特許第6549382号(P6549382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6549382車両用シートおよび車両用シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549382
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】車両用シートおよび車両用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20190711BHJP
   A47C 31/02 20060101ALI20190711BHJP
   B68G 7/052 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   B60N2/58
   A47C31/02 H
   A47C31/02 J
   B68G7/052 A
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-23157(P2015-23157)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-144998(P2016-144998A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2017年9月21日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】秋元 紀人
(72)【発明者】
【氏名】羽田 奨
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 紘之
【審査官】 森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−062081(JP,A)
【文献】 特開2011−078452(JP,A)
【文献】 特開2014−133018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 − 2/90
A47C 31/00 − 31/12
B68G 7/00 − 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートの座面部となるシートクッションと、
前記シートクッションの背側に設けられ、シートの背もたれ部となるシートバックと、を有する車両用シートであって、
前記シートクッションおよび前記シートバックのうち、少なくとも一方の表面において、底部に平面を有する凹部が設けられ、
前記凹部は、前記シートクッション或いは前記シートバックの内部に略平行に設けられた少なくとも2本以上の支持部材にシート表皮を吊り込むことで底部に平面が形成されており、かつ、吊り込み部材の一方を前記シート表皮に固定し、前記吊り込み部材の他方を前記支持部材に固定することで底部に平面が形成されており、
前記シートクッション或いは前記シートバックを乗員の着座面側から平面視した際、前記吊り込み部材と前記支持部材の固定部が千鳥配置になっていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記凹部は、前記吊り込み部材の長さ、或いは、前記吊り込み部材と前記シート表皮および前記支持部材との固定位置を変えることにより、前記凹部の深さを調整することを特徴とする請求項に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記シート表皮は、少なくとも前記凹部が形成される部分が3層構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記3層構造は、布系ジャージ素材、ウレタン素材、布系トリコット素材の組み合わせであることを特徴とする請求項に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記支持部材は、金属製のワイヤであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の車両用シート。
【請求項6】
前記吊り込み部材は、金属製部材或いは樹脂製部材であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の車両用シート。
【請求項7】
(a)シートクッションおよびシートバックのうち、少なくとも一方の表皮材の裏面側に複数の吊り込み部材を設ける工程と、
(b)前記シートクッション或いは前記シートバックの内部に略平行に設けられた複数の支持部材に前記吊り込み部材を固定し、前記表皮材の表面側に底部に平面を有する凹部を形成する工程と、を含む車両用シートの製造方法であって、
前記シートクッション或いは前記シートバックを乗員の着座面側から平面視した際、前記吊り込み部材と前記支持部材の固定部が千鳥配置になるよう、前記複数の支持部材に前記吊り込み部材を固定することを特徴とする車両用シートの製造方法。
【請求項8】
