特許第6549420号(P6549420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6549420非水電解液およびそれを用いた非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549420
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】非水電解液およびそれを用いた非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20190711BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20190711BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190711BHJP
【FI】
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M10/052
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-113943(P2015-113943)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2017-4603(P2017-4603A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】平山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】三村 英之
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/103412(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/163139(WO,A1)
【文献】 特開2016−219419(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/080870(WO,A1)
【文献】 特開2014−127370(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129346(WO,A1)
【文献】 特開2014−209436(JP,A)
【文献】 特開2013−020713(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016212(WO,A1)
【文献】 特開2013−030284(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2016−0135513(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01G 11/60
H01G 11/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒としてリン酸ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)メチルおよびリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチルのうち少なくとも1種を含み、電解質塩としてビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムを含む非水電解液。
【請求項2】
非水溶媒として、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル及びリン酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも1種を更に含む請求項1に記載の非水電解液。
【請求項3】
電解質塩として更にLiPFまたはLiBFを含み、フルオロスルホニルイミドリチウム塩に対するLiPFまたはLiBFの使用量がモル比で0.01〜2である請求項1または2に記載の非水電解液。
【請求項4】
更に含む非水溶媒がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の環状カーボネートである請求項2に記載の非水電解液。
【請求項5】
更に含む非水溶媒がジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の鎖状カーボネートである請求項2に記載の非水電解液。
【請求項6】
更に含む非水溶媒がγ − ブチロラクトン、γ − バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクタム及びγ−ヘキサノラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の環状エステルである請求項2に記載の非水電解液。
【請求項7】
更に含む非水溶媒がリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−プロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリイソブチル及びリン酸トリフェニルからなる群から選ばれる少なくとも1種のリン酸エステルである請求項2に記載の非水電解液。
【請求項8】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の非水電解液を含む非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水系二次電池に用いられる安全性とイオン伝導性に優れた非水電解液に関する。より詳細には、非水電解液の溶媒中に含フッ素リン酸エステルを含有させ、電解質塩としてフルオロスルホニルイミドリチウム塩を用いることによる、安全性と良好なイオン伝導性を有する非水電解液、および安全性と出力特性に優れる非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は、高出力密度、高エネルギー密度を有し、携帯電話、ノートパソコン、タブレット型コンピューター等の電源として汎用されている。また、近年は二酸化炭素排出量の少ないクリーンなエネルギーとして、電力貯蔵や電気自動車用の大容量電源として、実用化がすすめられている。この様な大型の蓄電池、特に電気自動車やハイブリッド自動車では、瞬間的に大きな電流値を取り出す性能、即ち優れた出力性能を有する必要がある。この様な要求に対して、非水電解液には高いイオン伝導性が求められている(非特許文献1)。
