【実施例1】
【0023】
図1において、電磁クラッチ1の第1の実施例が示されている。この電磁クラッチ1は、エンジンやモータなどの動力源から従動機器である圧縮機2に対して回転動力を断続的に供給できるようにするもので、圧縮機2の駆動軸20を中心として回転可能に支持されたロータ4と、このロータ4に対して軸方向で対峙するアーマチュアプレート5と、圧縮機2の駆動軸20に固装され、駆動軸20と共に回転するハブ6と、アーマチュアプレート5に連結されたアウタープレート7と、ハブ6に連結されたインナープレート8と、これらアウタープレート7とインナープレート8との間に介在する弾性部材10を有して構成されている。
【0024】
ロータ4は、磁性材により環状に形成されているもので、
図2にも示すように、その外周に動力源と連結する連結ベルトを取り付けるための溝4aが形成され、内周にベアリング14が設けられ、このベアリング14を介して圧縮機2のハウジング2aから突出する駆動軸20を軸支するための円筒部16の外周に回転自在に外嵌されている。ロータ4の圧縮機2の本体とは反対側となる側端面4bは、ロータ4の軸心に対して略垂直となる平面状に形成され、下記するアーマチュアプレート5と対峙する摩擦面を構成している。
【0025】
アーマチュアプレート5は、
図3にも示されるように、磁性材により円板状に形成されているもので、後述するアウタープレート7に固定され、ロータ4の側端面4bと僅かなギャップを隔てて対峙する側端面5aを有している。この側端面5aは、ロータ4の軸心に対して略垂直となる平面状に形成され、ロータ4と対峙する摩擦面を構成している。
【0026】
励磁コイル3は、ステータハウジング11のコイル溝11a内に収容されると共に樹脂モールド11bによって固定されたボビン12に巻回され、この励磁コイル3が収容されたステータハウジング11は、取付板13を介して圧縮機2のハウジング2aに固定されている。ロータ4には、圧縮機2のハウジング側が開口された環状空間41が形成され、励磁コイル3が収納されたステータハウジング11は、この環状空間41に、所定のクリアランスを持って収納されている。
したがって、ロータ4は、励磁コイル3をアーマチュアプレート側から覆うように設けられ、この励磁コイル3と摺接することなく、励磁コイルに沿って回転することになる。
【0027】
また、ロータ4の側端面4bより励磁コイル側には、所定の温度を超えたときに溶断し、励磁コイル3への通電を遮断する温度ヒューズ15が設けられている。この温度ヒューズ15は、例えば、ステータハウジング11のコイル溝11aの開口端近傍に樹脂モールド11bによって固定され、励磁コイル3に沿って複数設けてもいいが、励磁コイル3に対して直列的に結線され、いずれかの温度ヒューズ15が溶断した場合に励磁コイル3への通電が遮断されるようになっている。
【0028】
ところで、ロータ4の側端面4bには、励磁コイル3への通電によって発生する磁束の通過を遮断して迂回させる外側磁気遮断部21と内側磁気遮断部22とがロータ4の軸心(駆動軸20)からの距離を異ならせた仮想円上に周方向に断続的に形成されている。
【0029】
即ち、外側磁気遮断部21は、
図2に示すように、ロータ4の軸心を中心とした仮想円上に円弧状の4つの長孔を等間隔に形成して構成され、また、内側磁気遮断部22は、前記外側磁気遮断部21の仮想円より径が小さいロータ4の軸心を中心とする仮想円上に円弧状の6つの長孔を等間隔に形成して構成されている。
【0030】
これに対して、アーマチュアプレート5の側端面5aには、励磁コイル3への通電によって発生する磁束を迂回させるための中間磁気遮断部23が、ロータ4の側端面4bに形成された磁気遮断部21,22から径方向にずらした位置に設けられている。
即ち、この例においては、
