特許第6548863号(P6548863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548863
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】等速自在継手の外側継手部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/02 20060101AFI20190711BHJP
   B23B 31/117 20060101ALI20190711BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   B23B31/02 610Z
   B23B31/117 601E
   F16D3/20 J
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-115498(P2013-115498)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-233782(P2014-233782A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年4月26日
【審判番号】不服2017-17017(P2017-17017/J1)
【審判請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤原 奨
【合議体】
【審判長】 刈間 宏信
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−51041(JP,A)
【文献】 特開平11−254258(JP,A)
【文献】 実開平6−83209(JP,U)
【文献】 特開2005−288555(JP,A)
【文献】 特開2009−185933(JP,A)
【文献】 特開昭58−51043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B31/00-33/00
F16D3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にトラック溝を有する等速自在継手の外側継手部材の製造方法であって、
前記外側継手部材の外径面の切削加工において、前記外側継手部材を芯出し保持するチャック部とシャンク部とからなるチャック装置を用い、
前記チャック部は前記トラック溝を基準にして芯出し保持するために、前記トラック溝に係合する複数の球状部を有し、前記球状部が前記チャック部の先端部に固設されており、
前記シャンク部は、旋盤の主軸に着脱される二面拘束形中空テーパシャンクで形成され、前記二面拘束形中空テーパシャンクのテーパ接触面を規格どおりの形状および寸法とし、フランジ接触面の面積を規格より大きくしたものとし、
前記チャック部とシャンク部とが一体構造であり、
複数サイズの前記外側継手部材に対して前記シャンク部の形状および寸法を同一とし、サイズの異なる前記外側継手部材を切削加工するための前記チャック装置の交換を、当該チャック装置の前記シャンク部を前記主軸に着脱することにより行うことを特徴とする等速自在継手の外側継手部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、等速自在継手の外側継手部材の製造方法に関し、特に内周面にトラック溝を有する等速自在継手の外側継手部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軌道溝を有する機械要素の一例として等速自在継手がある。自動車や各種産業機械の動力伝達系を構成する等速自在継手は、駆動側と従動側の二軸をトルク伝達可能に連結すると共に、前記二軸が作動角をとっても等速で回転トルクを伝達することができる。等速自在継手は、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位の両方を許容する摺動式等速自在継手とに大別され、例えば、自動車のエンジンから駆動車輪に動力を伝達するドライブシャフトにおいては、デフ側(インボード側)に摺動式等速自在継手が使用され、駆動車輪側(アウトボード側)には固定式等速自在継手が使用される。
【0003】
固定式等速自在継手の一例としてツェッパ型等速自在継手がある。この等速自在継手は、外側継手部材、内側継手部材、トルク伝達ボールおよび保持器を主な構成とする。外側継手部材の球状内周面には複数のトラック溝が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。内側継手部材の球状外周面には、外側継手部材のトラック溝と対向するトラック溝が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝との間にトルクを伝達する複数のボールが1個ずつ組み込まれている。外側継手部材の球状内周面と内側継手部材の球状外周面の間に、ボールを保持する保持器が配置されている。外側継手部材の外周と、内側継手部材に連結されたシャフトの外周とをブーツで覆い、継手内部には、潤滑剤としてグリースが封入されている。