【0003】
一方、このリチウムイオン二次電池に使われている非水電解液にはエチレンカーボネートやジメチルカーボネート等の可燃性溶媒に電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解した可燃性の電解液が用いられており、電池の大型化に伴いこれら可燃性非水電解液の安全性の向上が求められている(非特許文献2)。
【0004】
こうした非水電解液の安全性の向上に対しては、非水電解液溶媒として含フッ素リン酸エステル(特許文献1〜4)や含フッ素エーテル(特許文献5、6)、含フッ素エステル(特許文献7、8)、含フッ素カーボネート(特許文献9、10)等の含フッ素溶媒を用いることが提案されている。中でも含フッ素リン酸エステルを含む非水電解液は、特に難燃性に優れており、引火点を有さない高度な安全性を有する電解液を構築できることが知られている(特許文献4)。
【0005】
この含フッ素リン酸エステルは、高エネルギー密度化を目的としたリチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質を含むリチウムイオン二次電池に対しても、電解液の分解に由来するガス発生が少なく優れたサイクル特性に寄与する非水電解液溶媒として提案されている(特許文献11)。また、こうした高電位で動作するリチウムイオン二次電池用の非水電解液の分解を更に抑制するための被膜形成剤として、非水電解液中にフルオロスルホニルアニオンを添加することについても提案されている(特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−88023号公報
【特許文献2】特開2007−141760号公報
【特許文献3】特開2007−258067号公報
【特許文献4】特開2013−20713号公報
【特許文献5】特開平9−097627号公報
【特許文献6】特開平11−26015号公報
【特許文献7】特開平6−20719号公報
【特許文献8】特開平10−116627号公報
【特許文献9】特開平7−6786号公報
【特許文献10】特開2007−305352号公報
【特許文献11】国際公開2012/077712号
【特許文献12】国際公開2014/080870号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「自動車用リチウムイオン電池」金村聖志編著、日刊工業新聞社、2010年12月20日発行
【非特許文献2】「リチウムイオン電池の高安全技術と材料」、株式会社シーエムシ―出版、佐藤登、吉野彰監修、2009年2月13日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この様に含フッ素リン酸エステルは、非水系二次電池、特にリチウム二次電池の電解液として有用である事が知られているが、例えば、特許文献3に記載されている様に、多量にリン酸エステル類を添加することにより非水電解液の粘度の上昇及びイオン解離度の低下が引き起こされ、その結果イオン伝導度が低下し非水系二次電池の出力特性が低下することが知られていた。
【0009】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものである。即ち本発明は、非水電解液溶媒として含フッ素リン酸エステルを含む安全性の高い非水電解液において、従来困難であったイオン伝導性に優れた非水電解液を提供すること、さらには、この非水電解液を用いることによる出力特性に優れた非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、非水電解液の溶媒に含フッ素リン酸エステルを含み、電解質塩として特定のイミドリチウム塩を用いることにより、安全性に優れ且つ優れたイオン伝導性を有する非水電解液が得られることを見出した。さらに本発明の非水電解液は、従来のLiPF6を電解質塩として用いた場合に比べて、凝固点が低く、より低温での使用が可能になるという予期しなかった効果を有することも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は下記の要旨に係わるものである。
【0012】
(1) 非水溶媒として、下記一般式(1)
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基もしくは炭素数6〜10のアリール基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である)で表される含フッ素リン酸エステルを含み、電解質塩として下記一般式(2)
【0015】
【化2】
【0016】
(式中Rfはフッ素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表す)で表されるフルオロスルホニルイミドリチウム塩を含む非水電解液。
【0017】
(2) 非水溶媒として、更に環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル及びリン酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも1種を存在させる(1)項に記載の非水電解液。
【0018】
(3) 上記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルが、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)フェニル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2−ジフルオロエチル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチルからなる群から選ばれる少なくとも1種である(1)項または(2)項に記載の非水電解液。
【0019】
(4) 電解質塩がジフルオロスルホニルイミドリチウムである(1)項から(3)項のいずれか1項に記載の非水電解液。
【0020】
