特許第6548939号(P6548939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548939
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】発振回路
(51)【国際特許分類】
   H03B 9/14 20060101AFI20190711BHJP
   H03B 7/14 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   H03B9/14
   H03B7/14
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-75635(P2015-75635)
(22)【出願日】2015年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-213303(P2015-213303A)
(43)【公開日】2015年11月26日
【審査請求日】2018年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-86793(P2014-86793)
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501382823
【氏名又は名称】相川 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】恩塚 辰典
(72)【発明者】
【氏名】中川 敦
(72)【発明者】
【氏名】根本 光進
(72)【発明者】
【氏名】相川 正義
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−258556(JP,A)
【文献】 特開昭61−172401(JP,A)
【文献】 特開平02−048808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 9/14
H03B 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1スロットラインと交差して設けられた第1負性抵抗素子及び第2負性抵抗素子を有し、波長λの第1発振信号を出力する第1発振器と、
第2スロットラインと交差して設けられた第3負性抵抗素子及び第4負性抵抗素子を有し、波長λの第2発振信号を出力する第2発振器と、
前記第1発振信号及び前記第2発振信号の波長をλとしたときの長さがλ/2の奇数倍であるループ状の第3スロットラインを有し、前記第3スロットラインに第1非線形素子及び第2非線形素子が設けられた乗算器と、
を有し、
前記第1発振器及び前記乗算器は、前記第1スロットラインにおける前記第1負性抵抗素子と第2負性抵抗素子との中間の位置と、前記第3スロットラインと交差する前記第1非線形素子と前記第2非線形素子との第1の間の中間位置と、において第1マイクロストリップラインを介した電界又は磁界で結合し、
前記第2発振器及び前記乗算器は、前記第2スロットラインにおける前記第3負性抵抗素子と第4負性抵抗素子との中間の位置と、前記第3スロットラインと交差する前記第1非線形素子と前記第2非線形素子との第2の間における前記第2非線形素子からλ/4の位置と、において第2マイクロストリップラインを介した電界又は磁界で結合し、
前記乗算器は、前記第3スロットラインの内側に印加された電圧に応じて、前記第1発振信号の位相と前記第2発振信号の位相との位相差を制御する、
発振回路。
【請求項2】
前記第1負性抵抗素子と前記第2負性抵抗素子との間の前記第1スロットラインの長さが、kλ/2(ただし、kは奇数)であり、
前記第3負性抵抗素子と前記第4負性抵抗素子との間の前記第2スロットラインの長さが、kλ/2(ただし、kは奇数)である、
請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
前記第3スロットラインにおける、前記第1の間の長さは、mλ/2(ただし、mは偶数)であり、前記第2の間の長さは、nλ/2(ただし、nは奇数)である、
請求項1又は2に記載の発振回路。
【請求項4】
前記第3スロットラインにおける、前記第1の間の長さは、mλ/2(ただし、mは奇数)であり、前記第2の間の長さは、λ/10以下である、
請求項1又は2に記載の発振回路。
【請求項5】
前記第1発振器は、前記第1スロットラインと平行であり、前記第1スロットラインと電界又は磁界で結合することで前記第1発振信号を電磁放射する複数のスロットラインをさらに備え、
