特許第6549587号(P6549587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549587
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】蒸気循環プロセス用の作動流体
(51)【国際特許分類】
   F01K 25/10 20060101AFI20190711BHJP
   F01D 25/22 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 129/06 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 129/24 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 105/06 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 133/16 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 133/56 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 129/38 20060101ALI20190711BHJP
   C10M 129/10 20060101ALI20190711BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20190711BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20190711BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20190711BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20190711BHJP
【FI】
   F01K25/10 D
   F01D25/22
   C10M129/06
   C10M129/24
   C10M105/06
   C10M101/02
   C10M107/02
   C10M133/16
   C10M133/56
   C10M129/38
   C10M129/10
   C10N20:02
   C10N30:08
   C10N40:00 A
   C10N40:08
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-541820(P2016-541820)
(86)(22)【出願日】2014年9月17日
(65)【公表番号】特表2016-537560(P2016-537560A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】DE2014100336
(87)【国際公開番号】WO2015039649
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年8月25日
(31)【優先権主張番号】102013110256.5
(32)【優先日】2013年9月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】505448774
【氏名又は名称】フックス ペイトロルブ エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】イーバート,デニス
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭51−028271(JP,B2)
【文献】 特開平10−088172(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0252801(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
F01D 13/00−15/12、23/00−25/36
F01K 23/00−27/02
F01N 1/00− 1/24、 5/00− 5/04、
13/00−99/00
F02G 1/00− 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体組成物であって、
少なくとも1つの作動媒体(a)と、
潤滑剤(b)と、
少なくとも1つの乳化剤(c)と
を含み、
前記少なくとも1つの作動媒体(a)は、
少なくとも1つのC1〜C4アルコール(a.1.1)、又は
少なくとも1つのC3〜C4ケトン(a.1.2)、又は
(a.1.1)及び(a.1.2)の混合物と、
水(a.)と
からな
前記C1〜C4アルコール(a.1.1)において、C1〜C4はそれぞれ、1つ〜4つの炭素原子を有する炭化水素基であり、