前記吊り込み部材の長さ、或いは、前記吊り込み部材と前記表皮材および前記支持部材との固定位置を変えることにより、前記凹部の深さを調整することを特徴とする請求項に記載の車両用シートの製造方法。
【請求項9】
前記表皮材は、少なくとも前記凹部が形成される部分が3層構造であることを特徴とする請求項7または8に記載の車両用シートの製造方法。
【請求項10】
前記3層構造は、布系ジャージ素材、ウレタン素材、布系トリコット素材の組み合わせであることを特徴とする請求項に記載の車両用シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車シートなどの車両用シートは安全性やホールド性、乗降性(乗り降りのしやすさ)など様々な機能が求められると同時に、座り心地や振動吸収性能といった乗員の快適性向上に対する要求も多い。また、自動車の内装部品のなかでも大きなパーツであり、その外観やデザインについても様々な要求がある。
【0003】
多様化する自動車シートのデザインにおいては、バリエーションに富んだ凹凸形状や曲面、曲線をシート表面に形成する必要があり、それを実現するためのシート構造やその製造方法の開発が重要な課題となっている。
【0004】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「クッション体は、パッド材をトリムで被覆した複数の単位クッションと、各単位クッションを支持する支持体とから形成され、パッド材およびトリムの内のいずれか一方または双方には所定個数付設された係止部材を支持体に係止することにより各単位クッションが支持体に取り付けられるようにしている自動車用シートのクッション体」が開示されている。
【0005】
上記自動車用シートのクッション体によれば、作業負荷の軽減および製品品質のバラツキ減少に寄与できるようにするとともに、デザイン面での自由度を大きくすることができるとしている。
【0006】
また、特許文献2には、「クッションパッドの開口で位置を合わせ、且つ、当該開口から露出するインサートワイヤの軸線に掛け止めるフックを有する吊込みコードをシート表皮の内面側に備え、そのフックを含む吊込みコードにより所定の吊込みラインをシート表皮の面内に付形すると共に、シート表皮をクッションパッドと形状的に整合させて組み付けるシート表皮の吊込み構造」が開示されている。
【0007】
上記シート表皮の吊込み構造によれば、シート表皮の面内を確実に吊込み、シート表皮をクッションパッドと正確に形状合わせさせて組み付け、引きつり皺やえくぼ状の窪み等がシート表皮の表装側に生ずるのを防ぐことができるとしている。
【0008】
特許文献3には、「シートパッドの表面を覆う一対のトリムに取付けられる軟質材製の基体部と、該基体部の先端側に設けられ、前記シートパッド側に配設された被係止部材と係止するフック部を有する硬質材製の本体部とを備えた樹脂フックにより、前記一対のトリムを吊り込んで前記被係止部材に係止させて前記シートパッドに固定するシートのトリム吊り込み構造」が開示されている。
【0009】
上記シートのトリム吊り込み構造によれば、樹脂フックのトリムへの取付作業および取外し作業を簡単に行うことができ、かつシート解体作業を容易に行うことができると共に、高い強度でトリムをシートパッドに確実に固定できるとしている。
【0010】
特許文献4には、「車両用シート表面に意匠スリットを形成するために、前記車両用シートを覆う表皮材の一部をパッド部材側に吊込み状に係止する表皮材の吊込み構造であって、前記パッド部材に、開口部を有するレール部材を、前記意匠スリット形成位置と対応した配置で敷設し、前記表皮材裏面に、厚み方向に撓み変形可能な可撓性を備えるプレート体を、前記レール部材と対面状に取付けるとともに、前記開口部と係合可能な複数の係合突起を、前記レール部材と対面する前記プレート体一面に間隔をおいて突設して、前記複数の係合突起を、前記レール部材の開口部に、前記レール部材に沿って相対移動可能に係り合わせる構成とした表皮材の吊込み構造」が開示されている。
【0011】
上記表皮材の吊込み構造によれば、パッド部材の外形形状に対応させて、表皮材を吊込み状に安定して係止することができるとしている。
【0012】
特許文献5には、「意匠性や機能性等を高める付加価値部材を備え、外面を覆う表皮吊り込み用の吊込ワイヤがクッション材であるパッド内に埋設されている車両用シートであって、前記パッドには、前記付加価値部材嵌め込み用の凹部が凹設されており、前記付加価値部材の後面には、フックが設けられており、前記吊込ワイヤは、前記凹部の奥方へ該凹部に沿って埋設されており、前記表皮は、前記凹部を含めて前記パッドの外面全体を覆い、前記表皮の外方から前記付加価値部材を前記凹部内へ嵌め込み、前記フックを前記表皮を介して前記吊込ワイヤへ係止する車両用シート」が開示されている。
【0013】
上記車両用シートによれば、簡素な構成で効率良く且つ容易に表皮の吊り込みと付加価値部材の装着とを行えると共に、シートの意匠性も向上することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−239166号公報
【特許文献2】特開2004−337号公報
