特許第6549075号(P6549075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549075
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】建設機械の油圧駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/02 20060101AFI20190711BHJP
   F15B 11/16 20060101ALI20190711BHJP
   F15B 11/08 20060101ALI20190711BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   F15B11/02 C
   F15B11/16 B
   F15B11/08 A
   E02F9/22 A
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-192231(P2016-192231)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-54051(P2018-54051A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 亮平
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/02
E02F 9/22
F15B 11/08
F15B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機によって駆動される可変容量型の第1及び第2の油圧ポンプと、前記第1の油圧ポンプからの圧油によって駆動される左走行モータと、前記第2の油圧ポンプからの圧油によって駆動される右走行モータと、前記第1の油圧ポンプから前記左走行モータへの圧油の流れを制御するオープンセンタ型の左走行用流量制御弁と、前記第2の油圧ポンプから前記右走行モータへの圧油の流れを制御するオープンセンタ型の右走行用流量制御弁と、前記左走行用流量制御弁を操作する左走行用操作装置と、前記右走行用流量制御弁を操作する右走行用操作装置と、前記第1の油圧ポンプの容量を制御する第1の容量制御アクチュエータと、前記第2の油圧ポンプの容量を制御する第2の容量制御アクチュエータと、前記第1及び第2の容量制御アクチュエータを制御する制御装置とを備えた建設機械の油圧駆動装置において、
前記左走行用操作装置の操作量を検出する第1の操作量検出器と、
前記右走行用操作装置の操作量を検出する第2の操作量検出器と、
前記第1の油圧ポンプの吐出圧を検出する第1の吐出圧検出器と、
前記第2の油圧ポンプの吐出圧を検出する第2の吐出圧検出器とを備え、
前記制御装置は、
前記第1の操作量検出器で検出された前記左走行用操作装置の操作量が増加するのにしたがって前記左走行モータへの目標供給流量を増加するよう演算し、前記第2の操作量検出器で検出された前記右走行用操作装置の操作量が増加するのにしたがって前記右走行モータへの目標供給流量を増加するよう演算する走行モータ目標供給流量演算部と、
前記第1の操作量検出器で検出された前記左走行用操作装置の操作量と前記第1の吐出圧検出器で検出された前記第1の油圧ポンプの吐出圧に基づいて前記左走行用流量制御弁のブリードオフ流量を演算し、前記第2の操作量検出器で検出された前記右走行用操作装置の操作量と前記第2の吐出圧検出器で検出された前記第2の油圧ポンプの吐出圧に基づいて前記右走行用流量制御弁のブリードオフ流量を演算するブリードオフ流量演算部と、
前記左走行モータへの目標供給流量と前記左走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算して前記第1の油圧ポンプの目標吐出流量を演算し、前記右走行モータへの目標供給流量と前記右走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算することで前記第2の油圧ポンプの目標吐出流量を演算するポンプ目標吐出流量演算部と、
前記第1の油圧ポンプの目標吐出流量となるように前記第1の容量制御アクチュエータを制御し、前記第2の油圧ポンプの目標吐出流量となるように前記第2の容量制御アクチュエータを制御するポンプ容量制御部とを有することを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の油圧駆動装置において、
前記制御装置は、
前記第1の吐出圧検出器で検出された前記第1の油圧ポンプの吐出圧と前記左走行モータへの目標供給流量を乗算することで前記左走行モータへの目標供給動力を演算し、前記第2の吐出圧検出器で検出された前記第2の油圧ポンプの吐出圧と前記右走行モータへの目標供給流量を乗算することで前記右走行モータへの目標供給動力を演算し、前記左走行モータへの目標供給動力と前記右走行モータへの目標供給動力を加算することで全走行モータ目標供給動力を演算する全走行モータ目標供給動力演算部と、
前記全走行モータ目標供給動力がその上限値である全走行モータ供給可能動力を超えるか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記全走行モータ目標供給動力が前記全走行モータ供給可能動力を超えると判定された場合に、前記全走行モータ目標供給動力に対する前記全走行モータ供給可能動力の比率を前記左走行モータへの目標供給流量に乗算することで前記左走行モータへの目標供給流量を補正し、前記全走行モータ目標供給動力に対する前記全走行モータ供給可能動力の比率を前記右走行モータへの目標供給流量に乗算することで前記右走行モータへの目標供給流量を補正する走行モータ目標供給流量補正部とを有し、
前記ポンプ目標吐出流量演算部は、前記走行モータ目標供給流量補正部で前記左走行モータへの目標供給流量と前記右走行モータへの目標供給流量が補正された場合に、補正された前記左走行モータへの目標供給流量と前記左走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算して前記第1の油圧ポンプの目標吐出流量を演算し、補正された前記右走行モータへの目標供給流量と前記右走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算して前記第2の油圧ポンプの目標吐出流量を演算することを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械の油圧駆動装置において、
