特許第6548876号(P6548876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548876
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】DCT車両の変速制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20190711BHJP
   F16H 61/688 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   F16H61/04
   F16H61/688
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-176111(P2014-176111)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-117826(P2015-117826A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2017年3月22日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0157741
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ソン、ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ホ、ファン
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ジュ、ヒョン
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−239327(JP,A)
【文献】 特開2000−352460(JP,A)
【文献】 特開2008−45607(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0215213(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00− 61/12
F16H 61/16− 61/24
F16H 61/66− 61/70
F16H 63/40− 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュアルクラッチトランスミッション車両(DCT車両)の変速制御方法であって、
パワーオフダウンシフトが開始してトルクハンドオーバが始まったか否かを判断する変速判断段階と、
変速のために、変速前に用いられている解放側クラッチのトルクを解除すると同時に変速後に用いられる結合側クラッチのトルクを上昇させるトルクハンドオーバが始まった場合、車両が険路に進入したか否かを判断する険路判断段階と、
前記険路判断段階の結果、車両が険路に進入したと判断される場合には、険路に進入したと判断される直前の、前記結合側クラッチのトランスミッション入力軸である結合側入力軸の速度変化率を計算して記憶する変化率確保段階と、
解放側クラッチのトルクの解除が完了した後、前記変化率確保段階で記憶された結合側入力軸の速度変化率を用いて結合側クラッチの伝達トルクの目標を計算し、前記結合側クラッチの伝達トルクの目標に到達するまで結合側クラッチの伝達トルクを漸進的に上昇させる伝達トルク上昇段階と、
前記伝達トルク上昇段階の後、スリップ比が所定の基準値に到達するまで前記目標の結合側クラッチの伝達トルクを維持するように制御する伝達トルク維持段階と、
前記伝達トルク維持段階が完了すると、前記伝達トルク上昇段階で上昇させたトルクだけ漸進的に前記結合側クラッチの伝達トルクを下降させて変速を完了する変速完了段階とを含み、
前記伝達トルク維持段階で、前記スリップ比は、結合側入力軸の速度と、前記解放側クラッチのトランスミッション入力軸である解放側入力軸の速度との差に対する、エンジンの速度と解放側入力軸の速度との差によって計算され、
前記伝達トルク維持段階で、前記スリップ比の基準値は9/10以上である、DCT車両の変速制御方法。
【請求項2】
前記険路判断段階で車両が険路に進入したか否かは、現在の結合側入力軸の速度変化率が所定の基準時間の結合側入力軸の速度変化率の平均値と比べて所定の余裕値以上の差を生じる場合を、険路に進入したと判断することを特徴とする、請求項1に記載のDCT車両の変速制御方法。
【請求項3】
前記伝達トルク上昇段階で、前記結合側クラッチの伝達トルクの目標は下記の数式によって計算されることを特徴とする、請求項1に記載のDCT車両の変速制御方法。
【数1】
(式中、Tcは結合側クラッチの伝達トルク、Teはエンジントルク、Jeはエンジンの慣性モーメント、SLIPはNe−Ni1、Ni1は結合側入力軸の速度、Neはエンジンの速度をそれぞれ示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCT車両の変速制御方法に係り、より詳しくは、パワーオフダウンシフト(POWER OFF DOWN SHIFT)中に車両が険路を通過する場合の変速制御に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
DCT(DUAL CLUTCH TRANSMISSION)は、2つのクラッチと従来の手動変速機の変速メカニズムを使用する変速機であって、変速の際に目標変速段の変速ギヤは予め締結された状態で2つのクラッチの結合状態を転換することにより実質的な変速が行われる。
【0003】
