(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
[透明導電性フィルム]
図1は、透明導電性フィルムの一実施形態を表す模式的断面図である。本発明の電界駆動型調光素子用透明導電性フィルム1は、透明フィルム基材11上に、透明導電層21を備える。
【0024】
<透明フィルム基材>
透明フィルム基材11としては、透明性や耐熱性に優れたプラスチック材料が好適に用いられる。このようなプラスチック材料としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリオレフィン、ノルボルネン系等の環状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート等が挙げられる。
【0025】
透明フィルム基材11と透明導電層21との密着性を高める観点から、透明導電層を形成する前に、事前に基材の表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理等の適宜な接着処理を施してもよい。
【0026】
透明フィルム基材11の透明導電層21形成面側の算術平均粗さRaは、0.5〜5.0nmが好ましく、0.6〜3.5nmがより好ましく、1.0〜3.0nmがさらに好ましく、1.2〜2.5nmが特に好ましい。基材のRaが上記範囲内であれば、その上に形成される透明導電層の表面形状を適切に調整できるため、結晶化が生じ難くかつ低抵抗の透明導電層が得られ易くなる。算術平均粗さRaは、走査型プローブ顕微鏡(AFM)を用いた1μm四方のAFM観察像から求められる。
【0027】
透明フィルム基材11の単位面積あたりの水分含有量は、15〜200μg/cm
2が好ましく、30〜190μg/cm
2がより好ましく、40〜170μg/cm
2がさらに好ましい。基材の水分量が上記範囲内であれば、結晶化が生じ難くかつ低抵抗の透明導電層が得られ易くなる。基材の水分が過渡に小さいと環境温度での透明導電層の結晶化が生じやすくなる傾向があり、基材の水分量が過度に大きいと透明導電層の比抵抗が高くなる傾向がある。水分含有量(μg/cm
2)は、JIS K 7251−B法(水分気化法)により求めた水分含有量から、単位面積あたりの水の含有量として算出できる。
【0028】
透明フィルム基材11の厚みは特に限定されないが、一般に2〜500μm程度であり、20〜300μm程度が好ましい。なお、透明フィルム基材の水分含有率は、材料の特性や保存環境(例えば、温度や湿度)に依存し、単位面積あたりの水分含有量は、厚みに概ね比例する。そのため、単位面積あたりの水分含有量が上記範囲内となるように、透明フィルム基材の材料や保存環境および厚みが定められることが好ましい。
【0029】
透明フィルム基材11は、易接着層や帯電防止層等を備えていてもよい。また、透明フィルム基材11の背面側(透明導電層21形成面と反対側)には、ハードコート層や接着剤層等が設けられていてもよい。
【0030】
透明フィルム基材11と透明導電層21との間には、アンダーコート層(不図示)が形成されていてもよい。アンダーコート層は、透明性を有し、表面抵抗が1×10
6Ω/□以上の誘電体層である。アンダーコート層の材料としては、無機物や、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物等の有機物、あるいは無機物と上記有機物の混合物が挙げられ、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等のドライコーティング法、およびウェットコーティング法(塗布法)等により形成できる。
【0031】
アンダーコート層は、透明導電層成膜時の下地となり、基材から発生する水分や有機ガスを遮断する作用や、基材の表面平滑化作用を有する。上述のように、基材の水分量や表面粗さを所定範囲内とすることにより、透明導電層の結晶化抑制と低抵抗化を両立できるが、基材上にアンダーコート層が存在すると、これらの作用が失われる場合がある。そのため、本発明の透明導電性フィルムは、透明フィルム基材の透明導電層21を形成する側の面、すなわち透明フィルム基材11と透明導電層21との間に、アンダーコート層を備えず、透明フィルム基材11と透明導電層21とが直接接していることが好ましい。透明フィルム基材11と透明導電層21との間にアンダーコート層が存在する場合は、アンダーコート層表面の算術平均粗さRaが上記範囲であることが好ましい。また、アンダーコート層が存在する場合でも、基材から発生する水分等を遮断しないためには、ウェットコーティング法によりアンダーコート層が形成されることが好ましい。