前記少なくとも1つの作動媒体(a)における前記水(a.2)の量は、任意で最大75重量%、好ましくは最大50重量%であり、
前記潤滑剤(b)は、炭化水素からなり、40℃で40mm/s〜700mm/sの、DIN EN ISO 3104に準拠して測定された動粘度を有し
前記作動流体組成物における前記潤滑剤(b)のは、1重量%〜40重量%であり、
前記少なくとも1つの乳化剤(c)の割合は、前記潤滑剤(b)100重量部に対して0.01重量〜5重量である作動流体組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の作動流体組成物であって、
前記作動流体組成物における前記作動媒体(a)のは、99重量%〜60重量%、好ましくは95重量%〜75重量%、最も好ましくは90重量%〜80重量%である作動流体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作動流体組成物であって、
記潤滑剤(b)は、40℃で100mm/s〜400mm/s、好ましくは40℃で150mm/s〜300mm/sのDIN EN ISO 3104に準拠して測定された動度を有する作動流体組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の作動流体組成物において、
記潤滑剤(b)は、300℃を上回るDIN 51435に準拠してガスクロマトグラフにより測定された沸点を有する作動流体組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の作動流体組成物において、
前記潤滑剤(b)は、アルキレート、アルキル化されたナフタレン、鉱物油、ポリアルファオレフィン(PAO)、又はこれらの混合物である作動流体組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の作動流体組成物において、
前記潤滑剤(b)はポリアルファオレフィン(PAO、好ましくは低動粘度の複数のPAOと高動粘度の複数のPAOとの組み合わせであり
前記低動粘度の複数のPAOは、100℃で4mm/s〜10mm/sの、DIN EN ISO 3104に準拠して測定された動粘度をそれぞれ有し、
前記高動粘度の複数のPAOは、100℃で40mm/s〜100mm/sの、DIN EN ISO 3104に準拠して測定された動粘度をそれぞれ有する作動流体組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の作動流体組成物において、
前記作動流体組成物における前記潤滑剤(b)のは、5重量%〜25重量%、好ましくは10重量%〜20重量%である作動流体組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の作動流体組成物において、
前記潤滑剤(b)は、前記作動媒体(a)中に25℃で5重量%未満、好ましくは2重量%未満で溶解する作動流体組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の作動流体組成物において、
前記乳化剤(c)は、以下の群、すなわち、
・500g/mol〜10000g/mol、特に好ましくは500g/mol〜2500g/molの分子量(数平均)を好ましくは有する1つ又は複数のアルケニルスクシンイミド、
・500g/mol〜10000g/mol、特に好ましくは500g/mol〜2500g/molの分子量(数平均)を好ましくは有する1つ又は複数のアルケニルスクシンアミド、
・2〜10個、好ましくは4〜8個のアルコキシレート単位、特に好ましくは酸化エチレン単位及び/又は酸化プロピレン単位を有する、1つ又は複数のC8〜C24、好ましくはC10〜C18脂肪アルコールエーテルカルボン酸、及びその塩、好ましくはアンモニウム塩、
・2〜10個、好ましくは4〜8個のアルコキシレート単位、特に好ましくは酸化エチレン単位及び/又は酸化プロピレン単位を有する、1つ又は複数のC10〜C24、好ましくはC8〜C24、特に好ましくはC10〜C18脂肪アルコール、
・2〜10個、特に4〜8個のアルコキシレート単位、特に好ましくは酸化エチレン単位及び/又は酸化プロプレン単位を有する、1つ又は複数のアルコキシ化されたアルキルフェノール、特にC6〜C18アルキル、及び
これらの混合物
から選択される作動流体組成物。
【請求項10】
請求項1又は9に記載の作動流体組成物であって、
前記作動流体組成物における前記乳化剤(c)、0.0001重量%〜2重量%であ作動流体組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の作動流体組成物において、