従来のトルクコンバータを備えた自動変速機では、変速の際に発生する衝撃をトルクコンバータで流体スリップによって吸収するので、柔らかくて適切な変速感を確保することが比較的容易である。ところが、DCTは、トルクコンバータを備えておらず、変速の際に発生する衝撃を吸収する装置がないから、柔らかくて適切な変速感の確保のためには変速の際に前記2つのクラッチの制御が非常に精密に行われなければならず、前記2つのクラッチが乾式クラッチからなる場合には一層精密な制御が必要である。
【0004】
一方、パワーオフダウンシフトの際には、変速制御のために、入力軸の速度に対する微分成分たる入力軸の速度変化率を用いる。この入力軸の速度変化率は、車両が走行中である道路の状況に大きく影響されるので、通常の平らな道路状況では大きく問題にならないが、凸凹や険路では安定的な値が得られないため変速制御が円滑に行われ難いところがある。
【0005】
前述の背景技術として説明された事項は、本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎず、当該技術分野における通常の知識を有する者に、公知の従来の技術に該当することを認定するものと受け入れられてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国登録特許第1007938860000号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、乾式クラッチを備えたDCT車両で運転者が加速ペダルを踏んでいない状態で下位変速段への変速が行われるパワーオフダウンシフト中に車両が険路に進入する場合に、なるべく柔らかくて安定した変速制御が行われるようにして、変速衝撃の低減によるクラッチの耐久性を向上させ且つ車両の商品性を向上させることができるようにした、DCT車両の変速制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のDCT車両の変速制御方法は、パワーオフダウンシフトが開始してトルクハンドオーバが始まったか否かを判断する変速判断段階と、トルクハンドオーバが始まった場合、車両が険路に進入したか否かを判断する険路判断段階と、前記険路判断段階の結果、車両が険路に進入したと判断される場合には、険路に進入したと判断される直前の結合側入力軸の速度変化率を計算して記憶する変化率確保段階と、実変速区間に進入すると、前記変化率確保段階で記憶された結合側入力軸の速度変化率を用いて目標の結合側クラッチの伝達トルクを計算し、前記目標の結合側クラッチの伝達トルクに到達するまで結合側クラッチの伝達トルクを漸進的に上昇させる伝達トルク上昇段階と、前記伝達トルク上昇段階の後、スリップ比が所定の基準値に到達するまで前記目標の結合側クラッチの伝達トルクを維持するように制御する伝達トルク維持段階と、前記伝達トルク維持段階が完了すると、前記伝達トルク上昇段階で上昇させたトルクだけ漸進的に前記結合側クラッチの伝達トルクを下降させて変速を完了する変速完了段階と、を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、乾式クラッチを備えたDCT車両で運転者が加速ペダルを踏んでいない状態で下位変速段への変速が行われるパワーオフダウンシフト中に車両が険路に進入する場合に、なるべく柔らかくて安定した変速制御が行われるようにして、変速衝撃の低減によるクラッチの耐久性を向上させ且つ車両の商品性を向上させることができるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るDCT車両の変速制御方法の実施例を示すフローチャートである。
図2】本発明に係るDCT車両の変速制御方法を説明したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1および図2を参照すると、本発明のDCT車両の変速制御方法の実施例は、パワーオフダウンシフトが開始してトルクハンドオーバが始まったか否かを判断する変速判断段階(S10)と、トルクハンドオーバが始まった場合、車両が険路に進入したか否かを判断する険路判断段階(S20)と、前記険路判断段階(S20)の結果、車両が険路に進入したと判断される場合には、険路に進入したと判断される直前の結合側入力軸の速度変化率を計算して記憶する変化率確保段階(S30)と、実変速区間に進入すると、前記変化率確保段階(S30)で記憶された結合側入力軸の速度変化率を用いて目標の結合側クラッチの伝達トルクを計算し、前記目標の結合側クラッチの伝達トルクに到達するまで結合側クラッチの伝達トルクを漸進的に上昇させる伝達トルク上昇段階(S40)と、前記伝達トルク上昇段階(S40)の後、スリップ比が所定の基準値に到達するまで前記目標の結合側クラッチの伝達トルクを維持するように制御する伝達トルク維持段階(S50)と、前記伝達トルク維持段階(S50)が完了すると、前記伝達トルク上昇段階(S40)で上昇させたトルクだけ漸進的に前記結合側クラッチの伝達トルクを下降させて変速を完了する変速完了段階(S60)と、を含んでなることを特徴とする。
【0012】
すなわち、本発明は、パワーオフダウンシフト中に前記険路判断段階(S20)によって車両が険路に進入したと判断される場合には、険路進入の前に測定された結合側入力軸の速度に基づいてその変化率を計算して以後の制御に使用するようにすることにより、車両が変速中に険路に進入した状況で結合側入力軸の速度の急激な変化による不適切な変速制御を防止することができるようにした。
【0013】
例えば、車両が凸凹や非舗装道路などの険路に進入した場合には、実変速区間で結合側クラッチの伝達トルクを制御するにあたり、目標の結合側クラッチの伝達トルクを、前記車両が険路に進入する前に測定された結合側入力軸の速度に基づいて計算された変化率をもって計算するようにする。
【0014】
