(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有機ニトリル化合物は、チオニトリル化合物、アミノニトリル、アミノベンゾニトリル、ベンゾニトリル、アクリロニトリル、ジシアンジアミド、アセトアルデヒドシアノヒドリン、アセトニトリル、アジポニトリル、マンデロニトリル、アミノフェニルアセトニトリル、アセトンシアノヒドリン、フタロニトリル、テレフタロニトリル、イソフタロニトリル、ナフトニトリル、シアノアセトアミド、シアノピナコリン、ヒドロキシフェニルアセトニトリル、イミノジアセトニトリル、フェニルシアナミド、トリシアノトリメチルアミン、メサドン中間体、アミノニトリル第4級アンモニウム化合物、及び、ニトリル官能基を持つ高分子化合物、並びに、これらの誘導体からなる群から選ばれるいずれか1以上である請求項1から5までのいずれか1項に記載の電気めっきセル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電気めっきセル(1)]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図を示す。
図1において、電気めっきセル10は、陽極室12と、陰極室14と、隔膜16とを備えている。陽極室12には、陽極室液20が充填され、陽極室液20中には、陽極22が浸漬されている。さらに、陽極22は、電源30のプラス極に接続されている。
陰極室14には、陰極室液24が充填され、陰極室液24中には、陰極26が浸漬されている。さらに、陰極26は、電源30のマイナス極に接続されている。この電気めっきセル10を用いてめっきを行うと、陰極26の表面に金属皮膜28が析出する。
【0021】
[1.1. 陽極室]
陽極室12は、陽極室液20を保持するためのものである。陽極室12の大きさや形状、陽極室12を構成する材料等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0022】
[1.2. 陽極室液]
陽極室12には、所定の組成を有する陽極室液20が充填される。なお、陽極室液20の詳細については、後述する。
陽極室12に充填される陽極室液20の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
【0023】
[1.3. 陽極]
陽極22は、陽極室液20に電流を流すためのものであり、陽極室液20中に浸漬される。陽極22は、少なくともその表面が導電性を有する材料からなるものであれば良い。陽極22は、全体が導電性を有する材料からなるものでも良く、あるいは、表面のみが導電性を有する材料からなるものでも良い。さらに、陽極22は、不溶性電極でも良く、あるいは、可溶性電極でも良い。
【0024】
陽極22を構成する導電性材料としては、例えば、
(1)酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化イリジウム、酸化オスミウム、フェライト、酸化ルテニウム、酸化鉛、酸化白金などの金属酸化物、
(2)黒鉛、ドープシリコンなどの非酸化物、
(3)銅、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、白金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガンなどの金属、
(4)ステンレス鋼などの2種以上の金属を含む合金、
などがある。
【0025】
陽極22又はその表面を構成する導電性材料は、耐酸化性の観点から、白金、金、酸化イリジウム、DSA(ペルメレック電極(株)製、登録商標;Dimension Stable Anode:寸法安定性陽極)、フェライト電極、又は黒鉛電極が好ましい。陽極22又は導電性材料は、特に、白金、又は酸化イリジウムが好ましい。
【0026】
陽極22が基材の表面に導電性薄膜が形成されたものからなる場合、導電性薄膜の厚さは、その材料に応じて最適な厚さを選択するのが好ましい。
例えば、導電性薄膜が金属酸化物からなる場合、その厚さは、0.1〜5μmが好ましく、さらに好ましくは、0.5〜1μmである。
また、導電性薄膜が金属又は合金からなる場合、その厚さは、5〜1000μmが好ましく、さらに好ましくは、10〜100μmである。
【0027】
陽極22の大きさや形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。陽極22は、緻密質でも良く、あるいは、多孔質でも良い。
なお、後述するように、本発明に係る電気めっきセル10は、実質的に陰極室液24が無い状態、すなわち、隔膜16と陰極26とを密着させた状態でも使用することができる。この場合、陽極22として、所定のパターン形状を有するものを使用し、かつ、陽極22を隔膜16に密着させた状態で電析を行うと、陰極26上に陽極22の形状を転写すること、すなわち、陽極22のパターン形状と同一の形状を有する金属皮膜28を形成することができる。本発明により形成することが可能な金属パターンは、電流が流れる形状であれば特に限定されない。金属パターンとしては、例えば、メッシュ、矩形、櫛形、各種電気回路パターンなどがある。
【0028】
[1.4. 陰極室]
陰極室14は、陰極室液24を保持するためのものである。陰極室14の大きさや形状、陰極室14を構成する材料等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。なお、陰極室14及び陰極室液24は、必ずしも必要ではなく、省略することもできる。
【0029】
[1.5. 陰極室液]
陰極室14には、所定の組成を有する陰極室液24が充填される。なお、陰極室液24の詳細については、後述する。
陰極室14に充填される陰極室液24の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
【0030】
[1.6. 陰極]
陰極26は、表面に金属被膜を析出させるためのもの(被めっき物)である。陰極26は、少なくともその表面が導電性を有する材料からなるものであれば良い。陰極26は、全体が導電性を有する材料からなるものでも良く、あるいは、表面のみが導電性を有する材料からなるものでも良い。
【0031】
陰極26を構成する導電性材料の具体例は、陽極22と同様であるので、説明を省略する。また、陰極26が基材の表面に導電性薄膜が形成されたものからなる場合において、好適な導電性薄膜の厚さについても、陽極22と同様であるので、説明を省略する。
陰極26又はその表面を構成する導電性材料は、材料コストの観点から、ITO、酸化スズ、銅、又はアルミニウムが好ましく、特に、ITO、酸化スズ、又は銅が好ましい。
【0032】
[1.7. 隔膜]
隔膜16は、陰極26(被めっき物)を陽極室12から隔離するためのものである。陰極室14を備えた電気めっきセル10の場合、隔膜16は、陽極室12と陰極室14の境界に設けられる。一方、陰極室14が無い場合、隔膜16は、陰極26の表面に接するように設けられる。
【0033】
本発明において、隔膜26は、基材と有機ニトリル化合物とを含むものからなる。また、隔膜26は、陽極室液20に含まれる金属イオンを選択的に透過させることが可能なものからなる。この点が、従来とは異なる。
ここで、「金属イオンを選択的に透過可能」とは、電場をかけた場合に、隔膜16内を金属イオンが陽極室12から陰極室14方向に移動し、対として存在するイオンが移動できない状態であることをいう。
隔膜16は、有機ニトリル化合物に加えて、めっき用有機添加剤、膜補強構造体、あるいは、金属皮膜28を構成する金属のイオンをさらに含んでいても良い。
【0034】
[1.7.1. 隔膜の基材]
隔膜16又はその基材が備える必要条件として、以下の(1)〜(4)が挙げられる。
(1)陽極室液20中の金属イオンに電圧を加えた場合に、金属イオンを陽極室12から陰極室14(又は、陰極26の表面)に移動させることができる。
(2)非電子導電性である(隔膜16上に、金属皮膜が析出しない)。
(3)めっき浴中で安定である(陽極室液20又は陰極室液24に溶解せず、十分な機械的強度を保持する)。
(4)陽極22として可溶性陽極を用いた場合、可溶性陽極で生成した微粒子(陽極スラッジ)の陰極室14への拡散を防止できる(アノードバックとして働く)。
【0035】
これらの条件を満たす隔膜16の基材としては、具体的には、
(1)金属イオンを選択的に透過させることが可能な大きさの連通孔(平均孔径100μm以下)を有する微多孔膜、
(2)イオン透過性の固体電解質膜、
などがある。
隔膜16の基材は、中性の隔膜でも良いが、目的の電析イオン透過性を有する固体電解質膜が好ましい。隔膜16の基材として固体電解質膜を用いると、高速成膜が可能となる。隔膜16の基材は、カチオン交換膜が好ましく、特にパーフルオロ系電解質膜が好ましい。上記条件を満たす限りにおいて、隔膜16の基材は、有機材料でも良く、あるいは、無機材料でも良い。
【0036】
[A. 微多孔膜の具体例]
有機材料からなる微多孔膜としては、例えば、
