【文献】
Shusta E V et al.,Nature Biotechnology,2000年,Vol. 18,pp. 754-759
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記TCRが、(a)TCRのα鎖の全部または一部(ただしその膜貫通ドメインを除く)、および、(b)TCRのβ鎖の全部または一部(ただしその膜貫通ドメインを除く)を含み、
ならびに、(a)および(b)が、独立して、機能性可変ドメイン、または、機能性可変ドメインとTCR鎖の定常ドメインの少なくとも一部とを含む、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のTCR。
前記TCRが、可動性ペプチドリンカーによって連結されているTCRのα鎖の可変ドメインおよびTCRのβ鎖の可変ドメインからなる単鎖TCRである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のTCR。
前記TCRが、α鎖およびβ鎖の定常ドメインの配列を有するαβヘテロ二量体TCRであり、および、システイン残基が、α鎖とβ鎖との定常ドメイン間にジスルフィド結合を形成している、請求項4に記載のTCR。
前記TCRに結合されている抱合体が、検出可能なマーカー、治療剤、PK修飾部分またはこれらの組み合わせであり、好ましくは、前記TCRに結合されている治療剤が、前記TCRのα鎖またはβ鎖のC末端またはN末端に連結されている抗CD3抗体である、請求項10に記載のTCR。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、高安定性のT細胞受容体を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、前記高安定性のT細胞受容体の製法および使用を提供することである。
本発明の第一では、T細胞受容体(T-cell receptor、TCR)であって、
(i)前記TCRの疎水コア領域に突然変異があり、かつ
(ii)前記TCRの安定性はその相応する疎水コアが野生型のTCRよりも高い、
ことを特徴とする受容体を提供する。
もう一つの好適な例において、前記「突然変異」とは、本発明に係るTCRの疎水コア領域は、その相応する野生型のTCR疎水コア領域に対して突然変異があることである。
もう一つの好適な例において、前記の「安定性が高い」とは、本発明のTCRはその相応する疎水コアが野生型のTCRと比べ、安定性が5%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは80%以上向上したことである。
もう一つの好適な例において、前記の「野生型のTCRの疎水コア」とは、天然に生成するTCRにおける疎水コアのアミノ酸残基(配列)と同様で、突然変異のない疎水コアである。
【0011】
もう一つの好適な例において、前記の「その相応する疎水コアが野生型のTCR」とは、本発明の疎水コア領域に突然変異があるTCRと比べ、疎水コアが野生型である以外、ほかの領域が本発明のTCRと同様のTCRである。また、好ましくは、前記の「その相応する疎水コアが野生型のTCR」とは、天然に生成する、突然変異部位のない野生型TCRで、特にα鎖の可変ドメインおよびβ鎖の可変ドメインが野生型のsTv分子で、代表的な例としてLC13-WTを含む。
もう一つの好適な例において、前記TCRのCDR領域が野生型と同様で、または親和力を向上させる突然変異を含有する。
もう一つの好適な例において、前記の親和力とは、当該TCR分子とその相応する抗原の間の結合親和力である。
【0012】
もう一つの好適な例において、前記のT細胞受容体の可変領域のフレームワーク(Framework)および定常領域の位置における側鎖の表面に向く疎水性残基に突然変異が発生した。すなわち、前記TCRの可変ドメインのフレームワークおよび定常領域の位置における表面に露出するアミノ酸残基に突然変異が発生した。好ましくは、前記突然変異の生じたアミノ酸残基はTCRのα鎖および/またはβ鎖の可変ドメインにおける表面に露出するアミノ酸残基である。より具体的に、前記の可変ドメインにおける表面に露出するアミノ酸の位置は、TCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸の4番目、12番目、16番目、93番目、97番目、100番目、105番目およびα鎖のJ遺伝子の後ろから1番目およびTCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸の4番目、101番目、β鎖のJ遺伝子の後ろから1番目およびβ鎖のJ遺伝子の後ろから3番目である。ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGT(国際免疫遺伝情報システム)で示された位置の番号である。
【0013】
もう一つの好適な例において、前記のT細胞受容体の可変領域のフレームワーク(Framework)の側鎖の表面に向く(可変ドメインにおける表面に露出する)疎水性残基の突然変異の様態は、α鎖:I7S、A9S、A10S、V20S、A92E、A93S、J遺伝子の短鎖のアミノ酸の位置における後ろから2番目のIからTへの突然変異、β鎖:I12S、または上記突然変異の任意の組み合わせを含むが、これらに限定されず、 ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。
【0014】
もう一つの好適な例において、前記のT細胞受容体は、可溶性のものである。
もう一つの好適な例において、前記T細胞受容体は、膜タンパク質である。
もう一つの好適な例において、前記T細胞受容体は、(a)膜貫通ドメイン以外の全部または一部のTCRのα鎖、および(b)膜貫通ドメイン以外の全部または一部のTCRのβ鎖を含み、
かつ(a)および(b)はそれぞれ機能性可変ドメインを含み、または機能性可変ドメインおよび前記TCR鎖の定常ドメインの少なくとも一部を含む。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記TCRは、一つの可動性ペプチド鎖でTCRのαおよびβ鎖の可変ドメインを連結してなる一本鎖TCRである。
もう一つの好適な例において、前記の突然変異には、少なくとも一つの疎水コア部位の突然変異が含まれる。
もう一つの好適な例において、前記のT細胞受容体は、αおよび/またはβ鎖のアミノ酸配列の可変領域の疎水コア位置、すなわち、可変領域のアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、94番目、および/またはα鎖のJ遺伝子の短鎖のアミノ酸の位置における後ろから3、5、7番目および/またはβ鎖のJ遺伝子の短鎖のアミノ酸の位置における後ろから2、4、6番目の位置に一つまたは複数の突然変異があり、ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGT(国際免疫遺伝情報システム)で示された位置の番号である。
もう一つの好適な例において、前記TCRのα鎖の可変ドメインは、α鎖の可変領域のアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91または94番目、および/またはα鎖のJ遺伝子の短鎖のアミノ酸の位置における後ろから3、後ろから5または後ろから7番目のうちの一つまたは複数の位置に突然変異があり、ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGT(国際免疫遺伝情報システム)で示された位置の番号である。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記TCRは、配列番号9または配列番号29または配列番号31または配列番号33で表されるα鎖の可変ドメインの11、13、19、21、53、76、89、91または94番目、および/またはα鎖のJ遺伝子の短鎖のアミノ酸の位置における後ろから3番目、後ろから5番目または後ろから7番目のうちの一つまたは複数の位置に突然変異があり、ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。
もう一つの好適な例において、前記TCRのβ鎖の可変ドメインは、β鎖の可変領域のアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91または94番目、および/またはβ鎖のJ遺伝子の短鎖のアミノ酸の位置における後ろから2番目、後ろから4番目または後ろから6番目のうちの一つまたは複数の位置に突然変異があり、ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。
もう一つの好適な例において、前記TCRは、配列番号11または配列番号30または配列番号32または配列番号34で表されるβ鎖の可変ドメインの11、13、19、21、53、76、89、91または94番目、および/またはβ鎖のJ遺伝子の短鎖のアミノ酸の位置における後ろから2、後ろから4または後ろから6番目のうちの一つまたは複数の位置に突然変異があり、ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記TCRのα鎖の可変ドメインは、11L、11Mまたは11E、13V、13Rまたは13K、19V、21I、91Lまたは91I、94Vまたは94Iからなる群から選ばれる一つまたは複数のアミノ酸残基を含み、かつ/または前記TCRのβ鎖の可変領域は、11Lまたは11V、13V、19V、89L、91Fまたは91I、94Vまたは94L、β鎖のJ遺伝子の後ろから6番目のTおよびβ鎖のJ遺伝子の後ろから4番目のMからなる群から選ばれる一つまたは複数のアミノ酸残基を含み、ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。
もう一つの好適な例において、前記TCRのα鎖および/またはβ鎖の可変ドメインにおける表面に露出するアミノ酸残基に突然変異が発生した。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記TCRは、4L、12N、16S、93Nまたは93R、97N、100G、105S、およびα鎖のJ遺伝子の後ろから1番目のDからなる群から選ばれる一つまたは複数のα鎖の可変ドメインのアミノ酸残基を含み、かつ/または前記TCRは、11Lまたは4I、101L、β鎖のJ遺伝子の後ろから1番目のDおよびβ鎖のJ遺伝子の後ろから3番目のEからなる群から選ばれる一つまたは複数のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸残基を含む。
もう一つの好適な例において、前記TCRは、配列番号15、17、35、37、39、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、97、99、101、103、105および107のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列の一つを含む。
もう一つの好適な例において、前記TCRは、配列番号16、18、36、38、40、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、98、100、102、104、106および108のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列の一つを含む。
【0019】
もう一つの好適な例において、前記TCRのα鎖の可変ドメインとβ鎖の可変ドメインの組み合わせは、以下の組み合わせから選ばれる一つである。
(a)配列番号15のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号16のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(b)配列番号17のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号18のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(c)配列番号15のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号18のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(d)配列番号35のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号36のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(e)配列番号37のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号38のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(f)配列番号39のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号40のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(g)配列番号75のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号86のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(h)配列番号76のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号87のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(i)配列番号77のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号88のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
【0020】