(5) 電解質塩として更にLiPFまたはLiBFを含み、フルオロスルホニルイミドリチウム塩に対するLiPFまたはLiBFの使用量がモル比で0.01〜2である(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の非水電解液。
【0021】
(6) 更に存在させる非水溶媒がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の環状カーボネートである(2)項に記載の非水電解液。
【0022】
(7) 更に存在させる非水溶媒がジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種の鎖状カーボネートである(2)項に記載の非水電解液。
【0023】
(8) 更に存在させる非水溶媒がγ − ブチロラクトン、γ − バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン及びγ−ヘキサノラクトンからなる群から選ばれる少なくとも1種の環状エステルである(2)項に記載の非水電解液。
【0024】
(9) 更に存在させる非水溶媒がリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−プロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリイソブチル及びリン酸トリフェニルからなる群から選ばれる少なくとも1種のリン酸エステルである(2)項に記載の非水電解液。
【0025】
(10)(1)項から(9)項のいずれか1項に記載の非水電解液を含む非水系二次電池。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、非水溶媒中に含フッ素リン酸エステルを含む電解液において、特定のフルオロスルホニルイミドリチウム塩を電解質塩として用いることにより、従来の電解液では困難であった安全性と高イオン伝導性を両立した非水電解液を提供できる。さらには、本発明の非水電解液を用いることにより、安全性と出力特性に優れた非水系二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】測定例1[イオン伝導度]の測定で使用した白金電極を向い合せに組み合わせたガラス製電気化学セルを示す説明図である。
図2】実施例6−1、比較例6−1で使用したコインセル型の非水系二次電池の構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の非水電解液は、第1の成分として前記一般式(1)で表される含フッ素リン酸エステルを含有する。一般式(1)において、Rf、Rf及びRfは、それぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基もしくは炭素数6〜10のアリール基または炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基を表し、且つRf〜Rfの少なくとも1つは含フッ素アルキル基である。
【0029】
炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、およびn−ヘキシル基等が挙げられ、炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐の含フッ素アルキル基としては、トリフルオロメチル基、2,2−ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル基、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基及び3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等を挙げることができる。このような含フッ素リン酸エステルとして、例えば、リン酸トリス(トリフルオロメチル)、リン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)、リン酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)、リン酸トリス(2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル)、リン酸トリス(3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル及びリン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチル等を挙げることができる。
【0030】
これら含フッ素リン酸エステルのうち、特に、構造中に含フッ素アルキル基を2つ以上有するリン酸トリス(2,2−ジフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)フェニル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2−ジフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、リン酸ビス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)2,2,2−トリフルオロエチル、リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)メチル等は、それ自体が不燃性を示すことからより好ましい。
【0031】
