特許第6548906号(P6548906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548906
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】ガスセンサーおよび濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20190711BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20190711BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   G01N27/16 Z
   F01N3/00 F
   B01D53/94 280
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-30706(P2015-30706)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-151556(P2016-151556A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】平林 浩
(72)【発明者】
【氏名】細谷 満
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−015186(JP,A)
【文献】 特開平10−115597(JP,A)
【文献】 特表平05−507988(JP,A)
【文献】 特開平10−197471(JP,A)
【文献】 特開2004−093361(JP,A)
【文献】 特開平06−235712(JP,A)
【文献】 特開平11−190709(JP,A)
【文献】 特開昭64−078149(JP,A)
【文献】 中国実用新案第202583104(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/10
G01N 27/14−27/24
B01D 53/94
F01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、前記第1の基板に対して積層された第2の基板と、前記第1の基板に対して前記第2の基板の反対側に積層された第3の基板とを有するセンサー素子を備え、
前記第1の基板には、排気ガスが流入する流入口と、前記第2の基板が積層される積層面および前記第3の基板が積層される積層面の各々に開口を有して前記第1の基板に貫通形成された拡散室であって前記流入口に流入した排気ガスを拡散する前記拡散室とが形成され、
前記第2の基板は前記第1の基板に積層された状態において前記開口の一方を塞いで前記拡散室を画定する第1の画定領域を有し、前記第1の画定領域に、前記拡散室内の排気ガスに含まれる炭化水素を酸化する酸化触媒と、前記酸化触媒の温度である触媒温度を検出する第1の検出部とが形成され、
前記第3の基板は前記第1の基板に積層された状態において前記開口の他方を塞いで前記拡散室を画定する第2の画定領域を有し、前記第2の画定領域に、前記拡散室内の排気ガスの温度である基準温度を検出する第2の検出部が形成されているガスセンサー。
【請求項2】
前記センサー素子がヒーターを備える
請求項1に記載のガスセンサー。
【請求項3】
前記ヒーターが前記第1の基板に設けられている
請求項2に記載のガスセンサー。
【請求項4】
前記第1の基板、前記第2の基板、および、前記第3の基板が多孔質材である
請求項1〜3のいずれか一項に記載のガスセンサー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスセンサーと、
