特許第6549006号(P6549006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549006
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】表面処理システム及び表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 19/02 20060101AFI20190711BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   G21C19/02 050
   G21C19/02 100
   G21D1/00 W
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-188284(P2015-188284)
(22)【出願日】2015年9月25日
(65)【公開番号】特開2017-62199(P2017-62199A)
(43)【公開日】2017年3月30日
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋元 恵
(72)【発明者】
【氏名】安達 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】土橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高林 順一
(72)【発明者】
【氏名】小畑 稔
(72)【発明者】
【氏名】川原田 義幸
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−169668(JP,A)
【文献】 特開平08−176881(JP,A)
【文献】 特開平04−103792(JP,A)
【文献】 特開平05−323078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C19/00−19/50;23/00
G21C11/00−13/10
G21C17/00−17/14
G21D1/00−9/00
C25D5/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉内で前記原子炉の冷却液中にある壁面に吸着する吸着機構と、当該壁面に沿って移動するための移動機構と、当該壁面の表面情報を取得可能な表面情報取得部と、当該壁面の一部を覆うことが可能なチャンバを有し且つ当該チャンバに溶液の供給を受けて当該チャンバにより覆われた当該壁面の一部に表面処理を行うことが可能な表面処理機構とを含み、当該壁面に沿って移動可能な移動体と、
前記チャンバ内部から前記冷却液を排出可能で、めっき層形成用溶液を前記チャンバに供給可能な溶液管理装置と、
前記表面情報取得部により取得された前記表面情報に基いて、当該壁面のうち腐食が生じた部分を特定可能な表面情報処理装置と、
を備え、
前記表面処理機構は、前記表面情報処理装置が特定した部分を当該チャンバで覆い、前記溶液管理装置から前記めっき層形成用溶液の供給を受けて前記腐食を覆うめっき層を形成させるように構成され、
前記吸着機構は、回転されて周囲の前記冷却液を吸引するプロペラを含む
ことを特徴とする表面処理システム。
【請求項2】
前記溶液管理装置は、前記チャンバに酸化被膜除去用溶液を供給可能に構成されており、
前記表面処理機構は、当該チャンバに酸化被膜除去用溶液の供給を受けて、当該チャンバで覆われた前記壁面の一部から酸化被膜を除去する
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理ステム。
【請求項3】
前記移動体は、前記壁面の酸化被膜を研削材により研削可能な研削機構を、さらに有する
ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理用システム。
【請求項4】
前記表面処理機構は、
前記チャンバを画定する開口縁部が前記壁面に接しているときに、当該壁面と接するよう配置されている略環状の第1電極と、
当該開口縁部が当該壁面に接しているときに、当該壁面と接しないよう当該壁面から距離をあけて配置されている略環状の第2電極と、
を有する
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の表面処理システム。
【請求項5】
前記溶液管理装置は、内側めっき層形成用溶液と、外側めっき層形成用溶液とを、それぞれ、前記チャンバに供給可能に構成される
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の表面処理システム。
【請求項6】