(j)配列番号78のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号89のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(k)配列番号79のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号90のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(l)配列番号80のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号91のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(m)配列番号81のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号92のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(n)配列番号82のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号93のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(o)配列番号83のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号94のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(p)配列番号84のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号95のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(q)配列番号85のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号96のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
【0021】
(r)配列番号97のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号98のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(s)配列番号99のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号100のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(t)配列番号101のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号102のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(u)配列番号103のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号104のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(v)配列番号105のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号106のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列、
(w)配列番号107のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列および配列番号108のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列。
【0022】
もう一つの好適な例において、前記T細胞受容体のα鎖の可変領域の疎水コアには、19番目のアミノ酸のVへの突然変異、21番目のアミノ酸のIへの突然変異、91番目のアミノ酸のLへの突然変異のうちの少なくとも一つの突然変異があり、かつ/またはβ鎖の可変領域の疎水コアには、91番目のアミノ酸のFまたはIへの突然変異があり、かつ/またはβ鎖のJ遺伝子の短鎖ペプチドのアミノ酸配列の後ろから4番目のアミノ酸のMへ突然変異がある。
【0023】
もう一つの好適な例において、前記の突然変異は、
(i)α鎖の可変領域の19番目のアミノ酸のVへの突然変異、21番目のアミノ酸のIへの突然変異、91番目のアミノ酸のLへの突然変異、β鎖の可変領域の91番目のアミノ酸のFへの突然変異、β鎖のJ遺伝子の短鎖ペプチドのアミノ酸配列の後ろから4番目のアミノ酸のMへの突然変異、あるいは
(ii)α鎖の可変領域の19番目のアミノ酸のVへの突然変異、21番目のアミノ酸のIへの突然変異、β鎖の可変領域の91番目のアミノ酸のIへの突然変異、あるいは
(iii)α鎖の可変領域の19番目のアミノ酸のVへの突然変異、21番目のアミノ酸のIへの突然変異、91番目のアミノ酸のLへの突然変異、β鎖の可変領域の91番目のアミノ酸のIへの突然変異、
からなる群から選ばれる。
【0024】
もう一つの好適な例において、前記T細胞受容体のα鎖の可変領域の疎水コアには、L19V、L21I、I91Lのうちの少なくとも一つの突然変異があり、かつ/またはβ鎖の可変領域の疎水コアには、V91FまたはV91Iのうちの少なくとも一つの突然変異があり、かつ/またはβ鎖のJ遺伝子の短鎖ペプチドのアミノ酸配列の後ろから4番目のアミノ酸のLからMへの突然変異がある。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記の突然変異は、
(i)α鎖の可変領域のL19V、L21I、I91L、β鎖の可変領域のV91F、β鎖のJ遺伝子の短鎖ペプチドのアミノ酸配列の後ろから4番目のアミノ酸のLからMへの突然変異、あるいは
(ii)α鎖の可変領域のL19V、L21I、β鎖の可変領域のV91I、あるいは
(iii)α鎖の可変領域のL19V、L21I、I91L、β鎖の可変領域のV91I、
からなる群から選ばれ、
ここで、アミノ酸の位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記のT細胞受容体は、さらに、TCRのα鎖の定常領域とβ鎖の定常領域を連結するジスルフィド結合を有する。
もう一つの好適な例において、前記のジスルフィド結合は、TCRに天然に存在するものまたは人工的に導入されたものである。
もう一つの好適な例において、前記の人工的に導入されたジスルフィド結合は、TCRのαとβ鎖の定常ドメインの間に位置する。
【0027】
もう一つの好適な例において、前記の人工的に導入された、鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基で置換された少なくとも1対のαとβ鎖のアミノ酸残基の位置は、
(a)TCRのα鎖の定常領域の48番目のTおよびTCRのβ鎖の定常領域の57番目のS、あるいは
(b)TCRのα鎖の定常領域の45番目のTおよびTCRのβ鎖の定常領域の77番目のS、あるいは
(c)TCRのα鎖の定常領域の10番目のTおよびTCRのβ鎖の定常領域の17番目のS、あるいは
(d)TCRのα鎖の定常領域の45番目のTおよびTCRのβ鎖の定常領域の59番目のD、あるいは
(e)TCRのα鎖の定常領域の15番目のSおよびTCRのβ鎖の定常領域の15番目のE、あるいは
(f)TCRのα鎖の定常領域の61番目のSおよびTCRのβ鎖の定常領域の57番目のS、あるいは
(g)TCRのα鎖の定常領域の50番目のLおよびTCRのβ鎖の定常領域の57番目のS、あるいは
【0028】
(h)TCRのα鎖の定常領域の15番目のSおよびTCRのβ鎖の定常領域の13番目のV、あるいは
(i)TCRのα鎖の定常領域の12番目のLおよびTCRのβ鎖の定常領域の17番目のS、あるいは
(j)TCRのα鎖の定常領域の61番目のSおよびTCRのβ鎖の定常領域の79番目のR、あるいは
(k)TCRのα鎖の定常領域の12番目のLおよびTCRのβ鎖の定常領域の14番目のF、あるいは
(l)TCRのα鎖の定常領域の22番目のVおよびTCRのβ鎖の定常領域の14番目のF、あるいは
(m)TCRのα鎖の定常領域の43番目のYおよびTCRのβ鎖の定常領域の63番目のL、あるいは
(n)TCRのα鎖の定常領域の10番目のYおよびTCRのβ鎖の定常領域の17番目のS、
を含むが、これらに限定されない。
【0029】
ここで、TCRのα鎖とβ鎖の定常領域における置換されたアミノ酸の位置の番号は、「結晶化および治療のための安定した可溶性T細胞受容体」(Stable, souble T-cell receptor molecules for crystallization and therapeutics)(Jonathan M.Boulterら,2003,タンパク質工学(Protein Engineering)16(9):707-711)に記載された位置番号である。
もう一つの好適な例において、前記のT細胞受容体は、ファージディスプレイ技術によって選別されたものである。
もう一つの好適な例において、前記のT細胞受容体は、抱合体と(共役またはほかの様態で)結合している。
もう一つの好適な例において、前記抱合体は、
(1)検出可能なマーカー、
(2)治療剤、および/または
(3)PK修飾部分、
からなる群から選ばれる1つまたは2つ以上である。
【0030】
好ましくは、前記検出可能なマーカーは、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(コンピューターX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成させる酵素を含む。
好ましくは、前記治療剤は、放射性核種、生物毒素、サイトカイン(たとえばIL-2など)、抗体、抗体Fc断片、抗体scFv断片、金ナノ粒子/ナノロッド、ウイルス粒子、リポソーム、磁性ナノ粒子、プロドラッグ活性化酵素(たとえば、DT-ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニル ヒドロラーゼ様蛋白質(BPHL))、化学治療剤(たとえば、シスプラチン)または任意の様態のナノ粒子などを含む。
もう一つの好適な例において、前記抱合体は、前記TCRのα鎖および/またはβ鎖のC末端またはN末端に連結した抗CD3抗体である。
【0031】
本発明の第二では、本発明の第一に記載のいずれかのT細胞受容体をコードするものまたはその相補配列を含む核酸分子を提供する。
本発明の第三では、本発明の第二に記載の核酸分子を含むベクターを提供する。
本発明の第四では、宿主細胞または遺伝形質転換のエンジニアリング細胞であった、本発明の第三に記載のベクターを含むか、あるいは染色体に外来の本発明の第二に記載の核酸分子が組み込まれた細胞を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の宿主細胞は、原核細胞および真核細胞、例えば大腸菌、酵母細胞、CHO細胞などから選ばれる。
【0032】
本発明の第五では、本発明の第一に記載のT細胞受容体を製造する方法であって、
(i)本発明の第四に記載の宿主細胞を培養し、本発明に係るT細胞受容体を発現する工程と、
(ii)前記のT細胞受容体を分離または精製する工程と、
を含む方法を提供する。
本発明の第六では、本発明の第一に記載のいずれかのT細胞受容体を含むことを特徴とするT細胞受容体複合体を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の複合体は、本発明のT細胞受容体と治療剤の結合で形成された複合体、または本発明のT細胞受容体と検出可能なマーカーの結合で形成された複合体を含む。
もう一つの好適な例において、前記の複合体は、2つまたは3つ以上のT細胞受容体分子を含む。
【0033】
本発明の第七では、腫瘍、ウイルス感染または自己免疫疾患を治療する薬物の製造に使用される、本発明の上記のT細胞受容体の使用を提供する。
本発明の第八では、薬学的に許容される担体と安全有効量の本発明の第一に記載のいずれかのT細胞受容体を含む薬物組成物を提供する。
本発明の第九では、治療が必要な対象に本発明の第一に記載のいずれかのT細胞受容体、または本発明の第六に記載のT細胞受容体複合体、または本発明の第八に記載の薬物組成物を施用することを含む疾患を治療する方法を提供する。
もう一つの好適な例において、前記の疾患は、腫瘍、自己免疫疾患およびウイルス感染性疾患を含む。
【0034】
本発明の第十では、本発明の第一に記載のT細胞受容体を製造する方法であって、
(i)T細胞受容体の疎水コア領域にアミノ酸残基の突然変異を導入する工程と、
(ii)安定性が顕著に向上したT細胞受容体を選別し、本発明の第一に記載のT細胞受容体を得る工程と、
を含む方法を提供する。
もう一つの好適な例において、前記選別方法は、ファージディスプレイ技術を含むが、これに限定されない。
もう一つの好適な例において、工程(ii)では、ファージディスプレイ技術によって疎水コア領域に突然変異があるT細胞受容体をディスプレイし、選別する。
もう一つの好適な例において、前記方法は、さらに、選別されたT細胞受容体の配列、活性および/またはほかの特性を測定する工程を含む。
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(例えば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好ましい技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、癌抗原MAGE A3 HLA A1に特異的な野生型TCRである、典型的なTCRの可変ドメインの構造の概略図を示す。
【
図2AB】
図2aおよび2bは、それぞれ部位特異的突然変異後のTCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す(配列番号9および10)。前記アミノ酸配列は、特許文献(WO2012/013913)で公開されたTCRのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列をさらに最適化し、より具体的に、可変ドメインにおける表面に露出する疎水性残基を親水性または極性の残基に突然変異させたものである。ここで、太字で下線のアルファベットは突然変異後のアミノ酸残基である。
【
図3AB】
図3aおよび3bは、それぞれ部位特異的突然変異後のTCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す(配列番号11および12)。前記アミノ酸配列は、特許文献(WO2012/013913)で公開されたTCRのβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列をさらに最適化し、より具体的に、可変ドメインにおける表面に露出する疎水性残基を親水性または極性の残基に突然変異させたものである。ここで、太字で下線のアルファベットは突然変異後のアミノ酸残基である。
【0036】
【
図4】
図4は、MAGE-sTv-WTを構築する時の各プライマーの連結様態である。
【
図5AB】
図5aおよび5bは、それぞれsTv突然変異株ライブラリーを構築する時のα鎖とβ鎖の連結物のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列である(配列番号13および14)。