前記制御装置は、
前記第1の吐出圧検出器で検出された前記第1の油圧ポンプの吐出圧と前記左走行用流量制御弁のブリードオフ流量を乗算することで前記左走行用流量制御弁のブリードオフ損失を演算し、前記第2の吐出圧検出器で検出された前記第2の油圧ポンプの吐出圧と前記右走行用流量制御弁のブリードオフ流量を乗算することで前記右走行用流量制御弁のブリードオフ損失を演算するブリードオフ損失演算部と、
全ポンプ出力上限値から前記左走行用流量制御弁のブリードオフ損失及び前記右走行用流量制御弁のブリードオフ損失を減算することで前記全走行モータ供給可能動力を演算する全走行モータ供給可能動力演算部とを有することを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【請求項4】
請求項2に記載の建設機械の油圧駆動装置において、
前記判定部は、前記全走行モータ目標供給動力が前記全走行モータ供給可能動力を超える場合に、前記全走行モータ目標供給動力に対する前記全走行モータ供給可能動力の比率が予め設定された所定値以下であるか否かを更に判定しており、
前記走行モータ目標供給流量補正部は、
前記全走行モータ目標供給動力に対する前記全走行モータ供給可能動力の比率が前記所定値以下である場合に、前記左走行モータへの目標供給流量と前記右走行モータへの目標供給流量との差分が増加するのにしたがって一次補正量を増加するよう演算し、前記左走行モータへの目標供給流量と前記右走行モータへの目標供給流量のうちの小さいほうから前記一次補正量を減算するとともに、前記左走行モータへの目標供給流量と前記右走行モータへの目標供給流量のうちの大きいほうに前記一次補正量を加算して、前記左走行モータへの目標供給流量と前記右走行モータへの目標供給流量を一次補正し、
前記左走行モータへの目標供給流量と前記右走行モータへの目標供給流量の一次補正に対応するように前記全走行モータ目標供給動力を補正し、補正された全走行モータ目標供給動力に対する前記全走行モータ供給可能動力の比率を一次補正された前記左走行モータへの目標供給流量に乗算することで前記左走行モータへの目標供給流量を二次補正し、補正された全走行モータ目標供給動力に対する前記全走行モータ供給可能動力の比率を一次補正された前記右走行モータへの目標供給流量に乗算することで前記右走行モータへの目標供給流量を二次補正しており、
前記ポンプ目標吐出流量演算部は、前記走行モータ目標供給流量補正部で前記左走行モータへの目標供給流量と前記右走行モータへの目標供給流量が一次及び二次補正された場合に、二次補正された前記左走行モータへの目標供給流量と前記左走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算して前記第1の油圧ポンプの目標吐出流量を演算し、二次補正された前記右走行モータへの目標供給流量と前記右走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算して前記第2の油圧ポンプの目標吐出流量を演算することを特徴とする建設機械の油圧駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械の油圧駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械の油圧駆動装置において、エンジン(原動機)によって駆動される可変容量型の第1及び第2の油圧ポンプと、第1の油圧ポンプからの圧油によって駆動される左走行モータと、第2の油圧ポンプからの圧油によって駆動される右走行モータと、第1の油圧ポンプから左走行モータへの圧油の流れを制御するオープンセンタ型の左走行用流量制御弁と、第2の油圧ポンプから右走行モータへの圧油の流れを制御するオープンセンタ型の右走行用流量制御弁と、左走行用流量制御弁を操作する左走行用操作装置と、右走行用流量制御弁を操作する右走行用操作装置と、第1の油圧ポンプの容量を制御する第1のレギュレータと、第2の油圧ポンプの容量を制御する第2のレギュレータと、第1及び第2のレギュレータを制御する制御装置とを備えたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、左走行用流量制御弁のセンタバイパスラインの下流側に絞りが設けられ、この絞りの上流側圧力を検出する第1の検出器が設けられている。また、右走行用流量制御弁のセンタバイパスラインの下流側に絞りが設けられ、この絞りの上流側圧力を検出する第2の検出器が設けられている。制御装置は、基本的にネガティブ制御方式であって、第1の検出器で検出された圧力が一定となるように第1のレギュレータを制御し、第2の検出器で検出された圧力が一定となるように第2のレギュレータを制御する。さらに、左走行用操作装置の操作量と右走行用操作装置の操作量との差分に応じて、内輪側の走行モータに対応する油圧ポンプの吐出流量が減少するようにレギュレータを制御する。
【0004】
一方、ポジティブ制御方式の制御装置も知られている。この制御装置は、左走行用操作装置の操作量が増加するのにしたがって第1の油圧ポンプの吐出流量が増加するように第1のレギュレータを制御し、右走行用操作装置の操作量が増加するのにしたがって第2の油圧ポンプの吐出流量が増加するように第2のレギュレータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−181511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したポジティブ制御方式の制御装置を採用した場合には、次のような課題が生じる。左走行モータの負荷(詳細には、例えば走行路面の凹凸によって変化する負荷)に応じて第1の油圧ポンプの吐出圧が上昇すると、第1の油圧ポンプの吐出流量のうちの左走行用流量制御弁のブリードオフ流量の割合が増加し、左走行モータへの供給流量が減少する。同様に、右走行モータの負荷に応じて第2の油圧ポンプの吐出圧が上昇すると、第2の油圧ポンプの吐出流量のうちの右走行用流量制御弁のブリードオフ流量の割合が増加し、右走行モータへの供給流量が減少する。そのため、直進以外の走行動作(操向動作)では、操作装置の操作状況が同じであっても走行モータの負荷が変化すれば、左走行モータへの供給流量と右走行モータへの供給流量とのバランスが変化する。その結果、走行軌跡が変化してしまう。