図3に示されるように、中間磁気遮断部23を非磁性材の金属からなるリング状部材53によって構成し、アーマチュアプレート5は、磁性材の金属からなる外側環状プレート51と内側環状プレート52との間に、前記リング状部材53を固着して孔を有しない一枚の円板状のプレートとして形成されている。
【0031】
したがって、ロータ4とアーマチュアプレート5とを軸心を一致させて対峙させた状態においては、外側磁気遮断部21の径方向外側の部分で第1吸引極Aが形成され、外側磁気遮断部21と中間磁気遮断部23との間の部分で第2吸引極Bが形成され、中間磁気遮断部23と内側磁気遮断部22との間の部分で第3吸引極Cが形成され、内側磁気遮断部22の径方向内側の部分で第4吸引極Dが形成され、励磁コイル3の通電により、磁束が第1吸引極A、第2吸引極B、第3吸引極C、第4吸引極Dを通って励磁コイル3の周囲を通る磁気回路が形成されてアーマチュアプレート5をロータ4に吸着する吸引力が生成される。
【0032】
アウタープレート7は、弾性部材10を保持するための軸方向に延びる筒状の保持部7aと、この保持部7aのアーマチュアプレート側の端部からアーマチュアプレート5の面に沿って延出したフランジ7bとを有して構成され、フランジ7bに取り付けられるリベット17によりアーマチュアプレート5に固定されている。
【0033】
ハブ6は、駆動軸20の端部にボルト18によって固定されているもので、このハブ6の駆動軸20に固定される本体6aから径方向に延出したフランジ6bには、インナープレート8がリベット19により固定されている。このインナープレート8は、ハブ6とは別体をなすもので、略円盤状をなし、ハブ6のフランジ6bに重ね合わせてリベット19で固定される基部8aと、この基部8aの外周縁から軸方向に沿って略筒状に立設されて弾性部材10を保持する保持部8bとを有して構成されている。
【0034】
そして、
図4(b)にも示されるように、アウタープレート7とインナープレート8とを同一平面上に組み合わせてアウタープレート7の保持部7aとインナープレート8の保持部8bとの間に形成される環状隙間9に弾性部材10を介在させ、この弾性部材10をアウタープレート7とインナープレート8との双方に接着することで、アウタープレート7とインナープレート8とを弾性部材10を介して連結させている。
【0035】
弾性部材10は、アウタープレート7の保持部7aとインナープレート8の保持部8bとの全周にわたって設けられた環状の合成ゴム(NBR や塩素化ブチル等)により構成され、回転方向のトルク変動をねじりによって吸収し、トルク変動に伴なう駆動軸20等の破損の防止等を図っている。また、この弾性部材10により、アーマチュアプレート5のロータ4への吸着に伴う弾性変形を許容し、励磁コイル3へ通電した場合には、弾性部材10の弾性変形により、アーマチュアプレート5がロータ4の側端面側に吸着し、励磁コイル3への通電が解除された場合には、弾性部材10の復元力によりアーマチュアプレート5をロータ4の側端面から離反させるようにしている。
【0036】
以上の構成において、ロータ4の側端面4bには、
図4(a)にも示されるように、ロータ4の軸心を中心とし、内側磁気遮断部22を含むように円環状に形成された環状溝25が形成され、この環状溝25に摩擦部材26が配置されている。
【0037】
この摩擦部材26は、非磁性材で構成されているもので、環状溝25の大きさに合わせた径に円環状に、且つ、板状に形成されており、環状溝25に収容されて、アーマチュアプレート5と対峙する面が、ロータ4の側端面4bから僅かに突出するように(この例では、0.010〜0.050mmとなるように)固定されている。
【0038】
摩擦部材26は、所定の弾性変形、吸着音の低減、トルク伝達、耐摩耗等の機能が求められているもので、例えば、アラミド繊維、非鉄金属繊維、無機繊維などの繊維素材を基材とし、充填剤、摩擦特性向上材等を配合し、フェノール樹脂等のバインダーで結合した素材を用いることができる。