前記作動流体組成物は、任意の成分(d)として、摩耗保護剤、EP添加物、酸化防止剤、非鉄金属阻害剤、消泡剤、又はこれらの混合物をさらに含む作動流体組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の作動流体組成物であって、
前記作動流体組成物における前記任意の成分(d)のは、それぞれ0.0005重量%〜2重量%であり、一方
前記任意の成分(d)の割合は、前記潤滑剤(b)100重量部に対して累で0.01重量を上回り、好ましくは0.1重量〜5重量部と規定される、作動流体組成物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の作動流体組成物であって、
前記作動媒体(a)における前記水(a.2)の量は、5重量%〜75重量%、に10〜50重量%である、作動流体組成物。
【請求項14】
少なくとも1つの蒸発器と、膨張機械と、凝集器と、循環ポンプと、請求項1から13のいずれか1項に記載の作動流体組成物とを含む蒸気循環プロセス用装置。
【請求項15】
請求項14に記載の装置であって、
前記蒸気循環プロセスは、内燃エンジンを有する自動車の一部であり、
熱交換器は、エンジンの排熱を利用し、好ましくは、内燃エンジンの排ガス系に連結され、前記熱交換器は、蒸発器として機能する装置。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の装置であって、
前記膨張機から得られる機械的な動力は、自動車の駆動系と連結されるか、又は、電気エネルギーを生成するために、生成器を駆動する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動媒体、潤滑剤、及び好ましくは乳化剤を含む、蒸気循環プロセス用の作動流体に関する。作動媒体は、必要に応じて水と混合されたC1〜C4アルコール及び/又はC3〜C5ケトンであり、本発明は作動流体を含む蒸気循環プロセス用の装置、及び有機ランキンサイクルにおける作動流体の使用に関する。潤滑剤は炭化水素であり、乳化剤は表面活性剤である。
【背景技術】
【0002】
「ORC」と短縮される有機ランキンサイクルは、作動媒体として水蒸気ではなく有機流体が使用される蒸気循環プロセスである。従来の蒸気循環プロセスとの相違は、このプロセスが水の蒸気圧から生じるような圧力及び温度と関連していないことである。水よりも低い沸点を有する有機流体の使用により、圧力及び温度を水蒸気発電設備において使用されているような値よりも低く設定することができる。本方法は、特に、蒸発用の熱源と凝集用のヒートシンクとの間の利用可能な温度勾配が低い方がよい場合、又は、全体的に低い作動温度が望まれる場合に使用される。
【0003】
蒸気循環プロセスは、少なくとも1つの蒸発器、膨張機、凝集器、及び循環ポンプを備える。一構成によると、膨張機は、スクロール圧縮機、往復圧縮機、ラジアルピストン機械、又はタービンなどの反転運転される圧縮機である。機械的エネルギーは、外部から熱を供給することにより蒸発器において作動媒体が加熱され蒸発されることにより得られる。蒸気の膨張により、膨張機が運転され、機械的エネルギーが生成される。続いて、作動媒体は、凝集器において冷却され、液化され、循環ポンプにより蒸発器へフィードバックされる。これにより、循環路が閉じられる。機械的なエネルギーは、例えば、生成器によって電気的なエネルギーへ変換されるか、又は駆動系へ直接機械的に供給される。
【0004】
作動媒体は、閉じられた循環路においてガイドされる。循環路は、可動部品を備え、潤滑が必要である。したがって、作動媒体と潤滑剤とを含む作動流体が使用される。作動媒体と潤滑剤とを含む作動流体を蒸気循環プロセスにおいて使用することが知られている。
【0005】
米国特許第3603087号明細書によると、作動媒体として例えば水がグリコール、ポリプロピレングリコール、エーテル、又はポリグリコールエーテルなどの有機潤滑剤と共に使用され、この場合、潤滑剤は作動媒体において完全に溶解可能である。作動媒体における潤滑剤の溶解性は、作動媒体の粘度上昇を引き起こす。
【0006】
独国特許出願公開第102008005036A1号明細書に、内燃エンジンの一部としてORCプロセスを用いることにより熱回収によって排熱利用する装置が記載されている。作動媒体としてメタノール及び/又はエタノールを有する水溶液が提案される。
【0007】
独国特許出願公開第2215868A号明細書から、クラウジウスランキンプロセスに従って運転される発電設備を運転する方法が知られており、この方法では、作動媒体として、トリフルオロエタノール及び水及び潤滑剤が使用される。潤滑剤は、作動媒体と不混和の炭化水素であることが好ましい。
【0008】
独国特許出願公開第102006052906A1号明細書から、蒸発器において170℃よりも高い温度でも運転され得る蒸気循環プロセスが知られている。使用される作動媒体はC1〜C4アルコールを含む。作動媒体には潤滑剤が混合されていてもよく、この潤滑剤は、蒸発されて膨張機においてまず最初に凝集するように、蒸気発生温度を上回る凝集温度を適切に有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