【
図6AB】
図6aおよび6bは、それぞれsTv突然変異株MG29のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列で(配列番号15および16)、MAGE-sTv-WTに対し、突然変異の残基は下線の太字で示される。
【
図7AB】
図7aおよび7bは、それぞれsTv突然変異株P8F1のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列で(配列番号17および18)、MAGE-sTv-WTに対し、突然変異の残基は下線の太字で示される。
【
図8AB】
図8aおよび8bは、それぞれsTv突然変異株P8F2のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列で(配列番号15および18)、MAGE-sTv-WTに対し、突然変異の残基は下線の太字で示される。
【
図9】
図9は、選別された異なる突然変異株およびMAGE-sTv-WTの抗原MAGEA3、EBV、Flu、NY-ESOに対するELISAにおける実験OD値である。
【0037】
【
図10AB】
図10aおよび10bは、それぞれLC13-WTのα鎖の可変ドメイン(配列番号29)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号30)のアミノ酸配列である。
【
図11AB】
図11aおよび11bは、それぞれJM22-WTのα鎖の可変ドメイン(配列番号31)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号32)のアミノ酸配列である。
【
図12AB】
図12aおよび12bは、それぞれ1G4-WTのα鎖の可変ドメイン(配列番号33)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号34)のアミノ酸配列である。
【
図13AB】
図13aおよび13bは、それぞれLC13-sTvのα鎖の可変ドメイン(配列番号35)およびLC13-sTvのβ鎖の可変ドメイン(配列番号36)のアミノ酸配列である。
【0038】
【
図14AB】
図14aおよび14bは、それぞれJM22-sTvのα鎖の可変ドメイン(配列番号37)およびJM22-sTvのβ鎖の可変ドメイン(配列番号38)のアミノ酸配列である。
【
図15AB】
図15aおよび15bは、それぞれ1G4-sTvのα鎖の可変ドメイン(配列番号39)および1G4-sTvのβ鎖の可変ドメイン(配列番号40)のアミノ酸配列である。
【
図16】
図16は、sTv一本鎖分子の構築に使用される連結短鎖ペプチド(linker)のアミノ酸配列である(配列番号41)。
【
図17】
図17は、精製後のタンパク質LC13-WTとLC13-sTvのSDS-PAGEゲルの図である。 レーン1:分子量マーカー、レーン2:LC13-WT、レーン3:LC13-sTv。
【0039】
【
図19】
図19は、精製後のタンパク質JM22-WTとJM22-sTvのSDS-PAGEゲルの図である。 レーン1:分子量マーカー、レーン2:JM22-WT、レーン3:JM22-sTv。
【
図21】
図21は、精製後のタンパク質1G4-WTと1G4-sTvのSDS-PAGEゲルの図である。レーン1:分子量マーカー、レーン2:1G4-WT、レーン3:1G4-sTv。
【
図23】
図23は、1G4-sTvのアミノ酸配列(配列番号42)。
【
図24】
図24は、1G4-sTv突然変異株の異なる抗原に対するOD値である。
【0040】
【
図25】
図25は、選別で得られた1G4-sTv高安定性突然変異株のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列である(配列番号75-85)。
【
図26】
図26は、選別で得られた1G4-sTv高安定性突然変異株のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列である(配列番号86-96)。
【
図27】
図27は、1G4-sTv高安定性突然変異株のDSC曲線図である。
【
図29AB】
図29aおよび29bは、それぞれ高安定性のG15のα鎖の可変ドメイン(配列番号97)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号98)のアミノ酸配列である。
【
図30】
図30は、精製後のタンパク質1G4-WT、1G4-sTv、G13、G15、G9のSDS-PAGEゲルの図である。 レーン1:分子量マーカー、レーン2:1G4-WT、レーン3:1G4-sTv、レーン4:G13、レーン5:G15、レーン6:分子量マーカー、レーン7:G9。
【0041】
【
図31AB】
図31a、31bおよび31cは、それぞれ精製後のタンパク質G9、G13およびG15のSECすベクトルである。
【
図32AB】
図32aおよび32bは、それぞれLC13-G9のα鎖の可変ドメイン(配列番号99)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号100)のアミノ酸配列である。
【
図33AB】
図33aおよび33bは、それぞれLC13-G15のα鎖の可変ドメイン(配列番号101)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号102)のアミノ酸配列である。
【
図34AB】
図34aおよび34bは、それぞれJM22-G9のα鎖の可変ドメイン(配列番号103)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号104)のアミノ酸配列である。
【
図35AB】
図35aおよび35bは、それぞれJM22-G15のα鎖の可変ドメイン(配列番号105)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号106)のアミノ酸配列である。
【
図36】
図36は、精製後のタンパク質LC13-WT、LC13-sTv、LC13-G15、LC13-G9のSDS-PAGEゲルの図である。 レーン1:分子量マーカー、レーン2:LC13-WT、レーン3:LC13-sTv、レーン4:LC13-G15、レーン5:分子量マーカー、レーン6:LC13-G9。
【0042】
【
図37】
図37は、精製後のタンパク質LC13-G9のSECスペクトルである。
【
図38】
図38は、精製後のタンパク質LC13-G15のSECスペクトルである。
【
図39】
図39は、精製後のタンパク質JM22-WT、JM22-sTv、JM22-G15、JM22-G9のSDS-PAGEゲルの図である。 レーン1:分子量マーカー、レーン2:JM22-WT、レーン3:JM22-sTv、レーン4:JM22-G15、レーン5:JM22-G9。
【
図40】
図40は、精製後のタンパク質JM22-G9のSECスペクトルである。
【
図41】
図41は、精製後のタンパク質JM22-G15のSECスペクトルである。
【
図42AB】
図42aおよび42bは、それぞれMAGE-G15のα鎖の可変ドメイン(配列番号107)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号108)のアミノ酸配列である。
【0043】
【
図43】
図43は、精製後のタンパク質MAGE-G15のSDS-PAGEゲルの図である。レーン1:分子量マーカー、レーン2:MAGE-G15。
【
図44】
図44は、精製後のタンパク質MAGE-G15のSECスペクトルである。
【
図45】
図45は、精製後のタンパク質MAGE-G15のDSC曲線図である。
【
図46】
図46は、精製後のタンパク質G15のDSC曲線図である。
【
図47】
図47は、精製後のタンパク質LC13-sTvのDSC曲線図である。
【
図48AB】
図48aおよび48bは、それぞれ精製後のタンパク質JM22-WTおよびJM22-sTvのDSC曲線図である。
【
図49AB】
図49aおよび49bは、それぞれ精製後のタンパク質LC13-G9およびLC13-G15のDSC曲線図である。
【0044】
具体的な実施形態
本発明者は、幅広く深く研究したところ、初めて、T細胞受容体の疎水コア領域に対して特定の突然変異を発生させることによって、意外に高安定性の突然変異型TCR、特に可溶性TCRを得ることができることを見出した。これに基づき、本発明を完成させた。
本発明者は、最適化したTCRのタンパク質構造を使用し、TCRの疎水コアを変えることによって、高安定性のTCR分子を構築した。本発明は、新規な一本鎖TCRの可変ドメインを構築し、定向の分子進化法によって、最適な疎水コアを分離した。新規な疎水コアを有するTCR断片は、親水性または極性残基でTCRの可変ドメインにおける表面に露出する疎水残基を置換することによって、さらに改良することができる。
【0045】
用語
TCR
天然のα-βヘテロ二量体のTCRは、α鎖およびβ鎖を有する。広義的に、各鎖は、可変領域、連結領域および定常領域を含み、β鎖は、通常、さらに可変領域と連結領域の間に短い多変領域を含むが、この多変領域は通常連結領域の一部と見なされる。各可変領域の3つのCDR(相補性決定領域)は可変領域のフレームワーク(framework)に嵌まり、疎水コアも可変領域のフレームワークの中に位置する。α鎖の可変領域(Vα)は数種類に分かれ、β鎖の可変領域(Vβ)も数種類に分かれる。国際免疫遺伝情報システム(IMGT)において、唯一のTRAV番号およびTRBV番号でそれぞれVαの種類およびVβの種類を表し、TRAJおよびTRBJはTCRの連結領域を表す。本発明で使用されるα鎖のJ遺伝子はTRAJを指し、β鎖のJ遺伝子はTRBJを指す。TCRのα鎖およびβ鎖は、通常、それぞれ2つの「ドメイン」、すなわち、「可変ドメイン」および「定常ドメイン」を有するとされる。可変ドメインは連結した可変領域と連結領域で構成される。そのため、本願の明細書および請求の範囲において、用語「TCRのα鎖の可変ドメイン」とは連結したTRAVとTRAJを、用語「TCRのβ鎖の可変ドメイン」とは連結したTRBVとTRBJを表す。
【0046】
IMGTで開示されたTCRのアミノ酸配列およびその可変ドメインフレームワーク(framework)、ならびに疎水コアの位置のIMGTにおける具体的な位置番号は、TCRの分野の当業者に知られており、かつ得られるものである。たとえば、IMGTの公開データベースで見つかる。本発明において、前記TCRのアミノ酸の位置番号は、別途に説明しない限り、いずれもIMGTで示された位置番号である。今後IMGTで示された位置番号が変更する場合、2013年1月1日のバージョンのIMGTで示されたTCRのアミノ酸の位置番号に準ずる。
【0047】
ここで用いられるように、用語「疎水コア」とは、「疎水核心」とも呼ばれ、あるタンパク質が水に溶解する場合、タンパク質のドメインのうち、通常、その分子構造の内部に含まれ、大半が疎水性アミノ酸で構成されるコア領域である。TCRにおいて、TCRのα鎖の可変ドメインの疎水コアは可変領域のアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、94番目およびα鎖のJ遺伝子(TRAJ)の短鎖ペプチドのアミノ酸の位置の後ろから3、5、7番目で、TCRのβ鎖の可変ドメインの疎水コアは可変領域のアミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、94番目およびβ鎖のJ遺伝子(TRAJ)の短鎖ペプチドのアミノ酸の位置の後ろから2、4、6番目である。上記位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。
【0048】
図1に示すように、癌抗原MAGE A3 HLA A1に特異的な野生型TCRの可変ドメインの構造の概略図で、概略図の左下および右下の2つの楕円における太字のアミノ酸残基はそれぞれα鎖およびβ鎖の可変領域のフレームワーク(framework)の位置の疎水コアである。TCRの抗原結合部位はCDR領域に位置し、TCRとその相応する抗原の結合親和力はCDR領域で決まる。図からわかるように、疎水コアはCDR領域に位置せず、その突然変異はTCRとその相応する抗原の結合および結合親和力に影響を与えないはずであるが、本発明者の研究によれば、疎水コアの変化はTCR分子の安定性に影響する。
もちろん、当該TCRの構造の概略図は本発明を説明するものだけで、何らかの形で本発明の範囲を制限するものではない。
【0049】
用語「sTv」とは、機能ドメインが一つの可動性ペプチド鎖で連結したTCRのα鎖とβ鎖の可変ドメインで構成される一本鎖TCRで、その可動性ペプチド鎖はTCRのα鎖とβ鎖の可変ドメインを連結する任意の適切なペプチド鎖でもよく、ペプチド鎖のアミノ酸残基の数が1〜50個でもよいが、1〜50個に限定されない。
用語「安定性」とは、タンパク質の安定性の任意の面である。オリジナルの野生型のタンパク質と比べ、選別で得られる高安定性タンパク質は、アンフォールディングに対するより高い耐性、不適当または望ましくないフォールディングに対するより高い耐性、より強い再生能力、より強い発現能力、より高いタンパク質再生収率、熱安定性の増加、様々な環境(たとえば、pH値、塩濃度、洗剤の存在、変性剤の存在など)における安定性の増加のうちの一つまたは一つ以上の特徴を有する。
【0050】
ファージディスプレイシステムおよび高安定性のTCRの選別
ファージディスプレイシステムで受容体を分離する場合、通常、2つの重要な性質で最終の受容体を選別するが、一つは受容体とリガンドの結合強度または親和力で、もう一つは受容体のファージの表面におけるディスプレイ密度である。一つ目の性質はタンパク質の親和力が進化する前提で、高親和性受容体のすべての方法論の発展を導く。簡単に説明すると、受容体ディスプレイライブラリーをリガンドに作用させる場合、より高い結合強度を有する受容体がより速い速度および/またはより長い保持時間でリガンドに結合し、より高い強度の洗浄に耐えることができる。そのため、これらの受容体およびそのコード遺伝子が捕獲され、後続の過程で増幅される。一方、受容体-リガンド相互作用の親和力が変化せずまたは変化の程度が大きくない場合、親和力の要素は選別に役立たなくなり、ディスプレイ密度が進化の結果の鍵になる。これは、一つのファージ粒子の上により多い正しくフォルディングした受容体分子がディスプレイされるか、またはより多いファージ粒子に一つまたは複数のこのような受容体がディスプレイされる場合、当該受容体およびコード遺伝子がリガンドと結合するチャンスが多くなり、所定の洗浄条件で当該受容体がより多く留まり、そして捕獲されて後続の選別過程で増幅されることを意味する。二つ目の性質に基づき、ファージディスプレイ技術またはほかの定向の分子ディスプレイ技術でより安定した分子を分離することができる。本発明者は、より安定したタンパク質またはTCRを分離するため、すでにTCRタンパク質疎水コアの定向進化ライブラリーを設計した。このような疎水コアはTCRとそのリガンドpMHCまたはpHLAの結合強度に基本的に影響がないことが実証された。それはTCRがその相補性決定領域(CDR)を介してpMHCと結合するからである。
