【実施例1】
【0027】
先ず、
図9および
図10を用いて、従来の自動車シートなどの車両用シートにおいて、シート表面に施された装飾(加飾)について説明する。
図9は、車両用シートの背もたれ部であるシートバック3の上部側の拡大図である。また、
図10は、
図9におけるE−E’部の断面図である。
【0028】
従来の車両用シートは、窪みによる加飾を行う場合、
図9に示すように、直線的な窪みによる直線加飾部8が形成される。この直線加飾部8は、シートバック3に限らず、必要に応じて、シートの座面部であるシートクッション(図示せず)などのシートの各部においても、同様に施される。
【0029】
シートバックやシートクッションに施される直線加飾部8は、
図10に示すように、シートの表皮材32を吊り込み部材31によりシートの内側に吊り込み(引っ張り込み)、シートの内部、例えば、ウレタンパッド33の内部に設けられた支持部材30に吊り込み部材31を固定することで直線加飾を形成している。支持部材30には、金属製のワイヤなどが用いられている。吊り込み部材31をワイヤなどの支持部材30に固定する際は、C−リング34のような固定部材が用いられる。
【0030】
上記のように、従来の車両用シートの加飾部は、吊り込み部材を用いてシートの表皮材をシート内部に吊り込み、シート内部に設けられた1本のワイヤすなわち支持部材に固定することにより形成されており、
図9に示すように、直線的な窪みしか形成することができない。
【0031】
図1乃至
図3を用いて、本実施例における車両用シートのシート表面に施された装飾(加飾)について説明する。
図1は、本実施例の車両用シートの全体概要を示している。
図2は、
図1におけるA部の拡大図である。また、
図3は、
図2におけるB−B’部の断面図である。
【0032】
図1に示すように、本実施例の車両用シート1は、その主な部位として、シートの座面部となるシートクッション2、シートクッション2の背側に設けられ、シートの背もたれ部となるシートバック3、乗員の頭部および頸部を保護するヘッドレスト4や乗員の肘掛けとなるアームレスト5などを有している。シートクッション2の両脇には、必要に応じて、座面部のサイド部分のサポートとなるサイドサポート(図示せず)が設けられている。
【0033】
また、車両用シート1は、シートバック3の角度を調整するリクライニングレバー6や車両に対するシートの前後位置を調整するスライドレバー7などの調整機構を備えている。
【0034】
車両用シート1のシートバック3の表面には、直線加飾部8および平面加飾部9が立体的に設けられている。これらの直線加飾部8や平面加飾部9は、シートデザイナーのデザイン(意匠)に基づき、シート表面に再現されている。
【0035】
直線加飾部8は、従来の手法、すなわち、シート内部に設けられた1本のワイヤに表皮材を吊り込むことにより直線的な窪みとして形成されている。
【0036】
一方、平面加飾部9は、
図2に示すように、窪み(凹部)の底部に平面を有するように形成されている。
【0037】
ここで、平面加飾部9は、
図3に示すように、シートの表皮材12を吊り込み部材15,16によりシートの内側に吊り込み(引っ張り込み)、シートの内部、例えば、ウレタンパッド10の内部に設けられた2本の支持部材13,14に吊り込み部材15,16を各々固定することで平面加飾を形成している。
【0038】
支持部材13,14には、金属製のワイヤなどが用いられている。また、吊り込み部材15,16には、金属製や樹脂製などの部材が用いられている。
【0039】
吊り込み部材15,16の各々の一端は、例えば、縫製糸のような締結部材17,18により表皮材12に固定されている。なお、
図3に示すように、必要に応じて、ウレタンパッド10と表皮材12の間に中綿となるワディング11を介在させてもよい。
【0040】
一方、吊り込み部材15,16の各々の他端は、支持部材13,14にC−リング等(図示せず)により固定されている。
【0041】
上記で説明したように、本実施例の車両用シートは、シート内部にほぼ平行に設けられた2本のワイヤ13,14へ表皮材12を吊り込むことで、シート表面に底部に平面を有する窪み(凹部)を形成している。
【0042】
なお、シート内部に設けられるワイヤは2本に限定されるものではなく、例えば、平面加飾部9の凹部底部の平面をより広く形成したい場合、支持部材13と14の間を広く設け、さらに、支持部材13,14の間に別の支持部材(ワイヤ)を設け、吊り込み部材15,16とは別に設けた吊り込み部材により表皮材を吊り込むことで、より幅の広い平面加飾を形成することも可能である。
【0043】
次に、
図4乃至
図7を用いて、本実施例の車両用シートの製造方法の一部について説明する。
図5A,
図5Bは、
図4におけるC−C’部の断面図である。
図5Aは平面加飾部9の形成前の状態のC−C’断面を示し、
図5Bは、シート表面に平面加飾部9が形成された後の状態のC−C’断面を示している。