【0032】
<透明導電層>
フィルム基材11上に透明導電層21を形成することにより、透明導電性フィルムが得られる。透明導電層21は、非晶質の金属酸化物層である。透明導電層21の膜厚は、30〜100nmである。透明導電層21の膜厚が上記範囲であれば、高透明性と低表面抵抗を両立できる。透明導電層21の膜厚は、40〜90nmが好ましく、45〜85nmがより好ましく、50〜80nmがさらに好ましい。
【0033】
透明導電層21の構成材料は特に限定されず、例えばインジウム、錫、亜鉛、ガリウム、アンチモン、チタン、珪素、ジルコニウム、マグネシウム、アルミニウム、金、銀、銅、パラジウムおよびタングステンからなる群から選択される1種の金属(又は半金属)の酸化物が用いられる。低抵抗化の観点から、透明導電層を構成する金属酸化物は、複数の金属酸化物の複合体が好ましく、中でも、酸化インジウムを主成分とする複合金属酸化物が好ましい。高透明性と低抵抗とを両立する観点からは、インジウムスズ複合酸化物(ITO)が特に好ましい。
【0034】
透明導電層がITOである場合、インジウムとスズの合計100重量部に対するスズの含有量は、8〜30重量部が好ましい。スズ含有量を8重量部以上とすることにより、低抵抗で、かつ非晶質状態を維持しやすい透明導電層が得られる。スズ含有量が30重量部以下であれば、透明導電層の光透過率が高くなる傾向がある。
【0035】
透明導電層21は、比抵抗が6×10
−4Ω・cm以下であり、好ましくは5.8×10
−4Ω・cm以下である。透明導電層を低抵抗化する観点において、比抵抗は低いほど好ましいが、非晶質の透明導電層の比抵抗は、一般に2.8×10
−4Ω・cm以上である。透明導電層の非晶質状態を維持するためには、透明導電層の比抵抗は、3.0×10
−4Ω・cm以上が好ましく、3.5×10
−4Ω・cm以上がより好ましい。透明導電層21の表面抵抗は、170Ω/□以下が好ましく、150Ω/□以下がより好ましく、120Ω/□以下がさらに好ましく、100Ω/□以下が特に好ましく、90Ω/□以下が最も好ましい。透明導電層の表面抵抗が小さければ、電界印加時の面内電位差が小さくなり、調光素子の電圧印加時における光の透過・散乱状態が面内で均一となる。面内電位の均一性を高める観点から、透明導電層の抵抗は小さいほど好ましいが、表面抵抗を小さくするためには、透明導電層の厚みを大きくする必要があり、透明性が損なわれる場合がある。そのため、透明導電層の表面抵抗は、一般には、20Ω/□以上であり、好ましくは30Ω/□以上である。
【0036】
透明導電性フィルム1を80℃で240時間加熱した際に、加熱前後での透明導電層21の抵抗変化率の絶対値は、55%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下が更に好ましく、30%以下が特に好ましく、20%以下が最も好ましい。抵抗変化率は、下記式により求められる。
抵抗変化率(%)={(加熱後の表面抵抗/加熱前の表面抵抗)−1}×100
【0037】
加熱による抵抗変化が小さければ、透明導電層21の抵抗の経時的な変化が小さく、信頼性に優れる調光素子が得られる。前述のように、金属酸化物は、加熱により結晶化が促進される傾向があり、金属酸化物の結晶化に伴って、透明導電層の抵抗率および表面抵抗は大幅に低下する。そのため、透明導電層21は、80℃で240時間加熱後も非晶質状態を維持していることが好ましい。
【0038】
透明導電層が非晶質であるか結晶質であるかは、透明導電性フィルムを酸に浸漬後、端子間抵抗を測定することにより判定できる。酸としては、非晶質の金属酸化物を溶解し、結晶質の金属酸化物を溶解しないものが用いられる。例えば、金属酸化物がITOである場合、濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬後、水洗・乾燥し、端子間抵抗を測定すればよい。非晶質のITOは塩酸によりエッチングされて消失するために、塩酸への浸漬により抵抗が増大する。金属酸化物がITOである場合、塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超える場合に、透明導電層が非晶質であると判定できる。
