特許第6549877号(P6549877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6549877
(24)【登録日】2019年7月5日
(45)【発行日】2019年7月24日
(54)【発明の名称】建物被災推定システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/30 20060101AFI20190711BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20190711BHJP
【FI】
   G01V1/30
   G01M7/02 H
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-75660(P2015-75660)
(22)【出願日】2015年4月2日
(65)【公開番号】特開2016-197013(P2016-197013A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】若林 久人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正樹
【審査官】 小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−298704(JP,A)
【文献】 特開2014−016249(JP,A)
【文献】 特開2014−114145(JP,A)
【文献】 特開2013−200284(JP,A)
【文献】 特開2012−168008(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0324356(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/28−1/30
G01M 7/00−7/02
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定対象の建物の基礎地盤面に設置された第1の地震センサと、
前記建物の既知の建物情報に基づいて、この建物の地震による動きを数式化した仮想建物モデルを導出する仮想建物モデル導出手段と、
地震発生中に前記第1の地震センサで計測された地動加速度を前記仮想建物モデルに入力して、仮想建物モデルの地震応答解析を行う地震応答解析手段と、
地震発生中に前記地震応答解析の結果を用いて、地震情報と、前記建物の地震による動きを示す動き情報とを算出する地震・動き情報算出手段と、
地震終了後に、前記地震・動き情報算出手段が地震発生中に算出した地震情報と動き情報とを用いて、前記建物の被災度を推定する被災度推定手段とを備え
前記地震応答解析手段は、前記地震応答解析の結果として前記建物の各階の変位と各階の速度と各階の加速度とを算出し、
前記地震・動き情報算出手段は、前記地震情報として各階の計測震度と各階の長周期地震動階級とを算出し、前記動き情報として各階の最大加速度と各階の最大速度と各階の最大変位と各階間の最大層間変形角とを算出することを特徴とする建物被災推定システム。
【請求項2】
推定対象の建物の既知の建物情報に基づいて、この建物の地震による動きを数式化した仮想建物モデルを導出する仮想建物モデル導出ステップと、
前記建物の基礎地盤面に設置された第1の地震センサで地震発生中に計測された地動加速度を前記仮想建物モデルに入力して、仮想建物モデルの地震応答解析を行う地震応答解析ステップと、
地震発生中に前記地震応答解析の結果を用いて、地震情報と、前記建物の地震による動きを示す動き情報とを算出する地震・動き情報算出ステップと、
地震終了後に、前記地震・動き情報算出ステップで地震発生中に算出した地震情報と動き情報とを用いて、前記建物の被災度を推定する被災度推定ステップとを含み、
前記地震応答解析ステップは、前記地震応答解析の結果として前記建物の各階の変位と各階の速度と各階の加速度とを算出するステップを含み、