原子炉内で前記原子炉の冷却液中にある壁面に、回転により周囲の前記冷却液を吸引するプロペラにより吸着する吸着機構と、当該壁面に沿って移動するための移動機構と、当該壁面の表面情報を取得可能な表面情報取得部と、当該壁面のうち一部を覆うことが可能なチャンバを有し且つ当該チャンバに溶液の供給を受けて当該チャンバに覆われた当該壁面の一部に表面処理を行うことが可能な表面処理機構とを含み、当該壁面に沿って移動可能な移動体を用いた表面処理方法であって、
前記移動体を壁面に沿って移動させることにより前記表面情報取得部により得られた前記表面情報に基づいて、表面情報処理装置が当該壁面のうち腐食が生じた部分を特定する工程と、
前記表面処理機構の前記チャンバで、特定された腐食が生じた部分を周囲の前記冷却液ごと覆う工程と、
前記チャンバ内の前記冷却液を排出するとともに、溶液管理装置が前記チャンバに酸化被膜除去用溶液を供給して、当該チャンバで覆われた壁面の酸化被膜を除去する工程と、
当該酸化被膜が除去された後、前記溶液管理装置が当該チャンバにめっき層形成用溶液を供給して当該腐食を覆うようにめっき層を形成する工程と、
、前記原子炉の前記冷却液中で実行する
ことを特徴とする表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉内の壁面に生じた腐食の成長を防止する表面処理システム及び表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉内の金属製構造物の壁面には、腐食が生じる場合がある。例えば、原子炉圧力容器内に海水が流入する事象が発生すると、当該原子炉圧力容器の内壁面には、腐食が生じる。このような腐食を、そのままにすると、当該腐食が成長して原子炉の健全性が損なわれる虞がある。また、当該腐食と引張応力の相乗作用によって圧力容器を構成する金属材料には、いわゆる応力腐食割れ(stress corrosion cracking)が生じることがある。
【0003】
応力腐食割れにより部材にき裂が生じた場合、一般的に、当該部材を貫通していない非貫通き裂の進展を阻止し、部材を貫通している貫通き裂にあっては、当該貫通き裂の進展を阻止するだけでなく、当該貫通き裂から冷却材が漏洩することを防止する必要がある。
【0004】
このような応力腐食割れによる非貫通き裂及び貫通き裂を補修する方法として「封止溶接」が提案されている(例えば、特許文献1参照)。封止溶接は、応力腐食割れによるき裂の開口を肉盛溶接で覆うことによって、応力腐食割れによるき裂の進展を阻止し、且つ冷却材の漏洩を防止するものである。封止溶接には、き裂の開口が確認された壁面(原表面)に直接、肉盛溶接を施す場合と、当該壁面(原表面)に追い込み加工を施した後に肉盛溶接を施す場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−206026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、原子炉内の壁面に生じる腐食には、例えば、当該圧力容器の健全性にさほど影響しない大きさであると評価されるものもある。しかし、このような腐食は、例えば、冷却水に含まれる酸素(いわゆる溶存酸素)の影響を受けて成長する場合がある。このような腐食に対しては、壁面に追い込み加工等を施して腐食を完全に除去するのではなく、当該腐食を外部環境から遮断して当該腐食の成長を止めた方が、圧力容器等の原子炉内の構造物の健全性を確保する点で有利な場合がある。
【0007】
本発明の実施形態は、上記事情に鑑みてなされたものであって、原子炉内の壁面に生じた腐食の成長を防止可能な表面処理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態の表面処理システムは、原子炉内で前記原子炉の冷却液中にある壁面に吸着する吸着機構と、当該壁面に沿って移動するための移動機構と、当該壁面の表面情報を取得可能な表面情報取得部と、当該壁面の一部を覆うことが可能なチャンバを有し且つ当該チャンバに溶液の供給を受けて当該チャンバにより覆われた当該壁面の一部に表面処理を行うことが可能な表面処理機構とを含み、当該壁面に沿って移動可能な移動体と、前記チャンバ内部から前記冷却液を排出可能で、めっき層形成用溶液を前記チャンバに供給可能な溶液管理装置と、前記表面情報取得部により取得された前記表面情報に基いて、当該壁面のうち腐食が生じた部分を特定可能な表面情報処理装置と、備え、前記表面処理機構は、前記表面情報処理装置が特定した部分を当該チャンバで覆い、前記溶液管理装置から前記めっき層形成用溶液の供給を受けて前記腐食を覆うめっき層を形成させるように構成され、前記吸着機構は、回転されて周囲の前記冷却液を吸