつ積層されることによって有機層の積層膜103が形成されてもよい。なお、この有機層と陰極104との間にLiFやLiqなどによって構成される電子注入層が設けられることもあるが、本実施形態では、この電子注入層も含めて、第1電極102と第2電極104との間に形成される層全体が有機層の積層膜103と称されている。
【0075】
全ての有機層の積層膜103の形成後、第2電極104が全面に形成される。製造対象の有機EL表示装置がトップエミッション型の場合、第2電極104は透光性の材料、例えば、薄膜のMg−Ag共晶膜により形成される。その他にAlなどが用いられ得る。なお、製造対象の有機EL表示装置がボトムエミッション型の場合には、第1電極102にITOまたはIn
3O
4などが用いられ、第2電極104には、仕事関数の小さい金属、たとえばMg、K、Li、またはAlなどが用いられ得る。第2電極104の表面には、たとえばSi
3N
4などからなる保護膜108が形成される。さらに、図示しないガラス、耐湿性の樹脂フィルムなどからなるシール層が形成され、有機層の積層膜103への水分の浸透が防止される。一例として以上のような工程を経て、有機EL表示装置が製造され得る。
【0076】
〔まとめ〕
(1)本発明の第1実施形態の成膜装置は、蒸着膜が形成されるべき被蒸着面を有する基板を水平面に対して立たせた状態で保持する基板ホルダーと、前記基板ホルダーに保持された前記基板の前記被蒸着面が向くべき領域に設けられ、前記基板ホルダーに対して少なくとも上下いずれかの方向に相対移動をしながら前記被蒸着面に向って蒸着材料を噴射する蒸発源と、を備え、前記基板ホルダーは、前記基板の上端が前記蒸発源から離れる向きに前記基板を鉛直面に対して傾けて保持すべく構成されており、第1実施形態の成膜装置は、前記基板の傾きに基づく前記蒸着膜の前記被蒸着面における膜厚の変動を少なくする調整手段をさらに備えている。
【0077】
(1)の構成によれば、全面において均一性の高い膜厚を有する蒸着膜を形成することができ、しかも、成膜装置において被蒸着部材の大型化に連動する設置面積の増大を回避することがきる。
【0078】
(2)上記(1)の成膜装置において、前記基板ホルダーは、前記被蒸着面同士が対向するように前記基板をそれぞれ保持する第1保持部および第2保持部を備えており、前記蒸発源は、前記第1保持部に保持された前記基板および前記第2保持部に保持された前記基板の間において前記基板ホルダーに対して前記相対移動をしながら前記蒸着材料を噴射してもよい。その場合、二つの基板に効率的に蒸着膜を形成することができる。
【0079】
(3)上記(2)の成膜装置は、前記基板の前記被蒸着面に重ね合される蒸着マスクを保持するマスクホルダーと、前記マスクホルダーに保持された前記蒸着マスクと前記基板ホルダーに保持された前記基板との位置合わせを行うアライメント部と、をさらに備え、前記アライメント部は、前記第1保持部および前記第2保持部のいずれかに保持された前記基板に向って前記蒸着材料が噴射されている間に、前記蒸着材料が噴射されていない前記基板において前記位置合わせを行ってもよい。その場合、蒸発源の待機時間を少なくすることができ、非常に効率よく蒸着膜を形成することができる。
【0080】
(4)上記(2)または(3)の成膜装置において、前記蒸発源は、前記第1保持部に保持された前記基板に向って前記蒸着材料を噴射するときに前記基板ホルダーに対して第1方向に移動し、前記第2保持部に保持された前記基板に向って前記蒸着材料を噴射するときに、前記基板ホルダーに対して前記第1方向と上下に関して逆方向に移動してもよい。その場合、連続的に蒸着材料が噴射されるので、蒸着材料の空費を少なくしながら、噴射量を安定させて、しかも効率よく蒸着膜を形成することができる。
【0081】
(5)上記(2)〜(4)のいずれかの成膜装置において、前記蒸発源は、互いに反対方向に向けられて前記蒸着材料をそれぞれ噴射する第1ノズルおよび第2ノズルと、前記第2ノズルから前記蒸着材料が噴射されるべきときに前記第1ノズルからの噴射を停止させる部材と、前記第1ノズルから前記蒸着材料が噴射されるべきときに前記第2ノズルからの噴射を停止させる部材とを備えていてもよい。その場合、自身に向って蒸着材料が噴射されていない基板への蒸着材料の意図せぬ付着を防止することができる。
【0082】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの成膜装置は、前記蒸発源から噴射される前記蒸着材料の噴射量を前記基板ホルダーに対する前記蒸発源の相対的な高さに基づいて変化させる噴射量調整部を前記調整手段として備えていてもよい。その場合、蒸着膜の膜厚の変動を少なくすることができる。
【0083】
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの成膜装置は、前記相対移動の速度を前記基板ホルダーに対する前記蒸発源の相対的な高さに基づいて変化させる変速手段を前記調整手段として備えていてもよい。その場合、蒸着膜の膜厚の変動を少なくすることができる。
