特許第6549732号(P6549732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6549732二環式(メタ)アクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートのコポリマー、並びに燃料におけるレオロジー調整剤としてのその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549732
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】二環式(メタ)アクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートのコポリマー、並びに燃料におけるレオロジー調整剤としてのその使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20190711BHJP
   C08F 212/04 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   C08F220/18
   C08F212/04
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-559688(P2017-559688)
(86)(22)【出願日】2016年5月19日
(65)【公表番号】特表2018-517021(P2018-517021A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】EP2016061215
(87)【国際公開番号】WO2016188837
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2018年1月10日
(31)【優先権主張番号】62/165,254
(32)【優先日】2015年5月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15178876.7
(32)【優先日】2015年7月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128484
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 司
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】トメイデス,ジョン ソクラテス
(72)【発明者】
【氏名】モラレス,ジョン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ヘ,キウェイ
(72)【発明者】
【氏名】スレルフォール−ホルメス,フィリップ ニゲル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァディーロ,ダミアン クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】フィルビン,マイケル ティモシー
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/148148(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/110203(WO,A1)
【文献】 特開2015−110768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00−220/70
C08F 212/00−212/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下のモノマー:
・すべてのモノマーの重量に基づいて40〜90重量%の下記式の少なくとも1つの二環式(メタ)アクリレートエステル、
【化1】
(式中、Rは、H又は−CHであり、Aは、−CH−、−CH(CH)−又は−C(CH−であり、Mは、六員環の炭素原子に共有結合しており、且つ、水素及びメチル基又は複数のこれらからなる群から選択される)
・10重量%以上のC1−C7−アルキル(メタ)アクリレート、
・任意選択で少なくとも1つの芳香族ビニルモノマー、及び
・任意選択で他のエチレン性不飽和モノマー
を共重合することによって得ることができるコポリマーであって、これにより、ジビニルベンゼンが使用される場合はすべてのモノマーの重量に基づいて5重量%未満であり、かつ、40℃のTHF中の溶液についてGPC−MALS技術を用いて測定される500,000〜10,000,000Dの重量平均分子量を有する、コポリマー。
【請求項2】
ランダムコポリマーである、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
・40〜90重量%の前記二環式(メタ)アクリレートエステル、
・78重量%以下の前記C1−C7アルキル(メタ)アクリレート、
・0〜45重量%の前記芳香族ビニルモノマー、
・0〜50重量%の他のエチレン性不飽和モノマー
を、合計100重量%まで含み、前記モノマーの重量パーセントは、すべての前記モノマーの全重量に基づく、請求項1又は2に記載のコポリマー。
【請求項4】
・40〜90重量%の前記二環式(メタ)アクリレートエステル、
・10〜60重量%の前記C1−C7アルキル(メタ)アクリレート、
・5〜40重量%の前記芳香族ビニルモノマー、
・最大40重量%の他のエチレン性不飽和モノマー(d)
を、合計100重量%まで含み、前記モノマーの重量パーセントは、すべての前記モノマーの全重量に基づく、請求項3に記載のコポリマー。
【請求項5】
20重量%以下の他のエチレン性不飽和モノマーを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項6】
前記少なくとも1つの二環式(メタ)アクリレートエステルが、イソボルニルメタクリレートを含むか、又はイソボルニルメタクリレートである、請求項1から5のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項7】
前記少なくとも1つのC1−C7アルキルメタクリレートが、イソブチル(メタ)アクリレートを含むか、又はイソブチル(メタ)アクリレートである、請求項1から6のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項8】
