特許第6549425号(P6549425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549425
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】ブリーザ構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/027 20120101AFI20190711BHJP
【FI】
   F16H57/027
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-131121(P2015-131121)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-15156(P2017-15156A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000225050
【氏名又は名称】GKNドライブラインジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康晃
(72)【発明者】
【氏名】丸山 豊史
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−191916(JP,A)
【文献】 特開平5−87210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシング内に回転可能に収容された回転部材と、この回転部材を作動させるため前記ケーシング内に回転不能に収容された固定部材とを有する動力伝達機構に備えられ、前記ケーシング内部と大気側とを連通させるブリーザ構造であって、
前記ケーシング内に設けられ前記ケーシングの外部に連通されたブリーザ室と、
前記ブリーザ室を前記ケーシングの内部に向けて開口させる開口部と、
前記固定部材に設けられた回り止め部が前記ケーシングに対して回転方向に係合して、前記開口部を覆うカバー部とを有し
前記動力伝達機構は、前記回転部材の回転角を前記固定部材との間に形成されたカムによって軸方向推力に変換可能なカム機構を有し、
前記固定部材は、前記カム機構における固定側プレートであり、
前記回転部材は、前記カム機構における回転側プレートであることを特徴とするブリーザ構造。
【請求項2】
請求項1記載のブリーザ構造であって、
前記ブリーザ室には、内部に流入された潤滑油を前記ケーシングの内部に戻すリターン穴が設けられていることを特徴とするブリーザ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用されるブリーザ構造に関する。詳細には、ケーシングに収容された動力伝達機構に適用されるブリーザ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーシング内部と大気側とを連通させるブリーザ構造としては、潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシング内に回転可能に収容された回転部材としてのカムリングと、このカムリングを作動させるためケーシング内に回転不能に収容された固定部材としてのカムリングとを有する動力伝達機構に備えられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このブリーザ構造では、ケーシング内部と大気側とを連通させる通気孔として、ケーシング内に回転可能に収容された回転軸を支持する貫通孔がケーシングの合わせ面で外部に連通されており、内圧の上昇による潤滑油のケーシング外部への噴き出しが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−64189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のようなブリーザ構造では、ケーシングの合わせ面にケーシング内部と大気側とを連通させる通気孔が設けられているので、ブリーザ構造を設ける位置が限定されてしまい、配置の自由度が低下していた。
【0006】
加えて、貫通孔と回転軸との間の隙間の設定や貫通孔に連通するケーシング外部に向けて開口された通路の設定など、その構造が複雑化していた。
【0007】
そこで、この発明は、簡易な構造で配置自由度を向上することができるブリーザ構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、潤滑油が収容されたケーシングと、このケーシング内に回転可能に収容された回転部材と、この回転部材を作動させるため前記ケーシング内に回転不能に収容された固定部材とを有する動力伝達機構に備えられ、前記ケーシング内部と大気側とを連通させるブリーザ構造であって、前記ケーシング内に設けられ前記ケーシングの外部に連通されたブリーザ室と、前記ブリーザ室を前記ケーシングの内部に向けて開口させる開口部と、前記固定部材に設けられた回り止め部が前記ケーシングに対して回転方向に係合して、前記開口部を覆うカバー部とを有し、前記動力伝達機構は、前記回転部材の回転角を前記固定部材との間に形成されたカムによって軸方向推力に変換可能なカム機構を有し、前記固定部材は、前記カム機構における固定側プレートであり、前記回転部材は、前記カム機構における回転側プレートであることを特徴とする。