【0084】
(8)上記(1)〜(7)のいずれかの成膜装置は、前記基板ホルダーに対する前記蒸発源の相対的な高さに基づいて、前記基板ホルダーに保持された前記基板と前記蒸発源とを水平方向において近接または離隔させる、前記蒸発源および前記基板ホルダーのいずれかまたは両方に対する移動手段を前記調整手段として備えていてもよい。その場合、蒸着膜の膜厚の変動を少なくすることができる。
【0085】
(9)本発明の第2実施形態の蒸着膜の成膜方法は、蒸着膜が成膜されるべき被蒸着面を有する基板を水平面に対して立たせた状態で蒸着装置の中に配置し、前記基板の前記被蒸着面が向く領域に設けた蒸発源に前記基板に対して少なくとも上下いずれかの方向に相対移動をさせながら前記蒸発源から蒸着材料を噴射することによって前記被蒸着面に前記蒸着材料を堆積させる、ことを含み、前記蒸着材料を噴射する際に、前記基板をその上端が前記蒸発源から離れる向きに鉛直面に対して傾けた状態で保持し、前記基板の傾きに基づく前記被蒸着面における蒸着効率の差異を補うことによって前記蒸着膜の膜厚の変動を少なくしながら前記蒸着材料を堆積させる。
【0086】
(9)の構成によれば、全面において均一性の高い膜厚を有する蒸着膜を形成することができ、しかも、成膜装置において被蒸着部材の大型化に連動する設置面積の増大を回避することがきる。
【0087】
(10)上記(9)の蒸着膜の成膜方法において、第1基板および第2基板を含む二つの前記基板を前記被蒸着面同士が対向するように前記蒸着装置の中に配置し、前記蒸着材料を噴射する際に、二つの前記基板の間において前記蒸発源に二つの前記基板に対して前記相対移動をさせながら、前記蒸発源から二つの前記基板に同時にまたは順順に前記蒸着材料を噴射してもよい。そうすることによって、二つの基板に効率よく蒸着膜を成膜できることがある。
【0088】
(11)上記(10)の蒸着膜の成膜方法において、蒸着マスクと前記基板とを位置合わせしたうえで重ね合せることをさらに含み、前記第1基板に向って前記蒸着材料を噴射している間に、前記第2基板と前記蒸着マスクとを位置合わせしたうえで重ね合せてもよい。そうすることによって、蒸発源の待機時間を少なくすることができ、非常に効率よく蒸着膜を形成することができる。
【0089】
(12)上記(10)または(11)の蒸着膜の成膜方法において、前記第1基板に向って前記蒸着材料を噴射する際に前記蒸発源を前記第1基板に対して第1方向に移動させ、前記第2基板に向って前記蒸着材料を噴射する際に前記蒸発源を前記第2基板に対して前記第1方向と上下に関して逆方向に移動させてもよい。そうすることによって、蒸着材料の空費を少なくしながら、噴射量を安定させて、しかも効率よく蒸着膜を形成することができる。
【0090】
(13)上記(9)〜(12)のいずれかの蒸着膜の成膜方法において、前記基板に対する前記蒸発源の相対的な高さに基づいて前記蒸発源からの前記蒸着材料の噴射量を変化させることによって前記蒸着効率の差異を補ってもよい。そうすることによって、蒸着膜の膜厚の変動を少なくすることができる。
【0091】
(14)上記(9)〜(13)のいずれかの蒸着膜の成膜方法において、前記蒸発源における前記基板に対する相対的な高さに基づいて前記相対移動の速度を変化させることによって前記蒸着効率の差異を補ってもよい。そうすることによって、蒸着膜の膜厚の変動を少なくすることができる。
【0092】
(15)上記(9)〜(14)のいずれかの蒸着膜の成膜方法において、前記蒸発源における前記基板に対する相対的な高さに基づいて前記基板と前記蒸発源とを水平方向において近接または離隔させることによって前記蒸着効率の差異を補ってもよい。そうすることによって、蒸着膜の膜厚の変動を少なくすることができる。
【0093】
(16)本発明の第3実施形態の有機EL表示装置の製造方法は、支持基板上にTFTおよび第1電極を少なくとも形成し、前記支持基板上に上記(9)〜(15)のいずれかの蒸着膜の成膜方法を用いて有機材料を蒸着することによって有機層の積層膜を形成し、前記積層膜上に第2電極を形成することを含んでいる。この構成によれば、有機EL表示装置の表示品位のばらつきを少なくすることができる。
実施形態の成膜装置は、蒸着膜が形成されるべき被蒸着面を有する基板を水平面に対して立たせた状態で保持する基板ホルダーと、基板ホルダーに保持された基板の被蒸着面が向くべき領域に設けられ、基板ホルダーに対して少なくとも上下いずれかの方向に相対移動をしながら被蒸着面に向って蒸着材料を噴射する蒸発源と、を備えている。基板ホルダーは、基板の上端が蒸発源から離れる向きに基板を鉛直面に対して傾けて保持すべく構成されており、実施形態の成膜装置は、基板の傾きに基づく蒸着膜の被蒸着面における膜厚の変動を少なくする調整手段をさらに備えている。