(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6548984
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】リチウム空気電池、およびリチウム空気電池を備える車両
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20190711BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20190711BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
H01M12/06 G
H01M12/08 K
H01M4/86 B
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-149523(P2015-149523)
(22)【出願日】2015年7月29日
(65)【公開番号】特開2016-33919(P2016-33919A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2017年6月20日
(31)【優先権主張番号】14/446,852
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武市 憲典
(72)【発明者】
【氏名】水野 史教
【審査官】
松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−112545(JP,A)
【文献】
特開2012−138329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
H01M 12/08
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム空気電池であって、
アノード区画と、
O2源を供給されるカソード区画と、
前記アノード区画を前記カソード区画から分離するリチウムイオン伝導性膜とを備え、
前記アノード区画は、活性金属としてリチウムまたはリチウム合金を有するアノードとリチウムイオン電解質とを備え、
前記カソード区画は、空気電極とナトリウムイオン電解質とを備え、Li電解質を含まず、
前記リチウムイオン伝導性膜はナトリウムイオンを透過しない、リチウム空気電池。
【請求項2】
前記カソード区画はイオン液体を備える、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項3】
前記イオン液体は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、およびヘキサフルオロホスフェートアニオンからなる群から選択されるアニオンに関連付けられるイミダゾリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、またはアンモニウムカチオンである、請求項2に記載のリチウム空気電池。
【請求項4】
前記カソード区画はさらに、テトラアルキルアンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、およびピペリジニウム塩からなる群から選択される塩を備える、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項5】
前記アノード区画を前記カソード区画から分離する前記リチウムイオン伝導性膜は、ポリマー、セラミック材料、またはその複合材である、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項6】
前記リチウムイオン伝導性膜はセラミック材料を備え、前記セラミック材料は稠密なセラミック膜である、請求項5に記載のリチウム空気電池。
【請求項7】
前記稠密なセラミック膜は、Li−La−Ti−O系ぺロブスカイト、Li−Al−Ti−P−O系NASICON、Li−La−Zr−O系ガーネット、Li−P−S系固体電解質、およびLi−Ge−P−S系固体電解質からなる群から選択される1つを備える、請求項6に記載のリチウム空気電池。
【請求項8】
前記ナトリウムイオン電解質は、Na2SO4、NaNO3、NaClO4、Na3PO4、Na2CO3、NaPF6、およびNaOHからなる群から選択されるナトリウム塩を備える、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項9】
前記アノード区画はさらに、環式炭酸塩、鎖状炭酸塩、環式エステル、環式エーテル、および鎖状エーテルからなる群から選択される非水系溶媒を備える、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項10】
前記アノード区画はさらに、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiN(CF3SO2)2、Li(CF3SO3)、およびLiN(C2F5SO2)2からなる群から選択される塩を備える、請求項9に記載のリチウム空気電池。
【請求項11】
前記カソード区画に供給される前記O2源は、純O2、周囲空気、および不活性ガスで希釈されるO2からなる群から選択される1つである、請求項1に記載のリチウム空気電池
。
【請求項12】
前記空気電極は酸化還元触媒および伝導性材料のうち少なくとも1つを備える、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項13】