【0009】
このブリーザ構造では、固定部材に設けられた回り止め部が、ケーシングに対して回転方向に係合して、ブリーザ室の開口部を覆うカバー部を有するので、固定部材の回り止め部のカバー部によってブリーザ室内に潤滑油が流入することを抑制できる。
【0010】
このため、開口部を覆うための別部材を設けたり、開口部までの経路を複雑化する必要がなく、簡易な構造で内圧の上昇による潤滑油のケーシング外部への噴き出しを防止することができる。
【0011】
また、ブリーザ室の開口部に合わせて固定部材の回り止め部を配置させ、この回り止め部を開口部を覆うカバー部とすればよいので、ブリーザ室の開口部近傍に位置する固定部材によって容易に対応することができ、ブリーザ構造の配置自由度を向上することができる。
【0012】
従って、このようなブリーザ構造では、ケーシングに対して回転方向に係合する固定部材の回り止め部をブリーザ室の開口部を覆うカバー部とするので、簡易な構造で配置自由度を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡易な構造で配置自由度を向上することができるブリーザ構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係るブリーザ構造が適用された動力伝達機構の断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】本発明の実施の形態に係るブリーザ構造のケーシングの第2ケース部分の正面図である。
図4】本発明の実施の形態に係るブリーザ構造の固定部材の正面図である。
図5】本発明の実施の形態に係るブリーザ構造の固定部材の背面図である。
図6図4のX−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1図6を用いて本発明の実施の形態に係るブリーザ構造について説明する。
【0016】
本実施の形態に係るブリーザ構造1は、潤滑油が収容されたケーシング3と、このケーシング3内に回転可能に収容された回転部材5と、この回転部材5を作動させるためケーシング3内に回転不能に収容された固定部材7とを有する動力伝達機構9に備えられ、ケーシング3内部と大気側とを連通させる。
【0017】
そして、ブリーザ構造1は、ケーシング3内に設けられケーシング3の外部に連通されたブリーザ室11と、ブリーザ室11をケーシング3の内部に向けて開口させる開口部13と、固定部材7に設けられた回り止め部15がケーシング3に対して回転方向に係合して、開口部13を覆うカバー部17とを有する。
【0018】
また、ブリーザ室11には、内部に流入された潤滑油をケーシング3の内部に戻すリターン穴19が設けられている。
【0019】
さらに、動力伝達機構9は、回転部材5の回転角を固定部材7との間に形成されたカム21によって軸方向推力に変換可能なカム機構23を有し、固定部材7は、カム機構23における固定側プレートであり、回転部材5は、カム機構23における回転側プレートである。
【0020】
まず、図1を用いてブリーザ構造1が適用される動力伝達機構9について説明する。
【0021】
図1に示すように、動力伝達機構9は、ケーシング3と、入力部材25と、差動機構27と、第1出力部材29と、第2出力部材31と、断続機構33などから構成されている。
【0022】
ケーシング3は、内部が主に差動機構27を収容する差動機構側収容部35を形成する第1ケース部分37と、内部が主に断続機構33を収容する断続機構側収容部39を形成する第2ケース部分41とからなる。
【0023】
このケーシング3は、第2ケース部分41に固定手段としてのボルトでカバー部分43が固定され、この第2ケース部分41に固定されたカバー部分43に対して第1ケース部分37が合わされ、第2ケース部分41とカバー部分43と第1ケース部分37とに挿通されるボルトなどの固定手段によって固定されて構成される。
【0024】
このケーシング3の内部は、後述する第2出力部材31との径方向間に配置されたシール部材45,47によって差動機構側収容部35と断続機構側収容部39とが区画されており、差動機構側収容部35と断続機構側収容部39とに異なる種類の潤滑油がそれぞれ収容されている。
【0025】
このようなケーシング3には、入力部材25と、差動機構27と、第1出力部材29と、第2出力部材31と、断続機構33などが収容されている。
【0026】
入力部材25は、軸状に形成され、ケーシング3内の差動機構側収容部35に収容され、軸心が後述するデフケース67の回転軸心と直交する方向に配置され、軸方向に配置された2つのベアリング49,51を介してケーシング3に回転可能に支持されている。
【0027】
この入力部材25の一端側外周には、スプライン形状の連結部53が形成され、連結部材55が一体回転可能に連結されている。