これら含フッ素リン酸エステルは、含フッ素エーテルや含フッ素カーボネートに比べて、電解質塩の溶解性に優れるため、含フッ素リン酸エステルを単独で電解液溶媒として使用することができるが、イオン伝導性をより向上させるためには、他の非水溶媒を共存させることが好ましい。非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−ヘキサノラクトン等の環状エステル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリ−n−プロピル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリ−n−ブチル、リン酸トリイソブチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチル等の鎖状エステル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、トリグライム、テトラグライム等のエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル等のニトリル類、ジオキソラン又はその誘導体、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン等の鎖状スルホン類、スルホラン等の環状スルホン類、プロパンスルトン、ブタンスルトンの環状スルホン酸エステル等を例示することができる。これらの非水溶媒の中で、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、リン酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類または2種以上の混合物である事がイオン導電性の点から好ましい。
【0032】
本発明の非水電解液は第2の必須成分として、電解質塩として前記一般式(2)で表されるフルオロスルホニルイミドリチウム塩を用いる。代表的なフルオロスルホニルイミドリチウム塩としては、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、フルオロスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム、フルオロスルホニル(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドリチウムを例示することができ、その中でも特にビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムがイオン伝導性をより向上できる点で好ましい。
【0033】
また、本発明の非水電解液では、電解質塩として、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO等の他のリチウム塩を併用して用いてもよい。特にLiPFまたはLiBFを併用した場合に、高いイオン伝導性を維持しながら非水系二次電池の寿命が改善される等の効果が得られる場合がある。この際、フルオロスルホニルイミドリチウム塩に対する他のリチウム塩との使用量は、モル比で0.01〜2倍、好ましくは0.1〜1倍である。使用量が0.01倍未満の場合、併用の効果が得られず、2倍を超える場合はイオン伝導性が十分でない。また、非水電解液における電解質塩の濃度の合計は0.2〜3.0mol/Lの範囲とすることが望ましく、特に1.0〜3.0mol/Lの高濃度で溶解させた場合にイオン伝導性が高く、長寿命の非水系二次電池が得られ易いため好ましい。0.2mol/L未満の場合、イオン伝導性が十分でなく、3.0mol/Lを超える場合は電解質塩が析出し易い等の問題がある。
【0034】
本発明の非水電解液を用いた非水系二次電池は、少なくとも正極、負極およびセパレータから成る。負極材料としては、金属リチウム、リチウム合金あるいはリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な炭素材料やケイ素材料、スズやチタンとリチウムの複合酸化物等を用いることができる。正極材料としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/4Mn3/4、LiFeO、LiFePO等のリチウムと遷移金属の複合酸化物が用いられる。セパレータとしては、イオン透過性で電気絶縁性を有するものであれば使用できるが、敢えて例示すると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂の微多孔膜、セルロースや不織布等の線維状物質等を用いることができる。非水系二次電池の形状、形態としては、特に限定するものではないが、例えば、円筒型、角型、コイン型、カード型等が適宜選択される。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
測定例1
[イオン伝導度]
非水電解液のイオン伝導度(単位:mS/cm)の測定は、「電気化学測定マニュアル、基礎編、2002、45、電気化学会編、丸善株式会社」に記載の方法を用いて行った。すなわち、図1に記載のように白金電極2を向い合せに組み合わせたガラス製電気化学セル1に、あらかじめ電気伝導度既知の標準液でセル定数を算出した。調製した電解液をこの電気化学セルに注入し密封した。得られた電気化学セルを、20℃恒温槽中に1時間静置した後、ポテンショスタット/ガルバノスタット(東陽テクニカ社製、VersaSTAT4−400)を用い、複素インピーダンス法により溶液抵抗を測定した。得られた溶液抵抗値より、各非水電解液のイオン伝導度を算出した。
【0037】
算出式:イオン伝導度(mS/cm)=溶液抵抗値(Ω)/セル定数
【0038】
測定例2
[粘度]
非水電解液の粘度(単位:mPa・sec)の測定は、コーンプレート型回転粘度計(BrookField社製、DV−I PRIME)を用いて行った。すなわち、流動式恒温装置を接続した回転粘度計のカップに、調製した電解液を導入し、温度が20℃で一定となるまで流通させて測定した。
【0039】
測定例3
[凝固点]
非水電解液の凝固点(単位:℃)の測定は、JIS K0065「化学製品の凝固点測定方法」に準じて行った。すなわち、ガラス製二重管容器に、調製した電解液を導入し、氷浴(もしくは寒剤)によって間接的に冷却する。上下に振とうするガラス製のかき混ぜ棒により一定の速度で撹拌し、徐々に電解液を冷却する。凝固点の測定は、過冷却がない場合は静止した温度を読み取り、過冷却によって一度凝固点以下に温度が下がった後、再び一定の凝固点を示す場合は、温度上昇の最高温度を読み取ることで測定した。
【0040】
実施例1−1
リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(以下TFEPと略す)に、電解質としてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSIと略す)を1.0mol/Lの濃度となるように加え、20℃にて充分に撹拌して完全に溶解し、電解液を作成した(LiFSI濃度=11.5質量%)。この電解液を用いて、測定例1の方法でイオン伝導度を測定した。また、同様の電解液を用いて、測定例2の方法で粘度を測定した。結果を表1に記す。