前記第2発振器は、前記第2スロットラインと平行であり、前記第2スロットラインと電界又は磁界で結合することで前記第2発振信号を電磁放射する複数のスロットラインをさらに備える、
請求項1からのいずれか1項に記載の発振回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差が調整された複数の発振信号を出力する発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、位相差が調整された複数の発振信号を出力する発振回路が知られている。例えば、特許文献1においては、複数の発振器の間に設けられた結合回路により、それぞれの発振器から出力される発振信号の位相を調整する位相差可変発振器が開示されている。
【0003】
図9は、従来の発振回路900の構成を示す図である。発振回路900は、発振器910と、発振器920と、結合器930とを備える。発振器910は、マイクロストリップライン911と、HEMTを用いた負性抵抗回路912と、HEMTを用いた負性抵抗回路913とを有するプッシュ−プッシュ発振器である。発振器920は、マイクロストリップライン921と、HEMTを用いた負性抵抗回路922と、HEMTを用いた負性抵抗回路923とを有するプッシュ−プッシュ発振器である。
【0004】
結合器930は、反射係数及び透過係数が左右非対称な共振器である。結合器930が内蔵する可変容量を調整することで、発振器910から結合器930を見た高周波インピーダンスと、発振器920から結合器930を見た高周波インピーダンスとが調整される。その結果、発振器910が出力する発振信号の位相と、発振器920が出力する発振信号の位相との間の位相差を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−244382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の結合器930は、回路の非対称性と共振周波数可変によって発振位相差可変機能を実現したやや複雑な回路構成であり、そのために回路構成の一般性に乏しく、設計性や汎用性に課題がある。
【0007】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、設計上の制約が小さく、位相差が異なる複数の発振信号を安定的に出力できる発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る発振回路は、第1スロットラインに設けられた負性抵抗素子を有し、第1発振信号を出力する第1発振器と、第2スロットラインに設けられた負性抵抗素子を有し、第2発振信号を出力する第2発振器と、第1非線形素子及び第2非線形素子が設けられたループ状の第3スロットラインを有する乗算器と、を有し、前記第1発振器と前記乗算器とは電界又は磁界で結合し、前記第2発振器と前記乗算器とは電界又は磁界で結合し、前記乗算器は、前記第3スロットラインの内側に印加された電圧に応じて、前記第1発振信号の位相と前記第2発振信号の位相との位相差を制御する。
【0009】
前記乗算器は、例えば、前記第3スロットラインと交差する第1非線形素子と、前記第3スロットラインと交差する第2非線形素子と、を有し、前記第1発振信号及び前記第2発振信号の波長をλとしたときに、前記第3スロットラインにおける、前記第1非線形素子と前記第2非線形素子との第1の間の長さは、mλ/2(ただし、mは偶数)であり、前記第1非線形素子と前記第2非線形素子との第2の間の長さは、nλ/2(ただし、nは奇数)である。
【0010】
前記第1発振信号及び前記第2発振信号の波長をλとしたときに、前記第1発振器は、ループ状の前記第1スロットラインと交差して設けられた第1負性抵抗素子及び第2負性抵抗素子を有し、前記第1負性抵抗素子と前記第2負性抵抗素子との間の前記第1スロットラインの長さが、kλ/2(ただし、kは奇数)であり、前記第2発振器は、ループ状の前記第2スロットラインと交差して設けられた第3負性抵抗素子及び第4負性抵抗素子を有し、前記第3負性抵抗素子と前記第4負性抵抗素子との間の前記第2スロットラインの長さが、kλ/2であってもよい。
【0011】
前記第1発振器及び前記乗算器は、前記第1スロットラインにおける、前記第1負性抵抗素子と前記第2負性抵抗素子との中間の位置と、前記乗算器における、前記第1非線形素子と前記第2非線形素子との第1の間の中間位置との間で電界結合してもよい。
【0012】