少なくともスチレンを、芳香族ビニルモノマーとして含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項9】
二環式(メタ)アクリレートの重量パーセントが、芳香族ビニルモノマーの量よりも少なくとも15重量パーセント高い、請求項8に記載のコポリマー。
【請求項10】
25℃のディーゼル油B7において少なくとも2.0重量パーセントの溶解度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項11】
ディーゼルB7燃料において25℃又はそれ以下の曇り点を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項12】
50〜190℃のガラス転移温度を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のコポリマー。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のコポリマーを含む燃料のための添加剤パッケージ。
【請求項14】
前記指定のモノマーをラジカル重合する工程を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のコポリマーを調製するための方法。
【請求項15】
前記ポリマーを流体に溶解することにより前記流体のレオロジーを改変するための、請求項1から14のいずれか一項に記載のポリマー又は添加剤パッケージの使用であって、これにより前記流体は燃焼機関のための燃料ではない、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コポリマー、その合成、及びコポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは以前より、ポリマーを含む流体のレオロジーを改変するために使用されてきた。石油系燃料、例えばガソリン及びディーゼル燃料の流動特性及び噴霧特性を調整するために使用することができるポリマーが必要とされている。
液体炭化水素燃料は、それ自体、典型的には可燃性ではない。これらは、燃焼するには、まず気化され、空気又は酸素と混合されなければならない。中間留分や、さらに重質の石油燃料留分は低い蒸気圧を有するため、効率の良い霧化は、このような燃料の噴霧燃焼の重要な態様である。
【0003】
霧化は微細な液体燃料粒子を生じ、その大きな表面積は速い蒸発につながり、したがって、速く、効率の良い燃焼をもたらす。効率の良い霧化にもかかわらず、化学量論的燃焼を実現することはできない。この点に関して、燃焼プロセス及び装置の時間及びサイズのスケールにおいて完全混合状態に達することができないことから、制限が課せられる。したがって、完全燃焼を得るために、過剰空気を系に供給することが必要である。
【0004】
過剰空気は、完全燃焼をもたらす程度まで、燃焼効率の向上に役立つ。しかし、あまりにも多い空気は、熱回収の減少につながる可能性がある。燃焼プロセスに関与しないすべての酸素、並びに空気中のすべての窒素が加熱され、したがって、スタック(stack)から熱を運び出す。さらに、過剰空気が多くなるほど、系内の全体の流れ(mass flow)が多くなり、熱伝達の時間スケールがより短くなる。したがって、効率の良い燃焼及び熱回収の実現には、最適化された燃焼室及び熱回収系の設計に関連する霧化と過剰空気との微妙なバランスが必要である。
【0005】
英国特許第1569344号は、燃焼効率を改善する試みとして燃料特性を改変するための、ポリマー、特にポリイソブチレンの使用に関する。ポリイソブチレンの1つの問題は、取り扱いが非常に困難であることが明らかになったことであり、これは、その−75℃のTgにより例示される。ポリラウリルメタクリレートのような他の公知のポリマーもこのような低いTgになる。他のポリマー、例えばポリイソボルニル(メタ)アクリレートは、所望のレオロジー特性を与えず、法外に高価になることが明らかになった。また、より高いTgを有するポリマーのほとんどはポリマーの溶解度が不十分であり、それによって液体のレオロジーを変化させるには不向きになっていることが明らかになった。したがって、液体、例えば石油系燃料のレオロジーを合理的なコストで改変する能力を有する代替のポリマーが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】英国特許第1569344号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の1つの目的は、このような燃料を使用して運転される内燃機関における燃焼効率に良い影響を与えることができるように、石油系燃料のレオロジーを改変する能力を有するポリマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、この目的が、これから詳細にさらに説明する本発明によるポリマーによって少なくとも部分的に達成され得ることを見出した。
【0009】
本発明は、以下のモノマー:
・1つ又はそれ以上の二環式(メタ)アクリレートエステル、
・1つ又はそれ以上の低級アルキル(メタ)アクリレート、
・任意選択で好ましくは、1つ又はそれ以上の芳香族ビニルモノマー、
・任意選択で別のエチレン性不飽和モノマー
を共重合することによって得ることができて、これにより、100,000〜10,000,000ダルトンの重量平均分子量を有するコポリマーに関する。
【0010】
本発明の文脈において、用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを指す。
【0011】
先行技術、例えば国際公開第2015/091513号及び欧州特許出願公開第0626442(A)号において、同様の組成を有するポリマーが提案されていることを述べておく。しかし、それらにおいて生成されるポリマーは、液体、例えば石油系燃料のレオロジーを改変する効率の良い能力を可能にするには低すぎる分子量を有する。より高い分子量のポリマーを提示する他の先行技術は、ほとんどの溶媒において、主としてそれらの組成が二環式(メタ)アクリレートエステルを含まないために溶解度の問題が起こり、その結果、多くの溶媒、特にディーゼル燃料において好ましくない曇り点につながることが明らかになった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