【0039】
摩擦部材26が取り付けられた内側磁気遮断部22とアーマチュアプレート5の中間磁気遮断部23との位置関係により、第2吸引極Bと第3吸引極Cとの径方向の幅を調整して、吸着力を調整することは可能であるが、この例では第3吸引極Cの径方向幅は、摩擦部材26による摩擦トルクや各極の吸着力を確保する上で、第2吸引極Bの径方向幅の60%以上に設定されている。
【0040】
さらに、この例では、ロータ4の側端面4bに、外側磁気遮断部21を含むように環状溝24が形成されている。この環状溝24は、ロータ4の軸心を中心とした円環状に形成されているもので、前記環状溝25と同等の深さかそれよりも浅く形成されている。
【0041】
以上の構成において、次に、この電磁クラッチ1の基本動作等を説明すると、励磁コイル3の非通電時には、アーマチュアプレート5は、アウタープレート7を介して取り付けられた弾性部材10の弾性力により、ロータ4の側端面4bから離れた状態にあり、ロータ4は空転した状態にある。これに対し、励磁コイル3が通電されると、ロータ4及びアーマチュアプレート5には
図1で示す如く磁気回路が形成され、電磁吸引力が発生して、アーマチュアプレート5が、弾性部材10の弾性力に抗してロータ4側に吸引される。
【0042】
この際、アーマチュアプレート5は、ロータ4の側端面4bの内側磁気遮断部25上に突出するように設けられた摩擦部材26に最初に当接するので、アーマチュアプレート5がロータ4の側端面4bに接触する時の吸着音が低減される。そしてアーマチュアプレート5が摩擦部材26に当接したのち、摩擦部材26の弾性変形およびアーマチュアプレート5自身の弾性変形により、アーマチュアプレート5の外周寄りの部分が、ロータ4の側端面4bの外周寄りの部分に当接する。これにより、ロータ4の内周寄りの部分では、摩擦部材26とアーマチュアプレート5との摩擦によって、また、ロータ4の外周寄りの部分では、ロータ4とアーマチュアプレート5の摩擦によって、ロータ4の回転がアーマチュアプレート5からアウタープレート7、弾性部材10、インナープレート8、及びハブ6を介して圧縮機2の駆動軸20に伝達される。
【0043】
したがって、何らかの都合で圧縮機2が回転不能となり、ロータ4とアーマチュアプレート5との間でスリップが発生した場合には、ロータ4の内周寄りの部分は、磁性体金属と非磁性体の摩擦部材26との摺接となるので、この摺接部分が凝着して固着することがない。その結果、スリップした状態が持続され、ロータ4とアーマチュアプレート5とが摺接して生じた摩擦熱を、温度ヒューズ15に伝達してこの温度ヒューズ15を速やかに溶断させ、クラッチの接続を確実に切断することが可能となる。
なお、ロータ4の外周寄りの部分は、同種金属である磁性体同士が摺接することになるが、ロータ4の外周寄りの領域は周速が速いため、部分的に凝着が生じた場合でも、相対速度差が大きく、発生する摩擦熱も大きいため、摺動面の固着現象が生じることはない。
【0044】
特に、上述の構成例では、ロータ4の側端面4bに、外側磁気遮断部21を含み、この外側磁気遮断部21の径方向外側において磁路巾(第1吸引極Aの径方向巾)を外側寄りに狭めた環状溝24が形成されているので、第1吸引極Aをロータ4の回転中心からより遠い位置に構成させて、ロータ4からアーマチュアプレート5への伝達トルクの向上を図ることが可能となる。なお、環状溝24を設けて第1吸引極Aの磁路幅を外側寄りに狭めるにあたり、第1吸引極Aの磁路幅を狭くしすぎると磁気抵抗が大きくなる恐れがある。この例では第1吸引極Aの径方向幅は、第2吸引極Bの径方向幅の70%以上に設定されている。
【0045】