引するプロペラを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の実施形態の表面処理方法は、原子炉内で前記原子炉の冷却液中にある壁面に、回転により周囲の前記冷却液を吸引するプロペラにより吸着する吸着機構と、当該壁面に沿って移動するための移動機構と、当該壁面の表面情報を取得可能な表面情報取得部と、当該壁面のうち一部を覆うことが可能なチャンバを有し且つ当該チャンバに溶液の供給を受けて当該チャンバに覆われた当該壁面の一部に表面処理を行うことが可能な表面処理機構とを含み、当該壁面に沿って移動可能な移動体を用いた表面処理方法であって、前記移動体を壁面に沿って移動させることにより前記表面情報取得部により得られた前記表面情報に基づいて、表面情報処理装置が当該壁面のうち腐食が生じた部分を特定する工程と、前記表面処理機構の前記チャンバで、特定された腐食が生じた部分を周囲の前記冷却液ごと覆う工程と、前記チャンバ内の前記冷却液を排出するとともに、溶液管理装置が前記チャンバに酸化被膜除去用溶液を供給して、当該チャンバで覆われた壁面の酸化被膜を除去する工程と、当該酸化被膜が除去された後、前記溶液管理装置が当該チャンバにめっき層形成用溶液を供給して当該腐食を覆うようにめっき層を形成する工程と、を、前記原子炉の前記冷却液中で実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態の表面処理システム及び表面処理方法によれば、原子炉内の壁面に生じた腐食を外部環境から遮断して腐食の成長を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態の表面処理止方法が適用される原子炉圧力容器の部分断面図であり、移動体については側面を示している。
図2】第1の実施形態の表面処理方法が適用される原子炉圧力容器の縦断面図である。
図3】第1の実施形態の表面処理システムのうち移動体の構成を示す上面図である。
図4】第1の実施形態の表面処理システムの全体構成を示す模式図である。
図5】第1の実施形態の表面処理システムの表面処理機構の構成を示す縦断面図であり、開口縁部が内壁に接した態様を示す図である。
図6】第1の実施形態の表面処理システムの表面処理機構を、開口縁部側から見た外観図である。
図7】第1の実施形態の表面処理方法を説明する腐食周辺の断面図であり、(a)は、腐食の周辺に酸化被膜が形成されている態様を示しており、(b)は、酸化被膜が除去された後、腐食を覆うように内側めっき層を形成した態様を示しており、(c)は、内側めっき層が形成された後、さらに外側めっき層が形成された態様を示している。
図8】第2の実施形態の表面処理システムのうち移動体の構成を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態により、本発明が限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0013】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態の表面処理システムの構成について、図1図7を用いて説明する。なお、各図において、鉛直上側を図に矢印Uで示し、鉛直下側を図に矢印Dで示す。また、原子炉圧力容器の径方向内側を図に矢印R1で示す。なお、図1図2及び図4においては、理解を容易にするために、適宜ハッチングを省略している。
【0014】
図1は、本実施形態の表面処理方法が適用される原子炉圧力容器の部分断面図であり、移動体については側面を示している。図2は、本実施形態の表面処理方法が適用される原子炉圧力容器の縦断面図である。図3は、本実施形態の表面処理システムのうち移動体の構成を示す上面図である。図4は、本実施形態の表面処理システムの全体構成を示す模式図である。
【0015】
図5は、本実施形態の表面処理システムの表面処理機構の構成を示す縦断面図であり、開口縁部が内壁に接した態様を示す図である。図6は、本実施形態の表面処理システムの表面処理機構を、開口縁部側から見た外観図である。
【0016】
本実施形態において、「原子炉内の壁面」は、一例として、図1に示すように、沸騰水炉(BWR)の炉心を収容する原子炉圧力容器1の内壁3であり、当該内壁3に生じた腐食の成長を防止する場合について説明する。なお、内壁3は、ステンレス鋼等の金属材料で構成されている。
【0017】
図2に示すように、本実施形態の原子炉圧力容器1は、改良型沸騰水炉(ABWR)に用いられるものであり、冷却液(軽水)を循環させるインターナルポンプ(図示せず)を内蔵している。原子炉圧力容器1の径方向内側には、炉心を囲う炉心シュラウド4が形成されている。図1及び図2に示すように、炉心シュラウド4と原子炉圧力容器1との間には、ポンプデッキ2が設けられている。冷却液は、炉心シュラウド4と原子炉圧力容器1との間を、ポンプデッキ2に設置されたインターナルポンプにより圧送されて鉛直下側に流れる。