閉鎖された循環路により、潤滑剤は耐老化性に関する高い要求を満たす必要がある。したがって、本発明の目的は、作動媒体と潤滑剤との特に適切な組み合わせを有する作動流体を提供することであり、潤滑剤は熱安定性があるほうがよく、膨張機の十分な潤滑を保証するために、循環路の作動媒体とほぼ不混和である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来技術に基づき、本発明の目的は、熱安定性があり、長寿命であり、内燃エンジンの排熱を利用する有機ランキンサイクルの運転に適した、作動媒体と潤滑剤とからなる作動流体の組成物を提供することである。ORCが内燃エンジンと共に使用される場合、排ガス流からの高温は、作動媒体−潤滑剤混合物の熱安定性に対して高い要求を突きつける。ORCは、内燃エンジンを有する自動車の排ガス系における熱交換器などの熱により高負荷のかかる装置において長寿命で使用可能であるほうがよい。
【0011】
膨張機械の運転のためには、作動媒体と共にORC循環路を介して均等に搬送され、十分に高い熱的及び化学的な安定性を有する潤滑剤が必要である。
【0012】
上記目的は、独立請求項1の特徴を有する組成物により達成される。好ましい実施形態は、従属請求項の主題であるか、又は、以下で説明される。
【0013】
この組成物は、作動媒体(a)と、潤滑剤(b)とを含み、任意に乳化剤(c)とその他の任意の成分(d)とを含む蒸気循環プロセス用作動流体である。前記その他の任意の成分は、(a)、(b)、又は(c)に該当せず、同時に作動媒体又は作動媒体の一部であるか、又はあり得るかに係わらず、作動流体に分類される。
【0014】
作動流体は、作動流体に関して、以下で説明する割合で、作動媒体(a)、潤滑剤(b)、1つ又は複数の任意の乳化剤(c)、及び1つ又は複数の任意の成分(d)のみからなること、すなわち、(a)、(b)、(c)及び(d)の割合が合計して100重量%になることが好ましい。
【0015】
作動媒体(a)は、作動媒体の全組成に関して、
少なくとも1つのC1〜C4アルコール(a.1)、又は、
少なくとも1つのC3〜C4ケトン(a.2)、又は、(a.1)及び(a.2)の混合物と、
任意で最大75重量%の水、好ましくは50重量%の水(a.3)とからなる。
【0016】
作動媒体における成分(a.1)〜(a.3)の割合は、重量%単位の水(a.3)の例では、以下のように、すなわち、=(a.3)/((a.1)+(a.2)+(a.3))*100)のように計算される。この計算においては、成分(a.1)、(a.2)及び(a.3)のみが最終的に入力される。
【0017】
作動流体における作動媒体(a)の割合は、好ましくは99重量%〜60重量%、より好ましくは95重量%〜75重量%、特に好ましくは90重量%〜80重量%である。
【0018】
本発明の一構成によると、作動媒体に水は含まれず、他の構成によると、例えば、5重量%〜75重量%の水、特に、10重量%〜50重量%の水が作動媒体に含まれる。したがって、作動媒体は、それ以外では、成分(a.1)のみ、成分(a.2)のみ、又は成分(a.1)と成分(a.2)との混合物のみからなる。
【0019】
C1〜C4アルコールにおいてC1〜C4はそれぞれ、1〜4つの炭素原子を有する炭化水素基、特に、アルキル基、例えば、特にメタノール、エタノール、プロパノール又はブタノール及びその位置異性体又はその混合物などを表す。C3〜C4ケトンにおいて、C3及びC4はそれぞれ、3又は4つの炭素原子を有する炭化水素基、例えば、アセトン又はメチルエチルケトン又はその混合物などを表す。
【0020】
潤滑剤(b)は、炭化水素からなり、40℃で40mm/s〜700mm/s、好ましくは40℃で100mm/s〜400mm/s、特に好ましくは40℃で150mm/s〜300mm/sの(DIN EN ISO 3104に準拠して測定された)粘度(動粘性)を有する。
【0021】
潤滑剤の(DIN 51435に準拠してガスクロマトグラフにより測定された)沸点は、潜在的な炭化水素混合物に関しても、好ましくは300℃を上回る。
【0022】
適切な潤滑剤は、例えば、アルキレート、アルキル化ナフタレン、鉱物油、又はポリアルファオレフィン(PAO)である。
【0023】