二環式(メタ)アクリレートエステルは、六員炭素原子架橋環に結合した(メタ)アクリロイル基を含み、モノマーの前記基は、デカヒドロナフチル(メタ)アクリレート及びアダマンチル(メタ)アクリレートのような生成物を含むが、好ましいのは、式(I)
【化1】
(式中、
Rは、H又は−CHであり、
Aは、−CH−、−CH(CH)−又は−C(CH−であり、
1つ又はそれ以上のMは、二環式の環の任意の炭素、好ましくは六員環の炭素原子に共有結合しており、各Mは、水素、ハロゲン、メチル及びメチルアミノ基又は複数のこれらからなる群から無関係に選択される。)による生成物である。二環式(メタ)アクリレートエステルの非限定的な例には、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、フェンチル(メタ)アクリレート、イソフェンチル(メタ)アクリレート、ノルボルニルメタクリレート、cis,(endo)3−メチルアミノ−2−ボルニル(メタ)アクリレート、1,4,5,6,7,7−ヘキサクロロビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−オールメタクリレート(HCBOMA)及び1,4,5,6,7,7−ヘキサクロロビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2メタノールメタクリレート(HCBMA)、並びにこのような二環式のメタクリレートの混合物が含まれる。塩素化化合物はあまり好ましくないが、その理由は、これらは燃焼時に腐食性のHClを放出する可能性があるからである。好ましい二環式のメタクリレートエステルはイソボルニルメタクリレートである。二環式(メタ)アクリレートエステルはそれ自体公知であり、公知の方法で調製されてもよく、又は商業的供給源から得られてもよい。二環式(メタ)アクリレートは、好ましくは、重合時、液体、好ましくは燃料、より好ましくはディーゼル燃料に可溶なホモポリマーを生成するモノマーから選ばれる。
【0013】
本発明の低級アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基が、本明細書において、C1−C7、好ましくはC1−4のアルキル基と定義され、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換、飽和又は不飽和にすることができる低級アルキル基に結合した化合物である。アルキル(メタ)アクリレートの例には、メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)(アクリレート)及びヘキシル(メタ)アクリレートが含まれる。現在好ましいアルキル(メタ)アクリレートはイソブチルメタクリレートである。低級アルキル(メタ)アクリレートは、好ましくは、重合時、液体、好ましくは燃料、より好ましくはディーゼル燃料に溶けないホモポリマーを生成するモノマーから選ばれる。
【0014】
芳香族ビニルモノマーは、芳香族基に結合したビニル基を含む。ある実施形態において、これは、スチレン、置換スチレン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン及びこれらの混合物である。好ましい置換スチレンには、o−、m−及び/又はp−アルキル、アルキルオキシあるいはハロゲン置換スチレン、例えばメチルスチレン、tert−ブチルオキシスチレン、2−クロロスチレン及び4−クロロスチレンが含まれる。好ましい芳香族ビニルモノマーはスチレンである。芳香族ビニルモノマーは、好ましくは、重合時、液体、好ましくは燃料、より好ましくはディーゼル燃料に溶けないホモポリマーを生成するモノマーから選ばれる。
【0015】
共重合プロセスに関与してもよい別のモノマーは、上で定義したモノマー(a)、(b)及び(c)とは異なるエチレン性不飽和モノマーである。このような他のモノマーの例には、4−tert−ブチルスチレン、当業者に公知のカチオン性、非イオン性及びアニオン性のエチレン性不飽和モノマーが含まれ、且つ、エチレン性不飽和酸、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、より高級なアルキル(メタ)アクリレート(ここで、より高級なアルキルは、本明細書において、8個又はそれ以上、例えば8個〜24個の炭素原子を含む直鎖又は分岐鎖の、飽和又は不飽和の、置換又は非置換のヒドロカルビル鎖と定義される。)が含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
コポリマーは、当業者に公知のビニル付加重合のための従来の方法、例えば、ただしこれらに限定されないが、懸濁重合及び乳化重合を含む、溶液重合、沈殿重合及び分散重合により合成されてもよい。
【0017】
ある実施形態において、ポリマーは懸濁重合により生成され、ここで、水に溶けないか、又は水に十分溶けないモノマーを液滴として水に懸濁させる。モノマー液滴懸濁液は、機械的撹拌及び安定剤の添加により維持される。界面活性ポリマー、例えばセルロースエーテル、ポリ(ビニルアルコール−コ−ビニルアセテート)、ポリ(ビニルピロリドン)、並びにポリマー及びコロイド状(非水溶性)無機粉末、例えばトリカルシウムホスフェート、ヒドロキシアパタイト、硫酸バリウム、カオリン及びケイ酸マグネシウムを含む(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩を安定剤として使用することができる。さらに、少量の界面活性剤、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、(1つ又はそれ以上の)安定剤と共に使用することができる。重合は、油溶性開始剤を使用して開始される。適した開始剤には、過酸化物、例えば過酸化ベンゾイル、ペルオキシエステル、例えばtert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、及びアゾ化合物、例えば2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)が含まれる。重合完了時、固体ポリマー生成物を濾過により反応媒体から分離し、水、酸、塩基又は溶媒で洗って未反応のモノマー又は遊離安定剤を除去することができる。
【0018】