【0004】
外側継手部材の球状内周面と嵌合する保持器の球状外周面、および内側継手部材の球状外周面と嵌合する保持器の球状内周面の曲率中心は、いずれも、継手中心に形成されている。これに対して、外側継手部材のトラック溝の曲率中心と、内側継手部材のトラック溝の曲率中心は、継手中心に対して軸方向にそれぞれ等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材と内側継手部材の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボールが常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。
【0005】
摺動式又は固定式を問わず、等速自在継手は主要な構成部材として、内周面にトルク伝達要素が係合するトラック溝を形成したマウス部と、このマウス部の底部から軸方向に延びたステム部とを有する外側継手部材を備えている。この外側継手部材は、中実の棒状素材(バー材)を鍛造加工やしごき加工等の冷間塑性加工、切削、研削加工等の機械加工や熱処理を施すことによって製造される。
【0006】
固定式等速自在継手であるツェッパ型等速自在継手の外側継手部材の製造方法における外径面の旋削加工工程を説明する。図13に従来の旋削加工工程を示す。旋盤の主軸100に面板101が取り付けられ、この面板101にアジャスタ102を介してボールチャック装置103が取り付けられている。ボールチャック装置103とアジャスタ102はボルト107により締結され、アジャスタ102と面板101はボルト108により締結されている。ボールチャック装置103の先端部104に複数の球状部(ボール)105が設けられている。外側継手部材の鍛造加工後の素形材2’には、その内周面に複数のトラック溝6’が形成されている。素形材2’のトラック溝6’をボールチャック装置103の球状部105に係合させて位置決めと芯出しを行い、テールセンター106とで挟み込んで、素形材2’を旋盤の主軸100に固定する。この状態で旋盤を起動させて、素形材2’の外径面を旋削加工する。
【0007】
特許文献1には、センタリング加工の基準軸線とトラック溝の軸芯を一致させるボールチャック装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3012777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、等速自在継手は、許容負荷トルクに応じて多数のサイズがあり、サイズ毎にトルク伝達ボールの直径およびピッチ円直径(PCD)が異なり、それによって、トラック溝底の直径寸法も異なっている。そのため、図13に示すボールチャック装置103は、サイズ毎に専用のボールチャック装置103を準備する必要がある。サイズの異なるボールチャック装置103は、ボルト107の嵌挿孔の大きさやピッチ円直径(PCD)などが異なってくるので、適合する別のアジャスタ102とボールチャック装置103をボルト107によって締結したセットを多数準備し、加工するサイズに適合したボールチャック装置103とアジャスタ102のセットを面板101にボルト10により締結することになる。
【0010】
そして、外側継手部材のサイズが変わると、ボールチャック装置103を交換する必要があるが、その都度、ボールチャック装置103とセットされたアジャスタ102を面板101にボルト10により締結する。このとき、旋盤の主軸100の軸心とボールチャック103の軸心の同軸度等、取り付け精度を調整、確認する必要がある。この調整作業には、ピックアップゲージを用いて、ボールチャック装置103の球状部105の振れを確認しながら、ハンマーなどでボールチャック装置103を叩き、振れを抑えながらボルト108を締めていく。この作業は、多大な調整時間を必要とする上、作業者の熟練度によっても大きな差が生じる。
【0011】
さらに加えて、生産形態が従来の大量小品種生産から少量多品種生産へと転換しているが、このことにより段取り頻度が増加し、ボールチャック装置103の交換の度に行う取り付け精度の調整作業により、多大な交換作業を必要とするので、生産効率の低下が顕著になる。
【0012】
特許文献1に記載のボールチャックも、上記のような多数のサイズの等速自在継手に対する生産効率の向上を意図するものではない。
【0013】