特に好ましいのは、PAO及びその混合物、例えば、(DIN EN ISO 3104に準拠して測定された100°Cでそれぞれ約4mm/s、6mm/s、8mm/s及び10mm/sを有する)PAO4、PAO6、PAO8、又はPAO10などの低粘度PAOと、(DIN EN ISO 3104に準拠して測定された100°Cでそれぞれ約40mm/s又は100mm/sを有する)PAO40、mPAO40、PAO100、mPAO100などの高粘度PAOとの組み合わせ、又は、DIN EN ISO 3104に準拠して測定された100°Cで約20mm/sと200mm/sとの間の粘度範囲におけるその他の利用可能なPAO品質であり、mは、メタロセン触媒により重合された複数のPAOを表す。特に好ましいのは、2〜12のC8〜C20アルファオレフィン単位の重合体からなる、特に、メタロセン触媒により重合された複数のPAOの混合物である。
【0024】
作動流体における潤滑剤(b)の割合は、好ましくは1重量%〜40重量%、より好ましくは5重量%〜25重量%、特に好ましくは10重量%〜20重量%である。
【0025】
潤滑剤は、作動媒体に対して不溶性である。「不溶性」とは、ここでは、25°Cで5重量%未満、好ましくは2重量%未満の割合を意味する。その結果、潤滑剤の顕著な希釈は生じず、したがって、溶解による粘度の低下はわずかである。
【0026】
エステル系溶剤などの潤滑剤は、その熱不安定性すなわち反応性のため、また、アルコールにより本プロセスにおいて生じる温度ではエステルとアルコールとの間で反応が起こるため、適していない。
【0027】
任意に使用される乳化剤(c)は、特に、以下の群の要素から選択される。
【0028】
・好ましくは500g/mol〜10000g/mol、特に好ましくは500g/mol〜2500g/molの分子量(数平均)を有するアルケニルスクシンイミド、
・好ましくは500g/mol〜10000g/mol、特に好ましくは500g/mol〜2500g/molの分子量(数平均)を有するアルケニルスクシンアミド、
・2〜10個、特に好ましくは4〜8個のアルコキシレート単位、特に好ましくは酸化エチレン単位及び/又は酸化プロピレン単位(好ましくは酸化エチレンのみ)を有するC8〜C24、好ましくはC10〜C18脂肪アルコールカルボン酸エーテル及びその塩、(例えば、C1〜C4アルカノール基を有する)アルカノールアンモニウム塩を含む、特にアンモニウム塩、
・2〜10個、特に4〜8個のアルコキシレート単位、特に好ましくは、酸化エチレン単位及び/又は酸化プロピレン単位(好ましくは酸化エチレンのみ)を有するアルコキシル化されたC10〜C24、好ましくはC8〜C24、特に好ましくはC10〜C18脂肪アルコール、
・2〜10個、特に4〜8個のアルコキシレート単位、特に好ましくは酸化エチレン単位及び/又は酸化プロピレン単位(好ましくは酸化エチレンのみ)それぞれ有するアルコキシル化されたアルキルフェノール、特にアルコキシル化されたC6〜C8アルキルフェノール、特に好ましくはC8〜C12アルキルフェノール、例えば、オクチルエトキシレート又はノニルフェノールエトキシレート(4〜8EO)、及び
・その混合物
乳化剤は、作動流体の製造時に好ましくは潤滑剤と共に、例えば、潤滑剤と均質化して添加される。
【0029】
アルコールを作動媒体の構成要素として、又は作動媒体として使用する場合、乳化剤としては、前記アルケニルスクシンイミド及びアルケニルスクシンアミド、好ましくはポリイソブテニルスクシンイミド、及び前記アルコキシル化された脂肪アルコールが好ましい。
【0030】
乳化剤の割合は、潤滑剤に対して0.01重量%〜5重量%である。乳化剤の割合は、作動流体に対しては合計で好ましくは0.0001重量%〜2重量%を上回る。両条件は累計的に当てはまることが好ましい。
【0031】
任意の成分(d)の割合は、それぞれ作動流体に対しては好ましくは0.0001重量%を上回り、特に好ましくは0.0005重量%〜2重量%であり、それとは独立して、潤滑剤に対しては累計で好ましくは0.01重量%を上回り、特に好ましくは0.1重量%〜5重量%である。
【0032】
適切な任意の成分は、例えば、摩耗保護材、EP添加物、酸化防止剤、非鉄金属阻害剤、及び、消泡剤である。
【0033】
以下では簡単にAW/EP添加剤と呼ばれる摩耗保護材(耐摩耗)及びEP添加剤(極圧)としては、リン、又は、硫黄、及び、リン、又は硫黄を含む複合物が適している。適しているのは、例えば、t−ブチル基及び/又はイソブチル基により少なくとも1つのアリール環において一置換、二置換、又は三置換された、リン酸トリクレジル、亜リン酸トリ(ノニルフェニル)、亜リン酸水素ジオレイル、亜リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、リン酸ジ/トリアリール、及び、ジチオホスホリル酸エステルの物質クラスの代表である。リン含有、及びリン硫黄含有の高圧添加剤の他に、純粋な硫黄含有AW/EP添加剤をさらに使用可能である。
【0034】
AW/EP添加物は、個々に、又は組み合わせて使用することができる。AW/EP添加物の割合は、それぞれ作動流体に対しては好ましくは0.0001重量%を上回り、特に好ましくは0.005重量%〜2重量%であり、それとは独立して、潤滑剤に対しては累計で好ましくは0.01を上回り、特に好ましくは0.1重量%〜5重量%である。