【特許文献3】特開2004−8488号公報
【特許文献4】特開2009−148407号公報
【特許文献5】特開2012−20668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記のように、自動車シートなどの車両用シートにおいては、多様化する自動車シートのデザインに対応するため、バリエーションに富んだ凹凸形状や曲面、曲線をシート表面に形成する必要がある。
【0016】
特に、ハイグレードな車種では、シートに高級感を持たせるため、底部に平面を有するような深く細い窪みをシート表面に設ける要求がある。このような三次元的な窪み(凹部)をシート表面に見映え良く形成するのは困難である。
【0017】
上記特許文献1から特許文献5は、いずれも自動車シートの表面に加飾を施す技術に関するものであるが、上記のような底部に平面を有するような深く細い窪み(凹部)をシート表面に形成する技術は示されていない。
【0018】
そこで、本発明の目的は、車両用シートにおいて、底部に平面を有する深く細い窪みをシート表面に設けた車両用シートを提供することにある。
【0019】
また、本発明の別の目的は、底部に平面を有する深く細い窪みをシート表面に再現性良く形成する車両用シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、シートの座面部となるシートクッションと、前記シートクッションの背側に設けられ、シートの背もたれ部となるシートバックと、を有する車両用シートであって、前記シートクッションおよび前記シートバックのうち、少なくとも一方の表面において、底部に平面を有する凹部が設けられ、前記凹部は、前記シートクッション或いは前記シートバックの内部に略平行に設けられた少なくとも2本以上の支持部材にシート表皮を吊り込むことで底部に平面が形成されており、かつ、吊り込み部材の一方を前記シート表皮に固定し、前記吊り込み部材の他方を前記支持部材に固定することで底部に平面が形成されており、前記シートクッション或いは前記シートバックを乗員の着座面側から平面視した際、前記吊り込み部材と前記支持部材の固定部が千鳥配置になっていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、(a)シートクッションおよびシートバックのうち、少なくとも一方の表皮材の裏面側に複数の吊り込み部材を設ける工程と、(b)前記シートクッション或いは前記シートバックの内部に略平行に設けられた複数の支持部材に前記吊り込み部材を固定し、前記表皮材の表面側に底部に平面を有する凹部を形成する工程と、を含む車両用シートの製造方法であって、前記シートクッション或いは前記シートバックを乗員の着座面側から平面視した際、前記吊り込み部材と前記支持部材の固定部が千鳥配置になるよう、前記複数の支持部材に前記吊り込み部材を固定することを特徴とする車両用シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、車両用シートにおいて、底部に平面を有する深く細い窪みをシート表面に設けた車両用シートを実現することができる。
【0023】
また、本発明によれば、底部に平面を有する深く細い窪みをシート表面に再現性良く形成する車両用シートの製造方法を実現することができる。
【0024】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用シートの全体概要を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部拡大図である。
図3】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部拡大図である。
図5A】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部断面図である。
図5B】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部断面図である。
図6A】本発明の一実施形態に係る車両用シートの製造に用いる治具を示す図である。
図6B】本発明の一実施形態に係る車両用シートに用いる部材を示す図である。
図6C】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部断面図である。
図6D】本発明の一実施形態に係る車両用シートの製造工程における課題を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部拡大図である。
図8】本発明の一実施形態に係る車両用シートの一部断面図である。
図9】従来の車両用シートの一部拡大図である。
図10】従来の車両用シートの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0027】
先ず、図9および図10を用いて、従来の自動車シートなどの車両用シートにおいて、シート表面に施された装飾(加飾)について説明する。図9は、車両用シートの背もたれ部であるシートバック3の上部側の拡大図である。また、図10は、図9におけるE−E’部の断面図である。