【0051】
本発明において、ファージディスプレイ技術でより安定したタンパク質構築物を分離することができる。一つの好適な例において、癌抗原MAGE A3 HLA A1に特異的なTCR(以下MAGE A3 TCRと略する)の細胞外ドメインでこの仮設をテストする。特許文献における配列で細胞外ドメインを合成し、糸状ファージの表面に発現されると、TCRとpMHCの結合はELISA(酵素結合免疫吸着測定法)で検出してその相互作用の強度を得ることができる。しかしながら、公開された改良方法では、可変ドメインにおける表面に露出する疎水残基を親水性または極性の残基に突然変異させた後、ELISAでファージでディスプレイされた当該TCRのα鎖とβ鎖の可変ドメインからなる一本鎖TCRの様態(sTv)を検出したところ、結合機能がぜんぜん見られなかった。しかし、当該一本鎖TCR(sTv)の可変ドメインの疎水コアの制限されたランダム突然変異のライブラリーをファージディスプレイ担体にクローンして数回の選別を行うと、意外に高安定性のクローンを得、さらにELISAでこれらのクローンを検出すると、相応するpMHCとの結合が確認された。
【0052】
活性ポリペプチド
本発明において、用語「本発明のポリペプチド」、「本発明のTCR」、「本発明のT細胞受容体」は、入れ替えて使用することができ、いずれもこのようなT細胞受容体(TCR)を指し、前記TCRの疎水コア領域に突然変異があり、かつ当該TCRの安定性はその相応する疎水コアが野生型のTCRよりも顕著に高い。
また、本発明のポリペプチドは、さらに、疎水コア領域意外のほかの突然変異、特に親和力を向上させる突然変異およびTCRの可変ドメインにおける表面に露出するアミノ酸残基の突然変異を含んでもよい。
これらの疎水コア領域以外のほかの突然変異の様態は、1〜6個(通常は1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、最も好ましくは1個)のアミノ酸の欠失、挿入および/または置換、ならびにC末端および/またはN末端への1個または2個以上(通常は5個以内、好ましくは3個以内、より好ましくは2個以内)のアミノ酸の付加を含むが、これらに限定されない。例えば、本分野において、性状が近い、または類似のアミノ酸で置換する場合、通常、蛋白質の機能を変えることがない。C末端および/またはN末端への1つまたは2つ以上のアミノ酸の付加も、通常、蛋白質の構造と機能を変えることはない。また、前記用語は、単量体と多量体の様態の本発明のポリペプチドを含む。
【0053】
もちろん、ここで、アミノ酸の名称は、世界中に汎用の一文字のアルファベットの表示を使用し、その相応するアミノ酸の名称の三文字のアルファベットの略称はそれぞれAla (A)、Arg (R)、Asn (N)、Asp (D)、Cys (C)、Gln (Q)、Glu (E)、Gly (G)、His (H)、Ile (I)、Leu (L)、Lys (K)、Met (M)、Phe (F)、Pro (P)、Ser (S)、Thr (T)、Trp (W)、Tyr (Y)、Val (V)である。ここで、アミノ酸の置換の表示は、たとえばL19VはIMGTで示された位置番号の19番目のL(ロイシン)がV(バリン)で置換されることを表し、ほかの同様のアミノ酸の置換の表示の意味も本例を参照する。
【0054】
本発明は、さらに、本発明のポリペプチドの活性断片、誘導体および類似物を含む。ここで用いられるように、用語「断片」、「誘導体」および「類似物」とは、リガンド分子と結合することが可能なポリペプチドである。本発明のポリペプチドの断片、誘導体や類似物は、(i)1個または複数個の保存的または非保存的なアミノ酸残基(好ましくは保存的なアミノ酸残基)が置換されたポリペプチドでもよく、または(ii)1個または複数個のアミノ酸残基に置換基があるポリペプチドでもよく、、または(iii)本発明のTCRと他の化合物(例えば、ポリエチレングリコールようなポリペプチドの半減期を延ばす化合物)と融合したポリペプチドでもよく、または(iv)付加のアミノ酸配列がこのポリペプチドに融合したポリペプチド(リーダー配列、分泌配列または6Hisなどのタグ配列と融合して形成した融合蛋白質)でもよい。本明細書の開示に基づき、これらの断片、誘導体および類似物は当業者に公知の範囲に入っている。
【0055】
1種類の好適な活性誘導体とは、5個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個以下、最も好ましくは1個のアミノ酸が性質の類似または近似のアミノ酸で置換されてなるポリペプチドである。これらの保存的突然変異のポリペプチドは、表Aのようにアミノ酸の置換を行って生成することが好ましい。
【表A】
【0056】
また、本発明は、本発明のTCRの類似物を提供する。これらの類似物と本発明の元のTCRのポリペプチドの違いは、アミノ酸配列の違いでもよく、配列に影響を与えない修飾形態の違いでもよく、あるいは両者でもよい。類似物は、さらに、天然L-アミノ酸と異なる残基(例えばD-アミノ酸)を有する類似物、および非天然または合成のアミノ酸(例えばβ、γ-アミノ酸)を有する類似物を含む。もちろん、本発明のポリペプチドは、上記で挙げられた代表的なポリペプチドに限定されない。
【0057】
修飾(通常は一次構造が変わらない)形態は、体内または体外のポリペプチドの化学的に誘導された形態、例えばアセチル化またはカルボキシ化を含む。修飾は、さらにグリコシル化、たとえばポリペプチドの合成および加工でまたはさらなる加工の工程でグリコシル化修飾を行ったポリペプチドも含む。このような修飾は、ポリペプチドをグルコシル化する酵素(たとえば哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル化酵素)に露出させることによって完成する。修飾形態は、さらにリン酸化アミノ酸残基(例えばリン酸チロシン、リン酸セリン、リン酸トレオニン)を有する配列を含む。さらに、修飾によって抗タンパク質加水分解性を向上させたポリペプチドまたは溶解性を改善したポリペプチドを含む。
【0058】
本発明のポリペプチドは、薬学的にまたは生理学的に許容される酸または塩基から誘導される塩の様態で使用することもできる。これらの塩は、塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、乳酸、ピルビン酸、酢酸、コハク酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、またはヒドロキシエタンスルホン酸のような酸で形成する塩を含むが、これらに限定されない。ほかの塩は、アルカリ金属或はアルカリ土類金属(例えばナトリウム、カリウム、カリシウム或はマグネシウム)と形成する塩、及びエステル、カルバメートまたはほかの通常の「プロドラッグ」の様態を含む。
本発明のポリペプチドは、多価複合体の様態で提供することができる。本発明の多価TCR複合体は、2個、3個、4個またはそれ以上のもう1つの分子と連結したT細胞受容体分ウィを含む。
【0059】
コード配列
また、本発明は、本発明のTCRをコードするポリヌクレオチドに関する。
本発明のポリヌクレオチドは、DNA形態でもRNA形態でもよい。DNAは、コード鎖でも非コード鎖でもよい。たとえば、成熟ポリペプチドをコードするコード領域の配列は、配列番号10で表されるコード領域の配列と同様でもよく、あるいは縮重変異体でもよい。ここで用いられるよに、「縮重変異体」とは本発明において配列番号9のタンパク質をコードするが、配列番号10の相応するコード領域の配列と違う核酸配列である。
本発明のヌクレオチド全長配列或いはの断片は、通常、PCR増幅法、組換え法又は人工合成の方法で得られるが、これらに限定されない。現在、本発明のポリペプチド(又はその断片、或いはその誘導体)をコードするDNA配列を全部化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(たとえばベクター)や細胞に導入してもよい。
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および本発明のベクターまはたコード配列で遺伝子工学によって生成する宿主細胞にも関する。
一方、本発明は、さらに、本発明のTCRポリペプチドに特異的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、特にモノクローナル抗体も含む。
【0060】
製造方法
本発明のTCRを生成する一つの方法は、このようなTCRをディスプレイするファージ粒子の多型ライブラリーから高安定性のTCRを選出するものである。
任意の適切な方法で突然変異をさせてもよく、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるもの、制限酵素によるクローンまたはライゲーション非依存的なクローン化(LIC)方法を含むが、これらに限定されない。多くの標準の分子生物学教材ではこれらの方法が詳記されている。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の誘導および制限酵素によるクローンの詳細は、SambrookおよびRussell, (2001) 「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第三版)CSHL出版社を参照する。LIC方法の詳細な情報はRashtchian,(1995)Curr Opin Biotechnol 6(1):30-6を参照する。
本発明のポリペプチドは、組み換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドでもよい。本発明のポリペプチドは、化学合成のものでもよく、組み換えのものでもよい。相応に、本発明のポリペプチドは、通常の方法で人工的に合成してもよく、組み換え方法で生産してもよい。
【0061】
通常の組み換えDNA技術によって、本発明のポリヌクレオチドで組み換えの本発明のポリペプチドを発現または生産することができる。一般的に、以下の工程を含む。
(1)本発明のTCRポリペプチドをコードするポロヌクレオチド(または変異体)を使用し、あるいはこのポロヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを使用し、適切な宿主細胞を形質転換または形質導入する。
(2)適切な培地において宿主細胞を培養する。
(3)培地または細胞から本発明のTCRポリペプチドを分離し、精製する。
組み換えポリペプチドは細胞内または細胞膜で発現し、或いは細胞外に分泌することが出来る。必要であれば、その物理・化学的特性及び他の特性を利用して各種の分離方法で組換えタンパク質を分離・精製することができる。これらの方法は、本分野の技術者に熟知である。これらの方法の例として、通用の再生処理、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、遠心、浸透圧ショック、超音波処理、超遠心、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び他の各種の液体クロマトグラフィー技術、並びにこれらの方法の組合せを含むが、これらに限定されない。
【0062】
薬物組成物および使用方法
本発明のTCRおよび本発明のTCRを移入したT細胞は、薬学的に許容される担体といっしょに薬物組成物で提供することができる。本発明のTCR、多価TCR複合体および細胞は、通常、無菌薬物組成物の一部として提供され、前記組成物は、通常、薬学的に許容される担体を含む。この薬物組成物は、任意の適切な様態でもよい(患者への投与に必要な方法によって決まる)。単位剤形で提供してもよいが、通常、密封の容器に入って提供され、キットの一部として提供してもよい。このようなキットは、取り扱い説明書を含むが、必ず必要なものではない。複数の前記単位剤形を含んでもよい。
また、本発明のポリペプチドは、単独で使用してもよく、ほかの治療剤と結合または抱合して併用してもよい(たとえば同一の薬物組成物に配合される)。
【0063】
本発明のTCRと結合または抱合することができる治療剤は、以下のものを含むが、これらに限定されない。 1.放射性核種(Koppeら,2005,Cancer metastasis reviews,24,539)、2.生物毒素(Chaudharyら,1989,Nature,339,394;Epelら,2002,Cancer Immunology and Immunotherapy,51,565)、3.サイトカイン(Gilliesら,1992,美国国家科学院院刊(PNAS)89,1428;Cardら,2004,Cancer Immunology and Immunotherapy, 53,345;Halinら,2003,Cancer Research,63,3202)、4.抗体Fc断片(Mosqueraら,2005,The Journal Of Immunology,174,4381)、5.抗体scFv断片 (Zhuら,1995,International Journal of Cancer, 62, 319)、6.金ナノ粒子/ナノロッド(Lapotkoら,2005,Cancer letters,239,36;Huangら,2006,Journal of the American Chemical Society,128,2115)、7.ウイルス粒子(Pengら,2004,Gene therapy, 11,1234)、8.リポソーム(Mamotら,2005,Cancer research,65,11631)、9.磁性ナノ粒子、10.プロドラッグ活性化酵素(たとえば、DT-ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニル ヒドロラーゼ様蛋白質(BPHL))、化学治療剤(たとえば、シスプラチン)など。
【0064】
薬物組成物は、さらに、薬学的に許容される担体を含有してもよい。用語の「薬学的に許容される担体」とは、治療剤の投与のために使用される担体である。当該用語は、自身がその組成物を受ける個体に有害な抗体を誘導せず、且つ投与後過剰な毒性がないという条件を満足するような薬剤担体を指す。これらの担体は、本分野の技術者に熟知である。「レミントンの医薬科学」(Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co.,N.J. 1991年))において、薬学的に允許される賦形剤に関する十分な検討が見つけられる。このような担体は、食塩水、緩衝液、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、佐剤、及びその組合せを含むが、これらに限定されない。