(1)セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリケトン、ポリカーボネート、ポリテルペン、ポリエポキシ、ポリアセタール、ポリアミド、ポリイミド、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニリデン等の有機系ポリマーからなる微多孔膜、
(2)アクリル系樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル系樹脂、カルボキシル基含有ポリアミド系樹脂、ポリアミド酸系樹脂(ポリアミック酸系樹脂)、ポリエーテルスルホン酸樹脂、ポリスチレンスルホン酸樹脂等の固体高分子電解質からなる微多孔膜、
などがある。
【0037】
有機系の微多孔膜は、1種類の有機材料からなるものでも良く、あるいは、2種以上の有機材料からなるものでも良い。
また、2種以上の有機材料を含む微多孔膜は、2種以上の樹脂膜を接合した積層膜でも良く、あるいは、2種以上の樹脂をポリマーアロイ化した複合膜でも良い。
【0038】
無機材料を含む微多孔膜としては、例えば、
(1)アルミナ、ジルコニア、シリカ等の無機系セラミックスフィルター、
(2)多孔質ガラス、
(3)ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン製多孔膜に、アルミナ、シリカ等を分散させた有機/無機ハイブリッド膜、
などがある。
【0039】
微多孔膜の孔径は、金属イオンを選択的に透過させることが可能な大きさである必要がある。金属イオンの選択透過に適した微多孔膜としては、例えば、
(1)孔径が0.001μm〜0.01μmの限外ろ過膜UF、
(2)孔径が0.05μm〜10μmの精密ろ過膜MF
などがある。
なお、孔径が0.002μm以下の逆浸透膜ROは、イオン透過阻止率が高すぎるため、隔膜16には適さない。
【0040】
微多孔膜は、不織布、又は織布のどちらでも良く、電界紡糸(エレクトロスピニング)法で作製したナノファイーバーからなるものでも良い。
また、微多孔膜は、
(1)有機ポリマーを溶融した後に、押し出し及び延伸成型した膜、あるいは、
(2)有機ポリマーを溶剤に溶かした後に、溶液をPET基材等に塗布し、塗膜から溶剤を揮発させる「キャスト法」で得た膜、
でも良い。
さらに、微多孔膜は、無機系多孔質セラミックスでも良い。
【0041】
これらの微多孔膜は、必要に応じて、
(1)ゴム状弾性体を接合して機械的強度を補強すること、
(2)網状多孔体を芯材として機械的強度を補強すること、又は、
(3)イオン導電部の表面の一部を絶縁被覆体で被覆することによって、イオン導電部をパターン成形すること、
が可能である。
【0042】
[B. 固体電解質膜の具体例]
隔膜16の基材は、固体電解質膜でも良い。
電析するべき
イオンが金属イオンなどのカチオンである場合において、隔膜16の基材として固体電解質膜を用いる時には、隔膜16の基材は、陽イオン交換基(カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基など)を有するカチオン交換膜が好ましい。
一方、電析するべきイオンがアニオン(例えば、亜鉛酸イオン、スズ酸イオン等の酸素酸アニオン、シアンイオン錯体など)である場合において、隔膜16の基材として固体電解質膜を用いる時には、隔膜16の基材は、陰イオン交換基(例えば、四級アンモニウム基)を有するアニオン交換膜が好ましい。
【0043】
カチオン交換樹脂としては、例えば、
(1)カルボキシル基含有アクリル系樹脂、カルボキシル基含有ポリエステル系樹脂、カルボキシル基含有ポリアミド系樹脂、ポリアミド酸系樹脂(ポリアミック酸系樹脂)などのカルボキシル基含有樹脂、
(2)パーフルオロスルホン酸樹脂などのスルホン酸基含有樹脂、
(3)ホスホン酸基含有樹脂、
などがある。
【0044】
耐熱性、耐薬品性、及び機械的強度が大きい観点から、カチオン交換膜は、フッ素系カチオン交換膜が好ましく、特にパーフルオロスルホン酸樹脂膜が好ましい。
また、上述したカチオン交換樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。あるいは、ポリマーアロイ化、積層又は複合化した微多孔膜を用いても良い。さらに、アルミナ、シリカ等を固体高分子電解質内部に分散させた有機/無機ハイブリッドでも良い。
【0045】
[C. 固体電解質膜の利点]
以下に、隔膜16の基材として、特に固体電解質膜が好ましい理由を記す。これは、原理的に固体電解質膜を利用すると、中性隔膜(微多孔膜)を用いた場合に比べ、高速めっきが可能となるためである。
【0046】
限界電流密度I
L(最大電析速度)は、金属イオンの拡散定数D、価数z、電析イオン濃度C、電析面での拡散厚さδ、電析イオンの輸率αとにより(1)式で表される(「ニッケルめっきの限界電流密度について」、星野重夫他、金属表面技術1、vol.23、No.5、1972、p263)。
I
L=DzFC/(δ(1−α)) ・・・(1)
【0047】
(1)式より、めっきの高速化には、電析イオンの輸率αをできるだけ大きくすることが有効であることがわかる。
中性の隔膜(微多孔膜)を用いた電気めっきでは、隔膜中の金属イオンの輸率αは、α=0.5前後である。一方、固体電解質膜はイオンの輸率が大きく、カチオン交換膜ではαが1に近いものが存在する。そのため、(1)式より、大きな限界電流密度I
Lが得られることが理解される。
【0048】
ところで、固体電解質にあっては、αの値が1よりかなり小さいものが存在する。この場合、対イオンとして本来動かないはずのイオンが膜を透過し、漏洩する。例えば、カチオン交換膜を隔膜として中間に置き、純水と陽極室液とを隔てた場合、外部電場がない場合でも次第にアニオンが陽極室液から純水側に漏洩してくる。特に、アニオンの中でも水酸化物イオンOH
-は、拡散速度が他のアニオンに比べて著しく大きく、漏洩しやすい。
また、このOH
-の漏洩量は、陽極室液のpHが高く、高温で長時間放置する場合に多くなる。これは、pHが高い高温の陽極室液で長時間電析した場合、陰極や膜内で金属水酸化物が沈殿しやすくなることを示唆している。
【0049】
なお、上記のようにα<1の場合、電気的中性を保つために、カチオンもアニオンと対になり、電析面に漏洩してくる。例えば、緩衝剤成分又は不純物成分として陽極室液中に一般的に含まれているNa
+、K
+等のアルカリ金属イオンは、水和イオン半径が小さく、膜中の拡散速度が大きいため、OH
-と対になって漏洩しやすい。即ち、陽極室液及び隔膜中にアルカリ金属イオン成分を含んだ状態において、隔膜の金属イオンの輸率が小さくなると、電析界面にアルカリ(NaOH、KOH等)が透過し、金属水酸化物が沈殿しやすくなることが理解される。
【0050】
これらの理由で、目的イオンの輸率(電析イオンがカチオンの場合はカチオンの輸率、電析イオンがアニオンの場合はアニオンの輸率)が、できるだけ1に近い隔膜を用いるのが好ましい。以下、本発明の取り組みについて、さらに詳しく述べる。
【0051】
[1.7.2. 有機ニトリル化合物]
本発明において、隔膜16は、有機ニトリル化合物を含む。この点が従来とは異なる。
有機ニトリル化合物は、金属イオン(特に、Cu
+イオン)を錯安定化する作用が大きいことが知られている。例えば、CuCl、CuBr、CuI等のハロゲン化第1銅化合物を触媒として高分子化合物を合成する際の有機溶媒として、アセトニトリルが用いられている。
【0052】
[A. 有機ニトリル化合物の作用]
本発明における隔膜16は、有機ニトリル化合物を含んでいるため、金属イオンの金属水酸化物生成を抑制する作用を持つ。
例えば、電析物としてCuを、金属水酸化物としてCuOH、Cu(OH)
2を考えると、その沈殿生成反応は、以下の(e)式〜(g)式の平衡が成立していると理解される。
【0053】
Cu
2+ + 2OH
- → Cu(OH)
2 ・・・(e)
K
sp=[Cu
2+]・[OH
-]
2=5.47×10
-16
Cu
+ + OH
- → CuOH ・・・(f)
K
sp=[Cu
+]・[OH
-]<1×10
-20
OH
- + H
+ → H
2O ・・・(g)
K
w=[H
+]・[OH
-]=1.0×10
-14
【0054】
すなわち、銅水酸化物の溶解度積K
spと水のイオン積K
wとから、銅イオンを水酸化物として沈殿させない銅イオンとpHとが計算される。(e)式及び(f)式から明らかなように、水酸化物を生成させないためには、電析面での銅イオン、特にK
spの値が小さく、沈殿しやすい一価Cu
+イオン濃度をできるだけ減らして、かつ、OH
-濃度を減らす(H
+濃度を増やす)ことが必要である。
【0055】
本発明で用いる隔膜16は、Cu
+イオンを透過させる親水構造が発達している。また、遊離のCu
+イオン濃度(活量)を減らし、上記(f)式の平衡を左に偏らせることにより、Cu
+イオンを安定化することができる。そのため、CuOH又はCu
2Oの沈殿が抑制される。
なお、上記は極めて沈殿しやすい一価Cu
+イオンについて記したが、Cu
+イオンと同様に、Cu
2+イオン等の金属イオンの安定化も可能である。
【0056】
[B. 有機ニトリル化合物の具体例]
