特許第6549304号(P6549304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6549304ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体を有効成分として含む血管新生抑制用組成物およびその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549304
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体を有効成分として含む血管新生抑制用組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/24 20190101AFI20190711BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20190711BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20190711BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20190711BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20190711BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20190711BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20190711BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20190711BHJP
【FI】
   A61K33/24
   A61K9/16ZNA
   A61P9/00
   A61P27/02
   A61K33/00
   A61P9/10
   B82Y5/00
   A61K47/42
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-501226(P2018-501226)
(86)(22)【出願日】2016年7月12日
(65)【公表番号】特表2018-528166(P2018-528166A)
(43)【公表日】2018年9月27日
(86)【国際出願番号】KR2016007570
(87)【国際公開番号】WO2017010790
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2018年3月6日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0099308
(32)【優先日】2015年7月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】512328201
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ スタンダーズ アンド サイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、チョン フン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、トン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、テ コル
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−504757(JP,A)
【文献】 特表2005−538033(JP,A)
【文献】 特表2005−530712(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0044753(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/197892(WO,A1)
【文献】 特表平09−503488(JP,A)
【文献】 特表2005−514429(JP,A)
【文献】 特表2010−526031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K47/00−47/69
A61K9/00−9/72
A61P1/00−43/00
B82Y5/00
G01N33/15
G01N33/50
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を有効成分として含み、前記硝子体基盤タンパク質は、ビトリン(Vitrin)、分泌されたフリッツルド関連タンパク質2(Secreted Frizzled Related Protein 2)、血清アルブミン、レチノール結合タンパク質3(retinol−binding protein 3)、およびα−クリスタリンA鎖(alpha−crystallin A chain)からなる群より選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、血管新生抑制用薬学的組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子は、金またはシリカであることを特徴とする、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子は、20〜100nmの直径を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記血管新生は、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫(DME、Diabetic Macular Edema)、糖尿病網膜症(diabetic retinopathy)、中心性漿液性脈絡網膜症(Central serous(chorio)retinopathy)、加齢黄斑変性(Age−related macular degeneration)または増殖網膜症に伴うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の血管新生抑制用薬学的組成物含み、網膜疾患の予防または治療用である、薬学的組成物。