【0028】
連結部材55は、一端側が連結部53を介して入力部材25に一体回転可能に連結され、他端側に、駆動力を入力させる、例えば、駆動源から駆動力が入力されるプロペラシャフトなどの入力側の部材(不図示)が一体回転可能に連結されている。
【0029】
この連結部材55とケーシング3との径方向間にはケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材57が配置されると共に、連結部材55の外周にはシール部材57を保護するダストカバー59が配置されている。
【0030】
このような連結部材55を介して入力部材25に伝達された駆動力は、ギヤ組61で方向変換され、差動機構27側に伝達される。
【0031】
ギヤ組61は、小径のドライブピニオン63と、大径のリングギヤ65とからなるベベルギヤ組で変速駆動されるように構成されている。
【0032】
小径のドライブピニオン63は、入力部材25の他端側に入力部材25と連続する一部材で形成され、入力部材25と一体回転する。
【0033】
大径のリングギヤ65は、差動機構27のデフケース67に形成されたフランジ部にボルトでデフケース67と一体回転するように固定され、小径のドライブピニオン63と噛み合っている。
【0034】
このギヤ組61は、入力側の部材から入力部材25に伝達された駆動力を方向変換して差動機構27側に出力する。
【0035】
差動機構27は、ケーシング3内の差動機構側収容部35に収容され、デフケース67と、ピニオンシャフト69と、ピニオン71と、一対のサイドギヤ73,75とを備えている。
【0036】
デフケース67は、軸方向両側に形成されたボス部でそれぞれベアリング77,79を介してケーシング3に回転可能に支持されている。
【0037】
このデフケース67には、ピニオンシャフト69と、ピニオン71と、一対のサイドギヤ73,75とが収容され、ギヤ組61から伝達された駆動力を伝達する。
【0038】
ピニオンシャフト69は、端部をデフケース67に係合してピンで抜け止め及び回り止めされ、デフケース67と一体に回転駆動される。このピニオンシャフト69には、ピニオン71が支承されている。
【0039】
ピニオン71は、デフケース67の周方向等間隔に複数配置され、ピニオンシャフト69に支承されてデフケース67の回転によって公転する。
【0040】
このピニオン71の背面側とデフケース67との径方向間には、ピニオン71の公転時に発生する径方向への移動を受ける球面ワッシャが配置されている。
【0041】
このようなピニオン71は、一対のサイドギヤ73,75に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギヤ73,75に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト69に自転可能に支持されている。
【0042】
一対のサイドギヤ73,75は、それぞれのボス部でデフケース67に相対回転可能に支持され、ピニオン71と噛み合っている。
【0043】
この一対のサイドギヤ73,75の背面側とデフケース67との軸方向間には、ピニオン71との噛み合い反力によるサイドギヤ73,75の軸方向への移動を受けるスラストワッシャがそれぞれ配置されている。
【0044】
このような一対のサイドギヤ73,75は、内周側にスプライン形状の連結部81,83が形成され、それぞれ駆動力を出力する、例えば、左右車輪側に連結された車軸などの出力側の部材(不図示)に連結される第1出力部材29と第2出力部材31とが一体回転可能に連結され、デフケース67に入力された駆動力を出力側の部材へ出力する。
【0045】
一対のサイドギヤ73,75のうちサイドギヤ75に連結される第1出力部材29は、軸状に形成され、一端側が連結部83を介してサイドギヤ75と一体回転可能に連結され、他端側が出力側の部材と一体回転可能に連結される。
【0046】
この第1出力部材29とケーシング3との径方向間にはケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材85が配置されると共に、第1出力部材29の外周にはシール部材85を保護するダストカバー87が配置されている。
【0047】
一対のサイドギヤ73,75のうちサイドギヤ73に連結される第2出力部材31は、連結部81を介してサイドギヤ73と一体回転可能に配置される入力部89と、出力側の部材と一体回転可能に連結される出力部91とを備えている。
【0048】
入力部89は、サイドギヤ73側が軸部93で形成されると共に、後述する断続機構33側が断続機構33を構成するクラッチハウジング95で軸部93と連続する一部材で形成されている。
【0049】
この入力部89は、軸部93の外周が連結部81を介してサイドギヤ73と一体回転可能に連結される。このような入力部89のクラッチハウジング95側の回転軸心部には、出力部91が入力部89と相対回転可能に配置されている。
【0050】
出力部91は、軸状に形成され、外周で後述する断続機構33を構成するクラッチハブ97を径方向に挟んでベアリング99を介して入力部89と相対回転可能にケーシング3に支持されている。