【0065】
治療性組成物において、薬学的に許容される担体は液体、例えば水、塩水、グリセリンやエタノールを含んでもよい。さらに、これらの担体には、補助的な物質、例えば湿潤剤或いは乳化剤、pH緩衝物質等が存在してもよい。
通常、治療性組成物は注射剤、例えば液体溶液または懸濁液に調製してもよく、注射直前に溶液または懸濁液に配合することに適する液体ビヒクルの固体形態に調製してもよい。
本発明の組成物にすれば、通常の経路で給与することができ、眼内、筋肉内、静脈内、皮下、皮内、或いは局部給与を含むが、これらに限られない。予防・治療する対象は、動物、特にヒトでよい。
本発明の薬物組成物が実際に治療に使用される場合、使用の状況に合わせて様々な異なる剤形の薬物組成物としてもよい。好ましくは、注射剤、経口投与剤などが挙げられる。
【0066】
これらの薬物組成物は、通常の方法によって混合、希釈または溶解で配合することができ、かつ適切な薬物添加剤、たとえば賦形剤、崩壊剤、バインダー、潤滑剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤(isotonicities)、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤や溶解助剤などを添加することもあり、またこの配合過程は剤形に合わせて通常の方法で行うことができる。
また、本発明の薬物組成物は、徐放剤の様態で投与することもできる。たとえば、本発明のポリペプチドは、徐放重合体を担体とするピルまたはマイクロカプセルに配合し、さらにこのピルまたはマイクロカプセルを手術で治療される組織に移植することができる。徐放重合体の例として、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリヒドロメタクリレート(polyhydrometaacrylate)、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、乳酸重合体、乳酸-グリコール酸共重合体などが挙げられ、好ましくは生分解可能な重合体、たとえば乳酸重合体および乳酸-グリコール酸共重合体が挙げられる。
本発明の薬物組成物が実際に治療に使用される場合、活性成分としての本発明のポリペプチドまたはその薬学的に許容される塩の投与量は、治療される患者それぞれの体重、年齢、性別、症状の程度によって合理的に決定することができる。
【0067】
本発明のTCRの用途
本発明のTCRは、薬物または診断試薬として有用である。修飾またはほかの改良によって薬物または診断試薬として使用されることに適する特徴を持たせることができる。この薬物または診断試薬は、多くの異なる疾患の治療または診断に使用することができ、前記疾患は、癌(たとえば腎臓癌、卵巣癌、頭部および頚部癌、睾丸癌、肺癌、胃癌、子宮頚癌、膀胱癌、前立腺癌やメラノーマなど)、自己免疫疾患、ウイルス感染性疾患、移植拒絶や移植片対宿主病を含むが、これらに限定されない。
本発明のTCRの特異性によって、薬物の部位特定または標的化投与を実現することで、多くの疾患の治療または診断の効果を向上させる。
【0068】
癌に対し、腫瘍または転移癌の周囲を標的とすると、毒素または免疫刺激物の効果を向上させることができる。自己免疫疾患において、特異的に正常の細胞または組織に対する免疫反応を抑制し、または免疫抑制薬を徐々に放出させ、より長時間でより多い局部の効果を果たさせることで、被試者の全体の免疫力に対する影響を最小限にする。移植拒絶の防止において、同様の方法で免疫抑制の作用を最適化することができる。薬物が既存のウイルス性疾患、たとえばHIV、SIV、EBV、CMV、HCV、HBVに対し、薬物が感染細胞の周辺で放出され、または活性化機能を発揮することも有益である。
本発明のTCRは、T細胞の活性化の調整に有用で、本発明のTCRは特異的なpMHCと結合することによってT細胞の活性化を抑制する。T細胞が仲介する炎症および/または組織損傷に関する自己免疫疾患、たとえば1型糖尿病にこの方法が適用できる。
【0069】
本発明のTCRは、細胞毒性剤を癌細胞に送達する目的、またはT細胞の形質移入に使用することによって、養子免疫治療と呼ばれる治療の過程で患者に投与し、HLA複合体を提示する腫瘍細胞を破壊するようにすることができる。
本発明のTCRは、診断試薬としても有用である。検出可能なマーカーで本発明のTCRを標識し、たとえば診断目的に適するマーカーで標識し、MHC-ペプチドとMHC-ペプチドに特異的な本発明のTCRの間の結合を検出することができる。蛍光標識されたTCR多量体はFACS分析に適し、TCRに特異的なペプチドを持つ抗原提示細胞の検出に使用することができる。
抱合体と結合した本発明のTCRは、前記抱合体は抗CD3抗体を含むが、これに限定されず、またT細胞に標的を向け、特定の抗原を提示する細胞、たとえば腫瘍細胞を標的とする。
【0070】
工業応用性
本発明の高安定性T細胞受容体は、TCRとpMHC(ペプチド-主要組織適合遺伝子複合体)の間の相互作用の研究および疾患の診断と治療などの目的に使用することができる。
本発明の主な利点は以下の通りである。
(a)本発明のTCRポリペプチドの安定性が高い。
(b)効率的に、簡単に本発明のTCRポリペプチドを選別することができる。
(c)さらに高安定性かつ高親和性のTCRポリペプチドを選別することができる。
以下の具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下述実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、例えばSambrookおよびRussellら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第三版)(2001) に記載の条件などの通常の条件に、或いは、メーカーのお薦めの条件に従う。 特に説明しない限り、百分率および部は重量百分率および重量部である。
【0071】
実施例1 初期の一本鎖TCR可変ドメイン(sTv)の構築および配列の最適化
表1に示すようにプライマーを設計し、それぞれ化学合成したTCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列(特許文献WO2012/013913を引用する)に対して部位特異的点突然変異を発生させた。これらの突然変異は、TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインにおける表面に露出する疎水性残基を親水性または極性残基に変え、疎水コアの突然変異ライブラリーの鋳型の調製に使用した。α鎖の20番目の表面疎水性残基Vが親水性残基Sへ突然変異する過程は、疎水コアの突然変異ライブラリーを構築する時、部位特異的突然変異技術によって完成した。
【0072】
【表1】
【0073】
ここで、YW800、YW801、YW802、YW803、YW804はα鎖の可変ドメインの部位特異的突然変異のために設計したプライマーで、YW806、YW807はβ鎖の可変ドメインの部位特異的突然変異のために設計したプライマーで、YW805は可動性ペプチド鎖を導入するための連結プライマーである。
図4に示すプライマーの連結の様態でPCRを行ってsTvを構築し、このsTvをMAGE-sTv-WTとした。
具体的なPCR誘導実験の工程は、以下の通りである。
1回目のPCRは、それぞれ合成したα鎖またはβ鎖を鋳型とし、以下のプライマーでYW801/YW803 (α鎖)、YW802/YW804(α鎖)、YW806/YW807(β鎖)に対してPCRを行った。反応の手順は、1回98℃で30秒変性させ、94℃で5秒、55℃で10秒、72℃で20秒のサイクルを25回繰り返した。
2回目のPCRは、オーバーラップPCR(overlap PCR)方法で、1回目のPCRの精製後の産物および化学合成した可動性ペプチドの一本鎖DNAを鋳型とし、YW800/YW807をプライマーとして2回目のPCRを行った。その反応の手順は、1回98℃で30秒変性させ、94℃で5秒、55℃で10秒、72℃で30秒のサイクルを30回繰り返し、1回72℃で5分間アニールさせた。精製後の2回目のPCR産物を酵素で切断した後、ファージディスプレイベクターに挿入した。
【0074】
実施例2 MAGE-sTv-WT配列のpET-28aに基づいた発現プラスミドへのクローニング
「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第三版、SambrookおよびRussell)に記載の標準方法によってMAGE-sTv-WTをpET-28a(Novagen)にクローンした。ABI社の3730 DNA分析装置でプラスミドのシクエンシングを行った。
NcoIおよびNotIIで切断したMAGE-sTv-WTをコードするDNA配列をNcoIおよびNotIIで切断したpET-28aベクター(Novagen)に連結した。
連結したプラスミドを通常の感受性大腸菌(Escherichia coli)菌株BL21(DE3)(merck社から購入)細胞に導入し、50 μg/mLカナマイシンを含有するLB/寒天プレートに接種した。37℃で一晩インキュベートした後、単一の集落を取り、37℃で50 μg/mLカナマイシンを含有する5mlLBで振とうして一晩生長させた。Zymo社のプラスミド抽出キット(Zyppy Plasmid Midiprep Kit、Zymo)でクローンしたプラスミドを精製し、ABI社の3730 DNAシクエンシング装置で挿入物のシクエンシングを行った。
図2aおよび3aは、それぞれMAGE-sTv-WTのα鎖の可変ドメインおよびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列を示し(配列番号9および11)、最適化後のアミノ酸の位置は下線の太字で示される。
図2bおよび3bは、それぞれMAGE-sTv-WTのα鎖の可変ドメインおよびβ鎖の可変ドメインのヌクレオチド配列を示す(配列番号10および12)。
【0075】
実施例3 MAGE-sTv-WTの発現、再生および精製
実施例2で得られたMAGE-sTv-WTを含有する発現プラスミドを大腸菌菌株Rosetta (DE3)( Merck)の培地プレートに導入し、37℃で一晩培養し、単一の集落を取って37℃でカナマイシン含有培地でOD
600が0.6〜0.8になるまで培養した後、0.5 mM IPTGでタンパク質の発現を4時間誘導し、FisherThermo Sovall R6+遠心機で5,000 rpmで15分間遠心して細胞を収集した。Bugbuster MasterMix(Merck)で細胞沈殿物を分解させた。FisherThermo Sovall X1R遠心機で6,000 gで15分間遠心して封入体沈殿物を回収した。そして、10倍希釈したBugbuster溶液で封入体を3回洗浄し、細胞破片および膜成分を除去した。その後、20 mM Tris、pH 9.0、8 M尿素の緩衝液で封入体を溶解させた。BCA法で定量した後、各管に10 mgずつ分けて-80℃で冷凍した。
【0076】
10 mgの溶解したMAGE-sTv-WT封入体タンパク質を解凍し、100 mM Tris、pH 9.0、400 mM L-アルギニン、2 mM EDTAの再生緩衝液200 mlに滴下した。酸化型および還元型のグルタチオンの酸化還元対を最終濃度がそれぞれ1 mMおよび10 mMになるように入れ、溶液を10℃で10分間撹拌した後、100 rpmで1〜2日振とうした。 4〜8℃で、分画分子量が4 kDのセルロース膜透析袋および5 Lの20 mM Tris pH 9.0で透析でMAGE-sTv-WTを8時間再生させ、さらに新鮮な同様の緩衝液に換えて2回透析した。
【0077】
透析後の再生MAGE-sTv-WTを遠心した後、アニオン交換カラムQ HP 5ml(GE社)にかけ、AKTA精製装置(GE社)で、20 mM Tris pH 9.0で調製した0〜1 M NaClの直線勾配で結合したタンパク質をカラム体積10倍で溶出させ、溶出ピーク(相対分子質量が約28 kD)を収集してSDS-PAGE (Bio-Rad)で分析した。MAGE-sTv-WTを含む画分を濃縮した後、さらにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製した。精製後、目的画分を得た場合、目的画分をSDS-PAGEゲルで分析し、その後目的画分を4℃で保存した。目的ピーク画分を合併して濃縮し、10mM pH7.4のHEPES緩衝液に置換した。
溶出画分はさらにゲルろ過法でその純度を測定した。条件は、クロマトグラフィカラムAgilent Bio SEC-3(300 A、φ7.8×300 mm)で、移動相が150 mMリン酸塩緩衝液で、流速0.5 mL/min、カラム温度25℃、紫外検出波長214 nmであった。
【0078】
実施例4 MAGE-sTv-WTの高安定性突然変異体の生成
高安定性の突然変異体の選別および同定のため、ファージディスプレイ技術でMAGE-sTv-WT疎水コア突然変異体ライブラリーを構築した。MAGE-sTv-WTの疎水コアの部位の突然変異を誘導することによって疎水コア突然変異ライブラリーを構築し、かつライブラリーの選別を行った。上記疎水コアライブラリーの構築および選別方法はLiらが((2005)Nature Biotech 23(3):349-354)で記載したファージディスプレイおよび高親和性TCRファージライブラリーの構築および選別方法を参照することができるが、設計上の相違点は、疎水コア突然変異体ライブラリーを構築する場合、鋳型鎖の疎水コアの部位によってプライマーを設計するが、高親和性TCRファージライブラリーの構築は鋳型鎖のCDR領域によってプライマーを設計することにある。疎水コア突然変異体ライブラリーを構築する時、設計したプライマーは以下の表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
本発明で使用される縮重塩基は、当業者に熟知のように、それぞれ代表できる塩基の種類は、B=CまたはGまたはT、D=AまたはGまたはT、H=AまたはCまたはT、K=GまたはT、M=AまたはC、N=AまたはCまたはGまたはT、R=AまたはG、S=CまたはG、V=AまたはCまたはG、W=AまたはT、Y=CまたはTである。
安定性の悪い突然変異株をファージディスプレイの過程で淘汰され、より安定した突然変異株が選択されるように、1.37℃でsTvをディスプレイする方法、2.誘導剤(たとえばIPTG)を入れてsTvのファージ表面におけるディスプレイを誘導する方法、3.選別前にsTvをディスプレイするファージを55℃で60分間インキュベートする方法といった3つの処理方法を使用した。