本発明は、前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、多数のサイズの外側継手部材を芯出し保持するチャック装置の交換時間の削減、取り付け制度の確保、生産効率の向上を可能にする外側継手部材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の目的を達成するため種々検討した結果、チャック装置の着脱に2面拘束形中空テーパシャンクを活用するという新たな着想により、本発明に至った。
【0015】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、内周面にトラック溝を有する等速自在継手の外側継手部材の製造方法であって、前記外側継手部材の外径面の切削加工において、前記外側継手部材を芯出し保持するチャック部とシャンク部とからなるチャック装置を用い、前記チャック部は前記トラック溝を基準にして芯出し保持するために、前記トラック溝に係合する複数の球状部を有し、前記球状部が前記チャック部の先端部に固設されており、前記シャンク部は、旋盤の主軸に着脱される二面拘束形中空テーパシャンクで形成され、前記二面拘束形中空テーパシャンクのテーパ接触面を規格どおりの形状および寸法とし、フランジ接触面の面積を規格より大きくしたものとし、前記チャック部とシャンク部とが一体構造であり、複数サイズの前記外側継手部材に対して前記シャンク部の形状および寸法を同一とし、サイズの異なる前記外側継手部材を切削加工するための前記チャック装置の交換を、当該チャック装置の前記シャンク部を前記主軸に着脱することにより行うことを特徴とする。
【0017】
上記の構成により、多数のサイズの外側継手部材を芯出し保持するチャック装置の交換時間の削減、取り付け精度の確保、生産効率の向上を図ることができる。
【0018】
上記のチャック装置は、複数サイズの外側継手部材に対してシャンク部の形状および寸法を同一とし、サイズの異なる外側継手部材を切削加工するためのチャック装置の交換をシャンク部の着脱により行うことを特徴とする。これにより、多品種少量生産においても、チャック装置の交換時間の削減、取り付け精度が確保でき、生産効率を顕著に向上することができる。
【0019】
ここで、特許請求の範囲および本明細書において、複数サイズの外側継手部材に対してシャンク部の形状および寸法を同一とするとは、製造する全てのサイズの外側継手部材に対してシャンク部の形状および寸法を同一にすることも包含するが、これに限られず、等速自在継手の場合では、自動車規格(JASO C 304−89:自動車の駆動軸用等速ジョイント1989年3月31日制定 社団法人 自動車技術会 発行)の3ページの表3中の、自動車用に多用されるサイズ範囲である等速ジョイントの呼び18〜31.8程度において数段階に範囲を設定し、その範囲に属する等速自在継手を対象として、そのチャック装置のシャンク部の形状および寸法を同一にすることも包含する概念のものである。
【0020】
上記のシャンク部は、テーパ接触面は規格どおりの形状および寸法とし、フランジ接触面の面積を規格より大きくしたことを特徴とする。これにより、2面拘束形中空テーパシャンクの規格を活用しつつ、チャック装置の剛性を向上でき、加工精度を確保することができる。ここで、特許請求の範囲および本明細書において、規格とは、JIS B6064−2の2面拘束形中空テーパシャンク、いわゆるHSKシャンクの規格を意味する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、多数のサイズの外側継手部材を芯出し保持するチャック装置の交換時間の削減、取り付け精度の確保、生産効率の向上を可能にする外側継手部材の製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の製造方法についての実施形態に基づく等速自在継手を適用したドライブシャフトの全体構造を示す図である。
図2】上記の等速自在継手を拡大した部分縦断面図である。
図3】上記の等速自在継手の外側継手部材の製造工程を示す概要図である。
図4】上記の製造工程中の外径旋削加工工程における旋盤の主軸を示す縦断面図である。
図5】チャック装置を取り付ける前の状態を示す縦断面図である。
図6】上記のチャック装置を主軸に嵌挿した状態を示す縦断面図である。
図7】上記のチャック装置を主軸に固定した状態を示す縦断面図である。
図8】外側継手部材の素形材をチャック装置に取り付け固定した状態を示す縦断面図である。
図9】上記の素形材の外径を旋削加工した状態を示す縦断面図である。
図10】サイズの異なるチャック装置を装着する状態を示す縦断面図である。
図11】サイズの異なる外側継手部材の素形材をチャック装置に取り付け固定した状態を示す縦断面図である。