【請求項6】
前記網膜疾患は、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫(DME、Diabetic Macular Edema)、糖尿病網膜症(diabetic retinopathy)、中心性漿液性脈絡網膜症(Central serous(chorio)retinopathy)、加齢黄斑変性(Age−related macular degeneration)、および増殖網膜症よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
個体の硝子体内注入用である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体に関し、より具体的には、前記複合体を有効成分として含む血管新生抑制用組成物、血管新生関連疾患または網膜疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生(angiogenesis)は、組織や臓器に新規の血管を提供する生物学的過程であって、具体的には、既存の微細血管から新しい毛細血管が生成されることを意味し、成長後に体内で血管が生成される根本的な過程である。新生血管が生成される過程は、非常に複雑で且つ精巧であるが、要約すると、次の通りである。第一に、血管新生のための刺激が既存の血管に伝達されると、血管が膨大となり、膜透過度が増加する。第二に、膨大した血管を介してフィブリンが血管の外に抜け出して血管周囲の細胞質基質に沈積される。第三に、既存の血管の基底膜を分解するための酵素が活性化し、基底膜が破壊されて、それらの間に内皮細胞が血管を抜け出して周囲細胞の基質で増殖し移動する。最後に、一列に配列した内皮細胞が脈管を形成することにより、新しい血管を生成する。
【0003】
血管が新生される過程は、多様な陰性および陽性調節因子により厳格に調節されているが、このような血管新生が正常に調節されないと、癌、関節リウマチ、糖尿病性網膜症等の様々な疾患が引き起こされる。特に、このような病的な血管新生(pathological angiogenesis)が網膜で発生する場合、これは、網膜浮腫、網膜または硝子体の出血、そして網膜の剥離を起こすようになる。また、網膜においての血管新生は、未熟児網膜症、糖尿病網膜症および加齢黄斑変性の主な原因となる。
【0004】
なお、ナノ粒子(NPs)は、産業的にそして生体医学的目的で広範囲に使用されて来ている。特に、薬物伝達、遺伝子伝達、細胞内映像、光線治療のような生体医学分野において有望{ゆうぼう}なツールとして使用されて来ており、特に金やシリカナノ素材は、合成と作用の容易性、化学的安定性、生体適合性、および調整可能な光学的および電気的特性によって多くの関心を集めている。
【0005】
最近、金または銀ナノ粒子が血管内皮細胞成長因子(VEGF、vascular endothelial growth factor)により誘導される血管新生を阻害することが知られており、これを利用した血管新生抑制剤を開発しようとする研究が試みられている。しかし、ナノ粒子を治療に利用するためには、ナノ粒子の毒性に関する慎重{しんちょう}な評価と毒性を最小にする努力が要請される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、本発明者らは、器官特異的に網膜および脈絡膜血管新生の抑制に良好な効果を有し、且つ低い毒性を示すナノ粒子治療剤を開発するために研究努力した結果、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体が血管内皮細胞成長因子と顕著に優れた結合力を示すことを確認し、これに基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
これにより、本発明の目的は、ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を有効成分として含む血管新生抑制用薬学的組成物を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を有効成分として含む網膜疾患の予防または治療用組成物を提供することにある。
【0009】
しかし、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に限定されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を有効成分として含む血管新生抑制用薬学的組成物を提供する。
【0011】
本発明の一具現例において、前記ナノ粒子は、金またはシリカであってもよい。
【0012】
本発明の他の具現例において、前記ナノ粒子は、20〜100nmの直径を有し得る。
【0013】
本発明のさらに他の具現例において、前記血管新生は、未熟児網膜症、増殖網膜症、加齢黄斑変性(age−related macular degeneration)、糖尿病黄斑浮腫(DME、Diabetic Macular Edema)、糖尿病網膜症(diabetic retinopathy)または中心性漿液性脈絡網膜症(Central serous(chorio)retinopathy)に伴うものでありうる。
【0014】
本発明のさらに他の具現例において、前記硝子体基盤タンパク質は、ビトリン(vitrin)、分泌されたフリッツルド関連タンパク質2(Secreted Frizzled Related Protein 2)、血清アルブミン(serum albumin)、レチノール結合タンパク質3(retinol−binding protein 3)、およびα−クリスタリンA鎖(alpha−crystallin A chain)よりなる群から一つ以上選択され得る。
【0015】
本発明は、前記組成物を有効成分として含む網膜疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0016】