勿論、車両が険路に進入していない場合には、従来と同様に、現在継続的に測定されている結合側入力側の速度に基づいてその変化率を計算し、その計算された値を用いて、前記目標の結合側クラッチの伝達トルクを計算し、このように計算された目標の結合側クラッチの伝達トルクに応じて結合側クラッチを制御するようにする。
【0015】
ここで、前記車両が険路に進入したと判断される場合に使用する、前記険路進入直前に測定された結合側クラッチの速度は、険路進入直前まで計算された結合側クラッチの速度の平均値で代替されることも可能である。すなわち、険路進入前まで一定の時間測定された結合側クラッチの速度の平均値、または険路進入直前のいずれか一瞬に測定された結合側クラッチの速度を使用することができる。
【0016】
参考として、前記トルクハンドオーバ(TORQUE HANDOVER)は、変速のために解放側クラッチのトルクは解除すると同時に結合側クラッチのトルクは上昇させ、互いに反対の状況となるように制御する過程をいう。前記実変速区間とは、前述したようなトルクハンドオーバ、すなわちトルクのみ変化するトルク領域以後に、エンジンの速度が変化しながら実質的に変速が行われる慣性領域を意味する。図2において、Aはトルクハンドオーバ区間を示し、Bは実変速区間を示している。
【0017】
前記険路判断段階(S20)で車両が険路に進入したか否かは、現在の結合側入力軸の速度変化率が所定の基準時間の結合側入力軸の速度変化率の平均値と比べて所定の余裕値以上の差を生じる場合を、険路に進入したと判断するようにする。
【0018】
例えば、50ms単位で結合側入力軸の速度変化率の平均値を継続的に計算しておりながら、現在測定される結合側入力軸の速度変化率が前記平均値よりあまり大きく或いは小さくなり、前記平均値を中心に前記余裕値分より大きく或いは小さくなると、その状況を、険路に進入した状況と判断する。
【0019】
したがって、前記余裕値は、険路であることを判断することが可能な水準であって、多数の実験および解析によって決定できる。
【0020】
前記伝達トルク上昇段階(S40)で、前記目標の結合側クラッチの伝達トルクは、エンジントルク、前記入力軸の速度変化率、エンジンの慣性モーメント、結合側入力軸の速度、およびエンジンの速度によって計算される。
【0021】
すなわち、下記数式1によって計算されるのである。
【数1】
式中、Tcは結合側クラッチの伝達トルク、Teはエンジントルク、Jeはエンジンの慣性モーメント、SLIPはNe−Ni1、Ni1は結合側入力軸の速度、Neはエンジンの速度をそれぞれ示す。
【0022】
一方、前記伝達トルク維持段階(S50)で、前記スリップ比は、結合側入力軸の速度と解放側入力軸の速度との差に対する、エンジンの速度と前記解放側入力軸の速度との差で計算されるところ、
下記の数式2によって計算されるのである。
【数2】
式中、Ni2は解放側入力軸の速度を示す。
【0023】
前記伝達トルク維持段階(S50)での前記スリップ比の基準値は9/10以上であることが好ましい。すなわち、エンジンの速度が結合側入力軸の速度にほぼ近接して接近したとき、前記伝達トルク維持段階(S50)を完了し、次の変速完了段階(S60)を行うようにする。
【0024】
前記変速完了段階(S60)で前記結合側クラッチの伝達トルクを前記伝達トルク上昇段階(S40)で上昇させた分だけ漸進的に減少させる理由は、エンジンの速度が結合側入力軸の速度に近接して同期する間に、結合側クラッチの伝達トルクを若干減らして衝撃が発生しないようにするためである。
【0025】
上述したように、本発明は、車両が険路に進入したと判断されると、結合側クラッチの伝達トルクを制御するにあたり、結合側クラッチの速度変化率を険路に進入する直前の結合側クラッチの速度によって計算して一定の値に固定した状態で前記伝達トルク上昇段階(S40)と伝達トルク維持段階(S50)を介してエンジンの速度と結合側クラッチの速度との同期を誘導し、前記変速完了段階(S60)を介して漸進的に前記結合側クラッチの伝達トルクを減少させて衝撃を防止しながら変速を完了することができるようにすることにより、険路で不規則的に急変する結合側クラッチの速度による変速制御の困難性を排除し、柔らかくて安定した変速が完了できるようにすることにより、クラッチの耐久性を向上させ、道路条件の変化に対する変速品質の安定化による車両の商品性向上に寄与することができる。
【0026】
参考として、図2の伝達トルク上昇段階(S40)では、険路の場合と、険路でない場合を同一の斜線で表現している。ところが、これは、前記数式1において結合側クラッチの速度変化率が引き続き変化するので、相違することになる可能性がある。このように相違することになることを、前記伝達トルク維持段階(S50)および変速完了段階(S60)で破線と実線に分けて表示した。ここで、破線は本発明による場合を示し、実線は従来のように引き続き変化する結合側クラッチの速度変化率を用いた場合を示す。
【0027】
特に、前記伝達トルク維持段階(S50)で本発明によって車両が険路に進入した場合、結合側クラッチの速度変化率が一定の値に固定され、実際の制御目標となる結合側クラッチの伝達トルクは一定の水平線で表示されている。
【0028】
本発明を特定の実施例に関連して図示および説明したが、特許請求の範囲によって提供される本発明の技術的思想を逸脱しない範疇内で、本発明に様々な改良および変化を加え得るのは、当該分野における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【符号の説明】
【0029】
S10 変速判断段階
S20 険路判断段階
S30 変化率確保段階
S40 伝達トルク上昇段階
S50 伝達トルク維持段階
S60 変速完了段階
図1
図2