【0039】
透明導電層21の算術平均粗さRaは、0.8〜5.5nmが好ましく、0.9〜4.0nmがより好ましく、1.0〜3.5nmがさらに好ましく、1.1〜3.0nmが特に好ましい。Raが上記範囲内であれば、透明導電層が結晶化し難く、かつ低抵抗となる傾向がある。Raが過渡に小さいと環境温度での透明導電層の結晶化が生じやすくなる傾向があり、Raが過度に大きいと透明導電層の比抵抗が高くなる傾向がある。透明導電層の表面粗さは、透明導電層の成膜条件や、成膜下地となる透明フィルム基材の表面粗さに依存する。スパッタリング法では、下地の形状を踏襲した薄膜が形成されやすいため、透明導電層がスパッタリング法により成膜される場合、透明導電層のRaは、特に透明フィルム基材のRaに依存する。そのため、透明導電層のRaを上記範囲とするためには、透明フィルム基材のRaを前述の範囲とすることが好ましい。
【0040】
透明導電層21の形成方法は特に限定されず、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の各種成膜方法を採用できる。中でも、膜厚が均一な金属酸化物薄膜を形成しやすいことから、スパッタリング方が好ましい。スパッタリング法としては、DC電源を用いた標準的なマグネトロンスパッタ法だけでなく、RFスパッタ法、RF+DCスパッタ法、パルススパッタ法、デュアルマグネトロンスパッタ法等の種々のスパッタ方式を採用できる。
【0041】
スパッタターゲットとしては、金属ターゲット(例えばIn‐Snターゲット)および金属酸化物ターゲット(例えばIn
2O
3‐SnO
2ターゲット)のいずれも使用できる。膜中の酸素量を一定に保ち、膜質を均一に保持しやすいことから、金属酸化物ターゲットが好ましく用いられる
【0042】
透明導電層のスパッタ成膜に際しては、成膜開始前に、スパッタ装置内を排気して、水分や基材から発生する有機ガス等の不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。水や有機分子が存在すると、透明導電層の抵抗変化率が大きくなり、信頼性が低下する傾向がある。一方、透明導電層中の水や有機分子は、金属酸化物の結晶化を阻害する作用があるため、微量の水や有機分子の存在下でスパッタ成膜が行われることが好ましい。そのため、スパッタ成膜開始前のスパッタ装置内の真空度(到達真空度)は、8×10
−2Pa以下が好ましく、3×10
−4Pa〜6×10
−2Paがより好ましく、5×10
−4〜5×10
−3Paがさらに好ましい。
【0043】
真空排気したスパッタ装置内に、アルゴン等の不活性ガスおよび酸素を導入しながらスパッタ成膜が行われる。スパッタ成膜時の基板温度は−20℃〜150℃が好ましく、−10℃〜100℃がより好ましく、0℃〜70℃がさらに好ましい。基板温度度が高すぎると、基材の熱変形や、熱しわによる外観不良を生じやすい。また、基板温度が高すぎると、金属酸化物が結晶化しやすくなるため、非晶質状態の保持が困難となる場合がある。一方、基材温度が低すぎると、透明導電層の膜質の低下を招く場合がある。
【0044】
不活性ガスに対する酸素の導入量は0.1体積%〜10体積%が好ましく、1体積%〜6体積%がより好ましい。また、成膜時の圧力は、0.08Pa〜1Paが好ましく、0.2Pa〜0.8Paがより好ましい。成膜圧力が高すぎると成膜速度が低下する傾向があり、逆に圧力が低すぎると放電が不安定となる傾向がある。
【0045】
スパッタ成膜時の酸素導入量を調整することにより、光透過率が高く、かつ膜厚が大きくても環境温度での結晶化が生じ難い透明導電層を成膜できる。
図2は、ITO透明導電層成膜時の酸素導入量と、成膜直後の透明導電層の比抵抗および波長380nmにおける吸光係数の関係を表すグラフである。
【0046】
酸素導入量が少ない場合(
図2Aの領域X)は、金属酸化物中の酸素量が化学量論組成よりも少なく多数の酸素欠損が存在し、相対的に金属的組成に近くなる。酸素導入量を増加させると、比抵抗が極小値をとる領域(
図2Aの領域Y:ボトム領域)が存在し、さらに酸素導入量を増加させると比抵抗は再び上昇する(
図2Aの領域Z:酸素過剰領域)。
【0047】