また、前記乗算器は、前記第3スロットラインと交差する第1非線形素子と、前記第3スロットラインと交差する第2非線形素子と、を有し、前記第1発振信号及び前記第2発振信号の波長をλとしたときに、前記第3スロットラインにおける、前記第1非線形素子と前記第2非線形素子との第1の間の長さは、λ/2の奇数倍であり、前記第1非線形素子と前記第2非線形素子との第2の間の長さは、λ/10以下であってもよい。
【0013】
また、前記第1発振器は、前記第1スロットラインと平行であり、前記第1スロットラインと電界又は磁界で結合することで前記第1発振信号を電磁放射する複数のスロットラインをさらに備え、前記第2発振器は、前記第2スロットラインと平行であり、前記第2スロットラインと電界又は磁界で結合することで前記第2発振信号を電磁放射する複数のスロットラインをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、設計上の制約が小さく、位相差が異なる複数の発振信号を安定的に出力できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る発振回路の構成を示す図である。
図2】他の乗算器の例(その1)を示す図である。
図3】他の乗算器の例(その2)を示す図である。
図4】他の乗算器の例(その3)を示す図である。
図5】他の乗算器の例(その4)を示す図である。
図6】第2の実施形態に係る発振回路の構成を示す図である。
図7】第3の実施形態に係る発振回路の構成を示す図である。
図8】第4の実施形態に係る発振回路の構成を示す図である。
図9】従来の発振回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施形態>
[発振回路100の概要]
図1は、第1の実施形態に係る発振回路100の構成を示す図である。発振回路100は、発振器10と、発振器20と、乗算器30とを備える。発振器10及び発振器20は、マイクロ波、ミリ波又はテラヘルツ波等の高周波発振信号を出力する。発振回路100においては、発振器10及び発振器20により生じる共振波動場を、基板裏面上のマイクロストリップライン34及びマイクロストリップライン35を介して乗算器30と電磁結合することにより、発振器10の発振信号及び発振器20の発振信号が、所定の位相差を有する状態で相互同期する。その結果、発振器10及び発振器20は、位相差が異なる複数の発振信号を安定的に出力できる。以下、図1を参照して、発振回路100の構成について詳細に説明する。
【0017】
発振器10は、スロットライン11と、ダイオード12と、ダイオード13とを有する。スロットライン11は、基板1に設けられた導体2の一部の領域を除去することにより形成されており、第1直線状部と、第1直線状部と平行な第2直線状部とを少なくとも有する。スロットライン11は、第1直線状部の一端と第2直線状部の一端との間に形成された第1接続部を有する。また、スロットライン11は、第1直線状部の他端と第2直線状部の他端との間に形成された第2接続部を有する。図1における第1接続部及び第2接続部は半円状であるが、第1接続部及び第2接続部は、半円以外の楕円等の曲線の一部であってもよい。
【0018】
ダイオード12は、第1直線状部においてスロットライン11と交差して基板に設けられた第1負性抵抗素子である。ダイオード13は、第2直線状部においてスロットライン11と交差して基板に設けられた第2負性抵抗素子である。ダイオード12及びダイオード13は、例えばガンダイオードである。ダイオード12及びダイオード13のアノード端子は、スロットライン11の内側にあり、ダイオード12及びダイオード13のカソード端子は、スロットライン11の外側にある。
【0019】
ダイオード12は、第1直線状部の中心位置に設けられており、ダイオード13は、第2直線状部の中心位置に設けられている。スロットライン11の内側にバイアス電圧を印加することにより、ダイオード12及びダイオード13が発振し、発振器10が発振信号を出力する。
【0020】
ダイオード12が設けられた位置と、ダイオード13が設けられた位置との間のスロットライン11の長さは、発振信号の波長λのk/2倍(kは奇数)である。スロットライン11の周長は、発振信号の波長λのk倍である。図1においては、k=3の場合が示されている。
【0021】
図1におけるダイオード12と位置aとの間の長さ、ダイオード13と位置aとの長さは、それぞれ3λ/4に等しい。この場合、ダイオード12とダイオード13との間に発振波動が発生する。図1における矢印は、ある瞬間における電界の向きを示しており、相互の位相関係がわかる。図1においては、ダイオード12と位置aとの間、及びダイオード13と位置aとの間における電界の向きは、スロットライン11の外側への向きとなっている。また、位置aにおける電界の向きは、スロットライン11の内側への向きとなっている。