【0041】
比較例1−1
TFEPに、電解質として六フッ化リン酸リチウム(以下、LiPFと略す)を0.5mol/Lの濃度となるように加え、20℃にて充分に撹拌して完全に溶解し、電解液を作成した(LiPF濃度=4.5質量%)。この電解液を用いて、測定例1の方法でイオン伝導度を測定した。また、同様の電解液を用いて、測定例2の方法で粘度を測定した。結果を表1に記す。
【0042】
比較例1−2
電解質としてリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(以下、LiTFSIと略す)を用いた以外は実施例1−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度を測定した(LiTFSI濃度=17.2質量%)。結果を表1に記す。
【0043】
実施例1−2
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル(以下BTFEMPと略す)に、電解質としてLiFSIを1.0mol/Lの濃度となるように加えた以外は実施例1−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度を測定した(LiFSI濃度=12.0質量%)。結果を表1に記す。
【0044】
比較例1−3
電解質としてLiPFを用いた以外は実施例1−2と同様の方法で1.0mol/Lの電解液を調製し、イオン伝導度、粘度を測定した(LiPF濃度=9.7質量%)。結果を表1に記す。
【0045】
比較例1−4
電解質としてLiTFSIを用いた以外は実施例1−2と同様の方法で1.0mol/Lの電解液を調製し、イオン伝導度、粘度を測定した(LiTFSI濃度=18.1質量%)。結果を表1に記す。
【0046】
実施例1−3
リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル(以下BTFEEPと略す)に、電解質としてLiFSIを1.0mol/Lの濃度となるように加えた以外は実施例1−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度を測定した(LiFSI濃度=12.4質量%)。結果を表1に記す。
【0047】
比較例1−5
電解質としてLiPFを用いた以外は実施例1−3と同様の方法で1.0mol/Lの電解液を調製し、イオン伝導度、粘度を測定した(LiPF濃度=10.2質量%)。結果を表1に記す。
【0048】
比較例1−6
電解質としてLiTFSIを用いた以外は実施例1−3と同様の方法で1.0mol/Lの電解液を調製し、イオン伝導度、粘度を測定した(LiTFSI濃度=19.1質量%)。結果を表1に記す。
【0049】
【表1】
【0050】
LiFSI:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiPF:六フッ化リン酸リチウム
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
TFEP:リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)
BTFEMP:リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)メチル
BTFEEP:リン酸ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)エチル
【0051】
表1に示した実施例、比較例の結果から、フッ素系リン酸エステル単独の溶媒系において、LiFSIを電解質として用いた場合は、LiPFやLiTFSIと比較してイオン伝導度が大きく向上していることが判る。このようにイオン伝導度が向上した理由は明らかではないが、LiFSIと含フッ素リン酸エステルとの相互作用によるLiFSIの解離状態及びLiカチオンへの含フッ素リン酸エステルの配位状態が関係していると考えられる。
【0052】
実施例1−4
TFEPに対するLiFSIの飽和溶解度を測定した。すなわち、TFEPに過剰量のLiFSIを混合し、撹拌条件下、20℃の恒温条件で溶解した。10時間以上撹拌し、十分溶解したことを確認してから、2時間静置し、上澄み中のLiFSI濃度を19F-NMR(BRUKER製 AVANCE II 400)により定量することで、TFEP中のLiFSI濃度を算出した。その結果、20℃におけるTFEP中のLiFSI飽和溶解度は22.9質量%(1.27mol/L)であった。
【0053】
比較例1−7
電解質をLiPFに代えた以外は、実施例1−4と同様の操作で飽和溶解度を測定した。その結果、20℃におけるTFEP中のLiPF飽和溶解度は5.6質量%(0.58mol/L)であった。
【0054】
実施例2−1
エチレンカーボネート(以下、ECと略す)とジメチルカーボネート(以下、DMCと略す)とTFEPを体積比、35/35/30の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=12.5質量%)。この電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表2に記す。
【0055】
比較例2−1
電解質にLiPFを用いた以外は、実施例2−1と同様の方法でイオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=10.1質量%)。結果を表2に記す。
【0056】
【表2】
【0057】
EC:エチレンカーボネート、DMC:ジメチルカーボネート
【0058】
実施例2−1、比較例2−1は、フッ素系リン酸エステルに環状カーボネートと鎖状カーボネートを混合した場合のイオン伝導度、粘度の測定例である。この結果からも明らかな様に、本発明のLiFSIとの組み合せた場合にイオン伝導度の向上が認められる。
【0059】
実施例2−2
ECとTFEPを体積比、7/3の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=12.7質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表3に記す。