前記地震・動き情報算出ステップは、前記地震情報として各階の計測震度と各階の長周期地震動階級とを算出し、前記動き情報として各階の最大加速度と各階の最大速度と各階の最大変位と各階間の最大層間変形角とを算出するステップを含むことを特徴とする建物被災推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生後の建物の被災度を推定する建物被災推定システムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震発生後の建物の損傷程度を推定するシステムとして、建物の各層の加速度を計測する加速度センサの計測データから各層の層間変位を求め、建物の最上層あるいは最上層近傍の層の微振動を計測する微振動センサから、建物の常時微動の固有周期を求め、各層の層間変位と建物の常時微動の固有周期とにより建物の健全性を評価するシステムが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−134436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術では、建物の全ての層に加速度センサが必要となり、コストがかかるという問題点があった。特に、建築構造設計時の評定用建物構造データが無い場合は全層に加速度センサを設置する必要があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、地震発生後の建物の被災度を従来よりも安価に推定することができる建物被災推定システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の建物被災推定システムは、推定対象の建物の基礎地盤面に設置された第1の地震センサと、前記建物の既知の建物情報に基づいて、この建物の地震による動きを数式化した仮想建物モデルを導出する仮想建物モデル導出手段と、地震発生中に前記第1の地震センサで計測された地動加速度を前記仮想建物モデルに入力して、仮想建物モデルの地震応答解析を行う地震応答解析手段と、地震発生中に前記地震応答解析の結果を用いて、地震情報と、前記建物の地震による動きを示す動き情報とを算出する地震・動き情報算出手段と、地震終了後に、前記地震・動き情報算出手段が地震発生中に算出した地震情報と動き情報とを用いて、前記建物の被災度を推定する被災度推定手段とを備え、前記地震応答解析手段は、前記地震応答解析の結果として前記建物の各階の変位と各階の速度と各階の加速度とを算出し、前記地震・動き情報算出手段は、前記地震情報として各階の計測震度と各階の長周期地震動階級とを算出し、前記動き情報として各階の最大加速度と各階の最大速度と各階の最大変位と各階間の最大層間変形角とを算出することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の建物被災推定方法は、推定対象の建物の既知の建物情報に基づいて、この建物の地震による動きを数式化した仮想建物モデルを導出する仮想建物モデル導出ステップと、前記建物の基礎地盤面に設置された第1の地震センサで地震発生中に計測された地動加速度を前記仮想建物モデルに入力して、仮想建物モデルの地震応答解析を行う地震応答解析ステップと、地震発生中に前記地震応答解析の結果を用いて、地震情報と、前記建物の地震による動きを示す動き情報とを算出する地震・動き情報算出ステップと、地震終了後に、前記地震・動き情報算出ステップで地震発生中に算出した地震情報と動き情報とを用いて、前記建物の被災度を推定する被災度推定ステップとを含み、前記地震応答解析ステップは、前記地震応答解析の結果として前記建物の各階の変位と各階の速度と各階の加速度とを算出するステップを含み、前記地震・動き情報算出ステップは、前記地震情報として各階の計測震度と各階の長周期地震動階級とを算出し、前記動き情報として各階の最大加速度と各階の最大速度と各階の最大変位と各階間の最大層間変形角とを算出するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、建物の全ての層に加速度センサを設ける必要がなくなり、建物の基礎地盤面と建物内の代表ポイントに地震センサを設置すればよいので、地震発生後の建物の被災度を従来よりも安価に推定することができる。また、本発明では、地震発生中に、地震情報と、建物の地震による動きを示す動き情報とを算出することができるので、避難誘導に関わる情報を建物の管理者に提供することができる。
【0010】
また、本発明では、地震が発生する度に建物の実態に合った仮想建物モデルになるようにモデルを更新するので、建物の被災度の推定精度を向上させることができ、建物の安全性を素早く且つ高い精度で確認することができる。その結果、本発明では、詳細な設計データが無い60m以下の建物の場合であっても、建物の被災度を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る建物被災推定システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る建物被災推定システムの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係る建物被災推定システムの構成を示すブロック図である。本実施の形態の建物被災推定システムは、建物被災推定装置1と、推定対象の建物2の基礎地盤面に設置された地震センサ20と、建物2内の代表ポイントに設置された地震センサ21とから構成される。