【0051】
この出力部91とケーシング3との径方向間にはケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材101が配置されると共に、出力部91の外周にはシール部材101を保護するダストカバー103が配置されている。
【0052】
このような第2出力部材31を構成する入力部89と出力部91との間の動力伝達は、断続機構33によって断続される。
【0053】
断続機構33は、ケーシング3内の断続機構側収容部39に収容され、クラッチハウジング95と、クラッチハブ97と、断続部105と、アクチュエータ107とを備えている。
【0054】
クラッチハウジング95は、筒状に形成され、上述したように第2出力部材31の入力部89を構成する一部分であり、差動機構27のサイドギヤ73と一体回転可能に配置される。
【0055】
このクラッチハウジング95の外周には、径方向に貫通する油孔が設けられており、クラッチハウジング95内に流入した潤滑油を遠心力によってケーシング3内に排出する。
【0056】
なお、クラッチハウジング95とケーシング3との軸方向間には、後述する断続部105の接続におけるスラスト力を受けると共に、ケーシング3に対するクラッチハウジング95の回転を許容するスラストベアリングが配置されている。
【0057】
クラッチハブ97は、中空軸状に形成され、クラッチハウジング95の内径側に軸方向の両側でベアリング99,109を介してクラッチハウジング95と相対回転可能にケーシング3に支持されている。
【0058】
このクラッチハブ97の軸方向一側は、フランジ状に形成され、このフランジ部分に径方向に貫通する油孔が設けられており、断続機構33の軸心側に流入された潤滑油を遠心力によってクラッチハウジング95側に向けて排出する。
【0059】
このようなクラッチハブ97は、内周にスプライン形状の連結部111が形成され、第2出力部材31の出力部91が一体回転可能に連結されている。
【0060】
このようなクラッチハウジング95とクラッチハブ97との間には、断続部105が設けられており、クラッチハウジング95とクラッチハブ97との間、すなわちサイドギヤ73と第2出力部材31の出力部91との間の動力伝達が断続される。
【0061】
断続部105は、クラッチハウジング95とクラッチハブ97との径方向間に配置され、複数の外側クラッチ板と、複数の内側クラッチ板とで構成される多板クラッチからなる。
【0062】
複数の外側クラッチ板は、クラッチハウジング95の内周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でクラッチハウジング95と一体回転可能に係合されている。
【0063】
複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、クラッチハブ97のフランジ部分の外周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でクラッチハブ97と一体回転可能に係合されている。
【0064】
この断続部105は、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の摩擦クラッチからなり、クラッチハウジング95とクラッチハブ97との間の動力伝達を断続する。このような断続部105は、アクチュエータ107によって作動される。
【0065】
アクチュエータ107は、電動モータ113と、減速機構115と、カム機構23と、押圧部材117とを備えている。
【0066】
電動モータ113は、ケーシング3の外側に組付けられ、ケーシング3の内部にモータ軸が配置されている。なお、モータ軸とケーシング3との径方向間には、ケーシング3の内部と外部とを区画するシール部材121が配置されている。
【0067】
この電動モータ113は、車両に搭載され車両の状況を送信する各種センサ(不図示)からの信号を受信可能なコントローラ(不図示)に接続され、コントローラによって制御可能に作動される。
【0068】
このような電動モータ113のモータ軸から出力される回転は、減速機構115によって減速される。
【0069】
減速機構115は、ケーシング3に回転可能に軸支されたギヤ部材119を有し、電動モータ113のモータ軸と、ギヤ部材119に形成された大径ギヤと、ギヤ部材119に形成された小径ギヤと、カム機構23の回転部材5の外周に形成されたギヤとからなる。
【0070】
この減速機構115は、電動モータ113のモータ軸とギヤ部材119の大径ギヤとが噛み合い、ギヤ部材119の小径ギヤと回転部材5のギヤとが噛み合い、電動モータ113から回転部材5までの動力伝達経路を2段減速としている。
【0071】
このような減速機構115は、電動モータ113の作動による回転を減速し、回転部材5を回転させ、この回転部材5の回転がカム機構23によって軸方向推力に変換される。なお、減速機構115が位置するケーシング3の開口には、閉塞部材123が組付けられ、ケーシング3内が閉塞されている。