なお、以上の構成例においては、ロータ4の内側磁気遮断部22が形成された部分にあっては、これを含むように環状溝25を形成すると共にその環状溝25に摩擦部材26を設け、また、外側磁気遮断部21が形成された部分にあっては、これを含むようにその外側に環状溝24を形成しただけの構成としたが、
図5に示されるように、外側磁気遮断部21を含む環状溝24に、環状の摩擦部材27を更に装着させるようにしてもよい。この摩擦部材27も、非磁性材で構成され、環状溝24の大きさに合わせて円環状に、且つ、板状に形成されているもので、ロータ4の側端面4bから僅かに突出するように固定されている。
【0046】
このような構成によれば、励磁コイル3に通電して、アーマチュアプレート5がロータ4に吸引された場合に、アーマチュアプレート5がロータ4の側端面4bに吸着するよりも前に、アーマチュアプレート5は、ロータ4の側端面4bの内周寄りと外周寄りの両領域で摩擦部材26,27と接触するので、さらに安定してトルクを伝達できると共に凝着や固着の恐れを一層低減することが可能となり、また、吸着音の発生を一層低減することが可能となる。
【0047】
また、上述した構成においては、外側磁気遮断部21や内側磁気遮断部22を、駆動軸20を中心とする仮想円上に円弧状の長孔を等間隔に形成して構成した例を示したが、駆動軸4を中心とする環状の非磁性材を介在させて構成するようにしてもよい。また、上述の構成においては、中間磁気遮断部23を、駆動軸4を中心とする環状の非磁性材を介在させて構成した例を示したが、駆動軸20を中心とする仮想円上に円弧状の長孔を等間隔に形成して構成するようにしてもよい。
【実施例2】
【0048】
図6(説明の便宜上、誇張して描かれている)において、電磁クラッチ1の第2の実施例が示されている。この電磁クラッチ1が前記実施例1と異なる点について説明すると、ロータ4の、アーマチュアプレート5と対峙する側端面4bは、ロータ4の径方向中心に向かうにつれてロータ4の軸方向内側へ徐々に凹むような(ロータ4の外周縁に対して内周縁が低くなるように連続的に傾斜した)直線的な傾斜面を備えた中凹形状に形成されている。すなわち、アーマチュアプレート5が吸着されていない非通電時において、径方向外側に向かうほどアーマチュアプレート5との離間距離が小さくなっている。
【0049】
この例において、ロータ4の内側磁気遮断部22が形成された部分を含むように形成された環状溝25に設けられている摩擦部材26は、ロータ4の側端面4bから突出した部位がロータ4の側端面4bに併せて傾斜するのではなく(ロータ4の側端面4bと平行に設けられるのではなく)、摩擦部材26の径方向外側の部位から駆動軸20に対して垂直となるように取り付けられている。
【0050】
摩擦部材26の側端面4bからの突出量(摩擦部材26の径方向外側の部位での突出量)とロータの側端面の中凹深さα(ロータの側端面の外周縁を含む駆動軸20に対して垂直な面と、ロータ4の側端面4bの内周縁を含む駆動軸20に対して垂直な面との距離であり、側端面の外周縁に対して側端面の内周縁が低くなる量)は、以下に述べる評価結果に基づいて設定されている。
【0051】
まず、電磁クラッチに要求される機能のひとつであるトルク伝達能力を評価するために、ロータ4の側端面の中凹深さα(μm)の変化に対する静摩擦トルク(N・m)の変化を計測した。電磁クラッチの静摩擦トルクは、電磁クラッチのロータを回転しないように固定した状態で、電磁コイルに電圧を印加してアーマチュアをロータに吸着させ、アーマチュアに連結している駆動軸に徐々にトルクを加え、吸着されたアーマチュアとロータの間で滑りが発生するトルク値を計測することで得ることができる。ここで、ロータ4は、側端面の外周縁の直径がΦ112であり、内周縁の直径がΦ50であるものを用い、摩擦部材26のロータ側端面4bからの突出量は、選定する可能性がある範囲内で10μm、30μm、50μmの3パターンにて試験を行った。静摩擦トルクの測定結果は、