【0022】
発振器20は、スロットライン21と、ダイオード22と、ダイオード23とを有する。スロットライン21は、スロットライン11と同様に周長が3λである。ダイオード22及びダイオード23は、それぞれダイオード12及びダイオード13に対応するガンダイオードである。
【0023】
乗算器30は、スロットライン31と、ダイオード32と、ダイオード33とを有する平衡型RF乗算器である。スロットライン31は、周長がλ/2の奇数倍のループ状のスロットラインである。ダイオード32及びダイオード33は、例えばショットキーバリアダイオードである。ダイオード32は、アノード端子がスロットライン31の外側に配置された状態でスロットライン31と交差して、導体2に接続されている。ダイオード33は、カソード端子がスロットライン31の外側に配置された状態でスロットライン31と交差して、導体2に接続されている。
【0024】
スロットライン31における、ダイオード32とダイオード33との第1の間の長さ、すなわち発振器10の側の長さは、mλ/2(ただし、mは奇数)である。図1においては、m=1の場合が示されている。スロットライン31における、ダイオード32とダイオード33との第2の間の長さ、すなわち発振器20の側の長さは、nλ/2(ただし、nは偶数)である。図1においては、n=2の場合が示されている。
【0025】
発振器10及び乗算器30は、スロットライン11における、ダイオード12とダイオード13との中間の位置と、スロットライン31における、ダイオード32とダイオード33との第1の間の中間位置、すなわちダイオード32及びダイオード33からλ/4の位置とにおいてマイクロストリップライン34を介して電界結合する。同様に、発振器20及び乗算器30は、スロットライン21における、ダイオード22とダイオード23との中間の位置と、スロットライン31における、ダイオード32とダイオード33との第2の間における、ダイオード33からλ/4の位置とにおいてマイクロストリップライン35を介して電界結合する。
【0026】
ダイオード32及びダイオード33が上記の位置に設けられていることにより、発振器10の発振信号の位相と、発振器20の発振信号の位相との間の位相差に対応する電圧が、スロットライン31の内側に発生する。この因果律に基づいて考察すると、スロットライン31の内側に印加する制御電圧を制御することにより、発振器10の発振信号と発振器20の発振信号との間の位相差を制御できることがわかる。
【0027】
具体的には、スロットライン31の内側に印加する制御電圧を変化させると、ダイオード32及びダイオード33の高周波インピーダンスが変化する。すなわち、ダイオード32及びダイオード33の反射・透過特性が変化する。その結果、発振器10から乗算器30を見たときの高周波インピーダンスと、発振器20から乗算器30を見たときの高周波インピーダンスとが変化する。したがって、スロットライン31の内側に印加する制御電圧を制御することにより、発振器10と発振器20とが相互同期した状態で、発振器10の発振信号と発振器20の発振信号との間の位相差を制御することができる。
【0028】
[乗算器の変形例]
乗算器としては、乗算器30の代わりに多様な乗算器を用いることができる。図2から図4に他の乗算器の例を示す。図2図3及び図4における実線の矢印は、発振器との結合が電界結合であることを示しており、破線の矢印は、発振器との結合が磁界結合であることを示している。
【0029】
図2は、他の乗算器の例としての乗算器40を示す図である。乗算器40においては、周長がλのスロットライン41における位置aの近傍に、ダイオード42及びダイオード43が設けられている。ダイオード42及びダイオード43は、例えばショットキーバリアダイオードであり、アノード及びカソードの向きが互いに逆の向きに設けられている。乗算器40は、位置a及び位置bにおいて発振器と磁界結合することにより、乗算器40に隣接する発振器が出力する発振信号間の位相差を制御することができる。
【0030】
図3は、他の乗算器の例としての乗算器50を示す図である。乗算器50においては、周長がλ/2の奇数倍の円形のスロットラインにおける位置bの近傍に、ダイオード52及びダイオード53が設けられている。ダイオード52及びダイオード53は、例えばショットキーバリアダイオードである。
【0031】