【0007】
具体的に説明すると、例えば、右走行用操作装置の操作量が最大値、左走行用操作装置の操作量が中間値であれば、右走行用流量制御弁のブリードオフ流量がゼロ、左走行用流量制御弁のブリードオフ流量がゼロより大きい。そのため、右走行モータの負荷に応じて右走行モータへの供給流量がほぼ変化しないものの、左走行モータの負荷に応じて左走行モータへの供給流量が変化する。したがって、走行軌跡が変化してしまう。
【0008】
なお、上述したネガティブ制御方式の制御装置を採用した場合も、同様の課題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、走行モータの負荷の影響を受けずに走行軌跡を安定させることができる建設機械の油圧駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、原動機によって駆動される可変容量型の第1及び第2の油圧ポンプと、前記第1の油圧ポンプからの圧油によって駆動される左走行モータと、前記第2の油圧ポンプからの圧油によって駆動される右走行モータと、前記第1の油圧ポンプから前記左走行モータへの圧油の流れを制御するオープンセンタ型の左走行用流量制御弁と、前記第2の油圧ポンプから前記右走行モータへの圧油の流れを制御するオープンセンタ型の右走行用流量制御弁と、前記左走行用流量制御弁を操作する左走行用操作装置と、前記右走行用流量制御弁を操作する右走行用操作装置と、前記第1の油圧ポンプの容量を制御する第1の容量制御アクチュエータと、前記第2の油圧ポンプの容量を制御する第2の容量制御アクチュエータと、前記第1及び第2の容量制御アクチュエータを制御する制御装置とを備えた建設機械の油圧駆動装置において、前記左走行用操作装置の操作量を検出する第1の操作量検出器と、前記右走行用操作装置の操作量を検出する第2の操作量検出器と、前記第1の油圧ポンプの吐出圧を検出する第1の吐出圧検出器と、前記第2の油圧ポンプの吐出圧を検出する第2の吐出圧検出器とを備え、前記制御装置は、前記第1の操作量検出器で検出された前記左走行用操作装置の操作量が増加するのにしたがって前記左走行モータへの目標供給流量を増加するよう演算し、前記第2の操作量検出器で検出された前記右走行用操作装置の操作量が増加するのにしたがって前記右走行モータへの目標供給流量を増加するよう演算する走行モータ目標供給流量演算部と、前記第1の操作量検出器で検出された前記左走行用操作装置の操作量と前記第1の吐出圧検出器で検出された前記第1の油圧ポンプの吐出圧に基づいて前記左走行用流量制御弁のブリードオフ流量を演算し、前記第2の操作量検出器で検出された前記右走行用操作装置の操作量と前記第2の吐出圧検出器で検出された前記第2の油圧ポンプの吐出圧に基づいて前記右走行用流量制御弁のブリードオフ流量を演算するブリードオフ流量演算部と、前記左走行モータへの目標供給流量と前記左走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算して前記第1の油圧ポンプの目標吐出流量を演算し、前記右走行モータへの目標供給流量と前記右走行用流量制御弁のブリードオフ流量を加算することで前記第2の油圧ポンプの目標吐出流量を演算するポンプ目標吐出流量演算部と、前記第1の油圧ポンプの目標吐出流量となるように前記第1の容量制御アクチュエータを制御し、前記第2の油圧ポンプの目標吐出流量となるように前記第2の容量制御アクチュエータを制御するポンプ容量制御部とを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走行モータの負荷の影響を受けずに走行軌跡を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1の実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。
図2】本発明の第1の実施形態における油圧ショベルの油圧駆動装置の構成を表す図である。
図3】本発明の第1の実施形態における走行用流量制御弁の開口面積特性を表す図である。
図4】本発明の第1の実施形態における油圧ショベルのコントローラの処理機能を表すブロック図である。
図5】本発明の第1の実施形態における走行モータへの目標供給流量の演算テーブルを表す図である。
図6】本発明の第1の実施形態におけるセンタバイパス通路の開口面積の演算テーブルを表す図である。
図7】従来技術における油圧ショベルの走行軌跡を表す上面図である。
図8】本発明の第2の実施形態における油圧ショベルのコントローラの処理機能を表すブロック図である。
図9】本発明の第2の実施形態における一次補正量の演算テーブルを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本実施形態における油圧ショベルの構造を表す側面図である。なお、油圧ショベルが図1に示す状態にて、運転席に着座した運転者の前側(図1中左側)、後側(図1中右側)、左側(図1中紙面に向かって手前側)、右側(図1中紙面に向かって奥側)を、単に前側、後側、左側、右側と称する。
【0015】
油圧ショベルは、走行体1と、走行体1の上側に旋回可能に設けられた旋回体2と、旋回体2の前部に連結された作業装置3とを備えている。旋回体2は、旋回モータ4(後述の図2参照)の回転駆動によって旋回するようになっている。
【0016】
走行体1は、上方から見てH字形状のトラックフレーム5を備えている。トラックフレーム5の左側後端には駆動輪6が回転可能に支持され、トラックフレーム5の左側前端には従動輪7が回転可能に支持され、これら駆動輪6と従動輪7とで履帯8が掛けまわされている。そして、左走行モータ9A(後述の図2参照)の回転駆動によって左側の駆動輪6が回転し、ひいては左側の履帯8が回転するようになっている。
【0017】