【0028】
従来の車両用シートは、窪みによる加飾を行う場合、図9に示すように、直線的な窪みによる直線加飾部8が形成される。この直線加飾部8は、シートバック3に限らず、必要に応じて、シートの座面部であるシートクッション(図示せず)などのシートの各部においても、同様に施される。
【0029】
シートバックやシートクッションに施される直線加飾部8は、図10に示すように、シートの表皮材32を吊り込み部材31によりシートの内側に吊り込み(引っ張り込み)、シートの内部、例えば、ウレタンパッド33の内部に設けられた支持部材30に吊り込み部材31を固定することで直線加飾を形成している。支持部材30には、金属製のワイヤなどが用いられている。吊り込み部材31をワイヤなどの支持部材30に固定する際は、C−リング34のような固定部材が用いられる。
【0030】
上記のように、従来の車両用シートの加飾部は、吊り込み部材を用いてシートの表皮材をシート内部に吊り込み、シート内部に設けられた1本のワイヤすなわち支持部材に固定することにより形成されており、図9に示すように、直線的な窪みしか形成することができない。
【0031】
図1乃至図3を用いて、本実施例における車両用シートのシート表面に施された装飾(加飾)について説明する。図1は、本実施例の車両用シートの全体概要を示している。図2は、図1におけるA部の拡大図である。また、図3は、図2におけるB−B’部の断面図である。
【0032】
図1に示すように、本実施例の車両用シート1は、その主な部位として、シートの座面部となるシートクッション2、シートクッション2の背側に設けられ、シートの背もたれ部となるシートバック3、乗員の頭部および頸部を保護するヘッドレスト4や乗員の肘掛けとなるアームレスト5などを有している。シートクッション2の両脇には、必要に応じて、座面部のサイド部分のサポートとなるサイドサポート(図示せず)が設けられている。
【0033】
また、車両用シート1は、シートバック3の角度を調整するリクライニングレバー6や車両に対するシートの前後位置を調整するスライドレバー7などの調整機構を備えている。
【0034】
車両用シート1のシートバック3の表面には、直線加飾部8および平面加飾部9が立体的に設けられている。これらの直線加飾部8や平面加飾部9は、シートデザイナーのデザイン(意匠)に基づき、シート表面に再現されている。
【0035】
直線加飾部8は、従来の手法、すなわち、シート内部に設けられた1本のワイヤに表皮材を吊り込むことにより直線的な窪みとして形成されている。
【0036】
一方、平面加飾部9は、図2に示すように、窪み(凹部)の底部に平面を有するように形成されている。
【0037】
ここで、平面加飾部9は、図3に示すように、シートの表皮材12を吊り込み部材15,16によりシートの内側に吊り込み(引っ張り込み)、シートの内部、例えば、ウレタンパッド10の内部に設けられた2本の支持部材13,14に吊り込み部材15,16を各々固定することで平面加飾を形成している。
【0038】
支持部材13,14には、金属製のワイヤなどが用いられている。また、吊り込み部材15,16には、金属製や樹脂製などの部材が用いられている。
【0039】
吊り込み部材15,16の各々の一端は、例えば、縫製糸のような締結部材17,18により表皮材12に固定されている。なお、図3に示すように、必要に応じて、ウレタンパッド10と表皮材12の間に中綿となるワディング11を介在させてもよい。
【0040】
一方、吊り込み部材15,16の各々の他端は、支持部材13,14にC−リング等(図示せず)により固定されている。
【0041】
上記で説明したように、本実施例の車両用シートは、シート内部にほぼ平行に設けられた2本のワイヤ13,14へ表皮材12を吊り込むことで、シート表面に底部に平面を有する窪み(凹部)を形成している。
【0042】
なお、シート内部に設けられるワイヤは2本に限定されるものではなく、例えば、平面加飾部9の凹部底部の平面をより広く形成したい場合、支持部材13と14の間を広く設け、さらに、支持部材13,14の間に別の支持部材(ワイヤ)を設け、吊り込み部材15,16とは別に設けた吊り込み部材により表皮材を吊り込むことで、より幅の広い平面加飾を形成することも可能である。
【0043】
次に、図4乃至図7を用いて、本実施例の車両用シートの製造方法の一部について説明する。図5A図5Bは、図4におけるC−C’部の断面図である。図5Aは平面加飾部9の形成前の状態のC−C’断面を示し、図5Bは、シート表面に平面加飾部9が形成された後の状態のC−C’断面を示している。
【0044】
図5Aに示すように、平面加飾部9の形成前は、メッシュサスペンダー19とシート内部に設けられたワイヤ13,14は、分離した状態になっている。メッシュサスペンダー19は、メッシュ部20および先端部21により構成されている。
【0045】
先ず、メッシュサスペンダー19のメッシュ部20の先端部21とは反対側の端部をシートの表皮材に固定する。メッシュ部20の表皮材への固定は、図3に示すように、縫製糸などの締結部材により固定する。また、縫製糸を用いずに、接着剤等により接着することも可能である。