前記第1の検出部が検出した前記触媒温度と前記第2の検出部が検出した前記基準温度との温度差に基づいて炭化水素の濃度を演算する濃度演算部とを備える濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスに含まれる炭化水素の濃度を検出するガスセンサー、および、該ガスセンサーを備えた濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1のように、ディーゼルエンジンの排気浄化装置として、燃料の主成分である炭化水素を還元剤に用いて窒素酸化物(以下、NOxという。)を選択的に還元するHC−SCR触媒(Hydro Carbon−Selective Catalytic Reduction)を用いたものがある。この排気浄化装置は、HC−SCR触媒と、HC−SCR触媒に流入する排気ガスに燃料を添加する添加部とを備える。そして、添加部の添加した燃料でNOxを還元することでNOxの排出量を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−75610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した排気浄化装置においては、HC−SCR触媒を通過した排気ガスに炭化水素が含まれていると、その炭化水素の分の燃料が無駄になってしまうおそれがある。こうした無駄な燃料の消費を抑えつつ、より多くのNOxを低減するうえでは、例えば、HC−SCR触媒を通過した排気ガスに炭化水素が残存しない程度に燃料添加量を調整することが求められる。これには、排気ガス中の炭化水素の濃度が変化してもその濃度を即時に測定可能な高い応答性を有するガスセンサーが必要である。
【0005】
本発明は、排気ガス中の炭化水素の濃度変化に対する応答性が高いガスセンサー、および、該ガスセンサーを備えた濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガスセンサーは、第1の基板と、前記第1の基板に対して積層された第2の基板と、前記第1の基板に対して前記第2の基板の反対側に積層された第3の基板とを有するセンサー素子を備え、前記第1の基板には、排気ガスが流入する流入口と、前記第2の基板と前記第3の基板とによって画定されて前記流入口に流入した排気ガスを拡散する拡散室とが形成され、前記第2の基板には、前記拡散室内の排気ガスに含まれる炭化水素を酸化する酸化触媒と、前記酸化触媒の温度である触媒温度を検出する第1の検出部とが形成され、前記第3の基板には、前記拡散室内の排気ガスの温度である基準温度を検出する第2の検出部が形成されている。
【0007】
上記構成によれば、流入口から流入した排気ガスは拡散室にて拡散されたのち、排気ガス中の炭化水素が酸化触媒によって酸化される。これにより、酸化触媒の温度が排気ガス中の炭化水素の濃度に応じて変化する。そして、第1の検出部は酸化触媒の温度である触媒温度を検出し、第2の検出部は拡散室内の排気ガスの温度である基準温度を検出する。そのため、第1の検出部の検出した触媒温度と第2の検出部の検出した基準温度との温度差に基づき、排気ガス中の炭化水素の濃度を測定することができる。酸化触媒による炭化水素の酸化は反応速度が速いため、触媒温度も炭化水素の濃度に応じてすばやく変化する。その結果、炭化水素の濃度変化に対するガスセンサーの応答性を高めることができる。
【0008】
上記ガスセンサーにおいて、前記センサー素子がヒーターを備えることが好ましい。
上記構成によれば、ヒーターによってセンサー素子が加熱されることで酸化触媒の昇温が促進される。これにより、酸化触媒の活性状態が早期に実現される。
【0009】
上記ガスセンサーにおいて、前記ヒーターが前記第1の基板に設けられていることが好ましい。
上記構成によれば、第2の基板と第3の基板とによって挟まれている第1の基板にヒーターが設けられている。これにより、酸化触媒と拡散室内の排気ガスとの温度差を抑えつつ1つのヒーターで酸化触媒を昇温することができる。
【0010】
上記ガスセンサーにおいて、前記第1の基板、前記第2の基板、および、前記第3の基板が多孔質材であることが好ましい。
上記構成によれば、拡散室に流入した排気ガスは、多孔質材である各基板が有する孔を通じて拡散室から流出する。これにより、拡散室には、流入口を通じて新たな排気ガスが順次流入する。その結果、ガスセンサーの応答性を高めることができる。
【0011】
上記課題を解決する濃度測定装置は、上述したガスセンサーと、前記第1の検出部が検出した前記触媒温度と前記第2の検出部が検出した前記基準温度との温度差に基づいて炭化水素の濃度を演算する濃度演算部とを備える。
【0012】