【0072】
カム機構23は、ボールカム機構であり、回転部材5と固定部材7とに周方向に形成された複数のカム21(図4参照)を軸方向に対向させ、これらのカム21間に介在されたカムボール125からなる。
【0073】
回転部材5は、環状に形成された回転側プレートであり、固定部材7と押圧部材117との軸方向間に軸方向移動可能で固定部材7及び押圧部材117と相対回転可能に配置されている。
【0074】
なお、回転部材5と押圧部材117との軸方向間には、回転部材5と押圧部材117との相対回転を許容すると共に、回転部材5の軸方向移動を押圧部材117に伝達させるスラストベアリングが配置されている。
【0075】
この回転部材5の外径側には、減速機構115のギヤ部材119の小径ギヤと噛み合うギヤが形成されており、電動モータ113の作動により減速機構115で減速された回転により回転部材5が回転される。
【0076】
固定部材7は、環状に形成された固定側プレートであり、ケーシング3と回転部材5との軸方向間に配置され、ケーシング3に設けられた被係合部127(図3参照)に回り止め部15が回転方向に係合して回転不能に配置されている。
【0077】
この固定部材7と回転部材5との軸方向の対向面には、それぞれ周方向に形成された複数のカム21が形成され、これらのカム21間にはカムボール125が介在されている。
【0078】
カムボール125は、回転部材5の回転によって固定部材7と回転部材5との間に差回転が生じることにより、回転部材5を押圧部材117側へ軸方向押圧移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0079】
押圧部材117は、環状に形成され、回転部材5と断続部105との軸方向間に配置され、クラッチハウジング95の内周に形成された係合部に軸方向移動可能でクラッチハウジング95と一体回転可能に係合されている。
【0080】
この押圧部材117は、回転部材5の回転によって、カム機構23で変換された軸方向推力により回転部材5が押圧部材117側に軸方向移動することにより、断続部105の接続方向に軸方向移動され、断続部105の複数のクラッチ板を押圧して断続部105を接続させる。
【0081】
このように構成された動力伝達機構9では、電動モータ113の作動により回転部材5が回転され、この回転がカム機構23に伝達される。このカム機構23に伝達された回転は、軸方向推力に変換され、回転部材5を断続部105側に移動させる。
【0082】
この回転部材5の軸方向移動により、押圧部材117が断続部105の接続方向に軸方向移動され、押圧部材117が断続部105の複数のクラッチ板を押圧して、クラッチハウジング95とクラッチハブ97、すなわち第2出力部材31の入力部89と出力部91との間で制御された動力を伝達するように断続部105が接続される。
【0083】
この断続部105の接続により、差動機構27のサイドギヤ73と第2出力部材31の出力部91との間の動力伝達が可能となり、入力部材25から差動機構27に伝達された駆動力が第2出力部材31を介して出力側の部材に出力される。
【0084】
一方、断続部105の接続は、電動モータ113を逆回転させることにより回転部材5が断続部105の接続解除方向に軸方向移動され、この回転部材5の移動により押圧部材117による複数のクラッチ板の押圧が解除されて複数の外側クラッチ板と複数の内側クラッチ板とが相対回転可能となって解除される。
【0085】
この断続部105の接続解除により、クラッチハウジング95とクラッチハブ97、すなわち第2出力部材31の入力部89と出力部91との間の動力伝達が遮断され、差動機構27のサイドギヤ73と第2出力部材31の出力部91との間の動力伝達が遮断され、例えば、車両の走行による出力側の部材としての一方の車輪の回転が差動機構27に入力されることがない。
【0086】
一方、例えば、第1出力部材29側の車両の走行による出力側の部材としての他方の車輪の回転により、差動機構27のサイドギヤ75が回転され、ピニオン71を介してサイドギヤ73が回転されるが、サイドギヤ73と一方の車輪との間の動力伝達が遮断されているので、一対のサイドギヤ73,75は相対回転される。
【0087】
このため、車両の走行による左右車輪の回転によってデフケース67が回転されることがなく、ギヤ組61が回転されることがないので、入力部材25や入力側の部材などの無駄な回転系を削減でき、車両の燃費向上を図ることができる。
【0088】
このような動力伝達機構9において、ケーシング3内には、差動機構27や断続機構33などの複数の回転部材が収容されており、複数の回転部材の回転によりケーシング3の内圧が異常に上昇してしまうことがある。
【0089】
そこで、動力伝達機構9には、ケーシング3内部と大気側とを連通させるブリーザ構造1が適用されている。以下、図1図6を用いて本発明の実施の形態に係るブリーザ構造1について説明するが、本実施の形態においては、ケーシング3の断続機構側収容部39にブリーザ構造1が適用されたものとして説明する。
【0090】
図1図6に示すように、ブリーザ構造1は、ブリーザ室11と、開口部13と、カバー部17とを備えている。