本発明の一具現例において、前記網膜疾患は、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、加齢黄斑変性、および増殖網膜症よりなる群から選択され得る。
【0017】
本発明は、下記段階を含む網膜疾患の治療に適したタンパク質スクリーニング方法を提供する:
(1)in vitroで硝子体にナノ粒子を注入する段階;
(2)前記ナノ粒子と前記硝子体内のタンパク質との複合体を分離する段階;
(3)前記複合体と血管内皮細胞成長因子(VEGF)を結合させる段階;および
(4)前記血管内皮細胞成長因子と結合する複合体を選別する段階。
【0018】
本発明は、前記薬学的組成物の薬剤学的有効量を個体に投与する段階を含む血管新生抑制方法を提供する。
【0019】
本発明は、前記薬学的組成物の薬剤学的有効量を個体に投与する段階を含む網膜疾患の予防または治療方法を提供する。
【0020】
本発明は、前記薬学的組成物の血管新生抑制用途を提供する。
【0021】
本発明は、前記薬学的組成物の網膜疾患の予防または治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によるナノ粒子−硝子体基盤タンパク質の複合体は、硝子体腔内に局所注射時、血管内皮細胞成長因子と顕著に優れた結合力を示して、血管新生を抑制できるので、網膜および脈絡膜血管新生関連疾患の予防、改善または治療のための治療剤などの製造に容易に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、20または100nmの直径を有する金およびシリカナノ粒子のTEMイメージを示したものである。
図2図2は、20nmの直径を有する金ナノ粒子(Au20)とコロナを形成した上位20個の硝子体基盤タンパク質を示したものである。
図3図3は、20nmの直径を有するシリカナノ粒子(Si20)とコロナを形成した上位20個の硝子体基盤タンパク質を示したものである。
図4図4は、100nmの直径を有する金ナノ粒子(Au100)とコロナを形成した上位20個の硝子体基盤タンパク質を示したものである。
図5図5は、100nmの直径を有するシリカナノ粒子(Si100)とコロナを形成した上位20個の硝子体基盤タンパク質を示したものである。
図6図6は、図2図5の結果を総合してナノ粒子とコロナを形成した上位20個の硝子体基盤タンパク質を示したものである。
図7a-b】図7は、水で血管内皮細胞成長因子に対するナノ粒子とナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体間の結合力を比較するための実験の概略的な過程を示したものである。
図8a-b】図8は、硝子体内で血管内皮細胞成長因子に対するナノ粒子とナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体間の結合力を比較するための実験の概略的な過程を示したものである。
図9図9は、水および硝子体内で血管内皮細胞成長因子に対するナノ粒子とナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体間の結合力を比較した結果を示したものである。
図10a-b】図10は、In vitroでナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の生体内血管新生抑制効果を確認したのである。
図11a-b】図11は、In vivoでナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の血管新生抑制効果を確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、網膜および脈絡膜血管新生を調節できる方法について研究努力した結果、硝子体腔内注射を介したナノ粒子の局所注射時に、硝子体基盤タンパク質と複合体(corona)を形成し、このようなナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体が血管内皮細胞成長因子と顕著に優れた結合力を示すことを確認し、これに基づいて本発明を完成するに至った。
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明は、ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を有効成分として含む血管新生抑制用薬学的組成物を提供する。
【0027】
本発明において「血管新生」は、血管が新しく形成される過程、すなわち新しい血管が細胞、組織または器官内に発生することを指すものであり、「新生血管」は、血管新生過程を通じて新しく生成された血管を意味する。本発明において「血管新生」と「新生血管」は、相互互換的に記載することができる。
【0028】
また、本発明において、前記血管新生は、未熟児網膜症、増殖網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症または慢性炎症(chronic inflammation)に伴うものであってもよいが、これに限定されるものではなく、血管新生が、病気を誘発したり進行させる任意の疾患に伴うものであってもよい。
【0029】
本発明において「ナノ粒子(nanoparticle)」とは、ナノ単位の直径を有する多様な物質の粒子を意味し、前記ナノ粒子は、ナノサイズを有する粒子であれば、特に限定されるものではないが、直径が100nm以上と大きくなる場合、ナノ粒子としての特性が消滅され得るところ、20〜100nmの直径を有することが好ましい。