ダイオード52は、スロットライン51の内側にカソードが配置された状態でスロットライン51と交差する。ダイオード53は、スロットライン51の内側にアノードが配置された状態でスロットライン51と交差する。スロットライン51における、ダイオード52とダイオード53との第1の間の長さはλ/2の奇数倍であり、ダイオード52とダイオード53との第2の間の長さは、λ/10以下である。乗算器50は、位置aにおいて発振器と電界結合し、位置bにおいて発振器と磁界結合することにより、複数の発振器が出力する発振信号間の位相差を制御することができる。
【0032】
図4は、他の乗算器の例としての乗算器60を示す図である。乗算器60においては、スロットライン61における位置bの近傍に、ダイオード62及びダイオード63が設けられている。スロットライン61における位置aと位置bとの間の長さはλ/4である。ダイオード62及びダイオード63は、例えばショットキーバリアダイオードであり、アノード及びカソードの向きが互いに逆の向きに設けられている。乗算器60は、位置aにおいて発振器と電界結合し、位置bにおいて発振器と磁界結合することにより、乗算器60に隣接する発振器が出力する発振信号間の位相差を制御することができる。
【0033】
図5は、他の乗算器の例としての乗算器70を示す図である。乗算器70においては、一波長(λ)の円形状スロットライン71に、ダイオード72、ダイオード73、ダイオード74、及びダイオード75が等間隔に設けられている。隣接するダイオードは、互いに逆の向きに設けられている。乗算器70は、対向する発振器間の同期をとると共に、その2組の発振器において発生される発振信号間の位相差を制御することができる。
【0034】
[第1の実施形態における効果]
以上のとおり、第1の実施形態に係る発振回路100においては、発振器10及び発振器20に隣接して乗算器30を設けるという簡易な構造により、発振器10及び発振器20が発生する発振信号の位相差を制御できる。このように、発振信号の位相差を自在に制御できるので、発振回路100を用いることで、鋭いビームを放射することができる放射指向性可変モジュールや、検出方向を制御可能なワイヤレスセンサーを実現することができる。
【0035】
<第2の実施形態>
図6は、第2の実施形態に係る発振回路200の構成を示す図である。発振回路200は、発振器210と、発振器220と、発振器230と、発振器240とを備える。図6において、発振器230及び発振器240は、その一部のみが示されている。また、発振器210と発振器220との間は、乗算器50−1により結合されており、乗算器50−1の円形状のスロットラインの内側に印加する制御電圧によって、発振器210の発振信号と発振器220の発振信号との間の位相差を制御することができる。
【0036】
発振器210は、スロットライン211と、ダイオード212と、スリット213とを備え、高周波発振信号を出力する。スロットライン211の長さは、発振器210が放射する発振信号の波長λの2倍に等しい。ダイオード212の位置からスロットライン211の端部までの長さはλである。
【0037】
ダイオード212は、例えばガンダイオードである。ダイオード212は、スロットライン211の中央位置において、スロットライン211と交差して基板1に設けられている。具体的には、ダイオード212のアノード及びカソードは、それぞれスロットライン211の反対側において導体2に接続されている。導体2は、スリット213により、ダイオード212のアノードが接続されている第1領域と、ダイオード212のカソードが接続されている第2領域とに分断されている。
【0038】
スリット213は、導体2を除去することにより形成されている。スリット213は、スロットライン211における、ダイオード212からλ/4の距離の位置から、スロットライン211と直交する方向に延伸している。スリット213とスロットライン211とで囲まれた領域にバイアス電圧を印加することにより、ダイオード212のアノードにバイアス電圧が印加され、ダイオード212が発振信号の発生を開始する。
【0039】
発振器220は、発振器210と同等の構造を有している。すなわち、発振器220は、スロットライン211に対応するスロットライン221と、ダイオード212に対応するダイオード222と、スリット213に対応するスリット223とを有し、発振器210が出力する発振信号とほぼ同じ周波数の発振信号を出力する。なお、図6においては、スリット213及びスリット223が、それぞれスロットライン211及びスロットライン221とT字状に結合しているが、スリット213及びスリット223が、スロットライン211及びスロットライン221を突き抜けて、スロットライン211及びスロットライン221と十字状に交差してもよい。スリット213及びスリット223は、例えば、λ/4以下の長さだけ、スロットライン211及びスロットライン221を突き抜けてもよい。