【0013】
建物被災推定装置1は、建物2の既知の建物情報に基づいて、建物2の地震による動きを数式化した仮想建物モデルを導出する仮想建物モデル導出部10と、地震発生中に地震センサ20で計測された地動加速度を仮想建物モデルに入力して、仮想建物モデルの地震応答解析を行う地震応答解析部11と、地震発生中に地震応答解析の結果を用いて、地震情報と、建物の地震による動きを示す動き情報とを算出する地震・動き情報算出部12と、地震終了後に、地震・動き情報算出部12が地震発生中に算出した地震情報と動き情報とを用いて、建物の被災度を推定する被災度推定部13と、情報表示のための表示部14と、仮想建物モデルのパラメータの修正値を算出するパラメータ修正部15と、パラメータの修正値を仮想建物モデル導出部10で用いるパラメータとして設定することにより、仮想建物モデルを更新する仮想建物モデル更新部16とを備えている。
【0014】
以下、本実施の形態の建物被災推定システムの動作を図2のフローチャートを用いて説明する。
まず、仮想建物モデル導出部10は、推定対象の建物2の地震による動きを数式化した仮想建物モデルを導出する(図2ステップS1)。本実施の形態では、時刻歴応答解析に用いられる建物構造設計データがない建物2でも地震応答解析ができるよう、階高などの建物情報と建築構造設計統計データベース3から仮想建物モデルを導出する。以下、この仮想建物モデルの導出方法について詳細に説明する。
【0015】
本実施の形態では、超高層建物に該当しない高さ60m以下の建物2を想定し、一般に公開されている建築構造設計統計データベース3に基づいて、建物2の既知の建物情報(建築面積、構造種別(RC造、S造、SRC造、木造)、階数、階高、および建物高さ)から以下の手順を経て、仮想建物モデルを決定する。なお、建築構造設計統計データベース3とは、特定のデータベースを指すのではなく、過去の建物構造設計および建物の実測データから得られた知識の集合を意味する。
【0016】
耐震設計においては,建物の高さを基に次の略算式で建物の一次固有周期を求めてよいとされている(昭和55年建設省告示第1793号)。
T=0.03H ・・・(1)
T=0.02H ・・・(2)
【0017】
式(1)は建物がS造(鉄骨造)または木造である場合の式であり、式(2)は建物がRC造(鉄筋コンクリート造)またはSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の場合の式である。Tは秒単位の一次固有周期で、Hはm単位の建物高さである。
【0018】
また、日本建築学会(1981)では次のような直線近似式が示されている。
T=0.021H ・・・(3)
T=0.014H ・・・(4)
T=0.021H ・・・(5)
T=0.015H ・・・(6)
【0019】
式(3)は建物がS造高層建物の場合の式であり、式(4)は建物がSRC造高層建物の場合の式であり、式(5)は建物がS造中低層建物の場合の式であり、式(6)は建物がRC造中低層建物またはSRC造中低層建物である場合の式である。
仮想建物モデル導出部10は、式(1)〜式(6)のうち、推定対象の建物2の構造種別(RC造、S造、SRC造、木造)および建物高さHに該当するいずれかの式により推定対象の建物2の一次固有周期Tを求める。
【0020】
本実施の形態では、日本建築学会(2000)のデータベースより、実在S造建物の剛性は建築基準法の式の約2倍であると推定して、この剛性の値を仮想建物モデル導出部10に予め設定しておく。その他の構造種別、すなわちRC造、SRC造、木造の建物の剛性についても、過去の統計データベースのデータを基に予め設定しておけばよい。また、本実施の形態では、日本建築学会(2000)のデータを参考に、減衰定数を2%として仮想建物モデル導出部10に予め設定しておく。
【0021】
仮想建物モデル導出部10は、推定対象の建物2の各階を質点とみなし、各質点(各階)の質量を建物2の建築面積および構造種別から推定する。各階の質量を推定するためには、建物の建築面積および構造種別と各階の質量との関係を過去の統計データベースから求め、各階の質量の推定式を仮想建物モデル導出部10に予め設定しておけばよい。
【0022】