別の実施形態では、ポリマーは乳化重合により生成され、1つ又はそれ以上のモノマーを水性相に分散させ、水溶性開始剤を使用して重合を開始させる。モノマーは典型的には、非水溶性であるか、又は水に非常に溶けにくく、界面活性剤又は石けんを使用してモノマー液滴を水性相中で安定させる。重合は、膨潤したミセル及びラテックス粒子内で起こる。乳化重合において存在し得る他の原料には、分子量を制御するための連鎖移動剤、例えばメルカプタン(例えばドデシルメルカプタン)、及びpHを制御するための電解質が含まれる。適した開始剤には、過硫酸イオンのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩、例えば過硫酸アンモニウム、水溶性アゾ化合物、例えば2,2’−アゾビス(2−アミノプロパン)ジヒドロクロライド、並びに酸化還元系、例えばFe(II)とクメンヒドロペルオキシド、及びtert−ブチルヒドロペルオキシド−Fe(II)−アスコルビン酸ナトリウムが含まれる。適した界面活性剤には、アニオン性界面活性剤、例えば脂肪酸石けん(例えばステアリン酸ナトリウム又はカリウム)、サルフェート及びスルホネート(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、スルホスクシネート(例えばジオクチルナトリウムスルホスクシネート);非イオン性界面活性剤、例えばオクチルフェノールエトキシレート並びに直鎖及び分岐鎖のアルコールエトキシレート;カチオン性界面活性剤、例えばセチルトリメチルアンモニウムクロライド;並びに両性界面活性剤が含まれる。アニオン性界面活性剤並びにアニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との組み合わせが最も一般に利用される。高分子安定剤、例えばポリ(ビニルアルコール−コ−ビニルアセテート)も界面活性剤として使用することができる。水性媒体のない固体ポリマー生成物は、最終的なエマルジョンの不安定化/凝固とその後の濾過、ラテックスからのポリマーの溶媒沈殿、又はラテックスの噴霧乾燥を含むいくつかのプロセスにより得ることができる。
【0019】
特定の界面活性剤及び開始剤系は、燃料において望ましくないであろうポリマー中の残留物を残し得ることを当業者は理解されよう。これらには、硫黄含有種、一価及び多価の金属イオン並びにハロゲン化物イオンが含まれ得る。このような残留物を残さない代替の界面活性剤及び開始剤を選択するか、あるいはどのような望ましくない残留物も除去又は最小にする単離/精製プロセスを選ぶことができる。
【0020】
本発明のコポリマーについて、モノマー組成において使用される二環式(メタ)アクリレートエステル(a)の量は、すべてのモノマーの重量に基づいて、20重量%又はそれ以上、適切には21、23、25もしくは30重量%又はそれ以上であるが、その理由は、このようなコポリマーは、曇り点により決定される所望の溶解度を燃料において有することが明らかになったからである。
【0021】
好ましくは、コポリマーは、以下から重合される:
22〜95重量%の二環式(メタ)アクリレートエステル(a);
5〜78重量%の低級アルキル(メタ)アクリレート(b);
0〜45重量%の芳香族ビニルモノマー(c);
及び最大50重量%の別のエチレン性不飽和モノマー(d)。
本文書全体にわたって、コポリマーを構成するモノマーの重量パーセントは、使用されるモノマーの全重量に基づいており、これにより、モノマーの全重量は合計100重量%になる。
【0022】
より好ましくは、本発明のコポリマーは、
40〜90重量%の二環式(メタ)アクリレートエステル(a);
10〜60重量%の低級アルキル(メタ)アクリレート(b);
5〜40重量%の芳香族ビニルモノマー(c);及び
最大40重量%の別のエチレン性不飽和モノマー(d)
から重合される。
【0023】
別の実施形態では、本発明のコポリマーは、
50〜80重量%の二環式(メタ)アクリレートエステル(a);
15〜45重量%の低級アルキル(メタ)アクリレート(b);
10〜30重量%の芳香族ビニルモノマー(c);及び
最大30重量%の別のエチレン性不飽和モノマー(d)
から重合される。
【0024】
実施形態のそれぞれについて、モノマー(a)の量が、モノマー(c)の量よりも15重量%、好ましくは20重量%多いことが好ましく、その理由は、それが、コポリマーの溶解度に良い影響を与えることが明らかになったからである。
【0025】
好ましくは、各実施形態において、他のエチレン性不飽和モノマー(d)の量は、20重量%、15重量%、9重量%又は5重量%を超えず、特定の実施形態において、モノマーa)、b)及びc)は合わせて、コポリマーを生成するために使用されるモノマーの100重量%を構成する。
【0026】
ある条件では、コポリマーが、少なくとも1つの二環式(メタ)アクリレートエステル、少なくとも1つの脂肪族アルキル(メタ)アクリレート及び少なくとも1つの低級アルキル(メタ)アクリレートから構成されてもよい。また、コポリマーが、少なくとも1つの二環式(メタ)アクリレートエステル、少なくとも1つの脂肪族アルキル(メタ)アクリレート、少なくとも1つの低級アルキル(メタ)アクリレート及び少なくとも1つの芳香族ビニルモノマーのコポリマーでなくてもよい。別の条件では、コポリマーは、脂肪族アルキル(メタ)アクリレートの重量パーセントが、重合されるモノマーの5〜80又は5〜40重量パーセントであるコポリマーではない。別の条件では、コポリマーは、二環式(メタ)アクリレートエステルと脂肪族アルキル(メタ)アクリレートの合計が、重合される全モノマー組成物の35重量%と等しいか又はそれ以上、より好ましくは、50%と等しいか又はそれ以上;最も好ましくは、55重量%と等しいか又はそれ以上であるコポリマーである。
【0027】
別の条件では、本発明のコポリマーが、ラウリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート及びイソデシルメタクリレートのコポリマーでなくてもよく、特に、モノマーが、同じモル量で重合されるコポリマーでなくてもよく、とりわけ、216.4部のモノマーあたり1部のVazo(登録商標)67を開始剤として使用する100℃の溶液重合により得られるようなコポリマーでなくてもよく、その理由は、このようなポリマーが所望の特性を持たないことが明らかになったからである。
【0028】