上記構成の濃度測定装置は、炭化水素の濃度変化に対して高い応答性を有するガスセンサーを備えるとともに、第1の検出部の検出した触媒温度と第2の検出部の検出した基準温度との温度差に基づいて炭化水素の濃度を演算する。その結果、排気ガス中の炭化水素の濃度変化に対して高い応答性のもとで炭化水素の濃度を演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態のガスセンサーにおけるセンサー素子の先端部分の斜視構造を示す斜視図である。
図2】センサー素子の分解斜視図である。
図3図1における3−3線の断面構造を模式的に示す断面図である。
図4図1における4−4線の断面構造を模式的に示す断面図である。
図5】濃度測定装置の概略構成を示すブロック図である。
図6】温度差とHC濃度との関係を示すグラフである。
図7】濃度測定処理の処理ルーチンを示すフローチャートである。
図8】変形例におけるヒーターの形状の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図7を参照して、ガスセンサー、および、該ガスセンサーを備えた濃度測定装置の一実施形態について説明する。以下に説明するガスセンサー、および、濃度測定装置は、例えばディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる炭化水素の濃度(以下、HC濃度という。)を測定するために用いられる。
【0015】
(ガスセンサー)
図1図4を参照してガスセンサーについて説明する。このガスセンサーは、例えば、炭化水素を還元剤に用いてNOxを還元するHC−SCR触媒の直後や排気ガスを昇温するバーナーの直後に設けられる。
【0016】
図1に示すように、ガスセンサー10のセンサー素子11は、第1の基板15と、第1の基板15に対して積層された第2の基板20と、第1の基板15に対して第2の基板20の反対側に積層された第3の基板30とを備える。センサー素子11は、第1の基板15、第2の基板20、および、第3の基板30によって構成される積層構造体である。
【0017】
図2に示すように、第1の基板15は、矩形板状に形成されており、互いに対向する一対の積層面15a,15bと、これら一対の積層面15a,15bを繋ぐ側面の1つである先端面15cとを有する。第1の基板15は、例えばコージェライトやアルミナといった絶縁性および耐熱性に優れたセラミック製の多孔質材である。第1の基板15には、先端面15cに形成された流入口16に連続する拡散室18が形成されている。拡散室18は、一対の積層面15a,15bの双方に開口を有するとともに、流入口16と断面積が略同じ部分と流入口16よりも断面積が大きい部分とを有し、該流入口16から流入した排気ガスを拡散する。また、第1の基板15には、拡散室18を取り囲むようにヒーター19が内蔵されている。ヒーター19は、厚み方向における中央に位置しており、電力が供給されることによって発熱し、後述する好適温度T1以上の温度までセンサー素子11を昇温可能に構成されている。
【0018】
第2の基板20は、矩形板状に形成されている。第2の基板20は、例えばコージェライトやアルミナといった絶縁性および耐熱性に優れたセラミック製の多孔質材である。第2の基板20は、第1の基板15側に配線形成面20aを有する。この配線形成面20aには、例えば白金といった導体で構成されたプリント配線が形成されている。プリント配線は、図示されない一対の端子から長手方向に沿って延びる一対のリード部22,23と、一対のリード部22,23の先端部を接続する第1の感温部24とを備える。第1の感温部24は、第1の基板15に第2の基板20が積層された状態において第1の基板15の拡散室18を画定する第1の画定領域25内に形成される。第1の感温部24は、一対のリード部22,23よりも配線幅が細い測温抵抗体であって、後述する酸化触媒26の温度を検出する第1の検出部として機能する。
【0019】
第2の基板20には、第1の画定領域25を含む先端部に、排気ガス中の酸素を酸化剤として炭化水素を酸化する酸化触媒26がコーティングされている。酸化触媒26は、第1の感温部24に積層されている。酸化触媒26は、炭化水素の酸化にともなう発熱によって触媒温度Tが変化する。そのため、酸化触媒26の触媒温度Tは、拡散室18内のHC濃度Chcが高いほど温度が高くなり、HC濃度Chcが低いほど拡散室18内の排気ガスの温度に近くなる。
【0020】