【0091】
ブリーザ室11は、ケーシング3の第2ケース部分41に設けられ、カム機構23における固定側プレートである固定部材7と隣接して配置されている。
【0092】
このブリーザ室11には、ケーシング3の外部と連通して設けられた貫通孔129に、所定の圧力によってケーシング3の内部と外部とを連通させるプラグ131が設けられている。
【0093】
開口部13は、カム機構23の固定部材7と隣接して配置され、ブリーザ室11をケーシング3の内部と連通するように開口させる。
【0094】
この開口部13は、隣接配置された固定部材7の回り止め部15に設けられたカバー部17によって、その大部分が覆われる。
【0095】
カバー部17は、固定部材7の周方向の1箇所に外方に向けて突設された回り止め部15の外形となっている。
【0096】
このカバー部17は、回り止め部15がケーシング3の被係合部127に固定部材7の回転方向に係合して固定部材7をケーシング3に対して回転不能、すなわち回り止めした状態で、ブリーザ室11の開口部13の大部分を覆う。
【0097】
このカバー部17で開口部13を覆った状態では、カバー部17の外径と開口部13との間に僅かな隙間が設定されており、ブリーザ室11とケーシング3の内部とが連通された状態となっている。
【0098】
このようにカバー部17でブリーザ室11の開口部13を覆うことにより、潤滑油を受けるための別部材を設けることなく、ケーシング3の内部に収容された潤滑油がブリーザ室11内に流入することを抑制することができる。
【0099】
なお、ブリーザ室11の開口部13は、重力方向と反対側である上方に位置されており、潤滑油がブリーザ室11内に流入され難くされている。
【0100】
ここで、ブリーザ室11には、内部に流入された潤滑油をケーシング3の内部に戻すリターン穴19が設けられている。
【0101】
このリターン穴19の出口は、第2出力部材31の出力部91やクラッチハブ97を支持するベアリング99近傍に向けて開口されており、摺動部の潤滑性が向上されている。
【0102】
このようなブリーザ構造1では、固定部材7に設けられた回り止め部15が、ケーシング3に対して回転方向に係合して、ブリーザ室11の開口部13を覆うカバー部17を有するので、固定部材7の回り止め部15のカバー部17によってブリーザ室11内に潤滑油が流入することを抑制できる。
【0103】
このため、開口部13を覆うための別部材を設けたり、開口部13までの経路を複雑化する必要がなく、簡易な構造で内圧の上昇による潤滑油のケーシング3外部への噴き出しを防止することができる。
【0104】
また、ブリーザ室11の開口部13に合わせて固定部材7の回り止め部15を配置させ、この回り止め部15を開口部13を覆うカバー部17とすればよいので、ブリーザ室11の開口部13近傍に位置する固定部材7によって容易に対応することができ、ブリーザ構造1の配置自由度を向上することができる。
【0105】
従って、このようなブリーザ構造1では、ケーシング3に対して回転方向に係合する固定部材7の回り止め部15をブリーザ室11の開口部13を覆うカバー部17とするので、簡易な構造で配置自由度を向上することができる。
【0106】
また、ブリーザ室11には、内部に流入された潤滑油をケーシング3の内部に戻すリターン穴19が設けられているので、ブリーザ室11内に潤滑油が溜められることがなく、ケーシング3内の潤滑油量に変動を与えることがない。
【0107】
さらに、固定部材7は、カム機構23における固定側プレートであり、回転部材5は、カム機構23における回転側プレートであるので、差回転を必要とするカム機構23の固定部材7の回り止め部15を用いることで、構造を簡易化することができる。
【0108】
なお、本発明の実施の形態に係る動力伝達装置では、ケーシングの内部が、シール部材によって差動機構側収容部と断続機構側収容部とに区画され、それぞれ異なる種類の潤滑油が収容されているが、これに限らず、ケーシングの内部を差動機構側収容部と断続機構側収容部とに区画させずに、同一の潤滑油によって差動機構と断続機構とを潤滑・冷却するようにしてもよい。
【0109】
また、固定部材は、カム機構における固定側プレートとなっているが、これに限らず、ブリーザ室に隣接配置された固定部材の回り止め部が開口部を覆うカバー部を有すれば、固定部材はどのような部材であってもよい。
【0110】
さらに、アクチュエータは、モータ・ギヤ・カム機構となっているが、これに限らず、電磁式アクチュエータ、油圧シリンダ・ピストン機構、モータ・シフトロッド機構、エアダイアフラムなど、種々のアクチュエータを利用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1…ブリーザ構造
3…ケーシング
5…回転部材
7…固定部材
9…動力伝達機構
11…ブリーザ室
13…開口部
15…回り止め部
17…カバー部
19…リターン穴
21…カム
23…カム機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6