図7中の各線で示されるような特性を示した。
【0052】
この
図7から判るように、静摩擦トルクは、ロータ4の側端面4bの中凹深さαが40〜50μmのときに最も高い値を示し、中凹深さαが適正領域を外れると静摩擦トルクが低下する。これは、ロータ4の側端面4bの中凹深さαが大きくなり過ぎると、ロータ4の側端面4bの外縁寄りの部分がアーマチュアプレート5に当接した時点でロータの内縁寄りの部分がアーマチュアプレート5から離れた状態となり、アーマチュアの全面に亘って吸引力が低下するためであり、また、ロータ4の側端面4bの中凹深さαが小さくなり過ぎると、側端面4bの内縁寄りの部分で突出する摩擦部材26によってアーマチュアプレート5が主として当接する状態となり、ロータ4の側端面の外周寄りの領域での面圧が弱まるためであると考えられる。
【0053】
また、同図から判るように、摩擦部材26の突出量が50μmのものに対して10μmのものの方が、中凹深さαの適正領域から離れたときの静摩擦トルクの落ち込みが小さくなる。
静摩擦トルクは、圧縮機の運転時に発生しうるトルクを考慮して、例えば50N・m以上を確保とすることが望ましいので、中凹深さαのばらつきに拘わらず安定的に伝達トルクを確保するという観点からは、摩擦部材26の突出量は小さい方が好ましいように思われる。しかしながら、摩擦部材26は使用とともに摩耗するので、過剰に小さい値に設定すると、早期の摩擦部材26の摩耗により内周付近での金属同士の摺動を招くことになる。
【0054】
これらのことから、これらの設計的要求事項および製造上必要なバラつきを考慮し、摩擦部材26の突出量として、10μmは公差範囲での下限値とすることが望ましい。一方、摩擦部材の突出量の公差巾を40μmとすると、突出量の上限値が50μmとなるが、
図7に示されるように、中凹深さαを30〜60μmとすることで、摩擦部材26の突出量が上限値(50μm)から下限値(10μm)の範囲でばらついたとしても、目標とする静摩擦トルク(50N・m以上)を確保できる。
以上のことから、中凹深さαは、30〜60μmの範囲で設定することが望ましく、摩擦部材26の突出量は、10〜50μmの範囲で設定することが望ましい。なお、摩擦部材26の突出量は、静摩擦トルクのばらつきを低減する上で、より好ましくは、15〜40μmの範囲で設定するとよい。
【0055】
次に、圧縮機のロック時に温度ヒューズ15が適切に溶断してクラッチの接続を切断できるか調査するために、上述した
図7の静摩擦試験に用いた電磁クラッチのロータ4を、強制的に回転不能にしたアーマチュア5とスリップさせながら回転させ、温度ヒューズ15が溶断してクラッチの接続が解除されるまでの時間(温度ヒューズ溶断時間)の測定を行った(
図8)。
【0056】
ここで、温度ヒューズ溶断時間(sec)は、エンジンからの回転動力を受けて回転するロータ4と回転不能になった圧縮機2の駆動軸20に連結されているアーマチュアプレート5とがスリップを開始してから、このスリップによって生じる摩擦熱により温度ヒューズ15が溶断する(アーマチュアプレート5をロータ4に吸着する電磁吸引力が消滅する)までの時間であり、エンジンやベルトに負担をかけないようにするためには、短い方がよく、例えば、80sec以内を目標とすることが望ましい。
【0057】
図8に示されるように、温度ヒューズ溶断時間の特性は、静摩擦トルクの特性と概ね同様の傾向を示した。すなわち、ロータ4の側端面の中凹深さαが適正範囲に対して大きい場合や小さい場合には、静摩擦トルクが小さくなるため、発生する摩擦熱が小さくなり、温度ヒューズが溶断するまでに要する時間が長くなると考えられる。
【0058】