同様に、トラックフレーム5の右側後端には駆動輪6(図示せず)が回転可能に支持され、トラックフレーム5の右側前端には従動輪7(図示せず)が回転可能に支持され、これら駆動輪6と従動輪7とで履帯8(図示せず)が掛けまわされている。そして、右走行モータ9B(後述の図2参照)の回転駆動によって右側の駆動輪6が回転し、ひいては右側の履帯8が回転するようになっている。
【0018】
作業装置3は、旋回体2の前部に回動可能に連結されたブーム10と、ブーム10に回動可能に連結されたアーム11と、アーム11に回動可能に連結されたアタッチメント12(図1では、標準装備のバケット)とを備えている。ブーム10は、左右一対のブームシリンダ13の伸縮駆動によって回動し、アーム11は、アームシリンダ14の伸縮駆動によって回動し、アタッチメント12は、アタッチメントシリンダ15の伸縮駆動によって回動するようになっている。なお、バケットは、オプションアクチュエータ16(後述の図2参照)が組み込まれた他のアタッチメントと交換可能にしている。
【0019】
旋回体2の運転室17には、運転者が着座する運転席(図示せず)が設けられている。運転席の前側には、左走行モータ9Aの動作を指示する左走行用操作装置18A(後述の図2参照)と、右走行モータ9Bの動作を指示する右走行用操作装置18B(後述の図2参照)が設けられている。走行用操作装置の外側には、オプションアクチュエータ16の動作を指示するオプション用操作装置(図示せず)が設けられている。
【0020】
運転席の左側には、旋回モータ4の動作及びアームシリンダ14の動作を指示する作業用操作装置(図示せず)が設けられている。運転席の右側には、ブームシリンダ13の動作及びアタッチメントシリンダ15の動作を指示する作業用操作装置(図示せず)が設けられている。旋回体2の運転室17以外の部分には、エンジン19(後述の図2参照)等の機器が搭載されている。
【0021】
図2は、本実施形態における油圧ショベルの油圧駆動装置の構成を表す図である。なお、この図2において、走行用操作装置18A,18B以外の他の操作装置の図示を省略するとともに、それらの説明を省略する。
【0022】
油圧ショベルの油圧駆動装置は、エンジン19によって駆動される油圧ポンプ20A,20Bと、複数の油圧アクチュエータ(詳細には、上述した旋回モータ4、左走行モータ9A、右走行モータ9B、ブームシリンダ13、アームシリンダ14、アタッチメントシリンダ15、及びオプションアクチュエータ16)と、複数の流量制御弁(詳細には、旋回用流量制御弁21、左走行用流量制御弁22A、右走行用流量制御弁22B、ブーム用流量制御弁23A,23B、アーム用流量制御弁24A,24B、アタッチメント用流量制御弁25、及びオプション用流量制御弁26)と、コントローラ27(制御装置)とを備えている。
【0023】
全ての流量制御弁は、オープンセンタ型であって、油圧ポンプ20Aの吐出側に接続された第1の弁グループと、油圧ポンプ20Bの吐出側に接続された第2の弁グループに分類される。
【0024】
第1の弁グループは、左走行用流量制御弁22A、オプション用流量制御弁26、ブーム用流量制御弁23A、アーム用流量制御弁24A、及び旋回用流量制御弁21を有している。走行用流量制御弁22A、オプション用流量制御弁26、ブーム用流量制御弁23A、アーム用流量制御弁24A、及び旋回用流量制御弁21は、互いにパラレルに接続されている。
【0025】
第2の弁グループは、右走行用流量制御弁22B、アタッチメント用流量制御弁25、ブーム用流量制御弁23B、及びアーム用流量制御弁24Bを有している。右走行用流量制御弁22Bは、アタッチメント用流量制御弁25、ブーム用流量制御弁23B、及びアーム用流量制御弁24Bに対してタンデムに、かつ、油圧ポンプ20Bから供給される圧油の流れに対し上流側に接続されている。アタッチメント用流量制御弁25、ブーム用流量制御弁23B、及びアーム用流量制御弁24Bは、互いにパラレルに接続されている。これにより、油圧ポンプ20Bからの圧油がアタッチメント用流量制御弁25、ブーム用流量制御弁23B、及びアーム用流量制御弁24Bよりも優先的に右走行用流量制御弁22Bに供給される。
【0026】
左走行用操作装置18Aは、前後方向に手でも足でも操作可能な操作レバーと、この操作レバーの中立位置から前側の操作量に対応する前側パイロット圧を生成して出力するパイロット弁と、操作レバーの中立位置から後側の操作量に対応する後側パイロット圧を生成して出力するパイロット弁とを有している。なお、2つのパイロット弁の出力ラインにはパイロット圧センサ28A,28B(操作量検出器)がそれぞれ設けられており、パイロット圧センサ28A,28Bで検出されたパイロット圧(すなわち、左走行用操作装置18Aの操作量)がコントローラ27へ出力されるようになっている。
【0027】
同様に、右走行用操作装置18Bは、前後方向に手でも足でも操作可能な操作レバーと、この操作レバーの中立位置から前側の操作量に対応する前側パイロット圧を生成して出力するパイロット弁と、操作レバーの中立位置から後側の操作量に対応する後側パイロット圧を生成して出力するパイロット弁とを有している。なお、2つのパイロット弁の出力ラインにはパイロット圧センサ28C,28D(操作量検出器)がそれぞれ設けられており、パイロット圧センサ28C,28Dで検出されたパイロット圧(すなわち、右走行用操作装置18Bの操作量)がコントローラ27へ出力されるようになっている。
【0028】
左走行用流量制御弁22Aは、左走行用操作装置18Aによって操作され、油圧ポンプ20Aから左走行モータ9Aへの圧油の流れ(方向及び流量)を制御するようになっている。詳細には、例えば左走行用操作装置18Aの操作レバーが中立位置にある場合、左走行用流量制御弁22Aのスプール(弁体)がノーマル位置にある。このとき、油圧ポンプ20Aからの圧油をタンクに戻すためのセンタバイパス通路が全開となる。
【0029】
そして、左走行用操作装置18Aの操作レバーが前側に操作されて、左走行用操作装置18Aからの前側パイロット圧が左走行用流量制御弁22Aの受圧部LFに入力されると、左走行用流量制御弁22Aのスプールが図2中右側に移動する。このとき、図3で示すように、スプールのストローク量の増加にしたがってセンタバイパス通路の開口面積が減少するとともに、油圧ポンプ20Aからの圧油を左走行モータ9Aの一方側ポートへ送るためのメータイン通路の開口面積が増加し、左走行モータ9Aの他方側ポートからの圧油をタンクに送るためのメータアウト通路の開口面積が増加する。その結果、左走行モータ9Aが前方向に回転する。