【0046】
次に、図5Bに示すように、メッシュサスペンダー19の先端部21をワイヤ13や14に密着させ、C−リング22により先端部21とワイヤ13,14を束ねるように固定する。この際、メッシュサスペンダー19の一端、すなわち、先端部21とは反対側の端部がシートの表皮材に固定されているため、メッシュサスペンダー19と固定された部分の表皮材がシートの内側に吊り込まれる(引っ張り込まれる)。
【0047】
上記の作業を、シートの内部にほぼ平行に設けられたワイヤ13,14の各々に対して行うことにより、図4に示すような、底部に平面を有する窪み(凹部)を形成することができる。
【0048】
メッシュサスペンダー19の先端部21のワイヤ13,14への固定は、例えば、図6Aに示すフォグリンガー23の先端に、図6BのC−リング24を装着し、フォグリンガー23でC−リング24をカシメることで、先端部21およびワイヤ13,14を束ねるように固定する。
【0049】
フォグリンガー23は、C−リングにより2つ以上の部材を固定(結束)するためのC−リングのカシメ治具である。
【0050】
ここで、フォグリンガー23を用いて、C−リング24によりメッシュサスペンダー19の先端部21とワイヤ13,14を固定する場合、図6Cおよび図6Dに示すような問題が生じる。
【0051】
図6Cに示すように、最初に、吊り込み部材15すなわちメッシュサスペンダーの先端部を上側のワイヤ13にC−リングにより固定した場合、次に下側のワイヤ14にメッシュサスペンダーの先端部をC−リングで固定しようとすると、先に固定したC−リング22に固定前のC−リング24が接触してしまう可能性がある。
【0052】
この場合、固定前のC−リング24を少しずらして固定する必要が生じ、作業性が低下してしまう。また、上下2本のワイヤ13,14への吊り込み部材の固定が若干ずれることにより、平面加飾部9の凹部の形状が崩れてしまうことも懸念される。
【0053】
そこで、本実施例の車両用シートにおいては、吊り込み部材すなわちメッシュサスペンダーの先端部と2本のワイヤとの固定部つまりC−リング固定部を図7に示すように、上下のワイヤ間で予め一定の間隔ずらして設けることで、作業効率を向上することができる。また、これにより、平面加飾部9の凹部の形状を見映えよく形成することができる。図7は、C−リング固定部26を上下で互い違いに設ける、千鳥配置とした例である。
【0054】
以上説明したように、本実施例の車両用シートによれば、車両用シートのシート表面に窪み(凹部)の底部に平面を有する加飾を容易に再現性良く形成することができる。
【0055】
また、シート表皮の吊り込み部材とシート内部のワイヤの固定部を予めずらして設けることで、作業ミスを低減し、作業効率を向上することができる。
【0056】
なお、吊り込み部材自体の長さを変える、或いは、吊り込み部材と表皮材および支持部材(ワイヤ)との固定位置を調整することにより、シート表面に形成される窪み(凹部)の深さを調整することも可能である。
【実施例2】
【0057】
図8を用いて、実施例2の車両用シートについて説明する。図8は、平面加飾部9が形成される部分のシート表皮材の断面を示している。
【0058】
実施例2の車両用シートは、少なくとも平面加飾部9が形成されるシートの表皮材に図8に示す三層構造の表皮材を用いている。図8では、下から順に、下層27、中間層28、上層29となっている。この三層構造は、例えば、布系ジャージ素材、ウレタン素材、布系トリコット素材の組み合わせの表皮材を用いる。
【0059】
平面加飾部9が形成される表皮材に、上記のような三層構造の表皮材を用いることで、表皮材の剛性を向上させ、平面加飾部9を形成した際の窪み(凹部)の底部に形成される平面の平面感を向上することができる。
【0060】
また、表皮材の剛性を高めることで、シート表皮に形成される窪み形状(凹形状)を長期に渡り維持することができ、シートに形成される平面加飾の耐久性を向上することができる。
【0061】
なお、平面加飾部をより再現性良く、かつ、凹部形状をより長期に渡り維持するためには、上記の三層構造を、下層から順に、布系トリコット素材、ウレタン素材、布系ジャージ素材の順番とするのがより好適である。
【0062】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…車両用シート、2…シートクッション、3…シートバック、4…ヘッドレスト、5…アームレスト、6…リクライニングレバー、7…スライドレバー、8…直線加飾部、9…平面加飾部、10,33…ウレタンパッド、11…ワディング(中綿)、12…表皮材(3層)、13,14,30…ワイヤ(支持部材)、15,16,31…吊り込み部材、17,18…縫製糸(締結部材)、19…メッシュサスペンダー、20…メッシュ部、21…先端部、22,34…C−リング(固定部材)、23…フォグリンガー、24…C−リング部材(カシメ前)、25…C−リング同士の接触部(干渉部)、26…C−リング固定部、27…下層、28…中間層、29…上層、32…表皮材。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10