前記空気電極は化合物を含み、前記化合物は、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、BaO、LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2、Sr(OH)2、Ba(OH)2、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、MgCO3、CaCO3、SrCO3、およびBaCO3からなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項14】
前記空気電極は貴金属触媒をさらに備える、請求項13に記載のリチウム空気電池。
【請求項15】
前記空気電極は伝導性材料を備え、前記伝導性材料は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭素、金属繊維、金属粉末、および有機伝導性材料からなる群から選択される、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項16】
前記イオン液体は、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム−ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(DEME−TFSA)であり、前記ナトリウムイオン電解質はナトリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(NaTFSA)である、請求項2に記載のリチウム空気電池。
【請求項17】
請求項1に記載のリチウム空気電池を備える車両。
【請求項18】
前記カソード区画に供給される前記O2源は周囲空気である、請求項17に記載の車両
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、高い容量およびリサイクル効率を有するリチウム空気電池に向けられている。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン技術は、小型電子部品およびハイブリッド電気車両すらのエネルギ源として市場を支配している。しかしながら、Liイオン電池は、電気車両を走らせることができる将来的な高容量世代の電源になるには理論容量が不十分である。
【0003】
金属空気電池は、現在の炭化水素系燃焼機関に匹敵する距離にわたって車両の機器に電力供給する潜在性を有する、次世代の高容量エネルギ源として研究されている。金属空気電池では、アノードの金属が酸化され、結果的に生じるカチオンが炭素などの材料の多孔質母材を含有するカソード域に移動し、たとえば、そこで酸素が還元され、酸化物または過酸化物としての還元生成物が金属カチオンと組合さって放電生成物を形成する。充電の際は、このプロセスが理想的には逆になる。金属空気電池は、金属イオン電池に対する潜在的な有利な性質を有すると認識されている。なぜなら、カソード材料、すなわち酸素は、環境大気雰囲気から得られることがあり、およびしたがって電池の容量は、理論的には、アノード金属の供給によって制限されるであろうからである。このように、酸素ガスは電池外部から連続的に供給されるであろうし、かつ電池の容量および電圧は、形成される放電生成物の酸素還元性および化学的性質に依存するであろう。
【0004】
リチウム空気電池は、従来のリチウムイオン電池よりも5−10倍高いエネルギ密度を供給する潜在性を有し、ポストリチウムイオン電池技術として大きな関心および開発の注目を集めてきた。たとえば、放電生成物としてLi
2O
2を形成する非水系リチウム空気電池は理論的には、Li
0.5CoO
2というカソード生成物を有するリチウムイオン電池の600Wh/kgと比較して、3038Wh/kgを与えるであろう。しかしながら、実際には、金属空気技術および具体的には現在の非水系リチウム空気電池には、理論容量の達成を妨げてきた多くの技術的課題がある。
【0005】
Li空気電池の容量は、Li
2O
2放電生成物を格納するカソード母材の容量に高く依存する。Li
2O
2は一般的に、金属空気電池で用いられる従来の非水系溶媒に不溶である。したがって、カソード母材での形成の際、Li
2O
2が沈殿して母材の表面多孔性を埋めて、したがって母材内部領域の空き容量へのアクセスを妨げてしまう。さらに、Li
2O
2は絶縁体であり、したがって、母材の表面が一旦被覆されると、酸素の還元が妨げられ、放電が終了してしまう。すなわち、電池の容量が理論容量と比較してひどく低減されてしまう。
【0006】
以上示したように、効率的な高容量リチウム空気電池を生産する取組みが大きな注目を集めている。
【0007】
WO2008/133642(特許文献1)は、金属アノードと、アノードをカソードから分離しかつ各電極毎に別個の区画を形成するイオン選択性膜とを有する金属(Li,Na,K)空気電池を記載する。カソード液は水系であり、カソードに形成される金属水酸化物または金属過酸化物は水系カソード液中の溶質として保持される。
【0008】
非特許文献1は、ナトリウムアノードとガラス繊維空気カソードとを有する電気化学セルの構成を記載する。電解質は、溶質としてナトリウムトリフラートを用いるジエチレングリコールジメチルエーテルであった。当該セルを同様に構成されたリチウム電気化学セルと比較して、著者は、ナトリウム空気電池がリチウム空気電池に勝る有利な性質を有し得ると結論付けた。