【0030】
一方、例えば左走行用操作装置18Aの操作レバーが後側に操作されて、左走行用操作装置18Aからの後側パイロット圧が左走行用流量制御弁22Aの受圧部LRに入力されると、左走行用流量制御弁22Aのスプールが図2中左側に移動する。これにより、図3で示すように、スプールのストローク量の増加にしたがってセンタバイパス通路の開口面積が減少するとともに、油圧ポンプ20Aからの圧油を左走行モータ9Aの他方側ポートへ送るためのメータイン通路の開口面積が増加し、左走行モータ9Aの一方側ポートからの圧油をタンクに送るためのメータアウト通路の開口面積が増加する。その結果、左走行モータ9Aが後方向に回転する。
【0031】
右走行用流量制御弁22Bは、右走行用操作装置18Bによって操作され、油圧ポンプ20Bから右走行モータ9Bへの圧油の流れを制御するようになっている。その詳細は、左走行用流量制御弁22Aと同様であるため、説明を省略する。
【0032】
油圧ポンプ20A,20Bは、可変容量型であって、それらの容量をそれぞれ制御する容量制御アクチュエータ29A,29Bが設けられている。各容量制御アクチュエータは、詳細を図示しないものの、コントローラ27からの制御信号によって駆動され、制御圧を生成する電磁弁と、この電磁弁で生成された制御圧によって駆動され、油圧ポンプの斜板(押しのけ容積可変部材)の傾斜角を制御するレギュレータとで構成されている。
【0033】
油圧ポンプ20A,20Bの吐出側には吐出圧センサ30A,30B(吐出圧検出器)がそれぞれ設けられており、吐出圧センサ30A,30Bでそれぞれ検出された油圧ポンプ20Aの吐出圧及び油圧ポンプ20Bの吐出圧がコントローラ27へ出力されるようになっている。エンジン19には回転数センサ31(回転数検出器)が設けられており、回転数センサ31で検出されたエンジン19の回転数がコントローラ27へ出力されるようになっている。
【0034】
本実施形態の要部であるコントローラ27は、パイロット圧センサ28A〜28D、吐出圧センサ30A,30B、及び回転数センサ31の検出結果を入力し、それらに基づいて容量制御アクチュエータ29A,29Bを制御するようになっている。なお、コントローラ27は、プログラムに基づいて演算処理や制御処理を実行する演算制御部(例えばCPU)と、プログラムや演算処理の結果を記憶する記憶部(例えばROM、RAM)等を有するものである。
【0035】
図4は、本実施形態におけるコントローラの処理機能を表すブロック図である。
【0036】
本実施形態のコントローラ27は、機能的構成として、走行モータ目標供給流量演算部32、ブリードオフ流量演算部33、ポンプ目標吐出流量演算部34、及びポンプ容量制御部35を有している。また、全走行モータ目標供給動力演算部36、ブリードオフ損失演算部37、全走行モータ供給可能動力演算部38、判定部39、及び走行モータ目標供給流量補正部40を有している。
【0037】
走行モータ目標供給流量演算部32は、走行用操作装置のパイロット圧(言い換えれば、走行用操作装置の操作量)と走行モータへの目標供給電流との関係が予め設定された演算テーブル(図5参照)を有している。この演算テーブルは、例えば走行モータの負荷が比較的小さい場合を想定して設定されている。
【0038】
そして、前述した演算テーブルを用いることにより、パイロット圧センサ28A又は28Bで検出された左走行用操作装置18Aのパイロット圧(言い換えれば、操作量)が増加するのにしたがって、左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgtを増加するよう演算する。同様に、前述した演算テーブルを用いることにより、パイロット圧センサ28C又は28Dで検出された右走行用操作装置18Bのパイロット圧(言い換えれば、操作量)が増加するのにしたがって、右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtを増加するよう演算する。
【0039】
ブリードオフ流量演算部33は、走行用操作装置のパイロット圧と走行用流量制御弁のセンタバイパス通路の開口面積との関係が予め設定された演算テーブル(図6参照)を有している。そして、前述した演算テーブルを用いることにより、パイロット圧センサ28A又は28Bで検出された左走行用操作装置18Aのパイロット圧から、左走行用流量制御弁22Aのセンタバイパス通路の開口面積ACbLを演算する。同様に、前述した演算テーブルを用いることにより、パイロット圧センサ28C又は28Dで検出された右走行用操作装置18Bのパイロット圧から、右走行用流量制御弁22Bのセンタバイパス通路の開口面積ACbRを演算する。
【0040】
そして、下記の式(1)を用いて、吐出圧センサ30Aで検出された油圧ポンプ20Aの吐出圧Pと、演算された左走行用流量制御弁22Aのセンタバイパス通路の開口面積ACbLにより、左走行用流量制御弁22Aのセンタバイパス通路の流量(ブリードオフ流量)QBoLを演算する。同様に、下記の式(2)を用いて、吐出圧センサ30Bで検出された油圧ポンプ20Bの吐出圧Pと、演算された右走行用流量制御弁22Bのセンタバイパス通路の開口面積ACbRにより、右走行用流量制御弁22Bのセンタバイパス通路の流量(ブリードオフ流量)QBoRを演算する。なお、式中のCはセンタバイパス通路の流量係数、ρは圧油の密度である。
【0041】
【数1】
【0042】
【数2】
【0043】
全走行モータ目標供給動力演算部36は、下記の式(3)で示すように、吐出圧センサ30A,30Bで検出された油圧ポンプ20Aの吐出圧P及び油圧ポンプ20Bの吐出圧Pと、走行モータ目標流量演算部32で演算された左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgt及び右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtにより、全走行モータ目標供給動力WTgtを演算する。すなわち、油圧ポンプ20Aの吐出圧Pと左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgtを乗算することで左走行モータ9Aへの目標供給動力を演算し、油圧ポンプ20Bの吐出圧Pと右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtを乗算することで右走行モータ9Bへの目標供給動力を演算し、それらを加算することで全走行モータ目標供給動力WTgtを演算する。