【0035】
酸化防止剤として、例えば、使用可能であるのは、2,6−ジ−テルト−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−テルト−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−テルト−ブチルフェノール)などのフェノール性酸化防止剤、並びに、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、及びアルキル化ジフェニルアミン(アルキル=C4−C9)などのアミンタイプの酸化防止剤である。特に好ましいのはフェノール性酸化防止剤である。
【0036】
酸化防止剤の割合は、それぞれ作動流体に対しては好ましくは0.0001重量%以上であり、特に好ましくは0.0001重量%〜0.4重量%であり、それとは独立して、潤滑剤に対しては累計で好ましくは0.01重量%を上回り、特に好ましくは0.01重量%〜1重量%である。
【0037】
非金属防止剤としては、好ましくは、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、及びトリルトリアゾール及びその派生物から、トリアゾールを使用できる。非金属防止剤の割合は、それぞれ作動流体に関し合計で好ましくは0.0001重量%〜0.02重量%であり、それとは独立して、潤滑剤に対しては累計で好ましくは0.01重量%〜0.5重量%である。
【0038】
さらに、作動流体は、さらなる成分(d)として、消泡剤も含んでいてもよい。上記タイプの具体的な添加剤として、好ましくは、シロキサン、ポリエチレングリコール、及び、ポリメタクリラートが挙げられる。
【0039】
一構成によると、作動流体は、成分(a)〜(d)のみで構成され、成分(c)及び(d)は、互いに独立して任意である。
【0040】
本発明の蒸気循環プロセスにおいて、水よりも低い沸点を有する、蒸発可能な少なくとも1つの有機流体が使用される。循環プロセスは、少なくとも1つの蒸発器、膨張機、凝集器、及び循環ポンプを備える。膨張機は、スクロール圧縮機、往復圧縮機、ラジアルピストン機械、又はタービンなどの反転運転される圧縮機であることが好ましい。このシステムすなわち循環プロセスは、外部から密閉されている。好ましくは、蒸気循環プロセスは、内燃エンジンを有する自動車、特に、貨物自動車の一部であり、熱交換器は、エンジンの排熱を利用し、例えば、内燃エンジンの排ガス系に連結されている。
【0041】
熱交換器において排ガス流から産出されるエネルギーによって、作動媒体が蒸発される。熱交換器は、ここでは、蒸発器として機能する。膨張機から得られる機械的な動力は、自動車の駆動系と連結されるか、又は、電気エネルギーを生成するために、生成器を駆動する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
実験的部分
乳化試験
乳化剤の作用を調査するため、PAO8、PAO40、及びそれぞれの乳化剤からなる40℃で150mm/sの粘度の潤滑剤混合物を製造した。これらの潤滑剤混合物のそれぞれ20gを、20gの作動媒体と共にネジキャップを有する50mlの試験管に充填し、閉じて、20℃で約1分間手動で振った。続いて、試験管を振盪機で2200Hzの周波数で1分さらに振った。
【0043】
振盪機を停止してから1分後、混合物の位相挙動を、乳化作用の程度として以下のスキーマに従って量的に評価した。
【0044】
0=乳化作用無し
1=最小の乳化作用
2=良好な乳化作用
3=非常に良好な乳化作用
表1は、使用した乳化剤のリストを含み、表2〜6は、様々な作用媒体と各潤滑剤混合物の乳化試験の結果を示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
熱安定性を測定するためのオートクレーブ試験
充填容量300mlの圧力オートクレーブに、それぞれ60グラム(40重量%)の潤滑剤と90グラム(60重量%)の作動媒体とからなる混合物を入れた。潤滑剤として、40℃で150mm/sの粘度を有するPAOベースの潤滑剤混合物の他に、2つの鉱物油変異体も調査した。上澄みの雰囲気を取り除くために、特に、酸素を取り除くために、オートクレーブを30秒間500mbarの圧力で真空化し、続いて、攪拌器を用いて磁気により誘発される攪拌の下で250℃に加熱した。
【0052】
250℃で28日後に、調査を終了した。オートクレーブを20℃に冷却後、分液漏斗へ内容物を移した。2時間の静置後、再分離された位相を分け離し、潤滑剤と作動媒体とを個別に酸性化について調査した。酸価を、DIN ISO 6618に準拠して測定した。表7〜9は、オートクレーブ試験の結果を示す。
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】