【0009】
WO2011/154869(特許文献2)は、金属アノードが溶融した状態で用いられる金属空気電池を記載する。溶融したアノードは、固体電解質界面(SEI)フィルムによってカソード液から分離される。ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、およびその合金を含む複数の金属が記載され、ナトリウムが好ましい実施形態であると思われる。
【0010】
US2014/0075745(特許文献3)は、リチウム、ナトリウム、およびカリウムを含むアルカリ金属のアノードと、イオン透過膜のセパレータと、NiOOH、Mn
+4O
2、またはFe
+3(OH)
3のカソードとを有するアルカリ/酸化体電池を記載する。アノード液イオンはアノード金属のカチオンであり、カソード液はカソード活性材料とアルカリ金属水酸化物との両方を含有する。
【0011】
US2013/0316253(特許文献4)は、炭素質基板の表面上に触媒材料を形成することによって酸素カソードを準備する方法を記載する。α−MnO
2は、炭素上に形成される触媒材料の例である。カソード材料を含有するリチウム空気セルが記載される。セルはイオン特異的透過膜を含有せず、電解質活性イオンはセルを通じてLi
+である。
【0012】
US2013/0045428(特許文献5)は、リチウムアノードがリチウムイオン伝導性膜によって水系カソード液から保護される水系リチウム空気電池を記載する。炭酸リチウムを溶解するのに十分な強度の酸性を有する有機酸とともに、リチウム塩がカソード液中に存在する。
【0013】
US2012/0028137(特許文献6)は、電解質が「酸素発生触媒」(OEC)を含有する金属空気電気化学セルを記載する。従来のセル構造が用いられ、充電の際にOECが空気電極および電解質中の金属酸化物の酸化を触媒する。
【0014】
US8、455,131(特許文献7)は、水系カソード液空気カソードと連通するリチウムイオン伝導性膜によって保護されるリチウムアノードを有するリチウム空気セルを記載する。カソード液は、カソード区画の湿度が制御されるように、リチウム塩に加えてハロゲン化物塩を含有する。ハロゲン化ナトリウムはハロゲン化物塩として開示されておらず、リチウムイオン伝導性膜によってカソード区画から分離されるリチウムアノード液を含有するアノード区画が開示されていない。
【0015】
US7,491,458(特許文献8)は、アノードがリチウムイオン伝導性膜によって電解質から保護されるリチウム燃料電池を記載する。この文献は、本発明に従う構造を有するリチウム空気電池を開示または示唆していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2008/133642号
【特許文献2】国際公開第2011/154869号
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0075745号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2013/0316253号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2013/0045428号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2012/0028137号明細書
【特許文献7】米国特許第8,455,131号明細書
【特許文献8】米国特許第7,491,458号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】ハートマン他(Hartmann et al.)「ネイチャーマテリアルズ(Nature Materials)」、第12巻、2013年3月、228−232ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
かなりの進行中の取組みにも係わらず、現在の炭化水素燃料系に少なくとも等しいかまたはこれに対抗する距離まで車両に電力供給するのに特に有用な、効率的で、安全で、費用対効率がよく、かつ高容量のリチウム空気電池を開発し生産する必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明の要約
このおよび他の目的は本発明によって扱われ、その第1の実施形態はリチウム空気電池を含み、リチウム空気電池は、
アノード区画と、
カソード区画と、
アノード区画をカソード区画から分離するリチウムイオン伝導性膜とを備え、
アノード区画は活性金属としてリチウムまたはリチウム合金を有するアノードとリチウムイオン電解質とを備え、
カソード区画は空気電極とナトリウムイオン電解質とを備え、
リチウムイオン伝導性膜はナトリウムイオンを透過しない。
【0020】
第1の実施形態の1つの具体的な局面では、カソード区画はイオン液体を備える。
以上の段落は一般的な導入のために与えられており、以下の請求項の範囲を限定することを意図しない。現在好ましい実施形態は、さらなる利点とともに、添付の図面と関連して以下の詳細な説明を参照することによって最良に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の1つの実施形態に従うリチウム空気電池の概略図である。
【
図2】実施例1および比較例1(クローズドO
2供給)の放電曲線を示す図である。
【
図3】実施例2および比較例2(オープン空気供給)の放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の好ましい実施形態の説明