酸化触媒26は、粒子状の触媒担体と、触媒担体に担持された触媒金属とを有する。触媒担体の形成材料は、例えばゼオライトやアルミナ等である。触媒金属は、例えば白金、パラジウム、および、ロジウム等の白金系元素のうちの少なくとも1種である。触媒担体がゼオライトである場合、酸化触媒26は、触媒金属イオンがゼオライトの陽イオンと置換したゼオライトの粒子で構成される。触媒担体がアルミナである場合、酸化触媒26は、触媒金属を担持させたγ−アルミナの粒子、あるいは、触媒金属を担持させたθ−アルミナの粒子で構成される。この酸化触媒26の活性温度域は、触媒温度Tが下限温度TL(例えば200℃)以上であって上限温度TH(例えば650℃)以下の範囲である。
【0021】
なお、活性状態にある酸化触媒26は、触媒温度Tが高いほど単位時間あたりに酸化可能な炭化水素量が多くなる。そのため、酸化触媒26は、HC濃度Chcの測定範囲を確保するうえで下限温度TLよりも高い好適温度T1(例えば300℃)以上に維持されることが好ましい。
【0022】
第3の基板30は、矩形板状に形成されている。第3の基板30は、例えばコージェライトやアルミナといった絶縁性および耐熱性に優れたセラミック製の多孔質材である。第3の基板30は、第1の基板15側に配線形成面30aを有する。この配線形成面30aには、例えば白金といった導体で構成されたプリント配線が形成されている。プリント配線は、図示されない一対の端子から長手方向に沿って延びる一対のリード部32,33と、一対のリード部32,33の先端部分を接続する第2の感温部34とを備える。第2の感温部34は、第1の基板15に第3の基板30が積層された状態において第1の基板15の拡散室18を画定する第2の画定領域35内に形成される。第2の感温部34は、一対のリード部32,33よりも配線幅が細い測温抵抗体であって、拡散室18内の排気ガスの温度を検出する第2の検出部として機能する。
【0023】
図3に示すように、第2の基板20は、第1の基板15側の面における第1の画定領域25以外の領域に絶縁性の接着剤が塗布されたのち、第1の基板15の積層面15aに接着される。同様に、第3の基板30は、配線形成面30aにおける第2の画定領域35以外の領域に絶縁性の接着剤が塗布されたのち、第1の基板15の積層面15bに接着される。これにより、第1の基板15の拡散室18が第2の基板20と第3の基板30とによって画定され、拡散室18には、酸化触媒26が露出するとともに第1の感温部24が酸化触媒26を介して対向する。また、拡散室18には、第2の感温部34が露出する。
【0024】
図4に示すように、上述したセンサー素子11を備えるガスセンサー10では、センサー素子11の外側を流れる排気ガスの一部が流入口16を通じて拡散室18に流入する。拡散室18に流入した排気ガスは、拡散室18にて拡散されることで炭化水素の濃度分布が均一化され、活性状態にある酸化触媒26によって炭化水素がすばやく酸化される。そのため、酸化触媒26の触媒温度Tは、排気ガス中の炭化水素を酸化した分だけ、すなわちHC濃度Chcに応じた分だけ排気ガスの温度よりも高くなる。これにより、第1の感温部24は、触媒温度Tに応じて抵抗値が変化する。一方、第2の感温部34は、拡散室18内の排気ガスの温度に応じて抵抗値が変化する。すなわち、第1の感温部24と第2の感温部34との間には、排気ガス中のHC濃度Chcに応じた温度差が生じる。そして、この温度差に基づいてHC濃度Chcを測定することができる。拡散室18内の排気ガスは、多孔質材である各基板15,20,30を通じてセンサー素子11の外部に流出し、これにともなって拡散室18には新たな排気ガスが順次流入する。
【0025】
上述したガスセンサー10によれば、以下に示す作用効果が得られる。
(1)酸化触媒26による炭化水素の酸化は反応速度が速いため、酸化触媒26の触媒温度TもHC濃度Chcに応じてすばやく変化する。その結果、HC濃度Chcの変化に対する応答性を高めることができる。
【0026】
(2)ここで、炭化水素の濃度を測定する方法としては例えば水素炎イオン化法がある。水素炎イオン化法を用いた測定装置は、装置自体が大型化してしまうばかりか、別途水素ガスを用意する必要があり、ディーゼル自動車に搭載することは現実的ではない。この点、上述したガスセンサー10は、排気ガスが流れる排気通路内にセンサー素子11を配置し、第1の感温部24および第2の感温部34の抵抗値を測定することでHC濃度Chcを測定可能である。その結果、ディーゼル自動車に搭載することも容易である。