図12】サイズの異なるチャック装置の寸法、形状を示す対比図である
図13】従来技術の外側継手部材の外径旋削加工工程を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の製造方法およびチャック装置についての1実施形態を図3〜12に示し、本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の製造方法についての実施形態に基づく等速自在継手を図1および図2に示す。はじめに、本実施形態に基づく機械要素としての外側継手部材を組み込んだ等速自在継手を図1および図2を参照して説明し、続いて、等速自在継手の外側継手部材の製造方法およびチャック装置についての実施形態を図3〜12に基づいて説明する。
【0026】
図1は、自動車のフロント用ドライブシャフトの全体構造を示す。ドライブシャフト30は、駆動車輪側(図中左側:以下、アウトボード側ともいう)に配置される固定式等速自在継手1と、デフ側(図中右側:以下、インボード側ともいう)に配置される摺動式等速自在継手31と、両等速自在継手1、31をトルク伝達可能に連結する中間シャフト12とを主要な構成とする。
【0027】
固定式等速自在継手1は、いわゆるツェッパ型等速自在継手であり、この等速自在継手1は、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成とし、内側継手部材3はシャフト12の一端にスプライン連結されている。シャフト12の他端には摺動式のダブルオフセット型等速自在継手31の内側継手部材33がスプライン連結されている。ダブルオフセット型等速自在継手31は、外側継手部材32、内側継手部材33、ボール34および保持器35を主な構成としている。ツェッパ型等速自在継手1の外周面とシャフト12の外周面との間、およびダブルオフセット型等速自在継手31の外周面とシャフト12の外周面との間に、それぞれ蛇腹状ブーツ13、42がブーツバンド14、15、45、46により締付け固定されている。継手内部には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0028】
図2に固定式等速自在継手1を拡大した部分縦断面を示す。外側継手部材2のマウス部2aの球状内周面8には、8本のトラック溝6が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材2のステム部20には、車輪用軸受装置のハブ輪(図示省略)と連結されるスプライン21と、締め付けナット(図示省略)が螺合する雄ねじ22が形成されている。内側継手部材3の球状外周面9には、外側継手部材2のトラック溝6と対向するトラック溝7が円周方向等間隔に、かつ軸方向に沿って形成されている。外側継手部材2のトラック溝6と内側継手部材3のトラック溝7との間にトルクを伝達する8個のボール4が1個ずつ組み込まれている。外側継手部材2の球状内周面8と内側継手部材3の球状外周面9との間に、ボール4を保持する保持器5が配置されている。内側継手部材3の内周面16にはスプライン17が形成され、このスプライン17にシャフト12のスプライン19が嵌合され、止め輪18により軸方向に固定されている。外側継手部材2の外周と、内側継手部材3に連結されたシャフト12の外周とをブーツ13で覆い、ブーツ13をブーツバンド14、15により締め付け固定している。
【0029】
外側継手部材2の球状内周面8と嵌合する保持器5の球状外周面10、および内側継手部材3の球状外周面9と嵌合する保持器5の球状内周面11の曲率中心は、いずれも、継手中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材2のトラック溝6の曲率中心Aと、内側継手部材3のトラック溝7の曲率中心Bとは、継手中心Oに対して軸方向に等距離f1でオフセットされている。これにより、継手が作動角をとった場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度(作動角)を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達されることになる。トラック溝6、7の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝6、7とボール4は、接触角(30°〜45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝6、7の溝底より少し離れたトラック溝6、7の側面側で接触している。
【0030】