【0018】
図1に示すように、原子炉圧力容器1の内壁3には、表面処理システムのうち、当該内壁3に沿って移動可能な移動体(いわゆる「移動ロボット」)11が、位置している。移動体11は、鉛直方向に延びている内壁3に沿って移動可能に構成されている。
【0019】
図3に示すように、移動体11は、内壁3に吸着する吸着機構15と、内壁3に沿って移動するための移動機構16と、内壁3の表面情報を取得可能な表面情報取得部17と、内壁3のうち腐食の近傍において各種の表面処理を行うことが可能な表面処理機構20とを有している。
【0020】
図3に示すように、本実施形態の吸着機構15は、いわゆるスラスターとして構成されており、複数のプロペラ(又はファン)15aと、当該プロペラ15aを回転駆動するモータ(図示せず)を有している。プロペラ15aは、モータにより回転駆動されて、移動体11のうち内壁3側から流体(例えば、冷却液)を吸引する。これにより、吸着機構15は、内壁3のうち所望の位置に吸着して、当該所望の位置に移動体11を位置させることができる。また、吸着機構15は、プロペラ15aを反転させることで、内壁3への吸着を解除することができる。
【0021】
移動機構16は、内壁3と接して当該内壁3との間に駆動力を生じさせる複数の駆動輪16aと、当該駆動輪16aを回転駆動するモータ(図示せず)を有している。駆動輪16aは、モータ(図示せず)により回転駆動されて、駆動輪16aと内壁3との間に、移動体11を内壁3に沿う方向(図3においては鉛直方向)に駆動する駆動力を生じさせる。これにより、移動機構16は、内壁3に沿って移動体11を所望の位置に移動させることができる。なお、移動機構16は、後述するコントローラ55(図4参照)により制御される。
【0022】
表面情報取得部17は、内壁3のうち所定の範囲を撮像可能なイメージセンサ17aを有している。イメージセンサ17aは、内壁3と対向するよう、移動体11の底面に配置されている。表面情報取得部17は、イメージセンサ17aにより撮像された画像データを、ケーブル18を介して(図4参照)後述する表面情報処理装置に伝送する。
【0023】
図4に示すように、原子炉圧力容器1の鉛直上側には、原子炉建屋のオペレーションフロア(オペレーティングフロアとも称する)5が設けられている。当該オペレーションフロア5上には、表面情報取得部17により取得された表面情報に基いて、内壁3のうち腐食が生じた部分を特定可能な表面情報処理装置51が配置されている。本実施形態の表面情報処理装置51は、イメージセンサ17aにより撮像された画像を処理する画像処理装置として構成されている。表面情報処理装置51のより具体的な機能については、後述する。
【0024】
表面処理機構20は、図3及び図5に示すように、内壁3のうち腐食が生じた部分を覆うことが可能なチャンバ26を有する。表面処理機構20は、該チャンバ26を画定する開口縁部27が内壁3に接触可能に構成されている。本実施形態において、チャンバ26は、略半球状をなしており、開口縁部27は、略環状をなしている。
【0025】
なお、以下の説明において、内壁3に垂直な方向であって、当該内壁3に密着する開口縁部27の中心軸方向を、単に「軸方向」と記して図に矢印Aで示す。また、当該軸方向に直交する方向を単に「径方向」と記す。
【0026】
図3に示す移動体11のうち、表面処理機構20は、図5に矢印Aで示すように内壁3に対して軸方向に相対移動可能に構成されている。表面処理機構20は、図示しないアクチュエータにより軸方向に駆動される。
【0027】
(電極)
図5及び図6に示すように、表面処理機構20のチャンバ26には、略環状をなしている2つの電極21,22が設けられている。より具体的には、表面処理機構20は、開口縁部27が内壁3に接しているときに当該内壁3に接するよう配置されている電極(以下、第1電極と記す)21と、開口縁部27が内壁3に接しているときに、内壁3と接しないよう内壁3から軸方向に距離をあけて配置されている電極(以下、第2電極と記す)22とを有している。
【0028】
第1電極21は、チャンバ26のうち、開口縁部27に隣接して設けられている。第1電極21は、図5に示すように、開口縁部27と共に当該内壁3に接するよう構成されている。
【0029】
第2電極22は、チャンバ26のうち、第1電極21に比べて、径方向内側であって且つ開口縁部27から軸方向に離れた位置に配置されている。第1電極21及び第2電極22は、後述するめっき層43,44の形成に用いられる。
【0030】