有機ニトリル化合物としては、
前記有機ニトリル化合物は、チオニトリル化合物、アミノニトリル、アミノベンゾニトリル、ベンゾニトリル、アクリロニトリル、ジシアンジアミド、アセトアルデヒドシアノヒドリン、アセトニトリル、アジポニトリル、マンデロニトリル、アミノフェニルアセトニトリル、アセトンシアノヒドリン、フタロニトリル、テレフタロニトリル、イソフタロニトリル、ナフトニトリル、シアノアセトアミド、シアノピナコリン、ヒドロキシフェニルアセトニトリル、イミノジアセトニトリル、フェニルシアナミド、トリシアノトリメチルアミン、メサドン中間体、アミノニトリル第4級アンモニウム化合物、及び、ニトリル官能基を持つ高分子化合物、並びに、これらの誘導体などがある。
これらは、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。
【0057】
ニトリル官能基を持つ高分子化合物としては、
(a)ポリアクリロニトリル、ポリエーテルニトリル、
(b)ポリアクリロニトリルの誘導体、ポリエーテルニトリルの誘導体、
(c)ポリアクリロニトリル及びポリエーテルニトリルの共重合体
などがある。
【0058】
ポリアクリロニトリルやポリーエーテルニトリルを共重合成分として持つ共重合体又は誘導体としては、例えば、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)が挙げられる。また、隔膜16に添加される化合物は、これらのニトリル基を持つ高分子化合物と他の高分子化合物とのポリマーアロイでも良い。
なお、有機ニトリル化合物は、徐々に加水分解してカルボン酸となることがある。カルボン酸は、有機ニトリル化合物よりは劣るものの、金属イオンを錯安定化する作用がある。それゆえ、隔膜16に添加される化合物は、有機ニトリル化合物の一部がカルボン酸になった有機ニトリル化合物とカルボン酸との混合組成物であっても良い。
【0059】
[C. 有機ニトリル化合物の分子量]
有機ニトリル化合物の分子量は、特に限定されないが、有機ニトリル化合物は、隔膜16内に固定されるため、水に難溶性のものが好ましい。隔膜16内に有機ニトリル化合物を強固に固定するためには、有機ニトリル化合物は、分子量300以上の高分子化合物が好ましい。
【0060】
[D. 有機ニトリル化合物の含有量]
有機ニトリル化合物の含有量は、金属被膜28の成膜速度に影響を与える。有機ニトリル化合物の含有量が少ないと、隔膜16内の金属イオンの輸送をスムーズにする効果が見られない。従って、隔膜16に含まれる有機ニトリル化合物の含有量は、隔膜16の総乾燥重量に対して0.1wt%以上が好ましい。有機ニトリル化合物の含有量は、さらに好ましくは、0.2wt%以上、さらに好ましくは、0.5wt%以上である。
なお、例えば、特許文献5に示すように、アセトニトリルを1vol%含む銅めっき浴にカチオン交換膜を浸漬した場合、アセトニトリルのカチオン交換膜内部への含浸量は、0.1wt%未満である。
【0061】
一方、有機ニトリル化合物の含有量が過剰になると、隔膜16の金属イオン導電性が阻害され、浴電圧を増加させやすい。また、めっき浴へ溶出した有機ニトリル化合物が電析を妨害する場合がある。従って、隔膜16に含まれる有機ニトリル化合物の含有量は、隔膜16の総乾燥重量に対して20wt%以下が好ましい。有機ニトリル化合物の含有量は、さらに好ましくは、5wt%以下、さらに好ましくは、2wt%以下である。
【0062】
有機ニトリル化合物の濃度管理、及び有機ニトリル化合物に由来する老廃物の除去は、通常の電気めっきでも大きな課題である。本発明によれば、極めて少量の有機ニトリル化合物を隔膜16に添加するだけで良いので、めっき液の濃度管理無しでの電析が可能である。また、添加剤の酸化・還元に由来する老廃物の除去を実質的に不要にすることができ、隔膜16は繰り返し使用できる。更に、隔膜16内の有機ニトリル化合物の消耗が激しい場合には、通電電気量を考慮して隔膜16への添加量を調整し、定期的に隔膜16に再添加すれば良い。
【0063】
[E. 有機ニトリル化合物の固定方法]
有機ニトリル化合物を隔膜16内に固定する方法としては、
(a)隔膜16の基材を成膜した後、基材内に有機ニトリル化合物を固定する方法、
(b)隔膜16の成膜過程で、基材に有機ニトリル化合物を添加する方法、
などがある。
これらの方法は、いずれも、後述するめっき用有機添加剤の固定方法としても用いることができる。
【0064】
[E.1. 後工程で有機ニトリル化合物を固定する方法]
[E.1.1. 第1の方法(有機溶剤含浸法)]
後工程で有機ニトリル化合物を固定する第1の方法は、成膜した基材に液体の有機ニトリル化合物、又は、有機ニトリル化合物の溶液を接触(浸漬、スプレー等)させることにより、基材を有機ニトリル化合物又はその溶液で膨潤含浸させる方法(有機溶剤含浸法)である。膨潤含浸後、基材から余剰の有機ニトリル化合物を除去する。
【0065】
余剰の有機ニトリル化合物を除去する方法としては、例えば、
(a)膨潤含浸後の基材を乾燥させ、余剰の有機ニトリル化合物を蒸発させる方法、
(b)膨潤含浸後の基材を、有機ニトリル化合物と相溶する溶媒(例えば、水と相溶する有機ニトリル化合物の場合は、水)中に浸漬し、余剰の有機ニトリル化合物を溶媒で置換し、有機ニトリル化合物を追い出す方法、
などがある。
【0066】
液体の有機ニトリル化合物は、そのままでは隔膜16の基材を膨潤させる作用が小さく、基材の内部へ拡散し難いことが多い。このような場合、液体の有機ニトリル化合物のみを用いて基材を膨潤させるのではなく、基材を膨潤させやすい他の有機溶媒(例えば、エタノール、ブチルセロソルブ、エチレングリコールなどのアルコール溶媒)に有機ニトリル化合物を適度な割合で混合した混合液を用いて膨潤させるのが好ましい。このような混合液を用いると、有機ニトリル化合物の固定量を増やすことができる。
固体の有機ニトリル化合物を隔膜16の基材に固定する場合、固体の有機ニトリル化合物を溶解させることができる有機溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)など)を用いて、上記と同様の処理を行えばよい。
【0067】
水に難溶性の有機ニトリル化合物を隔膜16に固定するには、有機ニトリル化合物を有機溶媒に溶かし、隔膜16の基材と接触させれば良い。この場合、隔膜16内に導入された有機ニトリル化合物は、水に難溶性であるため、電析中に有機ニトリル化合物がめっき液中に溶け出しにくい。そのため、有機ニトリル化合物がめっき液中に過剰に存在することによる悪影響(例えば、電析効率の低下や共析によるめっき被膜の物性低下など)を少なくすることができる。また、有機溶媒として、隔膜16の基材を適度に膨潤させられる溶媒を用いれば、十分量の有機ニトリル化合物を隔膜16内に含浸させることができる。
【0068】
後述するイオン交換法は、有機ニトリル化合物のカチオン部分のみがカチオン交換膜の酸基と結合して固定され、アニオンが固定され難いという難点がある。これに対し、有機溶剤含浸法は、カチオン部分だけでなく、アニオンも隔膜16内に固定できる。
例えば、ポリアクリロニトリルを例にとると、ポリアクリロニトリルを溶解する有機溶媒(例えば、DMF)にポリアクリロニトリルを適量溶かし、この溶液と隔膜16の基材とを接触させ、基材中に溶液を含浸させる。含浸後、乾燥させて有機溶剤を蒸発させるか、あるいは、有機溶媒を水で置換して追い出すと、ポリアクリロニトリルを隔膜16内に固定することができる。
【0069】
[E.1.2. 第2の方法(イオン交換法)]
後工程で有機ニトリル化合物を固定する第2の方法は、基材がカチオン交換膜からなる場合において、官能基としてカチオン部分を持つ有機ニトリル化合物又はその溶液を用いて、イオン交換法により基材に固定する方法(イオン交換法)である。カチオン部分を持つ有機ニトリル化合物としては、例えば、単官能アンモニウムニトリル、二官能アンモニウムニトリルなどがある。
【0070】
隔膜16の基材にカチオン交換膜を用いた場合において、イオン交換法により基材と有機ニトリル化合物とを接触させると、膜のイオン交換基(アニオン)と添加剤のカチオン部分N
+とが強固に結びつき、固定される。
例えば、スルホン酸基RSO
3-を持つ基材においては、次の(h)式のように、Nを含む有機化合物のカチオン部分R'N
+がスルホン酸基RSO
3-に強固に結合する。例えば、四級アンモニウムを官能基として持つ有機ニトリル化合物(アミノニトリル第4級アンモニウム化合物)は、この処理によりカチオン交換膜に固定することができる。
RSO
3- + N
+R'CN → RSO
3NR'CH ・・・(h)
【0071】
この場合、有機ニトリル化合物によるカチオン交換膜の酸基喪失が50%を超えないように、有機ニトリル化合物を溶解させた溶液とカチオン交換膜とを接触させるのが好ましい。また、両者を室温で接触させるよりも、加温して接触させる(例えば、40℃で10分以上)のが好ましい。イオン交換処理後、膜を水洗して余剰のアニオンを除去する。
【0072】