【0060】
実施例2−3
EC/TFEPの混合比を体積比で5/5で混合した以外は、実施例2−2と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=12.3質量%)。結果を表3に記す。
【0061】
さらにこの電解液を使用して、測定例3の方法で凝固点を測定した結果、凝固点は−5.1℃であった。比較例2−3の結果と比較するとLiFSIを電解質として用いた場合、LiPFに比べて凝固点が低下するという驚くべき効果を有することが判った。
【0062】
実施例2−4
EC/TFEPの混合比を体積比で3/7で混合した以外は、実施例2−2と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=12.0質量%)。結果を表3に記す。
【0063】
比較例2−2
電解質にLiPF6を使用した以外は、実施例2−2と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=10.1質量%)。結果を表3に記す。
【0064】
比較例2−3
電解質にLiPFを使用した以外は、実施例2−3と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=9.9質量%)。結果を表3に記す。
【0065】
さらにこの電解液を使用して、測定例3の方法で凝固点を測定した結果、凝固点は4.1℃であった。
【0066】
比較例2−4
電解質にLiPFを使用した以外は、実施例2−4と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=9.8質量%)。結果を表3に記す。
【0067】
【表3】
【0068】
実施例2−2〜2−4、比較例2−2〜2−4は、フッ素系リン酸エステルと非水溶媒の比率を変えて検討した例である。全ての比率において、LiFSIを混合した方が、LiPFを混合した場合を上回るイオン伝導度を示す。
【0069】
実施例2−5
プロピレンカーボネート(以下PCと略す)とTFEPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=12.8質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表4に記す。
【0070】
実施例2−6
フルオロエチレンカーボネート(以下FECと略す)とTFEPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=11.8質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表4に記す。
【0071】
実施例2−7
γ−ブチロラクトン(以下GBLと略す)とTFEPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=13.4質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表4に記す。
【0072】
実施例2−8
PCとBTFEMPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=13.3質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表4に記す。
【0073】
実施例2−9
GBLとBTFEMPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=13.3質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表4に記す。
【0074】
比較例2−5
電解質にLiPFを使用した以外は、実施例2−5と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=10.3質量%)。結果を表4に記す。
【0075】
比較例2−6
電解質にLiPFを使用した以外は、実施例2−6と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=9.5質量%)。結果を表4に記す。
【0076】
比較例2−7
電解質にLiPFを使用した以外は、実施例2−7と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=10.7質量%)。結果を表4に記す。
【0077】
比較例2−8
電解質にLiPFを使用した以外は、実施例2−8と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=10.7質量%)。結果を表4に記す。
【0078】
比較例2−9
電解質にLiPFを使用した以外は、実施例2−9と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=11.0質量%)。結果を表4に記す。
【0079】
【表4】
【0080】
PC:プロピレンカーボネート FEC:フルオロエチレンカーボネート
GBL:γ-ブチロラクトン
実施例2−5〜2−9、比較例2−5〜2−9は、EC以外の環状カーボネートや環状エステルを用いた例を示す。この様に、ECに限らず、様々な溶媒との組合せでイオン伝導度が向上することが判る。
【0081】
実施例3−1
リン酸トリエチル(以下、TEPと略す)とTFEPを体積比、7/3の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=14.5質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表5に記す。
【0082】
実施例3−2
TEP/TFEPの混合比を体積比で5/5で混合した以外は、実施例3−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=14.0質量%)。結果を表5に記す。
【0083】
実施例3−3
TEP/TFEPの混合比を体積比で3/7で混合した以外は、実施例3−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=13.1質量%)。結果を表5に記す。