【0040】
乗算器50−1は、スロットライン211におけるダイオード212からλ/2の位置、すなわち、電界がゼロとなる位置cの近傍に設けられている。位置cの近傍において、乗算器50−1は発振器210と磁界結合する。なお、位置cの近傍において、乗算器50−1のスロットラインにはT型の分岐が形成されている。
【0041】
乗算器50−1は、乗算器50−1を挟んで位置cの反対側の位置dの近傍、すなわち、ダイオード222から3λ/4の位置の近傍において、マイクロストリップライン51を介して発振器220と電界結合する。上記の構成により、発振器210及び発振器220は、磁界結合及び電界結合により結合された乗算器50−1を介して相互同期するとともに、乗算器50−1のスロットラインの内側に印加される制御電圧に応じて位相差が制御される発振信号を出力することができる。
【0042】
乗算器50−2は、発振器210の位置eの近傍、すなわち、ダイオード212から3λ/4の位置の近傍において、マイクロストリップライン52を介して発振器210と電界結合する。また、乗算器50−2は、位置eの反対側の位置の近傍において、発振器230と磁界結合する。上記の構成により、発振器210及び発振器230は、磁界結合及び電界結合により結合された乗算器50−2を介して相互同期するとともに、乗算器50−2のスロットラインの内側に印加される制御電圧に応じて位相差が制御される発振信号を出力することができる。
【0043】
同様に、乗算器50−3は、発振器220の位置fの近傍、すなわち、ダイオード222からλ/2の位置の近傍において発振器220と磁界結合する。また、乗算器50−3は、位置fの反対側の位置の近傍において、マイクロストリップライン53を介して発振器240と電界結合する。上記の構成により、発振器220及び発振器240は、磁界結合及び電界結合により結合された乗算器50−3を介して相互同期するとともに、乗算器50−3のスロットラインの内側に印加される制御電圧に応じて位相差が制御される発振信号を出力することができる。
【0044】
[第2の実施形態における効果]
以上のとおり、第2の実施形態に係る発振回路200においては、複数の発振器210、220、及びスロットライン231、241を、乗算器50を介して電磁結合することにより、多素子から構成される1次元の発振アレーを実現することができる。発振回路200をアンテナと複合化することによって、ビーム指向性の可変制御を容易に実現できる発振アレーとして活用することができる。
【0045】
<第3の実施形態>
図7は、第3の実施形態に係る発振回路300の構成を示す図である。発振回路300は、発振器310と、発振器320とを備える。また、発振器310と発振器320との間は、乗算器40−1により結合されており、乗算器40−1のスロットラインの内側に印加する制御電圧によって、発振器310の発振信号の位相と発振器320の発振信号の位相との間の位相差を制御することができる。
【0046】
発振器310は、スロットライン311と、ダイオード312と、スリット313とを備え、高周波発振信号を出力する。スロットライン311の長さは、発振器210が放射する発振信号の波長λに等しい。したがって、スロットライン311においては、ダイオード312の両側に、同じ向きの一様な電界が生じるので、スロットライン311は、放射機能を有するスロットアレーアンテナとして機能する。
【0047】
ダイオード312は、例えばガンダイオードである。ダイオード312は、スロットライン311の中央位置において、スロットライン311と交差して基板1に設けられている。具体的には、ダイオード312のアノード及びカソードは、それぞれスロットライン311の反対側において導体2に接続されている。導体2は、スリット313により、ダイオード312のアノードが接続されている第1領域と、ダイオード312のカソードが接続されている第2領域とに分断されている。
【0048】
スリット313は、スロットライン311における、ダイオード312からλ/4の距離の位置から、スロットライン311と直交する方向に延伸している。スリット313とスロットライン311とで囲まれた領域にバイアス電圧を印加することにより、ダイオード312のアノードにバイアス電圧が印加され、ダイオード312が発振信号の発生を開始する。なお、スリット313が、電流がゼロとなる、ダイオード312からλ/4の距離の位置に形成されているので、スリット313は、高周波信号の発振に影響しない。
【0049】