一般に、イオン交換膜を用いる電気めっき浴に両性又はカチオン性の添加剤を添加することは、隔膜16を汚染して導電性を低下させるため、好ましくないとされている。しかしながら、本発明においては、隔膜16への添加剤の吸着量は、浴電圧が増加しない程度のごく少量であるため、膜汚染の問題や電析効率が大きく低下する問題がない。それゆえ、たとえ生物分解性の低い添加剤を使用した場合でも、廃水処理のコストを低減できる。
【0073】
[E.2. 成膜過程で有機ニトリル化合物を固定する方法]
成膜過程で有機ニトリル化合物を固定する方法としては、
(a)キャスト成膜法、
(b)溶融押し出し成型法
などがある。
【0074】
[E.2.1. 第1の方法(キャスト成膜法)]
成膜過程で有機ニトリル化合物を固定する第1の方法は、隔膜16の基材の構成材料を溶解させた溶液に、有機ニトリル化合物を溶解又は分散させ、基板上にキャストする方法(キャスト成膜法)である。キャスト成膜後、溶媒を除去する。
【0075】
基板の材料は、特に限定されない。基板としては、
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子フィルム、
(b)ガラス、
(c)Al板等の金属板、
などがある。
【0076】
キャスト成膜用の溶媒は、特に限定されるものではなく、基材の構成材料や有機ニトリル化合物の種類に応じて最適な溶媒を選択する。
キャスト成膜用の溶媒には、一般に、水−親水性有機溶媒の混合溶媒が用いられる。ここでの有機溶媒は、完全相溶タイプの溶媒が好ましい。親水性有機溶媒としては、アセトニトリル、アルコール、グリコール、セロソルブ(グリコールエーテル)などがある。親水部を発達させるためには、水/セロソルブ系、又は、水/t−ブチルアルコール系の混合溶媒が特に好ましい。
【0077】
キャスト成型後、膜を乾燥させる。乾燥温度は、基材の構成材料や有機ニトリル化合物の種類に応じて最適な温度を選択する。
例えば、基材が固体高分子電解質からなる場合において、乾燥温度が低すぎると、焼成不足となり、含水状態での膜強度の低下が甚だしい。従って、乾燥温度は、120℃以上が好ましい。乾燥温度は、さらに好ましくは、130℃以上である。
一方、乾燥温度が高すぎると、酸基の脱離が始まり、膜のイオン伝導性が低下する。従って、乾燥温度は、180℃以下が好ましい。乾燥温度は、さらに好ましくは、150℃以下である。
【0078】
[E.2.2. 第2の方法(溶融押し出し法)]
成膜過程で有機ニトリル化合物を固定する第2の方法は、隔膜16の基材の構成材料に有機ニトリル化合物を加えて加熱混練し、押し出し成型してフィルム化する方法(溶融押し出し法)である。フィルム化後に、水溶性の不要成分を除くため、及び、含水率調整のために、加水分解(含水)処理を行っても良い。有機ニトリル化合物の添加量は、有機溶剤含浸法と同様に、膜重量の0.1〜20wt%とするのが好ましい。また、不要な可溶成分は、温水洗浄で洗浄除去するのがこのましい。
【0079】
[1.7.3. 膜補強構造体]
隔膜16は、基材及び有機ニトリル化合物に加えて、さらに膜補強構造体を含んでいても良い。隔膜16が膜補強構造体を含む場合、隔膜16の強度や含水時の寸法変化率を抑えることができる。
膜補強構造体の材料や形状は、特に限定されない。膜補強構造体としては、
(a)ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等からなる不織布、織布、若しくは、メッシュ、
(b)延伸多孔化した多孔膜
などがある。
寸法変化を抑えられ、電解質との濡れ性が良好である観点から、PTFE多孔膜が特に好ましい。
【0080】
また、有機ニトリル化合物の内、ある種の材料は、膜補強構造体としても機能する。
例えば、セルロース製不織布等の化学修飾可能な材料の表面官能基(例えば、OH基)を利用して、公知の方法でニトリル化(シアノ化)したものを膜補強構造体として用いても良い。シアノ化のための試薬としては、例えば、2−シアノエチルトリメトキシシラン(CES;(OCH
3)
3−Si−CH
2CH
2−CN)、3−シアノプロピルトリメトキシシラン[CPS;(OCH
3)
3−Si−CH
2CH
2CH
2−CN)等のシアノシラン系カップリング剤などがある。
あるいは、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル等のニトリル官能基を持つポリマーの不織布、パンチングシート、メッシュシート等を、ニトリル官能基を持つ膜補強構造体として用いても良い。
【0081】
[1.7.4. めっき用有機添加剤]
隔膜16は、基材及び有機ニトリル化合物に加えて、さらにめっき用有機添加剤を含んでいても良い。
【0082】
[A. めっき用有機添加剤の概要]
本発明において、「めっき用有機添加剤」とは、析出皮膜の平滑性(光沢)向上や、ピット(マクロな欠陥)生成防止機能を持つ有機化合物であって、有機ニトリル化合物以外の化合物をいう。
めっき用有機添加剤は、イオン性化合物でも良く、あるいは、非イオン性化合物でも良い。また、めっき用有機添加剤は、水溶性の化合物でも良く、あるいは、水に対して難溶性の化合物でも良い。
ここで、「イオン性化合物」とは、酸、塩基、及び、これらの塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)のようなイオン結合性の化合物をいう。
「非イオン性化合物」とは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのように電荷を持たない共有結合性の化合物をいう。
「水溶性」とは、室温での水への溶解度が1g/Lを超えることをいう。
「水に対して難溶性」とは、室温での水への溶解度が1g/L以下であることをいう。
【0083】
例えば、ニッケルめっきの場合、めっき用有機添加剤としては、具体的には、
(1)めっき皮膜の結晶を微細化し、光沢を付与する一次光沢剤(例えば、ベンゼンスルホン酸、サッカリンなど)、
(2)めっき皮膜の平滑化機能を持つ二次光沢剤(例えば、ホルムアルデヒド、ブチンジオールなど)、
(3)めっき浴の表面張力を下げて濡れ性を改善し、ピットを防止する界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、
(4)析出金属イオンに強く配位して水酸化物の沈殿生成を防止する錯化剤(例えば、有機酸、アミノカルボン酸など)、
が挙げられる。
【0084】
その他の添加剤としては、チオ尿素、ベンゾチアゾール、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ボロン酸、プロパギルアルコール、クマリン等がある。これらは、いずれも平滑性を付与する有機添加剤(二次光沢剤)である。
ニッケルめっき以外のめっきにおいても、通常用いられる有機添加剤を隔膜16に添加して用いることができる。
【0085】
めっき用有機添加剤は、通常の電気めっきにおいては、めっき浴に適量添加され、その消耗量を管理する必要がある。しかし、添加剤の消耗量の管理は、一般に煩雑なものである。
本発明においては、必要最小限量の添加剤が隔膜16に添加される。そのため、陰極室液24がある場合には、隔膜16から添加剤が徐々に溶出するため、効果を長期間発揮できる。また、陰極室液24が無い場合でも、隔膜16に固定された添加剤は、析出金属表面と強力な相互作用を発揮し、析出金属の物性及び平滑性を改善することができる。
【0086】
すなわち、有機添加剤が対極(陽極22)で酸化分解したり、被めっき物(陰極26)で還元されて消耗する速度を極めて小さくすることができる。従って、有機添加剤の濃度管理は不要である。また、有機添加剤をめっき浴へ過剰に添加した場合に起きる電析効率の低下や、電極で分解した生成物がめっき浴中に濃縮したことにより起きる皮膜の柔軟性の低下やはんだ付け性の低下が起きることがない。
【0087】
めっき用有機添加剤は、電気めっきにおいて通常一般的に用いられている水溶性の化合物が好ましいが、水に難溶性の化合物でも良い。例えば、サッカリンは、比較的水に難溶性であるが、有機溶媒には良く溶ける。そこで、サッカリンを有機溶媒に溶かして隔膜16に含浸させ添加すれば、そこから添加剤が陰極室液24に徐々に溶け出す。その結果、光沢作用を長期間発揮できる。これは、水に易溶のサッカリンナトリウム(Na塩)を浴に添加した場合には、成し得ない利点である。
特にニッケルめっきにおいては、添加剤は、サッカリンのようなN又はPを含む有機化合物が好ましい。これは、このような有機化合物は、皮膜の平滑性及び物性を向上させる作用が大きいためである。
なお、このめっき用有機添加剤の隔膜16への添加処理は、別個に行うこともできるが、上述した有機ニトリル化合物の添加処理と同時に行うことも可能である。
【0088】
[B. めっき用有機添加剤の具体例]
ニッケルめっき用の添加剤であって、Nを含む有機化合物としては、アミン、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、アミド、アミノカルボン酸、ベタイン、これらの塩(化合物)が挙げられる。アンモニウムは、特に、カチオン部として四級アンモニウムを持つ化合物が好ましい。これは、四級アンモニウム化合物は、皮膜の平滑性を上げる作用が大きいためである。