【0081】
シクエンシングで同定したところ、上記方法で選別された高安定性sTv突然変異株の疎水コアはいずれも突然変異が発生した。選別された高安定性の突然変異株はMG29、P8F1およびP8F2とした。IMGTにおける位置番号で、そのα鎖の可変ドメインの19番目、21番目、91番目のうちの一つまたは複数の疎水コアの位置のアミノ酸に突然変異が発生し、かつ/またはそのβ鎖の可変ドメインの19番目、β鎖のJ遺伝子の短鎖ペプチドのアミノ酸配列の後ろから4番目のうちの一つまたは複数の疎水コアの位置のアミノ酸に突然変異が発生した。より具体的に、IMGTにおける位置番号で、α鎖の可変ドメインのアミノ酸残基19V、21I、91Lの一つまたは複数を有し、かつ/またはβ鎖の可変ドメインのアミノ酸残基91Fまたは91Iの一つまたは複数を有し、β鎖のJ遺伝子の後ろから4番目がMである。具体的なα鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列番号15および17で、β鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列番号16および18である。ここで、突然変異株MG29を構成するα鎖およびβ鎖の可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号15および16で、
図6aおよび6bに示す。突然変異株P8F1を構成するα鎖およびβ鎖の可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号17および18で、
図7aおよび7bに示す。突然変異株P8F2を構成するα鎖およびβ鎖の可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ配列番号15および18で、
図8aおよび8bに示す。
【0082】
上記選別されたOD値の高い高安定性突然変異株MG29、P8F1、P8F2および疎水コアに突然変異のないMAGE-sTv-WTに対してELISA実験を行ってそのOD値を比較し、かつ突然変異株の特異性を検証した。
ELISA実験の工程は以下のとおりである。
1.MAGE-sTv-WT、MG29、P8F1、P8F2のグリセロールストックをそれぞれ5mL 2xTY (100 μg/mL アンピシリン、2% ブドウ糖)に接種し、250 rpm/min、37 ℃で一晩培養した。
2.一晩培養した菌液50 μLをそれぞれ新鮮な5mL 2xTY (100 μg/mLアンピシリン、2% ブドウ糖)に接種し、250 rpm/min、37℃でOD600=0.4まで培養し、5 μL (6.5 x 10
10)使用した。
KM13補助ファージ(Source BioScience)で感染させ、37 ℃で30min静置した後、200 rpm/min、37 ℃で30 min振とうし、遠心して沈殿を30mL 2xTY (100 μg/mL アンピシリン、50 μg/mL カナマイシン、0.1% ブドウ糖)に再懸濁させ、250 rpm/min、30 ℃で一晩培養した。
【0083】
3.10 μg/mLストレプトアビジン(PBS、pH=7.4)で免疫吸着プレート(NUNC)を被覆し、各ウェル100 μLずつ、4℃で一晩置いた。
4.遠心で一晩培養した菌液の上清を収集し、体積比1/4のPEG/NaClで上清液におけるファージを沈殿させ、氷の上に1 h置き、遠心で沈殿を収集し、3 mL PBSに再懸濁させた。
5.0.1% PBSTでプレートを3回洗浄した後、各ウェルに400 μLずつ3%Marvel-PBS(Cadbury Schweppes)を入れ、37℃で2hブロッキングした。PBSTでプレートを3回洗浄し、各ウェルに100 μLずつ10 ug/mLのpMHCを入れ、室温で1h置いた。プレートを3回洗浄し、各ウェルに100 μLずつファージサンプル(10 μL PEG沈殿のサンプルは3%のMarvel-PBSと室温で1 hインキュベートした)を入れ、室温で1h置いた。プレートを3回洗浄し、各ウェルに100 μLずつ抗M13-HRP抱合体(GE Healthcare)(3%のMarvel-PBSで1:5000希釈した)を入れ、室温で1h置いた。プレートを6回洗浄し、各ウェルに100 μLずつTMDを入れ、5 min置いた後、各ウェルに100 μLずつ1M硫酸を入れて終了させた。
【0084】
6.450 nm、650 nmにおける吸光値を読み取った。
上記突然変異株のELISA実験のOD値は
図9に示すように、この結果は疎水コアが最適化された後のsTv特異性は疎水コアが野生型MAGE-sTv-WTと同様であることを示した。本実験において、MAGE-sTv-WTは、ディスプレイが良くなく、そのOD値が非常に低かったことは、α鎖およびβ鎖の可変ドメインにおける表面に露出する疎水性残基を親水性または極性残基に変えても、そのタンパク質の安定性がまだ比較的に悪いため、疎水コアの最適化が必要であることを示す。疎水コアが最適化されたクローンは、いずれも異なる程度でsTvをディスプレイし、かつその元のリガンドMAGE A3 pHLA-A1抗原と特異的に結合したが、ほかの無関連の抗原、たとえばEBV、インフルエンザやNY-ESO-1抗原と結合しなかった。MG29、P8F1およびP8F2といったファージディスプレイで検出された疎水コア突然変異のsTvと特異的抗原の結合は、その親和力が野生型のTCRよりも強いからではなく、これは実施例15で証明された。
【0085】
実施例5 疎水コア突然変異の高安定性sTv分子の構築
当業者に熟知の部位特異的突然変異の方法によって実施例4で選別された高安定性突然変異体の一部の疎水コアをいくつかのほかのTCR分子に導入し、高安定性sTv分子を構築した。
いくつかのそれぞれ抗原短鎖ペプチドHLA-B8/FLRGRAYGL(EBウイルス抗原EBNA3A由来)、HLA-A2/GILGFVFTL(インフルエンザウイルス基質タンパク質由来)およびHLA-A2/SLLMWITQC(NY-ESO-1腫瘍特異的抗原)に対する野生型TCR分子のα鎖およびβ鎖の可変ドメインによってそれぞれ上記いくつかの分子の一本鎖の形態を構築し、かつLC13-WT、JM22-WTおよび1G4-WTとした。ここで、LC13-WTのα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号29および配列番号30で、
図10aおよび10bに示す。JM22-WTのα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号31および配列番号32で、
図11aおよび11bに示す。1G4-WTのα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号33および配列番号34で、
図12aおよび12bに示す。
【0086】
実施例4で選別された高安定性突然変異体の一部の疎水コアを当業者に熟知の部位特異的突然変異の方法によってそれぞれLC13-WT、JM22-WTおよび1G4-WTに導入し、突然変異を導入した分子はそれぞれLC13-sTv、JM22-sTvおよび1G4-sTvとし、導入された疎水コアは下線の太字で示す。ここで、LC13-sTvのα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号35および配列番号36で、
図13aおよび13bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは11L、13V、21Iおよび91Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは94Lである。JM22-sTvのα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号37および配列番号38で、
図14aおよび14bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは19Vおよび21Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは91Iおよび94Lである。1G4-sTvのα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号39および配列番号40で、
図15aおよび15bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは19Vおよび21Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは19V、91I、94LおよびJ遺伝子の後ろから6番目のTである。上記位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。上記一本鎖分子の構築に使用される連結短鎖ペプチド(linker)は任意の適切な配列で、本発明で好適なアミノ酸配列は配列番号41で、
図16に示す。
【0087】
実施例6 タンパク質LC13-WTとLC13-sTvの安定性テスト
実施例3に記載の方法によってタンパク質LC13-WTとLC13-sTvに対して発現、再生、精製を行い、ゲルろ過カラムで精製してSDS-PAGEゲルで電気泳動させ、かつゲルろ過法で2種類のタンパク質のSECスペクトルを作成し、同時にその発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率を計算した。ここで、発現量は、1L大腸菌の発現を誘導して精製した封入体の生成量である。精製後得られたタンパク質量は、1L大腸菌の発現を誘導して精製した封入体が再生、精製を経て得られたタンパク質の量である。タンパク質再生収率の計算式は、タンパク質再生収率(%)=100×精製後得られたタンパク質量(mg)/再生に使用された封入体の量(mg)である。本発明における発現量およびタンパク質再生収率は、別途に説明しない限り、いずれも上記計算方法で計算した。
米国TA(waters)社の示差走査熱量計(Nano DSC)で上記精製後のタンパク質LC13-WTとLC13-sTvのTm値を測定した。そのスキャン範囲は10〜90℃で、昇温速度は1℃/minで、仕込み量は900μLである。ここで、Tm値は分析ソフトNanoanalyzeのフィッティングモデルTwostateScaledでフィッティングして得られたものである。
【0088】
以下の表3にLC13-WTとLC13-sTvの発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率のデータを示す。
【表3】
以上の表のデータから、精製後、疎水コアの突然変異を導入したLC13-sTvタンパク質は疎水コアの突然変異がないLC13-WTタンパク質よりも再生収率が35倍上昇したことがわかる。
【0089】
図17は、実施例3に記載のようにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製して得られたタンパク質LC13-WTとLC13-sTvのSDS-PAGEゲルの図である。ゲルの図では、精製後得られたLC13-WTタンパク質が形成したバンドが不均一であったが、LC13-sTvは単一のバンドを形成し、かつ純度が高かったことが示された。LC13-sTvの再生状況はLC13-WTよりも遥かに優れたことが説明された。
【0090】
図18aおよび18bはタンパク質LC13-WTおよびLC13-sTvのSECスペクトルで、スペクトルから、精製後のタンパク質LC13-WTはピークが見られなかったが、LC13-sTvは単一で対称の溶出ピークが形成したことがわかり、LC13-sTvの再生はLC13-WTよりも顕著に優れたことが説明された。
LC13-WTが再生して精製した後得られた立体構造が正しいタンパク質の含有量が非常に少なく、顕著なタンパク質アンフォルディング吸熱ピークがなく、分析ソフトNanoanalyzeでそのTm値が得られなかったが、疎水コアが突然変異したLC13-sTvのTm値が43.6℃で、そのDSC曲線を
図47に示す。LC13-sTvはLC13-WTよりも再生能力が強く、アンフォールディングに対する耐性が高く、不適当または望ましくないフォールディングに対する耐性が高く、そして熱安定性が顕著に向上したことが説明された。
【0091】
タンパク質LC13-WTとLC13-sTvの発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率、SDS-PAGEゲル図、SECスペクトルおよびTm値の比較分析から、疎水コアが改造されたLC13-sTvは、疎水コアが改造されていないLC13-WTと比べ、再生能力が強く、アンフォールディングに対する耐性が高く、不適当または望ましくないフォールディングに対する耐性が高く、タンパク質再生収率が高く、そして熱安定性が顕著に向上したことがわかる。そのため、LC13-sTvはLC13-WTと比べて安定性が顕著に向上した。タンパク質再生収率のデータで安定性が向上した量を計算すると、本発明におけるLC13-sTvはLC13-WTと比べて安定性が35倍向上した。
【0092】
実施例7 タンパク質JM22-WTとJM22-sTvの安定性テスト
実施例3に記載の方法によってタンパク質JM22-WTとJM22-sTvに対して発現、再生、精製を行い、ゲルろ過カラムで精製してSDS-PAGEゲルで電気泳動させ、かつゲルろ過法で2種類のタンパク質のSECスペクトルを作成し、同時にその発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率を計算し、かつ実施例6に記載の方法でそのTm値を測定した。
【0093】
以下の表4にJM22-WTとJM22-sTvの発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率のデータを示す。
【表4】
以上の表のデータから、精製後、疎水コアの突然変異を導入したJM22-sTvタンパク質は疎水コアの突然変異がないJM22-WTタンパク質よりも再生収率が42倍上昇したことがわかる。
【0094】
図19は、実施例3に記載のようにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製して得られたタンパク質JM22-WTとJM22-sTvのSDS-PAGEゲルの図である。ゲルの図では、JM22-WTは再生して形成した単一のバンドが不均一で、バンドが3つあったが、JM22-sTvは単一のバンドを形成し、かつ純度が高かったことが示された。JM22-sTvの再生状況はJM22-WTよりも遥かに優れたことが説明された。