次に、本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の製造方法およびチャック装置についての実施形態を図3〜12に基づいて説明する。図3に、外側継手部材の製造工程の概要を示す。外側継手部材2は、図示のように、バー材切断工程S1、鍛造加工工程S2、端面、センター孔切削加工工程S3、外径旋削加工工程S4、スプライン、ねじ転造加工工程S5、熱処理工程S6および研削加工(又は焼入れ後の切削加工)工程S7を主な製造工程とする。
【0031】
各工程の概要を説明する。各工程は、代表的な例を示すものであって、必要に応じて適宜変更や追加を行うことができる。
【0032】
[バー材切断工程S1]
鍛造重量に基づいてバー材を所定長さで切断し、ビレットを製作する。
【0033】
[鍛造加工工程S2]
ビレットを据え込み加工、押し出し加工や絞込み加工により外側継手部材2のマウス部2aとステム部20を一体成形し、素形材を製作する。
【0034】
[端面、センター孔切削加工工程S3]
前記素形材のステム部20の端面を旋削加工し、端面にセンター孔を切削加工する。
【0035】
[外径旋削加工工程S4]
素形材に、外径面、ブーツ取付溝、ステム部20のスプライン21の下径および雄ねじ22の下径を旋削加工する。
【0036】
[スプライン、ねじ転造加工工程S5]
外径旋削加工後の外側継手部材2の中間製品のステム部に、スプラインとねじを転造加工する。
【0037】
[熱処理工程S6]
スプライン、ねじの転造加工後、外側継手部材2の中間製品に熱処理としての焼入れ焼き戻しを行う。外側継手部材2は、S53C等の0.40〜0.60重量%の炭素を含む中炭素鋼からなり、上記焼入れにより、トラック溝6、球状内周面8の表面硬さはHRC58〜62程度に、また、ステム部20の所定範囲の表面硬さはHRC50〜62程度に硬化される。
【0038】
[研削加工(又は焼入れ後の切削加工)工程S7]
熱処理工程後、外側継手部材2のトラック溝6、球状内周面8および外径のシール摺接面を研削加工又は切削加工により仕上げる。
【0039】
次に、本実施形態の製造方法の特徴である旋削加工を、外側継手部材の外径旋削加工工程を例にして、図4〜12に基づいて詳細に説明する。図4は、旋盤の主軸の部分縦断面を示す。主軸50は、図示は省略するが、軸受によりハウジングの内部に回転自在に支持されている。主軸50の先端に面板51が取り付けられ、主軸50の内周孔52に回転シリンダ53が収容されている。面板51には、テーパシャンク接触面54と端面接触面55が形成され、内部にクランプ機構56が収容されている。クランプ機構56は、割型クランプ爪57、クランプ爪ドライバー58、ドローバー59、クランプ爪付勢装置60を主な構成とする。
【0040】
クランプ爪ドライバー58には、第1傾斜押圧面58aと第2傾斜押圧面58bが設けられている。この第1傾斜押圧面58aと第2傾斜押圧面58bと対向して、割型クランプ爪57の内周には、第1傾斜受面57aと第2傾斜受面57bが設けられている。また、割型クランプ爪57の一端には、半径方向内方に拡がった2つ傾斜案内面57c、57dが形成され、一方の傾斜案内面57cはクランプ付勢装置60に設けられた傾斜案内面60aと当接し、他方の傾斜案内面57dは面板51に設けられた傾斜案内面51aに当接している。割型クランプ爪57の先端部外周には、チャック装置62のシャンク部64の係止部64a(図5参照)に係止する係止部57eが設けられている。クランプ付勢装置60の内部に圧縮ばね61が組み込まれており、図4に示すように、割型クランプ爪57が半径方向に常時収縮するように付勢されている。ドローバー59の先端部はクランプ爪ドライバー58にねじで締結され、他端は回転シリンダ53に接続されている。
【0041】
図5は、チャック装置62を主軸50に取り付ける前の状態を示す部分的縦断面図である。チャック装置62は、チャック部63とシャンク部64とからなり、複数のボルト65により締結されている。チャック部63の先端部66には4個の球状部(ボール)67が円周方向等間隔に形成されている。この例では、チャック部63とシャンク部64を別体で形成したものを示すが、これに限られず、チャック装置62は、チャック部63とシャンク部64とを一体部品で形成してもよい。シャンク部64の中空部の外周にテーパ接触面68が形成され、フランジ部に端面接触面69が形成されている。シャンク部64の中空部の内周には、前述したクランプ機構60の割型クランプ爪57の係止部57e(図4参照)が係止する係止部64aが形成されている。また、中空部には手動固定孔70と駆動用キー溝80が設けられている。
【0042】
シャンク部64のテーパ接触面68はJIS B6064−2の2面拘束形中空テーパシャンク、いわゆるHSKシャンクの規格どおりの形状、寸法とし、端面接触面69の面積を前記規格より大きくしている。これにより、2面拘束形中空テーパシャンクの規格を活用しつつ、チャック装置の剛性を向上でき、加工精度を確保することができる。