(チューブ、溶液管理装置)
また、図3に示すように、表面処理機構20には、各種の溶液を供給又は排出するためのチューブが、複数束ねられたチューブ束30が接続されている。図4に示すように、オペレーションフロア5上には、各種の溶液の供給及び排出を管理する溶液管理装置53が設置されている。溶液管理装置53のより具体的な機能については、後述する。
【0031】
チューブ束30は、図5に示すように、複数のチューブ31,32,33,34で構成されている。具体的には、チューブ束30は、チャンバ26にある各種液体を溶液管理装置53(図4参照)に排出するための第1チューブ31と、溶液管理装置53(図4参照)から各種の溶液をチャンバ26に供給するチューブ32,33,34を有している。
【0032】
具体的には、酸化被膜を除去するための溶液(以下、酸化被膜除去用溶液と記す)を供給する第2チューブ32と、後述する内側めっき層43を形成するための溶液(以下、内側めっき層形成用溶液と記す)を供給する第3チューブ33と、後述する外側めっき層44を形成するための溶液(以下、外側めっき層形成用溶液と記す)を供給する第4チューブ34とを有している。
【0033】
図4に示す溶液管理装置53は、表面処理機構20のチャンバ26に対して、酸化被膜除去用溶液、内側めっき層形成用溶液、外側めっき層形成用溶液を、それぞれ供給することが可能に構成されている。なお、内側めっき層形成用溶液には、内側めっき層を構成する物質が含まれており、外側めっき層形成用溶液には、外側めっき層を構成する物質が含まれている。なお、溶液管理装置53は、第1チューブ31を介して、これらの溶液や、冷却液をチャンバ26から排出することが可能に構成されている。
【0034】
移動体11の表面処理機構20は、当該チャンバ26にめっき層43,44を形成するための溶液、すなわち内側めっき層形成用溶液および外側めっき層形成用溶液の供給を受けて、腐食を覆うめっき層43,44(図7参照)を形成するものである。
【0035】
溶液管理装置53は、コントローラ55を介して装置制御室57にいる操作者により操作される。装置制御室57内にいる操作者は、表面情報処理装置51を介して表面情報取得部17が撮像した内壁3の画像を確認しながら、コントローラ55を介して移動体11及び溶液管理装置53を制御可能に構成されている。
【0036】
(方法)
以上に説明した本実施形態の表面処理システムによる表面処理方法について、図1図7を用いて説明する。なお、図7は、本実施形態の表面処理方法を説明する腐食周辺の断面図であり、(a)は、腐食の周辺に酸化被膜が形成されている態様を示しており、(b)は、酸化被膜が除去された後、腐食を覆うように内側めっき層を形成した態様を示しており、(c)は、内側めっき層が形成された後、さらに外側めっき層が形成された態様を示している。
【0037】
(腐食が生じている部分を特定)
まず、図4に示すように、内壁3のうち腐食が生じている部分を特定する。本実施形態においては、原子炉圧力容器1の内壁3に沿って移動体11を移動させながら表面情報取得部17により当該内壁3の表面情報を得ることにより、腐食が生じている部分を特定する。具体的には、イメージセンサ17aにより内壁3を撮像する。
【0038】
イメージセンサ17aにより取得された内壁3の画像データは、表面情報処理装置51に送られる。表面情報処理装置51は、移動体11から得られた画像データに基づいて、腐食が生じていない内壁3と腐食との境界を識別する。これにより、表面情報処理装置51は、内壁3のうち腐食40が生じている部分を特定する。
【0039】
(酸化被膜を除去)
次に、内壁3のうち当該腐食40の近傍にある酸化被膜41を除去する。本実施形態においては、図5及び図7(a)に示すように、表面処理機構20を軸方向に駆動して、チャンバ26が腐食40を覆うように開口縁部27を内壁3に密着させる。
【0040】
そして、チャンバ26内に冷却液がある場合、当該冷却液を第1チューブ31を通して溶液管理装置53に排出すると共に、酸化被膜除去用溶液を、溶液管理装置53から第2チューブ32を介してチャンバ26に供給する。表面処理機構20は、チャンバ26に酸化被膜除去用溶液の供給を受けて、腐食40の近傍から酸化被膜41を化学的に除去する。
【0041】
(内側めっき層を形成)
酸化被膜41を除去した後、図5及び図7(b)に示すように、当該腐食40を覆うよう内側めっき層43を形成する。本実施形態においては、チャンバ26にある酸化被膜除去用溶液(廃液)を、第1チューブ31を通して溶液管理装置53に排出すると共に、内側めっき層形成用溶液を、溶液管理装置53から第3チューブ33を介してチャンバ26に供給する。
【0042】