一方、
図2Bに示すように、透明導電層の吸光係数は、酸素導入量の増加に伴って単調減少する傾向がある。これは、酸素量が少ない領域では金属酸化物が酸素不足の状態で、多数の酸素欠損を有し、金属的な特性を示すのに対して、酸素量の増大に伴って完全酸化物に近付くためである。
【0048】
本発明者らの検討によると、導入酸素量の増大に伴い透明導電層の金属酸化物が結晶化し難く非晶質状態を維持できる傾向があることが確認された。これは、酸素欠損が少なく、非晶質状態の金属酸化物の構造が安定しているために、コンフォメーション変化が生じ難く、金属酸化物が非晶質から結晶質に転化するための活性化エネルギーが大きくなるためであると考えられる。
【0049】
一方、成膜時の酸素導入量が過度に大きい場合(
図2Aの領域Z)、金属酸化物中の酸素欠損が少ないために、キャリア密度が小さく、透明導電層の比抵抗が高くなる傾向がある。また、酸素導入量が過剰であると、加熱による抵抗変化率が大きくなる傾向があり、信頼性が低下する傾向がある。
【0050】
そのため、本発明においては、成膜直後の透明導電層の比抵抗が極小値となる付近(ボトム領域)の酸素導入量で、透明導電層の成膜を行うことが好ましい。ボトム領域の酸素導入量は、ターゲットの組成や、装置の特性、成膜温度、成膜圧力等により異なる。そのため、酸素導入量の範囲を一概に特定することは困難であるが、酸素導入量以外の条件を一定として、酸素導入量を変化させて成膜を行い、
図2Aに示すように酸素導入量と比抵抗との関係を調べることにより、最適な酸素導入量を見出すことができる。
【0051】
基材上に成膜される非晶質透明導電層は、キャリア密度が2.90×10
20/cm
3〜4.80×10
20/cm
3であることが好ましく、3.00×10
20/cm
3〜4.60×10
20/cm
3であることがより好ましく、3.10×10
20/cm
3〜4.50×10
20/cm
3であることがより好ましく3.20×10
20/cm
3〜4.30×10
20/cm
3であることがより好ましい。キャリア密度が上記範囲を下回ると、比抵抗が高くなるとともに、加熱による抵抗変化率が大きくなる傾向がある。一方、キャリア密度が上記範囲を上回ると、環境温度で非晶質膜が結晶質に転化しやすくなる傾向がある。
【0052】
キャリア密度を上記範囲とするためには、透明導電層成膜時の酸素導入量を上記のボトム領域で調整すればよい。逆に、透明導電層のキャリア密度が上記範囲内となるように、成膜時の酸素導入量を調整してもよい。
【0053】
<透明導電性フィルムの光学特性>
透明導電性フィルムは、全光線透過率が79%以上であることが好ましい。透明導電層の膜厚が100nm以下であり、かつキャリア密度が上記範囲であれば、透明導電層による光吸収を抑制し、全光線透過率を高めることができる。
【0054】
透明導電性フィルムの透明導電層21側から標準光(D65光源)を照射した際の反射光の色相のb
*は−10〜4が好ましく、−8〜1がより好ましく、−7〜0がさらに好ましい。色相b
*の符号+は黄色方向、符号−は青色方向を表し、b
*が大きいと反射光が黄色みがかり、意匠性に劣る。そのため、反射光の色相b
*は、マイナス側であることが好ましい。
【0055】
反射光の色相は、透明導電層の膜質によっても調整できるが、膜厚による影響が大きい。これは、透明導電層21の表面での反射光と、透明導電層21と透明フィルム基材11との界面での反射光との位相の差が、透明導電層の光学膜厚に依存し、これに伴う多重反射干渉の相違によって、反射光の色相が大きく変化するためである。
【0056】
反射光のb
*を上記範囲とするためには、透明導電層の光学膜厚(波長550nmにおける屈折率と膜厚の積)が、110〜160nmであることが好ましく、120〜155nmであることがより好ましい。透明導電層がITOである場合、非晶質ITOの屈折率は約2.0であるから、反射光のb
*を上記範囲とするために、膜厚は55nm〜75nm程度が好ましい。
【0057】
[調光フィルムおよび調光素子]
本発明の透明導電性フィルムは、電界駆動型調光素子の電極基板として用いられる。
図3は、電界駆動型調光素子の一実施形態を示す模式的断面図である。調光素子5は、一対の電極基板1,2の間に調光層50を備える。電極基板1,2のそれぞれは、基材11、12上に透明導電層21,22を備え、透明導電層21,22同士が対向するように配置され、その間に調光層50が挟持されている。