【0027】
(3)センサー素子11は、第1の基板15、第2の基板20、および、第3の基板30を積層した積層構造体である。そのため、センサー素子11の組立作業が容易であり、製造コストが抑えられる。また、第2および第3の基板20,30における配線がプリント配線であることで、第2および第3の基板20,30を容易に作製することもできる。
【0028】
(4)ヒーター19に電力が供給されることにより、酸化触媒26の昇温が促進される。その結果、酸化触媒26の活性状態が早期に実現される。
(5)各基板15,20,30のうちで中央に位置する第1の基板15にヒーター19が設けられている。そのため、1つのヒーター19によって、酸化触媒26および第1の感温部24が形成された第2の基板20と、第2の感温部34が形成された第3の基板30とを均等に加熱することができる。これにより、酸化触媒26と拡散室18内の排気ガスとの温度差を抑えつつ、酸化触媒26の昇温が図られる。その結果、酸化触媒26の活性直後にHC濃度Chcを測定したとしても、上記温度差に起因した測定誤差が抑えられる。特に、ヒーター19は、各基板15,20,30の積層方向における第1の感温部24と第2の感温部34の中間位置に位置している。そのため、上述した第1および第2の感温部24,34間における温度差が効果的に抑えられる。
【0029】
(6)多孔質材である各基板15,20,30を通じて拡散室18内の排気ガスが流出することで、拡散室18には流入口16を通じて新たな排気ガスが流入する。これにより、拡散室18に新たな排気ガスが順次流入することから、排気ガスの濃度変化に対する応答性を高めることができる。
【0030】
(7)各基板15,20,30が多孔質材であることから、センサー素子11の熱容量を小さくすることができる。そのため、ヒーター19でセンサー素子11を加熱する際には、少ない電力量でより高い温度までセンサー素子11を昇温できる。また、第2の基板20が多孔質材であることにより、第2の基板20の熱容量が小さくなる。そのため、酸化触媒26から第2の基板20への伝熱量も少なくなり、酸化触媒26から第2の基板20への伝熱に起因した測定誤差も抑えられる。
【0031】
(8)酸化触媒26は、第2の基板20の先端部全体にコーティングされている。そのため、第1の画定領域25にのみ酸化触媒26が形成される場合に比べて、第2の基板20に対して酸化触媒26を容易に形成することができる。
【0032】
(濃度測定装置)
図5図7を参照して、上述したガスセンサー10を用いた濃度測定装置40について説明する。図5に示すように、濃度測定装置40は、上記ガスセンサー10の他、第1の感温部24の電気的特性を測定するための第1の測定器41、第2の感温部34の電気的特性を測定するための第2の測定器42、濃度測定装置40を統括制御するECU(Electronic Control Unit)43、ヒーター19に対して電力を供給可能な供給回路44を備える。
【0033】
第1の測定器41は、第1の感温部24に対して定電流を供給する定電流源と第1の感温部24に対する印加電圧を検出する電圧測定器とを備え、電圧測定器が検出した電圧を示す信号をECU43に出力する。
【0034】
第2の測定器42は、第2の感温部34に対して定電流を供給する定電流源と第2の感温部34に対する印加電圧を検出する電圧測定器とを備え、電圧測定器が検出した印加電圧を示す信号をECU43に出力する。
【0035】
ECU43は、CPUと、各種制御プログラムやHC濃度データといった各種データ等を記憶するROMと、各種演算過程において各種データが一時的に格納されるRAMと、を備えたマイクロコンピューターを中心に構成される。ECU43は、濃度演算部として機能し、第1の測定器41および第2の測定器42からの信号とROMに格納された各種制御プログラムや各種データとに基づき、排気ガス中のHC濃度Chcを演算する濃度測定処理を実行する。
【0036】
ECU43は、第1の測定器41における定電流源の定電流値と第1の測定器41からの信号とに基づいて第1の感温部24の抵抗値である第1抵抗値R1を演算し、その演算した第1抵抗値R1に基づいて酸化触媒26の触媒温度Tを演算する。またECU43は、第2の測定器42における定電流源の定電流値と第2の測定器42からの信号とに基づいて第2の感温部34の抵抗値である第2抵抗値R2を演算し、その演算した第2抵抗値R2に基づいて拡散室18内の排気ガスの温度である基準温度Tsを演算する。そしてECU43は、触媒温度Tと基準温度Tsとの温度差ΔTを演算し、その演算した温度差ΔTに基づいて排気ガス中のHC濃度Chcを演算する。