【0043】
図6は、主軸50に取り付けた面板51にチャック装置62を嵌挿した状態を示す。クランプ機構60の割型クランプ爪57は、半径方向に収縮した状態であるので、チャック装置62のシャンク部64の中空部の内周は割型クランプ爪57に干渉せずに嵌挿される。
【0044】
次に、チャック装置62を主軸50に固定する。図7は、チャック装置62を主軸50に固定した状態を示す。図6の状態から、主軸50の内部に収容された回転シリンダ53を白抜き矢印の方向に後退させ、回転シリンダ53に接続されたドローバー59およびこのドローバー59にねじ締結されたクランプ爪ドライバー58を引き込む。これにより、割型クランプ爪57の第1傾斜受面57a、第2傾斜受面57bがクランプ爪ドライバー58の第1傾斜押圧面58a、第2傾斜押圧面58bに押圧され、その半径方向分力により、割型クランプ爪57が傾斜した各面に沿って半径方向に拡径する。これにより、割型クランプ爪57の係止部57eがチャック装置62のシャンク部64の係止部64aに係止され、シャンク部64が引き込まれる。
【0045】
上記の結果、チャック装置62のシャンク部64のテーパ接触面68と端面接触面69とが、主軸50に取り付けられた面板51のテーパシャンク接触面54と端面接触面55とにそれぞれ拘束されてチャック装置62が主軸50(面板51)に強固に固定される。シャンク部64のテーパ接触面68と面板51のテーパシャンク接触面54の精度がチャック装置62の振れ精度を決定し、シャンク部64の端面接触面69と面板51の端面接触面55の拘束により、チャック剛性を向上させる。このように、チャック装置62の交換に当たって、回転シリンダ53の一つ後退動作により、迅速にチャック装置62を主軸50(面板51)に装着することができる。
【0046】
チャック装置62が主軸50に固定された後、外側継手部材2の外径を旋削加工する。図8は、外側継手部材2の素形材2’をチャック装置に取り付け固定した状態を示す縦断面図である。外側継手部材2の素形材2’は、図3に示す鍛造加工工程S2の後、端面、センター孔切削加工工程S3を経て、素形材2’のステム部の端面24を旋削加工し、端面24にセンター孔23を切削加工したものである。この素形材2’には鍛造加工により、球状内周面8’およびトラック溝6’が粗成形されている。図示のように、素形材2’のトラック溝6’をチャック装置62の球状部(ボール)67に係合させて位置決めと芯出しを行い、テールセンター71とで挟み込んで、素形材2’を旋盤の主軸50(面板51)に固定する。この後、旋盤を起動させて、素形材2’を端面24側からマウス部2a’側に向けて外径を旋削加工する。
【0047】
素形材2’の外径旋削加工が終了した状態を図9に示す。外側継手部材2の中間製品2”は、外径面、ブーツ取付溝25、スプライン下径21’およびねじ下径22’が旋削加工されている。この後、外側継手部材2の中間製品2”は、スプライン、ねじの転造加工工程S5に移される。
【0048】
このようにして、計画された所定ロット数の素形材2’の外径旋削加工が終了すると、サイズの異なる等速自在継手1の外側継手部材2の外径旋削加工のため、段取り替えが行われる。その要領は、図5〜7に基づいて前述した手順とは逆の手順となる。その手順を簡略化して説明する。図7に示す状態から、主軸50の内部に収容された回転シリンダ53を前進させ(白抜き矢印とは逆方向)、回転シリンダ53に接続されたドローバー59およびこのドローバー59にねじ締結されたクランプ爪ドライバー58を前進させる。これにより割型クランプ爪57が収縮し、これにより、割型クランプ爪57の係止部57eがチャック装置62のシャンク部64の係止部64aから外れ、図6の状態になる。係止部57e、64aの干渉がなくなった状態で、チャック装置62を主軸50(面板51)から取り外す。このように、回転シリンダ53の一つ前進動作により、迅速にチャック装置62を主軸50から取り外すことができる。
【0049】
その後、サイズの異なる外側継手部材2の外径旋削加工を行うために、別のチャック装置62を主軸50(面板51)に装着する。図10に示すように、チャック装置62は、前述した図5〜9に示すチャック装置62よりも大きなサイズの等速自在継手用のものである。ただし、チャック装置62のシャンク部64は、同一の寸法、形状にされている。
【0050】