【0044】
【数3】
【0045】
ブリードオフ損失演算部37は、下記の式(4)で示すように、吐出圧センサ30A,30Bで検出された油圧ポンプ20Aの吐出圧P及び油圧ポンプ20Bの吐出圧Pと、ブリードオフ流量演算部33で演算された左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ流量QBoL及び右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ流量QBoRにより、全ブリードオフ損失LBoを演算する。すなわち、油圧ポンプ20Aの吐出圧Pと左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ流量QBoLを乗算することで左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ損失を演算し、油圧ポンプ20Bの吐出圧Pと右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ流量QBoRを乗算することで右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ損失を演算し、それらを加算することで全ブリードオフ損失LBoを演算する。
【0046】
【数4】
【0047】
全走行モータ供給可能動力演算部38は、下記の式(5)で示すように、全ポンプ出力上限値WLimから全ブリードオフ損失LBoを減算して、全走行モータ供給可能動力WTrvを演算する。なお、全ポンプ出力上限値WLimは、エンジン19の出力からパイロットポンプ等の補機(図示せず)の動力と油圧ポンプ20A,20Bの駆動に伴う損失を減算することで求められる。
【0048】
【数5】
【0049】
判定部39は、全走行モータ目標供給動力WTgtがその上限値である全走行モータ供給可能動力WTrvを超えるか否かを判定する。そして、全走行モータ目標供給動力WTgtが全走行モータ供給可能動力WTrvを超えないと判定した場合に、走行モータ目標供給流量補正部40に補正なしの指令を出力する。これにより、走行モータ目標流量演算部32で演算された左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgt及び右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtは、走行モータ目標供給流量補正部40で補正されることなく、ポンプ目標吐出流量演算部34に出力される。
【0050】
このように補正が行われない場合、ポンプ目標吐出流量演算部34は、下記の式(6)で示すように、走行モータ目標流量演算部32で演算された左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgtとブリードオフ流量演算部33で演算された左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ流量QBoLを加算して、油圧ポンプ20Aの目標吐出流量Q1Tgtを演算する。同様に、下記の式(7)で示すように、走行モータ目標流量演算部32で演算された右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtとブリードオフ流量演算部33で演算された右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ流量QBoRを加算して、油圧ポンプ20Bの目標吐出流量Q2Tgtを演算する。
【0051】
【数6】
【0052】
【数7】
【0053】
判定部39は、全走行モータ目標供給動力WTgtが全走行モータ供給可能動力WTrvを超えると判定した場合に、走行モータ目標供給流量補正部40に補正ありの指令を出力する。走行モータ目標供給流量補正部40は、補正ありの指令に従い、下記の式(8)で示すように、全走行モータ目標供給動力に対する全走行モータ供給可能動力の比率(WTrv/WTgt)を左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgtに乗算して、左走行モータ9Aへの目標供給流量の補正値QLAvlを演算する。同様に、下記の式(9)で示すように、全走行モータ目標供給動力に対する全走行モータ供給可能動力の比率(WTrv/WTgt)を右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtに乗算して、右走行モータ9Bへの目標供給流量の補正値QRAvlを演算する。
【0054】
【数8】
【0055】
【数9】
【0056】
なお、式(8)及び(9)で示すように、左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgt、右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgt、油圧ポンプ20Aの吐出圧P、油圧ポンプ20Bの吐出圧P、及び全走行モータ供給可能動力WTrvにより、左走行モータ9Aへの目標供給流量の補正値QLAvl及び右走行モータ9Bへの目標供給流量の補正値QRAvlを演算してもよい。
【0057】
このように補正が行われた場合、ポンプ目標吐出流量演算部34は、下記の式(10)で示すように、走行モータ目標流量補正部40で演算された左走行モータ9Aへの目標供給流量の補正値QLAvlとブリードオフ流量演算部33で演算された左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ流量QBoLを加算して、油圧ポンプ20Aの目標吐出流量Q1Tgtを演算する。同様に、下記の式(11)で示すように、走行モータ目標流量補正部40で演算された右走行モータ9Bへの目標供給流量の補正値QRAvlとブリードオフ流量演算部33で演算された右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ流量QBoRを加算して、油圧ポンプ20Bの目標吐出流量Q2Tgtを演算する。