【0037】
図6に、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づく温度差ΔTとHC濃度Chcとの関係を示す。図6に示すように温度差ΔTとHC濃度Chcとは比例関係にある。ECU43は、図6に示されるHC濃度データ、すなわち温度差ΔTの各々に対してHC濃度Chcが一義的に規定されたHC濃度データをROMに格納している。ECU43は、温度差ΔTに対応するHC濃度ChcをHC濃度データから読み出すことによりHC濃度Chcを演算する。
【0038】
供給回路44は、図示されない電源装置からヒーター19に対して電力を供給可能に構成されており、ECU43からの制御信号に応じてヒーター19に対して電力を供給する。ECU43は、上記触媒温度Tに基づいて、ヒーター19に対して電力を供給する制御信号であるON信号、あるいは、ヒーター19に対する電力の供給を遮断する制御信号であるOFF信号を供給回路44に出力する。
【0039】
図7を参照して、ECU43が実行する濃度測定処理について説明する。なお、ECU43は、濃度測定処理を繰り返し実行する。
図7に示すように、ECU43は、まず、第1抵抗値R1に基づいて触媒温度Tを演算するとともに第2抵抗値R2に基づいて基準温度Tsを演算する(ステップS11)。次にECU43は、ステップS11において演算した触媒温度Tが好適温度T1未満であるか否かを判断する(ステップS12)。
【0040】
触媒温度Tが好適温度T1未満であるとき(ステップS12:YES)、ECU43は、ヒーター19をON状態に制御する(ステップS13)。これにより、センサー素子11が加熱され、酸化触媒26が昇温される。そしてECU43は、触媒温度Tが好適温度T1以上になるまでステップS11とステップS12との処理を繰り返し実行する。
【0041】
一方、触媒温度Tが好適温度T1以上であるとき(ステップS12:NO)、ECU43は、ヒーター19をOFF状態に制御する(ステップS14)。そして、ECU43は、ステップS11において演算した触媒温度Tと基準温度Tsとの温度差ΔTを演算し(ステップS15)、その温度差ΔTに対応付けられたHC濃度ChcをHC濃度データから読み出すことによりHC濃度Chcを演算する(ステップS16)。
【0042】
上記濃度測定装置40によれば、以下に列挙する作用効果が得られる。
(1)触媒温度Tが好適温度T1未満のときにヒーター19がON状態に制御され、触媒温度Tが好適温度T1以上のときにHC濃度Chcが演算される。これにより、触媒温度Tが好適温度T1以上に維持されやすくなることで、HC濃度Chcの測定範囲を確保しつつ、HC濃度Chcの精度を高めることができる。
【0043】
(2)例えば、燃料を還元剤としてNOxを還元するHC−SCR触媒を搭載したディーゼル自動車に濃度測定装置40を搭載することにより、HC−SCR触媒を通過した排気ガスにおけるHC濃度Chcを高い応答性のもとで測定することができる。そのため、例えば、HC−SCR触媒に対する燃料供給量が過剰であると判断される場合に燃料供給量を少なくすることで、HC−SCR触媒におけるNOxの還元量を確保しつつ燃料消費量を抑えることができる。また例えば、燃料供給量を増量可能であると判断される場合に燃料供給量を増量することで、HC−SCR触媒において、より多くのNOxを還元することができる。
【0044】
(3)例えば、排気ガスを昇温するバーナーを排気通路に備えたディーゼル自動車に濃度測定装置40を搭載することにより、バーナーの下流における排気ガスのHC濃度Chcを高い応答性のもとで演算することができる。そのため、燃焼状態にあるバーナーが失火したときには、バーナーの下流におけるHC濃度Chcが上昇することから、こうしたバーナーの失火を高い確度の下で検出することができる。
【0045】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・センサー素子11の各基板15,20,30の全てが多孔質材でなくともよい。こうした場合、センサー素子11には、拡散室18に連通する流出口が形成される。