表面処理機構20は、チャンバ26に内側めっき層形成用溶液の供給を受ける。表面処理機構20は、内側めっき層形成用溶液がチャンバ26に満たされた状態で、第1電極21が接している内壁3と第2電極22との間に電流を流し、内側めっき層形成用溶液に含まれている内側めっき層43を構成する物質を、チャンバ26に面している内壁3上に電気化学的に析出させる、いわゆる電着(electrodeposition)を行う。これにより、内壁3のうち腐食40の近傍には、後述する外側めっき層44の密着性を向上させるための内側めっき層43が、腐食40を覆うように形成される。
【0043】
なお、本実施形態において、内側めっき層43を構成する材料は、外側めっき層44の密着性が比較的良好な種々の金属材料が用いられる。
【0044】
(外側めっき層を形成)
内側めっき層43を形成した後、図5及び図7(c)に示すように、内側めっき層43上に外側めっき層44を形成する。本実施形態においては、チャンバ26にある内側めっき層形成用溶液(廃液)を、第1チューブ31を通して溶液管理装置53に排出すると共に、外側めっき層形成用溶液を、溶液管理装置53から第4チューブ34を介してチャンバ26に供給する。
【0045】
表面処理機構20は、チャンバ26に外側めっき層形成用溶液の供給を受ける。表面処理機構20は、外側めっき層形成用溶液がチャンバ26に満たされた状態で、第1電極21が接している内壁3と、第2電極22との間に電流を流し、外側めっき層形成用溶液に含まれている外側めっき層44を構成する物質を、内側めっき層43上に電着させる。これにより、内壁3には、内側めっき層43に加えて外側めっき層44が、腐食40を覆うように形成される。なお、本実施形態において、外側めっき層44は、鉄、ニッケル、クロムのうちいずれか、又はこれらを主成分とする合金で構成されている。
【0046】
以上に説明したように本実施形態の表面処理システムのうち移動体11は、図3に示すように、原子炉内にある壁面(内壁3)に吸着する吸着機構15と、当該壁面に沿って移動するための移動機構16と、当該壁面の表面情報を取得可能な表面情報取得部17と、当該壁面のうち腐食を覆うことが可能なチャンバ26を有し且つ当該チャンバ26に溶液の供給を受けて腐食の近傍に各種の表面処理を行うことが可能な表面処理機構20とを含み、当該内壁3に沿って移動可能に構成されている。また、表面処理システムは、表面情報取得部17により取得された表面情報に基いて、当該内壁3のうち腐食が生じた部分を特定可能な表面情報処理装置51と、めっき層形成用溶液をチャンバ26に供給可能な溶液管理装置53とを有している。
【0047】
本実施形態の表面処理方法は、上述した移動体11、表面情報処理装置51及び溶液管理装置53を用いて、当該壁面に生じた腐食の成長を防止する方法であり、移動体を壁面に沿って移動させることにより表面情報取得部17により得られた表面情報に基づいて、表面情報処理装置51が壁面のうち腐食が生じた部分を特定する工程と、表面処理機構20が当該腐食が生じた部分をチャンバ26で覆い、且つ前記溶液管理装置53がチャンバ26に酸化被膜除去用溶液を供給することにより、当該腐食の近傍にある酸化被膜を除去する工程と、当該酸化被膜41が除去された後、溶液管理装置53がチャンバ26にめっき層形成用溶液を供給することにより、当該腐食40を覆うようにめっき層43,44を形成する工程と、を含むものとした。これにより、腐食40を外部環境、例えば、原子炉圧力容器1内の冷却液から遮断して、当該冷却液に含まれる酸素により腐食が成長することを防止することができる。
【0048】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態の表面処理システム及び表面処理方法について、図4図5図7及び図8を用いて説明する。図8は、本実施形態の表面処理システムのうち移動体の構成を示す上面図である。なお、本実施形態の表面処理システムは、移動体の構成のみが、上述した第1の実施形態と異なっている。第1の実施形態と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
本実施形態の移動体11Cは、内壁3に吸着するための吸着機構15Cとして、内壁3に対向するよう移動体11Cの底面に配置された複数の磁石15eを有している。吸着機構15Cは、磁石15eと内壁3との間に互いに引き付け合う磁力(引力)を生じさせる。これにより、吸着機構15Cは、内壁3の所望の位置に吸着して、当該所望の位置に移動体11Cを位置させることができる。また、吸着機構15Cは、磁石15eと内壁3との間に作用する磁力(引力)を消滅させることにより、内壁3への吸着を解除することができる。
【0050】