図20aおよび20bはタンパク質JM22-WTおよびJM22-sTvのSECスペクトルで、スペクトルから、精製後のタンパク質JM22-WTが形成した溶出ピークは単一ではなく、かつ信号が弱かったが、精製後のJM22-sTvは単一で対称の溶出ピークが形成したことがわかり、JM22-sTvの再生状況はJM22-WTよりも顕著に優れたことが説明された。
【0095】
図48aおよび48bは、それぞれタンパク質JM22-WTおよびJM22-sTvのDSC曲線図である。JM22-WTが再生して精製した後得られた立体構造が正しいタンパク質の含有量が非常に少ないため、顕著なタンパク質アンフォルディング吸熱ピークがなく、分析ソフトNanoanalyzeでそのTm値が得られなかったが、疎水コアが突然変異したJM22-sTvのTm値が43.7℃であった。上記DSC曲線から、JM22-sTvはJM22-WTよりも再生能力が強く、アンフォールディングに対する耐性が高く、不適当または望ましくないフォールディングに対する耐性が高く、そして熱安定性が顕著に向上したことがわかる。
【0096】
タンパク質JM22-WTとJM22-sTvの発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率、SDS-PAGEゲル図、DSC曲線図およびSECスペクトルの比較分析から、疎水コアが改造されたJM22-sTvは、疎水コアが改造されていないJM22-WTと比べ、再生能力が強く、アンフォールディングに対する耐性が高く、不適当または望ましくないフォールディングに対する耐性が高く、そして熱安定性が顕著に向上し、同時にタンパク質再生収率も顕著に向上したことがわかる。そのため、本発明のJM22-sTvはJM22-WTと比べて安定性が顕著に向上した。タンパク質再生収率のデータで安定性が向上した量を計算すると、本発明におけるJM22-sTvはJM22-WTと比べて安定性が4200%向上した。
【0097】
実施例8 タンパク質1G4-WTと1G4-sTvの安定性テスト
実施例3に記載の方法によってタンパク質1G4-WTと1G4-sTvに対して発現、再生、精製を行い、ゲルろ過カラムで精製してSDS-PAGEゲルで電気泳動させ、かつゲルろ過法で2種類のタンパク質のSECスペクトルを作成し、同時にその発現量、精製後得られたタンパク質量および収率を計算した。
以下の表5に1G4-WTと1G4-sTvの発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率のデータを示す。
【表5】
以上の表のデータから、精製後、疎水コアの突然変異を導入した1G4-sTvタンパク質は疎水コアの突然変異がない1G4-WTタンパク質よりも再生収率が2.6倍上昇したことがわかる。
【0098】
図21は、実施例3に記載のようにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製して得られたタンパク質1G4-WTと1G4-sTvのSDS-PAGEゲルの図である。ゲルの図では、精製後得られた1G4-WTタンパク質が形成したバンドが不均一で、バンドが2つ形成したが、1G4-sTvは単一のバンドを形成し、かつ純度が高かったことが示された。1G4-sTvの再生状況は1G4-WTよりも遥かに優れたことが説明された。
図22aおよび22bはタンパク質1G4-WTおよび1G4-sTvのSECスペクトルで、スペクトルから、精製後のタンパク質1G4-WTが形成した溶出ピークは単一ではなく、かつ信号が弱かったが、精製後の1G4-sTvは単一で対称の溶出ピークが形成したことがわかり、1G4-sTvの再生状況は1G4-WTよりも顕著に優れたことが説明された。
【0099】
タンパク質1G4-WTと1G4-sTvの発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率、SDS-PAGEゲル図およびSECスペクトルの比較分析から、疎水コアが改造された1G4-sTvは、疎水コアが改造されていない1G4-WTと比べ、より強い再生能力、より高い発現量、より高いタンパク質再生収率を有することがわかる。そのため、本発明の1G4-sTvは1G4-WTと比べて安定性が顕著に向上した。タンパク質再生収率のデータで安定性が向上した量を計算すると、本発明における1G4-sTvは1G4-WTと比べて安定性が260%向上した。
【0100】
実施例9 1G4-sTvを鋳型とする分子の安定性のさらなる最適化
1G4-sTvを鋳型としてその疎水コアおよび可変ドメインの表面のアミノ酸残基を突然変異させ、ライブラリーを構築して高安定性の分子を選別した。突然変異を行われる疎水コアの位置は配列番号42で下線の太字で示し、突然変異を行われる表面のアミノ酸残基は太字で示し、
図23に示す。
ライブラリーの構築に使用された基本の方法はすでに実施例4に記載された。本実施例において、突然変異を行われる位置に対して3つのライブラリーを構築し、突然変異を行われる疎水コアの位置は全部ライブラリー1にあり、ライブラリー2および3は表面のアミノ酸残基に対して構築したものである。より具体的に、1G4-sTvプラスミドを鋳型とし、設計した突然変異プライマーでオーバーラップPCR(Overlap PCR)を行って突然変異DNA断片を得た後、NcoI/NotIで切断し、断片をpUC19骨格のファージプラスミドベクターpLitmus28 (NEB)にクローニングした。連結後のDNAをTG1感受性細胞(lucigen)に電気的形質転換し、計3つのファージプラスミドベクターライブラリーを得、そのライブラリーの容量は集落数で計算すると約1×10
9〜3×10
9であった。それぞれこの3つのライブラリーから生えたローンを取り、最終濃度が20%のグリセロールに入れて-80℃で保存した。以下の表8、表9および表10はそれぞれライブラリー1、ライブラリー2およびライブラリー3のために設計したプライマーである。
【0101】
【表6】
【0102】
【表7】
【0103】
【表8】
【0104】
高安定性のsTvクローンを得るため、ライブラリーから生えたファージを沈殿させて濃縮した後、65℃の熱刺激処理を行い、同時に選別をもっと強化するため、さらに0.02%のSDSとインキュベートした後、処理されたファージを後続の選別に供した。3つのライブラリーで選別されたOD値の高いクローンを組み合わせ、最終的に11個のクローンを得た。
【0105】
実施例10 実施例9で選別されたクローンに対する安定性の検証
実施例9で選別された11個のクローンを実施例4に記載のELISA実験の手順でそのOD値を検出して抗原特異性を検証し、その結果を
図24に示す。この結果は、11個のクローンのOD値はいずれも高く、その元のリガンドである抗原HLA-A2/SLLMWITQC(NY-ESO-1腫瘍特異的抗原)と特異的に結合し、ほかの無関連の抗原とほとんど結合しなかったことを示した。これらのファージディスプレイで検出されたsTvと抗原HLA-A2/SLLMWITQCの結合は、その親和力が野生型のTCRよりも強いからではなく、これは実施例11で証明された。
【0106】
IMGTで示された位置番号で、上記11個の突然変異株は、α鎖の可変領域の11番目、13番目または94番目および/またはβ鎖の可変領域の11番目、13番目または94番目のうちの一つまたは複数の疎水コアの位置に突然変異が発生した。具体的に、α鎖の可変領域の疎水コアのアミノ酸残基11M、11E、13R、13K、94Vまたは94Iおよび/またはβ鎖の可変領域の疎水コアのアミノ酸残基11L、11V、13Vまたは94Vのうちの一つまたは複数を含む。疎水コア以外、選別されたクローンは、さらに、α鎖の可変領域の疎水コアのアミノ酸残基4L、12N、16S、93N、93R、97N、100G、105Sのうちの一つまたは複数を含み、またはα鎖のJ遺伝子の後ろから1番目がDで、かつ/またはβ鎖の可変領域の疎水コアのアミノ酸残基4I、101Lを含み、β鎖のJ遺伝子の後ろから1番目がDでまたは後ろから3番目がEである。
選別された高安定性の上記クローンのα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列(配列番号75〜85)およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列(配列番号86〜96)はそれぞれ
図25および
図26に示す。
【0107】
実施例2および実施例3に記載の方法によって選別された11個のクローンに対して連結、発現、再生および精製を行った。米国TA(waters)社の示差走査熱量計(Nano DSC)で上記11種類のクローンのTm値を測定した。そのスキャン範囲は10〜90℃で、昇温速度は1℃/minで、仕込み量は900μLである。ここで、Tm値は分析ソフトNanoanalyzeのフィッティングモデルTwostateScaledでフィッティングして得られたものである。結果は
図27および表9に示すように、そのTm値はいずれも37.9℃以上で、かつ顕著なタンパク質アンフォルディング吸熱ピープがあった。一方、上記クローンの発現、再生、精製の過程およびDSCの実験条件と完全に一致する1G4-WTのDSC結果は
図28に示すように、図から、顕著なタンパク質アンフォルディング吸熱ピープがなかったことがわかり、立体構造が正しいタンパク質の含有量が非常に少なかったことが説明された。上記11個のクローンのDSCスペクトルと1G4-WTのDSCスペクトルの結果を比較すると、選別されたクローンは1G4-WTよりもアンフォールディングに対する耐性が高く、不適当または望ましくないフォールディングに対する耐性が高く、再生能力が強く、そして熱安定性が顕著に向上したことがわかる。そのため、選別されたクローンの安定性は疎水コアが突然変異していない1G4-WTよりも遥かに高い。
【0108】
上記1G4-WTが再生して精製した後得られた立体構造が正しいタンパク質の含有量が非常に少ないため、顕著なタンパク質アンフォルディング吸熱ピークがなく、ソフトでそのTm値が得られなかったが、上記疎水コアが突然変異したTCRは約38℃またはそれ以上のTm値を有することは、本発明の上記G3〜G7およびG9〜G14といった11種類の突然変異TCRの安定性はいずれも非常に顕著に向上したことが示唆された(1倍以上向上した)。
【0109】
【表9】
当業者は、上記選別された高安定性の突然変異位置を組み合わせて新しい安定性突然変異株を構築することができる。上記突然変異位置を組み合わせ、新しいα鎖の可変ドメイン(配列番号97)およびβ鎖の可変ドメイン(配列番号98)を構築し、そのアミノ酸配列はそれぞれ
図29aおよび
図29bに示す。このα鎖の可変ドメインおよびβ鎖の可変ドメインでsTv分子を構築し、G15とした。
【0110】
実施例11 1G4-WT突然変異株の安定性のさらなるテスト
実施例3に記載の方法によって実施例10に記載の突然変異株G9、G13およびG15に対して発現、再生、精製を行い、ゲルろ過カラムで精製してSDS-PAGEゲルで電気泳動させ、かつゲルろ過法で3種類のタンパク質のSECスペクトルを作成し、同時にその発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率を計算し、かつ1G4-WTと比較した。
表10に1G4-WT、G9、G13およびG15の発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率のデータを示す。
【表10】
以上の表のデータから、精製後、突然変異株G9、G13およびG15は1G4-WTと比べてタンパク質再生収率がいずれも顕著に向上し、それぞれ4.5倍、15.2倍および15.6倍向上したことがわかる。
【0111】
図30は、実施例3に記載のようにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製して得られたタンパク質1G4-WT、G9、G13およびG15のSDS-PAGEゲルの図である。ゲルの図では、精製後得られた1G4-WTタンパク質が形成したバンドが不均一であったが、改造したG9、G13およびG15はいずれも単一のバンドを形成し、かつ純度が高かったことが示された。G9、G13およびG15の再生状況はいずれも1G4-WTよりも優れたことが説明された。
図31a、31bおよび31cはそれぞれタンパク質G9、G13およびG15のSECスペクトルで、
図22aの1G4-WTのSECスペクトルから、精製後のタンパク質1G4-WTが形成した溶出ピークは単一ではなく、かつ信号が弱かったことがわかるが、精製後のG9、G13およびG15は単一で対称の溶出ピークが形成したことがわかり、G9、G13およびG15の再生状況はいずれも1G4-WTよりも顕著に優れたことが説明された。
【0112】
実施例10に記載の方法でG15のTm値を測定したところ、46.6℃で、そのDSC曲線は
図46に示す。実施例10における測定結果からも、突然変異株G9およびG13のTm値は比較的に高く、それぞれ49.55℃および49.63℃であった。
BIAcore T200リアルタイム分析システムでタンパク質G9、G13およびG15とそのリガンドの結合を検出したところ、3種類のsTvタンパク質と抗原HLA-A2/SLLMWITQCの親和力は野生型1G4TCRと当該抗原の結合ほど優れず、野生型1G4TCRと抗原HLA-A2/SLLMWITQCの結合の解離平衡定数は32μMである(Liら((2005)Nature Biotech 23(3):349-354)を参照)。
【0113】
タンパク質1G4-WTとG9、G13およびG15の発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率、SDS-PAGEゲル図およびSECスペクトルの比較分析から、疎水コアが改造された突然変異株は、疎水コアが改造されていない1G4-WTと比べ、再生能力、熱安定性およびタンパク質再生収率がいずれも遥かに高いことがわかる。そのため、疎水コアが改造された突然変異株の安定性は1G4-WTと比べて顕著に向上した。タンパク質再生収率のデータで安定性が向上した量を計算すると、本発明におけるG9、G13およびG15は1G4-WTと比べて安定性がそれぞれ450%、1520%および1560%向上した。
【0114】
実施例12 疎水コア突然変異の高安定性sTv分子の構築
実施例9で選別された高安定性突然変異体の疎水コアおよび可変領域のフレームワークの表面のアミノ酸残基によって高安定性sTv分子を構築した。
実施例9で選別された高安定性突然変異体の一部の疎水コアおよび可変領域のフレームワークの表面のアミノ酸残基を当業者に熟知の部位特異的突然変異の方法によってそれぞれLC13-WT、JM22-WTおよびMAGE-sTv-WT分子に導入し、突然変異を導入した分子はそれぞれLC13-G9、LC13-G15、JM22-G9、JM22-G15およびMAGE-G15とし、導入された疎水コアは下線の太字で示す。