【0089】
Cuめっき用の添加剤としては、例えば、
(a)塩化物イオン、硝酸イオン、
(b)ポリオキシエチレン系又はポリオキシプロピレン系の非イオン系界面活性剤(例えば、PEG、PPGなど)やゼラチン、
(c)SPS(ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド)、メルカプトベンゾチアゾールプロパンスルホン酸、チオ尿素、ジメルカプトチアゾール(DMTD)モノマー及びダイマーなどの硫黄系有機化合物、
(d)ヤヌスグリーン等のフェナジン系染料、アミン、アンモニア、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルピロリドン等の含N化合物、
などがある。
【0090】
これらの添加剤は、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、添加剤は、めっき液の表面張力を下げて、
(1)陰極26から発生する水素ガス、又は、
(2)不溶性電極(陽極22)から発生する酸素ガス
の脱泡を促す作用が大きい物質(いわゆる「界面活性剤」)でも良い。
隔膜16としてカチオン交換膜を用いた場合において、添加剤として界面活性剤を用いる時には、界面活性剤は、カチオン界面活性剤又は両面界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、カチオン交換膜の酸基との静電的相互作用があるため、カチオン交換膜に固定されやすい。
一方、隔膜16としてアニオン交換膜を用いる場合において、添加剤として界面活性剤を用いる時には、界面活性剤は、アニオン界面活性剤又は両性界面活性剤が好ましい。
特に、隔膜16としてカチオン交換膜を用い、添加剤としてカチオン界面活性剤又は両性界面活性剤を用いるのが好ましい。
【0091】
カチオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩(例えば、花王(株)製:アセタミン24、アセタミン86)、第四級アンモニウム塩(例えば、花王(株)製:コータミン24P、コータミン86P コンク、コータミン60W、コータミン86W、コータミンD86P、サニゾールC、サニゾールCB−50、三洋化成工業(株)製:オスモリンDA−50、カチオンDDC−50、カチオンDDC−80、日油(株)製:ニッサンカチオンシリーズ)が挙げられる。
フッ素系カチオン界面活性剤としては、AGCセイミケミカル(株)製:サーフロンS−221、S−121、3M社製:フロラーFC−134、大日本インキ工業(株)製:メガファックF−150が挙げられる。
【0092】
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン(例えば、花王(株)製:アンヒトール20BS、アンヒトール24B、アンヒトール86B、アンヒトール20Y−B)、アルキルアミンオキサイド(例えば、花王(株)製:アンヒトール20N)が挙げられる。
また、両性界面活性剤として、三洋化成工業(株)製:レボン15、レボンLAG−40、レボン50、レボンS、レボンT−2、日油(株)製:ニッサンアノンシリーズが挙げられる。
フッ素系両性界面活性剤としては、AGCセイミケミカル(株)製:サーフロンS−231、S−232、S−233、3M社製:フロラーFX−172、大日本インキ工業(株)製:メガファックF−120が挙げられる。
【0093】
[C. めっき用有機添加剤の添加量]
通常の電気めっきで使用されるめっき用有機添加剤の量は、数100ppm〜数1000ppmである。
これに対し、添加剤をめっき浴に添加して隔膜16に含浸吸着させる場合(後述の「直接法」)、良好な金属皮膜28を得るために必要な添加剤の量は、通常の電気めっき法に比べて大幅に少ない。この点は、隔膜16に予め添加剤を添加する場合も同様である。
【0094】
一般に、添加剤の量が多くなるほど、良好な金属皮膜28が得られる。
一方、隔膜16の基材が金属イオンを選択的に透過可能な材料からなる場合であっても、添加剤の量が多くなるほど、金属イオンは、隔膜16を透過しにくくなる。また、添加剤の量が過剰になると、隔膜16の金属イオン透過性(イオン伝導性)が著しく低下する。その結果、浴電圧が増加し、金属皮膜28を析出させるのが困難となる。
【0095】
浴電圧を増加させることなく良好なめっき膜を得るためには、有機ニトリル化合物及びめっき用有機添加剤の総含有量は、隔膜16の総乾燥重量に対して0.1〜20wt%が好ましい。
また、隔膜16が固体電解質膜であり、かつ、有機ニトリル化合物及びめっき用有機添加剤がイオン性化合物である場合、有機ニトリル化合物及びめっき用有機添加剤の総含有量は、固体電解質膜のイオン交換容量の0.1〜50%に相当する量が好ましい。
【0096】
例えば、膜厚:25μm、大きさ:30mm×30mm、イオン交換容量:1mEq/gであるイオン交換膜と、70gのめっき浴とが接する場合を考える。分子量:300程度の有機添加剤が膜イオン交換基と1:1にイオン結合する場合、膜イオン交換容量の0.1〜50%と結合(イオン交換)する添加剤の量は、
(1)70gのめっき浴重量に対して重量割合で0.2ppm〜90ppmに、また、
(2)膜重量に対して0.004wt%〜2wt%に、
それぞれ相当する。
【0097】
有機添加剤を添加した隔膜16を使用すると、従来法に比べて有機添加剤の使用量を低減することができる。これは、以下の理由による。
(1)隔膜16を用いて電析すれば、添加材が陽極室12に移動し、酸化分解により消耗することを防げる。
(2)隔膜16に添加材を固定すれば、そこから電析中に徐々に添加材が陰極室14に移行し、必要量が補充される。
(3)隔膜16を用いて電析すれば、陰極室液24の量をゼロか、極めて少なくすることができる。析出金属表面での添加剤濃度を高められるので、添加剤の必要量は、極めて少量で良い。
【0098】
[D. めっき用有機添加剤の添加方法]
めっき溶融機添加剤の添加方法について、Nを含む有機化合物を例に説明する。
[D.1. 第1の方法(直接法)]
第1の方法は、隔膜16に直接添加するのではなく、間接的にめっき浴に必要量を溶解させ、隔膜16と接触させ、含浸吸着させる方法(直接法)である。
特に、隔膜16として、カチオン交換膜を用いた場合には、膜のイオン交換容量(アニオン)と添加剤のカチオン部分N
+とが強固に結びつき、固定される。
【0099】
なお、この「直接法」は、後述する「イオン交換処理法」よりも簡便であるが、添加剤の対イオンがめっき浴に残存してしまう欠点と、必ずしもめっき浴に添加した添加剤の100%が隔膜16に吸着(含浸固定)しない欠点とがある。この観点から、上記「直接法」よりも、後述する膜に予め添加する方法が好ましく、その中でも特に「イオン交換処理法」が好ましい。
【0100】
[D.2. 第2の方法(隔膜に予め添加する方法)]
第2の方法は、予め隔膜に添加剤を添加する方法である。これには、大きく分けて、以下の4つの方法がある。
(1)イオン交換処理法。
(2)有機溶剤含浸法。
(3)キャスト成膜法。
(4)溶融押し出し法。
これらの方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0101】
これらの方法を用いてめっき用有機添加剤を隔膜16に添加する場合、めっき用有機添加剤は、上述した有機ニトリル化合物とは別個に添加しても良く、あるいは、有機ニトリル化合物と同時に添加しても良い。
【0102】
[1.7.5. 金属イオン]
[A. 皮膜を構成する金属イオン]
隔膜16は、有機ニトリル化合物に加えて、金属皮膜28を構成する金属のイオンをさらに含んでいても良い。隔膜16に金属イオンを添加する方法としては、
(1)隔膜16を作製した後、隔膜16に金属イオンを含有する溶液を含浸させる方法、
(2)隔膜16の基材と金属イオンを含有する化合物とを溶媒に溶解又は分散させ、この溶液を適当な基板の表面に塗布し、溶媒を除去する方法、
などがある。
隔膜16に金属イオンを添加するための化合物は、水溶性金属化合物が好ましい。また、隔膜16に金属イオンを添加するための溶液は、陽極室液と同様の組成を有する溶液が好ましい。水溶性金属化合物及び陽極室液の詳細については、後述する。
【0103】
[B. その他の金属イオン]
後述する陽極室液でのNa
+、K
+、Cs
+イオンの制限と同様の考え方から、隔膜16内でのNa
+、K
+、Cs
+イオンの重量含有率は、1%以下(酸基交換率50%以下)が好ましい。一般に、カチオン交換膜としては、酸基の100%がNa
+等のアルカリイオンで交換されたもの(Na体)が市販されている。しかしながら、このような隔膜16を用いて電析すると、アルカリ金属イオンは、電析面へ漏洩し易いため、金属水酸化物の生成を助長し、好ましくない。
【0104】
従って、Na
+で交換されていないカチオン交換膜(H体)、又は酸基の50%以下がアルカリイオンで交換されているカチオン交換膜を用いるのが好ましい。また、カチオン交換膜は、電析の前に、膜を硫酸、硝酸、塩酸等の強酸で予め酸洗浄しておくことが、金属水酸化物の生成を抑制するために更に好ましい。
【0105】