【0084】
実施例3−4
リン酸トリメチル(以下、TMPと略す)とTFEPを体積比、7/3の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=13.5質量%)。結果を表5に記す。
【0085】
実施例3−5
TMP/TFEPの混合比を体積比で5/5で混合した以外は、実施例3−4と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=13.2質量%)。結果を表5に記す。
【0086】
実施例3−6
TMP/TFEPの混合比を体積比で3/7で混合した以外は、実施例3−4と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=12.2質量%)。結果を表5に記す。
【0087】
比較例3−1
電解質にリチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(以下、LiTFSIと略す)を使用した以外は、実施例3−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiTFSI濃度=22.3質量%)。結果を表5に記す。
【0088】
比較例3−2
電解質にLiTFSIを使用した以外は、実施例3−2と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiTFSI濃度=21.2質量%)。結果を表5に記す。
【0089】
さらにこの電解液を使用して、測定例3の方法で凝固点を測定した結果、凝固点は4.1℃であった。
【0090】
比較例3−3
電解質にLiTFSIを使用した以外は、実施例3−3と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiTFSI濃度=19.5質量%)。結果を表5に記す。
【0091】
比較例3−4
電解質にLiTFSIを使用した以外は、実施例3−4と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiTFSI濃度=20.9質量%)。結果を表5に記す。
【0092】
比較例3−5
電解質にLiTFSIを使用した以外は、実施例3−5と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiTFSI濃度=20.0質量%)。結果を表5に記す。
【0093】
比較例3−6
電解質にLiTFSIを使用した以外は、実施例3−5と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiTFSI濃度=19.0質量%)。結果を表5に記す。
【0094】
【表5】
【0095】
TEP:リン酸トリエチル TMP:リン酸トリメチル
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド
【0096】
実施例3−1〜3−6、比較例3−1〜3−6は、フッ素系リン酸エステルに非フッ素のリン酸エステルを混合し、比較電解質としてLiTFSIを用いた例を示す。この結果から明らかな様に、非フッ素のリン酸エステルと組合わせた場合でも、LiFSI電解質を用いた方が、イオン伝導度が向上することが判る。
【0097】
実施例4−1
ECとBTFEMPを体積比、7/3の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=12.8質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表6に記す。
【0098】
実施例4−2
EC/BTFEMPの混合比を体積比で5/5で混合した以外は、実施例4−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=12.5質量%)。結果を表6に記す。
【0099】
実施例4−3
EC/BTFEMPの混合比を体積比で3/7で混合した以外は、実施例4−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=12.4質量%)。結果を表6に記す。
【0100】
比較例4−1
電解質にLiPF6を使用した以外は、実施例4−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=10.4質量%)。結果を表6に記す。
【0101】
比較例4−2
電解質にLiPF6を使用した以外は、実施例4−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=10.2質量%)。結果を表6に記す。
【0102】
比較例4−3
電解質にLiPF6を使用した以外は、実施例4−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=9.9質量%)。結果を表6に記す。
【0103】
【表6】
【0104】
実施例5−1
ECとTFEPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを0.5mol/L、LiPF6を0.5mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=6.1質量%、LiPF濃度=5.0質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表7に記す。
【0105】
比較例5−1
電解質にLiPF6を1mol/L溶解し、この電解液に1wt%のLiFSIを加えた以外は、実施例5−1と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=9.9質量%)。結果を表7に記す。
【0106】
【表7】
【0107】
実施例5−2
ECとTFEP、1,3-プロパンスルトンを体積比、47.5/47.5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=12.3質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表8に記す。
【0108】
比較例5−2
電解質にLiPF6を1mol/L溶解した以外は、実施例5−2と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=9.9質量%)。結果を表8に記す。