この明細書を通じて、記載されるすべての範囲は、他に特に示されなければ、その中にすべての値および部分範囲を含む。加えて、不定冠詞「a」または「an」は、他に特に示されなければ、明細書を通じて「1つ以上」の意味を持つ。
【0023】
本発明に従うと、「車両」という用語は、自動車、トラックバン、バス、ゴルフカート、および他の輸送の利用形態を含む輸送向けに設計される、任意の電力で駆動される装置を意味する。
【0024】
この明細書を通じて、カソード材料としての空気、酸素、およびO
2という用語は、具体的に限定されなければ、相互交換可能に用いられることがある。当業者は、O
2が酸化還元カソード成分であり、空気、酸素、またはO
2と記載されてもその意味が理解されることを理解するであろう。ある説明では、純O
2の空気がカソード成分源として記載されることがある。
【0025】
本発明者らは、具体的な用途に適する容量および電圧を有する新規のかつ改良されたエネルギ供給システムを同定しかつ開発することを求めて、ポストリチウムイオン電池技術の広範かつ詳細な研究を行なっている。高容量および高作動電位を有する金属気体電池はそのような研究の現行の目標であり、この進行中の研究では、発明者らは、従来公知のリチウム空気電池に関連の課題の多くに対処しかつこれを克服する新しい新規のリチウム空気電池を発見した。
【0026】
したがって、本発明の第1の実施形態はリチウム空気電池であって、リチウム空気電池は、
アノード区画と、
カソード区画と、
アノード区画をカソード区画から分離するリチウムイオン伝導性膜とを備え、
アノード区画は活性金属としてリチウムまたはリチウム合金を有するアノードとリチウムイオン電解質とを備え、
カソード区画は空気電極とナトリウムイオン電解質とを備え、
リチウムイオン伝導性膜はナトリウムイオンを透過しない。
【0027】
本発明の電池構造に従うと、ナトリウム空気電池の充電性がリチウム空気電池の容量と組合される。放電反応の間にカソードに形成されるNaO
2は、大きな結晶性粒子構造を形成し、Li−空気と比較して相対的に連続的な反応のためにLi空気電池よりも高い容量を与える。しかしながら、アノードとしてLi金属が用いられるので、Na金属の広範な反応性による安全性の問題は、本発明の構造によって回避される。
【0028】
本発明の新しいリチウム空気電池構造に従うと、実施例の結果に示されるように、高容量(長時間の動作)が得られる。ナトリウム空気電池と比べた本発明の構造によって得られる利点は、以下を含む。
【0029】
・アノードとしてNa金属を用いる必要性がなく、これによりナトリウム金属に関連の安全性の問題を回避する。
【0030】
・Na空気電池システムと比較して略0.3Vだけ電圧が上昇する。
・空気露出;本発明の構造により、酸素源としての周囲空気への電池の露出が可能になる。なぜなら、固体リチウム電解質膜がアノードの高反応性のLi金属を保護するからである。これに代えて、酸素源は、純O
2、またはO
2とカソードでの還元に対して不活性の気体との混合物であってもよい。
【0031】
理論によって制約を受けることを望まなければ、発明者らは、Na塩が、支持塩として、および以下の反応によって例示されるようなメディエータとして働くと考える。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、カソード区画はイオン液体を備える。好適なイオン液体は、イミダゾリウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、およびアンモニウムカチオンなどのカチオンのうち任意のものと、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、テトラフルオロボレートアニオン、およびヘキサフルオロホスフェートアニオンなどのアニオンのうち任意のものとを備えてもよい。好ましい実施形態では、イオン液体は、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(PP13TFSI)またはN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEMETFSI)であってもよい。このように、O
2ラジカルに対する高い許容度、すなわち劣化に対する化学的耐性、を有するイオン液体が用いられる。また、本発明の電解質系は、酸素源としての空気に対するカソードの露出を許容する。なぜなら、イオン液体は揮発性ではなく、したがって電池の動作の間の電解質の損失が問題ではないからである。
【0034】
さらに、イオン液体の性能を向上させる塩をカソード区画に加えてもよい。そのような塩はイオン液体に可溶でなければならず、カソード母材を詰まらせてしまうであろう固体沈殿物を形成せずに、カソードにおいて得られる還元されたO
2ラジカルを安定化させるように働き得る。カソード区画に加えてもよい好適な塩は、イオン液体と相溶性のある有機カチオンの塩を含む。そのような塩の例は、テトラアルキルアンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、およびピペリジニウム塩を含む。1つの実施形態では、添加剤塩はテトラブチルアンモニウム(TBA)ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド(TFSA)であってもよい。
【0035】