[1.7.6. 隔膜の膨潤処理]
[A. 概要]
隔膜16は、親水性有機溶媒による膨潤処理が施されたものが好ましい。膨潤処理を行うことで、隔膜16の親水部パスが発達し、隔膜16内での金属水酸化物の生成を抑制できる。この場合、結果的に電析イオンの輸率が向上するので、電析界面(隔膜16/陰極26)の連続性が良好となり、十分な電気浸透水によって隔膜16が含水する。そのため、陰極26上で水素が副生成した場合であっても、界面空隙が生じにくくなり、膜渇きによる電析不良を防ぐことができる。
ここで、「膨潤処理」とは、隔膜16の基材を親水性有機溶媒又は水と親水性有機溶媒との混合溶媒に浸漬する処理をいう。膨潤処理用の溶媒には、有機ニトリル化合物やめっき用有機添加剤が含まれていても良い。すなわち、膨潤処理は、添加剤の添加とは別個に行っても良く、あるいは、添加剤の添加と同時に行っても良い。
【0106】
有機溶媒で膨潤処理を行った後、膜内に有機溶媒が多量に残留していると、イオン伝導性を阻害する。そのため、膨潤処理に用いる有機溶媒は、水への溶解度が大きいもの(すなわち、親水性有機溶媒)が好ましい。有機溶媒は、特に、水と完全相溶するものが好ましい。親水性有機溶媒は、膨潤処理後の水置換が容易であるので、膨潤処理用の有機溶媒として好適である。
【0107】
[B. 親水性有機溶媒の具体例]
親水性有機溶媒としては、例えば、低分子量のアルコール、グリコール、ケトン、エーテル、グリコールエーテル、ニトリル、アミド、スルホキシド、含N有機溶媒、含S有機溶媒、有機酸等が挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0108】
親水性有機溶媒の中でも、水と任意の割合で混じり合う(相溶する)ものとしては、
(a)メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール、
(b)エチレングリコール、プロピレングリコール等の低分子量グリコール、
などが挙げられる。
【0109】
ケトンとしては、アセトンが挙げられる。
エーテルとしては、THF、1,2−ジメトキシエタン(モノグリム、ジメチルセロソルブ)、1,4−ジオキサンが挙げられる。
グリコールエーテルとしては、メチルセロソルブ(エチレングリコールモノメチルエーテル)、エチルセロソルブ(エチレングリコールモノエチルエーテル)、ブチルセロソルブ(2−ブトキシエタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル)が挙げられる。
【0110】
含N有機溶媒としては、アセトニトリル、DMF(ジメチルフォルムアミド)、DMA(ジメチルアセトアミド)が挙げられる。
含S有機溶媒としては、DMSO(ジメチルスルホキシド)が挙げられる。
有機酸としては、ギ酸、酢酸が挙げられる。
【0111】
上記溶媒の中でも、前記親水性有機溶媒は、ブチルセロソルブ、t−ブチルアルコール、エタノールからなる群から選ばれるいずれか1以上が好ましい。その中でも、ブチルセロソルブは、膨潤作用が大きいため、特に好ましい。
【0112】
[C. 処理条件]
膨潤処理は、室温で行っても良く、あるいは、加温下で行っても良い。一般に、膨潤処理の温度が高くなるほど、イオン導電パスが発達しやすくなる。膨潤処理時間を短縮するためには、膨潤処理の温度は、40℃以上が好ましい。
一方、膨潤処理温度が高すぎると、過度に膨潤が進行し、膜強度の低下を引き起こす。また、隔膜中のイオン交換基が脱落するおそれもある。従って、膨潤処理温度は、180℃以下が好ましい。
【0113】
膨潤処理の時間は、膨潤処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、膨潤処理温度が高くなるほど、短時間で目的とするイオン導電パスを発達させることができる。
さらに、膨潤処理は、常圧下で行っても良く、あるいは、加圧容器中において加圧下で行っても良い。
【0114】
[1.7.7. 隔膜の含水処理]
[A. 概要]
隔膜16は、上記親水性有機溶媒による膨潤処理に加えて、含水処理が施されたものでも良い。
ここで、「含水処理」とは、膨潤処理後の膜を水又は水蒸気と接触させる処理をいう。含水処理は、具体的には、膨潤処理後の膜を水に浸漬し、又は、膨潤処理後の膜を水蒸気に曝すことにより行う。含水処理用の水には、上述した有機ニトリル化合物やめっき用添加剤が含まれていも良い。
【0115】
[B. 処理条件]
含水処理は、室温で行っても良く、あるいは、加温下で行っても良い。一般に、含水処理の温度が高くなるほど、イオン導電パスが発達しやすくなる。含水処理時間を短縮するためには、含水処理の温度は、40℃以上が好ましい。含水処理の温度は、さらに好ましくは100℃以上である。すなわち、含水処理は、膜を沸騰水中に浸漬し、あるいは、膜を水蒸気に曝すことにより行うのが好ましい。
一方、含水処理温度が高すぎると、過度に膨潤が進行し、膜強度の低下を引き起こす。また、隔膜中のイオン交換基が脱落するおそれもある。従って、含水処理温度は、180℃以下が好ましい。
【0116】
含水処理の時間は、含水処理温度に応じて、最適な時間を選択する。一般に、含水処理温度が高くなるほど、短時間で目的とするイオン導電パスを発達させることができる。
また、膨潤処理後に含水処理を行う場合、含水処理温度が高くなるほど、短時間で有機溶媒を水で置換することができる。また、水を用いて含水処理をする場合、含水処理時に超音波を照射すると、溶媒脱離時間を短縮することができる。
【0117】
含水処理は、膨潤処理を省いて行っても良いが、膨潤処理を事前に行うことにより、さらに親水部を発達させることができる。そのため、膨潤処理と含水処理とを組み合わせて行うことが好ましい。これらの工程で過度に温度を上げると、酸基が脱離しやすくなる。例えば、乾燥温度は180℃以下とすべきである。好ましくは、膨潤処理後に乾燥せずに、含水処理を行うのが好ましい。
また、過度に膨潤して親水部構造が小さくなりすぎないように、親水性有機溶媒100%ではなく、水と有機溶媒の混合溶媒を用いて膨潤処理を行い、膨潤度合いを調節した後に含水処理を行うのが好ましい。
【0118】
[1.7.8. 隔膜の膜厚]
隔膜16の厚みは、特に限定されない。隔膜16の厚みは、好ましくは、0.01〜200μm、さらに好ましくは、10〜100μmである。
【0119】
[1.8. 電源]
電源30は、特に限定されるものではなく、陽極22−陰極26間に所定の電圧を印加できるものであればよい。
【0120】
[2. 電気めっきセル(1)を用いた金属皮膜の製造方法]
[2.1. 陽極室液の調製]
まず、陰極(被めっき物)26上に析出させる金属のイオンを含む陽極室液20を調製する。陽極室液20は、析出させる金属元素を含む水溶性金属化合物を水に溶解させたものからなる。陽極室液20は、さらに必要に応じて、
(1)水溶性有機溶媒(アルコール類等)、
(2)pH調整剤(塩基、例えばエチレンジアミン等のアミン類;酸、例えば塩酸等)、
(3)緩衝剤(例えば、有機酸など)
などが含まれていても良い。
【0121】
[2.1.1. 水溶性金属化合物]
本発明において、析出させる金属は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。析出させる金属としては、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、すず、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、ビスマス、セレン、テルル等が挙げられる。
【0122】
これらの中でも、析出させる金属は、銀、銅、金、ニッケル、すず、白金、パラジウムが好ましい。これらの金属は、いずれも水溶液からの電析が可能で、かつ、金属皮膜の比抵抗も小さいためである。
特に、銅は、隔膜16を用いて高速成膜する際に、金属水酸化物を生成しやすい。しかしながら、銅めっきに対して本発明を適用すると、高速成膜時における金属水酸化物の生成を抑制することができる。
【0123】
水溶性金属化合物としては、例えば、
(1)塩化物などのハロゲン化物、
(2)硫酸塩(例えば、硫酸銅、硫酸ニッケルなど)、硝酸塩(例えば、硝酸銀など)などの無機酸塩、
(3)酢酸塩などの有機酸塩、
などがある。材料コストの点から、無機酸塩が好ましい。
陽極室液20には、これらのいずれか1種の水溶性金属化合物が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0124】
陽極室液20に含まれる水溶性金属化合物の濃度は、特に限定されるものではなく、水溶性金属化合物の種類などに応じて最適な値を選択する。陽極室液20中の金属イオン濃度は、0.001M/L〜2M/L、好ましくは、0.05M/L〜1M/Lである。
【0125】
陽極室液20は、塩基性が大で、水和イオン半径の小さな隔膜16を透過しやすいイオン(例えば、Na
+、K
+、Cs
+)を実質的に含まないのが好ましい。我々が確認したところでは、陽極室液20の成分としてこれらのイオンを0.1M/Lを超えて含むと、隔膜16界面で金属水酸化物の生成が起きやすいことが判明した。すなわち、陽極室液20中に含まれる電析イオン以外のイオン(特に、Na