続いて、仮想建物モデル導出部10は、建築基準法で規定される地震層せん断力の分布係数Aiによって定まる静的な地震力を評価し、この地震力によって建物2の各階が直線的に変形するような各階の剛性分布を求める。分布係数Aiについては、前記の一次固有周期Tと各階の質量とから求めることができる。次に、仮想建物モデル導出部10は、この剛性分布と各階の質量とから固有値解析により求めた固有周期が建物2の構造種別および建物高さHから求めた一次固有周期Tに合致するように、各階の剛性の比率を一定に保ったまま剛性分布を調整する。
【0023】
次に、仮想建物モデル導出部10は、建築基準法で規定される各層の必要保有水平耐力Qunを求める。まず、地震地域係数Zとしては、国土交通省が地域別に定めた値を仮想建物モデル導出部10に予め設定しておけばよい。また、標準せん断力係数C0についても一般的に知られている値を仮想建物モデル導出部10に予め設定しておけばよい。仮想建物モデル導出部10は、予め設定された周知の計算式により、T=0.02Hの一次固有周期Tから振動特性係数Rtを算出する。
【0024】
靭性による低減係数Dsについては、S造、RC造、SRC造の設計で用いられる平均的なDsを0.4とし、この耐力の2倍を見込み、ここではDs=0.8という値を仮想建物モデル導出部10に予め設定しておく。形状特性係数Fesについては、推定対象の建物2として平均的な建物を想定し、剛性のバランスがよいFes=1という値を仮想建物モデル導出部10に予め設定しておく。仮想建物モデル導出部10は、上記の各階の質量から、各階が支える上部の総重量Wiを算出し、このWiと地震地域係数Zと標準せん断力係数C0と振動特性係数Rtと低減係数Dsと形状特性係数Fesと分布係数Aiとから次式により必要保有水平耐力Qunを求める。
Qun=Ds×Fes×Z×Rt×Ai×C0×Wi ・・・(7)
【0025】
最終的に、仮想建物モデル導出部10は、減衰定数、各階の質量、各階の剛性分布、必要保有水平耐力から仮想建物モデルの状態方程式を得る。
dX/dt=A×X+B×U+D×z ・・・(8)
【0026】
ここで、Xは状態変数である。状態変数Xには、各階の変位、各階の速度、制振装置の変位(建物2に制振装置がある場合)などが含まれる。Uは制振装置を制御する制御器への制御入力(制振装置および制御器がない場合にはU=0)、zは地動加速度を示す。以上で、仮想建物モデル導出部10の処理が終了する。
【0027】
次に、地震応答解析部11は、推定対象の建物2の基礎地盤面に設置された地震センサ20で計測された地動加速度zが所定の地震判定閾値以上の場合、地震発生と判定し(図2ステップS2においてYES)、地震センサ20で計測された地動加速度zと制振装置の制御システムで演算された制御入力U(制振装置および制御器がない場合にはU=0)とを仮想建物モデルに入力し、数値シミュレーションにより仮想建物モデルの地震応答解析を行う(図2ステップS3)。この地震応答解析により、地震応答解析部11は、各階の変位、各階の速度を得ることができる。また、各階の速度を微分することにより、各階の加速度を得ることができる。
【0028】
数値シミュレーションは、以下の式(9)に示す4次のルンゲクッタ法を用いて行う。
X1=X
b1=dt×(A×X1+B×U+D×z)
X2=X+b1/2
b2=dt×(A×X2+B×U+D×z)
X3=X+b2/2
b3=dt×(A×X3+B×U+D×z)
X4=X+b3
b4=dt×(A×X4+B×U+D×z)
Y=X+(b1+2×b2+2×b3+b4)/6 ・・・(9)
【0029】
ここで、dtはサンプリング時間を表す。次に、地震・動き情報算出部12は、地震の発生中は、現在時刻から一定時間ΔT1だけ遡った地震応答解析部11の地震応答解析結果(各階の変位、各階の速度、各階の加速度)を用いて、地震情報と、推定対象の建物2の地震による動きを示す動き情報とを算出する(図2ステップS4)。
【0030】
地震情報としては、各階の計測震度、各階の長周期地震動階級がある。動き情報としては、各階の最大加速度、各階の最大速度、各階の最大変位、各階間の最大層間変形角がある。各階の計測震度は、各階の加速度から算出することができる。各階の長周期地震動階級は、地動加速度zを積分して得た地動速度と各階の速度とから求めることができる絶対速度応答に基づいて算出することができる。各階間の最大層間変形角は、各階間の最大層間変位を階高で割ることで算出することができる。
【0031】
表示部14は、地震・動き情報算出部12が算出した地震情報と動き情報とを一定時間ΔT2の間隔で表示する(図2ステップS5)。