また、本発明の電解質系は、酸素源としての空気に対するカソードの露出を許容する。なぜなら、イオン液体は揮発性ではなく、したがって電池の動作の間の電解質の損失が問題ではないからである。
【0036】
さらに、NaO
2はイオン液体に部分的に可溶であるので、Li
2O
2の形成に関連の沈殿および細孔の詰まりが防止され、その結果放電反応が連続的になり、かつしたがって電池の動作が驚くほど大幅に長くなる。これに対し、Na電解質の代わりにLi電解質を用いれば、以上で言及したように、Li
2O
2の不動態化が発生するであろうし、放電反応が停止されてしまうであろう。
【0037】
リチウムイオン伝導性膜の目的は、他のカチオン、特にナトリウムカチオン(Na+)、がアノード区画に入らないようにしつつ、アノード区画からカソード区画へのリチウムイオン(Li+)の可逆の通過を許容することである。膜は、ポリマー、セラミック、またはその複合材から構成されてもよい。アノードの性能に対する気体のいずれの有害な影響も低減するため、効果的な膜は、気体を完全に透過させるかまたは実質的に透過させ、こうしてカソード区画に対しては許される気体がアノード区画に入らないようにする。好ましい仕切りは稠密なセラミック膜であってもよい。たとえば、仕切りは、Li−La−Ti−O系ぺロブスカイト、Li−Al−Ti−P−O系NASICON、Li−La−Zr−O系ガーネット、Li−P−S系固体電解質、およびLi−Ge−P−S系固体電解質などのリチウムイオン伝導性セラミックプレートであってもよい。
【0038】
固体状態導電体を用いると、周囲空気も導入することができる。なぜなら、これは、空気からくる湿気および二酸化炭素がアノードに近づいてこれを不活性化するのを防止するからである。
【0039】
さらに、充電性に関しては、カソード区画でNaイオンを用いることにより、電気化学分解能力の効率が増大し、これにより電池のサイクル特性がより高くなる。出力特性および容量に関しては、カソード側でNaイオンを用いると、カソードの電気化学活性部位が増して、より高い電流密度およびより大きな放電生成物の成長を与え、これがより高い容量を提供する。
【0040】
正極は多孔質ユニット構成のものであってもよく、酸化還元触媒、伝導性材料、および結合剤をさらに備えてもよい。カソードは、酸化還元触媒と、伝導性材料と、オプションで結合剤とを混合しかつ混合物を適切な形状の集電体に塗布することによって構成されてもよい。酸化還元触媒は、O
2酸化還元反応を促進する任意の材料であってもよい。
【0041】
O
2酸化還元触媒の例は、アルカリまたはアルカリ土類金属の、酸化物(Li
2O、Na
2O、K
2O、MgO、CaO、SrO、BaO)、水酸化物(LiOH、NaOH、KOH、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、Sr(OH)
2、Ba(OH)
2)、炭酸塩(Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、MgCO
3、CaCO
3、SrCO
3、BaCO
3)、またはその任意の組合せの形態を含んでもよいが、それらに限定されない。活性成分は、Al
2O
3、ZrO
2、TiO
2、CeO
2などの高表面積の酸化物支持体またはその任意の混合された酸化物上に含浸される。Pt、Pd、Rhなどの貴金属またはその任意の組合せが触媒中に存在してもよい。正極は、セルの有用な電位窓中で科学的に安定している電気伝導材料を含有してもよい。
【0042】
好ましくは、伝導性材料は多孔質であり、高出力を与えるように比表面積が大きい。そのような材料の例は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、および活性炭などの炭素質の材料を含んでもよいが、それらに限定されない。他の好適な伝導性材料は、金属繊維などの伝導性繊維、ニッケルおよびアルミニウムなどの金属粉末、ならびにポリフェニレン誘導体などの有機伝導性材料であってもよい。いくつかの実施形態では、これらの材料の混合物を用いてもよい。他の好適な伝導性材料は、窒化チタンおよび炭化チタンなどの伝導性セラミックであってもよい。
【0043】
セルの有用な電位窓中で化学的に安定している、当業者に公知の好適な結合剤は、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を含んでもよい。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE),プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、およびエチレン−アクリル酸共重合体である。これらの結合剤を独立して用いてもよく、または混合物を用いてもよい。
【0044】
成分は、好適な溶媒の存在下で湿式配合されてもよく、またはモルタルもしくは他の従来公知の混合機器を用いて乾式配合されてもよい。混合物は次に、従来公知の方法によって電荷コレクタに塗布されてもよい。任意の好適な電荷コレクタを用いてもよい。好ましい電荷コレクタは、炭素、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、および銅のうち任意のものであってもよい。空気の拡散を補助するため、コレクタは、網目などの多孔質体であることが好ましいことがある。ある実施形態では、電荷コレクタは、コレクタを酸化から保護する耐酸化性金属または合金の保護コーティングを備えてもよい。
【0045】