+、K
+、Cs
+)の濃度は、0.1M/L以下に制限することが望ましい。
一方、アルカリ金属イオンの中でも、Li
+イオンは、水和イオン半径が比較的大きく、隔膜16を透過し難い。そのため、陽極室液20の成分として、0.1M/Lを超えて含んでいても良い。
【0126】
[2.1.2. pH調整剤]
陽極室液20には、必要に応じてpH調整剤が添加される。陽極室液20のpHは、特に限定されるものではなく、水溶性金属化合物の種類などに応じて最適な値を選択する。
pHが小さくなりすぎると、陰極26上での還元反応は、水素発生反応が主体となる。そのため、電析効率が大幅に低下し、経済的ではない。従って、pHは、1以上が好ましい。
一方、pHが大きくなりすぎると、電析面では金属水酸化物を巻き込みやすくなり、平滑性が低下する。従って、pHは、6以下が好ましい。
【0127】
[2.1.3. 緩衝剤]
pH緩衝作用、浴電圧低下のための導電性向上、つき周り性の改善などを目的として、電析に必要な金属イオン以外のカチオン成分を陽極室液20中に添加する場合がある。その場合には、Na
+、K
+、Cs
+イオンを含む化合物の代わりに、水和イオン半径が大きく、隔膜を透過し難いLi
+イオンや、塩基性の弱いMg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Al
3+イオンを含む無機化合物を陽極室液20中に添加すると、金属水酸化物の抑制に効果的である。
また、金属水酸化物生成能の弱いアンモニウム、アミン、イミン、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、モルホリニウム等の弱塩基性イオンを含む有機化合物の添加も有効である。
【0128】
但し、陽極室液20中の電析金属イオン濃度と、隔膜16中の金属イオン濃度とは、平衡関係にある。従って、隔膜16中の金属イオン濃度の輸率が大幅に低下しないように、これらの化合物の濃度は、できる限り低濃度が好ましい。具体的には、これらの化合物の濃度は、好ましくは0.1M/L以下とし、隔膜16中(特に、カチオン交換膜中)のこれらのカチオンの占有率(酸基交換率)が50%以下となるようにするのが好ましい。例えば、1meq/g(EW=100)の酸基を持つカチオン交換膜では、Na
+イオンの交換率50%は、膜重量含有率として約1.2%に相当する。
【0129】
[2.1.4. 陽極室液の量]
陽極室液20の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
【0130】
[2.2. 陰極室液の調製]
[2.2.1. 陰極室液の組成]
次に、陰極室液24を調製する。陰極室液24の組成については、陽極室液20と同様であるので説明を省略する。
【0131】
[2.2.2. 陰極室液の量]
陰極室液24の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。
なお、本発明において、陰極室液24の量は、少量でも良い。具体的には、陰極室液24の量は、陰極26の単位面積当たり100μL/cm
2以下でも良い。また、陰極室14及び陰極室液24を省略すること、すなわち、隔膜16と陰極26とを密着させることもできる。
【0132】
実質的に陰極室液24が無い状態でも、電気浸透現象により隔膜16から電析面(陰極26の表面)に極微量の水が輸送される。そのため、隔膜16−陰極26間に連続的界面が形成され、電気化学反応(電析)を行うことができる。隔膜16と陰極26の表面との密着性を改善するため、必要に応じて加圧機構を用いて両者を加圧した状態で電析を行うのが好ましい。
【0133】
[2.3. 電析]
所定量の陽極室液20及び陰極室液24を、それぞれ、陽極室12及び陰極室14に入れる。次いで、電源30を用いて、隔膜16を挟んで配置された陽極22−陰極26間に電圧を印加する。これにより、陰極室液24内の金属イオンが還元され、陰極26上に金属皮膜28が析出する。
金属皮膜28の析出が進行すると、陰極室液24の金属イオン濃度が低下する。その結果、陰極室液24と陽極室液20との間で金属イオンの濃度勾配が発生する。この濃度勾配を駆動力として、陽極室液20内の金属イオンが隔膜16を通って陰極室液24に拡散する。電極間に与える電圧、電析時のめっき浴の温度、及び電析時間は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
【0134】
[3. 電気めっきセル(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルは、陽極室液を保持するための陽極室と、前記陽極室と陰極とを隔離するための隔膜とを備えている。また、前記隔膜は、基材に有機ニトリル化合物が添加されたものであって、前記陽極室液に含まれる金属イオンを選択的に透過させることが可能なものからなる。
すなわち、本実施の形態に係る電気めっきセルは、陰極室液を保持するための陰極室を備えていない。この点が、第1の実施の形態とは異なる。
【0135】
図2に、本発明の第2の実施の形態に係る電気めっきセルの概略図を示す。
図2において、電気めっきセル40は、陽極室12と、隔膜16と、陽極22と、陰極26と、電源30と、加圧装置42とを備えている。
【0136】
陽極室12は、陽極室液20を保持するためのものである。陽極室12の上部には、陽極室液タンク(図示せず)から陽極室12内に陽極室液20を供給するための供給孔12aが設けられている。また、陽極室12の側面には、陽極室12から廃液タンク(図示せず)に陽極室液20を排出するための排出口12bが設けられている。
陽極室12の下端の開口部には、陽極22が勘合されている。さらに、陽極22の下面には、隔膜16が接合されている。
陽極室12の上面には、加圧装置42が設けられている。加圧装置42は、陽極室12、陽極22、及び隔膜16を鉛直方向に移動させるためのものである。
【0137】
陽極室12の下方には、基台46が配置されている。基台46の上面には、陰極(被めっき物)26が配置されている。陰極26の上面の外周には、通電部48が設けられている。通電部48は、陰極26に電圧を印加するためのものであり、陰極26の表面の成膜領域を囲うように設けられている。
図2に示す例において、通電部48は、リング状になっており、そのリング内に隔膜16の先端部分を挿入できるようになっている。さらに、陽極22及び通電部48(すなわち、陰極26)は、電源30に接続されている。
【0138】
本実施の形態において、陽極22には、陽極室液20を隔膜16の表面に供給可能な電極が用いられる。陽極22としては、具体的には、陽極室液20を透過させることが可能な孔径を有する多孔質電極、所定の形状パターンを有するパターン電極などがある。
なお、連続的な金属皮膜28の成膜を行わない場合、陽極22内部に存在する空隙を陽極室として用いること、すなわち、陽極22に必要量の陽極室液を含浸させ、実質的に陽極室12を省略することもできる。
陽極室12、隔膜16、陽極22、陰極26、及び電源30に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0139】
[4. 電気めっきセル(2)を用いた金属皮膜の製造方法]
まず、
図2(a)に示すように、基台46と隔膜16とを離間させた状態で、基台46上に陰極26を配置し、陰極26の周囲に通電部48を配置する。また、供給孔12aを介して、陽極室12内に陽極室液20を供給する。陽極室液20は、陽極22内の空隙(図示せず)を通って隔膜16の表面まで供給される。
次に、
図2(b)に示すように、加圧装置42を用いて陽極室12を下方に移動させ、隔膜16の下面と陰極26の上面とを接触させる。この時、加圧装置42の押圧力を調整し、隔膜16と陰極26との界面に適度な圧力を付与する。
【0140】
この状態で電源30を用いて陽極22及び通電部48(すなわち、陰極26)に所定の電圧を印加すると、隔膜16と陰極26の界面に金属皮膜28が析出する。この時、必要に応じて、消耗した陽極室液20を排出口12bから排出しながら、供給孔12aを介して新たな陽極室液20を陽極室12内に補給すると、連続的にめっきを行うことができる。所定時間経過後、加圧装置42を用いて陽極室12を上昇させ、隔膜16と陰極26とを離間させる。
【0141】
[5. 作用]
有機ニトリル化合物は、金属イオン(特に、一価の銅イオン)を安定化させる作用が大きい。このような有機ニトリル化合物を隔膜16に添加すると、少量の添加であっても隔膜16内における金属、金属水酸化物あるいは金属酸化物の生成が抑制される。その結果、従来では高速成膜が困難であった銅等の金属被膜28を陰極26上に簡便にパターン形成することができる。また、めっき浴に有機ニトリル化合物を添加する場合に比べて、少量の添加で高い効果が得られるため、めっき浴の管理も容易化する。
【実施例】
【0142】
(実施例1〜2、比較例1)
[1. 隔膜の処理]
隔膜には、パーフルオロスルホン酸系のカチオン交換膜(厚さ50μm、大きさ30mm×30mm)を用いた。この未処理の隔膜に対し、室温の純水中に一晩浸漬する含水処理を行った(比較例1)。