また、ナノ粒子の種類としては、金ナノ粒子またはシリカナノ粒子が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本発明において「硝子体基盤タンパク質」とは、ナノ粒子と結合して複合体を形成できる硝子体内のタンパク質を意味し、前記硝子体基盤タンパク質の種類には、これらに限定されるものではないが、ビトリン(Vitrin)、分泌されたフリッツルド関連タンパク質2(sFRP2、Secreted Frizzled Related Protein 2)、血清アルブミン(Serum albumin)、レチノール結合タンパク質3(Retinol−binding protein 3)、α−クリスタリンA鎖(alpha−crystallin A chain)、β−クリスタリンS(Beta−crystallin S)、 β−クリスタリンB2(Beta−crystallin B2)、潜在型TGFβ結合タンパク質2(Latent−transforming growth factor beta−binding protein 2)、補体C4−A(Complement C4−A)、α−エノラーゼ(Alpha−enolase)、β−クリスタリンB1(Beta−crystallin B1)、スポンジン−1(Spondin−1)、カルシンテニン−1(Calsyntenin−1)、ゲルゾリン(Gelsolin)、レチナールデヒドロゲナーゼ1(Retinal dehydrogenase 1)、β−クリスタリンA2(Beta−crystallinA2)、II型コラーゲンのα−1鎖(Collagen alpha−1(II)chain)、アクチン(Actin)、細胞質1(cytoplasmic 1)、 EGF含有フィビュリン様細胞外マトリックスタンパク質1(EGF−containing fibulin−like extracellular matrix protein 1)、オプチシン(Opticin)等があり、好ましくは、ビトリン、sFRP2)、血清アルブミン、レチノール結合タンパク質3、およびα−クリスタリンA鎖よりなる群から選択される一つ以上のタンパク質を含むことができる。なお、前記ビトリン、sFRP2)、血清アルブミン、レチノール結合タンパク質3およびα−クリスタリンA鎖は、それぞれ配列番号1〜配列番号5のアミノ酸配列からなり得るが、これらに限定されず、前記アミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0031】
本発明による組成物に有効成分として含まれるナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体は、血管内皮細胞成長因子との結合力に優れていて、血管新生を効果的に抑制することができる。
【0032】
本発明の一実施例によれば、ナノ粒子と結合する上位5個の硝子体基盤タンパク質を確認し(実施例1参照)、前記5個のタンパク質とナノ粒子をインキュベートして、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体を形成した後(実施例2参照)、その血管新生抑制効果を確認した結果、ナノ粒子と比較する時、水では、血管内皮細胞成長因子との結合力が大きな差異がないが、硝子体内では、ナノ粒子単独処理群に比べて顕著に優れた血管内皮細胞成長因子との結合力を示すことを確認した(実施例3参照)。
【0033】
本発明の他の実施例では、in vitroまたはin vivoでナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の血管新生抑制効果を確認した結果、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体がin vitroまたはin vivoの両方で優れた血管新生抑制効果を示すことを確認した(実施例4参照)。
【0034】
このような実験結果から、本発明によるナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体は、血管新生を抑制することにより血管新生関連疾患、特に網膜および脈絡膜血管新生関連疾患の予防、改善または治療に有用に利用できることが分かる。
【0035】
これにより、本発明の他の様態において、本発明は、ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を有効成分として含む血管新生関連疾患予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0036】
また、本発明のさらに他の様態において、本発明は、ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を有効成分として含む網膜疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0037】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により血管新生関連疾患または網膜疾患を抑制させたり、発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0038】
本発明において使用される用語「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により血管新生関連疾患または網膜疾患による症状が好転したり、有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0039】
本発明において「血管新生関連疾患」は、上記したような新生血管の形成が非正常的に進行されて引き起こされる疾患を意味し、未熟児網膜症、増殖網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症等であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明において「網膜疾患」は、網膜に病変が発生する疾患であって、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、糖尿病網膜症、中心性漿液性脈絡網膜症、加齢黄斑変性、および増殖網膜症等であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