スチレン及びイソブチルメタクリレートのホモポリマーはB7ディーゼル燃料に溶けないが、驚くべきことに大量のこれらのモノマーは、イソボルニルメタクリレートと共重合して、非常に溶けやすいコポリマーを与えることができることを確認した。例えば、実施例の各コモノマーの重量分率に基づいて、且つ線形混合モデルを用いて、実際に見られる曇り点及び本明細書で報告される曇り点よりも著しく高い曇り点を予想するであろう。好ましい実施形態において、コポリマーは、線形混合モデルを用いて計算される値を少なくとも5℃、より好ましくは少なくとも10℃下回る曇り点を有する。
【0029】
そのように希望するならば、特にポリマーの分子量及び分子量分布を制御するために、且つ/又はポリマーの溶液のレオロジー挙動を制御するために、少量のジビニルベンゼンをモノマーの混合物中で使用することができる。典型的にはジビニルベンゼンレベルは、5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満である。
【0030】
本発明のコポリマーにおいて、モノマーは、任意の形で、例えばブロックで、又はランダムに配列されてもよい。好ましくは、コポリマーは、ランダムに配列されたコポリマーである。
【0031】
本発明のコポリマーの重量平均分子量(Mw)は、実験の部のGPC−MALS法d)にしたがって測定されるとき、好ましくは少なくとも100,000ダルトン(D)、適切には少なくとも200,000、300,000、400,000、500,000、600,000、700,000、800,000、900,000及び/又は少なくとも1,000,000Dである。別の実施形態では、本発明の分子量(Mw)は、少なくとも1,500,000、適切には2,000,000又はそれ以上である。上側の(upper)分子量は、その中で使用されることを意図している流体における溶解度により決定される。適したMwは、10,000,000D又はそれ以下、適切には9,000,000、8,000,000、7,000,000、6,000,000及び/又は5,000,000D未満である。本発明の組成、及び1,000,000〜5,000,000D、適切には2,000,000〜5,000,000Dの重量平均分子量を有するポリマーは、低濃度で有用であることが明らかになったが、これにより、ポリマーは、燃料における用途、特に燃料のための添加剤パッケージにおける使用に特に適したものになった。
【0032】
400kD又はそれ以上のMwを有するポリマーは、流体に溶解したとき、レオロジーの所望の効果的な制御を示した。特にイソボルニル(メタ)アクリレート及びC1−C4アルキル(メタ)アクリレートのみのコポリマーについては、数平均分子量が400kDを超えるよう適切に選ばれるが、その理由は、その時のみ、コポリマーが溶解する流体のレオロジーを制御するための所望の特性が得られるからである。本発明のコポリマーの多分散指数(PDI)、すなわちMw/Mnは重要ではないことが明らかになったが、適切には1又は2又は3から、最大10又は8又は6である。ある実施形態において、PDIは、1〜5又は1.5〜4である。
【0033】
本発明のコポリマーのガラス転移温度は、示差走査熱量測定法(DSC)により測定されるとき、好ましくは50〜190℃、より好ましくは65〜150℃、さらにより好ましくは95〜140℃である。本文書において、ガラス転移温度(Tg)は、DSC Q200(TA Instruments、ニューキャッスル、デラウェア)を使用し、以下のプログラムを用いて測定した:
1)15分、20℃の等温でDSCの運転を開始する;
2)温度を材料のTgのおおよそ20℃上まで10℃/minで変化させる;
3)その温度で5分間、等温で運転する;
4)温度をTgの20℃上から20℃/minで20℃まで下げる;
5)20℃で5分間、等温で運転する;
6)60秒毎に+/−1.280℃のプロセス条件で変調モードを開始する;
7)温度を2℃/minで180℃まで変化させる;
【0034】
ポリマーの組成は、重合に供給されるモノマーの相対量から、信頼性をもって推定することができる。あるいは、コポリマーの組成は、Varian MR−400MHz及び/又はAgilent DD2 MR 500MHz NMR分光計を使用して、炭素−13 NMRスペクトルから適切に決定される。
【0035】
本発明のポリマーは、燃焼機関の運転に適した石油系燃料、例えばガソリン及びディーゼル燃料として従来公知の燃料に有利に添加される。ポリマーは好ましくは、燃焼効率改善効果を得るのに効果的な量で燃料に添加される。典型的には、本発明のポリマーは、1重量%又は5000ppm(百万分率)未満、例えば5ppmから、10ppmから、50ppmから、100ppmから又は500ppmから、好ましくは最大3000ppm又は1000ppmの濃度まで燃料に添加される。用語「ppm」は、1mg/kgに相当する。ある実施形態において、コポリマーは好ましくは、燃料組成中に、燃料組成の全重量に基づいて、10ppm〜300ppmの範囲、より好ましくは10ppm〜100ppm、例えば25ppm〜80ppmの範囲の量で存在する。
【0036】
本発明のコポリマーの利点は、(1)これらが従来のポリマーよりも石油系燃料の流動特性及び噴霧特性の調整に適している;(2)コポリマーのTgが、固体としてポリマーを取り扱うことを可能にするのに十分高い、(3)これらのコポリマーのコストが、ポリ(イソボルニルメタクリレート)及び他の従来のポリマーのコストよりも低くなる、(4)これらは、燃料における使用のための添加剤パッケージで使用することができる、ことである。
【0037】
本発明のコポリマーを、一般に流体に、特に非極性流体又は非極性流体を含む組成物に添加して、このような流体のレオロジーを改変してもよいことを述べておく。適切には、流体の粘度は、全組成の重量に基づいて、1%w/w未満、好ましくは0.5%w/w未満のコポリマーを溶解することによって上昇する。
【0038】
本明細書において用いられるとき、「ガソリン」は、当分野において一般に公知の通り、火花点火機関の運転に適した液体炭化水素系燃料を指し、石油原料、再生可能原料及びこれらの混合物からのような燃料を含む。
【0039】
本明細書において用いられるとき、「ディーゼル油(diesel)」は、当分野において一般に公知の通り、圧縮着火機関の運転に適した液体炭化水素系燃料を指し、石油原料、再生可能原料及びこれらの混合物からのような燃料を含む。
【0040】
用語「からなる(consisting)」は、本明細書において用いられる場合は、「実質的に〜からなる(consisting substantially)」も包含するが、任意選択で、「完全に〜からなる(consisting entirely)」というその厳密な意味に限定されてもよい。