【0109】
【表8】
【0110】
実施例5−3
ECとTFEPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを0.5mol/Lとなるように溶解した(LiFSI濃度=6.2質量%)。このように調製した電解液を測定例1、測定例2の方法によりイオン伝導度、粘度の測定を行った。結果を表9に記す。
【0111】
実施例5−4
LiFSIの濃度を2mol/Lになるように調製した以外は、実施例5−3と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=23.7質量%)。結果を表9に記す。
【0112】
実施例5−5
LiFSIの濃度を3mol/Lになるように調製した以外は、実施例5−3と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiFSI濃度=34.3質量%)。結果を表9に記す。
【0113】
比較例5−3
電解質にLiPF6を0.5mol/Lの濃度で溶解した以外は、実施例5−3と同様の方法で電解液を調製し、イオン伝導度、粘度の測定を行った(LiPF濃度=5.1質量%)。結果を表9に記す。
【0114】
比較例5−4
電解質にLiPF6を2mol/Lの濃度で溶解した以外は、実施例5−4と同様の方法で電解液の調製を試みた。しかし、電解質は完全に溶解せず、電解液そのものが固結し、電解液の調製はできなかった。
【0115】
比較例5−5
電解質にLiPF6を3mol/Lの濃度で溶解した以外は、実施例5−5と同様の方法で電解液の調製を試みた。しかし、電解質は完全に溶解せず、電解液そのものが固結し、電解液の調製はできなかった。
【0116】
【表9】
【0117】
参考として、実施例2−3、比較例2−3の結果を併記する。
【0118】
実施例5−4、5−5と比較例5−4、5−5の様に、溶解性に差が表れた理由は明らかではないが、含フッ素リン酸エステルとLiFSIもしくはLiPF6の相互作用の違いにより、この様な溶解性の差を示したのではないかと考えられる。
【0119】
作成例1
[コインセル型リチウムイオン二次電池の作成]
実施例6−1、比較例6−1では、非水電解液二次電池として、以下の方法でコインセル型リチウムイオン二次電池を作成し、充放電サイクル試験を行った。
【0120】
即ち、正極活物質としてLiCoOを用い、これに導電助剤としてカーボンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を重量比で、LiCoO:カーボンブラック:PVDF=90:5:5となるように配合し、1−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化したものをアルミ製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて正極を得た。
【0121】
負極活物質としては天然球状グラファイトを用い、バインダーとしてPVDFを重量比で、グラファイト:PVDF=9:1となるように配合し、1−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリー化したものを銅製集電体上に一定の膜厚で塗布し、乾燥させて負極を得た。
【0122】
セパレータは無機フィラー含有ポリオレフィン多孔質膜を用いた。
【0123】
以上の構成要素に本発明の非水電解液を加えて、図2に示した構造のコイン型セルを用いたリチウム二次電池を作成した。リチウム二次電池はセパレータ10を挟んで正極3、負極7を対向配置し、これら正極3、セパレータ10および負極7からなる積層体をガスケット11に嵌め込んだ。このガスケット11には正極ステンレスキャップ5と負極ステンレスキャップ6を取り付け、負極ステンレスキャップ6の内側に設けたステンレスバネ9によって前記積層体を構成する正極3を正極ステンレスキャップ5の内側に押し付け、コインセル型リチウムイオン二次電池を作成した。
【0124】
実施例6−1
ECとTFEPを体積比、5/5の比率で混合し、電解質としてLiFSIを1mol/Lとなるように溶解した。この電解液を用いて、作成例4の方法でコインセル型リチウム二次電池を作成した。25℃の恒温条件下、0.1Cの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この電池を25℃の恒温条件下、1Cの充電電流で4.2Vの定電流-定電圧充電を行い、1Cの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。結果を表10に記す。
【0125】
比較例6−1
電解質にLiPF6を用いた以外は、実施例6−1と同様の方法で電解液を調製し、コインセル型リチウム二次電池を作成した。25℃の恒温条件下、0.1Cの充電電流で上限電圧を4.2Vとして充電し、続いて0.1Cの放電電流で3.0Vとなるまで放電した。この電池を25℃の恒温条件下、1Cの充電電流で4.2Vの定電流-定電圧充電を行い、1Cの放電電流で終止電圧3.0Vまで定電流放電を行った。結果を表10に記す。
【0126】
【表10】
【0127】
実施例6−1、比較例6−1では電池の充放電性能について比較を行った。その結果、本発明の組成で、電池の充放電が可能になる事、また特に高レートでの試験でその差が顕著になることが明らかになった。この理由の詳細は明らかではないが、含フッ素リン酸エステルとLiFSIの相互作用により非水電解液のイオン伝導度が増加し、その結果、特に高レートでの電池容量が向上したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、従来の電解液では困難であった安全性と高イオン伝導性を両立した非水電解液、さらには、安全性と出力特性に優れた非水系二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0129】
1 ガラス製電気化学セル
2 白金製電極
3 正極活物質
4 正極集電体
5 正極ステンレス製キャップ
6 負極ステンレス製キャップ
7 負極物質
8 負極集電体
9 ステンレス製板バネ
10 無機フィラー含有ポリオレフィン多孔質セパレータ
11 ガスケット
図1
図2