なお、磁石15eには、例えば、電磁石を用いることができる。電磁石の通電を制御することにより、移動体11Cの内壁3への吸着と、その解除を制御することが可能である。また、磁石15eには、永久磁石を用いることもできる。永久磁石を駆動するアクチュエータを制御して、永久磁石と内壁3との距離を制御して、移動体11Cの吸着と解除を実現することも可能である。
【0051】
加えて、本実施形態の移動体11Cは、上述した表面処理機構20とは別に、内壁3上にある酸化被膜41を研削可能な研削機構60を有している。研削機構60は、略円柱状の研削材61と、当該研削材61を回転駆動すると共に当該研削材61を内壁3に押し付けるための機構(以下、押し付け機構と記す)63を有している。押し付け機構63は、研削材61を回転駆動するためのモータ(図示せず)を含んでいる。
【0052】
本実施形態の表面処理方法においては、内壁3のうち腐食40が生じている部分を特定した後、腐食40の近傍にある酸化被膜41(図7(a)参照)を、研削材61により研削して、当該酸化被膜41を機械的に除去する。酸化被膜41を除去した後、図5及び図7(b),(c)に示すように、表面処理機構20のチャンバ26で腐食40を覆い、内側めっき層43及び外側めっき層44を形成する。
【0053】
本実施形態の表面処理方法は、酸化被膜除去用溶液を用いて化学的に除去する場合に比べて、短時間で酸化被膜41を除去することができる。また、図4に示す溶液管理装置53が酸化被膜除去用溶液を管理する必要がなくなり、酸化被膜除去用溶液を表面処理機構20に供給するための第2チューブ32(図5参照)を設ける必要がなくなる。
【0054】
〔他の実施形態〕
上述した各実施形態において、腐食40を覆うめっき層は、内側めっき層43と外側めっき層44との二層構造であるものとしたが、本発明に係るめっき層は、この態様に限定されるものではない。本発明に係るめっき層は、腐食40を外部環境から遮断できれば良く、腐食40を覆うように単数のめっき層が形成されるもの(一層構造)としても良い。また、内側めっき層43と外側めっき層44との間に、中間めっき層が形成されるもの(三層構造)としても良い。
【0055】
また、上述した各実施形態において、腐食40を覆うめっき層43,44の形成には、金属を電気化学的に析出(電着)させる方法、いわゆる電気(電解)めっき法が用いられるものとしたが、本発明において用いられるめっき法は、これに限定されるものではない。例えば、チャンバ26内の第1電極21及び第2電極22を用いることなく、金属を化学的に還元、析出させる方法、いわゆる無電解めっき法を用いることも可能である。
【0056】
また、上述した各実施形態においては、移動体の表面情報取得部17により取得された表面情報に基いて、当該壁面のうち腐食が生じた部分を特定可能な表面情報処理装置51と、移動体の表面処理機構20に、めっき層43,44を形成するための溶液を供給する溶液管理装置53は、移動体から離れたオペレーションフロア5上に設けられているものとしたが、本発明に係る表面情報処理装置及び溶液管理装置は、この態様に限定されるものではない。表面情報処理装置及び溶液管理装置のうち少なくとも一方が、移動体に設けられているものとしても良い。
【0057】
上述した各実施形態において、表面処理方法が適用される原子炉内の壁面は、原子炉圧力容器1の内壁3であるものとしたが、本発明に係る「原子炉内の壁面」は、当該内壁3に限定されるものではない。表面処理システムの移動体を配置することが可能であれば、原子炉内の様々な壁面に生じた腐食に対して、本発明の表面処理方法を適用することができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態はその他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 原子炉圧力容器、2 ポンプデッキ、3 内壁(原子炉内の壁面)、4 炉心シュラウド、5 オペレーションフロア、11,11C 移動体、15 吸着機構、15C 吸着機構、15a プロペラ、15e 磁石、16 移動機構、16a 駆動輪、17 表面情報取得部、17a イメージセンサ、18 ケーブル、20 表面処理機構、21 第1電極(電極)、22 第2電極(電極)、26 チャンバ、27 開口縁部、30 チューブ束、31 第1チューブ、32 第2チューブ、33 第3チューブ、34 第4チューブ、40 腐食、41 酸化被膜、43 内側めっき層(めっき層)、44 外側めっき層(めっき層)、51 表面情報処理装置(画像処理装置)、53 溶液管理装置、55 コントローラ、57 装置制御室、60 研削機構、61 研削材、63 押し付け機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8