【0041】
本発明の文脈において、用語「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを表し、「(コ)ポリマー」はポリマー又はコポリマーを表す。用語「ポリマー」及び用語「コポリマー」は、本明細書において同義で用いられる。
【0042】
炭化水素及びポリマーに加えて、ガソリン及びディーゼル燃料が、当分野において一般に使用される他の添加剤を含んでもよい。ディーゼル油における溶解度を決定するために、EN 590ディーゼル燃料仕様にしたがうディーゼル燃料B7が使用される。添加剤パッケージは、燃料に添加することができる2つ又はそれ以上の成分の組み合わせである。各成分の添加剤の量は100%未満であるため、投入の精度は改善される。組み合わせの使用はまた、取り扱いを容易にするが、その理由は、個々の成分ではなく1つの組成が取り扱われることになるからである。添加剤パッケージは適切には、溶媒への成分の溶解であるが、その理由は、ポリマーの制御された前溶解が、より容易な燃料との混合/燃料への溶解を可能にするからである。
【0043】
ポリマーは、本発明によれば、25℃のディーゼル油において少なくとも2.0重量%のポリマー溶液を、必要に応じて加熱後に調製することができるとき、可溶であると見なされる。好ましくは、8℃のディーゼル油において2.0重量%のポリマー溶液を調製することができる。好ましくは、本発明の任意の実施形態のコポリマーは、以下の実験の部において説明の通り分析されるとき、25℃未満の曇り点、より好ましくは15℃未満の曇り点、さらにより好ましくは5℃未満の曇り点を示す。
【実施例】
【0044】
一連の例示的な本発明のコポリマー及び比較例のポリマーを、イソボルニルメタクリレート、スチレン及びイソブチルメタクリレートの異なる組み合わせを用いて調製した。イソボルニルメタクリレートを、Sigma−Aldrich又はEvonik(VISIOMER(登録商標)terra IBOMA)から入手した。スチレン及びイソブチルメタクリレートを、Sigma−Aldrichから入手した。
【0045】
分子量
4つの異なる方法を用いてポリマー分子量を測定した。
【0046】
方法A
分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、狭い範囲のポリスチレン校正標準を用いて測定した。サンプル及び狭い範囲のポリスチレン校正標準は、5mLのテトラヒドロフラン(移動相)に14〜17mg溶解することにより調製した。
カラム:(300mm×7.5mm ID)、Polymer Labs PL Gel Mixed C
移動相(Mp);テトラヒドロフラン
流量:0.8mL/min
注入:50μL
RI検出器及びカラム温度:40℃
【0047】
方法B
分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、狭い範囲のポリスチレン校正標準を用いて測定した。サンプル及び狭い範囲のポリスチレン校正標準は、10mLのテトラヒドロフラン(移動相)に12〜15mg溶解することにより調製した。
カラム:(300mm×7.5mm ID)、Phenomenex(登録商標)Phenogel、5μm Linear(2)mixed;
移動相(Mp):テトラヒドロフラン;
流量:0.6mL/min;
注入:50μL;
RI検出器及びカラム温度:40℃。
【0048】
方法C
分子量は、GPC−MALS(40℃)により測定した。定量化は、ガードカラムのみを用いる分析によるセミバッチモードであった。サンプルは、10mLのテトラヒドロフラン(移動相)に約10mg溶解することにより調製した。サンプルは、必要に応じてテトラヒドロフランでさらに希釈した。
カラム:Phenogel Guard 10^6A(50mm×7.8mm)
流量:0.5ml/min THF
注入:50μl
検出:Wyatt(登録商標)Dawn Heleos 18角度MALS(633nm)及びWyatt Optilab T−REX示差屈折率検出器
定量化Zimm又はDebye二次のうちの一次(1st order of 2ndorder)、5〜18角度を使用
【0049】
方法D
分子量は、GPC−MALSにより測定した。サンプルは、8mLのテトラヒドロフラン(移動相)に約8mg溶解することにより調製した。
カラム:30cm×4mm 5μm Phenogel Linear 2−公称10M排除
カラムオーブン:40C
溶媒:0.30ml/minの安定化THF
注入:50μl
検出:Wyatt Dawn Heleos 18角度MALS(633nm)及びWyatt Optilab T−REX示差屈折率検出器。
【0050】
合成実施例S1
懸濁重合プロセスによるコポリマーの調製。
【表A】
【0051】
四つ口500mL丸底フラスコに、機械式撹拌パドル;N入口を上部に備えた還流冷却器及び温度計を備えたY字管;並びに2つの栓を備え付けた。フラスコにHAPを入れた。脱イオン水165.06gに1%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4883gを入れた。得られた溶液を反応容器に入れ、得られた懸濁液を陽圧の窒素下、サーモスタット制御されたマントルヒーターを用いて80℃まで加熱した。125mL三角フラスコ内で、イソボルニルメタクリレート、スチレン及びイソブチルメタクリレート中のVazo(登録商標)67の溶液を調製した。溶液を1回で反応容器に加え、撹拌速度を690rpm、3分間に設定し、次いで、375rpm下げた。重合を80℃で合計6時間保持した。重合過程中、ごくわずかな固体の堆積がフラスコ壁又は温度計に確認された。80℃で6時間後、反応物を撹拌しながら氷水浴中で冷却し、次いで、一晩静置した。大量のポリマービーズが懸濁液から降下するのが見られ、上清は実質的に透明であった。
【0052】
ポリマー懸濁液のpHを測定し、約21℃で6.91であることが判明した。激しく撹拌しながら希硝酸を添加してpHを1.51まで下げ、このpHで1時間保持した。保持の最後に、pHはドリフトして1.48まで下がっていた。反応混合物をブレンダーに移し、ここで約60秒間均質化した。固体を真空濾過(濾紙)で単離した。生成物を、濾液のpHが6.5〜7になるまで、200mLの水道水で濾紙上で何回も洗った。次いで、生成物を脱イオン水200mL;1:1(v:v)メタノール/水200mL;メタノール200mL;及び脱イオン水2×200mLで洗った。固体生成物を真空オーブン(約40℃)内で恒量まで乾燥した。固体生成物の収量は58.14gであった。生成物の不揮発分は98.6であった。