次に、被災度推定部13は、地震センサ20で計測された地動加速度zが地震判定閾値未満になると、地震が止んだと判定し(図2ステップS6においてYES)、地震発生中に地震・動き情報算出部12が算出した全データを用いて建物2の被災度を推定する(図2ステップS7)。
【0032】
各階の計測震度、各階の長周期地震動階級、各階の最大加速度、各階の最大速度、各階の最大変位、各階間の最大層間変形角のそれぞれには、建物の損傷無しと判定する無被害判定閾値や、建物の損傷有りと判定する被害判定閾値が予め設定されている。被災度推定部13は、例えば建物2のある階の計測震度が計測震度判定用に予め設定された無被害判定閾値未満であれば、当該階に損傷無しと判定し、計測震度が計測震度判定用に予め設定された被害判定閾値以上であれば、当該階に損傷有りと判定する。
【0033】
同様に、被災度推定部13は、建物2のある階の最大加速度が最大加速度判定用に予め設定された無被害判定閾値未満であれば、当該階に損傷無しと判定し、最大加速度が最大加速度判定用に予め設定された被害判定閾値以上であれば、当該階に損傷有りと判定する。被災度推定部13は、以上のような判定を、各階の計測震度、各階の長周期地震動階級、各階の最大加速度、各階の最大速度、各階の最大変位、各階間の最大層間変形角のそれぞれについて階毎に行えばよい。なお、被害判定閾値については複数のレベルを設定して損傷の程度(損傷大、損傷小など)を判定できるようにしてもよい。
【0034】
表示部14は、被災度推定部13が推定した建物2の被災度を表示する(図2ステップS8)。
次に、パラメータ修正部15は、建物2内の代表ポイント(特定の階)に設置された地震センサ21が地震発生中の特定時刻において計測した加速度と、地震発生中に地震応答解析部11が算出した地震応答解析結果のうち、前記代表ポイントに該当する階の前記特定時刻における加速度とを照合する(図2ステップS9)。パラメータ修正部15は、このような照合を地震発生中の各時刻について行う。
【0035】
パラメータ修正部15は、地震センサ21が計測した加速度と地震応答解析部11が算出した加速度との誤差が一定値以内であれば(図2ステップS10においてNO)、処理を終える。また、パラメータ修正部15は、地震センサ21が計測した加速度と地震応答解析部11が算出した加速度との誤差が一定値を超える場合(ステップS10においてYES)、誤差が一定値以内になるように仮想建物モデルの減衰定数、剛性分布に補正を加え、式(8)に示した仮想建物モデルの状態方程式のパラメータA,B,Dの修正値を算出する(図2ステップS11)。
【0036】
仮想建物モデル更新部16は、パラメータ修正部15が算出したパラメータの修正値を仮想建物モデル導出部10に設定することにより、仮想建物モデルを更新する(図2ステップS12)。
【0037】
以上のように、本実施の形態では、建物の全ての層に加速度センサを設ける必要がなくなり、建物の基礎地盤面と代表ポイントに地震センサを設置すればよいので、地震発生後の建物の被災度を従来よりも安価に推定することができる。また、従来より、地震で被災した建物について、損傷度合の状況や継続使用の可否判断に関する情報提供の迅速化が求められているが、本実施の形態では、地震が発生する度に建物の実態に合った仮想建物モデルになるようにモデルを更新するので、建物の被災度の推定精度を向上させることができ、建物の安全性を素早く且つ高い精度で確認することができる。
【0038】
また、本実施の形態では、地震発生中に地震・動き情報算出部12が算出した地震情報と動き情報とを表示することにより、避難誘導に関わる情報を建物の管理者に提供することができる。
また、本実施の形態では、地震センサ20が計測する地動加速度zの代わりに、過去の地震波形に基づく地動加速度zあるいは模擬地震動に基づく地動加速度zを仮想建物モデルに入力して、図2のステップS3〜S5,S7,S8の処理を行えば、被害想定シミュレーションを実現することができる。
【0039】
本実施の形態で説明した建物被災推定装置1は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、地震発生後の建物の被災度を推定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…建物被災推定装置、2…建物、3…建築構造設計統計データベース、10…仮想建物モデル導出部、11…地震応答解析部、12…地震・動き情報算出部、13…被災度推定部、14…表示部、15…パラメータ修正部、16…仮想建物モデル更新部、20,21…地震センサ。
図1
図2