リチウム伝導性膜の存在により、電池はアノード区画とカソード区画とに分割される。リチウム電解質イオンまたは移動性イオンキャリアは、当業者には従来公知の任意のものであってもよく、LiPF
6、LiClO
4、LiAsF
6、LiBF
4、LiN(CF
3SO
2)
2、Li(CF
3SO
3)、およびLiN(C
2F
5SO
2)
2のうち1つ以上を含んでもよい。
【0046】
カソード部門のナトリウム電解質は、超酸化物イオンに対して安定している任意の従来公知のナトリウム塩であってもよい。たとえば、ナトリウム電解質は、Na
2SO
4、NaNO
3、NaClO
4、Na
3PO
4、Na
2CO
3、NaPF
6、およびNaOHであってもよく、ある実施形態ではNaPF
6またはNaClO
4などのナトリウム塩が好ましいことがある。
【0047】
アノードの金属は、リチウムまたはリチウム合金のいずれかを備えてもよい。
本明細書中で、アノード区画の系をアノード液と参照することがある一方で、カソード区画の系をカソード液と参照することがある。
【0048】
アノード区画に好適な非水系溶媒は、環式炭酸塩、鎖状炭酸塩、環式エステル、環式エーテル、および鎖状エーテルを含む。環式炭酸塩の例は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、およびビニレンカーボネートを含む。鎖状炭酸塩の例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびメチルエチルカーボネートを含む。環式エステル炭酸塩の例は、ガンマブチロラクトンおよびガンマバレロラクトンを含む。環式エーテルの例は、テトラヒドロフランおよび2−メチルテトラヒドロフランを含む。鎖状エーテルの例は、ジメトキシエタンおよびエチレングリコールジメチルエーテルを含む。いくつかの好ましい実施形態では、溶媒は、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒またはイオン液体であってもよい。
【0049】
本発明に従うリチウム空気電池の例を
図1に概略的に示す。
図1では、膜は、固体状態Liイオン導体として標識付けられ、カソード区画は液体電解質およびカソードを含有する一方で、アノード区画は電解質およびリチウムアノードを含有する。セルは、酸素または周囲空気で充填された容器の中に収納される。気体は、カソード端プレートの開口を通してカソード区画に入る。
【0050】
この発明を一般的に説明したが、例示の目的のみのために本明細書中に提供され、他に特に示されなければ限定的と意図されないある具体的な実施例を参照することによってさらなる理解を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下に説明される各系に従って、
図1に概略的に示される構造に従ってナトリウムイオン媒介リチウム空気電池を構成した。
【0052】
実施例および比較例の実験のための基本的(共通の)セットアップおよび条件
カソード:カーボン紙(TGP−H−120、東レ株式会社)
固体状態Liイオン導体(セパレータ):厚みが1mmのLATP系固体状態Liイオン導体、LIC−GC(OHARAガラス)
アノード室のための電解質:プロピレンカーボネート(キシダ化学株式会社)中1.0モル/LのLiTFSA
*1(キシダ化学株式会社)
アノード:厚みが0.25mmのLi金属(FMCコーポレイション)
評価温度:摂氏25度
*1:TFSA=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオン
実施例1
カソード区画のための電解質:DEME
*2−TFSA(Kanto corp.)中0.352モル/kgのNaTFSA(キシダ化学株式会社)
導入される気体:純酸素(1.2atm、クローズド条件)
実施例2
カソード区画のための電解質:DEME
*2−TFSA(Kanto corp.)中0.352モル/kgのNaTFSA(キシダ化学株式会社)
導入される気体:周囲空気(オープン条件)
比較例1
カソード区画のための電解質:DEME−TFSA中0.352モル/kgのLiTFSA
導入される気体:純酸素(1.2atm、クローズド条件)
比較例2
カソード区画のための電解質:DEME−TFSA中0.352モル/kgのLiTFSA
導入される気体:周囲空気(オープン条件)
*2:DEME=N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムカチオン
図2は、得られた、実施例1および比較例1(クローズドO
2供給)の放電曲線を示す。
【0053】
放電は、2.0V対Liのオフセット電位および5mAのカットオフ電流まで、100mAによる定電流および定電圧(CC−CV)モードで行なった。この図は、実施例1がクローズドO
2供給条件では、比較例1よりも高い容量および高い出力特性を有する明確な証拠を示した。
【0054】
図3は、得られた、実施例2および比較例2(オープン空気供給)の放電曲線を示す。
放電は、2.0V対Liのオフセット電位および5mAのカットオフ電流まで、100mAによる定電流および定電圧(CC−CV)モードで行なった。この図は、実施例2がオープンO
2供給条件では、比較例2よりも高い容量および高い出力特性を有する明確な証拠を示した。
【0055】
以上の説明および実施例に照らして、本発明の数多くの修正例および変形例が可能である。したがって、以下の請求項の範囲内で、本明細書中に具体的に説明した以外のやり方で発明を実践してもよいことを理解すべきである。任意のそのような実施形態は本発明の範囲内に入ることが意図される。