【0053】
MWをGPC方法Aにより測定した;結果:Mn:94、677;Mw:351、230;PDI:3.71。
【0054】
CDCl中で測定される炭素−13 NMR。NMRによれば、コポリマーは、55.6重量%イソボルニルメタクリレート、34.1重量%スチレン及び10.3重量%イソブチルメタクリレートから構成される。これは、重量によるモノマーフィードとほぼ同一であり、これは、イソボルニルメタクリレート55%、スチレン35%及びイソブチルメタクリレート10%であった。
【0055】
合成実施例S2
乳化重合プロセスによるコポリマーの調製
【表B】
【0056】
重合手順
2L四つ口丸底フラスコに、オーバーヘッド機械式撹拌装置、冷却器及び窒素パージラインを備えたY字管、温度計並びに栓を備え付ける。フラスコに脱イオン水及び界面活性剤を入れた。pHを確認し、4〜5の所望の範囲内であることが分かったため、pH調整は行わなかった。次いで、表面下の窒素パージを栓を通じて開始した。別の容器内で、イソボルニルメタクリレート、スチレン及びイソブチルメタクリレートを合わせた。次いで、酸化剤溶液は、t−ブチルヒドロペルオキシド(70%)0.0395gを脱イオン水3.7565gに溶解することにより調製した。
【0057】
窒素パージを維持しながら、モノマー混合物及びアセトン共溶媒をゆっくりと反応容器に加えた。添加中、撹拌速度を徐々に350rpmまで上げた。モノマー混合物及びアセトン共溶媒の添加が完了してから数分後、撹拌速度を225rpmまで落とした。サーモスタットを備えた水浴を用いて、反応温度を約38℃まで上げた。
【0058】
反応温度が約38℃であったとき、酸化剤溶液を反応混合物に1回で加えた。別の容器内で、アスコルビン酸ナトリウム0.0730g及び脱イオン水中の硫酸鉄(II)七水和物の0.25重量%溶液0.60gを脱イオン水7.5gに溶解することにより還元剤溶液を調製した。反応混合物に酸化剤溶液を加えてから約5分後に、窒素パージを維持しながら濃青色の還元剤溶液をシリンジで1回で反応容器に加えた。還元剤を添加してから約5分後、発熱の開始が確認された。反応が進むにつれ、青みがかった色がエマルジョンに確認され、エマルジョンはますます半透明になり、わずかな粘度の上昇が確認された。必要に応じて氷又は冷水を加えることで、浴温度を約40℃に維持した。反応温度が最高約41℃に達してから、約2時間後に発熱が収まり始めた。その後、水浴を用いて、反応温度を38℃に維持した。合計6時間の反応時間の後、反応物を冷却し、チーズクロスを通して容器に注いだ。
【0059】
(チーズクロス上に捕捉された)凝固物が確認され、粗粒子を測定した。
【0060】
ポリマーラテックスの収量は945gであった。固形分(重量法で測定):29.1%。GPCによる分子量(方法A):Mn=1,278,000;Mw=2,568,000;PDI=2.01。
【0061】
無希釈のエマルジョンポリマーを大過剰のメタノールに加えることで固体ポリマーを単離した。得られた沈殿物を真空濾過により集め、メタノールで十分に洗った。
【0062】
合成実施例S3〜S18
合成実施例1の調製に用いた基本的な手順にしたがって別のコポリマーを調製した。これらのポリマー並びに合成実施例S1及びS2の組成及び特性を以下の表1にまとめた。
【0063】
【表1】
【0064】
比較例CE1
280,000の報告されたMwを有するポリスチレンを、Sigma-Aldrichから入手した。
【0065】
比較例CE2
0.60のインヘレント粘度を有するポリ(イソブチルメタクリレート)を、Polysciencesから入手した。
【0066】
比較例CE3及びあまり好ましくない実施例E4〜E8
これらのコポリマーを、合成実施例S2の手順にしたがって調製した。これらのポリマー並びに比較例1及び2の組成及び特性を以下の表2にまとめた。
【0067】
【表2】
【0068】
ディーゼル燃料におけるポリマー溶解度の評価
溶解度指数法:
キャップ付き20mLバイアル内で、0.2gのポリマーをB7ディーゼル燃料9.8gに加えた。得られた混合物にゆるくキャップをし、周囲の室温(約25℃)で1時間、激しく撹拌した。次いで、混合物を撹拌しながら約90℃まで1時間加熱した。得られた混合物又は溶液を周囲の室温まで徐冷し、24時間静置した。次いで、ポリマー溶解度を目視検査により決定した;何らかの曇り、濁り、又は他の相分離の兆候を示したポリマーは不溶性と判断した。次いで、混合物/溶液を、8℃に設定した冷蔵庫に24時間入れた。次いで、ポリマー溶解度を目視検査により決定した;何らかの曇り、濁り、又は他の相分離の兆候を示したポリマーは不溶性と判断した。
【0069】
これらの実施例において使用されたB7ディーゼル燃料は、以下の表3に示す特性を有するディーゼル系燃料に基づいていた。
【0070】
【表3】
【0071】
曇り点測定法。
オーバーヘッド機械式撹拌装置、温度計、凝縮器及びセプタム/栓を備えた四つ口250mL丸底フラスコに、50.0gのB7ディーゼル燃料に対して5.0gのポリマーを入れた。得られた混合物を、均質な溶液が得られるまで撹拌しながら70〜80℃まで加熱した。比較例CE1[ポリスチレン]の場合、ポリマーは、140℃で3時間撹拌した後もB7ディーゼル燃料に溶解しなかった。得られた溶液の一部を、温かいうちに40mLバイアルに移した。約25℃を上回る曇り点を有するポリマーについては、溶液を、温度計を用いて手作業で撹拌しながら約25℃まで徐冷した。報告される曇り点は、溶液が目に見えるほど濁ったか、又は曇った温度である。約25℃を下回る曇り点を有するポリマーについては、溶液が目に見えるほど濁ったか、又は曇った点を下回る温度まで氷/水浴又はドライアイス/アセトン浴を用いて溶液を冷却した。得られた濁った/曇った混合物を、温度計を用いて手作業で撹拌しながら25℃まで徐々に昇温させた。報告される曇り点は、溶液が透明になった温度である。確認として、ポリマーの曇り点を測定したら、透明な溶液を、温度計を用いて撹拌しながら(必要に応じて冷却浴を用いて)徐々に冷却し、曇り点を確認した。合成実施例及び比較例の溶解度評価の結果を表4にまとめた。
【0072】
【表4】
【0073】