【0044】
図5Aに示すように、平面加飾部9の形成前は、メッシュサスペンダー19とシート内部に設けられたワイヤ13,14は、分離した状態になっている。メッシュサスペンダー19は、メッシュ部20および先端部21により構成されている。
【0045】
先ず、メッシュサスペンダー19のメッシュ部20の先端部21とは反対側の端部をシートの表皮材に固定する。メッシュ部20の表皮材への固定は、
図3に示すように、縫製糸などの締結部材により固定する。また、縫製糸を用いずに、接着剤等により接着することも可能である。
【0046】
次に、
図5Bに示すように、メッシュサスペンダー19の先端部21をワイヤ13や14に密着させ、C−リング22により先端部21とワイヤ13,14を束ねるように固定する。この際、メッシュサスペンダー19の一端、すなわち、先端部21とは反対側の端部がシートの表皮材に固定されているため、メッシュサスペンダー19と固定された部分の表皮材がシートの内側に吊り込まれる(引っ張り込まれる)。
【0047】
上記の作業を、シートの内部にほぼ平行に設けられたワイヤ13,14の各々に対して行うことにより、
図4に示すような、底部に平面を有する窪み(凹部)を形成することができる。
【0048】
メッシュサスペンダー19の先端部21のワイヤ13,14への固定は、例えば、
図6Aに示すフォグリンガー23の先端に、
図6BのC−リング24を装着し、フォグリンガー23でC−リング24をカシメることで、先端部21およびワイヤ13,14を束ねるように固定する。
【0049】
フォグリンガー23は、C−リングにより2つ以上の部材を固定(結束)するためのC−リングのカシメ治具である。
【0050】
ここで、フォグリンガー23を用いて、C−リング24によりメッシュサスペンダー19の先端部21とワイヤ13,14を固定する場合、
図6Cおよび
図6Dに示すような問題が生じる。
【0051】
図6Cに示すように、最初に、吊り込み部材15すなわちメッシュサスペンダーの先端部を上側のワイヤ13にC−リングにより固定した場合、次に下側のワイヤ14にメッシュサスペンダーの先端部をC−リングで固定しようとすると、先に固定したC−リング22に固定前のC−リング24が接触してしまう可能性がある。
【0052】
この場合、固定前のC−リング24を少しずらして固定する必要が生じ、作業性が低下してしまう。また、上下2本のワイヤ13,14への吊り込み部材の固定が若干ずれることにより、平面加飾部9の凹部の形状が崩れてしまうことも懸念される。
【0053】
そこで、本実施例の車両用シートにおいては、吊り込み部材すなわちメッシュサスペンダーの先端部と2本のワイヤとの固定部つまりC−リング固定部を
図7に示すように、上下のワイヤ間で予め一定の間隔ずらして設けることで、作業効率を向上することができる。また、これにより、平面加飾部9の凹部の形状を見映えよく形成することができる。
図7は、C−リング固定部26を上下で互い違いに設ける、千鳥配置とした例である。
【0054】
以上説明したように、本実施例の車両用シートによれば、車両用シートのシート表面に窪み(凹部)の底部に平面を有する加飾を容易に再現性良く形成することができる。
【0055】
また、シート表皮の吊り込み部材とシート内部のワイヤの固定部を予めずらして設けることで、作業ミスを低減し、作業効率を向上することができる。
【0056】
なお、吊り込み部材自体の長さを変える、或いは、吊り込み部材と表皮材および支持部材(ワイヤ)との固定位置を調整することにより、シート表面に形成される窪み(凹部)の深さを調整することも可能である。
【実施例2】
【0057】
図8を用いて、実施例2の車両用シートについて説明する。
図8は、平面加飾部9が形成される部分のシート表皮材の断面を示している。
【0058】
実施例2の車両用シートは、少なくとも平面加飾部9が形成されるシートの表皮材に
図8に示す三層構造の表皮材を用いている。
図8では、下から順に、下層27、中間層28、上層29となっている。この三層構造は、例えば、布系ジャージ素材、ウレタン素材、布系トリコット素材の組み合わせの表皮材を用いる。
【0059】
平面加飾部9が形成される表皮材に、上記のような三層構造の表皮材を用いることで、表皮材の剛性を向上させ、平面加飾部9を形成した際の窪み(凹部)の底部に形成される平面の平面感を向上することができる。
【0060】
また、表皮材の剛性を高めることで、シート表皮に形成される窪み形状(凹形状)を長期に渡り維持することができ、シートに形成される平面加飾の耐久性を向上することができる。
【0061】
なお、平面加飾部をより再現性良く、かつ、凹部形状をより長期に渡り維持するためには、上記の三層構造を、下層から順に、布系トリコット素材、ウレタン素材、布系ジャージ素材の順番とするのがより好適である。
【0062】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。