【0058】
【数10】
【0059】
【数11】
【0060】
ポンプ容量制御部35は、ポンプ目標吐出流量演算部34で演算された油圧ポンプ20Aの目標吐出流量Q1Tgtを回転数センサ31で検出されたエンジン19の回転数で除算することで油圧ポンプ20Aの目標容量を演算し、これに対応する制御信号を生成して容量制御アクチュエータ29Aに出力する。これにより、ポンプ目標吐出流量演算部34で演算された油圧ポンプ20Aの目標吐出流量Q1Tgtとなるように容量制御アクチュエータ29Aを制御する。同様に、ポンプ目標吐出流量演算部34で演算された油圧ポンプ20Bの目標吐出流量Q2Tgtを回転数センサ31で検出されたエンジン19の回転数で除算することで油圧ポンプ20Bの目標容量を演算し、これに対応する制御信号を生成して容量制御アクチュエータ29Bに出力する。これにより、ポンプ目標吐出流量演算部34で演算された油圧ポンプ20Bの目標吐出流量Q2Tgtとなるように容量制御アクチュエータ29Bを制御する。
【0061】
次に、本実施形態の作用効果を、従来技術(詳細には、例えば、走行用操作装置の操作量が増加するのにしたがって油圧ポンプの吐出流量を増加するように制御する、一般的なポジティブ制御を行う場合)と比較しながら説明する。図7は、従来技術における油圧ショベルの走行軌跡を表す上面図である。
【0062】
従来技術にて、右走行用操作装置18Bの操作量が最大値、左走行用操作装置18Aの操作量が中間値である場合、すなわち、右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ流量がゼロ、左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ流量がゼロより大きい場合を想定する。この場合、右走行モータ9Bの負荷に応じて油圧ポンプ20Bの吐出圧が上昇しても、右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ流量がゼロのままであるから、右走行モータ9Bへの供給流量がほぼ変化しない。一方、左走行モータ9Aの負荷に応じて油圧ポンプ20Aの吐出圧が上昇すると、油圧ポンプ20Aの吐出流量のうちの左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ流量の割合が増加し、左走行モータ9Aへの供給流量が減少する。
【0063】
したがって、従来技術では、走行モータの負荷が比較的小さいときに、図7中一点鎖線Aで示すような走行軌跡となるものの、走行モータの負荷が比較的大きいときに、図7中二点鎖線Bで示すような走行軌跡に変化する。
【0064】
これに対し、本実施形態では、走行モータの負荷に応じて変化する走行用流量制御弁のブリードオフ流量を演算し、これを加味して油圧ポンプの吐出流量を制御する。これにより、走行モータの負荷の変化に伴う走行用流量制御弁のブリードオフ流量の変化に対応することができ、走行モータへの供給流量を安定させることができる。したがって、走行モータの負荷の影響を受けずに走行軌跡を安定させることができる。
【0065】
本発明の第2の実施形態を、図8及び図9を用いて説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0066】
図8は、本実施形態におけるコントローラの処理機能を表すブロック図である。
【0067】
本実施形態のコントローラ27Aの判定部39Aは、全走行モータ目標供給動力WTgtが全走行モータ供給可能動力WTrvを超えると判定した場合に、全走行モータ目標供給動力に対する全走行モータ供給可能動力の比率(WTrv/WTgt)が予め設定された所定値(但し、0を超えて1未満の値)以下であるか否かを更に判定する。そして、比率(WTrv/WTgt)が所定値を超えると判定した場合に、第1の実施形態と同様、走行モータ目標供給流量補正部40Aに補正ありの指令を出力する。走行モータ目標供給流量補正部40Aは、第1の実施形態と同様、補正ありの指令に従い、左走行モータ9Aへの目標供給流量の補正値QLAvl及び右走行モータ9Bへの目標供給流量の補正値QRAvlを演算する。
【0068】
判定部39Aは、比率(WTrv/WTgt)が所定値以下であると判定した場合に、走行モータ目標供給流量補正部40Aに一次・二次補正ありの指令を出力する。
【0069】
走行モータ目標供給流量補正部40Aは、一次・二次補正ありの指令に従い、まず、左走行モータ9Aへの目標供給流量と右走行モータ9Bへの目標供給流量との差分|QLTgt−QRTgt|を演算し、図9で示す演算テーブルを用いて一次補正量QAdjを演算する。すなわち、差分|QLTgt−QRTgt|が増加するのにしたがって一次補正量QAdjを増加するよう演算する。そして、下記の式(12)で示すように、左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgtと右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtのうちの小さいほうから一次補正量QAdjを減算する(但し、ゼロ未満となる場合はゼロに繰り上げる)とともに、左走行モータ9Aへの目標供給流量QLTgtと右走行モータ9Bへの目標供給流量QRTgtのうちの大きいほうに一次補正量QAdjを加算して、左走行モータ9Aへの目標供給流量の一次補正値QLTgt’と右走行モータ9Bへの目標供給流量の一次補正値QRTgt’を演算する。
【0070】
【数12】
【0071】

そして、下記の式(13)で示すように、左走行モータ9Aへの目標供給流量の一次補正値QLTgt’と右走行モータ9Bへの目標供給流量の一次補正値QRTgt’に対応するように全走行モータ目標供給動力の補正値WTgt’を演算する。そして、下記の式(14)で示すように、全走行モータ目標供給動力の補正値に対する全走行モータ供給可能動力の比率(WTrv/WTgt’)を左走行モータ9Aへの目標供給流量の一次補正値QLTgt’に乗算して、左走行モータ9Aへの目標供給流量の二次補正値QLAvl’を演算する。同様に、下記の式(15)で示すように、全走行モータ目標供給動力の補正値に対する全走行モータ供給可能動力の比率(WTrv/WTgt’)を右走行モータ9Bへの目標供給流量の一次補正値QRTgt’に乗算して、右走行モータ9Bへの目標供給流量の二次補正値QRAvl’を演算する。