この温度ヒューズ溶断試験においては、温度ヒューズの溶断までに時間の差があるものの、いずれの試験においてもヒューズが溶断し、固着現象に至るものはなかった。また、
図8に示されるように、中凹深さαを
図7における適正範囲(30〜60μm)に設定すれば、摩擦部材26の突出量がサンプルの範囲(突出量が10〜50μm)でばらついたとしてもヒューズ溶断時間を目標時間内(80sec以内)とすることが可能となる。
【0059】
よって、必要な伝達トルクを確保し、且つ、圧縮機のロック時に温度ヒューズ15を速やかに溶断させる観点から、ロータの側端面の中凹深さαを30〜60μmの範囲で設定することが好ましい。また、摩擦部材26は、径方向外側の部位での突出量を10〜50μmの範囲で設定するとよく、さらに好ましくは、摩擦部材26の径方向外側の部位で突出量を15〜40μmの範囲で設定するとよい。また、ロータの側端面の中凹深さαの公差の中央値を、摩擦部材26の前記ロータ4の側端面からの突出量に対して、1.5倍程度となるように設定することが好ましい。
【0060】
なお、他の構成は、
図1で示す構成と同様であるので、同一箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0061】
このような構成においては、内周寄りの周速が遅い領域において磨耗部材26とアーマチュアプレート5とを接触させることで、圧縮機1が回転不能になったときの金属同士の滑りを防いで固着現象を防ぐことが可能となる。また、ロータ4の側端面4bを中凹形状としているので、ロータ4の外周寄りの領域においても、十分な面圧を確保して伝達トルクを維持することが可能となる。
【0062】
すなわち、ロータ4の内周寄りに設けられた摩擦部材26を突出させただけでは、摩擦部材26がアーマチュアプレート5に接触すると、その接触部位より径方向外側の部分は面圧が低くなり、伝達トルクが低下する恐れがあるが、ロータ4の側端面4bを中凹形状とすることで、摩擦部材26よりも外周側を使用初期からより積極的にアーマチュアプレートと接触させることが可能となり、使用初期から摩擦トルクを安定的に確保することが可能となる。
【0063】
また、ロータ4の側端面が中凹形状でない第1の実施例においては、摩擦部材26が、ロータ4の外周寄りの部分よりも先にアーマチュアプレート5と接触することになり、したがって、摩擦部材26の摩耗の進行が早められる。その結果、電磁クラッチ1のオンオフ回数の多い使用状況においては、固着防止の機能が早期に低下する可能性がある。
【0064】
これに対して、ロータ4の側端面4bを中凹形状とした第2の実施例においては、使用初期から側端面4bの外周側金属面と内周側の摩擦部材26の双方をアーマチュアプレート5に接触させることができ、摩擦部材26だけが著しく磨耗することを回避することができ、ロータ4とアーマチュアプレート5との固着回避の機能をより長期間に亘って持続させることが可能となる。
【0065】
なお、上述した例では、ロータの側端面とアーマチュアプレートとの離間距離を径方向外側に向かうほど小さくなるように、ロータの側端面が中凹形状を有するように構成したが、これに代えて、アーマチュアプレートのロータの側端面と対峙する面(接する面)が同様の中凹形状を有するようにしても、同様の作用効果を期待できる。
【0066】
なお、上述した例では、内側磁気遮断部22が形成された部分に形成された環状溝25に摩擦部材26を設けた構成において、ロータ4の側端面4bを中凹形状にした例を示したが、
図9に示されるように、外側磁気遮断部21が形成された環状溝24にも摩擦部材27を設けた構成において、ロータ4の側端面4bを中凹形状とし、使用初期から内側の摩擦部材26と外側の摩擦部材27の双方をアーマチュアプレート5に接触させ、内側の摩擦部材26だけが著しく磨耗することを回避するようにしてもよい。