【0046】
・上記実施形態では、センサー素子11の各基板15,20,30を多孔質材で構成した。これに限らず、各基板15,20,30の少なくとも1つを多孔質材で構成することにより、多孔質材である基板を通じて拡散室18内の排気ガスが流出する。すなわち、拡散室18に連通する流出口を別途設けることなく、拡散室18に対して順次排気ガスを流入させることができる。
【0047】
・ガスセンサー10は、センサー素子11を加熱するヒーター19を備えていればよく、ヒーター19の設置位置は、第1の基板15に限られない。例えばヒーター19は、全ての基板15,20,30に対して各別のヒーター19が設置されてもよい。こうした構成によれば、酸化触媒26と拡散室18内の排気ガスとの温度差を抑えつつ、センサー素子11全体を早期に昇温させることができる。また、ヒーター19は、第2の基板20のみに設置されていてもよい。こうした構成によれば、少ない電力量でより高い温度まで酸化触媒26の昇温させることができる。
【0048】
・ヒーターは、拡散室18内に位置する部分である排気ガス加熱部を有していてもよい。これにより、ヒーターがON状態にあるときに拡散室18内の排気ガスが直接的に加熱されることで、拡散室18内の排気ガスに起因した酸化触媒26の温度低下が抑えられる。また、ヒーターの一部が拡散室18内に位置することによって、例えば拡散室18を取り囲む矩形状にヒーターを引き回すことも可能であり、ヒーターの形状に関する自由度も向上する。例えば、図8に示すヒーター45のように、ヒーターは、流入口16に流入した直後の排気ガスを加熱する排気ガス加熱部45aを有していてもよい。こうした構成によれば、流入口16に流入した直後の排気ガスが加熱されることで、拡散室18内の排気ガスに起因した酸化触媒26の温度低下が効果的に抑えられる。
【0049】
・センサー素子11は、ヒーター19を備えていなくてもよい。この場合、酸化触媒26は、センサー素子11の外部を流れる排気ガス、および、拡散室18に流入した排気ガスに加熱され、触媒温度Tが下限温度TLに到達すると炭化水素の酸化が開始される。
【0050】
・酸化触媒26は、第2の基板20における第1の画定領域25にコーティングされていればよく、第2の基板20の先端部全体にコーティングされていなくともよい。こうした構成によれば、酸化触媒26による拡散室18内の炭化水素の酸化を確保しつつ、ガスセンサー10に使用される触媒量を抑えることができる。
【0051】
・第1の感温部24は、触媒温度Tに応じて電気的特性が変化するものであればよく、測温抵抗体に限らず、サーミスタや熱電対で構成されてもよい。例えば第1の感温部24が熱電対である場合、第1の測定器41は、第1の感温部24における起電力を測定する。なお、第2の感温部34についても同様である。
【0052】
・濃度測定装置40は、触媒温度Tが下限温度TL以上であるときにHC濃度Chcを演算すればよい。そのため、濃度測定装置40は、濃度測定処理のステップS12において、触媒温度Tが下限温度TL以上であることを条件としてHC濃度Chcを演算してもよい。このとき、ヒーター19のOFF条件は、触媒温度Tが下限温度TL以上であることであってもよいし、触媒温度Tが好適温度T1以上であることであってもよい。
【0053】
・濃度測定装置40は、排気ガス中の炭化水素の濃度を測定するものであり、ディーゼルエンジンを搭載した自動車に限らず、ガソリンエンジンや天然ガスエンジンを搭載した自動車に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…ガスセンサー、11…センサー素子、15…第1の基板、15a,15b…積層面、15c…先端面、16…流入口、18…拡散室、19…ヒーター、20…第2の基板、20a…配線形成面、22,23…リード部、24…感温部、24…第1の感温部、25…第1の画定領域、26…酸化触媒、30…第3の基板、30a…配線形成面、32,33…リード部、34…第2の感温部、35…第2の画定領域、40…濃度測定装置、41…第1の測定器、42…第2の測定器、43…ECU、44…供給回路、45…ヒーター、45a…排気ガス加熱部。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8