【0072】
【数13】
【0073】
【数14】
【0074】
【数15】
【0075】
なお、全走行モータ目標供給動力の補正値WTgt’を演算しなくとも、左走行モータ9Aへの目標供給流量の一次補正値QLTgt’、右走行モータ9Bへの目標供給流量の一次補正値QRTgt’、油圧ポンプ20Aの吐出圧P、油圧ポンプ20Bの吐出圧P、及び全走行モータ供給可能動力WTrvにより、左走行モータ9Aへの目標供給流量の二次補正値QLAvl’及び右走行モータ9Bへの目標供給流量の二次補正値QRAvl’を演算してもよい。
【0076】
このように一次・二次補正が行われた場合、ポンプ目標吐出流量演算部34は、下記の式(16)で示すように、走行モータ目標流量補正部40で演算された左走行モータ9Aへの目標供給流量の二次補正値QLAvl’とブリードオフ流量演算部33で演算された左走行用流量制御弁22Aのブリードオフ流量QBoLを加算して、油圧ポンプ20Aの目標吐出流量Q1Tgtを演算する。同様に、下記の式(17)で示すように、走行モータ目標流量補正部40で演算された右走行モータ9Bへの目標供給流量の二次補正値QRAvl’とブリードオフ流量演算部33で演算された右走行用流量制御弁22Bのブリードオフ流量QBoRを加算して、油圧ポンプ20Bの目標吐出流量Q2Tgtを演算する。
【0077】
【数16】
【0078】
【数17】
【0079】
以上のように構成された本実施形態においても、第1の実施形態と同様、走行モータの負荷の影響を受けずに走行軌跡を安定させることができる。
【0080】
また、第1の実施形態では、全走行モータ目標供給動力に対する全走行モータ供給可能動力の比率(WTrv/WTgt)が所定値以下である場合、左走行用操作装置18Aの操作量と右走行用操作装置18Bの操作量との差分に対し、左走行モータ9Aへの目標供給流量の補正値QLAvlと右走行モータ9Bへの目標供給流量の補正値QRAvlとの差分(ひいては、左走行モータ9Aの回転速度と右走行モータ9Bの回転速度との差分)が小さくなる。そのため、操作性が悪化する。一方、本実施形態では、左走行モータ9Aへの目標供給流量と右走行モータ9Bへの目標供給流量との差分が大きくなるように一次補正するので、操作性の悪化を防ぐことができる。
【0081】
なお、第1及び第2の実施形態においては、走行用操作装置18A,18Bの操作時を想定してコントローラ27又は27Aの処理機能を説明したが、走行用操作装置18A,18Bと他の操作装置の複合操作時にも適用可能である。すなわち、コントローラ27又は27Aの全走行モータ供給可能動力演算部38は、複合操作時に、ポンプ出力上限値WLimから全ブリードオフ損失LBoだけでなく他の油圧アクチュエータの動力を減算することで、全走行モータ供給可能動力WTrvを演算すればよい。
【0082】
また、第1及び第2の実施形態においては、コントローラ27又は27Aは、全ブリードオフ損失LBoを演算するブリードオフ損失演算部37と、全ポンプ出力上限値WLimから全ブリードオフ損失LBoを減算することで全走行モータ供給可能動力WTrvを演算する全走行モータ供給可能動力演算部38とを有する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、コントローラは、ブリードオフ損失演算部37と全走行モータ供給可能動力演算部38を有せず、全走行モータ供給可能動力を設定値としてもよい。
【0083】
また、第1及び第2の実施形態においては、例えばエンジン19の出力が比較的小さい等の理由から、全走行モータ目標供給動力WTgtがその上限値である全走行モータ供給可能動力WTrvを上回る場合を想定する必要がある。そのため、コントローラ27又は27Aは、全走行モータ目標供給動力演算部36、ブリードオフ損失演算部37、全走行モータ供給可能動力演算部38、判定部39、及び走行モータ目標供給流量補正部40を有する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、例えばエンジン19の出力が比較的大きい等の理由から、全走行モータ目標供給動力WTgtがその上限値である全走行モータ供給可能動力WTrvを上回ることがなければ、コントローラは、全走行モータ目標供給動力演算部36、ブリードオフ損失演算部37、全走行モータ供給可能動力演算部38、判定部39、及び走行モータ目標供給流量補正部40を有しなくてよい。
【0084】
また、第1及び第2の実施形態においては、操作量検出器として、走行用操作装置18A,18Bのパイロット弁から出力されたパイロット圧を検出するパイロット圧センサ28A〜28Dを設けた場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、例えば、操作レバー装置18A,18Bの操作レバーの操作量を検出するストロークセンサを設けてもよい。
【0085】
なお、以上においては、本発明の適用対象として、油圧ショベルを例にとって説明したが、これに限られず、ホイールローダ等の他の建設機械に適用してもよい。
【符号の説明】
【0086】
9A 左走行モータ
9B 右走行モータ
18A 左走行用操作装置
18B 右走行用操作装置
19 エンジン(原動機)
20A,20B 油圧ポンプ
22A 左走行用流量制御弁
22B 右走行用流量制御弁
27,27A コントローラ(制御装置)
28A〜28D パイロット圧センサ(操作量検出器)
29A,29B 容量制御アクチュエータ
30A,30B 吐出圧センサ(吐出圧検出器)
32 走行モータ目標供給流量演算部
33 ブリードオフ流量演算部
34 ポンプ目標吐出流量演算部
35 ポンプ容量制御部
36 全走行モータ目標供給動力演算部
37 ブリードオフ損失演算部
38 全走行モータ供給可能動力演算部
39,39A 判定部
40,40A 走行モータ目標供給流量補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9