スチレン及びイソブチルメタクリレートのホモポリマー(CE1及びCE2)はそれぞれ、B7ディーゼル燃料に溶けないが、驚くべきことに大量のこれらのモノマーは、イソボルニルメタクリレートと共重合して、非常に溶けやすいコポリマーを与えることができる。例えば、S16の各コモノマーの重量分率に基づいて、線形混合モデルを用いて、9.1重量%のこのコポリマーの曇り点が約27℃になると予想するであろう。そうではなく、曇り点は0℃であり、これは、予測値とは大幅に、且つ有用に異なる。同様に、40重量%を超える不溶性コモノマーであるスチレン及びイソブチルメタクリレートを含むS2の予測される曇り点は約52℃であり、これは十分な溶解度の範囲を上回るが、実際の曇り点は18℃であり、これは十分な溶解度の範囲内である。
【0074】
コスト及び性能の理由から、CE3の生成物は許容されない。コストの理由から、実施例S6の生成物はあまり好ましくない。実施例E4〜E8の生成物はすべて、25℃を上回る望ましくない曇り点のため、あまり好ましくない。
【0075】
比較例4〜7
先行技術の実施例を再調製した(reworked)。CE4において、国際公開第2015/091513号の実施例1工程1のポリマーを評価した。CE5において、欧州特許出願公開第0626442(A)号の実施例12を分析した。得られたポリマーは、(方法Dを用いて)それぞれ79及び95kDのMwを有していた。分子量が低すぎて、ポリマーが溶解する流体のレオロジーに効率良く影響しなかった。
【0076】
CE6において、欧州特許第1260278号の実施例7を再調製した。しかし、ポリマーは得られなかった。CE7において、中国特許第103992428号の実施形態11を再調製した。しかし、得られたポリマーは85℃のB7燃料に溶解することができず、ポリマーが、85℃を上回る望まれない曇り点を有することを示した。
【0077】
使用実験
表3に挙げたPナンバーを有する本発明の生成物を、ディーゼル油のレオロジーに対するそれらの効果並びに燃焼研究ユニットにおける着火遅れ、燃焼期間及び最大圧力上昇に対する影響について評価した。まず、濃縮物を、少なくとも2.5重量%のコポリマーを含むディーゼル油中で調製し、これを続いて、Pナンバーの後に示すポリマーの濃度(mg/kg)を有する燃料に希釈した。得られたデータは、本発明による生成物が、ディーゼル燃料に使用されたとき、前記燃料で運転する直噴ディーゼルエンジンの燃料効率を改善したことを示した。この理論によって制限されることは本意ではないが、改善された効率は、燃料におけるポリマーの使用により改変されたレオロジーが、燃料の改善された霧化及びより完全な燃焼につながるためと考えられる。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
少なくとも以下のモノマー:
・すべてのモノマーの重量に基づいて20重量%超の1つの二環式(メタ)アクリレートエステル、
・少なくとも1つのC1−C7−アルキル(メタ)アクリレート、
・任意選択で少なくとも1つの芳香族ビニルモノマー、及び
・任意選択で他のエチレン性不飽和モノマー
を共重合することによって得ることができるコポリマーであって、これにより、40℃のTHF中の溶液についてGPC−MALS技術を用いて測定される100,000〜10,000,000Dの重量平均分子量を有し、これにより、イソボルニル(メタ)アクリレート及びC1−C4アルキル(メタ)アクリレートのみのコポリマーは、400kDを超える数平均分子量を有する、コポリマー。
項2.
前記二環式(メタ)アクリレートエステルが、式
【化1】
(I)
(式中、Rは、H又は−CHであり、Aは、−CH−、−CH(CH)−又は−C(CH−であり、Mは、六員環の炭素原子に共有結合しており、且つ、水素及びメチル基又は複数のこれらからなる群から選択される。)のものである、項1に記載のコポリマー。
項3.
ランダムコポリマーである、項1又は2に記載のコポリマー。
項4.
・22〜95重量%の前記二環式(メタ)アクリレートエステル、
・5〜78重量%の前記低級アルキル(メタ)アクリレート、
・0〜45重量%の前記芳香族ビニルモノマー、
・0〜50重量%の他のエチレン性不飽和モノマー
を、合計100重量%まで含み、前記モノマーの重量パーセントは、すべての前記モノマーの全重量に基づく、項1、2又は3に記載のコポリマー。
項5.
・40〜90重量%の前記二環式(メタ)アクリレートエステル、
・10〜60重量%の前記低級アルキル(メタ)アクリレート、
・5〜40重量%の前記芳香族ビニルモノマー、
・最大40重量%の他のエチレン性不飽和モノマー(d)
を、合計100重量%まで含み、前記モノマーの重量パーセントは、すべての前記モノマーの全重量に基づく、項4に記載のコポリマー。
項6.
20重量%以下の他のエチレン性不飽和モノマーを含む、項1から5のいずれか一項に記載のコポリマー。
項7.
前記少なくとも1つの二環式(メタ)アクリレートエステルが、イソボルニルメタクリレートを含むか、又はイソボルニルメタクリレートである、項1から6のいずれか一項に記載のコポリマー。
項8.
前記少なくとも1つの低級アルキルメタクリレートが、イソブチル(メタ)アクリレートを含むか、又はイソブチル(メタ)アクリレートである、項1から7のいずれか一項に記載のコポリマー。
項9.
少なくともスチレンを、芳香族ビニルモノマーとして含む、項1から8のいずれか一項に記載のコポリマー。
項10.
二環式(メタ)アクリレートの重量パーセントが、芳香族ビニルモノマーの量よりも少なくとも15重量パーセント高い、項9に記載のコポリマー。
項11.
25℃のディーゼル油B7において少なくとも2.0重量パーセントの溶解度を有する、項1から10のいずれか一項に記載のコポリマー。
項12.
ディーゼルB7燃料において25℃又はそれ以下の曇り点を有する、項1から11のいずれか一項に記載のコポリマー。
項13.
50〜190℃のガラス転移温度を有する、項1から12のいずれか一項に記載のコポリマー。
項14.
項1から13のいずれか一項に記載のコポリマーを含む燃料のための添加剤パッケージ。
項15.
前記指定のモノマーをラジカル重合する工程を含む、項1から14のいずれか一項に記載のコポリマーを調製するための方法。
項16.
前記ポリマーを流体に溶解することにより前記流体のレオロジーを改変するための、項1から15のいずれか一項に記載のポリマー又は添加剤パッケージの使用であって、これにより前記流体は燃焼機関のための燃料ではない、使用。