【0115】
ここで、LC13-G9のα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号99および配列番号100で、
図32aおよび32bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは13V、21I、91Iおよび94Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは11V、13Vおよび94Lである。LC13-G15のα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号101および配列番号102で、
図33aおよび33bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは11L、13V、21I、91Iおよび94Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは11L、13Vおよび94Vである。JM22-G9のα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号103および配列番号104で、
図34aおよび34bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは11M、13V、19V、21Iおよび94Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは11V、13V、91Iおよび94Vである。JM22-G15のα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号105および配列番号106で、
図35aおよび35bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは13V、19V、21Iおよび94Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは13V、91Iおよび94Vである。MAGE-G15のα鎖およびβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号107および配列番号108で、
図42aおよび42bに示し、そのα鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは19V、21Iおよび94Iで、そのβ鎖の可変ドメインに導入した疎水コアは13V、89L、91Iおよび94Vである。
上記位置の番号は、IMGTで示された位置の番号である。上記一本鎖分子の構築に使用される連結短鎖ペプチド(linker)は任意の適切な配列で、本発明で好適なアミノ酸配列は配列番号41で、
図16に示す。
【0116】
実施例13 タンパク質LC13-G9とLC13-G15の安定性テスト
実施例3に記載の方法によってタンパク質LC13-G9とLC13-G15に対して発現、再生、精製を行い、ゲルろ過カラムで精製してSDS-PAGEゲルで電気泳動させ、かつゲルろ過法で2種類のタンパク質のSECスペクトルを作成し、同時にその発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率を計算した。
以下の表11にLC13-G9とLC13-G15の発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率のデータを示し、同時に分析の便宜上LC13-WTの関連データを示す。
【表11】
以上の表のデータから、精製後、LC13-G9タンパク質およびLC13-G15タンパク質は疎水コアの突然変異がない1G4-WTタンパク質よりも再生収率がそれぞれ5.4%および57.9倍上昇したことがわかる。
【0117】
図36は、実施例3に記載のようにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製して得られたタンパク質LC13-G9およびLC13-G15のSDS-PAGEゲルの図である。ゲルの図では、LC13-WTが形成したバンドが不均一であったが、改造したLC13-G9およびLC13-G15はいずれも単一のバンドを形成し、かつ純度が高かったことが示された。LC13-G9およびLC13-G15の再生状況はLC13-WTよりも遥かに優れたことが説明された。
図37および38はタンパク質LC13-G9およびLC13-G15のSECスペクトルで、LC13-WTのSECスペクトルから、ピークが見られなかったが、タンパク質LC13-G9およびLC13-G15はいずれも単一で対称の溶出ピークが形成したことがわかり、LC13-G9およびLC13-G15の再生はいずれもLC13-WTよりも顕著に優れたことが説明された。
【0118】
実施例10に記載の方法でタンパク質LC13-G9およびLC13-G15のTm値を測定し、
図49aおよび
図49bはそれぞれタンパク質LC13-G9およびLC13-G15のDSC曲線図で、そのTm値はそれぞれ43℃および50.5℃であった。一方、LC13-WTが再生した後得られた立体構造が正しいタンパク質の含有量が低いため、顕著なタンパク質アンフォルディング吸熱ピークがなく、そのTm値が得られなかった。これは、本発明のLC13-G9およびLC13-G15の熱安定性はLC13-WTと比べて1倍以上向上したことを示す。同時に、本発明のLC13-G9およびLC13-G15はLC13-WTよりもアンフォールディングに対する耐性が高く、不適当または望ましくないフォールディングに対する耐性が高く、再生能力が強いことを示す。
【0119】
タンパク質LC13-G9およびLC13-G15の発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率、SDS-PAGEゲル図、DSC曲線図およびSECスペクトルとLC13-WTの関連データの比較分析から、疎水コアが改造されたLC13-G9およびLC13-G15は、疎水コアが改造されていないLC13-WTと比べ、アンフォールディングに対する耐性が高く、不適当または望ましくないフォールディングに対する耐性が高く、再生能力が強く、熱安定性が高く、タンパク質再生収率が高いことがわかる。そのため、本発明のLC13-G9およびLC13-G15はLC13-WTと比べて安定性が顕著に向上した。タンパク質再生収率のデータで安定性が向上した量を計算すると、本発明におけるLC13-G9およびLC13-G15はLC13-WTと比べて安定性がそれぞれ5.4%および57.9倍向上した。
【0120】
実施例14 タンパク質JM22-G9とJM22-G15の安定性テスト
実施例3に記載の方法によってタンパク質JM22-G9とJM22-G15に対して発現、再生、精製を行い、ゲルろ過カラムで精製してSDS-PAGEゲルで電気泳動させ、かつゲルろ過法で2種類のタンパク質のSECスペクトルを作成し、同時にその発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率を計算した。
以下の表12にJM22-G9とJM22-G15の発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率のデータを示し、同時に分析の便宜上JM22-WTの関連データを示す。
【表12】
以上の表のデータから、精製後、JM22-G9タンパク質およびJM22-G15タンパク質は疎水コアの突然変異がないJM22-WTタンパク質よりも再生収率がそれぞれ28.5倍および127.25倍上昇したことがわかる。
【0121】
図39は、実施例3に記載のようにゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製して得られたタンパク質JM22-G9およびJM22-G15のSDS-PAGEゲルの図である。ゲルの図では、JM22-WTは再生して形成した単一のバンドが不均一で、バンドが3つあったが、改造されたJM22-G9およびJM22-G15は単一のバンドを形成し、かつ純度が高かったことが示された。JM22-G9およびJM22-G15の再生状況はJM22-WTよりも遥かに優れたことが説明された。
図40および41はタンパク質JM22-G9およびJM22-G15のSECスペクトルで、JM22-WTのSECスペクトルから、形成した溶出ピークは単一ではなく、かつ信号が弱かったこと示されたが、タンパク質JM22-G9およびJM22-G15は単一で対称の溶出ピークが形成し、さらにJM22-G9およびJM22-G15の再生状況はいずれもJM22-WTよりも顕著に優れたことが説明された。
【0122】
タンパク質JM22-G9およびJM22-G15の発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率、SDS-PAGEゲル図およびSECスペクトルとJM22-WTの関連データの比較分析から、疎水コアが改造されたJM22-G9およびJM22-G15は、疎水コアが改造されていないJM22-WTと比べ、より強い再生能力、より高い発現量およびタンパク質再生収率を有することがわかる。そのため、本発明のJM22-G9およびJM22-G15はJM22-WTと比べて安定性が顕著に向上した。タンパク質再生収率のデータで安定性が向上した量を計算すると、本発明におけるJM22-G9およびJM22-G15はJM22-WTと比べて安定性がそれぞれ28.5倍および127.25倍向上した。
【0123】
実施例15 タンパク質MAGE-sTv-WTおよびMAGE-G15の安定性テスト
実施例3に記載の方法によってタンパク質MAGE-G15に対して発現、再生、精製を行い、ゲルろ過カラムで精製してSDS-PAGEゲルで電気泳動させ、かつゲルろ過法でタンパク質のSECスペクトルを作成し、同時にその発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率を計算した。
以下の表13にMAGE-sTv-WTおよびMAGE-G15の発現量、精製後得られたタンパク質量およびタンパク質再生収率のデータを示す。
【表13】
タンパク質MAGE-sTv-WTは実施例3に記載のゲルろ過カラムを通った後、目的画分が得られなかったため、そのSDS-PAGEゲル図、SECスペクトルおよびDSC曲線図(Tm値)が得られなかった。
【0124】
一方、疎水コアが改造されたMAGE-G15をゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製して得られたタンパク質のSDS-PAGEゲル図は
図43に示す。このゲルの図では、MAGE-G15は単一のバンドを形成し、かつ純度が高かったことが示され、タンパク質MAGE-G15の再生能力はMAGE-sTv-WTよりも遥かに強いことが説明された。同時に、
図44に示されるMAGE-G15のSECスペクトルでは、単一で対称の溶出ピークがあることからも、タンパク質MAGE-G15の再生能力はMAGE-sTv-WTよりも遥かに強いことが説明された。
【0125】
図45はタンパク質MAGE-G15のDSC曲線図で、分析ソフトNanoanalyzeのフィッティングモデルTwostateScaledでフィッティングしったところ、Tm値が46.7℃であった。
BIAcore T200リアルタイム分析システムでタンパク質MAGE-G15とそのリガンドの結合を検出したところ、タンパク質MAGE-G15とそのリガンドの結合の親和力はその相応する野生型TCRほど優れず、そのK
D値は30.4μMである。
タンパク質再生収率のデータで安定性が向上した量を計算すると、表13から、本発明のMAGE-G15はMAGE-sTv-WTと比べて安定性が無限大倍向上した(10000倍以上)。
以上のデータから、本発明のMAGE-G15の再生能力、タンパク質再生収率および熱安定性は、MAGE-sTv-WTと比べていずれも顕著に向上したことがわかるため、本発明のMAGE-G15の安定性はMAGE-sTv-WTと比べて顕著に向上した。
【0126】
実施例16 質量分析
構築したタンパク質をゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)で精製した後、質量分析装置でその全タンパク質の分子量を測定し、かつ質量分析で測定された分子量がその理論分子量と一致するか分析することによって、精製後得られたタンパク質の配列が設計した配列と同様であるか検証した。
米国AB SCIEX社の質量分析装置(Eksigent nano LC(nanoflex)- Triple TOF 5600 LC/MSシステム)でサンプルの全タンパク質の分子量を測定した。10%アセトニトリル(FisherA955-4)、1%ギ酸(Fisher A11750)および水(Sigma39253-1L-R)でサンプルを希釈して質量分析に仕込んだ。システムの分析条件は以下の通りである。
【0127】
LC部分
AB SCIEXのEksigent nano LC(nanoflex)
保護カラム:C4-3μm 300A 200μm×0.5mm; Lot 804-00019
分析カラム: C4; 3um,300A; 75um*15cm, Lot 804-00018
移動相A:2%アセトニトリル、0.1%ギ酸
移動相B:98%アセトニトリル、0.1%ギ酸
流速:300nl/min
勾配:10分間でB液の比率を5%から90%に上昇させ、合計稼働時間30分間であった。
【0128】
質量分析部分
Nanospray源付きのTriple TOF 5600分析カラムにおける溶出液、
データ収集方法:カチオンMS、
データ収集範囲:400〜200m/z。
収集した質量分析のデータはBioanalystソフトでデコンボリューション処理してサンプルの全タンパク質の分子量の情報を得た。
【0129】
分析したところ、本発明で構築した分子に対して発現、再生および精製を行った後、質量分析装置で測定した全タンパク質の分子量は、その理論分子量といずれも一致し、精製後得られたタンパク質の配列は設計したタンパク質の配列と同様であることが説明された。
本発明で選別された疎水コアはTCR分子の安定性を顕著に向上させることができる。同時に、上記実施例によって本発明で選別された疎水コアをほかのTCR分子に導入しても安定性を向上させる作用を果たすことができることが証明された。
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、この分野の技術者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の様態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。