【0058】
図3に示す形態では、一対の透明導電性フィルム1,2間に調光層50が挟持された調光フィルム70が、ガラス基板31,32の間に配置されている。電界駆動型調光素子は、一方の透明導電性フィルム1として、本発明の透明導電性フィルムを備える。他方の透明導電性フィルムは、本発明の透明導電性フィルムでもよく、他の透明導電性フィルムでもよい。また、一方の電極基板として本発明の透明導電性フィルム1を用いていれば、他方の電極基板は、ガラス基板上に電極層を備える電極ガラスでもよい。
【0059】
調光フィルムは、透明導電性フィルム1の透明導電層21上に、調光層50を形成することにより作製できる。さらに、調光層50上に、他の透明導電性フィルム2を配置して、一対の透明導電性フィルムの透明導電層間に調光層を備える調光フィルム70として提供することもできる。
【0060】
調光素子は、一対の電極基板の透明導電層を、電源7と接続することにより形成される。電源7のオン・オフ(あるいは、不図示のスイッチのオン・オフ)等に伴って、透明導電層の間に挟持された調光層への電界のオン・オフ、あるいは電界の大きさが調整され、光の透過状態や散乱状態が制御される。
【0061】
調光層50は、電界の印加の有無により、光の透過状態および/または散乱状態が変化する調光材料により構成される。このような調光材料としては、電界の有無により分子の配向状態が変化する材料(例えば液晶材料)や、電界の有無により光の吸収状態が変化するエレクトロクロミック材料が用いられる。
【0062】
液晶材料が用いられる場合、その材料は特に限定されないが、例えば、多数の空孔を有する透明な樹脂マトリクスの空孔内に、ポリマーの屈折率と同じ常光屈折率を有するネマチック液晶分子が充填された液晶カプセルを有する調光層が用いられる。この調光層は、電界オフ時は、各液晶カプセル内で、ネマチック液晶分子がカプセルの内壁に沿って整列しているため、分子の配向方向が不均一であるために、樹脂マトリクスと液晶カプセルとの界面で光が散乱し、調光素子は不透明となる。
【0063】
透明導電層21,22の間に電界が印加されると、各液晶カプセル内のネマチック液晶分子は電界の方向と平行に整列する。調光層内のネマチック液晶分子の常光屈折率と樹脂マトリクスの屈折率は同じであるため、樹脂マトリクスと液晶カプセルとの界面での光の散乱は生じず、調光素子は透明となる。
【0064】
なお、液晶材料として、電界オフ時にコレステリック配向している液晶を用いてもよい。また、電界の有無により分子の配向状態が変化する材料は、液晶材料に限定されず、ポリヨウ化物、炭素繊維、カーボンナノファイバー等の無機繊維、カーボンナノチューブ、フタロシアニン等の二色材料を用いてもよい。
【0065】
エレクトロクロミック材料は、電界の有無により、可逆的に酸化還元反応を生じる材料であり、酸化還元に伴って、材料による光の吸収率あるいは反射率が変化する。エレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物、および有機エレクトロクロミック化合物のいずれも利用できる。また、エレクトロクロミック材料層に隣接して、電解質層等を設けることにより、エレクトロクロミック化合物の酸化・還元を行うこともできる。
【0066】
図3に示すように、調光フィルム70がガラス基板31,32等と組み合わせて用いられる場合、調光フィルムは、ガラス基板間に単に挟持して配置してもよく、適宜の接着剤を介して貼り合わせられていてもよい。設置作業の容易性や、位置ズレ防止の観点からは、ガラス基板と調光フィルムとが接着剤を介して貼り合わせられることが好ましい。
【0067】
接着剤としては、粘着剤が好ましく用いられる。透明導電性フィルム1,2の透明フィルム基材11,12上に予め粘着剤を付設しておくことで、ガラス基板と透明導電性フィルムとの貼り合わせ、あるいはガラス基板と調光フィルムとの貼り合わせを容易に行うことができる。粘着剤としては、アクリル系粘着剤等の透明性に優れるものが好ましく用いられる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例、比較例で用いた測定方法]
<基材の水分量>
フィルム基材の水分量は、面積10cm