本発明による薬学的組成物は、薬剤学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬剤学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/危険の比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時に使用される薬物を含む要素およびその他医学分野によく知られている要素に応じて決定され得る。本発明による薬学的組成物は、個別治療剤で投与したり、他の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与してもよく、単一または多重投与してもよい。上記した要素をすべて考慮して副作用なしに最小の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定され得る。
【0042】
本発明による薬学的組成物は、臨床投与時に多様な経口または非経口投与の形態で製剤化されて投与してもよいが、好ましくは、硝子体腔内注射方式で適用され得、硝子体腔内注射に適した薬剤学的剤形で製造され得る。
【0043】
本発明のさらに他の様態において、本発明は、ナノ粒子と前記ナノ粒子の表面を取り囲む硝子体基盤タンパク質からなる複合体を個体に投与する段階を含む血管新生関連疾患または網膜疾患の治療方法を提供する。
【0044】
本発明において「個体」とは、病気の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマおよびウシ等の哺乳類を意味する。
【0045】
本発明のさらに他の様態において、本発明は、下記段階を含む網膜疾患の治療に適したタンパク質スクリーニング方法を提供する:
(1)in vitroで硝子体にナノ粒子を注入する段階;
(2)前記ナノ粒子と前記硝子体内のタンパク質との複合体を分離する段階;
(3)前記複合体と血管内皮細胞成長因子(VEGF)を結合させる段階;および
(4)前記血管内皮細胞成長因子と結合する複合体を選別する段階。
【0046】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例により本発明の内容が限定されるわけではない。
【実施例】
【0047】
実施例1.ナノ粒子に結合する硝子体基盤タンパク質の確認
1−1.ナノ粒子の準備
硝子体タンパク質との結合のためのナノ粒子は、それぞれ20および100nmの直径を有する金およびシリカナノ粒子を準備した。前記ナノ粒子の具体的な情報およびTEMイメージをそれぞれ表1および図1に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
1−2.ナノ粒子と硝子体タンパク質の結合
前記実施例1−1にて準備した直径20nmの金(Au20)とシリカ(Si20)ナノ粒子および直径100nmの金(Au100)とシリカ(Si100)ナノ粒子(1×1011個)それぞれを170μgのタンパク質を保有した硝子体(vitreous)と微小遠心管(microcentrifuge tube)中で4℃の条件で20rpmの回転を加えて6時間インキュベートした。その後、15,000rpmの条件で20分間遠心分離して沈殿物を獲得し、その後、蒸留水で2回洗浄して、非特異的に結合したタンパク質を除去した。この際、沈殿物は、ガラスナノ粒子およびタンパク質が結合したナノ粒子を含む。これを30μLのLaemmliバッファーに浮遊させ、100℃で3分間加熱して、ナノ粒子とタンパク質の分離を誘導した。その後、15,000rpmの条件で1分間遠心分離して上清液を使用してタンパク質を分析して、各ナノ粒子とコロナを形成した上位20個の硝子体基盤タンパク質を確認し、その結果を図2図5に示した。さらに、前記結果を全部総合して、上位20個の硝子体基盤タンパク質を確認し、その結果を図6に示した。
【0050】
図6に示したように、ナノ粒子とコロナを形成する上位5個の硝子体基盤タンパク質は、順にビトリン、sFRP2(Secreted Frizzled Related Protein 2)、血清アルブミン、レチノール結合タンパク質3、α−クリスタリンA鎖であることが確認でき、各相対的量は、11.25、6.80、5.44、4.85、4.23%であった。
【0051】
実施例2.ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の形成
前記実施例1−2により確認された上位5個の硝子体基盤タンパク質がそれぞれ50ng、25ng、25ng、25ngおよび25ngからなる合計150ngのタンパク質(SALVAR complex)を準備し、1×10個のナノ粒子と4℃で20rpmの回転を加えて1時間インキュベートして、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体を形成した。
【0052】
実施例3.ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の血管新生抑制効果の確認
金およびシリカナノ粒子の場合、水または細胞培養液で血管内皮細胞成長因子と結合する現象が知られているところ、このようなナノ粒子と比較する時、本発明によるナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体が水または細胞培養液で血管内皮細胞成長因子と効果的に結合するか否かを確認するために、下記のように実験を行った。
【0053】
3−1.水で血管内皮成長因子との結合力比較
水でナノ粒子に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合と、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合とを比較し、当該実験に対する概略的な過程を図7に示した。
【0054】
すなわち、ナノ粒子またはナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体を血管内皮細胞成長因子と4℃で20rpmの回転を加えて6時間インキュベートした。インキュベート後、15,000rpmの条件で20分間遠心分離してナノ粒子またはナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体と結合した血管内皮細胞成長因子を沈殿させて、遊離した血管内皮細胞成長因子を上清液で酵素結合免疫吸着検定法(enzyme−linked immunosorbent assay)を通じて測定して、血管内皮細胞成長因子の結合力を確認した。