ここで、図5〜9に示すチャック装置62と図10に示すチャック装置62の寸法、形状を図12に基づいて説明する。図12(a)は図5〜9に示すチャック装置62であり、図12(b)は図10に示すチャック装置62である。図示のようにチャック部63の先端部66に設けられた球状部(ボール)67の直径D(D1、D2)や外接円径E(E1、E2)は異なり、D2、2が1、E1より大きく、大きなサイズに適用されるものである。しかし、シャンク部64の直径寸法Cおよびテーパ接触面の形状は、同一にされている。このようにサイズが異なってもシャンク部64の寸法、形状は同一である。このことが、特許請求の範囲における複数サイズの外側継手部材に対してシャンク部の寸法および形状を同一にすることを意味する。ただし、複数サイズの外側継手部材に対してシャンク部の形状および寸法を同一とするとは、製造する全てのサイズの外側継手部材に対してシャンク部の形状および寸法を同一にすることも包含するが、これに限られず、等速自在継手の場合では、自動車規格(JASO C 304−89:自動車の駆動軸用等速ジョイント1989年3月31日制定 社団法人 自動車技術会 発行)の3ページの表3中の、自動車用に多用されるサイズ範囲である等速ジョイントの呼び18〜31.8程度において数段階に範囲を設定し、その範囲に属する等速自在継手を対象として、そのチャック装置のシャンク部の形状および寸法を同一にすることも包含する。
【0051】
図10に示すように、クランプ機構60の割型クランプ爪57は、半径方向に収縮した状態であるので、チャック装置62のシャンク部64の中空部の内周は割型クランプ爪57に干渉せずに嵌挿される。その後、前述した手順と同様に、主軸50の内部に収容された回転シリンダ53を白抜き矢印の方向(図11参照)に後退させ、回転シリンダ53に接続されたドローバー59およびこのドローバー59にねじ締結されたクランプ爪ドライバー58を引き込む。これにより、割型クランプ爪57の係止部57eがチャック装置62のシャンク部64の係止部64aに係止され、シャンク部64が引き込まれ、テーパシャンク接触面54、テーパ接触面68と、端面接触面55、端面接触面69とが、それぞれ拘束されてチャック装置62が主軸50(面板51)に強固に固定される。このように、サイズの異なるチャック装置62の交換に当たって、回転シリンダ53の1動作により、迅速にチャック装置62を主軸50に装着することができる。
【0052】
その後、図11に示すように、素形材2’のトラック溝6’をチャック装置62の球状部(ボール)67に係合させて位置決めと芯出しを行い、テールセンター71とで挟み込んで、素形材2’を旋盤の主軸50(面板51)に固定する。この後、旋盤を起動させて、素形材2’を端面24側からマウス部2a’側に向けて外径を旋削加工する。
【0053】
以上のように、本発明に係る等速自在継手の外側継手部材の製造方法およびチャック装置についての実施形態では、サイズの異なる外側継手部材を保持するチャック装置の交換に当たって、回転シリンダの前進あるいは後退の1動作により、迅速にチャック装置を主軸に着脱することができる。これにより、チャック装置の交換時間の削減、取り付け精度の確保、生産効率の向上を可能にする等速自在継手の外側継手部材の製造方法およびチャック装置を実現することができる。
【0054】
以上の実施形態では、外側継手部材2の外径旋削加工工程S4を例として説明したが、これに限られるものではなく、図3に示す端面、センター孔切削加工工程S3や焼入れ後の切削加工工程S7にも適宜適用することができる。
【0055】
以上の実施形態では、8個のボールを用いたツェッパ型等速自在継手の外側継手部材を例として、チャック装置の球状部の個数を4個のものを示したが、これに限られるものではなく、6個ボールのものや10個以上のボールを使用した等速自在継手にも適宜適用することができ、それに応じてチャック装置の球状部の個数も適宜設定することができる。
【0056】
また、以上の実施形態では、固定式等速自在継手としてのツェッパ型等速自在継手の外側継手部材の切削加工に適用した場合について説明したが、これに限られるものではなく、アンダーカットフリー型等速自在継手の他、摺動式等速自在継手としてのダブルオフセット型等速自在継手やその他の等速自在継手の切削加工にも適用することができる
【0057】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0058】
1 固定式等速自在継手
2 外側継手部材
2’ 素形材
2” 中間製品
3 内側継手部材
4 トルク伝達ボール
5 保持器
6 トラック溝
7 トラック溝
50 旋盤の主軸
51 面板
53 回転シリンダ
54 テーパシャンク接触面
55 端面接触面
56 クランプ機構
57 割型クランプ爪
58 クランプ爪ドライバー
59 ドローバー
62 チャック装置
63 チャック部
64 シャンク部
67 球状部
68 テーパ接触面
69 端面接触面
A 曲率中心
B 曲率中心
C 直径
D 球状部の直径
E 球状部の外接円径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13