2のフィルム基材に含まれる水分量をJIS K 7251−B法(水分気化法)に準じて測定し、1cm
2あたりの水分量を算出した。なお、基材の透明導電層形成面側にアンダーコート層を備えるものは、アンダーコート層形成後の表面の算術平均粗さおよび水分量を測定した。
【0070】
<算出平均粗さ>
フィルム基材及び透明導電層の算術平均粗さRaは、走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツルメンツ製 SPI3800)を用いたAFM観察(観察面積:1μm
2)にて求めた。なお、基材の透明導電層形成面側にアンダーコート層を備えるものは、アンダーコート層形成後の表面の算術平均粗さをフィルム基材の粗さとして測定した。
【0071】
<キャリア密度>
キャリア密度は、ホール効果測定システム(バイオラッド製 HL5500PC)を用いて測定した。
【0072】
<表面抵抗および比抵抗>
抵抗率計(三菱化学アナリテック製 ロレスタGP MCP−T610)を用い、四探針法により表面抵抗を測定し、表面抵抗と膜厚との積から比抵抗を算出した。透明導電層の膜厚は透過型電子顕微鏡(日立ハイテク製、HF−2000)により、断面観察を行って測定した。
【0073】
<透明導電性フィルムの全光線透過率および反射光色相>
全光線透過率は、ヘイズメーター(スガ試験機製)を用いて、JIS K7105に準じて測定した。反射光のb
*は、透明導電層側から入射角2度で標準光(D65光源)を照射し、分光光度計(日立ハイテク製 U4100)を用いて測定した波長380〜780nmの反射光スペクトルから算出した。
【0074】
<加熱試験>
(抵抗変化率)
透明導電性フィルムを、80℃のオーブン内で240時間保持した後に取り出して、表面抵抗を測定した。抵抗変化率は、下記式により求めた。
抵抗変化率(%)={(加熱後の表面抵抗/加熱前の表面抵抗)−1}×100
抵抗変化率の符号+は加熱後に抵抗が上昇していることを意味し、符号−は加熱後に抵抗が低下していることを意味する。
【0075】
(膜質)
加熱後の透明導電性フィルムを濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm間の端子間抵抗をテスタにて測定した。端子間抵抗が10kΩを超えるもの(すなわち透明導電層の大部分が塩酸に溶解したもの)を非晶質、端子間抵抗が10kΩ以下のものを結晶質とした。
【0076】
[実施例1]
ロールスパッタ装置内に、厚み188μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(水分含有量:73μg/cm
2)のロールをセットし、スパッタ装置内を水分圧が2.0×10
−3Paとなるまで排気した。その後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、酸化インジウム(90重量%)と酸化スズ(10重量%)の混合焼結ターゲットを用い、基材温度40℃、圧力0.4Paの条件でスパッタ成膜を行い、PETフィルム上に厚み65nmのITO膜を成膜した。なお、スパッタ成膜時の酸素導入量は、透明導電層の表面抵抗が最小となるように調整した(
図2のy
0参照)。酸素導入量は、アルゴン100体積部に対して3.1体積部であった。
【0077】
[実施例2〜4]
成膜時のフィルム基材の搬送速度を変更することにより、透明導電層の成膜厚みを表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0078】
[実施例5]
成膜時の酸素導入量を、透明導電層の表面抵抗が最小となる酸素導入量(
図2のy
0)よりも10%増加させ、アルゴン100体積部に対して3.4体積部とした(
図2のy
1参照)。それ以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0079】
[比較例1]
成膜時の酸素導入量を、実施例5よりもさらに10%増加させた(
図2のz
1参照。それ以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0080】
[比較例2]
成膜時のフィルム基材の搬送速度を変更することにより、透明導電層の成膜厚みを29nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0081】