【0055】
その結果、図9に示したように、水でナノ粒子に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合(「Bare」グループ)と、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合(「SALVAR」グループ)とにおいて血管内皮細胞成長因子との結合力は大きな差異がないことが確認することができた。
【0056】
3−2.硝子体内で血管内皮成長因子との結合力の比較
硝子体内でナノ粒子に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合と、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合とを比較し、当該実験に対する概略的な過程を図8に示した。
【0057】
水の代わりに硝子体を使用したという点を除いて、前記実施例3−1と同じ方法を行った。
【0058】
その結果、図9に示したように、硝子体内でナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合(「SALVAR+Vitreous」グループ)が、ナノ粒子に血管内皮細胞成長因子を結合させる場合(「Vitreous」グループ)に比べて顕著に優れた血管内皮細胞成長因子との結合力を示すことが確認することができた。
【0059】
前記結果から、本発明によるナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体が生体内で優れた治療効果を示すことができることが分かった。
【0060】
実施例4.In vitroでナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の生体内血管新生抑制効果の確認
20ng/mLの血管内皮細胞成長因子を血管内皮細胞に処理する時、血管新生過程を代表する血管内皮細胞の増殖や管形成を促進することが知られている。ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の投与が血管内皮細胞成長因子によるin vitro血管新生過程を抑制することを確認するために、血管内皮細胞の増殖(proliferation)および管形成(tube formation)の試験を行った。血管内皮細胞の増殖の試験は、0.3%ゼラチンがコートされたプレートの各ウェルに2,000個の血管内皮細胞を1日間培養し、その後、血管内皮細胞成長因子、ナノ粒子、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体、および ベバシズマブ(bevacizumab)を条件によって処理した後、48時間血管内皮細胞の増殖程度を比較する方式で進めた。血管内皮細胞の増殖程度は、トリパンブルー染色後、直接細胞の数を測定する方式と、 水溶性テトラゾリウム塩WST−1の処理後、450nmの吸光度を測定する方式で推定した。管形成の試験は、マトリゲルがコートされたプレートの各ウェルに100,000個の血管内皮細胞と血管内皮細胞成長因子、ナノ粒子、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体、およびベバシズマブを条件によって処理した後、12時間後、血管内皮細胞の管形成の程度を比較する方式で進めた。50倍拡大した画面で形成された管(tube)の数字を確認して、定量的な比較を行った。
【0061】
その結果、図10に示したように、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体(「SALVAR mixture」)を投与した場合、in vitro血管内皮細胞の増殖および管形成の試験においてベバシズマブに準ずる優れた血管新生抑制効果を示すことが確認することができた。
【0062】
実施例5.In vivoでナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体の血管新生抑制効果の確認
マウスでレーザー誘導脈絡膜新生血管モデルを作製し、ナノ粒子またはナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体を硝子体腔内注射して効果を確認した。マウスの網膜に400 mWの強さで50ms持続時間のダイオードレーザーを照射すると、網膜層と脈絡膜層との間のブルッフ膜の破壊が起こるが、レーザーの照射後、ナノ粒子(10個/mL、1μL)、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体(10個/mL、1μL)、抗血管内皮細胞成長因子抗体(1μg)を硝子体腔内に注射し、レーザーの照射後に7日目に、脈絡膜新生血管の形成程度を免疫蛍光染色を利用して確認した。
【0063】
その結果、図11に示したように、ナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体(「Au20+SALVAR mixture」)を投与した場合、生体内でも抗血管内皮細胞成長因子抗体に準ずる優れた血管新生抑制効果を示すことが確認することができた。
【0064】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で容易に変形可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての点において例示的なものであり、限定的でないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によるナノ粒子−硝子体基盤タンパク質複合体は、硝子体腔内に局所注射時に、血管内皮細胞成長因子と顕著に優れた結合力を示して、血管新生を抑制できるので、網膜および脈絡膜血管新生関連疾患に関連した製薬産業分野において利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a-b】
図8a-b】
図9
図10a-b】
図11a-b】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]