発振器320は、発振器310と同等の構造を有している。すなわち、発振器320は、スロットライン311に対応するスロットライン321と、ダイオード312に対応するダイオード322と、スリット313に対応するスリット323とを有し、発振器310が出力する発振信号とほぼ同じ周波数の発振信号を出力する。なお、スリット313及びスリット323は、スロットライン311及びスロットライン321を突き抜けて、スロットライン311及びスロットライン321と十字状に交差してもよい。
【0050】
発振器310及び発振器320は、乗算器40−1と電界結合している。その結果、発振器310及び発振器320は、磁界結合された乗算器40−1を介して相互同期するとともに、乗算器40−1のスロットラインの内側に印加される制御電圧に応じて位相差が制御される発振信号を出力することができる。
【0051】
なお、発振回路300は、発振器310及び発振器320の外側に、乗算器40−2及び乗算器40−3をさらに備えている。発振回路300は、乗算器40−2及び乗算器40−3を介して、さらに多数の発振器(例えば、発振器330及び発振器340)と磁界結合することで、隣接位相差が自在に制御可能なさらに多くの発振信号を出力することができる。
【0052】
[第3の実施形態における効果]
以上のとおり、第3の実施形態に係る発振回路300においては、複数の発振器310、320を、乗算器40を介して磁界結合することにより、多素子から構成される1次元の発振アレーを実現することができる。発振回路300におけるスロットライン311及びスロットライン321は、発振器の共振器であると同時に、一様な電界が同じ向きに発生する放射機能を有しており、発振回路300は、ビーム指向性の可変制御を容易に実現できる発振アレーとして活用することができる。
【0053】
<第4の実施形態>
図8は、第4の実施形態に係る発振回路400の構成を示す図である。発振回路400は、発振器及びスロットアレーアンテナの機能を複合化した複数の発振器410(発振器410−1、410−2、・・・)と、これらの発振器410を相互に結合する複数の乗算器30(30−1、30−2)を備える。発振器410においては、ガンダイオードが設けられた長さが波長λに等しいスロットラインと平行で、長さがλ/2のスロットラインが複数設けられている。長さがλのスロットラインと長さがλ/2の複数のスロットラインとは、スロットラインと直交する方向において互いに電界結合しており、複数のスロットラインから発振信号が電磁放射される。
【0054】
発振器410は、ガンダイオードが設けられた2つのスロットライン間に、スロットラインと直交する方向に形成されたスリットを有する。当該スリットは、図8に示すように、長さがλのスロットラインとT字状に結合してもよく、十字状に交差してもよい。
【0055】
上記の構成により、複数の発振器410は、乗算器30の内側に印加される制御電圧に応じて位相差が制御される複数の発振信号を出力することができる。本実施形態に係る発振回路400によれば、発振器410が多数のスロットラインを有するので、位相差を可変制御できるビームステアリングアレーアンテナを実現することができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0057】
例えば、上記の実施形態においては、ガンダイオードを装荷した場合の構成について説明したが、HEMT等の3端子素子から構成される負性抵抗回路や、負性抵抗回路を含むMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)をスロットライン共振器に電磁結合させることにより構成してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1・・・基板
2・・・導体
10、20、210、220、230、240、310、320、410、910、920・・・発振器
11、21、31、41、51、61、71、211、221、231、241、311、321・・・スロットライン
12、13、22、23、32、33、42、43、52、53、62、63、72、73、74、75、212、222、312、322・・・ダイオード
30、40、50、60、70・・・乗算器
100、200、300、400、900・・・発振回路
213、223、313、323・・・スリット
930・・・結合器
911、921・・・マイクロストリップライン
912、913、922、923・・・負性抵抗回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9