また、未処理の隔膜に対し、室温のアセトニトリル100%中に10分間浸漬する処理(アセトニトリルの添加処理)を行った。次いで、そのまま乾かすことなく、室温の純水中に2時間浸漬する含水処理(水置換処理)を行った(実施例1)。
さらに、未処理の隔膜に対し、アセトニトリルとブチルセロソルブとを重量比で2:1で混合した溶液:20g中に80℃で2時間浸漬する処理(アセトニトリルの添加処理)を行った。次いで、溶液から引き上げ、そのまま乾かすことなく、80℃の純水中に2時間浸漬する含水処理(水置換処理)を行った(実施例2)。
【0143】
[2. 試験方法]
[2.1. めっき試験]
図1に示す電気めっきセルを用いて、Cuめっきを行った。開口部の膜面積が20mm×20mmである塩化ビニル製の2室セルに、処理後の隔膜16を挟み、室温で200mA/cm
2、10分間の定電流電析を行った。電源30には、上限電圧70Vの直流定電流電源を用いた。電析は、両室とも無攪拌で行った。
陽極22及び陰極26には、それぞれ、大きさ:2cm×2cm、厚さ:300μmのPt板を用いた。めっき液(陽極室液20及び陰極室液24)には、1M/LのCuSO
4を用いた。陽極室液20の量を17.5g、陰極室液24の量を17.5gとし、計35gのめっき浴とした。
【0144】
電析後の陰極26の重量増加と理論電気量とから、電析効率を求めた。また、陽極室液20と陰極室液24のCu
2+濃度を測定した。測定には、共立理化学製の簡易吸光光度分析装置:デジタルパックテスト(登録商標)(DPM−NiD)を用いた。その濃度比C(陰極室液24のCu
2+濃度/陽極室液20のCu
2+濃度)を算出して、電析効率を補正し、Cu
2+輸率αを計算した。C値が大きいことは、隔膜16内のCu
2+輸率が高く、めっき速度の高速化に有利であることを意味している。
【0145】
[2.2. アセトニトリルの含有量]
隔膜16内のアセトニトリルの定量は、隔膜16に一定量のアセトニトリルを添加して含浸させた試料のニトリル基のIR吸収ピーク(2020〜2240cm
-1)強度を検量線として求めた。
【0146】
[3. 結果]
表1に結果を示す。実施例1、2は、比較例1に比べて、Cu
2+の輸率αの値が大きい。これは、陽極室12から陰極室14に向かって隔膜16を通過するCu
2+の輸送がスムーズに行われていることを示している。
【0147】
【表1】
【0148】
(実施例3〜4、比較例2)
[1. 隔膜の処理]
実施例1と同じ隔膜を用意し、ポリアクリロニトリルの添加処理を行った。処理溶液には、Aldirch製ポリアクリロニトリルPAN(No.181315−Mw=150,000)をDMFに重量比で1%(実施例3)、又は、2%(実施例4)を溶解させたものを用いた。隔膜を室温の処理溶液:5gに10分間浸漬した。次いで、処理溶液から隔膜を引き上げ、余剰の溶液をティッシュペーパーで拭った。さらに、PANの添加処理を行った隔膜に対し、純水中において80℃×2hrの含水処理を施した。
また、未処理の隔膜に対し、PAN未添加のDMF溶液に室温で10分間浸漬する処理のみを行った(比較例2)。
【0149】
[2. 試験方法]
[2.1. PANの含有量]
PANを含む処理溶液で処理した後の隔膜をろ紙にはさみ、140℃×2hrの真空乾燥処理により溶媒を揮発させた。処理前後の膜重量増加から、PANの添加量を求めた。
[2.2. めっき試験]
含水処理後の膜を用いて、実施例1と同様にしてCuの電析を行い、Cu
2+の輸率を調べた。但し、電析条件は、100mA/cm
2×10分とした。
[2.3. 赤外FTIR分光スペクトル(ATR)]
実施例3及び比較例2で得られた膜を真空乾燥した。次いで、これらの膜の赤外FTIR(フーリエ変換型減衰全反射)分光スペクトル(ATR)を測定した。
【0150】
[3. 結果]
[3.1. PANの含有量及びめっき試験]
表2に結果を示す。実施例3、4では、正常なCu電析が可能であった。一方、比較例2では、隔膜内部にCuが析出し、正常な電析が不可能であった。
【0151】
【表2】
【0152】
[3.2. 赤外FTIR分光スペクトル(ATR)]
図3に、実施例3及び比較例2で得られた隔膜のFT−IR(ATR)スペクトルを示す。実施例3では、ニトリル基C≡Nに特徴的な2243cm
-1の伸縮振動ピークが見られた。
【0153】
(実施例5、比較例3)
[1. 隔膜の処理]
電解質がパーフルオロスルホン酸系ポリマー、補強材がPTFE繊維からなる厚さ50μmの補強膜を用意した。この補強膜に対し、実施例3と同様の処理を施した(実施例5)。また、未処理の補強膜に対し、80℃×2hrの含水処理のみを施した(比較例3)。
【0154】
[2. 試験方法及び結果]
実施例1と同様にして(但し、電析条件:200mA/cm
2×30分)でCuの電析を行い、Cu
2+の輸率を求めた。表3に結果を示す。実施例5の膜は、Cu
2+の輸率、電析効率及び含水率が大きく、膜内に析出物が無かった。一方、比較例3の膜は、Cu
2+の輸率、電析効率及び含水率が小さく、膜内にCuとCu
2Oからなる塊状物が多量に析出した。
【0155】
【表3】
【0156】
(比較例4)
[1. 隔膜の処理]
実施例1と同じ隔膜を用意し、100%のアセトニトリル中に室温で10分間浸漬する処理(アセトニトリルの添加処理)を行った。次いで、そのまま乾かすことなく、80℃×2hrの含水処理(水置換処理)を行った。
【0157】
[2. 試験方法及び結果]
実施例5と同一条件下(200mA/cm
2×30分)でCuの電析を行い、Cu
2+の輸率を求めた。その結果、α(Cu
2+)=0.52であり、膜内にCuとCu
2Oとからなる塊状物が多量に析出した。
比較例4において膜内に含浸させたアセトニトリル(分子量:41.05)は、低分子量である。そのため、高温(80℃)の含水処理中に、アセトニトリルが膜から散逸したものと思われる。
【0158】
一方、同様の含水処理を行ったPAN添加膜(実施例5)では、表3に示すように、α(Cu
2+)=0.71であり、膜内に析出が見られなかった。これは、PANが高分子(Mw=150、000)であるため、膜に強固に保持されているものと考えられ、高温のめっき浴中でも長時間使用できることを伺わせた。
【0159】
(比較例5)
[1. 試験方法]
比較例1の隔膜(80℃×2hrの含水処理のみ)を用いて、Niめっき試験を行った。めっき液は、1M/LのNiSO
4と、0.5M/LのCH
3COOHとからなる液とし、20wt%NaOH水溶液でpHを2.0に調整した。NaOHの濃度は、0.08M/Lであった。陽極室液20の量を17.5g、陰極室液24の量を17.5gとし、計35gのめっき浴とした。以下、実施例1と同様(但し、電析条件:200mA/cm
2×30min)にして、Niめっき試験を行った。
【0160】
[2. 結果]
陰極26(Pt板)上には、電析効率η=82.4%で平滑なNiが析出した。また、α(Ni
2+)=0.70であり、膜内にNi及びニッケル水酸化物の析出は見られなかった。比較例1の隔膜は、Ni電析には適しているが、Cu電析には不適当であることがわかった。
【0161】
(比較例6)
[1. 隔膜の処理]
PAN/DMFの重量比を10:100とした以外は、実施例3と同様にして隔膜の処理を行った。PAN含有量は、28.5%であった。
[2. 試験方法及び結果]
実施例3と同様(但し、電析条件:100mA/cm
2×10min)にして、Cuの電析を行った。しかし、隔膜の導電性が短時間で低下し、70Vの装置電圧上限に達したため、10分間の電析は不可能であった。
【0162】
(実施例6、比較例7)
[1. 試験方法]
大きさ30mm×30mmであり、かつ、実施例5と同一素材からなり、かつ同一処理を施した隔膜を用意した(実施例6)。この隔膜を純水中に保管した。また、比較例3と同一素材からなり、かつ同一処理を施した隔膜を用意した(比較例7)。
【0163】
[2. めっき試験]
図2に示す電気めっきセルを用いて、Cuめっきを行った。陽極室液20には、濃度1M/LのCuSO
4水溶液を用いた。陽極22には、Pt−Ti多孔体を用いた。陰極26には、板厚:128μm、表面抵抗:60Ω/□のITO基板(SIGMA−ALDRICH製)を用いた。陽極22/隔膜16/陰極26と積層し、0.5MPaで加圧した。この電気めっきセルで定電流電析を20mA/cm
2×5分で行い、浴電圧を記録した。なお、隔膜16は、紙ウェスで余剰の水分をぬぐい、隔膜16と陰極26とが密着した状態(陰極室液が無い状態)で電析を行った。
【0164】
[3. 結果]
実施例6では、平滑なCu電析が可能だった。また、電析時の浴電圧の値は、3.5V(電析直後)〜3.8V(電析終了時)とほぼ一定だった。
一方、比較例7では、電析終了後に電析面の大半が隔膜と噛み込み、密着していた。また、浴電圧の値は、4.1V(電析直後)〜5.5V(電析終了時)であり、実施例7に比べて高くかつ不安定だった。
【0165】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。