[比較例3]
厚み23μmのPETフィルムの一方の面に、アンダーコート層として、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物の重量比2:2:1の熱硬化型樹脂を、厚みが30nmとなるように形成した。アンダーコート層が形成されたPETフィルム(水分含有量:8μg/cm
2、算術平均粗さ:0.5nm)のロールをロールスパッタ装置内にセットし、スパッタ装置内を水分圧が2.3×10
−4Paとなるまで排気した。その後、アルゴンガスおよび酸素ガスを導入し、酸化インジウム(90重量%)と酸化スズ(10重量%)の混合焼結ターゲットを用い、基材温度140℃、圧力0.4Paの条件でスパッタ成膜を行い、PETフィルム上に厚み20nmのITO膜を成膜した。なお、スパッタ成膜時の酸素導入量は、透明導電層の表面抵抗が最小となる量(
図2のy
0参照)の約半分に調整した。酸素導入量は、アルゴン100体積部に対して1.2体積部であった。
【0082】
[比較例4]
成膜時のフィルムの搬送速度を変更することにより、透明導電層の成膜厚みを40nmに変更したこと以外は、比較例3と同様にして透明導電性フィルムを作製した。
【0083】
[評価結果]
上記各実施例および比較例の基材の特性、透明導電性フィルムの成膜条件、成膜直後の透明導電層の特性、加熱試験(80℃240時間加熱)後の特性、および透明導電性フィルムの光学特性を、表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
透明導電層成膜時の酸素導入量が過剰の比較例1では、実施例1に比べて透明導電層の比抵抗が高く、80℃240時間の加熱試験後の抵抗上昇が大きくなっていた。透明導電層成膜時の酸素導入量が少ない比較例3,4も、透明導電層の比抵抗が高くなっていた。また、比較例2は、実施例1と同様の条件で透明導電層の成膜が行われたが、透明導電層の膜厚が小さいために、表面抵抗が大幅に上昇していることが分かる。
【0086】
比較例3と比較例4は透明導電層の成膜条件が同一であるが、膜厚が20nmの比較例3では加熱試験後も透明導電層が非晶質状態を維持しているのに対して、膜厚が40nmの比較例4では加熱試験後の透明導電層が結晶化していた。そのため、比較例4では、加熱試験後の抵抗率が大幅に低下していた。これらの対比から、透明導電層の膜厚を増加させることにより表面抵抗を低くできるが、非晶質状態の維持が困難となる傾向があることが分かる。
【0087】
これに対して、実施例1〜5では、透明導電層成膜時の酸素量をボトム領域(
図2Aの領域Y)とすることにより、比抵抗が低くかつ加熱試験後も非晶質状態を維持可能な透明導電性フィルムが得られていることが分かる。
【0088】
実施例1、実施例5、比較例1および比較例2の透明導電層のキャリア密度に着目すると、成膜時の酸素導入量の増加に伴ってキャリア密度が低下する傾向がみられる。これは、酸素導入量の増加に伴って、膜中の酸素欠損が減少することに起因すると考えられる。
【0089】
図4は、実施例および比較例の透明導電膜(成膜直後)のキャリア密度(横軸)と比抵抗(縦軸)の関係をプロットしたグラフである。成膜時の酸素導入量がボトム領域付近の場合は、キャリア密度の増加に伴って比抵抗が低下する傾向があるが、酸素導入量が少なくキャリア密度が所定値を超えると、比抵抗が急激に高くなることが分かる
【0090】
なお、実施例1〜4および比較例2は、透明導電膜の成膜条件は同一で、膜厚が異なるのみであるが、キャリア密度および比抵抗にわずかな差がみられる。これは、上記実施例および比較例ではフィルム基材の搬送速度により膜厚を調整しているため、基材が受ける熱量(成膜ロールからの熱およびプラズマによる熱)が異なり、基材から放出される水分量等が相違することに関連すると推定される。
【0091】
実施例1〜5および比較例1の透明導電性フィルムは、全光線透過率には大きな差が無いが、反射光色相のb
*に明確な差がみられた。これは高屈折率の透明導電層の(光学)膜厚の変化に伴って、反射光の多重干渉が変化するためである。これらの結果から、成膜条件を調整することにより、比抵抗が小さくかつ非晶質状態を維持可能な透明導電層が得られることに加えて、膜厚を調整することにより、反射光の色相を調整し、透明性に優れる透明導電性フィルムが得られることが分かる。